JP2003313445A - 光学素子用樹脂組成物、光学素子、およびプロジェクションスクリーン - Google Patents

光学素子用樹脂組成物、光学素子、およびプロジェクションスクリーン

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JP2003313445A
JP2003313445A JP2003042811A JP2003042811A JP2003313445A JP 2003313445 A JP2003313445 A JP 2003313445A JP 2003042811 A JP2003042811 A JP 2003042811A JP 2003042811 A JP2003042811 A JP 2003042811A JP 2003313445 A JP2003313445 A JP 2003313445A
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resin composition
lens
elastic modulus
resin
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Yasuhiro Doi
井 康 裕 土
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Dai Nippon Printing Co Ltd
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Abstract

(57)【要約】 【課題】 光学素子のレンズ表面に圧力がかかっても、
レンズ形状が潰れることなく、また、潰れた場合であっ
てもすぐに復元でき、良好な品質を確保できる(すなわ
ち耐擦れ性の高い)、光学素子用樹脂組成物、光学素
子、及びプロジェクションスクリーンを提供する。 【解決手段】 光学素子を構成するための樹脂組成物に
おいて、ガラス転移温度が5〜36℃であり、平衡弾性
率が0.859×10〜3.06×10dyne/
cmである、光学素子用樹脂組成物とする。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、光学素子を構成す
るための樹脂組成物に関し、特に、光学素子のレンズ表
面に圧力がかかっても、レンズ形状が潰れることなく、
また、潰れた場合であってもすぐに復元でき、良好な品
質を確保できる(すなわち耐擦れ性の高い)、光学素子
用樹脂組成物および当該樹脂組成物からなる光学素子に
関するものである。
【0002】
【従来の技術】光学素子は、透明基材上に、光学的形状
に賦型された樹脂組成物の層が設けられてなる構成、な
いし基材を伴わずに樹脂組成物の層に直接に光学的形状
が賦型された構成を有するものである。光学素子表面の
光学的形状には種々のものがあるが、一般的に、微細な
レンズ状の突起部分を配列した、光学素子全体として見
れば多数の凹凸形状有する構成からなるものが多い。
【0003】光学素子の使用に際しては、複数の光学素
子を組み合わせて使用することがある。このようにレン
ズを組み合わせて用いる場合は、光学素子の光学的効果
を最大限に発揮させるため、また、光学素子のレンズ表
面を保護するため、互いの光学素子表面を向かい合わせ
て密着させることがしばしば行われている。最も典型的
な例が、プロジェクションスクリーンに用いられるフレ
ネルレンズとレンチキュラーレンズとの組合せである。
該フレネルレンズは、投射光を平行光化して垂直方向に
補正する機能を有するものであり、一方、該レンチキュ
ラーレンズは、フレネルで平行光化した光を水平方向に
拡散する機能を有するものである。通常、このようなプ
ロジェクションスクリーンにおいては、フレネルレンズ
(サーキュラーフレネル凸レンズ)の出光面側とレンチキ
ュラーレンズの入光面側とを密着させて用いられる。
【0004】このように、光学素子のレンズ面どうしを
密着すると、いずれの表面も凹凸を有するため、互いの
表面形状に影響を及ぼす。例えば、上記の例において
は、フレネルレンズ面の断面は、鋸刃状の先端が尖った
凹凸形状を有し、一方、レンチキュラーレンズ面の断面
は、半円形もしくは半楕円等の丸みを有する盛り上がっ
たアーチ状の凹凸形状を有している。このような断面形
状を持つフレネルレンズシートとレンチキュラーレンズ
シートとが互いに密着すると、レンチキュラーレンズの
盛り上がった頂部と、フレネルレンズの尖った先端とが
接触し、接触圧により、レンチキュラーレンズおよび/
またはフレネルレンズの形状、即ちレンズ表面の凹凸形
状が変形し、レンズつぶれが発生する。
【0005】上記のようなレンズ形状の変形は、レンズ
を構成する樹脂の硬度を高めることにより解消すること
ができるが、単に硬度を高めるのみでは樹脂が脆くなっ
てしまい、取り扱い時や断裁時にレンズが欠けやすくな
るといった問題を招く。したがって、レンズを構成する
樹脂は、硬度が高い一方で、ある程度の柔軟性を有して
いなければならない。
【0006】樹脂硬化物の硬度は、一般にガラス転移温
度に関係し、ガラス転移温度が低すぎると、ゴム弾性が
低下し、加圧により樹脂が塑性変形を起こす。通常、あ
る程度の架橋密度を有する樹脂であれば、ガラス転移温
度が低くてもゴム弾性が発現し、圧力がかかっても、塑
性変形するには至らない。しかしながら、光学素子用樹
脂組成物においては、その必須要件としての屈折率の向
上のために、ベンゼン環や脂環基からなる剛直な鎖を分
子鎖中に導入する必要があるため、ガラス転移温度の上
昇を招く。したがって、所望の屈折率を維持しながらガ
ラス転移温度を常温付近に低くするのは非常に困難であ
る。逆に、ガラス転移温度が高すぎると、屈折率の向上
の点では有利となるが、樹脂の剛性が高くなるため、内
部応力(ひずみ)が残存し易い。そのため、基材と貼り
合わせた構造のレンズシートでは、レンズ樹脂の緩和に
より、レンズシートの反りが生じる。
【0007】一方、臭素化合物等のハロゲン化合物や硫
黄を含有する材料を使用すれば、ベンゼン環等の芳香族
系の化合物を用いることなく屈折率を上げることがで
き、しかも材料物性をうまく制御することが可能にな
る。しかしながら、環境負荷の観点からは、臭素の使用
をできるだけ避けた方が好ましい。
【0008】また、2枚の光学素子を組み合わせたプロ
ジェクションスクリーン等を輸送する際は、長時間に渡
って、互いの光学素子が動的にずれる状態で擦りあうた
め、光学素子表面に傷が発生するおそれがある。また、
輸送や保管の際、ないしTV組込み工程前の一時保管の
際に、プロジェクションスクリーン等を積載した場合、
レンズ表面に高圧が付加された状態が長時間続くため、
クリープによるレンズ変形が生じ易く、レンズ潰れが発
生するおそれがある。さらに、輸送用コンテナや船倉の
内部温度は、上昇したり、あるいは下降することあるの
で、高温環境下や低温環境下に光学素子が置かれること
により、光学素子表面の変形や擦り傷が発生しやすくな
る。
【0009】特開平10−106647号公報には、硬
化させた活性エネルギー線硬化樹脂からなるレンズシー
トの弾性率が、−20〜40℃において、80〜200
00kg/cmの範囲となるようにして、広い温度範囲
で形状安定性に優れ、光学特性を維持できるレンズシー
トが開示されている(特許文献1)。
【0010】また、特開2001−228549号公報
には、レンズシートに動的な力が加わった場合を考慮し
て、レンズを構成する電離放射線硬化型樹脂の動的弾性
率の散逸率(tanδ)を所定範囲に設定することによ
り、歪をため込まず柔軟で復元性に優れたレンズシート
用樹脂組成物が提案されている(特許文献2)。
【0011】
【特許文献1】特開平10−106647号公報
【特許文献2】特開2001−228549号公報
【0012】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、特開平
10−106647号公報においては、JIS K−7
113に規定された弾性率を採用しており、この弾性率
は、平坦なフィルムを用いた場合の引っ張り弾性率を求
めたものであるため、光学素子を形成する硬化型樹脂の
実際の使用環境下(圧縮力を受ける環境)を再現している
ものとは言い難い。
【0013】硬く、剛性の高い硬化型樹脂材料を光学素
子レンズ用材料として使用することにより、レンズ面に
長時間圧力を受けることにより生じるレンズのつぶれを
容易に回避することができる。しかしながら、樹脂の剛
性が高い故、輸送時に低温環境下に置かれた場合、接触
している他方のレンズを傷つけやすくなる。また、2枚
のレンズが積層された状態(横積載)で長時間高圧力が
かかると、弾性変形領域以上のエネルギーがレンズに加
わった場合、樹脂が塑性変形を起こし、レンズつぶれが
発生する。
【0014】また、フレネルレンズを構成する樹脂組成
物の架橋密度、弾性率等が高すぎると、製造過程で付加
される内部ひずみが大きくなる。フレネルレンズにおい
ては、2重像を改善するため、レンズシートの厚みが薄
い方が好ましく、このような薄厚のレンズシートでは、
レンズ層部分の内部ひずみの影響により基材が引きずら
れるため、レンズとして要求される適正な湾曲を保持で
きなくなってしまう。このように、ある程度広面積のレ
ンズシートにおいては、レンズ層の内部ひずみを低減す
るため、弾性率の低い材料を用いることが好ましい。
【0015】さらに、接触圧力によりフレネルレンズ表
面の凹凸部分が変形して潰れた状態で振動が加わると、
両レンズ間の摩擦力(静摩擦力)も大きくなり、スティ
ック−スリップ運動を誘発し、擦れが発生し易くなる。
この問題を解決するために、特開2000−38425
8号公報、特開平9−59535号公報等には、レンズ
用樹脂組成物の復元力を高めることがフレネルレンズ用
途として好ましいとされているが、具体的にどのような
効果があり、また数値上どの程度の復元力があればよい
かは詳しくは言及されていない。
【0016】したがって、本発明は、光学素子のレンズ
表面に圧力がかかっても、レンズ形状が潰れることな
く、また、潰れた場合であってもすぐに復元でき、良好
な品質を確保できる(すなわち耐擦れ性の高い)、光学
素子用樹脂組成物、光学素子、及びプロジェクションス
クリーンを提供することを目的とする。
【0017】
【課題を解決するための手段】上記の課題を解決するた
め、鋭意検討を重ねた結果、所定の光学特性を有する硬
化型樹脂にゴム弾性的な復元性(復元力、復元速度)を付
与することにより耐擦れ性が向上することを見出すとと
もに、所望の屈折率を発現させるためにベンゼン環を多
く導入した樹脂組成物を用いた場合であっても、剛性と
共に、ゴム弾性をも発現する物性領域を見いだしたもの
である。すなわち、ガラス転移温度、摩擦係数、平衡弾
性率、貯蔵弾性率、損失正接、復元速度、および変形量
が所定範囲にあり、かつ、弾性変形率と圧縮弾性率、お
よび圧縮弾性率とクリープ変形率とが所定の関係を有す
る樹脂組成物を光学素子に用いることにより、上記課題
が解決できることを見いだしたものである。
【0018】すなわち、本発明における光学素子用樹脂
組成物は、ガラス転移温度(以下、Tgという。)が、
5〜36℃であり、平衡弾性率が0.859×10
3.06×10dyne/cmである。
【0019】また、上記の光学素子用樹脂組成物は、弾
性変形率をWe(単位:%)、圧縮弾性率(単位:Mp
a)をEと表した場合に、We>−0.0189E+3
4.2の関係を満足するものであることが好ましい。こ
のような樹脂を用いることにより、プロジェクションス
クリーンにおけるレンズ面同士の圧縮によるレンズつぶ
れを抑制できる。すなわち、本発明の樹脂組成物を用い
た光学素子は、反りを持ったレンチキュラーレンズと密
着させてもレンズ表面の凹凸部分がつぶれない。なお、
We≦−0.0189E+34.2の領域になると、レ
ンズ面同士の圧縮によるつぶれに対し、復元性が劣る。
【0020】さらに、復元速度をV(単位:μm/
秒)、最大変形量をDM(単位:μm)と表した場合
に、V≧0.178DM−0.852の関係を満足する
樹脂組成物であることがより好ましく、特に、V≧0.
112DM−0.236であることが好ましい。最大変
形量と復元速度との関係が、上記の関係式を満たす樹脂
組成物を使用することにより、レンチキュラーレンズと
の接触時に発生するレンズ潰れを抑制できる。また、樹
脂の変形度と、その変形を回復させる復元スピードとの
関係を所定範囲に規定することにより、レンズ振動時の
周期的衝撃によるレンズ擦れを低減することができる。
【0021】本発明の態様として、光学素子用樹脂組成
物は、復元速度をV(単位:μm/秒)、残留変形量を
R(単位:μm)とした場合に、V≧0.858R−
0.644の関係を満足するものであることが好まし
い。復元スピードと残留変形量との関係が、上記の関係
式を満たす樹脂組成物を用いることにより、レンズ面同
士の圧縮潰れを抑制できる。すなわち、反りを持ったレ
ンチキュラーレンズと密着させてもつぶれず、また、レ
ンチキュラーレンズと組合わせた状態で積み重ねて、一
旦レンズが変形した場合であっても、荷重を開放した状
態(TVに組み込んだ状態)では、レンズ形状が復元し
うるフレネルレンズを得ることができる。
【0022】また、クリープ変形率をC(単位:%)、
圧縮弾性率をE(単位:Mpa)と表した場合に、(−
0.026E+3)<C<(−0.02E+63)の関
係を満足するものであることが好ましい。このような樹
脂を用いることにより、プロジェクションスクリーンに
おけるレンズ面同士の圧縮つぶれを抑制できる。すなわ
ち、反りを持ったレンチキュラーレンズと密着させても
つぶれない、フレネルレンズを得ることができる。C>
−0.02E+63の領域、ないしC<−0.026E
+3の領域では、レンズ面同士の圧縮つぶれに対し、適
切な耐クリープ性を有したレンズが得られなくなる。
【0023】特に好ましい態様としては、本発明におけ
る光学素子用樹脂組成物は、−20℃における貯蔵弾性
率が、2.96×1010dyne/cm以下であ
り、かつ、−20℃における損失正接が、0.02以上
である。このような値を有する樹脂では、振動時のエネ
ルギー貯蔵量が少なく、熱エネルギーとして損失する割
合が高く、振動を緩和しやすくなり、したがって、当該
樹脂を用いたレンズでは、レンズ同士が動的に接触して
発生する擦れを回避し易くすることができる。
【0024】本発明の好ましい態様として、損失正接の
温度依存性曲線における−20〜50℃の範囲の損失面
積が、20℃以上であることが好ましく、特に、損失正
接の温度依存性曲線における−20〜50℃の範囲の損
失面積が、20〜43.2℃、特に、20〜31.7℃
が好ましい。このような数値範囲にある樹脂組成物を用
いることによって、プロジェクションスクリーン輸送時
の様々な周波数の振動に対して、振動エネルギーが熱エ
ネルギーに変換され、基本的な防振特性としては非常に
効果がある。また、損失面積大きい樹脂組成物では、分
子運動の多重緩和が起こるので、樹脂の復元性が向上
し、外圧による樹脂の変形を広範囲の温度領域において
低減させることができる。
【0025】また、常温における動摩擦係数が、0.0
7〜0.15であることが、より好ましい。このような
値である樹脂組成物を用いることにより、輸送の際、特
に−20℃付近の低温環境下における、擦り傷の発生を
効果的に防止できる。ここで、常温とは25℃を指すも
のとする。しかしながら、20℃においても、動摩擦係
数の値には実質的に変化しない。動摩擦係数の値が0.
15を超えると、−20℃付近での輸送の際に発生する
擦り傷を有効に防止することができず、一方、0.07
未満では、滑り性を付与するために、シリコーン等の添
加量をかなり増やす必要が生じる。また、シリコーンの
含有量を増やすと、基材との接着性が低下することから
好ましくない。
【0026】本発明の別の態様として、上記の光学素子
用樹脂組成物を含んでなる光学素子を提供する。
【0027】また、該光学素子は、屈折率が1.52以
上であることがこのましく、このような光学素子をフレ
ネルレンズシートとして使用できる。
【0028】本発明の別の態様として、上記の光学素子
とレンチキュラーレンズとを含んでなる、プロジェクシ
ョンスクリーンを提供する。
【0029】
【発明の実施の形態】図1は、本発明の典型的な光学素
子であるフレネルレンズシートを用いたプロジェクショ
ンスクリーンを示す模式図で、プロジェクションスクリ
ーン1は、フレネルレンズシート2とレンチキュラーレ
ンズシート3とが、各々のレンズ面2cおよび3cと向
かい合うように設置され、互いに密着したものである。
図1においては、いずれのシート2、3においても、基
材2a、3aに、レンズ層2b、3bがそれぞれ積層さ
れたものとして描いてあるが、各レンズシートにおいて
は、基材とレンズ層がこのように別層ではなく、一体化
されたものであってもよい。さらに、図1に示すよう
に、レンチキュラーレンズシート3は、フレネルレンズ
シート2側とは反対側の面に、小レンチキュラーレンズ
と突起部およびブラックストライプを有していてもよ
い。
【0030】光学素子は、図1を参照して説明したレン
チキュラーレンズ、フレネル(凸)レンズ以外にも、フレ
ネル凹レンズ、プリズム、もしくは縄の目レンズ等の任
意の光学形状を有するものであってよい。また、一つの
光学素子が、その両面に、同種、もしくは異種の光学的
形状の光学素子面を有するものであってもよい。
【0031】本発明においては、光学素子全体を構成す
る、もしくは、光学素子が基材上にレンズ層を有する場
合にあっては、そのレンズ層を構成する、光学素子用樹
脂組成物であって、以下に説明するような種々のパラメ
ーターにより規定された光学素子用樹脂組成物を提供す
る。本発明の樹脂組成物からなる光学素子としては、代
表的にはフレネルレンズシートであり、このような光学
素子、特にフレネルレンズシートは、レンチキュラーレ
ンズシートと組み合わせてプロジェクションスクリーン
とすることができる。なお、ここで言う光学素子用樹脂
組成物は、直接的には、製品の状態、もしくは測定のた
めであれば、薄い板状の樹脂板やレンズ層となった状態
のものを指す。ただし、製品を製造する前の状態、もし
くは測定用の薄い板状状態も含めて、以降に説明するよ
うな種々のパラメーターを満たし得る未硬化の組成物を
も含むものとする。
【0032】光学素子用樹脂組成物は、電離放射線硬化
性のラジカル重合型アクリレート系化合物のオリゴマー
および/またはモノマーを主体とする電離放射線硬化性
物質、カチオン重合型エポキシ系化合物、ビニルエーテ
ル系化合物、もしくはオキセタン系化合物のオリゴマー
および/またはモノマーからなり、必要に応じて、紫外
線重合開始剤、光増感剤等の硬化のための添加剤含んで
なることが好ましい。また、上記のラジカル重合系およ
びカチオン重合系の化合物を混合したものを用いても良
い。なお、硬化させるための添加剤としては、樹脂組成
物が重合を起こす際に分解するので、樹脂硬化後にそれ
らの分解物が残る。
【0033】それに対して、重合開始剤に代えてマレイ
ミド誘導体を使用すると、高効率で硬化するため、残留
物も残りにくく、省エネや環境面でより好ましい。ま
た、得られる製品の性状を改善する目的で、熱可塑性樹
脂を含んでいても良い。
【0034】さらに、上記ラジカル重合型樹脂は、チオ
ール化合物を含有することが好ましい。チオール=エン
反応により、連続成長と連鎖成長重合とが協同して起こ
るため、硬化物膜内の相の均一性が向上し、また強靭
性、柔軟性、硬度などの材料物性や基材との密着性が向
上する。
【0035】また、光学素子用樹脂組成物は、通常のシ
ート状もしくは板状の樹脂製品を製造する際に添加され
得る様々な添加剤が含まれていても良く、さらに、光学
素子の光学性能を改善する目的で、光拡散剤や着色剤等
が含まれていても良い。
【0036】レンチキュラーレンズの反りにより発生す
る接触圧力は、フレネルレンズに対する圧縮荷重に影響
を与えるものであるため、圧縮弾性率を規定することは
非常に意義がある。また、圧縮荷重でのクリープ変形率
を併せて規定することは、長時間荷重が付加されること
によるフレネルレンズのレンズ潰れ現象を低減する手段
としては非常に有効である(特願2001−12665
0号公報参照)。上記の手段は、剛性の高い、高エネル
ギー弾性を有する材料には好適に用いることができる
が、ゴム弾性のようなエントロピー弾性をもつ材料に適
用することは困難である。また、ゴム弾性を有する樹脂
は、低温での、硬さ、制振性能、および長時間高圧がか
かった時の復元性に優れるが、このような樹脂の物性と
して、クリープ変形率、圧縮弾性率を規定したのみでは
不十分である。本発明においては、樹脂組成物が、所定
の圧縮弾性率および所定の弾性変形率を有することによ
り、接触圧力によるレンズ変形の復元性に優れる材料が
得られることを見出したものである。さらに、架橋密度
によって復元性に顕著に差が出ることを明らかにした。
【0037】すなわち、本発明の樹脂組成物において
は、ガラス転移温度の低い材料の使用することにより、
レンズ使用温度下において、樹脂をガラス領域からゴム
領域にし、弾性変形率(ゴム弾性率)を所定量発現させる
ことである。クリープ変形量を低下させ、ある程度ゴム
弾性的復元力を与えるためには、使用材料の樹脂の架橋
密度を最適にして、適切な網目構造が均一に分散してい
ることが最も好ましい。
【0038】本発明の光学素子用樹脂組成物を規定する
パラメーターとしては、(1)ガラス転移温度、(2)平衡
弾性率、(3)弾性変形率、(4)圧縮弾性率、(5)復元
速度、(6)最大変形量、(7)残留変形量、必要に応
じて、さらに(8)クリープ変形率、(9)貯蔵弾性率、
(10)損失正接、および(12)動摩擦係数である。
【0039】上記のうち、(1)、(2)、(9)、および
(10)は、動的粘弾性測定の結果から算出でき、また
(3)〜(8)については、微小硬度計による測定結果か
ら算出できる。これらのパラメーターについて、以下に
説明する。
【0040】動的粘弾性測定においては、所定の厚みの
光学素子用樹脂組成物からなる樹脂シートを試料として
作成する。紫外線硬化性樹脂組成物を用いて、樹脂シー
ト作成する場合は、紫外線照射を行なって樹脂を硬化さ
せる。動的粘弾性測定装置を用いて、温度を変えなが
ら、試料の長軸方向に一定周期で振動を与えつつ、貯蔵
弾性率及び損失正接の測定を行なう。貯蔵弾性率と温度
との関係から、所定温度における貯蔵弾性率を求め、平
衡状態における平衡弾性率を求める。また、損失正接と
温度との関係から、所定温度における損失正接を算出す
る。
【0041】貯蔵弾性率は、材料に与えられた歪みに対
し、弾性的にエネルギーを貯蔵する能力に関係し、力学
的物性の一種であり、材料(樹脂組成物)の弾性的性質を
表わす指標となるものである。また、損失正接は、損失
弾性率/貯蔵弾性率から求められる。損失弾性率は、材
料(樹脂組成物)の粘性的性質を表わすもので、変形中の
材料が熱として散逸するエネルギー量に関係し、振動エ
ネルギーを緩和させる指標となる。損失正接が最大値と
なる温度以上においては、樹脂の高分子セグメントが緩
和しきった状態であり、そのときの貯蔵弾性率成分は、
結合部分である架橋点に起因する。したがって、ゴム状
弾性領域の貯蔵弾性率である平衡弾性率は、その樹脂の
架橋密度と関係する。なお、損失正接の温度依存性曲線
における損失正接の最大値に対応する温度が、その材料
の相転移を表わすと言われ、おおよそ、ガラス領域から
ゴム領域への転移を表わすガラス転移温度に相当する。
なお、ガラス転移温度は、物質と基準物質との温度を変
化させながら、その物質と基準物質に対するエネルギー
入力の差を温度の関数(DSC曲線またはDTA曲線)
として測定し、その吸熱の挙動から相転移温度を決定す
るDSC(示差走査熱量測定)測定によっても測定可能で
ある。
【0042】また、広い温度及び周波数の領域に渡って
誘電緩和測定を行うことによっても、分子鎖の運動とし
てのミクロブラウン運動、側鎖の回転、末端基の回転な
ど、さらにはホモポリマーの相転移など、高分子物質の
構造や性能に関する詳細な情報を得ることができる。し
たがって、これらの情報を反映させて樹脂設計を行うこ
とができる。すなわち、特許第3318593号公報に
記載されている様に、振動エネルギーを熱エネルギー変
換することにより振動を吸収するためには、電場による
双極子の配向を評価することが重要となり、誘電緩和に
よる力学緩和を考慮すれば容易に樹脂の設計を行うこと
が可能となる。
【0043】本発明における、光学素子を構成するため
の樹脂組成物の硬化物は、そのガラス転移温度が、5.
0℃〜36.0℃であり、平衡弾性率が0.859×10
〜3.06×10dyne/cmである。このよ
うな樹脂組成物を用いた光学素子では、そのレンズシー
ト面に圧力がかかっても、レンズ表面が潰れることな
く、良好な品質を確保できる。
【0044】上記ガラス転移温度の範囲であっても、平
衡弾性率が3.06×10dyne/cmを超える
と、架橋密度が増加するため、粘性構造を発現する分子
鎖の運動が凍結され、樹脂の復元性が低下する。すなわ
ち、分子鎖の架橋密度を上げることにより、樹脂が剛直
となり変形しにくくなるが、単に架橋密度を増やすこと
のみでは、大荷重により一旦樹脂が変形すると、もとの
状態に戻りにくくなる。そのため、上記平衡弾性率を超
える樹脂では、プリジェクションスクリーンとして2枚
のレンズシートを重ね合わせた時に付加される接触圧の
みならず、レンズシート梱包輸送時、およびTVにスク
リーンをアセンブリする際の、シート積載による高圧力
に耐えられない。
【0045】また、本発明の樹脂硬化物は、ガラス領域
からゴム領域への転移を表わすガラス転移温度が、常温
(25℃)付近であるため、通常取り扱う環境温度におい
て、該樹脂硬化物の柔軟性が高い。このようなガラス転
移温度と上記平衡弾性率とを有する樹脂組成物を用いる
ことにより、樹脂成型物の柔軟性を保持しつつ、従来か
ら使用されている光学素子用樹脂と比べて、かなり高い
弾性率とすることができる。このような樹脂組成物組成
物を得るためには、(i)単官能、二官能、三官能、そ
れ以上の多官能モのモノマーの配合比を調整したり、
(ii)エチレンオキサイドで変性されたモノマー、プロ
ピレンオキサイドで変性されたモノマー、、ジエチレン
グリコールジアクリレートやポリエチレングリコールジ
アクリレート等のグリコール系モノマー、および、1,
4−ブタンジオールジアクリレートや1,6−ヘキサン
ジオールジアクリレート等のジオール系モノマー等の靭
性に寄与する構造を備えた各官能基を有するモノマーを
選定し、それらモノマーの配合比率及びそれらの分子量
を調整したり、もしくは、(iii)エポキシ(メタ)アクリ
レートオリゴマーやウレタン(メタ)アクリレートオリゴ
マーの配合比、ないし分子量を調整することにより、架
橋密度を最適化し、樹脂の分子構造における網目構造を
均一に分散させればよい。なお、ラジカル重合による場
合は、その高い反応速度による未反応二重結合の残留を
避けるため、網目構造の均一分散の観点からは5ないし
6官能以上のモノマーを使用する際は注意を要すること
は言うまでもない。
【0046】さらに、網目構造を均一にするために、架
橋点間の分子鎖長にも考慮する必要がある。すなわち、
ウレタンオリゴマー中のポリエーテル鎖やポリエステル
鎖の繰り返し、モノマー中のエチレンオキサイド鎖やプ
ロピレンオキサイド鎖等の繰り返しの調整、ならびに、
それらの分子量分布や配合率にも注意を払う必要があ
る。
【0047】ゴム状物質は、一般的に長鎖分子からな
り、これらが相互に弱いvan derWaals力(二次
結合力)により結合し、また所々に長鎖分子間に原子価
結合からできた橋渡し(架橋)が形成された構造を有す
る。ゴムの鎖状分子の各部分はゴム特有の隙間(空間)が
あり、その隙間に長鎖分子が移動することにより、分子
運動が起こるが、分子鎖は架橋点で固定されているた
め、マクロブラウン運動による分子鎖全体の自由変形は
制限される。一方、架橋点がないと、ガラス転移温度以
上の温度領域においては、分子鎖のマクロブラウン運動
により弾性が失われる。しかしながら、架橋点が多く存
在し、鎖同士の結合力が強すぎると、鎖状分子各部分の
比較的小範囲における不規則な運動(ミクロブラウン運
動)も抑制されてしまうため、ゴム弾性が発現しない。
すなわち、ミクロブラウン運動を助長する一方で、マク
ロブラウン運動を抑制することが、ゴム弾性を発現させ
るために重要となる。また、マクロブラウン運動を抑制
するためには架橋密度を調整する必要があるが、その架
橋点の分布が均一であることも重要である。一方、ミク
ロブラウン運動を助長するためには、ガラス転移温度を
調整する必要がある。プロジェクションスクリーンが通
常使用される温度領域を考慮して材料設計することで、
スクリーンの潰れが発生し難い、高反発性、高屈折率の
硬化型樹脂を得ることができる。すなわち、本発明にお
いては、上記の分子論的考察により、架橋密度とガラス
転移温度の観点から材料設計を行うことで、プロジェク
ションスクリーンの使用に好適な柔軟性(ゴム弾性)を有
する光学素子用樹脂組成物を提供するものである。
【0048】本発明の樹脂組成物においては、弾性変形
率をWe(%)、圧縮弾性率をE(Mpa)と表した場
合に、We>−0.0189E+34.2の関係を満足
するものである。
【0049】また、本発明の樹脂組成物においては、ク
リープ変形率をC(%)、圧縮弾性率をE(Mpa)、
と表した場合に、(−0.026E+3)<C<(−
0.02E+63)の関係を満足するものである。
【0050】これら、弾性変形率(弾性仕事の量)、圧
縮弾性率及びクリープ変形率について説明する。これら
の材料物性パラメーターは、微小硬度計を用いたユニバ
ーサル硬さ試験を応用して算出できる。すなわち、圧子
による荷重を所定の値になるまで徐々に増加させ、その
後、徐々に減少させて、侵入深さの荷重依存性曲線を求
め、得られた曲線を解析して算出する。
【0051】光学素子用樹脂組成物は、常温において
は、樹脂成型物全体として、柔軟性および復元性が必要
であり、樹脂成型物の一部分(レンズの一部分)では圧力
による変形を緩和しきれない。つまり、プロジェクショ
ンスクリーンにおいては、フレネルレンズとレンチキュ
ラーレンズとは部分的に接触しており、その接点で全体
が支えられている。一般に、変形したものがもとに戻る
という観点からは、樹脂成型物全体が柔軟性および復元
性を有するために、全硬化物中に力学的変形を緩和でき
る構造を有する必要があり、かつ、その塑性成分が外力
の影響を受けないように、マトリックス中に該構造が存
在していなければならない。したがって、柔軟性と復元
性の指標となる別の何らかの指標が必要となるが、本発
明においては、弾性仕事量のパラメーターである弾性変
形率を、柔軟性および復元性のパラメーターとして用い
る。
【0052】弾性変形率等の材料物性値の評価は、ユニ
バーサル硬さ試験によって行うことができる。すなわ
ち、ユニバーサル硬さを求める測定方法を応用し、圧子
を試料面に押し込み、荷重をかけた状態で、くぼみの押
し込み深さを直読する。具体的には、圧子での押し込み
深さを1点だけ測定するのではなく、設定した荷重まで
徐々に荷重を増加又は減少させることによって、樹脂膜
の様々な物性を求めることができる。(ユニバーサル硬
さ試験による材料特性値の評価(材料試験技術Vol.
43 No.2 1998年4月)参照)。
【0053】また、本発明においては、弾性変形率と弾
性率との関係が所定範囲にある樹脂組成物を使用するこ
とにより、接触圧力によるレンズ潰れが低減されるもの
である。
【0054】また、本発明においては、樹脂組成物の復
元速度と最大変形量とが所定の関係にあることが重要で
ある。
【0055】弾性変形率を用いて、復元性を評価するこ
とはできるが、弾性変形率では、実際の変形量に依存し
た絶対評価にはならない。一方、ある変形量からどの程
度の復元性能を有しているのかを、最大変形量と復元速
度とで評価する事は非常に重要である。すなわち、弾性
率が小さいと変形が大きいのに復元速度が高ければ弾性
仕事の割合は大きく復元性が高いと言え、一方、弾性率
が大きいと変形が小さくエネルギーが蓄えられる分、弾
性仕事の割合は高くなるが、復元速度が遅ければ復元性
は低いこととなる。したがって、弾性変形率を評価する
に加えて最大変形量、復元速度を指標に入れ絶対値的評
価をする必要がある。このように、最大変形量を評価す
ることにより、レンズがどの程度変形すれば光学欠陥に
なるのか、または、変形があっても復元性をどの程度有
すれば光学欠陥が確認されずに済むのかを、明確に評価
できる。
【0056】プロジェクションスクリーン用途として最
も高い復元性が要求されるのは、製造工程中にレンズを
横積載するような、レンズに高荷重が負荷されるような
場合である。高荷重によって変形したレンズが、荷重を
開放された後、どの程度その変形を回復できるのかを設
計時に見積もる必要がある。そのような見積もりは、V
≧0.112DM−0.236の関係から導くことがで
きる。
【0057】レンチキュラーレンズとフレネルレンズと
をセットしたプロジェクションスクリーンにおいては、
室温付近の温度では、レンズ潰れがある場合でも、時間
が経過するとともにレンズ潰れが解消する。この理由と
して、反りのついたレンチキュラーレンズを無理やり平
面状のフレネルレンズに押し付けると、最初はレンズの
反りにより圧力が負荷されるが、時間が経過するととも
に、レンチキュラーレンズがクリープによりフレネルレ
ンズ平面になじみ、接触圧が低減されることによるため
と考えられる。また、レンチキュラーレンズが薄厚のた
め、レンズセット時の歪等により偏った接触圧力が負荷
されることがあり、このような偏った接触圧力が、環境
温度や湿度、ないし時間により接触圧が均一となり、局
所的な圧力が開放されて樹脂が復元することも関係して
いると考えられる。
【0058】レンズが潰れた状態で振動が加わると、レ
ンズ同士が擦れたり、衝突するため摩擦力(静摩擦力)
が大きくなり、レンズ擦れが発生し易くなる。したがっ
て、レンズ接触部で変形が起これば直ぐに形状が復元さ
れた方が、摩擦力も低減されレンズ擦れは低減されると
考えられる。本発明においては、復元速度と最大変形量
とが所定の関係にある樹脂組成物を用いて光学素子を作
製することにより、レンズの潰れのみならず、レンズ擦
れが有効に防止できることを見いだしたものである。
【0059】また、復元速度と残留変形量とが所定の関
係にある樹脂組成物を用いることにより、レンズ変形に
よる光学欠陥を抑制することができる。すなわち、塑性
変形量を制御することにより、あらゆる荷重に対するレ
ンズの形状の欠陥回避が可能となる。また、永久ひずみ
が樹脂組成物にある程度残存した場合であっても復元速
度がある程度維持されれば、レンズ潰れが回避され光学
欠陥が抑制されるものと考えられる。
【0060】さらに、フレネルレンズを成形金型から剥
離する場合、剥がす方向によっては、金型とレンズの凹
凸部分の位置関係から、レンズにせん断力が働く場合が
ある。かかる場合、金型とレンズとの界面で摩擦力が大
きく、負荷によりレンズ変形が生じることもある。この
ように、剥離したレンズが一部で歪み、光学欠陥を生ず
ることがある。この光学欠陥を低減するためには、外部
ないし内部離型剤等を用いて剥離時の摩擦力を低減させ
る方法がある。しかしながら、離型剤を用いるだけで
は、種々の光学素子形状に対応することが難しい。した
がって、樹脂の復元性が優れ、永久歪がない樹脂を用い
ることが必要となる。すなわち、本発明においては、V
≧0.858R−0.644の関係を満たす樹脂組成物
を使用することにより上記問題を解決するものである。
【0061】なお、残留変形量が大きい場合は、外力が
粘性構造に影響を与えるため、一般には復元速度(復元
性能)が低いと予想でき、事実、残留変形量がある程度
小さい場合は復元速度も大きな値を持つ。したがって、
そのような復元速度(復元性能)が大きい樹脂を用いる
ことで、レンズの変形を抑制することが可能となる。最
大変形量が所定量であり、ある程度の復元速度を有して
いても、残留変形(永久変形)が比較的大きい場合もあ
る。すなわち、どの程度変形し、どの程度復元性を有
し、どの程度変形が残るか、という三つのパラメーター
を確認することが重要である。 レンチキュラーレンズ
の反りによる接触圧は、当該レンズのクリープにより経
時的に低減されるものの、圧力が負荷された状態でのフ
レネルレンズ樹脂の、その圧力に対して押し戻そうとす
る復元力が変形を低減させるために重要となるため、そ
れを表す復元速度、残留変形量を議論することが必要と
なる。
【0062】さらに、プロジェクションスクリーンTV
製造時(組み立て工程時)においては、大面積のスクリ
ーンを重ねて積んで行く積載工程があり、レンズがこの
ような高荷重を負う横積載から、荷重開放されたときの
復元性や永久変形率を考慮することにもなる。
【0063】また、プロジェクションスクリーンTV等
を量産するに際しては、レンチキュラーレンズとフレネ
ルレンズとが組み合わされた状態で幾重にも積み重ねら
れた状態で保管されている。フレネルレンズおよびレン
チキュラーレンズの材質の関係によっては、両レンズシ
ートの変形を考慮する必要がある。例えば、フレネルレ
ンズとして硬化性樹脂を用い、レンチキュラーレンズと
して熱可塑性樹脂を用いた場合には、フレネルレンズの
変形を考慮して、所定の機械特性を有する樹脂組成物を
使用する必要がある。したがって、フレネルレンズに本
発明の樹脂組成物を用いた場合においては、残留変形量
は小さい程好ましいといえる。しかしながら、本発明に
おいては、残留変形量がある程度大きい値を有する樹脂
であっても、復元速度が所定範囲内であればレンズの潰
れを抑制する効果があることを見いだしたものである。
【0064】また、本発明の光学素子用樹脂組成物は、
動的粘弾性の−20℃における貯蔵弾性率が2.96×
1010dyne/cm以下であり、−20℃におけ
る損失正接が0.02以上であることが好ましい。樹脂
組成物の硬化物からなる光学素子の屈折率を上げるた
め、分子鎖にベンゼン環を導入すると、該樹脂組成物は
硬くて脆くなるが、常温で硬くても、低温において弾性
率が低ければ、ある程度の光学素子面どうしの擦れによ
る傷を回避できる。さらに、動的粘弾性の損失正接を所
定の範囲に規定し、低温での貯蔵弾性率を低く、かつ樹
脂組成物に滑り性を付与すれば、低温(0℃)、あるいは
極低温(−20℃)においても、光学素子面どうしの擦れ
に対する耐性をもたせることができる。
【0065】フレネル金型を用いてフレネルレンズシー
トを成形する際に、硬い樹脂を使用すると、旋盤により
加工された金型の平面性が良好な場合は、成形品の擦れ
による傷は発生し難いが、その金型の平面性が良くない
場合には、擦れによる傷が発生し易くなる。本発明にお
ける樹脂組成物では、動的粘弾性の損失正接の値が0.
02以上と大きく貯蔵弾性率が小さいため、金型の平面
性が悪く突起部分があっても、その部分の衝撃や振動の
エネルギーを分散して、振動を制御できるため、成形品
に傷が付きにくい。これは、損失正接の値が大きい程、
振動系の共振点での振動伝達率が低減され易いことによ
るものと考えられる。
【0066】貯蔵弾性率に関連のあるパラメーターとし
て、損失弾性率がある。低温において、この損失弾性率
の値を大きくする(低温における損失正接を大きくする)
ことにより、材料が振動を熱として散逸する能力を大き
くでき、低温での光学素子どうしの擦り傷の発生を減ら
すことができる。また、貯蔵弾性率の値を小さくするこ
とにより、低温での光学素子どうしの擦り傷の発生を減
らすことも可能である。
【0067】また、損失弾性率の値が大きな樹脂を用い
て光学素子を形成した場合、材料のバルク内構造の粘性
が増加するため、静的な外力が及んだときに塑性変形を
誘発し、レンズ面等の光学素子面のつぶれが生じやすく
なる。すなわち、本発明においては、貯蔵弾性率の値が
小さい樹脂組成物を用いることにより、かかる問題を解
消している。
【0068】さらに、本発明では、樹脂組成物の損失正
接の損失面積(Loss Area)が所定の値の範囲であれ
ば、広い周波数域において振動エネルギーを熱エネルギ
ーに変換できるため、レンズ同士の動的接触によるレン
ズ擦れを低減することができる。また、本発明において
は、プロジェクションスクリーンは輸送時の振動により
10Hz程度の低周波域から100Hz程度の比較的高
い周波数域まで、広範囲の周波数帯域で振動が発生して
いるため、広範囲な周波数領域で良好なエネルギー損失
効果を発揮させるためには、損失面積が大きい方が好ま
しいことを見いだしたものである。
【0069】なお、損失正接の温度依存性曲線における
ピーク幅、すなわち温度分散幅は、分子運動の緩和を表
し、該幅が広ければ広い程、緩和が多重に重なっている
ことを意味し、また、復元性を有する構造に起因した粘
性が発現することを表している。すなわち、架橋密度を
十分考慮に入れて、広い温度領域において樹脂に靭性を
付与することにより、プロジェクションスクリーンに、
広い温度領域において外力に抗張するための復元力を付
与し、レンズの塑性変形を低減させるものである。さら
に、復元速度が大きいことにより、大荷重が開放される
ようなレンズの潰れに対しても効果を奏する。
【0070】一方、損失面積が大きいと粘性の寄与が大
きくなるため、塑性変形が増す。このようにレンズ諸特
性に関して総合的な調整をした結果として、塑性変形を
抑えるために架橋密度を上げたり(復元を付与される)、
屈折率向上のための剛直鎖を導入することにより、緩和
が抑制されることになる。すなわち、このような緩和抑
制により、損失正接の上限値が決定される。
【0071】上記に説明したように、本発明において
は、所定温度における損失正接の値が一定値以上にある
と、耐擦れ性が改善されることを見いだした。すなわ
ち、広範囲の温度領域かつ広範囲の振動周波数において
も、耐擦れ性を保持するためには、−20〜50℃の範
囲での損失面積が20℃以上が必要であり、好ましく
は、20〜43.2℃、特に、20〜31.7℃である
ことが好ましい。なお、損失面積とは、損失正接の温度
依存性曲線における、損失正接ピークの面積であり、該
曲線を所定温度範囲について積分することにより算出す
ることができる。
【0072】上記の樹脂組成物を用いて得られる光学素
子は、その屈折率が、1.52以上であることが好まし
い。前述のごとく、光学素子の要求特性の一つに屈折率
が挙げられるが、屈折率を高くするためには、樹脂組成
物を構成する化合物にベンゼン環を導入する必要がある
が、屈折率の向上と樹脂の柔軟性とはトレードオフの関
係にある。本発明における樹脂組成物を用いて得られる
光学樹脂は、その屈折率が、1.52以上を有するもの
である。このような屈折率を有する光学用樹脂組成物と
しては、具体的には、ビスフェノールA等のベンゼン環
を二つ有する構造を有する化合物に、靭性を付与するた
めのエチレンオキサイド(EO)変性したジアクリレー
トモノマーを所定量配合することにより、また、屈折率
のみの観点からは、フェノキシエチルアクリレート、フ
ェノキシエチルEO変性アクリレート、2−ヒドロキシ
ー3フェノキシプロピルアクリレート、パラクミルフェ
ノールEO変性アクリレート、パラクミルフェノキシエ
チレングリコールアクリレート、ビスフェノールA型エ
ポキシアクリレート等、を所定量配合することにより、
架橋密度、靭性、屈折率を調整することができる。
【0073】さらに、本発明の樹脂組成物に上記の化合
物とともに使用するウレタンアクリレートとしては、ト
ルエンジイソシアネート(TDI)、ヘキサメチレンジ
イソシアネート(HMDI)、メチレンジイソシアネー
ト(MDI)、イソホロンジイソシアネート(IPD
I)等のイソシアネート化合物に、フタル酸、アジピン
酸、グルタル酸、またはカプロラクトン等の多塩基酸、
ならびに、エチレングリコール、ビスフェノールA、ジ
エチレングリコール、トリエチレングリコール、ネオペ
ンチルグリコール、1,4−ブタンジオール、3−メチ
ル−1,5ペンタンジオール等の多価アルコールと、水
酸基含有(メタ)アクリレートとを反応させることによ
って製造されるポリエステル型ウレタンアクリレート、
および、イソシアネートに、ポリエチレングリコール、
ポリプロピレングリコール、およびポリテトラメチレン
グリコール等のポリエーテルポリオール、ならびにポリ
エーテルグリコールと水酸基含有(メタ)アクリレート
とを反応させることによって製造されるポリエーテル型
ウレタンアクリレートを使用する事ができる。なお、屈
折率を1.52〜1.55、または、それ以上にするに
は、用いる化合物のベンゼン環の含有量を増す必要があ
るが、ベンゼン環の含有量が増えると樹脂組成物の柔軟
性が失われるため、上記の化合物にはエチレンオキサイ
ド等の粘性構造を有する化合物を導入することが必要と
なる。
【0074】本発明の光学素子用樹脂組成物は、常温に
おける動摩擦係数が0.07〜0.15であることがより
好ましい。このような値を有する樹脂組成物を用いるこ
とにより、輸送の際、特に−20℃付近の低温環境下に
おける、擦り傷の発生を効果的に防止できる。ここで、
常温とは25℃を指すものとするが、−20℃であって
も、動摩擦係数の値には実質的に影響を与えない。動摩
擦係数の値が0.15を超えると、−20℃付近での輸
送の際に発生する擦り傷を有効に防止することができ
ず、一方、0.07未満では、滑り性を付与するため
に、シリコーン等の添加量をかなり増やす必要が生じ
る。滑り剤の添加量が増えると、様々な温度環境で使用
される際、特に高温環境で使用される際に、滑り剤が外
部にブリードアウト(にじみ出る)しやすくなり、また、
光学素子の光学性能およびレンズと基材との密着性が低
下する。
【0075】動摩擦係数の値を0.07〜0.15とす
るためには、樹脂組成物に滑り剤(またはスリップ剤)を
配合することが好ましい。滑り剤としては、樹脂組成物
に対し光学的阻害がないもの、例えば透過率の低下や、
高温環境試験における滑り剤のブリードアウト等を生じ
ないもの、また、成形時には表面へのマイグレーション
が起こるが、硬化後はブリードアウトが起き難いもの、
が好ましく、さらに、樹脂組成物の屈折率とできるだけ
近い値を有するもの、または、粒子状の滑り剤(シリ
カ)等を用いる場合は粒径が光の波長以下であるもの、
が好ましい。
【0076】また、添加剤自体の粘度が低く、基材側に
付着した場合にレベリングし易いもの、ないし基材の屈
折率と近いものが好ましい。さらに、基材との密着性を
損なわないものであることが好ましい。
【0077】このような滑り剤としては、シリコーン、
シリコーンポリマー、好ましくは変性シリコーン、より
好ましくはポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン添
加剤が好ましい。このような添加剤を含有することによ
り、当該樹脂組成物を硬化させてレンズシートを形成し
た場合に、レンズシート同士の擦れによるレンズ表面の
傷の発生を低減させることができる。
【0078】樹脂組成物全体に対する上記添加剤の含有
量は、0.01〜10重量%が好ましい。0.01重量
%未満の場合、所定の滑り性が得られず、一方、10重
量%を越えると、樹脂組成物の材料物性が損なわれる。
【0079】上記のシリコーン、シリコーンポリマーと
して、具体的には、ビッグケミージャパン(株)製のB
YK−307、BYK−333、BYK−332、BY
K−331、BYK−345、BYK−348、BYK
−370、BYK一UV3510、信越化学工業(株)
製のX-22-2404、KF−62-7192、KF−
615A、KF−618、KF−353、KF−353
A、KF−96、KF−54、KF−56、KF−41
0、KF−412、HIVACF−4、HIVACF−
5、KF−945A、KF−354、およびKF−35
3、東レ・ダウコーニング・ジャパン(株)製SH−2
8PA、SH−29PA、SH−190、SH−51
0、SH−550、SH−8410、SH−8421、
SYLGARD309、BY16-152、BY16-1
52B、およびBY16-152C、日本ユニカー
(株)製FZ-2105、FZ-2165、FZ-216
3、L-77、L−7001、L-7002、L-760
4、およびL-7607、エフカ・アディティプス製の
EFKA-S018、EFKA-3033、EFKA-8
3、EFKA-3232、EFKA-3236、およびE
FKA-3239、ならびに共栄社化学(株)製のグラ
ノール410等が挙げられる。
【0080】また、樹脂硬化後の環境変化により、経時
的にシリコーン成分がブリードアウトするのを防ぐた
め、補助的にシリコーンアクリレート、もしくはシリコ
ーンメタクリレート等の反応性シリコーンを併用するこ
ともできる。該反応性シリコーンの具体的なものとし
て、ビッグケミージャパン(株)製のBYK−UV35
00、およびBYK−UV3530、日本コニカ(株)
製ベンタッドUV-31、ならびに信越化学工業(株)
製のX-24-8201、X-22-174DX、X-22-
2426、X-22-2404、X-22-164A、X-
22-164B、およびX−22-164C、等が挙げら
れる。
【0081】また、シリカ粒子の市販品としては、例え
ばサンスフェアNP−100、NP−200(洞海化学
工業)、シルスターMK−08、MK−15(日本化学
工業)、FB−48(電気化学工業)、Nipsil
E220A(日本シリカ工業)等が挙げられる。
【0082】
【実施例】以下に、各樹脂組成物を用いて、試料を作成
し、上記に説明した種々のパラメーターを測定した結
果、および、フレネルレンズシートとしたものの実用的
な評価を行なった結果を、表1〜表5に示す。パラメー
ターとしては、屈折率、ガラス転移温度、平衡弾性率、
弾性変形率、圧縮弾性率、最大変形量、残留変形量、復
元速度、クリープ変形率、−20℃における貯蔵弾性
率、各温度における損失正接、損失面積および動摩擦係
数である。
【0083】また、評価結果として、TVセット潰れ試
験、荷重積載試験、および各温度における振動試験の結
果を表1〜表5に示す。なお、温度の定めの無い項目に
ついては、温度25℃における測定結果を示すものであ
る。
【0084】評価結果の樹脂組成物A1〜A22は、本
発明の光学素子用樹脂組成物の実施例に相当するもの
で、また樹脂B1〜B27は、本発明の光学素子用樹脂
組成物の比較例に相当するものである。
【0085】
【表1】
【表2】
【表3】
【表4】
【表5】 上記の各評価および測定結果は、以下の方法による。
【0086】動的粘弾性測定用試料の調整 貯蔵弾性率、損失正接、および平衡弾性率の動的粘弾性
の測定用の試料の作製は、以下のようにして行なった。
40〜42℃に温度制御された、表面が平坦なステンレ
ス板を金型とし、該金型面に40〜42℃に調整した各
樹脂組成物を厚さが200μmになるように塗布した。
メタルハライドタイプの紫外線ランプ(日本電池(株)
製)を用い、積算光量2000mJ/cm、ピーク照
度250mW/cmの条件で照射を行なって、樹脂組
成物を硬化させた後、硬化物を剥離して、測定用試料を
得た。
【0087】圧縮弾性率測定用試料の調整 圧縮弾性率の測定用の試料の作成は、表面が平坦なステ
ンレス板に替えて、表面にフレネルレンズの逆型形状を
有するニッケル製金型を用いた以外は、上記の動的粘弾
性測定用試料の調整と同様にして、フレネルレンズの形
状を有する測定用試料を得た。
【0088】動的粘弾性の測定 得られた試料を30mm×3mm×0.2mmの短冊状
に成形し、動的粘弾性測定装置((株)オリエンテック
製、「レオバイブロン」)を用いて、試料に0.05%
の負荷歪みを与えて、貯蔵弾性率、および損失正接の測
定を行った。周波数は1〜10Hzとし、温度範囲は、
−100〜100℃とした(3℃/minの昇温速
度)。この測定により、貯蔵弾性率の温度依存性曲線、
および、損失正接の温度依存性曲線を得た。
【0089】得られた貯蔵弾性率の温度依存性曲線か
ら、25℃(常温)、0℃、および−20℃の各温度に
おける貯蔵弾性率を求めた。これとは別に、強制振動の
周波数を1Hzとし、その他は上記と同様にして得た貯
蔵弾性率の温度依存性曲線から、80℃における貯蔵弾
性率を求め、平衡弾性率とした。
【0090】また、得られた損失正接の温度依存性曲線
から、25℃(常温)、0℃、および−20℃の各温度
における損失正接を求めた。
【0091】ガラス転移温度は、損失正接(tanδ)の1
Hzにおけるピーク位置での温度とした。
【0092】動摩擦係数の測定 厚さ100μmとし、アクリル板で覆って紫外線を照射
した以外は、上記の動的粘弾性測定用の試料と同様にし
て試料を得た。測定には、表面性測定装置(新東科学
(株)製、ヘイドン・トライポギア タイプ:14D
R)を使用した。得られた試料表面にボール圧子で垂直
荷重を加え(100gの点圧)、ボール圧子を300m
m/minの速度で試料表面を滑らせて動摩擦係数を測定
した。この測定を5回行い、その平均値を動摩擦係数の
値とした。なお、測定荷重を垂直荷重で除したものを動
摩擦係数とした。
【0093】圧縮弾性率の測定 超微小硬度計(独国フィッシャー社製、H-100V)
を用いたユニバーサル硬さ試験を応用することにより、
圧縮弾性率を算出した。すなわち、圧子による荷重を所
定の値になるまで徐々に増加させ、その後、徐々に減少
させることにより、侵入深さの荷重依存性曲線を得、そ
の測定結果を解析することにより圧縮弾性率を算出し
た。圧子として、直径が0.4mmのタングステンカー
バイト(WC)製のボール圧子を使用した。
【0094】侵入深さの荷重依存性曲線は、典型的に
は、図2に示すような様相を示す。まず、荷重が0(点
a)から荷重fを徐々に増加させると変形が起き、徐々
に圧子の侵人深さが増加する。ある荷重値で荷重の増加
を停止させると、塑性変形による侵入が停止し(点
b)、その後、荷重値をそのまま維持すると、その間、
クリープ変形により侵入深さの増加が続き、荷重値の維
持を止める点cに至る。その後、荷重を徐々に減少させ
ると、弾性変形によって、点dに向かって侵入深さが減
少する。
【0095】上記において、図2中の点bにおける荷重
値である最大荷重値Fは、20mNに設定した。その理
由は以下のとおりである。実際のプロジェクションスク
リーンにおけるフレネルレンズシートとレンチキュラー
レンズシートとの接触圧の実測が困難である。しかしな
がら、スクリーンを構成するレンズの変形が、条件の厳
しいレンズシートの外周部で10μm程度であれば、レ
ンズの性能上、許容できる。しかし、測定の煩雑さ、形
状による断面形状の違いによるのデータのばらつきか
ら、形状が比較的平面に近い中心付近(0〜100mm)に
おいて測定を行った方が良いと言える。したがって、従
来用いられているレンズシートが10μm変形するのに
必要な荷重が、ほぼ20mNであることから、最大荷重
値を20mNとしたものである。また、クリーブ変形を
行なわせる時間は、適宜60秒間とした。
【0096】侵入深さの荷重依存性曲線を求める手順を
以下に示す。 (1)圧縮のための荷重値を0から20mNになるま
で、0.1秒毎に100ステップで増加させる。 (2)20mNになった荷重値を60秒間維持し、クリ
ープ変形を起こさせる。 (3)荷重値が0.4mN(試験機最低荷重)になるま
で、0.1秒毎に40ステップで減少させる。 (4)荷重値が0.4mNのまま60秒間維持し、侵入
深さを回復させる。 (5)以上の(1)〜(4)の操作を三回繰り返す。
【0097】なお、ボール圧子を作用させる部位として
は、図3に示すように、フレネルレンズを構成する個々
の細分化されたレンズ面、例えば、図3中、2c、2
c’、および2c"で示すような部分の、中央部付近で
あることが好ましい。レンズ面の隣接する凹部同士の間
隔をピッチPとすれば、P/2に相当する位置の付近で
ある。その他のレンズ形状の場合にも、レンズを形成す
る個々のレンズ面の中央付近にボール圧子を作用させる
ことが好ましい。
【0098】圧縮弾性率(E)は、下記の式により求め
た。 E=1/(2(hr(2R−hr))1/2×H×(△
H/△f)−(1−n)/e) ここで、hrは、荷重fが最大値Fであるときの荷重減
少区域の、侵入深さの荷重依存性曲線の接線と侵入深さ
軸(横軸)との交点の侵入深さ(単位:mm)である。
Rは、ボール圧子の半径(2R=0.4mm)である。
Hは、侵入深さhの最大値(単位:mm)である。△H
/△fは、荷重fが最大値Fであるときの荷重減少区域
の、荷重へ侵入深さ曲線の傾きの逆数である。nは、ボ
ール圧子の素材(WC)のポアソン比(n=0.22)
である。eはボール圧子の素材(WC)の弾性率(e=
5.3×10N/mm)である。
【0099】前記で説明したように、荷重の増減等を
(1)〜(4)の順で3回繰り返して、1回ごとに侵入
深さの荷重依存性曲線を求め、その曲線の各々から圧縮
弾性率(E)(単位:Mpa)をそれぞれ求め、それら
の平均値を圧縮弾性率とした。
【0100】最大変形量および残留圧縮量 上記の圧縮弾性率の測定に際し、図2に示す点cにおけ
る変形量を最大変形量を定義する。
【0101】また、点eにおける変形量を、残留変形量
と定義する。
【0102】復元速度 復元速度は、図2の点c、すなわち最大変形時から2秒
経過後(試験開始時から72秒経過後)の変位量をΔh
(μm)、復元時間Δt(秒)とした場合に、 V=Δh/Δt で定義されるものである。
【0103】クリープ変形率 クリープ変形率(C)は、下記の式を用いて求めた。 C=(h2−h1)・100/h1 ここで、h1は一定試験荷重(ここでは20mN)に達
したとき(図2において点b)の侵入深さ、h2はその
試験荷重を保持して所定時間(60秒)経過した後(図
2において点c)の侵入深さ、をそれぞれ示す(単位は
mm)。
【0104】弾性変形率 図5は、侵入深さの荷重依存性曲線を示したグラフであ
る。弾性変形率は、全負荷エネルギーに対する弾性変形
エネルギーの割合であり、図5の侵入深さの荷重依存性
曲線から求めることができる。図5において、 A:初期状態 B:最大荷重負荷時、最大変形時 B-C:クリーブ変形量 D:除荷重後(最低荷重まで) D-E:最低荷重時のクリーブ変形量 E-A:残留変形量 hmax-E:回復変形量 とすると、弾性変形率(ηe)は、 ηe=Welastic/Wtotal で表すことができる。ただし、 Wtotal=∫F1(h)dh Welastic=∫F2(h)dh である。
【0105】損失面積 上記の動的粘弾性測定において、10Hzでの損失正接
の温度依存性曲線について、−20〜50℃の範囲にお
いて積分した値を、損失面積(℃)とした。
【0106】TVセット潰れ試験 上記に説明した圧縮弾性率(E)、およびクリープ変形
率(C)を測定した各樹脂組成物と同様の組成物を用い
て成形されたフレネルレンズシートを所定のレンチキュ
ラーレンズシートとを合わせ、4辺をテープで固定し、
各テレビサイズの木枠に嵌め込んでテレビ実装し、白画
面を目視により観察評価した。1時間経過後にフレネル
レンズシートがつぶれているものは「×」、つぶれが認
められないものは「○」とした。また、△〜○の範囲
で、つぶれが若干認められるものを「○」とした。
【0107】屈折率 試料としては動的粘弾性用の試料と同様にして調整した
硬化済シートを用い、その試料をアッベ屈折率計のプリ
ズム部に1−ブロモナフタレンを用いて密着させ、試料
温度を25℃としてD線(λ=589nm)での屈折率
を測定した。(その他は JIS K7105に準拠)
【0108】振動試験 フレネルレンズシートとレンチキュラーレンズシートと
を、各々のレンズ面同士を密着させ、四辺を粘着テープ
で固定し、TV画面サイズの木枠にはめ込んだものを、
温度が一定に保たれた環境試験室内に設置した振動試験
機((株)アカシ製、振動試験機、EDS252)にセ
ットした。振動条件としては、図3に示すPSD(Po
wer Spectrum Density)波形に示
すランダム波とし、4320秒を1サイクルとして、5
000kmのトラック輸送に相当する振動試験を、25
℃の温度では10サイクル、0℃の温度では5サイク
ル、−20℃の温度では3サイクル、行なった。
【0109】このランダム波は、統計的性質を有する不
確定波で、PSD関数により性質を表現することが可能
であり、この振動試験においては、その関数を指標に試
験条件を決定している。このようなランダム波を使用し
た理由は、振動の非線形要素を排除できること、即ち、
プロジェクションスクリーンの取付け、梱包形態などに
よる非線形要素を排除して対象物の振動を一定の状況で
加振することが可能になるからである。また、振動は、
試験開始時を0とした時間軸のいずれにおいても、すべ
て異なるので、実際の輸送時の振動により近い状況を作
り出せるからである。
【0110】なお、環境温度は25℃(常温)、0℃、
および−20℃とし、試験終了後、プロジェクターによ
り、全体が白色の画面を投映した際に、擦れによる輝度
ムラが明瞭に認められるものを×、輝度ムラか認められ
るが目立たないものを△、輝度ムラが認められないもの
を○とした。
【0111】荷重積載試験 上記に説明した圧縮弾性率、およびクリープ変形率を測
定した各樹脂組成物と同様の組成物を用いて成形された
フレネルレンズシートを、所定のレンチキュラーレンズ
シートとを合わせ、4辺をテープで固定し、テレビサイ
ズの木枠に嵌め込んでテレビ実装し、レンズ間に40g
/cmの圧力をかけて10日間常温で放置した。その
後荷重を開放する。荷重開放後、TVの白画面を目視に
より観察評価した。荷重開放時から20分以内に形状が
復元して潰れが見えなくなったものを「○」、1〜6時
間以内に復元して潰れが見えなくなったものを「△」、
6時間以上経過して潰れが見えなくなったもの、および
全く復元しないものについては「×」とした。
【0112】上記の評価結果における、樹脂組成物A1
〜A18、およびB1〜B27のガラス転移温度(T
g)と平衡弾性率(CLD)のデータをプロットとした
グラフを図6に示す。また、各樹脂組成物の弾性変形率
(We)と圧縮弾性率(E)のデータをプロットとした
グラフを図7に示す。
【0113】さらに、各樹脂組成物の圧縮弾性率(E)
とクリープ変形率(C)のデータをプロットとしたグラ
フを図8に示す。
【0114】上記の評価結果及び各グラフを見て判るよ
うに、樹脂A1〜A5において、−20℃における損失
正接(tanδ)が0.02未満であり、低温環境下で
光学素子面どうしが接触した状態で輸送された場合、擦
れ傷が付きやすい結果となっている。(振動試験)
【0115】また、樹脂A2とA3を比較すると、樹脂
A2の−20℃の貯蔵弾性率が2.96×1010dy
ne/cm以下であるのに対し、樹脂A3の−20℃
の貯蔵弾性率は2.96×1010dyne/cm
越えた大きい値であるため、低温環境下で光学素子面ど
うしが接触した状態で輸送された場合、擦れ傷が付きや
すい結果となっている。(振動試験)
【0116】樹脂A7は、弾性変形率(We)と圧縮弾
性率(E)の関係が、We≦−0.0189E+34.
2であり、請求の範囲の第2項を満足せず、レンズ面同
士の圧縮によるつぶれに対し、復元性に欠けたものであ
る。
【0117】また、樹脂A8は、圧縮弾性率(E)とク
リープ変形率(C)の関係が、請求の範囲の請求項6に
規定した範囲から外れ、レンズ面同士の圧縮によるつぶ
れに対し、クリープ性能が劣るためにつぶれが発生して
しまう。
【0118】樹脂A9、A15、A16は、動摩擦係数
が0.07〜0.15の範囲内になく、大きな数値にな
っており、−20℃付近での輸送の際に発生する擦り傷
が発生しやすくなっている。
【0119】また、樹脂A12、A13、A14、A1
7は、TVセット潰れ試験、荷重積載試験、及び各温度
における振動試験の結果は全て良好である。
【0120】樹脂A18は、ガラス転移温度が35℃の
上限値であるためか、レンズ面同士の圧縮によるつぶれ
に対し、復元性にやや欠けたものである。
【0121】また、樹脂A9、Al0、A11を比較し
た場合、それぞれが同等の材料物性(−20℃の貯蔵弾
一性率、弾性変形率、圧縮弾性率等)を有しているが、
動摩擦係数が大きくなると、−20℃付近での輸送の際
に発生する擦り傷が発生しやすくなっている。
【0122】さらに、樹脂A11とA18及びB4は、
動摩擦係数が0.07〜0.15の範囲内であるが、下限
値に近い低めの値であり、TVセット潰れ試験、荷重積
載試験が良くない結果でも、輸送の際に発生する擦り傷
を防止する結果となっている。
【0123】樹脂B11とB21の動摩擦係数が0.2
0以上であり、常温から低温にかけて、輸送の際に発生
する擦り傷が多く発生しやすくなっている。
【0124】樹脂B19は、最も常温から低温における
輸送の際に発生する擦り傷を防止した結果となってい
る。但し、TVセット潰れ試験、荷重積載試験では良く
ない結果である。
【0125】また、樹脂B23とB25を比較した場
合、両者とも動摩擦係数が0.15と同一であるが、貯
蔵弾性率が2.96×1010dyne/cm以下で
あるかどうかで、低温での輸送の際に発生する擦り傷に
大きな差が生じている。つまり、樹脂B23は、常温で
は潰れて接触面積が大きく、擦れ易くなっている(擦り
傷が発生しやすい)が、低温では硬くなり、接触面積が
小さくなり、擦れにくくなっている(擦り傷が発生しに
くくなっている)と考えられる。
【0126】さらに、図9は、上記の評価結果に基づい
て、各樹脂組成物の最大変形量と復元スピードとの関係
をプロットしたグラフである。また、図10は、各樹脂
組成物の残留変形量と復元スピードとの関係をプロット
したグラフである。
【0127】図9に示すように、A19〜A22の樹脂
組成物では、復元速度をV(μm/秒)と最大変形量を
DM(μm)との関係が、V≧0.178DM−0.8
52の領域内にあり、荷重積載試験や振動試験の結果も
良く、レンズ潰れやレンズ擦れが低減されていることが
わかる。
【0128】図10に示すように、A19〜A22の樹
脂組成物では、復元速度をV(μm/秒)と残留変形量
(μm)との関係が、V≧0.858R−0.644の
領域内にあり、荷重積載試験、TVセット潰れ試験、お
よび荷重積載試験の全ての試験において結果が良く、レ
ンズ潰が無く、レンズの復元性も高く、かつ耐擦れ性の
高い樹脂組成物であることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【図1】光学素子であるブロジェクションスクリーンを
示す概略図である。
【図2】侵入深さの荷重依存性曲線を説明するための概
略図である。
【図3】圧子を作用させる部位を示す概略図である。
【図4】振動試験に用いたPSD波形のグラフである。
【図5】侵入深さの荷重依存性曲線を説明するための概
略図である。
【図6】実施例および比較例に用いた樹脂組成物のガラ
ス転移温度と平衡弾性率との関係をプロットとしたグラ
フである。
【図7】実施例および比較例に用いた樹脂組成物の弾性
変形率と圧縮弾性率との関係をプロットとしたグラフで
ある。
【図8】実施例および比較例に用いた樹脂組成物の圧縮
弾性率とクリープ変形率との関係をプロットとしたグラ
フである。
【図9】実施例および比較例に用いた樹脂組成物の最大
変形量と復元スピードとの関係をプロットしたグラフで
ある。
【図10】実施例および比較例に用いた樹脂組成物の残
留変形量と復元スピードとの関係をプロットしたグラフ
である。
【符号の説明】
1 プロジェクションスクリーン 2 フレネルレンズシート 3 レンチキュラーレンズシート

Claims (13)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】光学素子を構成するための樹脂組成物にお
    いて、ガラス転移温度が5〜36℃であり、平衡弾性率
    が0.859×10〜3.06×10dyne/c
    である、光学素子用樹脂組成物。
  2. 【請求項2】弾性変形率をWe(%)、圧縮弾性率をE
    (Mpa)と表した場合に、We>−0.0189E+
    34.2の関係を満足する、請求項1に記載の光学素子
    用樹脂組成物。
  3. 【請求項3】復元速度をV(μm/秒)、最大変形量を
    DM(μm)と表した場合に、V≧0.178DM−
    0.852の関係を満足する、請求項1に記載の光学素
    子用樹脂組成物。
  4. 【請求項4】前記の関係が、V≧0.112DM−0.
    236である、請求項3に記載の光学素子用樹脂組成
    物。
  5. 【請求項5】復元速度をV(μm/秒)、残留変形量
    (μm)とした場合に、V≧0.858R−0.644
    の関係を満足する、請求項1〜4のいずれか1項に記載
    の光学素子用樹脂組成物。
  6. 【請求項6】クリープ変形率をC(%)、圧縮弾性率を
    E(Mpa)と表した場合に、(−0.026E+3)
    <C<(−0.02E+63)の関係を満足する、請求
    項1から5のいずれか1項に記載の光学素子用樹脂組成
    物。
  7. 【請求項7】−20℃における貯蔵弾性率が、2.96
    ×1010dyne/cm以下であり、かつ、−20
    ℃における損失正接が、0.02以上である、請求項6
    のいずれか1項に記載の光学素子用樹脂組成物。
  8. 【請求項8】損失正接の温度依存性曲線における−20
    〜50℃の範囲の損失面積が、20℃以上である、請求
    項7に記載の光学素子用樹脂組成物。
  9. 【請求項9】常温における動摩擦係数が、0.07〜
    0.15である、請求項1〜8のいずれか1項に記載の
    光学素子用樹脂組成物。
  10. 【請求項10】請求項1〜請求項9のいずれか1項に記
    載の光学素子用樹脂組成物からなる、光学素子。
  11. 【請求項11】前記光学素子が、フレネルレンズシート
    である、請求項10に記載の光学素子。
  12. 【請求項12】屈折率が1.52以上である、請求項1
    1に記載の光学素子。
  13. 【請求項13】請求項10〜12のいずれか1項に記載
    の光学素子と、レンチキュラーレンズとから構成され
    る、プロジェクションスクリーン。
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