従来の放射線写真は、遮光カセット格納装置内のハロゲン化銀感光フィルムを使用して、放射線写真潜像し、その後化学的現像と定着を行い可視像の写真フィルムとして得ている。ハロゲン化銀感光フィルムは、X線放射に対する感度があまりよくなく、像を得るために大量の露光を必要とするので、多くの装置は、X線を可視光に変換する蛍光体を持つ増感スクリーンをハロゲン化銀フィルムと併用して、露光の減少化を達成している。
近年装置の小型化、デジタル画像によるフィルムレス化や装置の動画・リアルタイムな静止画への対応に伴い、水素化アモルファスシリコン(以下a−Siと記す)に代表される光電変換材料を用いた光電変換素子及び信号処理部を大面積の基板に形成した光電変換装置をハロゲン化銀感光フィルムに代え配置し蛍光体層からの情報を等倍の光学系で直接電気信号として読み取る放射線撮像装置の開発がめざましい。
特にa−Siは光電変換材料としてだけでなく、薄膜電界効果型トランジスタ(以下TFTと記す)としても用いることができるので光電変換半導体層とTFTの半導体層とを同時に形成することができる利点を有している。
図5(a)〜(c)は従来の光電変換素子の構成を示す図であり、図5(a)、(b)は二種類の光センサの層構成を示し、図5(c)は共通した代表的な駆動方法を示している。
図5(a)、(b)共にフォト・ダイオード型の光センサであり、図5(a)はPIN型、図5(b)はショットキー型と称されている。図5(a)、(b)中1は絶縁基板、2は下部電極、3はp型半導体層(以下p層と記す)、4は真性半導体層(以下i層と記す)、5はn型半導体層(以下n層と記す)、6は透明電極である。図5(b)のショットキー型では下部電極2の材料を適当に選び、下部電極2からi層4に電子が注入されないようショットキーバリア層が形成されている。
図5(c)において、10は上記光電変換素子を記号化して表わした光電変換素子を示し、11は電源、12は電流アンプ等の検出部を示している。光電変換素子10中Cで示された方向は図5(a)、(b)中の透明電極6側、Aで示された方向が下部電極2側であり、電極11はA側に対しC側に正の電圧が加わる様に設定されている。
ここで動作を簡単に説明する。図5(a)、(b)に示されるように、矢印で示された方向から光が入射され、i層4に達すると、光は吸収され電子とホールが発生する。i層4には電源11により電界が印加されているため電子はC側、つまりn層5を通過して透明電極6に移動し、ホールはA側つまり下部電極2に移動する。よって、光電変換素子10に光電流が流れたことになる。
また、光が入射しない場合i層4で電子もホールも発生せず、また、透明電極内6のホールはn層5がホールの注入阻止層として働き、下部電極2内の電子は図5(a)のPIN型ではp層3が、図5(b)のショットキー型ではショットキーバリア層が、電子の注入阻止層として働き、電子、ホール共に移動できず、電流は流れない。したがって光の入射の有無で電流が変化し、これを図5(c)の検出部12で検出すれば光電変換素子として動作する。
しかしながら、上記従来の光電変換素子でSN比が高く、低コストの光電変換装置を生産するのは困難であった。以下その理由について説明する。
第一の理由は、図5(a)のPIN型、図5(b)のショットキー型は、共に2カ所に注入阻止層が必要なところにある。図5(a)のPIN型において、注入阻止層であるn層5は電子を透明電極6に導くと同時にホールがi層4に注入するのを阻止する特性が必要である。どちらかの特性を逸すれば光電流が低下したり、光が入射しない時の電流(以下暗電流と記す)が発生、増加することになりSN比の低下の原因になる。この暗電流はそれ自身がノイズと考えられると同時にショットノイズと呼ばれるゆらぎ、いわゆる量子ノイズを含んでおり、たとえ検出部12で暗電流を差し引く処理をしても、暗電流に伴う量子ノイズを小さくすることはできない。通常この特性を向上させるためi層4やn層5の成膜の条件や、作成後のアニールの条件の最適化を図る必要がある。
しかし、もう一つの注入阻止層であるp層3についても電子、ホールが逆ではあるが同等の特性が必要であり、同様に各条件の最適化が必要である。通常、前者n層の最適化と後者p層の最適化の条件は同一でなく、両者の条件を同時に満足させるのは困難である。つまり、同一光電変換素子内に二カ所の注入阻止層が必要なことは高SN比の光電変換素子の形成を困難にする。
これは、図5(b)のショットキー型においても同様である。また図5(b)のショットキー型においては片方の注入阻止層にショットキーバリア層を用いているが、これは下部電極2とi層4の仕事関数の差を利用するもので、下部電極2の材料が限定されたり、界面の局在準位の影響が特性に大きく影響し、条件を満足させるのはさらに困難である。
また、さらにショットキーバリア層の特性を向上させるために、下部電極2とi層4の間に100オングストローム前後の薄いシリコンや金属の酸化膜、窒化膜を形成することも報告されているが、これはトンネル効果を利用し、ホールを下部電極2に導き、電子のi層4への注入を阻止する効果を向上させるもので、やはり仕事関数の差を利用しているため下部電極2の材料の限定は必要であるし、電子の注入の阻止とトンネル効果によるホールの移動という逆の性質を利用するため酸化膜や窒化膜は100オングストローム前後と非常に薄いところに限定され、かつ、厚さや膜質の制御は難しく生産性を低下させられる。
また、注入阻止層が2カ所必要なことは生産性を低下させコストもアップする。これは注入阻止層が特性上重要な為2カ所中1所でもゴミ等で欠陥が生じた場合、光電変換素子としての特性が得られないからである。
第二の理由を、図6を用いて説明する。図6は薄膜の半導体膜で形成した電界効果型トランジスタ(以降TFTと記す)の層構成を示している。TFTは光電変換装置を形成するうえで制御部の一部として利用することがある。図中図5と同一なものは同番号で示してある。図6において、7はゲート絶縁膜であり、60は上部電極である。形成法を順を追って説明する。絶縁基板1上にゲート電極(G)として働く下部電極2、ゲート絶縁膜7、i層4、n層5、ソース、ドレイン電極(S,D)として働く上部電極60を順次成膜し、上部電極60をエッチングしてソース、ドレイン電極を形成し、その後n層5をエッチングしてチャネル部を構成している。TFTの特性はゲート絶縁膜7とi層4の界面の状態に敏感で通常その汚染を防ぐために同一真空内で連続に堆積する。
従来の光電変換素子をこのTFTと同一基板上に形成する場合、この層構成が問題となりコストアップや特性の低下を招く。この理由は図5に示した従来の光電変換素子の構成が、図5(a)のPIN型が電極/p層/i層/n層/電極、図5(b)のショットキー型が電極/i層/n層/電極という構成であるのに対し、TFTは電極/絶縁膜/i層/n層/電極という構成で両者が異なるからである。これは同一プロセスで形成できないことを示し、プロセスの複雑化による歩留まりの低下、コストアップを招く。また、i層/n層を共通化するにはゲート絶縁膜7やp層3のエッチング工程が必要となり、先に述べた光センサの重要な層である注入阻止層のp層3とi層4が同一真空内で成膜できなかったり、TFTの重要なゲート絶縁膜7とi層4の界面がゲート絶縁膜のエッチングにより汚染され、特性の劣化やSN比の低下の原因になる。
また、前述した図5(b)のショットキー型の特性を改善するため下部電極2とi層4の間に酸化膜や窒化膜を形成したものは膜構成の順は同一であるが先に述べたように酸化膜や窒化膜は100オングストローム前後である必要がありゲート絶縁膜と共用することは困難である。
図7に、ゲート絶縁膜とTFTの歩留まりについて、我々が実験した結果を示す。ゲート絶縁膜厚が1000オングストローム以下で歩留まりは急激に低下し、800オングストロームで歩留まりは約30%、500オングストロームで歩留まりは0%、250オングストロームではTFTの動作すら確認できなかった。トンネル効果を利用した光センサの酸化膜や窒化膜と、電子やホールを絶縁しなければならないTFTのゲート絶縁膜を共用化することは明らかに困難であり、これをデータが示している。
またさらに、図示していないが電荷や電流の積分値を得るのに必要となる素子である容量素子(以下コンデンサと記す)を従来の光電変換素子と同一の構成でリークが少ない良好な特性のものを作るのは難しい。コンデンサは2つの電極間に電荷を蓄積するのが目的なため電極間の中間層には必ず電子とホールの移動を阻止する層が必要であるのに対し、従来の光電変換素子は電極間に半導体層のみ利用しているため熱的にリークの少ない良好な特性の中間層を得るのは難しいからである。
このように光電変換装置を構成するうえで重要な素子であるTFTやコンデンサとプロセス的にまたは特性的にマッチングが良くないことは複数の光センサを二次元に多数配置し、この光信号を順次検出するようなシステム全体を構成するうえで工程が多くかつ複雑になるため歩留まりが非常に悪く、低コストで高性能多機能な装置を作るうえで重大な問題になる。
[先行技術]
そこで我々は、以前図8に示す光電変換装置を用いた放射線撮像装置を提案した(特許文献1)。
図8は、以前我々が提案した光電変換装置を用いた放射線撮像装置を示す全体回路図、図9(a)は以前我々が提案した光電変換装置を用いた放射線撮像装置の1画素に相当する各構成素子の平面図、図9(b)は図9(a)のA−B線断面図である。図8において、S11〜S33は光電変換素子で下部電極側をG、上部電極側をDで示している。C11〜C33は蓄積用コンデンサ、T11〜T33は転送用TFTである。Vsは読み出し用電源、Vgはリフレッシュ用電源であり、それぞれスイッチSWs,SWgを介して全光電変換素子S11〜S33のG電極に接続されている。スイッチSWsはインバータを介して、スイッチSWgは直接にリフレッシュ制御回路RFに接続されており、リフレッシュ期間はスイッチSWgがonするよう制御されている。
1画素は、1個の光電変換素子とコンデンサ、およびTFTで構成され、その信号出力は信号配線SIGにより検出用集積回路ICに接続されている。以前我々が提案した光電変換装置は計9個の画素を3つのブロックに分け1ブロックあたり3画素の出力を同時に転送しこの信号配線SIGを通して検出用集積回路ICによって順次出力に変換され出力される(Vout)。また1ブロック内の3画素を横方向に配置し、3ブロックを順に縦に配置することにより各画素を二次元的に配置している。
図中破線で囲んだ部分は、大面積の同一透光性基板上に形成されているが、このうち第1画素に相当する部分の平面図を図9(a)に示す。また図中破線A−Bで示した部分の断面図を図9(b)に示す。S11は光電変換素子、T11はTFT、C11はコンデンサ、およびSIGは信号配線である。以前我々が提案した光電変換装置においてはコンデンサC11と光電変換素子S11は特別に素子を分離しておらず、光電変換素子S11の電極の面積を大きくすることによりコンデンサC11を形成している。これは光電変換素子とコンデンサが同じ層構成であるから可能なことで以前我々が提案した光電変換装置の特徴でもある。
また、画素上部にはパッシベーション用窒化シリコン膜SiNとX線を可視光に変換するヨウ化セシウム等の蛍光体CSIが形成されている。上方よりX線Xが入射すると蛍光体CSIにより可視光(破線矢印)に変換され、この光が光電変換素子に入射される。
次に図8と図10によって以前我々が提案した光電変換装置の動作について説明する。図10は図8の動作を示すタイミングチャートである。
はじめにシフトレジスタSR1およびSR2により制御配線g1〜g3、s1〜s2にHiが印加される。すると転送用TFT・T11〜T33とスイッチM1〜M3がonし導通し、全光電変換素子S11〜S33のD電極はGND電位になる(積分検出器Ampの入力端子はGND電位に設計されているため)。同時にリフレッシュ制御回路RFがHiを出力しスイッチSWgがonし全光電変換素子S11〜S33のG電極はリフレッシュ用電源Vgにより正電位になる。すると全光電変換素子S11〜S33はリフレッシュモードになりリフレッシュされる。
つぎに、リフレッシュ制御回路RFがLoを出力しスイッチSWsがonし全光電変換素子S11〜S33のG電極は読み取り用電源Vsにより負電位になる。すると全光電変換素子S11〜S33は光電変換モードになり同時にコンデンサC11〜C33は初期化される。この状態でシフトレジスタSR1およびSR2により制御配線g1〜g3、s1〜s2にLoが印加される。
すると転送用TFT・T11〜T33のスイッチM1〜M3がoffし、全光電変換素子S11〜S33のD電極はDC的にはオープンになるがコンデンサC11〜C33によって電位は保持される。しかしこの時点ではX線は入射されていないため全光電変換素子S11〜S33には光は入射されず光電流は流れない。この状態でX線がパルス的に出射され人体等を通過し蛍光体CsIに入射すると光に変換され、その光がそれぞれの光電変換素子S11〜S33に入射する。この光は人体等の内部構造の情報が含まれている。この光により流れた光電流は電荷としてそれぞれのコンデンサC11〜C33に蓄積されX線の入射終了後も保持される。
つぎにシフトレジスタSR1により制御配線g1にHiの制御パルスが印加され、シフトレジスタSR2の制御配線s1〜s3への制御パルス印加によって転送用TFT・T11〜T33のスイッチM1〜M3を通してv1〜v3が順次出力される。同様にシフトレジスタSR1,SR2の制御により他の光信号も順次出力される。これにより人体等の内部構造の二次元情報がv1〜v9として得られる。
静止画像を得る場合はここまでの動作であるが動画像を得る場合はここまでの動作を繰り返す。
以前我々が提案した光電変換装置を用いた放射線撮像装置では光電変換素子のG電極が共通に接続され、この共通の配線をスイッチSWgとスイッチSWsを介してリフレッシュ用電源Vgと読み取り用電源Vsの電位に制御している為、全光電変換素子を同時にリフレッシュモードと光電変換モードとに切り換えることができる。このため複雑な制御なくして1画素あたり1個のTFTで光出力を得ることができる。
以前我々が提案した光電変換装置を用いた放射線撮像装置では9個の画素を3×3に二次元配置し3画素ずつ同時に、3回に分割して転送・出力したがこれに限らず、例えば縦横1mmあたり5×5個の画素を2000×2000個の画素として二次元的に配置すれば40cm×40cmのX線検出器が得られる。これをハロゲン化銀感光フィルムの代わりにX線発生器と組み合わせX線レントゲン装置を構成すれば胸部レントゲン検診や乳ガン検診に使用できる。するとフィルムと異なり瞬時にその出力をCRTで映し出すことが可能で、さらに出力をディジタルに変換しコンピュータで画像処理して目的に合わせた出力に変換することも可能である。また光磁気ディスクに保管もでき、過去の画像を瞬時に検索することもできる。また感度もハロゲン化銀感光フィルムより良く人体に影響の少ない微弱なX線で鮮明な画像を得ることもできる。
図11、図12に2000×2000個の画素を持つ放射線撮像装置を示す平面図を示す。2000×2000個の検出器を構成する場合図8で示した破線内の素子を縦・横に数を増せばよいが、この場合制御配線もg1〜g2000と2000本になり信号配線SIGもsig1〜sig2000と2000本になる。またシフトレジスタSR1や検出用集積回路ICも2000本の制御・処理をしなければならず大規模となる。これをそれぞれ1個のICチップで行うことは1個のICチップが非常に大きくなり製造時の歩留まりや価格等で不利である。そこで、シフトレジスタSR1は例えば100段ごと1個のICチップに形成し、20個(SR1−1〜SR1−20)を使用すれば良い。また検出用集積回路も100個の処理回路ごと1個のチップに形成し、20個(IC1〜IC20)を使用する。
図11には左側(L)に20チップ(SR1−1〜SR1−20)と下側(D)に20チップ実装し、1チップあたり100本の制御配線、信号配線を各々ワイヤーボンディングで各ICチップと接線している。図11中破線部は図8の破線部に相当する。また外部への接続は省略している。また、SWg,SWs,Vg,Vs,RF等も省略している。検出集積回路IC1〜IC20からは20本の出力(Vout)があるが、これらはスイッチ等を介して1本にまとめたり、20本をそのまま出力し並列処理すればよい。
図12には別の例を示す。左側(L)に10チップ(SR1−1〜SR1−10)と右側(R)に10チップ(SR1−11〜SR1−20)と上側(U)に10チップ(IC1〜10)、下側(D)に10チップ(IC11〜20)を実装している。この構成は上・下・左・右側(U,D,L,R)にそれぞれ各配線を1000本ずつに振り分けているため、各辺の配線の密度が小さくなり、また各辺のワイヤーボンディングの密度も小さく、歩留まりが向上する。配線の振り分けは左側(L)にg1,g3,g5,…,g1999、右側(R)にg2,g4,g6,…,g2000とし、つまり奇数番目の制御線を左側(L)、偶数番目の制御線を右側(R)に振り分ける。こうすると各配線は等間隔に引き出され配線されるので密度の集中なく歩留まりが向上する。また、上側(U)、下側(D)への配線も同様に振り分ければよい。
また、図示していないが、別の例として配線の振り分けは左側(L)にg1〜100,g201〜g300,…,g1801〜g1900、右側(R)にg101〜g200,g301〜g400,…,g1901〜g2000を振り分け、つまり、1チップごと連続な制御線を振り分け、これを左・右側(L・R)交互に振り分ける。こうすると、1チップ内は連続に制御でき、駆動タイミングが楽で回路を複雑にしなくてよく安価なものが使用できる。上・下側(U・D)についても同様で、連続な処理が可能で安価な回路が使用できる。
また、図11、図12共に1枚の基板上に破線部の回路を形成した後、その基板上にチップを実装してもよいし、別の大きな基板上に破線部の回路基板とチップを実装してもよい。また、チップをフレキシブル基板上に実装して破線部の回路基板に張り付け接線してもよい。
また、このような非常に多くの画素をもつ大面積の光電変換装置を用いた放射線撮像装置は従来の光電変換素子を用いた複雑な工程では不可能であったが、以前我々が提案した光電変換装置の工程は各素子を共通な膜で同時に形成しているため工程数が少なく、簡易的な工程ですむため高歩留まりが可能で低コストで大面積・高性能の光電変換装置を用いた放射線撮像装置の生産を可能としている。また、コンデンサと光電変換素子とが同じ素子内で構成でき、実質上素子を半減することが可能でさらに歩留まりを向上できる。
以上説明したように、以前我々が提案した光電変換装置を用いた放射線撮像装置によれば光電変換装置内の光電変換素子は注入阻止層が一カ所のみで光の入射量を検出することができ、プロセスの最適化が容易で、歩留まりの向上が図れ、製造コストの低減が可能で、SN比の高い低コストの光電変換装置を提供することができる効果がある。また、第一の電極層/絶縁層/光電変換半導体層においてトンネル効果や、ショットキーバリアを利用していないため、電極材料は自由に選択でき、絶縁層の厚さやその他の制御も自由度が高い。
また同時に形成する薄膜電界効果トランジスタ(TFT)等のスイッチ素子または/および容量素子とはマッチングが良く、同一膜構成のため共通な膜として同時に形成可能でかつ光電変換素子、TFT共に重要な膜構成は同一真空内で同時に形成可能であり、さらに光電変換装置を高SN化、低コスト化することができる効果がある。またコンデンサも中間層に絶縁層を含んでおり良好な特性で形成でき複数の光電変換素子で得られた光情報の積分値を簡単な構成で出力できる高機能の光電変換装置を用いた放射線撮像装置が提供できる効果がある。また低コストで大面積・高機能・高特性のX線レントゲン装置を提供できるという効果もある。
特開平08−116044号公報(特願平6−313392号)
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
[第1の実施形態]
図1及び図2は、本発明第1の実施形態に係わる放射線撮像装置の構成図であり、図1は、全体平面図、図2は、図1のA−Bで示す模式的断面図である。尚、従来例の項で説明した図9(a)、図9(b)、図11及び図13と同一機能の部分には、同一符号を付してあり、説明を省略する場合がある。
図中、1は透光性基板、PXLは画素を模式的に表しており、従来例の図9(a)及び図9(b)で説明した一画素分の光電変換素子、コンデンサ、TFT、制御配線、信号配線が形成され、従来例の図11での説明と同様に2000×2000個の画素を透光性基板1上に二次元的に配置している(図1中一点破線内)。
従来例の図11での説明と同様に、SR1−1〜SR1−20はシフトレジスタ又IC−1〜IC−20は検出用集積回路(それぞれ、図1中は破線で図示)であり、従来例の図11と同様それぞれ各画素に接続されている制御配線(不図示)及び信号配線(不図示)とワイヤーボンディングWBによって接続されている。SINは画素を保護するパッシベーション、CSIはX線を可視光に変換する蛍光体、COT1は可視光吸収材料である黒色樹脂等で形成した光吸収層、COT2はSR1−1〜SR1−20のシフトレジスタ及びIC−1〜IC−20の検出用集積回路のICチップやワイヤーボンディングを保護するIC封止である。
同図を用いて本実施形態の放射線撮像装置の作製方法について簡単に説明する。
透光性基板1上に、薄膜半導体プロセス(プラズマCVDや蒸着装置を用いた成膜工程による各層の薄膜形成及びホトリソ工程によるパターニング)により画素PXL及びパッシベーションSINを形成し、その上に画素PXLを覆うようCsI等の材料を用い蒸着形成により蛍光体CSIを形成する。
次に、光吸収層COT1をシフトレジスタSR1−1〜SR1−20及び検出用集積回路IC−1〜IC−20のICチップのダイボンド部(IC封止COT2部)や不図示のICと装置外部との接続部等の未形成領域をマスキングし、可視光等の光吸収材料からなる黒色樹脂(例えば、染料もしくは顔料を含んだアクリル塗料等)をスプレー等の噴霧により透光性基板1の全周面(4端面・裏面及び蛍光体CSI形成面)を塗布し、加熱硬化させ形成する。
その後、シフトレジスタSR1−1〜SR1−20、検出用集積回路IC−1〜IC−20のICチップをダイボンド及びワイヤーボンディングWBによる各制御配線及び信号配線との電気接続を行う。
その後、黒色のエポキシ樹脂等でIC封止COT2を形成することにより本実施形態の放射線撮像装置が形成される。
図1及び図2に示す様に、本実施形態においては、蛍光体のX線Xの入射面、透光性基板1の裏面a、端面b及び端面b′が可視光等の光吸収材料からなる黒色樹脂で形成された光吸収層COT1で覆われている。
このように、透光性基板1の裏面a、端面b及び端面b′が光吸収層COT1で覆われているため、蛍光体CSIで変換された可視光の間接光(画素内や透光性基板端部周辺の窓部を経て、透光性基板1内に入射した光)が、透光性基板1の内部(透光性基板1の裏面や端面)で透過・散乱することなく光吸収層に吸収され、間接光を減少させることができる。
また、蛍光体のX線Xの入射面も同様の光吸収層で覆われているため、放射線撮像装置のほとんどの面が光吸収層で覆う構成となり、外光の入射を防ぐ遮光カセット等の遮光部材を簡素化できる。更に、本実施形態では、IC封止や外部との接続部を黒色の封止材料を用いることにより、完全に外光遮光の機能を有する放射線撮像装置を提供することができる。
尚、本実施形態においては、蛍光体のX線の入射面、透光性基板の裏面及び端面に形成した光吸収層を同時且つ同一の材料を用いて形成したが、これに限定するものではなく、例えば、蛍光体のX線入射面をスクリーン印刷、透光性基板の端面をディッピングにより光吸収層を塗布形成したりし、光吸収材料を各塗布方法や各形成面に適した材料を用いることもできる。
また、本実施形態のように、各素子上に直接蛍光体を蒸着形成した場合、通常湿気等の影響を防ぐため蛍光体を覆うように保護膜を形成するが、本実施形態では蛍光体面を覆う光吸収層にその機能を有する材料を適宜選定することにより蛍光体の保護膜としての機能を付加することができる。
[第2の実施形態]
図3及び図4は本発明第2の実施形態に係わる放射線撮像装置の構成図であり、低コストで大面積の放射線撮像装置を得るために小さな放射線基板を複数枚張り合わせた例である。
大面積の光電変換装置では製造時の微少なちり、特にアモルファスシリコン層を基板に堆積する時に薄膜堆積装置の壁から剥れ出るゴミ及びメタル層を基板に堆積する時に基板上に残っているほこりを完全になくすことが不可能であったため、配線の不具合、即ち配線のショートまたはオープンをゼロにすることは困難であった。
大面積の光電変換装置では、制御配線または信号配線がショートまたはオープンになると、その配線に接続されている光電変換素子の全ての出力信号が不正確なものとなり、光電変換装置としては使用不可能となるのである。
つまり、大面積の光電変換装置を用いた放射線撮像装置を作製する時の1枚の基板が大きくなればなるほど基板1枚あたりの歩留まりは低くなり、同時に基板1枚あたりの不具合による損失額も大きくなってしまい放射線撮像装置のコスト高を招くこともあった。
以下に、本実施形態を図面を用いて説明する。
図3は全体平面図、図4は図1のA−Bで示す模式的断面図である。尚、従来例の項で説明した図9(a)、図9(b)、図11、図13及び本発明第1の実施形態の項で説明した図1、図2と同一機能の部分には、同一符号を付してあり、説明を省略する場合がある。
図3及び図4に示す放射線撮像装置において特徴的な点は、A1やガラス等の基台500の同一平面上に4枚の放射線撮像基板100を各々隣接する放射線撮像基板100の画素端の間隔を一画素分あけてシリコン樹脂等の接着剤300で張り合わせることによって1つの大面積な放射線撮像装置を構成していることである。
放射線撮像基板100には、透光性基板1上に従来例の図9(a)、図9(b)及び本発明の図1、図2で説明または用いた画素と同様の画素PXLが1000×1000個配置され、不図示の制御配線g1〜g1000と信号配線sig1〜sig1000に各々接続されている。シフトレジスタSR1及び検出用集積回路は、それぞれ100段又は100個の処理回路ごとに一個のICチップに形成してあり、各透光性基板1上にはシフトレジスタSR1−1〜SR1−10、検出用集積回路IC−1〜IC−10のそれぞれ10個のICチップが配置されている。シフトレジスタSR1−1〜SR1−10は制御配線g1〜g1000と、検出用集積回路IC1〜IC10は信号配線sig1〜sig1000とそれぞれ接続されている。
また、本実施形態の放射線撮像基板100は、画素、制御配線、信号配線、シフトレジスタ、検出用集積回路の数及び配置以外は、本発明の第1の実施形態の図1及び図2で説明した放射線撮像装置と同様に構成され、かつ同様の作成方法で形成されており、蛍光体のX線Xの入射面、透光性基板1の裏面及び端面は可視光吸収材料からなる黒色樹脂で形成された光吸収層COT1で覆われている。
図3に示すように4枚の放射線撮像基板を作製し、その4枚の放射線撮像基板を若干の隙間をあけて貼り合わせて大面積の放射線撮像装置を構成することにより、基板1枚あたりの歩留まりは高くなり、同時に基板1枚あたりの不具合による損失額を小さくすることができる。具体的には、図3の大面積の放射線撮像装置における画素が配置してある面積と、図11の放射線撮像装置における画素が配置してある面積が同じ場合、図3に示す各基板内のすべての制御配線とすべての信号配線の合計の長さは図11に示す放射線撮像装置内のすべての制御配線とすべての信号配線の合計の長さの約1/4となる。このような光電変換装置において制御配線及び信号配線のショートまたはオープンはその配線に接続されている光電変換素子のすべての出力信号が不正確なものとなるため、光電変換装置としては使用不可能となってしまう。そのため、すべての制御配線及びすべての信号配線の合計の長さにほぼ比例して上記のような不具合が生じ、歩留まりを下げるのである。
よって図3に示す基板1枚あたりの配線の不具合による歩留まりは、図11に示す光電変換装置の約4倍となる。また、図3に示す基板1が不具合となり、使用不可能になった場合の損失額は、基板の面積にほぼ比例するため、図11に示す光電変換装置において不具合が発生し使用不可能になった場合の損失額の約1/4となるのである。
また、本実施形態の放射線撮像装置も本発明第1の実施形態と同様に蛍光体CSIで変換された可視光の間接光(画素内や透光性基板端部周辺の窓部を経て、透光性基板1内に入射した光)が、透光性基板1の内部(透光性基板1の裏面や端面)で透過・散乱することなく光吸収層に吸収され、間接光を減少させることができ、また、蛍光体のX線Xの入射面も同様の光吸収層で覆われているため、放射線撮像装置のほとんどの面が光吸収層で覆う構成となり、外光の入射を防ぐ遮光カセット等の遮光部材を簡素化できる。更に、IC封止や外部との接続部を黒色の封止材料を用いることにより、完全に外光遮光の機能を有する放射線撮像装置を提供することができる。
また、放射線撮像基板を基台に張り合わせた場合、透光性基板を透過した間接光が基台表面で散乱し再度透光性基板に入射したりする為に基台の選定に制限ができたり、接着剤の塗布ムラが起こると透光性基板裏面の場所によって透過・散乱の度合いが変わる為に張り合わせ工程が複雑になったり、更に放射線撮像基板間の不感度域(画素抜け)を最小限にする必要から他の基板を張り合わせる基板端面と画素が非常に近接し間接光の影響が大きくなる為張り合わせ後の基板間の極小な隙間に樹脂を充填させる難度の高い工程が増加することが発生するが、本実施形態の放射線撮像装置は既に張り合わせ前の放射線撮像基板100に蛍光体のX線Xの入射面、透光性基板1の裏面及び端面は可視光吸収材料からなる黒色樹脂で形成された光吸収層COT1で覆われている為、張り合わせ工程が簡略で張り合わせ後の間接光への配慮の為の工程が不要である。
よって、高画質で大面積な放射線撮像装置を容易な工程を用いて歩留まりよく提供することができる。
また、上記実施形態においては、従来例に前述したように、
前記透光性基板には、
第一の電極層、絶縁層、光電変換半導体層、第1導電型のキャリアの注入を阻止する半導体層、及び第二の電極層を積層した前記光電変換素子と、
前記光電変換半導体層に入射した信号光により発生した第1導電型のキャリアを前記光電変換半導体層に留まらせ、前記第1導電型と異なる第2導電型のキャリアを前記第二の電極層に導く方向に前記光電変換素子に電界を与える光電変換手段と、
前記光電変換素子に電界を与えて、前記第1導電型のキャリアを前記光電変換半導体層から前記第二の電極層に導く方向に前記光電変換素子に電界を与えるリフレッシュ手段と、
前記光電変換手段による光電変換動作中に前記光電変換半導体層に蓄積された前記第1導電型のキャリアもしくは前記第二の電極層に導かれた前記第2導電型のキャリアを検出する為の信号検出部と、
を有することを特徴とする放射線撮像装置とした。