JP2004008064A - コーヒー抽出液及びその製造方法、並びにその評価方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】コーヒーパウダーに、該パウダーが浸る最小限の熱湯を注いで20〜40秒間蒸らした後、水位がフィルターの上端から1〜3cm下となる位置まで一気に熱湯を注ぎ、次い該フィルター内の熱湯の表面から5cm以内の高さで一定となるようにして静かに注ぎ、抽出を1分30秒間〜2分30秒間で完了させ、カリウム/カルシウム含量比が40〜50であるコーヒー抽出液を得る。並びに該抽出液中のカリウム及びカルシウムの含量を測定し、得られた測定値を重回帰式に代入して、該コーヒー抽出液の味覚を評価する。
【選択図】 なし
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、コーヒー抽出液、その製造方法に関し、詳しくは無機成分の含量比が調節された、風味が豊かで官能的に優れたコーヒー抽出液とその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
焙煎されたコーヒー豆から得られるコーヒー抽出液、いわゆるコーヒーは、世界各国で飲用されており、わが国においても身近な嗜好性飲料の一つとなっている。
しかしながら、コーヒーはその嗜好性の高さの故に、その味覚を科学的、かつ客観的に評価することは困難であると言われている。このため、コーヒー抽出液の科学的な品質評価法は未だ確立されておらず、熟練したカップテスター(パネル)による官能検査等に頼らざるを得ない場合が多いのが現状である。
【0003】
コーヒー豆からコーヒー抽出液を得る方法としては、ドリップ法や間欠方式等がある。
ドリップ法とは、ペーパーフィルターやネルフィルター等を用いてコーヒーを抽出する方法(「コーヒーの事典」、日本コーヒー文化学会編、柴田書店発行)である。一般的に行われているドリップ法を用いた抽出方法の一態様は、次の通りである。
まず、フィルターにセットしたコーヒーパウダーの表面を平らにし、ドリッパーの穴の上部にあたる部分に約5mmの溝を掘る。この溝部分に1cmの高さから湯を点滴で落とし、コーヒーパウダーが膨らみだしたら、湯を水平に左右させながら、コーヒーパウダー全体を蒸らす。このとき、湯はドリッパーに回して注がず、コーヒーパウダーと湯の角度が直角となるように注ぐ。コーヒーパウダー表面の泡が白色となってきたら、湯を注ぐ速度を速めていき、コーヒーパウダーの陥没を防ぐという方法である。以上の操作を行うことによって、風味豊かなコーヒー抽出液を得ることができると言われている。
【0004】
ドリップ法や間欠方式においては、温度が90℃以上の高温の湯を用いた場合には、コーヒー抽出液の苦味が強くなり、80℃以下の低温の湯を用いた場合には、コーヒー抽出液の酸味が強くなるため、湯温の管理に十分な注意が要求される。また、湯量やコーヒーパウダーの量についても、できあがりの量や風味を考慮して加減することが望まれ、熟練を要するものである。
また、従来の方法で得られたコーヒー抽出液は、嗜好的に悪い影響を与える苦味や酸味が強くなることがあり、コーヒー本来の風味が十分に生かされているとは言い難い。
【0005】
コーヒー抽出液に含まれる各種成分は、コーヒーパウダーに含まれる成分と同様の組成や比率にならないことが知られている。そのため、実際に飲料として摂取されるコーヒー抽出液に含まれる成分と味覚との関係の解明が望まれている。また、コーヒー抽出液に含まれる成分の違いが、コーヒー抽出液の嗜好性に及ぼす影響を明らかにすることができれば、新たな品質管理指標を設定することが可能となるため、産業上有用であると考えられる。
コーヒー抽出液に含まれる成分のうち、特にカリウム、カルシウム、マグネシウム、リン等の無機成分とコーヒー抽出液の味覚との関係については、上記の理由から早急な解明が望まれている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、風味豊かで官能的に優れたコーヒー抽出液及びその製造法、並びに熟練したパネルによる官能検査を行わずにコーヒー抽出液の味覚について科学的、かつ客観的な評価を行う方法を提供することである。
そこで発明者らは、鋭意研究の結果、コーヒー抽出液に含まれる成分のうち、味覚や風味に与える影響の大きい成分がカリウム、カルシウム等の無機成分であるとの知見を得、これら成分の含量比について検討し、好適な含量比を見出し、さらに当該比率を満足させるコーヒー抽出液の取得方法を確立して、本発明に至ったものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
請求項1記載の本発明は、カリウム/カルシウム含量比が40〜50であることを特徴とするコーヒー抽出液である。
請求項2記載の本発明は、フィルターにセットしたコーヒーパウダーに、該パウダーが浸る最小限の熱湯を注いで20〜40秒間蒸らした後、水位がフィルターの上端から1〜3cm下となる位置まで一気に熱湯を注ぎ、次いで熱湯の注ぐ先が該フィルター中の熱湯の表面から5cm以内の高さで一定となるようにして静かに注ぎ、抽出を1分30秒間〜2分30秒間で完了させることを特徴とする請求項1記載のコーヒー抽出液の製造方法である。
請求項3記載の本発明は、請求項1記載のコーヒー抽出液において、該抽出液中のカリウム及びカルシウムの含量を測定し、得られた測定値を下記の重回帰式に代入して、該コーヒー抽出液の味覚を評価することを特徴とするコーヒー抽出液の味覚評価方法である。
【0008】
【数2】
【0009】
【発明の実施の形態】
請求項1記載の本発明は、コーヒー抽出液中のカリウム/カルシウム(K/Ca)含量比が40〜50であるコーヒー抽出液である。コーヒー抽出液中には、カリウム(K)、カルシウム(Ca)の他に、マグネシウム(Mg)、リン(P)等の無機成分が含まれ、その含量は用いるコーヒー豆の種類や焙煎したコーヒー豆からの抽出方法等によって大きく異なる。本発明では、特に、K/Ca含量比に着目し、この比が所定の値のコーヒー抽出液は嗜好性に優れていることを見出し、かかるコーヒー抽出液を取得する方法、並びに官能検査に頼らない味覚の評価方法をも確立したのである。
【0010】
本発明のコーヒー抽出液の原料であるコーヒー豆としては、通常飲用に供されている品種であれば特に制限はない。例えば、アラビカ種、ロブスタ種やこれらをブレンドしたものを適宜選択して、使用することができる。
具体的には、アラビカ種としては、タンザニアAA(以下、キリマンジャロと表記することもある。)、マンデリンGRADE1(以下、マンデリンと表記することもある。)、レケンプティー(以下、モカと表記することもある。)、ブルーマウンテンNo.1(以下、ブルーマウンテンと表記することもある。)等が挙げられる。
また、ロブスタ種としては、具体的にはジャワロブスタW1B/1(以下、ジャワロブスタと表記することもある。)、ロブスタAP/1等が挙げられる。
しかし、これらのコーヒー豆のうち、ジャワロブスタについては、本発明で特定するK/Ca含量比を満たすコーヒー抽出液が得ることが極めて困難であるため、単独での使用に適さない。
【0011】
次に、請求項2記載の本発明について説明する。
コーヒー抽出液を得るには、常法にしたがって原料のコーヒー豆を予め焙煎した後、粉砕する必要がある。焙煎度合としては通常飲用に適する範囲であればよいが、ミディアムローストL値を22.00〜29.00、好ましくは23.00〜26.50とする。
次に、焙煎コーヒー豆をミル等で粉砕するが、得られるコーヒーパウダーの粒度については特に制約ないが、粉砕物をそのまま用いるよりも、篩い分けを行い粒度を一定範囲(500〜1000μm)としたものを用いることが好ましい。
【0012】
次に、本発明のコーヒー抽出液の製造方法の1態様であるクワイエットドリップ法について説明する。まず、ペーパーフィルター又はネルフィルター等の濾過用資材をセットしたフィルター中にコーヒーパウダーを秤り入れる。このとき、コーヒーパウダーの表面は平らにし、かつフィルター内の厚みが均一になるように表面の中心部にくぼみを付けておく。
続いて、コーヒーパウダーが十分浸る程度の最少量の湯を注ぎ、20〜40秒間、好ましくは25〜35秒間蒸らす。蒸らし時間は、コーヒーパウダーの量によって変化せず、常に一定とするのが良い。その後、フィルターの上端すれすれから3cm、好ましくは1〜2cmの位置まで水位を上げる。次いで、注ぐ先がフィルター内の湯の表面から5cm以内、好ましくは1〜3cmの高さで一定となるようにして、湯をフィルター内の中心部に静かに注ぎきり、1分30秒間〜2分30秒間、好ましくは1分50秒間〜2分10秒間で抽出を完了させる。
湯を注ぐときは、注いだショックでコーヒーパウダーが踊らず、かつ水位を上下動させないように静かに行うことが好ましい。
【0013】
上記のクワイエットドリップ法に供するコーヒーパウダー量や湯量は、所望の抽出量を得るのに必要な範囲で適宜選択することができるが、すべての抽出が上記した時間内で完了する範囲内で選択することが好ましい。そのため、通常はコーヒーパウダーの使用量は20〜40g、好ましくは24〜36gとする。一方、湯の使用総量は420ccとする。その理由は、水位と抽出時間で抽出液の調整を行うことが、クワイエットドリップ法の特徴であるからである。例えば、コーヒーパウダーを36g用いた場合、湯量を420ccとすることにより、約375ccのコーヒー抽出液が得られる。
【0014】
抽出に用いる湯は、水を通常の方法で沸騰させた後、火を消し沸騰の止まったときの温度80〜99℃、好ましくは90〜97℃のものを用いる。なお、水については特別な制限はなく、水道水、ミネラルウォーター、蒸留水等を用いることができる。しかし、用いる水の硬度によって得られるコーヒー抽出液の無機成分の含量が変わるため、前記請求項1記載のK/Ca含量比を満たすコーヒー抽出液を得られるように配慮すべきである。
本発明の方法に用いる器具としては、通常のハンドドリップに用いられている器具であれば、特に制限されることはない。
【0015】
上記クワイエットドリップ法により抽出して得たコーヒー抽出液は、K/Ca含量比が40〜50である。
また、クワイエットドリップ法においては、コーヒーパウダーの蒸らし時間、湯の水位や抽出時間を調節することにより、K、Caの他に、MgやP等の無機成分の含量を調節することが可能である。すなわち、無機成分の含量を調節することにより、所望の風味を有するコーヒー抽出液が得られる。
【0016】
次に、請求項3記載の本発明について説明する。本発明に係るコーヒー抽出液の評価方法は、味覚を評価したいコーヒー抽出液中のK含量及びCa含量を測定し、この数値を前記の重回帰式に代入することにより、官能検査を実施せずに、官能検査によって得られる総合評価の予測値を求めることができる。
すなわち、重回帰式に必要な数値を代入することより、コーヒー抽出液の味覚を評価するものである。評価値は、官能検査による5段階評価値に対応し、相関係数が高い。総合評価は、後述するように、嗜好上の順位と高く相関しており、総合評価が高いものほど嗜好上の順位も高いものである。
【0017】
上記の重回帰式は、次の手順で得たものである。コーヒー豆品種、例えばキリマンジャロ、マンデリン、モカ、ブルーマウンテン、ジャワロブスタをそれぞれ焙煎し、粉砕して得たコーヒーパウダーからクワイエットドリップ法により抽出して得たコーヒー抽出液中のK含量及びCa含量を測定する。
K含量及びCa含量の測定は、常法にしたがって行えばよく、例えば原子吸光度法によって行うことができる。原子吸光測定用標準液は、Kの場合は1%塩酸を用いて濃度0〜2.0ppmに、Caの場合はランタン入り1%塩酸を用いて濃度0〜10ppmに希釈・調製して測定に用いる。
一方、測定用サンプルであるコーヒー抽出液は、Kの場合は1%希塩酸を用いて1000倍希釈、Caの場合はランタン入り1%希塩酸を用いて6倍希釈したコーヒー抽出液について原子吸光光度計を用いて吸光度を測定し、K含量及びCa含量をそれぞれ算出する。なお、原子吸光測定に供する水は、すべて蒸留水を用いることが好ましい。
【0018】
上記により得られたK含量及びCa含量から、両者の相関係数を算出したところ、−0.995という極めて高い負の相関が得られた。このため、K含量及びCa含量に、官能検査により得られた総合評価をパラメーターとして加えて重回帰分析を行ったところ、0.977という極めて高い重相関係数を持つ上記の重回帰式が得られた。
官能検査は、香り、苦味、酸味、後味及び総合評価について、コーヒーの官能検査に熟練しているパネルによる5段階尺度法によって評価を行い、その平均値を求めることによって実施する。すなわち、1をかなり嫌い、5をかなり好きとする5段階で評価する。
【0019】
上記の重回帰式に、味覚の評価を求めるコーヒー抽出液について得たK含量及びCa含量の測定値を代入することによって、官能検査を行わずに該抽出液の官能検査の予測値を得ることができる。
後述する実施例からも明らかなように、得られる予測値は、官能検査を実際に行って得た実測値とほぼ一致している。したがって、コーヒー抽出液のK含量及びCa含量を測定し、上記の重回帰式に代入するという簡単な方法により、煩雑な官能検査を行わずして、該コーヒー抽出液について科学的及び客観的な総合評価を行うことができる。
【0020】
【実施例】
以下に、実施例により本発明を詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
実施例1
5種のコーヒー豆(キリマンジャロ、マンデリン、モカ、ブルーマウンテン、ジャワロブスタ)2kgを、焙煎機(フジローヤル・ロースターR−103型、富士珈機販売(株)製)を用いてL値22.00〜26.50に焙煎した後、コーヒーミル(シルバーカットミル、カリタ社製)で粉砕した。次いで、篩い分けして粒径を一定範囲(500〜1000μm(22〜36メッシュ))に揃えたコーヒーパウダーを得た。
【0021】
こうして得た5種のコーヒーパウダーを下記のクワイエットドリップ法により抽出して、コーヒー抽出液を得た。すなわち、ペーパーフィルターをドリッパー(フィルター)にセットし、コーヒーパウダーを36g秤り入れた。
続いて、コーヒーパウダーが十分浸る程度の最少量の湯を注ぎ、30秒間蒸らした。その後、湯を注いでフィルターの上端から1〜2cmの位置まで水位を上げ、次いで注ぐ先がフィルター内の湯の表面から1〜3cmの一定の高さを保つようにしてフィルターの中心部に湯を静かに注ぎきり、約2分間で抽出を完了させた。なお、抽出に用いた湯の総量は420cc、温度は90℃であり、無機成分を含まない蒸留水を使用した。また、湯を注ぐときは、注いだショックでコーヒーパウダーが踊ることがなく、かつ水位を上下させないように静かに行った。
【0022】
得られた各コーヒー抽出液について、無機成分(K、Ca及びMg)の含量(イオン濃度)を、それぞれ下記の方法で測定した。また、得られた各成分の含量から、K/Ca含量比、K/Mg含量比及びMg/K含量比を算出した。
1)K、Ca及びMg含量の測定
各コーヒー抽出液を、K含量の測定の場合は1%希塩酸にて1000倍希釈、Ca含量の測定の場合はランタン入り1%希塩酸にて6倍希釈、Mg含量の測定の場合はランタン入り1%希塩酸にて300倍希釈した。
該希釈コーヒー抽出液について、原子吸光光度計(島津原子吸光/フレーム分光光度計 AA−660、島津製作所製)を用いて吸光度を測定した。なお、吸光度を測定した波長は、カリウムは766.5nm、カルシウムは422.7nm、マグネシウムは285.2nmとした。
【0023】
原子吸光に供した精製水は、蒸留水をMill−Q.Jr.(ミリポア社製)で処理して使用した。標準液、サンプルを希釈するための1%塩酸は、1000mL容メスフラスコに塩酸8.3mLを採り、精製水にて定容し、調製した。
また、ランタン入り1%塩酸は1%塩酸と同様、1000mL容メスフラスコに塩酸8.3mL、ランタン10mLを採り、精製水にて定容し、調製した。
原子吸光にて使用した標準液については、次のように調製した。すなわち、Kについては1%塩酸を用いて、濃度0〜2.0ppmに希釈し、調製した。CaとMgについてはランタン入り1%塩酸(10%塩化ランタン10mLを1%塩酸にて1000mLに定容し、調製)を用いて、Caの場合は濃度0〜10ppm、Mgの場合は濃度0〜4ppmに希釈し、調製した。
【0024】
さらに、得られたコーヒー抽出液について、コーヒーに精通している熟練パネル18名による官能検査を併せて行った。官能検査は、コーヒー抽出液を恒温槽にて品温を60〜70℃となるように保ち、官能検査室の室温を23℃に設定して行った。
評価方法としては、各パネルにコーヒーの香り・苦味・酸味・後味・総合評価の5項目について、それぞれ5段階尺度法により評価させた。各評価項目について、かなり嫌いあるいはかなり弱いを1、嫌いあるいは弱いを2、どちらでもないを3、好きあるいは強いを4、かなり好きあるいはかなり強いを5として評価させ、平均値を求めた。無機成分含量及び官能検査の総合評価の結果を第1表に示す。また、得られた無機成分含量から算出した各成分の含量比を第2表に示した。
【0025】
【表1】
第1表
【0026】
【表2】
第2表
【0027】
第1表から明らかなように、Ca含量及びMg含量について、コーヒーの種類による差が認められた。一般に美味しいとされているブルーマウンテン、キリマンジャロ、マンデリン、モカではCa含量とMg含量が高いのに対して、美味しくないとされているジャワロブスタではCa含量及びMg含量はいずれも低かった。一方、K含量及びP含量については、コーヒーの種類による含量の違いは認められなかった。
また、官能検査の結果、総合評価で2.6以上となった4つのコーヒー抽出液のK含量は844.02〜890.08ppm、Ca含量は16.9〜20.1ppm、Mg含量は55.3〜68.6ppmを示した。
以上のことから、コーヒー抽出液に含まれている無機成分の含量を調節することによって、風味豊かな美味しいコーヒー抽出液が得られることが示唆された。
【0028】
第2表から明らかなように、K/Ca含量比について、総合評価が2.6以上を得られたコーヒー抽出液と総合評価が2.0以下のコーヒー抽出液では異なる傾向が認められた。すなわち、総合評価が2.6以上を得られたコーヒー抽出液はいずれもK/Ca含量比が43.5〜49.9の値を示し、総合評価が2.0以下のコーヒー抽出液は70.3と高い値を示した。また、総合評価とK/Ca含量比との相関を調べたところ、−0.995と極めて高い負の相関係数が得られた。
K/Mg含量比については、総合評価が2.6以上得られたコーヒー抽出液では低く、総合評価が2.0以下のコーヒー抽出液では高い傾向が見られた。総合評価とK/Mg含量比の相関を調べたところ、−0.899という高い負の相関係数が得られた。また、Mg/Ca含量比については、コーヒーの種類による差は認められなかった。
以上のことから、コーヒー抽出液中のK/Ca含量比を40〜50にすることによって、総合評価が高く、官能的に優れたコーヒー抽出液が得られることが明らかとなった。
【0029】
実施例2
本実施例では、コーヒー抽出液の評価に対する無機成分の影響を検討するため、実施例1と同様にクワイエットドリップ法で得たコーヒー抽出液について、官能検査及び無機成分含量の測定を行った。
官能検査は、実施例1で行ったコーヒーの香り・苦味・酸味・後味・総合評価の5項目の他に、各サンプルについて嗜好上の順位を挙げさせ、それぞれ5段階尺度法により評価した。なお、嗜好上の順位は、順位1位のものを5とし、2位を4に、以下順次3、2、1の得点を与えた場合の平均値にて評価した。図1はK/Ca含量比と総合評価との関係、図2は総合評価と嗜好上の順位との関係をプロットした図である。
【0030】
図1に示すとおり、K/Ca含量比と総合評価は、相関係数−0.995と極めて高い負の相関が得られた。実施例1で総合評価が2.6以上であった4種のコーヒー抽出液はK/Ca含量比がいずれも50以下を示す一方、総合評価が2.0以下であったコーヒー抽出液はK/Ca含量比が高かった。
また、総合評価と嗜好上の順位は、相関係数として0.853が得られ、総合評価の高いものほど、嗜好上の順位が高いことが示唆された。
したがって、本発明のK/Ca含量比が40〜50程度に低いコーヒー抽出液は、総合評価も高く、嗜好上の順位も高いことが明らかとなった。
【0031】
また、官能検査における評価項目とコーヒー抽出液の無機成分含量との相関について分析した。苦味については、Ca含量に対して−0.949という高い負の相関係数が、Mg含量に対して−0.782という負の相関係数が得られた。これらのことから、CaやMgの含量が高くなるほど、苦味が少なくなる傾向があることが明らかとなった。
後味については、Ca含量に対して相関係数0.806と高い相関が得られ、後味がよいと評価されたものほどCa含量が高い傾向が認められた。
【0032】
実施例3
実施例2において、総合評価と極めて高い相関を示したK/Ca含量比について、さらに重回帰分析を行い、得られた重回帰式を用いたコーヒー抽出液の評価方法について検討した。なお、官能検査については、実施例1と同様に行った。重回帰分析は、総合評価を従属変数とし、K、Ca、Mgの各濃度を説明変数として、ステップワイズ変数選択法により実施した。
この結果、得られた評価値は総合評価に対して0.997と極めて高い重相関係数を示し、前記の重回帰式を得た。図3は、総合評価の実測値と予測値との関係をプロットした図である。
【0033】
次に、重回帰式を用いたコーヒー抽出液の科学的、かつ客観的な評価方法について検討した。すなわち、測定したK含量とCa含量を重回帰式に代入して得られる評価値を総合評価の予測値として、官能検査によって得られた総合評価の実測値との関係について検討した。
図3に示したように、総合評価の実測値はほぼ上記の重回帰式上に位置しており、重回帰式から得られた総合評価の予測値とほぼ一致することが明らかとなった。
以上のことから、コーヒー抽出液のK含量及びCa含量を測定し、その数値を前記の重回帰式に代入することで、官能検査を行って得られる実測値とほぼ一致する予測値が得られることが分かった。この総合評価の予測値によって、コーヒー抽出液の科学的、かつ客観的な評価を迅速に行うことができる。
【0034】
実施例6
キリマンジャロのコーヒー豆2kgを、焙煎機(フジローヤル・ロースターR−103型、富士珈機販売(株)製)を用いてL値22.00〜26.50に焙煎した後、コーヒーミル(シルバーカットミル、カリタ社製)で粉砕した。粉砕したコーヒーパウダーを篩い分けし、粒度が500〜1000μm(24〜36メッシュ)のコーヒーパウダーを得た。
該コーヒーパウダー36gと湯420ccを用いて、実施例1と同様にクワイエットドリップ法にてコーヒー抽出液を製造した。また、篩い分けを行わなかったコーヒーパウダーについても、同様にクワイエットドリップ法にてコーヒー抽出液を製造した。なお、官能検査は、コーヒーに精通している熟練パネル17名によって行ったこと以外は、すべて実施例1と同様に行った。
それぞれの方法により調製したコーヒー抽出液について、官能検査結果を第3表に、コーヒー抽出液の無機成分含量の測定値及びK/Ca含量比及び官能検査の総合評価を第4表に示す。
【0035】
比較例1
実施例6と同様にして、キリマンジャロ種コーヒー豆から粒度一定のコーヒーパウダーを得た。
該コーヒーパウダー36gと湯420ccを用いて、以下の間欠方式にてコーヒー抽出液を取得した。コーヒー抽出液の製造に際しては、フィルターに充填したコーヒーパウダーの表面を予め平らにし、さらにフィルター内の厚みが均一になるように表面の中心に窪みを付けておいた。
【0036】
次に、コーヒーパウダーが十分に浸る最少量の湯で30秒間蒸らした後、湯をフィルターの最上端部まで注いだ。その後も水位が一定となるように湯を注ぎ、フィルターに湯が残り、コーヒー抽出液が3杯分になった時点でフィルターをはずし、抽出を完了した。なお、抽出に用いた湯の総量は420cc、温度は97℃であり、無機成分を含まない蒸留水を用いた。
また、篩い分けを行わなかったコーヒーパウダーについても、同様に間欠方式にてコーヒー抽出液を製造した。なお、官能検査は、コーヒーに精通している熟練パネル17名によって行ったこと以外は、すべて実施例1と同様に行った。
それぞれの方法により調製したコーヒー抽出液について、官能検査結果を第3表に、コーヒー抽出液の無機成分含量の測定値及びK/Ca含量比及び官能検査の総合評価を第4表に示す。
【0037】
【表3】
第3表
【0038】
【表4】
第4表
【0039】
第3表から明らかなように、本発明に係るクワイエットドリップ法は、コーヒーパウダーの篩い分けの有無にかかわらず、従来法である間欠方式よりも優れた評価が得られた。特に、コーヒー抽出液に嗜好的に良い影響を与える香りと後味において、本発明の方法は高い評価が得られた。一方、コーヒー抽出液に嗜好的に悪い影響を与える苦味と酸味については、本発明の方法は間欠方式と比べて、低い値を示し、この点でも優れている。
以上のことから、本発明の方法によれば、従来法よりも、良質のコーヒー抽出液が得られることが明らかとなった。
【0040】
第4表から明らかなように、K/Ca含量比は、本発明の方法であるクワイエットドリップ法で得られたコーヒー抽出液は、いずれも40〜50の値を示したのに対して、従来の間欠方式で得られたコーヒー抽出液は、約54〜60の高い値を示した。
K/Ca含量比40〜50のコーヒー抽出液は、官能検査における総合評価も高く、官能的に優れていることが明らかとなった。
【0041】
参考例1
実施例6及び比較例1で得たコーヒー抽出液について測定したK含量とCa含量を前記の重回帰式に代入し、総合評価の予測値を算出した。なお、官能検査は、実施例6と同様に行った。官能検査の実測値と重回帰式により算出した予測値の結果を第5表に示す。
第5表から明らかなように、総合評価の実測値と予測値はほぼ一致し、さらに予測値順位と総合評価順位は合致する傾向にあることが明らかとなった。
【0042】
【表5】
第5表
【0043】
【発明の効果】
請求項1記載の本発明によれば、K/Ca含量比が一定の値を示すコーヒー抽出液が提供される。このコーヒー抽出液は、官能的に優れ、風味豊かななものである。
また、請求項2記載の本発明によれば、請求項1記載のコーヒー抽出液を効率よく、しかも短時間で製造することができる。
さらに、請求項3記載の本発明によれば、官能検査を行わずに官能評価値の推測が可能となるコーヒー抽出液の味覚評価法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例2におけるK/Ca含量比と総合評価との関係をプロットした図である。
【図2】実施例2における総合評価と嗜好上の順位との関係をプロットした図である。
【図3】実施例3における総合評価の実測値と予測値との関係をプロットした図である。
Claims (3)
- カリウム/カルシウム含量比が40〜50であることを特徴とするコーヒー抽出液。
- フィルターにセットしたコーヒーパウダーに、該パウダーが浸る最小限の熱湯を注いで20〜40秒間蒸らした後、水位がフィルターの上端から1〜3cm下となる位置まで一気に熱湯を注ぎ、次いで熱湯の注ぐ先が該フィルター内の熱湯の表面から5cm以内の高さで一定となるようにして静かに注ぎ、抽出を1分30秒間〜2分30秒間で完了させることを特徴とする請求項1記載のコーヒー抽出液の製造方法。
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JP2002165082A JP2004008064A (ja) | 2002-06-06 | 2002-06-06 | コーヒー抽出液及びその製造方法、並びにその評価方法 |
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JP2008295398A (ja) * | 2007-06-01 | 2008-12-11 | Asahi Soft Drinks Co Ltd | コーヒーの抽出方法及びコーヒー抽出装置 |
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