JP2004075041A - 電動パワーステアリング装置 - Google Patents
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Abstract
【課題】合成樹脂製の減速ギヤを用いながら、160℃高温環境下の限界すべり速度と耐久性を向上させた電動パワーステアリング装置を提供する。
【解決手段】操舵補助力発生用電動モーターと減速装置とを有し、合成樹脂製減速ギヤが、低温時の起動回転トルクを低く維持したまま高温時の潤滑耐久性を改善したグリースにより潤滑される電動パワーステアリング装置。
【選択図】 図1
【解決手段】操舵補助力発生用電動モーターと減速装置とを有し、合成樹脂製減速ギヤが、低温時の起動回転トルクを低く維持したまま高温時の潤滑耐久性を改善したグリースにより潤滑される電動パワーステアリング装置。
【選択図】 図1
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、操舵補助力として電動モーターおよび減速装置を用いる電動パワーステアリング装置に関する。より詳しくは、車両前軸重が比較的に重い小型車に搭載することができる電動パワーステアリング装置に関する。さらに詳しくは、減速装置が高温環境下もしくは高すべり領域下におかれても、潤滑不良を起こし難い電動パワーステアリング装置およびそれに適したグリース組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】
操舵補助力として電動モーターの駆動力を用いる電動パワーステアリング装置は、油圧式パワーステアリング装置に比べ、燃料消費量が少なくてすみ、また、構成部品も少なくて軽量化できる等、種々の利点を有している。
【0003】
機構的には、ステアリングシャフトの操舵トルクを検出するトルクセンサーからの信号に対応して電動モーターを回転せしめ、電動モーターの低トルク・高速回転の駆動力を、ウォームとウォームホイール等を含む減速装置を介して、高トルク・低速回転に変換してからステアリングコラムやラックに伝達し、操舵を補助する。
【0004】
ここで、騒音の低減や軽量化のために減速装置のギヤ、特にウォームホイールには合成樹脂材料が使われることが多いが、金属性ギヤに比べて強度や耐熱性に劣る欠点がある。具体的には、その歯形状や動力伝達機構に由来して、歯型方向に加え歯すじ方向の滑りが発生し、滑り摩擦による発熱が生じることになり、ギヤの使用条件に制限が生じる。また、高い使用環境温度による合成樹脂ギヤへの負担も大きい。そこで、合成樹脂ギヤの負担を軽減するために潤滑剤が用いられるのが一般であるが、潤滑剤には簡便さからグリースが使用されることが多い。しかし、合成樹脂は、一般に金属よりグリースに対する親和性が低く、グリースを用いてもなお潤滑不良が生じやすい。
【0005】
電動パワーステアリング装置の合成樹脂ギヤに適したグリース組成物としては、例えば、特開平8−209167号公報において、水酸基を含む脂肪酸もしくは多価アルコールの脂肪酸エステルの少なくとも一種を添加したグリースであって、金属性ギヤと樹脂製ギヤを使用する電動パワーステアリング装置等に用いることにより、油切れなどの潤滑不良が解消されるグリース組成物が開示されている。
【0006】
また、特開平11−59448号公報には、減速機構およびラックピニオン機構を用いた電動パワーステアリング装置において、減速機構またはラックピニオン機構の少なくとも一方に、圧力の作用下においてせん断抵抗の大きいガラス状固体油膜を生成するトラクショングリースを塗布して、歯の磨耗を少なくする旨の発明が記載されている。
【0007】
合成樹脂ギヤの異常磨耗を防ぐには、ギヤの面圧Pとすべり速度Vから規定されるPV値が、ギヤの材質や潤滑状態に由来する一定の上限値を超えないようにする必要がある。しかし、合成樹脂材料のギヤでは、合成樹脂とグリースとの親和性が低いために潤滑不良を起こしやすく限界すべり速度が小さい。また、合成樹脂の圧縮強度の低さから、面圧Pの上限値も低い。その結果、PVの上限値が低い。
【0008】
そのため、従来、電動パワーステアリング装置は、車両前軸重が比較的軽く、合成樹脂ギヤに対する負荷が軽くできる軽自動車用を中心に採用されているのが実情である。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
電動パワーステアリング装置は、油圧式パワーステアリング装置に比べ、燃料消費量が少なくてすみ、構成部品も少なくて軽量化できる等、種々の利点があることから、より前車軸重の重い小型自動車への搭載が望まれている。つまり、高トルク領域でも潤滑不良が生じにくい電動パワーステアリング装置の開発が望まれている。
【0010】
具体的には、車両前軸重の重い小型自動車に搭載される電動パワーステアリング装置では、操舵補助力を大きくする必要性から高トルクモーターが使用される。この場合、樹脂ギヤの面圧Pが大きくなるから、これを下げるためには減速ギヤのモジュールを大きくすることが考えられる。しかし、同時にウォームの基準ピッチ円直径も大きくなるから、すべり速度Vは上がってしまう。また、より大きな操舵補助力を得るには減速ギヤ比を大きくすることが考えられるが、その場合もすべり速度Vは上がることになる。つまり、面圧Pを下げてかつ大きな操舵補助力を得るには、限界すべり速度Vを何らかの方法で大きくできればよいことになる。
【0011】
そこで、本発明は、電動パワーステアリング装置の減速装置において、合成樹脂製の減速ギヤを用いた場合の限界すべり速度を向上させること、すなわち、高すべり速度条件下で潤滑不良を生じないことにより、減速ギヤ比を大きくすることができて操舵補助力を大きくでき、しかも、耐久性も向上する電動パワーステアリング装置を提供すること、およびそれを具体化できるグリース組成物を提供することを課題とする。
【0012】
また、ピニオンタイプの電動パワーステアリング装置では、雰囲気温度が高温となった状態で性能を発揮することが求められる。そこで、本発明は、高温環境条件下(例えば、160℃)でも限界すべり速度を高く維持できる電動パワーステアリング装置を提供すること、およびそれを具体化できるグリース組成物を提供することを課題とする。
【0013】
【課題を解決するための手段】
本発明は、特定の特性を有するグリースを、電動パワーステアリング装置の合成樹脂ギヤを用いた減速装置に使用することにより、上記の課題を解決できることを見出してなされたものである。
【0014】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
【0015】
発明の第1は、操舵補助力発生用電動モーターと、そのモーターの回転軸に連結されたギヤ機構により回転速度を減速せしめる減速装置とを有し、そのギヤ機構の減速ギヤの少なくとも一つが合成樹脂製であり、その合成樹脂製ギヤがグリースにより潤滑され、そのグリースが低温時の起動回転トルクを低く維持したまま高温時の潤滑耐久性を改善したグリースである電動パワーステアリング装置である。
発明の第2は、操舵補助力発生用電動モーターと、そのモーターの回転軸に連結されたギヤ機構により回転速度を減速せしめる減速装置とを有し、そのギヤ機構の減速ギヤの少なくとも一つが合成樹脂製であり、その合成樹脂製ギヤがグリースにより潤滑される電動パワーステアリング装置であって、そのグリースの160℃・100時間における離油度:X(%)と、そのグリースの−40℃における低温起動トルク:Y(N・cm)とが、以下の(1)式および(2)式を満たす電動パワーステアリング装置である。
【0016】
3Y≦−10X+140 (1)
【0017】
0<Y≦30 (2)
【0018】
発明の第3は、グリースが、基油と増ちょう剤と潤滑改善剤とを含む発明の第2に記載の電動パワーステアリング装置である。
【0019】
発明の第4は、グリースの、基油が合成炭化水素油であり、増ちょう剤がリチウム系複合石鹸、ウレア系化合物から選ばれたものであり、潤滑改善剤が固体潤滑剤、油性体から選ばれたものである発明の第3に記載の電動パワーステアリング装置である。
【0020】
本発明でいう電動パワーステアリング装置の機械的構造は、図1に示すように、操舵補助力発生用電動モーターと、そのモーターの回転軸に連結されたギヤ機構により回転速度を減速せしめる減速装置とを有し、そのギヤ機構の減速ギヤの少なくとも一つが合成樹脂製であり、その合成樹脂製ギヤがグリースにより潤滑されている公知の構造であればよく、特に限定されない。また、本発明でいう減速装置のギヤ機構は、ウォームとウォームホイールの組み合わせにより構成され、かつ合成樹脂製ギヤがウォームホイールである場合に好適である。さらに、本発明でいう合成樹脂ギヤとしては、ガラス繊維補強ナイロン6樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂等の公知の合成樹脂ギヤを用いてよく、特に限定されるものではない。
【0021】
本発明で使用するグリースは、低温時の起動回転トルクを低く維持したまま高温時の潤滑耐久性を改善したグリースである。さらには、160℃・100時間における離油度:X(%)と、−40℃における低温トルク試験法による低温起動トルク:Y(N・cm)とが、前記の(1)式および(2)式を満たすことが望ましい。
【0022】
まず、(1)式は、グリースの離油度が、図2における[A]の点線で区分けされる領域の左側、すなわち小さい値であることが望ましいことを意味する。図2は、離油度を横軸に、低温起動トルクを縦軸にとったグラフであるが、図2中のある点のグリースのちょう度を増ちょう剤の量によって変化させると、そのグリースの離油度と低温起動トルクは、図中の[A]または[B]の点線と平行方向に移動する傾向がある。つまり、ちょう度を大きくすると低温起動トルクは小さくなるが、離油度は大きくなる。
【0023】
しかし、本発明では、高温での耐久性のために、離油度を小さくすることが望ましいことが判明した。一般に、離油度が小さすぎると潤滑不良や軸受け音響の異常発生が生じる傾向があるが、本発明では、意外にも離油度が小さいことが望ましい。離油度が図2の[A]の点線の右側にあると、グリースの耐久性が不良となりやすく、特に、すべり速度が2m/秒以上と大きい条件下では、ほとんど耐久性がない結果となりやすい。
【0024】
より好ましくは、図2における[B]の点線で区分けされた領域の左側であることが望ましい。この場合、式(1)は、次の式(3)で置き換えられることになる。
【0025】
3Y≦−10X+100 (3)
【0026】
ここで、グリースの160℃・100時間における離油度:X(%)は、JIS K 2220 5.7に準じ、160℃の温度条件下で、100時間経過時点の滴下量を測定して、試料の重量に対する滴下量の重量を、重量%で表したものである。なお、離油度は、さらに10%以下であることが望ましい。
【0027】
次に、式(2)は、グリースの−40℃における低温起動トルクが、30N・cm以下であることが望ましいことを示している。低温起動トルクを用いてグリースを規定したのは、離油度がグリースの高温特性を規定しているのに対し、実用上必要なグリースの低温特性を規定するためである。電動パワーステアリング装置では、原則ギヤ部の静まさつ係数と動まさつ係数との差を極力小さくし、スティック・スリップ現象を抑えることが重要である。低温時は、グリースの粘性の影響のためにスティック・スリップ現象が生じ易いために、低温起動トルクで規定することが重要である。つまり、実用的には、両方の特性を同時に満足しうるグリースでなければならない。前記したように、ちょう度で低温起動トルクを小さくするように調整すると、離油度は大きくなる関係にある。
【0028】
より好ましくは、グリースの低温起動トルクは、20N・cm以下であることが望ましい。この場合、式(2)は、次の式(4)で置き換えられることになる。
【0029】
0<Y≦20 (4)
【0030】
ここで、グリースの−40℃における低温起動トルク:Y(N・cm)は、JIS K 2220 5.14の低温トルク試験法に準じ、図3の装置を用い、試験用軸受けとして6204型玉軸受けを用い、これに試料を充填して低温槽に入れ、規定低温度で1rpmで回転したときの起動時最大トルクを測定したものである。
【0031】
本発明で使用するグリースは、基油、増ちょう剤に加え、潤滑改善剤を含んでいることが必要である。潤滑改善剤を含むことにより、意外にも高温特性と低温特性を同時に満足することができる。
【0032】
グリースの基油としては、低温特性を満足する必要性から合成炭化水素油が好ましい。具体的には、ポリブテン、1−オクテンオリゴマー、1−デセンオリゴマー等のポリ−α−オレフィン類又はその水素化物、ブチルステアレート、オクチルラウレート、ジトリデシルグルタレート、ジ−2−エチルヘキシルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジトリデシルアジペート、ジ−2−エチルヘキシルセバケート等のエステル類、トリメチロールプロパンカプリレート、トリメチロールプロパンペラルゴネート、トリメチロールプロパンオレート、トリメチロールプロパンステアレート、ペンタエリスリトール−2−エチルヘキサノエート、ペンタエリスリトールペラルゴネート、ペンタエリスリトールオレート、ペンタエリスリトールステアレート等のポリオールエステル類、その他のアルキルベンゼン、アルキルナフタレン、ポリオキシアルキレングリコール、ジアルキルジフェニルエーテル、ポリフェニルエーテル、及びこれらの混合物が挙げられる。
【0033】
基油の粘度は、40℃における動粘度が1〜300mm2/秒の範囲にあるものが好ましく、2〜100mm2/秒の範囲にあるものがより好ましい。さらには、2〜20mm2/秒であることが好ましい。
【0034】
増ちょう剤としては、高温特性を満たす観点から、リチウム系複合石鹸、ウレア系化合物から選ばれた増ちょう剤が用いられる。ウレア系化合物としては、脂肪族ウレア化合物、環脂肪族ウレア化合物のいずれか一つが望ましく、さらに、好ましくは脂肪族ジウレア化合物である。
【0035】
増ちょう剤の含有量は、グリース全量に対して5〜25重量%であることが好ましく、より好ましくは10〜20重量%、さらに好ましくは12〜18重量%である。増ちょう剤の含有量が5重量%以上で、増ちょう剤としての効果が発揮され、また25重量%以下で適度な柔らかさを維持し潤滑効果を発揮する。
【0036】
グリースのちょう度は、240〜320が望ましく、さらには、260〜300が好ましい。なお、グリースのちょう度は、JIS K 2220 5.3で測定した。
【0037】
グリースの潤滑改善剤は、固体潤滑剤もしくは油性体から選ばれ、これらのいずれか一種であってもよいし複数種を混合して用いてもよい。潤滑改善剤は、基油と同様な潤滑作用を果たしていると考えられるが、基油とは別個にこれらを添加することにより、離油率を小さく維持したまま、低温トルク特性を小さくする、すなわち高温特性を改善することが可能になる。
【0038】
ここで、固体潤滑剤としては、二硫化モリブデン、グラファイト、Pb、Ag、Au、PbO、CaF2等の無機物、含フッ素樹脂やナイロン、ワックス類のごとき高分子樹脂類があげられる。ここにいう含フッ素樹脂とは、通常、フッ素コーティング等に使用される低摩擦特性で非粘着性の樹脂をいい、具体的には、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、フルオリネイテッドエチレンプロピレンコポリマー(FEP)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテルコポリマー(PFA)、エチレンテトラフルオロエチレン(ETFE)、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)等があげられる。好ましくはポリテトラフルオロエチレンである。ワックス類としては、代表的にはモンタン酸ワックスのごとき長鎖脂肪酸ワックスが上げられ、その他、カルナバロウ、カンデリナロウ等の植物性ワックス、ミツロウ、虫白ロウ等の動物性ワックス、またはパラフィンロウなどの石油系ワックス等があげられる。好ましくはモンタン酸ワックスである。
【0039】
油性体とは、長鎖化合物で分子量が大きく分子の一端に極性基をもつ分子からなる液体の潤滑剤であり、パラフィン系鉱油、ナフテン系鉱油、芳香族系鉱油等の鉱油類、鯨油、牛脂、豚脂脂等の動物油、菜種油、ひまし油、パーム油等の植物油等があげられる。好ましくはひまし油である。
【0040】
また、潤滑改善剤として、さらに、硫化オレフィン、塩素化パラフィン、ジアルキルジチオリン酸塩類、ジアルキルジチオカルバミン酸塩類、リン酸エステル類等のいわゆる極圧添加剤を用いることは好ましい。
【0041】
潤滑改善剤は、グリース全重量に対して1〜20重量%の割合で配合することが望ましい。好ましくは1.0〜10重量%である。さらに好ましくは1.5〜5重量%である。1%以上で低温起動トルクの改善が見られる。また、20重量%以下ではグリースの強度が維持される。
【0042】
その他、本発明の効果を損ねない前提で、各種の添加剤を加えることは任意である。例えば、アミン系、フェノール系、イオウ系、ジチオリン酸亜鉛等の酸化防止剤、石油スルホネート、ジノニルナフタレンスルホネート、ソルビタンエステル等のさび止め剤、ベンゾトリアゾール、チアジアゾール、亜硝酸ソーダ等の金属不活性化剤、ポリメタクリレート、ポリブテン、ポリスチレン等の粘度指数向上剤等を加えてもよい。
【0043】
これらその他の添加剤は単独で又は2種以上を組み合わせて使用してもよい。また、その添加量は、グリース全量に対して、添加剤合計量が10重量%以下とするのが好ましい。
【0044】
本件発明で使用するグリース組成の決定方法は、基油と増ちょう剤をちょう度および離油度の範囲に対応して決めた後、潤滑改善剤の種類もしくは量を変動させて低温トルクを調整することにより決定すればよい。潤滑改善剤の種類もしくは量を変えるとちょう度および離油度も若干変動するが、変動方向は予想できるし変動幅も大きくはないので、グリース組成の決定は容易に行える。
【0045】
グリースの製造に際しては、上記成分の混合物を得た後、さらにミル等を用いて混練り処理を行うことが望ましい。
【0046】
【発明の実施の形態】
以下、実施例及び比較例により本発明の内容をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。
【0047】
【実施例1】
40℃における動粘度が17mm2/秒であるポリ―α―オレフィン80重量部を基油とし、リチウム複合石鹸20重量部、潤滑改善剤としてポリテトラフルオロエチレンを2部とひまし油2部を配合し、ホモジナイザーを用いて均一に分散させ200℃で2時間撹拌し、冷却後3本ロールミルで混練処理をしてグリースを得た。このグリースの離油度と低温トルクおよびちょう度を測定したところ、離油度は9.6%、低温起動トルクは19N・cm、ちょう度は280であった。
【0048】
次に、図4に示す装置のウォームホイールにこのグリースを塗布し、すべり速度条件を1.5m/s、2.0m/s、2.5m/sと変化させて耐久性試験を行った。ここでウォームは鋼製、ウォームホイールは、ナイロン6樹脂をガラス繊維30%で補強したものである。一定回転数ごとに、ウォームホイールを固定しウォーム軸に一定のトルクを負荷したときのウォームの回転角度を測定した。角度が急激に増大したときの変曲点を耐久限界とした。結果を図5に○印で示す。図5では、耐久性を比較例1のグリースを用いた場合の耐久回数に対する倍率で表示した。すべり速度が小さい領域はもちろんのこと、すべり速度が大きい領域でも優れた耐久性を示した。
【0049】
【比較例1】
40℃における動粘度が17mm2/秒であるポリ―α―オレフィン78重量部を基油とし、増ちょう剤としてリチウム複合石鹸を13重量部、ポリシノール酸ヘキサグリセリルを6重量部、フェノール系酸化防止剤を3重量部用いてグリースを製造し、実施例1と同様にして離油度および低温トルク、ちょう度を測定したところ、離油度は16.2%で、低温起動トルクは29N・cmであり、また、ちょう度は280であった。続いて実施例1と同様にして耐久性試験を行った。結果を図5に×印で示す。すべり速度を小さくしても耐久性がみられない結果となった。
【0050】
【発明の効果】
減速ギヤ比を大きく設定してもギヤの異常磨耗が生じにくく、大きな操舵補助力を得られるとともに、耐久性にすぐれた電動パワーステアリング装置が得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】電動パワーステアリング装置の概念図である。
【図2】本発明の離油度と低温起動トルクの関係を示した図である。
【図3】低温起動トルク測定装置の概略図面である。
【図4】耐久性試験用装置の概略図面である。
【図5】耐久性試験結果を示した図である。
【符号の説明】
1 ステアリングホイール、2 入力軸、3 トルクセンサ、4 減速装置、5 コラム、6 クラッチ、7 モータ、8 車速センサ、9 コントローラ、10 ラック、11 ピニオン
21 式(1)の境界線、22 式(2)の境界線、23 式(3)の境界線、24 式(4)の境界線
31 低温空気浴、32 電動機、33 計測器、34 減速装置、35 試験ジグ
41 電動機、42 ウォーム、43 ウォームホイール
【発明の属する技術分野】
本発明は、操舵補助力として電動モーターおよび減速装置を用いる電動パワーステアリング装置に関する。より詳しくは、車両前軸重が比較的に重い小型車に搭載することができる電動パワーステアリング装置に関する。さらに詳しくは、減速装置が高温環境下もしくは高すべり領域下におかれても、潤滑不良を起こし難い電動パワーステアリング装置およびそれに適したグリース組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】
操舵補助力として電動モーターの駆動力を用いる電動パワーステアリング装置は、油圧式パワーステアリング装置に比べ、燃料消費量が少なくてすみ、また、構成部品も少なくて軽量化できる等、種々の利点を有している。
【0003】
機構的には、ステアリングシャフトの操舵トルクを検出するトルクセンサーからの信号に対応して電動モーターを回転せしめ、電動モーターの低トルク・高速回転の駆動力を、ウォームとウォームホイール等を含む減速装置を介して、高トルク・低速回転に変換してからステアリングコラムやラックに伝達し、操舵を補助する。
【0004】
ここで、騒音の低減や軽量化のために減速装置のギヤ、特にウォームホイールには合成樹脂材料が使われることが多いが、金属性ギヤに比べて強度や耐熱性に劣る欠点がある。具体的には、その歯形状や動力伝達機構に由来して、歯型方向に加え歯すじ方向の滑りが発生し、滑り摩擦による発熱が生じることになり、ギヤの使用条件に制限が生じる。また、高い使用環境温度による合成樹脂ギヤへの負担も大きい。そこで、合成樹脂ギヤの負担を軽減するために潤滑剤が用いられるのが一般であるが、潤滑剤には簡便さからグリースが使用されることが多い。しかし、合成樹脂は、一般に金属よりグリースに対する親和性が低く、グリースを用いてもなお潤滑不良が生じやすい。
【0005】
電動パワーステアリング装置の合成樹脂ギヤに適したグリース組成物としては、例えば、特開平8−209167号公報において、水酸基を含む脂肪酸もしくは多価アルコールの脂肪酸エステルの少なくとも一種を添加したグリースであって、金属性ギヤと樹脂製ギヤを使用する電動パワーステアリング装置等に用いることにより、油切れなどの潤滑不良が解消されるグリース組成物が開示されている。
【0006】
また、特開平11−59448号公報には、減速機構およびラックピニオン機構を用いた電動パワーステアリング装置において、減速機構またはラックピニオン機構の少なくとも一方に、圧力の作用下においてせん断抵抗の大きいガラス状固体油膜を生成するトラクショングリースを塗布して、歯の磨耗を少なくする旨の発明が記載されている。
【0007】
合成樹脂ギヤの異常磨耗を防ぐには、ギヤの面圧Pとすべり速度Vから規定されるPV値が、ギヤの材質や潤滑状態に由来する一定の上限値を超えないようにする必要がある。しかし、合成樹脂材料のギヤでは、合成樹脂とグリースとの親和性が低いために潤滑不良を起こしやすく限界すべり速度が小さい。また、合成樹脂の圧縮強度の低さから、面圧Pの上限値も低い。その結果、PVの上限値が低い。
【0008】
そのため、従来、電動パワーステアリング装置は、車両前軸重が比較的軽く、合成樹脂ギヤに対する負荷が軽くできる軽自動車用を中心に採用されているのが実情である。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
電動パワーステアリング装置は、油圧式パワーステアリング装置に比べ、燃料消費量が少なくてすみ、構成部品も少なくて軽量化できる等、種々の利点があることから、より前車軸重の重い小型自動車への搭載が望まれている。つまり、高トルク領域でも潤滑不良が生じにくい電動パワーステアリング装置の開発が望まれている。
【0010】
具体的には、車両前軸重の重い小型自動車に搭載される電動パワーステアリング装置では、操舵補助力を大きくする必要性から高トルクモーターが使用される。この場合、樹脂ギヤの面圧Pが大きくなるから、これを下げるためには減速ギヤのモジュールを大きくすることが考えられる。しかし、同時にウォームの基準ピッチ円直径も大きくなるから、すべり速度Vは上がってしまう。また、より大きな操舵補助力を得るには減速ギヤ比を大きくすることが考えられるが、その場合もすべり速度Vは上がることになる。つまり、面圧Pを下げてかつ大きな操舵補助力を得るには、限界すべり速度Vを何らかの方法で大きくできればよいことになる。
【0011】
そこで、本発明は、電動パワーステアリング装置の減速装置において、合成樹脂製の減速ギヤを用いた場合の限界すべり速度を向上させること、すなわち、高すべり速度条件下で潤滑不良を生じないことにより、減速ギヤ比を大きくすることができて操舵補助力を大きくでき、しかも、耐久性も向上する電動パワーステアリング装置を提供すること、およびそれを具体化できるグリース組成物を提供することを課題とする。
【0012】
また、ピニオンタイプの電動パワーステアリング装置では、雰囲気温度が高温となった状態で性能を発揮することが求められる。そこで、本発明は、高温環境条件下(例えば、160℃)でも限界すべり速度を高く維持できる電動パワーステアリング装置を提供すること、およびそれを具体化できるグリース組成物を提供することを課題とする。
【0013】
【課題を解決するための手段】
本発明は、特定の特性を有するグリースを、電動パワーステアリング装置の合成樹脂ギヤを用いた減速装置に使用することにより、上記の課題を解決できることを見出してなされたものである。
【0014】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
【0015】
発明の第1は、操舵補助力発生用電動モーターと、そのモーターの回転軸に連結されたギヤ機構により回転速度を減速せしめる減速装置とを有し、そのギヤ機構の減速ギヤの少なくとも一つが合成樹脂製であり、その合成樹脂製ギヤがグリースにより潤滑され、そのグリースが低温時の起動回転トルクを低く維持したまま高温時の潤滑耐久性を改善したグリースである電動パワーステアリング装置である。
発明の第2は、操舵補助力発生用電動モーターと、そのモーターの回転軸に連結されたギヤ機構により回転速度を減速せしめる減速装置とを有し、そのギヤ機構の減速ギヤの少なくとも一つが合成樹脂製であり、その合成樹脂製ギヤがグリースにより潤滑される電動パワーステアリング装置であって、そのグリースの160℃・100時間における離油度:X(%)と、そのグリースの−40℃における低温起動トルク:Y(N・cm)とが、以下の(1)式および(2)式を満たす電動パワーステアリング装置である。
【0016】
3Y≦−10X+140 (1)
【0017】
0<Y≦30 (2)
【0018】
発明の第3は、グリースが、基油と増ちょう剤と潤滑改善剤とを含む発明の第2に記載の電動パワーステアリング装置である。
【0019】
発明の第4は、グリースの、基油が合成炭化水素油であり、増ちょう剤がリチウム系複合石鹸、ウレア系化合物から選ばれたものであり、潤滑改善剤が固体潤滑剤、油性体から選ばれたものである発明の第3に記載の電動パワーステアリング装置である。
【0020】
本発明でいう電動パワーステアリング装置の機械的構造は、図1に示すように、操舵補助力発生用電動モーターと、そのモーターの回転軸に連結されたギヤ機構により回転速度を減速せしめる減速装置とを有し、そのギヤ機構の減速ギヤの少なくとも一つが合成樹脂製であり、その合成樹脂製ギヤがグリースにより潤滑されている公知の構造であればよく、特に限定されない。また、本発明でいう減速装置のギヤ機構は、ウォームとウォームホイールの組み合わせにより構成され、かつ合成樹脂製ギヤがウォームホイールである場合に好適である。さらに、本発明でいう合成樹脂ギヤとしては、ガラス繊維補強ナイロン6樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂等の公知の合成樹脂ギヤを用いてよく、特に限定されるものではない。
【0021】
本発明で使用するグリースは、低温時の起動回転トルクを低く維持したまま高温時の潤滑耐久性を改善したグリースである。さらには、160℃・100時間における離油度:X(%)と、−40℃における低温トルク試験法による低温起動トルク:Y(N・cm)とが、前記の(1)式および(2)式を満たすことが望ましい。
【0022】
まず、(1)式は、グリースの離油度が、図2における[A]の点線で区分けされる領域の左側、すなわち小さい値であることが望ましいことを意味する。図2は、離油度を横軸に、低温起動トルクを縦軸にとったグラフであるが、図2中のある点のグリースのちょう度を増ちょう剤の量によって変化させると、そのグリースの離油度と低温起動トルクは、図中の[A]または[B]の点線と平行方向に移動する傾向がある。つまり、ちょう度を大きくすると低温起動トルクは小さくなるが、離油度は大きくなる。
【0023】
しかし、本発明では、高温での耐久性のために、離油度を小さくすることが望ましいことが判明した。一般に、離油度が小さすぎると潤滑不良や軸受け音響の異常発生が生じる傾向があるが、本発明では、意外にも離油度が小さいことが望ましい。離油度が図2の[A]の点線の右側にあると、グリースの耐久性が不良となりやすく、特に、すべり速度が2m/秒以上と大きい条件下では、ほとんど耐久性がない結果となりやすい。
【0024】
より好ましくは、図2における[B]の点線で区分けされた領域の左側であることが望ましい。この場合、式(1)は、次の式(3)で置き換えられることになる。
【0025】
3Y≦−10X+100 (3)
【0026】
ここで、グリースの160℃・100時間における離油度:X(%)は、JIS K 2220 5.7に準じ、160℃の温度条件下で、100時間経過時点の滴下量を測定して、試料の重量に対する滴下量の重量を、重量%で表したものである。なお、離油度は、さらに10%以下であることが望ましい。
【0027】
次に、式(2)は、グリースの−40℃における低温起動トルクが、30N・cm以下であることが望ましいことを示している。低温起動トルクを用いてグリースを規定したのは、離油度がグリースの高温特性を規定しているのに対し、実用上必要なグリースの低温特性を規定するためである。電動パワーステアリング装置では、原則ギヤ部の静まさつ係数と動まさつ係数との差を極力小さくし、スティック・スリップ現象を抑えることが重要である。低温時は、グリースの粘性の影響のためにスティック・スリップ現象が生じ易いために、低温起動トルクで規定することが重要である。つまり、実用的には、両方の特性を同時に満足しうるグリースでなければならない。前記したように、ちょう度で低温起動トルクを小さくするように調整すると、離油度は大きくなる関係にある。
【0028】
より好ましくは、グリースの低温起動トルクは、20N・cm以下であることが望ましい。この場合、式(2)は、次の式(4)で置き換えられることになる。
【0029】
0<Y≦20 (4)
【0030】
ここで、グリースの−40℃における低温起動トルク:Y(N・cm)は、JIS K 2220 5.14の低温トルク試験法に準じ、図3の装置を用い、試験用軸受けとして6204型玉軸受けを用い、これに試料を充填して低温槽に入れ、規定低温度で1rpmで回転したときの起動時最大トルクを測定したものである。
【0031】
本発明で使用するグリースは、基油、増ちょう剤に加え、潤滑改善剤を含んでいることが必要である。潤滑改善剤を含むことにより、意外にも高温特性と低温特性を同時に満足することができる。
【0032】
グリースの基油としては、低温特性を満足する必要性から合成炭化水素油が好ましい。具体的には、ポリブテン、1−オクテンオリゴマー、1−デセンオリゴマー等のポリ−α−オレフィン類又はその水素化物、ブチルステアレート、オクチルラウレート、ジトリデシルグルタレート、ジ−2−エチルヘキシルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジトリデシルアジペート、ジ−2−エチルヘキシルセバケート等のエステル類、トリメチロールプロパンカプリレート、トリメチロールプロパンペラルゴネート、トリメチロールプロパンオレート、トリメチロールプロパンステアレート、ペンタエリスリトール−2−エチルヘキサノエート、ペンタエリスリトールペラルゴネート、ペンタエリスリトールオレート、ペンタエリスリトールステアレート等のポリオールエステル類、その他のアルキルベンゼン、アルキルナフタレン、ポリオキシアルキレングリコール、ジアルキルジフェニルエーテル、ポリフェニルエーテル、及びこれらの混合物が挙げられる。
【0033】
基油の粘度は、40℃における動粘度が1〜300mm2/秒の範囲にあるものが好ましく、2〜100mm2/秒の範囲にあるものがより好ましい。さらには、2〜20mm2/秒であることが好ましい。
【0034】
増ちょう剤としては、高温特性を満たす観点から、リチウム系複合石鹸、ウレア系化合物から選ばれた増ちょう剤が用いられる。ウレア系化合物としては、脂肪族ウレア化合物、環脂肪族ウレア化合物のいずれか一つが望ましく、さらに、好ましくは脂肪族ジウレア化合物である。
【0035】
増ちょう剤の含有量は、グリース全量に対して5〜25重量%であることが好ましく、より好ましくは10〜20重量%、さらに好ましくは12〜18重量%である。増ちょう剤の含有量が5重量%以上で、増ちょう剤としての効果が発揮され、また25重量%以下で適度な柔らかさを維持し潤滑効果を発揮する。
【0036】
グリースのちょう度は、240〜320が望ましく、さらには、260〜300が好ましい。なお、グリースのちょう度は、JIS K 2220 5.3で測定した。
【0037】
グリースの潤滑改善剤は、固体潤滑剤もしくは油性体から選ばれ、これらのいずれか一種であってもよいし複数種を混合して用いてもよい。潤滑改善剤は、基油と同様な潤滑作用を果たしていると考えられるが、基油とは別個にこれらを添加することにより、離油率を小さく維持したまま、低温トルク特性を小さくする、すなわち高温特性を改善することが可能になる。
【0038】
ここで、固体潤滑剤としては、二硫化モリブデン、グラファイト、Pb、Ag、Au、PbO、CaF2等の無機物、含フッ素樹脂やナイロン、ワックス類のごとき高分子樹脂類があげられる。ここにいう含フッ素樹脂とは、通常、フッ素コーティング等に使用される低摩擦特性で非粘着性の樹脂をいい、具体的には、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、フルオリネイテッドエチレンプロピレンコポリマー(FEP)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテルコポリマー(PFA)、エチレンテトラフルオロエチレン(ETFE)、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)等があげられる。好ましくはポリテトラフルオロエチレンである。ワックス類としては、代表的にはモンタン酸ワックスのごとき長鎖脂肪酸ワックスが上げられ、その他、カルナバロウ、カンデリナロウ等の植物性ワックス、ミツロウ、虫白ロウ等の動物性ワックス、またはパラフィンロウなどの石油系ワックス等があげられる。好ましくはモンタン酸ワックスである。
【0039】
油性体とは、長鎖化合物で分子量が大きく分子の一端に極性基をもつ分子からなる液体の潤滑剤であり、パラフィン系鉱油、ナフテン系鉱油、芳香族系鉱油等の鉱油類、鯨油、牛脂、豚脂脂等の動物油、菜種油、ひまし油、パーム油等の植物油等があげられる。好ましくはひまし油である。
【0040】
また、潤滑改善剤として、さらに、硫化オレフィン、塩素化パラフィン、ジアルキルジチオリン酸塩類、ジアルキルジチオカルバミン酸塩類、リン酸エステル類等のいわゆる極圧添加剤を用いることは好ましい。
【0041】
潤滑改善剤は、グリース全重量に対して1〜20重量%の割合で配合することが望ましい。好ましくは1.0〜10重量%である。さらに好ましくは1.5〜5重量%である。1%以上で低温起動トルクの改善が見られる。また、20重量%以下ではグリースの強度が維持される。
【0042】
その他、本発明の効果を損ねない前提で、各種の添加剤を加えることは任意である。例えば、アミン系、フェノール系、イオウ系、ジチオリン酸亜鉛等の酸化防止剤、石油スルホネート、ジノニルナフタレンスルホネート、ソルビタンエステル等のさび止め剤、ベンゾトリアゾール、チアジアゾール、亜硝酸ソーダ等の金属不活性化剤、ポリメタクリレート、ポリブテン、ポリスチレン等の粘度指数向上剤等を加えてもよい。
【0043】
これらその他の添加剤は単独で又は2種以上を組み合わせて使用してもよい。また、その添加量は、グリース全量に対して、添加剤合計量が10重量%以下とするのが好ましい。
【0044】
本件発明で使用するグリース組成の決定方法は、基油と増ちょう剤をちょう度および離油度の範囲に対応して決めた後、潤滑改善剤の種類もしくは量を変動させて低温トルクを調整することにより決定すればよい。潤滑改善剤の種類もしくは量を変えるとちょう度および離油度も若干変動するが、変動方向は予想できるし変動幅も大きくはないので、グリース組成の決定は容易に行える。
【0045】
グリースの製造に際しては、上記成分の混合物を得た後、さらにミル等を用いて混練り処理を行うことが望ましい。
【0046】
【発明の実施の形態】
以下、実施例及び比較例により本発明の内容をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。
【0047】
【実施例1】
40℃における動粘度が17mm2/秒であるポリ―α―オレフィン80重量部を基油とし、リチウム複合石鹸20重量部、潤滑改善剤としてポリテトラフルオロエチレンを2部とひまし油2部を配合し、ホモジナイザーを用いて均一に分散させ200℃で2時間撹拌し、冷却後3本ロールミルで混練処理をしてグリースを得た。このグリースの離油度と低温トルクおよびちょう度を測定したところ、離油度は9.6%、低温起動トルクは19N・cm、ちょう度は280であった。
【0048】
次に、図4に示す装置のウォームホイールにこのグリースを塗布し、すべり速度条件を1.5m/s、2.0m/s、2.5m/sと変化させて耐久性試験を行った。ここでウォームは鋼製、ウォームホイールは、ナイロン6樹脂をガラス繊維30%で補強したものである。一定回転数ごとに、ウォームホイールを固定しウォーム軸に一定のトルクを負荷したときのウォームの回転角度を測定した。角度が急激に増大したときの変曲点を耐久限界とした。結果を図5に○印で示す。図5では、耐久性を比較例1のグリースを用いた場合の耐久回数に対する倍率で表示した。すべり速度が小さい領域はもちろんのこと、すべり速度が大きい領域でも優れた耐久性を示した。
【0049】
【比較例1】
40℃における動粘度が17mm2/秒であるポリ―α―オレフィン78重量部を基油とし、増ちょう剤としてリチウム複合石鹸を13重量部、ポリシノール酸ヘキサグリセリルを6重量部、フェノール系酸化防止剤を3重量部用いてグリースを製造し、実施例1と同様にして離油度および低温トルク、ちょう度を測定したところ、離油度は16.2%で、低温起動トルクは29N・cmであり、また、ちょう度は280であった。続いて実施例1と同様にして耐久性試験を行った。結果を図5に×印で示す。すべり速度を小さくしても耐久性がみられない結果となった。
【0050】
【発明の効果】
減速ギヤ比を大きく設定してもギヤの異常磨耗が生じにくく、大きな操舵補助力を得られるとともに、耐久性にすぐれた電動パワーステアリング装置が得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】電動パワーステアリング装置の概念図である。
【図2】本発明の離油度と低温起動トルクの関係を示した図である。
【図3】低温起動トルク測定装置の概略図面である。
【図4】耐久性試験用装置の概略図面である。
【図5】耐久性試験結果を示した図である。
【符号の説明】
1 ステアリングホイール、2 入力軸、3 トルクセンサ、4 減速装置、5 コラム、6 クラッチ、7 モータ、8 車速センサ、9 コントローラ、10 ラック、11 ピニオン
21 式(1)の境界線、22 式(2)の境界線、23 式(3)の境界線、24 式(4)の境界線
31 低温空気浴、32 電動機、33 計測器、34 減速装置、35 試験ジグ
41 電動機、42 ウォーム、43 ウォームホイール
Claims (4)
- 操舵補助力発生用電動モーターと、そのモーターの回転軸に連結されたギヤ機構により回転速度を減速せしめる減速装置とを有し、そのギヤ機構の減速ギヤの少なくとも一つが合成樹脂製であり、その合成樹脂製ギヤがグリースにより潤滑され、そのグリースが低温時の起動回転トルクを低く維持したまま高温時の潤滑耐久性を改善したグリースである電動パワーステアリング装置。
- 操舵補助力発生用電動モーターと、そのモーターの回転軸に連結されたギヤ機構により回転速度を減速せしめる減速装置とを有し、そのギヤ機構の減速ギヤの少なくとも一つが合成樹脂製であり、その合成樹脂製ギヤがグリースにより潤滑される電動パワーステアリング装置であって、そのグリースの160℃・100時間における離油度:X(%)と、そのグリースの−40℃における低温起動トルク:Y(N・cm)とが、以下の(1)式および(2)式を満たす電動パワーステアリング装置。
3Y≦−10X+140 (1)
0<Y≦30 (2) - グリースが、基油と増ちょう剤と潤滑改善剤とを含む請求項2に記載の電動パワーステアリング装置。
- グリースの、基油が合成炭化水素油であり、増ちょう剤がリチウム系複合石鹸またはウレア系化合物から選ばれたものであり、潤滑改善剤が固体潤滑剤、油性体から選ばれたものである請求項3に記載の電動パワーステアリング装置。
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