以下、本発明の実施形態を図面を用いて説明する。図1は、本発明に係り、生体内部、例えば、被検体としての眼底の診察に利用される光干渉断層計Hの構成を概略的に示している。図1に示すように、光干渉断層計Hは、光出射部1と、光干渉部2と、光検出部3と、表示部4とを備えている。また、光干渉断層計Hは、CPU、ROM、RAMなどからなるマイクロコンピュータを主要構成部品とするコントローラ5を備えている。
光出射部1は、異なる特定波長を有する光をスペクトラム拡散変調して発生する複数の光発生器10から構成されている。なお、本実施形態においては、図1に示すように、光出射部1を2つの光発生器10から構成して、言い換えれば、光出射部1から2つの特定波長を有する光を発生するように構成して実施する。しかしながら、光出射部1を構成する光発生器10の数すなわち出射する光の特定波長の数については、限定されるものではなく、光出射部1を3つ以上の光発生器10から構成して実施可能であることはいうまでもない。このように、必要に応じて光発生器10を多数設けることにより、後述する生体情報としての酸素飽和度の算出において定量性が十分に確保できる。
各光発生器10は、図2に示すように、拡散符号系列発生器11、掛け算器12、光源ドライバ13および光源14を備えている。拡散符号系列としての拡散符号系列発生器11は、例えば、128ビット長の「+1」と「−1」からなるPN(Pseudorandom Noise)系列を発生させるものである。そして、この拡散符号系列発生器11は、例えば、アダマール系列やM系列、あるいは、ゴールド符号系列をPN系列として発生する。
なお、上述したアダマール系列、M系列、あるいは、ゴールド符号系列は、一般的にスペクトラム拡散変調に用いられるものと同様であるため、その発生方法に関する詳細な説明は省略するが、以下に簡単に説明しておく。アダマール系列は、「+1」と「−1」からなるアダマール行列の各行または各列を取り出して得られる系列である。M系列は、「0」または「+1」の状態を記憶する1ビットのレジスタをn段並べたシフトレジスタを用い、同シフトレジスタの中間から帰還した値と最終段における値との排他的論理和を初段に接続することにより得られる2値系列である。ただし、この2値系列をPN系列とするために、レベル変換を行い、値「0」を「−1」に変換する。ゴールド符号系列は、基本的には、2種類のM系列を用意し、これらを加算して得られる符号系列である。このため、ゴールド符号系列は、M系列に比して、格段に系列数を増やすことができる系列である。そして、これらの系列の特徴として、異なる系列は互いに直交する性質を有しており、積和演算を行うことによって「0」、すなわち、自己以外には相関が「0」となることが挙げられる。
このように、拡散符号系列発生器11の発生したPN系列は、コントローラ5に出力されるとともに、掛け算器12に出力される。掛け算器12は、コントローラ5から供給される駆動信号と、拡散符号系列発生器11から供給されるPN系列との積を取る。これにより、駆動信号をスペクトラム拡散変調することができる。そして、掛け算器12は、スペクトラム拡散変調した駆動信号すなわち変調駆動信号を光源ドライバ13に供給する。なお、掛け算器12は、本発明のスペクトラム拡散変調手段を構成する。
光源ドライバ13は、掛け算器12から供給された変調駆動信号に基づいて、光源14を駆動(発光)させるものである。光源14は、例えば、レーザダイオード(Laser Diode:LD)やスーパールミネッセンスダイオード(Super Luminescence Diode:SLD)などの近赤外発光素子から構成されている。これにより、光源14は、特定波長を有する近赤外線可干渉光を発光する。ここで、光源14の発光する近赤外線可干渉光の特定波長としては、例えば、600nm〜900nm程度の特定波長から選択されるとよく、以下の説明においては、2つの光源14のうち、一方の光源14は、例えば、780nmの特定波長を有する近赤外線可干渉光を発光し、他方の光源14は、例えば、830nmの特定波長を有する近赤外線可干渉光を発光するものとして説明する。そして、各光源14によって発光された近赤外線可干渉光は、図1に示すように、集光レンズによって集光された後、ハーフミラーにより同一光軸上に出射される。
光干渉部2は、近赤外線可干渉光を光学的に2方向に分離するとともに、同分離した近赤外線可干渉光の反射光を互いに干渉させるものである。このため、光干渉部2は、図1に示すように、ビームスプリッタ21と、光波長シフター22と、コリメートレンズ23と、可動ミラー24と、ミラー移動機構25とから構成されている。
ビームスプリッタ21は、図3に示すように、例えば、硼珪酸ガラス(商品名:BK7)や溶融石英ガラス(商品名:コルツ)など透明かつ低屈折率の材料から形成される基板21aを備えている。なお、基板21aの板厚としては、例えば、0.3mm程度が好ましい。そして、この基板21aの一面側、より詳しくは、眼底に対向する側には、反射層として、所定の層厚(例えば、0.1μm程度)を有するアルミ蒸着層21bが形成されている。このアルミ蒸着層21b上には、同層21bの酸化を防止するための保護層21cが層状に形成されている。なお、保護層21cとしては、例えば、SiO2,SiOやAlO3などを採用するとよい。
そして、ビームスプリッタ21を形成するアルミ蒸着層21bと保護層21cとには、これら各層21b,21cの形成面方向の略中央部分に層の形成されていない部分、すなわち、孔部21d(以下、この孔部を透過孔21dという)が設けられている。なお、透過孔21dは、例えば、アルミ蒸着層21bと保護層21cを形成する際に対応部分をマスクで覆って蒸着する方法、または、アルミ蒸着層21bおよび保護層21cを形成した後にエッチングする方法によって形成されるとよい。
この透過孔21dは、光干渉断層計Hにおけるビームスプリッタ21の配置状態、詳しくは、光出射部1から出射される近赤外線可干渉光の光軸に対して45°傾斜して配置された状態において、所定の孔径を有する円形となるように形成されている。ここで、所定の孔径としては、特に限定されるものではないが、好ましくは、光出射部1から出射される近赤外線可干渉光の光束と同程度以上に設定されるとよい。また、透過孔21dの形状についても、特に限定されるものではなく、真円以外に、例えば、長穴や角孔などを採用することが可能である。なお、この透過孔21dの形成された部分に対応する基板21aの領域が本発明の低反射領域を形成する。
また、基板21aの他面側、詳しくは、光源14に対向する側には、反射抑制層21eが形成されている。この反射抑制層21eは、ビームスプリッタ21に入射した近赤外線可干渉光が、基板21aにおける光源14側の表面で反射されて波長シフター22方向へ伝播することを防止する一方で、基板21aにおける眼底側の内表面(すなわち、基板21aと空気との境界面)で反射されて波長シフター22方向へ伝搬することを許容するものである。ここで、反射抑制層21eは、例えば、フッ化マグネシウムなどを採用して形成するとよい。なお、本実施形態においては、ビームスプリッタ21の形状を図3に示したように、円形として実施するが、その他の形状、例えば、角型を採用して実施可能であることはいうまでもない。
光波長シフター22は、音響光学変調器(Acousto-Optic Modulator:AOM)などを主要構成部品とし、ビームスプリッタ21によって反射されて入射した近赤外線可干渉光の周波数を僅かに変化させるものである。なお、光波長シフター22は、近赤外線可干渉光の周波数を変化させることから、光周波数シフターと称する場合もある。この光波長シフター22は、偏向媒体22aと圧電変換素子22bとから構成されている。偏向媒体22aは、例えば、二酸化テルル(TeO2)など無色透明の単結晶から形成されるものである。圧電変換素子22bは、コントローラ5から図示省略の1/2回路を介して供給される所定の発振信号Sに基づいて駆動制御されて、例えば、10〜100(MHz)程度の周波数を有する超音波を偏向媒体22aに対して入射するものである。なお、圧電変換素子22bとしては、例えば、ピエゾ素子などを採用することができる。
このように構成される光波長シフター22においては、圧電変換素子22bの発振によって入射された超音波の疎密波に起因して、偏向媒体22a中に屈折率の周期的な変化が生じる。これにより、偏向媒体22aを通過する近赤外線可干渉光の周波数は、超音波の周波数分だけ増加(または減少)するとともに、近赤外線可干渉光の波長(より詳しくは波数)に応じて所定方向に屈折される。そして、光波長シフター22によって周波数が変化した近赤外線可干渉光は、コリメートレンズ23によって平行な光束に整えられた後、可動ミラー24に到達する。
可動ミラー24は、図1に示すように、その反射面がコリメートレンズ23によって整えられた近赤外線可干渉光の光軸に対して直交するように配置されている。この配置により、可動ミラー24は、到達した近赤外線可干渉光を、再びコリメートレンズ23を介して光波長シフター22に向けて反射する。ここで、コリメートレンズ23は、図1にて破線で示すように、ビームスプリッタ21によって反射された近赤外線可干渉光の光軸上であり、かつ、光波長シフター22上に、仮想的な焦点Eを有するように配置されている。これにより、可動ミラー24によって反射された近赤外線可干渉光は、コリメートレンズ23により、ビームスプリッタ21によって反射された近赤外線可干渉光の光軸上に集光されるようになっている。ミラー移動機構25は、例えば、ピエゾ素子を主要構成部品とするアクチュエータである。そして、ミラー移動機構25は、コントローラ5によって作動制御されて、可動ミラー24をコリメートレンズ23によって整えられた近赤外線可干渉光の光軸方向に移動させるようになっている。
次に、このように構成された光干渉部2の動作について説明する。光出射部1から出射された近赤外線可干渉光は、ビームスプリッタ21に到達する。そして、ビームスプリッタ21は、到達した近赤外線可干渉光の大部分を眼底に向けて透過するとともに同光の一部を光波長シフター22に向けて反射して、入射した近赤外線可干渉光を2方向に分離する。具体的に説明すると、光源14から出射された近赤外線可干渉光は、反射抑制層21eを透過して基板21aまで到達する。そして、近赤外線可干渉光が基板21a内に入射すると、上述したように形成された透過孔21dにより、近赤外線可干渉光の大部分(約96%程度)が反射されることなく、眼底方向へ通過する。
ところで、近赤外線可干渉光が基板21a内に入射すると、眼底側の内表面(すなわち、基板21aと空気の境界面)で反射が生じる。このため、近赤外線可干渉光が基板21a内を通過する際には、その一部(約4%程度)が反射され、この反射した近赤外線可干渉光が光波長シフター22に向けて伝搬する。なお、ビームスプリッタ21を通過した近赤外線可干渉光は、例えば、光ファイバーなどを介して、眼底方向に伝搬する。また、ビームスプリッタ21によって反射された近赤外線可干渉光も、例えば、光ファイバーなどを介して、光波長シフター22方向に伝搬する。
ビームスプリッタ21を通過した近赤外線可干渉光は、光ファイバーを介して、偏光板Bに出射される。ここで、偏光板Bは、光源14から出射される近赤外線可干渉光の偏光面と一致するように、その直線偏光方向が調整されている。これにより、ビームスプリッタ21を通過した近赤外線可干渉光は、そのまま偏光板Bを通過する。このように、偏光板Bを通過した近赤外線可干渉光は、対物レンズRにより集光されて眼底に到達する。なお、この場合、偏光板Bを通過した近赤外線可干渉光の光軸を、例えば、図示しない2軸のカルバノミラーなどを用いて適宜変更し、対物レンズRによって集光された焦点が眼底の表面上を走査できるようにするとよい。
そして、対物レンズRによって集光された近赤外線可干渉光は、一点鎖線で示すように、眼底の表面近傍で反射される。なお、以下の説明においては、眼底の表面近傍で反射された反射光を計測光という。計測光は、眼底の表面近傍で反射されることによって、大きく散乱された状態となっている。言い換えれば、計測光の光束は、十分大きく拡げられた状態となっている。このように光束が大きく拡げられた計測光は、再び、対物レンズRを通過することにより、平行な光束に整えられ、偏光板Bを通過する。このとき、偏光板Bの直線偏光方向は、光源14から出射される近赤外線可干渉光の偏光面と同一であるため、偏光板Bを通過した計測光の偏光面は、ビームスプリッタ21を通過した近赤外線可干渉光の偏光面と同一となる。そして、偏光板Bを通過した計測光がビームスプリッタ21に到達すると、アルミ蒸着層21bによって反射される。このとき、計測光の光束が大きく拡げられているため、ビームスプリッタ21に到達した計測光の大部分は、その伝搬方向が90°だけすなわち図1に示す光検出部3方向に変更される。
なお、透過孔21dおよび基板21aを通過する計測光は、透過孔21dの開口面積がアルミ蒸着層21bによる反射面積に比して小さいため、透過孔21dおよび基板21aを通過する計測光の光量は僅かである。したがって、計測光が透過孔21dおよび基板21aを通過することによる計測精度に与える影響は、極めて小さい。
一方、ビームスプリッタ21によって分離されて光波長シフター22方向に伝搬する近赤外線可干渉光は、図示省略の光ファイバーを介して、光波長シフター22に到達する。光波長シフター22においては、圧電変換素子22bがコントローラ5から供給された発振信号Sに基づいて周波数RFで発振しており、この発振に伴い偏向媒体22a中の屈折率が周波数RFで周期的に変化している。ここで、近赤外線可干渉光が周波数fを有して光波長シフター22の偏向媒体22aに入射すると、周期的に変化する屈折率に基づくドップラー効果を受けて、近赤外線可干渉光の周波数がf+RF(または、f−RF)に変化する。さらに、偏向媒体22a中においては、屈折率が周期的に変化しているために屈折率の勾配が存在する。このように屈折率の勾配が存在することによって、偏向媒体22aに入射した近赤外線可干渉光は、同光の波長に依存して決まる方向に屈折する。そして、周波数がf+RF(または、f−RF)に変化するとともに屈折した近赤外線可干渉光は、コリメートレンズ23方向に出射される。コリメートレンズ23においては、光波長シフター22から出射された近赤外線可干渉光を平行な光束となるように整え、可動ミラー24の反射面に対して垂直に出射する。
可動ミラー24に到達した近赤外線可干渉光は、同一光軸上にて反射されて、再び、コリメートレンズ23に入射する。このとき、コリメートレンズ23は、入射した近赤外線可干渉光を光波長シフター22上に形成する仮想的な焦点Eに集光する。そして、コリメートレンズ23によって集光されて光波長シフター22の偏向媒体22a内に入射した近赤外線可干渉光は、再び、ドップラー効果を受けて、その周波数がf+2・RF(または、f−2・RF)に変化する。また、仮想的な焦点Eはビームスプリッタ21によって反射された近赤外線可干渉光の光軸上に形成されるため、周波数がf+2・RF(または、f−2・RF)に変化した近赤外線可干渉光は、上述した屈折率の勾配によって偏向した後、同一の光軸上を進み、再び、光ファイバーを介して、ビームスプリッタ21に到達する。
ここで、光波長シフター22による近赤外線可干渉光の周波数の変化すなわち「±2・RF」は、上述したように、圧電変換素子22bが発振するMHzオーダーの変化である。この変化は、近赤外線可干渉光の有する周波数f(THz)に比して極めて小さいものである。このため、光波長シフター22によって周波数すなわち波長が変化した近赤外線可干渉光であっても、偏向媒体22a中においては、屈折率の勾配によってほぼ同一方向に屈折して偏向する。したがって、光波長シフター22からビームスプリッタ21に向けて伝搬する近赤外線可干渉光の光軸とビームスプリッタ21によって反射された近赤外線可干渉光の光軸とは、同一の光軸であるとみなしても問題ない。
このように、光波長シフター22からビームスプリッタ21に伝搬した近赤外線可干渉光(以下の説明においては、この近赤外線可干渉光を参照光という)は、上述した眼底への近赤外線可干渉光の通過と同様に、その大部分(約96%)が基板21aおよび透過孔21dを通過して光検出部3の方向に伝搬する。なお、参照光の一部(約4%)は、基板21aを透過することによって光出射部1の方向に反射されるが、その光量は僅かであるため、計測精度に対する影響は極めて小さい。
ここで、参照光の偏光面は、光出射部1から出射された状態を維持している。このため、ビームスプリッタ21によって反射されて光検出部3の方向に伝搬する計測光の偏光面と、ビームスプリッタ21を透過して光検出部3方向に伝搬する参照光の偏光面とは同一である。これにより、これら計測光と参照光は互いに干渉することができる。なお、以下の説明においては、計測光と参照光とが干渉した近赤外線可干渉光を干渉光という。そして、この干渉光は、図示省略の光ファイバーなどを介して伝搬し、集光レンズSRにより集光された後、光検出部3によって検出される。
光検出部3は、光干渉部2からの干渉光を検出し、同検出した干渉光に対応する検出信号を用いて眼底の断面形状を表す情報や生体情報としての血中の酸素飽和度を表す情報を出力するものである。このため、光検出部3は、図4に示すように、受光器31と、復調器32と、ローパスフィルタ33(以下、LPF33という)と、ADコンバータ34とを備えている。
受光器31は、例えば、フォトディテクタ(photo detector)やフォトダイオード(photo diode)などの光電変換素子を主要構成部品とするものであり、光干渉部2からの干渉光を受光すると、同干渉光の強度を表す電気的な検出信号を時系列的に復調器32に出力する。復調器32は、受光器31から出力された電気的な検出信号を、コントローラ5から供給される発振信号Sを用いて復調するものである。LPF33は、復調器32によって復調された電気的な検出信号のうちの高周波成分を除去するものである。ADコンバータ34は、LPF33によってフィルタリングされた電気的な検出信号(アナログ信号)をデジタル信号に変換するものである。
ここで、受光器31、復調器32およびLPF33によって処理されて出力される検出信号について説明しておく。今、参照光と計測光の電界成分をそれぞれEr,Esとすると、電界成分Er,Esは下記式1,2で示すことができる。
Er=ar・cos(2π・fr+θr) …式1
Es=as・cos(2π・fs+θs) …式2
ただし、前記式1中のarは参照光の振幅を表し、frは参照光の周波数すなわち上述した周波数(f+2・RF)を表し、θrは参照光の位相を表すものである。また、前記式2中のasは計測光の振幅を表し、fsは計測光の周波数すなわち上述した周波数fを表し、θsは計測光の位相を表すものである。
したがって、受光器31によって受光される干渉光の光強度を表す検出信号Iは、下記式3で示すことができる。
I=|Er+Es|2 …式3
前記式3に対して、前記式1,2を代入して整理すると、下記式4が成立する。
I=(ar2+as2)/2+ar・as・cos(2π・(fr−fs)+(θr−θs)) …式4
ここで、以下の説明においては、計測光と参照光とが互いに干渉する場合すなわち計測光に眼底の状態を表す情報が付加された場合について説明する。なお、計測光と参照光とが互いに干渉していなければ、前記式4に従って検出信号Iは下記式5によって示すことができる。
I=(ar2+as2)/2 …式5
受光器31から前記式4によって示される電気的な検出信号Iが出力されると、復調器32は供給された電気的な検出信号Iを復調する。このことを以下に具体的に説明する。まず、復調器32は、コントローラ5から下記式6に示す発振信号Sを取得する。
S=arf・cos(2π・(2・RF)+θrf) …式6
ただし、前記式6中のarfは上述した圧電変換素子22bの発振振幅を表し、RFは発振周波数を表し、θrfは発振の位相を表すものである。
そして、復調器32は、受光器31から出力された電気的な検出信号Iを復調するために、下記式7に示すように、検出信号Iに対して発振信号Sを乗算し、復調した電気的な検出信号Imを計算する。
Im=I・S=((ar2+as2)/2+ar・as・cos(2π・(fr−fs)+(θr−θs)))・arf・cos(2π・(2・RF)+θrf) …式7
前記式7を整理すると、下記式8が成立する。
Im=((ar2+as2)/2)・arf・cos(2π・(2・RF)+θrf)+ar・as・arf・(1/2)・(cos(2π・(fr−fs)+θr−θs−2π・(2・RF)−θrf)+cos(2π・(fr−fs)+θr−θs+2π・(2・RF)+θrf)) …式8
ここで、下記式9が成立することを考慮すると、電気的な検出信号Imは下記式10のように示すことができる。
fr−fs=2・RF …式9
Im=((ar2+as2)/2)・arf・cos(2π・(2・RF)+θrf)+ar・as・arf・(1/2)・cos(θr−θs−θrf)+ar・as・arf・(1/2)・cos(2・2π・(2・RF)+θr−θs+θrf)) …式10
前記式10に示した電気的な検出信号Imは、LPF33に出力される。LPF33は、例えば、(fr−fs)で表される周波数すなわち2・RF以上の高周波成分を除去する。以下、このフィルタ処理を説明する。前記式9に示したように、参照光の周波数frと計測光の周波数fsとの差すなわち2・RFは、所謂、光ビート周波数を表している。そして、この光ビート周波数を含む前記式6で示した発振信号Sを乗算し、前記式4で示した検出信号Iを復調することによって、前記式10に示した電気的な検出信号Imを得ることができる。
ところで、前記式10に示した電気的な検出信号Imは、光ビート周波数を含む交流成分項と光ビート周波数を含まない直流成分項とから形成されている。この場合、高周波成分としての交流成分項は、眼底の計測において、所謂、ノイズとして影響するため、正確に眼底を計測するためにはこの交流成分項を除去する必要がある。このため、LPF33は、電気的な検出信号Imを、光ビート周波数2・RFを用いてローパスフィルタ処理し、高周波成分としての交流成分項を除去する。このように、LPF33がフィルタ処理することによって、下記式11に示すように、眼底の計測に必要な検出信号Imの直流成分項としての検出信号Ijを得ることができる。
Ij=ar・as・arf・(1/2)・cos(θr−θs−θrf) …式11
そして、前記式11に従って検出信号Ijが得られることにより、所謂、光ヘテロダイン効果によって、眼底における散乱に起因して微弱となった計測光の振幅asを増幅することができる。すなわち、前記式11に従って計算される検出信号Ijは、眼底の状態を表す計測光の振幅asが小さくても、容易に調整可能な参照光の振幅arと圧電変換素子22bの発振振幅arfによって大幅に増幅できることを表している。したがって、眼底の計測によって得られる電気的な検出信号IjのS/N比を大幅に改善することができて、計測の精度を大幅に高めることが可能となる。具体的に説明すると、例えば、光波長シフター22を設けない場合、言い換えれば、光ビート周波数を有する発振信号Sで電気的な検出信号Iを復調しない場合には、計測光の周波数fsと参照光の周波数frとが同一であるため、前記式4に従って、電気的な検出信号Iは下記式12のようになる。
I=(ar2+as2)/2+ar・as・cos(θr−θs) …式12
この式12と前記式11とを比較すると、前記式12においては、右辺第1項に(ar2+as2)/2が存在する。したがって、例えば、右辺第2項における微弱な計測光の振幅asを増幅するために参照光の振幅arを大きくした場合には、右辺第2項の値の変化に比して右辺第1項の値が極めて大きく変化する。すなわち、この場合には、参照光の振幅arを大きくすることによって、眼底の計測に不必要な右辺第1項がノイズとして大きく影響するようになる。このため、参照光の振幅arを大きくして計測光の振幅asを増幅しても、右辺第2項によって示される干渉光の光強度が相対的に小さくなり、電気的な検出信号IのS/N比を改善することができない。これに対して、前記式11によれば、参照光の振幅ar(または、発振振幅arf)を大きくすることによって計測光の振幅asを増幅して、計測に必要な干渉光の光強度を大きくすることができる。したがって、電気的な検出信号IjのS/N比を大幅に改善することができ、この結果、後述するように、眼底の状態を極めて正確に観察することができる。
また、光検出部3は、拡散符号系列取得器35と、掛け算器36と、累算器37と、演算器38とを備えている。拡散符号系列取得器35は、コントローラ5から、受光すべき特定の光発生器10からの近赤外線可干渉光が有する拡散符号系列すなわちPN系列を取得する。そして、拡散符号系列取得器35は、取得したPN系列をそれぞれの掛け算器36に供給する。
掛け算器36は、ADコンバータ34によってデジタル信号とされた検出信号Ijと、拡散符号系列取得器35から供給されたPN系列との積を取る。そして、掛け算器36は、計算した検出信号IjとPN系列との積の値を累算器37に出力する。累算器37は、供給された積の値を、前記供給されたPN系列の1周期以上に渡り加算する。そして、累算器37は、特定の光発生器10から出射されて眼底にて反射した計測光を含む干渉光に対応する検出信号Ijを演算器38に供給する。
演算器38は、累算器37によって出力された検出信号Ijに基づいて、干渉光の光強度すなわち光量分布を用いて眼底部分における断面形状を表す断面形状信号を算出する。なお、断面形状信号の算出については、具体的に後述する。また、演算器38は、特定の光発生器10から出射される光量と受光した干渉光の光量とを用いて、眼底部分における毛細血管中を流れる血液の酸素飽和度SO2を算出する。ここで、演算器38による血液の酸素飽和度SO2の算出について説明しておく。血液中のヘモグロビン、より詳しくは、酸素と結合した酸素化ヘモグロビンと酸素と結合していない還元ヘモグロビンにおける近赤外光の吸光特性は、文献(例えば、株式会社日立メディコ、MEDIX,vol.29など)に示されて一般的に知られるように、ランバート・ベール(Lambert-Beer)の法則に従って、下記式13のように示すことができる。
−ln(R(λ)/Ro(λ))=εoxy(λ)・Coxy・d+εdeoxy(λ)・Cdeoxy・d+α(λ)+S(λ) …式13
ただし、前記式13中のR(λ)、Ro(λ)およびdは、図5に概略的に示すように、それぞれ、波長λの干渉光の検出光量、波長λの近赤外線可干渉光の出射光量および検出領域の光路長を表すものである。また、前記式13中のεoxy(λ)は、波長λに対する酸素化ヘモグロビンの分子吸光係数を表し、εdeoxy(λ)は、波長λに対する還元ヘモグロビンの分子吸光係数を表すものである。また、前記式13中のCoxyは、酸素化ヘモグロビンの濃度を表し、Cdeoxyは、還元ヘモグロビンの濃度を表すものである。さらに、前記式13中のα(λ)は、血液中のヘモグロビン以外の色素(例えば、細胞中のミトコンドリアでの酸素の需供を反映するチトクロームaa33など)の光吸収による減衰量を表し、S(λ)は、生体組織の光散乱による減衰量を表すものである。
このように、前記式13によって表される血液中のヘモグロビンの吸光特性に基づき、例えば、血管中の血流変化に着目して血流変化前後の差分を考慮することにより、血液中の酸素飽和度SO2を算出することができる。具体的に説明すると、眼底に存在する毛細血管について、血流変化前の吸光特性を前記式13に従って表せば、血流変化後の吸光特性は下記式14によって表すことができる。
−ln(growthR(λ)/Ro(λ))=εoxy(λ)・growthCoxy・d+εdeoxy(λ)・growthCdeoxy・d+growthα(λ)+S(λ) …式14
ただし、前記式14中のgrowthR(λ)、growthCoxy、growthCdeoxyおよびgrowthα(λ)は、血流変化によって増加または減少変化した値を表すものであって、それぞれ、血流変化後の検出光量、血流変化後の酸素化ヘモグロビンの濃度、血流変化後の還元ヘモグロビンの濃度および血流変化後のヘモグロビン以外の色素の光吸収による減衰量を表すものである。
ここで、血液中のヘモグロビンの光吸収量は、ヘモグロビン以外の色素の光吸収量に比して極めて大きいため、前記式13中のα(λ)をα(λ)=growthα(λ)とすることができる。これにより、前記式14から前記式13を差し引けば、下記式15が成立する。
−ln(growthR(λ)/R(λ))=εoxy(λ)・ΔCoxy+εdeoxy(λ)・ΔCdeoxy …式15
ここで、前記式15中のΔCoxyおよびΔCdeoxyは、それぞれ、下記式16および式17によって表されるものである。
ΔCoxy=(growthCoxy−Coxy)・d …式16
ΔCdeoxy=(growthCdeoxy−Cdeoxy)・d …式17
そして、図6にてヘモグロビンの光吸光スペクトルを概略的に示すように、吸光特性のコントラスト比が明確となる特定波長として、例えば、λ=780nmや830nmの近赤外線可干渉光を用いて計測した結果に基づいて、前記式15を解くことによって、酸素化ヘモグロビン濃度変化ΔCoxy、還元ヘモグロビン濃度変化ΔCdeoxyおよび全ヘモグロビン濃度変化(ΔCoxy+ΔCdeoxy)を相対的に計算することができる。そして、これらの各値を計算することによって、下記式18によって表される相対的な酸素飽和度SO2を計算することができる。
SO2=ΔCoxy/(ΔCoxy+ΔCdeoxy) …式18
このように、演算器38は、眼底の断面形状および酸素飽和度SO2を算出すると、同算出した断面形状を表す断面形状信号および酸素飽和度SO2を表す酸素飽和度信号を表示部4に出力する。
ここで、上述した酸素化ヘモグロビン濃度変化ΔCoxy、還元ヘモグロビン濃度変化ΔCdeoxy、全ヘモグロビン濃度変化(ΔCoxy+ΔCdeoxy)および酸素飽和度SO2は、眼底内部に入射した近赤外線可干渉光が毛細血管中のヘモグロビンによって反射された計測光(干渉光)の検出光量を用いて計算されるものである。ところで、計測光(干渉光)の検出光量は、所定の計測深度における反射強度(屈折率変化など)を示しているが、計測光(干渉光)の吸収の影響は、同光の通過した光路全域におけるヘモグロビン濃度の影響を受けている。すなわち、例えば、眼底表面からの計測深度をDとすると、計測光(干渉光)の光量は、眼底表面から計測深度Dまでの吸収を往復で2回受けたものとなる。
したがって、計測光(干渉光)の眼底内部における吸収を考慮して酸素化ヘモグロビン濃度変化ΔCoxy、還元ヘモグロビン濃度変化ΔCdeoxy、全ヘモグロビン濃度変化(ΔCoxy+ΔCdeoxy)および酸素飽和度SO2を計算する場合には、所定の計測深度Dにおける計測光(干渉光)の光量と、所定の計測深度からの変化量ΔDにおける計測光(干渉光)の光量との比を求めるとよい。このとき、所定の計測深度Dにおける反射強度と変化量ΔDにおける反射強度とが略同一で、かつ、ヘモグロビンによる吸収減衰量が異なる波長の組み合わせ(例えば、780nmと830nmなど)となる近赤外線可干渉光について光量の比を求めるとよい。なお、これらの異なる波長の組み合わせにおいては、反射強度を決定している屈折率は、生体構成物質内にて、両波長の差が小さいため無視することができる。これにより、幅ΔD内での計測光(干渉光)の前記2波長における吸収減衰比を求めることができ、この吸収減衰比を用いて各ヘモグロビン濃度を計算することもできる。したがって、所定の計測深度Dのみにおける酸素化ヘモグロビン濃度変化ΔCoxy、還元ヘモグロビン濃度変化ΔCdeoxy、全ヘモグロビン濃度変化(ΔCoxy+ΔCdeoxy)および酸素飽和度SO2を算出することができる。
次に、表示部4を説明する。表示部4は、図7に示すように、画像処理器41と、表示用画像データ記憶回路42と、変換回路43と、モニタ44とを備えている。
画像処理器41は、図8に示すように、フレームコントロール回路41aと、フレームメモリ41bと、マルチプレクサ41cと、画像生成回路41dとを備えた回路である。フレームコントロール回路41aは、各フレームメモリ41bおよびマルチプレクサ41cの作動を制御する回路である。フレームメモリ41bは、フレームコントロール回路41aの制御に従って、光検出部3の演算器38によって出力された断面形状信号または酸素飽和度信号を、マルチプレクサ41cを介して画像生成回路41dに出力するものである。画像生成回路44dは、出力された断面形状信号または酸素飽和度信号に基づき、所定の態様でモニタ44に表示させる画像データを生成するものである。なお、この実施形態においては、演算器38から出力された信号をフレームメモリ41bに一時的に記憶するように実施するが、必要に応じて、前記各信号をマルチプレクサ41cに直接出力するように実施してもよい。
表示用画像データ記憶回路42は、必要に応じて、画像データに対して付帯情報である数字や各種文字などのデータを付加して一旦保存する回路である。変換回路43は、表示用画像データ記憶回路42に保存された画像データに対して、例えば、D/A変換およびTVフォーマット変換などを行う回路である。
次に、上記のように構成した光干渉断層計Hの作動について、患者の眼底を観察する場合を例示して説明する。
まず、医師またはオペレータは、光出射部1が照射する近赤外線可干渉光の光軸上に患者の眼球が位置するように、光干渉断層計Hを配置する。そして、医師またはオペレータは、コントローラ5の図示しない入力装置を操作して、近赤外線可干渉光の出射開始を指示する。これにより、コントローラ5は、光出射部1を構成する光発生器10のそれぞれに対して、同発生器10を駆動させるための駆動信号を供給する。これにより、2つの光発生器10は、同時にその作動を開始し、それぞれ、780nmの波長を有する近赤外線可干渉光と830nmの波長を有する近赤外線可干渉光を同時に出射する。
すなわち、各光発生器10においては、拡散符号系列発生器11が、例えば、PN系列としてゴールド符号系列を発生する。そして、拡散符号系列発生器11は、発生したPN系列をコントローラ5に対して出力するとともに、掛け算器12に出力する。掛け算器12は、コントローラ5から供給された駆動信号とPN系列との積を取り、駆動信号をスペクトラム拡散変調する。そして、スペクトラム拡散変調された変調駆動信号が光源ドライバ13に供給されることにより、光源ドライバ13は、光源14を発光させる。これにより、780nmの波長を有する近赤外線可干渉光と830nmの波長を有する近赤外線可干渉光とが同時に出射され、同出射された各近赤外線可干渉光は、集光レンズによって集光された後、ハーフミラーによって同一光軸上にて光学的に合成されて光干渉部2に向けて進む。
光学的に合成された近赤外線可干渉光は、光干渉部2に到達すると、ビームスプリッタ21によって光学的に2つに分離される。すなわち、近赤外線可干渉光は、その大部分が反射抑制層21e、基板21aおよび透過孔21dを透過するとともに偏光板Bおよび対物レンズRを通過して、患者の眼球に到達する。なお、以下の説明において、患者の眼球に到達する光を第1の近赤外線可干渉光という。また、ビームスプリッタ21に到達した近赤外線可干渉光の一部は、反射抑制層21eを透過後、基板21aの内表面で反射して、光波長シフター22に到達する。なお、以下の説明において、光波長シフター22に到達する近赤外線可干渉光を第2の近赤外線可干渉光という。
眼球に入射した第1の近赤外線可干渉光は、眼底において散乱反射する。そして、反射した計測光は、光束が拡げられた状態で、対物レンズRによって平行な光束に整えられた後、偏光板Bによって直線偏光される。このとき、計測光の偏光面は、上述したように、第1の近赤外線可干渉光の偏光面と同一となる。そして、計測光は、ビームスプリッタ21に到達すると、大部分が光検出部3の方向へ反射される。一方、光波長シフター22に到達した第2の近赤外線可干渉光は、偏向媒体22aを透過することによって周波数が変化するとともに屈折し、コリメートレンズ23を介して可動ミラー24に到達する。そして、可動ミラー24に到達した第2の近赤外線可干渉光は、同ミラー24によって反射され、コリメートレンズ23を介して、再び、光波長シフター22に入射する。このように、第2の近赤外線可干渉光が光波長シフター22の偏向媒体22aに入射すると、再度、周波数が変化するとともに屈折し、参照光としてビームスプリッタ21に到達する。そして、参照光の大部分が光検出部3の方向へ透過する。このとき、参照光の偏光面は、上述したように、第2の近赤外線可干渉光の偏光面と同一の状態が維持されている。したがって、計測光と参照光との偏光面は、同一となる。
ここで、第2の近赤外線可干渉光は、780nmの波長を有する近赤外線可干渉光と830nmの波長を有する近赤外線可干渉光とが光学的に合成されたものである。このため、光波長シフター22の偏向媒体22a中における780nmの波長を有する近赤外線可干渉光と830nmの波長を有する近赤外線可干渉光の屈折率はそれぞれの波長差に依存して異なり、光波長シフター22から可動ミラー24へ出射する方向および光波長シフター22からビームスプリッタ21へ出射する方向が異なる。しかしながら、光波長シフター22と可動ミラー24との間にコリメートレンズ23を配置することによって、光波長シフター22から可動ミラー24へ出射する方向が異なっていても、それぞれの近赤外線可干渉光は常に平行な光束に整えられて可動ミラー24に到達し、同ミラー24への入射方向と同一の方向に反射される。また、光波長シフター22上に仮想的な焦点Eを形成するようにコリメートレンズ23を配置することにより、可動ミラー24によって反射されたそれぞれの近赤外線可干渉光は、常に、同一光軸上をビームスプリッタ21に向けて進む。したがって、コリメートレンズ23を光波長シフター22と可動ミラー24のと間に配置することによって、複数の近赤外線可干渉光から構成される参照光の進路に関する波長依存性を無くすことができる。
そして、ビームスプリッタ21によって反射された計測光と、ビームスプリッタ21を透過した参照光とは、互いに干渉した状態で光検出部3に到達する。ここで、計測光と参照光とが互いに干渉する場合を説明しておく。今、ビームスプリッタ21と眼底との間の距離をL1とし、ビームスプリッタ21と可動ミラー24との間の距離をL2とする。このとき、距離L1と距離L2とが等しければ、計測光および参照光とが有するコヒーレント長(例えば、5μm〜20μm程度)だけ干渉する。これにより、光検出部3は、この干渉した近赤外線可干渉光すなわち干渉光を検出する。一方、距離L1と距離L2とが等しくなければ、計測光と参照光とが互いに干渉しない。これにより、光検出部3は干渉光を検出しない。
言い換えれば、ビームスプリッタ21から眼底までの距離L1がビームスプリッタ21から可動ミラー24までの距離L2に等しい場合には、眼底にて反射した計測光による干渉光が光検出部3によって良好に検出され、距離L1が距離L2と異なる場合には、干渉光が光検出部3によって検出されない。したがって、眼底の表面で反射したり、眼底の断面方向内部で反射したりして、距離L1によって決定される眼底の断面方向の位置と異なる位置からの計測光が光検出部3に到達している状況においては、これら計測光のうち、距離L2に等しい眼底の位置からの計測光のみが参照光との干渉光として検出される。
ところで、可動ミラー24は、ミラー移動機構25により、コリメートレンズ23によって平行な光束に整えられた第2の近赤外線可干渉光の光軸方向に移動することができるため、距離L2を任意に変更することができる。これにより、ミラー移動機構25を作動させて距離L2を任意に変更させることによって、光検出部3が検出可能な距離L1を順次変更することができる。したがって、距離L2を順次変更することによって、眼底の特定部位すなわち計測対象部位を順次変更することができ、同計測対象部位からの計測光を含む干渉光のみを選択的に分離して検出することができる。
光検出部3においては、受光器31が干渉光を検出する。このとき、受光器31には、780nmと830nmの波長を有する近赤外線可干渉光がともに干渉光として到達する。このような状況において、コントローラ5は、到達した干渉光のうち、特定の光発生器10から出射された近赤外線可干渉光に基づく計測光を含む干渉光を選択して受光するように、光検出部3を制御する。このコントローラ5による制御を具体的に説明する。
コントローラ5は、上述したように、光出射部1に対して駆動信号を供給した後、各光発生器10からPN系列を取得する。そして、コントローラ5は、各光発生器10の拡散符号系列発生器11から取得したPN系列を、光検出部3に対して供給する。これにより、光検出部3は、供給されたPN系列を拡散符号系列取得器35によって取得する。そして、拡散符号系列取得器35は、取得したPN系列を掛け算器36に供給する。
一方、受光器31においては、干渉光をすべて受光し、同受光した干渉光に応じた電気的な検出信号Iを時系列的に復調器32に出力している。そして、復調器32は、コントローラ5から取得した発振信号Sを用いて、時系列的に出力された電気的な検出信号Iを復調し、復調した電気的な検出信号ImをLPF33に出力している。LPF33は、時系列的に出力された電気的な検出信号Imをフィルタ処理し、同フィルタ処理した電気的な検出信号IjをADコンバータ34に出力している。さらに、ADコンバータ34は、フィルタ処理された電気的な検出信号Ijをデジタル信号に変換するとともに同変換した電気的な検出信号Ijを掛け算器36に出力している。
この状態において、掛け算器36は、ADコンバータ34から出力されたデジタル変換された検出信号Ijと、拡散符号系列取得器35から供給されたPN系列との積を取る。そして、掛け算器36は計算した積の値を累算器37に出力し、累算器37は、出力された積の値をPN系列の1周期(すなわち、128ビット長)以上に渡り加算する。このように、掛け算器36と累算器37による積和処理により、検出信号IjとPN系列との相関を取ることができ、特定の光発生器10からの近赤外線可干渉光、具体的には、780nmまたは830nmの波長を有する計測光を含む干渉光に対応した検出信号Ijのみを選択して出力することができる。
すなわち、上述したように、PN系列に関しては、異なる系列が互いに直交する性質、言い換えれば、異なる系列同士の積の和が「0」となる性質を有している。このため、拡散符号系列取得器35が掛け算器36に対して、特定の光発生器10のPN系列を供給した場合には、ADコンバータ34から出力された検出信号Ijのうち、前記特定の光発生器10から出射された近赤外線可干渉光に対応する検出信号以外の検出信号と前記供給されたPN系列との積の和は「0」となる。これにより、累算器37によって加算される値も「0」となり、相関は「0」となる。したがって、拡散符号系列取得器35から供給されたPN系列を有しない(または一致しない)干渉光、言い換えれば、特定の光発生器10以外から出射された近赤外線可干渉光の計測光を含む干渉光は選択的に排除され、特定の光発生器10から出射された近赤外線可干渉光の計測光を含む干渉光に対応する検出信号Ijのみが演算器38に出力される。
演算器38においては、累算器37から供給された検出信号のうち、830nmの波長を有する計測光を含む干渉光に対応する検出信号Ijに基づき、生体情報として、眼底の断面形状を計算する。具体的に説明すると、上述したように、ミラー移動機構25を作動させることによって、可動ミラー24を移動させて距離L2を適宜変更することができる。そして、この距離L2の変更に伴い、距離L1も変更されることによって、眼底の表面から断面方向内部における計測対象部位を変更することができる。
このように、計測対象部位を変更した場合において、光検出部3の受光器31に到達する干渉光は眼底の断面方向におけるある反射面にて反射した計測光を含んでいるため、累算器37から演算器38に供給される検出信号Ijは、前記反射面における干渉光(計測光)の2次元的な光量分布を表している。このため、ビームスプリッタ21と可動ミラー24との間の距離L2を順次変化させる、すなわち、ビームスプリッタ21と眼底との間の距離L1を変化させて計測光の反射面を順次変化させることによって、演算器38は、各反射面における光量分布を得ることができる。ところで、この計測光の光量分布は、反射面の形状に応じて変化するものである。このため、これらの光量分布を断面方向にて重畳する合成計算を実行することにより、眼底の断面形状を計算することができる。そして、演算器38は、計算した眼底の断面形状を表す断面形状信号を表示部4の画像処理器41に出力する。
また、演算器38は、選択的に取得した780nmおよび830nmの計測光を含む干渉光に対応する検出信号Ijを用い、より詳しくは、上述した眼底の断面形状の計算と同様にある反射面における干渉光(計測光)の2次元的な光量分布を用い、前記式13〜18に従って酸素飽和度SO2を計算する。したがって、反射面が順次変更されることに伴って計算される酸素飽和度SO2を断面方向にて重畳する合成計算を実行することにより、眼底の断面形状の位置と一致した酸素飽和度SO2を計算することができる。そして、演算器38は、計算した酸素飽和度SO2を表す酸素飽和度信号を表示部4の画像処理器41に出力する。
表示部4においては、画像処理器41のフレームコントロール回路41aが、光検出部3の演算部38から出力された断面形状信号および酸素飽和度信号をフレームメモリ41bに一時的に記憶させる。そして、フレームコントロール回路41aは、マルチプレクサ41cに対して、フレームメモリ41bの所定記憶位置に一時的に記憶されている断面形状信号および酸素飽和度信号を画像生成回路41dに出力させる。画像生成回路41dは、出力された断面形状信号に基づいて眼底の断面形状を表す断面形状画像データを生成するとともに、出力された酸素飽和度信号に基づいて断面形状の位置と一致する酸素飽和度SO2を表す酸素飽和度画像データを生成する。そして、画像生成回路41dは、生成した断面形状画像データおよび酸素飽和度画像データを表示用画像データ記憶回路42に出力する。
表示用画像データ記憶回路42においては、画像生成回路41dから供給された断面形状画像データおよび酸素飽和度画像データを一旦記憶する。そして、変換回路43によって、表示用画像データ記憶回路42に一旦記憶された画像データが変換されることにより、モニタ44は、眼底の断面形状や眼底の酸素飽和度をそれぞれ表示したり、合成された断面形状と酸素飽和度を表示する。
以上の説明からも理解できるように、上記実施形態に係る光干渉断層計Hによれば、被検体としての眼球の眼底の断面形状を計測できるとともに、この断面形状に一致した部分の酸素飽和度SO2を計測することができる。これら断面形状および酸素飽和度SO2の計測においては、同時に波長の異なる近赤外線可干渉光を出射することにより、特に、酸素飽和度SO2の変化をより詳細に計測することができる。すなわち、酸素飽和度SO2の時間変化は比較的遅いものの、厳密には、時間変化している。これに対して、波長の異なる近赤外線可干渉光を同時に出射することにより、光検出部3に同一時点における眼底の状態、より詳しくは、酸素飽和度SO2の状態を反映した計測光が到達する。このため、ある瞬間における酸素飽和度SO2を良好に計測でき、時間経過に伴う酸素飽和度SO2の変化を極めて正確に算出することができる。また、上記実施形態に係る光干渉断層計Hによれば、計測に必要な計測光の光強度、より詳しくは、計測光の振幅を容易に増幅することができる。この結果、微弱な計測光に基づいて極めて正確な断面形状および酸素飽和度SO2を計測することができる。
上記実施形態においては、コントローラ5から供給された駆動信号をスペクトラム拡散変調した変調駆動信号に基づき、光出射部1の2つの光発生器10の発光タイミングを同時にして、近赤外線可干渉光を発光するように実施した。これに対して、光出射部1の2つの光発生器10の発光タイミングを所定の短い時間間隔で異ならせて、近赤外線可干渉光をパルス発光するように実施することも可能である。以下、この第1変形例について説明するが、上記実施形態と同一部分に同一の符号を付し、その詳細な説明を省略する。
この第1変形例における光干渉断層計Hの光出射部1においては、上記実施形態における光出射部1の光発生器10から拡散符号系列発生器11、掛け算器12が省略されて、図9に示すように、光源ドライバ13および光源14から構成される。この第1変形例における光源ドライバ13は、コントローラ5から取得した駆動信号に基づいて、光源14を駆動(発光)させるものである。また、光源14は、上記実施形態と同様に、例えば、レーザダイオード(Laser Diode:LD)やスーパールミネッセンスダイオード(Super Luminescence Diode:SLD)などの近赤外発光素子から構成される。このため、この第1変形例においても、各光源14から600nm〜900nm程度の波長範囲にある近赤外線可干渉光、具体的には、780nmの波長を有する近赤外線可干渉光と830nmの波長を有する近赤外線可干渉光が出射される。なお、この第1変形例においても、光発生器10の数については、2つに限定されるものではなく、3つ以上の光発生器10を設けて実施可能であることはいうまでもない。
また、この第1変形例においては、光出射部1の変更に伴って、光検出部3も変更される。すなわち、この第1変形例における光検出部3においては、上記実施形態における光検出部3の拡散符号系列取得器35、掛け算器36および累算器37が省略されて、図10に示すように、受光器31、復調器32、LPF33、ADコンバータ34および演算器38から構成される。なお、この第1変形例における光検出部3においては、拡散符号系列取得器35、掛け算器36および累算器37が省略されること以外、上記実施形態と同様に干渉光を受光して眼底の断面形状信号および酸素飽和度信号を表示部4に出力する。このため、第1変形例における光検出部3の構成に関する説明は省略する。
次に、上記のように構成された第1変形例に係る光干渉断層計Hの作動について説明する。この第1変形例においても、医師またはオペレータは、光出射部1が照射する近赤外線可干渉光の光軸上に患者の眼球が位置するように、光干渉断層計Hを配置する。そして、医師またはオペレータは、コントローラ5の図示省略の入力装置を操作して、近赤外線可干渉光の出射開始を指示する。これにより、コントローラ5は、光出射部1を構成する2つの光発生器10のそれぞれに対して、所定の短い時間間隔で近赤外線可干渉光を発生させるための駆動信号を供給する。これにより、2つの光発生器10は、所定の短い時間間隔で、交互にその作動を開始する。
具体的に説明すると、780nmの波長を有する近赤外線可干渉光を発光する光発生器10においては、所定の短い時間間隔でコントローラ5から供給された駆動信号を光源ドライバ13によって取得する。これにより、光源ドライバ13は、取得した駆動信号に基づいて光源14をパルス発光させ、光源14は、780nmの波長を有する近赤外線可干渉光を、集光レンズを介してハーフミラーに向けて出射する。また、830nmの波長を有する近赤外線可干渉光を発光する光発生器10においても、所定の短い時間間隔でコントローラ5から供給された駆動信号を光源ドライバ13によって取得する。これにより、光源ドライバ13は、取得した駆動信号に基づいて光源14をパルス発光させ、光源14は、830nmの波長を有する近赤外線可干渉光を、集光レンズを介してハーフミラーに向けて出射する。このように、各光源14から出射された近赤外線可干渉光は、ハーフミラーを通過することによって同一の光軸上を光干渉部2に向けて進む。
光干渉部2においては、上記実施形態と同様に、ビームスプリッタ21によって、到達した近赤外線可干渉光が、第1の近赤外線可干渉光と第2の近赤外線可干渉光に光学的に分離される。そして、第1の近赤外線可干渉光は、ビームスプリッタ21を透過して患者の眼球に到達して眼底表面の近傍にて反射し、計測光として再びビームスプリッタ21に到達する。一方、第2の近赤外線可干渉光は、光波長シフター22を通過することによって周波数が変化するとともに可動ミラー24によって反射され、参照光として再びビームスプリッタ21に到達する。そして、計測光と参照光とが互いに干渉して、光検出部3に到達する。
光検出部3においては、上記実施形態と同様に、受光器31によって干渉光を受光し、同受光した干渉光の光強度に対応した電気的な検出信号Iが復調器32に出力される。復調器32においては、上記実施形態と同様に、発振信号Sを用いて電気的な検出信号Iを復調した検出信号ImをLPF33に出力する。LPF33は、光ビート周波数で検出信号Imをフィルタ処理して検出信号IjをADコンバータ34に出力し、ADコンバータ34は、検出信号Ijをデジタル信号に変換する。そして、演算器38は、上記実施形態と同様に、検出信号Ijを用いて患者の眼底の断面形状を表す断面形状信号を出力するとともに、前記式13〜式18に従って酸素飽和度SO2を計算して酸素飽和度信号を表示部4に出力する。これにより、表示部4が、上記実施形態と同様に、眼底の断面形状や眼底の酸素飽和度をそれぞれ表示したり、合成された断面形状と酸素飽和度を表示する。
以上の説明からも理解できるように、この第1変形例に係る光干渉断層計Hにおいては、波長の異なる近赤外線可干渉光を順次発光することによって、眼底の断面形状および酸素飽和度SO2を計測することができる。これにより、生体内部における速い変化の計測においては、若干計測精度が劣るものの、光干渉断層計Hの構成を簡略化することができて、上記実施形態と同様の効果が期待できる。
なお、上記第1変形例においては、コントローラ5が、光出射部1を構成する2つの光発生器10のそれぞれに対して、所定の短い時間間隔で同発生器10を駆動させるための駆動信号を供給するように実施した。しかしながら、コントローラ5は、各光発生器10による近赤外線可干渉光の出射間隔を長くして、駆動信号を供給するように実施することも可能である。このように、近赤外線可干渉光の出射間隔を長く設定することによって、例えば、受光器31(フォトディテクタなど)の光検出速度を小さくすることができるため、光干渉断層計Hの製造コストを低減することができる。
また、上記実施形態においては、透過孔21dの形成されたビームスプリッタ21を採用して実施した。これに対して、従来から広く知られて入射した近赤外線可干渉光を光学的に2つに分離するビームスプリッタを採用して実施することもできる。以下、この第2変形例について説明する。
この第2変形例に係る光干渉部2おいては、図11に示すように、ビームスプリッタ21に代えて、透過孔21dが形成されていないビームスプリッタ26が採用されている。このビームスプリッタ26は、光出射部1から出射された近赤外線可干渉光を、眼底方向と光波長シフター22の方向に対して、例えば、1:1に分離するものである。このため、眼底近傍で反射された計測光は、50%が光検出部3の方向に反射され、50%が光出射部1の方向に透過する。また、可動ミラー24によって反射された参照光は、50%が光検出部3の方向に透過し、50%が光出射部1の方向に反射される。このため、光検出部3の受光器31によって検出される光強度は、光出射部1から出射された近赤外線可干渉光の光強度に比して25%程度しか得られない。しかし、上記実施形態において説明したように、復調器32が発振信号Sを用いて検出信号Iを復調し、LPF33によってフィルタ処理することにより、微弱な計測光であっても、極めて容易に増幅して計測信号Ijを得ることができるため、この第2変形例においても、上記実施形態と同様に、極めて正確に断面形状および酸素飽和度SO2を算出することができて、医師の診断を補助することができる。
本発明の実施にあたっては、上記実施形態およびその変形例に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の変形が可能である。
例えば、上記実施形態においては、前記式13〜式18(より詳しくは、前記式18)に従って、酸素飽和度SO2を算出するように実施した。ところで、上記実施形態において算出される酸素化ヘモグロビン濃度変化ΔCoxyおよび還元ヘモグロビン濃度変化ΔCdeoxyは、前記式16および式17からも明らかなように、光路長dを含んで計算されるものである。一般的に生体内部に入射した光の光路長を厳密に測定または算出することは、極めて難しい。したがって、前記式16および式17における光路長dは相対量として用いられており、酸素化ヘモグロビン濃度変化ΔCoxyおよび還元ヘモグロビン濃度変化ΔCdeoxyを用いた前記式18に従って算出される酸素飽和度SO2も相対量となる。
これに対して、下記に示す各式に従って酸素飽和度SO2を計算することにより、脈動成分中の酸素飽和度SO2言い換えれば動脈または細動脈中の酸素飽和度SO2を算出することができる。なお、この酸素飽和度の算出方法については、例えば、特開昭63−111837号公報に開示されて従来から広く知られている算出方法であるため、その詳細な説明を省略する。
生体内の赤外減光度は、下記式19に従って計算することができる。
−log(I1/I0)=K・C・e+A …式19
ただし、前記式7中のI1は透過光の光量を表し、I0は入射光の光量を表す。また、前記式19中のKはヘモグロビンの吸光係数を表し、Cは血中ヘモグロビン血液濃度を表し、eは血液層の厚さ(前記式16,17における光路長dに相当)を表し、Aは組織層の減光度を表す。ここで、前記式19は、生体内を透過した赤外光の減光度を算出するものであるが、反射した赤外光であっても同様の特性を示すことが知られている。
脈動により血液層の厚さeがΔeだけ変化したとすると、赤外減光度の変化は下記式20に従って計算することができる。
−(log(I1/I0)−log(I2/I0))=K・C・e−K・C・(e−Δe) …式20
前記式20を整理すると、下記式21に示すようになる。
−log(I2/I1)=K・C・Δe …式21
ただし、前記式20および式21中のI2は血液層の厚さの変化後における透過光の光量を表す。
次に、透過光の光量I1を有する赤外光の波長をλ1、透過光の光量I2を有する赤外光の波長をλ2として、時刻t1,t2におけるλ1の各透過光の光量をI11,I21、λ2の各透過光の光量をI12,I22とすると、前記式21に従って、各時刻における赤外減光度の変化は、下記式22および式23のように示すことができる。
−log(I21/I11)=K1・C・Δe …式22
−log(I22/I12)=K2・C・Δe …式23
ただし、前記式22中のK1は、波長λ1の赤外光に対するヘモグロビンの吸光係数を表し、前記式23中のK2は、波長λ2の赤外光に対するヘモグロビンの吸光係数を表す。そして、前記式23を前記式22で除算すると、血液層の厚さ変化Δeを消去した下記式24が成立する。
log(I12/I22)/log(I11/I21)=K2/K1 …式24
したがって、前記式24を変形すれば、下記式25が成立する。
K2=K1・log(I12/I22)/log(I11/I21) …式25
ここで、図12に示す酸素飽和度に応じたヘモグロビンの光吸収スペクトルを参照して、ヘモグロビンの吸光係数K1に対応する吸光波長として805nmを選択すると、酸素飽和度SO2=0%と酸素飽和度SO2=100%の曲線の交点を得る。これにより、吸光係数K1は、酸素飽和度の影響を受けない値となる。そして、ヘモグロビンの吸光係数K2に対応する吸光波長として、例えば、750nmを選択するとともに、酸素飽和度SO2=0%のときのヘモグロビンの吸光係数をKp、酸素飽和度SO2=100%のときのヘモグロビンの吸光係数をK0とすると、現在の酸素飽和度SO2は下記式26に従って計算できる。
SO2=(K2−Kp)/(K0−Kp) …式26
これにより、前記式26に従って計算される酸素飽和度SO2は、相対量を含むことなく計算されるため、実際の酸素飽和度を得ることができる。したがって、医師による診断において、より正確な酸素飽和度SO2を提供することができる。なお、血液層の厚さ変化は極めて速い変化であるため、この場合には、上記実施形態において説明したように、光出射装置1の光源12を同時に駆動(発光)させて、異なる特定波長を有する近赤外線可干渉光を同時に出射することが好ましい。
また、上記実施形態においては、光出射部1が、コントローラ5から供給される駆動信号を変調した変調駆動信号に基づき、光源14を駆動(発光)させることによって近赤外線可干渉光を出射するように実施した。そして、光検出部3は、干渉光に含まれる変調駆動信号を駆動信号に逆拡散することにより、検出信号Ijを選択するように実施した。しかしながら、光検出部3に入射する干渉光を、例えば、ダイクロックミラーなどによって光学的に分離することにより、コントローラ5から供給される駆動信号を変調することなく、異なる特定波長を有する2つの近赤外線可干渉光を同時に出射して実施することも可能である。なお、この場合には、光検出部3は、2つの受光器31を備える構成となる。
この構成によれば、光出射部1において、2つの光源14は、コントローラ5から供給された所定の駆動信号に基づいて、780nmと830nmの波長を有する近赤外線可干渉光を同時に出射する。出射された2つの近赤外線可干渉光は、ハーフミラーによって光学的に合成されて、光干渉部2に出射される。そして、光干渉部2は、上記実施形態と同様に、計測光と参照光とが干渉した干渉光を光検出部3に向けて出射する。このとき、出射された干渉光の光軸上には、ダイクロックミラーが設けられているため、同ミラーに入射した干渉光は光学的に分割される。すなわち、ダイクロックミラーは、入射した干渉光を、780nmの波長を有する干渉光と830nmの波長を有する干渉光とに光学的に分割する。そして、分割されたそれぞれの干渉光は、光検出部3に設けられた2つの受光器31に入射する。
ぞれぞれの受光器31は、780nmの波長を有する干渉光と830nmの波長を有する干渉光に対応する電気的な検出信号Iを復調器32に出力し、復調器32は、上記実施形態と同様に、それぞれの検出信号Iを復調し、検出信号Imを出力する。出力されたそれぞれの検出信号Imは、LPF33によってフィルタ処理されて、780nmの波長を有する干渉光と830nmの波長を有する干渉光に対応する検出信号Ijが演算器38に供給される。そして、上記実施形態と同様に、演算器38は、断面形状を算出するとともに、酸素飽和度SO2を算出する。したがって、上記実施形態と同様の効果が期待できる。また、スペクトラム拡散変調や逆拡散する必要がないため、光干渉断層計Hの構成を簡略化することができる。
また、上記実施形態においては、コントローラ5から供給される駆動信号をスペクトラム拡散変調することによって変調駆動信号を生成し、2つの近赤外線可干渉光が互いに干渉することなく出射されるように実施した。これに対して、コントローラ5から供給される駆動信号を周波数分割多重(Frequency Division Multiple Access:FDMA)変調することによって変調駆動信号を生成し、2つの近赤外線可干渉光の干渉を防止するように実施することも可能である。
この場合においては、上記実施形態における光出射部1の拡散符号系列発生器11および掛け算器12が省略されて、周波数分割多重変調器が設けられる。また、この場合においては、上記実施形態における光検出部3の拡散符号系列取得器35、掛け算器36および累算器37が省略されて、周波数分割多重復調器が設けられる。なお、周波数分割多重変調器および周波数分割多重復調器の作動については、従来から広く知られている方法を適用して変調処理および復調処理を実施可能であるため、その詳細な説明については省略する。
このように、構成された光干渉断層計Hの光出射部1においては、コントローラ5から供給された駆動信号が、周波数分割多重変調器によって周波数多重変調されて変調駆動信号が生成される。そして、各光源ドライバ13は、生成された変調駆動信号に基づいて、それぞれの光源14を同時に発光させる。また、光検出部3においては、周波数分割多重復調器がADコンバータ32から出力された検出信号Ijを復調することにより、特定の光発生器10から出射された近赤外線可干渉光の計測光を含む干渉光に対応する検出信号Ijのみを演算器38に出力する。したがって、この場合においても、上記実施形態と同様の効果が期待できる。
また、上記実施形態においては、光出射部1の光源14が、コントローラ5から供給される駆動信号をスペクトラム拡散変調した変調駆動信号に基づいて同時に発光するように実施した。しかし、上記第1変形例と同様に、スペクトラム拡散変調された変調駆動信号に基づいて、光源ドライバ13が光源14を順次発光させるように実施可能であることはいうまでもない。
また、上記各実施形態およびその変形例においては、光出射部1から出射された近赤外線可干渉光の光量と光検出部3によって検出された干渉光の光量を用いて、生体情報としての酸素飽和度SO2を算出するように実施した。これに対して、本発明に係る光干渉断層計Hによれば、光出射部1から出射された近赤外線可干渉光の光量と光検出部3によって検出された干渉光の光量を用いて算出可能であれば、その他の生体情報、例えば、血管中の血流や血流変化などを算出して表示部4に表示することもできる。これにより、上記各実施形態およびその変形例においては、光干渉断層計Hを眼底の診察に適用して実施したが、生体のその他の部位の診察などに光干渉断層計Hを用いて実施可能であることはいうまでもない。
さらに、上記実施形態および各変形例においては、光源14を近赤外発光素子から構成し、近赤外線可干渉光を出射するように実施した。しかし、光源14から出射する光に関しては、近赤外線可干渉光に限定されるものではなく、その他の光を出射可能であることはいうまでもない。なお、この場合には、より良好に干渉光を生じさせるために、例えば、光出射部1と光干渉部2との間にて、偏光板Bと同一方向に直線偏光する偏光板を設けるとよい。
1…光出射部、10…光発生部、11…拡散符号系列発生器、12…掛け算器、13…光源ドライバ、14…光源、2…光干渉部、21…ビームスプリッタ、22…光波長シフター、23…コリメートレンズ、24…可動ミラー、25…ミラー移動機構、3…光検出部、31…受光器、32…復調器、33…ローパスフィルタ、34…ADコンバータ、35…拡散符号系列取得器、36…掛け算器、37…累算器、38…演算器、4…表示部、5…コントローラ、H…光干渉断層計