JP2003075349A - 膜融合の解析方法 - Google Patents
膜融合の解析方法Info
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Abstract
供する。 【解決手段】膜融合の一方の膜を蛍光色素で標識し、他
方の膜との融合に伴う膜成分の相互混合で生じる蛍光ス
ペクトル変化を利用し、膜融合前後での蛍光強度差の値
が異なる2つの波長領域において試料の蛍光顕微鏡画像
を取得し、これらの2つの画像を用いた画像処理または
画像解析によって膜融合の発生の時空間情報を可視化ま
たは数値化する。
Description
つ高い信頼性で多様な生体膜・人工膜試料の膜融合を解
析する方法およびその試薬に関する。
胞内に見られる細胞内小器官の膜融合など、生きている
細胞では頻繁に生じている現象である。細胞内での物質
選別、物質輸送や情報伝達などの生理機能に大きな役割
を果たしているため、膜融合の解析は細胞機能の理解や
各種物質の薬理作用の解明に役立つ。また、膜を有する
ウイルスが細胞に感染する過程においても、膜融合は決
定的に重要なイベントであるので、膜融合の解析はウイ
ルス感染機構の解明や坑ウイルス薬の開発などに貢献す
るものと期待される。また、遺伝子治療、ドラッグデリ
バリーにおいては、リポソームやウイルスの膜融合が物
質輸送や物質放出の手段として利用されており、膜融合
解析はこれらベクターの有効性を検証する方法としても
重要である。従来、最も多用されている膜融合の検出・
測定法は蛍光の自己消光解消法と呼ばれるもので、膜融
合の結果に生じる蛍光強度の変化を1つの波長領域で計
測している。これは、膜融合の一方の膜(ドナー膜)に
蛍光色素を蛍光自己消光の起こる高濃度で含有させ、他
の膜(アクセプター膜)との融合が生じると膜脂質層の
成分の相互混合によって色素濃度が減少し自己消光が解
消して蛍光強度が増大することを、蛍光分光光度計や蛍
光顕微鏡で検出している。
出する場合には、試料の形態観察ができないので試料形
態の上のどこで膜融合が生じたかを調べられないという
欠点がある。また、解析対象の試料(あるいは同等の試
料)について膜融合前における蛍光強度を測定しておき
対照データとしなければ、膜融合の発生が判別できない
という欠点がある。
取得した蛍光顕微鏡画像上の蛍光強度で検出する方法で
は、同時に形態観察ができるので空間情報の取得が可能
である。しかし、膜融合の前後で観察対象の膜が画像上
で位置や集合状態を変えたり大きく変形した場合には、
これら位置、集合状態、形態の変化によって生じる蛍光
強度変化と膜融合によって生じる蛍光強度変化を識別す
ることが困難であり、膜融合過程の間でドナー膜が位置
を変えたり互いに集合・離散をしないような特殊な場合
以外には膜融合の検出ができないという欠点がある。ま
た、そのような特殊な場合においても、解析対象の試料
(あるいは同等の試料)について膜融合前における蛍光
画像を取得しておき対照データとしなければ、膜融合の
発生が判別できないという欠点がある。
は、膜融合に伴うエキシマーの減少を蛍光分光光度計で
計測している。この方法は、ドナー膜に蛍光色素を色素
分子間の衝突でエキシマーが生じやすいような高濃度に
含有させておき、この膜がアクセプター膜と融合すると
膜脂質層成分の相互混合によって色素濃度が減少しエキ
シマーの蛍光波長での発光強度が低下するとともに、単
分子状態の色素による蛍光強度が増加することを、蛍光
分光光度計によるスペクトル変化の測定で検出してい
る。しかしこの方法にも、試料の形態上のどこで膜融合
が生じたのかという空間情報が調べられないという欠点
がある。
術の問題点を解消することを課題とし、膜融合がいつど
のような速さで生じたのかという時間情報および試料形
態上のどこで生じたのかという空間情報をを可視化また
は数値化して解析する方法を提供しようとするものであ
って、観察対象の膜が位置や集合状態を変えたり大きく
変形した場合にも膜融合の検出および解析を可能とし、
また、融合前の対照データがなくても膜融合発生の判別
を可能にする、高感度、迅速、かつ高い信頼性を有する
膜融合の解析方法を提供しようとするものである。
を解決するために鋭意研究した結果、生体膜や人工膜に
生じる膜融合の解析法として、膜融合の一方の膜を蛍光
試薬で標識し、他方の膜との融合に伴う膜成分の相互混
合で生じる蛍光スペクトル変化を利用し、膜融合前後で
の蛍光強度差の値が異なる2つの波長領域において試料
の蛍光顕微鏡画像を取得し、これら2つの画像を用いた
画像処理または画像解析によって膜融合の発生の時空間
情報を可視化または数値化すれば、上記従来技術の問題
点を解消し、高感度、迅速、かつ高い信頼性をもって、
膜融合の解析を行い得ることを見いだし本発明を完成さ
せたものである。
係るものである。 (1)膜融合における一方の膜を蛍光試薬で標識し、他
方の膜との融合に伴う膜成分の相互混合で生じる蛍光ス
ペクトル変化を利用する方法であって、膜融合前後での
蛍光強度差の値が異なる2つの波長領域において試料の
蛍光顕微鏡画像を取得し、これら2つの画像を用いた画
像処理または画像解析によって膜融合の時空間情報を可
視化または数値化することを特徴とする方法。 (2) 膜融合が生体膜間または人工膜間、もしくは生
体膜と人工膜の間で生ずるものである(1)記載の方
法。 (3) 膜融合が、細胞、細胞内小器官、ウイルスまた
はリポソームのうちの同種間または異種間の膜融合であ
る(1)記載の方法。 (4)膜融合が、遺伝子治療あるいはドラッグデリバリ
ーに使用するベクターにより行われるものである(1)
記載の方法。 (5)画像処理が2つの画像間の和、差、比の演算処理
を含むものである(1)記載の方法。 (6)膜融合前後の蛍光強度差の値が異なる2つの波長
領域を有する蛍光試薬を含有することを特徴とする膜融
合解析試薬 (7)蛍光試薬が3,3’‐ジオクタデシルオキサカル
ボシアニン過塩素酸塩とオクタデシルローダミンB塩化
物の混合物である(6)記載の膜融合解析試薬。 (8)蛍光試薬が4,4‐ジフルオロ‐5‐オクチル‐
4‐ボラ‐3a,4a‐ジアザ‐s‐インダセン‐3‐
ペンタン酸とオクタデシルローダミンB塩化物の混合物
である請求項6の膜融合解析試薬。
合の対象は生体膜あるいは人工膜等により特に限定され
ない。解析される対象をより具体的に示すと、図1に示
されるように、細胞融合に伴う膜融合、細胞膜と細胞小
器官の融合、細胞小器官と細胞小器官の融合に伴う膜融
合、ウイルスの細胞侵入に伴う、細胞膜あるいは細胞小
器官の膜とウイルス膜との融合、ウイルスとリポソーム
の融合に伴う膜融合、リポソームと細胞膜あるいは細胞
内小器官膜との融合あるいはリポソーム相互の融合等が
挙げられる。本発明においては、これら種々の膜融合に
おいて、一方の膜をドナー膜(D)として蛍光試薬で標
識し、他方のアクセプター膜(A)と融合により生じる
蛍光スペクトル変化を利用し、膜融合前後での蛍光強度
差の値が異なる2つの波長領域において試料の蛍光顕微
鏡画像を取得し、これら2波長の画像を用いた画像処理
または画像解析によって膜融合の発生過程の時空間情報
を可視化または数値化するものである。
されるのは、ウイルス感染、その中でも特にインフルエ
ンザウイルスの細胞内における膜融合の検出と解析に実
施した場合である。膜融合は、インフルエンザウイルス
が宿主となる細胞へ感染する過程において最も重要なス
テップのひとつである。したがって、このウイルス膜融
合の解析はウイルス感染機構の解明にとって必要である
ばかりでなく、坑ウイルス薬の開発を促進する役割も担
っている。
を例にとり、本発明をさらに詳細に説明する。 図2は
インフルエンザウイルスの細胞侵入過程の概略を示す。
このウイルスの膜には細胞侵入で中心的な役割を果たす
糖タンパク質のヘマグルチニンが存在している。ウイル
スはまず最初に細胞表面に吸着するが、それはヘマグル
チニン分子の頭部にあるポケット状の部分と細胞膜表面
のレセプター糖鎖が結合することに基づいている。細胞
は吸着したウイルスをエンドサイトーシスによって細胞
内小器官(オルガネラ)の一つであるエンドソームまで
輸送する。エンドソーム内部は弱酸性pHに保たれてお
り、この条件にさらされるとヘマグルチニンには大きな
立体構造変化が生じて膜融合活性を発現するようにな
る。その結果、ウイルス膜とエンドソームの膜の間で膜
融合が生じ、ウイルスの内部に蓄えられていたウイルス
・ゲノムが細胞質中に放出され感染の初期過程が完了す
る。
す図である。例えば本発明方法をインフルエンザウイル
スとエンドソームの膜融合の解析に適用する場合、イン
フルエンザウイルスの膜を蛍光試薬で標識してドナー膜
(D)とする。なお、他方のエンドソームの膜はアクセ
プター膜(A)として表示している。標識する蛍光試薬
は、膜融合により膜脂質層成分の拡散、希釈が生じると
これに伴い蛍光スペクトルが変化するような蛍光色素で
あり、膜融合前後で蛍光強度差の値が異なるような2つ
の波長領域を有するものである。ドナー膜(D)とアク
セプター膜(A)の融合すると、例えば波長aの蛍光強
度に変化がみられないのに対し波長bの蛍光強度が増大
すると、蛍光の色調は、波長aから波長bの色調にシフ
トする。
差の値が異なる2つの波長領域に着目することが特に需
要である。例えば波長bのみに着目した場合、ある試料
のある領域で波長bの蛍光強度の増大が検出されたとし
ても、その強度増大が膜融合によるものなのか、ウイル
ス粒子が他の領域から移動してその領域に集積したため
なのかは、従来の蛍光自己解消法等と同様に、識別がで
きなくなる。なお、波長aのみの場合には膜融合が生じ
ても蛍光強度に変化がないので膜融合をとらえるのは困
難である。したがって、本発明においては、膜融合前後
で蛍光強度差の値が異なる2つの波長領域に着目し、膜
融合前後あるいは膜融合前から膜融合後にかけて、2つ
の波長領域のそれぞれにおいてウイルスの結合した細胞
の蛍光顕微鏡画像を取得し、それぞれ2つの画像を用い
た画像処理または画像解析を行うものであり、これによ
り、膜融合前のウイルスの位置、膜融合の発生の位置、
頻度およびこれらの経時的変化等の時空間情報を可視化
または数値化することが可能となったものである。
合前後で蛍光強度差の値が異なる2つの波長領域を有す
るものであればいずれのものであっても使用できる。具
体的には図4に示される3,3’‐ジオクタデシルオキ
サカルボシアニン過塩素酸塩(3,3'-dioctadecyloxacarb
ocyanine perchlorate)(以下DiOと略す)とオクタ
デシルローダミンB塩化物(octadecyl rhodamine B chlo
ride)(以下R18と略す)の混合物あるいは4,4‐
ジフルオロ‐5‐オクチル‐4‐ボラ‐3a,4a‐ジ
アザ‐s‐インダセン‐3‐ペンタン酸(4,4-difluoro
-5-octyl-4-bora- 3a,4a-diaza-s-indacene-3-pentanoi
c acid)(以下C8‐BODIPY(R)500/51
0C5と略す)とR18の混合物等が挙げられる。これ
ら蛍光試薬は、膜融合前後において、比較的蛍光強度変
化が少ない波長域と蛍光強度が増大する波長域を有して
おり、膜融合が発生すると膜に標識された蛍光分子が拡
散、希釈され、これに伴い蛍光の色調が変化する。この
現象は以下の実験例からも確かめられている。
物、3,3’‐ジオクタデシルオキサカルボシアニン過
塩素酸塩(3,3'-dioctadecyloxacarbocyanine perchlor
ate)(以下DiOと略す)とオクタデシルローダミン
B塩化物(octadecyl rhodamine B chloride)(以下R
18と略す)を用いた(これらはモレキュラープローブ
ス社から入手可能)。DiO(33μM)とR18(6
7μM)の両者をメチルアルコールに溶解し、蛍光色素
混合溶液を調製した。PBS液1mlに懸濁したインフ
ルエンザウイルスA/PR8/34(H1N1)株(タ
ンパク質濃度0.1mg/ml)に、上記の蛍光色素混
合溶液6μlを加え素早く混合し、25℃で60分間の
静置をすることによってウイルス膜を蛍光標識した。D
iOもR18も疎水性の高い分子であり水中での溶解状
態より膜脂質層中に挿入された状態の方が安定であり、
単にウイルス懸濁液と混合するだけでほとんど全ての蛍
光色素分子が自動的にウイルス膜に取り込まれた。この
試料を濾過膜であるマイレクスGV25mm(ミリポア
社から入手可能)に通すことによって、試料中に存在す
るウイルス粒子の大きな凝集塊を除去し、分散状態の良
い蛍光標識ウイルスとして用いた。
合を生じた際に両者の膜脂質層成分の混合希釈で生じる
蛍光スペクトル変化を実証するためのモデル実験とし
て、蛍光標識ウイルスを界面活性剤であるSDSで可溶
化することによって蛍光色素分子を水溶液中に希釈しそ
の前後における蛍光スペクトル変化を調べた。図5に示
した結果は、蛍光標識ウイルスを488nmで励起して
得られたSDS添加前と添加後(最終濃度0.4%(w
/v))の蛍光スペクトルである。580nm付近の波
長領域においてはSDS添加前後で蛍光強度はわずかし
か変化しなかったのに対して、510nm付近における
蛍光強度はSDS添加によって大きく増大した。すなわ
ち、蛍光標識ウイルスの膜にある蛍光色素分子が希釈さ
れると蛍光スペクトルが変化し、赤色の蛍光強度には大
きな変化はないが緑色の蛍光強度は増大することが実証
された。
物、4,4‐ジフルオロ‐5‐オクチル‐4‐ボラ‐3
a,4a‐ジアザ‐s‐インダセン‐3‐ペンタン酸
(4,4-difluoro-5-octyl-4-bora- 3a,4a-diaza-s-indac
ene-3-pentanoic acid)(以下C 8‐BODIPY
(R)500/510C5と略す、モレキュラープロー
ブス社から入手可能)とR18を用いた。C8‐BOD
IPY(R)500/510C 5(2mM)とR18
(2mM)の両者をエチルアルコールに溶解し、蛍光色
素混合溶液を調製した。PBS液1mlに懸濁したイン
フルエンザウイルスA/PR8/34(H1N1)株
(タンパク質濃度1mg/ml)に、上記の蛍光色素混
合溶液10μlを加え素早く混合した後、25℃で30
分間の静置をすることによってウイルス膜を蛍光標識
し、蛍光標識ウイルスとして用いた。
膜融合を生じた際に両者の膜脂質層成分の混合希釈で生
じる蛍光スペクトル変化を実証するためのモデル実験と
して、蛍光標識ウイルスに界面活性剤であるTrito
n X‐100を0.1%(w/v)添加し可溶化する
ことによって蛍光色素分子を水溶液中に希釈しその前後
における蛍光スペクトル変化を調べた。図6に示した結
果は、TritonX‐100の添加前と添加後におけ
る蛍光標識ウイルスの蛍光スペクトルである。488n
mの光で励起した際の517nm付近のC8‐BODI
PY(R)500/510C5の蛍光強度は、界面活性
剤の添加前後でほとんど変化しなかった。一方、560
nmの光で励起した際の590nm付近のR18の蛍光
強度は、界面活性剤の添加で大きく増大した。すなわ
ち、この蛍光標識ウイルスの膜にある蛍光色素分子が希
釈されると蛍光スペクトルが変化し、緑色の蛍光強度に
は大きな変化はないが赤色の蛍光強度は増大することが
実証された。
ウイルスの膜にある蛍光色素分子が希釈されると蛍光ス
ペクトルが変化することを示しており、上記したよう
に、このような蛍光色素分子の希釈は膜融合による膜脂
質層成分の希釈でも同様に生起するから、膜融合の発生
により蛍光スペクトル変化が生ずる。したがって、これ
らの結果は本発明の原理が広く膜融合全般に適用可能で
あることを示している。
リーにおいては、遺伝子あるいは薬剤の導入ベクターと
して、リポソームあるいはウイルスがよく用いられてお
り、本発明はこれら遺伝子あるいは薬剤担持ベクターと
生体細胞の膜融合の解析にも使用でき、遺伝子治療ある
いはドラッグデリバリーの有効性あるいはその機構の解
明等を通じて、より有効な抗癌剤等有用薬剤の探索、開
発にも利用可能なものである。
の蛍光強度差の異なる2つの波長領域のそれぞれにおい
て蛍光顕微鏡画像を取得し、これら2波長の画像を用い
た画像処理・画像解析を行うが、この画像処理において
は画像間の和、差、比等の演算を行うことにより、例え
ば膜融合に伴う蛍光の経持的変化を色の変化として表示
してその変化を見やすくしたり、細胞内において膜融合
の生じた領域を周囲と異なった色でわかりやすく可視化
して表現する等の様々な加工を行うことができる。ま
た、本発明においては、上記蛍光顕微鏡画像を基に、色
調を数値化して、膜融合進行の経時変化をみることもで
きる。例えば、細胞内の蛍光画像上で観察された各蛍光
スポットにおける上記2つの波長における蛍光強度の比
を経時的にとれば、膜融合の進行を数値化してとらえる
ことができる。以下、本発明を実施例に基づいて説明す
るが、本発明は特にこれに限定されるものではない。
M)とR18(67μM)の両者をメチルアルコールに
溶解し、蛍光色素混合溶液を調製し、PBS液に懸濁し
たインフルエンザウイルスA/PR8/34(H1N
1)株に、上記の蛍光色素混合溶液加え、25℃で60
分間の静置をすることによってウイルス膜を蛍光標識し
た。一方、蛍光標識ウイルスを感染させるための細胞と
して、ヒト由来の培養細胞であるHELA細胞を丸形
(直径25mm)の無蛍光カバーガラス(マツナミガラ
ス社などから入手可能)の上に、10%ウシ胎児血清を
含むイーグルMEM培養液を用いて培養した。細胞の付
着したカバーガラスをPBSで洗浄し、氷上で4℃の
0.2mlの蛍光標識ウイルス液(タンパク質濃度約5
μg/ml)をカバーガラス上に載せ15分間静置する
ことにより、ウイルス粒子を細胞膜に吸着させた。未吸
着のウイルス粒子をPBSによる洗浄で除いた後、試料
を37℃で0〜60分間処理することにより細胞のエン
ドサイトーシスで細胞内にウイルス粒子を取り込ませ
た。
れぞれレーザー走査共焦点蛍光顕微鏡によって蛍光画像
の取得を行った。励起光は488nm、蛍光波長領域は5
10〜525nmと575〜640nmの2つの条件を用い
た。膜融合の発生を可視化するための画像処理方法とし
て、510〜525nmの蛍光画像と575〜640nmの
蛍光画像をそれぞれ緑色と赤色で表示し、両画像の重ね
合わせ画像を作成した(画像間の和)。上記の画像処理
を行った結果を図7に示す。蛍光顕微鏡画像上で蛍光標
識ウイルス粒子もそのウイルス粒子を取り込んだエンド
ソームもスポット状の像として観察されるので、白黒の
画像表示のもとでは、どのスポットが膜融合をしていな
いウイルス粒子からの蛍光でどのスポットがウイルスと
エンドソームが膜融合したところからの蛍光であるのか
の判別はできない。この問題は、1波長の蛍光画像で観
察を行ったときの状況と全く同じである。
像処理を施した後の画像では、膜融合前のウイルスにお
いては緑色の蛍光強度が抑えられているので赤色の蛍光
が目立ちそのスポットは赤い色調で表示され、一方膜融
合したウイルスでは緑色の蛍光強度が増大するのでその
スポットは黄色ないしは緑色の色調で表示される。な
お、本図面では色調の表示ができないため、図7では赤
の色調のスポットを丸で、黄の色調のスポットを三角
で、緑の色調のスポットを四角で表示した。エンドサイ
トーシスがほとんど始まっておらずウイルスの膜融合も
生じていない時間0分の条件では、スポットのほとんど
が赤の色調で表されたのに対して、その後の時間経過で
エンドサイトーシスが進むに従って黄と緑の色調のスポ
ットが増加し、30〜60分後にはほとんどのスポット
が緑の色調に変わった。
分、60分の画像における細胞内蛍光スポットの黄や緑
の色調への変化は、蛍光標識ウイルスとエンドソームの
膜融合の結果を表すものであることは図7中の「NH4
CL、30分」と表記した対照実験により確認された。
塩化アンモニウムを培養液中に加えると、細胞によるイ
ンフルエンザウイルスのエンドサイトーシスとエンドソ
ームへの輸送には影響を与えないが、エンドソーム内の
pHを上昇させるためにウイルスの低pH依存的な膜融
合タンパク質の活性が誘導されなくなりウイルスとエン
ドソームの膜融合が阻害されることが知られている。図
7で「NH4CL、30分」と表記した画像は、40μ
M塩化アンモニウムを培地中に添加した条件で蛍光標識
ウイルスを4℃で細胞に吸着させた後、塩化アンモニウ
ムを維持したまま37℃で30分間静置した際の結果で
ある。細胞内に観察される蛍光スポットのほとんどが赤
色の色調であり、上述した反応0分後の結果との間で差
が認められなかった。すなわち、本実施例で用いた蛍光
標識ウイルスの発する蛍光の色調は細胞によるエンドサ
イトーシスだけでは変化することなく、エンドソームと
の膜融合が生じた際に赤色から黄色や緑色に変化するこ
とが示された。
た結果は、膜融合の時間経過・時間情報を蛍光画像上の
色調の変化として可視化する方法を実証しただけでな
く、細胞内で膜融合の生じた位置に関する空間情報も可
視化できることを示している。
標識して、蛍光標識ウイルスを37℃で0〜60分間に
渡って細胞にエンドサイトーシスさせ、細胞内の蛍光画
像上で観察された各々約200カ所の蛍光スポットにお
ける色調を数値化した。その結果を図8に示す。なお、
横軸は個々の蛍光スポットでの510〜525nmでの蛍
光強度と575〜640nmでの蛍光強度の比を表してお
り、左に行くほど赤色の色調が強く右に行くほど緑色の
色調が強い。縦軸はそれぞれの緑/赤の強度比を示した
蛍光スポットの頻度を表している。この結果は、反応0
分後には赤色の色調の蛍光スポットが多い状態から次第
に緑色の色調の強い蛍光スポットに移行していく過程、
すなわち細胞内でウイルスとエンドソームの膜融合が進
行していく過程を示している。このように、図8の結果
は、2波長で取得した蛍光画像の画像処理・画像解析に
よって膜融合の進行過程という時間情報と個々の蛍光ス
ポットにおける膜融合の発生という空間情報を数値化し
得たことを示している。
ルス粒子は時間とともに細胞内での位置を移動し粒子の
局所濃度も変化しエンドソームとの膜融合によって膜の
形態も変化させている。それにもかかわらず、上述した
ように本実施例1ではウイルスとエンドソームの膜融合
の検出と解析が示されており、本発明によれば、観察対
象の膜が位置や集合状態を変えたり大きく変形した場合
にも膜融合の検出と解析が可能になる。また、図7およ
び図8の結果では、反応0分後のデータをマスクした上
で10〜60分後のデータを検討しても、それぞれ図7
の場合は画像上の蛍光スポットの色調が黄色ないし緑色
であれば膜融合発生の判別が可能であり、また図8の場
合は緑/赤の強度比の分布が右側(緑側)にあれば膜融
合発生の判別が可能である。このように、本発明によれ
ば、膜融合前の対照データがなくても膜融合発生の判別
が可能となる。以上説明したことから明らかなように、
本発明は、細胞融合、細胞内小器官の膜融合、ウイルス
膜融合、リポソームの膜融合、遺伝子治療・ドラッグデ
リバリーのベクターの膜融合など多様な膜融合現象の解
析に有効であり、しかも、高感度、迅速、かつ高い信頼
性を有するという極めて有用な効果を有するものであ
る。
を示した図である。
る。
構造を示した図である。
活性剤SDSの添加前(−SDS)とSDS添加による
可溶化後(+SDS)の蛍光スペクトルを示した図であ
る。
活性剤Triton X‐100の添加前(−Trit
on)と添加後(+Triton)の蛍光スペクト
ルを示した図である。
Claims (8)
- 【請求項1】 膜融合における一方の膜を蛍光試薬で標
識し、他方の膜との融合に伴う膜成分の相互混合で生じ
る蛍光スペクトル変化を利用する方法であって、膜融合
前後での蛍光強度差の値が異なる2つの波長領域におい
て試料の蛍光顕微鏡画像を取得し、これら2波長の画像
を用いた画像処理または画像解析によって膜融合の時空
間情報を可視化または数値化することを特徴とする方
法。 - 【請求項2】 膜融合が生体膜間または人工膜間、もし
くは生体膜と人工膜間で生ずるものである請求項1記載
の方法。 - 【請求項3】 膜融合が、細胞、細胞内小器官、ウイル
スおよびリポソームのうち、同種または異種間の膜融合
である請求項1記載の方法。 - 【請求項4】膜融合が、遺伝子治療あるいはドラッグデ
リバリーに使用するベクターにより行われるものである
請求項1記載の方法。 - 【請求項5】画像処理が2つの画像間の和、差あるいは
比の演算処理を含むものである請求項1記載の方法。 - 【請求項6】膜融合前後の蛍光強度差の値が異なる2つ
の波長領域を有する蛍光試薬を含有することを特徴とす
る膜融合解析試薬 - 【請求項7】蛍光試薬が3,3’‐ジオクタデシルオキ
サカルボシアニン過塩素酸塩とオクタデシルローダミン
B塩化物の混合物である請求項6記載の膜融合解析試
薬。 - 【請求項8】蛍光試薬が4,4‐ジフルオロ‐5‐オク
チル‐4‐ボラ‐3a,4a‐ジアザ‐s‐インダセン
‐3‐ペンタン酸とオクタデシルローダミンB塩化物の
混合物である請求項6記載の膜融合解析試薬。
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---|---|---|---|
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