JP2003321747A - 加工性と溶接部の材質均一性に優れた高張力溶接鋼管およびその製造方法、ならびに溶接鋼管素材用鋼帯 - Google Patents

加工性と溶接部の材質均一性に優れた高張力溶接鋼管およびその製造方法、ならびに溶接鋼管素材用鋼帯

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JP2003321747A JP2002126689A JP2002126689A JP2003321747A JP 2003321747 A JP2003321747 A JP 2003321747A JP 2002126689 A JP2002126689 A JP 2002126689A JP 2002126689 A JP2002126689 A JP 2002126689A JP 2003321747 A JP2003321747 A JP 2003321747A
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清史 上井
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Abstract

(57)【要約】 【課題】 引張強さ590〜1180MPaの強度を有
し、優れた加工性と、優れた溶接部の材質均一性とを兼
備した高張力溶接鋼管およびその製造方法を提供するこ
と。 【解決手段】 C:0.035〜0.095%、Mn:
0.75〜1.95%、Mo:0.01〜0.65%、
Ti:0.010〜0.145%、P:0.03%以
下、S:0.007%以下、N:0.006%以下、
O:0.004%以下、残部が実質的にFeからなり、
Ti、Mo、Nの重量%で表される以下の(1)式を満
たし、粒径が10nm未満の微細炭化物が析出したフェ
ライト組織が組織面分率で60〜100%である。 0.15≦{Ti−(48/14)N}/Mo≦1
‥‥(1)

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、引張強さ590〜
1180MPaの強度を有し、曲げ、液圧、拡管、縮
管、およびこれらを複合した成形等に必要な加工性と、
優れた溶接部の材質均一性とを兼備し、自動車、オート
バイ等の構造部材に好適な高張力溶接鋼管およびその製
造方法、ならびにその素材用鋼帯に関する。
【0002】
【従来の技術】車体の軽量化、高剛性化の観点から、サ
スペンションアーム、サスペンションメンバー、アクス
ルビーム、スタビライザー、フレーム、シャフト等の自
動車構造部材への高張力溶接鋼管の適用が検討されてお
り、これらに適した高張力鋼管が強く求められている。
これまでに、このような自動車構造部材に適用される高
張力溶接鋼管に関する技術が種々提案されている。
【0003】特開平11−279697号公報には、C
−Si−Mn−Crを主成分とする鋼スラブを熱延後2
50℃以下で巻取り、フェライトと残部マルテンサイト
及びベイナイトからなる複合組織を有することを特徴と
する電縫鋼管に関する技術が開示され、特開平11−2
79699号公報には、C−Si−Mnを主成分とする
鋼スラブを熱延後600℃以下で巻取るか、熱延後さら
に酸洗、冷延、連続焼鈍した5〜10%の準安定オース
テナイトを含む複合組織を有することを特徴とする電縫
鋼管に関する技術が開示されている。これらの技術によ
れば、引張強さ(TS)が550〜780MPaの範囲
で比較的良好な伸び(El)が得られるものの、延性を
確保するために1%程度のSiを添加していることもあ
り、電縫溶接部の材質均一性に問題がある。
【0004】特開平5−302121号公報には、C−
Si−Mn−Nb−Moを主成分とする鋼スラブを熱
延、冷延、電縫造管後、焼鈍することにより、TSが8
10〜920MPaの機械電縫鋼管を得る技術が開示さ
れている。この技術では造管後の熱処理により歪時効の
ために電縫溶接部の材質均一性に問題がある。
【0005】特許第3235168号公報には、C−S
i−Mn−Nb−微量Tiを主成分とする鋼スラブを熱
延後600〜200℃で巻取り、電縫溶接することを特
徴とする技術が開示され、特開平5−271859号公
報には、C−Si−Mn−Nb−微量Ti−Bを主成分
とする鋼スラブを熱延後600〜200℃で巻取り電縫
溶接することを特徴とする技術が開示され、特開平5−
43980号公報には、C−Si−Mn−Nb−微量T
i−Moを主成分とする熱延鋼帯を電縫溶接することを
特徴とする技術が開示されている。これら技術によれ
ば、TSが680〜940MPaの範囲で比較的良好な
電縫溶接部靱性が得られるものの、その加工性に問題が
ある。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】以上のように従来の技
術では、自動車等の構造部材に必要とされる加工性と溶
接部の加工性とを兼備した高張力溶接鋼管が得られてい
ない。特に、高張力鋼管を用いた自動車構造部材では、
部品の信頼性という観点から溶接部の材質均一性が重要
視される。
【0007】本発明はかかる事情に鑑みてなされたもの
であって、引張強さ590〜1180MPaの強度を有
し、曲げ、液圧、拡管、縮管、およびこれらを複合した
成形等に必要な加工性と、優れた溶接部の材質均一性と
を兼備した、自動車、オートバイ等の構造部材に好適な
高張力溶接鋼管およびその製造方法、ならびに溶接鋼管
素材用鋼帯を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、強度、加
工性、溶接部の材質均一性といった相反する特性を同時
に満たす溶接鋼管を得るために、溶接鋼管の化学成分、
ミクロ組織、析出物存在状態を種々変化させて系統的な
実験検討を行った。その結果、60%以上の面分率を占
めるフェライト組織中に、粒径10nm未満の極微細な
炭化物を析出させることで、所望の強度、加工性、溶接
部の材質均一性を同時に満たす溶接鋼管が得られること
を見出した。
【0009】本発明はこのような知見に基づいて完成さ
れたものであり、以下の(1)〜(4)を提供する。
【0010】(1) 重量%で、C:0.035〜0.
095%、Mn:0.75〜1.95%、Mo:0.0
1〜0.65%、Ti:0.010〜0.145%、
P:0.03%以下、S:0.007%以下、N:0.
006%以下、O:0.004%以下、残部が実質的に
Feからなり、Ti、Mo、Nの重量%で表される以下
の(1)式を満たし、粒径が10nm未満の微細炭化物
が析出したフェライト組織が組織面分率で60〜100
%であることを特徴とする加工性と溶接部の材質均一性
に優れた高張力溶接鋼管。 0.15≦{Ti−(48/14)N}/Mo≦1 ‥‥(1)
【0011】(2) 上記(1)において、さらに、重
量%で、Si:0.005〜0.75%、Al:0.0
10〜0.10%、Cr:0.01〜0.29%、N
b:0.001〜0.040%、V:0.001〜0.
050%、W:0.001〜0.50%、Ni:0.0
1〜0.50%、Cu:0.01〜0.50%、B:
0.0001〜0.0009%、Ca:0.0001〜
0.0040%、REM:0.0001〜0.0040
%のうちの1種以上を含有することを特徴とする加工性
と溶接部の材質均一性に優れた高張力溶接鋼管。
【0012】(3) 上記(1)または(2)に記載の
溶接鋼管を製造するにあたり、上記組成の鋼スラブを1
150℃以上に加熱した後、仕上げ圧延温度を850℃
以上とする熱間圧延を施し、仕上げ圧延後8秒間以内に
720℃以下まで冷却し、600℃超〜650℃未満で
巻取って熱延鋼帯とし、酸洗、スリット後造管すること
を特徴とする加工性と溶接部の材質均一性に優れた高張
力溶接鋼管の製造方法。
【0013】(4) 上記(1)または(2)に記載の
成分組成を有し、粒径が10nm未満の微細炭化物が析
出したフェライト組織が組織面分率で60〜100%で
あることを特徴とする加工性と溶接部の材質均一性に優
れた高張力溶接鋼管素材用鋼帯。
【0014】
【発明の実施の形態】以下、本発明について具体的に説
明する。本発明の溶接鋼管の最も重要な点は、粒径10
nm未満の極微細な炭化物が析出したフェライト組織が
組織面分率で60〜100%である点である。これによ
り所望の強度、加工性、溶接部の材質均一性を同時に有
する溶接鋼管が得られる。このように溶接部の均一性、
加工性を劣化させずに高強度化を図ることができるの
は、炭化物を微細析出させることで、強度上昇に必要な
析出物の最近接粒子間距離を得るために必要な元素量が
少なくなることなどが要因の一つと考えられる。
【0015】図1に鋼管のフェライト分率、フェライト
組織中の析出物の大きさと溶接部の材質均一性との関係
を示す。溶接部の材質均一性は、鋼管長さ20m毎にn
=30〜100でサンプリングした鋼管を拡管試験、扁
平試験、シャルピー衝撃試験に供し、得られた限界拡管
率、限界扁平率、シャルピー吸収エネルギーから平均値
および標準偏差σをそれぞれ求め、(平均値−2σ)の
値を材質均一性の指標とした。(平均値−2σ)の値は
平均値よりも低い値となる。なお、限界拡管率は、60
°円錐を管端に押込み、亀裂の入った時の外径d(m
m)と管の初期外形d(mm)との比d/dとして求
め、限界扁平率は、シームを圧縮方向と90°となるよ
うに扁平した際に亀裂の入った時の高さh(mm)と初
期外径d(mm)とより(d−h)/dとして求め、シ
ャルピー吸収エネルギーは、溶接突合せ部より円周方向
に切出して展開したJIS Z2202規定のVノッチ
試験片の−20℃での吸収エネルギーから求めた。図1
の下段の丸プロット内の数字が限界拡管率d/dの
(平均値−2σ)の値を示し、図1の中段の四角プロッ
ト内の数字が限界扁平率(d−h)/dの(平均値−2
σ)の値を示し、図1の上段の三角プロット内の数字が
−20℃での溶接部シャルピー吸収エネルギーの(平均
値−2σ)の値を示す。なお、図1の中段のプロットの
うち黒く塗りつぶしたものは密着しても亀裂が入らなか
ったものである。図1から、60%以上の面分率を占め
るフェライト組織中に粒径10nm未満の極微細な炭化
物を析出させることで、限界拡管率の(平均値−2σ)
の値が1.25以上、限界扁平率の(平均値−2σ)の
値が0.75以上、−20℃でのシャルピー吸収エネル
ギーの(平均値−2σ)の値が90J/cm以上の良
好な溶接部の材質均一性が得られることがわかる。そし
て、フェライト組織の組織面分率を90%以上とするこ
とで、、限界拡管率の(平均値−2σ)の値が1.35
以上、限界扁平率の(平均値−2σ)の値が0.92以
上、−20℃でのシャルピー吸収エネルギーの(平均値
−2σ)の値が100J/cm以上のさらに良好な溶
接部の材質均一性が得られる。このような本発明の溶接
鋼管における溶接部の材質均一性の優位性は、鋼管に曲
げ、液圧、拡管、縮管などの成形加工を加えた後でも保
たれる。なお、フェライト組織中の析出物の大きさは、
鋼管から切出し、研磨した薄膜の40万倍の透過型電子
顕微鏡写真より計測し、その平均粒径を求めることによ
って把握した。
【0016】なお、本発明におけるフェライト組織の組
織面分率とは、硬質組織、相である、パーライト組織、
ベイナイト組織、マルテンサイト組織、残留オーステナ
イト相を除いた面分率のことで、ポリゴナルフェライト
組織、擬ポリゴナルフェライト組織、アシキュラーフェ
ライト組織を含み、その形態は問わない。
【0017】次に、組成について説明する。本発明の溶
接鋼管の組成は、重量%で、C:0.035〜0.09
5%、Mn:0.75〜1.95%、Mo:0.01〜
0.65%、Ti:0.010〜0.145%、P:
0.03%以下、S:0.007%以下、N:0.00
6%以下、O:0.004%以下であり、0.15≦
{Ti−(48/14)N}/Mo≦1を満たし、さら
に、Si:0.005〜0.75%、Al:0.010
〜0.10%、Cr:0.01〜0.29%、Nb:
0.001〜0.040%、V:0.001〜0.05
0%、W:0.001〜0.50%、Ni:0.01〜
0.50%、Cu:0.01〜0.50%、B:0.0
001〜0.0009%、Ca:0.0001〜0.0
040%、REM:0.0001〜0.0040%のう
ちの1種以上を含有することができる。
【0018】これらの限定理由は以下の通りである。 C: Cは所望の強度、加工性、溶接部の材質均一性を
得るために必要なフェライト組織中の微細炭化物を構成
する必須元素である。しかし、その量が0.035%未
満であると強度確保に必要な微細炭化物が得られず強度
不足となり、一方、0.095%を超えると炭化物の析
出挙動が変化し、加工性と溶接部靱性が低下する。した
がって、C含有量を0.035〜0.095%とする。
【0019】Mn: Mnは微細炭化物の成長速度を抑
制し、粒径が10nm未満の微細炭化物を形成させるた
めの必須元素である。しかし、その量が0.75%未満
では粒径が10nm未満の微細炭化物が十分に形成され
ないため所望の強度、加工性、溶接部の材質均一性が得
られず、一方、1.95%を超えるとフェライト組織の
面分率が60%未満となり所望の加工性が得られない。
したがって、Mn含有量を0.75〜1.95%とす
る。
【0020】Mo: Moは所望の強度、加工性、溶接
部の材質均一性を得るために必要なフェライト組織中の
微細炭化物を生成させる必須元素である。しかし、その
量が0.01%未満であると、強度、加工性確保に必要
な量の微細炭化物が得られず、強度、加工性不足とな
り、一方、0.65%を超えると溶接部の材質均一性が
低下する。したがって、Mo含有量を0.01〜0.6
5%とする。
【0021】Ti: TiはMoと同様、所望の強度、
加工性、溶接部の材質均一性を得るために必要なフェラ
イト組織中の微細炭化物を生成させる必須元素である。
しかし、その量が0.010%未満であると、強度、加
工性確保に必要な量の微細炭化物が得られず、強度、加
工性不足となり、一方、0.145%を超えると溶接部
の材質均一性が低下する。したがって、Ti含有量を
0.010〜0.145%とする。
【0022】{Ti−(48/14)N}/Mo: フ
ェライト組織中の微細炭化物のサイズを10nm未満の
微細なものとするためには、Ti、Mo、Nの重量%で
表される{Ti−(48/14)N}/Moの値が0.
15〜1の範囲内であることが必要である。これは、T
i原子とMo原子が相互作用することにより、炭化物の
粗大化が抑止されているためであると考えられる。{T
i−(48/14)N}/Moの値が0.15未満であ
ると、析出する炭化物サイズが大きくなり、強度加工性
が低下し、一方、その値が1を超えると炭化物の析出挙
動が変化し、加工性と溶接部の材質均一性とが低下す
る。
【0023】P,S,N,O: これらはいずれも加工
性、溶接部の材質均一性を低下させる不純物元素であ
り、Pは0.03%、Sは0.007%、Nは0.00
6%、Oは0.004%を超えるとその悪影響が顕在化
するため、その値をそれぞれの上限とする。
【0024】Si: Siはフェライト組織の生成を促
進し、所望のフェライト組織面分率を得るために添加す
ることができる。その量が0.005%未満ではその効
果に乏しく、一方、0.75%を超えると溶接部の材質
均一性が低下するため、Siを添加する場合には、その
含有量を0.005〜0.75%とする。
【0025】Al: Alは製鋼時の脱酸元素であると
ともに、適量の添加により溶接部の材質均一性向上に寄
与するため、添加することができる。その量が0.01
0%未満ではその効果に乏しく、一方、0.10%を超
えると溶接部の材質均一性が劣化するため、Alを添加
する場合には、その含有量を0.010〜0.10%と
する。
【0026】Cr: CrはMnの微細炭化物の成長速
度抑制作用を補う働きがあるため、添加することができ
る。その量が0.01%未満ではその効果に乏しく、一
方、0.29%を超えると溶接部の材質均一性が劣化す
るため、Crを添加する場合には、その含有量を0.0
1〜0.29%とする。
【0027】Nb,V,W: これらの元素は炭化物を
形成することで強度を補完する有効な元素であるため添
加することができる。いずれも0.001%未満ではそ
の効果に乏しく、Nbは0.040%、Vは0.050
%、Wは0.50%を超えると加工性の劣化が著しくな
る。したがって、これらを添加する場合には、Nb:
0.001〜0.040%、V:0.001〜0.05
0%、W:0.001〜0.50%とする。
【0028】Ni,Cu: これらはMnの微細炭化物
の成長速度抑制作用を補う働きがあるため、添加するこ
とができる。その量が0.01%未満ではその効果に乏
しく、一方、0.50%を超えると加工性が劣化するた
め、Ni,Cuを添加する場合には、その含有量をそれ
ぞれ0.01〜0.50%とする。
【0029】B: Bは鋼管に焼き入れ性を付与するた
めに添加することができる。その量が0.0001%未
満ではその効果に乏しく、0.0009%を超えるとそ
の効果が飽和するため、Bを添加する場合には、その含
有量を0.0001〜0.0009%とする。
【0030】Ca,REM: Ca、REMは硫化物の
形態制御により加工性を一層高める働きがあるため添加
することができる。いずれも0.0001%未満ではそ
の効果に乏しく、0.0040%を超えてもその効果が
飽和するので、これらを添加する場合には、それぞれ
0.0001〜0.0040%とする。
【0031】次に、溶接鋼管の製造条件について説明す
る。本発明では、上記組成の鋼スラブを1150℃以上
に加熱した後、仕上げ圧延温度を850℃以上とする熱
間圧延を施し、仕上げ圧延後8秒間以内に720℃以下
まで冷却し、600℃超〜650℃未満で巻取って熱延
鋼帯とし、酸洗、スリット後造管する。
【0032】以下、これらの限定理由について説明す
る。 スラブ再加熱温度: 冷却された鋼スラブを再加熱後圧
延する場合には、鋼中の析出物の多くを再固溶させ、微
細炭化物をフェライト組織中に析出させるために、鋼ス
ラブの再加熱温度を1150℃以上とする必要がある。
【0033】仕上げ圧延温度: 加工誘起析出による粗
大な炭化物の析出を抑制するためには熱延仕上げ温度を
850℃以上とする必要がある。
【0034】熱延ランナウト冷却条件: 炭化物の析出
状態を制御し、粒径10nm未満に微細析出させるため
には熱延ランナウト冷却条件の制御が重要である。炭化
物の成長を抑制し所望の微細析出物を得るには熱延仕上
げ圧延終了後、8秒間以内に720℃まで冷却する必要
がある。
【0035】巻取温度: 粒径が10nm未満の微細炭
化物が析出したフェライト組織を組織面分率で60〜1
00%とするには、熱延巻取温度を600℃超〜650
℃未満とする必要がある。650℃以上であると炭化物
が成長するため強度が低下し、一方600℃以下である
とフェライト組織分率が低下する。
【0036】鋼帯から溶接管への造管方法は特に限定さ
れないが、ロールフォーミング、電縫溶接、サイザー等
による形状矯正という手順で電縫溶接管とする場合に
は、加工性と靱性の確保のために、以下の式で定義され
る幅絞りを0.3〜10%の範囲とすることが望まし
い。 幅絞り=[(素材鋼帯の幅)−π{(製品外径)−(製
品肉厚)}]/π{(製品外径)−(製品肉厚)}×
(100%)
【0037】本発明の溶接鋼管には溶接部の良好な加工
性、靱性の安全確保の観点から、さらにポストアニーリ
ング、酸素濃度の雰囲気制御下でのシーム溶接等を行う
ことができる。また、本発明規定のミクロ組織、析出物
状態を失しない範囲でシーム溶接前後工程での冷間加
工、温間加工、熱間加工、熱処理、メッキ処理、表面潤
滑処理を加えることができる。
【0038】
【実施例】(実施例1)表1に示すA〜Tの20種類の
鋼スラブを約1250℃に再加熱後、仕上圧延温度約8
90℃、ランナウトでの720℃までの冷却時間約4
秒、巻取温度約625℃の条件で板厚2.0mmの熱延
鋼帯とし、酸洗、スリッティング、ロール成形した後、
溶接し、外径70mmの溶接鋼管とした。幅絞りは約4
%とした。
【0039】これら鋼管のミクロ組織を観察し、析出物
の平均粒径および組成を求めた。その結果を表2に示
す。ミクロ組織は断面をナイタールエッチング後に走査
型電子顕微鏡観察により評価し、析出物の平均粒径は、
薄膜の透過型電子顕微鏡観察により評価した。
【0040】また、これら鋼管からJIS11号試験片
を切り出して引張試験を行い引張強度を求めるととも
に、これら鋼管の曲げ加工特性、液圧加工特性、溶接部
の材質均一性を求めた。その結果を表3に示す。
【0041】曲げ加工性は、プレッシャーダイと心金と
を併用した回転引曲げによる限界曲げ半径(管中心軸の
曲げ半径)ρ(mm)と管外径d(mm)との比ρ/d
で鋼管の強度TS(MPa)を割った値TS/(ρ/
d)(MPa)により評価した。値が大きいほど曲げ加
工性は良好となる。さらに、複合加工特性を評価する目
的で外径縮径率10%の縮径加工後の限界曲げ半径ρ’
より、このときの限界曲げ半径ρ’(mm)と管外径
d’(mm)との比ρ’/d’の値も求めた。
【0042】液圧加工特性は液圧自由バルジ試験時の破
断限界周長増加率により、変形部長さを2d(d:管外
形)とし、軸圧縮「なし」および「あり」の2条件で評
価した。軸圧縮力は、管体の応力比(軸方向応力/円周
方向応力)=W/(2πrP)=−0.5となる条件
とした。ただし、W:圧縮応力、r:肉厚中心半径、
P:内圧である。
【0043】溶接部の材質均一性は、鋼管長さ20m毎
にn=30〜100でサンプリングした鋼管を拡管試
験、扁平試験、シャルピー衝撃試験に供し、得られた限
界拡管率、限界扁平率、シャルピー吸収エネルギーから
平均値および標準偏差σをそれぞれ求め、(平均値−2
σ)の値を材質均一性の指標とした。なお、限界拡管率
は、60°円錐を管端に押込み、亀裂の入った時の外径
(mm)と管の初期外形d(mm)との比d/d
として求め、限界扁平率は、シームを圧縮方向と90°
となるように扁平した際に亀裂の入った時の高さh(m
m)と初期外径d(mm)とより(d−h)/dとして
求め、シャルピー吸収エネルギーは、溶接突合せ部より
円周方向に切出して展開したJIS Z2202規定の
Vノッチ試験片の−20℃での吸収エネルギーから求め
た。
【0044】表1のNo.1〜11は、成分組成が本発
明の範囲内であるとともに、粒径10nm未満の微細炭
化物が析出したフェライト組織が組織面分率で60〜1
00%である本発明例であり、引張強度TSが590〜
1180MPaの範囲で、TS/(ρ/d)が400M
Pa以上、縮径後の限界曲げ半径ρ’/d’が2.8以
下の優れた曲げ加工特性、軸圧縮なしでの周長増加率9
%以上、軸圧縮ありで周長増加率17%以上の優れた液
圧加工特性を示し、限界拡管率の(平均値−2σ)の値
が1.25以上、限界扁平率の(平均値−2σ)の値が
0.75以上、−20℃でのシャルピー吸収エネルギー
の(平均値−2σ)の値が90J/cm 以上の良好な
溶接部の材質均一性を示した。
【0045】一方、本発明範囲からC、Mnが低く外れ
た鋼L、NのNo.12,14は、微細な析出物の量が
不十分であり、また、Ti、Moが低く外れた鋼Q、S
のNo.17,19は、炭化物の粒径が10nm以上で
あり、いずれも強度が590MPa未満でかつTS/
(ρ/d)が400MPa未満と曲げ加工特性が低く、
限界拡管率の(平均値−2σ)の値が1.25未満、限
界扁平率の(平均値−2σ)の値が0.75未満、−2
0℃でのシャルピー吸収エネルギーの(平均値−2σ)
の値が90J/cm未満と溶接部の材質均一性も低か
った。本発明の範囲からC、Mn、O、Ti、Moが高
く外れた鋼M、O、P、R、TのNo.13,15,1
6,18,20は、TS/(ρ/d)が400MPa未
満と曲げ加工特性が低く、軸圧縮なしでの周長増加率8
%以下、軸圧縮ありで周長増加率14%以下と液圧加工
特性が低く、限界扁平率の(平均値−2σ)の値が0.
75未満、−20℃でのシャルピー吸収エネルギーの
(平均値−2σ)の値が90J/cm未満と溶接部の
材質均一性も低かった。
【0046】
【表1】
【0047】
【表2】
【0048】
【表3】
【0049】次に、鋼成分組成が本発明の範囲内にある
鋼A、鋼Gを表4に示す条件で熱間圧延して板厚2.0
mmの熱延鋼帯とし、酸洗、スリッティング、ロール成
形した後、溶接し、外径70mmの溶接鋼管とした。幅
絞りは約4%とした。得られた鋼管のミクロ組織と析出
物の平均粒径および組成を表5に、引張強度、曲げ加工
特性、液圧加工特性、溶接部の材質均一性を表6にそれ
ぞれ示す。
【0050】熱延条件が本発明範囲内にあるNo.2
1,26は、粒径10nm未満の微細炭化物が析出した
フェライト組織が組織面分率で60〜100%であり、
引張強度TSが590〜1180MPaの範囲で、TS
/(ρ/d)が400MPa以上の優れた曲げ加工特
性、軸圧縮なしでの周長増加率9%以上、軸圧縮ありで
周長増加率17%以上の優れた液圧加工特性を示し、限
界拡管率の(平均値−2σ)の値が1.25以上、限界
扁平率の(平均値−2σ)の値が0.75以上、−20
℃でのシャルピー吸収エネルギーの(平均値−2σ)の
値が90J/cm以上の良好な溶接部の材質均一性を
示した。
【0051】一方、スラブ加熱温度が本発明範囲から外
れたNo.27では、フェライト中の析出物粒径が20
nm以上と大きく、引張強度TSが590MPa未満
で、かつTS/(ρ/d)が400MPa未満と曲げ加
工特性が低かった。仕上圧延温度、仕上圧延後720℃
までの冷却時間、巻取温度のいずれかが本発明の範囲か
ら外れたNo.22,23,24,25,28,29,
30,31では、いずれもフェライト中の析出物粒径が
20nm以上と大きく、TS/(ρ/d)が400MP
a未満と曲げ加工特性が低く、液圧加工特性、溶接部の
材質均一性も低かった。
【0052】
【表4】
【0053】
【表5】
【0054】
【表6】
【0055】本発明の範囲内の溶接鋼管は、型内での液
圧加工特性にも優れ、曲げ、液圧、拡管、縮管などを複
合した成形においても優れた加工性を示す。
【0056】
【発明の効果】以上説明したように、本発明によれば、
引張強さ590〜1180MPaの強度を有し、曲げ、
液圧、拡管、縮管、およびこれらを複合した成形等に必
要な加工性と、優れた溶接部の材質均一性とを兼備した
高張力溶接鋼管を得ることができる。本発明の高張力溶
接鋼管は、サスペンションアーム、サスペンションメン
バー、アクスルビーム、スタビライザー、フレーム、シ
ャフト等の閉断面自動車構造部材素材として必要な強
度、加工性、溶接部の材質均一性を満たしており、これ
らの素材として極めて有効である。
【図面の簡単な説明】
【図1】鋼管のフェライト分率、フェライト組織中の析
出物の大きさと溶接部の材質均一性の関係を示すグラ
フ。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 船川 義正 東京都千代田区丸の内一丁目1番2号 日 本鋼管株式会社内 (72)発明者 冨田 邦和 東京都千代田区丸の内一丁目1番2号 日 本鋼管株式会社内 (72)発明者 上井 清史 東京都千代田区丸の内一丁目1番2号 日 本鋼管株式会社内 (72)発明者 籔本 哲 東京都千代田区丸の内一丁目1番2号 日 本鋼管株式会社内 Fターム(参考) 4K037 EA01 EA02 EA05 EA09 EA11 EA13 EA15 EA17 EA18 EA19 EA20 EA22 EA23 EA25 EA27 EA31 EA32 EA33 EA36 EB05 EB08 EB09 EB11 FA00 FA02 FA03 FC04 FC05 FE02 GA08 JA06

Claims (4)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 重量%で、 C:0.035〜0.095%、 Mn:0.75〜1.95%、 Mo:0.01〜0.65%、 Ti:0.010〜0.145%、 P:0.03%以下、 S:0.007%以下、 N:0.006%以下、 O:0.004%以下、 残部が実質的にFeからなり、 Ti、Mo、Nの重量%で表される以下の(1)式を満
    たし、粒径が10nm未満の微細炭化物が析出したフェ
    ライト組織が組織面分率で60〜100%であることを
    特徴とする加工性と溶接部の材質均一性に優れた高張力
    溶接鋼管。 0.15≦{Ti−(48/14)N}/Mo≦1 ‥‥(1)
  2. 【請求項2】 さらに、重量%で、 Si:0.005〜0.75%、 Al:0.010〜0.10%、 Cr:0.01〜0.29%、 Nb:0.001〜0.040%、 V:0.001〜0.050%、 W:0.001〜0.50%、 Ni:0.01〜0.50%、 Cu:0.01〜0.50%、 B:0.0001〜0.0009%、 Ca:0.0001〜0.0040%、 REM:0.0001〜0.0040% のうちの1種以上を含有することを特徴とする、請求項
    1に記載の加工性と溶接部の材質均一性に優れた高張力
    溶接鋼管。
  3. 【請求項3】 請求項1または請求項2に記載の溶接鋼
    管を製造するにあたり、上記組成の鋼スラブを1150
    ℃以上に加熱した後、仕上げ圧延温度を850℃以上と
    する熱間圧延を施し、仕上げ圧延後8秒間以内に720
    ℃以下まで冷却し、600℃超〜650℃未満で巻取っ
    て熱延鋼帯とし、酸洗、スリット後造管することを特徴
    とする加工性と溶接部の材質均一性に優れた高張力溶接
    鋼管の製造方法。
  4. 【請求項4】 請求項1または請求項2の成分組成を有
    し、粒径が10nm未満の微細炭化物が析出したフェラ
    イト組織が組織面分率で60〜100%であることを特
    徴とする加工性と溶接部の材質均一性に優れた高張力溶
    接鋼管素材用鋼帯。
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