JP2003046171A - 波長可変レーザー及びラマン分光装置 - Google Patents

波長可変レーザー及びラマン分光装置

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智之 和田
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Abstract

(57)【要約】 【課題】 背景放射光のない波長可変レーザーを提供す
る。 【解決手段】 所定の透過率を有する出射側ミラー11
2と全反射ミラー110とによりレーザー共振器を構成
し、全反射ミラーに近い側に波長可変レーザー媒質14
を配置し、出射側ミラーに近い側に波長選択用の複屈折
性音響光学素子100と波長分散補正素子28とを近接
して配置する。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明はレーザー、特に分光
分析用の光源として有用な波長可変レーザー、及びその
波長可変レーザーを用いたラマン分光測定装置に関す
る。
【0002】
【従来の技術】近赤外線ラマン分光法は、化学及び生物
学の分野における試料の分析に広く利用されている。ラ
マン分光法の生体臨床医学分析への適用は、次の3つの
理由によって多くの研究者の興味を引いている。
【0003】(1)ラマン分光法は非侵襲的な光学的測
定法であること。最近開発された光ファイバープローブ
法は生物学的組織のin situ測定を可能にした。Bushman
らは、内視鏡的ラマン分析における微小なラマン光ファ
イバープローブの有用性を実証した(Anal.Chem.,72,37
71(2000))。 (2)ラマンスペクトルは多くの情報を含んでいるこ
と。 (3)実時間分析が可能であること。
【0004】ここ10年の間、励起光源としてNd:Y
AGレーザー(1064nm)を用いる近赤外線フーリ
エ変換ラマン分光法は、生体臨床医学の研究において強
力な手段として利用されてきた(Appl.Spectrosc.,46,5
33(1992);Spectrochim.ActaA,55,1691(1999);J.Mol.Str
uc.,480-481,21(1999))。最近の近赤外線励起ラマンin
situ研究においては、CCD付きの分散型ラマン分光
計が、フーリエ変換ラマン法より高速で高感度なラマン
スペクトル測定法として一般的になってきた。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】励起波長を掃引しなが
らラマンスペクトルを測定すると、ラマン励起プロファ
イルが測定される。ラマン励起プロファイルからは分子
の励起状態における電子遷移のモーメント等の情報を得
ることができる。生体分子スペクトルの統計的分析や、
2次元解析法による分析において、非侵襲的外部摂動と
して励起波長変化が使用できる。その測定に必要とされ
る波長可変レーザーとしては従来、通常のTi:サファ
イヤレーザーや色素レーザー、様々な固定波長レーザー
の組合せが用いられていたが、背景放射光等の不純な光
によるスペクトル取得の妨害や、不純光を取り除くため
に用いるバンドパスフィルターによる励起波長の限定等
の問題があった。
【0006】また、レーザー波長を変える度にレーザー
光軸を再調整しなければならないという別の問題もあっ
た。波長可変レーザーの多くは、波長選択のために複屈
折フィルタ、回折格子、あるいはプリズム等の角度同調
デバイスを用いている。レーザー波長のみでなく、ビー
ムの照射位置の安定性もこれらの同調デバイスの機械精
度に依存するため、それほど高くすることはできない。
ラマンスペクトルの測定強度はサンプル上のレーザー光
照射位置に依存する。一方、高速な波長掃引が可能な波
長可変レーザーとして電子制御型波長可変レーザー〔以
下、ETT(Electronically Tuned Tunable)レーザーと
いう〕が本発明者らのグループによって開発された。
【0007】ETTレーザーは、図2に概略構成を示す
ように、所定の透過率を有する出射側ミラー112と全
反射ミラー110によりレーザー共振器が構成されてお
り、レーザー共振器内には波長可変レーザー媒質(例え
ば、チタンサファイア、色素等)14と、波長選択用の
複屈折性音響光学素子100と、回折角の波長分散補正
素子としてのプリズム28が出射側ミラー112と全反
射ミラー110の間に配設されている。複屈折性音響光
学素子100には、音響波入力手段としてRF電源20
により駆動される圧電素子22が取り付けられている。
RF電源20により圧電素子22を駆動すると、音響波
が複屈折性音響光学素子100中を伝播する。全反射ミ
ラー110は、複屈折性音響光学素子100によって所
定の方向に回折された回折光106のみを垂直反射する
ように構成されている。
【0008】励起レーザー光24によってレーザー媒質
14を励起する。また、レーザー発振させたいレーザー
光の周波数(波長)に応じてRF電源の周波数を制御す
る。このようにすると、レーザー媒質14から出射され
複屈折性音響光学素子100に入射された広範囲の波長
帯域の出射光の中で、RF電源20の周波数ωaに応じ
た次の周波数ωoの光が回折光106として複屈折性音
響光学素子100から全反射ミラー110の方向に回折
される。
【0009】ωo=ωi+ωa (1)
【0010】こうして、周波数ωiの光のみがレーザー
媒質14内を往復することができ、レーザー媒質で増幅
されてレーザー発振を生じ、レーザー共振器からレーザ
ー光として出射する。波長分散補正用プリズム28は、
複屈折性音響光学素子100から出射した回折光106
を、回折光の波長に関わらず常に全反射ミラー110に
垂直入射させるように設計されている。この場合、複屈
折性音響光学素子100で回折されて回折光106とな
った光線は、いずれの波長においても全反射ミラー11
0で反射されて同一の光路を逆に辿ることができるよう
になり、レーザー媒質14で効率よく増幅されてレーザ
ー発振することが可能となる。
【0011】このETTレーザーは、レーザー発振波長
を高速に切り換えることができるという利点を有するも
のの、レーザー媒質14から発せられる広帯域の自発蛍
光に由来するバックグラウンドノイズは、高感度ラマン
分光測定にとって有害である。つまり、レーザー媒質1
4から発せられるブロードな自発蛍光(チタンサファイ
アの場合、650〜1100nm)が背景放射光として
レーザー発振光に混ざるため、励起光の1億分の1程度
の強度しかないラマン散乱光を測定するためには、背景
放射光の除去のためにバンドパスフィルタを併用する必
要がある。バンドパスフィルタは回転させても透過波長
が数nmしか変わらないため、ETTレーザーを用いて
ラマン励起プロファイルを測定しようとすると、励起波
長毎に多数のバンドパスフィルタを用意する必要があ
り、とても実用的とはいえなかった。本発明は、このよ
うな問題点に鑑み、背景放射光のない波長可変レーザー
を提供することを目的とする。本発明は、また、高精度
なラマン分光測定やラマン励起プロファイルの迅速な測
定が可能なラマン分光装置を提供することを目的とす
る。
【0012】
【課題を解決するための手段】本発明においては、複屈
折性音響光学素子の回折効果を用いて、近赤外ラマン分
光法に好適な蛍光バックグラウンドのない波長可変レー
ザーを開発した。本発明による波長可変レーザーは、所
定の透過率を有する出射側ミラーと全反射ミラーとによ
り構成されたレーザー共振器内に、波長可変レーザー媒
質と、波長選択用の複屈折性音響光学素子と、複屈折性
音響光学素子による回折角の波長分散補正素子としての
プリズムとを配置した波長可変レーザーにおいて、全反
射ミラーに近い側に波長可変レーザー媒質を配置し、出
射側ミラーに近い側に複屈折性音響光学素子及びプリズ
ムを配置したことを特徴とする。
【0013】波長可変時の出射レーザー光の光軸の変動
が出射レーザー光のビーム径の10分の1以下になるよ
うに、複屈折性音響光学素子と前記プリズムの間隔を設
定するのが好ましい。波長可変時の出射レーザー光の光
軸変動がビーム径の10分の1以内であれば、それを光
学系で有効ビーム径の10分の1程度に収束した試料上
の光照射点はほとんど移動しないと見積もられ、試料測
定における影響はほとんどない。本発明によるラマン分
光測定装置は、前記した波長可変レーザーと、分光器
と、波長可変レーザーからの出射光を試料に収束するた
めの光学系と、試料からの散乱光を分光器の入射スリッ
トに集光するための光学系とを備えることを特徴とす
る。
【0014】本発明の波長可変レーザーを使用すると、
バンドパスフィルタを使用せずにバンドパスフィルタを
用いたときと同程度かそれ以上の背景放射光除去効果が
得られる。バンドパスフィルタを使用したときと大きく
異なるのは、本発明の波長可変レーザーは波長選択素子
をそのまま背景放射光除去フィルタとして用いているた
め、波長可変に完全に対応している点である。
【0015】また、この波長可変レーザーは非常に高い
ポインティングスタビリティを兼ね備えている。ラマン
測定では10μm程度の領域にレーザー光を集光して試
料を照射し、その領域から出てくる散乱光を分析する。
従来の波長可変レーザーを用いたラマン測定では、波長
を変えるたびに光軸の調整が必要であったが、本発明の
波長可変レーザーを使用すると光軸の再調整の必要がな
い。従って、励起波長を自由に変えながらラマン分光測
定が可能である。
【0016】更に、励起波長を掃引しながらラマンスペ
クトルを測定すると、ラマン励起プロファイルの測定が
可能であるが、従来の波長可変レーザーを用いる場合に
は、バンド相対強度の定量的解析をするために何らかの
内部標準が必要であった。本発明の波長可変レーザーを
用いると、励起波長変化に伴う焦点位置の誤差が非常に
小さいので、内部標準を使わずにレーザー強度と分光器
の装置係数の補正だけでバンド相対強度の定量的解析が
可能である。スペクトル測定における本発明の波長可変
レーザーの利点は以下の通りである。
【0017】1.バックグラウンドノイズがない 2.操作及び制御が容易である 3.照射位置の安定性及びTEM00のビームプロファ
イル 4.波長及び強度を正確に制御することができる 5.ソリッドステートレーザー(メンテナンスが容易) 6.ラマン分光応用に好適な広範な可変波長範囲(例え
ば、レーザー媒質としてチタンサファイアを用いる場
合、700〜1000nm)を有する
【0018】
【発明の実施の形態】以下、図面を参照して本発明の実
施の形態を説明する。図1は、本発明による背景放射光
のないETTレーザーの光学系の一例を示す概略図であ
る。本発明によるETTレーザーの共振器の構成は、ア
ウトプットカップリングミラーと全反射ミラーの位置が
入れ替わっている点を除いて、従来のETTレーザーの
共振器の構成と同じである。発振レーザー光の波長及び
強度はプログラムされたコンピュータによって制御され
る。
【0019】この例では、レーザー共振器内を往復する
光の光路がアルファベットのZ字形状になる、いわゆる
Zホールド型のレーザー共振器を用いている。Zホール
ド型のレーザー共振器は所定の透過率(例えば反射率9
8%、透過率2%)を有する出射側ミラー112と全反
射ミラー110を備える。さらに、励起レーザー光Aを
入射させるとともに出射側ミラー112と全反射ミラー
110との間を往復する光Bを反射する第1中間ミラー
37と、出射側ミラー112と全反射ミラー110との
間を往復する光Bを反射する第2中間ミラー38を備え
ており、レーザー共振器内を往復する光Bの光路はアル
ファベットのZ字形状とされる。
【0020】レーザー共振器の光路上の第1中間ミラー
37と第2中間ミラー38の間には、波長可変レーザー
媒質として入射光の入射端面がブルースターカットされ
たレーザー媒質14が、その入射端面が入射光の反射が
ゼロとなるブルースター角となるようにして配置されて
おり、励起レーザー光Aにより縦方向同軸励起によりレ
ーザー発振が生じるように構成されている。レーザー共
振器の光路上の第2中間ミラー38と出射側ミラー11
2の間には、波長選択手段としてTeOなどからなる
複屈折性音響光学素子100が配置されている。
【0021】複屈折性音響光学素子100には、音響波
入力手段として、パーソナル・コンピュータ26により
周波数を制御されたRF電源20で駆動される圧電素子
22が取り付けられている。従って、パーソナル・コン
ピュータ26の制御により任意の周波数に設定されたR
Fドライバ20により圧電素子22を駆動してその周波
数に応じた音響波を複屈折性音響光学素子100に励起
することにより、複屈折性音響光学素子100は前記
(1)式で表される周波数ωoの光Dを回折する。圧電
素子22は、出射側ミラー112から出射させたい出射
レーザー光Cの波長の光B(周波数ωi≒ωo)に対応
する光のみを、複屈折性音響光学素子100が所定の方
向に回折した回折光Dとして出射し、レーザー共振でき
るように、パーソナル・コンピュータ26により複屈折
性音響光学素子100へ入力する音響波の周波数ωaを
制御する。
【0022】複屈折性音響光学素子100と出射側ミラ
ー112の間には、回折光Dの分散を補正するための波
長分散補正素子としてのプリズム28が配設されてい
る。この回折角の波長分散補正用プリズム28を用いる
ことにより、出射レーザー光Cの方向を一定にすること
ができる。レーザー共振器内へ励起レーザー光Aを入射
するための励起レーザー32としては、パルスレーザー
又は連続発振レーザー(CWレーザー)を用いることが
できる。本例では、レーザー媒質をチタンサファイアと
し、2倍周波CW−QスイッチNd:YAGレーザーか
らの532nmのパルス光(1.5kHz)をポンピン
グ光として用いた。励起レーザー32によって発生され
た励起レーザー光Aは、全反射ミラー34により全反射
集光ミラー36に反射され、全反射集光ミラー36によ
り集光されて第1中間ミラー37を介してレーザー媒質
14を縦方向同軸励起するように入射される。
【0023】以上の構成において、出射レーザー光Cを
得るには、励起レーザー32により入射された励起レー
ザー光Aを用いてレーザー媒質14を励起する。また、
出射側ミラー112から出射させたい出射レーザー光C
の波長(周波数ωo)に応じて、RFドライバ20の周
波数ωaをパーソナル・コンピュータ26により制御
し、圧電素子22を駆動する。このようにすると、レー
ザー媒質14から出射して複屈折性音響光学素子100
に入射された広範囲の波長帯域の光の中で、RFドライ
バ20の周波数に応じた波長の光は、複屈折性音響光学
素子100で回折光D(周波数ωo)として回折され
る。この回折光Dは、回折角の波長分散補正用プリズム
28を介して出射側ミラー112に垂直入射し、出射側
ミラー112で反射されてZ字形状の光路を辿ってレー
ザー共振器内を往復する(レーザー媒質14の位置では
角周波数ωi)。従って、RF電源20の周波数に応じ
た波長の光のみが増幅されてレーザー発振し、レーザー
共振器から当該波長の出射レーザー光C(周波数ωo)
を出射させる。
【0024】レーザー出力及び周波数の安定化のため、
複屈折性音響光学素子をdouble radio frequency drivi
ng(DRD)法で制御した。複屈折性音響光学素子ドラ
イバの第1のRFチャネル(RF1)は複屈折性音響光
学素子100にRF信号を供給し、レーザー放射の波長
と強度を変える。第2のRFチャネル(RF2)は、R
F1の出力変動を補償し各周波数で最適化するように制
御される。この結果、RF1及びRF2から複屈折性音
響光学素子100に供給されるエネルギーの和は一定に
保たれる。RF2の周波数は、レーザー発振波長域外に
対応する85MHzに固定した。このDRD法によっ
て、波長(<0.1nm)及び強度(10パルスの平均
でみて<±2%:この安定度はポンプレーザーの安定度
によって制限される)に対する高い信頼度が実現され
る。スペクトルのFWHM(Full width at half maxim
um)は典型的には0.2nm以下であった。
【0025】図3は、光源として図1に示した本発明の
波長可変レーザーを用いたラマン分光測定装置の概略図
である。波長可変レーザー150からの出射光はレンズ
210によって試料215に収束照射される。試料21
5から発生した散乱光はレンズ221,222によって
トリプルポリクロメータ223の入射スリットに集光さ
れる。トリプルポリクロメータ223で分光されたスペ
クトル信号は、液体窒素冷却CCD検出器224で検出
した。トリプルポリクロメータ223、CCD検出器2
24、及び波長可変レーザー150は、全てコンピュー
タ26によって同時に制御した。分光計用の分光測定プ
ログラムの設定パラメータは励起波長、測定レンジ、ス
リット幅、露光時間、及び積算回数である。
【0026】図4は、サンプルキュベット中に散乱体と
してアルミニウムフォイルを配置し、従来の波長可変レ
ーザーと本発明の波長可変レーザーを用いて同じ条件で
測定した散乱スペクトルの比較図である。横軸は、光源
波長(700nm)との波長差、縦軸はCCDのカウン
ト数(CCD検出器での信号強度、本明細書ではCCD
カウントという)である。
【0027】スペクトルaは、励起光源として、図2に
示すように波長分散補正用プリズム28の側に全反射ミ
ラーを配置し、レーザー媒質14の側に出射側ミラーを
配置した波長可変レーザーを用いた場合の散乱スペクト
ルである。また、スペクトルbは、図1に示すように、
波長分散補正用プリズム28の側に出射側ミラーを配置
し、レーザー媒質14の側に全反射ミラーを配置した本
発明の波長可変レーザーを用いた場合の散乱スペクトル
である。スペクトルb′はスペクトルbの拡大図であ
る。
【0028】スペクトルaの強度と、図4の測定と同じ
条件で測定したとき0.3CCDカウントであるサンプ
ルキュベットに入れたアセトンの強度最大のラマンバン
ドとを比較すると、従来の波長可変レーザーではノイズ
となる背景放射光のレベルは標準的なラマン材料の信号
レベルより2桁大きいことが分かる。これに対して、本
発明の波長可変レーザーを用いるとレーザー媒質14の
自発蛍光に起因するノイズがほとんど観測されないこと
が分かる。これは、蛍光成分が複屈折性音響光学素子に
よって除去されたことを示している。スペクトルb′の
ラマンシフトの小さい側に現れている鋭いピーク及びベ
ースラインの増大は迷光に基づくものである。1900
cm−1と3300cm−1に見られるステップ的な強
度変化は、全周波数範囲をカバーするために狭い範囲の
スペクトル成分を結合したとき生じた人工的なものであ
る。
【0029】ラマン励起光源の観点、特に共鳴ラマン励
起プロファイル測定の観点からすると、スペクトルにノ
イズが無いことに加えて、全ての波長可変範囲にわたっ
て照射点の安定性と高いビームクオリティが望まれる。
図5は、本発明の可変波長レーザーの出力側ミラーから
300mmの位置で測定したレーザー発振波長700n
mと850nmにおけるビームプロファイルを比較した
ものである。波長可変したときのビームパターン及びビ
ーム中心の変動をCCDヘッドに装着したビームプロフ
ァイラによって測定した。
【0030】複屈折性音響光学素子から出射するビーム
の回折角は波長に依存し、波長700nmに対する回折
角と波長1000nmに対する回折角の差は理論上で
は、0.35゜である。この回折角の波長依存性による
ビームの分離は、プリズムを複屈折性音響光学素子に近
づけることによって小さくすることができる。本例で
は、複屈折性音響光学素子とプリズムの距離を2cmと
して実測した。波長が700nmから850nmに変化
するとき、ビームの中心の移動はわずか2ピクセル
(0.046mm)であった。ビームの直径は700n
mのとき56ピクセル(1.29mm)、850nmの
とき63ピクセル(1.45mm)であるから、中心点
の変位は実際上無視できる。測定されたビームパターン
はTEM00モードを示していた。これらの結果から、
本発明の波長可変レーザーからのビームプロファイル
は、波長選択素子として複屈折フィルタ、回折格子ある
いはプリズムを用いる通常のチタンサファイアレーザー
と比較して遜色無く、光軸のズレは、従来のETTレー
ザーと比較して遜色無いことが確認できた。
【0031】図6は、図3に示したラマン分光測定装置
を用いて測定した、水溶液中のデオキシヘモグロビンの
励起ラマンプロファイルを示す図である。図6には、励
起波長を700〜860nmの範囲で10nmステップ
で変えて測定した17のラマンスペクトルを示す。一番
上のスペクトルは励起波長700nmのもの、下に行く
に従って励起波長が長くなり、一番下のスペクトルは励
起波長860nmのものである。
【0032】全測定を通して、光軸の再調整は必要なか
った。露光時間が30分と長いにもかかわらず、ラマン
スペクトル中にレーザーからの背景放射光は観測されな
かった。この結果は、本発明の波長可変レーザーがラマ
ン分光法の光源として高い性能を有することを示すもの
である。
【0033】スペクトル中の共鳴効果を比較するには、
異なる励起波長における全ての測定データの強度を校正
しなければならない。通常のラマン励起プロファイル測
定においては、強度校正のために非共鳴内部標準をサン
プルに添加する。しかし、増強効果が最大で10倍に
も達する共鳴サンプルの測定の場合には、大量の内部標
準を添加しなければならない。内部標準物質は生物活性
を変更することがあるため、in situ測定には使うこと
ができない。従って、ここでは得られたスペクトルの強
度を校正するために理論的な方法を用いた。ラマンスペ
クトルの強度(Ir)を説明するパラメータは以下の通
りである。
【0034】 Ir∝α(v)I(ve)T(v)vA(v)−1c α(v):共鳴効果に起因するスペクトル強度の増強効果 I:励起光強度 T(v):分光計のスループット及び検出器の感度 v:ラマンスペクトルの絶対波数 A(v):サンプルに起因する自己吸収 c:サンプル濃度
【0035】T(v)は、本システムによって黒体輻射光
のスペクトルを記録することによって得られる。A(v)
は、デオキシヘモグロビンが700〜1000nm領域
に非常に弱い吸収を有するため定数とみなすことができ
る。図6中のデオキシヘモグロビンのラマンスペクトル
は全て上式によって標準化されているため、励起波長に
依存する共鳴効果の強さを比較することが可能である。
デオキシヘモグロビンの最大吸収波長760nmで励起
したラマンスペクトルは、特徴的な共鳴増強効果を示さ
ない。励起波長が長くなるに従ってラマン強度が連続的
に減少することにより、これらの共鳴ラマンスペクトル
は、デオキシヘモグロビンの700〜1000nm領域
に観測される電子遷移よりも、いわゆるQバンドと呼ば
れる電子遷移の影響によって増強されていることを示唆
している。
【0036】
【発明の効果】本発明によると、背景放射光のない波長
可変レーザーが得られる。また、本発明によると、高精
度なラマン分光測定やラマン励起プロファイルの迅速な
測定が可能なラマン分光装置が得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明による背景放射光のないETTレーザー
の光学系の一例を示す概略図。
【図2】従来のETTレーザーの概略構成図。
【図3】光源として本発明の波長可変レーザーを用いた
ラマン分光測定装置の概略図。
【図4】従来の波長可変レーザーと本発明の波長可変レ
ーザーを用いて同じ条件で測定した散乱スペクトルの比
較図。
【図5】700nmと850nmで測定した本発明の波
長可変レーザーのビームプロファイルを示す図。
【図6】水溶液中のヘモグロビンのラマンスペクトル測
定結果を示す図。
【符号の説明】
14…波長可変レーザー媒質、20…RF電源、22…
圧電素子、26…コンピュータ、28…波長分散補正用
プリズム、32…励起レーザー、100…複屈折性音響
光学素子、110…全反射ミラー、112…出射側ミラ
ー、150…波長可変レーザー、215…試料、223
…トリプルポリクロメータ、224…CCD検出器
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 田代 英夫 埼玉県和光市広沢2番1号 理化学研究所 内 Fターム(参考) 2G020 AA03 CA04 CB23 CC13 CC30 2G043 AA01 BA16 CA03 EA03 FA06 GA02 GB01 GB21 HA01 HA02 HA15 JA04 JA05 LA03 5F072 AB02 AB20 AC02 HH05 JJ13 KK06 KK18 QQ02 SS01 SS06 YY11

Claims (3)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 所定の透過率を有する出射側ミラーと全
    反射ミラーとにより構成されたレーザー共振器内に、波
    長可変レーザー媒質と、波長選択用の複屈折性音響光学
    素子と、前記複屈折性音響光学素子による回折角の波長
    分散補正素子としてのプリズムとを配置した波長可変レ
    ーザーにおいて、 前記全反射ミラーに近い側に前記波長可変レーザー媒質
    を配置し、前記出射側ミラーに近い側に前記複屈折性音
    響光学素子及び前記プリズムを配置したことを特徴とす
    る波長可変レーザー。
  2. 【請求項2】 請求項1記載の波長可変レーザーにおい
    て、波長可変時の出射レーザー光の光軸の変動が出射レ
    ーザー光のビーム径の10分の1以下になるように、前
    記複屈折性音響光学素子と前記プリズムの間隔を設定し
    たことを特徴とする波長可変レーザー。
  3. 【請求項3】 請求項1又は2記載の波長可変レーザー
    と、分光器と、前記波長可変レーザーからの出射光を試
    料に収束するための光学系と、試料からの散乱光を前記
    分光器の入射スリットに集光するための光学系とを備え
    ることを特徴とするラマン分光測定装置。
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