JP2004033217A - Lipに対するlapの比率の調節 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】本発明は、例えば、LAP(転写活性化因子)の転写/翻訳に影響を与えずに、LIP(転写阻害タンパク質)の転写/翻訳を減少、低下又は抑制することができる組み換え遺伝子ベクター及び核酸構築物を提供する。
【効果】そのようなベクター及び構築物は、細胞中のLAP/LIP活性の比率を増加する方法、及びLAP/LIPの比率に関連した疾患又は状態の症状を治療及び/又は緩和する方法において使用される。本発明はまた、細胞又は個体におけるLAP/LIP活性の比率を変化させることができる薬剤のスクリーニング方法を提供する。
【選択図】 なし
【効果】そのようなベクター及び構築物は、細胞中のLAP/LIP活性の比率を増加する方法、及びLAP/LIPの比率に関連した疾患又は状態の症状を治療及び/又は緩和する方法において使用される。本発明はまた、細胞又は個体におけるLAP/LIP活性の比率を変化させることができる薬剤のスクリーニング方法を提供する。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【技術分野】
本発明は、細胞におけるLAP/LIP比率を調節する組成物及び方法を提供する。特に本発明は、LAP(転写活性化因子)活性をコードする組み換えベクターであって、LIP活性の発現が阻害されており、かつLIPがLAP活性を抑制しないようにLIP活性の発現が阻害される、組み換えベクター、並びに、LIP活性の発現を減少させるオリゴヌクレオチド及びアンチセンス核酸を提供する。本発明はさらに、薬剤がC/EBPβ遺伝子から発現されるLIPに対するLAPの発現量の比率を調節するかどうかをスクリーニングする方法も提供する。
【0002】
【従来技術】
広範な研究及び膨大な進歩にも関わらず、癌は米国における2番目の死因である。癌の形成には連続した遺伝的障害を伴うことが知られている。このような遺伝的障害として報告されているものの多くは、優性癌遺伝子の形質転換機能の獲得やp53などの癌抑制遺伝子の癌抑制機能の損失により引き起こされる。即ち、癌遺伝子の優性ネガティブ変異体や癌抑制遺伝子を癌細胞内に、例えば、p53を組み込んだレトロウイルスベクターなどを用いて導入することによってこのような遺伝的異変を矯正すれば、癌の症状を緩和及び/又は治療できる可能性がある(Alavi J.B. et al., 2001, Expert. Opin. Biol. Ther. 1:239−252)。
【0003】
また、癌の治療のためにサイトカイン遺伝子を細胞又は組織に導入することも試みられている。例えば、サイトカイン遺伝子をリンパ球(例えば、リンホカイン活性化キラー細胞(LAK)、細胞障害性T細胞 (CTL)、腫瘍浸潤リンパ球(TIL)など)に導入して、導入細胞から分泌されるサイトカインによりリンパ球を活性化して受動免疫能を高めたり、TILに直接抗腫瘍性のあるIFNまたはTNF遺伝子を導入することにより腫瘍局所での抗腫瘍性を高めるという試みがなされている(Treisman J. et al., 1994, Cell Immunol. 156: 448−457、及びHwu et al.,1993, J. Immumol. 150:4104−4115)。
さらに、レトロウイルスベクターなどにより腫瘍細胞にサイトカイン遺伝子を導入して、この導入された細胞を腫瘍ワクチンとして用い、宿主の腫瘍特異的免疫細胞を誘導するという試みも報告されている(Adris S. et al., 2000, Cancer Res. 60:6696−6703、及びHiroishi K et al., 1999, Gen Ther. 12: 1988−1994)。
【0004】
CCAAT/エンハンサー結合タンパク質β(C/EBPβ)遺伝子は多数の発達過程に関与している(Hirai et al., 2001, J. of Cell Biol. Vol. 153: 785−794)。C/EBPβ遺伝子のヌクレオチド配列中には、2つの転写開始位置が存在し、それぞれの転写位置からタンパク質が翻訳されることにより、LAP(転写活性化因子)およびLIP(転写リプレッサー)が生成する(Descombes et al., 1991, Cell, Vol. 67, 569−579)。また、LAP/LIPの比率が増加すると、ある標的遺伝子の転写活性が高くなること、並びに、ラット肝臓の分化の最終段階ではLAP/LIPの比率が増大することが報告されている(Descombes et al.,上掲)。さらに、Buck et al., 1994, EMBO Journal Vol.13, No.4, pp.851−860には、肝細胞の分化やその静止状態はLAP/LIP比で調節されることが記載されている。
【0005】
Hirai et al.(上掲)には、乳腺の筋上皮細胞および線維芽細胞の表面に発現し、乳腺の形態形成に関与するタンパク質であるエピモルフィンで細胞を処理すると、C/EBPβの発現が増大し、コードされるLAP/LIP比が変化することが報告されている。
癌の症状の治療の進歩にも関わらず、癌の症状を治療及び/又は緩和することができる薬剤をスクリーニングする方法、並びに症状を治療及び/又は緩和する方法に対する要求は依然として存在する。
本明細書に開示した全ての特許文献及び刊行物は全体として引用により本明細書中に取り込むものとする。
【0006】
【発明の概要】
本明細書に開示した本発明は、細胞又は個体におけるLAP活性/LIP活性の比率を調節するための組成物および方法を提供する。
本発明は、LAP(転写活性化因子)活性をコードする組み換えベクターであって、LIP活性の発現が阻害されており、かつLIPがLAP活性を抑制しないようにLIP活性の発現が阻害される、組み換えベクターを提供する。例えば、組み換えベクターは、CCAAT/エンハンサー結合タンパク質β(C/EBPβ)遺伝子の一部又は全部のヌクレオチド配列を含み、該C/EBPβ遺伝子の一部又は全部がLIP(転写阻害タンパク質)の開始コドンATGの周辺のヌクレオチド配列を含み、かつ該ヌクレオチド配列がLIP転写阻害タンパク質の開始コドンATGの周辺に変異を有している。別の例としては、開始コドンの周辺の変異は、ATGを別のアミノ酸をコードするコドンに置換したものであり、該置換されたコドンはTTGではない。別の例としては、該変異は、ATGを、Ala、Gly及びProから成る群からのアミノ酸をコードするコドンに置換したものである。さらに別の例としては、該変異は、ATGを、アミノ酸Argをコードするコドンに置換したものである。例えば、組み換えベクターは、レトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、又はアデノ随伴ウイルスベクターなどのウイルスベクターである。別の例としては、本発明は本発明のウイルスベクターを含むウイルス粒子を提供する。
【0007】
本発明はまた、LIPの開始コドンATGを別のコドンに置換した変異LAPポリペプチドであって、置換されたコドンがTTGではなく、例えば、それは翻訳停止コドンではない、変異LAPポリペプチドを提供する。例えば、変異LAPポリペプチドにおいては、LIPの開始コドンATGがAla、Gly、Pro又はArgをコードするコドンで置換されている。本発明はまた、上記ポリペプチドをコードする単離された核酸を提供する。本発明はまた、C/EBPβ遺伝子のヌクレオチド配列中のLIP(転写阻害タンパク質)の開始コドンATGの周辺の約10〜約100ヌクレオチドの長さのヌクレオチド配列又はその相補配列を有するオリゴヌクレオチドであって、当該オリゴヌクレオチド又はその相補配列がLIPの発現を減少できる、オリゴヌクレオチドを提供する。例えば、オリゴヌクレオチドは、約10〜約80ヌクレオチドの長さである。別の例としては、オリゴヌクレオチド配列は、約15〜約50ヌクレオチドの長さである。
【0008】
本発明はまた、本発明の組み換えベクター、オリゴペプチド又は変異LAPポリペプチド(または当該ポリペプチドをコードする単離された核酸)を含む、宿主細胞、組成物およびキット、並びにそれらの作成方法を提供する。
【0009】
本発明はまた、細胞に、本発明の組み換えベクター又は本発明のオリゴペプチド又は本発明の変異LAPポリペプチドを好適な条件下で接触させることを含む、細胞中のLAP(転写活性化因子)/LIP(転写阻害タンパク質)の発現量の比率を変化させる方法を提供する。例えば、細胞は、乳癌細胞又は肝臓癌細胞などの癌細胞である。本発明はまた、個体におけるLAP(転写活性化因子)/LIP(転写阻害タンパク質)の発現量の比率の異常に関連する疾患及び/又は状態の症状を治療及び/又は緩和する方法であって、個体に、本発明の組み換えベクター、又はオリゴヌクレオチド、又は変異LAPポリペプチドを投与することを含む方法を提供する。例えば、疾患又は状態は癌である。本発明はまた、薬剤がC/EBPβ遺伝子から発現するLAP(転写活性化因子)/LIP(転写阻害タンパク質)の発現量の比率を変化させるかどうかをスクリーニングする方法であって、C/EBPβ遺伝子を該薬剤と接触させてLAP発現/LIP発現の比率を測定する工程を含む方法を提供する。例えば、該薬剤は低分子化合物である。別の例では、該薬剤は天然由来物質の抽出物である。更に別の例では、比率をノザンブロットにより測定する。例えば、哺乳動物細胞がC/EBPβ遺伝子を含む。例えば、本発明の方法は、細胞中のLAPの発現量を増大する薬剤を同定すること、又は細胞中のLIPの発現量を低下する薬剤を同定することをさらに含むものである。
【0010】
本発明は、癌の症状の治療及び/又は緩和のための医薬の製造における本発明の組み換えベクターの使用に関する。本発明はまた、癌の症状の治療及び/又は緩和のための医薬の製造における本発明の変異LAPポリペプチドの使用に関する。本発明はまた、癌の症状の治療及び/又は緩和のための医薬の製造における本発明の本発明のオリゴヌクレオチドの使用に関する。
【0011】
本書に開示した発明は、細胞中のLAP/LIPの比率を調節するための組成物および方法を提供する。本発明は、細胞中のLAP/LIPの比率を変化させるための、例えば、LAP/LIPの比率を増加させるための組成物及び方法を提供する。本書に開示した発明は、CCAAT/エンハンサー結合タンパク質β(C/EBPβ)遺伝子由来の転写活性化因子(LAP)/転写リプレッサー(LIP)の比率に関連した疾患及び/又は状態の症状を治療及び/又は緩和するための組成物及び方法を提供する。本発明はまた、LAP/LIPの比率を変化させる薬剤のスクリーニングするための組成物及び方法を提供する。
【0012】
本発明は、LAP(転写活性化因子)活性をコードする組み換えベクターであって、LIP活性の発現が阻害されている組み換えベクターを提供する。例えば、本発明は、LAP(転写活性化因子)活性をコードする組み換えベクターであって、LIP活性の発現が阻害され、LIPがLAP活性を抑制しないようにLIP活性の発現が阻害される、組み換えベクターを提供する。本発明は、LIPの開始コドンATGが別のコドンで置換されており、置換されたコドンがTTGではなく、例えば、終始コドンではない、LAPの変異体をコードする単離された核酸を提供する。本発明は、LIPの開始コドンATGが別のコドンで置換されており、置換されたコドンがTTGではなく、例えば、終始コドンではない、変異体LAPポリペプチドを提供する。例えば、上記の変異体LAPポリペプチドは腫瘍溶解活性を示す。
【0013】
特に、本発明は、C/EBPβ遺伝子の一部又は全部の核酸を含む組み換えベクターであって、該核酸がLIPの開始コドンATGの周辺のヌクレオチド配列中に変異を有する組み換えベクターを提供する。例えば、上記の組み換えベクターは腫瘍溶解活性を示し、遺伝子治療、即ち、LAP/LIPの比率に関連した疾患又は状態に罹患した細胞又は個体への投与または送達のために使用することができる。特に、本発明の組み換えベクターは、細胞にLAP活性を発現する組み換えベクターを投与又は送達するために使用することができる。そのような組み換えベクターは、細胞中のLAP/LIP活性の比率を増加する方法;LAP/LIPの比率に関連した疾患又は状態に罹患した個体においてLAP/LIPの比率に関連した疾患又は状態の症状を治療及び/又は緩和する方法;並びに、LAP/LIPの比率を変化させる薬剤のスクリーニング方法において使用することができる。本発明はまた、LIPの発現を減少、低下又は抑制することができるオリゴヌクレオチド、アンチセンスオリゴヌクレオチド及びインタフェアリングRNAを提供する。
【0014】
本書に開示した本発明は、細胞に本発明の組み換えベクター、あるいはLIPの発現を減少、低下又は抑制することができる本発明のオリゴヌクレオチド、アンチセンスオリゴヌクレオチド又はインタフェアリングRNAを接触させることを含む、細胞中におけるLAP/LIPの発現量の比率を変化させる方法を提供する。例えば、細胞には、本発明の組み換えベクター、あるいは本発明のオリゴヌクレオチド、アンチセンスオリゴヌクレオチド又はインタフェアリングRNAを、エピモルフィンと一緒に接触させる。本発明はまた、本発明の組み換えベクター、あるいは本発明のオリゴヌクレオチド、アンチセンスオリゴヌクレオチド又はインタフェアリングRNAを単独で、又は他の治療剤と一緒に、又はエピモルフィンと一緒に、癌に罹患した個体に投与することを含む、癌などの、個体におけるLAP/LIPの発現量の比率に関連した疾患及び/又は状態の症状を治療及び/又は緩和する方法を提供する。
【0015】
本発明はまた、薬剤がC/EBPβ遺伝子から発現するLAP/LIPの発現量の比率を変化させるかどうかをスクリーニングする方法を提供する。本発明はまた、特定の癌又は悪性細胞が、本発明の組み換えベクター、あるいは本発明のオリゴヌクレオチド、アンチセンス核酸又はインタフェアリングRNAによる治療に感受性であるかどうかを決定する方法を提供する。従って、本発明はまた、本発明の組み換えベクター、あるいは本発明のオリゴヌクレオチド、アンチセンス核酸又はインタフェアリングRNAを含むキットを提供する。例えば、本発明のキットは、治療に対する癌細胞の感受性を試験するために使用する組み換えベクターを含む。
【0016】
本発明はまた、本発明の組み換えベクター、又は本発明のオリゴヌクレオチド、アンチセンス核酸又はインタフェアリングRNAを含む組成物、並びに、本発明の組み換えベクター、又は本発明のオリゴヌクレオチド、アンチセンス核酸又はインタフェアリングRNAの製造方法を提供する。
本発明の実施には、別記しない限り、通常の分子生物学、ウイルス学、微生物学、免疫学、及び当業者に知識内の組み換えDNA技術が利用される。これらの技術は文献中に十分に説明されている。例えば、Maniatis et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual (1982); DNA Cloning: A Practical Approach,vols. I & II (D. Glover, ed.); Oligonucleotide Synthesis (N. Gait, ed.(1984)); Nucleic Acid Hybridization (B. Hames & S. Higgins, eds. (1985)); Transcription and Translation (B. Hames & S. Higgins, eds. (1984));Animal Cell Culture (R. Freshney, ed. (1986)); Perbal, A Practical Guide to Molecular Cloning (1984); Ausubel, et al., Current Protocols In Molecular Biology, John Wiley & Sons (1987, 1988, 1989, 1990, 1991, 1992, 1993, 1994, 1995, 1996); 及びSambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual (2nd Edition); vols. I, II & III (1989)などを参照。
【0017】
I.CCAAT/エンハンサー結合タンパク質β (C/EBPβ);LAP及びLIP
CCAAT/エンハンサー結合タンパク質(「C/EBP」)は、CCAAT配列モチーフ(トランスフェリン又はApoB遺伝子等に見られるようなもの)、エンハンサーコア配列モチーフ、又は幾つかのウイルスプロモーターのエンハンサー領域を優先的に認識して結合することができる、あるクラスのエンハンサー結合タンパク質(EBPs)を含む (Landschultz, W. H. et al., Genes Dev. 2:786−800 (1989); Brunel, F. et al., J. Biol. Chem. 263:10180−10185 (1988); Metzger, S. et al., J. Biol. Chem. 265:9978−9983 (1990))。
【0018】
哺乳類由来のC/EBPβ遺伝子は公知であり、例えば、Descombes et al. 1990, Genes Dev. Vol. 4, pgs.1541−1551及びAkira et al. 1990, EMBO J. 9, 1897−1906に記載されている。ラット由来のC/EBPβ遺伝子のヌクレオチド配列とアミノ酸配列を配列番号1および2に記載する。ヒト由来のC/EBPβ遺伝子のヌクレオチド配列とアミノ酸配列を配列番号3および4に記載する。
C/EBPβ遺伝子には、LAP(転写活性化因子)およびLIP(転写リプレッサー)という2種類の翻訳産物がある。翻訳産物が2種類存在するのは、C/EBPβ(CCAAT/エンハンサー結合タンパク質β)遺伝子のヌクレオチド配列中に2種類以上の転写開始部位が存在することに起因する。これらの転写開始部位の何れかから転写翻訳が開始することにより、LAP(転写活性化因子)またはLIP(転写リプレッサー)の何れかが生成される。
【0019】
LAPは、N末端側から転写制御部位とDNA結合部位を有するタンパク質である一方、LIPはLAPのうちのDNA結合部位のみを含み、転写制御部位を含まないタンパク質である。両タンパク質は同一のフレームを有しており、即ち、LIPはC末端の145アミノ酸をLAPと共有している(Buck et al,上掲)。理論に拘束されないが、Descombes et al. 1991, Cell, vol. 67: pages 569−579には、LAP及びLIPは漏出性のリボソームスキャニング機構によって同一のmRNAから翻訳されることが示唆されている。LIP(転写阻害タンパク質)の開始コドンATGは、配列番号1のヌクレオチド配列の457から459番目、及び配列番号3のヌクレオチド配列の595から597番目に相当する。
【0020】
Buck et al(上掲)にはLAP発現及びS期が肝臓癌細胞において相互に排他的であることが報告されている。Buck et alは、LAPがG1/S境界の以前に肝臓癌細胞の増殖を阻害し、細胞がS期に入るのを妨げていることを見出した。Descombes et al. 1991, Cell vol. 67:569−579には、LAP及びLIPが塩基性DNA結合ドメイン及びロイシンジッパー二量化ヘリックスを含む145個のC末端アミノ酸を共有していることが開示されている。Buck et al(上掲)には、ロイシンジッパーの完全性が、肝臓癌細胞がS期に入るのを防止するために必要であることが開示されている。Buck et al(上掲)にはまた、(LAPのN末端活性化ドメインを欠く)LIPは、肝臓癌の細胞増殖を抑制するのに効果を示さず、細胞周期に対するLAPの阻害的役割を拮抗することが開示されている。理論には拘束されないが、Buck et al(上掲)には、ロイシンジッパーと塩基性ドメインを含むLIPの145アミノ酸が、DNA結合部位について直接的に、又はLIP/LAPダイマーを形成して間接的に競合することによってLAPのアンタゴニストとして作用することが示唆されている。従って、本発明は、LIPの発現が阻害されている、LAP(転写活性化因子)活性をコードする組み換えベクターを提供する。例えば、本発明は、LIPの発現は阻害されており、LIPがLAP活性を抑制しないようにLIPの発現が阻害される、LAP(転写活性化因子)活性をコードする組み換えベクターを提供する。LAP活性は、Buck et alに開示されたアッセイにおける肝臓癌細胞増殖を阻害するLAPの活性によって、又は本実施例に開示したインビボモデルでの癌形成を阻害することによって、測定することができる。
【0021】
Descombes et al. 1991, Cell, vol. 67:569−579には、LAPmRNAが3個のインフレームのAUGを有することが開示されている。LAPは最初のインフレームのAUGで開始し(39kdのタンパク質);LIPは3番目のフレームのAUGで開始する(20kdのタンパク質)。例えば、組み換えベクターは、N末端LAP活性化ドメイン及び/又はDNA結合ドメイン及び/又はロイシンジッパーを含み、LAP活性を発現し、ここでLIP活性は阻害される。本発明は、LIPの開始コドンが別のコドンで置換されており、置換されたコドンはTTGではなく、例えば、それは終始コドンではない、変異体LAPポリペプチドをコードする核酸を含む、LAP活性をコードする組み換えベクターを提供する。本発明はまた、LIPの開始コドンが別のコドンで置換されており、置換されたコドンはTTGではなく、例えば、それは終始コドンではない、変異体LAPポリペプチドをコードする単離された核酸を提供する。本発明はまた、LIPの開始コドンが別のコドンで置換されており、置換されたコドンはTTGではなく、例えば、それは終始コドンではない、変異体のLAPポリペプチドを提供する。本明細書で使用する「変異体LAPポリペプチド」とは、変異体LAPポリペプチドが少なくとも1つのLAP生物活性を保持する限り、LIP活性が減少又は抑制されるように、LIPの開始ATGコドンの変異を含むものを言う。
【0022】
本発明は、C/EBPβ遺伝子の一部又は全部を含み、該C/EBPβ遺伝子の一部又は全部がLIPの開始コドンATGの周辺の領域を含み、かつヌクレオチド配列においてLIP(転写阻害タンパク質)の開始コドンATGの周辺に変異が導入されている、組み換えベクター、例えば、組み換えウイルスベクター又はウイルス粒子を提供する。本明細書で使用する用語「変異」とは、核酸の挿入、欠失及び置換を包含する。例えば、変異は、LIPの開始コドンATGを別のコドンに置換したものである。例えば、変異は、LAPをコードする核酸にフレームシフト変異を導入することなく、LIPの転写/翻訳を減少、低下又は抑制する。例えば、変異は、LAPの生物活性を保持しながら、LIPの転写/翻訳を減少、低下又は抑制する。例えば、組み換えベクターは、断片又は一部がLAP活性を保持した生成物をコードする限り、C/EBPβの核酸断片又は一部を含むものである。LAP活性は当業者に既知の方法、又は本書に開示した方法により測定することができる。例えば、LIPの開始コドンATGを別のアミノ酸をコードするコドンに置換するが、ここで置換されたコドンはTTGではなく、例えば、置換されたコドンは終始コドンではない。例えば、置換されたコドンは保存されたコドンであり、TTGではない。例えば、このコドンはAla、Gly又はProをコードする。本書に開示した他の例では、LIPの開始コドンATGはCGCで置換されている。そのような組み換え遺伝子ベクターを細胞又は組織に送達すると、LIPの転写/翻訳は減少、低下、停止又は抑制する。例えば、LIPの転写/翻訳は、C/EBPβ遺伝子由来のLAP(転写活性化因子)の転写/翻訳に影響することなく、LIPの転写/翻訳は減少、低下、停止又は抑制される。例えば、LAPの少なくとも一つの生物活性は保持されている。例えば、本発明の組み換えベクターを細胞に送達すると、LAPは支配的に発現する。さらに、本明細書の実施例で実証される通り、C/EBPβ変異を導入した遺伝子を含むベクターをヌードマウスに腹腔投与すると、対照と比較して、マウスには癌形成と転移は見られなかった。即ち、本発明においては、インビボの癌細胞がLAPのみの支配的な発現により正常化できることが判明した。
【0023】
本発明で使用することができるC/EBPβ (CCAAT/エンハンサー結合タンパク質β)遺伝子の起源は特に限定されず、任意の生物に由来する任意の遺伝子を使用することができる。本発明は、任意の起源に由来するC/EBPβを包含する。例えば、哺乳動物から入手できるC/EBPβ遺伝子を使用してもよい。用語「哺乳動物」とは、哺乳類の任意の個体を意味し、大型動物(牛、羊、馬など)、運動動物(犬及び猫を含む)、及び霊長類(旧世界ザル、新世界ザル、類人猿、ヒトなどを含む)などを含む。例えば、ヒトC/EBPβが使用される。特に、ヒト由来のC/EBPβ遺伝子のヌクレオチド配列及びアミノ酸配列をそれぞれ配列番号3及び4として記載する。
【0024】
本発明で使用するC/EBPβ (CCAAT/エンハンサー結合タンパク質β)遺伝子は、例えばPCRなどの当業者に公知の技術を用いて哺乳動物培養細胞などから得たcDNAでもよい。C/EBPβを取得できる哺乳動物培養細胞株の例としては、肝臓実質細胞、乳腺上皮細胞及び含脂肪細胞などがある。そのような細胞株は公的機関から入手可能である。あるいは、C/EBPβ遺伝子又はその断片又は一部、例えば、LIPの開始コドンATGを含む断片又は一部は、本明細書の配列番号1から4のヌクレオチド配列及びアミノ酸配列の情報に基づいて化学的に合成した遺伝子でもよい。
さらに、C/EBPβ遺伝子の一部又は全部を含む本発明の組み換え遺伝子ベクターをヒトの遺伝子治療剤として、即ち、ヒトへの投与又は送達のために使用する場合は、免疫拒絶の可能性を減少、最小化又は抑制して治療効果を高めるために、ヒト遺伝子を使用することが好ましい。
【0025】
C/EBPβ遺伝子のヌクレオチド配列中のLIPの開始コドンATGの周辺のヌクレオチド配列に変異を導入する方法は当業者に既知であり、適切に設計したプライマーを用いるPCR法を用いる等、通常の組み換え技術によって行う。PCR技術は当業者に周知である。
LIP(転写阻害タンパク質)の開始コドンATGの周辺のヌクレオチド配列中への変異の導入は、LIPの転写/翻訳を減少、低下、停止又は抑制するように、そして、一例ではLAP(転写活性化因子)の転写/翻訳には影響しないように行うか、設計される。「LAP(転写活性化因子)の転写/翻訳には影響しない」という記載は、導入した変異がLAPの転写/翻訳にフレームシフトを起こすことなく、生物学的活性を有するLAPが発現することを意味する。LAPは、FGF受容体やIL−8などの各種タンパク質の転写を制御している。LAPはHepG2細胞の増殖を停止することが示されており、c−junプロモーターからの転写を減少する(Buck et al, 1994, The EMBO J. vol 13: 851−860を参照)。当業者であれば、例えば、Buck et alに記載されているようなHepG2の増殖やc−junプロモーターからの転写を測定することによって、LIP中の開始コドンATGの周辺に導入された変異がLAPの生物学的活性に影響するかどうかを決定することができる。また、「LIPの転写/翻訳を減少、低下、停止又は抑制し」という記載は、生物学的活性を有するLIPが対照と比較して低量で発現すること、又はLIPの発現量が検出できないか、LIPが変異体C/EBPβ遺伝子から発現しないことを意味する。LAP及びLIPの転写/翻訳をアッセイする方法は当業者に既知であり、ノザンブロットやPCRが挙げられる。
【0026】
さらに、本明細書で使用する「LIPの開始コドンATGの周辺のヌクレオチド配列」という表現は、LIPの開始コドンATG(配列番号1のヌクレオチド配列の457〜459番目のヌクレオチドに相当)から前方(3’)及び後方(5’)側の約100ヌクレオチドの範囲内のヌクレオチド配列を包含し、例えば、ATGから前方及び後方に90ヌクレオチド、例えば、ATGから前方及び後方に80ヌクレオチド、例えば、ATGから前方及び後方に70ヌクレオチド、例えば、ATGから前方及び後方に60ヌクレオチド、例えばATGから前方及び後方に50ヌクレオチド、例えばATGから前方及び後方に40ヌクレオチド、例えばATGから前方及び後方に30ヌクレオチド、例えばATGから前方及び後方に20ヌクレオチド、例えばATGから前方及び後方に10または5ヌクレオチドを包含し、例えばこのATG自体が、別のアミノ酸のコドンで置換されている。他の例では、ATGはそのままで、ATGの周囲の核酸、例えばATGの3’側に変異があり、LIPからの転写及び/又は翻訳が喪失している。
【0027】
例えば、LIP(転写阻害タンパク質)の開始コドンATGは別のコドンで置換されるが、このコドンはTTGではなく、例えば、停止コドンではない。コドン置換が終始コドン以外のコドンであり、LAPの翻訳にフレームシフトを生じさせない限り、ATGの代わりに置かれるコドンの種類は特に限定されない。Buck et al(上掲)には、LAPロイシンジッパーの完全性(C末端145アミノ酸に見られる)が、肝臓癌細胞がS期に入るのを防止するのに必要であることが記載されている。コードされるタンパク質の性質に影響しないアミノ酸をコードするコドンが好ましい。そのようなアミノ酸の例としては、アラニン、グリシン、プロリンが挙げられる。本書に開示した例示的実施態様では、LIPの開始コドンATGはArgをコードするコドンに置換されている。実施例に示す通り、g6乳癌細胞にこの置換を含むベクターをトランスフェクションしてヌードマウスに導入した場合、ヌードマウスは対照と比較して癌形成能を喪失した。
【0028】
本発明の組み換え遺伝子ベクターは、上記した変異を内部に導入してあるC/EBPβ遺伝子の一部又は全部を含むベクターである。本発明の組み換え遺伝子ベクターは、好適なベクター中のプロモーターの下流に、変異を内部に導入したヌクレオチド配列を有するC/EBPβ遺伝子を連結する等によって導入することによって構築される。遺伝子配列に変異を導入して組み換えベクターを構築する技術は、当業者に周知である。
例えば、組み換え遺伝子ベクターを細胞に導入する場合、それはLAPの一部又は全部を細胞中に発現できる発現ベクターでもある。例えば、LAPの一部又は全部は少なくとも1つのLAP活性を保持する。エピモルフィンはC/EBPβの発現を増大させることが知られている(Hirai et al., 2001, J. of Cell Biol. Vol. 153 pg. 785−794)。従って、本発明の一例では、エピモルフィンの一部又は全部をコードする核酸を、本発明の組み換えベクター、特に、少なくとも1つのLAP活性を有するLAP遺伝子産物の一部又は全部を発現する組み換えベクターと一緒に、細胞中に導入する。エピモルフィン活性を有するこれらのタンパク質又はペプチドの例としては、エピモルフィン自体(即ち、全長のタンパク質)、エピモルフィンの部分アミノ酸配列を含有し、エピモルフィン活性を有するペピチド、並びにそれらの改変体などが挙げられる。エピモルフィン及びその部分ペプチドなどの詳細については、欧州特許公開第0698666号、米国特許第5,726,298号、米国特許第5,837,239号、国際公開WO98/22505号、国際公開WO01/94382号公報などに記載されており、これらに記載のエピモルフィン及びその部分ペプチドを使用することもができる。エピモルフィンをコードする核酸は、本発明び組み換えベクターの前、後又は同時に細胞に導入され、これらは同一の組み換えベクター上又は異なるベクター上に存在することができる。
【0029】
上記の通り、本発明は、LIP(転写阻害タンパク質)の開始コドンATGを別のコドン(但し、コドンはTTGではない)で置換したC/EBPβ遺伝子であって、本発明の組み換えベクターに組み込んだ遺伝子を提供する。本発明は、宿主細胞に本発明の組み換えベクターを導入する方法を包含する。例えば、ベクターは、組み換えウイルスベクターであり、宿主細胞にウイルスベクターを感染させる。従って、本発明は、遺伝子の細胞への導入及び遺伝子の細胞中での発現を、細胞にベクターを感染させることによって行うことを特徴とする、本発明の組み換えベクターを包含する。例えば、本発明の組み換えベクター等の遺伝子構築物の細胞への導入は、リン酸カルシウム仲介トランスフェクション、エレクトロポレーション、脂質仲介トランスフェクション、裸DNAの取り込み、エレクトロトランスファー、及びウイルス(DNAウイルスとレトロウイルス仲介の両方)トランスフェクションなどを含む当業者に公知の任意の技術を使用して行うことができる。細胞への遺伝子の導入を行う方法は当業者に周知である。
【0030】
II.ウイルスベクター
動物、即ち、ヒト等の哺乳類用の発現プラスミドを使用することができる。例えば、ベクターはウイルスベクターである。本発明で使用できるベクターの例としては、レトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、バキュロウイルスベクター、及びワクシニアウイルスベクターなどのウイルスベクターが挙げられる。この中でも、レトロウイルスベクターは細胞に感染後、ウイルスゲノムが宿主染色体に組み込まれるので、ベクターに組み込んだ外来遺伝子を安定にかつ長期的に発現させることができることから、レトロウイルスベクターを使用することが特に望ましい。レトロウイルス組み換えベクターの構築及びインビトロ又はインビボでのそれらの使用は文献に広く記載されている(特に、Breakfield et al., New Biologist 3 (1991) 203; EP 453242, EP 178220, Bernstein et al. Genet. Eng. 7 (1985) 235; McCormick, BioTechnology 3 (1985) 689などを参照)。遺伝子マーカーのレトロウイルス媒介遺伝子移入用の複製・インコンピテントレトロウイルスの使用方法は十分に確立している(Correll, et al. (1989) PNAS USA 86:8912; Bordignon (1989), PNAS USA86:6748−52; Culver, K. (1990), PNAS USA 88:3155; and Rill, D.R. (1991) Blood 79(10):2694−700)。
【0031】
アデノウイルスは、高効率のトランスダクションを行うことができ、細胞の効率的なトランスダクションのために細胞増殖を必要としないという利点を有している。アデノウイルス及びアデノウイルベクター系の開発に関する一般的な背景となる文献としては、Graham et al. (1973) Virology 52:456−467; Takiff et al. (1981) Lancet11:832−834; Berkner et al. (1983) Nucleic Acid Research11: 6003−6020; Graham (1984) EMBOJ 3:2917−2922; Bett et al. (1993) J.Virology 67:5911−5921;及びBett et al. (1994) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 91:8802−8806を参照できる。アデノウイルスベクターは、インビトロで遺伝子をクローニング及び発現するために使用されており(Gluzman et al., Cold Spring Harbor, N.Y. 11724, p. 187)、トランスジェニック動物の作出のために使用されており(WO95/22616)、ex vivoで細胞に遺伝子を移入するために使用されており(WO95/14785; WO95/06120)、あるいはインビボで細胞に遺伝子を移入するために使用されている (特に、WO93/19191, WO94/24297, WO94/08026を参照)。
【0032】
アデノ随伴ウイルス(AAV)は、ウイルス複製にヘルパーウイルス(アデノウイルスなど)を必要とする、約5kbの線状一本鎖DNAウイルスのパルボウイルスである(B.J. Carter, in ”Handbook of Parvoviruses”, ed., P. Tijsser, CRC Press, pp.155−168を参照)。インビトロ及びインビボでの遺伝子導入のためのAAV由来ベクターの使用は、文献に記載されている(特に、WO91/18088; WO93/09239;米国特許第4,797,368号,同 5,139,941号,及びEP 488 528号を参照)。アデノ随伴ウイルスは、ウイルスゲノムの両端に存在するT字型ヘアピン構造をしたITR(inverted terminal repeat)を介して宿主細胞の染色体の特定の部位に組み込まれることが知られている。ウイルス蛋白質に関しては、ゲノムの左半分が非構造蛋白質(調節蛋白質)のRepをコードし、右半分が構造蛋白質のカプシド蛋白質Capをコードしている。AAVベクターを作製するには、その両端にITRを含むAAVを構築し、目的の遺伝子を有するプラスミド(AAVベクタープラスミド)または目的の遺伝子を含む核酸をITRの間に挿入する。一方、ウイルス複製やウイルス粒子の形成に必要とされるウイルス蛋白質は別のヘルパープラスミドより供給する。上記両方のプラスミドを293細胞にトランスフェクションなどにより導入し、さらにアデノウイルス(ヘルパーウイルス)を感染させると、非増殖性の組み換えAAV(AAVベクター)が産生されるようになる。あるいは、宿主細胞はヘルパーウイルス機能をコードする核酸を含む。このAAVベクターは核内に存在するため、細胞を凍結融解して回収し、混入するアデノウイルスは加熱により失活させるか、あるいはCsCl勾配などによりAAVから分離される。さらに、ベクターは、塩化セシウム密度勾配超遠心法により精製される。
【0033】
バキュロウイルスは哺乳細胞でタンパク質を発現させるために使用されている(例えば、米国特許第5,731,182号を参照)。バキュロウイルスのゲノムは、バキュロウイルスが哺乳細胞に結合してその中に入ることを可能にする哺乳類受容体特異的タンパク質をコードする遺伝子を含む、リガンドDNAの挿入によって改変してもよい。
ワクシニアウイルスは、米国特許第6,103,244号に記載されている。外来遺伝子を含む組み換えワクシニアウイルスの構築は、Panicali及びPaoletti, 1982, Proc. Nat’l Acad. Sci. U.S.A. 79:4927−4931; Mackett et al., 1982, Proc. Nat’l Acad. Sci. U.S.A. 79:7415−7419;及び米国特許第4,769,330号に記載されている。
【0034】
レトロウイルスベクターを使用する場合、その例としては、モロニーマウス白血病ウイルス(Moloney murine leukemia virus, MoMLV)などのオンコウイルス由来のものや、ヒト後天性免疫不全症候群ウイルス(Human immunodeficiency virus, HIV)などのレンチウイルス由来のものが挙げられる。
通常使用されるレトロウイルスベクターとしては、RNAウイルスであるマウス白血病ウイルス(MoMLV)の基本骨格を利用するものであり、これは宿主域が広く遺伝子導入効率が比較的高い。レトロウイルスベクターを作製方法は当分野で公知である。簡単に言うと、レトロウイルスベクターを作製するためには、先ずウイルスゲノムから、LTR(long terminal repeat)の間のgag、pol、envの大部分を取り除き、その代わりに目的の遺伝子を挿入する。このベクタープラスミドを遺伝子産物、即ち、ウイルス蛋白質(gag、pol、env)を発現するように作られたパッケージング細胞株、即ち、gag、pol、envの核酸を含む細胞株に導入すると、遺伝子産物を発現する組み換えレトロウイルス(レトロウイルスベクター)が培養上清中に産生されるようになる。通常は力価の高いレトロウイルスベクター産生株をクローニングし、同一細胞株を長期的に使用する。上記したようなウイルスベクター産生細胞の培養上澄を用いて標的細胞に感染させるのが一般的である。
【0035】
アデノウイルスは約36kbの大きさの線状二本鎖DNAウイルスである。アデノウイルスベクターの作製方法は当分野で公知であり、以下に概略を説明する。例えば、必須のE1機能の一部又は全部を欠くアデノウイルスなどの複製欠損アデノウイルスを使用する。アデノウイルスベクターの作製方法の概略を以下に説明する。先ず、E1遺伝子領域をアデノウイルスから除去してそこに目的の遺伝子を挿入したコスミドを構築する。このコスミドを、E1遺伝子領域を切断した親ウイルスDNA(末端蛋白質が付いているものを用いる)とともにHEK293細胞に導入する。すると、細胞内で相同組み換えが起こり、非増殖性のアデノウイルスベクターが産生されるようになる。このウイルスベクターは細胞の凍結融解により回収し、塩化セシウム密度勾配超遠心法により精製する。アデノウイルスベクターの特徴は、高力価のベクターが作製でき、広範囲の細胞に効率良く遺伝子導入でき、非分裂細胞にも遺伝子導入が可能であることなどである。癌細胞へ遺伝子導入するのであれば多少の細胞毒性は問題にならない(Horowitz J. 1999, Curr. Opin. Mol. Ther. 4:500−509を参照)。また、一過性の遺伝子発現で治療効果を達成できる場合があることから、アデノウイルスベクターは、特に癌の遺伝子治療に適している。
【0036】
動物細胞を宿主として使用するため、SV40由来のプロモーター、レトロウイルスのプロモーター、メタロチオネインプロモーター、βアクチンプロモーター等のプロモーターを使用することができる。また、必要に応じてエンハンサーを使用してもよい。細胞または組織に特異的な発現は、細胞特異的エンハンサー及び/又はプロモーターを使用することにより達成することができる(一般的には、Huber et al. (1995) Adv. Drug Delivery Reviews 17:279−292を参照)。本発明の組み換えベクターを含む発現ベクターはまた、ベクターを腫瘍細胞に標的化できる腫瘍で上昇調節されている腫瘍マーカー蛋白質又は他の因子の1以上のプロモーター及び/又はエンハンサーを含んでいてもよい。例えば、哺乳類腫瘍細胞で発現の増大が見られるErbB2のプロモーターを利用して、本発明の組み換えベクターを哺乳動物腫瘍細胞に標的化することができる。
【0037】
動物発現用プラスミドベクターの宿主としては、大腸菌K12・HB101株、DH5α株などを使用できる。このような菌株は公的機関から入手可能である。大腸菌の形質転換は当業者に公知である(例えば、Maniatis et alを参照)。ウイルスベクターは、複製コンピテントでも複製欠損でもよい。複製欠損ウイルスベクターは、適当なヘルパー細胞株、即ち、複製に必須なウイルス機能をコードする核酸を含む細胞株で増殖させる。ウイルスベクターの宿主としては、ウイルス生産能を有する動物細胞であり、例えば、COS−7細胞、CHO細胞、BALB/3T3細胞、HeLa細胞等が用いられる。レトロウイルスベクターの宿主としては、ΨCRE、ΨCRIP、MLV等が使用される。アデノウイルスベクター及びアデノ随伴ウイルスベクターの宿主としては、ヒト胎児腎臓由来のHEK293細胞等が用いられる。ウイルスベクターの動物細胞への導入はリン酸カルシウム法、又は当業者に公知の他の方法で行うことができる。
【0038】
得られた形質転換体は、以下の通り培養し、組み換え遺伝子ベクターを生産することができる。
大腸菌の形質転換体の培養は、生育に必要な炭素源、窒素源、無機物その他を含有するpH5〜8程度の液体培地を用いて行うことができる。培養は通常15〜43℃で約8〜24時間程度行う。培養終了後、通常のDNA単離精製法により、本発明の組み換え遺伝子ベクターを取得することができる。
動物細胞の形質転換体を培養は、例えば約5〜20%のウシ胎児血清を含む199培地、MEM培地、DMEM培地などの培地を用いて行うことができる。培地のpHは約6〜8が好ましい。培養は通常約30〜40℃で約18〜60時間行う。本発明の組み換え遺伝子ベクターを含有するウイルス粒子は培養上清中に放出される。ウイルス粒子の濃縮、精製を塩化セシウム遠心法、ポリエチレングリコール沈澱法、フィルター濃縮法等の当業者に公知の方法により行うことにより、本発明の組み換え遺伝子ベクターを取得することができる。
【0039】
III.LIPの制御
本発明は、宿主細胞中におけるLIPの転写及び/又は翻訳を減少、低下または抑制するための組成物および方法を提供する。そのような組成物としては、宿主細胞中におけるLIPの転写を減少、低下または抑制することができるオリゴヌクレオチド、即ち、オリゴヌクレオチドデコイ、リボザイム、及びインタフェアリングRNA(iRNA)が挙げられる。従って、本発明は、細胞中におけるLIPの転写及び/又は翻訳を減少または抑制する方法であって、細胞中におけるLIPの転写を減少、低下または抑制することができるアンチセンス核酸、オリゴヌクレオチド、リボザイム、及び/又はインタフェアリングRNA(iRNA)に細胞を接触させることを含む方法を提供する。LIPの転写及び翻訳は、当業者に公知の手段によって測定することができ、例えば、PCR及びノザンブロットが挙げられる。
【0040】
本発明は、C/EBPβ(CCAAT/エンハンサー結合タンパク質β)遺伝子のヌクレオチド配列中のLIP(転写阻害タンパク質)の開始コドンATGのヌクレオチド配列又はその相補配列を含む、約10から約100ヌクレオチドの長さのオリゴヌクレオチドを提供する。例えば、オリゴヌクレオチドは、細胞中のLIPの機能を減少、低下又は抑制することができる。
例えばオリゴヌクレオチドは約10〜約80ヌクレオチドの長さを有し、例えばオリゴヌクレオチドは約15〜約50ヌクレオチドの長さを有し、例えばオリゴヌクレオチドは約20〜約80ヌクレオチドの長さを有し、例えばオリゴヌクレオチドは約15〜約40ヌクレオチドの長さを有し、例えばオリゴヌクレオチドは約15〜約30ヌクレオチドの長さを有し、例えばオリゴヌクレオチドは約15〜約25ヌクレオチドの長さを有する。例えば、例えばオリゴヌクレオチドは少なくとも約10、11、12、13、14、15、16、17、18、19又は少なくとも約20ヌクレオチドの長さを有する。例えば、オリゴヌクレオチドは最大で約30、40、50、60、70又は80ヌクレオチドの長さを有する。LIP(転写阻害タンパク質)の開始コドンATGの周辺のヌクレオチド配列を含むオリゴヌクレオチドは、LIP発現を減少、低下又は抑制するためのデコイオリゴヌクレオチドとして使用される。さらに、上記ヌクレオチド配列に対して相補的な配列を有するオリゴヌクレオチドは、LIPの発現を減少、低下又は抑制するためのアンチセンスオリゴヌクレオチドとして使用される。例えば、配列番号1の427番目の核酸Gから489番目の核酸Cまでの配列(63塩基対)又はその相補鎖を含む核酸、並びに配列番号3の565番目の核酸Gから627番目の核酸Tまでの配列(63塩基対)又はその相補鎖を含む核酸は、オリゴヌクレオチドデコイ及び/アンチセンス核酸を設計することができる領域である。オリゴヌクレオチド(DNA又はRNA)、即ち、オリゴヌクレオチドデコイ又はアンチセンス核酸はベクターに組み込まれ、細胞中のLIPの発現量を減少又は低下させるために細胞にトランスフェクションされる。理論には拘束されないが、LIPのプロモーターなどがオリゴヌクレオチドに結合する。本発明のオリゴヌクレオチドは単独でも使用でき、または本発明の組み換えベクター又は他の治療と一緒に使用することもできる。
【0041】
上記の両方の場合において、LIPの発現は減少、低下または抑制し、その結果、C/EBPβ(CCAAT/エンハンサー結合タンパク質β)遺伝子から発現するLIP(転写阻害タンパク質)の発現量に対するLAP(転写活性化因子)の発現量の比率は増大する。本書中の実施例で実証した通り、癌のインビボモデルにおいて、LIPの発現を減少させ、それによりLAP/LIPの発現の比率を増大することにより、対照と比較して癌形成と転移が減少するという結果を得た。従って、LIPの発現を減少、低下又は抑制できるオリゴヌクレオチド又はアンチセンス核酸又はiRNAを細胞に投与又は導入することは、例えば、癌形成及び/又は転移を含む癌に付随する症状の減少、そして例えば腫瘍増殖の遅延に相関する。
【0042】
インタフェアリングRNA(iRNA)は、抑制すべき遺伝子に相同な二本鎖RNA(dsRNA)により開始される配列特異的な転写後の遺伝子スプライシングの機構である(Sharp, P., 2001, Genes & Development, 15:485−490を参照)。mRNAとその相補鎖形態から成るdsRNAは、RNA−RNA二本鎖を形成する。この二本鎖領域は、RNAseIII様酵素で分解され、mRNAは翻訳されない。細胞に導入する場合、短いdsRNA(小さいインタフェアリングRNAすなわちsiRNA)も、当該短いdsRNAの配列を含むmRNAを分解するのに有効である。理論には拘束されないが、細胞性RNA分解系が細胞中に存在し、ウイルス又はトランスポゾンRNAに対する保護の手段としてdsRNAによって刺激されている可能性があることを示唆する証拠がある。本発明は、LIPの開始コドンATGの周辺のヌクレオチド配列を含み、LIP発現を減少、低下及び/又は抑制できるインタフェアリングRNA配列を包含する。例えば、iRNAは、配列番号1のヌクレオチド配列の457番目から459番目のヌクレオチド及び配列番号3のヌクレオチド配列の595番目から597番目のヌクレオチドに対応するLIPの開始ATGを標的化するように設計される。iRNAの設計手段は当業者に既知である。本発明のiRNAは単独でも使用することができ、または本発明の組み換えベクター及び/又はLAP活性を有する変異LAPポリペプチド及び/又は他の治療と一緒に使用することができる。
【0043】
あるいはまた、本発明は、例えばLAPの発現に影響を与えずに、LIPの転写を減少、低下、停止又は抑制するリボザイムの使用をも包含する。LIPを減少、低下又は抑制することができるリボザイムは単独でも使用することができ、または本発明の組み換えベクター及び/又はLAP活性を有する変異体LAPポリペプチド及び/又は他の治療と一緒に使用することができる。
【0044】
LIPの発現を減少、低下及び/又は抑制できる特定のオリゴヌクレオチド、アンチセンス核酸及びiRNAをスクリーニングするアッセイは当業者に公知であり、本書に記載されている。簡単に言うと、本書中の実施例に開示したアッセイにおいては、g6乳癌細胞株を、被験試料、例えば、本発明の組み換えベクター、オリゴヌクレオチド、アンチセンス又はiRNAと接触させ、形態および細胞接着について組織学的に試験を行う。LIPの発現を減少、低下及び/又は抑制できる組み換えベクター、オリゴヌクレオチド、アンチセンス又はiRNAと接触させた細胞において、その形態は正常の癌でない細胞と同様であろう。また、そのような細胞をヌードマウスに導入して、癌形成能及び転移をアッセイすることができる。CCAAT/エンハンサー結合タンパク質β(C/EBPβ)遺伝子の一部又は全部のヌクレオチド配列を含み、該C/EBPβ遺伝子の一部又は全部がLIP転写阻害タンパク質の開始コドンATGの周辺の核酸を含み、該ヌクレオチド配列は該LIP転写阻害タンパク質のATGに変異を含むウイルスベクターなどの組み換えベクターを対照として使用することができる。本書の実施例に記載した組み換えベクターはスクリーニングアッセイにおいて対照として使用できる。
【0045】
IV.組成物および用途
組成物
本発明は、本発明の組み換えベクター、組み換えウイルスベクター又はウイルス粒子、オリゴヌクレオチド、アンチセンスRNA又はiRNAを含む組成物を包含する。例えば、組成物にはさらに、薬学的に許容できる賦形剤又は担体、又は緩衝剤を含めてもよい。
例えば、上記組成物は、癌及び/又は腫瘍増殖などの、細胞又は個体におけるLAP/LIPの比率に関連した疾患又は状態の症状を治療及び/又は緩和するための方法において使用される。例えば、本書に開示した組成物は腫瘍溶解活性を示す。本書で使用する用語「治療する」又は「治療」とは、癌などの疾患や望ましくない状態の1以上の症状を緩和、改善、減少又は安定化すること、並びに疾患又は望ましくない状態の1以上の症状の進行を遅延させることを意味する。本発明の組成物は、当業者に既知の化学療法剤、放射線及び/又は抗体などを含むがこれらに限定されない他の治療法と組み合わせて使用してもよいし、組み合わせなくてもよい。例えば、本発明の組成物は、エピモルフィンの一部又は全部と組み合わせて投与される。
【0046】
本書で使用する用語「悪性」、「悪性細胞」、「腫瘍」、「腫瘍細胞」、「癌」及び「癌細胞」(同義で使用する)とは、比較的自律した増殖を示し、その結果、細胞増殖の制御の有意な喪失を特徴とする異常増殖表現型を示す細胞のことを意味する。用語「腫瘍」は転移性腫瘍と非転移性腫瘍を包含する。
本明細書で使用する「腫瘍溶解活性」とは、腫瘍及び/又は悪性及び/又は癌細胞の増殖の阻害又は抑制;腫瘍及び/又は悪性及び/又は癌細胞の増殖の退行;腫瘍及び/又は悪性及び/又は癌細胞の細胞死、又はさらに別の腫瘍及び/又は悪性及び/又は癌細胞の発生の防止を意味する。本明細書で使用する「腫瘍の増殖の阻害又は抑制」とは、本発明の組成物又は方法を含むVSVの投与に際して、腫瘍の増殖速度の低減、腫瘍増殖を完全に停止すること、存在する腫瘍の大きさを退行させること、存在する腫瘍を絶滅すること、及び/又はさらに別の腫瘍の発生を防止することを意味する。腫瘍の増殖の「抑制」とは、本発明の組成物と接触しない場合の増殖と比較して低減した増殖状態のことを意味する。腫瘍細胞の増殖は、腫瘍サイズの測定、腫瘍細胞の増殖の有無についての3Hチミジン取り込みアッセイを用いた測定、又は腫瘍細胞の計測などを含むがこれらに限定されない当業者に公知の方法で評価することができる。腫瘍及び/又は悪性及び/又は癌細胞の増殖の「抑制」とは、以下の状態;腫瘍の増殖の緩和、遅延及び停止、並びに腫瘍の収縮の何れか又は全てを意味する。腫瘍及び/又は悪性及び/又は癌細胞の「成長の遅延」とは、疾患の発達を遅らせ、阻害し、緩和し、妨害し、安定化し、及び/又は延期することを意味する。この遅延は、治療する疾患及び/又は個人の経歴に応じて、時間の長さが変化する。
【0047】
本発明は、本発明の組み換えベクター、又はLIP発現、特に本書に記載した悪性細胞及び/又は腫瘍細胞に伴うLIP発現を減少、低下及び/又は抑制することができるオリゴヌクレオチド、アンチセンス核酸又はiRNAを用いて、LAP/LIPの比率を増大させる組成物及び方法を包含する。治療に望ましい個体は、癌、腫瘍又は悪性細胞の発達の危険にあると考えられる個体、例えば、癌、悪性細胞又は腫瘍細胞を含む疾患を以前に患ったことがある個体、又はそのような癌、腫瘍細胞又は悪性細胞の経歴を家系に有する個体などである。本発明の組成物の投与の適性の決定は、血清学的指標及び細胞、組織又は腫瘍生検の組織学的検定などの評価可能な臨床パラメーターに依存する。一般的には、薬学的に許容可能な賦形剤中の組成物を投与する。
【0048】
従って、本発明は、癌又は腫瘍細胞に本発明の組み換えベクター又は変異LAPポリペプチド、又は核酸構築物、例えば、オリゴヌクレオチド又はアンチセンス核酸又はiRNAを接触させ、それによって腫瘍又は細胞中のLAP/LIPの比率を増加させる工程を含む、癌又は腫瘍増殖を抑制する方法を提供する。
例えば、そのような組成物は、宿主細胞中のLAP/LIPの比率を調節する薬剤をスクリーニングする方法において使用される。例えば、スクリーニング方法を使用して、宿主細胞中のLIPの発現を減少、低下又は抑制する薬剤を同定する。例えば、スクリーニング方法を使用して、宿主細胞中のLAPの発現を増大したり、又は宿主細胞中のLAPの生物学的活性を増大する薬剤を同定する。例えば、薬剤、組み換えベクター又は核酸構築物は、本書に開示したスクリーニングアッセイで測定した場合に腫瘍溶解活性を有する。
【0049】
更に別の例では、本発明は、癌細胞、悪性細胞又は腫瘍細胞が、本発明の組成物による治療に感受性かどうかを決定する方法であって、(a)癌、悪性又は腫瘍の細胞を含む試料を第一の部分と第二の部分とに分け;(b)CCAAT/エンハンサー結合タンパク質β(C/EBPβ)遺伝子の一部又は全部のヌクレオチド配列を含み、該C/EBPβ遺伝子の一部又は全部がLIP転写阻害タンパク質の開始コドンATGの周辺の領域を含み、かつ該ヌクレオチド配列が該LIP転写阻害タンパク質の開始コドンATG中に変異を含むウイルスベクター又は組み換えベクター、又はLIPの転写を低下できるオリゴヌクレオチド又はアンチセンス核酸又はiRNA、又は本書に開示したスクリーニング方法で同定される薬剤などの組成物で上記第一の部分を処理し;そして(c)上記第一の部分中の死滅細胞の割合が上記第二の部分よりも高いかどうかを決定し、第一の部分中の死滅細胞の割合が上記第二の部分よりも高い場合に、癌、悪性又は腫瘍が該組成物による治療に感受性であるとする、ことを含む方法を提供する。
【0050】
例えば、本発明はさらに、遺伝子治療剤、即ち、細胞に投与又は送達される薬剤であって、C/EBPβ (CCAAT/エンハンサー結合タンパク質β)遺伝子のヌクレオチド配列中のLIP(転写阻害タンパク質)の開始コドンATGを別のコドンに置換し、置換されたコドンがTTGではないC/EBPβ遺伝子の一部又は全部のヌクレオチド配列を含む組み換え遺伝子を含む薬剤、又は本発明のオリゴヌクレオチド又はアンチセンス核酸又はiRNAを含む薬剤に関するものである。そのような組成物は、癌の症状の治療及び/又は緩和、例えば、腫瘍の増殖の遅延のための方法において使用することができる。例えば、そのような薬剤は、腫瘍細胞又は悪性細胞に局所的に、即ち、腫瘍内に投与する場合、並びに静脈内投与又は他の経路によって腫瘍又は悪性細胞の先端に投与する場合、腫瘍溶解活性を示す。例えば、本発明の組み換えベクター又は変異LAPポリペプチド又は核酸構築物(例えば、オリゴヌクレオチド又はアンチセンス核酸又はiRNAなど)の投与については、処理した細胞を治療後に個体に戻すex vivoで行うことができる。
【0051】
治療すべき癌の具体例としては、悪性黒色腫、悪性リンパ腫、消化器癌、肺癌、食道癌、胃癌、大腸癌、直腸癌、結腸癌、尿管腫瘍、胆嚢癌、胆管癌、胆道癌、乳癌、肝臓癌、膵臓癌、睾丸腫瘍、上顎癌、舌癌、口唇癌、口腔癌、咽頭癌、喉頭癌、卵巣癌、子宮癌、前立腺癌、甲状腺癌、脳腫瘍、カポジ肉腫、血管腫、白血病、真性多血症、神経芽腫、網膜芽腫、骨髄腫、膀胱腫、肉腫、骨肉腫、筋肉腫、皮膚癌、基底細胞癌、皮膚付属器癌、皮膚転移癌、皮膚黒色腫などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。対象となる癌の好ましい例は、乳癌および肝臓癌である。
【0052】
本発明の方法で使用するための組成物は、ウイルスベクターなどの組み換え遺伝子ベクター(又はオリゴヌクレオチド又はアンチセンス核酸又はiRNA)を有効成分として基剤と一緒に配合することにより製造することができる。
また、上記組み換えウイルスベクターがウイルスベクターに組み込まれている場合は、組換え体DNAを含有するウイルス粒子を調製し、これを基剤と一緒に配合することにより、遺伝子治療用組成物、即ち、細胞送達剤を製造することができる。
【0053】
遺伝子治療剤に用いる基剤としては、通常注射剤に用いる基剤を使用することができ、例えば、蒸留水、塩化ナトリウム又は塩化ナトリウムと無機塩との混合物等の塩溶液、マンニトール、ラクトース、デキストラン、グルコース等の溶液、グリシン、アルギニン等のアミノ酸溶液、有機酸溶液又は塩溶液とグルコース溶液との混合溶液等が挙げられる。あるいはまた、当業者に既知の常法に従って、これらの基剤に浸透圧調整剤、pH調整剤、植物油、もしくは界面活性剤等の助剤を用いて、溶液、懸濁液、分散液として注射剤を調製することもできる。これらの注射剤は、粉末化、凍結乾燥等の操作により用時溶解用製剤として調製することもできる。また、本発明の薬剤は投与する直前に、必要によりリポソーム等に封入し、癌の症状の治療及び/又は緩和のために用いることができる。
【0054】
本発明の組成物の生体への導入方法としては、遺伝子を化学的または物理的に導入する方法(遺伝子移入:トランスフェクション)と、ウイルスを用いる方法(遺伝子導入:トランスダクション)とが知られている。
生体内への物理的な遺伝子移入法(トランスフェクション)としては、インビボ・エレクトロポレーション法、並びに遺伝子銃法がある。インビボ・エレクトロポレーション法では、生体組織に直接電圧パルスを印加してDNAを入れる方法である。DNAを適当な緩衝液(例えば、1mM Tris、25μM EDTA、150mM NaCl)に溶解し、得られた溶液をガラス電極を用いて組織に注入する。遺伝子銃法は、金粒子に付着させたDNAを加速させて細胞内に射入する方法である。大気圧下で、Biorad社が開発した手持ち銃型のHelios銃による、インビボ法で個体内に直接、簡単かつ高効率で遺伝子を導入することができる(Kuo C. F. et al. 2002, Methods of Mol. Med. 69:137−147を参照)。遺伝子銃法によれば、エンドソームなどのDNA分解系の影響を受けず、遺伝子をどの組織にも導入でき、また特定の部位に遺伝子導入することができる点が有利である。
【0055】
生体内への化学的な遺伝子移入法としては、リポソーム法、膜融合蛋白質−リポソーム法、リポフェクション法などがある(Nidome T and Huang L, 2002, Gene Ther. 24: 1647−1652)。
リポソームは、リン脂質などの極性脂質が水相中で形成する小胞である。リポソーム形成の際にリポソーム内に取り込まれた遺伝子は膜内に保持される。また、リポソームに特定の蛋白質を化学結合させて、得られた産物を目的とする細胞に集中させるミサイル療法を行なうこと、即ち、目的の細胞を送達の標的にすることも可能である。
【0056】
膜融合蛋白質−リポソーム法では、各種のウイルスの細胞への進入手段である、ウイルス外被(envelope)をリポソームに結合させておく。例えば、中性でも融合能が高く、細胞融合で多核細胞を作るセンダイウイルスの膜融合蛋白質を使用することができる。
リポフェクション法はカチオン性脂質を用いる方法である。カチオン性脂質は、導入遺伝子の負電荷を中和すると同時に、形質膜表面の負電荷を中和し、脂質の疎水性によって膜に融合してDNAを巻き込むものと考えられている。カチオン性脂質の具体的商品例としては、リポフェクチン、リポフェクタミン、トランスフェクタムなどがある。このようなカチオン性脂質はリポソーム様の構造をとると考えられるが、導入遺伝子はリポソームの表面に結合されている。
【0057】
トランスダクションはウイルスを用いて遺伝子を生体に導入する方法であり、遺伝子を高効率で導入できる方法である。具体的には、レトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、又はアデノ随伴ウイルスベクターなどを使用することができる。
薬学的に許容できる担体は当業者に周知であり、生理食塩水、緩衝生理食塩水、デキストロース、水、グリセロール、滅菌等張水性緩衝液、及びこれらの組み合わせなどが挙げられるが、これらに限定されない。そのような許容できる担体の一例は、安定化加水分解タンパク質、ラクトース等の1種以上の安定化剤を含む生理学的にバランスのとれた培地である。担体は好ましくは滅菌である。剤型は投与様式に適したものとするべきである。
【0058】
所望により、本組成物には、少量の湿潤剤又は乳化剤、又はpH緩衝剤を含めることができる。本組成物は液体溶液、懸濁液、乳液、錠剤、丸薬、カプセル剤、持続放出製剤、又は粉末剤とすることができる。経口製剤としては、薬学的規格のマンニトール、ラクトース、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、セルロース、炭酸マグネシウム等の標準担体を含むことができる。
一般的に、成分は別々に供給するか、例えば、活性剤の量を表示するアンプル又は小袋などの密閉容器中に凍結乾燥粉末又は水を含まない濃縮物として単回投与形態で一緒に混合する。組成物を注入により投与する場合、滅菌希釈剤のアンプルを供給して、成分を投与前に混合することができる。
組成物又は製剤で使用する組成物中の薬剤の正確な量はまた、投与経路、治療されるヒトなどの細胞又は個体の性質に依存し、標準的な臨床技術に従って実務者の判断及び状況に従って決定するべきである。所定の製剤で使用する薬剤の正確な量は、所望の活性、例えば腫瘍溶解活性を生み出すのに必要な組成物の最小量が付与される限りは、重要ではない。約10mgから1mg以上程度の投与量範囲が意図される。
【0059】
本発明のベクター又はウイルス粒子又は核酸組成物の有効投与量は、動物モデル試験系から得た投与量・応答曲線から推定してもよい。
本発明の遺伝子治療剤の投与量は、患者の年齢、性別もしくは症状、又は投与経路もしくは投与回数、又は剤型によって異なる。一般に、成人では一日当たりの組み換え遺伝子の投与量は、約1μg/kgから1000mg/kg程度の範囲であり、他の例では、約10μg/kgから100mg/kg程度の範囲である。投与回数は特に限定されない。ウイルスとして投与する場合、約102から約107p.f.u、例えば、約103から約106p.f.u、例えば、約104から約105p.f.uを投与できる。ポリヌクレオチド構築物、例えば組み換えベクター(即ち、ウイルスとしてパッケージされていない)として投与する場合、約0.01μgから約1000μgの本発明の構築物を投与することができ、例えば、約0.1μgから約500μg、例えば、約0.5μgから約200μgを投与できる。1より多くの組成物を同時又は連続的に投与することができる。例えば、本発明の組成物は、エピモルフィンの一部又は全部と一緒に投与される。投与は典型的には、応答をモニターしながら定期的に行う。投与は、例えば、腫瘍内、静脈内又は腹腔内に行う。
【0060】
多くの方法を使用して、ウイルスベクター又はウイルス粒子などの本発明の組成物を個体に投与又は導入することができ、例えば、皮内、筋肉内、腹腔内、静脈内、腫瘍内、皮下、及び鼻腔内投与などが挙げられるが、これらに限定されない。組成物を投与する個体は、霊長類であり、別の実施例では哺乳類であり、別の実施例ではヒトであるが、非ヒト哺乳類としては、牛、馬、羊、豚、猫、犬、ハムスター、マウス及びラットなどが挙げられるが、これらに限定されない。本発明の薬剤の投与形態としては、通常の静脈内、動脈内等の全身投与でもよいし、あるいは癌原病巣または予想転移部位に対して、局所注射又は経口投与等の局所投与を行ってもよい。さらに、本発明の薬剤の投与にあたっては、カテーテル技術、遺伝子導入技術、または外科的手術等と組み合わせた投与形態をとることもできる。
【0061】
また、エピモルフィンはC/EBPβの発現を増大させる作用が有することが知られている(Hirai et al., Journal of Cell Biology, Vol.153, No.4, 2001, 785−794)。従って、本発明の遺伝子治療剤は、エピモルフィン活性を有する蛋白質又はペプチドと組み合わせて使用することにより、その治療効果をさらに高めることができる。
【0062】
使用
LAP(転写活性化因子)/LIP(転写阻害タンパク質)の発現量の比率の変化
LIP発現を減少、低下又は抑制できるか、LAP発現を増大できる、本書中上記の組み換え遺伝子ベクター又はオリゴヌクレオチド又はアンチセンス核酸、又はiRNAを含む医薬組成物などの本発明の組成物を用いることによって、細胞中に発現されるLAP(転写活性化因子)/LIP(転写阻害タンパク質)の発現量の比率を変化させることができる。従って、本発明は、細胞中のLAP(転写活性化因子)/LIP(転写阻害タンパク質)の発現量の比率を変化させる方法であって、細胞に本明細書に記載の組み換えベクター又は本明細書に記載のオリゴヌクレオチド又はアンチセンス核酸又はiRNAを好適な条件下で接触させることを含む方法を提供する。この方法も本発明の範囲内である。特に本発明においては、LAP(転写活性化因子)/LIP(転写阻害タンパク質)の発現量の比率を変化させて、LIP(転写阻害タンパク質)発現量に対するLAP(転写活性化因子)の比率(LAPの発現量/LIPの発現量)を上昇させることによって、本発明の組成物の抗癌作用又は腫瘍溶解作用、又は例えば、腫瘍抑制作用を達成することができる。即ち、癌患者におけるLAP(転写活性化因子)/LIP(転写阻害タンパク質)の発現量の比率の異常を正常に戻す工程を含む、癌に関連する症状を治療及び/又は緩和する方法、例えば、癌の増殖を抑制する方法も本発明の範囲内である。
【0063】
抗癌剤のスクリーニング方法
本発明は、C/EBPβ(CCAAT/エンハンサー結合タンパク質β)遺伝子から発現されるLAP(転写活性化因子)およびLIP(転写阻害タンパク質)の発現量の比率を指標として用いる、薬剤のスクリーニング方法に関する。本発明のスクリーニング方法によれば、癌患者におけるLAP(転写活性化因子)/LIP(転写阻害タンパク質)の発現量の比率の異常を正常に戻す作用を有する物質を選択することができる。このようにして選択される癌患者におけるLAP(転写活性化因子)/LIP(転写阻害タンパク質)の発現量の比率の異常を正常に戻す作用を有する物質は、例えば、癌の増殖を遅延させるなどの癌の症状を治療及び/又は緩和するために有用である。
【0064】
C/EBPβ(CCAAT/エンハンサー結合タンパク質β)遺伝子から発現されるLAP(転写活性化因子)およびLIP(転写阻害タンパク質)の発現量の比率は、当業者に既知の常法、例えば、ノザンブロット法、RT−PCR法、又はウエスタンブロット法などにより測定することができる。なお、これらの方法においてLAPおよびLIPを検出するために使用するプローブ、プライマー又は抗体は、本明細書に記載したLAP及びLIPのヌクレオチド配列及びアミノ酸配列を用いて常法により当業者であれば適宜入手・作製することができる。本発明のスクリーニング方法に供される被験物質の種類は特に限定されず、任意の物質を使用することができる。被験物質は、オリゴヌクレオチド、アンチセンス核酸、iRNA、低分子合成化合物、又は天然物抽出物中に存在する化合物でもよく、あるいは化合物ライブラリー、ファージディスプレーライブラリーもしくはコンビナトリアルライブラリーでもよい。ある実施例としては、被験物質は低分子化合物であり、低分子化合物の化合物ライブラリーが好ましい。化合物ライブラリーの構築は当業者に公知であり、また市販の化合物ライブラリーを使用することもできる。
本発明を以下の実施例により詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0065】
【実施例】
実施例1:ベクターの構築
(a) ラットのLAPの全配列をpTetT−splice(GIBCO BRL)に組み込んだベクター(Hirai et al J.Cell Biol, Vol.153,No.4, 2001, 785−794)をテンプレートとし、以下のプライマー(プライマー1:GGG GGA TCC CGCCAT GGA AGT GGC CAA CTT CTA CTAC(配列番号5);およびプライマー2:ATA TGC TAG CGC GGG CGC GTC GTC CGC GCG CTT GCA(配列番号6))、ならびにLATag(タカラ)を用いて、LIP領域を欠損したLAPcDNAを作成し、BamHI,NheI処理して末端を制限サイトにした。
(b) プロメガpTARGET(プロメガ)のベクターをNheI,BamHIで処理し、ここにライゲーションキット(タカラ)を用いて上記(a)で作製したcDNAを挿入した。
(c) PtetLAPをテンプレートとして、以下のプライマー(プライマー3:ATA TGC TAG CGG CCG GCT TCC CGT TCG CCC TGC GCG(配列番号7);およびプライマー4:ATA TGC TAG CAG TGA CCC GCC GAG GCC AGC AGC GGC(配列番号8))と、LATag(タカラ)を用いて、LIP領域cDNAを作成し、NheI処理で末端をNheIサイトにした。
【0066】
(d) いったん大腸菌内で増殖し、精製した(b)のプラスミドを、NheIで切断し、アルカリホスファターゼ(タカラBAP)で末端を脱リン酸化し、タカラライゲーションキットを用いて▲3▼を挿入した。
(e) 配列を決定を行うことにより、プラスミドLAP内のLIP翻訳開始コドンであるATGが、CGCに置換していることを確認した(変異導入LAPの確認)。
(f) pTet−spliceベクター(GIBCO BRL)のEcoRIサイトを切断し、BAP処理した後、(e)から切り出した変異導入LAPを含むEcoRI切断フラグメントを挿入した。(pTet−splice変異導入LAPの作製)
【0067】
実施例2:細胞培養と遺伝子導入
g6細胞(乳癌細胞株)(Desprez et al.,1993, Mol.Cell Differ. 1:99−110:Roskelley et al. 1994, Proc.Natl.Acad.Sci.USA. 91, 12378−12382; Hirai et al.,1998, J.Cell.Biol. 140:159−169)を増殖培地(5%のFBS[Hyclone]、5μg/mlのインスリン [Sigma−Aldrich]、および50μg/mlのゲンタマイシンを添加したDME/F12 [GIBCO BRL] )中で維持した。g6細胞(5×105)に、実施例1で得たベクター(5μg)、pTet.tTAKベクター(Life Technologies)(5μg)、及びpSV40neo (Schmidhauser et al., 1992, Mol.Biol.Cell. 3:699−709)(0.5μg)をリポフェクタミン(Life Technologies社製)を取扱説明書に従って使用してトランスフェクションした。テトラサイクリンの継続的な存在下でネオマイシン耐性クローンを選択した後、5μg/mlのテトラサイクリンの存在下および非存在下においてLAPの発現をウエスタンブロットにより分析した。g6LAP、g6LAP’、g6LAP”細胞株は、この方法で単離した。
【0068】
実施例3:変異導入LAPによる細胞の形態変化
g6細胞とg6LAP細胞の形態を図1に示す。テトラサイクリンなしで培養すると、変異導入LAP遺伝子を発現させた細胞では細胞接着がみられ、形態的にも正常細胞に類似していた。
【0069】
実施例4:変異導入LAPによるE−カドヘリンの発現誘導
ウエスタンブロットを通常の方法に従って行った。24穴プレートで培養した細胞に500μlのSDSサンプルバッファーを加えた。細胞を回収し、超音波処理した。得られた試料を4〜20%ゲルで電気泳動し、PVDF膜にブロットし、5%スキムミルクを含むTBS(TBST)で1時間ブロックした。TBST中で1/500希釈した抗E−カドヘリン抗体(ECCD2,タカラ)と1時間反応させた。TBSを用いて10分間の洗浄を2回行った。TBST中で1/1000希釈した抗ラットIgHRPラベル(アマシャムファルマシマ)と1時間反応させた。TBSで10分間で3回、十分に洗浄した後、ECL(アマシャムファルマシマ)を用いてオートラジオグラフィを行った。結果を図2に示す。図2の結果から分かるように、テトラサイクリンを含まない培地で変異導入したLAPの発現を誘導した結果(g6LAP、g6LAP’、g6LAP”の3つの異なるクローン)、E−カドヘリンの発現が誘導された。
【0070】
実施例5:ヌードマウスへの移植
g6細胞、g6LAP細胞、g6LAP’細胞、およびg6LAP”細胞をテトラサイクリンの非存在下で培養し、それぞれ107個を回収し、PBSで2回洗浄した。ヌードマウス(Balb/c)5匹を購入し、2匹にはg6、残り3匹にはg6LAP,g6LAP’,g6LAP”を107ずつ腹腔内に注入した。30日後、全マウスを殺し、開腹したところ、g6移植マウスでは、癌の発生および転移が顕著であった。一方、g6LAP、g6LAP’又はg6LAP”を移植したマウスでは、癌の発生及び転移は認められなかった。以上の結果から、変異導入LAP遺伝子を有するg6LAP細胞、g6LAP’細胞、およびg6LAP”細胞では、癌形成能が喪失していることが実証された。
【0071】
【配列表】
<210> 7<211> 36<212> DNA<213> Artificial Sequence<220><223> Oligo DNA<400> 7atatgctagc ggccggcttc ccgttcgccc tgcgcg 36<210> 8<211> 36<212> DNA<213> Artificial Sequence<220><223> Oligo DNA<400> 8atatgctagc agtgacccgc cgaggccagc agcggc 36
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、g6細胞とg6LAP細胞の形態を示す。
【図2】図2は、変異導入LAPによるE−カドヘリンの発現誘導の結果を示す。
【技術分野】
本発明は、細胞におけるLAP/LIP比率を調節する組成物及び方法を提供する。特に本発明は、LAP(転写活性化因子)活性をコードする組み換えベクターであって、LIP活性の発現が阻害されており、かつLIPがLAP活性を抑制しないようにLIP活性の発現が阻害される、組み換えベクター、並びに、LIP活性の発現を減少させるオリゴヌクレオチド及びアンチセンス核酸を提供する。本発明はさらに、薬剤がC/EBPβ遺伝子から発現されるLIPに対するLAPの発現量の比率を調節するかどうかをスクリーニングする方法も提供する。
【0002】
【従来技術】
広範な研究及び膨大な進歩にも関わらず、癌は米国における2番目の死因である。癌の形成には連続した遺伝的障害を伴うことが知られている。このような遺伝的障害として報告されているものの多くは、優性癌遺伝子の形質転換機能の獲得やp53などの癌抑制遺伝子の癌抑制機能の損失により引き起こされる。即ち、癌遺伝子の優性ネガティブ変異体や癌抑制遺伝子を癌細胞内に、例えば、p53を組み込んだレトロウイルスベクターなどを用いて導入することによってこのような遺伝的異変を矯正すれば、癌の症状を緩和及び/又は治療できる可能性がある(Alavi J.B. et al., 2001, Expert. Opin. Biol. Ther. 1:239−252)。
【0003】
また、癌の治療のためにサイトカイン遺伝子を細胞又は組織に導入することも試みられている。例えば、サイトカイン遺伝子をリンパ球(例えば、リンホカイン活性化キラー細胞(LAK)、細胞障害性T細胞 (CTL)、腫瘍浸潤リンパ球(TIL)など)に導入して、導入細胞から分泌されるサイトカインによりリンパ球を活性化して受動免疫能を高めたり、TILに直接抗腫瘍性のあるIFNまたはTNF遺伝子を導入することにより腫瘍局所での抗腫瘍性を高めるという試みがなされている(Treisman J. et al., 1994, Cell Immunol. 156: 448−457、及びHwu et al.,1993, J. Immumol. 150:4104−4115)。
さらに、レトロウイルスベクターなどにより腫瘍細胞にサイトカイン遺伝子を導入して、この導入された細胞を腫瘍ワクチンとして用い、宿主の腫瘍特異的免疫細胞を誘導するという試みも報告されている(Adris S. et al., 2000, Cancer Res. 60:6696−6703、及びHiroishi K et al., 1999, Gen Ther. 12: 1988−1994)。
【0004】
CCAAT/エンハンサー結合タンパク質β(C/EBPβ)遺伝子は多数の発達過程に関与している(Hirai et al., 2001, J. of Cell Biol. Vol. 153: 785−794)。C/EBPβ遺伝子のヌクレオチド配列中には、2つの転写開始位置が存在し、それぞれの転写位置からタンパク質が翻訳されることにより、LAP(転写活性化因子)およびLIP(転写リプレッサー)が生成する(Descombes et al., 1991, Cell, Vol. 67, 569−579)。また、LAP/LIPの比率が増加すると、ある標的遺伝子の転写活性が高くなること、並びに、ラット肝臓の分化の最終段階ではLAP/LIPの比率が増大することが報告されている(Descombes et al.,上掲)。さらに、Buck et al., 1994, EMBO Journal Vol.13, No.4, pp.851−860には、肝細胞の分化やその静止状態はLAP/LIP比で調節されることが記載されている。
【0005】
Hirai et al.(上掲)には、乳腺の筋上皮細胞および線維芽細胞の表面に発現し、乳腺の形態形成に関与するタンパク質であるエピモルフィンで細胞を処理すると、C/EBPβの発現が増大し、コードされるLAP/LIP比が変化することが報告されている。
癌の症状の治療の進歩にも関わらず、癌の症状を治療及び/又は緩和することができる薬剤をスクリーニングする方法、並びに症状を治療及び/又は緩和する方法に対する要求は依然として存在する。
本明細書に開示した全ての特許文献及び刊行物は全体として引用により本明細書中に取り込むものとする。
【0006】
【発明の概要】
本明細書に開示した本発明は、細胞又は個体におけるLAP活性/LIP活性の比率を調節するための組成物および方法を提供する。
本発明は、LAP(転写活性化因子)活性をコードする組み換えベクターであって、LIP活性の発現が阻害されており、かつLIPがLAP活性を抑制しないようにLIP活性の発現が阻害される、組み換えベクターを提供する。例えば、組み換えベクターは、CCAAT/エンハンサー結合タンパク質β(C/EBPβ)遺伝子の一部又は全部のヌクレオチド配列を含み、該C/EBPβ遺伝子の一部又は全部がLIP(転写阻害タンパク質)の開始コドンATGの周辺のヌクレオチド配列を含み、かつ該ヌクレオチド配列がLIP転写阻害タンパク質の開始コドンATGの周辺に変異を有している。別の例としては、開始コドンの周辺の変異は、ATGを別のアミノ酸をコードするコドンに置換したものであり、該置換されたコドンはTTGではない。別の例としては、該変異は、ATGを、Ala、Gly及びProから成る群からのアミノ酸をコードするコドンに置換したものである。さらに別の例としては、該変異は、ATGを、アミノ酸Argをコードするコドンに置換したものである。例えば、組み換えベクターは、レトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、又はアデノ随伴ウイルスベクターなどのウイルスベクターである。別の例としては、本発明は本発明のウイルスベクターを含むウイルス粒子を提供する。
【0007】
本発明はまた、LIPの開始コドンATGを別のコドンに置換した変異LAPポリペプチドであって、置換されたコドンがTTGではなく、例えば、それは翻訳停止コドンではない、変異LAPポリペプチドを提供する。例えば、変異LAPポリペプチドにおいては、LIPの開始コドンATGがAla、Gly、Pro又はArgをコードするコドンで置換されている。本発明はまた、上記ポリペプチドをコードする単離された核酸を提供する。本発明はまた、C/EBPβ遺伝子のヌクレオチド配列中のLIP(転写阻害タンパク質)の開始コドンATGの周辺の約10〜約100ヌクレオチドの長さのヌクレオチド配列又はその相補配列を有するオリゴヌクレオチドであって、当該オリゴヌクレオチド又はその相補配列がLIPの発現を減少できる、オリゴヌクレオチドを提供する。例えば、オリゴヌクレオチドは、約10〜約80ヌクレオチドの長さである。別の例としては、オリゴヌクレオチド配列は、約15〜約50ヌクレオチドの長さである。
【0008】
本発明はまた、本発明の組み換えベクター、オリゴペプチド又は変異LAPポリペプチド(または当該ポリペプチドをコードする単離された核酸)を含む、宿主細胞、組成物およびキット、並びにそれらの作成方法を提供する。
【0009】
本発明はまた、細胞に、本発明の組み換えベクター又は本発明のオリゴペプチド又は本発明の変異LAPポリペプチドを好適な条件下で接触させることを含む、細胞中のLAP(転写活性化因子)/LIP(転写阻害タンパク質)の発現量の比率を変化させる方法を提供する。例えば、細胞は、乳癌細胞又は肝臓癌細胞などの癌細胞である。本発明はまた、個体におけるLAP(転写活性化因子)/LIP(転写阻害タンパク質)の発現量の比率の異常に関連する疾患及び/又は状態の症状を治療及び/又は緩和する方法であって、個体に、本発明の組み換えベクター、又はオリゴヌクレオチド、又は変異LAPポリペプチドを投与することを含む方法を提供する。例えば、疾患又は状態は癌である。本発明はまた、薬剤がC/EBPβ遺伝子から発現するLAP(転写活性化因子)/LIP(転写阻害タンパク質)の発現量の比率を変化させるかどうかをスクリーニングする方法であって、C/EBPβ遺伝子を該薬剤と接触させてLAP発現/LIP発現の比率を測定する工程を含む方法を提供する。例えば、該薬剤は低分子化合物である。別の例では、該薬剤は天然由来物質の抽出物である。更に別の例では、比率をノザンブロットにより測定する。例えば、哺乳動物細胞がC/EBPβ遺伝子を含む。例えば、本発明の方法は、細胞中のLAPの発現量を増大する薬剤を同定すること、又は細胞中のLIPの発現量を低下する薬剤を同定することをさらに含むものである。
【0010】
本発明は、癌の症状の治療及び/又は緩和のための医薬の製造における本発明の組み換えベクターの使用に関する。本発明はまた、癌の症状の治療及び/又は緩和のための医薬の製造における本発明の変異LAPポリペプチドの使用に関する。本発明はまた、癌の症状の治療及び/又は緩和のための医薬の製造における本発明の本発明のオリゴヌクレオチドの使用に関する。
【0011】
本書に開示した発明は、細胞中のLAP/LIPの比率を調節するための組成物および方法を提供する。本発明は、細胞中のLAP/LIPの比率を変化させるための、例えば、LAP/LIPの比率を増加させるための組成物及び方法を提供する。本書に開示した発明は、CCAAT/エンハンサー結合タンパク質β(C/EBPβ)遺伝子由来の転写活性化因子(LAP)/転写リプレッサー(LIP)の比率に関連した疾患及び/又は状態の症状を治療及び/又は緩和するための組成物及び方法を提供する。本発明はまた、LAP/LIPの比率を変化させる薬剤のスクリーニングするための組成物及び方法を提供する。
【0012】
本発明は、LAP(転写活性化因子)活性をコードする組み換えベクターであって、LIP活性の発現が阻害されている組み換えベクターを提供する。例えば、本発明は、LAP(転写活性化因子)活性をコードする組み換えベクターであって、LIP活性の発現が阻害され、LIPがLAP活性を抑制しないようにLIP活性の発現が阻害される、組み換えベクターを提供する。本発明は、LIPの開始コドンATGが別のコドンで置換されており、置換されたコドンがTTGではなく、例えば、終始コドンではない、LAPの変異体をコードする単離された核酸を提供する。本発明は、LIPの開始コドンATGが別のコドンで置換されており、置換されたコドンがTTGではなく、例えば、終始コドンではない、変異体LAPポリペプチドを提供する。例えば、上記の変異体LAPポリペプチドは腫瘍溶解活性を示す。
【0013】
特に、本発明は、C/EBPβ遺伝子の一部又は全部の核酸を含む組み換えベクターであって、該核酸がLIPの開始コドンATGの周辺のヌクレオチド配列中に変異を有する組み換えベクターを提供する。例えば、上記の組み換えベクターは腫瘍溶解活性を示し、遺伝子治療、即ち、LAP/LIPの比率に関連した疾患又は状態に罹患した細胞又は個体への投与または送達のために使用することができる。特に、本発明の組み換えベクターは、細胞にLAP活性を発現する組み換えベクターを投与又は送達するために使用することができる。そのような組み換えベクターは、細胞中のLAP/LIP活性の比率を増加する方法;LAP/LIPの比率に関連した疾患又は状態に罹患した個体においてLAP/LIPの比率に関連した疾患又は状態の症状を治療及び/又は緩和する方法;並びに、LAP/LIPの比率を変化させる薬剤のスクリーニング方法において使用することができる。本発明はまた、LIPの発現を減少、低下又は抑制することができるオリゴヌクレオチド、アンチセンスオリゴヌクレオチド及びインタフェアリングRNAを提供する。
【0014】
本書に開示した本発明は、細胞に本発明の組み換えベクター、あるいはLIPの発現を減少、低下又は抑制することができる本発明のオリゴヌクレオチド、アンチセンスオリゴヌクレオチド又はインタフェアリングRNAを接触させることを含む、細胞中におけるLAP/LIPの発現量の比率を変化させる方法を提供する。例えば、細胞には、本発明の組み換えベクター、あるいは本発明のオリゴヌクレオチド、アンチセンスオリゴヌクレオチド又はインタフェアリングRNAを、エピモルフィンと一緒に接触させる。本発明はまた、本発明の組み換えベクター、あるいは本発明のオリゴヌクレオチド、アンチセンスオリゴヌクレオチド又はインタフェアリングRNAを単独で、又は他の治療剤と一緒に、又はエピモルフィンと一緒に、癌に罹患した個体に投与することを含む、癌などの、個体におけるLAP/LIPの発現量の比率に関連した疾患及び/又は状態の症状を治療及び/又は緩和する方法を提供する。
【0015】
本発明はまた、薬剤がC/EBPβ遺伝子から発現するLAP/LIPの発現量の比率を変化させるかどうかをスクリーニングする方法を提供する。本発明はまた、特定の癌又は悪性細胞が、本発明の組み換えベクター、あるいは本発明のオリゴヌクレオチド、アンチセンス核酸又はインタフェアリングRNAによる治療に感受性であるかどうかを決定する方法を提供する。従って、本発明はまた、本発明の組み換えベクター、あるいは本発明のオリゴヌクレオチド、アンチセンス核酸又はインタフェアリングRNAを含むキットを提供する。例えば、本発明のキットは、治療に対する癌細胞の感受性を試験するために使用する組み換えベクターを含む。
【0016】
本発明はまた、本発明の組み換えベクター、又は本発明のオリゴヌクレオチド、アンチセンス核酸又はインタフェアリングRNAを含む組成物、並びに、本発明の組み換えベクター、又は本発明のオリゴヌクレオチド、アンチセンス核酸又はインタフェアリングRNAの製造方法を提供する。
本発明の実施には、別記しない限り、通常の分子生物学、ウイルス学、微生物学、免疫学、及び当業者に知識内の組み換えDNA技術が利用される。これらの技術は文献中に十分に説明されている。例えば、Maniatis et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual (1982); DNA Cloning: A Practical Approach,vols. I & II (D. Glover, ed.); Oligonucleotide Synthesis (N. Gait, ed.(1984)); Nucleic Acid Hybridization (B. Hames & S. Higgins, eds. (1985)); Transcription and Translation (B. Hames & S. Higgins, eds. (1984));Animal Cell Culture (R. Freshney, ed. (1986)); Perbal, A Practical Guide to Molecular Cloning (1984); Ausubel, et al., Current Protocols In Molecular Biology, John Wiley & Sons (1987, 1988, 1989, 1990, 1991, 1992, 1993, 1994, 1995, 1996); 及びSambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual (2nd Edition); vols. I, II & III (1989)などを参照。
【0017】
I.CCAAT/エンハンサー結合タンパク質β (C/EBPβ);LAP及びLIP
CCAAT/エンハンサー結合タンパク質(「C/EBP」)は、CCAAT配列モチーフ(トランスフェリン又はApoB遺伝子等に見られるようなもの)、エンハンサーコア配列モチーフ、又は幾つかのウイルスプロモーターのエンハンサー領域を優先的に認識して結合することができる、あるクラスのエンハンサー結合タンパク質(EBPs)を含む (Landschultz, W. H. et al., Genes Dev. 2:786−800 (1989); Brunel, F. et al., J. Biol. Chem. 263:10180−10185 (1988); Metzger, S. et al., J. Biol. Chem. 265:9978−9983 (1990))。
【0018】
哺乳類由来のC/EBPβ遺伝子は公知であり、例えば、Descombes et al. 1990, Genes Dev. Vol. 4, pgs.1541−1551及びAkira et al. 1990, EMBO J. 9, 1897−1906に記載されている。ラット由来のC/EBPβ遺伝子のヌクレオチド配列とアミノ酸配列を配列番号1および2に記載する。ヒト由来のC/EBPβ遺伝子のヌクレオチド配列とアミノ酸配列を配列番号3および4に記載する。
C/EBPβ遺伝子には、LAP(転写活性化因子)およびLIP(転写リプレッサー)という2種類の翻訳産物がある。翻訳産物が2種類存在するのは、C/EBPβ(CCAAT/エンハンサー結合タンパク質β)遺伝子のヌクレオチド配列中に2種類以上の転写開始部位が存在することに起因する。これらの転写開始部位の何れかから転写翻訳が開始することにより、LAP(転写活性化因子)またはLIP(転写リプレッサー)の何れかが生成される。
【0019】
LAPは、N末端側から転写制御部位とDNA結合部位を有するタンパク質である一方、LIPはLAPのうちのDNA結合部位のみを含み、転写制御部位を含まないタンパク質である。両タンパク質は同一のフレームを有しており、即ち、LIPはC末端の145アミノ酸をLAPと共有している(Buck et al,上掲)。理論に拘束されないが、Descombes et al. 1991, Cell, vol. 67: pages 569−579には、LAP及びLIPは漏出性のリボソームスキャニング機構によって同一のmRNAから翻訳されることが示唆されている。LIP(転写阻害タンパク質)の開始コドンATGは、配列番号1のヌクレオチド配列の457から459番目、及び配列番号3のヌクレオチド配列の595から597番目に相当する。
【0020】
Buck et al(上掲)にはLAP発現及びS期が肝臓癌細胞において相互に排他的であることが報告されている。Buck et alは、LAPがG1/S境界の以前に肝臓癌細胞の増殖を阻害し、細胞がS期に入るのを妨げていることを見出した。Descombes et al. 1991, Cell vol. 67:569−579には、LAP及びLIPが塩基性DNA結合ドメイン及びロイシンジッパー二量化ヘリックスを含む145個のC末端アミノ酸を共有していることが開示されている。Buck et al(上掲)には、ロイシンジッパーの完全性が、肝臓癌細胞がS期に入るのを防止するために必要であることが開示されている。Buck et al(上掲)にはまた、(LAPのN末端活性化ドメインを欠く)LIPは、肝臓癌の細胞増殖を抑制するのに効果を示さず、細胞周期に対するLAPの阻害的役割を拮抗することが開示されている。理論には拘束されないが、Buck et al(上掲)には、ロイシンジッパーと塩基性ドメインを含むLIPの145アミノ酸が、DNA結合部位について直接的に、又はLIP/LAPダイマーを形成して間接的に競合することによってLAPのアンタゴニストとして作用することが示唆されている。従って、本発明は、LIPの発現が阻害されている、LAP(転写活性化因子)活性をコードする組み換えベクターを提供する。例えば、本発明は、LIPの発現は阻害されており、LIPがLAP活性を抑制しないようにLIPの発現が阻害される、LAP(転写活性化因子)活性をコードする組み換えベクターを提供する。LAP活性は、Buck et alに開示されたアッセイにおける肝臓癌細胞増殖を阻害するLAPの活性によって、又は本実施例に開示したインビボモデルでの癌形成を阻害することによって、測定することができる。
【0021】
Descombes et al. 1991, Cell, vol. 67:569−579には、LAPmRNAが3個のインフレームのAUGを有することが開示されている。LAPは最初のインフレームのAUGで開始し(39kdのタンパク質);LIPは3番目のフレームのAUGで開始する(20kdのタンパク質)。例えば、組み換えベクターは、N末端LAP活性化ドメイン及び/又はDNA結合ドメイン及び/又はロイシンジッパーを含み、LAP活性を発現し、ここでLIP活性は阻害される。本発明は、LIPの開始コドンが別のコドンで置換されており、置換されたコドンはTTGではなく、例えば、それは終始コドンではない、変異体LAPポリペプチドをコードする核酸を含む、LAP活性をコードする組み換えベクターを提供する。本発明はまた、LIPの開始コドンが別のコドンで置換されており、置換されたコドンはTTGではなく、例えば、それは終始コドンではない、変異体LAPポリペプチドをコードする単離された核酸を提供する。本発明はまた、LIPの開始コドンが別のコドンで置換されており、置換されたコドンはTTGではなく、例えば、それは終始コドンではない、変異体のLAPポリペプチドを提供する。本明細書で使用する「変異体LAPポリペプチド」とは、変異体LAPポリペプチドが少なくとも1つのLAP生物活性を保持する限り、LIP活性が減少又は抑制されるように、LIPの開始ATGコドンの変異を含むものを言う。
【0022】
本発明は、C/EBPβ遺伝子の一部又は全部を含み、該C/EBPβ遺伝子の一部又は全部がLIPの開始コドンATGの周辺の領域を含み、かつヌクレオチド配列においてLIP(転写阻害タンパク質)の開始コドンATGの周辺に変異が導入されている、組み換えベクター、例えば、組み換えウイルスベクター又はウイルス粒子を提供する。本明細書で使用する用語「変異」とは、核酸の挿入、欠失及び置換を包含する。例えば、変異は、LIPの開始コドンATGを別のコドンに置換したものである。例えば、変異は、LAPをコードする核酸にフレームシフト変異を導入することなく、LIPの転写/翻訳を減少、低下又は抑制する。例えば、変異は、LAPの生物活性を保持しながら、LIPの転写/翻訳を減少、低下又は抑制する。例えば、組み換えベクターは、断片又は一部がLAP活性を保持した生成物をコードする限り、C/EBPβの核酸断片又は一部を含むものである。LAP活性は当業者に既知の方法、又は本書に開示した方法により測定することができる。例えば、LIPの開始コドンATGを別のアミノ酸をコードするコドンに置換するが、ここで置換されたコドンはTTGではなく、例えば、置換されたコドンは終始コドンではない。例えば、置換されたコドンは保存されたコドンであり、TTGではない。例えば、このコドンはAla、Gly又はProをコードする。本書に開示した他の例では、LIPの開始コドンATGはCGCで置換されている。そのような組み換え遺伝子ベクターを細胞又は組織に送達すると、LIPの転写/翻訳は減少、低下、停止又は抑制する。例えば、LIPの転写/翻訳は、C/EBPβ遺伝子由来のLAP(転写活性化因子)の転写/翻訳に影響することなく、LIPの転写/翻訳は減少、低下、停止又は抑制される。例えば、LAPの少なくとも一つの生物活性は保持されている。例えば、本発明の組み換えベクターを細胞に送達すると、LAPは支配的に発現する。さらに、本明細書の実施例で実証される通り、C/EBPβ変異を導入した遺伝子を含むベクターをヌードマウスに腹腔投与すると、対照と比較して、マウスには癌形成と転移は見られなかった。即ち、本発明においては、インビボの癌細胞がLAPのみの支配的な発現により正常化できることが判明した。
【0023】
本発明で使用することができるC/EBPβ (CCAAT/エンハンサー結合タンパク質β)遺伝子の起源は特に限定されず、任意の生物に由来する任意の遺伝子を使用することができる。本発明は、任意の起源に由来するC/EBPβを包含する。例えば、哺乳動物から入手できるC/EBPβ遺伝子を使用してもよい。用語「哺乳動物」とは、哺乳類の任意の個体を意味し、大型動物(牛、羊、馬など)、運動動物(犬及び猫を含む)、及び霊長類(旧世界ザル、新世界ザル、類人猿、ヒトなどを含む)などを含む。例えば、ヒトC/EBPβが使用される。特に、ヒト由来のC/EBPβ遺伝子のヌクレオチド配列及びアミノ酸配列をそれぞれ配列番号3及び4として記載する。
【0024】
本発明で使用するC/EBPβ (CCAAT/エンハンサー結合タンパク質β)遺伝子は、例えばPCRなどの当業者に公知の技術を用いて哺乳動物培養細胞などから得たcDNAでもよい。C/EBPβを取得できる哺乳動物培養細胞株の例としては、肝臓実質細胞、乳腺上皮細胞及び含脂肪細胞などがある。そのような細胞株は公的機関から入手可能である。あるいは、C/EBPβ遺伝子又はその断片又は一部、例えば、LIPの開始コドンATGを含む断片又は一部は、本明細書の配列番号1から4のヌクレオチド配列及びアミノ酸配列の情報に基づいて化学的に合成した遺伝子でもよい。
さらに、C/EBPβ遺伝子の一部又は全部を含む本発明の組み換え遺伝子ベクターをヒトの遺伝子治療剤として、即ち、ヒトへの投与又は送達のために使用する場合は、免疫拒絶の可能性を減少、最小化又は抑制して治療効果を高めるために、ヒト遺伝子を使用することが好ましい。
【0025】
C/EBPβ遺伝子のヌクレオチド配列中のLIPの開始コドンATGの周辺のヌクレオチド配列に変異を導入する方法は当業者に既知であり、適切に設計したプライマーを用いるPCR法を用いる等、通常の組み換え技術によって行う。PCR技術は当業者に周知である。
LIP(転写阻害タンパク質)の開始コドンATGの周辺のヌクレオチド配列中への変異の導入は、LIPの転写/翻訳を減少、低下、停止又は抑制するように、そして、一例ではLAP(転写活性化因子)の転写/翻訳には影響しないように行うか、設計される。「LAP(転写活性化因子)の転写/翻訳には影響しない」という記載は、導入した変異がLAPの転写/翻訳にフレームシフトを起こすことなく、生物学的活性を有するLAPが発現することを意味する。LAPは、FGF受容体やIL−8などの各種タンパク質の転写を制御している。LAPはHepG2細胞の増殖を停止することが示されており、c−junプロモーターからの転写を減少する(Buck et al, 1994, The EMBO J. vol 13: 851−860を参照)。当業者であれば、例えば、Buck et alに記載されているようなHepG2の増殖やc−junプロモーターからの転写を測定することによって、LIP中の開始コドンATGの周辺に導入された変異がLAPの生物学的活性に影響するかどうかを決定することができる。また、「LIPの転写/翻訳を減少、低下、停止又は抑制し」という記載は、生物学的活性を有するLIPが対照と比較して低量で発現すること、又はLIPの発現量が検出できないか、LIPが変異体C/EBPβ遺伝子から発現しないことを意味する。LAP及びLIPの転写/翻訳をアッセイする方法は当業者に既知であり、ノザンブロットやPCRが挙げられる。
【0026】
さらに、本明細書で使用する「LIPの開始コドンATGの周辺のヌクレオチド配列」という表現は、LIPの開始コドンATG(配列番号1のヌクレオチド配列の457〜459番目のヌクレオチドに相当)から前方(3’)及び後方(5’)側の約100ヌクレオチドの範囲内のヌクレオチド配列を包含し、例えば、ATGから前方及び後方に90ヌクレオチド、例えば、ATGから前方及び後方に80ヌクレオチド、例えば、ATGから前方及び後方に70ヌクレオチド、例えば、ATGから前方及び後方に60ヌクレオチド、例えばATGから前方及び後方に50ヌクレオチド、例えばATGから前方及び後方に40ヌクレオチド、例えばATGから前方及び後方に30ヌクレオチド、例えばATGから前方及び後方に20ヌクレオチド、例えばATGから前方及び後方に10または5ヌクレオチドを包含し、例えばこのATG自体が、別のアミノ酸のコドンで置換されている。他の例では、ATGはそのままで、ATGの周囲の核酸、例えばATGの3’側に変異があり、LIPからの転写及び/又は翻訳が喪失している。
【0027】
例えば、LIP(転写阻害タンパク質)の開始コドンATGは別のコドンで置換されるが、このコドンはTTGではなく、例えば、停止コドンではない。コドン置換が終始コドン以外のコドンであり、LAPの翻訳にフレームシフトを生じさせない限り、ATGの代わりに置かれるコドンの種類は特に限定されない。Buck et al(上掲)には、LAPロイシンジッパーの完全性(C末端145アミノ酸に見られる)が、肝臓癌細胞がS期に入るのを防止するのに必要であることが記載されている。コードされるタンパク質の性質に影響しないアミノ酸をコードするコドンが好ましい。そのようなアミノ酸の例としては、アラニン、グリシン、プロリンが挙げられる。本書に開示した例示的実施態様では、LIPの開始コドンATGはArgをコードするコドンに置換されている。実施例に示す通り、g6乳癌細胞にこの置換を含むベクターをトランスフェクションしてヌードマウスに導入した場合、ヌードマウスは対照と比較して癌形成能を喪失した。
【0028】
本発明の組み換え遺伝子ベクターは、上記した変異を内部に導入してあるC/EBPβ遺伝子の一部又は全部を含むベクターである。本発明の組み換え遺伝子ベクターは、好適なベクター中のプロモーターの下流に、変異を内部に導入したヌクレオチド配列を有するC/EBPβ遺伝子を連結する等によって導入することによって構築される。遺伝子配列に変異を導入して組み換えベクターを構築する技術は、当業者に周知である。
例えば、組み換え遺伝子ベクターを細胞に導入する場合、それはLAPの一部又は全部を細胞中に発現できる発現ベクターでもある。例えば、LAPの一部又は全部は少なくとも1つのLAP活性を保持する。エピモルフィンはC/EBPβの発現を増大させることが知られている(Hirai et al., 2001, J. of Cell Biol. Vol. 153 pg. 785−794)。従って、本発明の一例では、エピモルフィンの一部又は全部をコードする核酸を、本発明の組み換えベクター、特に、少なくとも1つのLAP活性を有するLAP遺伝子産物の一部又は全部を発現する組み換えベクターと一緒に、細胞中に導入する。エピモルフィン活性を有するこれらのタンパク質又はペプチドの例としては、エピモルフィン自体(即ち、全長のタンパク質)、エピモルフィンの部分アミノ酸配列を含有し、エピモルフィン活性を有するペピチド、並びにそれらの改変体などが挙げられる。エピモルフィン及びその部分ペプチドなどの詳細については、欧州特許公開第0698666号、米国特許第5,726,298号、米国特許第5,837,239号、国際公開WO98/22505号、国際公開WO01/94382号公報などに記載されており、これらに記載のエピモルフィン及びその部分ペプチドを使用することもができる。エピモルフィンをコードする核酸は、本発明び組み換えベクターの前、後又は同時に細胞に導入され、これらは同一の組み換えベクター上又は異なるベクター上に存在することができる。
【0029】
上記の通り、本発明は、LIP(転写阻害タンパク質)の開始コドンATGを別のコドン(但し、コドンはTTGではない)で置換したC/EBPβ遺伝子であって、本発明の組み換えベクターに組み込んだ遺伝子を提供する。本発明は、宿主細胞に本発明の組み換えベクターを導入する方法を包含する。例えば、ベクターは、組み換えウイルスベクターであり、宿主細胞にウイルスベクターを感染させる。従って、本発明は、遺伝子の細胞への導入及び遺伝子の細胞中での発現を、細胞にベクターを感染させることによって行うことを特徴とする、本発明の組み換えベクターを包含する。例えば、本発明の組み換えベクター等の遺伝子構築物の細胞への導入は、リン酸カルシウム仲介トランスフェクション、エレクトロポレーション、脂質仲介トランスフェクション、裸DNAの取り込み、エレクトロトランスファー、及びウイルス(DNAウイルスとレトロウイルス仲介の両方)トランスフェクションなどを含む当業者に公知の任意の技術を使用して行うことができる。細胞への遺伝子の導入を行う方法は当業者に周知である。
【0030】
II.ウイルスベクター
動物、即ち、ヒト等の哺乳類用の発現プラスミドを使用することができる。例えば、ベクターはウイルスベクターである。本発明で使用できるベクターの例としては、レトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、バキュロウイルスベクター、及びワクシニアウイルスベクターなどのウイルスベクターが挙げられる。この中でも、レトロウイルスベクターは細胞に感染後、ウイルスゲノムが宿主染色体に組み込まれるので、ベクターに組み込んだ外来遺伝子を安定にかつ長期的に発現させることができることから、レトロウイルスベクターを使用することが特に望ましい。レトロウイルス組み換えベクターの構築及びインビトロ又はインビボでのそれらの使用は文献に広く記載されている(特に、Breakfield et al., New Biologist 3 (1991) 203; EP 453242, EP 178220, Bernstein et al. Genet. Eng. 7 (1985) 235; McCormick, BioTechnology 3 (1985) 689などを参照)。遺伝子マーカーのレトロウイルス媒介遺伝子移入用の複製・インコンピテントレトロウイルスの使用方法は十分に確立している(Correll, et al. (1989) PNAS USA 86:8912; Bordignon (1989), PNAS USA86:6748−52; Culver, K. (1990), PNAS USA 88:3155; and Rill, D.R. (1991) Blood 79(10):2694−700)。
【0031】
アデノウイルスは、高効率のトランスダクションを行うことができ、細胞の効率的なトランスダクションのために細胞増殖を必要としないという利点を有している。アデノウイルス及びアデノウイルベクター系の開発に関する一般的な背景となる文献としては、Graham et al. (1973) Virology 52:456−467; Takiff et al. (1981) Lancet11:832−834; Berkner et al. (1983) Nucleic Acid Research11: 6003−6020; Graham (1984) EMBOJ 3:2917−2922; Bett et al. (1993) J.Virology 67:5911−5921;及びBett et al. (1994) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 91:8802−8806を参照できる。アデノウイルスベクターは、インビトロで遺伝子をクローニング及び発現するために使用されており(Gluzman et al., Cold Spring Harbor, N.Y. 11724, p. 187)、トランスジェニック動物の作出のために使用されており(WO95/22616)、ex vivoで細胞に遺伝子を移入するために使用されており(WO95/14785; WO95/06120)、あるいはインビボで細胞に遺伝子を移入するために使用されている (特に、WO93/19191, WO94/24297, WO94/08026を参照)。
【0032】
アデノ随伴ウイルス(AAV)は、ウイルス複製にヘルパーウイルス(アデノウイルスなど)を必要とする、約5kbの線状一本鎖DNAウイルスのパルボウイルスである(B.J. Carter, in ”Handbook of Parvoviruses”, ed., P. Tijsser, CRC Press, pp.155−168を参照)。インビトロ及びインビボでの遺伝子導入のためのAAV由来ベクターの使用は、文献に記載されている(特に、WO91/18088; WO93/09239;米国特許第4,797,368号,同 5,139,941号,及びEP 488 528号を参照)。アデノ随伴ウイルスは、ウイルスゲノムの両端に存在するT字型ヘアピン構造をしたITR(inverted terminal repeat)を介して宿主細胞の染色体の特定の部位に組み込まれることが知られている。ウイルス蛋白質に関しては、ゲノムの左半分が非構造蛋白質(調節蛋白質)のRepをコードし、右半分が構造蛋白質のカプシド蛋白質Capをコードしている。AAVベクターを作製するには、その両端にITRを含むAAVを構築し、目的の遺伝子を有するプラスミド(AAVベクタープラスミド)または目的の遺伝子を含む核酸をITRの間に挿入する。一方、ウイルス複製やウイルス粒子の形成に必要とされるウイルス蛋白質は別のヘルパープラスミドより供給する。上記両方のプラスミドを293細胞にトランスフェクションなどにより導入し、さらにアデノウイルス(ヘルパーウイルス)を感染させると、非増殖性の組み換えAAV(AAVベクター)が産生されるようになる。あるいは、宿主細胞はヘルパーウイルス機能をコードする核酸を含む。このAAVベクターは核内に存在するため、細胞を凍結融解して回収し、混入するアデノウイルスは加熱により失活させるか、あるいはCsCl勾配などによりAAVから分離される。さらに、ベクターは、塩化セシウム密度勾配超遠心法により精製される。
【0033】
バキュロウイルスは哺乳細胞でタンパク質を発現させるために使用されている(例えば、米国特許第5,731,182号を参照)。バキュロウイルスのゲノムは、バキュロウイルスが哺乳細胞に結合してその中に入ることを可能にする哺乳類受容体特異的タンパク質をコードする遺伝子を含む、リガンドDNAの挿入によって改変してもよい。
ワクシニアウイルスは、米国特許第6,103,244号に記載されている。外来遺伝子を含む組み換えワクシニアウイルスの構築は、Panicali及びPaoletti, 1982, Proc. Nat’l Acad. Sci. U.S.A. 79:4927−4931; Mackett et al., 1982, Proc. Nat’l Acad. Sci. U.S.A. 79:7415−7419;及び米国特許第4,769,330号に記載されている。
【0034】
レトロウイルスベクターを使用する場合、その例としては、モロニーマウス白血病ウイルス(Moloney murine leukemia virus, MoMLV)などのオンコウイルス由来のものや、ヒト後天性免疫不全症候群ウイルス(Human immunodeficiency virus, HIV)などのレンチウイルス由来のものが挙げられる。
通常使用されるレトロウイルスベクターとしては、RNAウイルスであるマウス白血病ウイルス(MoMLV)の基本骨格を利用するものであり、これは宿主域が広く遺伝子導入効率が比較的高い。レトロウイルスベクターを作製方法は当分野で公知である。簡単に言うと、レトロウイルスベクターを作製するためには、先ずウイルスゲノムから、LTR(long terminal repeat)の間のgag、pol、envの大部分を取り除き、その代わりに目的の遺伝子を挿入する。このベクタープラスミドを遺伝子産物、即ち、ウイルス蛋白質(gag、pol、env)を発現するように作られたパッケージング細胞株、即ち、gag、pol、envの核酸を含む細胞株に導入すると、遺伝子産物を発現する組み換えレトロウイルス(レトロウイルスベクター)が培養上清中に産生されるようになる。通常は力価の高いレトロウイルスベクター産生株をクローニングし、同一細胞株を長期的に使用する。上記したようなウイルスベクター産生細胞の培養上澄を用いて標的細胞に感染させるのが一般的である。
【0035】
アデノウイルスは約36kbの大きさの線状二本鎖DNAウイルスである。アデノウイルスベクターの作製方法は当分野で公知であり、以下に概略を説明する。例えば、必須のE1機能の一部又は全部を欠くアデノウイルスなどの複製欠損アデノウイルスを使用する。アデノウイルスベクターの作製方法の概略を以下に説明する。先ず、E1遺伝子領域をアデノウイルスから除去してそこに目的の遺伝子を挿入したコスミドを構築する。このコスミドを、E1遺伝子領域を切断した親ウイルスDNA(末端蛋白質が付いているものを用いる)とともにHEK293細胞に導入する。すると、細胞内で相同組み換えが起こり、非増殖性のアデノウイルスベクターが産生されるようになる。このウイルスベクターは細胞の凍結融解により回収し、塩化セシウム密度勾配超遠心法により精製する。アデノウイルスベクターの特徴は、高力価のベクターが作製でき、広範囲の細胞に効率良く遺伝子導入でき、非分裂細胞にも遺伝子導入が可能であることなどである。癌細胞へ遺伝子導入するのであれば多少の細胞毒性は問題にならない(Horowitz J. 1999, Curr. Opin. Mol. Ther. 4:500−509を参照)。また、一過性の遺伝子発現で治療効果を達成できる場合があることから、アデノウイルスベクターは、特に癌の遺伝子治療に適している。
【0036】
動物細胞を宿主として使用するため、SV40由来のプロモーター、レトロウイルスのプロモーター、メタロチオネインプロモーター、βアクチンプロモーター等のプロモーターを使用することができる。また、必要に応じてエンハンサーを使用してもよい。細胞または組織に特異的な発現は、細胞特異的エンハンサー及び/又はプロモーターを使用することにより達成することができる(一般的には、Huber et al. (1995) Adv. Drug Delivery Reviews 17:279−292を参照)。本発明の組み換えベクターを含む発現ベクターはまた、ベクターを腫瘍細胞に標的化できる腫瘍で上昇調節されている腫瘍マーカー蛋白質又は他の因子の1以上のプロモーター及び/又はエンハンサーを含んでいてもよい。例えば、哺乳類腫瘍細胞で発現の増大が見られるErbB2のプロモーターを利用して、本発明の組み換えベクターを哺乳動物腫瘍細胞に標的化することができる。
【0037】
動物発現用プラスミドベクターの宿主としては、大腸菌K12・HB101株、DH5α株などを使用できる。このような菌株は公的機関から入手可能である。大腸菌の形質転換は当業者に公知である(例えば、Maniatis et alを参照)。ウイルスベクターは、複製コンピテントでも複製欠損でもよい。複製欠損ウイルスベクターは、適当なヘルパー細胞株、即ち、複製に必須なウイルス機能をコードする核酸を含む細胞株で増殖させる。ウイルスベクターの宿主としては、ウイルス生産能を有する動物細胞であり、例えば、COS−7細胞、CHO細胞、BALB/3T3細胞、HeLa細胞等が用いられる。レトロウイルスベクターの宿主としては、ΨCRE、ΨCRIP、MLV等が使用される。アデノウイルスベクター及びアデノ随伴ウイルスベクターの宿主としては、ヒト胎児腎臓由来のHEK293細胞等が用いられる。ウイルスベクターの動物細胞への導入はリン酸カルシウム法、又は当業者に公知の他の方法で行うことができる。
【0038】
得られた形質転換体は、以下の通り培養し、組み換え遺伝子ベクターを生産することができる。
大腸菌の形質転換体の培養は、生育に必要な炭素源、窒素源、無機物その他を含有するpH5〜8程度の液体培地を用いて行うことができる。培養は通常15〜43℃で約8〜24時間程度行う。培養終了後、通常のDNA単離精製法により、本発明の組み換え遺伝子ベクターを取得することができる。
動物細胞の形質転換体を培養は、例えば約5〜20%のウシ胎児血清を含む199培地、MEM培地、DMEM培地などの培地を用いて行うことができる。培地のpHは約6〜8が好ましい。培養は通常約30〜40℃で約18〜60時間行う。本発明の組み換え遺伝子ベクターを含有するウイルス粒子は培養上清中に放出される。ウイルス粒子の濃縮、精製を塩化セシウム遠心法、ポリエチレングリコール沈澱法、フィルター濃縮法等の当業者に公知の方法により行うことにより、本発明の組み換え遺伝子ベクターを取得することができる。
【0039】
III.LIPの制御
本発明は、宿主細胞中におけるLIPの転写及び/又は翻訳を減少、低下または抑制するための組成物および方法を提供する。そのような組成物としては、宿主細胞中におけるLIPの転写を減少、低下または抑制することができるオリゴヌクレオチド、即ち、オリゴヌクレオチドデコイ、リボザイム、及びインタフェアリングRNA(iRNA)が挙げられる。従って、本発明は、細胞中におけるLIPの転写及び/又は翻訳を減少または抑制する方法であって、細胞中におけるLIPの転写を減少、低下または抑制することができるアンチセンス核酸、オリゴヌクレオチド、リボザイム、及び/又はインタフェアリングRNA(iRNA)に細胞を接触させることを含む方法を提供する。LIPの転写及び翻訳は、当業者に公知の手段によって測定することができ、例えば、PCR及びノザンブロットが挙げられる。
【0040】
本発明は、C/EBPβ(CCAAT/エンハンサー結合タンパク質β)遺伝子のヌクレオチド配列中のLIP(転写阻害タンパク質)の開始コドンATGのヌクレオチド配列又はその相補配列を含む、約10から約100ヌクレオチドの長さのオリゴヌクレオチドを提供する。例えば、オリゴヌクレオチドは、細胞中のLIPの機能を減少、低下又は抑制することができる。
例えばオリゴヌクレオチドは約10〜約80ヌクレオチドの長さを有し、例えばオリゴヌクレオチドは約15〜約50ヌクレオチドの長さを有し、例えばオリゴヌクレオチドは約20〜約80ヌクレオチドの長さを有し、例えばオリゴヌクレオチドは約15〜約40ヌクレオチドの長さを有し、例えばオリゴヌクレオチドは約15〜約30ヌクレオチドの長さを有し、例えばオリゴヌクレオチドは約15〜約25ヌクレオチドの長さを有する。例えば、例えばオリゴヌクレオチドは少なくとも約10、11、12、13、14、15、16、17、18、19又は少なくとも約20ヌクレオチドの長さを有する。例えば、オリゴヌクレオチドは最大で約30、40、50、60、70又は80ヌクレオチドの長さを有する。LIP(転写阻害タンパク質)の開始コドンATGの周辺のヌクレオチド配列を含むオリゴヌクレオチドは、LIP発現を減少、低下又は抑制するためのデコイオリゴヌクレオチドとして使用される。さらに、上記ヌクレオチド配列に対して相補的な配列を有するオリゴヌクレオチドは、LIPの発現を減少、低下又は抑制するためのアンチセンスオリゴヌクレオチドとして使用される。例えば、配列番号1の427番目の核酸Gから489番目の核酸Cまでの配列(63塩基対)又はその相補鎖を含む核酸、並びに配列番号3の565番目の核酸Gから627番目の核酸Tまでの配列(63塩基対)又はその相補鎖を含む核酸は、オリゴヌクレオチドデコイ及び/アンチセンス核酸を設計することができる領域である。オリゴヌクレオチド(DNA又はRNA)、即ち、オリゴヌクレオチドデコイ又はアンチセンス核酸はベクターに組み込まれ、細胞中のLIPの発現量を減少又は低下させるために細胞にトランスフェクションされる。理論には拘束されないが、LIPのプロモーターなどがオリゴヌクレオチドに結合する。本発明のオリゴヌクレオチドは単独でも使用でき、または本発明の組み換えベクター又は他の治療と一緒に使用することもできる。
【0041】
上記の両方の場合において、LIPの発現は減少、低下または抑制し、その結果、C/EBPβ(CCAAT/エンハンサー結合タンパク質β)遺伝子から発現するLIP(転写阻害タンパク質)の発現量に対するLAP(転写活性化因子)の発現量の比率は増大する。本書中の実施例で実証した通り、癌のインビボモデルにおいて、LIPの発現を減少させ、それによりLAP/LIPの発現の比率を増大することにより、対照と比較して癌形成と転移が減少するという結果を得た。従って、LIPの発現を減少、低下又は抑制できるオリゴヌクレオチド又はアンチセンス核酸又はiRNAを細胞に投与又は導入することは、例えば、癌形成及び/又は転移を含む癌に付随する症状の減少、そして例えば腫瘍増殖の遅延に相関する。
【0042】
インタフェアリングRNA(iRNA)は、抑制すべき遺伝子に相同な二本鎖RNA(dsRNA)により開始される配列特異的な転写後の遺伝子スプライシングの機構である(Sharp, P., 2001, Genes & Development, 15:485−490を参照)。mRNAとその相補鎖形態から成るdsRNAは、RNA−RNA二本鎖を形成する。この二本鎖領域は、RNAseIII様酵素で分解され、mRNAは翻訳されない。細胞に導入する場合、短いdsRNA(小さいインタフェアリングRNAすなわちsiRNA)も、当該短いdsRNAの配列を含むmRNAを分解するのに有効である。理論には拘束されないが、細胞性RNA分解系が細胞中に存在し、ウイルス又はトランスポゾンRNAに対する保護の手段としてdsRNAによって刺激されている可能性があることを示唆する証拠がある。本発明は、LIPの開始コドンATGの周辺のヌクレオチド配列を含み、LIP発現を減少、低下及び/又は抑制できるインタフェアリングRNA配列を包含する。例えば、iRNAは、配列番号1のヌクレオチド配列の457番目から459番目のヌクレオチド及び配列番号3のヌクレオチド配列の595番目から597番目のヌクレオチドに対応するLIPの開始ATGを標的化するように設計される。iRNAの設計手段は当業者に既知である。本発明のiRNAは単独でも使用することができ、または本発明の組み換えベクター及び/又はLAP活性を有する変異LAPポリペプチド及び/又は他の治療と一緒に使用することができる。
【0043】
あるいはまた、本発明は、例えばLAPの発現に影響を与えずに、LIPの転写を減少、低下、停止又は抑制するリボザイムの使用をも包含する。LIPを減少、低下又は抑制することができるリボザイムは単独でも使用することができ、または本発明の組み換えベクター及び/又はLAP活性を有する変異体LAPポリペプチド及び/又は他の治療と一緒に使用することができる。
【0044】
LIPの発現を減少、低下及び/又は抑制できる特定のオリゴヌクレオチド、アンチセンス核酸及びiRNAをスクリーニングするアッセイは当業者に公知であり、本書に記載されている。簡単に言うと、本書中の実施例に開示したアッセイにおいては、g6乳癌細胞株を、被験試料、例えば、本発明の組み換えベクター、オリゴヌクレオチド、アンチセンス又はiRNAと接触させ、形態および細胞接着について組織学的に試験を行う。LIPの発現を減少、低下及び/又は抑制できる組み換えベクター、オリゴヌクレオチド、アンチセンス又はiRNAと接触させた細胞において、その形態は正常の癌でない細胞と同様であろう。また、そのような細胞をヌードマウスに導入して、癌形成能及び転移をアッセイすることができる。CCAAT/エンハンサー結合タンパク質β(C/EBPβ)遺伝子の一部又は全部のヌクレオチド配列を含み、該C/EBPβ遺伝子の一部又は全部がLIP転写阻害タンパク質の開始コドンATGの周辺の核酸を含み、該ヌクレオチド配列は該LIP転写阻害タンパク質のATGに変異を含むウイルスベクターなどの組み換えベクターを対照として使用することができる。本書の実施例に記載した組み換えベクターはスクリーニングアッセイにおいて対照として使用できる。
【0045】
IV.組成物および用途
組成物
本発明は、本発明の組み換えベクター、組み換えウイルスベクター又はウイルス粒子、オリゴヌクレオチド、アンチセンスRNA又はiRNAを含む組成物を包含する。例えば、組成物にはさらに、薬学的に許容できる賦形剤又は担体、又は緩衝剤を含めてもよい。
例えば、上記組成物は、癌及び/又は腫瘍増殖などの、細胞又は個体におけるLAP/LIPの比率に関連した疾患又は状態の症状を治療及び/又は緩和するための方法において使用される。例えば、本書に開示した組成物は腫瘍溶解活性を示す。本書で使用する用語「治療する」又は「治療」とは、癌などの疾患や望ましくない状態の1以上の症状を緩和、改善、減少又は安定化すること、並びに疾患又は望ましくない状態の1以上の症状の進行を遅延させることを意味する。本発明の組成物は、当業者に既知の化学療法剤、放射線及び/又は抗体などを含むがこれらに限定されない他の治療法と組み合わせて使用してもよいし、組み合わせなくてもよい。例えば、本発明の組成物は、エピモルフィンの一部又は全部と組み合わせて投与される。
【0046】
本書で使用する用語「悪性」、「悪性細胞」、「腫瘍」、「腫瘍細胞」、「癌」及び「癌細胞」(同義で使用する)とは、比較的自律した増殖を示し、その結果、細胞増殖の制御の有意な喪失を特徴とする異常増殖表現型を示す細胞のことを意味する。用語「腫瘍」は転移性腫瘍と非転移性腫瘍を包含する。
本明細書で使用する「腫瘍溶解活性」とは、腫瘍及び/又は悪性及び/又は癌細胞の増殖の阻害又は抑制;腫瘍及び/又は悪性及び/又は癌細胞の増殖の退行;腫瘍及び/又は悪性及び/又は癌細胞の細胞死、又はさらに別の腫瘍及び/又は悪性及び/又は癌細胞の発生の防止を意味する。本明細書で使用する「腫瘍の増殖の阻害又は抑制」とは、本発明の組成物又は方法を含むVSVの投与に際して、腫瘍の増殖速度の低減、腫瘍増殖を完全に停止すること、存在する腫瘍の大きさを退行させること、存在する腫瘍を絶滅すること、及び/又はさらに別の腫瘍の発生を防止することを意味する。腫瘍の増殖の「抑制」とは、本発明の組成物と接触しない場合の増殖と比較して低減した増殖状態のことを意味する。腫瘍細胞の増殖は、腫瘍サイズの測定、腫瘍細胞の増殖の有無についての3Hチミジン取り込みアッセイを用いた測定、又は腫瘍細胞の計測などを含むがこれらに限定されない当業者に公知の方法で評価することができる。腫瘍及び/又は悪性及び/又は癌細胞の増殖の「抑制」とは、以下の状態;腫瘍の増殖の緩和、遅延及び停止、並びに腫瘍の収縮の何れか又は全てを意味する。腫瘍及び/又は悪性及び/又は癌細胞の「成長の遅延」とは、疾患の発達を遅らせ、阻害し、緩和し、妨害し、安定化し、及び/又は延期することを意味する。この遅延は、治療する疾患及び/又は個人の経歴に応じて、時間の長さが変化する。
【0047】
本発明は、本発明の組み換えベクター、又はLIP発現、特に本書に記載した悪性細胞及び/又は腫瘍細胞に伴うLIP発現を減少、低下及び/又は抑制することができるオリゴヌクレオチド、アンチセンス核酸又はiRNAを用いて、LAP/LIPの比率を増大させる組成物及び方法を包含する。治療に望ましい個体は、癌、腫瘍又は悪性細胞の発達の危険にあると考えられる個体、例えば、癌、悪性細胞又は腫瘍細胞を含む疾患を以前に患ったことがある個体、又はそのような癌、腫瘍細胞又は悪性細胞の経歴を家系に有する個体などである。本発明の組成物の投与の適性の決定は、血清学的指標及び細胞、組織又は腫瘍生検の組織学的検定などの評価可能な臨床パラメーターに依存する。一般的には、薬学的に許容可能な賦形剤中の組成物を投与する。
【0048】
従って、本発明は、癌又は腫瘍細胞に本発明の組み換えベクター又は変異LAPポリペプチド、又は核酸構築物、例えば、オリゴヌクレオチド又はアンチセンス核酸又はiRNAを接触させ、それによって腫瘍又は細胞中のLAP/LIPの比率を増加させる工程を含む、癌又は腫瘍増殖を抑制する方法を提供する。
例えば、そのような組成物は、宿主細胞中のLAP/LIPの比率を調節する薬剤をスクリーニングする方法において使用される。例えば、スクリーニング方法を使用して、宿主細胞中のLIPの発現を減少、低下又は抑制する薬剤を同定する。例えば、スクリーニング方法を使用して、宿主細胞中のLAPの発現を増大したり、又は宿主細胞中のLAPの生物学的活性を増大する薬剤を同定する。例えば、薬剤、組み換えベクター又は核酸構築物は、本書に開示したスクリーニングアッセイで測定した場合に腫瘍溶解活性を有する。
【0049】
更に別の例では、本発明は、癌細胞、悪性細胞又は腫瘍細胞が、本発明の組成物による治療に感受性かどうかを決定する方法であって、(a)癌、悪性又は腫瘍の細胞を含む試料を第一の部分と第二の部分とに分け;(b)CCAAT/エンハンサー結合タンパク質β(C/EBPβ)遺伝子の一部又は全部のヌクレオチド配列を含み、該C/EBPβ遺伝子の一部又は全部がLIP転写阻害タンパク質の開始コドンATGの周辺の領域を含み、かつ該ヌクレオチド配列が該LIP転写阻害タンパク質の開始コドンATG中に変異を含むウイルスベクター又は組み換えベクター、又はLIPの転写を低下できるオリゴヌクレオチド又はアンチセンス核酸又はiRNA、又は本書に開示したスクリーニング方法で同定される薬剤などの組成物で上記第一の部分を処理し;そして(c)上記第一の部分中の死滅細胞の割合が上記第二の部分よりも高いかどうかを決定し、第一の部分中の死滅細胞の割合が上記第二の部分よりも高い場合に、癌、悪性又は腫瘍が該組成物による治療に感受性であるとする、ことを含む方法を提供する。
【0050】
例えば、本発明はさらに、遺伝子治療剤、即ち、細胞に投与又は送達される薬剤であって、C/EBPβ (CCAAT/エンハンサー結合タンパク質β)遺伝子のヌクレオチド配列中のLIP(転写阻害タンパク質)の開始コドンATGを別のコドンに置換し、置換されたコドンがTTGではないC/EBPβ遺伝子の一部又は全部のヌクレオチド配列を含む組み換え遺伝子を含む薬剤、又は本発明のオリゴヌクレオチド又はアンチセンス核酸又はiRNAを含む薬剤に関するものである。そのような組成物は、癌の症状の治療及び/又は緩和、例えば、腫瘍の増殖の遅延のための方法において使用することができる。例えば、そのような薬剤は、腫瘍細胞又は悪性細胞に局所的に、即ち、腫瘍内に投与する場合、並びに静脈内投与又は他の経路によって腫瘍又は悪性細胞の先端に投与する場合、腫瘍溶解活性を示す。例えば、本発明の組み換えベクター又は変異LAPポリペプチド又は核酸構築物(例えば、オリゴヌクレオチド又はアンチセンス核酸又はiRNAなど)の投与については、処理した細胞を治療後に個体に戻すex vivoで行うことができる。
【0051】
治療すべき癌の具体例としては、悪性黒色腫、悪性リンパ腫、消化器癌、肺癌、食道癌、胃癌、大腸癌、直腸癌、結腸癌、尿管腫瘍、胆嚢癌、胆管癌、胆道癌、乳癌、肝臓癌、膵臓癌、睾丸腫瘍、上顎癌、舌癌、口唇癌、口腔癌、咽頭癌、喉頭癌、卵巣癌、子宮癌、前立腺癌、甲状腺癌、脳腫瘍、カポジ肉腫、血管腫、白血病、真性多血症、神経芽腫、網膜芽腫、骨髄腫、膀胱腫、肉腫、骨肉腫、筋肉腫、皮膚癌、基底細胞癌、皮膚付属器癌、皮膚転移癌、皮膚黒色腫などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。対象となる癌の好ましい例は、乳癌および肝臓癌である。
【0052】
本発明の方法で使用するための組成物は、ウイルスベクターなどの組み換え遺伝子ベクター(又はオリゴヌクレオチド又はアンチセンス核酸又はiRNA)を有効成分として基剤と一緒に配合することにより製造することができる。
また、上記組み換えウイルスベクターがウイルスベクターに組み込まれている場合は、組換え体DNAを含有するウイルス粒子を調製し、これを基剤と一緒に配合することにより、遺伝子治療用組成物、即ち、細胞送達剤を製造することができる。
【0053】
遺伝子治療剤に用いる基剤としては、通常注射剤に用いる基剤を使用することができ、例えば、蒸留水、塩化ナトリウム又は塩化ナトリウムと無機塩との混合物等の塩溶液、マンニトール、ラクトース、デキストラン、グルコース等の溶液、グリシン、アルギニン等のアミノ酸溶液、有機酸溶液又は塩溶液とグルコース溶液との混合溶液等が挙げられる。あるいはまた、当業者に既知の常法に従って、これらの基剤に浸透圧調整剤、pH調整剤、植物油、もしくは界面活性剤等の助剤を用いて、溶液、懸濁液、分散液として注射剤を調製することもできる。これらの注射剤は、粉末化、凍結乾燥等の操作により用時溶解用製剤として調製することもできる。また、本発明の薬剤は投与する直前に、必要によりリポソーム等に封入し、癌の症状の治療及び/又は緩和のために用いることができる。
【0054】
本発明の組成物の生体への導入方法としては、遺伝子を化学的または物理的に導入する方法(遺伝子移入:トランスフェクション)と、ウイルスを用いる方法(遺伝子導入:トランスダクション)とが知られている。
生体内への物理的な遺伝子移入法(トランスフェクション)としては、インビボ・エレクトロポレーション法、並びに遺伝子銃法がある。インビボ・エレクトロポレーション法では、生体組織に直接電圧パルスを印加してDNAを入れる方法である。DNAを適当な緩衝液(例えば、1mM Tris、25μM EDTA、150mM NaCl)に溶解し、得られた溶液をガラス電極を用いて組織に注入する。遺伝子銃法は、金粒子に付着させたDNAを加速させて細胞内に射入する方法である。大気圧下で、Biorad社が開発した手持ち銃型のHelios銃による、インビボ法で個体内に直接、簡単かつ高効率で遺伝子を導入することができる(Kuo C. F. et al. 2002, Methods of Mol. Med. 69:137−147を参照)。遺伝子銃法によれば、エンドソームなどのDNA分解系の影響を受けず、遺伝子をどの組織にも導入でき、また特定の部位に遺伝子導入することができる点が有利である。
【0055】
生体内への化学的な遺伝子移入法としては、リポソーム法、膜融合蛋白質−リポソーム法、リポフェクション法などがある(Nidome T and Huang L, 2002, Gene Ther. 24: 1647−1652)。
リポソームは、リン脂質などの極性脂質が水相中で形成する小胞である。リポソーム形成の際にリポソーム内に取り込まれた遺伝子は膜内に保持される。また、リポソームに特定の蛋白質を化学結合させて、得られた産物を目的とする細胞に集中させるミサイル療法を行なうこと、即ち、目的の細胞を送達の標的にすることも可能である。
【0056】
膜融合蛋白質−リポソーム法では、各種のウイルスの細胞への進入手段である、ウイルス外被(envelope)をリポソームに結合させておく。例えば、中性でも融合能が高く、細胞融合で多核細胞を作るセンダイウイルスの膜融合蛋白質を使用することができる。
リポフェクション法はカチオン性脂質を用いる方法である。カチオン性脂質は、導入遺伝子の負電荷を中和すると同時に、形質膜表面の負電荷を中和し、脂質の疎水性によって膜に融合してDNAを巻き込むものと考えられている。カチオン性脂質の具体的商品例としては、リポフェクチン、リポフェクタミン、トランスフェクタムなどがある。このようなカチオン性脂質はリポソーム様の構造をとると考えられるが、導入遺伝子はリポソームの表面に結合されている。
【0057】
トランスダクションはウイルスを用いて遺伝子を生体に導入する方法であり、遺伝子を高効率で導入できる方法である。具体的には、レトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、又はアデノ随伴ウイルスベクターなどを使用することができる。
薬学的に許容できる担体は当業者に周知であり、生理食塩水、緩衝生理食塩水、デキストロース、水、グリセロール、滅菌等張水性緩衝液、及びこれらの組み合わせなどが挙げられるが、これらに限定されない。そのような許容できる担体の一例は、安定化加水分解タンパク質、ラクトース等の1種以上の安定化剤を含む生理学的にバランスのとれた培地である。担体は好ましくは滅菌である。剤型は投与様式に適したものとするべきである。
【0058】
所望により、本組成物には、少量の湿潤剤又は乳化剤、又はpH緩衝剤を含めることができる。本組成物は液体溶液、懸濁液、乳液、錠剤、丸薬、カプセル剤、持続放出製剤、又は粉末剤とすることができる。経口製剤としては、薬学的規格のマンニトール、ラクトース、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、セルロース、炭酸マグネシウム等の標準担体を含むことができる。
一般的に、成分は別々に供給するか、例えば、活性剤の量を表示するアンプル又は小袋などの密閉容器中に凍結乾燥粉末又は水を含まない濃縮物として単回投与形態で一緒に混合する。組成物を注入により投与する場合、滅菌希釈剤のアンプルを供給して、成分を投与前に混合することができる。
組成物又は製剤で使用する組成物中の薬剤の正確な量はまた、投与経路、治療されるヒトなどの細胞又は個体の性質に依存し、標準的な臨床技術に従って実務者の判断及び状況に従って決定するべきである。所定の製剤で使用する薬剤の正確な量は、所望の活性、例えば腫瘍溶解活性を生み出すのに必要な組成物の最小量が付与される限りは、重要ではない。約10mgから1mg以上程度の投与量範囲が意図される。
【0059】
本発明のベクター又はウイルス粒子又は核酸組成物の有効投与量は、動物モデル試験系から得た投与量・応答曲線から推定してもよい。
本発明の遺伝子治療剤の投与量は、患者の年齢、性別もしくは症状、又は投与経路もしくは投与回数、又は剤型によって異なる。一般に、成人では一日当たりの組み換え遺伝子の投与量は、約1μg/kgから1000mg/kg程度の範囲であり、他の例では、約10μg/kgから100mg/kg程度の範囲である。投与回数は特に限定されない。ウイルスとして投与する場合、約102から約107p.f.u、例えば、約103から約106p.f.u、例えば、約104から約105p.f.uを投与できる。ポリヌクレオチド構築物、例えば組み換えベクター(即ち、ウイルスとしてパッケージされていない)として投与する場合、約0.01μgから約1000μgの本発明の構築物を投与することができ、例えば、約0.1μgから約500μg、例えば、約0.5μgから約200μgを投与できる。1より多くの組成物を同時又は連続的に投与することができる。例えば、本発明の組成物は、エピモルフィンの一部又は全部と一緒に投与される。投与は典型的には、応答をモニターしながら定期的に行う。投与は、例えば、腫瘍内、静脈内又は腹腔内に行う。
【0060】
多くの方法を使用して、ウイルスベクター又はウイルス粒子などの本発明の組成物を個体に投与又は導入することができ、例えば、皮内、筋肉内、腹腔内、静脈内、腫瘍内、皮下、及び鼻腔内投与などが挙げられるが、これらに限定されない。組成物を投与する個体は、霊長類であり、別の実施例では哺乳類であり、別の実施例ではヒトであるが、非ヒト哺乳類としては、牛、馬、羊、豚、猫、犬、ハムスター、マウス及びラットなどが挙げられるが、これらに限定されない。本発明の薬剤の投与形態としては、通常の静脈内、動脈内等の全身投与でもよいし、あるいは癌原病巣または予想転移部位に対して、局所注射又は経口投与等の局所投与を行ってもよい。さらに、本発明の薬剤の投与にあたっては、カテーテル技術、遺伝子導入技術、または外科的手術等と組み合わせた投与形態をとることもできる。
【0061】
また、エピモルフィンはC/EBPβの発現を増大させる作用が有することが知られている(Hirai et al., Journal of Cell Biology, Vol.153, No.4, 2001, 785−794)。従って、本発明の遺伝子治療剤は、エピモルフィン活性を有する蛋白質又はペプチドと組み合わせて使用することにより、その治療効果をさらに高めることができる。
【0062】
使用
LAP(転写活性化因子)/LIP(転写阻害タンパク質)の発現量の比率の変化
LIP発現を減少、低下又は抑制できるか、LAP発現を増大できる、本書中上記の組み換え遺伝子ベクター又はオリゴヌクレオチド又はアンチセンス核酸、又はiRNAを含む医薬組成物などの本発明の組成物を用いることによって、細胞中に発現されるLAP(転写活性化因子)/LIP(転写阻害タンパク質)の発現量の比率を変化させることができる。従って、本発明は、細胞中のLAP(転写活性化因子)/LIP(転写阻害タンパク質)の発現量の比率を変化させる方法であって、細胞に本明細書に記載の組み換えベクター又は本明細書に記載のオリゴヌクレオチド又はアンチセンス核酸又はiRNAを好適な条件下で接触させることを含む方法を提供する。この方法も本発明の範囲内である。特に本発明においては、LAP(転写活性化因子)/LIP(転写阻害タンパク質)の発現量の比率を変化させて、LIP(転写阻害タンパク質)発現量に対するLAP(転写活性化因子)の比率(LAPの発現量/LIPの発現量)を上昇させることによって、本発明の組成物の抗癌作用又は腫瘍溶解作用、又は例えば、腫瘍抑制作用を達成することができる。即ち、癌患者におけるLAP(転写活性化因子)/LIP(転写阻害タンパク質)の発現量の比率の異常を正常に戻す工程を含む、癌に関連する症状を治療及び/又は緩和する方法、例えば、癌の増殖を抑制する方法も本発明の範囲内である。
【0063】
抗癌剤のスクリーニング方法
本発明は、C/EBPβ(CCAAT/エンハンサー結合タンパク質β)遺伝子から発現されるLAP(転写活性化因子)およびLIP(転写阻害タンパク質)の発現量の比率を指標として用いる、薬剤のスクリーニング方法に関する。本発明のスクリーニング方法によれば、癌患者におけるLAP(転写活性化因子)/LIP(転写阻害タンパク質)の発現量の比率の異常を正常に戻す作用を有する物質を選択することができる。このようにして選択される癌患者におけるLAP(転写活性化因子)/LIP(転写阻害タンパク質)の発現量の比率の異常を正常に戻す作用を有する物質は、例えば、癌の増殖を遅延させるなどの癌の症状を治療及び/又は緩和するために有用である。
【0064】
C/EBPβ(CCAAT/エンハンサー結合タンパク質β)遺伝子から発現されるLAP(転写活性化因子)およびLIP(転写阻害タンパク質)の発現量の比率は、当業者に既知の常法、例えば、ノザンブロット法、RT−PCR法、又はウエスタンブロット法などにより測定することができる。なお、これらの方法においてLAPおよびLIPを検出するために使用するプローブ、プライマー又は抗体は、本明細書に記載したLAP及びLIPのヌクレオチド配列及びアミノ酸配列を用いて常法により当業者であれば適宜入手・作製することができる。本発明のスクリーニング方法に供される被験物質の種類は特に限定されず、任意の物質を使用することができる。被験物質は、オリゴヌクレオチド、アンチセンス核酸、iRNA、低分子合成化合物、又は天然物抽出物中に存在する化合物でもよく、あるいは化合物ライブラリー、ファージディスプレーライブラリーもしくはコンビナトリアルライブラリーでもよい。ある実施例としては、被験物質は低分子化合物であり、低分子化合物の化合物ライブラリーが好ましい。化合物ライブラリーの構築は当業者に公知であり、また市販の化合物ライブラリーを使用することもできる。
本発明を以下の実施例により詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0065】
【実施例】
実施例1:ベクターの構築
(a) ラットのLAPの全配列をpTetT−splice(GIBCO BRL)に組み込んだベクター(Hirai et al J.Cell Biol, Vol.153,No.4, 2001, 785−794)をテンプレートとし、以下のプライマー(プライマー1:GGG GGA TCC CGCCAT GGA AGT GGC CAA CTT CTA CTAC(配列番号5);およびプライマー2:ATA TGC TAG CGC GGG CGC GTC GTC CGC GCG CTT GCA(配列番号6))、ならびにLATag(タカラ)を用いて、LIP領域を欠損したLAPcDNAを作成し、BamHI,NheI処理して末端を制限サイトにした。
(b) プロメガpTARGET(プロメガ)のベクターをNheI,BamHIで処理し、ここにライゲーションキット(タカラ)を用いて上記(a)で作製したcDNAを挿入した。
(c) PtetLAPをテンプレートとして、以下のプライマー(プライマー3:ATA TGC TAG CGG CCG GCT TCC CGT TCG CCC TGC GCG(配列番号7);およびプライマー4:ATA TGC TAG CAG TGA CCC GCC GAG GCC AGC AGC GGC(配列番号8))と、LATag(タカラ)を用いて、LIP領域cDNAを作成し、NheI処理で末端をNheIサイトにした。
【0066】
(d) いったん大腸菌内で増殖し、精製した(b)のプラスミドを、NheIで切断し、アルカリホスファターゼ(タカラBAP)で末端を脱リン酸化し、タカラライゲーションキットを用いて▲3▼を挿入した。
(e) 配列を決定を行うことにより、プラスミドLAP内のLIP翻訳開始コドンであるATGが、CGCに置換していることを確認した(変異導入LAPの確認)。
(f) pTet−spliceベクター(GIBCO BRL)のEcoRIサイトを切断し、BAP処理した後、(e)から切り出した変異導入LAPを含むEcoRI切断フラグメントを挿入した。(pTet−splice変異導入LAPの作製)
【0067】
実施例2:細胞培養と遺伝子導入
g6細胞(乳癌細胞株)(Desprez et al.,1993, Mol.Cell Differ. 1:99−110:Roskelley et al. 1994, Proc.Natl.Acad.Sci.USA. 91, 12378−12382; Hirai et al.,1998, J.Cell.Biol. 140:159−169)を増殖培地(5%のFBS[Hyclone]、5μg/mlのインスリン [Sigma−Aldrich]、および50μg/mlのゲンタマイシンを添加したDME/F12 [GIBCO BRL] )中で維持した。g6細胞(5×105)に、実施例1で得たベクター(5μg)、pTet.tTAKベクター(Life Technologies)(5μg)、及びpSV40neo (Schmidhauser et al., 1992, Mol.Biol.Cell. 3:699−709)(0.5μg)をリポフェクタミン(Life Technologies社製)を取扱説明書に従って使用してトランスフェクションした。テトラサイクリンの継続的な存在下でネオマイシン耐性クローンを選択した後、5μg/mlのテトラサイクリンの存在下および非存在下においてLAPの発現をウエスタンブロットにより分析した。g6LAP、g6LAP’、g6LAP”細胞株は、この方法で単離した。
【0068】
実施例3:変異導入LAPによる細胞の形態変化
g6細胞とg6LAP細胞の形態を図1に示す。テトラサイクリンなしで培養すると、変異導入LAP遺伝子を発現させた細胞では細胞接着がみられ、形態的にも正常細胞に類似していた。
【0069】
実施例4:変異導入LAPによるE−カドヘリンの発現誘導
ウエスタンブロットを通常の方法に従って行った。24穴プレートで培養した細胞に500μlのSDSサンプルバッファーを加えた。細胞を回収し、超音波処理した。得られた試料を4〜20%ゲルで電気泳動し、PVDF膜にブロットし、5%スキムミルクを含むTBS(TBST)で1時間ブロックした。TBST中で1/500希釈した抗E−カドヘリン抗体(ECCD2,タカラ)と1時間反応させた。TBSを用いて10分間の洗浄を2回行った。TBST中で1/1000希釈した抗ラットIgHRPラベル(アマシャムファルマシマ)と1時間反応させた。TBSで10分間で3回、十分に洗浄した後、ECL(アマシャムファルマシマ)を用いてオートラジオグラフィを行った。結果を図2に示す。図2の結果から分かるように、テトラサイクリンを含まない培地で変異導入したLAPの発現を誘導した結果(g6LAP、g6LAP’、g6LAP”の3つの異なるクローン)、E−カドヘリンの発現が誘導された。
【0070】
実施例5:ヌードマウスへの移植
g6細胞、g6LAP細胞、g6LAP’細胞、およびg6LAP”細胞をテトラサイクリンの非存在下で培養し、それぞれ107個を回収し、PBSで2回洗浄した。ヌードマウス(Balb/c)5匹を購入し、2匹にはg6、残り3匹にはg6LAP,g6LAP’,g6LAP”を107ずつ腹腔内に注入した。30日後、全マウスを殺し、開腹したところ、g6移植マウスでは、癌の発生および転移が顕著であった。一方、g6LAP、g6LAP’又はg6LAP”を移植したマウスでは、癌の発生及び転移は認められなかった。以上の結果から、変異導入LAP遺伝子を有するg6LAP細胞、g6LAP’細胞、およびg6LAP”細胞では、癌形成能が喪失していることが実証された。
【0071】
【配列表】
<210> 7<211> 36<212> DNA<213> Artificial Sequence<220><223> Oligo DNA<400> 7atatgctagc ggccggcttc ccgttcgccc tgcgcg 36<210> 8<211> 36<212> DNA<213> Artificial Sequence<220><223> Oligo DNA<400> 8atatgctagc agtgacccgc cgaggccagc agcggc 36
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、g6細胞とg6LAP細胞の形態を示す。
【図2】図2は、変異導入LAPによるE−カドヘリンの発現誘導の結果を示す。
Claims (41)
- LAP(転写活性化因子)活性をコードする組み換えベクターであって、LIP活性の発現が阻害されており、かつLIPがLAP活性を抑制しないようにLIP活性の発現が阻害される、組み換えベクター。
- CCAAT/エンハンサー結合タンパク質β(C/EBPβ)遺伝子の一部又は全部のヌクレオチド配列を含む請求項1に記載の組み換えベクターであって、該C/EBPβ遺伝子の一部又は全部がLIP(転写阻害タンパク質)の開始コドンATGの周辺のヌクレオチド配列を含み、かつ当該ヌクレオチド配列がLIP転写阻害タンパク質の開始コドンATGを含む変異を有する、組み換えベクター。
- 当該変異が、ATGを別のアミノ酸をコードするコドンに置換したものであり、当該置換されたコドンがTTGではない、請求項2に記載の組み換えベクター。
- 当該変異が、ATGを、Ala、Gly及びProから成る群からのアミノ酸をコードするコドンに置換したものである、請求項3に記載の組み換えベクター。
- 当該アミノ酸がAlaである、請求項4に記載の組み換えベクター。
- 当該アミノ酸がGlyである、請求項4に記載の組み換えベクター。
- 当該アミノ酸がProである、請求項4に記載の組み換えベクター。
- 当該アミノ酸がArgである、請求項4に記載の組み換えベクター。
- 当該組み換えベクターがウイルスベクターである、請求項1から8の何れかに記載の組み換えベクター。
- ベクターがレトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、又はアデノ随伴ウイルスベクターから成る群から選ばれる、請求項9に記載の組み換えベクター。
- 請求項1から10の何れかに記載の組み換えベクターを含む組成物。
- 薬学的に許容できる担体を含む、請求項11に記載の組成物。
- LIPの開始コドンATGを別のコドンに置換した変異LAPポリペプチドであって、置換されたコドンがTTGではない、変異LAPポリペプチド。
- 置換されたコドンが翻訳停止コドンではない、請求項13に記載の変異LAPポリペプチド。
- 請求項13又は14の何れか1項に記載の変異LAPポリペプチドをコードする単離された核酸。
- 請求項1〜10の何れかに記載の組み換えベクターを含む宿主細胞。
- 請求項13又は14の何れか1項に記載の変異ポリペプチドを含む宿主細胞。
- 請求項15に記載の単離された核酸を含む宿主細胞。
- 請求項9又は10の何れかに記載の組み換えウイルスベクターを含むウイルス粒子。
- C/EBPβ遺伝子のヌクレオチド配列中のLIP(転写阻害タンパク質)の開始コドンATGの周辺の約10〜約100ヌクレオチドの長さのヌクレオチド配列又はその相補配列を有するオリゴヌクレオチドであって、当該オリゴヌクレオチド又はその相補配列がLIPの発現を減少できる、オリゴヌクレオチド。
- 該オリゴヌクレオチド配列が約10〜約80ヌクレオチドの長さである、請求項20に記載のオリゴヌクレオチド配列。
- 当該オリゴヌクレオチド配列が約15〜約50ヌクレオチドの長さである、請求項20又は21の何れかに記載のオリゴヌクレオチド配列。
- 請求項20から22の何れか1項に記載のオリゴヌクレオチドを含む組成物。
- 薬学的に許容できる賦形剤をさらに含む、請求項23に記載の組成物。
- 細胞に、請求項1から10の何れか1項に記載の組み換えベクター、又は請求項13又は14の何れか1項に記載の変異LAPポリペプチド、又は請求項20から22の何れか1項に記載のオリゴペプチドを好適な条件下で接触させることを含む、細胞中のLIP(転写阻害タンパク質)に対するLAP(転写活性化因子)の発現量の比率を変化させる方法。
- 該細胞が癌細胞である、請求項25に記載の方法。
- 該細胞が乳癌細胞又は肝臓癌細胞である、請求項25又は26の何れか1項に記載の方法。
- 薬剤が、C/EBPβ遺伝子から発現するLIP(転写阻害タンパク質)に対するLAP(転写活性化因子)の発現量の比率を変化させるかどうかをスクリーニングする方法であって、C/EBPβ遺伝子を該薬剤と接触させてLIP発現に対するLAP発現の比率を測定する工程を含む方法。
- 該薬剤が低分子化合物である、請求項28に記載の方法。
- 該薬剤が天然由来物質の抽出物である、請求項28に記載の方法。
- 比率をノザンブロットにより測定する、請求項28に記載の方法。
- 哺乳動物細胞が該C/EBPβ遺伝子を含む、請求項28に記載の方法。
- 細胞中のLAPの発現量を増大する薬剤を同定することをさらに含む、請求項28に記載の方法。
- 細胞中のLIPの発現量を低下させる薬剤を同定することをさらに含む、請求項28に記載の方法。
- 比率をPCRにより測定する、請求項28に記載の方法。
- 個体におけるLIP(転写阻害タンパク質)に対するLAP(転写活性化因子)の発現量の比率の異常に関連する疾患及び/又は状態の症状を治療及び/又は緩和する方法であって、個体に、請求項1から10の何れか1項に記載の組み換えベクター、又は請求項20から22の何れか1項に記載のオリゴヌクレオチド、又は請求項13又は14の何れか1項に記載のLAPポリペプチドを投与することを含む方法。
- 該個体が癌患者である、請求項36に記載の方法。
- 該癌が乳癌又は肝臓癌である、請求項37に記載の方法。
- 癌の症状の治療及び/又は緩和のための医薬の製造における請求項1から10の何れかに記載の組み換えベクターの使用。
- 癌の症状の治療及び/又は緩和のための医薬の製造における請求項13又は14の何れか1項に記載の変異LAPポリペプチドの使用。
- 癌の症状の治療及び/又は緩和のための医薬の製造における請求項20から22の何れかに記載のオリゴヌクレオチドの使用。
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