JP2004049022A - 遺伝子組換えによるカフェインレスコーヒー植物の製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】カフェイン生合成関連酵素をコードする遺伝子群の発現をアンチセンス法やRNAi法で抑制することにより、カフェイン含量の少ないコーヒー植物を創出する方法を提供する。
【解決手段】カフェイン生合成関連酵素をコードする遺伝子のアンチセンス配列またはRNAi配列を作製し、形質転換用の発現ベクターを構築する工程と、得られた発現ベクターをアグロバクテリウムに導入する工程と、コーヒー植物の細胞分裂の活性化した組織片、またはコーヒー植物の組織片から誘導したカルスもしくは不定胚を上記アグロバクテリウムに感染させることにより上記組織片、カルスまたは不定胚の形質転換を行う工程と、形質転換された組織片、カルスまたは不定胚から形質転換コーヒー植物体を得る工程とを含む、遺伝子組換えによるカフェインレスコーヒー植物の製造方法である。
【選択図】 なし
【解決手段】カフェイン生合成関連酵素をコードする遺伝子のアンチセンス配列またはRNAi配列を作製し、形質転換用の発現ベクターを構築する工程と、得られた発現ベクターをアグロバクテリウムに導入する工程と、コーヒー植物の細胞分裂の活性化した組織片、またはコーヒー植物の組織片から誘導したカルスもしくは不定胚を上記アグロバクテリウムに感染させることにより上記組織片、カルスまたは不定胚の形質転換を行う工程と、形質転換された組織片、カルスまたは不定胚から形質転換コーヒー植物体を得る工程とを含む、遺伝子組換えによるカフェインレスコーヒー植物の製造方法である。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、遺伝子組換えによるカフェインレスコーヒー植物ないしは減カフェインコーヒー植物の製造方法に関するものである。
【0002】
【発明の背景】
コーヒーに含まれるカフェインは、覚醒作用や心機能の増進といった効果を有する一方で、不眠・動機・めまいなどをきたす副作用を有する。そのため、カフェインレスコーヒーの需要が高く、従来は主に有機溶媒抽出など物理化学的な分離手法によりこれを生産していた。しかし、この方法では生産コストが高くつく上に、コーヒー本来の味・香りが損なわれてしまう。そこで、これに代わる新しいカフェインレスコーヒーの創出技術開発が望まれている。
【0003】
【従来の技術】
コーヒー植物の育種は、交配による優良品種の選抜、種子繁殖あるいは接木による増殖を主流としている。しかし交配選抜による育種は長い年月を要し、コーヒー種子は貯蔵条件により急激に発芽率低下を来たす。接木による増殖は優良形質品種のクローン増殖に有効であるが、広い育種場の確保や台木の更新などが必要となる。その後、選抜・交配育種に替わるコーヒー植物の育種技術として組織培養技術が開発されてきた(Berthouly and Etienne, Somatic Embryogenesis in Woody Plants, Vol. 5, Kluwer: 259−288, 1999)。また、近年、遺伝子組換え技術により形質転換植物を創出することが可能になり、コーヒー植物においても形質転換例が幾つか報告されている。最近の報告例としては、耐虫性遺伝子の導入が挙げられる(Leroy et al., Plant Cell Rep. 19: 382−389, 2000)。新しいカフェインレスコーヒーの創出技術として、遺伝子組換え技術を応用したカフェインレスコーヒーの分子育種が理論的には提案されてきたが、これを具体的に実証した報告は未だない。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、遺伝子組換え技術を応用した新しいコーヒー植物の分子育種技術を提供すること、具体的には、コーヒーより単離したカフェイン生合成関連酵素をコードする遺伝子群の発現をアンチセンス法やRNAi(double−stranded RNA interference)法で抑制することにより、カフェイン含量の少ないコーヒー植物を創出する方法を提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明は、カフェイン生合成関連酵素をコードする遺伝子のアンチセンス配列またはRNAi配列を作製し、形質転換用の発現ベクターを構築する工程と、
得られた発現ベクターをアグロバクテリウムに導入する工程と、
コーヒー植物の細胞分裂の活性化した組織片、またはコーヒー植物の組織片から誘導したカルスもしくは不定胚を、上記アグロバクテリウムに感染させることにより上記組織片、カルスまたは不定胚の形質転換を行う工程と、
形質転換された組織片、カルスまたは不定胚から形質転換コーヒー植物体を得る工程とを含む、
遺伝子組換えによるカフェインレスコーヒー植物の製造方法に関する。
【0006】
コーヒー植物(コーヒーノキ)では、アデニンヌクレオチドおよびグアニンヌクレオチドの異化代謝中間産物であるキサントシンを出発材料とし、7−メチルキサントシン、7−メチルキサンチン、3,7−ジメチルキサンチン(テオブロミン)を経て1,3,7−トリメチルキサンチン(カフェイン)が生合成される。
【0007】
上記カフェイン生合成関連酵素はキサントシンから7−メチルキサントシンへのメチル化を触媒するキサントシンメチル化酵素、7−メチルキサントシンから7−メチルキサンチンへの脱リボースを触媒するヌクレオシド脱リボース酵素、7−メチルキサンチンから3,7−ジメチルキサンチンへのメチル化を触媒する7−メチルキサンチンメチル化酵素、および3,7−ジメチルキサンチンから1,3,7−トリメチルキサンチンへのメチル化を触媒する3,7−ジメチルキサンチンメチル化酵素のいずれであってもよい。
【0008】
細胞分裂の活性化した葉組織片とは、葉の主に切断面の細胞が分裂を活発に行っている状態で一部カルス化しているものである。細胞分裂の活性化した葉組織片は、例えば、植物ホルモンとしてフェニルウレアタイプのサイトカイニンを加えた培地で切断組織片を前培養することにより得ることができる。フェニルウレアタイプのサイトカイニンとしては、4−CPPU(N−2−クロロ−4−ピリジル−N−フェニルウレア)またはTDZ(チジアズロン)が好ましい。
【0009】
本発明による方法が適用できるコーヒー属植物は、世界のマーケットで需要の高いコーヒー種であるコーヒー・アラビカ種(Coffea arabica)およびロブスタ種(=カネフォラ種(Coffea canephora))の外、コーヒー・リベリカ種(Coffea liberica)およびコーヒー・デウェブレイ種(Coffea dewevrei)であってもよい。
【0010】
本発明により得られたカフェインレスコーヒー植物から果実を得ることによりカフェインレスコーヒーないしは減カフェインコーヒーが得られる。
【0011】
【発明の実施の形態】
本発明を下記の実施例により具体的に説明する。
【0012】
実施例1(コーヒー組織培養系の確立)
遺伝子組換えを行うために、以下の材料および方法を用いて、コーヒーの組織培養系を調製した。
【0013】
材料:
温室内で栽培しているコーヒー植物、アラビカ種およびカネフォラ種の鉢植え個体を用いた。
【0014】
方法:
(1) コーヒー属植物組織、好ましくは新葉、特に好ましくは枝先端の第一展開葉を採取した後、滅菌処理し、滅菌組織を好ましくはクリーンベンチ内で例えば2〜20mm角に、好ましくは約7mm角に切断した。
【0015】
上記滅菌処理では、例えば、採取葉を70%エタノール中に1分間、次いで2%次亜塩素酸水溶液中に10分間浸漬する。この浸漬により滅菌はほぼ100%達成される。この処理液および処理条件は適宜調整できる。
【0016】
(2) 各種栄養成分を含む液体あるいは固体培地、例えばMS培地(Murashige, Physiol. Plant 15: 473−497, 1962 )、B5培地(Gamborg, Exp. Cell. Res. 50: 151−158, 1968)、あるいはそれらの改変培地に、植物ホルモンとして、例えばアデニンタイプのサイトカイニン(BA:ベンジルアデニン、2ip:2イソペンテニルアデニン)や、フェニルウレアタイプのサイトカイニン(4−CPPU:N−2−クロロ−4−ピリジル−N−フェニルウレアやTDZ:チジアズロン)またはオーキシンである2,4−D:2,4−ジクロロフェノキシアセティックアシッドなどを添加する。植物ホルモンの組み合わせは上記のものに限定されず、適宜調節する。改変培地は、例えば、無機塩類のみを通常の濃度から1/2に低下させた改良MS培地(modified 1/2 MS:以下m1/2MSと略記する)である。植物ホルモンの濃度は、好ましくは0.1〜40μM、より好ましくは0.5〜20μM、最も好ましくは1〜10μMである。この培地にショ糖を好ましくは10〜100g/l、より好ましくは20〜50g/l添加し、pHを至適値例えば5.6〜5.8に調節した後、培地固化剤を加える(以下、固体培地とはゲランガムで固化した培地をいう。また培地とは、特にことわりの無い限りは固体培地をいう。)。培地固化剤としてはゲランガムが好ましく、その添加量は2〜4g/lである。その後、この培地を高圧高温条件下で滅菌する。この滅菌条件は、好ましくは温度115〜125℃、10〜30分である。
【0017】
この実施例では、培地にショ糖を30g/l添加し、pHを5.7に調節した後、ゲランガム3g/lを加えた。滅菌条件は温度121℃、期間20分の高圧高温条件とした。
【0018】
(3) 次いで、2ipを1〜40μM、特に2ipを20μM含む滅菌m1/2MS培地にカネフォラ種の葉切断組織片を植え付け、9〜12週間培養することによって(概ね3週間毎に同一組成の新鮮培地に移植)、不定胚を誘導し、4−CPPUを1μMと2,4−Dを5μM含む滅菌m1/2MS培地にアラビカ種の葉切断組織片を植え付け、3〜9週間培養することによって(概ね3週間毎に同一組成の新鮮培地に移植)、カルスを誘導した。誘導した不定胚やカルスは特にことわりのない限り、同一組成の新鮮培地に移植して増殖を促し、遺伝子組換えの材料として用いた。
【0019】
不定胚やカルスの誘導培養条件は、従来のコーヒー属植物組織培養(例えばBerthouly and Michaux−Ferriere, Plant Cell, Tissue and Organ Culture 44: 169−176, 1996) で用いられている条件と同じであってよく、例えば温度は25〜28℃である。この培養は好ましくは暗所で行う。この実施例では、培養は25℃暗黒条件下で行った。この培養は、巨視的に細胞分裂の促進、すなわち培養細胞塊の誘導が確認できる程度の期間(約2から30日間)、継続して行うことが望ましい。
【0020】
実施例2(形質転換用の発現ベクターの構築)
本実施例では、既に本発明者らが単離・解析した(Ogawa et al., J. Biol. Chem. 276: 8213−8218, 2001)7−メチルキサンチンメチル化酵素(テオブロミン合成酵素)をコードする遺伝子であるCaMXMTの制御について述べる。この遺伝子CaMXMT cDNA は、DDBJ/GenBank/EMBL accession number AB048794 として登録されているものである。遺伝子発現ベクターには様々な種類があり、それらを適宜用いることができるが、本実施例ではpIG121−Hm(=pBIH1−IG)(Ohta et al., Plant Cell Physiol. 31: 805−831, 1990)を用いた。遺伝子発現ベクターpIG121−Hm(=pBIH1−IG)は、NOSプロモータによって制御されるカナマイシン耐性遺伝子、植物において強力な転写活性を示すプロモーターとして知られるカリフラワーモザイクウィルス35Sプロモーター(CaMV35S )によって制御されるイントロンを含むGUS(β−グルクロニダーゼ)遺伝子、および、ハイグロマイシン耐性遺伝子が組み込まれたベクターである(図1の最上段参照)。したがって一度の操作でこれら3つの遺伝子が植物に組み込まれる。この場合、好ましいターミネーターとしてはNOSターミネーターが組み込まれている。CaMXMT発現制御のために改良ベクター(図1の第2〜4段参照)を次の手順で構築した。
【0021】
(1) CaMXMTの332bp 断片(946bp から1277bp間):A、161bp 断片(1117bpから1277bp間):B、および139bp 断片(1139bpから1277bp間):Cをそれぞれ増幅した。また、GUS(β−グルクロニダーゼ)遺伝子の517bp 断片(3436bpから3952bp間):DをRNAiコンストラクトのリンカーとして増幅した。
【0022】
なお、CaMXMT発現制御に用いる遺伝子断片およびRNAiコンストラクトのリンカーとして用いる遺伝子断片は上記領域に限定されず、またCaMXMTの塩基置換などの変異配列を含めて適宜変更することができる。
【0023】
(2) pBIH1−IGのイントロンを含むGUS遺伝子を制限酵素(Xba IおよびSac I )で切断した後、断片Aをアンチセンス配列としてここに組み込んだ。こうして得られた改良ベクターを便宜上pBIH1−antisenseCaMXMT とする。
【0024】
(3) pBIH1−IGのイントロンを含むGUS遺伝子を制限酵素(Xba IおよびSac I )で切断した後、断片Aをセンス配列、断片Dをリンカー配列、断片Aをアンチセンス配列としてここに組み込んだ。こうして得られた改良ベクターを便宜上pBIH1−RNAi 1CaMXMTとする。
【0025】
(4) pBIH1−IGのイントロンを含むGUS遺伝子を制限酵素(Xba IおよびSac I )で切断した後、断片Bをセンス配列、断片Dをリンカー配列、断片Cをアンチセンス配列としてここに組み込んだ。こうして得られた改良ベクターを便宜上pBIH1−RNAi 2CaMXMTとする。
【0026】
図1中、nos−proはNOSプロモータ、Km rはカナマイシン耐性遺伝子、35S−pro は35Sプロモーター、intron−GUSはイントロンを含むGUS、nos−terはNOSターミネーター、Hyg rはハイグロマイシン耐性遺伝子、←Aはアンチセンス配列、S→はセンス配列をそれぞれ意味する。
【0027】
実施例3(アグロバクテリウム細菌による遺伝子導入)
こうして得られた発現ベクターをアグロバクテリウム法による遺伝子導入操作に供する。アグロバクテリウム法による遺伝子導入は常法によって行ってよい。植物組織への外来遺伝子導入はアグロバクテリウムのバイナリーベクター法により行うことができる。アグロバクテリウム細菌およびベクターには多くの種類があり、それらを適宜用いることができるが、本実施例においては、コーヒー植物の形質転換に有効であると報告されている(Hatanaka et al., Plant Cell Rep.19: 106−110, 1999)アグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens )の1種であるEHA101(Hood et al., J. Bacteriol 168: 1291−1301, 1986)を用いた。遺伝子発現ベクターとしては、pIG121−Hm(=pBIH1−IG)の改良ベクターである、実施例2で構築したベクター、pBIH1−antisenseCaMXMT、pBIH1−RNAi 1CaMXMT およびpBIH1−RNAi 2CaMXMT を用いた。
【0028】
コーヒー属植物への遺伝子導入に先立ち、各ベクターをエレクトロポーレーション法によりアグロバクテリウム細菌:EHA101に組み込む。ベクターを組み込んだアグロバクテリウム細菌を抗生物質であるカナマイシンおよびハイグロマイシンを含む培地で増殖させ、アグロバクテリウム懸濁液を調製する。
【0029】
本実施例ではアラビカ種の遺伝子導入例を示す。手順は以下の通りである。(1) 前述の実施例1に従って誘導したアラビカ種のカルスを実施例1と同一培地条件(25℃、暗黒下)で培養し、増殖させた。
【0030】
(2) ベクターを組み込んだアグロバクテリウム細菌を抗生物質カナマイシンおよびハイグロマイシンを100mg/lの濃度で含む培地で増殖させ、600nmにおける光学濃度(O.D.)値約0.5のアグロバクテリウム懸濁液を調製した。この懸濁液にカルスを30分間浸漬した後、滅菌したろ紙上で水分を除いた。その後好ましくはアセトシリンゴン(遺伝子発現誘導剤)50mg/lを添加した固体m1/2MS(4−CPPUを1μMおよび2,4−D を5μM含有)で1日培養する。
【0031】
(3) アセトシリンゴン含有培地で培養後のカルスをアグロバクテリウム細菌の除菌剤としてセフォタキシン300mg/lを添加した液体m1/2MS培地で洗浄後、セフォタキシン300mg/lと抗生物質としてハイグロマイシンを50mg/lの濃度で添加した固体m1/2MS(4−CPPUを1 μMおよび2,4−D を5 μM含有)で培養、次いでセフォタキシンを除き、抗生物質を100mg/l の濃度で添加した培地で約2ヶ月間培養以降(3週間毎に同一組成の培地に移植する)、順次形質転換体を得た。
【0032】
実施例4(導入遺伝子の確認)
前述の通り、得られた形質転換体が抗生物質耐性を示すことは、例えばハイグロマイシン耐性遺伝子が導入され、発現したことを示している。また、ゲノムDNA を抽出し、PCR(Polymerase chain reaction )法によっても外来遺伝子の導入を確認している。例えばハイグロマイシン耐性遺伝子は、5−GCGTGACCTATTGCATCTCC−3、5−TTCTACACAGCCATCGGTCC−3のプライマー対により増幅された。PCRは94℃で5分間熱変性後に、熱変性:94℃、30秒、アニーリング:58℃、30秒、伸長反応:72℃、30秒、30サイクルで行った。非形質転換体には増幅されるDNA 断片が認められないのに対して、形質転換体には713−bpのハイグロマイシン耐性遺伝子断片を示す明瞭なバンドが確認された。
【0033】
実施例5(CaMXMT発現の確認)
得られた形質転換体について、アンチセンス法やRNAi法で抑制した遺伝子であるCaMXMT発現様式をReverse transcription (RT)−PCR法により確認した。これを図2に示す。トータルRNAを抽出した後、RNA PCR Kit (AMV) Ver.2.1 (Takara)によってcDNAを合成した。CaMXMTは 5−TCCTACAATCTGGCTCTTGC−3 、5−TGCTTTAATTTGTTCATGGGATC−3 のプライマー対により増幅された。PCRは熱変性:94℃、30秒、アニーリング:58℃、30秒、伸長反応:72℃、1分間、24サイクルで行った。
【0034】
図2に示すように、非形質転換体では明瞭なバンドが検出されるのに対して(レーン1)、選抜されたRNAi形質転換体(pBIH1−RNAi 1CaMXMT導入:レーン2,3)およびアンチセンス形質転換体(pBIH1−antisenseCaMXMT 導入:レーン4)について検出されるバンドは明らかに薄い傾向を示した。中でも、例えばRNAi形質転換体(レーン2)ではバンドがほとんど検出されなかった。これは選抜された形質転換体のCaMXMT発現が強く抑制されていることを示している。
【0035】
実施例6(HPLCによる内生テオブロミン、カフェイン量の定量)
得られた形質転換体についてHPLC(High Performance Liquid Chromatography)分析法によって内生のプリンアルカロイドであるテオブロミンおよびカフェインの含量を調べた。分析用のプリンアルカロイドは、以下の熱水抽出法により得た。生重量で概ね100mgの植物組織、カルスなどを80℃、1mlの超純水にて20分間煮沸する工程を2回繰り返した。抽出溶液を孔径0.2μmのメンブレンフィルターによりろ過し、分析試料とした。HPLCシステム(Waters 600E )を用い、メチルアルコール:水=20:80、すなわち20%メチルアルコール溶液によりプリンアルカロイド類を分離した。カラムはWaters Puresil C18(4.6mm×250mm)を用いた。独立した3試料より抽出を行い各抽出試料につき3回分析を行い、9回のHPLC分析値の平均値(標準偏差)を求めた。分析結果を表1に示す。
【0036】
【表1】
表1中、( )内の数値は標準偏差を示す。各試験体番号(1〜4)は図2のレーン(1〜4)の番号に一致する。
【0037】
表1から分かるように、形質転換体の内生テオブロミンおよびカフェイン量は、有意に減少しており、特に2および3のRNAi形質転換体においてカフェインは検出されなかった。この結果は実施例5の図2に示す結果と一致するものであり、本発明によってCaMXMT発現が強く抑制され、カフェインを含まないコーヒー形質転換体が得られたことを示している。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、形質転換用の発現ベクターおよびその改良ベクターを模式的に示す図である。
【図2】図2は、得られた形質転換体について、アンチセンス法やRNAi法で抑制した遺伝子であるCaMXMT発現様式をReverse transcription (RT)−PCR法により確認したことを示すものである。
【発明の属する技術分野】
この発明は、遺伝子組換えによるカフェインレスコーヒー植物ないしは減カフェインコーヒー植物の製造方法に関するものである。
【0002】
【発明の背景】
コーヒーに含まれるカフェインは、覚醒作用や心機能の増進といった効果を有する一方で、不眠・動機・めまいなどをきたす副作用を有する。そのため、カフェインレスコーヒーの需要が高く、従来は主に有機溶媒抽出など物理化学的な分離手法によりこれを生産していた。しかし、この方法では生産コストが高くつく上に、コーヒー本来の味・香りが損なわれてしまう。そこで、これに代わる新しいカフェインレスコーヒーの創出技術開発が望まれている。
【0003】
【従来の技術】
コーヒー植物の育種は、交配による優良品種の選抜、種子繁殖あるいは接木による増殖を主流としている。しかし交配選抜による育種は長い年月を要し、コーヒー種子は貯蔵条件により急激に発芽率低下を来たす。接木による増殖は優良形質品種のクローン増殖に有効であるが、広い育種場の確保や台木の更新などが必要となる。その後、選抜・交配育種に替わるコーヒー植物の育種技術として組織培養技術が開発されてきた(Berthouly and Etienne, Somatic Embryogenesis in Woody Plants, Vol. 5, Kluwer: 259−288, 1999)。また、近年、遺伝子組換え技術により形質転換植物を創出することが可能になり、コーヒー植物においても形質転換例が幾つか報告されている。最近の報告例としては、耐虫性遺伝子の導入が挙げられる(Leroy et al., Plant Cell Rep. 19: 382−389, 2000)。新しいカフェインレスコーヒーの創出技術として、遺伝子組換え技術を応用したカフェインレスコーヒーの分子育種が理論的には提案されてきたが、これを具体的に実証した報告は未だない。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、遺伝子組換え技術を応用した新しいコーヒー植物の分子育種技術を提供すること、具体的には、コーヒーより単離したカフェイン生合成関連酵素をコードする遺伝子群の発現をアンチセンス法やRNAi(double−stranded RNA interference)法で抑制することにより、カフェイン含量の少ないコーヒー植物を創出する方法を提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明は、カフェイン生合成関連酵素をコードする遺伝子のアンチセンス配列またはRNAi配列を作製し、形質転換用の発現ベクターを構築する工程と、
得られた発現ベクターをアグロバクテリウムに導入する工程と、
コーヒー植物の細胞分裂の活性化した組織片、またはコーヒー植物の組織片から誘導したカルスもしくは不定胚を、上記アグロバクテリウムに感染させることにより上記組織片、カルスまたは不定胚の形質転換を行う工程と、
形質転換された組織片、カルスまたは不定胚から形質転換コーヒー植物体を得る工程とを含む、
遺伝子組換えによるカフェインレスコーヒー植物の製造方法に関する。
【0006】
コーヒー植物(コーヒーノキ)では、アデニンヌクレオチドおよびグアニンヌクレオチドの異化代謝中間産物であるキサントシンを出発材料とし、7−メチルキサントシン、7−メチルキサンチン、3,7−ジメチルキサンチン(テオブロミン)を経て1,3,7−トリメチルキサンチン(カフェイン)が生合成される。
【0007】
上記カフェイン生合成関連酵素はキサントシンから7−メチルキサントシンへのメチル化を触媒するキサントシンメチル化酵素、7−メチルキサントシンから7−メチルキサンチンへの脱リボースを触媒するヌクレオシド脱リボース酵素、7−メチルキサンチンから3,7−ジメチルキサンチンへのメチル化を触媒する7−メチルキサンチンメチル化酵素、および3,7−ジメチルキサンチンから1,3,7−トリメチルキサンチンへのメチル化を触媒する3,7−ジメチルキサンチンメチル化酵素のいずれであってもよい。
【0008】
細胞分裂の活性化した葉組織片とは、葉の主に切断面の細胞が分裂を活発に行っている状態で一部カルス化しているものである。細胞分裂の活性化した葉組織片は、例えば、植物ホルモンとしてフェニルウレアタイプのサイトカイニンを加えた培地で切断組織片を前培養することにより得ることができる。フェニルウレアタイプのサイトカイニンとしては、4−CPPU(N−2−クロロ−4−ピリジル−N−フェニルウレア)またはTDZ(チジアズロン)が好ましい。
【0009】
本発明による方法が適用できるコーヒー属植物は、世界のマーケットで需要の高いコーヒー種であるコーヒー・アラビカ種(Coffea arabica)およびロブスタ種(=カネフォラ種(Coffea canephora))の外、コーヒー・リベリカ種(Coffea liberica)およびコーヒー・デウェブレイ種(Coffea dewevrei)であってもよい。
【0010】
本発明により得られたカフェインレスコーヒー植物から果実を得ることによりカフェインレスコーヒーないしは減カフェインコーヒーが得られる。
【0011】
【発明の実施の形態】
本発明を下記の実施例により具体的に説明する。
【0012】
実施例1(コーヒー組織培養系の確立)
遺伝子組換えを行うために、以下の材料および方法を用いて、コーヒーの組織培養系を調製した。
【0013】
材料:
温室内で栽培しているコーヒー植物、アラビカ種およびカネフォラ種の鉢植え個体を用いた。
【0014】
方法:
(1) コーヒー属植物組織、好ましくは新葉、特に好ましくは枝先端の第一展開葉を採取した後、滅菌処理し、滅菌組織を好ましくはクリーンベンチ内で例えば2〜20mm角に、好ましくは約7mm角に切断した。
【0015】
上記滅菌処理では、例えば、採取葉を70%エタノール中に1分間、次いで2%次亜塩素酸水溶液中に10分間浸漬する。この浸漬により滅菌はほぼ100%達成される。この処理液および処理条件は適宜調整できる。
【0016】
(2) 各種栄養成分を含む液体あるいは固体培地、例えばMS培地(Murashige, Physiol. Plant 15: 473−497, 1962 )、B5培地(Gamborg, Exp. Cell. Res. 50: 151−158, 1968)、あるいはそれらの改変培地に、植物ホルモンとして、例えばアデニンタイプのサイトカイニン(BA:ベンジルアデニン、2ip:2イソペンテニルアデニン)や、フェニルウレアタイプのサイトカイニン(4−CPPU:N−2−クロロ−4−ピリジル−N−フェニルウレアやTDZ:チジアズロン)またはオーキシンである2,4−D:2,4−ジクロロフェノキシアセティックアシッドなどを添加する。植物ホルモンの組み合わせは上記のものに限定されず、適宜調節する。改変培地は、例えば、無機塩類のみを通常の濃度から1/2に低下させた改良MS培地(modified 1/2 MS:以下m1/2MSと略記する)である。植物ホルモンの濃度は、好ましくは0.1〜40μM、より好ましくは0.5〜20μM、最も好ましくは1〜10μMである。この培地にショ糖を好ましくは10〜100g/l、より好ましくは20〜50g/l添加し、pHを至適値例えば5.6〜5.8に調節した後、培地固化剤を加える(以下、固体培地とはゲランガムで固化した培地をいう。また培地とは、特にことわりの無い限りは固体培地をいう。)。培地固化剤としてはゲランガムが好ましく、その添加量は2〜4g/lである。その後、この培地を高圧高温条件下で滅菌する。この滅菌条件は、好ましくは温度115〜125℃、10〜30分である。
【0017】
この実施例では、培地にショ糖を30g/l添加し、pHを5.7に調節した後、ゲランガム3g/lを加えた。滅菌条件は温度121℃、期間20分の高圧高温条件とした。
【0018】
(3) 次いで、2ipを1〜40μM、特に2ipを20μM含む滅菌m1/2MS培地にカネフォラ種の葉切断組織片を植え付け、9〜12週間培養することによって(概ね3週間毎に同一組成の新鮮培地に移植)、不定胚を誘導し、4−CPPUを1μMと2,4−Dを5μM含む滅菌m1/2MS培地にアラビカ種の葉切断組織片を植え付け、3〜9週間培養することによって(概ね3週間毎に同一組成の新鮮培地に移植)、カルスを誘導した。誘導した不定胚やカルスは特にことわりのない限り、同一組成の新鮮培地に移植して増殖を促し、遺伝子組換えの材料として用いた。
【0019】
不定胚やカルスの誘導培養条件は、従来のコーヒー属植物組織培養(例えばBerthouly and Michaux−Ferriere, Plant Cell, Tissue and Organ Culture 44: 169−176, 1996) で用いられている条件と同じであってよく、例えば温度は25〜28℃である。この培養は好ましくは暗所で行う。この実施例では、培養は25℃暗黒条件下で行った。この培養は、巨視的に細胞分裂の促進、すなわち培養細胞塊の誘導が確認できる程度の期間(約2から30日間)、継続して行うことが望ましい。
【0020】
実施例2(形質転換用の発現ベクターの構築)
本実施例では、既に本発明者らが単離・解析した(Ogawa et al., J. Biol. Chem. 276: 8213−8218, 2001)7−メチルキサンチンメチル化酵素(テオブロミン合成酵素)をコードする遺伝子であるCaMXMTの制御について述べる。この遺伝子CaMXMT cDNA は、DDBJ/GenBank/EMBL accession number AB048794 として登録されているものである。遺伝子発現ベクターには様々な種類があり、それらを適宜用いることができるが、本実施例ではpIG121−Hm(=pBIH1−IG)(Ohta et al., Plant Cell Physiol. 31: 805−831, 1990)を用いた。遺伝子発現ベクターpIG121−Hm(=pBIH1−IG)は、NOSプロモータによって制御されるカナマイシン耐性遺伝子、植物において強力な転写活性を示すプロモーターとして知られるカリフラワーモザイクウィルス35Sプロモーター(CaMV35S )によって制御されるイントロンを含むGUS(β−グルクロニダーゼ)遺伝子、および、ハイグロマイシン耐性遺伝子が組み込まれたベクターである(図1の最上段参照)。したがって一度の操作でこれら3つの遺伝子が植物に組み込まれる。この場合、好ましいターミネーターとしてはNOSターミネーターが組み込まれている。CaMXMT発現制御のために改良ベクター(図1の第2〜4段参照)を次の手順で構築した。
【0021】
(1) CaMXMTの332bp 断片(946bp から1277bp間):A、161bp 断片(1117bpから1277bp間):B、および139bp 断片(1139bpから1277bp間):Cをそれぞれ増幅した。また、GUS(β−グルクロニダーゼ)遺伝子の517bp 断片(3436bpから3952bp間):DをRNAiコンストラクトのリンカーとして増幅した。
【0022】
なお、CaMXMT発現制御に用いる遺伝子断片およびRNAiコンストラクトのリンカーとして用いる遺伝子断片は上記領域に限定されず、またCaMXMTの塩基置換などの変異配列を含めて適宜変更することができる。
【0023】
(2) pBIH1−IGのイントロンを含むGUS遺伝子を制限酵素(Xba IおよびSac I )で切断した後、断片Aをアンチセンス配列としてここに組み込んだ。こうして得られた改良ベクターを便宜上pBIH1−antisenseCaMXMT とする。
【0024】
(3) pBIH1−IGのイントロンを含むGUS遺伝子を制限酵素(Xba IおよびSac I )で切断した後、断片Aをセンス配列、断片Dをリンカー配列、断片Aをアンチセンス配列としてここに組み込んだ。こうして得られた改良ベクターを便宜上pBIH1−RNAi 1CaMXMTとする。
【0025】
(4) pBIH1−IGのイントロンを含むGUS遺伝子を制限酵素(Xba IおよびSac I )で切断した後、断片Bをセンス配列、断片Dをリンカー配列、断片Cをアンチセンス配列としてここに組み込んだ。こうして得られた改良ベクターを便宜上pBIH1−RNAi 2CaMXMTとする。
【0026】
図1中、nos−proはNOSプロモータ、Km rはカナマイシン耐性遺伝子、35S−pro は35Sプロモーター、intron−GUSはイントロンを含むGUS、nos−terはNOSターミネーター、Hyg rはハイグロマイシン耐性遺伝子、←Aはアンチセンス配列、S→はセンス配列をそれぞれ意味する。
【0027】
実施例3(アグロバクテリウム細菌による遺伝子導入)
こうして得られた発現ベクターをアグロバクテリウム法による遺伝子導入操作に供する。アグロバクテリウム法による遺伝子導入は常法によって行ってよい。植物組織への外来遺伝子導入はアグロバクテリウムのバイナリーベクター法により行うことができる。アグロバクテリウム細菌およびベクターには多くの種類があり、それらを適宜用いることができるが、本実施例においては、コーヒー植物の形質転換に有効であると報告されている(Hatanaka et al., Plant Cell Rep.19: 106−110, 1999)アグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens )の1種であるEHA101(Hood et al., J. Bacteriol 168: 1291−1301, 1986)を用いた。遺伝子発現ベクターとしては、pIG121−Hm(=pBIH1−IG)の改良ベクターである、実施例2で構築したベクター、pBIH1−antisenseCaMXMT、pBIH1−RNAi 1CaMXMT およびpBIH1−RNAi 2CaMXMT を用いた。
【0028】
コーヒー属植物への遺伝子導入に先立ち、各ベクターをエレクトロポーレーション法によりアグロバクテリウム細菌:EHA101に組み込む。ベクターを組み込んだアグロバクテリウム細菌を抗生物質であるカナマイシンおよびハイグロマイシンを含む培地で増殖させ、アグロバクテリウム懸濁液を調製する。
【0029】
本実施例ではアラビカ種の遺伝子導入例を示す。手順は以下の通りである。(1) 前述の実施例1に従って誘導したアラビカ種のカルスを実施例1と同一培地条件(25℃、暗黒下)で培養し、増殖させた。
【0030】
(2) ベクターを組み込んだアグロバクテリウム細菌を抗生物質カナマイシンおよびハイグロマイシンを100mg/lの濃度で含む培地で増殖させ、600nmにおける光学濃度(O.D.)値約0.5のアグロバクテリウム懸濁液を調製した。この懸濁液にカルスを30分間浸漬した後、滅菌したろ紙上で水分を除いた。その後好ましくはアセトシリンゴン(遺伝子発現誘導剤)50mg/lを添加した固体m1/2MS(4−CPPUを1μMおよび2,4−D を5μM含有)で1日培養する。
【0031】
(3) アセトシリンゴン含有培地で培養後のカルスをアグロバクテリウム細菌の除菌剤としてセフォタキシン300mg/lを添加した液体m1/2MS培地で洗浄後、セフォタキシン300mg/lと抗生物質としてハイグロマイシンを50mg/lの濃度で添加した固体m1/2MS(4−CPPUを1 μMおよび2,4−D を5 μM含有)で培養、次いでセフォタキシンを除き、抗生物質を100mg/l の濃度で添加した培地で約2ヶ月間培養以降(3週間毎に同一組成の培地に移植する)、順次形質転換体を得た。
【0032】
実施例4(導入遺伝子の確認)
前述の通り、得られた形質転換体が抗生物質耐性を示すことは、例えばハイグロマイシン耐性遺伝子が導入され、発現したことを示している。また、ゲノムDNA を抽出し、PCR(Polymerase chain reaction )法によっても外来遺伝子の導入を確認している。例えばハイグロマイシン耐性遺伝子は、5−GCGTGACCTATTGCATCTCC−3、5−TTCTACACAGCCATCGGTCC−3のプライマー対により増幅された。PCRは94℃で5分間熱変性後に、熱変性:94℃、30秒、アニーリング:58℃、30秒、伸長反応:72℃、30秒、30サイクルで行った。非形質転換体には増幅されるDNA 断片が認められないのに対して、形質転換体には713−bpのハイグロマイシン耐性遺伝子断片を示す明瞭なバンドが確認された。
【0033】
実施例5(CaMXMT発現の確認)
得られた形質転換体について、アンチセンス法やRNAi法で抑制した遺伝子であるCaMXMT発現様式をReverse transcription (RT)−PCR法により確認した。これを図2に示す。トータルRNAを抽出した後、RNA PCR Kit (AMV) Ver.2.1 (Takara)によってcDNAを合成した。CaMXMTは 5−TCCTACAATCTGGCTCTTGC−3 、5−TGCTTTAATTTGTTCATGGGATC−3 のプライマー対により増幅された。PCRは熱変性:94℃、30秒、アニーリング:58℃、30秒、伸長反応:72℃、1分間、24サイクルで行った。
【0034】
図2に示すように、非形質転換体では明瞭なバンドが検出されるのに対して(レーン1)、選抜されたRNAi形質転換体(pBIH1−RNAi 1CaMXMT導入:レーン2,3)およびアンチセンス形質転換体(pBIH1−antisenseCaMXMT 導入:レーン4)について検出されるバンドは明らかに薄い傾向を示した。中でも、例えばRNAi形質転換体(レーン2)ではバンドがほとんど検出されなかった。これは選抜された形質転換体のCaMXMT発現が強く抑制されていることを示している。
【0035】
実施例6(HPLCによる内生テオブロミン、カフェイン量の定量)
得られた形質転換体についてHPLC(High Performance Liquid Chromatography)分析法によって内生のプリンアルカロイドであるテオブロミンおよびカフェインの含量を調べた。分析用のプリンアルカロイドは、以下の熱水抽出法により得た。生重量で概ね100mgの植物組織、カルスなどを80℃、1mlの超純水にて20分間煮沸する工程を2回繰り返した。抽出溶液を孔径0.2μmのメンブレンフィルターによりろ過し、分析試料とした。HPLCシステム(Waters 600E )を用い、メチルアルコール:水=20:80、すなわち20%メチルアルコール溶液によりプリンアルカロイド類を分離した。カラムはWaters Puresil C18(4.6mm×250mm)を用いた。独立した3試料より抽出を行い各抽出試料につき3回分析を行い、9回のHPLC分析値の平均値(標準偏差)を求めた。分析結果を表1に示す。
【0036】
【表1】
表1中、( )内の数値は標準偏差を示す。各試験体番号(1〜4)は図2のレーン(1〜4)の番号に一致する。
【0037】
表1から分かるように、形質転換体の内生テオブロミンおよびカフェイン量は、有意に減少しており、特に2および3のRNAi形質転換体においてカフェインは検出されなかった。この結果は実施例5の図2に示す結果と一致するものであり、本発明によってCaMXMT発現が強く抑制され、カフェインを含まないコーヒー形質転換体が得られたことを示している。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、形質転換用の発現ベクターおよびその改良ベクターを模式的に示す図である。
【図2】図2は、得られた形質転換体について、アンチセンス法やRNAi法で抑制した遺伝子であるCaMXMT発現様式をReverse transcription (RT)−PCR法により確認したことを示すものである。
Claims (3)
- カフェイン生合成関連酵素をコードする遺伝子のアンチセンス配列またはRNAi配列を作製し、形質転換用の発現ベクターを構築する工程と、 得られた発現ベクターをアグロバクテリウムに導入する工程と、
コーヒー植物の細胞分裂の活性化した組織片、またはコーヒー植物の組織片から誘導したカルスもしくは不定胚を上記アグロバクテリウムに感染させることにより上記組織片、カルスまたは不定胚の形質転換を行う工程と、
形質転換された組織片、カルスまたは不定胚から形質転換コーヒー植物体を得る工程とを含む、
遺伝子組換えによるカフェインレスコーヒー植物の製造方法。 - カフェイン生合成関連酵素がキサントシンメチル化酵素、ヌクレオシド脱リボース酵素、7−メチルキサンチンメチル化酵素または3,7−ジメチルキサンチンメチル化酵素である、請求項1記載のカフェインレスコーヒー植物の製造方法。
- 請求項1または2記載の方法により作製された、形質転換コーヒー植物。
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