JP2003083892A - 化学物質センサおよび化学物質の検出方法 - Google Patents

化学物質センサおよび化学物質の検出方法

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JP2003083892A JP2001274231A JP2001274231A JP2003083892A JP 2003083892 A JP2003083892 A JP 2003083892A JP 2001274231 A JP2001274231 A JP 2001274231A JP 2001274231 A JP2001274231 A JP 2001274231A JP 2003083892 A JP2003083892 A JP 2003083892A
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Sanyo Electric Co Ltd
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Abstract

(57)【要約】 【課題】 所定の化学物質を高感度、迅速かつ低コスト
で検出することが可能な化学物質センサおよび化学物質
の検出方法を提供することである。 【解決手段】 反応溶液3は、予め蛍光性ニオイ物質が
結合したウシ由来のニオイ結合タンパク質を含む。ニオ
イ物質を含む外気が外気導入部4により反応溶液3に導
入される。ニオイ物質が反応溶液3中のニオイ結合タン
パク質と結合すると、蛍光性ニオイ物質が解離する。そ
れにより、蛍光性ニオイ物質からの蛍光強度が瞬時に減
少する。予めニオイ結合タンパク質に結合した蛍光性ニ
オイ物質からの蛍光強度の変化に基づいてニオイ物質の
有無を判定することができる。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、試料に含まれる化
学物質を検出する化学物質センサおよび化学物質の検出
方法に関する。
【0002】
【従来の技術】商品、例えば食品等の品質の管理試験の
1つとして、ニオイ物質の検出が行われている。なお、
ここでは、ニオイの原因となる化学物質を総称してニオ
イ物質と呼ぶ。このニオイ物質の検出は、例えば、製造
または保存している食品等が劣化した際に生じるニオイ
の検出や、ペットボトルなどの容器のニオイなどが内部
の食品に移行していることを検出する場合などに用いら
れている。また、地雷の火薬のニオイを地表から検出す
ることにより、地雷の存在場所などを検出することが試
みられている。
【0003】こうしたニオイ物質の検出は、従来では、
例えば高分子基板や膜などを用い、この基板または膜に
ニオイ物質が付着した際の基板の導電性の変化や膜電位
の変化を測定することにより行っていた。
【0004】しかしながら、こうした方法では、ニオイ
物質の結合とニオイ物質以外の物質の結合とを区別する
ことが困難であるという問題がある。このため、こうし
た問題を回避するために、抗体を用いる方法が開発され
ている(「J.E.Roederer andG.J.Bastiaans, Anal. Che
m.,55(1983)2333. 」 「K.A.Davis and T.R.,Leary,An
al.Chem.,61(1989)1227. 」 「H.Muramatsu et al.,An
al.Chem.,59(1987)2760. 」 「M.Thompson et al.,IEE
ETrans.Ultrasonics,Ferroelectrics,Frequency Contro
l, UFFC-34(1987)127. 」 「M.Thompson et al.,Anal.
Chem.,58(1986)1206.」 「F.Caruso et al.,Colloid I
nterface Sci.,178(1996)104.」)。すなわち、抗体を
高分子基板や膜に固定して、この抗体に特異的なニオイ
物質のみを結合させることとしている。そして、この抗
体に特異的なニオイ物質が結合すると、高分子基板の誘
電率が変化し、または、膜電位が変化するため、この変
化に基づいて特定のニオイ物質の検出が行われ、非特異
的な物質の結合を排除することが可能となる。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】上記のような高分子基
板や膜などを用いた従来のニオイセンサはその感度が低
いもの(〜ppm)が多い。また感度が高くても(〜p
pb)、ニオイ吸着のために必要な基板表面修飾にバリ
エーションが乏しく(高々十数種類)、対応できるニオ
イが制限されていた。
【0006】一方、ニオイ物質に対する抗体を用いた検
出法では、抗体が高価であるため、検出を行うのにコス
トがかかる。また、抗体を用いた検出法では、反応時間
が長く、検出のために長時間を要する。さらに、このよ
うな抗体を用いた検出法においては、抗体とニオイ物質
との結合における特異性が非常に高いため、通常非常に
多数の物質から構成されるニオイを検出するにはその各
々のニオイ物質に対応した抗体を用意する必要がある。
このため、抗体を用いて複数の種類のニオイ物質を検出
する方法は、抗体作製に要する費用、抗体の熱的不安定
性を考慮すると現実的ではない。
【0007】本発明の目的は、所定の化学物質を迅速、
高感度かつ低コストで検出することが可能な化学物質セ
ンサおよび化学物質の検出方法を提供することである。
【0008】
【課題を解決するための手段および発明の効果】種々の
動物は嗅覚器官を有し、この嗅覚器官においてニオイを
検知して識別している。近年では、この嗅覚器官のメカ
ニズムの分子生物学的な解析が進められている。この解
析において、ニオイ物質は、嗅覚粘膜の上皮細胞等に存
在する特異的な受容体と結合し、この受容体を介して嗅
覚細胞内にシグナルを伝達してニオイ物質を検知し識別
を行っていることが明らかになっている。
【0009】また、この一連のニオイ物質の検知、認識
のメカニズムの詳細な解明の中で、ニオイ物質と結合す
るタンパク(以下、ニオイ結合タンパク質と呼ぶ)が同
定・単離されている(「J.Pevsner et al.,Science,241
(1988)336.」)。なお、ニオイ結合タンパク質は、ニオ
イ物質に限らず、ニオイを有さない特定の化学物質と結
合することも可能である。
【0010】このニオイ結合タンパク質の生物学的作用
としては、ニオイ物質と結合して、このニオイ物質を粘
膜細胞上の受容体まで運び、受容体にニオイ物質を受け
渡す役割を有していると推測されている。また、このニ
オイ結合タンパク質は、生化学的にも解析され、一定の
ニオイ物質に対する結合力をピークとして、このニオイ
物質と類似の物質に対する広い結合力を有していること
が明らかにされている(「J.Pevsner et al.,J.Biolog.
Chem.,265(1990)6118.」 「M.A.Bianchet etal.,Natur
e Struc.Biolog.,3(1996)934.」 「M.Tegoni et al.,N
ature Struc.Biolog.,3(1996)863 」)。特に、こうし
たニオイ結合タンパク質は、遺伝子がクローニングされ
ているものも存在し(上記J.Pevsner ら)大量生産を行
うことも可能である。
【0011】本発明者はこのようなニオイ結合タンパク
質に着目し、このニオイ結合タンパク質を用いて化学物
質の検出方法を鋭意検討した。その結果、ニオイ結合タ
ンパク質を利用することにより、一定の幅のあるニオイ
物質を高感度かつ迅速に検出しうることが可能であるこ
とを見出した。そして以下の本願発明を案出した。
【0012】本発明に係る化学物質センサは、予めニオ
イ結合タンパク質に結合した蛍光性物質からの蛍光強度
の変化に基づいて所定の化学物質を検出するものであ
る。
【0013】蛍光性物質が結合したニオイ結合タンパク
質に所定の化学物質が結合すると、蛍光性物質が解離す
る。蛍光性物質からの蛍光は、ニオイ結合タンパク質に
結合しているときのみ、所定の波長で極大となる。その
ため、蛍光性物質がニオイ結合タンパク質から解離する
と、所定の波長の蛍光強度が瞬時に減少する。したがっ
て、予めニオイ結合タンパク質に結合した蛍光性物質か
らの蛍光強度の変化に基づいて所定の化学物質を高感
度、迅速かつ低コストで検出することができる。また、
異なる結合特性を有する複数種類の化学物質を検出する
こともできる。
【0014】ニオイ結合タンパク質は二量体構造を有す
ることが好ましい。それにより、所定の化学物質が、予
めニオイ結合タンパク質に結合した蛍光性物質と容易に
置換する。
【0015】本発明に係る化学物質センサは、予め蛍光
性物質が結合しかつ二量体構造を有するニオイ結合タン
パク質と、ニオイ結合タンパク質に励起光を照射する光
源と、ニオイ結合タンパク質に結合した蛍光性物質から
得られる蛍光を検出する蛍光検出部と、蛍光検出部によ
り検出された蛍光の強度変化に基づいて所定の化学物質
の有無を判定する判定手段とを備えたものである。
【0016】本発明に係る化学物質センサにおいては、
二量体構造を有するニオイ結合タンパク質に予め蛍光性
物質が結合されている。光源によりニオイ結合タンパク
質に励起光が照射され、ニオイ結合タンパク質に結合し
た蛍光性物質から得られる蛍光が蛍光検出部により検出
される。蛍光検出部により検出された蛍光の強度変化に
基づいて判定手段により所定の化学物質の有無が判定さ
れる。
【0017】蛍光性物質が結合したニオイ結合タンパク
質に所定の化学物質が結合すると、蛍光性物質が解離す
る。蛍光性物質からの蛍光は、ニオイ結合タンパク質に
結合しているときのみ、所定の波長で極大となる。その
ため、蛍光性物質がニオイ結合タンパク質から解離する
と、所定の波長の蛍光強度が瞬時に減少する。
【0018】したがって、予めニオイ結合タンパク質に
結合した蛍光性物質からの蛍光強度の変化に基づいて所
定の化学物質を高感度でかつ迅速に検出することができ
る。また、このような化学物質センサを用いた方法は、
抗体を用いた従来の方法に比べて低コストで実施するこ
とが可能である。
【0019】また、ニオイ結合タンパク質は、特定の化
学物質に対する結合力をピークとしてこの化学物質と類
似の化学物質に対しても広く結合力を有している。この
ため、このようなニオイ結合タンパク質を用いる上記の
化学物質センサによれば、幅広く化学物質の検出を行う
ことが可能となる。
【0020】光源から照射された励起光のうち特定波長
の光を選択的に透過させる第1の波長選択部と、ニオイ
結合タンパク質に結合した蛍光性物質から得られる蛍光
のうち特定波長の光を選択的に透過させる第2の波長選
択部とをさらに備えてもよい。
【0021】この場合、光源から照射された励起光のう
ち特定波長の光のみが第1の波長選択部を選択的に透過
し、ニオイ結合タンパク質に照射される。また、予めニ
オイ結合タンパク質に結合した蛍光性物質から得られる
蛍光のうち特定波長の光のみが第2の波長選択部を選択
的に透過し、蛍光検出部により検出される。
【0022】ニオイ結合タンパク質がウシ由来のニオイ
結合タンパク質であってもよい。このようなウシ由来の
ニオイ結合タンパク質は、テルペノイド、エステル類、
アルデヒド類、芳香族等と幅広く親和性を有する。した
がって、このようなウシ由来のニオイ結合タンパク質を
上記の化学物質センサに用いることにより、上記に挙げ
たような幅広い化学物質を高感度で検知することが可能
となる。
【0023】蛍光性物質はアミノアントラセンであって
もよい。アミノアントラセンがニオイ結合タンパク質か
ら解離した場合には、特定波長の蛍光強度が瞬時に減少
する。したがって、アミノアントラセンからの特定波長
の蛍光強度の減少に基づいて所定の化学物質を迅速に検
出することができる。
【0024】本発明に係る化学物質の検出方法は、予め
ニオイ結合タンパク質に結合した蛍光性物質からの蛍光
強度の変化に基づいて化学物質を検出するものである。
【0025】蛍光性物質が結合したニオイ結合タンパク
質に所定の化学物質が結合すると、蛍光性物質が解離す
る。蛍光性物質からの蛍光は、ニオイ結合タンパク質に
結合しているときのみ、所定の波長で極大となる。その
ため、蛍光性物質がニオイ結合タンパク質から解離する
と、所定の波長の蛍光強度が瞬時に減少する。したがっ
て、予めニオイ結合タンパク質に結合した蛍光性物質か
らの蛍光強度の変化に基づいて所定の化学物質を高感
度、迅速かつ低コストで検出することができる。また、
異なる結合特性を有する複数種類の化学物質を検出する
こともできる。
【0026】ニオイ結合タンパク質が二量体構造を有す
ることが好ましい。それにより、所定の化学物質が、予
めニオイ結合タンパク質に結合した蛍光性物質と容易に
置換する。
【0027】本発明に係る化学物質の検出方法は、二量
体構造を有するニオイ結合タンパク質に予め蛍光性物質
を結合させる工程と、ニオイ結合タンパク質に励起光を
照射する工程と、ニオイ結合タンパク質に結合した蛍光
性物質から得られる蛍光を検出する工程と、蛍光検出部
により検出された蛍光の強度変化に基づいて所定の化学
物質の有無を判定する工程とを備えたものである。
【0028】本発明に係る化学物質の検出方法において
は、二量体構造を有するニオイ結合タンパク質に予め蛍
光性物質が結合されている。ニオイ結合タンパク質に励
起光が照射され、ニオイ結合タンパク質に結合した蛍光
性物質から得られる蛍光が検出される。検出された蛍光
の強度変化に基づいて所定の化学物質の有無が判定され
る。
【0029】蛍光性物質が結合したニオイ結合タンパク
質に所定の化学物質が結合すると、蛍光性物質が解離す
る。蛍光性物質からの蛍光は、ニオイ結合タンパク質に
結合しているときのみ、所定の波長で極大となる。その
ため、蛍光性物質がニオイ結合タンパク質から解離する
と、所定の波長の蛍光強度が瞬時に減少する。
【0030】したがって、予めニオイ結合タンパク質に
結合した蛍光性物質からの蛍光強度の変化に基づいて所
定の化学物質を高感度でかつ迅速に検出することができ
る。また、このような化学物質の検出方法は、抗体を用
いた従来の方法に比べて低コストで実施することが可能
である。
【0031】また、ニオイ結合タンパク質は、特定の化
学物質に対する結合力をピークとしてこの化学物質と類
似の化学物質に対しても広く結合力を有している。この
ため、このようなニオイ結合タンパク質を用いる上記の
化学物質の検出方法によれば、幅広く化学物質の検出を
行うことが可能となる。
【0032】ニオイ結合タンパク質がウシ由来のニオイ
結合タンパク質であってもよい。このようなウシ由来の
ニオイ結合タンパク質は、テルペノイド、エステル類、
アルデヒド類、芳香族等と幅広く親和性を有する。した
がって、このようなウシ由来のニオイ結合タンパク質を
上記の化学物質の検出方法に用いることにより、上記に
挙げたような幅広い化学物質を高感度で検知することが
可能となる。
【0033】蛍光性物質はアミノアントラセンであって
もよい。アミノアントラセンがニオイ結合タンパク質か
ら解離した場合には、特定波長の蛍光強度が瞬時に減少
する。したがって、アミノアントラセンからの特定波長
の蛍光強度の減少に基づいて所定の化学物質を迅速に検
出することができる。
【0034】
【発明の実施の形態】以下においては、本発明に係る化
学物質の検出方法をニオイ物質の検出に適用する場合に
ついて説明する。
【0035】図1は本発明の一実施の形態におけるニオ
イ物質の検出方法の例を示す模式的な構成図である。図
1に示す化学物質センサ100は、反応溶液3を収納す
る複数の孔部2を備えたマイクロプレート1、外気導入
部4、光源5、第1の波長選択部6、第2の波長選択部
7、蛍光検出部8およびデータ処理部9から構成され
る。
【0036】化学物質センサ100において、マイクロ
プレート1の各孔部2には反応溶液3が収納されてい
る。反応溶液3は、ウシ由来のニオイ結合タンパク質
(OBP;odorant binding protein,J.Pevsner et. a
l.,J.Biolog.Chem.265(1990)6118)および蛍光性ニオイ
物質をリン酸緩衝液(PBS;phosphate buffered sal
ine )に溶解させて調製したものである。以下において
は、このウシ由来のニオイ結合タンパク質をOBPbと
呼ぶ。また、蛍光性ニオイ物質は、例えばアミノアント
ラセン(AMA)である。蛍光性ニオイ物質は、OBP
bに結合している。
【0037】OBPbは、種々のテルペノイド、シクロ
ペンタンおよびジャスミン誘導体、エステル類、ムスク
類、アルデヒド類、芳香族類に対して親和性を有してお
り、これらの物質と結合し得る。したがって、OBPb
はこれらの種々のニオイ物質を特異的に検知する際に好
適に利用することが可能である。
【0038】この場合においては、異なるニオイ物質に
反応するOBPbをそれぞれ含む反応溶液3が複数の孔
部2にそれぞれ収納されている。すなわち、この場合に
おいては、複数種類のOBPbが用いられているととも
に、それぞれ異なる種類のOBPbを含む複数種類の反
応溶液3が用意され、孔部2に収納されている。
【0039】なお、上記のようなOBPbの性質の違い
は、OBPbを構成するアミノ酸、特に結合部位のアミ
ノ酸の置換により生じる。ここで用いる複数種類のOB
Pbは、このようなアミノ酸の置換により、種々のニオ
イ物質に対する応答が少しずつ異なっている。
【0040】上記のようなOBPbは、天然に単離され
たタンパク質である必要はなく、例えば、OBPbを構
成するDNAが単離またはクローニング等されている場
合にはこの遺伝子をインビトロで翻訳させたタンパク質
を用いることも可能である。
【0041】さらに、OBPbをコードした遺伝子の塩
基配列を改変し、ニオイ物質に対する親和性を変化させ
たものを用いることも可能である。この遺伝子の改変方
法については既知の点突然変異導入方法、ランダムミュ
ータジェネシスPCR、クンケル(kunkel)法などを好
適に利用することが可能である。
【0042】上記の化学物質センサ100を用いてニオ
イ物質を検出する際には、まず、光源5から光を出射さ
せる。出射された光のうち特定波長の光のみが第1の波
長選択部6を透過する。なお、第1の波長選択部6は、
例えばモノクロームメータまたは波長選択フィルタから
なる。この場合においては、波長295nmの光が選択
的に第1の波長選択部6を透過する。
【0043】このようにして選択された波長295nm
の光は、マイクロプレート1の各孔部2に収納されたO
BPbを含む各反応溶液3に照射される。この照射によ
り、各反応溶液3において、OBPbに結合した蛍光性
ニオイ物質が励起され、さらに励起された蛍光性ニオイ
物質から蛍光が生じる。
【0044】反応溶液3中のOBPbに結合している蛍
光性ニオイ物質から生じた蛍光のうち特定波長の蛍光の
みが第2の波長選択部7を透過する。なお、第2の波長
選択部7は、例えばモノクロームメータまたは波長選択
フィルタからなる。蛍光性ニオイ物質としてAMAを用
いた場合には、波長481nm付近の蛍光を選択的に第
2の波長選択部7を透過させる。このようにして選択さ
れた波長481nm付近の蛍光が蛍光検出部8により検
出される。さらに、検出された蛍光の強度のデータがデ
ータ処理部9により処理される。
【0045】以上のようにして、各反応溶液3に含まれ
る各OBPbに結合する蛍光性ニオイ物質の蛍光強度を
測定する。
【0046】次に、各反応溶液3に、複数のニオイ物質
を含む外気を外気導入部4を通じてそれぞれ導入する。
【0047】外気導入部4は、例えばファンとチューブ
により構成され、ファンにより送風された外気がチュー
ブを通して各孔部2に送られる構成であってもよい。な
お、外気導入部4を設けず、マイクロプレート1を直接
外気にさらすことにより反応溶液3に外気を導入しても
よい。この場合においては、孔部2が外気導入部4とし
て作用する。
【0048】上記のようにして各反応溶液3に外気を導
入することにより、複数のニオイ物質を含む外気とOB
Pbを含む各反応溶液3とが接触し、外気中に含まれる
ニオイ物質の各々が対応する反応溶液3のOBPbに結
合する。
【0049】OBPbには予め蛍光性ニオイ物質が結合
している。蛍光性ニオイ物質が結合しているOBPbに
別のニオイ物質が結合すると、OBPbから蛍光性ニオ
イ物質が解離する。蛍光性ニオイ物質がOBPbに結合
しているときのみ、蛍光性ニオイ物質からの蛍光強度が
特定の波長で極大となる。蛍光性ニオイ物質がAMAで
ある場合には、AMAからの蛍光強度が波長481nm
付近で極大となる。そのため、ニオイ物質がOBPbと
結合することにより蛍光性ニオイ物質が解離すると、特
定の波長の蛍光強度が瞬時に減少する。
【0050】したがって、データ処理部9により特定の
波長の蛍光強度の減少を検出することにより、試料中に
おけるニオイ物質の有無を瞬時に判定することができ
る。
【0051】すなわち、予め蛍光性ニオイ物質が結合し
たOBPbを含む反応溶液3における蛍光強度の変化か
ら各種のニオイ物質の有無を判定することができる。例
えば、試料の導入により反応溶液3中のOBPbに結合
しているAMAの蛍光強度が減少した場合には、この反
応溶液3中に含まれるOBPbに対応するニオイ物質が
検出されたと判定することができる。一方、試料の導入
により反応溶液3中のOBPbに結合しているAMAの
蛍光強度が減少しない場合には、この反応溶液3中に含
まれるOBPbに対応するニオイ物質は非検出であると
判定することができる。
【0052】上記のようなOBPbを用いた蛍光測定に
よるニオイ物質の検出方法においては、抗体を用いた従
来の方法と同等以上の高い測定感度を実現することが可
能である。このような検出方法は高価な抗体を用いる必
要がないため、低コストで実施することが可能である。
【0053】また、蛍光性ニオイ物質が結合したOBP
bに別のニオイ物質が結合すると、蛍光性ニオイ物質が
解離し、蛍光性ニオイ物質からの蛍光強度が瞬時に減少
する。したがって、ニオイ物質を瞬時に検出することが
できる。
【0054】さらに、OBPbは、特定のニオイ物質に
対する結合力をピークとしてこのニオイ物質と類似のニ
オイ物質に対しても広く結合力を有している。このた
め、OBPbを用いた上記の検出方法によれば、幅広く
ニオイ物質の検出を行うことが可能となる。
【0055】特に、OBPbを用いた検出方法によれ
ば、新たに検出の必要性が発生した物質に対しても、O
BPbのアミノ酸置換および大腸菌内での発現を行うこ
とにより容易に対応でき、当該物質の検出を行うことが
できる。このため、抗体を用いた従来の方法に比べて容
易に検出を行うことが可能となる。
【0056】また、前述のように、OBPbにおいては
アミノ酸の置換等によりニオイ物質に対する結合特性を
容易に変化させることが可能である。このことから、上
記の実施の形態のように、OBPbのニオイ物質に対す
る結合特性を変化させるとともにこの結合特性をそれぞ
れ変化させた複数種類のOBPbを用いてニオイ物質の
検出を行うことにより、ニオイ物質の識別を行うことが
可能となる。また、ニオイ物質の特定を行うことも可能
となる。
【0057】なお、上記の実施の形態においてはウシ由
来のニオイ結合タンパク質(OBPb)を用いる場合に
ついて説明したが、二量体構造を有しかつ蛍光性ニオイ
物質と別のニオイ物質との置換により蛍光性ニオイ物質
からの蛍光強度が変化する場合には、ウシ由来以外のニ
オイ結合タンパク質を用いることも可能である。
【0058】また、上記においては、OBPbを用いて
ニオイ物質を検出する場合について説明したが、OBP
bを用いた上記の方法によれば、ニオイ物質以外の化学
物質、例えば環境ホルモン等を検出することも可能であ
る。
【0059】なお、上記の検出方法により検出される化
学物質の例としては、ジメチルオクタノール(DM
O)、シトロネラール、シトロネロール、ゲラニオー
ル、ビスフェノールA(BPA;bis-phenol A)、ジ
ブチルフタレート、ジエチルヘキシルフタレート、オク
チルフェノール、ヘキシルフェノール、ノニルフェノー
ル等が上げられる。
【0060】
【実施例】本実施例においては、予め蛍光性ニオイ物質
を結合させたウシ由来のニオイ結合タンパク質(OBP
b)に別のニオイ物質が結合した場合の蛍光性ニオイ物
質からの蛍光強度の変化を調べた。
【0061】ここでは、予めOBPbに結合させる蛍光
性ニオイ物質としてアミノアントラセン(AMA)を用
いた。また、AMAの結合したOBPbに添加するニオ
イ物質としてジメチルオクタノール(DMO)およびゲ
ラニオールを用いた。
【0062】まず、濃度10μMのOBPb溶液を調製
した。また、AMA、DMOおよびゲラニオールをエタ
ノールにそれぞれ溶解させ、濃度10-2MのAMA溶
液、DMO溶液およびゲラニオール溶液を調製した。
【0063】OBPb溶液100μlにAMA溶液0.
1μlを添加し、25°Cで1時間放置してOBPbへ
AMAを結合させた。この溶液にリン酸緩衝液(PB
S)を添加して4mlとし(OBPbの最終濃度:25
0nM)、エタノール溶液、DMO溶液またはゲラニオ
ール溶液4μlを添加した後、0、5、10、25、2
0、25、30、40および60分経過時に300μl
ずつ取り出してAMAの蛍光強度(励起波長:295n
m、測定波長:481nm)を測定した。ここで用いた
PBSの組成を表1に示す。
【0064】
【表1】
【0065】図2はAMAが結合したOBPbに各ニオ
イ物質を添加した場合のAMAの蛍光強度変化の測定結
果を示す図である。図2(b)は図2(a)のニオイ物
質添加直後(0分経過時)のAMAの蛍光強度と添加し
たニオイ物質との関係を示す図である。
【0066】エタノールを添加した場合には、AMAの
蛍光強度が徐々に低下し、時間の経過とともにAMAが
OBPbから解離していく様子が分かる。これに対し、
ニオイ物質であるDMOおよびゲラニオールを添加した
場合には、どちらのニオイ物質(DMOおよびゲラニオ
ール)においても、添加直後(0分)にAMAの蛍光強
度が低下し、AMAが解離することが分かる。
【0067】このように、予めAMAを結合させたOB
Pbに別のニオイ物質が結合した場合には、瞬時にAM
Aの蛍光強度が低下する。したがって、AMAの蛍光強
度の変化に基づいて所定のニオイ物質を迅速に検出する
ことができる。
【0068】(結合機構モデル)後述する実験の結果か
ら、OBPbへのニオイ物質の結合機構およびニオイ物
質の置換機構を図3のように推定した。
【0069】OBPbは、単量体(monomer )のタンパ
ク質同士が非共有結合で結ばれた(dimer )構造をとっ
ている。OBPbを構成する各タンパク質の間に形成さ
れたセントラルポケットCP界面(dimer-interface )
には、ベンゼン環を有するトリプトファンが存在してい
る。
【0070】1.ニオイ物質M1は、まずセントラルポ
ケットCPに結合する。すると、インターナルキャビテ
ィ(内部空洞)ICが開き、ニオイ物質M1の結合準備
ができる(図3(a)(1)〜(4))。
【0071】2.この状態で、インターナルキャビティ
ICにニオイ物質M1が結合すると、OBPbに対する
ニオイ物質M1の親和性が比較的高い場合(少なくとも
KD<1.3μMの場合)、すなわちインターナルキャ
ビティICとニオイ物質M1との相互作用がセントラル
ポケットCPとニオイ物質M1との相互作用よりも比較
的強い場合、セントラルポケットCPに結合していたニ
オイ物質M1は解離する(図3(a)(5)〜
(7))。ここで、KDは解離定数である。
【0072】他方、OBPbに対するニオイ物質M1の
親和性が比較的低い場合(少なくともKD>3μMの場
合)、すなわちセントラルポケットCPとニオイ物質M
1との相互作用がインターナルキャビティICとニオイ
物質M1との相互作用よりも強い場合、ニオイ物質M1
はインターナルキャビティICから離れ、結果的にニオ
イ物質M1がセントラルポケットCPに溜まったままと
なる(図3(a)(1)〜(4))。
【0073】3.ニオイ物質M1が結合した後の他のニ
オイ物質M2との置換は次の2通りがある。
【0074】3−1 OBPbに対する他のニオイ物質
M2の親和性が比較的低い場合(少なくともKD>3μ
M)、他のニオイ物質M2がセントラルポケットCPに
結合すると、インターナルキャビティICに結合してい
たニオイ物質M1が解離し、ニオイ物質M1,M2の置
換が成立する(図3(b)(1)〜(4))。
【0075】3−2 OBPbに対する他のニオイ物質
M2の親和性が比較的高い場合、他のニオイ物質M2は
2つのインターナルキャビティICのうち予めニオイ物
質M1が結合していないインターナルキャビティICに
結合し、予め結合していたニオイ物質M1がインターナ
ルキャビティICから解離する(図3(c)(1)〜
(4))。
【0076】(結合機構モデルの実証)セントラルポケ
ットCPが結合部位(binding site)として機能してい
るかうかを確かめるため、セントラルポケットCPを構
成するC-末端側アミノ酸を除いたOBPbを作成し
た。
【0077】図4(a)に示すOBPb-normは通常(no
rmal)の(変異を導入していない)OBPbである。図
4(b)に示すOBPb-delはPhe(フェニルアラニ
ン)149〜Glu(グルタミン酸)159までを除いた(delete
d)OBPbである。
【0078】まず、OBPb-norm およびOBP-delに
ついてOBPb溶液にニオイ物質であるジメチルオクタ
ノール(DMO)を添加した場合における添加後経過時
間と相対蛍光強度変化との関係を調べた。
【0079】PBS中のOBPbの濃度は250nMと
し、DMO溶液の濃度は10μMとした。OBPb溶液
にDMO溶液を添加後、25度でインキュベート(定温
放置)し、各時刻で一部を取り出してセントラルポケッ
トCPに存在するトリプトファンの蛍光測定(励起波
長:295nm,蛍光波長:340nm)を行った。
【0080】図5は相対蛍光強度変化の測定結果を示す
図である。図5において、横軸は添加後経過時間であ
り、縦軸は相対蛍光強度差である。相対蛍光強度差は、
時間0での蛍光強度と各時間での蛍光強度との差を時間
0での蛍光強度で割って算出した。
【0081】図5に示すように、OBPb-normでは、
蛍光強度が20分で一旦平坦になり、その後もう一段階
上昇している。このように、OBPb-normでは、蛍光
強度が経時的に上昇している。
【0082】これに対して、OBP-delでは、蛍光強度
の上昇も見られるが、最終的に蛍光強度が消失する。す
なわち、OBP-delでは、ニオイ物質の有無で差がなく
なった。
【0083】これらの結果から、ニオイ物質は、まず最
初にセントラルポケットCPに結合することが分かる。
【0084】次に、ニオイ物質であるDMOおよびゲラ
ニオール(geraniol)について、ニオイ物質の結合時の
セントラルポケットCP内のトリプトファンの蛍光スペ
クトルのピークの経時変化を調べた。
【0085】なお、ニオイ物質がセントラルポケットC
Pに結合すると、セントラルポケットCPが疎水性環境
となり、ニオイ物質がセントラルポケットCPから離れ
ると、セントラルポケットCPは親水性環境となる。
【0086】トリプトファンがOBPb内にあるときに
は、トリプトファンの蛍光スペクトルのピーク波長は3
45nmである。一般に、トリプトファンの蛍光波長は
親水性環境では長波長にシフトし、疎水性環境では短波
長にシフトする。ここでは、ニオイ物質の結合時の蛍光
スペクトルを測定し、0分でのスペクトルとの差を算出
し、そのピーク強度と経過時間との関係を調べた。
【0087】図6はOBPb-normにDMOおよびゲラ
ニオールを結合させた場合における各時刻での蛍光スペ
クトルと0分での蛍光スペクトルとの差スペクトルを示
す図である。また、図7はOBP-delにDMOおよびゲ
ラニオールを結合させた場合における各時刻での蛍光ス
ペクトルと0分での蛍光スペクトルとの差スペクトルを
示す図である。
【0088】差スペクトルは、0分での蛍光スペクトル
から各時刻での蛍光スペクトルを差し引くことにより算
出した。したがって、ある時刻での蛍光スペクトルのピ
ークが345nmより短波長にシフト(すなわち、疎水
性化)していると、差スペクトルのピークは逆に345
nmより長波長にシフトすることになる。
【0089】図6および図7において、d0−10、d
0−20、d0−40およびd0−60は、DMOにつ
いての0分での蛍光スペクトルとそれぞれ10分、20
分、40分および60分での蛍光スペクトルとの差スペ
クトルを表す。また、g0−10、g0−20、g0−
40およびg0−60は、ゲラニオールについての0分
での蛍光スペクトルとそれぞれ10分、20分、40分
および60分での蛍光スペクトルとの差スペクトルを表
す。
【0090】図8はOBPb-normおよびOBP-delに
DMOおよびゲラニオールを結合させた場合における蛍
光スペクトルの差スペクトルのピークの経時変化を示す
図である。図8において、縦軸は蛍光スペクトルの差ス
ペクトルのピーク波長であり、横軸はニオイ物質の添加
直後からの経過時間である。
【0091】図8には、DMOおよびゲラニオール添加
後0分、20分、40分および60分経過時のOBPb
-normおよびOBP-delにおける差スペクトルのピーク
の変化を示す。
【0092】OBP-delでは、ニオイ物質であるDMO
およびゲラニオールの結合反応の間中、トリプトファン
の差スペクトルのピーク波長に変化がなかった。すなわ
ち、セントラルポケットCPの環境はニオイ物質の有無
でほとんど変化がなく、ニオイ分子とセントラルポケッ
トCPとの間の疎水性相互作用が低いことが分かる。
【0093】OBP-normでは、トリプトファンの差ス
ペクトルのピーク波長が上昇したことにより、セントラ
ルポケットCP内の環境が疎水性となることが分かる。
また、この疎水性への変化は、ゲラニオールでは、結合
反応の間中維持されるのに対して、DMOでは、疎水性
が徐々に低下し、40分後には親水性に転じ、60分後
には再度疎水性になっていることが分かる。
【0094】つまり、ゲラニオールはセントラルポケッ
トCPに結合したままであり、DMOはセントラルポケ
ットCPに結合後、解離する。OBPbの二量体にはニ
オイ分子が1つ結合することから、DMOがセントラル
ポケットCPから解離する際には、インターナルキャビ
ティICに別のDMOが結合すると考えられる。
【0095】この反応は、インターナルキャビティIC
にニオイ分子が結合することにより生ずる構造変化によ
って、セントラルポケットCPのDMOがもはや結合で
きなくなり解離するというスキームで進行すると思われ
る。
【0096】さらに、一旦OBPbに結合したニオイ物
質は、別のニオイ物質が後から結合する場合、いかなる
挙動をするのかを調べた。予め結合させておくニオイ物
質として、蛍光性ニオイ物質であるアミノアントラセン
(AMA)を用い、AMA結合に添加するニオイ物質と
して、DMOおよびゲラニオールを使用した。
【0097】濃度10μMのOBPb溶液を調製した。
また、AMA、DMOおよびゲラニオールをエタノール
にそれぞれ溶解させ、濃度10-2MのAMA溶液、DM
O溶液およびゲラニオール溶液を調製した。
【0098】ニオイ物質がOBPbに結合した後の別の
ニオイ物質との置換を調べるための実験の準備段階とし
て、まず、トリプトファンおよびチロシンの蛍光スペク
トルとAMAの吸収スペクトルとの積を測定した。
【0099】図9はトリプトファンおよびチロシンの蛍
光スペクトルとAMAの蛍光スペクトルとの積の測定結
果を示す図である。図9において、縦軸はトリプトファ
ンまたはチロシンの蛍光強度とAMAの吸収率との積を
示し、横軸は波長を示す。
【0100】図9の測定結果から、AMAにはトリプト
ファンまたはチロシンからの蛍光を吸収してしまう性質
があることが分かる。このことは、AMAがトリプトフ
ァンまたはチロシンの近くに存在すると、トリプトファ
ンまたはチロシンからの蛍光強度が低下することを意味
する。
【0101】次に、AMA添加時のAMAからの蛍光お
よびトリプトファンからの蛍光の経時変化を測定した。
図10はAMA結合時のトリプトファンの蛍光強度変化
の測定結果を示す図である。トリプトファンの励起波長
は295nmであり、蛍光波長は340nmである。ま
た、図11はAMA結合時のAMAの蛍光強度変化の測
定結果を示す図である。AMAの励起波長は295nm
であり、蛍光波長は480nmである。図10におい
て、横軸は添加後経過時間であり、縦軸は相対蛍光強度
差である。その相対蛍光強度差は、AMA添加とエタノ
ールのみの添加の場合における各時間での蛍光強度を時
間0での蛍光強度で割り、両者の差として得られる。
【0102】図10の測定結果において、トリプトファ
ンの蛍光強度は、AMAの添加後に一旦減少し、その後
上昇している。また、図11の測定結果において、AM
Aの蛍光強度はAMAの添加後に増加し、一定値をとっ
た後、減少している。
【0103】これらの結果から次のことが考察される。
トリプトファンの蛍光強度の増加のタイミングとAMA
の蛍光強度の減少のタイミングとが一致している。ま
た、上記のように、トリプトファンからの蛍光はAMA
により吸収される。これらのことから、次のことが考え
られる。
【0104】AMAは一旦セントラルポケットCPに入
る。セントラルポケットCP内のトリプトファンからの
蛍光はAMAにより吸収されて減少する。同時に、トリ
プトファンからの蛍光を吸収したAMAからの蛍光は0
〜15分の間増加する。その後、AMAは、セントラル
ポケットCPから放出される。それにより、トリプトフ
ァンからの蛍光が増加し、AMAからの蛍光が減少す
る。
【0105】上記のように、OBPbでは、二量体に1
つのニオイ物質が結合することが分かっているので、ニ
オイ物質がセントラルポケットCPから放出されるとき
には、一方のインターナルキャビティICにニオイ物質
が結合しているものと考えられる。図8のセントラルポ
ケットCPの疎水性の変化で示されたゲラニオールの結
合は、インターナルキャビティICへの結合がない場合
である。
【0106】ニオイ物質がインターナルキャビティIC
まで進むか、セントラルポケットCPに留まるかは、O
BPbに対するニオイ物質の親和性で決まると考えられ
る。ゲラニオールの解離定数KDは3μM程度、DMO
の解離定数KDは0.3μM程度、AMAの解離定数は
1.3μM程度であることから、少なくともインターナ
ルキャビティICに対する結合とセントラルポケットC
Pに対する結合との境界は、1.3μM<KD<3μM
にあると考えられる。
【0107】次に、ニオイ物質がOBPbに結合した後
の別のニオイ物質との置換を調べた。
【0108】まず、OBPb溶液100μlにAMA溶
液0.1μlを添加し、25°Cで1時間放置してOB
PbへAMAを結合させた。この溶液にリン酸緩衝液
(PBS)を添加して4mlとし(40倍希釈)、エタ
ノール、DMOまたはゲラニオール4μlを添加した
後、0、5、10、25、20、25、30、40およ
び60分経過時に300μlずつ取り出してAMAの蛍
光強度(励起波長:295nm、測定波長:481n
m)およびトリプトファンの蛍光強度を測定した。
【0109】図12は各ニオイ物質を添加した場合のA
MAの蛍光強度変化の測定結果を示す図である。
【0110】エタノールを添加した場合には、AMAの
蛍光強度が徐々に低下し、時間の経過とともにAMAが
OBPbから解離していく様子が分かる。これに対し、
ニオイ物質であるDMOおよびゲラニオールを添加した
場合には、どちらのニオイ物質(DMOおよびゲラニオ
ール)においても、添加直後(0分)にAMAの蛍光強
度が低下し、AMAが解離することが分かる。
【0111】図13は各ニオイ物質を添加した場合のチ
ロシンの蛍光強度変化の測定結果を示す図である。
【0112】チロシンの蛍光強度測定では、励起波長は
250nmであり、測定波長は300nmである。チロ
シンは、OBPbの単量体のインターナルキャビティI
Cにある。そのため、チロシンの蛍光強度の変化(親水
性になると蛍光強度が低下する)により、インターナル
キャビティICからのニオイ物質の解離を測定すること
ができる。
【0113】エタノールを添加した場合およびDMOを
添加した場合には、添加直後(0分)には蛍光強度の変
化が見られなかった。これに対し、ゲラニオールを添加
した場合には、添加直後(0分)に蛍光強度の低下が見
られた。
【0114】これらの結果、ゲラニオールに代表される
低親和性ニオイ物質(少なくともKD>3μM)はセン
トラルポケットCPに入ることにより、前もって結合し
ているニオイ物質を解離させ、DMOに代表される高親
和性ニオイ物質はインターナルキャビティICに結合す
ることにより、他方のインターナルキャビティICに前
もって結合しているニオイ物質を解離させることが分か
る。
【0115】図12および図13の結果は、AMAがイ
ンターナルキャビティICに結合していることにより得
られるものである。この結果から逆に、AMAまたはD
MOのようなセントラルポケットCPから解離するニオ
イ物質が最終的にはインターナルキャビティICに結合
しているという結論を導くことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施の形態におけるニオイ物質検出
方法の例を示す模式的な構成図である。
【図2】AMAが結合したOBPbに各ニオイ物質を添
加した場合のAMAの蛍光強度変化の測定結果を示す図
である。
【図3】OBPbへのニオイ物質の結合機構およびニオ
イ物質の置換機構を示す図である。
【図4】通常のOBPbおよびC−末端側アミノ酸を除
いたOBPbを示す図である。
【図5】相対蛍光強度変化の測定結果を示す図である。
【図6】OBPb-normにDMOおよびゲラニオールを
結合させた場合における各時刻での蛍光スペクトルと0
分での蛍光スペクトルとの差スペクトルを示す図であ
る。
【図7】OBP-delにDMOおよびゲラニオールを結合
させた場合における各時刻での蛍光スペクトルと0分で
の蛍光スペクトルとの差スペクトルを示す図である。
【図8】OBPb-normおよびOBP-delにDMOおよ
びゲラニオールを結合させた場合における蛍光スペクト
ルの差スペクトルのピークの経時変化を示す図である。
【図9】トリプトファンおよびチロシンの蛍光スペクト
ルとAMAの蛍光スペクトルとの積の測定結果を示す図
である。
【図10】AMA結合時のトリプトファンの蛍光強度変
化の測定結果を示す図である。
【図11】AMA結合時のAMAの蛍光強度変化の測定
結果を示す図である。
【図12】各ニオイ物質を添加した場合のAMAの蛍光
強度変化の測定結果を示す図である。
【図13】各ニオイ物質を添加した場合のチロシンの蛍
光強度変化の測定結果を示す図である。
【符号の説明】 1 マイクロプレート 2 孔部 3 反応溶液 4 外気導入部 5 光源 6 第1の波長選択部 7 第2の波長選択部 8 蛍光検出部 9 データ処理部 100 化学物質センサ CP セントラルポケット IC インターナルキャビティ M1,M2 ニオイ物質

Claims (11)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 予めニオイ結合タンパク質に結合した蛍
    光性物質からの蛍光強度の変化に基づいて所定の化学物
    質を検出することを特徴とする化学物質センサ。
  2. 【請求項2】 前記ニオイ結合タンパク質が二量体構造
    を有することを特徴とする請求項1記載の化学物質セン
    サ。
  3. 【請求項3】 予め蛍光性物質が結合しかつ二量体構造
    を有するニオイ結合タンパク質と、前記ニオイ結合タン
    パク質に励起光を照射する光源と、前記ニオイ結合タン
    パク質に結合した前記蛍光性物質から得られる蛍光を検
    出する蛍光検出部と、前記蛍光検出部により検出された
    蛍光の強度変化に基づいて所定の化学物質の有無を判定
    する判定手段とを備えたことを特徴とする化学物質セン
    サ。
  4. 【請求項4】 前記光源から照射された励起光のうち特
    定波長の光を選択的に透過させる第1の波長選択部と、
    前記ニオイ結合タンパク質に結合した前記蛍光性物質か
    ら得られる蛍光のうち特定波長の光を選択的に透過させ
    る第2の波長選択部とをさらに備えたことを特徴とする
    請求項3記載の化学物質センサ。
  5. 【請求項5】 前記ニオイ結合タンパク質がウシ由来の
    ニオイ結合タンパク質であることを特徴とする請求項3
    または4記載の化学物質センサ。
  6. 【請求項6】 前記蛍光性物質はアミノアントラセンで
    あることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の
    化学物質センサ。
  7. 【請求項7】 予めニオイ結合タンパク質に結合した蛍
    光性物質からの蛍光強度の変化に基づいて所定の化学物
    質を検出することを特徴とする化学物質センサ。
  8. 【請求項8】 前記ニオイ結合タンパク質が二量体構造
    を有することを特徴とする請求項7記載の化学物質の検
    出方法。
  9. 【請求項9】 二量体構造を有するニオイ結合タンパク
    質に予め蛍光性物質を結合させる工程と、前記ニオイ結
    合タンパク質に励起光を照射する工程と、前記ニオイ結
    合タンパク質に結合した前記蛍光性物質から得られる蛍
    光を検出する工程と、前記蛍光検出部により検出された
    蛍光の強度変化に基づいて所定の化学物質の有無を判定
    する工程とを備えたことを特徴とする化学物質の検出方
    法。
  10. 【請求項10】 前記ニオイ結合タンパク質がウシ由来
    のニオイ結合タンパク質であることを特徴とする請求項
    7〜9のいずれかに記載の化学物質の検出方法。
  11. 【請求項11】 前記蛍光性物質はアミノアントラセン
    であることを特徴とする請求項7〜10のいずれかに記
    載の化学物質の検出方法。
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