JP2003049236A - 溶接熱影響部靱性および耐候性に優れた橋梁用高強度鋼およびその製造方法 - Google Patents

溶接熱影響部靱性および耐候性に優れた橋梁用高強度鋼およびその製造方法

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JP2003049236A
JP2003049236A JP2001238166A JP2001238166A JP2003049236A JP 2003049236 A JP2003049236 A JP 2003049236A JP 2001238166 A JP2001238166 A JP 2001238166A JP 2001238166 A JP2001238166 A JP 2001238166A JP 2003049236 A JP2003049236 A JP 2003049236A
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Minoru Ito
実 伊藤
Ryuji Uemori
龍治 植森
Takuya Hara
卓也 原
Naoki Saito
直樹 斎藤
Manabu Hoshino
学 星野
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Abstract

(57)【要約】 【課題】 優れたHAZ靭性を有し、490MPa 〜57
0MPa 級の引張強度を有しかつ耐候性に優れた橋梁用高
強度鋼およびその製造方法を提供すること。 【解決手段】 溶接熱影響部のミクロ組織において、旧
γ粒の平均粒径が200μm以下で、全γ粒のうち、粒
内にMgOまたはMg含有酸化物を核にした硫化物およ
び窒化物の単独または複合析出粒子を核にした粒内フェ
ライトが3個以上有するγ粒が30%以上である溶接H
AZ靱性および耐候性に優れた橋梁用高強度鋼。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、道路橋、鉄道橋等
の鋼橋として広く使用できる490MPa 〜570MPa 級
鋼の引張強度を有する大入熱HAZ靱性と耐候性に優れ
た橋梁用高強度鋼に関するものである。
【0002】
【従来の技術】近年、鋼橋においては、施工コスト削減
等の理由から高強度厚手材を用いた少数主桁が主流にな
ってきており、使用鋼材の板厚も最大で100mmのもの
が使用されるようになってきている。さらに鋼材の溶接
に関しても施工時間短縮、施工コスト削減の理由から、
10kJ/mm以上の大入熱溶接が可能な橋梁用高強度鋼の
重要性がますます高まっている。これまでにも400MP
a 〜570MPa 級鋼が使用されているが、大入熱溶接が
行われる場合には溶接HAZの靱性が著しく低下すると
いう問題があった。これが490MPa 〜570MPa 級の
引張強度を有し、かつ大入熱HAZ靱性の優れた橋梁用
高強度鋼が必要とされる理由である。
【0003】大入熱溶接を施した場合にHAZ靭性が低
下する理由は、高温での滞留時間が長くなることから、
溶接部のミクロ組織が粗大化し、さらに冷却速度が小さ
いことで、HAZ組織が多くの場合に上部ベイナイト組
織主体となり、さらに旧γ粒界には粒界フェライトが生
成し、両者の間隙にC濃度の高い硬質な島状マルテンサ
イト(以下M* と示す)が形成されやすくなり、これら
が破壊の起点となるためである。
【0004】特に、M* の生成を低減するために鋼中の
C量を出来るだけ低減させることが行われているが、母
材強度が不十分となることから、これを補うために合金
元素の添加が不可欠であり、加えて橋梁用高強度鋼に置
いてはCrやNiなどの耐候性付与の元素も多量に添加
されるため、M* や上部ベイナイトの生成を抑制するこ
とが実用上困難である。
【0005】また、大入熱HAZ靭性を向上させるため
にMgを添加することが知られている。Mg添加は従来
から強脱酸剤、脱硫剤として鋼の清浄度を高める作用が
あることからHAZ靭性を向上させるものと考えれてい
る。中でも、酸化物の分散を制御してHAZ靭性を向上
させる技術として、特開昭59−190313号公報に
記載されているように、Ti添加後、Mg添加により粒
内変態核であるTi酸化物の増加を促進することであ
り、酸化物をより微細に分散させてピニングにより、結
晶粒の細粒化を達成させるものではない。一方、近年で
はMg添加による大入熱時のミクロ組織の粗大化抑制技
術が広く用いられるようになっている。例えば、特開平
11−293382号公報に示されるように、MgOを
用いることで旧γ粒の成長が抑制されることが記載され
ている。しかしながら、前述したように、橋梁用高強度
鋼では単なる細粒化だけではHAZ靭性確保のための充
分な技術ではない。
【0006】このように、橋梁用鋼の超高強度化は大入
熱溶接時にHAZ靱性が低下するという問題を抱えてお
り、これを克服した画期的な橋梁用高強度鋼の早期開発
が要望されている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、上述した点
に鑑みなされたものであり、優れたHAZ靭性を有し、
490MPa 〜570MPa 級の引張強度を有しかつ耐候性
に優れた橋梁用高強度鋼およびその製造方法を提供する
ものである。
【0008】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、引張強度
が490MPa 〜570MPa 級で、かつ大入熱時の溶接熱
影響部の靭性に優れた超高強度鋼を得るために鋭意研究
を行い、新しい橋梁用高強度鋼およびその製造方法を発
明するに至った。本発明の要旨は以下のとおりである。 (1)溶接熱影響部のミクロ組織において、旧γ粒の平
均粒径が200μm以下で、全γ粒のうち、粒内にMg
OまたはMg含有酸化物を核にした硫化物および窒化物
の単独または複合析出粒子を核にした粒内フェライトが
3個以上有するγ粒が30%以上であること特徴とする
溶接HAZ靱性および耐候性に優れた橋梁用高強度鋼。 (2)粒子径:0.2〜5μmのMg含有酸化物を核に
して、硫化物および窒化物の単独または複合して析出し
た複合粒子が、平均粒子間隔:30〜100μmで鋼中
に含有し、かつ粒子径:0.005〜0.2μm未満の
MgOまたはMg含有酸化物を核にして、硫化物および
窒化物の単独または複合して析出した0.01〜2μm
の複合粒子を平均粒子間隔30μm以下で鋼中にそれぞ
れ微細分散した状態で含有することを特徴とする前記
(1)に記載の溶接HAZ靱性および耐候性に優れた橋
梁用高強度鋼。 (3)0.005〜0.1μmのMg硫化物を核にし
て、他の硫化物および窒化物の単独または複合して析出
した0.01〜2μmの複合粒子を平均粒子間隔:30
μm以下で鋼中に含有することを特徴とする前記(1)
または(2)に記載の溶接HAZ靱性および耐候性に優
れた橋梁用高強度鋼。 (4)質量%で、C:0.01〜0.2%、Si:0.
02〜0.5%、Mn:0.3〜3%、P:0.03%
以下、S:0.0001〜0.03%、Al:0.00
05〜0.1%、Ti:0.003〜0.05%、M
g:0.0001〜0.01%、O:0.0001〜
0.015%を含有し、残部鉄および不可避的不純物か
らなる前記(1)乃至(3)の何れかに記載の溶接HA
Z靱性および耐候性に優れた橋梁用高強度鋼。 (5)質量%で、Cu:0.05〜1.5%、Ni:
0.05〜5%、Cr:0.02〜1.5%、Mo:
0.02〜1.5%、V:0.01〜0.1%、Nb:
0.0001〜0.2%、Zr:0.0001〜0.0
5%、Ta:0.0001〜0.05%、B:0.00
03〜0.05%のうちの1種または2種以上を、さら
に含有することを特徴とする前記(1)乃至(4)の何
れかに記載の溶接HAZ靱性および耐候性に優れた橋梁
用高強度鋼。 (6)質量%で、Ca:0.0001〜0.005%、
REM:0.0001〜0.05%、Y:0.0001
〜0.05%、Hf:0.0001〜0.05、Re:
0.0001〜0.05%のうちの1種または2種以上
を、さらに含有することを特徴とする前記(1)乃至
(5)の何れかに記載の溶接HAZ靱性および耐候性に
優れた橋梁用高強度鋼。 (7)前記(1)乃至(6)の何れかに記載の橋梁用高
強度鋼の製造にあたり、製鋼段階において、Si、Mn
を添加して弱脱酸処理を行った後、最終含有量で0.0
03〜0.05質量%のTiと、0.005質量%以下
のAl、Mg、Ca、REMのうちの何れかを順次ある
いは同時に添加して溶存酸素を50ppm 以下とし、さら
に最終含有量で0.01質量%以下のMgを添加し、M
g添加直前、直後あるいは同時に、1次脱酸生成物生成
のための酸素源を供給した上で、これを1520〜16
50℃の温度で鋳造後、熱間圧延して鋼板とすることを
特徴とする溶接HAZ靱性および耐候性に優れた橋梁用
高強度鋼の製造方法。
【0009】
【発明の実施の形態】以下、本発明の内容について詳細
に説明する。本発明者らは、Tiを添加し弱脱酸した溶
鋼中にMgを添加した場合の酸化物の状態を系統的に調
べた。その結果、Si、Mnによる脱酸後に、Ti添
加、Mg、Ca、REM等の強脱酸元素を順に添加した
場合に、あるいはTi添加と前出強脱酸元素の添加を同
時に行い、さらに、平衡状態になった状態で再度Mgを
添加することで、酸化物の粒子径に2種類のものが生成
されることを見いだした。すなわち、1つは粒子径が
0.2〜5μmのMg等の強脱酸元素を含有する酸化物
であり、他は0.005〜0.2μmの超微細なMgを
含有する酸化物、例えばMgOやMgAl2 4 であ
る。このような酸化物の生成原因は以下のような理由に
基づくものと推定される。
【0010】まず、Ti添加あるいはTiと少量のMg
同時添加により、一旦Tiを主体とするミクロンサイズ
の酸化物が生成され、この状態では脱酸力の強いMgが
さらに添加されると既に生成されている酸化物はMgに
より還元されるため、最終的にミクロンサイズのMgを
主体とするMg含有酸化物が生成されるものと思われ
る。また、この際に溶存酸素が少なくなっているにもか
かわらずMgがTiよりも脱酸力が強いために新たなM
g単独のサブミクロンサイズの微細な酸化物も同時に生
成される。その結果、従来の添加法では達成できなかっ
た粒子数の増加とサイズの微細化が生じることとなる。
一般にミクロンサイズの酸化物に対しては5μm以上の
ものが多くなるほど破壊の起点になりやすく、Mg添加
を図った場合には、特開平9−157787号公報に開
示されているように、Mg量が30〜50ppm 程度が限
界とされている。しかしながら、本発明においてはこの
ような問題は回避され100ppm まではMgの添加が可
能になる。
【0011】一方、Ti脱酸やTi+少量Mg脱酸では
弱脱酸元素あるいは少量の強脱酸元素故に溶存酸素がま
だ残っているため、その時点で再度Mgが添加された場
合には前述のミクロン〜サブミクロンの酸化物だけでな
く、そのような溶存酸素とMgの酸化反応が穏やかに生
じるために超微細な酸化物の生成がさらに起こるものと
思われる。超微細な酸化物が生成される理由は溶存酸素
量が少なくなっていることに加えて、溶存酸素の溶鋼中
での分布が均一化されることから、酸化物のクラスター
化が抑制されたものと推定される。
【0012】以上のように鋼中に生成された酸化物は鋳
造時あるいはその後の冷却過程や再加熱−熱間工程中に
硫化物および窒化物の核生成サイトになる。電子顕微鏡
を用いて1万倍〜10万倍でその様子を調査した結果、
鋼中酸化物の存在状態は以下のように整理できる。な
お、酸化物の存在状態については特定倍率(例えば超微
細な酸化物の場合には10万倍程度)で10視野以上を
観察し、平均粒子間隔等を測定する事が望ましい。
【0013】1)粒子径が0.2〜5μmのMg含有酸
化物が存在し、この酸化物を核にしてその周辺に硫化物
あるいは窒化物が析出している。酸化物−硫化物および
/または窒化物の複合粒子は平均粒子間隔で30〜10
0μmで鋼中に含有されている。 2)粒子径が0.005〜0.2μmの超微細なMgO
ないしはMg含有酸化物も存在する。この酸化物を核に
して、酸化物を包含するようにもしくは周辺に析出した
硫化物および/または窒化物より構成される複合粒子は
平均粒子間隔で30μm以下で鋼中に含有されている。
【0014】3)粒子径が0.005〜0.2μmの超
微細なMgSないしはMg含有硫化物も存在する。この
硫化物を核にして、もしくは周辺に析出した窒化物より
構成される複合粒子は平均粒子間隔で30μm以下で鋼
中に含有されている。本発明は、上記の酸化物の存在状
態によって達成されるHAZ部靱性の優れた鋼材に関す
るものであり、従来は入熱量に大きく依存していたHA
Z部の靱性変化を極力抑えた画期的な発明である。以下
にHAZ靭性向上についてさらに言及する。
【0015】これまで知られているように、粒内変態は
酸化物の個数が多いほど、かつ硫化物と窒化物の酸化物
上への析出がある場合の方が促進される。上記1)で説
明したように個数については従来に比較して10倍以上
増加していること、また複合析出についても確認した限
りにおいて100%硫化物あるいは窒化物が複合的に析
出していることから、本発明のMg含有酸化物は極めて
粒内変態能が大きくなる。
【0016】次いで、本発明で最も重要な加熱γ粒径の
微細化について説明し、その後、そのような微細なγ粒
での粒内変態能を付与技術について説明する。Al脱
酸、Ti含有Al脱酸、Mg脱酸をそれぞれ行った種々
の鋼を、入熱条件を20kJ/mmで溶接したときの旧γ粒
径を測定した。旧γ粒径の測定は実継手の場合には、H
AZ部を切断加工等により抽出した後、研磨処理を行
い、さらにナイタール腐食して得られるミクロ組織を5
0倍〜200倍で光学顕微鏡により写真撮影(5枚以
上)し、切断法によって旧γ粒径を測定した。その結
果、Mg脱酸鋼以外では旧γ粒径が顕著に大きくなるこ
とが判明した。すなわち、Mg脱酸鋼の旧γ粒径は20
0μm以下であり、従来の橋梁用高強度鋼の1/2〜1
/5程度であった。
【0017】次いで、旧γ粒が微細化した鋼板を電子顕
微鏡で観察した結果、0.1μm以下の面心立方構造の
MgOやMgを主構成元素とするスピネル型構造のMII
MIII 2 4 (MII:Mg、Ca、Fe、Mn等、MII
I :Al、Ti、Cr、Mn、V等)粒子が多数認めら
れ、Mg含有酸化物−硫化物および/または窒化物[T
iN等]の複合粒子が多数存在することがわかった。電
子顕微鏡観察において、Mg含有酸化物−硫化物あるい
は窒化物粒子間の結晶学的な方位関係を調べると、いず
れも完全平行の方位関係を持っていることも明らかにな
った。このことは、Mgの超微細酸化物が硫化物や窒化
物の優先析出サイトとして作用していることを示してお
り、この析出サイトが多数存在するために、結晶粒のピ
ニングに有効な窒化物を増加させているものと考えられ
る。つまり、入熱が小さい場合にはこれらの複合粒子が
ピニング粒子として作用しているものと考えられ、さら
に、超大入熱溶接時のような高温での滞留時間が長い場
合、窒化物粒子の溶解が生じるが、本発明では、多数の
MgOないしはMg含有酸化物が存在しており、例え窒
化物粒子が溶解したとしても、依然として微細な酸化物
粒子が存在するために、これらが高温でのピニング粒子
として作用し、従来鋼では決して得ることが出来なかっ
たHAZ部における旧γの粒成長抑制が達成されたもの
と思われる。
【0018】すなわち、本発明の特徴は、顕著な粒内変
態の向上に加え、TiNなど窒化物を利用して結晶粒の
ピニングを図った従来鋼に比べ、MgO等の酸化物を鋼
中に微細に導入することで、窒化物の析出核を創出し、
これにより窒化物の個数の増加を実現するために、窒化
物が有効な小入熱溶接ではこれらの複合粒子の存在によ
りHAZ部において10μm〜200μm以下の旧γ粒
が得られる点にある。さらに、窒化物が溶解してしまい
従来全く靱性の改善効果が見られなかった大入熱〜超大
入熱溶接でも、酸化物単独の粒成長抑制効果により、ほ
とんどHAZ部の旧γ粒径には変化が生じない。一般的
にはHAZの旧γ粒径が大きく変化しない場合にはHA
Z靭性の劣化代は小さい。
【0019】しかしながら、耐候性鋼や合金元素を多く
含んだ一般橋梁用鋼においては旧γ粒の成長抑制だけで
は充分なHAZ靭性は得られない。その理由は、耐候性
を増加させるために添加する合金元素により焼入性が高
まり、HAZ部の旧γ粒内のミクロ組織が靭性を悪くす
る上部ベイナイト主体の組織となるためであり、多量の
* 生成も靭性を大きく劣化させる。そこで、脱酸方法
を種々変化させ得られた鋼材のHAZ組織から、旧γ粒
の組織とHAZ靭性の関係を調査した結果、図1の模式
図に示したように、HAZ組織中の全γ粒のうち、粒内
フェライト数が3個以上含む粒が30%以上を占める場
合において、HAZ靭性が飛躍的に向上していることを
本発明者らは見出した。特に、低温靭性が求められる場
合や超大入熱の溶接に対しては50%以上を占めること
が好ましい。その手段としては、例えば、Mg添加の際
に溶鋼酸素量を増やすなどの工程[酸素吹き込み、スケ
ール添加等]を加えることにより1次脱酸生成物[前出
のミクロンサイズの酸化物に対応]を大量に溶鋼中に生
成させることである。これにより粒内変態核となる1次
脱酸生成物が著しく増加するため、粒内フェライト(I
GF)を3個以上含むγ粒の割合が急激に増加する。
【0020】さらに、本発明においては、橋梁用鋼材と
して重要な特性である耐候性も著しく向上することが明
らかになっている。この理由については必ずしも明確で
はないが、Mg添加による介在物の微細化や固溶Mgに
よる表面皮膜形成への影響を通して、鋼材表面の耐候性
特性を向上させたものと推定される。固溶Mg量として
は、化学分析値として0.1〜10ppm の範囲で著しい
耐候性が現出することを確認している。
【0021】本発明におけるMgの添加方法であるが、
上述したように、最初に、Si、Mnを添加後、まず、
Tiを添加し溶鋼中の酸素量を調整した後、少量のMg
を徐々に添加するか、あるいは、Tiと少量のMgを同
時に添加した後に、最終段階で再度Mgを添加する。最
適なMgの添加量は、Ti添加後、溶鋼中に存在する酸
素量などに依存するが、実験では、その時の酸素濃度は
Ti添加量とMg添加までの時間に依存し、TiとMg
添加量を適正な範囲で制御すれば良い。なお、最終的な
Mg添加時の溶存酸素量は0.1〜50ppm 程度が適量
である。最小の0.1ppm は微細なMg酸化物ができる
最小の量であり、50ppm を超えると粗大なMg酸化物
ができるようになり、ピニング力が弱くなることからこ
れを限度とした。
【0022】また、Mgを添加する際に用いるMgの素
材は、Fe箔に金属Mgを包む方法、Mg合金による方
法などを試みた結果、前者は、溶鋼投入の際の酸化反応
が激しく、歩留まりが低下する。従って、通常の大気圧
下で溶製する場合には比重の比較的重いMg合金の添加
が好ましい。以下、本発明の成分の限定理由について述
べる。
【0023】C:Cは鋼における母材強度を向上させる
基本的な元素として欠かせない元素であり、その有効な
下限として0.01%以上の添加が必要であるが、0.
2%を越える過剰の添加では、鋼材の溶接性や靱性の低
下を招くので、その上限を0.2%とした。 Si:Siは製鋼上脱酸元素として必要な元素であり、
鋼中に0.02%以上の添加が必要であるが、0.5%
を越えるとHAZ靱性を低下させるのでそれを上限とす
る。
【0024】Mn:Mnは、母材の強度および靱性の確
保に必要な元素であるが、3%を越えるとHAZ靱性を
著しく阻害するが、逆に0.3%未満では、母材の強度
確保が困難になるために、その範囲を0.3〜3%とす
る。 P:Pは鋼の靱性に影響を与える元素であり、0.03
%を越えて含有すると鋼材の母材だけでなくHAZの靱
性を著しく阻害するのでその含有される上限を0.03
%とした。
【0025】S:Sは0.03%を越えて過剰に添加さ
れると粗大な硫化物の生成の原因となり、靱性を阻害す
るが、その含有量が0.0001%未満になると、粒内
フェライトの生成に有効なMnS等の硫化物生成量が著
しく低下するために、0.0001〜0.03%をその
範囲とする。 Al:Alは通常脱酸材として添加されるが、本発明に
おいては、0.1%越えて添加されるとMgの添加の効
果を阻害するために、これを上限とする。また、安定に
MIIMIII 2 4 を生成するためには0.0005%は
必要であり、これを下限とした。
【0026】Ti:Tiは、脱酸材として、さらには窒
化物形成元素としてし結晶粒の細粒化に効果を発揮する
元素であるが、多量の添加は炭化物の形成による靱性の
著しい低下をもたらすために、その上限を0.05%に
する必要があるが、所定の効果を得るためには0.00
3%以上の添加が必要であり、その範囲を0.003〜
0.05%とする。
【0027】Mg:Mgは本発明の主たる合金元素であ
り、主に脱酸材として添加されるが、0.01%を越え
て添加されると、粗大な酸化物が生成し易くなり、母材
およびHAZ靱性の低下をもたらす。しかしながら、
0.0001%未満の添加では、粒内変態およびピニン
グ粒子として必要な酸化物の生成が十分に期待できなく
なるため、その添加範囲を0.0001〜0.01%と
限定する。
【0028】O:OはMg含有酸化物を生成させるため
の必須元素である。鋼中に最終的に残存する酸素量とし
ては、0.0001%未満では酸化物の個数が十分とは
ならないために、0.0001%を下限値とする。一
方、0.015%を超えて残存した場合は、粗大な酸化
物が多くなり、母材およびHAZ靭性の低下をもたら
す。従って、上限値を0.015%としたが、好適な上
限値は0.008%である。
【0029】なお、本発明においては、強度および靱性
を改善する元素として、Cu、Ni、Cr、Mo、V、
Nb、Zr、Ta、Bの中で、1種または2種以上の元
素を添加することができる。 Cu:Cuは、靱性を低下させずに強度の上昇に有効な
元素であるが、0.05%未満では効果がなく、1.5
%を越えると鋼片加熱時や溶接時に割れを生じやすくす
る。従って、その含有量を0.05〜1.5%以下とす
る。
【0030】Ni:Niは、靱性および強度の改善に有
効な元素であり、その効果を得るためには0.05%以
上の添加が必要であるが、5%以上の添加では溶接性が
低下するために、その上限を5%とする。 Cr:Crは析出強化による鋼の強度を向上させるため
に、0.02%以上の添加が有効であるが、多量に添加
すると、焼入れ性を上昇させ、ベイナイト組織を生じさ
せ、靱性を低下させる。従って、その上限を1.5%と
する。
【0031】Mo:Moは、焼入れ性を向上させると同
時に、炭窒化物を形成し強度を改善する元素であり、そ
の効果を得るためには、0.02%以上の添加が必要に
なるが、1.5%を越えた多量の添加は必要以上の強化
とともに、靱性の著しい低下をもたらすために、その範
囲を0.02〜1.5%とする。 V:Vは、炭化物、窒化物を形成し強度の向上に効果が
ある元素であるが、0.01%以下の添加ではその効果
がなく、0.1%を越える添加では、逆に靱性の低下を
招くために、その範囲を0.01〜0.1%以下とす
る。
【0032】Nb:Nbは、炭化物、窒化物を形成し強
度の向上に効果がある元素であるが、0.0001%以
下の添加ではその効果がなく、0.2%を越える添加で
は、靱性の低下を招くために、その範囲を0.0001
〜0.2%以下とする。 Zr、Ta:ZrとTaもNbと同様に炭化物、窒化物
を形成し強度の向上に効果がある元素であるが、0.0
001%以下の添加ではその効果がなく、0.05%を
越える添加では、逆に靱性の低下を招くために、その範
囲を0.0001〜0.05%以下とする。
【0033】B:Bは一般に、固溶すると焼入れ性を増
加させるが、またBNとして固溶Nを低下させ、溶接熱
影響部の靱性を向上させる元素である。従って、0.0
003%以上の添加でその効果を利用できるが、過剰の
添加は、靱性の低下を招くために、その上限を0.05
%とする。
【0034】Ca、REM、Y、Hf、Re:Caおよ
びREMは硫化物を生成することにより伸長MnSの生
成を抑制し、鋼材の板厚方向の特性、特に耐ラメラティ
アー性を改善する。また、Ca、REM、Y、Hf、
W、Reは溶存酸素量の低減効果によりMg含有酸化物
の生成に有効に作用する。以上の効果はともに0.00
01%未満では得られないのでこれを下限値にした。逆
に、Caでは0.005%を越えると、また、REM、
Y、Hf、W、Reでは0.050%を超えると粗大な
酸化物個数が増加し、超微細なMg含有酸化物の個数が
低下するため、その上限をそれぞれ0.005%、0.
005%とする。
【0035】上記の成分を含有する鋼は、製鋼工程で溶
製後、連続鋳造などをへてスラブ加熱、圧延を施され厚
板とされる。この場合、圧延方法と加熱冷却方法および
熱処理方法においては、当該分野で従来から適用されて
いる方法を用いてもHAZ靱性に関しては、何ら差し支
えがない。特に、母材の粒径が小さければ小さい程、H
AZ部との粒径差が大きくなることから、本発明による
HAZ旧γ粒径の微細化はHAZ靭性だけでなく硬度マ
ッチングなどを考慮する必要がある場合にはますます効
力を発揮する。
【0036】
【実施例】次に、本発明の実施例について述べる。表1
の化学成分を有する240mmの厚みを有するスラブまた
は鋼塊を板厚10mm〜100mmまで種々の最終板厚に熱
間圧延し、「空冷」、「水冷」、「水冷+焼戻し」等の
処理を施した。その後、溶接入熱が20kJ/mmの大入熱
を付与し、旧γ粒径を測定するとともに、HAZ靭性
(試験片採取位置はFL+1mm)を評価し、表2に示し
た。
【0037】
【表1】
【0038】
【表2】
【0039】表1および表2の鋼1〜21は本発明の
例、鋼22〜36は比較例を示す。表2から明らかなよ
うに、これらの本発明鋼はいずれも200μm以下の旧
γ粒径を示しており、すべて−5℃シャルピー吸収エネ
ルギーが150J〜300Jの範囲になっており、いず
れも高い靭性値を示している。このとき酸化物の平均間
隔、粒内フェライトを5個以上含むγ粒の割合は、全て
要件を満足している。それに対し、鋼22〜36は本発
明方法から逸脱した比較例を示す。すなわち、鋼26、
27、28、30、32、33、34、35は基本成分
あるいは選択元素の内いずれかの元素が、発明の用件を
越えて添加されている例であり、本発明の重要な部分で
ある酸化物の平均間隔の要件は満たしているものの靱性
劣化要因となる元素が過剰に添加された事により大入熱
HAZ靱性の劣化が助長されたものである。また、鋼2
3、24、25、29、31、36はMgが無添加であ
り、吸収エネルギ―は低い。以上の比較例ではいずれも
HAZ靱性は低いレベルにあることが分かる。なお、比
較鋼の22に示すように、微細な酸化物が多く存在して
いることから酸化物の平均間隔の要件を満たしているに
も関わらず靱性劣化が大きくなっているのは過剰のMg
が添加された事に起因しており、5μm以上の粗大な粒
子が増大したためである。
【0040】さらに、耐候性試験についても実施した。
表3は、本発明鋼1、2、17および比較鋼23、2
4、29の耐候性を評価した結果を示している。本発明
鋼の1、2、17は、それぞれ比較鋼の23、24、2
9の成分系にMgを含んだ成分に対応している。
【0041】
【表3】
【0042】耐候性の試験は、いずれもの鋼材も黒皮を
削除した後の表面直下から6×50×150mmのサイズ
の試験片を採取し、千葉県富津市臨海部において、日照
及び日陰環境で1、3及び7年の曝露試験を実施した。
離岸距離は800mであり、飛来塩分量は、年間平均で
0.2mdd である。日照環境下の大気曝露試験は、試験
片を南向き、水平に対し30°の傾斜で設置して行っ
た。日陰環境下の大気曝露試験は、図2に示す模式図の
日陰大気曝露試験法で、試験片を水平に設置し、雨に濡
れることが無く、水分は結露のみにより供給され、且
つ、海風は試験片面を通るようにして、試験を行った。
耐候性の評価は、さび層の目視外観評価と腐食減量によ
って行った。さび層の目視外観評価は、暴露期間が最も
長い7年のものについて実施し、均一に安定さびが形成
されて最も状態が良好と判断される場合を評点4とし、
層状剥離さびや鱗状さび等の不均一な腐食形態が増加す
るにともなって評点を下げ、全面に層状剥離さびが認め
られて、さびの安定化と腐食の進展防止が全く望めない
状態を評点1とした。腐食減量は、各暴露期間での平均
板厚減少量を測定し、平均板厚減少量と暴露期間との両
対数プロットから外挿して50年後の推定板厚減少量を
求めて評価した。
【0043】表3から、Mgを含む鋼材がMgを含まな
い対応比較鋼に比べいずれも耐候性が、さび層の目視外
観評価値は高く、50年後の推定板厚減少量は小さくな
っており、Mgを添加することにより耐候性が格段に優
れていることが明らかである。特に、従来の海浜耐候性
鋼(高Ni系鋼)でも安定さびの形成が期待できなかっ
た日陰環境においても、日照環境と同等の耐候性が達成
されている。以上の実施例では、固溶Mg量が確保され
ている場合に明らかに耐候性が優れている。このよう
に、本発明によれば、優れた大入熱HAZ靭性を有し、
かつ、高飛来塩分環境での耐候性が、日照、日陰ともに
極めて優れていることが明らかである。
【0044】
【発明の効果】本発明により、大入熱溶接でのHAZ靱
性を向上させることができ、広い入熱範囲で優れたHA
Z靭性を確保することで可能となる。また同時に耐候性
を向上させることから、腐食損傷を低減でき、構造物と
しての耐久性をより長期化させることが可能となる。す
なわち、道路橋、鉄道橋等の鋼橋をはじめとする各種構
造物の安全性を大幅に向上させ、かつ長期間の使用が可
能となることから、産業界への貢献は計り知れない。
【図面の簡単な説明】
【図1】IGFを3個以上含む旧γ粒の割合と靱性との
関係を模式的に示した図である。
【図2】実施例における日陰大気曝露試験法を模式的に
示した図である。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 原 卓也 千葉県富津市新富20−1 新日本製鐵株式 会社技術開発本部内 (72)発明者 斎藤 直樹 愛知県東海市東海町5−3 新日本製鐵株 式会社名古屋製鐵所内 (72)発明者 星野 学 愛知県東海市東海町5−3 新日本製鐵株 式会社名古屋製鐵所内

Claims (7)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 溶接熱影響部のミクロ組織において、旧
    γ粒の平均粒径が200μm以下で、全γ粒のうち、粒
    内にMgOまたはMg含有酸化物を核にした硫化物およ
    び窒化物の単独または複合析出粒子を核にした粒内フェ
    ライトが3個以上有するγ粒が30%以上であること特
    徴とする溶接HAZ靱性および耐候性に優れた橋梁用高
    強度鋼。
  2. 【請求項2】 粒子径:0.2〜5μmのMg含有酸化
    物を核にして、硫化物および窒化物の単独または複合し
    て析出した複合粒子が、平均粒子間隔:30〜100μ
    mで鋼中に含有し、かつ粒子径:0.005〜0.2μ
    m未満のMgOまたはMg含有酸化物を核にして、硫化
    物および窒化物の単独または複合して析出した0.01
    〜2μmの複合粒子を平均粒子間隔30μm以下で鋼中
    にそれぞれ微細分散した状態で含有することを特徴とす
    る請求項1に記載の溶接HAZ靱性および耐候性に優れ
    た橋梁用高強度鋼。
  3. 【請求項3】 0.005〜0.1μmのMg硫化物を
    核にして、他の硫化物および窒化物の単独または複合し
    て析出した0.01〜2μmの複合粒子を平均粒子間
    隔:30μm以下で鋼中に含有することを特徴とする請
    求項1または2に記載の溶接HAZ靱性および耐候性に
    優れた橋梁用高強度鋼。
  4. 【請求項4】 質量%で、 C :0.01〜0.2%、 Si:0.02〜0.5%、 Mn:0.3〜3%、 P :0.03%以下、 S :0.0001〜0.03%、 Al:0.0005〜0.1%、 Ti:0.003〜0.05%、 Mg:0.0001〜0.01%、 O :0.0001〜0.015%を含有し、残部鉄お
    よび不可避的不純物からなる請求項1乃至3の何れか1
    項に記載の溶接HAZ靱性および耐候性に優れた橋梁用
    高強度鋼。
  5. 【請求項5】 質量%で、 Cu:0.05〜1.5%、 Ni:0.05〜5%、 Cr:0.02〜1.5%、 Mo:0.02〜1.5%、 V :0.01〜0.1%、 Nb:0.0001〜0.2%、 Zr:0.0001〜0.05%、 Ta:0.0001〜0.05%、 B :0.0003〜0.05%のうちの1種または2
    種以上を、さらに含有することを特徴とする請求項1乃
    至4の何れか1項に記載の溶接HAZ靱性および耐候性
    に優れた橋梁用高強度鋼。
  6. 【請求項6】 質量%で、 Ca:0.0001〜0.005%、 REM:0.0001〜0.05%、 Y :0.0001〜0.05%、 Hf:0.0001〜0.05、 Re:0.0001〜0.05%のうちの1種または2
    種以上を、さらに含有することを特徴とする請求項1乃
    至5の何れか1項に記載の溶接HAZ靱性および耐候性
    に優れた橋梁用高強度鋼。
  7. 【請求項7】 請求項1乃至6の何れかの1項に記載の
    橋梁用高強度鋼の製造にあたり、製鋼段階において、S
    i、Mnを添加して弱脱酸処理を行った後、最終含有量
    で0.003〜0.05質量%のTiと、0.005質
    量%以下のAl、Mg、Ca、REMのうちの何れかを
    順次あるいは同時に添加して溶存酸素を50ppm 以下と
    し、さらに最終含有量で0.01質量%以下のMgを添
    加し、Mg添加直前、直後あるいは同時に、1次脱酸生
    成物生成のための酸素源を供給した上で、これを152
    0〜1650℃の温度で鋳造後、熱間圧延して鋼板とす
    ることを特徴とする溶接HAZ靱性および耐候性に優れ
    た橋梁用高強度鋼の製造方法。
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