WO2023162263A1 - 多糖類ナノシート及びその製造方法 - Google Patents
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Abstract
多糖類ナノシートは、複数の繊維状物質を含んで形成されている。この多糖類ナノシートの主成分は、多糖類である。この多糖類ナノシートでは、その表面の無作為に選択された領域において、複数の繊維状物質が面方向に配向されている。組成物及び成形品は、この多糖類ナノシートを含む。この多糖類ナノシートの製造方法は、原料である木質バイオマスを、溶媒中、酸化剤及び酸触媒で脱リグニン処理して、厚さ500nm以下アスペクト比が10以上である多糖類ナノシートを含む液状物を得ることを含む。
Description
本開示は、ナノシートに関する。詳細には、本開示は、多糖類を材質とするナノシート及びその製造方法に関する。
ナノシート(英:nanosheet)とは、厚さがナノメートルオーダーである二次元ナノ構造体である。ナノシートの例としては、グラフェン、金属酸化物等の無機物質からなるナノシートが知られている。二次元構造体であるナノシートでは、従来のバルク材料とは異なる特異的物性が発現することから、種々の技術分野で着目されている。
ナノシートの合成法としては、Langmuir-Blodgett膜のように気液界面において分子の組織化又は重合により単分子膜又は積層膜を得る方法、溶液相合成法、化学気相成長法(CVD)等が知られている。これらは、いずれも、化学合成によりナノシートを得る方法である。
例えば、特許文献1は、高分子からなるナノシート層を製造する一般的な手法として、スピンコート法を開示している。この高分子として、セルロース等の多糖類が例示されている。
一方、セルロース等多糖類を主体とするナノ材料としては、セルロースナノファイバー及びセルロース誘導体ナノファイバーが提案されている。ナノファイバーとは、直径1~100nm、長さが直径の100倍以上の繊維状物質と定義される、一次元ナノ構造体である。セルロースナノファイバーは、高強度、低熱膨張性、透明性、高比表面積、生分解性、生体親和性等の特性を有しており、また、植物由来材料として環境負荷が小さいことから、多くの研究・開発がすすめられている。
例えば、特許文献2には、木材チップを破砕処理により木粉化し、脱脂処理、脱リグニン処理、脱ヘミセルロース処理、微細化処理を経て製造された、最大繊維幅1000nm以下の微細繊維状セルロースが開示されている。特許文献3には、水及び/又は有機溶媒中で、リグニン-多糖類複合体を、過酸化物及び/過酸と反応させて得られる液状物に含まれる多糖類を解繊処理に付して、セルロースナノファイバーを得る技術が開示されている。
非特許文献1-4には、Agave salmianaの葉の柔細胞から得られるセルロースナノプレートレット(CNP)が開示されている。非特許文献5には、Banana Pseudostemから得られるセルロースナノプレートレットが開示されている。例えば、非特許文献1の要約によれば、このCNPは、90nm又は70nmの厚さを有し、横方向のサイズが数μm~数百μmである大きなアスペクト比を有している。
L. Chavez-Guerreroa et al., Cellulose, 2017, 24, 3741-3752.
L. Chavez-Guerreroa et al., Carbohydrate Polymers, 2018, 181, 642-649.
L. Chavez-Guerreroa et al., Carbohydrate Polymers, 2019, 210, 85-91.
L. Chavez-Guerreroa et al., Carbohydrate Polymers, 2021, 254, 117463.
G. Flores-Jeronimo et al., Waste and Biomass Valorization, 2021, 12, 5715-5723.
特許文献2及び3に開示された技術は、原料である木粉からリグニンを分解除去した後、解繊処理又は微細化処理して、セルロースナノファイバーを得る技術である。例えば、Isogai,Journal of Wood Science,59,449(2013)によれば、セルロースナノファイバーは、幅数10nm、長さ3mmまでの繊維状物質である。セルロースナノファイバーはミクロフィブリル化セルロース又はセルロースナノフィブリルとも称される。
セルロースナノファイバーは一次元構造体であり、軸方向には高強度であるが、軸方向と直交する向きの応力に対しては低強度であるという異方性を有している。一次元構造のセルロースナノファイバーを用いて溶融製膜又は溶液製膜する場合、多くは剪断応力方向に配向する。その結果、得られるシートの強度にも異方性が生じる。さらに、セルロースナノファイバーは、水溶性の溶媒から精製する場合に凝集し易いという問題がある。
非特許文献1-5に開示されたセルロースナノプレートレットのようなシート状物質は二次元構造体であり、セルロースナノファイバーと比較して、一軸方向への強度の異方性はなく、均一な複合材料が得られる可能性がある。しかし、そもそも、面方向において繊維が配向していないため、所望の強度が得られないという問題がある。すなわち、非特許文献1-5に開示されたCNPでは、原料植物の天然由来の構造に起因して、いずれもセルロースナノファイバーがランダムに配置されている。詳細には、原料植物が繊維の配向構造を有していないため、これから得られるシート上物質にも、当然に、繊維配向構造による特性が発現されない。
また、特許文献1に開示された技術は、セルロースなどの多糖類を溶解することを前提とする製法である。そのため、そもそもセルロースI型結晶構造自体が消失するため、強度の向上効果が得られにくいという課題がある。
資源として豊富に存在する木材等、木質化(リグニン蓄積)が進んだ植物を原料として、木質バイオマスの組織に由来する繊維配向構造を有するナノシート及びその製造方法は未だ提案されていない。特には、さらには、多糖類を材料とするナノシートであって、強靭なセルロースI型結晶構造を保持し、かつ、そのナノシートの面内で繊維状物質が配向している多糖類ナノシートは提案されていなかった。本開示の目的は、木質バイオマスを原料として得られる繊維配向度の高い多糖類ナノシート及びその製造方法の提供にある。
本開示の多糖類ナノシートは、複数の繊維状物質を含んで形成されている。この多糖類ナノシートでは、その表面の無作為に選択された領域において、複数の繊維状物質が面方向に配向されている。このナノシートの主成分は、多糖類である。
この多糖類ナノシートは、下記方法により測定される繊維状物質の配向度が1.3以上である領域を有していてもよい。
配向度の測定方法:多糖類ナノシート表面の顕微鏡画像の1μm角の領域を二値化した後フーリエ変換することによりパワースペクトル画像を取得する。このパワースペクトル画像から最小二乗法により近似楕円を求める。この近似楕円の長軸aと短軸bとの比a/bを算出して配向度とする。
配向度の測定方法:多糖類ナノシート表面の顕微鏡画像の1μm角の領域を二値化した後フーリエ変換することによりパワースペクトル画像を取得する。このパワースペクトル画像から最小二乗法により近似楕円を求める。この近似楕円の長軸aと短軸bとの比a/bを算出して配向度とする。
この多糖類ナノシートは、下記方法により測定される繊維状物質の配向度が1.3以上である領域を有していてもよい。
配向度の測定方法:多糖類ナノシート表面の顕微鏡画像の5μm角の領域を二値化した後フーリエ変換することによりパワースペクトル画像を取得する。このパワースペクトル画像から最小二乗法により近似楕円を求める。この近似楕円の長軸aと短軸bとの比a/bを算出して配向度とする。
配向度の測定方法:多糖類ナノシート表面の顕微鏡画像の5μm角の領域を二値化した後フーリエ変換することによりパワースペクトル画像を取得する。このパワースペクトル画像から最小二乗法により近似楕円を求める。この近似楕円の長軸aと短軸bとの比a/bを算出して配向度とする。
この多糖類ナノシートは、下記方法により測定される繊維状物質の配向度が1.3以上である領域を有していてもよい。
配向度の測定方法:多糖類ナノシート表面の顕微鏡画像の23.7μm角の領域を二値化した後フーリエ変換することによりパワースペクトル画像を取得する。このパワースペクトル画像から最小二乗法により近似楕円を求める。この近似楕円の長軸aと短軸bとの比a/bを算出して配向度とする。
配向度の測定方法:多糖類ナノシート表面の顕微鏡画像の23.7μm角の領域を二値化した後フーリエ変換することによりパワースペクトル画像を取得する。このパワースペクトル画像から最小二乗法により近似楕円を求める。この近似楕円の長軸aと短軸bとの比a/bを算出して配向度とする。
この多糖類ナノシートは、その表面の無作為に選択された複数の領域において、繊維状物質の配向度を下記測定方法で測定して得られる平均値が1.3以上であってよい。
配向度の測定方法:多糖類ナノシート表面の顕微鏡画像の1μm角の領域を二値化した後フーリエ変換することによりパワースペクトル画像を取得する。このパワースペクトル画像から最小二乗法により近似楕円を求める。この近似楕円の長軸aと短軸bとの比a/bを算出して配向度とする。
配向度の測定方法:多糖類ナノシート表面の顕微鏡画像の1μm角の領域を二値化した後フーリエ変換することによりパワースペクトル画像を取得する。このパワースペクトル画像から最小二乗法により近似楕円を求める。この近似楕円の長軸aと短軸bとの比a/bを算出して配向度とする。
この多糖類ナノシートは、その表面の無作為に選択された複数の領域において、繊維状物質の配向度を下記測定方法で測定するとき、測定した全領域数の40%以上が、配向度1.3以上の領域であってよい。
配向度の測定方法:多糖類ナノシート表面の顕微鏡画像の1μm角の領域を二値化した後フーリエ変換することによりパワースペクトル画像を取得する。このパワースペクトル画像から最小二乗法により近似楕円を求める。この近似楕円の長軸aと短軸bとの比a/bを算出して配向度とする。
配向度の測定方法:多糖類ナノシート表面の顕微鏡画像の1μm角の領域を二値化した後フーリエ変換することによりパワースペクトル画像を取得する。このパワースペクトル画像から最小二乗法により近似楕円を求める。この近似楕円の長軸aと短軸bとの比a/bを算出して配向度とする。
多糖類ナノシートの厚さは、500nm以下であってよい。このナノシートは、厚さ方向に垂直な面に投射して得られる最大の内接円の直径と、厚さとの比として表されるアスペクト比が10以上であってよい。
多糖類は、木質バイオマスに由来する多糖類であってよい。多糖類の重量平均分子量は、150,000以上1,500,000以下であってよい。
この多糖類ナノシートにおいて、多糖類はセルロースを含んでよい。
本開示の組成物は、前述したいずれかの多糖類ナノシートを含む。また、本開示の成形品は、前述したいずれかの多糖類ナノシートを含む。
本開示の多糖類ナノシートの製造方法は、原料である木質バイオマスを、溶媒中、酸化剤及び酸触媒で脱リグニン処理して、厚さ500nm以下で、厚さ方向に垂直な面に投射して得られる最大の内接円の直径と、上記厚さとの比として表されるアスペクト比が10以上である多糖類ナノシートを含む液状物を得ること、を含む。この木質バイオマスは、二次壁を有する木質バイオマスであってよい。
この製造方法が、この液状物から固形分を分離することをさらに含んでもよい。
この製造方法が、脱リグニン処理中に撹拌処理することをさらに含んでもよい。この製造方法が、脱リグニン処理後に撹拌処理することをさらに含んでもよい。この製造方法は、脱リグニン処理中及び脱リグニン処理後に撹拌処理することを含みうる。
この製造方法が、液状物を遠心分離することにより固形分を分離して得られる上澄み液から、多糖類ナノシートを分離することをさらに含んでもよい。
本開示の多糖類ナノシートは、原料である植物組織に由来する繊維の配向構造を有している。この多糖類ナノシートによれば、その形状及び配向構造によって、高強度、高バリア性等優れた特性が期待される。さらに、この多糖類ナノシートは、環境負荷の低い木質バイオマスを原料として、温和な条件及び少ない工程で容易に得ることができる。
以下、好ましい実施形態の一例を具体的に説明する。各実施形態における各構成及びそれらの組み合わせ等は、一例であって、本開示の主旨から逸脱しない範囲内で、適宜、構成の付加、省略、置換、及びその他の変更が可能である。本開示は、実施形態によって限定されることはなく、クレームの範囲によってのみ限定される。また、本明細書に開示された各々の態様は、本明細書に開示された他のいかなる特徴とも組み合わせることができる。
なお、本願明細書において、範囲を示す「X~Y」は「X以上Y以下」の意味である。また、特に注釈のない限り、試験温度は全て室温(20℃±5℃)である。
[木質バイオマス]
木質バイオマスには、主に、樹木の伐採や造材のときに発生する枝、葉等の林地残材、製材工場等から発生する樹皮やのこ屑などのほか、住宅の解体材や街路樹の剪定枝なども含まれる。本開示において好ましい木質バイオマスは木材である。繊維状物質が配向しているものであれば、葉等も木質バイオマスとして使用することができる。
木質バイオマスには、主に、樹木の伐採や造材のときに発生する枝、葉等の林地残材、製材工場等から発生する樹皮やのこ屑などのほか、住宅の解体材や街路樹の剪定枝なども含まれる。本開示において好ましい木質バイオマスは木材である。繊維状物質が配向しているものであれば、葉等も木質バイオマスとして使用することができる。
一般的な木質バイオマスは、リグニンを含んでいることが多い。しかしながら、本開示の多糖類ナノシートは、その製造過程で、木質バイオマス中のリグニンの一部又は全てが除去される。
木質バイオマスの中で、樹木の木材として扱われる部位は形成層より内側の二次木部が中心であり、形成層より外側の樹皮などが材として扱われることは少ない。二次木部はほぼ細胞壁のみで構成され、細胞壁は一次壁と二次壁とに区別される。二次壁の主成分はセルロース、ヘミセルロース及びリグニンであり、一次壁はさらにタンパク質やペクチン等を含む。木質バイオマスの中でも葉の組織は一般的に表皮組織、柵状組織、海綿状組織、維管束で構成されており、多くは二次壁を持たない。本開示では、二次壁を有する木質バイオマスが好適に用いることができる。二次壁を有する葉であれば用いることができる。
[多糖類ナノシート]
本開示の多糖類ナノシートの主成分は、多糖類である。後述する通り、この多糖類ナノシートは、木質バイオマスを原料として製造される。従って、このナノシートの主成分が、原料の木質バイオマスに由来する多糖類であってよく、木材に由来する多糖類であってよい。なお、木質バイオマスの詳細については後述する。
本開示の多糖類ナノシートの主成分は、多糖類である。後述する通り、この多糖類ナノシートは、木質バイオマスを原料として製造される。従って、このナノシートの主成分が、原料の木質バイオマスに由来する多糖類であってよく、木材に由来する多糖類であってよい。なお、木質バイオマスの詳細については後述する。
本開示の多糖類ナノシートは、複数の繊維状物質を含んで形成されている。繊維状物質の主成分は、木質バイオマスに由来する多糖類であってよい。本開示において、繊維状物質とは、幅又は径に対して長さが100倍以上の形状を有する物質を意味する。一実施形態において、繊維状物質の幅又は径は3~100nmであってよく、4~50nmであってよく、4~20nmであってよい。
例えば、木材は図12に示したような階層構造をしており、図12中に斜線で示されているように、S1層、S2層及びS3層から構成される二次壁を有している。この二次壁、特にS2層には、セルロースを主成分とする繊維状物質(セルロースミクロフィブリル又はセルロースミクロフィブリルの束)が高度に配向して存在している。このような天然の構造に由来して繊維状物質が高度に配向した部分が、本開示の多糖類シートの主たる起源となっている。これらの層を形成するセルロースミクロフィブリル又はその束が、本開示の「繊維状物質」に相当する。すなわち、本開示の繊維状物質が、木の成長過程で生成されたセルロースからなる繊維状物質であり、ヘミセルロース、リグニンなどを付帯した繊維状物質であってもよい。
木質バイオマス(木材)においては、前述の二次壁のようにセルロースミクロフィブリル又はその束が、高度に配向した部分が存在する。従って、木質バイオマスを原料として得られる本開示の多糖類ナノシートでは、これら天然の組織構造に起因して、繊維状物質が高度に配向した構造を有しうる。本開示の効果が得られる限り、多糖類ナノシートが、一次壁(P層)に由来するような繊維状物質の配向性の低い部分を含んでもよい。
本開示の多糖類ナノシートは、その表面の無作為に選択された領域において、複数の繊維状物質が面方向に配向されている。本開示の多糖類ナノシートは、その全表面において、複数の繊維状物質が一方向に配向しているものに限定されず、配向方向の異なる複数の領域を有するものも本開示の多糖類ナノシートに含まれる。すなわち、この多糖類ナノシートは、その表面において、複数の繊維状物質が面方向に配向された領域を有している限り、各領域における配向方向が異なっていてもよい。さらには、本開示の効果が得られる範囲内で、多糖類ナノシートが、部分的に、繊維状物質が配向されないランダムな領域を有していてもよい。
図1は、本開示の一実施形態に係る多糖類ナノシートの、白色干渉計搭載レーザー顕微鏡観察により得られた微分干渉図である。図1中、23.7μm角の領域が四角で囲まれている。
図示される通り、このナノシートは、複数の繊維状物質が面方向に配向された領域を含む。ここで、「面方向に配向」とは、ナノシートを平面視した場合に、複数の繊維状物質又はその束が、その表面に沿って、概ね揃った向きに配列されていることを意味する。詳細には、複数の繊維状物質の長さ方向が、その面内において略同じ向きに配列されていることを意味する。
換言すれば、本開示の多糖類ナノシートは、その表面において、複数の繊維状物質が面方向に配向された領域を有している。このように、複数の繊維状物質が高度に配向した構造を有するナノシートは、従来知られていなかった。この高度な配向構造は、原料である植物組織が有する繊維構造に由来する。この多糖類ナノシートによれば、従来製造過程において失われていた天然の繊維構造による効果が得られうる。本開示の多糖類ナノシートは、その形状及び配向構造によって、高強度、高バリア性等優れた特性が得られうる。
さらに、多糖類ナノシートの内部では、原料である木質バイオマスに由来するセルロースの結晶構造である、セルロースI型構造が保持されてもよい。この多糖類ナノシートでは、その内部において繊維状物質が、その表面に平行な面に沿って配向した構造を有してもよい。
本開示の多糖類ナノシートは、複数の繊維状物質が面方向に配向した領域を有していればよく、その領域内において繊維状物質が配列する向きは特に限定されない。例えば、図1において、複数の繊維状物質が配列する向きは、紙面上下方向であってもよく、紙面左右方向であってもよく、紙面斜め方向であってもよい。また、本開示の効果が得られる限り、1つのナノシートの異なる領域において、複数の繊維状物質が配列する向きが異なっていてもよい。この点で、本開示の多糖類ナノシートは、特定の一次元方向に配向するセルロースナノファイバーとは相違する。
また、本開示の多糖類シートは、複数の繊維状物質から形成された複数の層を含んでもよい。この多糖類シートでは、各層の無作為に選択された領域において、複数の繊維状物質が面方向に配向されている。本開示の効果が得られる限り、1つのナノシートの各層において、複数の繊維状物質が配列する向きは異なっていてもよい。
本開示での多糖類ナノシートの主成分である多糖類は、木質バイオマスに由来する多糖類であってよい。前述した二次木部の構造は樹種により多様である。また、一次壁に分類されるP層においては配向性が低い。従って、本開示の多糖類ナノシートが、部分的に無配向の部分を含む場合がある。また、由来するS1層、S2層及びS3層によって、面内の配向方向が相違する場合がある。即ち、本開示の多糖ナノシートの全ての部分において、複数の繊維状物質が配向しているものではなく、全ての領域において、均一な方向に配向しているものでもない。
また、本開示の多糖類ナノシートは、複数の多糖類ナノシートの集合体として得られる。この複数のナノシートのうち、一次壁のP層由来の多糖類を主成分とするナノシートを含む可能性がある。そのため、本開示の多糖類ナノシートをなす複数のナノシートの集合体全てが、繊維状物質が面方向に配向された領域を有していなくてもよい。本開示の効果が得られやすいとの観点から、繊維状物質が面方向に高度に配向されたナノシートを含むことが好ましく、繊維状物質が面方向に配向されたナノシートを高い比率で含むことが好ましい。
好ましくは、多糖類ナノシートは、複数の繊維状物質の配向度が1.3以上である領域を有している。配向度1.3以上の領域を有する多糖類ナノシートによれば、優れた機械的特性が得られうる。本明細書において、多糖類ナノシートの配向は、特開2012-2547号公報に記載された測定方法に準拠して、以下の方法により測定される。
はじめに、白色干渉計搭載レーザー顕微鏡を使用して、多糖類ナノシートの無作為に選択された領域の表面画像を撮影する。この表面画像を、解析ソフト(http://www.enomae.com/FiberOri/index.htm)を利用して二値化した後、フーリエ変換することによりパワースペクトル画像を取得する。例えば、図1に四角で囲まれた領域のパワースペクトル画像が、図2に示されている。次に、このパワースペクトル画像を極座標変換して、振幅スペクトルの平均を最小二乗法により近似楕円を求める。図3は、極座標変換後に求められる近似楕円を説明するための概念図である。この図3中、符号aは近似楕円の長軸であり、符号bは近似楕円の短軸である。この近似楕円の長軸aと短軸bとの比a/bを算出することにより、所定の領域内の配向度(面内配向度)が求められる。理論上、配向度の最小値は1.0であり、面内での異方性がなく完全にランダムな状態を示す。一方、配向度が1.0を超えて大きいほど、面内の異方性が大きく、高度な配向構造が形成されていることを示す。
本開示の一実施態様にかかる多糖類ナノシートでは、無作為に選択された表面の顕微鏡画像において、1μm角の領域の配向度が1.3以上であってよい。複数の1μm角の領域を測定する場合、少なくとも一つの領域の配向度が1.3以上であればよい。
また、他の実施態様にかかる多糖類ナノシートでは、無作為に選択された表面の顕微鏡画像において、少なくとも一つの5μm角の領域の配向度が1.3以上であってよい。5μm角の領域の配向度を求めることは、より広い範囲での平均化された配向度の測定を意味する。従って、当該実施形態にかかる多糖類ナノシートは、より広い領域で均一な配向度を有している。
また、さらに他の実施態様にかかる多糖類ナノシートでは、無作為に選択された表面の顕微鏡画像において、少なくとも一つの23.7μm角の領域の配向度が1.3以上であってよい。23.7μm角の領域の配向度を求めることは、さらに広い範囲での平均化された配向度の測定を意味する。従って、当該実施形態にかかる多糖類ナノシートは、より広い領域で高い配向度を有している。
換言すれば、本開示の一実施態様にかかる多糖類ナノシートは、その表面の1μm角の領域の顕微鏡画像を測定して得られる配向度が1.3以上であってよく、その表面の5μm角の領域の顕微鏡画像を測定して得られる配向度が1.3以上であってよく、その表面の23.7μm角の領域の顕微鏡画像を測定して得られる配向度が1.3以上であってよい。より広い領域で測定された配向度が1.3以上である多糖類ナノシートでは、より広範囲で繊維状物質が面方向に配向されていることを意味する。この多糖類ナノシートでは、繊維配向構造による効果が顕著に発現される。
本開示の多糖類ナノシートでは、その表面の無作為に選択された複数の領域を測定する場合、少なくともひとつの領域の配向度が1.3以上であればよい。その表面の無作為に選択された複数の1μm角の領域において、繊維状物質の配向度を測定して得られる平均値が1.3以上である多糖類ナノシートが好ましい。すなわち、本開示の多糖類ナノシートの無作為に抽出された各測定領域のうち、配向度が低い領域が存在していたとしても、全体の平均としての配向度が1.3以上であればよい。なお、この平均値は、一つの多糖ナノシートについて求められるものである。
また、本開示での多糖類ナノシートは、一つの多糖類ナノシートについて、無作為に抽出した複数の領域の配向度を求める場合、繊維状物質の配向度が高い領域を多く含む態様が好ましい。即ち、一つの多糖類ナノシートの表面の無作為に選択された複数の1μm角の領域で繊維状物質の配向度を測定するとき、測定した全領域数の40%以上の領域の配向度が1.3以上であってよい。強度向上の観点から、配向度1.3以上の領域が測定した全領域数の50%以上であってよく、70%以上であってよく、90%以上であってよく、理想的には100%である。
配向構造による効果が得られやすいとの観点から、前述した各実施態様において、各領域における繊維状物質の配向度は1.4以上であってよく、1.5以上であってよく、1.6以上であってよい。配向度の上限値は特に限定されないが、多糖類ナノシートの原料の限定などから、2.5以下であってよく、2.2以下であってよく、2.0以下であってよい。
多糖類ナノシートの厚さに特に限定はないが、例えば、製造容易の観点から、10nm以上であってよく、15nm以上であってよく、20nm以上であってよい。二次元ナノ構造体としての特性が得られやすいとの観点から、その厚さは250nm以下であってよく、200nm以下であってよく、150nm以下であってよい。
多糖類ナノシートの厚さは、白色干渉計搭載レーザー顕微鏡観察で得られる画像解析等により求めることができる。具体的には、図1に示された23.7μm角の領域において、基準点(基板)からの高さの平均値を求めて、多糖類ナノシートの厚さとする。図1中、この基準点が符号Sとして示されている。
多糖類ナノシートの厚さ方向に垂直な面の大きさ(サイズ)は、その機能が発現しやすいとの観点から、2μm角以上であってよく、5μm角以上であってよく、10μm角以上であってよく、20μm角以上であってよく、23.7μm角以上であってよい。例えば、多糖類ナノシートを補強剤として成形品に配合する場合、多糖類ナノシートの厚さ方向に垂直な面が大きいほど、高い補強効果が得られる。また、多糖類ナノシートを添加剤として使用する場合、高い分散性が得られるとの観点から、多糖類ナノシートのサイズは50μm以下であってよく、40μm角以下であってよく、30μm以下であってよい。
多糖類ナノシートのアスペクト比は、その厚さ方向に垂直な面に投射して得られる最大の内接円の直径と、厚さとの比として表される。二次元ナノ構造体としての特性が得られやすいとの観点から、多糖類ナノシートのアスペクト比は10以上であってよく、15以上であってよく、20以上であってよい。製造容易の観点から、そのアスペクト比は1000以下であってよく、2000以下であってよく、3000以下であってよい。多糖類ナノシートのアスペクト比は、白色干渉計搭載レーザー顕微鏡観察で得られる画像解析等により求めることができる。
前述した通り、本開示の多糖類ナノシートの主成分は、多糖類であり、原料である木質バイオマスに由来する多糖類であってよい。ここで「多糖類」とは、グリコシド結合によって単糖分子が多数重合した物質として定義される。多糖類、単糖にはその誘導体、例えばウロン酸などの酸性糖も含まれる。また、「主成分」とは、この多糖類の含有量が、多糖類ナノシート全体に対して50質量%以上であることを意味する。生分解性が得られやすいとの観点から、多糖類の含有量は70質量%以上であってよく、80質量%以上であってよく、90質量%以上であってよく、その上限値は100質量%である。本明細書において、多糖類含有量は、後述する硫酸を用いた加水分解と、加水分解物の高速液体クロマトグラフィー(HPLC)法を用いて、多糖類を構成する単糖類を測定することにより求められる。また、ウロン酸などの糖類誘導体は別途公知の方法で測定することができる。
木質バイオマスは、環境負荷が小さいことに加えて、食糧との競合がない点で、優れた材料である。本開示において好ましい木質バイオマス、木材であり、ユーカリ等の広葉樹、スギ等の針葉樹といった木材が例示される。また、本開示の効果が得られる限り、タケや、稲わら、フスマ等の草本に由来する多糖類を含んでもよい。なお、草本由来の多糖類を含む場合には、これらが配向した繊維構造を有していることが必要である。
木質バイオマスの主成分は、リグノセルロースである。リグノセルロースは、主としてセルロース、ヘミセルロース及びリグニンからなる天然高分子の混合物である。しかしながら、本開示の多糖類ナノシートでは、製造過程で一部又は全てのリグニンは除去される。従って、木質バイオマスに由来する代表的な多糖類は、セルロース及びヘミセルロースである。本開示において、多糖類ナノシートの主成分がセルロースであってもよい。
多糖類がセルロースを含む場合、多糖類全体に占めるセルロースの含有比率は特に限定されないが、高い配向性が得られやすいとの観点から、50質量%以上であってよく、65質量%以上であってよく、70質量%以上であってよい。その上限値は特に限定されないが、セルロースの含有比率が90質量%以下であれば、後述する製造過程で繊維束が微細化されやすく、多糖類ナノシートの生産性がよい傾向がある。
[多糖類の構成糖組成]
多糖類の構成糖組成にも特に限定はないが、その一例として、多糖類の構成糖分析において、構成糖成分全体に対するグルコース含量が50質量%以上であってよく、60質量%以上であってよく、80質量%以上であってよい。また、グルコース含量の上限値は100質量%であり、90質量%以下であってよく、85%未満であってよい。グルコース含量が85質量%未満であれば、後述する製造過程で繊維束が微細化されやすく、多糖類ナノシートの生産性がよい傾向がある。
多糖類の構成糖組成にも特に限定はないが、その一例として、多糖類の構成糖分析において、構成糖成分全体に対するグルコース含量が50質量%以上であってよく、60質量%以上であってよく、80質量%以上であってよい。また、グルコース含量の上限値は100質量%であり、90質量%以下であってよく、85%未満であってよい。グルコース含量が85質量%未満であれば、後述する製造過程で繊維束が微細化されやすく、多糖類ナノシートの生産性がよい傾向がある。
多糖類の構成糖分析において、構成糖成分全体に対するマンノース含量は2.0質量%以上であってよく、3.0質量%以上であってよく、5.0質量%以上であってよく、6.0質量%以上であってよく、7.0質量%以上であってよい。また、マンノース含量は15質量%以下であってよく、12質量%以下であってよく、10質量%以下であってよい。
多糖類の構成糖分析において、構成糖成分全体に対するキシロース含量は0.5質量%以上であってよく、1.0質量%以上であってよく、2.0質量%以上であってよく、3.0質量%以上であってよく、4.0質量%以上であってよい。また、キシロース含量は20質量%以下であってよく、10質量%以下であってよく、7.0質量%以下であってよい。
多糖類の構成糖分析は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)法によりおこなうことができる。詳細には、試料約0.2gを精秤して、濃度72質量%の硫酸3.0mlを添加して30℃で分解した後、さらに純水84mlを添加して、オートクレーブを用いて120℃で加熱分解する。この加熱分解後の分解液をろ別して、得られたろ液に残渣の洗浄液を併せて100mlにしたものを検液とする。この検液をHPLC測定して得られたデータから、各構成糖成分の含有量及び含有割合を算出する。HPLC測定条件は、以下の通りである。
装置:Agilent 1100 HPLC System(Agilent Technologies社製)
カラム:Aminex HPX-87P(300 x 7.8 mm)(Bio-Rad Laboratories社製)
ガードカラム:Micro-Guard Carbo-P Refill Cartridges(30 x 4.6 mm)(Bio-Rad Laboratories社製)
カラム温度:80℃
移動相:水
移動相流速:0.6mL/min
検出器:RI検出器
カラム:Aminex HPX-87P(300 x 7.8 mm)(Bio-Rad Laboratories社製)
ガードカラム:Micro-Guard Carbo-P Refill Cartridges(30 x 4.6 mm)(Bio-Rad Laboratories社製)
カラム温度:80℃
移動相:水
移動相流速:0.6mL/min
検出器:RI検出器
[リグニン含有量]
多糖類ナノシートから採取した試料を硫酸加水分解した後の固形分残渣を乾燥・秤量したものを、本明細書におけるリグニン含量とする。本開示の効果が得られる限り、多糖類ナノシートのリグニン含量は特に限定されないが、例えば、リグニン含量は5.0質量%以下であってよく、4.0質量%以下であってよく、3.0質量%以下であってよい。また、リグニン含量の下限値は0質量%であってよいが、製造容易の観点から2.0質量%以上であってよい。
多糖類ナノシートから採取した試料を硫酸加水分解した後の固形分残渣を乾燥・秤量したものを、本明細書におけるリグニン含量とする。本開示の効果が得られる限り、多糖類ナノシートのリグニン含量は特に限定されないが、例えば、リグニン含量は5.0質量%以下であってよく、4.0質量%以下であってよく、3.0質量%以下であってよい。また、リグニン含量の下限値は0質量%であってよいが、製造容易の観点から2.0質量%以上であってよい。
[分子量及び分子量分布]
優れた機械的特性が得られるとの観点から、多糖類の重量平均分子量Mwは150,000以上であってよく、300,000以上であってよく、500,000以上であってよい。製造容易との観点から、多糖類の重量平均分子量Mwは1,500,000以下であってよく、1,200,000以下であってよく、1,000,000以下であってよく、900,000以下であってよい。
優れた機械的特性が得られるとの観点から、多糖類の重量平均分子量Mwは150,000以上であってよく、300,000以上であってよく、500,000以上であってよい。製造容易との観点から、多糖類の重量平均分子量Mwは1,500,000以下であってよく、1,200,000以下であってよく、1,000,000以下であってよく、900,000以下であってよい。
優れた機械的特性が得られるとの観点から、多糖類の数平均分子量Mnは10,000以上であってよく、20,000以上であってよく、30,000以上であってよい。製造容易との観点から、多糖類の数平均分子量Mnは200,000以下であってよく、100,000以下であってよく、50,000以下であってよい。
本開示の効果が得られる限り、多糖類の分子量分布Mw/Mnは特に限定されないが、例えば、生分解性向上の観点から、Mw/Mnは2.0以上であってよく、3.0以上であってよく、5.0以上であってよく、10以上であってよい。所望の形状が得られやすいとの観点から、Mw/Mnは50以下であってよく、40以下であってよく、30以下であってよい。
多糖類の分子量及び分子量分布は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)測定により求めることができる。詳細には、試料を、塩化リチウムを含むN,N-ジメチルアセトアミドに溶解して、PTFEカートリッジフィルターで濾過した後、以下の条件でGPC測定する。
装置:LC-4000(JASCO社製)
カラム:KD-G 4A(4.6mmI.D.×1.0cm、Shodex社製)1本
ガードカラム:KD-806M(8.0mmI.D.×30cm、Shodex社製)1本
検出器:RI検出器、polarity(+)
溶離液:N,N-ジメチルアセトアミド系溶液
検量線:Shodex製標準プルランを用いた一次近似直線
カラム:KD-G 4A(4.6mmI.D.×1.0cm、Shodex社製)1本
ガードカラム:KD-806M(8.0mmI.D.×30cm、Shodex社製)1本
検出器:RI検出器、polarity(+)
溶離液:N,N-ジメチルアセトアミド系溶液
検量線:Shodex製標準プルランを用いた一次近似直線
[セルロースI型結晶構造]
多糖類ナノシートがセルロースI型結晶構造を有することは、X線回折測定により確認することができる。測定方法としては、多糖類ナノシートを凍結乾燥した試料を用いて測定すればよい。測定装置としては、島津製作所製X線回折測定装置MAXima_X XRD-7000等を用いることができる。試料を加圧成型して粉末X線回折を測定すればよい。平行鎖構造を有するセルロースI型結晶は、X線回折において2θ=22.5°付近の回折ピークを示すこと、及び、ピーク分離により2θ=16.7°付近及び14.8°付近に高強度の回折を示すことが知られている。従って、上記試料について得たX線回折図の上記部分に、高強度の回折があることを確認することにより、多糖類ナノシートがセルロースI型結晶構造を有することを決定することができる。
多糖類ナノシートがセルロースI型結晶構造を有することは、X線回折測定により確認することができる。測定方法としては、多糖類ナノシートを凍結乾燥した試料を用いて測定すればよい。測定装置としては、島津製作所製X線回折測定装置MAXima_X XRD-7000等を用いることができる。試料を加圧成型して粉末X線回折を測定すればよい。平行鎖構造を有するセルロースI型結晶は、X線回折において2θ=22.5°付近の回折ピークを示すこと、及び、ピーク分離により2θ=16.7°付近及び14.8°付近に高強度の回折を示すことが知られている。従って、上記試料について得たX線回折図の上記部分に、高強度の回折があることを確認することにより、多糖類ナノシートがセルロースI型結晶構造を有することを決定することができる。
[多糖類ナノシートの製造方法]
本開示の多糖類ナノシートの製造方法は、原料である木質バイオマスを、溶媒中、酸化剤及び酸触媒で脱リグニン処理して、厚さ500nm以下で、厚さ方向に垂直な面に投射して得られる最大の内接円の直径と、上記厚さとの比として表されるアスペクト比が10以上である多糖類ナノシートを含む液状物を得ること、を含む。好ましくは、この製造方法は、原料である木質バイオマスを、溶媒中、適切な酸化剤及び酸触媒量で、適切な時間と剪断力で脱リグニン処理して、前述の多糖類ナノシートを含む液状物を得ること、を含む。本開示の製造方法によれば、意図的な配向処理をおこなうことなく、その表面の無作為に選択された領域において、面方向に配向された複数の繊維状物質を有している多糖類ナノシートを得ることができる。ここで、「液状物」とは、室温(20℃±5℃)、常圧下で流動性を有する物質を意味であり、固形分を含む懸濁液であってもよい。
本開示の多糖類ナノシートの製造方法は、原料である木質バイオマスを、溶媒中、酸化剤及び酸触媒で脱リグニン処理して、厚さ500nm以下で、厚さ方向に垂直な面に投射して得られる最大の内接円の直径と、上記厚さとの比として表されるアスペクト比が10以上である多糖類ナノシートを含む液状物を得ること、を含む。好ましくは、この製造方法は、原料である木質バイオマスを、溶媒中、適切な酸化剤及び酸触媒量で、適切な時間と剪断力で脱リグニン処理して、前述の多糖類ナノシートを含む液状物を得ること、を含む。本開示の製造方法によれば、意図的な配向処理をおこなうことなく、その表面の無作為に選択された領域において、面方向に配向された複数の繊維状物質を有している多糖類ナノシートを得ることができる。ここで、「液状物」とは、室温(20℃±5℃)、常圧下で流動性を有する物質を意味であり、固形分を含む懸濁液であってもよい。
好ましくは、木質バイオマスが、二次壁を有する木質バイオマスであってよい。この木質バイオマスの主成分は、セルロース、ヘミセルロース及びリグニンが複雑に絡み合った強固な高次構造を形成している。詳細には、リグノセルロースでは、直鎖高分子であるセルロースが分子内及び分子間水素結合により結晶構造を形成して強固なミクロフィブリルを構成し、これにキシランやグルコマンナン等のヘミセルロースが絡み合い、さらに不規則芳香族高分子であるリグニンがこれら多糖類のマトリックスの空隙に充填されて、強固な複合体を形成している。
本開示の製造方法では、木質バイオマスを、溶媒中、酸化剤及び酸触媒で反応させて、リグノセルロース中のリグニンを酸化・分解する(脱リグニン処理)。これにより、リグノセルロースの強固な高次構造が解離されて、リグニンの分解物又は酸化物が溶媒中に溶解して、セルロース、ヘミセルロース等の多糖類を固形分として含む液状物が得られる。換言すれば、この液状物は、多糖類を主成分とする固形分の懸濁液又は分散液である。
本開示の製造方法で使用する溶媒は、水及び/又は有機溶媒であってよい。リグニン又はリグニン分解物を溶解し、かつ、多糖類を溶解しない溶媒が好適に用いられる。例えば、メタノール、エタノール等のアルコール系溶媒、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル等のエーテル系溶媒、酢酸エチル等のエステル系溶媒、ペンタン、ヘキサン等の炭化水素系溶媒、ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素系溶媒、クロロホルム、ジクロロエチレン等のハロゲン系溶媒、N,N-ジメチルホルムアミド等のアミド系溶媒、アセトニトリル等のニトリル系溶媒が挙げられる。2種以上を併用して混合溶媒として用いてもよい。炭化水素系溶媒が好ましく、トルエンがより好ましい。
本開示の多糖類ナノシートが得られる限り、溶媒の使用量に特に限定はなく、原料である木質バイオマスの種類、溶媒の種類等を考慮して、適宜調整することができる。脱リグニン処理の反応性向上の観点から、例えば、溶媒の量は、木質バイオマス100mgに対して0.1~10mlであってよく、0.2~1.0mlであってよく、0.3~0.6mlであってよい。
酸化剤としては、過酸化物及び/又は過酸を好適に用いることができる。過酸化物及び/又は過酸を酸化剤として使用することにより、リグノセルロース中のリグニンを効率的に分解・酸化することができる。
過酸化物としては、例えば、過酸化水素、t-ブチルヒドロペルオキシド等のヒドロペルオキシド類、ジ-t-ブチルペルオキシド、過酸化ベンゾイル等のペルオキシド類が挙げられる。過酸としては、過ギ酸、過酢酸、トリフルオロ過酢酸、過安息香酸等の有機過酸であってよく、過マンガン酸等の無機過酸であってよい。これら2種以上を酸化剤として併用してもよい。入手が容易との観点から、過酸加水素が好ましい。
酸化剤の使用量は、本開示の効果が得られる範囲内で適宜調整することができる。脱リグニン処理の反応性向上の観点から、例えば、酸化剤の量は、木質バイオマス100mgに対して0.1~5.0mmolであってよく、0.2~3.0mmolであってよく、0.5~1.5mmolであってよい。酸化剤が当該範囲を超える量で使用される場合、反応条件によっては、原料の植物組織に由来する配向構造が消失する可能性があり、また、多糖類ナノシートの収率が低下する可能性がある。さらに、別の問題として、多糖類ナノシートの生成に長時間を要する可能性もある。
酸触媒は、リグニンの酸化及び分解反応を促進する。本開示における酸触媒は、硫酸、塩酸、硝酸、リン酸等の無機酸であってよく、カルボン酸、スルホン酸、ホスホン酸、ホスフィン酸等の有機酸であってよく、これらの混合物であってもよい。本開示の多糖類ナノシートが得られやすいとの観点から、ドデシルベンゼンスルホン酸、硫酸、p-トルエンスルホン酸から選択される1又は2種以上が好ましく、ドデシルベンゼンスルホン酸がより好ましい。
本開示の多糖類ナノシートが得られやすいとの観点から、酸触媒のオクタノール/水分配係数は、0以上であってよく、-1以上であってよく、1以上であってよい。このような酸触媒として、ドデシルベンゼンスルホン酸(1.96)、pートルエンスルホン酸(-0.62)が例示される。なお、括弧内の数値は、オクタノール/水分配係数である。
酸触媒の使用量は、本開示の効果が得られる範囲内で適宜調整することができる。リグニンの分解反応促進の観点から、例えば、酸触媒の量は、木質バイオマス100mgに対して0.5~50μmolであってよく、1~30μmolであってよく、2~10μmolであってよい。酸触媒が当該範囲を超える量で使用される場合、反応条件によっては、原料の植物組織に由来する配向構造が消失する可能性がある。
リグニン分解反応の促進及び配向構造の消失抑制の観点から、酸化剤の使用量(A)と酸触媒の使用量(B)とのモル比(A/B)は、10~200であってよく、20~50であってよい。当該範囲を超える比で使用される場合、反応条件によっては、原料の植物組織に由来する配向構造が消失する可能性があり、また、多糖類ナノシートの収率が低下する可能性がある。さらにまた、モル比(A/B)によっては、反応時間が長時間化する可能性がある。
脱リグニン処理の反応条件に特に限定はなく、木質バイオマスの種類及び量、溶媒、酸化剤及び酸触媒の種類及び使用量等に応じて、適宜選択することができる。例えば、空気雰囲気、窒素雰囲気、アルゴン雰囲気等いずれの反応雰囲気で脱リグニン処理をおこなってもよい。また、脱リグニン処理は、常圧下であってもよく、減圧下であってもよく、加圧下であってもよい。
脱リグニン処理の反応温度は、100℃以下であってよく、90℃以下であってよく、80℃以下が好ましい。反応効率の観点から、反応温度は、50℃以上が好ましい。反応時間は、反応温度に応じて適宜調整することができる。反応温度が高温であると、原料の植物組織に由来する配向構造が消失する可能性があり、また、多糖類ナノシートの収率が低下する可能性があるため、なるべく低い温度での反応が好ましい。
前述した通り、この製造方法では、脱リグニン処理によって、木質バイオマスに含まれるリグニンが酸化・分解されて溶媒中に溶解し、多糖類を主成分とする固形分が分散又は懸濁した液状物が得られる。この固形分は、厚さ500μm以下で、厚さ方向に垂直な面に描きうる最大円の直径と、厚さとの比として表されるアスペクト比が10以上である多糖類ナノシートを含む。本開示の多糖類ナノシートをスラリーとして使用する用途であれば、この液状物をそのまま使用することができる。この場合、液状物中の酸化剤及び酸触媒を必要に応じて失活してもよく、用途に応じて溶媒を置換してもよい。また、この液状物には、多糖類ナノシートの他にリグニン等も含まれる。この液状物を使用することによりリグニン等を有効活用することもできる。
本開示の製造方法が、脱リグニン処理後に固液分離して、この液状物から固形分を分離することをさらに含んでもよい。液状物の固液分離の方法としては特に限定されず、濾過、遠心分離等既知の分離方法を採用することができる。例えば、脱リグニン処理して得られる液状物を濾過することにより、多糖類ナノシートを含むろ物を得てもよい。必要に応じて、このろ物を乾燥してもよい。また、液状物を濾過して得られるろ物を洗浄後、乾燥してもよい。脱リグニン処理において前述した溶媒を、洗浄溶媒として使用することができる。また、液状物を遠心分離する場合、本開示のナノシートは沈降しにくいため、上澄み液中に分散する場合がある。例えば、遠心分離後の上澄み液を凍結乾燥することにより、比較的大きな繊維状物又はシート状物が除去された高品質の多糖類ナノシートが得られうる。換言すれば、本開示の製造方法は、液状物を遠心分離して得られる上澄み液から、多糖類ナノシートを分離することをさらに含んでもよい。
脱リグニン処理して得られる液状物が、木質バイオマスを構成する細胞あるいは繊維などの組織構造に由来して、多糖類を主成分とする繊維状物質が複数結合してなるミクロンオーダーの幅又は径を有する繊維束又は繊維状物質からなる層状物を含む場合がある。この製造方法では、必要に応じて、この繊維束又は繊維状物質からなる層状物から、繊維状物質からなるナノメーターオーダーの層を剥離することにより、本開示の多糖類ナノシートを得てもよい。
換言すれば、本開示の製造方法は、この繊維束又は繊維状物質からなる層状物からナノシートが剥離されるように、脱リグニン処理をすればよい。この繊維束又は繊維状物質からなる層状物からナノシートを剥離する処理が、微細化を伴う撹拌処理であってもよい。この製造方法では、脱リグニン処理中にこの撹拌処理をおこなってもよく、脱リグニン処理後の液状物を撹拌処理してもよく、脱リグニン処理中及び脱リグニン処理後に撹拌処理をおこなってもよい。この製造方法において、繊維束又は繊維状物質からなる層状物から多糖類ナノシートが剥離されている状態が、図4に示されている。なお、図示される通り、この繊維束又は繊維状物質からなる層状物からナノシートを層状に剥離する処理は、繊維束を繊維状に細分化する所謂解繊処理とは異なっている。本開示の撹拌による剥離処理は、脱リグニン処理後、必要に応じて固液分離(必要に応じて洗浄)して得たろ物を、水又は有機溶媒に再分散させた後おこなってもよい。
繊維束からナノシートを剥離できる限り、その方法は特に限定されない。例えば、微細化を伴う撹拌処理のための装置としては、一般に分散機又は粉砕機として市販されているものを適宜使用することができる。ホモジナイザー、コロイドミル、カッターミル等既知の装置を利用することができる。具体例として、例えば、ヒストコロン(マイクロテック・ニチオン社製のホモジナイザー)、ABS-V(大阪ケミカル社製のアブソルートミル)等が挙げられる。ホモジナイザーが好ましい。
ホモジナイザー等を用いた処理後の液状物からナノシートを分離する方法として、遠心分離が挙げられる。微細化を伴う撹拌処理により剥離されたナノシートは沈降しにくいため、上澄み液中に分散しやすい。例えば、遠心分離後の上澄み液を凍結乾燥することにより、比較的大きな繊維状物又はシート状物が除去された高品質の多糖類ナノシートが得られうる。換言すれば、本開示の製造方法は、微細化を伴う撹拌処理後の液状物を遠心分離して得られる上澄み液から、ナノシートを分離することをさらに含んでもよい。
脱リグニン処理の反応性向上の観点から、木質バイオマスを粉砕して得られる木粉を原料として使用してもよい。木粉に含まれる粒子の粒子径は0.10mm~3.0mmであってよく、0.15mm~2.0mmであってよく、0.20mm~1.0mmであってよく、0.25mm~0.75mmであってよく、0.30mm~0.55mmであってよく、0.35mm~0.50mmであってよい。粉末の粒子径は、JIS標準篩を用いた篩分級法により測定される。
木質バイオマスを粉砕する方法として、例えば、圧縮粉砕、衝撃粉砕、せん断粉砕等が用いられる。乾式粉砕であってもよく、湿式粉砕であってもよい。乾式粉砕が好適に用いられる。
木質バイオマスの粉砕に使用する粉砕機としては、例えば、ジョークラッシャー、ジャイレトリクラッシャー、クラッシングロール、ハンマーミル、ローラーミル、カッターミル、ハンマークラッシャー、ウィレーミル等が挙げられる。
[用途]
低環境負荷の木質バイオマスを原料として得られる本開示の多糖類ナノシートは、高バイオマス濃度の材料である。この多糖類ナノシートは、植物組織に由来する繊維の配向構造を維持しているため、機械的特性に優れる。また、二次元ナノ構造体であるこの多糖類ナノシートは高異方性であり、高バリア性を有していることから、高機能性シート又はフィルムとして使用することができる。この多糖類ナノシートは、植物組織に由来して元来ナノシート状であるため、これを人工的に積層させることにより、極めて薄いシートを作製することができる。また、凝集しにくい特性を有することから、強度向上、ガスバリア性向上等の目的で、添加剤として樹脂又は無機材料に配合することができる。また、主として樹脂、溶剤、添加剤及び顔料を配合して構成される塗料等に、本開示の多糖類ナノシートを配合することもできる。これらの塗料に配合した場合、二次元ナノ構造体である多糖類ナノシートにより塗料の性能(光沢度、平滑度等)を向上させることができる。さらに、本開示の多糖類ナノシートは、塗り壁材の添加剤としても使用することができる。
低環境負荷の木質バイオマスを原料として得られる本開示の多糖類ナノシートは、高バイオマス濃度の材料である。この多糖類ナノシートは、植物組織に由来する繊維の配向構造を維持しているため、機械的特性に優れる。また、二次元ナノ構造体であるこの多糖類ナノシートは高異方性であり、高バリア性を有していることから、高機能性シート又はフィルムとして使用することができる。この多糖類ナノシートは、植物組織に由来して元来ナノシート状であるため、これを人工的に積層させることにより、極めて薄いシートを作製することができる。また、凝集しにくい特性を有することから、強度向上、ガスバリア性向上等の目的で、添加剤として樹脂又は無機材料に配合することができる。また、主として樹脂、溶剤、添加剤及び顔料を配合して構成される塗料等に、本開示の多糖類ナノシートを配合することもできる。これらの塗料に配合した場合、二次元ナノ構造体である多糖類ナノシートにより塗料の性能(光沢度、平滑度等)を向上させることができる。さらに、本開示の多糖類ナノシートは、塗り壁材の添加剤としても使用することができる。
[組成物及び成形品]
本開示の多糖類ナノシートを含む組成物及び成形品は、周知の技術で製造することができる。例えば、本開示の多糖類ナノシートを含む懸濁液と、所望の高分子を溶解した溶液とを混合して流延溶液を調製し、これを流延することによりシート又はフィルムを製造してもよい。また、この流延溶液から溶媒を留去又は揮散して得られる固形分を、多糖類ナノシート及び高分子を含む組成物とし、この組成物を粉砕して押出機で押し出すことにより製膜してもよい。押出製膜時に、必要に応じて、さらに他の高分子を配合してもよい。
本開示の多糖類ナノシートを含む組成物及び成形品は、周知の技術で製造することができる。例えば、本開示の多糖類ナノシートを含む懸濁液と、所望の高分子を溶解した溶液とを混合して流延溶液を調製し、これを流延することによりシート又はフィルムを製造してもよい。また、この流延溶液から溶媒を留去又は揮散して得られる固形分を、多糖類ナノシート及び高分子を含む組成物とし、この組成物を粉砕して押出機で押し出すことにより製膜してもよい。押出製膜時に、必要に応じて、さらに他の高分子を配合してもよい。
また、本開示の多糖類ナノシートの製造過程で得られる、多糖類ナノシートを含む遠心分離後の上澄み液を、エチルアルコール等の溶媒に分散させた後、所望の樹脂ペレット上に散布して乾燥させることにより、多糖類ナノシートを含む樹脂ペレットを作製し、この樹脂ペレットを押出機で押し出すことにより製膜してもよい。流延又は押出製膜により得られたシート又はフィルムを、さらに圧延して延伸することもできる。圧延は冷間圧延でもよく、樹脂(高分子)のガラス転移温度以上での圧延であってもよい。
また、本開示の多糖類ナノシートを、例えば熱可塑性樹脂と混練して押出成形することにより、多糖類ナノシートを含む樹脂ペレットを得てもよい。このような樹脂ペレットは、その溶融粘度によっては、射出成型することも可能である。射出成型する場合、本開示の多糖類ナノシートと配合する樹脂のメルトフローレートは10以上であってよく、20以上であってよい。
前述した通り、本開示の多糖類ナノシートは、その表面に複数の繊維状物質が面方向に配向された領域を有している。しかし、本開示の組成物及び成形物の内部では、多糖類ナノシート自体は、一次元構造体であるナノセルロース(セルロースナノファイバー)と異なり、必ずしも特定の方向に配向するわけではない。すなわち、多糖類ナノシートの表面又は内部では、複数の繊維状物質が配向した構造が形成されているが、成形体中の多糖類ナノシートのそれぞれが配向する向きが同じであるとは限らない。例えば、一つの多糖類ナノシートの配向方向と、その近傍にある他の多糖類ナノシートの配向方向が異なる場合も、本開示の組成物又は成形品に含まれる。
多糖類ナノシートを含む成形品、例えばフィルム等を一軸方向に延伸することもできる。延伸することにより、多糖類ナノシート自体がフィルムの面方向に配列する。好ましくは、多糖類ナノシートの面方向が、フィルムの面方向と略平行に配列する。本開示の多糖類ナノシートは、その表面又は内部に、面方向に配向した繊維構造を有する。この多糖類ナノシート自体が配向したフィルムでは、二軸方向の強度が向上する。これは、一次元構造体であるセルロースナノファイバーでは得られない効果である。即ち、本開示の多糖類ナノシートを含む成形品に、延伸等の応力を作用させると、多糖類ナノシートの面方向が応力の作用方向に配列する。高い強度が得られるとの観点から、多糖類ナノシートの面方向が成形品の面方向と略平行になるように配向した成形品が好ましい。成形品中で多糖類ナノシートを配向させる手段としては延伸、圧延等の手段を用いることができる。
本開示の多糖類ナノシートは、その形状及び配向構造によって、高強度、高バリア性等優れた特性が得られうる。本開示の組成物及び成形品では、植物組織に由来する繊維の配向構造を有す多糖類ナノシートを含むことにより、高強度、高バリア性等優れた特性が発現される。
組成物及び成形品の特性向上の観点から、多糖類ナノシートにおける繊維状物質の配向度は高い方が好ましく、面内配向度は1.3以上であってよく、1.4以上であってよく、1.5以上であってよく、1.6以上であってよい。配向度の上限は特に限定されないが、例えば2.5以下であってよい。
例えば、フィルム等の薄い成形物の場合、多糖類ナノシート自体が成形品の表面に平行な向に配向する。前述した通り、この多糖類ナノシートの表面又は内部には、複数の繊維状物質が面方向に配向した構造が形成されている。そのため、厚みの薄い成形品であっても、多糖類ナノシートが有する繊維配向構造により、曲げ応力に対する強度が向上する。さらに、本開示の多糖類ナノシートは、植物由来の繊維構造に加えて、セルロースI型結晶構造を維持している。そのため、この多糖類ナノシートを含む成形品では、種々の分子の透過性を低減する。フィルム等の薄い成形品であれば、厚み方向における分子の透過度を低減して、高バリア性を有することもできる。
[誘導体化]
本開示の多糖類ナノシートは、必要に応じてその構造に由来する機能を阻害しない範囲で、表面等を誘導体化して使用することもできる。この誘導体化により、さらに高機能を付与することができる。特には、成形品に用いられる高分子(熱可塑性高分子)は疎水性のものが多いので、本開示の多糖類ナノシートの表面に疎水性を有する官能基を導入することは有効である。すなわち、疎水性官能基導入のような表面処理によって、成形品又は高分子組成物中での多糖類ナノシートの分散性が向上する。
本開示の多糖類ナノシートは、必要に応じてその構造に由来する機能を阻害しない範囲で、表面等を誘導体化して使用することもできる。この誘導体化により、さらに高機能を付与することができる。特には、成形品に用いられる高分子(熱可塑性高分子)は疎水性のものが多いので、本開示の多糖類ナノシートの表面に疎水性を有する官能基を導入することは有効である。すなわち、疎水性官能基導入のような表面処理によって、成形品又は高分子組成物中での多糖類ナノシートの分散性が向上する。
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例によりその技術的範囲が限定されるものではない。以下、特に言及しない限り、実験は全て室内(温度25℃±5℃、湿度50%RH)でおこなったものである。
[実施例1]
攪拌機を設置したナスフラスコ(容量200ml)に、ウィレーミルを用いて粉砕した1mmパスのスギ心材木粉10g、触媒としてドデシルベンゼンスルホン酸(東京化成工業株式会社製)2.6mmol、30%過酸化水素水(富士フイルム和光純薬株式会社製)10ml、溶媒としてトルエン(ナカライテスク株式会社製)50mlを加えて、60℃で24時間撹拌することにより反応をおこなった。放冷後、ナスフラスコにメタノールを加えて振盪した後、孔径5μmのろ紙を用いてろ過した。ろ紙上のろ物を、水、0.15%炭酸水素ナトリウム水溶液、水で順次洗浄した。
攪拌機を設置したナスフラスコ(容量200ml)に、ウィレーミルを用いて粉砕した1mmパスのスギ心材木粉10g、触媒としてドデシルベンゼンスルホン酸(東京化成工業株式会社製)2.6mmol、30%過酸化水素水(富士フイルム和光純薬株式会社製)10ml、溶媒としてトルエン(ナカライテスク株式会社製)50mlを加えて、60℃で24時間撹拌することにより反応をおこなった。放冷後、ナスフラスコにメタノールを加えて振盪した後、孔径5μmのろ紙を用いてろ過した。ろ紙上のろ物を、水、0.15%炭酸水素ナトリウム水溶液、水で順次洗浄した。
得られた水湿潤状態のろ物の一部を採取し、凍結乾燥機を用いて18時間乾燥し、乾燥前後の重量変化に基づいてろ物の固形分濃度を算出した。この固形分濃度から計算して、固形分0.3gを含む量のろ物を採取して水を加えることにより100gの懸濁液を得た。この懸濁液を、株式会社マイクロテック・ニチオン製のヒスコトロンNS-50を用いて、目盛り45で60分間処理してすることにより、実施例1の多糖類ナノシートを得た。この処理中の懸濁液に含まれるろ物を走査電子顕微鏡(SEM)観察して得られた画像が、図4に示されている。図4から、この微細化を伴う撹拌処理によって、繊維束からナノシートが剥離していることを確認した。
実施例1の走査電子顕微鏡(SEM)観察により得られた微細化処理後の画像が図5に示されている。図5から、実施例1がシート状物であることを確認した。また、微細化処理前の凍結乾燥試料のSEM像が、図11に示されている。この実施例1では、微細化処理前にはシート状物が少なく、微細化処理によりシート状物(ナノシート)が増加したことがわかる。
図6Aは、実施例1の原子間力顕微鏡(AFM)観察により得られた画像である。図6A中のA-Dはシート上の地点を示す符号であり、符号Aは、シートが存在しない基板(マイカ)上の地点である。図6A中の地点A-D間の高さプロファイルが図6Bに示されている。図6Aから、実施例1のシート状物が、微細な繊維状物質が高度に配向した構造を有していることを確認した。図6Bから、実施例1のシート状物がナノレベルの厚さを有していることを確認した。
前述した方法で測定した実施例1の多糖類含量、構成糖組成、リグニン含量、分子量及び分子量分布が、下表1に示されている。
[実施例2]
実施例1と同様にして得たスラリーを、小型遠心機(LMS、MCF-1350)を用いて、遠心力(rcf)600(×g)で遠心分離した後、上澄み液を採取した。この上澄み液を凍結乾燥することにより、実施例2の多糖類ナノシートを得た。実施例2の走査電子顕微鏡(SEM)観察により得られた画像が図7に示されている。図7から、実施例2が、実質的に大きな繊維状物を含まない、略均一なナノシートであることを確認した。
実施例1と同様にして得たスラリーを、小型遠心機(LMS、MCF-1350)を用いて、遠心力(rcf)600(×g)で遠心分離した後、上澄み液を採取した。この上澄み液を凍結乾燥することにより、実施例2の多糖類ナノシートを得た。実施例2の走査電子顕微鏡(SEM)観察により得られた画像が図7に示されている。図7から、実施例2が、実質的に大きな繊維状物を含まない、略均一なナノシートであることを確認した。
[比較例1]
ドデシルベンゼンスルホン酸に替えて、1H-Imidazolium, 1-methyl-3-(3-sulfopropyl)-, 4-methylbenzenesulfonate(Angene社製)1.00gを触媒として使用した以外は、実施例1と同じ方法で処理したものを比較例1として得た。比較例1の走査電子顕微鏡(SEM)観察により得られた画像が図8に示されている。図8から、比較例1が、微細な繊維状物を多く含み、実施例1及び2のようなシート状物ではなく、配向構造も有していないことを確認した。
[参考例]
参考例として、市販のミクロフィブリル化セルロース(MFC、ダイセル社製)を準備した。
ドデシルベンゼンスルホン酸に替えて、1H-Imidazolium, 1-methyl-3-(3-sulfopropyl)-, 4-methylbenzenesulfonate(Angene社製)1.00gを触媒として使用した以外は、実施例1と同じ方法で処理したものを比較例1として得た。比較例1の走査電子顕微鏡(SEM)観察により得られた画像が図8に示されている。図8から、比較例1が、微細な繊維状物を多く含み、実施例1及び2のようなシート状物ではなく、配向構造も有していないことを確認した。
[参考例]
参考例として、市販のミクロフィブリル化セルロース(MFC、ダイセル社製)を準備した。
[配向度、厚さ及びアスペクト比]
実施例1及び2、比較例1並びに参考例から採取したサンプルを、それぞれ、水に添加して約0.01質量%の分散液を作成した。この分散液をマイカ板上に滴下した自然乾燥させた後、白色干渉計搭載レーザー顕微鏡(株式会社キーエンス社製)で観察した。得られた画像を、前述した方法で解析することにより、配向度、厚さ及びアスペクト比を求めた。得られた結果が下表2に示されている。実施例2、比較例1及び参考例の配向度及び厚さは、2~4枚のシートについて得られた数値範囲として記載されている。
実施例1及び2、比較例1並びに参考例から採取したサンプルを、それぞれ、水に添加して約0.01質量%の分散液を作成した。この分散液をマイカ板上に滴下した自然乾燥させた後、白色干渉計搭載レーザー顕微鏡(株式会社キーエンス社製)で観察した。得られた画像を、前述した方法で解析することにより、配向度、厚さ及びアスペクト比を求めた。得られた結果が下表2に示されている。実施例2、比較例1及び参考例の配向度及び厚さは、2~4枚のシートについて得られた数値範囲として記載されている。
[結晶構造]
実施例1において、ヒスコトロンで微細化処理する前の凍結乾燥試料及び微細化処理後の凍結乾燥試料について、島津製作所製MAXima_X XRD-7000を用い、Cuα線、40kV、5-40■の範囲でX線回折を測定した。測定結果から、微細化処理前と微細化処理後の回折パターンに大差はなく、共にセルロースI型結晶に特徴的な2θ=22.5°付近の回折ピーク、及び、ピーク分離により2θ=16.7°付近及び14.8°付近に回折ピークが認められることを確認した。また、Segal法により結晶化度を求めたところ、微細化処理前79%、微細化処理後77%であった。この結果から、微細化処理の前後で同程度の結晶化度であり、微細化処理後の多糖類ナノシートにおいてもセルロースI型結晶構造が保持されていることが示唆された。
実施例1において、ヒスコトロンで微細化処理する前の凍結乾燥試料及び微細化処理後の凍結乾燥試料について、島津製作所製MAXima_X XRD-7000を用い、Cuα線、40kV、5-40■の範囲でX線回折を測定した。測定結果から、微細化処理前と微細化処理後の回折パターンに大差はなく、共にセルロースI型結晶に特徴的な2θ=22.5°付近の回折ピーク、及び、ピーク分離により2θ=16.7°付近及び14.8°付近に回折ピークが認められることを確認した。また、Segal法により結晶化度を求めたところ、微細化処理前79%、微細化処理後77%であった。この結果から、微細化処理の前後で同程度の結晶化度であり、微細化処理後の多糖類ナノシートにおいてもセルロースI型結晶構造が保持されていることが示唆された。
[実施例3]
ドデシルベンゼンスルホン酸に替えて、p-トルエンスルホン酸一水和物(富士フイルム和光純薬株式会社製)0.50gを触媒として使用し、ヒスコトロンNS-50を用いた処理時間を10分間とした以外は、実施例1と同様にして、実施例3の多糖類ナノシートを得た。実施例3の走査電子顕微鏡(SEM)観察により得られた画像が、図9に示されている。図9から、実施例3がシート状物であることを確認した。
ドデシルベンゼンスルホン酸に替えて、p-トルエンスルホン酸一水和物(富士フイルム和光純薬株式会社製)0.50gを触媒として使用し、ヒスコトロンNS-50を用いた処理時間を10分間とした以外は、実施例1と同様にして、実施例3の多糖類ナノシートを得た。実施例3の走査電子顕微鏡(SEM)観察により得られた画像が、図9に示されている。図9から、実施例3がシート状物であることを確認した。
[比較例2]
ヒスコトロンNS-50を用いた処理時間を60分間とした以外は、実施例3と同じ方法で処理したものを比較例2として得た。この比較例2の走査電子顕微鏡(SEM)観察から、幅がナノメートルオーダーの微細繊維であり、シート状物ではないことを確認した。この比較例2との対比から、ヒストコロンNS-50を用いて10分間処理した実施例3においても、実施例1と同様に、木材構造に由来した繊維状物質が面方向に配向したナノシートが得られていると推定される。
ヒスコトロンNS-50を用いた処理時間を60分間とした以外は、実施例3と同じ方法で処理したものを比較例2として得た。この比較例2の走査電子顕微鏡(SEM)観察から、幅がナノメートルオーダーの微細繊維であり、シート状物ではないことを確認した。この比較例2との対比から、ヒストコロンNS-50を用いて10分間処理した実施例3においても、実施例1と同様に、木材構造に由来した繊維状物質が面方向に配向したナノシートが得られていると推定される。
[実施例4]
実施例1において、ヒストコロンNM-50を用いた処理後の多糖類ナノシートを含む懸濁液を、水で2倍に希釈した。続いて、得られた稀釈液を、孔径0.45μmのメンブレンフィルターを用いて吸引ろ過した。フィルター上のろ物を採取して、5MPaでプレスした後、105℃で10分間乾燥することにより、実施例4のシート(厚さ27μm)を得た。得られたシートの外観写真が図10に示されている。図10に示す通り、このシートは半透明であった。また、実施例4のシートが、市販の薬包紙等の上質紙よりも高い引張強度を有することを確認した。
実施例1において、ヒストコロンNM-50を用いた処理後の多糖類ナノシートを含む懸濁液を、水で2倍に希釈した。続いて、得られた稀釈液を、孔径0.45μmのメンブレンフィルターを用いて吸引ろ過した。フィルター上のろ物を採取して、5MPaでプレスした後、105℃で10分間乾燥することにより、実施例4のシート(厚さ27μm)を得た。得られたシートの外観写真が図10に示されている。図10に示す通り、このシートは半透明であった。また、実施例4のシートが、市販の薬包紙等の上質紙よりも高い引張強度を有することを確認した。
[実施例5]
実施例2の多糖類ナノシート1質量部を、100質量部のアセトンに分散する。分散には、マグネチックスターラーを使用する。得られた分散液に、9質量部の酢酸セルロース(株式会社ダイセル製の商品名「L-30」;酢化度55%、6%粘度70)を徐々に添加して、ほぼ透明な流延溶液を得る。この流延溶液をテフロンシート上に流延した後、テフロンシートごと80℃のオーブンに静置して乾燥させることにより、多糖類ナノシート及び酢酸セルロースを含む組成物からなる実施例5のフィルム(厚さ約80μm)を得る。
実施例2の多糖類ナノシート1質量部を、100質量部のアセトンに分散する。分散には、マグネチックスターラーを使用する。得られた分散液に、9質量部の酢酸セルロース(株式会社ダイセル製の商品名「L-30」;酢化度55%、6%粘度70)を徐々に添加して、ほぼ透明な流延溶液を得る。この流延溶液をテフロンシート上に流延した後、テフロンシートごと80℃のオーブンに静置して乾燥させることにより、多糖類ナノシート及び酢酸セルロースを含む組成物からなる実施例5のフィルム(厚さ約80μm)を得る。
[実施例6]
金属ロールとゴムロールからなる幅300mmからなるニップロールを用いて、実施例5のフィルムを、20kgf/cm2のニップ圧で圧延することにより、実施例6のフィルム(厚さ約40μm)を得る。
金属ロールとゴムロールからなる幅300mmからなるニップロールを用いて、実施例5のフィルムを、20kgf/cm2のニップ圧で圧延することにより、実施例6のフィルム(厚さ約40μm)を得る。
表1及び2に示されるように、実施例1-3によれば、多糖類を主成分として、繊維状物質が、従来になく高度に配向されたナノシートが得られた。また、実施例4-6に示されるように、この多糖類ナノシートを含む成形品が得られることを確認した。この多糖類ナノシート及び多糖類ナノシートを含む成形品では、多糖類を材質とすることによる生分解性、二次元ナノ構造体という高い異方性及びバリア性に加えて、原料である植物組織に由来する配向構造に基づく機械的特性等が期待される。
本開示に係る多糖類ナノシートは、多糖類を含む種々のバイオマスを原料として得ることができる。
Claims (18)
- 主成分が多糖類であり、
複数の繊維状物質を含んで形成されており、
その表面の無作為に選択された領域において、上記複数の繊維状物質が面方向に配向されている、多糖類ナノシート。 - 上記繊維状物質の配向度が1.3以上である領域を有しており、この配向度が下記方法により測定される、請求項1に記載の多糖類ナノシート。
配向度の測定方法:多糖類ナノシート表面の顕微鏡画像の1μm角の領域を二値化した後フーリエ変換することによりパワースペクトル画像を取得する。このパワースペクトル画像から最小二乗法により近似楕円を求める。この近似楕円の長軸aと短軸bとの比a/bを算出して配向度とする。 - 上記繊維状物質の配向度が1.3以上である領域を有しており、この配向度が下記方法により測定される、請求項1に記載の多糖類ナノシート。
配向度の測定方法:多糖類ナノシート表面の顕微鏡画像の5μm角の領域を二値化した後フーリエ変換することによりパワースペクトル画像を取得する。このパワースペクトル画像から最小二乗法により近似楕円を求める。この近似楕円の長軸aと短軸bとの比a/bを算出して配向度とする。 - 上記繊維状物質の配向度が1.3以上である領域を有しており、この配向度が下記方法により測定される、請求項1に記載の多糖類ナノシート。
配向度の測定方法:多糖類ナノシート表面の顕微鏡画像の23.7μm角の領域を二値化した後フーリエ変換することによりパワースペクトル画像を取得する。このパワースペクトル画像から最小二乗法により近似楕円を求める。この近似楕円の長軸aと短軸bとの比a/bを算出して配向度とする。 - その表面の無作為に選択された複数の領域において、上記繊維状物質の配向度を下記測定方法で測定して得られる平均値が1.3以上である、請求項1に記載の多糖類ナノシート。
配向度の測定方法:多糖類ナノシート表面の顕微鏡画像の1μm角の領域を二値化した後フーリエ変換することによりパワースペクトル画像を取得する。このパワースペクトル画像から最小二乗法により近似楕円を求める。この近似楕円の長軸aと短軸bとの比a/bを算出して配向度とする。 - その表面の無作為に選択された複数の領域において、上記繊維状物質の配向度を下記測定方法で測定するとき、測定した全領域数の40%以上が、1.3以上の配向度を有している、請求項1に記載の多糖類ナノシート。
配向度の測定方法:多糖類ナノシート表面の顕微鏡画像の1μm角の領域を二値化した後フーリエ変換することによりパワースペクトル画像を取得する。このパワースペクトル画像から最小二乗法により近似楕円を求める。この近似楕円の長軸aと短軸bとの比a/bを算出して配向度とする。 - その厚さが500nm以下であり、
厚さ方向に垂直な面に投射して得られる最大の内接円の直径と、上記厚さとの比として表されるアスペクト比が10以上である、請求項1から6のいずれかに記載の多糖類ナノシート。 - 上記多糖類が木質バイオマスに由来する多糖類である、請求項1から7のいずれかに記載の多糖類ナノシート。
- 上記多糖類の重量平均分子量が、150,000以上1,500,000以下である、請求項1から8のいずれかに記載の多糖類ナノシート。
- 上記多糖類がセルロースを含む、請求項1から9のいずれかに記載の多糖類ナノシート。
- 請求項1から10のいずれかに記載の多糖類ナノシートを含む、組成物。
- 請求項1から10のいずれかに記載の多糖類ナノシートを含む、成形品。
- 原料である木質バイオマスを、溶媒中、酸化剤及び酸触媒で脱リグニン処理して、厚さ500nm以下で、厚さ方向に垂直な面に投射して得られる最大の内接円の直径と、上記厚さとの比として表されるアスペクト比が10以上である多糖類ナノシートを含む液状物を得ること
を含む、多糖類ナノシートの製造方法。 - 上記木質バイオマスが、二次壁を有する木質バイオマスである、請求項13に記載の多糖類ナノシートの製造方法。
- 上記液状物から固形分を分離することをさらに含む、請求項13又は14に記載の多糖類ナノシートの製造方法。
- 上記脱リグニン処理中に撹拌処理することをさらに含む、請求項13から15のいずれかに記載の多糖類ナノシートの製造方法。
- 上記脱リグニン処理後に撹拌処理することをさらに含む、請求項13から16のいずれかに記載の多糖類ナノシートの製造方法。
- 上記液状物を遠心分離することにより、固形分を分離して得られる上澄み液から、上記多糖類ナノシートを分離することをさらに含む、請求項15から17のいずれかに記載の多糖類ナノシートの製造方法。
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WO2019138588A1 (ja) * | 2018-01-10 | 2019-07-18 | 国立大学法人大分大学 | セルロースナノファイバー及びそれからなるシート状材料、並びにそれらの製造方法 |
CN110041438A (zh) * | 2019-04-15 | 2019-07-23 | 中国科学院理化技术研究所 | 一种疏水性纤维素纳米片及其制备方法 |
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2022
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