JP2001204297A - 学習・記憶障害モデル動物 - Google Patents

学習・記憶障害モデル動物

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JP2001204297A
JP2001204297A JP2000017539A JP2000017539A JP2001204297A JP 2001204297 A JP2001204297 A JP 2001204297A JP 2000017539 A JP2000017539 A JP 2000017539A JP 2000017539 A JP2000017539 A JP 2000017539A JP 2001204297 A JP2001204297 A JP 2001204297A
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animal
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Seiichi Takahashi
聖一 高橋
Takeshi Yagi
健 八木
Hideto Momiji
秀人 椛
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Abstract

(57)【要約】 【課題】 シナプス前タンパク質complexin IIに機能的
欠損を有することによって神経伝達機能に障害を有する
学習・記憶障害モデル動物を提供する。 【解決手段】 機能欠失型の変異を導入したcomplexin
II変異遺伝子を有する全能性細胞を個体発生して得られ
る非ヒト哺乳動物およびその子孫動物であって、体細胞
染色体中に上記complexin II変異遺伝子を保有すること
を特徴とする学習・記憶障害モデル動物。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】この出願の発明は、学習・記
憶障害モデル動物に関するものである。さらに詳しく
は、この出願の発明は、シナプス前タンパク質complexi
n IIのゲノム遺伝子に機能的欠損を有するノックアウト
動物であって、学習・記憶障害の原因解明およびその治
療法、治療薬等の開発に有用なモデル動物と、これらを
用いた試験方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】シナプス伝達には、シナプス小胞のエキ
ソサイトーシスによるシナプス前神経終末から放出され
た神経伝達物質が介在する。シナプス小胞のエキソサイ
トーシスは、大槽間のゴルジタンパク質輸送を含む、様
々な細胞内の膜融合現象に見られるようなメカニズムと
同様の分子メカニズムを介して生じる(Ferro-Novick a
nd Jahn,Nature, 370, 191-193, 1994;Rothmann, Nat
ure, 372, 55-63, 1994参照)。N-エチルマレイミド感
受性因子(NSF,ATPアーゼ)および可溶性NSF吸着タンパ
ク(SNAP)は一般的な膜融合およびシナプス小胞融合に
関与する必須の分子である(Ferro-Novick and Jahn,N
ature, 370, 191-193, 1994;Rothmann, Nature, 372,
55-63, 1994)。
【0003】シナプス小胞の融合には、さらに3つの分
子:シナプス小胞上のシナプトブレビン/小胞-関連膜タ
ンパク(VAMP)、シナプス前膜にあるSNAP-25、およびシ
ナタキシンが必要であり、これらは共にSNAP受容体(SN
ARE)複合体を形成している(Sollner et al., Nature,
362, 318-324, 1993; Rothman, Nature, 372, 55-63,19
94; Sudhof, Nature, 375, 645-653, 1995)。最近、こ
の複合体形成が膜融合の必要十分条件であることが示さ
れた(Weber et al., Cell, 92, 759-772, 1998)。すな
わち、小胞と標的となるシナプス前膜はSNARE複合体を
形成した後、融合し、神経伝達物質を放出すると現在で
は信じられている(Jahn & Hunson, Nature, 393, 14-1
5, 1998; Skchel & Wiley, Cell, 95, 871-874, 199
8)。シナプス小胞が融合した後、SNAPはSNARE複合体と
結合し、NSFとの結合するようになり、それがSNARE複合
体のATP依存性解離の触媒として作用する。その解離に
よってシナプトブレビンは小胞の中に、シナタキシンと
SNAP-25はシナプス前膜の中に再び蓄積されるようにな
り、シナプス小胞の次の融合サイクルへと向かってい
く。
【0004】complexin IおよびIIは元々SNARE-複合体
−関連タンパク質(Ishizuka et al.,Biochem. Biophys.
Res. Commun., 213, 1107-1114, 1995; McMahon et a
l., Cell, 83, 111-119, 1995)およびシナプス前タンパ
ク質(Takahashi et al., FEBS Lett., 368, 455-460,
1995)として発見、同定された。重要なことに、complex
inはまた、SNARE複合体との結合においてα-SNAPと競合
することも示され(McMahon et al., Cell, 83, 111-11
9, 1995)、complexinが神経伝達物質放出の動態を調節
している可能性が示唆されている。この可能性はアメフ
ラシの頬側神経節のニューロンで調べられている。すな
わち、complexin II特異的モノクローナル抗体をシナプ
ス前に注入することによりシナプス伝達が促進され、逆
にシナプス伝達はマウスの組換えコンプレキシンIIによ
って阻害されることが確認されている(Ono et al., Eu
r. J. Neurosci., 10, 2143-2152, 1998)。従って神経
伝達におけるcomplexin IIの役割は、神経伝達物質放出
そのものにあるのではなく、その過程を阻害しているこ
とが示唆された。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】前記のとおり、シナプ
ス前タンパク質complexin IIは、シナプス伝達に対して
抑制的に作用することによって、正常な神経伝達のコン
トロールに重要な役割を果たしていることから、このco
mplexin IIに機能欠損を有する動物は、学習や記憶障害
の有用なモデルとなりうるものと期待される。
【0006】この出願の発明は、以上のとおりの事情に
鑑みてなされたものであって、新規な学習・記憶障害モ
デル動物として、シナプス前タンパク質complexin IIを
欠損したノックアウト動物を提供することを課題として
いる。
【0007】
【課題を解決するための手段】この出願は、前記の課題
を解決する発明として、以下の(1)〜(4)を提供する。 (1) 機能欠失型の変異を導入したcomplexin II変異遺
伝子を有する全能性細胞を個体発生して得られる非ヒト
哺乳動物およびその子孫動物であって、体細胞染色体中
に上記complexin II変異遺伝子を保有することを特徴と
する学習・記憶障害モデル動物。 (2) 非ヒト哺乳動物が、マウスである前記発明(1)の学
習・記憶障害モデル動物。 (3) complexin II変異遺伝子が、ゲノムcomplexin II
遺伝子の一部または全部を欠損させるか、もしくはゲノ
ムcomplexin II遺伝子に他のゲノム遺伝子を挿入するこ
とによりcomplexin II遺伝子機能に変異を導入した遺伝
子である前記発明 (1)または(2)の学習・記憶障害モデル動物。 (4) 前記発明(1)から(3)のいずれかの動物に対し、出
生前または出生後に学習・記憶障害の候補治療薬を投与
し、テタヌス刺激により誘導される海馬シナプス伝達の
長期増強の改善を指標として学習・記憶障害治療薬を特
定する試験方法。
【0008】以下、上記の各発明について実施の形態を
詳しく説明する。
【0009】
【発明の実施の形態】この発明の学習・記憶障害モデル
動物は、機能欠失型の変異を導入したcomplexin II変異
遺伝子を有する全能性細胞を個体発生して得られる非ヒ
ト哺乳動物およびその子孫動物であって、体細胞染色体
中に上記変異遺伝子を保有することを特徴とするノック
アウト動物である。さらに詳しくは、この発明のモデル
動物は、上記のcomplexin II変異遺伝子を保有するヘテ
ロ接合体あるいはホモ接合体子孫動物同士の交配によっ
て得られるcomplexin II遺伝子変異ホモ接合体動物とし
て提供される。
【0010】この発明の学習・記憶障害モデル動物は、
公知の標的遺伝子組換え法(ジーンターゲティング法:
Science 244:1288-1292, 1989; Nature 379:168-171, 1
996)により作製することができる。この標的遺伝子組
換え法では、分化全能性細胞としてES(embryonic st
em)細胞等を使用する。ES細胞は、マウス(Nature 29
2:154-156, 1981)、ラット(Dev. Biol. 163(1):288-2
92, 1994)、サル(Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 92
(17):7844-7848, 1995)、ウサギ(Mol. Reprod. Dev.
45(4):439-443, 1996)で確立している。また、ブタに
ついてはEG(embryonic germ)細胞が確立している
(Biol. Reprod 57(5):1089-1095, 1997)。従ってこの
発明のモデル動物は、これらの動物種を対象に作製する
ことができるが、特に変異遺伝子導入動物の作製に関し
て技術が整っているマウスが最適である。作製の具体的
手続をマウスを例にとって説明すれば以下のとおりであ
る。
【0011】先ず、complexin IIゲノムDNA断片を単
離し、そのDNA断片を試験管内にて遺伝子操作し、co
mplexin IIの開始コドンを含むDNA断片に対して改変
を施すなどの、complexin IIの機能を欠失させるような
変異DNA断片を作製する。complexin IIゲノムDNA
の単離は、例えば、公知のラットcomplexin IIcDNA
(Cell, 83, 111-119, 1995:GenBank No. U35099)ま
たはマウスcomplexin IIcDNA(GenBank No. U3510
1)に基づいて合成されたオリゴヌクレオチドプローブ
を用いてマウスゲノムDNAライブラリーをスクリーニ
ングすることにより得られる。また、公知のcomplexin
IIcDNAの一部または両端に相当する合成オリゴヌク
レオチドをプライマーとするPCR法によっても目的と
するゲノムDNAを得ることができる。なお、マウス以
外の動物を対象とする場合にも、マウスやラットcomple
xin IicDNA配列に基づいて合成されたオリゴヌクレ
オチドをプローブまたはプライマーとする前記の方法に
より、各動物のcomplexin II遺伝子を単離することがで
きる。
【0012】上記のとおりの方法によって得られたcomp
lexin II遺伝子のゲノムDNAの一部を改変し、全能性
細胞(ES細胞)のcomplexin II遺伝子に変異を導入す
るためのターゲティングベクターを、公知の方法(例え
ば、Science 244:1288-1292,1989; Nature 379:168-17
1, 1996)に準じて作製する。例えば、complexin II遺
伝子のゲノムDNAの一部をG418等の薬剤に対する
耐性遺伝子(例えば、ネオマイシン耐性遺伝子)に置換
することにより、もしくはG418等の薬剤に対する耐
性遺伝子をcomplexin II遺伝子のゲノムDNAの一部に
挿入することで、complexin IIゲノムDNAと相同な配
列を両端に有する変異遺伝子を保有する組換えプラスミ
ドDNA、すなわちターゲティングベクターを作製す
る。なお、G418等の薬剤に対する耐性遺伝子には、
その発現を制御するためのPGK1プロモーター等の配
列およびPGK1ポリアデニレーションシグナル等を連
結する。また、G418等の薬剤に対する耐性遺伝子に
より置換、または挿入されるcomplexin II遺伝子のゲノ
ムDNA部位は、開始コドンを含むエクソン領域を含む
ゲノムDNA領域であることが好ましい。
【0013】上記complexin II遺伝子のゲノムDNAの
一部に変異を導入するためのターゲティングベクターに
は、complexin IIゲノムDNAに相同な配列を有するこ
と以外には特に制限はなく、他の薬剤耐性遺伝子や、細
胞選択用遺伝子(例えば、ジフテリア毒素A遺伝子やヘ
ルペスウイルスのサイミジンキナーゼ遺伝子)、プロモ
ーター、エンハンサー等の配列を適宜に組み合わせて使
用することができる。
【0014】次に、このターゲティングベクター開列し
て直鎖状とした後、公知の方法(例えば、Nature 379:1
68-171, 1996)に準じてマウスES細胞に導入する。こ
のような遺伝子導入法としては、公知の電気パルス法、
リポソーム法、リン酸カルシウム法等も利用できるが、
導入遺伝子の相同遺伝子組換え効率を勘案した場合、E
S細胞への電気パルス法が好ましい。
【0015】遺伝子導入された各ES細胞のDNAを抽
出し、サザンブロット分析やPCRアッセイ等により、
染色体上に存在する野生型complexin II遺伝子と導入し
たcomplexin II変異遺伝子断片の間で正しく相同遺伝子
組換えが起こり、染色体上のcomplexin II遺伝子に変異
が移った細胞を選択する。
【0016】こうして得た変異遺伝子を持つES細胞を
野生型マウスのブラストシストに注入し、つづいてこの
キメラ胚を仮親の子宮に移植する。出生した動物を里親
につけて飼育させた後、complexin II変異遺伝子が生殖
系細胞に入ったキメラ動物を選別する。選別は毛色の違
い、または体の一部(例えば尾部先端)からDNAを抽
出し、サザンブロット分析やPCRアッセイ等により行
う。complexin II変異遺伝子が生殖系細胞に入ったキメ
ラ動物と野生型動物の交配により得られる子孫につい
て、さらに体の一部(例えば尾部先端)からの抽出DN
Aを材料とした、サザンブロット分析やPCRアッセイ
等を行い、complexin II変異遺伝子が導入されたヘテロ
接合体を同定する。さらにヘテロ接合体同士の交配によ
り、complexin II変異遺伝子に関してホモ接合体となっ
た個体動物を得る。作出されたcomplexin II変異遺伝子
を保有するヘテロ接合体、あるいはホモ接合体は生殖細
胞および体細胞のすべてに安定的にcomplexin II遺伝子
変異を保有しており、交配等により、効率よくその変異
を子孫動物に伝達することができる。
【0017】このようにして作製されたcomplexin II遺
伝子に変異を有する動物は、例えばホモ接合体がcomple
xin II遺伝子産物を全く持たない個体(complexin II n
ullmutant)の場合、後記する実施例にも示したよう
に、神経伝達物質放出機構に欠損を有しており、学習や
記憶障害の発症メカニズムの解明やその治療薬をスクリ
ーニングに最適の疾患モデル動物となる。
【0018】以下、実施例を示してこの発明についてさ
らに詳細かつ具体的に説明するが、この発明は以下の例
に限定されるものではない。
【0019】
【実施例】1.complexin IIノックアウトマウスの作製 図1中段に構造を示したターゲティングベクターpXXNeo
DT-Aを作製した。このベクターは、図1上段に示した野
生型complexin II遺伝子のエクソン1およびエクソン2
をネオマイシン耐性遺伝子(NEOカセット)に置換し、
これをプラスミドベクターpUC19に挿入結合して作製し
た。このベクターにより、マウスのゲノムには図1下段
に示したcomplexin II変異遺伝子が導入される。
【0020】このターゲティングベクターpXXNeoDT-Aを
制限酵素Not Iにより開列した後、エレクトロポレーシ
ョンによってTT2胚幹細胞(ES細胞)(Yagi, et al., A
nal.Biochem., 214, 70-76, 1993)に形質導入した。G41
8選抜の後、600コロニーから得た各ゲノムDNAをBam H I
で切断し、フランキング領域の1.3-kbのXba 1/SalI断片
をプローブとしたサザンブロットによってスクリーニン
グした(制限酵素およびDNA修飾酵素:タカラ・バイオ
ケミカルズ、日本)。相同組換えESクローンを3つ得
た。8細胞期のCD-1マウス胚に10個のES細胞をマイクロ
インジェクションしてキメラマウスを作成し、C57BL/6
雌マウス(SLC、日本から購入)と交配した。以上の実
験に用いたマウスはC57BL/6交配世代2代目から7代目
までのF2雄野生型(+/+)およびホモ接合体(-/-)であっ
た。なお、ホモ接合体型(-/-)マウスは生存可能であ
り、生殖能力もあり、外見上も野生型マウスとの差異は
観察されなかった。 2.免疫ブロット分析 様々な脳タンパク質に対するモノクローナル抗体を用い
て、ウエスタンブロット分析を行った。
【0021】脳のP2膜分画(タンパク10(g)をSDS-PAGE
で分析し、PVDF膜(日本ミリポア、日本)に移した。膜
を2%脱脂粉乳/0.01Mのリン酸緩衝液生理食塩水(PBS)で
1時間処理し、PBS/0.05%ツイーン20の中で各特異抗体
(Ab)と反応させ、ペルオキシダーゼを結合した二次抗体
と反応させた。反応結果はECL検出システム(アマシャ
ム・ライフサイエンス、英国)によって可視化した。
【0022】抗complexin IIモノクローナル抗体(LP2
7:Ono et al.,Eur. J. Neurosci., 10, 2143-2152, 19
98)および抗complexin Iモノクローナル抗体(SP33:Tak
ahashiet al., FEBS Lett., 368, 455-460, 1995)を用
いたウエスタンブロット分析の結果は図2に示したとお
りである。ブロットした膜は最初にLP27(上)その後SP
33(下)と反応させた。小さな矢印は対照としてのcomp
lexin Iを示す。野生型(+/+)、ヘテロ型(+/-)および変
異型(-/-)を2組ずつ示した。この図2に示したとお
り、complexin IIの発現は、ホモ接合型(-/-)では完
全に消失し、ヘテロ接合型(+/-)では半分に減少してい
たが、complexin Iは-/-および+/-において正常に発現
していた。
【0023】さらに、complexin IIの欠損がほかのシナ
プスタンパク質の発現に影響を与えて、complexin II変
異型マウスの表現型を代償したり、変えたりするのかど
うかを調べるために、入手可能な抗体を用いて免疫ブロ
ットを行った。
【0024】結果は図3に示したとおりであり、各種タ
ンパク質の発現において野生型(+/+)と変異型(-/-)
との間に差異は見られなかった。特に、complexin I、S
NARE複合体(シナプトブレビン/VAMP-2;SNAP-25;シナ
タキシンI)の3つの成分、あるいはSNARE複合体への結
合に対してcomplexin IIの競合物質であるα-SNAP(McM
ahon et al., Cell, 83, 111-119, 1995)のレベルに明
らかな変化はなかった。さらに、LTPの導出に必要なN-
メチル-D-アスパラギン酸(NMDA)受容体2A(ε1)およ
び2B(ε2)(Sakimura et al., Nature, 373, 151-15
5, 1995)の発現にも差はなかった。 3.免疫組織化学的分析 変異型および野生型マウスの海馬におけるcomplexin I
およびIIの免疫組織化学的な分析を行った。
【0025】マウスの脳をパラホルムアルデヒド(PFA)/
0.1M PBSで潅流し、後固定して20%サッカロースで凍結
を防止した。浮いている切片を1% BSA/0.1M PBSで1時
間前処理し、モノクローナル抗体SP33あるいはLP27と4
℃で一晩反応させ、ビオチン化した二次抗体と2時間イ
ンキュベートし、Vectastainアビジン−ビオチン複合体
キット(ベクターラボラトリーズ、CA, USA)で反応を進
め、ジアミノベンジジン(同仁化学、日本)/過酸化水
素反応で現像した。
【0026】結果は図4に示したとおりである。変異型
マウスにはcomplexin IIに対する免疫活性は検出されな
かった。一方、complexin Iの発現は野生型と変異型で
はほとんど違わなかった。さらに、海馬も含めて変異型
マウスの脳に特記すべき変化は認められなかった。ま
た、CA1の放射状層およびCA3の苔状線維におけるシナプ
スの微細構造も調べたが、シナプスの構造と分布、およ
びシナプス小胞の数は野生型と変異型の両領域において
似通っていた(データは示さず)。5.電気生理学的分
析LTPを含むシナプスの生理学と可塑性について検討す
るため、CA1およびCA3の錐体細胞層における電位を記録
した。
【0027】6-12週令の雄マウスから海馬切片(500(m)
を作製し(マイクロスライサーDTK-200、堂阪、日
本)、保持チャンバーで36℃にて少なくとも1時間保存
した。切片を1枚記録チャンバーに移し、95% O2と5% C
O2の混合ガスで飽和した人工CSF(ACSF,2mL/分)に浸
し、灌流した。記録は室温(25℃)にて行った。ACSFの
組成は(mM単位で):NaCl, 119; KCl, 2.5; NaH2PO4 ,
1.0; MgSO4, 1.3; CaCl2, 2.5; NaHCO3, 26; およびD-
グルコース、11である。10MΩの電気抵抗を持つガラス
の微小ピペットに0.9%のNaClを満たして、CA1およびCA
3領域における錐体細胞層の電場電位を記録するために
用いた(MEZ-8301、日本光電、日本)。プラチナ-イリ
ジウム双極性電極(直径50(m、先端分離50(m)を用い、
5あるいは10秒毎に定電圧矩形波(2.12V、2x閾値、50
(s)を当て、1分間記録(12あるいは6回)を平均し、
コンピュータに保存した(MacLab 2e, AD Instruments,
オーストラリア)。peak-to-peak法(PSの開始を示す陽
性ピークからPSの陰性ピークまで)によって集合スパイ
ク(PS)の振幅を測定した(Bliss & Gardner-Medwin, A.
R. J. Physiol.(Lond.), 232, 357-374, 1973)。PSの振
幅、潜時および傾きを測定した。PSの振幅は最も安定し
たパラメーターであり、変動が最も少ないので、ほかの
分析にも用いた。ほとんどの実験は、同じ日に同腹の変
異型と野生型の対で行った。PSの振幅の実験と測定は目
隠しで行った。
【0028】CA1の集合スパイク(PS)におけるピーク振
幅およびピーク潜時はそれぞれ、野生型マウスでは-3.8
3(0.44mVおよび8.70(0.56ms(n=11)、変異型マウスで
は-3.93(0.53mVおよび8.26(0.61ms(n=11)であった。CA3
のPS値についてはそれぞれ、野生型マウスでは-0.75(0.
08mVおよび6.68(0.69ms(n=10)、変異型マウスでは-0.
86(0.12mVおよび7.08(0.65ms(n=10)であった。野生型と
変異型との間に有意差は検出されなかった(一元配置分
散分析)。刺激閾値も野生型と変異型では差異はなかっ
た:シェーファー側枝/交連(Sch/Com)-CA1回路におい
ては(3.50(0.15V n=11対3.36(0.19V n=11)、苔状線維C
A3回路においては(7.30(1.19V n=10対6.45(1.07V n=1
0)。
【0029】次に、シナプスの短期可塑性である、対パ
ルスの促進(PPF)を調べた。苔状線維CA3回路はSch/Com
CA1回路よりも強い対パルス促進を示した(図5)。両
回路において、PPFについては野生型と変異型に有意な
差異は認められなかったが、野生型マウスの苔状線維CA
3回路では促進の延長傾向が見られた。さらに、刺激頻
度に対する感受性も調べた。頻度の促進は苔状線維CA3
回路のみで観察されたが、野生型と変異型に有意差は認
められなかった(二元配置分散分析)(図6)。
【0030】しかしながら、Sch/Com CA1および苔状線
維CA3回路においてLTPを誘導するテタヌス刺激の後で変
異型と野生型の差異は明らかになった。変異型マウスで
はSch/Com CA1-LTP(図7B)およびCA3-LTP(図7C)の
両方について減弱は明らかだった。野生型マウスのSch/
Com CA1回路におけるテタヌス刺激後の増強作用(テタ
ヌス刺激後最初の10分間で測定する)(1.14(0.04、n=1
1)は変異型のそれ(1.06(0.02、n=11)とは有意に異なっ
ていた(P<0.05,一元配置分散分析)。苔状線維CA3回路
のテタヌス刺激後の増強作用も有意差が認められた(そ
れぞれ、1.65(0.17、n=10および1.27(0.06、n=10、P<0.
05)。変異型におけるSch/Com CA1回路刺激後30-90分に
充分なLTPを示すことができなかった。
【0031】苔状線維のLTPはシナプス前に発現され、N
MDA受容体には依存していないが、CA1領域のLTPはNMDA
受容体の活性化によって開始され、その後のシナプス後
事象によって増強される(Bliss & Collingridge, Natu
re, 361, 31-39, 1993; Malenka & Nicoll, Trends Neu
rosci., 16, 521-527, 1993; Nicoll & Malenka, Natur
e, 377, 115-118, 1995)。従ってcomplexin II変異型マ
ウスにおけるCA1 LTPの減弱は何らかの不適切な自然発
生的な変異がシナプス後で発生したことによる可能性が
ある。この可能性を除外するために、NMDA(20(M、1分
Mg2+を含まない)に切片をさらすことによってSch/Com
CA1回路においてLTP様増強作用を誘導し、変異型マウス
と野生型マウスの作用を比較することを試みた。その結
果、図8Aに示したように、増強作用の程度にも時間経
過による変化にも差異は認められなかった。NMDAによる
LTP様増強作用の誘導には濃度の微調整が必要であっ
た。<10(Mの濃度では小さな、一過性の増強作用が生成
されたにすぎなかったが、>30(MではPSの持続的な抑制
が誘導された。切片をNMDAに浸すことによる大規模な活
性化はシナプス前部位およびシナプス後部位の両方に影
響を与え、変異マウスにおける正常なシナプス後反応を
保証することができない。しかしながら、変異型と野生
型マウスにおいて差異がないということは、complexin
II変異マウスのシナプス後はおそらく損なわれていない
ことを示唆している。このような電気生理学的な観察を
要約し、グラフに示した(図8B)。
【0032】
【発明の効果】以上詳しく説明したとおり、この発明に
よって、complexin II遺伝子に機能的欠損を有すること
によって、シナプス間の神経伝達機能に障害を有する動
物個体が提供される。特に、complexin II変異マウスは
学習・記憶に深く関与する長期増強(LTP)に異常が
見られる。これらの動物によって、ヒトの学習・記憶障
害等の病因および病態解析、並びにその治療技術、治療
薬等の開発が促進される。
【図面の簡単な説明】
【図1】野生型complexin II遺伝子の構造、ターゲティ
ングベクターpXXNeoDT-A(NEOはネオカセット、DT-AはDT
-Aカセット)、および相同組換え後の変異遺伝子を示し
た模式図である。文字は制限酵素部位を示す(B,Bam I;
Bg, Bgl II; S, Sal 1;X, Xba I)。黒塗り部分はコー
ド配列、白抜き部分は非コード配列を表す。ATGおよびT
AAはそれぞれ開始コドンと停止コドンの位置を示す。変
異遺伝子の下に示したプローブはサザンブロットでES細
胞をスクリーニングする場合に用いた。
【図2】モノクローナル抗体LP27およびSP33を用いたco
mplexin IおよびIIのウエスタンブロット分析の結果で
ある。小さな矢印は対照としてのcomplexin Iを示す。
野生型(+/+)、ヘテロ型(+/-)および変異型(-/-)を2組
ずつ示した。
【図3】野生型(+/+)と変異型(-/-)マウスにおける様々
なシナプスタンパク質の発現を調べたブロット分析の結
果である。
【図4】変異型と野生型の海馬におけるcomplexin Iお
よびIIの免疫組織化学的な分析結果である。CPX Iおよ
び CPX IIはそれぞれcomplexin IおよびIIを示す。
【図5】CA1およびCA3の集合スパイクにおける対パルス
の促進を示す。(A)は野生型と変異型マウスにおけるCA
1およびCA3の集合スパイクの例。刺激間間隔20ミリ秒お
よび100ミリ秒におけるトレース記録を重ねて示した。
(B)は対パルス試験の要約である。
【図6】CA1およびCA3領域における頻度の促進を示すグ
ラフである。
【図7】CA1およびCA3領域におけるLTPの結果である。
(A)は野生型と変異型のCA1およびCA3領域におけるPSの
典型的な例を示す。テタヌス刺激(TS)の前とその60分後
の反応を重ねて示した。尺度線は1mVと5ms。(B)は変異
型マウス(n=11)と野生型マウス(n=11)におけるCA1のL
TPの経時的変化であり、(C)は変異型マウス(n=10)と野
生型マウス(n=10)におけるCA3のLTPの経時的変化であ
る。
【図8】CA1領域におけるNMDAで誘導した増強作用とLTP
の要約。NMDAを含んだACSF(Mg2 +を含まないASCF中で20
(M、1分間)に曝す前と曝したのち60分のCA1-PSを野生
型および変異型について重ねて示した。尺度線1mVおよ
び5ms。(A)は変異型マウス(黒マル,n=11)および野生
型マウス(白マル、n=11)におけるNMDAで誘導したCA1-P
Sの増強作用に関する経時的変化であり、(B)はLTP試験
の要約を示したグラフである。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 椛 秀人 高知県南国市岡豊町蒲原587−75 医大宿 舎A−402 Fターム(参考) 4B024 AA01 AA20 BA80 DA02 EA04 GA18 4B065 AA91X AA91Y AB01 BA02 CA44 CA46 CA60

Claims (4)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 機能欠失型の変異を導入したcomplexin
    II変異遺伝子を有する全能性細胞を個体発生して得られ
    る非ヒト哺乳動物およびその子孫動物であって、体細胞
    染色体中に上記complexin II変異遺伝子を保有すること
    を特徴とする学習・記憶障害モデル動物。
  2. 【請求項2】 非ヒト哺乳動物が、マウスである請求項
    1の学習・記憶障害モデル動物。
  3. 【請求項3】 complexin II変異遺伝子が、ゲノムcomp
    lexin II遺伝子の一部または全部を欠損させるか、もし
    くはゲノムcomplexin II遺伝子に他のゲノム遺伝子を挿
    入することによりcomplexin II遺伝子機能に変異を導入
    した遺伝子である請求項1または2の学習・記憶障害モ
    デル動物。
  4. 【請求項4】 請求項1から3のいずれかの動物に対
    し、出生前または出生後に学習・記憶障害の候補治療薬
    を投与し、テタヌス刺激により誘導される海馬シナプス
    伝達の長期増強の改善を指標として学習・記憶障害治療
    薬を特定する試験方法。
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