WO2024071280A1 - 腎毒性評価方法 - Google Patents

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Abstract

化合物等の物質の腎毒性を評価するための改善されたin vitro評価系として、被験物質の腎毒性を評価するための方法であって、被験物質と腎オルガノイドとを接触させる工程を含み、被験物質における対照物質に比較して高い細胞障害性が、被験物質の腎毒性の可能性を示す、方法を提供する。

Description

腎毒性評価方法
 本開示は、被験物質の腎毒性を評価するための方法に関する。より詳しくは、腎オルガノイドを用いたin vitro腎毒性評価方法に関する。
(発明の背景)
 化合物等の物質の腎毒性を評価するために、近位尿細管細胞株(Renal Proximal Tubule Epithelial Cell:RPTEC)を用いたin vitro評価系が提案されている(例えば非特許文献1参照)。RPTECを用いたin vitro評価系では、近位尿細管以外の腎構成細胞(例えば糸球体上皮細胞など)に対する毒性を評価することは難しく、近位尿細管以外の細胞も含んで構成される生体腎での毒性反応とは異なる結果が得られる場合がある。
 本開示に関連して、非特許文献2-4には、幹細胞からの腎オルガノイド(Kidney Organoid:KiO)を誘導する技術が開示されている。
"Nephrotoxicity and Kidney Transport Assessment on 3D Perfused Proximal Tubules", Marianne K. Vormann, et. al., The AAPS Journal, 2018, 20, Art. No. 90 "Kidney organoids from human iPS cells contain multiple lineages and model human nephrogenesis", Minoru Takasato et. al., Nature, 2015, Volume 526, Page 564-568 " Generation of kidney organoids from human pluripotent stem cells", Minoru Takasato et. al., Nature Protocols, 2016, Volume 11, Page 1681-1692 "Plasticity of distal nephron epithelia from human kidney organoids enables the induction of ureteric tip and stalk", Sara E. Howden et. al., Cell Stem Cell, 2021, Volume 28, Issue 4, 1, Pages 671-684
 本開示は、化合物等の物質の腎毒性を評価するための改善されたin vitro評価系を提供することを主な目的とする。
 上記課題解決のため、本開示は、以下の[1]-[32]を提供する。
[1] 被験物質の腎毒性を評価するための方法であって、
被験物質と腎オルガノイドとを接触させる工程を含み、
被験物質における対照物質に比較して高い細胞障害性が、被験物質の腎毒性の可能性を示す、方法。
[2] 腎毒性を有する可能性がある被験物質のスクリーニング方法であって、
(1)被験物質と腎オルガノイドとを接触させる工程、
(2)対照物質に比較して高い細胞障害性を示す被験物質を選択する工程、
を含む、方法。
[3] 腎毒性を有さないまたは低い腎毒性を有する可能性がある被験物質のスクリーニング方法であって、
(1)被験物質と腎オルガノイドとを接触させる工程、
(2)細胞障害性を示さないまたは対照物質に比較して低い細胞障害性を示す被験物質を選択する工程、
を含む、方法。
[4] 前記腎オルガノイドが、ヒト人工多能性幹細胞由来である、[1]-[3]のいずれかの方法。
[5] 前記腎オルガノイドが、富化された糸球体上皮細胞様細胞を有する、[1]-[4]のいずれかの方法。
[6] 前記腎オルガノイドに含まれる細胞のうち30-80%が糸球体上皮細胞様細胞である、[5]の方法。
[7] さらに以下の工程を含む、[5]または[6]の方法。
(a)多能性幹細胞を、9.0-10.5μMのGSK3β阻害剤の存在下で培養して、前記富化された糸球体上皮細胞様細胞を有する腎オルガノイドを得る工程。
[7a]前記工程(1)の前に前記工程(a)を含む[7]の方法。
[8] 前記GSK3β阻害剤が、CHIR99021(6-[[2-[[4-(2,4-ジクロロフェニル)-5-(4-メチル-1H-イミダゾール-2-イル)-2-ピリミジニル]アミノ]エチル]アミノ]ニコチノニトリル)である、[7]または[7a]の方法。
[9] 前記腎オルガノイドが、富化された近位尿細管細胞様細胞を有する、[1]-[4]のいずれかの方法。
[10] 前記腎オルガノイドに含まれる細胞のうち5-30%が近位尿細管細胞様細胞である、[9]の方法。
[11] さらに以下の工程を含む、[9]または[10]の方法。
(b)多能性幹細胞を、5.5-8.5μMのGSK3β阻害剤の存在下で培養して、前記富化された近位尿細管細胞様細胞を有する腎オルガノイドを得る工程。
[12] 前記GSK3β阻害剤が、CHIR99021(6-[[2-[[4-(2,4-ジクロロフェニル)-5-(4-メチル-1H-イミダゾール-2-イル)-2-ピリミジニル]アミノ]エチル]アミノ]ニコチノニトリル)である、[11]の方法。
[13] 被験物質が腎において毒性を示す部位を予測するための方法であって、
(A)被験物質と、富化された糸球体上皮細胞様細胞を有する腎オルガノイドと、を接触させる工程、
(B)被験物質と、富化された近位尿細管細胞様細胞を有する腎オルガノイドと、を接触させる工程、
(C)前記工程(A)における細胞障害性と前記工程(B)における細胞障害性とを比較して、前記工程(A)における細胞障害性のほうがより高い場合には毒性を示す部位を糸球体と予測し、工程(B)における細胞障害性のほうがより高い場合には毒性を示す部位を近位尿細管と予測する工程、
を含む、方法。
[14] 前記富化された糸球体上皮細胞様細胞を有する腎オルガノイドに含まれる細胞のうち30-80%が糸球体上皮細胞様細胞であり、
前記富化された近位尿細管細胞様細胞を有する腎オルガノイドに含まれる細胞のうち5-30%が近位尿細管細胞様細胞である、[13]の方法。
[15] さらに以下の工程を含む、[13]または[14]の方法。
(a)多能性幹細胞を、9.0-10.5μMのGSK3β阻害剤の存在下で培養して、富化された糸球体上皮細胞様細胞を有する前記腎オルガノイドを得る工程、および
(b)多能性幹細胞を、5.5-8.5μMのGSK3β阻害剤の存在下で培養して、富化された近位尿細管細胞様細胞を有する前記腎オルガノイドを得る工程。
[16] 前記GSK3β阻害剤が、CHIR99021(6-[[2-[[4-(2,4-ジクロロフェニル)-5-(4-メチル-1H-イミダゾール-2-イル)-2-ピリミジニル]アミノ]エチル]アミノ]ニコチノニトリル)である、[15]の方法。
[17] 医薬候補化合物の腎毒性スクリーニング方法であって、
(1)被験物質と腎オルガノイドとを接触させる工程、
(2)細胞障害性を示さないまたは対照物質に比較して低い細胞障害性を示す被験物質を医薬候補化合物として選択する工程、
を含む、方法。
[18] 前記腎オルガノイドが、ヒト人工多能性幹細胞由来である、[17]の方法。
[19] 前記腎オルガノイドが、富化された糸球体上皮細胞様細胞を有する、[17]または[18]の方法。
[20] 前記腎オルガノイドに含まれる細胞のうち30-80%が糸球体上皮細胞様細胞である、[19]の方法。
[21] さらに以下の工程を含む、[19]または[20]の方法。
(a)多能性幹細胞を、9.0-10.5μMのGSK3β阻害剤の存在下で培養して、前記富化された糸球体上皮細胞様細胞を有する腎オルガノイドを得る工程。
[22] 前記GSK3β阻害剤が、CHIR99021(6-[[2-[[4-(2,4-ジクロロフェニル)-5-(4-メチル-1H-イミダゾール-2-イル)-2-ピリミジニル]アミノ]エチル]アミノ]ニコチノニトリル)である、[21]の方法。
[23] 前記腎オルガノイドが、富化された近位尿細管細胞様細胞を有する、[17]または[18]のいずれかの方法。
[24] 前記腎オルガノイドに含まれる細胞のうち5-30%が近位尿細管細胞様細胞である、[23]の方法。
[25] さらに以下の工程を含む、[23]または[24]の方法。
(b)多能性幹細胞を、5.5-8.5μMのGSK3β阻害剤の存在下で培養して、前記富化された近位尿細管細胞様細胞を有する前記腎オルガノイドを得る工程。
[26] 前記GSK3β阻害剤が、CHIR99021(6-[[2-[[4-(2,4-ジクロロフェニル)-5-(4-メチル-1H-イミダゾール-2-イル)-2-ピリミジニル]アミノ]エチル]アミノ]ニコチノニトリル)である、[25]の方法。
[27] 腎オルガノイドを含む、被験物質の腎毒性を評価するためのキット。
[28] 前記腎オルガノイドが、富化された糸球体上皮細胞様細胞を有する、[27]のキット。
[29] 前記腎オルガノイドが、富化された近位尿細管細胞様細胞を有する、[27]のキット。
[30] 以下の工程を含む、富化された糸球体上皮細胞様細胞を有する腎オルガノイドの製造方法。
(a)多能性幹細胞を、9.0-10.5μMのGSK3β阻害剤の存在下で培養する工程。
[31] 以下の工程を含む、富化された近位尿細管細胞様細胞を有する腎オルガノイドの製造方法。
(b)多能性幹細胞を、5.5-8.5μMのGSK3β阻害剤の存在下で培養する工程。
[32] 前記GSK3β阻害剤が、CHIR99021(6-[[2-[[4-(2,4-ジクロロフェニル)-5-(4-メチル-1H-イミダゾール-2-イル)-2-ピリミジニル]アミノ]エチル]アミノ]ニコチノニトリル)である、[30]または[31]の製造方法。
[定義]
 「腎オルガノイド」は、生体内の腎臓組織を構成する、少なくとも1種以上の細胞集団を含む3次元構造体を意味する。
 「糸球体上皮細胞様細胞」とは、幹細胞(例えば、多能性幹細胞)から誘導された細胞であって、糸球体上皮細胞と同特性を備えている細胞のことを意味する。「糸球体上皮細胞と同特性」とは糸球体上皮細胞に対する特異的染色に対して陽性を示し、糸球体上皮細胞マーカー遺伝子を発現していることを意味する。糸球体上皮細胞は、CCND1, CDH6, EMX2, SOX4陽性である。
 「近位尿細管細胞様細胞」とは、幹細胞(例えば、多能性幹細胞)から誘導された細胞であって、近位尿細管細胞と同特性を備えている細胞のことを意味する。「近位尿細管細胞と同特性」とは近位尿細管細胞に対する特異的染色に対して陽性を示し、近位尿細管細胞マーカー遺伝子を発現していることを意味する。近位尿細管細胞は、LTL, DAB2, CUBN, SLC34A1陽性である。
 「中間中胚葉(intermediate mesoderm)」とは、個体の発生において、中胚葉から発生する胚の一種であり、前腎、中腎、中腎管、後腎、副腎皮質および生殖腺へ分化し得る細胞である。中間中胚葉は、OSR1(odd-skipped related 1)陽性である。
 「GSK3β阻害剤」とは、GSK3β(グリコーゲンシンターゼキナーゼ3β)に対する阻害活性を有する物質である。GSK3(グリコーゲンシンターゼキナーゼ3)は、セリン/スレオニンプロテインキナーゼの一種であり、グリコーゲンの産生やアポトーシス、幹細胞の維持などにかかわる多くのシグナル経路に関与する。GSK3にはαとβの2つのアイソフォームが存在する。GSK3β阻害剤は、GSK3β阻害活性を有すれば特に限定されず、GSK3β阻害活性と合わせてGSK3α阻害活性を併せ持つ物質であってもよい。
 「培養」とは、細胞をインビトロ環境において維持し、増殖させ(成長させ)、かつ/または分化させることを指す。「培養する」とは、組織外または体外で、例えば、細胞培養ディッシュまたはフラスコ中で細胞を維持し、増殖させ(成長させ)、かつ/または分化させることを意味する。
 「多能性(pluripotency)」とは、種々の異なった形態や機能を持つ組織や細胞に分化でき、3胚葉のどの系統の細胞にも分化し得る能力を意味する。「多能性(pluripotency)」は、胚盤には分化できず、したがって個体を形成する能力はないという点で、胚盤を含めて、生体のあらゆる組織に分化しうる「全能性(totipotency)」とは区別される。
 「多能性(multipotency)」とは、複数の限定的な数の系統の細胞へと分化できる能力を意味する。例えば、間葉系幹細胞、造血幹細胞、神経幹細胞はmultipotentだが、pluripotentではない。
 「マーカー」とは、「マーカータンパク質」または「マーカー遺伝子」であって、所定の細胞型において細胞表面、細胞質内および/または核内等に特異的に発現されるタンパク質またはその遺伝子を意味する。マーカーは、陽性選択マーカー或いは陰性選択マーカーでありうる。好ましくは、マーカーは細胞表面マーカーであり、特に細胞表面陽性選択マーカーによれば、生存細胞の濃縮、単離、および/または検出が実施可能となる。
 マーカータンパク質の検出は、当該マーカータンパク質に特異的な抗体を用いた免疫学的アッセイ、例えば、ELISA、免疫染色、フローサイトメトリーなどを利用して行うことができる。マーカータンパク質に特異的な抗体としては、マーカータンパク質における特定のアミノ酸配列またはマーカータンパク質に結合した特定の糖鎖等に結合する抗体を用いることができる。また、細胞内に発現し、細胞表面には現れないマーカータンパク質(例えば転写因子またはそのサブユニットなど)の場合は、当該マーカータンパク質とともにレポータータンパク質を発現させ、当該レポータータンパク質を検出することによって対象とするマーカータンパク質を検出できる(例えば、非特許文献4)。この方法は、適当な細胞表面マーカーが認められない場合に好ましく用いられ得る。マーカー遺伝子の検出は、当該分野で公知の核酸増幅方法および/または核酸検出方法、例えば、RT-PCR、マイクロアレイ、バイオチップおよびRNAseq等を利用して行うことができる。
 「発現(expression)」とは、細胞内のプロモーターにより駆動される特定のヌクレオチド配列の転写および/または翻訳として定義される。
 「陽性(positive)」または「発現する」とは、タンパク質または遺伝子が当該分野で公知の手法による検出可能量で発現していることを意味する。タンパク質の検出は、抗体を用いた免疫学的アッセイ、例えば、ELISA、免疫染色、フローサイトメトリーを利用して行うことができる。また、細胞内に発現し、細胞表面には現れないタンパク質(例えば転写因子またはそのサブユニットなど)の場合は、当該タンパク質とともにレポータータンパク質を発現させ、当該レポータータンパク質を検出することによって対象とするタンパク質を検出できる。遺伝子の検出は、例えば、RT-PCR、マイクロアレイ、バイオチップおよびRNAseq等の核酸増幅方法および/または核酸検出方法を利用して行うことができる。
 「陰性(negative)」または「発現されない」とは、タンパク質または遺伝子の発現量が、上記のような公知手法の全てあるいはいずれかによる検出下限値未満であることを意味する。タンパク質または遺伝子の発現の検出下限値は、各手法により異なりえる。
 「~を含む(comprise(s)またはcomprising)」とは、その語句に続く要素の包含を示すがこれに限定されないことを意味する。したがって、その語句に続く要素の包含は示唆するが、他の任意の要素の除外は示唆しない。
 本開示により、化合物等の物質の腎毒性を評価するための改善されたin vitro評価系が提供される。
iPSCからKiOの分化誘導の概要における工程2-3,および工程3の実験スキームを示す。 実施例1におけるCHIRの添加期間条件(1)-(3)を示す。 CHIRの添加期間を変えて誘導したKiOの蛍光顕微鏡像である(実施例1)。 CHIRの添加濃度を変えて誘導したKiOの蛍光顕微鏡像である(実施例1)。 KiO中に誘導された尿細管様の形態を有する細胞を示す位相差顕微鏡像である(実施例1)。 CHIR添加濃度6μM、8μMまたは10μMで誘導したKiOの遺伝子発現パターンを示す(実施例1)。 実施例2に記載の方法にしたがって作成したKiOと、近位尿細管細胞株(RPTEC)を用いてCyclosporin Aの細胞障害性を評価した結果を示す(実施例3)。 実施例1に記載の方法にしたがって作成した近位尿細管細胞様細胞の割合が高いKiO(Tubule rich)、糸球体上皮細胞様細胞の割合が高いKiO(Glomerulus rich)、近位尿細管細胞様細胞と糸球体上皮細胞様細胞の割合が中等度のKiO(intermediate)を用いてCyclosporin Aの細胞障害性を細胞内ATP量に基づき評価した結果を示す(実施例3)。 実施例1に記載の方法にしたがって作成した近位尿細管細胞様細胞の割合が高いKiO(Tubule rich)、糸球体上皮細胞様細胞の割合が高いKiO(Glomerulus rich)、近位尿細管細胞様細胞と糸球体上皮細胞様細胞の割合が中等度のKiO(intermediate)を用いてCyclosporin Aの細胞障害性をLDHの漏れ出し量に基づき評価した結果を示す(実施例3)。 実施例1に記載の方法にしたがって作成した近位尿細管細胞様細胞の割合が高いKiO(Tubule rich)、糸球体上皮細胞様細胞の割合が高いKiO(Glomerulus rich)、近位尿細管細胞様細胞と糸球体上皮細胞様細胞の割合が中等度のKiO(intermediate)を用いてCyclosporin Aの細胞障害性をKIM-1の遊離量に基づき評価した結果を示す(実施例3)。
 以下、本発明を実施するための好適な形態について説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
1.被験物質の腎毒性評価方法
 本開示に係る被験物質の腎毒性評価方法は、被験物質と腎オルガノイドとを接触させる工程を含み、被験物質が対照物質に比較して高い細胞障害性を示すことをもって被験物質が腎毒性を有する可能性があることを決定する。
[被験物質]
 被験物質は、有機低分子化合物などの化合物;金属錯体;ペプチド、タンパク質、抗体、核酸などの高分子(アプタマーを含む);糖質;脂質;組織抽出物;細胞抽出物;細胞培養上清;植物抽出物;微生物産生物;血液、尿などの生体由来物質などであってよく特に限定されないが、特には医薬候補化合物であってよい。また、被験物質は、合成化合物であっても、天然物から抽出された化合物であってもよい。
[多能性幹細胞]
 腎オルガノイドは、幹細胞からin vitroで誘導されたものであってよい。多能性幹細胞からの腎オルガノイドの誘導は、従来公知の手法(例えば、非特許文献2-4)にしたがって行うことができる。
 「多能性幹細胞(pluripotent stem cell)」とは、生体の種々の異なった形態や機能を持つ組織や細胞に分化でき、3胚葉(内胚葉、中胚葉、外胚葉)のどの系統の細胞にも分化し得る能力を有する幹細胞を指す。多能性幹細胞(pluripotent stem cell)には、例えば、胚性幹細胞(ESC)、核移植により得られるクローン胚由来の胚性幹細胞、精子幹細胞、胚性生殖細胞、人工多能性幹細胞(本明細書中、「iPSC」と称することもある)などが挙げられる。
 また、「多能性幹細胞(multipotent stem cell)」とは、複数の限定的な数の系統の細胞へと分化できる能力を有する幹細胞を指す。多能性幹細胞(multipotent stem cell)には、例えば、歯髄幹細胞、口腔粘膜由来幹細胞、毛包幹細胞、培養線維芽細胞や骨髄幹細胞由来の体性幹細胞などが挙げられる。
 好ましい多能性幹細胞(pluripotent stem cell)は、ESCおよびiPSCである。
 「ESC」としては、マウスESCであれば、inGenious targeting laboratory社、理研(理化学研究所)等が樹立した各種マウスESC株が利用可能であり、ヒトESCであれば、ウィスコンシン大学、NIH、理研、京都大学、国立成育医療研究センターおよびCellartis社などが樹立した各種ヒトESC株が利用可能である。たとえば、ヒトESC株としては、ESI Bio社が分譲するCHB-1~CHB-12株、RUES1株、RUES2株、HUES1~HUES28株等、WiCell Researchが分譲するH1株、H9株等、理研が分譲するKhES-1株、KhES-2株、KhES-3株、KhES-4株、KhES-5株、SSES1株、SSES2株、SSES3株等を利用することができる。
 「iPSC」とは、哺乳動物体細胞または未分化幹細胞に、特定の因子(核初期化因子)を導入して再プログラミングすることにより得られる細胞を指す。現在、iPSCにはさまざまなものがあり、山中らにより、マウス線維芽細胞にOct3/4・Sox2・Klf4・c-Mycの4因子を導入することにより、樹立されたiPSC(Takahashi K, Yamanaka S., Cell, (2006) 126: 663-676)のほか、同様の4因子をヒト線維芽細胞に導入して樹立されたヒト細胞由来のiPSC(Takahashi K, Yamanaka S., et al. Cell, (2007) 131: 861-872.)、上記4因子導入後、Nanogの発現を指標として選別し、樹立したNanog-iPSC(Okita, K., Ichisaka, T., and Yamanaka, S. (2007). Nature 448, 313-317.)、c-Mycを含まない方法で作製されたiPSC(Nakagawa M, Yamanaka S., et al. Nature Biotechnology, (2008) 26, 101 - 106)、ウイルスフリー法で6因子を導入して樹立されたiPSC(Okita K et al. Nat. Methods 2011 May;8(5):409-12, Okita K et al. Stem Cells. 31(3):458-66.)等も用いることができる。また、Thomsonらにより作製されたOCT3/4・SOX2・NANOG・LIN28の4因子を導入して樹立された人工多能性幹細胞(Yu J., Thomson JA. et al., Science (2007) 318: 1917-1920)、Daleyらにより作製された人工多能性幹細胞(Park IH, Daley GQ. et al., Nature (2007) 451: 141-146)、桜田らにより作製された人工多能性幹細胞(特開2008-307007号)等も用いることができる。
 このほか、公開されているすべての論文(例えば、Shi Y., Ding S., et al., Cell Stem Cell, (2008) Vol3, Issue 5,568-574;、Kim JB., Scholer HR., et al., Nature, (2008) 454, 646-650;Huangfu D., Melton, DA., et al., Nature Biotechnology, (2008) 26, No 7, 795-797)、あるいは特許(例えば、特開2008-307007号、特開2008-283972号、US2008-2336610、US2009-047263、WO2007-069666、WO2008-118220、WO2008-124133、WO2008-151058、WO2009-006930、WO2009-006997、WO2009-007852)に記載されている当該分野で公知の人工多能性幹細胞のいずれも用いることができる。
 人工多能性幹細胞株としては、NIH、理研、京都大学等が樹立した各種iPSC株が利用可能である。例えば、ヒトiPSC株であれば、理研のHiPS-RIKEN-1A株、HiPS-RIKEN-2A株、HiPS-RIKEN-12A株、Nips-B2株等、京都大学の253G1株、201B7株、409B2株、454E2株、606A1株、610B1株、648A1株、1231A3株等が挙げられ、1231A1株および1231A3株が好ましく、1231A3株がより好ましい。
[多能性幹細胞からの腎オルガノイドの誘導]
 多能性幹細胞からの腎オルガノイドの誘導は、具体的には、例えばヒトiPSCの場合以下のようにして行い得る。
 まず、ヒトiPSCを、GSK3β阻害剤を含む培地で培養した後、FGF9およびヘパリンを含む培地で培養した後、シングルセルに解離させ、1×104-1×105個程度の細胞をFGF9およびヘパリンを含む培地でさらに培養し、細胞隗(中間中胚葉スフェロイド)を形成させる(工程i)。
 続いて、中間中胚葉スフェロイドを、GSK3β阻害剤を含む培地から、FGF9およびヘパリンを含む培地に順次交換して、気相液相培養を行うことにより腎オルガノイドを得る(工程ii)。
 工程iにおけるGSK3β阻害剤の濃度は、例えば0.1-30μM、好ましくは1-20μM、より好ましくは6-10μM、特に好ましくは8μMである。
 FGF9の濃度は、例えば0.1 ng/ml-1μg/ml、好ましくは1-500 ng/ml、より好ましくは10-300 ng/ml、特に好ましくは約200 ng/mlである。
 ヘパリンの濃度は、例えば0.01-100μg/ml、好ましくは0.1-10μg/ml、特に好ましくは約1μg/mlである。
 GSK3β阻害剤を含む培地での培養期間は、例えば3-5日間、特には4日間である。
 FGF9およびヘパリンを含む培地での培養期間は、シングルセル解離前が、例えば1-3日間、特には1日間であり、シングルセル解離後が、例えば0.5-2日間、特には2日間である。
 工程iiにおけるGSK3β阻害剤の濃度は、例えば0.1-30μM、好ましくは1-10μM、より好ましくは3-7μM、特に好ましくは5μMである。
 FGF9の濃度は、例えば0.1 ng/ml-1μg/ml、好ましくは1-500 ng/ml、より好ましくは10-300 ng/ml、特に好ましくは約200 ng/mlである。
 ヘパリンの濃度は、例えば0.01-100μg/ml、好ましくは0.1-10μg/ml、特に好ましくは約1μg/mlである。
 GSK3β阻害剤を含む培地での培養期間は、例えば0.5-2時間、特には1時間である。
 FGF9およびヘパリンを含む培地での培養期間は、例えば0.5-2日間、特には1日間である。
 工程iiに続けて、腎オルガノイドをFGF9およびヘパリンを含む培地で培養した後、ヘパリンを含む培地で培養する工程を行ってもよい。
 FGF9およびヘパリンを含む培地での培養期間は、例えば3-7日間、特には4日間である。
 ヘパリンを含む培地での培養期間は、例えば7-25日間、特には14日間である。
 FGF9およびヘパリンの濃度は、工程iiと同じであってよい。
 中間中胚葉および腎臓オルガノイドの生成の確認は、例えば、マーカータンパク質やマーカー遺伝子の発現を測定する方法が挙げられる。
 得られた細胞隗がOSR1を発現していれば、その細胞隗が中間中胚葉であると判断できる。
 得られた細胞隗が低酸素条件下でのEPO産生能を有し、腎間質、糸球体および尿細管のマーカーを発現していれば、腎臓オルガノイドであると判断できる。腎間質細胞マーカーとしては、FOXD1、PDGFRβ、CD73がある。糸球体マーカーとしては、WT1、NPHS1がある。尿細管マーカーとしては、LTL、CUBN、E-cadherinがある。
 また、中間中胚葉の生成の確認は、例えば、細胞の糸球体や尿細管へ分化誘導能を確認することによっても行い得る。
[GSK3β阻害剤]
 GSK3β阻害剤としては、CHIR98014(N6-[2-[[4-(2,4-dichlorophenyl)-5-(1H-imidazol-2-yl)-2-pyrimidinyl]amino]ethyl]-3-nitro-2,6-pyridinediamine)、CHIR99021(6-{2-[4-(2,4-Dichloro-phenyl)-5-(5-methyl-1H-imidazol-2-yl)-pyrimidin-2-ylamino]-ethylamino}-nicotinonitrile)、CP21R7(CP21R7)、LY2090314(3-[9-Fluoro-1,2,3,4-tetrahydro-2-(1-piperidinylcarbonyl)pyrrolo[3,2,1-jk][1,4]benzodiazepin-7-yl]-4-imidazo[1,2-a]pyridin-3-yl-1h-pyrrole-2,5-dione)、TDZD-8(2-methyl-4-(phenylmethyl)-1,2,4-thiadiazolidine-3,5-dione)、SB216763(3-(2,4-Dichlorophenyl)-4-(1-methyl-1H-indol-3-yl)-1H-pyrrole-2,5-dione)、TWS-119(3-[[6-(3-Aminophenyl)-7H-pyrrolo[2,3-d]pyrimidin-4-yl]oxy]phenol)、ケンパウロン(Kenpaullone)、1-アザケンパウロン(Azakenpaullone)、SB415286([3-[(3-Chloro-4-hydroxyphenyl)amino]-4-(2-nitrophenyl)-1Hpyrrole-2,5-dione]) およびAR-AO144-18(1-[(4-methoxyphenyl)methyl]-3-(5-nitro-1,3-thiazol-2-yl)urea)、CT20026、BIO((2'Z,3'E)-6-ブロモインジルビン-3'-オキシム)、BIO-アセトキシム、ピリドカルバゾール-シクロペンタジエニルルテニウム複合体、OTDZT、アルファ-4-ジブロモアセトフェノン、リチウム等が挙げられる。これらは、2以上を組み合わせて用いてもよい。
 GSK3β阻害剤はこれらに限定されるものではなく、GSK3βのmRNAに対するアンチセンスオリゴヌクレオチドやsiRNA、GSK3βに結合する抗体、ドミナントネガティブGSK3β変異体等もGSK3β阻害剤として使用することができ、これらは商業的に入手可能であるか公知の方法に従って合成することができる。
[培地]
 基礎培地としては、特に限定されないが、例えばSTEMdiff APEL2培地(STEMCELL Technologies、ST-05275)、TeSR1培地ならびにChemically Defined Medium(CDM)培地が好適に用いられる。この他、BME培地、BGJb培地、CMRL 1066培地、Glasgow MEM培地、Improved MEM(IMEM)培地、Improved MDM(IMDM)培地、Medium 199培地、Eagle MEM培地、αMEM培地、DMEM培地(High glucose、Low glucose)、DMEM/F12培地、ハム培地、RPMI 1640培地、Fischer's培地、およびこれらの混合培地等も用いられ得る。
 CDM培地としては、特に限定されないが、例えば、Iscove’s modified Dulbecco’s medium(GEヘルスケア社製)から調製される培地が使用されうる。
 基礎培地には、Ham’s F-12 nutrient mixture、ヒト血清アルブミン等のアルブミン、polyvinylalcohol(PVA)、Deionized BSA、リノール酸、リノレン酸、コレステロール、インスリン、アポトランスフェリン、セレン、エタノールアミン、モノチオグリセロール、Protein-free hybridoma mixture II (PFHMII)、アスコルビン酸、L-alanyl-L-glutamineおよび/又は抗生物質等の通常の細胞培養に用いられる物質が添加され得る。
[糸球体上皮細胞様細胞と近位尿細管細胞様細胞の割合]
 工程iにおけるGSK3β阻害剤の添加期間と濃度を変えることにより、糸球体上皮細胞様細胞と近位尿細管細胞様細胞の割合が異なる腎オルガノイドを得ることもできる。
 具体的には、糸球体上皮細胞様細胞が富化され、同細胞の割合が高い腎オルガノイドを誘導する場合は、9.0-10.5μM(好ましくは、9.5-10.5μM)のGSK3β阻害剤を添加した基礎培地で4日間培養するか、7-9μM(好ましくは、7.5-8.5μM)のGSK3β阻害剤を添加した基礎培地で5日間培養する。
 近位尿細管細胞様細胞が富化され、同細胞の割合が高い腎オルガノイドを誘導する場合は、5.5-7.0μM(好ましくは、5.5-6.5μM)のGSK3β阻害を添加した基礎培地で4日間培養するか、6.5-8.5μM(好ましくは、7.5-8.5μM)のGSK3β阻害剤を添加した基礎培地で3日間培養する。
 工程iにおいてGSK3β阻害剤を7.0μMを超え9.0μM未満の濃度で添加した基礎培地で4日間培養する場合には、糸球体上皮細胞様細胞と近位尿細管細胞様細胞を同程度に含む腎オルガノイドを誘導することができる。
 糸球体上皮細胞様細胞が富化された腎オルガノイドを誘導するためのGSK3β阻害剤の添加期間と濃度の条件と、近位尿細管細胞様細胞が富化された腎オルガノイドを誘導するためのGSK3β阻害剤の添加期間と濃度の条件との間の中間的な条件を適用する場合には、近位尿細管細胞様細胞と糸球体上皮細胞様細胞の割合が中等度の腎オルガノイドが得られる。
 なお、GSK3β阻害剤添加終了後の、工程iの残りの期間は、FGF9およびヘパリンを含む培地で培養する。
 富化された糸球体上皮細胞様細胞を有する腎オルガノイドは、腎オルガノイドに含まれる細胞のうち30-80%が糸球体上皮細胞様細胞であることができる。
 富化された近位尿細管細胞様細胞を有する腎オルガノイドは、腎オルガノイドに含まれる細胞のうち5-30%が糸球体上皮細胞様細胞であることができる。
[接触工程]
 被験物質と腎オルガノイドとを接触させる工程は、ディッシュ、フラスコまたはマイクロプレートなどの適当な容器内にて培地中に維持されている腎オルガノイドに対して、当該培地中に被験物質を添加することにより行うことができる。被験物質と腎オルガノイドとを接触させる工程は、例えば、トランスウェルプレートの気相液相界面に作成した腎オルガノイドに対して、トランスウェルプレートの気相及び/又は液相に、被験物質を添加した基礎培地を導入することにより行い得る。
[細胞障害性の測定]
 被験物質と接触させた腎オルガノイドの細胞障害性は、従来公知の手法にしたがって測定・評価することができる。例えば、細胞内ATP量の減少、細胞内酵素の細胞外への漏れ出し量の増加、またはマーカータンパク質の培地中への遊離量の増加を細胞障害性の指標とする方法が公知である。
[腎毒性の決定]
 腎オルガノイドに対して細胞障害性を示した被験物質は、腎毒性を有する可能性があると判定できる。
 より好ましくは、腎毒性がないあるいは低いことが既知である対照物質に比較して高い細胞障害性を示した被験物質を、腎毒性を有する可能性がある物質と判定する。
 判定基準は、評価の目的および評価対象とする物質の種類などに応じて適宜設定され得るものであるが、例えば上述の指標が対照物質に比して10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、100%高い、好ましくは100%、200%、300%、400%、500%、600%、700%、800%、900%あるいは1000%以上高い場合に、細胞障害性を示すと判定する。
 本開示に係る被験物質の腎毒性評価方法では、近位尿細管細胞株(RPTEC)を用いたin vitro評価方法とは異なり、糸球体上皮細胞様細胞と近位尿細管細胞様細胞をともに含む腎オルガノイドを用いるため、被験物質のin vivoでの毒性をより適切に反映した評価を行うことができる。
 また、本開示に係る被験物質の腎毒性評価方法では、糸球体上皮細胞様細胞と近位尿細管細胞様細胞の割合が異なる腎オルガノイドを用いることにより、被験物質が糸球体と近位尿細管のどちらにより高い毒性を示すかを評価することもできる。
2.腎毒性の有無に関する被験物質のスクリーニング方法
 本開示に係る被験物質の腎毒性評価方法は、腎毒性を有する可能性がある被験物質、あるいは、腎毒性を有さないまたは低い腎毒性を有する可能性がある被験物質のスクリーニング方法に利用できる。
 複数の被験物質について上記の腎毒性評価方法により細胞障害性の評価を行い、腎オルガノイドに対して細胞障害性を示した被験物質(より好ましくは、対照物質に比較して高い細胞障害性を示した被験物質)を、腎毒性を有する可能性がある物質として選択する。
 あるいは、複数の被験物質について上記の腎毒性評価方法により細胞障害性の評価を行い、腎オルガノイドに対して細胞障害性を示さないまたは対照物質に比較して低い細胞障害性を示す被験物質を、腎毒性を有さないまたは低い腎毒性を有する可能性がある物質として選択する。このようなスクリーニングは、特に医薬候補化合物の腎毒性スクリーニングに利用できる。
 また、糸球体上皮細胞様細胞と近位尿細管細胞様細胞の割合が異なる腎オルガノイドを用いることにより、糸球体と近位尿細管の一方に対する毒性に重きをおいたスクリーニング系とすることもできる。
3.被験物質が腎において毒性を示す部位を予測するための方法
 本開示に係る被験物質の腎毒性評価方法は、被験物質が腎において毒性を示す部位を予測するための方法にも利用できる。
 (A)被験物質と、富化された糸球体上皮細胞様細胞を有する腎オルガノイドと、を接触させる工程と、(B)被験物質と、富化された近位尿細管細胞様細胞を有する腎オルガノイドと、を接触させる工程とを実施する。
 そして、(C)前記工程(A)における細胞障害性と前記工程(B)における細胞障害性とを比較して、前記工程(A)における細胞障害性のほうがより高い場合には毒性を示す部位を糸球体と予測し、工程(B)における細胞障害性のほうがより高い場合には毒性を示す部位を近位尿細管と予測することができる。
4.キット
 本開示は、上述の被験物質の腎毒性評価方法、腎毒性の有無に関する被験物質のスクリーニング方法および被験物質が腎において毒性を示す部位を予測するための方法に用いるための、腎オルガノイドを含むキットも提供する。
 本開示に係るキットは、上述した富化された糸球体上皮細胞様細胞を有する腎オルガノイド、または富化された近位尿細管細胞様細胞を有する腎オルガノイドを含むのであってよい。
 本開示に係るキットは、腎オルガノイドに加えて、腎オルガノイドを培養するための培地や試薬(GSK3β阻害剤、FGFおよびヘパリン等)や、腎オルガノイドへの細胞障害性を測定するための試薬を含んでいてもよい。
 本開示に係るキットは、腎オルガノイドに替えて多能性幹細胞と、これを腎オルガノイドへ分化誘導するための培地や試薬(GSK3β阻害剤、FGFおよびヘパリン等)を含むものであってもよい。
人工多能性幹細胞(inducible Pluripotent Stem Cell:iPSC)由来腎オルガノイド(Kidney Organoid:KiO)の分化誘導(概要)
(1)iPSCから中間中胚葉スフェロイドへの分化誘導
工程1(Day -1):iPSC播種
 ラミニンコート(iMatrix-511 silk:ニッピ)した6-well plateに1231A3 iPSCを5.76×105 cells/wellで播種した。37℃, 5% CO2インキュベーターで一晩培養した。
 培地には、AK03N(味の素)に10μM Y27632を添加したものを、2 ml/wellで用いた。
工程2(Day 0-Day 7):中間中胚葉スフェロイドの誘導
 培地を中間中胚葉分化培地に交換した。中間中胚葉誘導培地の基礎培地(KiO分化誘導基礎培地)としてはAPEL2 medium(STEMCELL technology)に5% PFHM (Protein-Free Hybridoma Medium: Thermo fisher)を添加した培地を用いた。
 工程2-1(Day 0-Day3/4/5):Day0からDay6のうちの前半期間は、KiO分化誘導基礎培地にCHIR99021(CHIR)を添加した培地を中間中胚葉分化培地として用いた。
 工程2-2(Day3/4/5-Day 6):Day0からDay6のうちの後半期間には、KiO分化誘導基礎培地に200 ng/ml FGF9及び1μg/ml ヘパリンを添加した培地を中間中胚葉分化培地として用いた。
 培地交換は2日に一度行った。
 なお、上記前半期間(CHIRあり)及び後半期間(CHIRなし)の日数配分と、前半期間におけるCHIRの添加濃度は適宜変更して後述の実施例に記載の検討を行った。
 工程2-3(Day 6-Day7)96-well plateを用いた中間中胚葉スフェロイド形成
 分化誘導6日目の細胞をAccutaseを用いてsingle cellに乖離し、200 ng/ml FGF9と1 μg/mlのヘパリンを添加した基礎培地(KiO分化誘導基礎培地)に懸濁し、PrimeSurface 96-well plate(住友ベークライト)に5×10cells/well(培地200μl/well)で播種した。プレートを300 g, 3 min遠心して細胞を沈降させた後、37℃, 5% CO2インキュベーターで一晩(1日間)培養した。
(2)気相液相培養(Air-Liquid Interface Culture:ALIC)によるKiO誘導
工程3(Day 7):トランスウェルプレートを用いた気相液相培養
 Prime Surface 96-well plateにて作製した中間中胚葉スフェロイドを新しい同プレート(基礎培地200μl/well)に移し替えることにより、中間中胚葉スフェロイドを洗浄した。洗浄後の中間中胚葉スフェロイドをトランスウェルプレートのインサートに移した。トランスウェルプレートの各ウェルに、5μM CHIRを添加した基礎培地を加えて液相を形成した。ウェルにインサートを挿入して、インサート内の中間中胚葉スフェロイドを気相液相界面に維持した状態で37℃, 5% CO2インキュベーターで1時間静置した。その後、液相の培地を、200 ng/ml FGF9と1μg/ml ヘパリンを添加した基礎培地に交換し、一晩培養した。なお、トランスウェルプレートには、6-well トランスウェルプレートまたは24-wellトランスウェルプレート用いた。
 工程2-3,および工程3における実験スキームを図1に示す。本法を用いることにより、スフェロイドを形成する細胞の種類や数、大きさにばらつきが少ない均質な中間中胚葉スフェロイドを作製することができ、中間中胚葉スフェロイドをトランスウェルプレートの気相液相界面に静置する作業も安定して行うことができた。
工程4(Day 8-Day 11):FGF9およびヘパリン添加による培養
 Day 8-Day 11は、液相に200 ng/ml FGF9と1μg/mlのヘパリンを添加した基礎培地を入れて培養した。培地交換は2日に一度行った。
工程5(Day 12-Day 25):ヘパリン添加による培養
 Day 12以降は、液相に1μg/mlのヘパリンを添加した基礎培地を入れて培養した。培地交換は2日に一度行った。
[実施例1:CHIRの添加期間および濃度がKiO中の糸球体上皮細胞様細胞と近位尿細管細胞の割合に及ぼす影響の検討]
 上記概要の工程2におけるCHIRの添加期間および濃度を変えてKiO中の糸球体上皮細胞様細胞と近位尿細管細胞の割合がどのように変化するかを検討した。
 CHIRの添加期間と濃度の条件として以下を検討した。
 CHIRの添加期間条件(図2参照)
  条件(1):前半期間(CHIRあり)3日間(Day 0-Day 2)/後半期間(CHIRなし)3日間(Day 3-Day 5)
  条件(2):前半期間4日間(Day 0-Day 3)/後半期間2日間(Day 4-Day 5)、または、
  条件(3):前半期間5日間(Day 0-Day 4)/後半期間1日間(Day 5)
 CHIRの添加濃度条件
  6μM、8μM、または10μM
 なお、CHIRなしでの培養は、基礎培地に200 ng/ml FGF9及び1μg/ml ヘパリンを添加した培地を用いて行った。
 工程1(Day -1)および工程3-6(Day 6-Day 24)は、実施例1と同様に行った。ただし、工程4-6(Day 7-Day 24)における気相液相培養には、PET素材の6-well トランスウェルプレートを使用した。
 CHIRの添加濃度を同一条件の8μMとし、CHIRの添加期間を条件(1)(2)または(3)に変えて誘導したKiOの蛍光顕微鏡像を図3に示す。条件(1)(CHIR3日間添加)では、近位尿細管マーカーのLTL(赤)が発現する近位尿細管細胞様細胞の割合が高いKiOが得られた(図3(A)参照)。一方、条件(3)(CHIR5日間添加)では、糸球体上皮細胞マーカーのWT1(緑)が発現する糸球体上皮細胞様細胞の割合が高いKiOが得られた(図3(C)参照)。条件(2)(CHIR4日間添加)では、近位尿細管細胞様細胞と糸球体上皮細胞様細胞の割合が中等度のKiOが得られた(図3(B)参照)。
 CHIRの添加期間を条件(2)(CHIR4日間添加)とし、CHIRの添加濃度を6μM、8μMまたは10μMに変えて誘導したKiOの蛍光顕微鏡像を図4に示す。添加濃度6μMでは、近位尿細管マーカーのLTL(赤)が発現する近位尿細管細胞様細胞の割合が高いKiOが得られた(図4(A)参照)。一方、添加濃度10μMでは、糸球体上皮細胞マーカーのWT1(緑)が発現する糸球体上皮細胞様細胞の割合が高いKiOが得られた(図4(C)参照)。添加濃度8μMでは、近位尿細管細胞様細胞と糸球体上皮細胞様細胞の割合が中等度のKiOが得られた(図4(B)参照)。
 CHIR添加濃度6μMで得られたKiOでは、尿細管様の形態を示す細胞が多く確認できた(図5赤破線参照)。
 CHIR添加濃度6μM、8μMまたは10μMで得られたKiOの遺伝子発現パターンを図6に示す。添加濃度6μMでは、近位尿細管細胞(Proximal tubule)およびヘンレループ・遠位尿細管(Loop of Henle / Distal tubule)のマーカー遺伝子の発現が高い傾向がみられた。一方、添加濃度10μMでは、糸球体上皮細胞様細胞(Podocyte)のマーカー遺伝子の発現が高い傾向がみられた。
[実施例2:24-well トランスウェルプレートを用いた気相液相培養]
 前記概要の工程3(Day 7)以降の気相液相培養に24-well トランスウェルプレートを用いることができるか否か、検討を行った。
 工程1および工程2(Day -1-Day 6)は、前記概要と同様に行った。
 Prime Surface 96-well plateにて作製した中間中胚葉スフェロイドを新しい同プレート(基礎培地200μl/well)に移し替えることにより、中間中胚葉スフェロイドを洗浄した。洗浄後の中間中胚葉スフェロイドをPTFE(polytetrafluoroethylene)メンブレン素材でできた24-well トランスウェル(クラボウ)のインサートに移した。トランスウェルプレートの各ウェルに、5μM CHIRを添加した基礎培地を加えて液相を形成した(300μl/well)。ウェルにインサートを挿入して、インサート内の中間中胚葉スフェロイドを気相液相界面に維持した状態で37℃, 5% CO2インキュベーターで1時間静置した。その後、液相の培地を、200 ng/ml FGF9と1μg/ml ヘパリンを添加した基礎培地に交換し、一晩培養した。
 前記概要と同様にして、工程4および工程5(Day 8-Day 24)を実施した。
 24-wellトランスウェルプレートを用いることにより、インサートに中間中胚葉スフェロイドを配置する作業を6-wellトランスウェルプレートに比してより安定して行うことができた。また、気相側への培地の浸潤もなく、安定してKiOを作成できた。24-wellトランスウェルプレートを用いて作成されたKiOは、6-wellトランスウェルプレートを用いた従来方法(実施例1および非特許文献2参照)で作成されたKiOとほぼ同じ遺伝子発現パターンを示すことを確認できた(データ示さず)。
[実施例3:KiOを用いた毒性評価]
(1)被験物質の添加
 実施例2に記載の方法にしたがって24-wellトランスウェルプレートの気相液相界面に作成したKiO(Day 25)を被験物質に曝露させた。具体的には、トランスウェルプレートの気相に被験物質を含む溶媒を添加した基礎培地(300 μl/well)を導入し、液相の培地を被験物質を添加した基礎培地(500μl/well)に置換した。37℃, 5% CO2インキュベーターで3日間培養し、KiOを被験物質に曝露させた。
(2)細胞障害性の測定1:細胞内ATP量測定
 被験物質の細胞障害性を、細胞内ATP量に基づいて測定した。
 具体的には、被験物質に3日間曝露させたKiOをトランスウェルから1.5 mlチューブに移し、300 g, 5 min遠心した後に上清を除去した。100μlのCellTiter-Glo 3D reagent (Promega)でKiOを溶解し、さらに超音波破砕を行って細胞を完全に溶解させた。細胞溶解液を96-well plateに移し、遮光下で25℃、25 min静置した。マイクロプレートリーダーを用いて、ATP量に依存した発光量を測定した。
 対照物質には、溶媒のみを用いた。
 細胞障害性は、「(被験物質の測定値/対照物質の測定値)×100%」として算出した。
 被験物質としてCyclosporin A(濃度1×10-7M-1×10-3M)を用いた結果を図7に示す。Cyclosporin Aは糸球体で強い毒性が発現することが知られている。実施例3に記載の方法にしたがって作成したKiOでは、Cyclosporin Aの濃度依存的な細胞障害性を検出できた。一方、KiOに変えて近位尿細管細胞株(Renal Proximal Tubule Epithelial Cell:RPTEC)を用いて同様に試験を行った場合には、Cyclosporin Aの濃度依存的な細胞障害性の検出は不能であった。
 さらに、実施例1に記載の方法にしたがって、近位尿細管細胞様細胞の割合が高いKiO、糸球体上皮細胞様細胞の割合が高いKiO、近位尿細管細胞様細胞と糸球体上皮細胞様細胞の割合が中程度のKiOを作製し、同様に試験を行った。結果を図8に示す。近位尿細管細胞様細胞の割合が高いKiO(Tubule rich)でより高い細胞毒性が検出され、糸球体上皮細胞様細胞の割合が高いKiO(Glomerulus rich)ではより低い細胞毒性が検出できた。実施例1に記載の方法にしたがって作製した近位尿細管細胞様細胞と糸球体上皮細胞様細胞の割合が異なるKiOを用いることにより、Cyclosporin Aの毒性プロファイル(糸球体で強い毒性)を検出することができた。
(3)細胞障害性の測定2:漏れ出しLDH量測定
 被験物質の細胞障害性を、細胞からのLDHの漏れ出し量に基づいて測定した。
 具体的には、実施例1に記載の方法にしたがって作製したKiOを被験物質に3日間暴露した後、培地(液相)100μlを96-well plateに回収した。100μlのLDH測定バッファー(Cytotoxicity LDH Assay Kit-WST:同人化学)と混合し、37℃, 5% CO2インキュベーターで30 min静置した。50μlのstop solutionを添加して反応を止め、マイクロプレートリーダーで490 nmの吸光度を測定した。
 対照物質には、溶媒のみを用いた。
 細胞障害性は、「(被験物質の測定値/対照物質の測定値)×100%」として算出した。
 結果を図9に示す。いずれのKiOでもCyclosporin Aの濃度依存的な細胞障害性が観察された。また、糸球体上皮細胞様細胞の割合が高いKiO(Glomerulus rich)を用いた場合に毒性が観察されやすかった。
(4)細胞障害性の測定3:遊離マーカータンパク質測定
 被験物質の細胞障害性を、腎毒性マーカーKIM-1(Kidney Injury Marker 1)の培地への遊離量に基づいて測定した。
 KIM-1の定量はKIM-1 ELISA kit(R&D)を用いて行った。実施例1に記載の方法にしたがって作製したKiOを被験物質に3日間暴露した後、培地(液相)50μlを回収し、抗KIM-1補足抗体が固相化された96-well plateに移した。遮光下で25℃、2時間静置した。界面活性剤を含む洗浄液にてウェルを4回洗浄し、抗KIM-1検出抗体を含む緩衝液200μl入れた。遮光下で25℃、2時間静置した。界面活性剤を含む洗浄液にてウェルを4回洗浄し、基質液200μlを入れた。遮光下で25℃、30分静置した。50μlのstop solutionを添加して反応を止め、マイクロプレートリーダーで450 nmの吸光度を測定した。
 対照物質には、溶媒のみを用いた。
 細胞障害性は、「(被験物質の測定値/対照物質の測定値)×100%」として算出した。
 結果を図10に示す。KIM-1分泌量を指標としてもCyclosporin Aの細胞障害性を検出できた。
[実施例4:iPSC由来腎KiOの分化誘導の改良方法]
(1)iPSCから中間中胚葉スフェロイドへの分化誘導
工程1(Day -1):iPSC播種
 上記に概要した方法と同様にして行った。
工程2(Day 0-Day 5):中間中胚葉スフェロイドの誘導
 上記概要方法において工程2-1(前半期間)をDay 0-Day4し、工程2-2(後半期間)をDay4-Day5とした。
 培地を中間中胚葉分化培地に交換した。中間中胚葉誘導培地の基礎培地(KiO分化誘導基礎培地)としてはAPEL2 medium(STEMCELL technology)に5% PFHM (Protein-Free Hybridoma Medium: Thermo fisher)を添加した培地を用いた。
 工程2-1(Day 0-Day4):Day0からDay5のうちの前半期間は、KiO分化誘導基礎培地にCHIR99021(CHIR)を添加した培地を中間中胚葉分化培地として用いた。
 工程2-2(Day4-Day 5):Day0からDay5のうちの後半期間には、KiO分化誘導基礎培地に200 ng/ml FGF9及び1μg/ml ヘパリンを添加した培地を中間中胚葉分化培地として用いた。
 培地交換は2日に一度行った。
 工程2-3(Day 5-Day7)96-well plateを用いた中間中胚葉スフェロイド形成
 上記概要方法における工程2-3はDay6-Day7は、本改良方法においてDay5-Day7に変更された。
 分化誘導5日目の細胞をAccutaseを用いてsingle cellに乖離し、200 ng/ml FGF9と1 μg/mlのヘパリンを添加した基礎培地(KiO分化誘導基礎培地)に懸濁し、PrimeSurface 96-well plate(住友ベークライト)に5×10cells/well(培地200μl/well)で播種した。プレートを300 g, 3 min遠心して細胞を沈降させた後、37℃, 5% CO2インキュベーターで2日間培養した。
 培養期間を1日から2日に長くすることで、中心部に細胞がより充実した(コアがはっきりした)スフェロイドを形成でき、続く工程3でより安定的にKiOを誘導できた。
(2)気相液相培養(Air-Liquid
Interface Culture:ALIC)によるKiO誘導
工程3(Day 7):トランスウェルプレートを用いた気相液相培養
 トランスウェルプレートのインサートのメンブレンを予め親水化したことを除いて、上記概要方法と同様にして行った。
 Prime Surface 96-well plateにて作製した中間中胚葉スフェロイドを新しい同プレート(基礎培地200μl/well)に移し替えることにより、中間中胚葉スフェロイドを洗浄した。洗浄後の中間中胚葉スフェロイドをトランスウェルプレートのインサートに移した。使用2日前に、トランスウェルプレートのインサートを水に浸して(上層500 μl, 下層1 ml)、メンブレンを親水化させた。水馴染みの悪いインサートは使用を除外した。トランスウェルプレートの各ウェルに、5μM CHIRを添加した基礎培地を加えて液相を形成した。ウェルにインサートを挿入して、インサート内の中間中胚葉スフェロイドを気相液相界面に維持した状態で37℃, 5% CO2インキュベーターで1時間静置した。その後、液相の培地を、200 ng/ml FGF9と1μg/ml ヘパリンを添加した基礎培地に交換し、一晩培養した。
 メンブレンを親水化したことによりスフェロイドのメンブレン上での伸展が促進され、インサート内により扁平な高さの低い形状のスフェロイドを形成できた。これにより、スフェロイドの高い位置(メンブレン表面から遠い位置)にある細胞に対して気相液相界面からの栄養供給が不十分となることによる細胞の壊死を抑制できた。
工程4(Day 8-Day 11):FGF9およびヘパリン添加による培養
工程5(Day 12-Day 25):ヘパリン添加による培養
 壊死細胞を洗い流す操作を行ったことを除いて、上記概要方法と同様にして行った。
 Day 8-Day 11は、液相に200 ng/ml FGF9と1μg/mlのヘパリンを添加した基礎培地を入れて培養した。培地交換は2日に一度行った。Day 12以降は、液相に1μg/mlのヘパリンを添加した基礎培地を入れて培養した。培地交換は2日に一度行った。
 1週間に一度、KiOに上方から水を滴下し、壊死した細胞を洗い流した。これにより、KiO中の細胞のViabilityが向上し、KiOの視認性も高まった。

 

Claims (14)

  1.  被験物質の腎毒性を評価するための方法であって、
    被験物質と腎オルガノイドとを接触させる工程を含み、
    被験物質における対照物質に比較して高い細胞障害性が、被験物質の腎毒性の可能性を示す、方法。
  2.  腎毒性を有する可能性がある被験物質のスクリーニング方法であって、
    (1)被験物質と腎オルガノイドとを接触させる工程、
    (2)対照物質に比較して高い細胞障害性を示す被験物質を選択する工程、
    を含む、方法。
  3.  前記腎オルガノイドが、ヒト人工多能性幹細胞由来である、請求項1または2に記載の方法。
  4.  前記腎オルガノイドが、富化された糸球体上皮細胞様細胞を有する、請求項1または2に記載の方法。
  5.  前記腎オルガノイドに含まれる細胞のうち30-80%が糸球体上皮細胞様細胞である、請求項4に記載の方法。
  6.  さらに以下の工程を含む、請求項4に記載の方法。
    (a)多能性幹細胞を、9.0-10.5μMのGSK3β阻害剤の存在下で培養して、前記富化された糸球体上皮細胞様細胞を有する腎オルガノイドを得る工程。
  7.  前記腎オルガノイドが、富化された近位尿細管細胞様細胞を有する、請求項1または2に記載の方法。
  8.  前記腎オルガノイドに含まれる細胞のうち5-30%が近位尿細管細胞様細胞である、請求項7に記載の方法。
  9.  さらに以下の工程を含む、請求項8に記載の方法。
    (b)多能性幹細胞を、5.5-8.5μMのGSK3β阻害剤の存在下で培養して、前記富化された近位尿細管細胞様細胞を有する腎オルガノイドを得る工程。
  10.  被験物質が腎において毒性を示す部位を予測するための方法であって、
    (A)被験物質と、富化された糸球体上皮細胞様細胞を有する腎オルガノイドと、を接触させる工程、
    (B)被験物質と、富化された近位尿細管細胞様細胞を有する腎オルガノイドと、を接触させる工程、
    (C)前記工程(A)における細胞障害性と前記工程(B)における細胞障害性とを比較して、前記工程(A)における細胞障害性のほうがより高い場合には毒性を示す部位を糸球体と予測し、工程(B)における細胞障害性のほうがより高い場合には毒性を示す部位を近位尿細管と予測する工程、
    を含む方法。
  11.  医薬候補化合物の腎毒性スクリーニング方法であって、
    (1)被験物質と、富化された糸球体上皮細胞様細胞を有する腎オルガノイドと、を接触させる工程、
    (2)細胞障害性を示さないまたは対照物質に比較して低い細胞障害性を示す被験物質を医薬候補化合物として選択する工程、
    を含む、方法。
  12.  腎オルガノイドを含む、被験物質の腎毒性を評価するためのキット。
  13.  以下の工程を含む、富化された糸球体上皮細胞様細胞を有する腎オルガノイドの製造方法。
    (a)多能性幹細胞を、9.0-10.5μMのGSK3β阻害剤の存在下で培養する工程。
  14.  以下の工程を含む、富化された近位尿細管細胞様細胞を有する腎オルガノイドの製造方法。
    (b)多能性幹細胞を、5.5-8.5μMのGSK3β阻害剤の存在下で培養する工程。

     
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