JP2004041123A - アトピー性皮膚炎モデル動物、アトピー性皮膚炎の治療用物質のスクリーニング方法、アトピー性皮膚炎用医薬品 - Google Patents

アトピー性皮膚炎モデル動物、アトピー性皮膚炎の治療用物質のスクリーニング方法、アトピー性皮膚炎用医薬品 Download PDF

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Kenji Nakanishi
中西 憲司
Hitoshi Mizutani
水谷 仁
Hiroko Tsutsui
筒井 ひろ子
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Abstract

【課題】アトピー性皮膚炎の研究や診断に好適なアトピー性皮膚炎モデル動物、そのスクリーニング方法、およびその医薬品を提供する。
【解決手段】外来性のカスパーゼ1遺伝子が皮膚特異的に発現するように組み込まれ、かつ、Stat6が欠損した組み換えDNAを体細胞及び生殖細胞の少なくとも一方に有する、トランスジェニック非ヒト哺乳動物、並びにそれを用いたスクリーニング方法および医薬品。
【選択図】 なし

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、アトピー性皮膚炎の研究に好適なアトピー性皮膚炎モデル動物、アトピー性皮膚炎の治療用物質のスクリーニング方法、およびアトピー性皮膚炎用医薬品に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
アトピー性皮膚炎(Atopic Dermatitis、以下、ADと記す)は、主に外的刺激に対する炎症性皮膚病であり、掻痒性、慢性反復性、遺伝的背景を有し、血清中において高いIgEレベルをしばしば伴うことを特徴とするものである。
【0003】
AD発症のメカニズムは未だ完全には解明されていないが、活性化T細胞、好塩基球(basophils)、肥満細胞(mast cells)が、AD発症に大きく関与する。アレルゲンによる好塩基球あるいは肥満細胞上のFcεRに結合したイムノグロブリン(以下、Igと記す)E分子の架橋によって誘導された好塩基球と肥満細胞との活性化の結果、Th2に関連したサイトカインとケミカルメディエーターの生成がおこることが重要と考えられる。
【0004】
上記サイトカインとは、インターロイキン(以下、ILと記す)−4、IL−13、IL−5であり、ケミカルメディエーター(mediators)とはヒスタミン、セロトニン等である。特に好塩基球と肥満細胞の活性化に、抗原(Ag)/Ag特定的IgEが、重要な役割を果たすものである(獲得型のアレルギー性応答)。
【0005】
既に、獲得型のADの病態や治療等の研究のために、NC/Ngaマウスがアトピー性皮膚炎モデル動物として注目されている(Int. Immunol., vol.9 (1997), pp461−466,参照)。このマウスは、非常に清潔度の高い環境であるSPF(Specific Pathogen Free)飼育下ではADを発症せず、コンベンショナルな飼育室に移されると、ダニ等をアレルゲンとするADを発症する。このように、Nc/Ngaマウスは外因性の刺激でADを発症するモデルマウスであるため、飼育室のダニ等の繁殖程度に応じて、その発症の時期と症状の程度が大きく影響されるのが特徴である。従って、ADの病態研究や治療等の開発には、生後、外因性の刺激なしに一定時期に100%ADを発症するモデルマウスの樹立が極めて重要である。
【0006】
そこで、そのようなADの病態や治療薬の研究のために、アトピー性皮膚炎を自然発症するモデル動物が作製され、国際公開WO01/95710A1号公報(国際公開日2001年12月20日)に開示された。上記アトピー性皮膚炎モデル動物は、外来性のカスパーゼ1遺伝子を皮膚特異的に発現するように組み込まれたDNAを有するトランスジェニックマウス(以下の本明細書中ではKCASP1Tgと記す)である。
【0007】
上記KCASP1Tgは、遺伝的背景が確立され、免疫学的特徴も明らかで、様々な病原微生物を排除した条件下でも、全てのマウスが一定時期(生後8週頃)にADを発症することから、各種治療法及び薬剤の開発研究に利用可能なものである。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、ADの発現に複数の経路が関与することが分かってきた。すなわち、特定のIgEが必須な経路と、それを必要としない経路の2経路の存在がわかってきた。上記のKCASP1Tgは血清中に高濃度のIgEを有するため、KCASP1Tgを用いた研究では、常にIgEの関与が除外できない。そのため、IgEが関与しないADの病態やその病態に基づく治療薬の研究がKCASP1Tgを用いては出来ない、あるいは不正確になるという問題が生じてきた。
【0009】
すなわち、本発明者らは、従来のIgEが関与したアレルギー反応の活性化経路(獲得型のアレルギー性応答)と相違する、IgE非依存性の好塩基球、肥満細胞の活性化経路を見出した。IgE非依存性の活性化経路は、IgEが無くても、IL−3の存在下でIL−18が直接好塩基球や肥満細胞を試験管内で(invitro)活性化して、Th2細胞関連サイトカインとケミカルメディエイターを産生させるというものである(非獲得型のアレルギー性応答)。
【0010】
IL−18は、精製直後のT細胞を、IL−12あるいはIL−2とともに刺激した場合、抗原受容体を介するT細胞の活性化が無くとも、インターフェロン(以下、IFNと記す)−γあるいはIL−4の一方の産生を促進する。このようなユニークなT細胞の活性化は、IL−18の重要な特性の一つである。
【0011】
その上、正常なBALB/cまたはC57BL/6マウスにIL−18を投与すると、CD4T細胞が活性化され、stat6およびIL−4依存性に、多クローン性にB細胞が刺激されてIgE産生が誘導される。
【0012】
IL−1βのようにIL−18も、生物学的に不活性な前躯体の形態(pro)で、マクロファージあるいはケラチン細胞内に産生蓄積されており、カスパーゼ(caspase)−1またはカスパーゼ−1様の酵素の作用で、開裂され、活性型に変換された後に、細胞外に分泌される。
【0013】
既に報告しているように、ケラチン細胞中、カスパーゼ−1を過剰発現させたKCASPTgが、生物学的に活性を有するIL−18を恒常的に分泌し、IL−18依存性にIgEを産生する。また、SPF飼育下であってもKCASP1Tgは慢性の皮膚炎を自然発症することも示されている。
【0014】
一方、IL−18は、アレルギー性疾患のなかでも、特に、対応する抗原(アレルゲン)が不明あるいは特定のIgEの産生が無い内因性のアトピー性疾患を誘発する可能性がある(Proc. Natl. Acad. Sci. USA., vol.96(1999), pp13962−13966, 参照)。
【0015】
しかしながら、前記のKCASP1Tgにおいては、AD発症がなおもIgEに依存する経路に基づくのか、あるいはIgEに非依存性の経路に基づくのかが不明である。さらに、KCASP1TgのAD発症がIL−4/IL−13に依存した経路に基づくか否かも不明であるため、ADの病態や治療薬の研究が不正確にならざるを得ないという問題が生じてきた。
【0016】
【課題を解決するための手段】
本発明のアトピー性皮膚炎モデル動物は、以上の課題を解決するために、IgEを介した炎症機構を阻害するように遺伝子が組み換えられた組み換えDNAを有することを特徴としている。
【0017】
上記アトピー性皮膚炎モデル動物では、IL−4およびIL−13に対する応答性を抑制するように遺伝子が組み換えられた組み換えDNAを有していてもよい。
【0018】
上記アトピー性皮膚炎モデル動物においては、IL−18を皮膚特異的に発現するように遺伝子が組み込まれた組み換えDNAを有することが好ましい。
【0019】
上記アトピー性皮膚炎モデル動物では、IL−18を発現するための遺伝子は、カスパーゼ1遺伝子であってもよい。
【0020】
上記アトピー性皮膚炎モデル動物においては、IL−18を発現するための遺伝子は外来性であることが望ましい。
【0021】
上記アトピー性皮膚炎モデル動物では、IgEを介した炎症機構を阻害するように遺伝子が組み換えられた組み換えDNAは、Stat6を欠損させた組み換えDNAであってもよい。
【0022】
本発明の非アトピー性皮膚炎モデル動物は、カスパーゼ1遺伝子を皮膚特異的に発現するように組み込まれた組み換えDNAを有することと、IL−18が欠損した組み換えDNAを有することとを特徴としている。上記構成によれば、本発明のアトピー性皮膚炎モデル動物における、IL−18に起因するアトピー性皮膚炎の作用機序を、より正確に確認できる。
【0023】
本発明の他のアトピー性皮膚炎モデル動物は、上記非アトピー性皮膚炎モデル動物から演繹できるカスパーゼ1非存在下でIL−18に依存してアトピー性皮膚炎を自然発症することを特徴としている。
【0024】
上記構成によれば、カスパーゼ1遺伝子を皮膚特異的に発現するように組み込むことにより、皮膚のみに、カスパーゼ1遺伝子を発現させるだけでIL−18を過剰に発現させることが可能となり、上記IL−18に起因するアトピー性皮膚炎を発症させることができる。
【0025】
さらに、上記構成においては、IL−4やIL−13の細胞内のシグナル伝達に必須の分子であるStat6を欠損させているので、IL−4やIL−13に対する応答性がなくなり、IL−18を過剰に発現させても、IgEの産生は阻害される。
【0026】
したがって、上記構成では、IgE(IgEの発現に関与しているIL−4やIL−13にも)の影響を受けない条件下で、アトピー性皮膚炎を発症させることが可能となる。さらに、IgEやStat6の関与を全く考慮せずに皮膚の病態を解析することが可能になるばかりでなく、IL−18のみを標的とした治療法(スクリーニング法)を検討できる。
【0027】
Stat6はアレルギー性炎症を誘導するIL−4やIL−13のシグナル伝達に必須の転写因子で、この分子が欠損するとIL−4とIL−13のシグナルの多くは伝達されず、従って、IgEの産生も観られなくなる。このことから、現在Stat6はアレルギー治療の重要な標的分子となっている。
【0028】
また、上記構成によれば、カスパーゼ1遺伝子が外来性であるため、内因性と比べて、カスパーゼ1遺伝子によるIL−18の発現を、より的確に制御できる。その結果、本導入遺伝子アトピー性皮膚炎発症の時期と程度において、個体差を極めて小さくすることができる。
【0029】
本発明のアトピー性皮膚炎の治療用物質のスクリーニング方法は、上記の何れかに記載の本発明のアトピー性皮膚炎モデル動物に対して、被験物質を投与し、アトピー性皮膚炎の改善効果を検定することを特徴としている。
【0030】
上記方法によれば、本発明のアトピー性皮膚炎モデル動物を用いたことによって、投与した被験物質における、アトピー性皮膚炎の改善効果を、より定量的に検定することができる。
【0031】
本発明のアトピー性皮膚炎用医薬品は、上記のスクリーニング方法によりアトピー性皮膚炎の改善効果を有すると判定される物質を含有することを特徴としている。
【0032】
上記構成によれば、本発明のアトピー性皮膚炎モデル動物を用いたスクリーニング方法によって、投与した被験物質における、アトピー性皮膚炎の改善効果の検定をより正確にできることから、アトピー性皮膚炎の機構に応じた、より的確な医薬品を得ることが可能となる。
【0033】
【発明の実施の形態】
本発明の実施の形態について図1ないし図13に基づいて説明すれば、以下の通りである。本発明に係るアトピー性皮膚炎モデル動物又はその子孫の、モデルマウスは、カスパーゼ1遺伝子(より好ましくは外来性)が皮膚特異的に発現するように組み込まれ、かつ、Stat6が欠損した組み換えDNAを体細胞及び生殖細胞の少なくとも一方に有する、トランスジェニック非ヒト哺乳動物である。
【0034】
ここで外来性カスパーゼ1遺伝子としては、ヒト又はマウスのカスパーゼ1遺伝子が好ましく、例えばヒト前駆型カスパーゼ1(hproCASP1)、マウス前駆型カスパーゼ1(mproCASP1)、ヒトカスパーゼ1(hCASPl)、マウスカスパーゼ1(mCASP1)等の遺伝子が挙げられるが、hproCASPlの完全なコード領域の1.4kbのcDNAが特に好ましい。
【0035】
外来性のカスパーゼ1遺伝子を皮膚特異的に発現するように組み込んだDNAとしては、外来性カスパーゼ1遺伝子と皮膚特異的蛋白のプロモータとを含む組み換えDNAが好ましい。ここで、皮膚特異的蛋白のプロモータとしては、皮膚に特異的に存在する蛋白のプロモータが挙げられ、例えばケラチン14、ケラチン5、ケラチン1、ケラチン10、インボルクリン等のプロモータが挙げられるが、ケラチン14プロモータが、高い発現効率を発揮できることから特に好ましい。
【0036】
外来性カスパーゼ1遺伝子は、皮膚特異的蛋白のプロモータの下流に結合されるが、このとき、遺伝子の発現効率を上げるためβ−globinイントロン等を結合することが好ましい。
【0037】
上記DNAは、遺伝子導入哺乳動物において、目的とするメッセンジャーRNAの転写を終結する配列(ポリA、一般にターミネターと呼ばれる)を有していることが好ましく、例えば、ウイルス由来、各種哺乳動物由来の各遺伝子の配列を用いて遺伝子発現を操作することができる。好ましくは、前記皮膚特異的蛋白のポリA、特に好ましくはケラチンのポリAなどが用いられる。
【0038】
その他、目的の遺伝子をさらに高発現させる目的で、各遺伝子のスプライシングシグナル、エンハンサー領域、真核遺伝子のイントロンの一部を、プロモータ領域の5’上流、プロモータ領域と翻訳領域間あるいは翻訳領域の3’下流に連結することも目的により可能である。
【0039】
かくして得られる組み換えDNAを導入するための非ヒト哺乳動物としては、ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ウサギ、イヌ、ネコ、モルモット、ハムスター、ラット、マウスなどが挙げられる。好ましくは、ウサギ、イヌ、ネコ、モルモット、ハムスター、マウス又はラットであり、なかでも醤歯目(Rodentia)が好ましく、とりわけマウスが好ましい。
【0040】
また、本発明は、上記トランスジェニック動物に対して、アトピー性皮膚炎の治療用治験薬としての被験物質を投与し、アトピー性皮膚炎の改善効果を検定することを特徴とするアトピー性皮膚炎の予防又は治療用物質のスクリーニング方法、及び当該スクリーニングによりアトピー性皮膚炎の改善効果を有すると判定される物質を含有するアトピー性皮膚炎の予防又は治療用医薬を提供するものである。
【0041】
前述の、カスパーゼ1遺伝子が皮膚特異的に発現するように組み込まれた組み換えDNAは、図1に示す各遺伝子の結合状態を備えている。上記各遺伝子は、K14プロモータ、β−グロブリンイントロン、PTH−mIL−18、マウス由来のK14ポリAである。
【0042】
成熟型のIL−18に関するcDNAのコード化領域が、図1に示すように、ヒトのケラチン14(K14)と、ウサギ由来のβ−グロブリンイントロンとに平滑末端ライゲーションによって結合されている。
【0043】
リニアK14/IL−18DNA断片は、以前の報告(J.Immunol., vol.165(2000), pp997−1003,参照)に記載のように、C57BL/6マウスの受精卵に注入された。ケラチン細胞に特異的な活性型のIL−18遺伝子変異マウスの系統(KIL−18Tg)は、こうして確立された合計50匹のマウスから、活性型IL−18遺伝子を発現した2つの系統を起源とするものである。
【0044】
雄のKIL−18Tgを雌のC57BL/6野生型(WT)と交配して、KIL−18Tg型と野生型の子を1:1の割合で得た。すべての実験は、同腹の野生型とヘテロ型のkIL−18Tgを用いて行われた。
【0045】
マウス
ヒトのカスパーゼ−1前駆体の遺伝子をケラチン細胞に対して特異的に過剰発現させた、KCASP1Tg(雌、4−60週齢)を本発明に用いた(J.Immunol., vol.165(2000), pp997−1003,参照)。
【0046】
IL−1α/β欠損KCASP1Tgは、C57BL/6をバックグラウンドとするIL−1α/βの二重ノックアウトマウス(J.Exp.Med.,vol.187(1998), pp1463−1475,参照)とKCASP1Tgとの交配によって樹立した。
【0047】
また、Stat6欠損のKCASP1TgまたはIL−18欠損のKCASP1Tgは、KCASP1Tgと、stat6欠損マウス(Nature(London), vol.380(1996), pp627−630, 参照)、またはIL−18欠損マウス(Immunity, vol.8(1998), pp383−390, 参照)との交配によってそれぞれ樹立した。
【0048】
試薬(reagents)
FITCを結合したanti−CD3、PEを結合したanti−B220、FITCを結合したanti−CD4、Cyを結合したanti−CD8、FITCを結合したanti−Mac−1、PEを結合したanti−Gr−1、ビオチン化したanti−CD154(CD40リガンド(L))、PE−ストレプトアビジンは、すべてPharMingen社(サンディエゴ、カルフォルニア)から購入したものである。本発明に用いた培地は、10%のFCS、100 U/mlのペニシリン、100μg/mlのストレプトマイシン、50μMの2−メルカプトエタノールおよび2mM L−グルタミンが補充されたRPMI−1640である。
【0049】
IL−18の活性測定法
様々なマウス血清中のIL−18活性は、従来公知の方法(Immunity vol.11, pp359−367)に従って、LNK細胞と呼ばれる、IL−18に応答性を有するNK細胞クローンを用いて決定した。
【0050】
ノーザンブロット法
総リボ核酸は、KIL−18Tgと野生型の各マウスの皮膚からIsogen試薬(日本ジーン社製)を使用して抽出された。ノーザンブロット解析は、マウスのIL−18またはG3PDHをコードするcDNAを、32Pでラベルして用い、すべて従来の方法(J.Immunol., vol.165(2000), pp997−1003,参照)に基づき行われた。
【0051】
フローサイトメトリー(flow cytometry)
様々な変異体や野生型のマウスから得た胸腺細胞と脾臓細胞は、mAbsの様々な組み合わせで染色された。染色された細胞は、FACScalibur(Becton Dickinson, Mountain View, カルフォルニア)を使用して二つのレーザーにより分析された。1万の各細胞が分析され、得られたデータは、CellQuest(Becton Dickinson)を用いて処理された(Nat.Immunol., vol.1(2000), pp132−137, 参照)。
【0052】
組織学的な評価方法
様々なタイプの遺伝子変異マウスから摘出された皮膚標本は、ホルマリン固定後、ヘマトキシリンとエオシンによって、染色された。変移染色性(metachromasia)を有する肥満細胞を識別するために皮膚標本の一部はトルイジンブルーによって染色された。
【0053】
細胞の調製法
脾臓由来のCD4T細胞は、anti−CD4を結合した磁気ビーズ(Miltenyi Biotec, Auburn, カルフォルニア)と共に培養した後、MACSにより分離された。脾臓由来のCD4T細胞(1×10/ml)は、anti−CD3を結合した96穴プレートの各凹部内にて48時間培養された。個々の細胞の上澄み液中のサイトカインの濃度は、ELISA(enzyme‐linked immunosorbent assayの略、酵素免疫測定法)により決定された。
【0054】
サイトカインと免疫グロブリン(Ig)を定量するためのELISA法
IL−4およびIFN−γの各濃度は、それらに対応するELISAキット(Genzyme TECHNE, ボストン,マサチューセッツ)によって測定された。IL−18濃度はELISAキット(MBL、日本)により決定された。血漿ヒスタミン濃度はRIA(SRS,大阪,日本)によって測定された。血清でのIgE、IgG1、IgMの各濃度は、以前に報告されたELISA(Nat.Immunol., vol.1(2000), pp132−137, 参照)に基づいて測定された。
【0055】
皮膚の引っ掻き頻度
マウスは少なくとも1時間静置された後、1時間にわたりビデオカメラでモニターされた。引っ掻き頻度は、ランダムに選択された3ポイントの10分間の観察結果から割り出した。
【0056】
皮膚変化の評価
皮膚の変化は、1週間隔にて観測された。上記変化の評価は、個々の測定時における、各々の遺伝系統において、最大変化に対する相対的な皮膚変化により評価された。
【0057】
ADに関与する因子のパーセントレベル
KCASP1Tgとその様々な遺伝子変異マウスを用いて検討がなされた。皮膚標本と血清中のIL−18量、血清中のIgEとIgG1濃度、血漿中のヒスタミン濃度、肥満細胞数のパーセントレベル、およびパーセント皮膚引っ掻き頻度が計算された。
【0058】
成熟型のIL−18を皮膚内に過剰発現する遺伝子変異マウス
KIL−18Tgは、正常に生まれて健康に生長するが、誕生の6カ月後にSPF条件下で皮膚病を発症した(図2参照)。対照的に、KCASP1Tgは生後8週間以内に皮膚異常を現した。KCASP1Tgのように、KIL−18Tgは頻繁に皮膚、特に皮膚病巣を引っ掻いた(それは、後に、図12に基づき詳細に説明される)。
【0059】
ノーザンブロット分析により、KIL−18Tgの皮膚でのみ導入された成熟型のIL−18の存在(図3参照)が確認された。対照実験として、野生型とKIL−18Tgとの両方の皮膚において、proIL−18をコードする105bpより大きい内因性のIL−18のmRNAは、両者とも明らかに存在した(データ示さず)。KCASP1Tg(J.Immunol., vol.165(2000), pp997−1003,参照)のように、KIL−18Tgは、皮膚に導入遺伝子を選択的に発現しているが、肝臓、腎臓、顆粒球/マクロファージ(colon)、肺、脳および脾臓には発現されていない(データ示さず)。
【0060】
KIL−18Tgは、誕生時から血清IL−18値は高く、その程度はKCASP1Tgのそれよりも常時高かった(図4(a)参照)。
【0061】
それらの血清は、IL−18に応答性を有する細胞株からの(J.Immunol., vol.157(1996), pp3967−3973,参照) IFN−γ産生を誘発したことから、血清中のIL−18は生物学的に活性型であった(図4(b)参照)(J.Immunol., vol.165(2000), pp997−1003,参照)。
【0062】
両方のタイプの遺伝子変異マウスは、高い血清IL−18濃度を示した。IL−18の下流に位置する(後段にて産生される)IL−4、IL−13およびIFN−γなどのサイトカインは、市販されているELISAキットでは検出されなかった。
【0063】
KIL−18TgとKCASP1Tgとの脾臓中の好中球の蓄積とTh2細胞への分化
KIL−18TgおよびKCASP1Tgの双方とも、胸腺におけるT細胞の分化は正常だった(図5(a)〜(c)参照)。しかし、それらの脾臓リンパ球は、野生型と比べて、T細胞の含有率が相対的に低かった(図6(a)〜(c)参照)。
【0064】
しかしながら、それらの脾臓における、CD4T細胞/CD8T細胞比や、B細胞の割合は、野生型のそれらと同じであった(図6(d)参照)。
【0065】
Gr−1Mac−1細胞によって規定される好中球の割合は、KIL−18TgおよびKCASP1Tgの脾臓で顕著に増加していた(図6(e)参照)。T細胞がIL−18に応答して好中球の増殖因子であるGM−CSFが産生されるというin vitroの事実から、この好中球の増加がGM−CSFに起因する可能性が示唆された。
【0066】
両方のタイプの遺伝子変異マウスの脾臓での好中球の蓄積は、発病前ではわずかであったが、発病後においては顕著に増加することから(データ示さず)、好中球が皮膚病変の形成に関与する可能性を示唆している。
【0067】
次に、KIL−18Tgの細胞内部に蓄積・分泌されたIL−18が、血清中で認める高濃度のIgE/IgG1の原因になるか否か、および、KCASP1Tgと同様に、Th2応答が優性か否かについて本発明者らは調べた。
【0068】
以前の本発明者らの報告(Nat.Immunol., vol.1(2000), pp132−137, 参照)と同様に、図7(a)ないし(c)に示すように、IgEとIgG1濃度はいずれもKIL−18TgとKCASP1Tgとで著しく上昇していた。
【0069】
新たに精製された脾臓由来のCD4T細胞の固相化された抗CD3抗体刺激に対するサイトカイン産生能が調べられた。KCASP1TgからのCD4T細胞は、図8(a)ないし(d)に示すように、野生型と比べて、IL−3、IL−4およびIL−5の産生量は多いが、IFN−γの産生量は少なかった。KIL−18TgからのCD4T細胞は、図9(a)および(b)に示すように、野生型と比べて、IL−4の産生量は大きいが、IFN−γの産生量は少なかった。
【0070】
CD4T細胞が、B細胞からのIgE産生に必要な分子であるCD40Lを発現するか否かを調べたところ、図10に示すように、上記のKIL−18TgとKCASP1Tgとの双方のCD4T細胞にて、野生型と比べて、3倍のCD40Lを発現することが観察された。
【0071】
これらの結果は、SPF条件下において、IL−18が、CD4T細胞をTh2細胞に分化させ、CD40Lを発現することによって、IgE/IgG1応答を誘発していることを示している。
【0072】
KCASP1TgとKIL−18Tgとにおける慢性の皮膚炎
次に、皮膚病巣の組織がそれぞれ調べられた。それらの結果を図11(a)ないし(f)にそれぞれ示した。KCASP1Tgは、8週齢時に顕著な皮膚変化を示した。その変化は、激しい侵食性の皮膚炎として始まり、続いて、再上皮化(reepithelization)と苔癬(lichenoid)へと変化を示し、最後に、細胞間の浮腫と共に顕著な表皮の乳頭化(papillomatosis)、および、表皮肥厚を伴う痂皮(parakeratotic scale−crust)形成が見られた。
【0073】
対照的に、KIL−18Tgでは、図2および図12に示すように、皮膚病巣の発病がKCASP1Tgより著しく遅く、その病巣は、目の周りの局所的な皮膚の変化から始まり、徐々に顔、頭、背に達した。KIL−18Tgの皮膚変化はKCASP1Tgのものとわずかに異なり、著しい苔癬化(lichenification)が特徴的であった。
【0074】
KCASP1TgとKIL−18Tgの真皮は、図11に示すように、好中球などの多核白血球とリンパ球とで著しく浸潤されているが、それらの表皮は明らかに表皮腫様(acanthotic)であった(データは示さず)。肥満細胞の数は、KCASP1TgとKIL−18Tgとにおいて、表1、表2および図13に示すように、真皮の浸潤部にて顕著にかつ選択的に増加し、脾臓、肺、末梢血、または腸(示されないデータ)では増加していない。これらのことは、皮膚に限局したIL−18の産生が肥満細胞の蓄積に寄与していることを示唆している。表1、表2、図12および図13では、対応する遺伝子の欠損を−/−にて表示した。また、表1および表2に記載のNDは検出できず(Not Detected)を示す。
【0075】
【表1】
Figure 2004041123
【0076】
【表2】
Figure 2004041123
【0077】
肥満細胞が皮膚かゆみの誘発に重要な役割を果たすことから、皮膚引っ掻き頻度が数えられた。皮膚炎の発生後は、KIL−18TgはKCASP1Tgと同様に、野生型よりもはるかに頻繁に、それらのびらん性の病巣を含む皮膚を引っ掻いた(表1、表2および図13参照)。しかしながら、皮膚変化の開始の前では、両方のタイプの遺伝子変異マウスは、野生型のマウスと同程度の皮膚引っ掻き頻度を示した(データ示さず)。
【0078】
本発明者らは、以前に、試験管内(in vitro)において、IL−18がCD4T細胞を刺激してIL−3の産生を誘導すると共に、IL−18がIL−3と共同して好塩基球と肥満細胞を活性化してヒスタミンを放出させることを示した(Proc. Natl. Aad. Sci., vol.96(1999), pp13962−13966)。このことから、血漿中のヒスタミンレベルが測定された。ヒスタミンレベルは、両方のタイプの遺伝子変異マウスにおいて明らかに増加しており、両方のタイプの遺伝子変異マウスの真皮の浸潤部内における、IL−18に依存する肥満細胞の活性化が示唆された。
【0079】
KCASP1Tgのヒスタミン濃度は、表1、表2および図13に示すように、KIL−18Tgのヒスタミン濃度よりもはるかに高いことは、KCASP1Tgの肥満細胞の数がKIL−18Tgの肥満細胞の数より多いという事実を反映している可能性がある。
【0080】
それらの結果は、皮膚病巣がかゆみを起こすのに深く関連づけられる可能性と、IL−18が、皮膚の肥満細胞の活性化、あるいはリンパ球および好中球の活性化を促し、炎症性の皮膚病を引き起こす可能性を示唆する。
【0081】
IgE/stat6非依存性で、IL−18に依存性の掻痒性の皮膚炎
アレルゲン特異的なIgEとアレルゲンが花粉症、またその他のアレルギー性疾患で重要な役割を果たしていることはよく知られている。しかしながら、ADにおいては、アレルゲン特異的なIgEとアレルゲンの関与はあまり明確ではなく、Th1とTh2サイトカインの関与が、今まで、かなり明確に示唆されてきている。
【0082】
KCASP1TgとKIL−18Tgとが、明白な免疫も感染もなしで、高濃度のIgEと共に炎症性の皮膚病巣を自然発生的に発症することから、これらの遺伝子変異マウスで認める多クローン性IgEが、これらの皮膚変化の発生に関与しない可能性について調べられた。
【0083】
この可能性を確認するために、炎症性の皮膚変化が迅速におこる利点を活用するために、本発明者らは、stat6遺伝子を欠損させることでIgEを産生しなくなったKCASP1Tgを作製した。以前に、報告されているように、血清レベルで高濃度のIL−18を検出することが出来るこのstat6欠損のKCASP1Tgは、検出限界以下のIgEと、極めて少量のIgG1を示した(表1、表2および図13参照)。
【0084】
さらに、上記stat6欠損のKCASP1Tgは、KCASP1Tgと比べて、皮膚局所における肥満細胞の数と、血漿レベルでのヒスタミン濃度の顕著な減少を示した(表1、表2および図13参照)。stat6を欠損したKCASP1Tgは、Th2細胞への分化誘導、IL−4産生およびIL−4のシグナル伝達系に欠陥があるため、IL−4がその重要な増殖因子である肥満細胞は減少し、血漿ヒスタミンレベルも減少する可能性がある。それにもかかわらず、stat6欠損KCASP1Tgにおける皮膚の変化は、図12に示すように、KCASP1Tgの皮膚の変化の開始時期とほとんど同じであった。それらの結果から、高濃度のIL−18が、かゆみを伴う皮膚の変化を誘発する主な原因であることを示唆する。
【0085】
この示唆を証明するために、KCASP1TgとIL−18欠損マウスとを交配した。得られた、IL−18欠損KCASP1Tgは、血清中のIgEとIgG1レベルは低いが、検出できる程度のレベルであった。しかし、皮膚の引っ掻きは少なく、生後6カ月の時点でも皮膚炎の発現は観察されなかった。これらの結果は、皮膚病変の発症がIgEとIgG1の増加によるものではなく、IL−18が皮膚の病変を誘発する主な原因であることを証明するものである。
【0086】
IL−18欠損KCASP1Tgでは、表1、表2および図13に示すように、皮膚の肥満細胞の数や血清ヒスタミンのレベルが顕著に減少したので、IgEではなくIL−18が、肥満細胞およびT細胞を活性化して炎症性の皮膚炎を発症させる原因である可能性が高い。IL−18は、T細胞に作用してIL−3とIL−4の産生を誘導し、次に、IL−18とIL−3のコンビネーションで肥満細胞の蓄積を誘導すると考えられる。
【0087】
ヒスタミンレベルまたは肥満細胞の数と、かゆみの発現との間には明白な相関関係はないが、肥満細胞の数の減少と、ヒスタミンレベル(p<0.05)との間には明白な関係がある。これらの結果は、皮膚のかゆみの誘発に必要なヒスタミンレベルにしきい値が存在する可能性を示すものである。KIL−18Tgとstat6欠損KCASP1Tgとでは、上記のしきい値より高い量のヒスタミンが遊離されているものと考えられた。
【0088】
実際、KIL−18Tgとstat6欠損KCASP1Tgは、野生型と比較すると、はるかに高いレベルの肥満細胞の数とヒスタミンレベルを示していて、また、掻痒性の皮膚変化を発生した(図11および図13参照)。
【0089】
しかしながら、このことから、ロイコトリエン(Eur.J.Pharmacol. vol.17(1998), pp93−96)などの他の因子が皮膚かゆみの発生に関与する可能性は否定できない。IL−4/IL−13および/または他の因子にかわってIL−18は、肥満細胞および/または炎症性の細胞を直接的に活性化して、stat6非依存的にかゆみを誘発する可能性が有る。また、IL−4とIL−13とがstat6非依存的にかゆみを誘発する可能性もある。この皮膚病における、stat6に非依存的なIL−4/IL−13の作用の役割をはっきりさせるために一層の研究を必要とする。
【0090】
IL−1はAD発症を促進する
KIL−18Tgは、KCASP1Tgに比べて、皮膚変化を形成するのにはるかに長時間を要した。KIL−18Tgは、血清中のIL−18レベルがKCASP1Tgより高い(図4参照)が、皮膚変化を現し始めるのはKCASP1Tgと比べて極めて遅かった(図12参照)。
【0091】
これは、カスパーゼ−1を過剰に発現するケラチン細胞がIL−18だけではなく別の産物であるIL−1βを分泌し、このIL−1βが発症時間の短縮に関与している可能性を示唆するものである。この可能性を調査するために、KCASP1Tgと、IL−1α/βの二重ノックアウトマウス(J.Exp.Med.,vol.187(1998), pp1463−1475,参照)とを交配した。IL−1α/β欠損KCASP1Tgに観られる皮膚変化(図12参照)の開始はKIL−18Tgのそれと同程度に遅れた。このことから、IL−1がこれらのアトピー性変化の発症を促進する可能性が示唆される。
【0092】
IL−1α/β欠損KCASP1Tgの皮膚病巣の組織病理学(histopathological)的な変化はKIL−18Tgのものと同様であるが、その程度はKCASP1Tg(図11参照)よりも低かった。したがって、過剰に遊離されたIL−1は、過剰なIL−18が惹起する皮膚変化を拡大・加速する役目を果たすようである。
【0093】
本発明である、上記の各遺伝子変異マウスの解析結果から、アレルゲン/アレルゲン特異的なIgEに依存しないAD様の炎症性の皮膚病が、多量に蓄積されたIL−18により誘発されることが証明された。上記の各遺伝子変異マウスに観られる、頻繁な皮膚引っ掻き行動、および、高レベルの血漿ヒスタミンは、これらの皮膚病が掻痒性のものであることを示唆している(図13参照)。
【0094】
ADの患者に観られるように、これらの変異マウスの皮膚変化はまず顔で現れ、次に、背や手、足等の先端部に広がる。すべてのKCASP1TgとKIL−18Tgは、遅かれ早かれ、皮膚病に羅患し、高血清IgEを示す(図7(a)および図13参照)。したがって、上記両方のタイプの遺伝子変異マウスの皮膚病は、皮膚病巣(図11参照)の好酸球浸潤は少ないが、ADの評価基準を満たすように思われる。
【0095】
両方のタイプの遺伝子変異マウスは少なくとも炎症性の皮膚病のためのモデルマウスである。これまで、特定のIgEとアレルゲンが、アトピー症の表現型を誘発するのに不可欠であると信じられていた。しかしながら、上記の両方のタイプの遺伝子変異マウスは、ADのような炎症性の皮膚炎を、特定のアレルゲンに曝露しなくても自然に発症する(図2、図11および図13参照)。このことから、上記各遺伝子変異マウスの多クローン性のIgEとIgG1が、それらの皮膚における炎症性の変化を発生させる肥満細胞の活性化にほとんど寄与しないことを示唆している。
【0096】
実際、stat6欠損KCASP1Tgは、その血清においてIgEが検出されず、さらにIgG1レベルが低値であるにもかかわらず、図11および図12に示すように、KCASP1Tgと同様に掻痒性の皮膚炎を発生させていた。IgEと同様に特定のIgG1とAg抗原はアナフィラキシーの発生に深くかかわるが、これらの結果は、IgEもIgG1もKCASP1Tgにおける皮膚の病理学的な変化の発生には関与していないことを強く示唆している。
【0097】
IgEが低レベルのAD患者の小集団が少なからずある(Curr.Probl.Dermatol., vol.28(1999), pp29−36)。KCASP1TgからIL−18遺伝子を排除すると病理学的な皮膚の変化が減少した(図11参照)。それらの結果は、皮膚でのIL−18の過剰産生が、IgEあるいはstat6を介したシグナル伝達系に非依存的に、炎症性の皮膚の変化を発症させることを強く示している。したがって、AD患者の血清中のIL−18レベルの測定は重要となろう。しかしながら、IL−18はIL−12が共存すると、IFN−γの産生を誘発するので、IgEかIL−18かのどちらを標的とした治療が重要であるかを決定するためには、IL−18とIL−12との両方の血清レベルを測定するのがより有益であるように思われる。
【0098】
ヒトのカスパーゼ−1をコードした導入遺伝子(transgene)またはネズミ科由来活性型IL−18導入遺伝子が、KCASP1TgとKIL−18Tgのケラチン細胞の中で、ケラチン14のコントロールの下で、選択的にそれぞれ発現された(J.Immunol.,vol.165(2000), pp997−1003,参照、データを示さず)。
【0099】
導入遺伝子は、皮膚内で選択的に発現し、脾臓を含む他の何れの組織でもその発現は認められなかった(J.Immunol., vol.165(2000), pp997−1003,参照、データを示さず)。しかし、これらの変異体マウスの脾臓でCD4T細胞はSPF条件下であっても、自然にTh2細胞に分化していた(図8および図9参照)。これは、IL−18の濃度上昇(図4参照)が部分的に関与している可能性を示すものである。高濃度のIL−18は、常在細菌のもつ構造体をAgとしたTh2細胞分化を誘導する可能性がある(Annu.Rev.Immunol., vol.19(2001), pp423−474)。
【0100】
あるいは、皮膚の樹状細胞が、高濃度のIL−18環境下では、Th2細胞を導く抗原提示細胞になり、脾臓を含む末梢免疫器官内にリクルートして、Th2細胞への選択的な分化に関与する可能性もある。
【0101】
KCASP1TgとKIL−18Tgの両方の脾臓中の好中球数は皮膚変化発生の後に増加した(図6参照)。興味深いことに、同等数の好中球蓄積がstat6欠損KCASP1TgおよびKCASP1Tgの各皮膚病巣中に観測された(データを示さず)。
【0102】
実際、IL−18には、ヒトのIL−8などの好中球走化性因子の産生を誘導して好中球を集積したり(N.Engl.J.Med., vol.303(1980), pp27−34)、直接好中球を活性化したりする作用がある(Eur.J.Immunol. vol.31(2001), pp1010−1016)。また、IL−18にはGM−CSF産生を誘導して好中球の増殖を誘発 (Blood, vol.98(2001), pp2101−2107)する能力が備わっている。活性化された好中球は、様々な生物活性分子をリリースすることによって、これらの変異体マウスにおける炎症性の皮膚変化の発生に関与している可能性を備えている(Nat.Immunolo., vol.2(2001), pp675−681)。
【0103】
ADの誘発および/または活性化は、細菌感染によって強く影響されることが知られている(Lancet, vol.351(1998), pp1715−1721)。いくつかの細菌由来の産物がToll様受容体を介してIL−18の分泌を誘発する(J.Immunol. vol.166(2001), pp2651−2657)。その結果、IL−18依存性のAD様皮膚病巣を誘導する可能性がある。実際、マクロファージは、バクテリア、ウイルスおよび原虫を含む様々な微生物に感染したとき、IL−18を分泌する(J.Immunol. vol.167(2001), pp5928−5934)。
【0104】
上記の本願発明を要約すると以下の通りである。本発明者らは、KCASP1TgとKIL−18Tgとの両方がAD様の皮膚病を発生させることを示した。上記皮膚病は、血漿レベルでの高濃度のヒスタミン、病巣での頻繁な掻痒や同病巣中での肥満細胞蓄積などによって特徴付けられている。
【0105】
しかしながら、KIL−18Tgは、KCASP1Tgと比較すると、皮膚の病巣を顕現するためにはるかに長い潜伏期間を必要とした。IL−1欠損KCASP1Tgが皮膚病巣を顕現化するために、KIL−18Tgとほとんど同じ潜伏期間を必要としたことは、IL−1が疾病の発症を促進する可能性を示唆している。
【0106】
対照的に、IL−18の減少は、血漿ヒスタミンレベルと同様に皮膚内の肥満細胞蓄積の減少をひきおこし、掻痒性の皮膚炎をほとんど完全に解消した。さらに、stat6欠損KCASP1Tgは、その血清のIgEレベルが検出できないほどの低レベルにもかかわらず、掻痒性の皮膚炎を少しの遅延もなしに発生させた。したがって、アレルゲンとそれに対するIgEの産生を引き起こさなくても、IL−18は、例えば皮膚炎の発症を誘発できることが分かる。
【0107】
これらの結果は、IL−18に依存しているが、IgE/stat6に非依存のアトピー性皮膚炎の重要性を明確に示しており、IgE/stat6依存した獲得性アトピーとは全く異なる成因の存在を示唆し、IL−18に依存する先天的な、新しいアレルギー性応答の概念を提供するものである。
【0108】
【発明の効果】
本発明のアトピー性皮膚炎モデル動物は、以上のように、イムノグロブリンEを介した炎症機構を阻害するように遺伝子が組み換えられた、例えばStat6が欠損した組み換えDNAを有する構成である。
【0109】
それゆえ、上記構成は、アトピー性皮膚炎を、IgEに対して非依存的に発症させることができて、より的確に把握でき、アトピー性皮膚炎モデル動物を用いた治験薬のスクリーニングや、アトピー性皮膚炎の症状に合った医薬品をより確実に得ることが可能となるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明を説明するために用いたアトピー性皮膚炎モデル動物としてのKIL−18Tgの導入遺伝子の模式図である。
【図2】上記KIL−18Tgの、24週齢での皮膚での変化を示す正面図である。
【図3】上記KIL−18Tg(48週齢)と野生型(WT)との、ノーザンブロット分析の結果をそれぞれ示すグラフである。
【図4】上記KIL−18Tgと、KCASP1Tgと、野生型(WT)とにおけるIL−18発現をそれぞれ示すグラフであって、(a)はIL−18濃度、(b)はIL−18活性度を示す。
【図5】上記KIL−18Tgと、KCASP1Tgと、野生型(WT)とにおける、36週齢(同腹児)からの、各好中球の割合をサイトメトリーにより測定した結果をそれぞれ示すグラフである。
【図6】上記KIL−18Tgと、KCASP1Tgと、野生型(WT)とにおける、36週齢(同腹児)からの、各好中球の割合をサイトメトリーにより測定した結果をそれぞれ示すグラフである。
【図7】上記KIL−18Tgと、KCASP1Tgと、野生型(WT)とにおける、各Igの割合をそれぞれ示すグラフである。
【図8】上記KCASP1Tgと、野生型(WT)とにおける、IL−4、IFN−γ、IL−5、IL−3の各血清中の含量をそれぞれ示すグラフである。
【図9】上記KIL−18Tgと、野生型(WT)とにおける、IL−4、IFN−γの各血清含量をそれぞれ示すグラフである。
【図10】上記KIL−18Tgと、KCASP1Tgと、野生型(WT)とにおける、CD4細胞のCD40L発現頻度をそれぞれ示すグラフである。
【図11】種々なトランスジェニックマウスと野生型のマウスとにおける、皮膚の各組織変化をそれぞれ示す。
【図12】上記種々なトランスジェニックマウスにおける皮膚の変化を経時的に示すグラフである。
【図13】上記種々なトランスジェニックマウスにおける、IL−18、IgE、IgG1、ヒスタミン、肥満細胞、引っ掻き頻度の変化をそれぞれ示すグラフである。

Claims (10)

  1. イムノグロブリンEを介した炎症機構を阻害するように遺伝子が組み換えられた組み換えDNAを有することを特徴とするアトピー性皮膚炎モデル動物。
  2. インターロイキン−4およびインターロイキン−13に対する応答性を抑制するように遺伝子が組み換えられた組み換えDNAを有することを特徴とする請求項1記載のアトピー性皮膚炎モデル動物。
  3. インターロイキン−18を皮膚特異的に発現するように遺伝子が組み込まれた組み換えDNAを有することを特徴とする請求項1または2記載のアトピー性皮膚炎モデル動物。
  4. インターロイキン−18を発現するための遺伝子は、カスパーゼ1遺伝子であることを特徴とする請求項3記載のアトピー性皮膚炎モデル動物。
  5. インターロイキン−18を発現するための遺伝子は外来性であることを特徴とする請求項3または4記載のアトピー性皮膚炎モデル動物。
  6. イムノグロブリンEを介した炎症機構を阻害するように遺伝子が組み換えられた組み換えDNAは、Stat6を欠損させた組み換えDNAであることを特徴とする請求項1ないし5の何れか1項に記載のアトピー性皮膚炎モデル動物。
  7. カスパーゼ1遺伝子を皮膚特異的に発現するように組み込まれた組み換えDNAを有することと、IL−18が欠損した組み換えDNAを有することとを特徴とする非アトピー性皮膚炎モデル動物。
  8. 請求項7記載のモデルマウスから演繹できるカスパーゼ1非存在下でIL−18に依存してアトピー性皮膚炎を自然発症するアトピー性皮膚炎モデル動物。
  9. 請求項1ないし6,8の何れか1項に記載のアトピー性皮膚炎モデル動物に対して、被験物質を投与し、アトピー性皮膚炎の改善効果を検定することを特徴とするアトピー性皮膚炎の治療用物質のスクリーニング方法。
  10. 請求項9記載のスクリーニング方法によりアトピー性皮膚炎の改善効果を有すると判定される物質を含有するアトピー性皮膚炎用医薬品。
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