【発明の詳細な説明】
ベータゼオライト触媒を使用する有機芳香族化合物のアルキル化
発明の背景 発明の分野
本発明は、有機芳香族化合物をアルキル化する方法に関する。さらに詳細には
、本発明は、反応成分(反応物および生成物)のアルキル化と蒸留が触媒床にお
いて同時的に行われ、このとき触媒が蒸留構造物としても作用する、という方法
に関する。さらに詳細には、本発明は、ベータゼオライト(beta zeolite)が触
媒蒸留構造物(catalytic distillation structure)の触媒部分として使用され
るという方法に関する。関連した技術
エチルベンゼンとクメンは通常、酸性触媒の存在下における、ベンゼンと個々
のオレフィン(すなわち、エチレンやプロピレン)との反応によって製造されて
いる。幾つかの公知の方法においては、触媒は腐食性が高く、比較的寿命が短く
(例えば、AlCl3、クレー担持H3PO4、およびルミナ担持BF3など)、また
他の触媒(例えばモレキュラーシーブ)は定期的な再生処理を必要とする。反応
が発熱性であること、そして多置換ベンゼンが生成されやすいことから、従来法
では、大量の再循環に対して一回通過当たりのベンゼンの転化率を低くしなけれ
ばならない。
最近、触媒反応を行うための新しい方法が開発されており、該方法においては
、触媒構造物を蒸留構造物として使用して、蒸留により反応系の成分が同時的に
分離可能である。このような系は、米国特許第4,215,011;4,232,177;4,242,530;
4,250,052;4,302,356;および4,307,254号(同一人に譲渡)に記載されている。
簡単に説明すると、上記の構造物は、複数のポケットがベルトに沿って配置され
た状態のクロスベルトであり、このベルトが、スペーシング材料(例えば、ステ
ンレス鋼編組メッシュ)の周りにらせん状に巻かれている。次いで、これらのユ
ニットを蒸留塔反応器中に配置する。さらに、同一人に譲渡されている米国特許
第4,443,559号(該特許文献を参照により本明細書に含める)は、こうした方法
に使用するための種々の触媒構造物を開示している。
より最近では、同一人に譲渡された米国特許第4,849,569;5,019,669;5,043,50
6;5,055,627;5,086,193;5,176,883;5,215,725;5,243,115;及び5,321,181号に記
載の方法が芳香族アルキル化に適用されている。これらの特許はいずれも、A、
XY、L、毛沸石、オメガ、およびモルデン沸石モレキュラーシーブを触媒蒸留
構造物における触媒として使用することを明確に開示している。さらに、米国特
許第4,950,834号は、オメガ型モレキュラーシーブの1種と“Y”型モレキュラ
ーシーブの1種を含んだ、モレキュラーシーブ触媒の2つの別個の床を有する蒸
留塔反応器を開示している。
Innesは、米国特許第4,891,458号において、他のゼオライトに比べてコークス
化(coking)が少なくて寿命の長い部分的(好ましくは全体的)液相を有する固
定床での有機芳香族化合物のアルキル化においてベータ型ゼオライトを使用する
ことを報告している。
反応ゾーンにて蒸留が同時的には行われない従来の固定床操作においては、あ
る種の触媒が極めて良好に作用すると考えることができる。なぜなら、そうした
触媒は他の触媒ほど速やかにはコークス化しないからである。このタイプの改良
は、前記の米国特許第4,891,458号において観察されている。例えば該特許の実
施例6において、LZY-82は、流れに関して規定されていない時間に対し、ゼオラ
イトベータ(zeolite beta)に比較してエチルベンゼン生成量の減少を示した。
下記の比較によれば、CDモードにおいては、LZY-82が優れた機能〔すなわち、14
00時間(該特許によって示されている時間の100倍を越える時間)にて99+ EB純
度〕を発揮することを示している。意外であるのは、LZY-82に比較して、3倍の
流れの時間数にてゼオライトベータの性能が殆ど一定であること、およびこの時
間に対して不純物が殆ど生成しないことである。
発明の総括
簡単に言えば、本発明は、蒸留反応ゾーン中にベータゼオライト触媒蒸留構造
物を収容している蒸留塔反応器において有機芳香族化合物とC2〜C20オレフィ
ン
とを接触させることにより、そしてこれによって前記有機芳香族化合物と前記オ
レフィンとを接触的に反応させてアルキル化された有機芳香族生成物を生成させ
るのと同時に、前記固定床において、得られたアルキル化有機生成物を未反応物
質から分別することにより、有機芳香族化合物をアルキル化するための方法であ
る。触媒蒸留構造物は、触媒反応部位と蒸留部位(distillation sites)の両方
をもたらす。アルキル化された有機芳香族生成物は、固定床より下の箇所にて蒸
留塔反応器から取り出され、また未反応の有機芳香族化合物はオーバーヘッドと
して取り出すことができる。
さらに詳細に言えば、ベータゼオライトモレキュラーシーブ触媒パッキングは
、触媒接触のための充分な表面積を提供する〔前記の米国特許第4,443,559;4,21
5,011;および4,302,356号(これらの特許文献を参照により本明細書に含める)
に記載〕にもかかわらず、床を通る蒸気の流れを可能にするという性質を有する
。触媒パッキングは、蒸留塔反応器の上部に配置するのが好ましく、そして蒸留
塔の約1/3〜1/2を占めていて、実質的に蒸留塔の上端まで延びているのがさ
らに好ましい。
図面の簡単な説明
図面は、エチルベンゼンを生成させるための、本発明の1つの好ましい実施態
様の概略図である。
発明の詳細な説明
オレフィン供給の正確な場所は、供給物の種類と所望する生成物によって異な
る。1つの実施態様においては、反応へのオレフィン供給は、触媒床より下にて
行い、これによって触媒床と接触する前に反応物のミキシングを可能にするのが
好ましい。他の実施態様においては、反応へのオレフィン供給は触媒床へ行うの
が好ましく、これによって触媒における反応物と有機芳香族化合物との速やかな
接触が可能となり、したがってこれら2種の化学物質のできるだけ多くが反応し
、反応器に残っているオレフィンが、例えば、固定床の底部と、好ましくは固定
床の中央部1/2における上側1/4セクションとの間にてオーバーヘッドもしく
は塔底液として減少または取り除かれる。例えば、プロピレンによるベンゼン(
沸
点80℃)のアルキル化の場合は、オレフィン供給を床の下に位置決めすることが
できるが、デセン(沸点170℃)によるベンゼンのアルキル化の場合は、床の上
半分に供給するのが好ましい。
有機芳香族化合物の供給物は、反応器のどの箇所においても加えることができ
るが、固定床に、あるいは補給物として還流物に加えるのが好ましい。さらに、
モノ置換に対する高い選択性(本発明の好ましい態様である)を達成するために
、反応器においては、オレフィン1モル当たり有機芳香族化合物2〜100モルの
範囲という、オレフィンに対して大過剰の有機芳香族化合物が存在する。すなわ
ち、芳香族有機化合物対オレフィンの正味のモル供給比は1:1に近くてよいが
、オレフィンに対して実質的に過剰のモル数の有機芳香族化合物が反応ゾーンに
保持されるように系が操作される。アルキル化生成物は最も沸点の高い物質であ
り、塔の下部にて通常は塔底液として分離される。有機芳香族化合物は、上記に
したがって2番目に高い沸点成分もしくは3番目に高い沸点成分であってもよい
(不活性物質を除いて)。しかしながら、大過剰の有機芳香族化合物を使用して
操作することによってオレフィンの大部分が反応し、したがって分離と回収の問
題が軽減される。触媒蒸留が旨くいくかどうかは、蒸留に関連した原理を理解す
ることにある。第一に、反応が蒸留と同時に起こっているので、初期の反応生成
物は、形成されるとすぐに反応ゾーンから除去される。アルキル化生成物を除去
することにより、多置換、アルキル化生成物の分解、および/またはオレフィン
のオリゴマー化が最小限に抑えられる。第二に、有機芳香族化合物が沸騰してい
るので、反応温度が系圧力にて該成分の沸点によって制御される。反応熱により
単純にさらなる沸騰が起こるが、温度は上昇しない。第三に、反応生成物が除去
されて、逆反応に寄与しないので(ルシャトリエの原理)、反応により駆動力が
増大する。
この結果、系圧力を調節することによって、反応速度と生成物の分布に対する
大幅な制御を達成することができる。さらに、処理量を調節することにより(滞
留時間=1/液空間速度)、生成物分布とオレフィン転化度のさらなる制御が得
られる。反応器中の温度は、与えられたいかなる圧力にても存在する液体混合物
の沸点によって決まる。塔の下部の温度は塔の当該部分における物質の構成を反
映
しており、オーバーヘッドより高い温度である。すなわち、一定の圧力において
は、系の温度変化は塔の組成変化を示している。温度を変化させるためには、圧
力を変化させる。反応ゾーンにおける温度は、このように圧力によって制御され
る。すなわち、圧力を増大させることによって系中の温度が上昇し、そして逆に
、圧力を減少させることによって系中に温度が低下する。いかなる蒸留の場合も
そうであるが、触媒蒸留においても、液相(内部還流物)と気相の両方が存在す
ることは言うまでもない。したがって、反応物の一部が液相に存在し、このため
反応に対する分子の密度がより高くなる。しかるに、同時的に行われる分別によ
って生成物と未反応物質とが分離され、したがって、触媒と連続的に接触してい
る反応系の全ての成分(このことが、反応系成分の平衡への転化を制約する)を
含むことの悪影響を避けながら、液相系(および気相系)の利点が得られる。
オレフィンはC2〜C20オレフィンでよく、好ましくは直鎖形および枝分かれ
鎖形を含めてC2〜C12オレフィンである。例えば、適切なオレフィンは、エチ
レン、プロピレン、ブチレン、イソブチレン、1−ペンテン、1−ヘキセン、2
−ヘキセン、2,3−ジメチル−1−ペンテン、1−オクテン、ジイソブチレン
、1−ノネン、1−デセン、およびドデセンなどである。
オレフィンは、アルキル化を阻害しない置換基を含んでいてもよい。1つの好
ましい実施態様においては、オレフィンはC2〜C4オレフィンである。
本発明による幾つかの反応においては、オレフィンが有機芳香族化合物より高
い沸点を有する(例えばC8〜C20オレフィン)。このような場合は、未反応のオ
レフィンが底部のアルキル化生成物中に存在するが、サイドドロー(side draw
)を使用して生成物中のこのような物質を極めて低いレベルに減らすことができ
る。しかしながら、前述のように化学量論量よりはるかに少ないオレフィンで反
応を操作しても、通常はオレフィンが残る。塔底液中のレベルは低いか、あるい
はオレフィンが完全に除去される。
オレフィンが有機芳香族化合物より低い沸点を有する場合(例えばC2〜C7)、
該芳香族化合物が大過剰のモル数にて反応ゾーンに存在する。これらの場合にお
いては、オーバーヘッドを凝縮させて有機芳香族化合物の大部分とオレフィンを
再循環することができ、またさらなる分離と使用のために不活性物質が除去され
る。同様に、塔底液またはオーバーヘッド中のその沸点に応じて、特定のオレフ
ィンのアルカン(オレフィン流れ中にしばしば見受けられる)等の不活性物質が
汚染物質として生成する可能性がある。
有機芳香族化合物は、蒸留塔反応器の圧力条件下にて250℃以下の沸点を有す
るものが好ましい。有機芳香族化合物としては、ハロゲン(Cl、Br、F、お
よびI)、OH、ならびに1〜10個の炭素原子を有するアルキル基、シクロアル
キル基、アラルキル基、およびアルカリール基を含めてアルキル化を阻害しない
置換基を含んでいてもよい、1つ以上の環と6〜20個の炭素原子を有する炭化水
素がある。適切な有機芳香族化合物としては、ベンゼン、キシレン、トルエン、
フェノール、クレゾール、エチルベンゼン、ジエチルベンゼン、ナフタレン、イ
ンデン、臭化フェニル、1−ブロモ−2−クロロ−ベンゼン、1−ブロモ−4−
シクロヘキシルベンゼン、2−ブロモ−1,4−ジヒドロキシ−ベンゼン、1−(
ブロモエチル)−ナフタレン、および1,2−ジヒドロナフタレンなどがあり、本
発明の方法において使用するための好ましい化合物群は、ベンゼン、キシレン、
トルエン、フェノール、およびクレゾールである。
有機芳香族化合物対オレフィンのモル比は2〜100:1の範囲であり、好ましく
は2〜50:1の範囲であり、さらに好ましくは約2〜10:1の範囲である。有機芳
香族化合物の過剰量が多くなるほど、モノ置換生成物に対する選択性が向上する
。アルキル化は強制的に完了される。なぜなら、蒸留塔反応器からのアルキル化
生成物の同時的な分別・除去により、生成物が逆反応に寄与できないからである
(ルシャトリエの原理)。しかしながら、有機芳香族化合物のモル数が極めて大過
であることから、かなり高い還流比と低いユニット生産性が必要となる。したが
って、有機芳香族化合物対オレフィンの正確な比は、本発明にしたがってエチレ
ンまたはプロピレンをベンゼンと反応させてそれぞれエチルベンゼンまたはクメ
ンを形成させるという、現在工業的に重要である特定の実施態様において、反応
物のそれぞれの組合せ、ならびにオーバーヘッドもしくはアルキル化生成物中の
許容しうるオレフィン含量(前述)を考慮して決定しなければならない。これら
反応のどちらにおいても、オレフィンは最も揮発性の高い成分であり、オーバー
ヘッドから一部排出させるより反応させるのが望ましい。塔中にベンゼンと共に
エチレン、プロピレン、または他の低沸点オレフィンが存在すると、わずかでは
あるが検知可能な温度降下が起こり、このときこのような低沸点オレフィンは未
反応のままの物質として存在する。エチレン、プロピレン、または他の低沸点オ
レフィンがベンゼンと反応するにつれて温度降下の効果が少なくなり、そしてさ
らに発熱反応であるこうした反応も温度降下の効果を少なくする。オレフィン供
給物を加えた直後における温度降下の程度は、系中のエチレンまたは他の低沸点
オレフィンの濃度の尺度である。すなわち、低沸点オレフィンの濃度が高くなる
ほど、ベンゼンとオレフィンが一緒に存在しているにもかかわらず未反応のまま
である場合は、温度の降下がますます大きくなる。幾つかの特定の系に対しては
、与えられた温度降下をもたらすオレフィンの濃度を決定しプロットすることが
できる。したがって、オレフィンの供給を調節することで特定温度を最大温度降
下のポイントに保持することによって、オレフィン対ベンゼンの比を単純且つ簡
便な仕方で保持することができる。さらに重要なことに、降下を特定の温度に保
持することにより、該効果を生成させるための対応するオレフィン濃度が決定さ
れている場合は、触媒床の終わりおよびオーバーヘッド出口の前にオレフィンの
実質的に全てが確実に反応する。
低沸点オレフィンと高沸点有機芳香族化合物とのいかなる組合せに関しても、
この同じ制御系を使用することができる。
触媒床の長さ(反応物が接触し、反応の大部分が起こる部分)は、反応物の種
類、オレフィン供給箇所、及び許容しうる未反応物質に依存する。流れ中のオレ
フィンは塔を出る。反応物と流れ純度のパラメーターとのそれぞれのセットに対
し、本発明の開示内容にしたがってある程度の進行試験(development testing
)が必要とされる。
本発明のアルキル化は、減圧〜過圧(例えば0.20〜40気圧)で行うことができ
る。温度は反応物と生成物に応じて異なる。さらに、塔に沿った温度は、通常の
蒸留塔の場合と同じであり、底部の温度が最も高く、塔に沿った温度は、特定の
圧力条件下における塔の当該箇所での組成物の沸点である。さらに、反応による
発熱が塔内の温度を変化させることはなく、単にさらなる沸騰を引き起こすにす
ぎない。しかしながら、上記のような点を考慮すると、塔内の温度は、0.5〜20
気圧にて一般には50〜500℃の範囲であり、好ましくは70〜500℃の範囲であり、
そしてさらに好ましくは約80〜300℃の範囲である。
好ましい実施態様においては、反応器は、反応器中の液体レベルを使用して操
作される。ここで言う“液体レベル”とは、連続的な液相として明確に区別され
る純然たる蒸留の場合の密度を凌ぐ、反応蒸留ゾーンにおける物質の贈大した密
度を意味するのに使用されている。反応蒸留ゾーンに存在する相系は、物理的に
はフロスである。このフロスは、ゾーン中に保持されている液体を通って蒸気が
移動する結果として生じる。
このことに対する別の見方は、通常の蒸留においては、蒸気が液体(内部還流
物)と一緒に存在し、この液体が蒸気を通ってゆっくりと降下して触媒と接触す
るが、しかるに本発明の“溢流(flodded)”系においては、蒸気が液相を通って
上方に移動してフロスもしくは気泡を造り出す、というものである。
したがって、蒸留の利点がさらに得られる(すなわち、蒸留によって種々の成
分が分離されるが、触媒と接触する液体の体積が増大するために合成反応が改良
される)。
ゼオライトベータは、よく知られている結晶質の合成アルミノケイ酸塩であり
、米国特許第3,308,069号(該特許文献を参照により本明細書に含める)に記載
されている。このゼオライトの詳細、特性、および製造法については、該特許を
参照のこと。ゼオライトベータは特に、その特徴的なX線回折パターン(上記米
国特許第3,308,069号の表4に記載されている)によって識別される。有意のd
値(オングストローム、ラジエーション:K 銅のαダブレット、ガイガー計数
器スペクトロメーター)に関してのこのパターンを下記の表Iに示す。 米国特許第3,308,069号においては、ゼオライトベータがその合成されたまま
の形態にて以下のように記載されており、
[XNa(1.0±0.1-X)TEA]AlO2・YSiO2・WH2O
このときXは1未満(好ましくは0.75未満)であり、TEAはテトラエチルアン
モニウムイオンであり、Yは5より大きくて100より小さく、そしてWは、脱水
条件および存在する金属カチオンの種類に応じて最大で約4である。該特許はさ
らに、イオン交換法を使用してナトリウムを他の金属で置き換えてもよい、こと
を開示している。
その後の文献(例えば、ヨーロッパ特許出願第95,304;159,846;159,847;およ
び164,939号)は、ゼオライトベータの定義を、水酸化テトラエチルアンモニウ
ム以外のテンプレーティング剤(templating agents)を使用して製造した物質
、および100より大きいSi/Al原子比を有する物質も含めるよう広げた。さら
に、ヨーロッパ特許出願第55,046号(“Nu2”)と第64,328号、および英国特許
出願第2,024,790号(“ボラライト(Boralite)B”)に記載のゼオライトは、ゼオ
ライトベータによく似た構造とX線回折パターンを有し、本明細書で使用してい
る“ゼオライトベータ”という用語の範囲内に含まれる。
本発明において最も有用であるゼオライトベータの形態は、下記の実験式を有
する結晶質アルミノケイ酸塩であり、
(X/n)M・(1.0±0.1-X)Q・AlO2・YSiO2・WH2O
このときXは1未満(好ましくは0.75未満)であり、Yは5より大きくて100よ
り小さく、Wは最大で約4であり、Mは金属イオンであり、nはMの原子価であ
り、そしてQは水素イオン、アンモニウムイオン、有機カチオン、またはこれら
の混
合物である。Yは5より大きくて約50より小さいのが好ましい。したがって上記
式におけるケイ素対アルミニウムの原予比は5:1を越えて100:1未満であり、そし
て好ましくは5:1を越えて約50:1未満である。
さらに、上記式中のアルミニウムを他の元素(例えばガリウム、ホウ素、およ
び鉄)で置き換えてもよい。同様に、ケイ素をゲルマニウムやリン等の元素で置
き換えてもよい。
適切な有機カチオンは、臭化テトラエチルアンモニウム、水酸化テトラエチル
アンモニウム、塩化ジベンジル−1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン、
塩化ジメチルジベンジルアンモニウム、二臭化1,4−(1−アゾニウムビシクロ
[2.2.2]オクタン)ブタン、および二水酸化1,4−(1−アゾニウムビシクロ[
2.2.2]オクタン)ブタンから水溶液にて誘導されるカチオンである。これらの
有機カチオンは当業界に公知であり、例えば、ヨーロッパ特許出願第159,846号
と第159,847号および米国特許第4,508,837号に記載されている。好ましい有機カ
チオンはテトラエチルアンモニウムイオンである。
Mは、一般には初期合成からのナトリウムイオンであるが、イオン交換法によ
って加えられる金属イオンであってもよい。適切な金属イオンとしては、周期表
第IA、IIA、およびIIIA族の金属、あるいは遷移金属からのイオンが挙げられる
。このようなイオンの例としては、リチウム、カリウム、カルシウム、マグネシ
ウム、バリウム、ランタン、セリウム、ニッケル、およびパラジウムのイオンが
ある。
高い触媒活性を得るためには、ゼオライトベータは、主として水素イオン形(
hydrogen ion form)になっていなければならない。ゼオライトは一般に、アン
モニウム交換とそれに次ぐ焼成によって水素形(hydrogen form)に転化される
。充分に高い有機窒素カチオン対ナトリウムイオン比でゼオライトを合成した場
合は、焼成だけで充分である。焼成後、カチオン部位の大部分が、水素イオンお
よび/または希土類元素イオンによって占有されるのが好ましい。カチオン部位
の少なくとも80%が水素イオンおよび/または希土類元素イオンによって占有さ
れるのが特に好ましい。
高純度粉末形態においては、ゼオライトベータは緻密すぎる床を形成し、蒸留
において適切に機能しない。なぜなら、床を通してかなり大きな圧力低下があり
、内部還流物と上昇蒸気の自由な流れが阻害されるからである。従来の蒸留構造
物の形状(例えば、リングやサドル)をしたゼオライトベータを、本発明におい
て使用することができる。粒状のゼオライトベータを、多孔質容器(例えば、ク
ロス、スクリーンワイヤ、またはポリマーメッシュ)中に包み込むことによって
使用することができる。容器を造るのに使用される材料は、反応物および反応系
中の条件に対して不活性でなければならない。クロスは、この要件を満たすいか
なる材料であってもよく、例えばコットン、ガラス繊維、ポリエステル、および
ナイロンなどがある。スクリーンワイヤは、アルミニウム、スチール、およびス
テンレス鋼などであってよい。ポリマーメッシュは、ナイロンやテフロンなどで
あってよい。容器を造るのに使用される材料の1インチ当たりのメッシュまたは
スレッドは、触媒がその中に保持され、熱空気が加わっても開口を通過しないよ
うなメッシュまたはスレッドである。約0.15mmサイズの粒子または粉末を使用す
ることができ、また直径が最大約1/4インチまでの粒子を容器中に使用するこ
とができる。
触媒粒子を保持するのに使用される容器は、いかなる形状(例えば、前記の同
一人に譲渡された特許に開示のポケット)を有していてもよく、あるいは容器は
、単一の円柱体、球体、ドーナツ形状物、立方体、または管状物であってよい。
固体触媒物質を収容している各容器が触媒成分を構成する。各触媒成分を、少
なくとも70容量%で最大約95容量%までのオープンスペースで構成されるスペー
シング成分と密に結合させる。このスペーシング成分は、剛性であっても、弾性
であっても、あるいはこれらが組み合わさっていてもよい。触媒成分とスペーシ
ング成分との組合せが触媒蒸留構造物を形成する。触媒蒸留構造物のためのオー
プンスペースの総体積は少なくとも10容量%でなければならず、好ましくは少な
くとも20容量%で最大約65容量%である。したがって、スペーシング成分もしく
はスペーシング材料は、触媒蒸留構造物の少なくとも約30容量%を構成し、好ま
しくは約30容量%〜70容量%である。弾性材料が好ましい。1つの適切な材料は
オープンメッシュの編祖ステンレスワイヤであり、一般にはデミスターワイヤ(
demister wire)またはエキスパンデッドアルミニウムとして知られている。弾
性成分は、類似のナイロンやテフロン等のオープンメッシュ編祖ポリマーフィラ
メントであってもよい。高度に連続気泡の発泡材料構造物(例えば、剛性または
弾性の網状ポリウレタンフォーム)等の他の材料を、代わりに形成させるか、あ
るいは触媒成分の周りに施してもよい。より大きな触媒成分(例えば、約1/4
〜1/2インチのペレット、球体、およびピルなど)の場合には、このような触
媒成分のそれぞれを、前述のようにスペーシング成分と個別に密に結合させても
よいし、あるいはスペーシング成分によって取り囲んでもよく、必ずしもスペー
シング成分が触媒成分の全体を覆う必要はない。必要なことは、触媒成分と密に
結合したスペーシング成分が、種々の触媒成分に対し前述のように互いに離した
状態で一定の間隔を設けるように作用することだけである。したがって、スペー
シング成分は事実上、触媒成分がランダムではあるが実質的に均一に分布された
、実質的にオープンなスペースのマトリックスをもたらす。
本発明において使用するための好ましい触媒蒸留構造物は、押し出されたゼオ
ライトベータ粒子をクロスベルト中の複数のポケット中に入れ、このクロスベル
ト2つを一緒にしてらせん状にねじることによって、オープンメッシュの編祖ス
テンレス鋼ワイヤで蒸留塔反応器中に保持する。これにより、必要な流れが可能
となり、反応に対して不活性な材料であるクロスからの触媒の損失が防げる。コ
ットンやリンネルも有用であるが、好ましいのはガラス繊維クロスや“テフロン
”クロスである。
下記の例においては、触媒パッキングは、約3/4インチ幅の狭いポケットが
クロスベルトを横切って縫いつけられた状態の、約6インチ幅のガラス繊維クロ
スベルトの形態の袋からなる。ポケットは、約1/4インチ離れて一定の間隔で
配置されている。これらのポケットに触媒粒子を充填してほぼ円柱形状の容器を
形成させ、開放端を縫いつけ閉じて、粒子を閉じ込める。次いでこのベルトをら
せん状にねじって塔の内部に適合させる。オープンメッシュ編祖ステンレス鋼の
ストリップもベルトと一緒にねじり、これによってモレキュラーシーブを充填し
たク
ロスポケットを隔離し、蒸気流れのための通路を得る。
ワイヤメッシュは触媒のための支持体(ベルト)となり、触媒粒子を通っての
ある程度の蒸気通路をもたらす(そうでない場合は、極めて緻密な床が形成され
、こうした床は大きな圧力低下をきたす)。したがって、下向きに流れる液体が
、塔内において上昇蒸気と密に接触する。
工業的な規模での操作においては、触媒パッキングは、前記したものと類似の
モレキュラーシーブ充填したクロスベルトの交互層、およびいかなる簡便かつ適
切な物質(例えば、波形のワイヤスクリーンもしくはワイヤクロス、または編祖
ワイヤメッシュ)であってもよいスペーシング材料で構成される。層は、垂直ま
たは水平に配置される。製造を単純化するために、また蒸気流れの通路の分布を
より均一にするために、垂直の配向が好ましい。こうしたパッキングのセクショ
ンの高さは、数インチから数フィートまでのいかなる適切な寸法であってもよい
。組み立てと据え付けを容易にするために、パッキングを所望の形状とサイズの
セクションに造り上げ、各セクションを、そのサイズと形状に応じて結合ワイヤ
(tie wires)の周囲バンド(circumferential bands)と一緒に固定する。塔中
の全体的な集成体は、層中に配置された幾つかのセクションからなり、触媒を充
填したベルトの配向を連続した層にて直角に向きを変えて、液体流れと蒸気流れ
の分布を改良させている。
図面は、本発明の1つの態様、すなわち、ベンゼンをエチレンでアルキル化す
ることによるエチルベンゼンの製造、および該態様の好ましい実施態様を示して
いる。図面を参照すると、蒸留塔反応器は3つのセクション分けられている。触
媒パッキング(触媒蒸留構造物)12は、中央のセクションに位置している。触媒
蒸留構造物は、ガラス繊維ベルトのポケット中に入れられ、そして前述のような
ステンレス鋼メッシュを使用してらせん状に形成された比較物(a comparison)
として、PQ Corp.から市販のゼオライトベータまたはUOPから市販のLXY-82ゼオ
ライトを含む。
反応器10は、高さ70フィートで直径3インチのパイロット塔であり、中央部分
に30フィートの触媒パッキングが位置する。塔の下部は、従来の蒸留塔の配置構
成(25トレーに相当)である。ベンゼンは、供給物としてライン14から還流アキ
ュムレータ中に加えるのが好ましい。ベンゼンは別のライン(図示せず)を介し
て加えることもできる。エチレンは、より良好なミキシングを得るために、触媒
パッキング12のほぼ中央箇所にて、あるいは触媒床(図示せず)より下にて、ラ
イン8を介して塔に供給する。エチレンを数ヶ所に分けて供給して、触媒ゾーン
中のある一箇所の濃度だけが増大しないようにし、これによって副反応としての
オリゴマー化を減少させることができる。反応は発熱反応であり、触媒パッキン
グ中にて2種の反応物を接触させることによって開始される。エチルベンゼンと
ジエチルベンゼンが主要な反応生成物である。これら生成物のどちらもベンゼン
より沸点が高く、ライン18を介して塔底液生成物として回収される。エチレンの
供給は、1モル過剰のベンゼンが反応器中に存在するように、またオーバーヘッ
ド20が主としてベンゼンであって、エチレンが殆ど全て反応してしまうように調
節する。ベンゼンや幾らかのエチレンに加えて、他の軽質物質もオーバーヘッド
として出ていく。オーバーヘッドを凝縮器22に送り、そこでベンゼンの実質的に
全てを凝縮させるように操作し、凝縮したベンゼンをライン24を介してアキュム
レータ16に、したがって還流によりライン26を介して塔10に送る。反応中に使用
され、軽質物質(ライン28を介して凝縮器を出る)と共に失われるベンゼンは、
フレッシュなベンゼン供給物14によって補給する。
塔底液は、エチルベンゼンとジエチルベンゼンとの混合物を含有し、この混合
物がライン18を介してスプリッター30に送られる。スプリッター30は従来の蒸留
塔であり、エチルベンゼンとジエチルベンゼンを分別するように操作される。エ
チルベンゼンはオーバーヘッド32として回収され、ジエチルベンゼンは塔底液生
成物として回収される。この好ましい実施態様においては、ジエチルベンゼンが
回収されるけれども、これをライン34を介して塔10における触媒パッキング12の
下部に戻す。しかしながら、この好ましい実施態様においては、エチルベンゼン
の生成をできるだけ多くするのが望ましい。この触媒反応においては、ベンゼン
とジエチルベンゼンとの間に下記のような平衡が存在する。
ベンゼン+ジエチルベンゼン←→エチルベンゼン
触媒パッキングの下部においては、多くの体積のベンゼンが、反応生成物およ
び再循環されたジエチルベンゼンと共に存在し、したがって可逆反応によりエチ
ルベンゼンの生成が起こりやすく、こうして生成したエチルベンゼンが触媒反応
ゾーンから連続的に取り出される。
弁、再沸器、およびスリップストリーム(slip streams)等の従来の構成成分
は図示していないが、これらの成分はこうした装置を構成する上での明らかな手
段である。
実施例
エチルベンゼン塔において2種の異なったゼオライトを使用したときの、供給
物、条件、および結果の比較を下記の表II〜IVに示す。
ベンゼン供給物の不純物を考慮すると、ゼオライトベータによって造られる唯
一の副生物はクメンである。触媒蒸留モードで操作した結果、どちらの触媒も長
い寿命を示した。
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