JP2003013187A - 耐磨耗性に優れた摺動部材用Fe−Cr−Ni−Cu合金 - Google Patents

耐磨耗性に優れた摺動部材用Fe−Cr−Ni−Cu合金

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Abstract

(57)【要約】 【目的】 ねずみ鋳鉄に比較して耐食性や靭性が格段に
優れ、高強度化により薄肉化でき、耐焼付き性,耐磨耗
性に優れた摺動部材を得る。 【構成】 この摺動部材用Fe−Cr−Ni−Cu合金
は、C:0.70%以下,Cr:4〜20%,Ni:
0.1〜5.0%,Cu:1.0〜7.5%,Ti:
0.05〜1.50%及びNb:0.05〜1.50%
の1種又は2種を合計で0.05〜2.0%を含み、C
uを主体とする第二相とTi及び/又はNbの炭化物が
マトリックスに分散析出している。(Ti%+Nb%)
≧10×C%を満足する量のTi,Nbを添加してマト
リックスの固溶C量を0.2質量%以下に抑えると、耐
食性を低下させるクロム炭化物の析出が防止される。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、ディスクブレーキのロ
ータ材,ディスク材等の摺動部材として好適な耐磨耗性
に優れたFe−Cr−Ni−Cu合金に関する。
【0002】
【従来の技術】産業の発展に伴って高速化,高効率化の
要求はあらゆる分野で強くなっており、高速化に対応し
た設備改善や材料開発が進められている。設備の高速化
によって高速運転が可能となるが、運転時や停止時の速
度制御で必要とされる制動システムの負荷が大きくな
る。その結果、ディスクブレーキのロータ材ではより高
い品質が要求され,摺動部材と接触する部位においても
高品質が要求される。各部位における要求特性には、安
定した摩擦係数,耐食性が挙げられる。しかも、高速化
に対応する材料に関する要求に応えるため、抜本的な新
材料の開発が急務とされている。
【0003】たとえば、車両運搬設備,電動輸送設備等
のディスクブレーキは大半が鋳鉄製ディスクを使用して
いるが、鋳鉄製ディスクでは重量が嵩み、設備全体の大
型化が避けられない。鋳鉄製ディスクは、消費エネルギ
ーを節減する上でもネックとなる。そのため、ディスク
の軽量化が種々検討されているが、制動部品としての要
求特性やコスト面から鋳鉄製ディスクを凌駕する材料が
実用化されていない。自動車用ディスクブレーキにも、
ねずみ鋳鉄等の高炭素鋳鉄が使用されている。この種の
鋳鉄は、多量に含有する炭素を黒鉛としてマトリックス
に分散させた組織をもち、温度,湿度等の環境変化に拘
らず比較的安定した摩擦特性を呈する。また、熱伝導性
も良好で摩擦熱が分散されるため、局部的な温度上昇に
起因する歪変形を緩和させる作用があり、他の材料系に
みられない特性を示す。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかし、ねずみ鋳鉄等
は、衝撃値や延性が低いため塑性加工が極めて困難な材
料である。そのため、ブレーキディスクの製造に際して
は、プレス加工を採用できず、個々の製品ごとに鋳型を
製作し鋳造する鋳造法に拠らざるを得ない。しかも、湿
潤環境では短期間に腐食して赤錆が発生する致命的な欠
陥がある。更には、高強度化が困難な材料であることか
ら、軽量化を犠牲にしながら、厚肉化によって部材の強
度を向上させている。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明は、このような問
題を解消すべく案出されたものであり、Cuを主体とす
る第二相が微細分散したFe−Cr−Ni−Cu合金を
ねずみ鋳鉄に代えて使用することにより、ねずみ鋳鉄に
比較して耐食性や靭性が格段に優れ、高強度化が可能な
ために薄肉化による軽量化で高速,高効率化に適し、摩
擦特性が安定し耐磨耗性に優れた摺動部材を提供するこ
とを目的とする。
【0006】本発明の摺動部材用Fe−Cr−Ni−C
u合金は、その目的を達成するため、C:0.70質量
%以下,Cr:4〜20質量%,Ni:0.1〜5.0
質量%,Cu:1.0〜7.5質量%,Ti:0.05
〜1.50%及びNb:0.05〜1.50質量%の1
種又は2種を合計で0.05〜2.0質量%を含み、残
部が実質的にFeの組成をもち、Cuを主体とする第二
相とTi及び/又はNbの炭化物がマトリックスに分散
析出していることを特徴とする。
【0007】Ti,Nbの単独又は合計含有量は、C含
有量との間で(Ti質量%+Nb質量%)≧10×C質
量%の関係を満足していることが好ましい。規制量のT
i,Nbを添加することによって,マトリックスの固溶
C量が0.2質量%以下に抑えられる。マトリックス
は、マルテンサイトを含むフェライト相の組織をもって
いる。マトリックスに含まれるマルテンサイト量を焼入
れ等の熱処理により調整すると、要求特性に応じた強度
をFe−Cr−Ni−Cu合金に付与できる。
【0008】
【作用】本発明者等は、高強度で安定した摩擦係数を得
るため、マルテンサイト系ステンレス鋼SUS420J2を用
い、摩擦係数の経時変化をねずみ鋳鉄と比較調査した。
図1の調査結果にみられるように、マルテンサイト系ス
テンレス鋼SUS420J2は、試験初期段階でねずみ鋳鉄と同
等の摩擦係数を示したものの、時間の経過と共に摩擦係
数が上昇して異常音を発生した。また、摩擦試験がある
時間経過した時点で摩擦係数が急激に上昇し、焼付き現
象が発生した。他方、ねずみ鋳鉄では、摩擦係数が実質
的に上昇しなかった。
【0009】ねずみ鋳鉄の摩擦係数が安定している原因
を解明するため、ねずみ鋳鉄の摩擦面における挙動を検
討した。ねずみ鋳鉄は、マトリックスに分散析出した多
量の球状黒鉛が摩擦面の潤滑性や熱拡散性に有効に作用
するため、安定した摩擦係数を維持する。しかし、必要
量の黒鉛晶出には少なくとも3質量%以上のC含有量を
必要とし、靭性を著しく低下させる原因となる。多量の
C含有は、耐食性改善元素として添加したCrをCr炭
化物として消費し、Cr添加による耐食性向上効果を損
なうことにもなる。
【0010】そこで、本発明者等は、球状黒鉛に代わる
元素又は析出物を調査検討した。その結果、製鋼段階で
Cuを溶鋼に添加し、マトリックス及び鋼表面にCuを
主体とする第二相を析出させるとき、耐食性や靭性を劣
化させることなく、球状黒鉛と同様に摩擦係数を安定化
させた鋼材が得られることを見出した。実際、Cuを主
体とする第二相を分散析出させた鋼材では、図2に示す
ようにねずみ鋳鉄とほぼ同様に摩擦係数が安定してお
り、マルテンサイト系ステンレス鋼SUS420J2でみられる
焼付きは皆無であった。Cuを主体とする第二相の分散
析出により摩擦係数の安定化及び焼付き防止が図られる
理由は定かでないが、析出した第二相を介した熱流路が
形成されることから熱拡散率が上昇し、第二相自体が自
己潤滑性を発現したこと等に拠るものと考えられる。何
れにしても、Cuを主体とする第二相の析出によって安
定した摩擦係数が維持され、異常な温度上昇がないこと
は、本発明者等が見出した知見である。
【0011】Fe−Cr−Ni−Cu合金は、焼入れ等
の熱処理でマルテンサイト化することにより高強度化さ
れる。Fe−Cr−Ni−Cu合金は、図3に示すよう
にマルテンサイト量が多くなるほど硬質化し強度が向上
する。そのため、マルテンサイト量を調節することによ
り、要求特性に応じた強度が付与される。たとえば、マ
トリックスに20%以上のマルテンサイト量を生成させ
ると、マルテンサイトが生じていないFe−Cr−Ni
−Cu合金やねずみ鋳鉄に比較して1.3倍以上の強度
を示す。したがって、ねずみ鋳鉄製部材に比較して板厚
を強度向上分だけ薄くでき、軽量化が可能となる。
【0012】更に、Ti,Nbを添加してTi,Nbの
炭化物をマトリックスに析出させるとき、耐磨耗性が向
上する。因みに、Ti,Nb無添加鋼の焼入れ温度を高
く設定することによって焼入れ後の硬さをあげた場合、
図4にみられるように磨耗量が若干低下するものの、顕
著な磨耗抑制効果が得られない。これに対し、同じ組成
の材料にTi,Nbを添加し、約0.5質量%の割合で
Ti,Nbの炭化物を析出させると比磨耗量が著しく向
上した。図4にみられる比磨耗量の差は、Ti,Nb系
炭化物の析出が耐磨耗性の改善に有効であることを示し
ている。
【0013】本発明のFe−Cr−Ni−Cu合金は、
ねずみ鋳鉄以上の耐食性を確保するため4〜20質量%
のCrを含んでいる。一般のマイルドな大気環境での耐
食性は4質量%以上のCr含有で顕著になるが、海塩粒
子や酸性雨等に曝される環境下では10質量%以上のC
r含有量が好ましい。しかし、20質量%を超える過剰
量のCrが含まれると、焼入れ等の熱処理によっても十
分なマルテンサイト量が得られず、延性低下等に起因し
て製造コストも上昇する。
【0014】Cは、焼入れ後の硬さに大きな影響を及ぼ
す成分であり、C含有量が多いほど高強度化する。しか
し、0.70質量%を超える過剰量のC含有は、高温強
度が高くなりすぎて熱間圧延時の負荷が大きくなり、耳
割れ発生等に起因する歩留の低下を招く原因となる。ま
た、凝固過程でCrとの共晶炭化物が生成し、炭化物を
固溶させる加工や熱処理が必要となる。このようなこと
から、C含有量の上限を0.70質量%に設定した。高
炭素鋼を高温から焼入れすると、高強度が得られるもの
の靭性が著しく低下する。低下した靭性は、一般には低
温での歪取り焼鈍等によって回復される。本発明のFe
−Cr−Ni−Cu合金においても、高強度が要求され
る刃物等の用途にあっては低温での歪取り焼鈍によって
耐食性を損なうことなく靭性が回復される。
【0015】他方、強度レベルを下げるとき、或いは強
度が若干低下しても十分な靭性が必要なバイク用ロータ
材等の用途にあっては、高い焼戻し温度が設定される。
焼戻し温度が高くなると、具体的には高炭素鋼の焼入れ
材を600℃で焼戻し処理すると、マルテンサイトに固
溶しているCrとCが結合し、クロム炭化物となって析
出し始める。クロム炭化物の析出に伴い析出物周囲でC
rが消費され、腐食環境に曝されたときCr欠乏相が腐
食起点となるため、耐食性が著しく低下する。Cr欠乏
相に起因する耐食性の低下は、焼入れ後のマルテンサイ
トに固溶しているC量を極力低減することにより防止で
きる。固溶C量の低減は、クロム炭化物が析出するよう
な高温での焼戻し処理が施されてもCrと結合するCの
補給がないことを意味し、結果としてクロム炭化物の析
出が押えられる。
【0016】固溶C量は、Ti,Nbの添加によってマ
トリックス中のCを炭化物として固定することにより低
減できる。固溶C量の低減に及ぼすTi,Nbの影響
は、(Ti質量%+Nb質量%)≧10×C質量%を満
足するようにTi,Nbの1種又は2種を添加するとき
顕著となる。Ti,Nb合計量2.0質量%以下、且つ
で(Ti質量%+Nb質量%)≧10×C質量%を満足
する条件下でTi,Nbを添加することによって固溶C
量が0.20質量%以下に低下し、耐食性に悪影響を及
ぼすCr欠乏相を伴ったクロム炭化物の析出が防止され
る。
【0017】Niは、焼入れ・焼戻し等で生成するマル
テンサイト量を調整する上で有効な合金成分であり、靭
性を改善する作用も呈する。このような作用・効果は
0.1質量%以上のNiで顕著になり、Niの増量に応
じて焼入れマルテンサイトの靭性も向上する。しかし、
5.0質量%を超える過剰量のNiが含まれると、熱処
理法によってはオーステナイトが生成・残存し、強度が
低下する。過剰量のNi添加は、材料コストの上昇にも
つながるので好ましくない。Cuは、耐焼付き性の改善
に有効なCuを主体とする第二相を析出させるために必
要な合金成分である。第二相の安定析出には、少なくと
も1.0質量%以上のCu添加が必要とされる。しか
し、過剰量のCu添加は高温脆化を引き起こすので、C
u含有量の上限を7.5質量%に設定した。Cuを主体
とする第二相の析出量が0.2体積%以上になると、耐
焼付き性の改善が顕著になる。
【0018】以上の基本成分系をもつFe−Cr−Ni
−Cu合金に、高耐食性に有効な3質量%以下のMo,
高温靭性の改善に有効な0.01質量%以下のB,耐高
温酸化性に有効な3質量%以下のAlを必要に応じて添
加することもできる。また、製造上から混入する不純物
に関しては、Pを0.05質量%以下,Sを0.01質
量%以下,Siを3質量%以下,Mnを3質量%以下に
規制することが好ましいが、これら成分は切削性,高温
強度を得るために個々の上限を超えて添加することも可
能である。
【0019】
【実施例】表1の組成をもつFe−Cr−Ni−Cu合
金を常法に従って溶製し、インゴットに鋳造した。各イ
ンゴットを熱間鍛造した後、熱間圧延でホットバーに仕
上げ、ディスクブレーキ用のロータ材に切削加工した。
作製されたロータ材を1050℃に10分間保持した
後、水焼入れし、400℃×1時間の焼戻し処理を施し
た。
【0020】
【0021】熱処理されたロータ材から試験片を切り出
し、Cuを主体とする第二相及びTi,Nb系炭化物の
析出量を測定し、熱処理後の組織を観察した。第二相の
析出量は、試験片をイオンミーリングして作製された薄
膜を透過型電子顕微鏡で観察し、析出物がCuを主体と
する第二相であることをEDX分析で確認した後、透過
型電子顕微鏡の観察写真から析出物の面積を算出し、更
に薄膜の厚みを乗じることによって体積割合として求め
た。
【0022】Ti,Nb系炭化物の析出量は、沃素アル
コール溶液に浸漬した試験片を超音波照射して金属部を
溶解した後、液中に残った炭化物の残渣量から算出し
た。炭化物の形態は、残渣のX線解析で同定した。熱処
理後の組織については、試験片の鏡面研磨仕上げした面
を化学エッチングし、顕微鏡観察によってフェライト,
マルテンサイトを相別判定した。調査結果を表2に示
す。表中、未結合炭素量ΔCは、ΔC=10×C質量%
−(Ti質量%+Nb質量%)の計算値を示す。
【0023】
【0024】次いで、各ロータ材の摩擦特性,耐食性,
機械特性を以下の試験条件で調査した。 〔摩擦磨耗試験〕ピンオンディスク型摩擦磨耗試験機を
用い、市販の自動車用ディスクパットを10mm角に切
り出してピン側にセットし、表1に掲げたロータ材をデ
ィスク側にセットした。試験荷重400Nを加え、摩擦
面における摩擦速度を2m/秒に設定し、ディスクパッ
トにロータ材を長時間摺動させた。この試験条件下で、
マルテンサイト系ステンレス鋼SUS420J2にみられたよう
な摩擦係数が急激に変化する焼付き発生までの時間を求
めた。そして、マルテンサイト系ステンレス鋼SUS420J2
の変化点(2000秒)までの時間と比較し、摩擦係数
の変化点がマルテンサイト系ステンレス鋼SUS420J2より
長いものを○,短いものを×として耐焼付き性を評価し
た。
【0025】同じピンオンディスク型摩擦磨耗試験機の
ピン側に接触面が直径5mmの円柱状試験片を取り付
け、炭化ケイ素粉末を塗布した研磨紙をディスク側に貼
り付け、円柱状試験片に40Nの荷重を加えて0.7m
/秒の摩擦速度で研磨紙に摺擦させた。摩擦距離が0.
5kmに達したとき、摩擦磨耗試験機から試験片を取り
外し、磨耗量を測定した。測定値をマルテンサイト系ス
テンレス鋼SUS420J2の磨耗量と比較し、マルテンサイト
系ステンレス鋼SUS420J2の磨耗量より少ないものを○,
多いものを×として耐磨耗性を評価した。
【0026】〔腐食試験〕雨水による腐食を想定し、試
験片に水道水を72時間噴霧した後、試験片表面を観察
し、錆が検出されなかったものを○,錆がわずかに検出
されたものを△,多量の錆が発生したものを×として耐
食性を評価した。焼戻し後の耐食性については、48時
間の塩水噴霧試験後に試験片表面の発錆状態を調査し、
600℃の高温焼戻し材で錆が発生しなかったものを◎
とする他は同様な判定基準で評価した。 〔機械特性〕各ロータ材のビッカース硬さを測定すると
共に、シャルピー衝撃試験によって衝撃値を測定した。
ビッカース硬さがねずみ鋳鉄の硬さ170HVを超える
ものを○,170HV以下を×として強度を評価した。
また、衝撃値がねずみ鋳鉄の衝撃値5J/cm2を超え
るものを○,5J/cm2以下を×として靭性を評価し
た。
【0027】調査結果を表2に示す。Cu無添加のマル
テンサイト系ステンレス鋼SUS420J2やCu添加量が不足
する比較例No.2では、安定した摩擦特性が得られず、
摩擦磨耗試験開始後1840秒経過した時点から異常な
摩擦係数の変化が検出された。これに対し、Cu:1.
51質量%(第二相の析出量:0.54体積%)の本発
明例No.1では、摩擦係数の変化が2450秒経過した
時点から摩擦係数が変化した。この対比から、Cuを主
体とする第二相の析出により、摩擦係数の変化点が長時
間側に改善されていることが確認される。また、多量の
Cuを添加した本発明例No.5では、3600秒の摩擦
磨耗試験中に摩擦係数の異常な変化が検出されなかっ
た。以上の結果から、Cuを1.0〜7.5質量%添加し
たFe−Cr−Ni−Cu合金は、マルテンサイト系ス
テンレス鋼SUS420J2に比較して摩擦係数が安定した値で
推移し、マルテンサイト系ステンレス鋼SUS420J2や比較
例No.2よりも優れた摩擦特性を呈することが判った。
【0028】耐磨耗性に関しては、Ti,Nbの添加量
が少ないためTi,Nb系炭化物の析出量が0.1質量
%以下の比較例No.1,4ではマルテンサイト系ステン
レス鋼SUS420J2と同程度の磨耗量に留まっていた。他
方、0.1質量%以上のTi,Nb系炭化物を析出させ
た本発明例No.1〜6は、何れもマルテンサイト系ステ
ンレス鋼SUS420J2に比較して耐磨耗性が格段に優れてい
た。一般のマイルドな雨水環境では、比較例No.1やねず
み鋳鉄にみられるように、Cr含有量が4質量%を下回
ると腐食が極端に激しく、防食処理や環境の改善が必要
であった。この種の腐食は、本発明例No.1のように6.
32質量%のCr含有量になると軽減し、耐食性が向上
していた。更にCr含有量が10質量%を超える本発明
例No.2〜5は、腐食の発生がなく、十分な耐食性をも
っていた。
【0029】本発明例No.1〜6のビッカース硬さは、
マルテンサイト量が最も少ないNo.4においても260
HVであり、ねずみ鋳鉄の硬さ170HVに比較して約
1.5倍の強度であった。また、マルテンサイト量10
0%の本発明例No.1は、ねずみ鋳鉄の約4倍に当る6
80HVの硬さをもち、板厚で半分以上の軽量化が可能
といえる。本発明例No.1〜6は、鍛造・熱延で作り込
み焼入れしたままの状態で20J/cm2以上の高い衝
撃値を示した。この衝撃値をねずみ鋳鉄の衝撃値5J/
cm2と比較することから明らかなように、本発明例No.
1〜6のロータ材は、ねずみ鋳鉄製ロータ材との対比で
靭性が格段に優れたロータ材である。
【0030】
【0031】
【発明の効果】以上に説明したように、本発明のFe−
Cr−Ni−Cu合金は、Fe,Cr,Niを主成分と
するマトリックスにCuを主体とする第二相及びTi,
Nb系炭化物を分散析出させているので、優れた耐焼付
き性及び耐磨耗性を示す。そのため、ディスクブレーキ
等の制御差動時に安定した摩擦・磨耗特性を示し、ねず
み鋳鉄製摺動材と同様に安全且つ円滑な制動過程や制動
操作が可能となる。また、鍛造、熱延を施すことで靭性
に優れ、Cr添加によって優れた耐食性が付与される。
更には、熱処理で生成するマルテンサイト量を調整する
ことにより、必要強度も付与されるため、ねずみ鋳鉄製
に比較して摺動部材の軽量化も図られる。このような長
所を活用し、自動車や自動二輪車のブレーキ用ロータ材
を初めとし、各種産業機器の速度制御装置,制動装置等
に組み込まれる軽量で耐食性に優れた摺動部材が提供さ
れる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 マルテンサイト系ステンレス鋼SUS420J2とね
ずみ鋳鉄の摩擦係数の経時変化を対比したグラフ
【図2】 Cuを主体とする第二相を析出させたFe−
Cr−Ni−Cu合金とねずみ鋳鉄の摩擦係数の経時変
化を対比したグラフ
【図3】 焼入れ・焼戻しによって生成したマルテンサ
イト量がFe−Cr−Ni−Cu合金の硬さに及ぼす影
響を表したグラフ
【図4】 耐磨耗性に及ぼすTi,Nb系炭化物の影響
を表したグラフ
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 森川 広 山口県新南陽市野村南町4976番地 日新製 鋼株式会社ステンレス事業本部内 (72)発明者 山内 隆 山口県新南陽市野村南町4976番地 日新製 鋼株式会社ステンレス事業本部内 Fターム(参考) 3J058 AA41 BA28 BA32 BA41 BA46 BA68 CB01 CB11 EA02 EA03 EA09 FA11 FA21 FA31 FA35

Claims (2)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 C:0.70質量%以下,Cr:4〜2
    0質量%,Ni:0.1〜5.0質量%,Cu:1.0
    〜7.5質量%,Ti:0.05〜1.50%及びN
    b:0.05〜1.50質量%の1種又は2種を合計で
    0.05〜2.0質量%を含み、残部が実質的にFeの
    組成をもち、Cuを主体とする第二相とTi及び/又は
    Nbの炭化物がマトリックスに分散析出していることを
    特徴とする耐磨耗性に優れた摺動部材用Fe−Cr−N
    i−Cu合金。
  2. 【請求項2】 (Ti質量%+Nb質量%)≧10×C
    質量%を満足する量のTi及び/又はNbが添加され、
    マトリックスの固溶C量が0.2質量%以下に抑えられ
    ている請求項1記載の摺動部材用Fe−Cr−Ni−C
    u合金。
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Cited By (1)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
DE102004031284A1 (de) * 2004-06-29 2006-02-02 Buderus Guss Gmbh Bremsscheibe

Citations (3)

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