JP2004029281A - サブピコ秒応答光スイッチおよびその光導波路素子 - Google Patents

サブピコ秒応答光スイッチおよびその光導波路素子 Download PDF

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Ryoichi Akimoto
秋本 良一
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Abstract

【課題】1ピコ秒以下の光スイッチング応答速度を持つ光スイッチ素子および光導波路構造を提供する。
【解決手段】CdS相をBeTe相ではさむ構造の量子井戸であって、BeTe相とCdS相の間に、ZnSe相を介在させ、かつCdS相に電子供給物質をドーピングしてなる量子井戸をサブピコ秒光スイッチとして用いることおよび当該量子井戸を活性層とする光導波路構造。
【選択図】   図3

Description

【0001】
【産業上の利用分野】
テラビット/秒時分割多重光通信システムにおける光・光スイッチ素子に関する。
【0002】
【従来の技術】
本発明に関連する内容の文献(Applied Physics Letters誌2002年4月号, 80巻, 14号, 2433−2435ページ)に示されているようにII−VI族半導体材料であるZnSeとBeTeにより形成された半導体量子井戸中の伝導帯サブバンド間を利用した光スイッチの時間応答特性に関して、波長2μm以下のサブバンド間遷移を示す量子構造においては、数ピコ秒遅い応答があるため、ピコ秒以下の光スイッチング動作が実現されていなかった。さらに、II−VI族半導体材料をベースとするサブバンド間を利用した光スイッチ素子において、光スイッチングエネルギーを低減するための光導波路型素子の構造が今まで存在しなかった。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
GaAs基板上にII−VI族半導体材料よりなるサブバンド間遷移を利用した光スイッチ素子を作製し、それに1ピコ秒以下の光スイッチング応答速度を持たせることが課題であった。さらに、光スイッチ活性層に光を閉じ込めるための最適なクラッド材料および光導波路構造を考案することも課題であった。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、従来より報告されていたZnSe/BeTe量子井戸構造の改良を行った。すなわち、BeTe相の上に、CdS相を成長させる研究を続けた結果、BeTe相とCdS相の間に、ZnSe相を介在させるとCdS相がうまく二次元成長することを見出し、ZnSe層内にCdS層を挿入した (CdS/ZnSe)/BeTe量子井戸構造を発明した。
この構造においては、従来の構造において数ピコ秒の遅いスイッチング速度の原因となっていた第二サブバンドへ光励起された電子の特定のエネルギー緩和過程を除去することが可能なことが判った。
その結果、サブバンド間遷移を利用した光スイッチングの速度が、270フェムト秒まで短縮されることがわかり、上記課題を解決することが出来ることを確認した。
さらに、本発明者は(CdS/ZnSe)/BeTe量子井戸構造を利用した光導波路型の光スイッチ素子において、光クラッド層としてGaAs基板に格子定数を一致させたZnBeMgSe4元系の材料が最適であることを見出した。
すなわち、CdS相をBeTe相ではさむ構造の量子井戸であって、BeTe相とCdS相の間に、ZnSe相を介在させ、かつCdS相に電子供給物質をドーピングしてなる量子井戸を活性層とする光導波路構造が良いことを確認した。
【0005】
【発明の実施形態】
本発明の実施の形態をまとめると以下の通りである。
(1) CdS相をBeTe相ではさむ構造の量子井戸であって、BeTe相とCdS相の間に、ZnSe相を介在させ、かつCdS相に電子供給物質をドーピングしてなる量子井戸をサブピコ秒光スイッチとして用いること。
(2) BeTe相の厚さが、4原子層、CdS相の厚さが、3原子層、ZnSe相の厚さが、2原子層、である上記1に記載した量子井戸をサブピコ秒光スイッチとして用いること。
(3) 電子供給物質が、ZnClである上記1または上記2に記載した量子井戸をサブピコ秒光スイッチとして用いること。
(4) CdS相をBeTe相ではさむ構造の量子井戸であって、BeTe相とCdS相の間に、ZnSe相を介在させ、かつCdS相に電子供給物質をドーピングしてなる量子井戸を活性層とする光導波路構造。
(5) BeTe相の厚さが、4原子層、CdS相の厚さが、3原子層、ZnSe相の厚さが、2原子層、である上記4に記載した量子井戸を活性層とする光導波路構造。
(6) 電子供給物質が、ZnClである請求項4または請求項5に記載した量子井戸を活性層とする光導波路構造。
【0006】
本発明の具体的実施例を詳細に示す。
実施例1
(半導体量子構造の製造方法)
サブピコ秒光スイッチ動作を示す半導体量子構造の詳細は図1に示されている。本構造の井戸層は4原子層厚の二つのBeTe障壁層間に形成されている。具体的には井戸層は、1〜2原子層厚のZnSe、2〜3原子層厚のCdS、1〜2原子層厚のZnSeより構成された構造になっている。この井戸層内に第一および第二サブバンドが形成され、このバンド間の光遷移は波長2μm以下となる。サブバンド間遷移による光吸収を観測するために電子を井戸層へ供給する必要がある。このため、井戸層を形成するさいに電子供給物質であるZnClを添加することによりこれを行う。BeTe層の外側に、スペーサー層として50原子層厚のZnSe層を形成する。本量子構造は分子線エピタキシー法により作製するが、各層の詳細な形成方法を以下に記す。
<ZnSe層上へのBeTe層の形成>
蒸着源であるBeとTeを背景10−10Torrの超真空中で加熱しそれぞれ1×10−8と2×10−7Torrの強度の分子線を発生させる。これらの分子線を温度250℃に保持されているGaAs基板に形成されているZnリッチなc(2×2)構造を有するZnSe層上に照射し、BeTe層の形成を行う。BeTe層形成時の成長速度は約0.1原子層/秒である。BeTe層の形成終了時に、まずBe分子線を照射し終えた後、Te分子線を10秒さらに照射する。これにより成長表面をTeリッチな(2×1)構造にする。
<BeTe層上へのZnSe層の形成>
上記の方法により成長したBeTe層上にZnSe層を形成する。まず、Zn分子線のみを10秒照射した後、Se分子線を加えて照射することによりZnSe層の形成を行う。ZnSe層形成時の成長速度は約0.2原子層/秒である。ZnSe層の形成終了は、まずSe分子線の照射を停止することにより行う。Se分子線の照射終了後、Zn分子線だけ10秒間照射しつづける。これにより成長膜表面をZnリッチなc(2×2)構造にする。このときにZnとSeの分子線強度は、それぞれ1.5×10−7と4×10−7Torrである。
<ZnSe層上へのCdS層の形成>
化合物であるCdSを加熱蒸着し、CdS分子線を発生させる。上記の方法により成長したZnSe層上に、CdS分子線を照射することによりCdS層の形成を行う。CdS形成時の成長速度は、約0.1原子層/秒である。CdSの分子線強度は2.5×10−7Torrである。
<CdS層上へのZnSe層の形成>
上記ZnSe層の形成と同じ方法により得た。
<ZnSe層上へのBeTe層の形成>
上記ZnSe層の形成方法によりZnSe層を形成した後、同じく上記BeTe層の形成方法に従って、BeTe層を形成する。
<電子供給物質をドーピングしたCdS/ZnSe量子井戸層の形成>
ZnClを分子線として照射し、CdSおよびZnSe層に電子供給物質であるCl原子を導入する。ZnCl分子線を照射するタイミングは、ZnSe相の形成においてはSe分子線の照射のタイミングにあわせて同時照射する。CdS相の形成においては、CdS分子線とZnCl分子線を同時に照射する。ZnCl分子線の強度は、1×10−10Torrである。
<量子井戸のサブバンド間遷移を利用したスイッチング特性>
フェムト秒レーザーを利用した、ポンプ・プローブ法により光スイッチング応答速度を測定した。ここではポンプレーザー光により生じた吸収飽和の回復の様子を、プローブパルス光により調べる測定を行っている。ポンプ光照射により飽和した吸収が自然対数分の1にまで回復する時間を応答時間と定義している。従来の構造であるZnSe/BeTe量子井戸と本発明(CdS/ZnSe)/BeTe量子井戸の比較を行った。いずれも、波長1.8μmにサブバンド遷移吸収ピークをもつ構造について、吸収ピーク波長において応答速度の比較を行った。図2に示す結果が得られ、ZnSe/BeTe量子井戸では、数ピコ秒の応答特性であるのに対して、(CdS/ZnSe)/BeTe量子井戸では、270フェムト秒の応答が得られた。このことより、従来の構造では実現不可能であったサブピコ秒の時間応答が、本発明の構造で実現されていることが証明された。
【0007】
実施例2
(量子構造を活性層とする光導波路構造の製造方法)
実施例1の(CdS/ZnSe)/BeTe量子井戸と50原子層のZnSeスペーサー層からなる層を30から100回程度繰り返した構造を光活性層とする光導波路型の光スイッチ素子を図3に示す。この活性層に、膜成長方向に対して光を閉じ込めるため光クラッド層としてGaAs基板に格子定数が一致した組成をもつ四元系材料Zn1−x(Mg1−yBeSeを採用する。GaAs基板と格子定数をあわせるため、MgとBeの組成比Yを0.33する。Zn1−x(Mg1−yBeSeを光クラッド層として機能させるためには、活性層の平均屈折率より十分小さくする必要がある。そのため、Znと(Mg、Be)の組成比Xを0.2〜0.3とする。光導波路の成長膜面内方向の光を閉じ込めるため、縦・横それぞれ1μm・2μmのリッジ型構造にする。
【0008】
<従来より高速のスイッチング応答が実現できた理論的背景>
サブバンド間遷移を利用した光スイッチの原理は、第一サブバンドから第二サブバンドへ光励起された電子が、第一サブバンドへ戻る時間で決定される。II−VI族半導体材料においては、この過程に要する時間は1ピコ秒以下である。しかし図3に示されているように、ZnSe/BeTe量子井戸においてはサブバンド間遷移波長が2μm以下になると、第二サブバンドのエネルギー位置がBeTe障壁層の伝導帯最低エネルギーのX点のエネルギー位置と同程度のレベルになる。このため、第一サブバンドより第二サブバンドへ励起された電子は、X点を経由して第一サブバンドへ戻るため応答速度が数ピコ秒になると考えられている。本発明の(CdS/ZnSe)/BeTe量子井戸においては、サブバンド間遷移波長を2μm以下に維持したまま、第二サブバンドのエネルギー位置をBeTe障壁層のX点より下に形成することが可能である。このことにより、第二サブバンドへ光励起された電子が、X点へ散乱される確率をほとんど無視できる程度にまで弱めることができる。したがって、従来のZnSe/BeTe量子井戸に比べて、高速のスイッチング動作が可能となった。
【0009】
【発明の効果】
以上に説明したように、本発明は、ZnSe/BeTe量子井戸のZnSe井戸層にCdS層を挿入した(CdS/ZnSe)/BeTe量子井戸構造を形成することにより、サブバンド間遷移を利用したサブピコ秒の応答速度を有する光スイッチ動作を、動作波長2μm以下において実現することが可能となった。さらに、これを活性層とし、四元系材料Zn1−x(Mg1−yBeSeを光クラッド層とする光導波路構造を有する光スイッチ素子の実現が可能となった。
【図面の簡単な説明】
【図1】サブバンド間遷移波長2μm以下の遷移吸収示し、かつサブピコ秒の光スイッチング動作が可能な量子構造。
【図2】図1の量子構造と、従来のZnSe/BeTe量子構造における光スイッチング動作の比較。
【図3】ZnSe/BeTe量子井戸構造と(CdS/ZnSe)/BeTe量子井戸構造におけるサブバンド間遷移を利用した光スイッチング動作の違いを説明している。
【図4】(CdS/ZnSe)/BeTe 量子構造を活性層とする光導波路型の光スイッチ素子の断面図。

Claims (6)

  1. CdS相をBeTe相ではさむ構造の量子井戸であって、BeTe相とCdS相の間に、ZnSe相を介在させ、かつCdS相に電子供給物質をドーピングを施している量子井戸をサブピコ秒光スイッチとして用いること。
  2. BeTe相の厚さが、4原子層、CdS相の厚さが、3原子層、ZnSe相の厚さが、2原子層、である請求項1に記載した量子井戸をサブピコ秒光スイッチとして用いること。
  3. 電子供給物質が、ZnClである請求項1または請求項2に記載した量子井戸をサブピコ秒光スイッチとして用いること。
  4. CdS相をBeTe相ではさむ構造の量子井戸であって、BeTe相とCdS相の間に、ZnSe相を介在させ、かつCdS相に電子供給物質をドーピングしてなる量子井戸を活性層とする光導波路構造。
  5. BeTe相の厚さが、4原子層、CdS相の厚さが、3原子層、ZnSe相の厚さが、2原子層、である請求項4に記載した量子井戸を活性層とする光導波路構造。
  6. 電子供給物質が、ZnClである請求項4または請求項5に記載した量子井戸を活性層とする光導波路構造。
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* Cited by examiner, † Cited by third party
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