WO2015029479A1

WO2015029479A1 - 流体遷移分析装置、流体遷移分析方法、および、プログラム

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Publication number: WO2015029479A1
Application number: PCT/JP2014/056811
Authority: WO
Inventors: 貴之坂上; 知郎横山; 陽一澤村; 卓石原
Original assignee: 独立行政法人科学技術振興機構
Priority date: 2013-08-27
Filing date: 2014-03-06
Publication date: 2015-03-05

Abstract

物体が受ける力と物体周りの流れの実験結果または数値計算結果から、ある時点における、物体周りの流れを流線解析して流線図を取得し、流線図に基づいて、一つの穴を有する単連結外部領域において位相幾何学的に採り得る２種類の流れパターンを規定する語のうちのいずれか一語とともに、流れパターンに一つの穴を加える場合に位相幾何学的に採り得る５種類の操作を規定した語のうちのいずれか一語を、追加された穴の数だけ付与することにより、物体周りの流れの流れパターンを示す語表現を形成させ、複数の時点における流れパターンを示す語表現と当該時点における物体が受ける力とを対応付ける。

Description

流体遷移分析装置、流体遷移分析方法、および、プログラム

　本発明は、流体遷移分析装置、流体遷移分析方法、および、プログラムに関する。

　従来、飛翔物体のモデルとして一様流中におかれた一枚板を仮定し、板周辺の流れとともに、それによって得られる板の揚力と抗力の計算を行うことで、飛翔物体の構造や制御方法が検討されている。

　従来の飛翔物体の技術では、境界からの渦生成を抑えることで、安定的に揚力を確保し、飛翔を続けられるように、模型による風洞実験や、流体方程式による数値計算等が行われており、このような定量的なデータに基づいて、最適解が探索されている。その一方で、境界から生成される渦をうまく制御することで、できるかぎり渦の剥離を抑えるための機構の研究開発も行われている。

　ここで、非特許文献１では、回転しながら落下するカエデ等の翼果まわりの流れにおける翼形状と、前縁渦（Ｌｅａｄｉｎｇ−Ｅｄｇｅ　Ｖｏｒｔｉｃｅｓ）の生成・維持機構との関係について、数値計算に基づく分析結果が開示されている。

澤村　陽一，石原　卓，"Ｖｏｌｕｍｅ　Ｐｅｎａｌｉｚａｔｉｏｎ　法による翼果まわりの流れの数値解析"，京都大学数理解析研究所講究録，Ｎｏ．１８０８，ｐｐ．１０１−１２０，２０１２年

　しかしながら、従来の飛翔物体の技術では、風洞実験や数値計算によって、飛翔物体の揚抗比等の時間変動について定量的な解析がなされているものの、流れパターンのような定性的な要素との対応関係の遷移実態については調査分析がなされていないという問題点があった。

　本発明は、上記問題点に鑑みてなされたもので、飛翔物体などのように一様流中におかれた物体まわりの流れパターンの遷移と物体が受ける力の変動との関係についての知見を得ることができる、流体遷移分析装置、流体遷移分析方法、および、プログラムを提供することを目的とする。

　このような目的を達成するため、本発明の流体遷移分析装置は、記憶部と制御部とを備えた流体遷移分析装置において、上記記憶部は、一様流中におかれた物体について、ある期間における、物体が受ける力と物体周りの流れの実験結果または数値計算結果を記憶し、上記制御部は、上記期間中のある時点における、上記物体周りの流れを流線解析して流線図を取得する流線解析手段と、上記流線解析手段により取得された上記流線図に基づいて、一つの穴を有する単連結外部領域において位相幾何学的に採り得る２種類の流れパターンを規定する語のうちのいずれか一語とともに、上記流れパターンに一つの穴を加える場合に位相幾何学的に採り得る５種類の操作を規定した語のうちのいずれか一語を、追加された穴の数だけ付与することにより、上記物体周りの流れの流れパターンを示す語表現を形成させる語表現形成手段と、上記語表現形成手段により形成された、ある時点における上記流れパターンを示す上記語表現と当該時点における上記物体が受ける力とを対応付けて上記記憶部に格納して、分析対象とする複数の時点において、上記語表現の遷移と上記物体が受ける力の変動との対応関係情報を取得する対応関係取得手段と、を備えたことを特徴とする。

　また、本発明の流体遷移分析装置は、上記記載の流体遷移分析装置において、上記物体が受ける力は、上記物体の揚力と抗力であることを特徴とする。

　また、本発明の流体遷移分析装置は、上記記載の流体遷移分析装置において、上記物体が受ける力の比は、上記物体の揚抗比であることを特徴とする。

　また、本発明の流体遷移分析装置は、上記記載の流体遷移分析装置において、上記対応関係情報は、上記語表現の遷移と上記物体が受ける力の変動との対応関係を示す表であることを特徴とする。

　また、本発明の流体遷移分析装置は、上記記載の流体遷移分析装置において、上記２種類の流れパターンは、１）上記吸い込み湧き出し対をもち、二つのｓｓ−∂−ｓａｄｄｌｅ　ｃｏｎｎｅｃｔｉｏｎをもつパターンＩ、２）上記吸い込み湧き出し対をもち、一つのｓａｄｄｌｅ　ｐｏｉｎｔ、それを結ぶｈｏｍｏｃｌｉｎｉｃ　ｓａｄｄｌｅ　ｃｏｎｎｅｃｔｉｏｎと二つのｓｓ−ｓａｄｄｌｅ　ｃｏｎｎｅｃｔｉｏｎをもつパターンＩＩであることを特徴とする。

　また、本発明の流体遷移分析装置は、上記記載の流体遷移分析装置において、上記位相幾何学的に採り得る５種類の操作は、１）一本のｓｓ−ｏｒｂｉｔを、一つのｓａｄｄｌｅ　ｐｏｉｎｔ、それを結び内部に穴をもつｈｏｍｏｃｌｉｎｉｃ　ｓａｄｄｌｅ　ｃｏｎｎｅｃｔｉｏｎと二つのｓｓ−ｓａｄｄｌｅ　ｃｏｎｎｅｃｔｉｏｎに置き換えるＡ_０操作、２）一本のｓｓ−ｏｒｂｉｔを、二つのｓｓ−∂−ｓａｄｄｌｅ　ｃｏｎｎｅｃｔｉｏｎと新たに追加した境界上の二つの∂−ｓａｄｄｌｅに置き換えるＡ_２操作、３）一本のｃｌｏｓｅｄ　ｏｒｂｉｔを、一つの穴とｓａｄｄｌｅ　ｐｏｉｎｔを追加して８の字をした２本のｈｏｍｏｃｌｉｎｉｃ　ｓａｄｄｌｅ　ｃｏｎｎｅｃｔｉｏｎに置き換えるＢ_０操作、４）一本のｃｌｏｓｅｄ　ｏｒｂｉｔを、新たに追加した穴の境界上に二つ∂−ｓａｄｄｌｅをつけて一本の∂−ｓａｄｄｌｅ　ｃｏｎｎｅｃｔｉｏｎでつなぐような軌道に置き換えるＢ_２操作、および、５）既に２ｋ個（ｋ＞０）の∂−ｓａｄｄｌｅをもつ境界に、新たに二つの∂−ｓａｄｄｌｅを付け加えて一本の∂−ｓａｄｄｌｅ　ｃｏｎｎｅｃｔｉｏｎでつなぎ内部に新たに付け加えた穴を置くＣ操作、であることを特徴とする。

　また、本発明の流体遷移分析装置は、上記記載の流体遷移分析装置において、上記語表現形成手段は、上記５種類の操作を規定した語を付与する場合に、１）一本のｓｓ−ｏｒｂｉｔが存在することを条件として、上記Ａ_０操作または上記Ａ_２操作を規定した語を付与し、２）一本のｃｌｏｓｅｄ　ｏｒｂｉｔが存在することを条件として、上記Ｂ_０操作または上記Ｂ_２操作を規定した語を付与し、３）∂−ｓａｄｄｌｅｓを持つ境界が存在することを条件として、上記Ｃ操作を規定した語を付与することを特徴とする。

　また、本発明の流体遷移分析方法は、記憶部と制御部とを備えたコンピュータにおいて実行される流体遷移分析方法であって、上記記憶部は、一様流中におかれた物体について、ある期間における、物体が受ける力と物体周りの流れの実験結果または数値計算結果を記憶し、上記制御部において実行される、上記期間中のある時点における、上記物体周りの流れを流線解析して流線図を取得する流線解析ステップと、上記流線解析ステップにて取得された上記流線図に基づいて、一つの穴を有する単連結外部領域において位相幾何学的に採り得る２種類の流れパターンを規定する語のうちのいずれか一語とともに、上記流れパターンに一つの穴を加える場合に位相幾何学的に採り得る５種類の操作を規定した語のうちのいずれか一語を、追加された穴の数だけ付与することにより、上記物体周りの流れの流れパターンを示す語表現を形成させる語表現形成ステップと、上記語表現形成ステップにて形成された、ある時点における上記流れパターンを示す上記語表現と当該時点における上記物体が受ける力とを対応付けて上記記憶部に格納し、分析対象とする複数の時点において、上記語表現の遷移と上記物体が受ける力の変動との対応関係情報を取得する対応関係取得ステップと、を含むことを特徴とする。

　また、本発明のプログラムは、記憶部と制御部とを備えたコンピュータに実行させるためのプログラムであって、上記記憶部は、一様流中におかれた物体について、ある期間における、物体が受ける力と物体周りの流れの実験結果または数値計算結果を記憶し、上記制御部において、上記期間中のある時点における、上記物体周りの流れを流線解析して流線図を取得する流線解析ステップと、上記流線解析ステップにて取得された上記流線図に基づいて、一つの穴を有する単連結外部領域において位相幾何学的に採り得る２種類の流れパターンを規定する語のうちのいずれか一語とともに、上記流れパターンに一つの穴を加える場合に位相幾何学的に採り得る５種類の操作を規定した語のうちのいずれか一語を、追加された穴の数だけ付与することにより、上記物体周りの流れの流れパターンを示す語表現を形成させる語表現形成ステップと、上記語表現形成ステップにて形成された、ある時点における上記流れパターンを示す上記語表現と当該時点における上記物体が受ける力とを対応付けて上記記憶部に格納し、分析対象とする複数の時点において、上記語表現の遷移と上記物体が受ける力の変動との対応関係情報を取得する対応関係取得ステップと、を実行させることを特徴とする。

　また、本発明は記録媒体に関するものであり、上記記載のプログラムを記録したことを特徴とする。

　この発明によれば、物体が受ける力と物体周りの流れの実験結果または数値計算結果から、ある時点における、物体周りの流れを流線解析して流線図を取得し、流線図に基づいて、一つの穴を有する単連結外部領域において位相幾何学的に採り得る２種類の流れパターンを規定する語のうちのいずれか一語とともに、流れパターンに一つの穴を加える場合に位相幾何学的に採り得る５種類の操作を規定した語のうちのいずれか一語を、追加された穴の数だけ付与することにより、物体周りの流れの流れパターンを示す語表現を形成させ、複数の時点における流れパターンを示す語表現と当該時点における物体が受ける力とを対応付ける。これにより、本発明は、飛翔物体などのように一様流中におかれた物体まわりの流れパターンの遷移と物体が受ける力の変動との対応関係を得ることができる、という効果を奏する。また、この対応関係により、位相構造（語表現）の遷移順序が特定できるので、構造物に対して流れパターンの遷移順序は、位相的に有限であることを利用して、例えば、航空機等の設計上で理想の流れパターンとなるよう導くために、流れパターンを表現する文字列を基準にして構造設計等を行うことができる。

　また、本発明によれば、物体の揚力および抗力の時間変動と、流れパターンの遷移との対応関係を得ることができるので、飛行機の固定翼や水中翼船の水中翼などの設計や制御において有用な知見を得ることができる、という効果を奏する。

　また、本発明によれば、物体の揚抗比と、流れパターンの遷移との対応関係を得ることができるので、トレードオフの関係にある揚力と抗力について、適切な指標（すなわち揚抗比）を用いた知見を得ることができる、という効果を奏する。

　また、本発明によれば、語表現の遷移と物体が受ける力（揚力、抗力、その比など）の変動との対応関係を示す表を得るので、流線の位相構造の語表現の変化と揚抗比の振動の対応関係について、表形式の一覧を得ることができる、という効果を奏する。

　また、本発明によれば、２種類の流れパターンは、１）上記吸い込み湧き出し対をもち、二つのｓｓ−∂−ｓａｄｄｌｅ　ｃｏｎｎｅｃｔｉｏｎをもつパターンＩ、および、２）上記吸い込み湧き出し対をもち、一つのｓａｄｄｌｅ　ｐｏｉｎｔ、それを結ぶｈｏｍｏｃｌｉｎｉｃ　ｓａｄｄｌｅ　ｃｏｎｎｅｃｔｉｏｎと二つのｓｓ−ｓａｄｄｌｅ　ｃｏｎｎｅｃｔｉｏｎをもつパターンＩＩである。これにより、本発明は、基本となる流れパターンに対してパターン語を付与することができ、具体的な流れパターンの語表現を扱えるようになるという効果を奏する。

　また、本発明によれば、位相幾何学的に採り得る５種類の操作は、１）一本のｓｓ−ｏｒｂｉｔを、一つのｓａｄｄｌｅ　ｐｏｉｎｔ、それを結び内部に穴をもつｈｏｍｏｃｌｉｎｉｃ　ｓａｄｄｌｅ　ｃｏｎｎｅｃｔｉｏｎと二つのｓｓ−ｓａｄｄｌｅ　ｃｏｎｎｅｃｔｉｏｎに置き換えるＡ_０操作、２）一本のｓｓ−ｏｒｂｉｔを、二つのｓｓ−∂−ｓａｄｄｌｅ　ｃｏｎｎｅｃｔｉｏｎと新たに追加した境界上の二つの∂−ｓａｄｄｌｅに置き換えるＡ_２操作、３）一本のｃｌｏｓｅｄ　ｏｒｂｉｔを、一つの穴とｓａｄｄｌｅ　ｐｏｉｎｔを追加して８の字をした２本のｈｏｍｏｃｌｉｎｉｃ　ｓａｄｄｌｅ　ｃｏｎｎｅｃｔｉｏｎに置き換えるＢ_０操作、４）一本のｃｌｏｓｅｄ　ｏｒｂｉｔを、新たに追加した穴の境界上に二つ∂−ｓａｄｄｌｅをつけて一本の∂−ｓａｄｄｌｅ　ｃｏｎｎｅｃｔｉｏｎでつなぐような軌道に置き換えるＢ_２操作、および、５）既に２ｋ個（ｋ＞０）の∂−ｓａｄｄｌｅをもつ境界に、新たに二つの∂−ｓａｄｄｌｅを付け加えて一本の∂−ｓａｄｄｌｅ　ｃｏｎｎｅｃｔｉｏｎでつなぎ内部に新たに付け加えた穴を置くＣ操作、である。これにより、本発明は、流れパターンに位相幾何学的な穴を付加する操作を行う場合に、具体的な操作語の語表現を扱えるようになるという効果を奏する。

　また、本発明によれば、５種類の操作を規定した語を付与する場合に、１）一本のｓｓ−ｏｒｂｉｔが存在することを条件として、上記Ａ_０操作または上記Ａ_２操作を規定した語を付与し、２）一本のｃｌｏｓｅｄ　ｏｒｂｉｔが存在することを条件として、上記Ｂ_０操作または上記Ｂ_２操作を規定した語を付与し、３）∂−ｓａｄｄｌｅｓを持つ境界が存在することを条件として、Ｃ操作を規定した語を付与する。これにより、位相幾何学的に操作を行うことができる操作に限定した語表現を形成させることができるという効果を奏する。

図１は、二次元外部領域内において、有限の厚みを持つ薄い一枚の平板が、一様流中の物体として、一様流に対して一定の角度で傾いておかれている場合を模式的に示した図である。図２は、物体周りの流れの数値計算結果を示す図である。図３は、物体周りの流れの数値計算結果を示す図である。図４は、物体周りの流れの数値計算によって、得られた物体が受ける力の変動を示すグラフ図である。図５は、本実施形態の概要に示すフローチャートである。図６は、流れのパターンを模式的に示した図である。図７は、領域における流れの位相的分類を行う特徴的な軌道（流線）を全て記述した図である。図８は、初期構造となる３種類の流れパターンを模式的に示す図である。図９は、穴を一つ付け加えて流れを構成する５種類の操作を模式的に示した図である。図１０は、二つの構造物と一様流がある場合の流れパターンの全分類を示す図である。図１１は、図３の物体周りの流れの数値計算結果（ｔ＝５．５００）から得られた流線図に基づいて形成された語表現ＩＣＣＢ_０を示す図である。図１２は、本実施形態が適用される流体遷移分析装置１００の一例を示すブロック図である。図１３は、パターン語の割り当て処理の一例を示すフローチャートである。図１４は、アルゴリズムＢにおけるＩ系列の操作語の割り当て処理の一例を示すフローチャートである。図１５は、アルゴリズムＢにおけるＩ系列の操作語の割り当て処理の一例を示すフローチャートである。図１６は、アルゴリズムＢにおけるＩＩ系列の操作語の割り当て処理の一例を示すフローチャートである。図１７は、アルゴリズムＢ（Ｉ，ＩＩ−Ｗｏｒｄ　ａｌｇ）におけるＩ，ＩＩ系列の操作語の割り当て処理の他の例を示すフローチャートである。図１８は、アルゴリズムＢ（Ｉ，ＩＩ−Ｗｏｒｄ　ａｌｇ）におけるＩ，ＩＩ系列の操作語の割り当て処理の他の例を示すフローチャートである。図１９は、所定のパラメータの計算条件下において計算された一枚平板に加わる揚抗比、揚力、抗力の時間変化を表した図である。図２０は、揚抗比が最大になる時刻ｔ＝５．５から極小に陥るｔ＝１１までの流れの時間発展を示す図である。図２１は、流線抽出の方法を用いて時刻ｔ＝５．５からｔ＝１１．０までの流れの流線関数の位相構造とその語表現を示す図である。図２２は、揚抗比が極小状態から再び極大に到るまでの、時刻ｔ＝１１．４から極小に陥るｔ＝１３．０までの渦度の時間発展を示す図である。図２３は、流線抽出の方法を用いて時刻ｔ＝１１．４から１３．０までの流れの流線関数の位相構造とその語表現を示す図である。図２４は、平板の角度をθ＝２０度に変更したパラメータの計算条件下において計算された一枚平板に加わる揚抗比、揚力、抗力の時間変化を表した図である。図２５は、時刻ｔ＝９．４５，ｔ＝１１．１５，ｔ＝１３．９３，ｔ＝１５．６のときの流れの渦度を示す図である。図２６は、流線抽出の方法を用いて時刻ｔ＝９．４５，ｔ＝１１．１５，ｔ＝１３．９３，ｔ＝１５．６のときの流れの流線関数の位相構造とその語表現を示す図である。図２７は、平板の角度をθ＝１０度に変更したパラメータの計算条件下において計算された一枚平板に加わる揚抗比、揚力、抗力の時間変化を表した図である。図２８は、時刻ｔ＝１１．７，ｔ＝１３．２，ｔ＝１４．５，ｔ＝１６．３のときの流れの渦度を示す図である。図２９は、流線抽出の方法を用いて時刻ｔ＝１１．７，ｔ＝１３．２，ｔ＝１４．５，ｔ＝１６．３のときの流れの流線関数の位相構造とその語表現を示す図である。

　以下に、本発明にかかる流体遷移分析装置、流体遷移分析方法、および、プログラムの実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。なお、以下の実施の形態の説明では、単連結外部領域において吸い込み湧き出し対を持つ２種類の流れパターン（具体的にはパターン語Ｉ，ＩＩ等）のほかに、二つの穴を有する二重連結外部領域において吸い込み湧き出し対を持たないパターン（具体的にはパターン語０等）も存在することを説明する場合があるが、本実施の形態においては、一様流がある場合を前提とするので、このパターン語０については考慮しなくともよい。

［本発明の実施形態の概要］
　以下、本発明の実施形態の概要について図１~図１１を参照して説明し、その後、本実施形態の構成および処理等について詳細に説明する。

　まず、本実施の形態は、一様流中におかれた物体について、ある期間における、物体が受ける力（物体が受ける力の比を含む。）と物体周りの流れの実験結果または数値計算結果を記憶する。ここで、物体が受ける力は、一様流によって物体が受ける力であり、具体的には、揚力（ｌｉｆｔ）や抗力（ｄｒａｇ）であり、一例として、揚抗比（揚力と抗力の比）であってもよい。物体周りの流れの実験結果は、一例として、風洞実験の実験結果でもよい。また、物体周りの流れの数値計算結果は、一例として、ナヴィエ・ストークス方程式等の流体力学計算手法を用いたコンピュータシミュレーション結果であってもよい。

　ここで、一様流中におかれた物体は、２次元平面における物体であってもよく、あるいは、３次元空間における、一様流中におかれた物体は、２次元平面における、一様流に沿った断面で捉えて、本実施の形態の処理を行ってもよい。ここで、図１は、二次元外部領域内において、有限の厚みを持つ薄い一枚の平板が、一様流中の物体として、一様流に対して一定の角度で傾いておかれている場合を模式的に示した図である。図中の記号Ｕは一様流を示し、ｃｌは平板の長辺の長さ、θは一様流に対する角度、ＬｘおよびＬｙはｘ軸方向とｙ軸方向の長さからなる、計算対象の矩形領域を示している。

　図１に示すように、例えば、航空機や列車や自動車等の物体においては、進行方向に沿って相対的に無限遠点からの一様流が発生するので、この一様流に沿った２次元断面を仮定して、一様流中におかれた物体について、ある期間における、物体が受ける力と物体周りの流れの実験結果または数値計算結果を得てもよい。ここで、図２および図３は、物体周りの流れの数値計算結果を示す図である。図４は、物体周りの流れの数値計算によって、得られた物体が受ける力の変動を示すグラフ図である。なお、図２~図４における、数値計算条件の詳細（例えば、レイノルズ数：１３７０、θ：１５°、分析範囲（Ｒｅｓｏｌｕｔｉｏｎ）：１０２４×２５６）については、後述する実施例に記載されているので、ここでは記載を省略する。

　図２では、一様流が物体に当たっていないときの物体周りの流れを図示したものであり、図３では、一様流が物体に当たっているときの、ある時点（ｔ＝５．５００）の物体周りの流れを図示したものである。左回り（反時計回り）の流れは、正の値（カラー図で黄色側）となっており、右回り（時計回り）の流れは、負の値（カラー図で紫色側）となっており、真っすぐな流れは、０（カラー図で赤色）で示されている。すなわち、図は、流れの渦度成分を表現しており、黄色い部分は反時計回りの正向きの渦成分がある領域を示し、青い部分は時計回りの負向きの渦成分がある領域を表している。図４において、破線は、揚力（ｌｉｆｔ）を示しており、一点鎖線は、抗力（ｄｒａｇ）を示しており、実線は、揚抗比（Ｉ／ｄ　ｒａｔｉｏ）を示している。図４に示すように、物体が受ける力のうち、揚力や揚抗比には、大きな時間変動がみられ、周期的に上下に振動している。特に、図４の破線の円で囲ってある３箇所において揚抗比の時間変動が顕著である。

　従来では、ある時点における揚力や揚抗比と、その時点における物体周りの流れのシミュレーション結果を対応づけることは可能であったが、どのような位相構造の変化が、物体が受ける力の変動に影響を及ぼすものであるのか、分析結果や詳細な知見を得ることは困難であった。そこで、本実施の形態は、以下の処理を行うものである。

　すなわち、本実施の形態は、実験結果や数値計算結果を取得した期間中の、ある時点における、物体周りの流れを流線解析して流線図を取得する。

　そして、本実施の形態は、取得した流線図に基づいて、一つの穴を有する単連結外部領域において位相幾何学的に採り得る２種類の流れパターンを規定する語（Ｉ，ＩＩ）のうちのいずれか一語とともに、流れパターンに一つの穴を加える場合に位相幾何学的に採り得る５種類の操作を規定した語（Ａ_０，Ａ_２，Ｂ_０，Ｂ_２，Ｃ）のうちのいずれか一語を、追加された穴の数だけ付与することにより、物体周りの流れの流れパターンを示す語表現を形成させる。なお、本実施の形態において、この語表現を形成させるアルゴリズムを、「語変換アルゴリズム」と呼ぶ。なお、「語変換アルゴリズム」について、その数学的な詳細は公表論文（Ｔ．　Ｙｏｋｏｙａｍａ　ａｎｄ　Ｔ．　Ｓａｋａｊｏ，　“Ｗｏｒｄ　ｒｅｐｒｅｓｅｎｔａｔｉｏｎ　ｏｆ　ｓｔｒｅａｍｌｉｎｅ　ｔｏｐｏｌｏｇｙ　ｆｏｒ　ｓｔｒｕｃｔｕｒａｌｌｙ　ｓｔａｂｌｅ　ｖｏｒｔｅｘ　ｆｌｏｗｓ　ｉｎ　ｍｕｌｔｉｐｌｙ　ｃｏｎｎｅｃｔｅｄ　ｄｏｍａｉｎｓ”，　Ｐｒｏｃ．　Ｒｏｙ．　Ｓｏｃ．　Ａ　４６９　（２０１３）ｄｏｉ：　１０．１０９８／ｒｓｐａ．２０１２．０５５８）を参照することができる。

　最後に、本実施の形態は、形成された、ある時点における流れパターンを示す語表現と当該時点における物体が受ける力とを対応付けて記憶部に格納して、分析対象とする複数の時点において、語表現の遷移と物体が受ける力の変動との対応関係情報を取得する。

　以上が、本実施の形態の概要である。

［語変換アルゴリズム］
　つづいて、上述した語表現を形成させる処理である、語変換アルゴリズムの概要について以下に説明する。ここで、図５は、本実施形態の語表現アルゴリズムの概要を示すフローチャートである。

　図５に示すように、まず、本実施形態は、流線図に基づいて、位相幾何学的にＮ個の穴を有する連結外部領域における流れパターンの語表現を形成させるために、一つの穴を有する単連結外部領域において位相幾何学的に採り得る２種類の流れパターンを規定する語（「パターン語」と呼ぶ。）のうちのいずれか一語を付与する（ステップＳＡ−１）。

　そして、本実施形態は、流線図に基づいて、ステップＳＡ−１にて付与された語に対して、流れパターンに一つの穴を加える場合に位相幾何学的に採り得る５種類の操作を規定した語（「操作語」と呼ぶ。）のうちのいずれか一語を付与し（ステップＳＡ−２）、当該ステップＳＡ−２の処理を穴の数がＮ個となるまで繰り返し行うことにより（ステップＳＡ−３）、流線図に対応するＮ個の穴を有する連結外部領域に対応する語表現を形成させる。なお、この例では、パターン語の付与（ステップＳＡ−１）が先に行われ、操作語の付与（ステップＳＡ−２）が後に行われるが、これに限られず、操作語の付与を先に行い、後にパターン語の付与を行ってもよいものである。

　ここで、本実施形態において、「連結外部領域」とは、単連結外部領域と多重連結外部領域を含む表現であり、「単連結外部領域」とは、二次元（平面）の中にある領域で、一つの穴があいたものをいい、「多重連結外部領域」とは、二次元（平面）の中にある領域で、複数の穴があいたものをいう。ここでいう「穴」という表現は、数学的な抽象表現であるが、応用上はさまざまな表現形態であってもよい。例えば、乗り物が移動した際に相対的に発生する一様な流れに注目した場合、一様流に沿った乗り物の断面に構造物が一つ又は複数あった状況があれば、その領域は単連結外部領域または多重連結外部領域として扱える。例えば、空気中を進む航空機等の飛行物体や、空気中を進む電車や自動車等の地上走行車両、海上または海中を進む船等の乗り物についても、一または複数の穴と、単連結または多重連結の連結外部領域として扱える。換言すれば、「流れの中に一または複数の障害物がある」ような流れを、本実施形態では、連結外部領域における流れとして扱う。また、孤立した渦構造や周囲に周期軌道を持つような流れ構造（楕円型の停留点など）も「穴」とみなすことができる。

　本実施形態によれば、流れパターンに対して語表現を割り当てることによって、連結外部領域における流れの位相的分類が可能となる。位相的というのは数学の専門用語であり、トポロジー（位相幾何学）とも呼ばれる幾何学の一分野を指す。古典的な幾何学では、三角形や四角形はその角の数の違いにより異なる図形と見なすが、位相幾何学の立場ではそういった細かい情報を見ず、三角形と四角形を例えば輪ゴムを変形させて互いに移りあえるという立場にたって同じ図形と見なす。すなわちすべての多角形は、円と同じと見なす。一方で、円の中にもう一つ円がくりぬかれているような円環領域があったときに円と円環領域は一つの輪ゴムの変形では互いに変形できないので、異なる図形と見なす。連結外部領域では、空いている穴の数が異なれば、それらの図形は位相的に異なると見なす一方で、穴の形さえ同じであれば、その穴の形が円であろうが三角形であろうが線分であろうが同じものとみなす。このような理由から流れの領域を特徴づけるのは穴の数のみであるため、本実施形態では、穴の数Ｍ＋１に対して連結外部領域をＤ_ζ（Ｍ）と表現する。例えば、穴が１つのみの場合は、単連結外部領域Ｄ_ζ（０）であり、穴が２つ在る場合は、二重連結外部領域Ｄ_ζ（１）となる。

　流れの位相的分類を扱うときは、流れを特徴づけるある特定の構造（「位相構造」と呼ぶ。）を捕まえて、その特定の構造をもった流れが二つあったときに、その双方を特定の構造の連続的な（すなわち切ったり貼ったりしない）変形によって互いに変形できないものは異なる流れと見なす。

［流れの構成要素の説明］
　ここで、本実施形態において扱う流れの構成要素について図６~図８を参照して説明する。本実施形態における「流れ」として非圧縮流れを扱ってもよい。流体の非圧縮性とは、力を加えてもほとんどその体積を変えないような性質をいう。通常の水や大気の流れは、日常生活のスケールで考える場合は、こうした流れの枠組みで考えても概ね差し支えはない。なお、本発明は、これに限られず、圧縮性のある流れを計算上取り扱ってもよい。

　また、本実施形態における流体は、非粘性流体として扱ってもよい。非粘性流体は、境界条件を「すべり条件」として扱うことができる。なお、粘性流体では、境界条件が「ゼロ境界条件」となるが、粘性流体でも、粘性が大きくないとき，境界付近は渦が層状の流れとなっており，その流れの外側境界を、仮想的に拡張することで「すべり条件」として扱うことができる。したがって、本実施形態では、特に、非粘性流体における語変換アルゴリズムにおいて説明することがあるが、適切な境界の拡張により、粘性流体についても本実施形態を適用することができる。

　本実施形態で扱う流れの構成要素は、以下の３つである。一つは障害物、一つは渦（ｖｏｒｔｅｘ）、一つは一様流（ｕｎｉｆｏｒｍ　ｆｌｏｗ）である。障害物は連結外部領域における穴のことであり、この形状は位相的分類を考えている上で円としておいても数学的に与える結果に影響はないことが一般的な流体の数学理論から導くことができる。ここで、図６は、流れのパターンを模式的に示した図である。なお、図６（ｃ）は、４つの∂−ｓａｄｄｌｅ点を持つ境界を模式的に示している。

　図６（ａ）に示すように、渦はそのまわりで回転する流れを作る要素である。一様流とは、川の流れでいえば基本的な流れのことであり、領域全体を横切るような流れである。また、乗り物等の移動物体の場合、一様流とは、その乗り物に乗っている観察者から見た、相対的な気流や水流等の流れである。すなわち、移動物体の座標系においては、実際には空気や水が静止していても、無限遠点から流れてくる相対的な流れを観念することができる。

　一様流を構成する要素は、吸い込み湧き出し対（１−ｓｏｕｒｃｅ−ｓｉｎｋ）と呼ぶ（数学的定義Ｄｅｆｉｎｉｔｉｏｎ　２．１参照）。

　ここで、一様流ではなく吸い込み湧き出し対と呼ぶことには理由がある。その理由の説明のため、いくつかの数学的な解説を以下に行う。一様流が存在するとき、考えている流れの領域は無限に拡がる平面であり、その中に一つまたは複数の穴（障害物）が埋め込まれているような連結外部領域であるが、このような流れを模式的（Ｓｃｈｅｍａｔｉｃ）に表現する上では扱いにくい。そのため、数学におけるｓｔｅｒｅｏｇｒａｐｈｉｃ　ｐｒｏｊｅｃｔｉｏｎ（ステレオ射影・立体射影）と呼ばれる射影法によって、平面を球面の上に投影して扱ってもよい。この場合、平面における無限遠点は球面の北極に、平面の原点は南極に対応させることができる。

　このようにしておくと、一様流は球面の北極における流れの湧き出しと吸い込み対といった流れ構造となり、図６（ｂ）のような流れ場に対応していることが数学的に示せる。さらに模式的に流れ場を表現するためには、球面は対称性の高い形状であるということを利用して、北極と南極の位置を適当にずらすことができるので、無限遠点を南極に、ある円形の穴（障害物）の中心を北極にあわせてから、再びｓｔｅｒｅｏｇｒａｐｈｉｃ　ｐｒｏｊｅｃｔｉｏｎを使って平面に投影すると、南極に対応する原点付近の近くでは図６（ｂ）のような流れができる。さらに無限遠点に中心を持つ円境界は平面の外側円境界に投影されるので、結果として平面全体の流れ場が、例えば図７のような形の有界な領域として表現できる。したがって、図６（ｂ）のような表現は適切な射影法を通じて、平面全体の中に一様流が入っている流れと等価なものである。本実施形態の説明では、流れを模式的に示すために便利であることから、このような射影法を用いて図に表現する場合がある。

　図７は、このような領域における流れの位相的分類を行う特徴的な軌道（流線）を全て記述した図である。図７（ａ）に示すように、まず吸い込み湧き出し対から出て自分自身に戻ってくる軌道をｓｓ−ｏｒｂｉｔと呼ぶ。この線一本一本が連結外部領域での一様流の流線を表す。次に、図７（ｂ）に示すように、吸い込み湧き出し対から出て境界の上につながる軌道をｓｓ−∂−ｓａｄｄｌｅ　ｃｏｎｎｅｃｔｉｏｎと呼び、図７（ｃ）に示すように、その軌道がつながっている境界上の点をｓｓ−∂−ｓａｄｄｌｅと呼ぶ。

　また、図７（ｅ）に示すように、吸い込み湧き出し対からではなく、ある境界の上の点から出て同じ境界上の点につながる軌道を∂−ｓａｄｄｌｅ　ｃｏｎｎｅｃｔｉｏｎと呼び、図７（ｄ）に示すように、これによってつながれている境界上の点を∂−ｓａｄｄｌｅと呼ぶ。また、図７（ｈ）に示すような、境界上にない双曲型の停留点をｓａｄｄｌｅ　ｐｏｉｎｔ（サドル点）と呼ぶが、図７（ｆ）に示すように、吸い込み湧き出し対から出る軌道で、このｓａｄｄｌｅ　ｐｏｉｎｔにつながる軌道をｓｓ−ｓａｄｄｌｅ　ｃｏｎｎｅｃｔｉｏｎと呼ぶ。また、図７（ｇ）に示すように、境界や渦の回りを作る閉曲線軌道をｃｌｏｓｅｄ　ｏｒｂｉｔと呼び、図７（ｉ）に示すように、ｓａｄｄｌｅ　ｐｏｉｎｔから出てそれ自身に戻るような軌道をｈｏｍｏｃｌｉｎｉｃ　ｓａｄｄｌｅ　ｃｏｎｎｅｃｔｉｏｎと呼ぶ。対象とする流れは、これらの軌道の組み合わせによってしか表現されないことが数学的に証明できる。

　本実施形態では、上述したステップＳＡ−２において、穴の数がＭ個ある連結外部領域Ｄ_ζ（Ｍ−１）の流れに、一つの穴とそれに伴う流れの構造を付け足すことで、一つ穴の多い多重連結外部領域Ｄ_ζ（Ｍ）の流れ場を帰納的に構成していく。そのため、もっとも簡単な穴が一つの単連結外部領域Ｄ_ζ（０）や、二重連結外部領域Ｄ_ζ（１）で、これらの帰納的構成の初期構造になるものをステップＳＡ−１で与えている。

　具体的には、上述した基本となる流れパターンは、３種類あり、
　１）吸い込み湧き出し対をもち、二つのｓｓ−∂−ｓａｄｄｌｅ　ｃｏｎｎｅｃｔｉｏｎをもつパターンＩ、
　２）吸い込み湧き出し対をもち、一つのｓａｄｄｌｅ　ｐｏｉｎｔ、それを結ぶｈｏｍｏｃｌｉｎｉｃ　ｓａｄｄｌｅ　ｃｏｎｎｅｃｔｉｏｎと二つのｓｓ−ｓａｄｄｌｅ　ｃｏｎｎｅｃｔｉｏｎをもつパターンＩＩ、および
　３）吸い込み湧き出し対をもたないパターンＯ、
　である。なお、このうち、パターンＯについては、吸い込み湧き出し対をもたない、すなわち一様流をもたないパターンであるので、本実施の形態を実施するにあたって考慮しなくともよい。ここで、図８は、初期構造となる３種類の流れパターンを模式的に示す図である。

　すなわち、図８（ａ）と（ｂ）に示すように、穴が一個の単連結外部領域Ｄ_ζ（０）にある流れは、パターンＩとパターンＩＩの２種類存在する。これらのパターンは、ともに吸い込み湧き出し対を持ち、数学的にはこれら２種類しかないことが証明できる。一様流を仮定した吸い込み湧き出し対を持つような流れに対して、原則的には二重連結外部領域Ｄ_ζ（１）は、これらから構成されるが、吸い込み湧き出し対を持たない流れはここから構成されないので、その流れを構成するために必要な初期流れが図８（ｃ）に模式的に示されるパターンＯである。なお、これらの位相構造は表現の簡便さのため、吸い込み湧き出し対を丸囲みＳと図示し、ｓｓ−ｏｒｂｉｔやｃｌｏｓｅｄ　ｏｒｂｉｔは、無限に存在するので表現せず、以後、模式的に図８（ｄ）や（ｅ）のように簡略的に表す。また、図８（ｃ）に示すように、吸い込み湧き出し対を持たない二重連結外部Ｄ_ζ（１）における流れのパターン内のｃｌｏｓｅｄ　ｏｒｂｉｔｓも、すべて書かないで図８（ｆ）のように簡略に記す。

［操作語の説明］
　帰納的に流れを構成していくために、穴を一つとそれに伴う流れの構造を追加するという「操作」について、図９および図１０を参照して説明する。すなわち、穴の数がＭ個ある連結外部領域Ｄ_ζ（Ｍ−１）の流れに、一つの穴を加えて多重連結外部領域Ｄ_ζ（Ｍ）の流れを求める操作について説明する。

　上述したステップＳＡ−２において、位相幾何学的に採り得る５種類の操作は、
　１）一本のｓｓ−ｏｒｂｉｔを、一つのｓａｄｄｌｅ　ｐｏｉｎｔ、それを結び内部に穴をもつｈｏｍｏｃｌｉｎｉｃ　ｓａｄｄｌｅ　ｃｏｎｎｅｃｔｉｏｎと二つのｓｓ−ｓａｄｄｌｅ　ｃｏｎｎｅｃｔｉｏｎに置き換えるＡ_０操作、
　２）一本のｓｓ−ｏｒｂｉｔを、二つのｓｓ−∂−ｓａｄｄｌｅ　ｃｏｎｎｅｃｔｉｏｎと新たに追加した境界上の二つの∂−ｓａｄｄｌｅに置き換えるＡ_２操作、
　３）一本のｃｌｏｓｅｄ　ｏｒｂｉｔを、一つの穴とｓａｄｄｌｅ　ｐｏｉｎｔを追加して８の字をした２本のｈｏｍｏｃｌｉｎｉｃ　ｓａｄｄｌｅ　ｃｏｎｎｅｃｔｉｏｎに置き換えるＢ_０操作、
　４）一本のｃｌｏｓｅｄ　ｏｒｂｉｔを、新たに追加した穴の境界上に二つ∂−ｓａｄｄｌｅをつけて一本の∂−ｓａｄｄｌｅ　ｃｏｎｎｅｃｔｉｏｎでつなぐような軌道に置き換えるＢ_２操作、および、
　５）既に２ｋ個（ｋ＞０）の∂−ｓａｄｄｌｅをもつ境界に、新たに二つの∂−ｓａｄｄｌｅを付け加えて一本の∂−ｓａｄｄｌｅ　ｃｏｎｎｅｃｔｉｏｎでつなぎ内部に新たに付け加えた穴を置くＣ操作、
　である。ここで、図９は、穴を一つ付け加えて流れを構成する５種類の操作を模式的に示した図である。

　図９（ａ）に示すように、操作Ａ_０とＡ_２は一本のｓｓ−ｏｒｂｉｔに対して行われる。また、図９（ｂ）に示すように、操作Ｂ_０とＢ_２は、一本のｃｌｏｓｅｄ　ｏｒｂｉｔに対して行われる。また、図９（ｃ）に示すように、操作Ｃは、既に∂−ｓａｄｄｌｅｓを持つ境界に対して行われる。なお、構造安定性を維持しながらそのようなことを可能にする操作が、上記の５種類しかないことが数学的に証明可能である（Ｔｈｅｏｒｅｍ　３．１，　Ｃｏｒｏｌｌａｒｙ３．１，　Ｔｈｅｏｒｅｍ　３．２参照）。

　ステップＳＡ−１で与えた初期構造の３種類の流れパターンＩ，ＩＩ，Ｏから、これらの操作を行って一つずつ穴を増やす（Ｍ→Ｍ＋１）ことで、多くの穴を持つ領域における流れが帰納的に構成されるので、本実施形態では、その操作を表す操作語の列を文字列と見なして列挙することで、流れ場の語表現（Ｗｏｒｄ　ｒｅｐｒｅｓｅｎｔａｔｉｏｎ）を得ることができる。ここで、図１０は、二つの構造物と一様流がある場合の流れパターンの全分類を示す図である。図１０に示すように、単連結外部領域Ｄ_ζ（０）における初期構造のパターンＩ，ＩＩに対して、操作語を付与することで、二重連結外部領域Ｄ_ζ（１）における全ての流れパターンを記述することができる。ただし、図１０に示す全ての流れパターンは、２種類（Ｉ，ＩＩ）×５種類（Ａ_０，Ａ_２，Ｂ_０，Ｂ_２，Ｃ）の計１０種類とはなっていない。すなわち、操作語は、５種類の操作語を任意に並べてできるわけではなく、数学的な理由から様々な制約がつく。

　ここで、制約について説明すれば以下のようになる。すなわち、図９を用いて上述したように、操作Ａ_０とＡ_２は、一本のｓｓ−ｏｒｂｉｔに対して行われるので、この操作を行う前提として、一本のｓｓ−ｏｒｂｉｔの存在が不可欠となる。また、操作Ｂ_０とＢ_２は、一本のｃｌｏｓｅｄ　ｏｒｂｉｔに対して行われるので、この操作を行う前提として、一本のｃｌｏｓｅｄ　ｏｒｂｉｔの存在が不可欠である。また、操作Ｃは、∂−ｓａｄｄｌｅｓを持つ境界に対して行われるので、この操作を行う前提として、∂−ｓａｄｄｌｅｓを持つ境界の存在が不可欠となる。そのため、パターン語をＩ，ＩＩ，Ｏのどこからはじめるかによって並べ方のルールは異なる。上記の制約条件に基づいて導出される、各パターン語Ｉ，ＩＩ，Ｏからはじまる文字列の並べ方のルールについて、以下に説明する。

　まず、湧き出し吸い込み対を持たないＯのパターン語からはじめる場合には、次のようなルールがある。Ｏから始まる語表現に対して、それが構造安定な流れを表すために以下が必要十分である。
Ｏ−１）実際に施すことができる操作は、Ｂ_０，Ｂ_２，Ｃのみであり、その結果、Ｏから始まる語表現はこれら三つの語を列挙したものとなる。
Ｏ−２）操作列の語表現においてＣの語が含まれるためには、それ以前に必ずＢ_２が存在しなければならない。

　このような文字列をＯ系列の語（Ｏ−Ｗｏｒｄ）と呼び、そのルールの正しさは数学的に証明可能である（Ｌｅｍｍａ　３．１参照）。

　次に、パターン語Ｉから始まる語表現については、以下のルールが成り立つ必要がある。
Ｉ−１）　実施可能な操作はＡ_０，Ａ_２，Ｂ_０，Ｂ_２，Ｃの全てであり、その結果、Ｉから始まる語表現はこれら５種類の操作語を列挙したものである。
Ｉ−２）　操作列の語表現において、Ｂ_０あるいはＢ_２の語が含まれるためには、それ以前に必ずＣかＡ_０が存在しなければならない。

　このような文字列をＩ系列の語（Ｉ−Ｗｏｒｄ）と呼び、そのルールの正しさは数学的に証明可能である（Ｌｅｍｍａ３．３参照）。

　最後にパターン語ＩＩから始まる語表現については、以下のルールが成り立つ必要がある。
ＩＩ−１）実施可能な操作はＡ_０，Ｂ_０，Ｂ_２，Ｃであり、その結果、ＩＩから始まる語表現はこれら四つの語を列挙したものである。
ＩＩ−２）操作列の語表現においてＣの語が含まれるためには、それ以前に必ずＢ_２が存在しなければならない。

　このような文字列をＩＩ系列の語（ＩＩ−Ｗｏｒｄ）と呼び、そのルールの正しさは数学的に証明可能である（Ｌｅｍｍａ　３．４参照）。

　ここで、図１１は、上述した図３の物体周りの流れの数値計算結果（ｔ＝５．５００）から得られた流線図（上図または下図）に基づいて形成された語表現ＩＣＣＢ_０を示す図である。なお、図１１上図は、一様流（図中の破線）の流れに沿った鉛直面で切り取った平板断面と、その周りの流れを示す流線図であり、下図は、その流線図をｓｔｅｒｅｏｇｒａｐｈｉｃ　ｐｒｏｊｅｃｔｉｏｎ法を用いて表現したものであり、両図は、表現上の差異があるだけで位相的に等価である。このように、本実施の形態によれば、物体が受ける力と物体周りの流れの数値計算結果等から得た流線図に基づいて、対応する流れパターンを示す語表現が得られるので、複数の時点を分析対象とすることによって、語表現の遷移と物体が受ける力の変動との対応関係を得ることができる。

　つづいて、上述した本実施形態の方法をコンピュータにより実施するための装置構成や処理の詳細について、以下に詳しく説明する。なお、以上の本実施形態による方法の全部または一部を、人またはコンピュータにより実施してもよく、以下の実施形態による処理等を人により実施する場合に用いてもよいものである。

［流体遷移分析装置の構成］
　次に、本実施形態における流体遷移分析装置の構成について図１２を参照して説明する。図１２は、本実施形態が適用される流体遷移分析装置１００の一例を示すブロック図であり、該構成のうち本実施形態に関係する部分のみを概念的に示している。

　図１２に示すように、本実施形態における流体遷移分析装置１００は、概略的に、制御部１０２と記憶部１０６を少なくとも備え、本実施形態において、更に、入出力制御インターフェース部１０８と通信制御インターフェース部１０４を備える。ここで、制御部１０２は、流体遷移分析装置１００の全体を統括的に制御するＣＰＵ等である。また、通信制御インターフェース部１０４は、通信回線等に接続されるルータ等の通信装置（図示せず）に接続されるインターフェースであり、入出力制御インターフェース部１０８は、入力装置１１２や出力装置１１４に接続されるインターフェースである。また、記憶部１０６は、各種のデータベースやテーブルなどを格納する装置である。これら流体遷移分析装置１００の各部は任意の通信路を介して通信可能に接続されている。更に、この流体遷移分析装置１００は、ルータ等の通信装置および専用線等の有線または無線の通信回線を介して、ネットワーク３００に通信可能に接続されている。

　記憶部１０６に格納される各種のデータベースやテーブル（シミュレーション結果ファイル１０６ａ、流線図ファイル１０６ｂ、および、対応関係ファイル１０６ｃ等）は、固定ディスク装置等のストレージ手段である。例えば、記憶部１０６は、各種処理に用いる各種のプログラム、テーブル、ファイル、データベース、および、ウェブページ等を格納する。

　これら記憶部１０６の各構成要素のうち、シミュレーション結果ファイル１０６ａは、シミュレーション部１０２ａにより実験的または数理的にシミュレーションされた、シミュレーション結果を示すデータを記憶するシミュレーション結果記憶手段である。例えば、シミュレーション結果ファイル１０６ａは、物体が受ける力と物体周りの流れの実験結果または数値計算結果を記憶してもよい。一例として、シミュレーション結果ファイル１０６ａは、構造物の形状を示す設計変数の値や、その構造物に対する所定の流体（海流や気流等）の流体力学的シミュレーション結果（各空間座標における流体の圧力や流れの向き等）を示すデータであってもよい。なお、シミュレーション結果ファイル１０６ａは、風洞実験等の実験室内でのモデル計測などを通じて事前に入力装置１１２を介して入力されたデータをシミュレーション結果として記憶してもよい。シミュレーション結果ファイル１０６ａに記憶されるデータは、数値計算結果に限られず、実験室内でのモデル計測などを通じて得たデータであってもよい。実験結果であっても、それらのデータを可視化したり計算機などで処理をして、流線図という流れの様子をとらえるスナップショットとして表現することができる。

　また、流線図ファイル１０６ｂは、流線図等の流線を示すデータを記憶する流線データ記憶手段である。例えば、流線図ファイル１０６ｂに記憶される流線データは、シミュレーション結果を示すデータに基づいて流線解析部１０２ｂにより解析された流線を示すデータであってもよい。

　また、対応関係ファイル１０６ｃは、対応関係情報を記憶する対応関係情報記憶手段である。例えば、対応関係ファイル１０６ｃは、対応関係取得部１０２ｇにより取得された、ある時点における流れパターンを示す語表現と当該時点における物体が受ける力（例えば、揚力、抗力、それらの比）とを対応付けて対応関係情報（対応表データ等）として記憶する。一例として、対応関係ファイル１０６ｃに記憶される語表現データは、パターン語と操作語の組み合わせからなる文字列等である。対応関係ファイル１０６ｃにおいて、複数の時点における、流れパターンを示す語表現と物体が受ける力との対応関係が蓄積されることによって、語表現の遷移と物体が受ける力の変動との対応関係を示す、対応関係情報が生成されることとなる。

　図１２に戻り、入出力制御インターフェース部１０８は、入力装置１１２や出力装置１１４の制御を行う。ここで、出力装置１１４としては、モニタ（家庭用テレビを含む。）の他、スピーカを用いることができる（なお、以下においては出力装置１１４をモニタとして記載する場合がある）。また、入力装置１１２としては、キーボード、マウス、およびマイク等を用いることができる。

　また、図１２において、制御部１０２は、ＯＳ（Ｏｐｅｒａｔｉｎｇ　Ｓｙｓｔｅｍ）等の制御プログラムや、各種の処理手順等を規定したプログラム、および、所要データを格納するための内部メモリを有する。そして、制御部１０２は、これらのプログラム等により、種々の処理を実行するための情報処理を行う。制御部１０２は、機能概念的に、シミュレーション部１０２ａ、流線解析部１０２ｂ、語表現形成部１０２ｃ、および、対応関係取得部１０２ｇを備える。

　このうち、シミュレーション部１０２ａは、構造物等の物体に対する流体のシミュレーションを行うシミュレーション手段である。例えば、シミュレーション部１０２ａは、構造物に対する流体のシミュレーションを実験的または数理的に行って、物体が受ける力と物体周りの流れの実験結果または数値計算結果を取得してもよい。ここで、シミュレーション部１０２ａは、２次元平面におけるシミュレーションに限られず、３次元空間における流体のシミュレーションを行ってもよいものである。なお、本実施形態において、シミュレーション部１０２ａは、シミュレーション結果を示すデータをシミュレーション結果ファイル１０６ａに格納する。例えば、シミュレーション部１０２ａは、構造物の形状を示す設計変数の値や、その構造物に対する所定の流体（海流や気流等）の流体力学的シミュレーション結果（各空間座標における流体の圧力や流れの向きや抵抗等）を示すデータを格納してもよい。ここで、シミュレーション部１０２ａは、公知の流体力学計算手法として、ナヴィエ・ストークス方程式や、有限要素法や、有限差分法、有限体積法等を用いてもよい。

　なお、シミュレーション部１０２ａは、公知の最適化手法を用いて、構造物の最適化を行ってもよい。例えば、シミュレーション部１０２ａは、構造物の形状を決定する設計変数を、焼きなまし法や遺伝的アルゴリズム法等を用いて繰り返し変化させながら、当該構造物に対する流体シミュレーションを行って、適切な構造物の形状（例えば、水流に対する抵抗の少ない橋脚の形状等）を求めてもよい。

　また、流線解析部１０２ｂは、流線解析を行う流線解析手段である。ここで、流線解析部１０２ｂは、シミュレーション部１０２ａによるシミュレーション結果に対し流線解析を行って流線図を導出してもよい。例えば、流線解析部１０２ｂは、シミュレーション結果ファイル１０６ａに記憶された、物体周りの流れの実験結果（実験のデータ等）または数値計算結果（数値シミュレーション結果等）から、公知の手法を用いて流線図を作成する。具体的には、流線解析部１０２ｂは、数値シミュレーション結果から、ｓａｄｄｌｅ　ｐｏｉｎｔや∂−ｓａｄｄｌｅなどをすべて計算した後、その点における流れ関数の値と同じ値を持つ流れ関数の等高線をすべて描画し、また、境界（ｂｏｕｎｄａｒｙ）上の流れ関数の値と同じ値を持つ流れ関数の等高線をすべて描画することにより流線図の作成が可能となる。なお、３次元のシミュレーション結果の場合、流線解析部１０２ｂは、構造物における断面における２次元のデータに変換してから、流線解析を行ってもよい。断面とする平面は任意であるが好適には、流線解析部１０２ｂは、流体の流れ方向（一様流）の方向に沿った断面で２次元データに変換してもよい。例えば、列車や自動車や航空機等の乗り物においては、進行方向に沿って断面を生成してもよい。また、流線解析部１０２ｂは、Ｃｏｍｐｕｔａｔｉｏｎａｌ　Ｈｏｍｏｌｏｇｙに記載の技術等を用いて、流れ場から条件を満たす特徴的な構造を抽出してもよい（「Ｔｏｍａｓｚ　Ｋａｃｚｙｎｓｋｉ，　Ｋｏｎｓｔａｎｔｉｎ　Ｍｉｓｃｈａｉｋｏｗ，　Ｍａｒｉａｎ　Ｍｒｏｚｅｋ著　“Ｃｏｍｐｕｔａｔｉｏｎａｌ　Ｈｏｍｏｌｏｇｙ”　Ｓｐｒｉｎｇｅｒ，　２０００年」参照）。なお、本実施形態において、流線解析部１０２ｂは、作成した流線図データを流線図ファイル１０６ｂに格納する。

　また、語表現形成部１０２ｃは、流線解析部１０２ｂにより取得された流線図に基づいて、一つの穴を有する単連結外部領域において位相幾何学的に採り得る２種類の流れパターンを規定する語のうちのいずれか一語（パターン語Ｉ，ＩＩ）とともに、流れパターンに一つの穴を加える場合に位相幾何学的に採り得る５種類の操作を規定した語（操作語Ａ_０，Ａ_２，Ｂ_０，Ｂ_２，Ｃ）のうちのいずれか一語を、追加された穴の数だけ付与することにより、物体周りの流れの流れパターンを示す語表現を形成させる語表現形成手段である。ここで、語表現形成部１０２ｃは、図１２に示すように、パターン語付与部１０２ｄ、操作語付与部１０２ｅ、および、極大語表現部１０２ｆを備える。

　このうち、パターン語付与部１０２ｄは、一つの穴を有する単連結外部領域において位相幾何学的に採り得る２種類の流れパターンを規定する語（例えば、パターン語Ｉ，ＩＩ）のうちのいずれか一語を付与するパターン語付与手段である。ここで、パターン語付与部１０２ｄは、上記に加えて、二つの穴を有する二重連結外部領域において吸い込み湧き出し対を持たないパターンを追加した、合計３種類の流れパターンを規定する語（すなわちパターン語Ｉ，ＩＩ，Ｏ）のうちのいずれか一語を付与してもよい。より具体的には、３種類の流れパターンは、
　１）吸い込み湧き出し対をもち、二つのｓｓ−∂−ｓａｄｄｌｅ　ｃｏｎｎｅｃｔｉｏｎをもつパターンＩ、
　２）吸い込み湧き出し対をもち、一つのｓａｄｄｌｅ　ｐｏｉｎｔ、それを結ぶｈｏｍｏｃｌｉｎｉｃ　ｓａｄｄｌｅ　ｃｏｎｎｅｃｔｉｏｎと二つのｓｓ−ｓａｄｄｌｅ　ｃｏｎｎｅｃｔｉｏｎをもつパターンＩＩ、および
　３）吸い込み湧き出し対をもたないパターンＯ、
　である。

　ここで、パターン語付与部１０２ｄは、流線図から語表現を求めるアルゴリズム（「アルゴリズムＢ」と呼ぶ。）において、流線図に、ｓｓ−∂−ｓａｄｄｌｅ　ｃｏｎｎｅｃｔｉｏｎが存在するか否かを判定し、ｓｓ−∂−ｓａｄｄｌｅ　ｃｏｎｎｅｃｔｉｏｎが存在する場合にパターンＩの語を与えるＩ分類ステップと、Ｉ分類ステップにおいてｓｓ−∂−ｓａｄｄｌｅ　ｃｏｎｎｅｃｔｉｏｎが存在しない場合に、流線図においてｓｓ−ｓａｄｄｌｅ　ｃｏｎｎｅｃｔｉｏｎが存在するか否かを判定し、ｓｓ−ｓａｄｄｌｅ　ｃｏｎｎｅｃｔｉｏｎが存在する場合にパターンＩＩの語を与え、一方、ｓｓ−ｓａｄｄｌｅ　ｃｏｎｎｅｃｔｉｏｎが存在しない場合にパターンＯの語を与えるＩＩ／Ｏ分類ステップと、を行ってもよい。これにより、パターン語付与部１０２ｄは、流線図が属する系列（Ｉ系列，ＩＩ系列，Ｏ系列）を適切に判別することができる。

　また、操作語付与部１０２ｅは、流れパターンに一つの穴を加える場合に位相幾何学的に採り得る５種類の操作を規定した語（例えば、操作語Ａ_０，Ａ_２，Ｂ_０，Ｂ_２，Ｃ）のうちのいずれか一語を繰り返し付与することにより、Ｎ個の穴を有する多重連結外部領域に対応する語表現を形成させる操作語付与手段である。より具体的には、５種類の操作は、
　１）一本のｓｓ−ｏｒｂｉｔを、一つのｓａｄｄｌｅ　ｐｏｉｎｔ、それを結び内部に穴をもつｈｏｍｏｃｌｉｎｉｃ　ｓａｄｄｌｅ　ｃｏｎｎｅｃｔｉｏｎと二つのｓｓ−ｓａｄｄｌｅ　ｃｏｎｎｅｃｔｉｏｎに置き換えるＡ_０操作、
　２）一本のｓｓ−ｏｒｂｉｔを、二つのｓｓ−∂−ｓａｄｄｌｅ　ｃｏｎｎｅｃｔｉｏｎと新たに追加した境界上の二つの∂−ｓａｄｄｌｅに置き換えるＡ_２操作、
　３）一本のｃｌｏｓｅｄ　ｏｒｂｉｔを、一つの穴とｓａｄｄｌｅ　ｐｏｉｎｔを追加して８の字をした２本のｈｏｍｏｃｌｉｎｉｃ　ｓａｄｄｌｅ　ｃｏｎｎｅｃｔｉｏｎに置き換えるＢ_０操作、
　４）一本のｃｌｏｓｅｄ　ｏｒｂｉｔを、新たに追加した穴の境界上に二つ∂−ｓａｄｄｌｅをつけて一本の∂−ｓａｄｄｌｅ　ｃｏｎｎｅｃｔｉｏｎでつなぐような軌道に置き換えるＢ_２操作、および、
　５）既に２ｋ個（ｋ＞０）の∂−ｓａｄｄｌｅをもつ境界に、新たに二つの∂−ｓａｄｄｌｅを付け加えて一本の∂−ｓａｄｄｌｅ　ｃｏｎｎｅｃｔｉｏｎでつなぎ内部に新たに付け加えた穴を置くＣ操作、
　である。

　ここで、操作語付与部１０２ｅは、以下の制約条件に従って操作語を付与してもよい。すなわち、操作語付与部１０２ｅは、５種類の操作語を付与する場合に、
　１）一本のｓｓ−ｏｒｂｉｔが存在することを条件に、操作語Ａ_０またはＡ_２を付与し、
　２）一本のｃｌｏｓｅｄ　ｏｒｂｉｔが存在することを条件に、操作語Ｂ_０またはＢ_２を付与し、
　３）∂−ｓａｄｄｌｅｓを持つ境界が存在することを条件に、操作語Ｃを付与してもよい。なお、当該制約条件にしたがった操作語付与部１０２ｅの具体的な処理の詳細については、フローチャートを参照して後述する。なお、本実施形態において、操作語付与部１０２ｅは、パターン語に対して付与した操作語の文字列である語表現を対応関係ファイル１０６ｃに格納する。

　また、極大語表現部１０２ｆは、パターン語付与部１０２ｄおよび操作語付与部１０２ｅにより形成された語表現（パターン語および操作語の組み合せからなる文字列）を極大語に変換する極大語表現手段である。すなわち、全ての採り得る流れパターンを書き出すアルゴリズム（以下、「アルゴリズムＡ」と呼ぶ。）において、パターン語付与部１０２ｄおよび操作語付与部１０２ｅにより形成された語表現群は、流れパターンを全て書き出しているものの、互いに同じ流れパターンを規定した語表現や、互いに包含関係となる流れパターンを規定した語表現が存在する。そこで、極大語表現部１０２ｆは、これらの語表現群に対して、重複する語表現や、包含される語表現等を排除することにより、極大語表現（ｍａｘｉｍａｌ　ｗｏｒｄ　ｒｅｐｒｅｓｅｎｔａｔｉｏｎ）とする処理を行う。例えば、極大語表現部１０２ｆは、以下の表で示される包含関係に従って、語表現を入れ替えて極大語表現を形成させる。なお、下表において「＝」は一致関係、「≦」または「≧」は包含関係を示す。唯一の例外はＢ_２とＣであり、これは入れ替えても包含関係が成立しないので、この二つは入れ替えることができないので、このことを、Ｂ_２Ｃ｜｜ＣＢ_２と象徴的に表している。なお、当該関係式にしたがった極大語表現部１０２ｆの具体的な処理の詳細については、フローチャートを参照して後述する。

　また、対応関係取得部１０２ｇは、語表現形成部１０２ｃにより形成された、ある時点における流れパターンを示す語表現と当該時点における物体が受ける力とを対応付けて対応関係ファイル１０６ｃに格納して、分析対象とする複数の時点において、語表現の遷移と物体が受ける力の変動との対応関係情報を取得する対応関係取得手段である。

　以上が、本実施形態における流体遷移分析装置１００の構成の一例である。なお、流体遷移分析装置１００は、ネットワーク３００を介して外部システム２００に接続されてもよい。この場合、通信制御インターフェース部１０４は、流体遷移分析装置１００とネットワーク３００（またはルータ等の通信装置）との間における通信制御を行う。すなわち、通信制御インターフェース部１０４は、他の端末と通信回線を介してデータを通信する機能を有する。また、ネットワーク３００は、流体遷移分析装置１００と外部システム２００とを相互に接続する機能を有し、例えば、インターネット等である。

　また、外部システム２００は、ネットワーク３００を介して、流体遷移分析装置１００と相互に接続され、実験結果や数値計算結果等のシミュレーション結果データや流線図データ等の各種データに関する外部データベースや、接続された情報処理装置に流体遷移分析方法を実行させるためのプログラム等を提供する機能を有する。

　ここで、外部システム２００は、ＷＥＢサーバやＡＳＰサーバ等として構成していてもよい。また、外部システム２００のハードウェア構成は、一般に市販されるワークステーション、パーソナルコンピュータ等の情報処理装置およびその付属装置により構成していてもよい。また、外部システム２００の各機能は、外部システム２００のハードウェア構成中のＣＰＵ、ディスク装置、メモリ装置、入力装置、出力装置、通信制御装置等およびそれらを制御するプログラム等により実現される。

　以上で、本実施形態の構成の説明を終える。

［流体遷移分析装置１００の処理］
　次に、このように構成された本実施形態における流体遷移分析装置１００の処理の一例について、以下に図面を参照して詳細に説明する。

［語表現アルゴリズムの基本処理］
　まず、流体遷移分析装置１００により実行される語表現アルゴリズムの基本処理の一例について、上述した図５を再び参照して説明する。以下の基本処理は、全ての採り得る流れパターンを書き出すアルゴリズムＡにおいても、流線図から語表現を求めるアルゴリズムＢにおいても基本となる処理である。なお、以下の例では、パターン語の付与（ステップＳＡ−１）が先に行われ、操作語の付与（ステップＳＡ−２）が後に行われるが、これに限られず、操作語の付与を先に行い、後にパターン語の付与を行ってもよいものである。

　図５に示すように、まず、語表現形成部１０２ｃのパターン語付与部１０２ｄは、パターン語Ｉ，ＩＩのうちのいずれか一語を付与する（ステップＳＡ−１）。ここで、パターン語付与部１０２ｄは、上記に加えてパターンＯを追加した、合計３種類のパターン語Ｉ，ＩＩ，Ｏのうちのいずれか一語を付与してもよい。より具体的には、３種類のパターン語は、
　１）吸い込み湧き出し対をもち、二つのｓｓ−∂−ｓａｄｄｌｅ　ｃｏｎｎｅｃｔｉｏｎをもつパターンを規定するパターン語Ｉ、
　２）吸い込み湧き出し対をもち、一つのｓａｄｄｌｅ　ｐｏｉｎｔ、それを結ぶｈｏｍｏｃｌｉｎｉｃ　ｓａｄｄｌｅ　ｃｏｎｎｅｃｔｉｏｎと二つのｓｓ−ｓａｄｄｌｅ　ｃｏｎｎｅｃｔｉｏｎをもつパターンを規定するパターン語ＩＩ、および
　３）吸い込み湧き出し対をもたないパターンを規定するパターン語Ｏ、
である。

　そして、語表現形成部１０２ｃの操作語付与部１０２ｅは、パターン語付与部１０２ｄにより付与されたパターン語に対して、５種類の操作語Ａ_０，Ａ_２，Ｂ_０，Ｂ_２，Ｃのうちのいずれか一語を付与する（ステップＳＡ−２）。より具体的には、５種類の操作語は、
　１）一本のｓｓ−ｏｒｂｉｔを、一つのｓａｄｄｌｅ　ｐｏｉｎｔ、それを結び内部に穴をもつｈｏｍｏｃｌｉｎｉｃ　ｓａｄｄｌｅ　ｃｏｎｎｅｃｔｉｏｎと二つのｓｓ−ｓａｄｄｌｅ　ｃｏｎｎｅｃｔｉｏｎに置き換える操作を規定した操作語Ａ_０、
　２）一本のｓｓ−ｏｒｂｉｔを、二つのｓｓ−∂−ｓａｄｄｌｅ　ｃｏｎｎｅｃｔｉｏｎと新たに追加した境界上の二つの∂−ｓａｄｄｌｅに置き換える操作を規定した操作語Ａ_２、
　３）一本のｃｌｏｓｅｄ　ｏｒｂｉｔを、一つの穴とｓａｄｄｌｅ　ｐｏｉｎｔを追加して８の字をした２本のｈｏｍｏｃｌｉｎｉｃ　ｓａｄｄｌｅ　ｃｏｎｎｅｃｔｉｏｎに置き換える操作を規定した操作語Ｂ_０、
　４）一本のｃｌｏｓｅｄ　ｏｒｂｉｔを、新たに追加した穴の境界上に二つ∂−ｓａｄｄｌｅをつけて一本の∂−ｓａｄｄｌｅ　ｃｏｎｎｅｃｔｉｏｎでつなぐような軌道に置き換える操作を規定した操作語Ｂ_２、および、
　５）既に２ｋ個（ｋ＞０）の∂−ｓａｄｄｌｅをもつ境界に、新たに二つの∂−ｓａｄｄｌｅを付け加えて一本の∂−ｓａｄｄｌｅ　ｃｏｎｎｅｃｔｉｏｎでつなぎ内部に新たに付け加えた穴を置く操作を規定した操作語Ｃ、
　である。なお、上記の操作は、穴を追加する場合の操作を規定したものであることから、ある流線図に操作語を割り当てていくアルゴリズムＢにおいては、当該流線図に対して上記操作の逆の操作（逆の置き換え操作）を行うことになる。

　ここで、操作語付与部１０２ｅは、上記の操作がｓｓ−ｏｒｂｉｔやｃｌｏｓｅｄ　ｏｒｂｉｔ等の存在を前提にしていることから、以下の制約条件に従って操作語を付与してもよい。すなわち、操作語付与部１０２ｅは、５種類の操作語を付与する場合に、
　１）一本のｓｓ−ｏｒｂｉｔが存在することを条件に、操作語Ａ_０またはＡ_２を付与し、
　２）一本のｃｌｏｓｅｄ　ｏｒｂｉｔが存在することを条件に、操作語Ｂ_０またはＢ_２を付与し、
　３）∂−ｓａｄｄｌｅｓを持つ境界が存在することを条件に、操作語Ｃを付与してもよい。

　そして、語表現形成部１０２ｃの操作語付与部１０２ｅは、穴の数がＮ個に達したか否かを判定する（ステップＳＡ−３）。例えば、操作語付与部１０２ｅは、穴が１つの単連結外部領域Ｄ_ζ（０）におけるパターン語Ｉ，ＩＩに対して、穴がＮ個となるまで（Ｎ−１）個の操作語を付与し終えたか否かを判定する。また、操作語付与部１０２ｅは、穴が２つの二重連結外部領域Ｄ_ζ（１）におけるパターン語Ｏに対して、穴がＮ個となるまで（Ｎ−２）個の操作語を付与し終えたか否かを判定する。なお、アルゴリズムＡにおいては、求める多重連結外部領域の穴の数をＮ個と設定しているが、アルゴリズムＢにおいては予め穴の数を設定していない。アルゴリズムＢの場合は、操作語付与部１０２ｅは、流線図に対する操作語に従った置き換え操作によって、流線図が初期パターン（Ｉ，ＩＩ，またはＯ）に達したか否かで、穴の数がＮ個に達したか否かを判定してもよい。

　穴の数がＮ個に達していない場合（ステップＳＡ−３，Ｎｏ）、語表現形成部１０２ｃの操作語付与部１０２ｅは、これまでに作成した文字列に対して、更に操作語を付与する（ステップＳＡ−２）。

　一方、穴の数がＮ個に達した場合（ステップＳＡ−３，Ｙｅｓ）、語表現形成部１０２ｃの操作語付与部１０２ｅは、これまでに作成した文字列を語表現として対応関係ファイル１０６ｃに格納して処理を終える。

　以上が、本実施形態における流体遷移分析装置１００の語表現アルゴリズムの基本処理の一例である。このように語表現を形成させることによって、シミュレーション結果がどの流れパターンに対応するか語表現にて表すことができる。

［アルゴリズムＢ］
　つづいて、上述した語表現形成部１０２ｃによる基本処理を基礎として、流線図から語表現を求めるアルゴリズムＢの処理の詳細について、以下に図１３~図２０を参照して説明する。

［Ｂ−１．パターン語の割り当て処理］
　上述した基本処理のステップＳＡ−１におけるパターン語の割り当て処理について図１３を参照して以下に説明する。図１３は、パターン語の割り当て処理の一例を示すフローチャートである。

　ここで、与えられた流線図は、図１０に示したように円内の領域として描画の便宜上記載したが、本アルゴリズムは、もともと一様流を持つ非有界な領域における流れの判定アルゴリズムである。数値シミュレーションや実際の計測によって得られる流れは非有界な流れ場（から必要な部分を切り出した）の流線図であることから、円内の領域への変換が必要であるかどうかが問題になるが、本願発明者らによる鋭意検討の結果、本アルゴリズムを適用するにあたり、そのような変換は不要であることがわかった。それに基づいて、与えられた流線図に対して以下の処理を施せば、その流線図がＩ系列かＩＩ系列かＯ系列かがわかる。すなわち、以下の処理を実施する場合に、流線図をステレオ射影法等によって円内の領域へ変換することは不要である。

　図１３に示すように、パターン語付与部１０２ｄは、流線図から語表現を求めるアルゴリズムＢにおいて、与えられた流線図において、ｓｓ−∂−ｓａｄｄｌｅ　ｃｏｎｎｅｃｔｉｏｎが存在するか否かを判定する（ステップＳＡ−１１）。

　ｓｓ−∂−ｓａｄｄｌｅ　ｃｏｎｎｅｃｔｉｏｎが存在すると判定した場合（ステップＳＡ−１１，Ｙｅｓ）、パターン語付与部１０２ｄは、パターン語Ｉを付与する（ステップＳＡ−１２）。すなわち、与えられた流線図はＩ系列と判定される。

　一方、ｓｓ−∂−ｓａｄｄｌｅ　ｃｏｎｎｅｃｔｉｏｎが存在しない場合（ステップＳＡ−１１，Ｎｏ）、パターン語付与部１０２ｄは、流線図においてｓｓ−ｓａｄｄｌｅ　ｃｏｎｎｅｃｔｉｏｎが存在するか否かを判定する（ステップＳＡ−１３）。

　そして、ｓｓ−ｓａｄｄｌｅ　ｃｏｎｎｅｃｔｉｏｎが存在すると判定した場合（ステップＳＡ−１３，Ｙｅｓ）、パターン語付与部１０２ｄは、パターン語ＩＩを付与する（ステップＳＡ−１５）。すなわち、与えられた流線図はＩＩ系列と判定される。

　一方、ｓｓ−ｓａｄｄｌｅ　ｃｏｎｎｅｃｔｉｏｎが存在しない場合（ステップＳＡ−１３，Ｎｏ）、パターン語付与部１０２ｄは、パターン語Ｏを付与する（ステップＳＡ−１４）。すなわち、与えられた流線図はＯ系列と判定される。なお、本実施の形態では、一様流があること、すなわち吸い込み湧き出し対があることを前提としているため、Ｏ系列とは判定されないはずである。そのため、本実施の形態において、Ｏ系列と判定された場合には、流体遷移分析装置１００は、エラーを出力してもよい。

　以上が、パターン語の割り当て処理の一例である。

［Ｂ−２．Ｉ系列における操作語の割り当て処理］
　つづいて、アルゴリズムＢにおけるＩ系列の操作語の割り当て処理の一例について、図１４および図１５を参照して説明する。図１４および図１５は、アルゴリズムＢにおけるＩ系列の操作語の割り当て処理の一例を示すフローチャートである。

　図１４に示すように、流線解析部１０２ｂは、シミュレーション結果ファイル１０６ａに記憶された、数値シミュレーションや実験データから、流線解析により流線図を作成する（ステップＳＢ−１）。具体的には、流線解析部１０２ｂは、数値シミュレーション結果から、ｓａｄｄｌｅ　ｐｏｉｎｔや∂−ｓａｄｄｌｅなどをすべて計算した後、その点における流れ関数の値と同じ値を持つ流れ関数の等高線をすべて描画し、また、境界（ｂｏｕｎｄａｒｙ）上の流れ関数の値と同じ値を持つ流れ関数の等高線をすべて描画することにより流線図の作成が可能となる。そのほか、流線解析部１０２ｂは、Ｃｏｍｐｕｔａｔｉｏｎａｌ　Ｈｏｍｏｌｏｇｙ（非特許文献１）に記載の技術等を用いて、流れ場から条件を満たす特徴的な構造を抽出してもよい。なお、本実施形態において、流線解析部１０２ｂは、作成した流線図データを流線図ファイル１０６ｂに格納する。なお、データ管理上、流線解析部１０２ｂは、得られたすべての線やｓａｄｄｌｅ　ｐｏｉｎｔ，　ｓｓ−ｏｒｂｉｔｓ，　∂−ｓａｄｄｌｅ，　ｂｏｕｎｄａｒｙに番号をつけて流線図データを扱ってもよい。これにより、それらの包含関係をつけてその順位をつけてデータ構造を決めることによって、以降の前処理や各系列のアルゴリズムを計算機上で扱いやすくなる。

　そして、流線解析部１０２ｂは、流線図に対して前処理を施す（ステップＳＢ−２）。例えば、流線解析部１０２ｂは、与えられた流線図に対して以下の三つの前処理を施す。なお、これらの操作を施した回数をエラー数と呼び、語表現にてどの程度流線を表すことができているかの指標となる。例えば、渦潮では、平面上の流体の動きにとどまらず、平面の垂直方向にも海流が移動している。また、航空機等の物体について、一様流に沿った二次元断面と水平でない方向にも、障害物にぶつかった気体等が流れ込む場合がある。そこで、以下の前処理を行うことで、平面状の流れと近似して、前処理を行った回数（エラー回数）だけ、真から外れていることの指標としている。
１．　∂−ｓａｄｄｌｅの安定多様体、不安定多様体あるいは極限集合が、ｓｉｎｋ，ｓｏｕｒｃｅのｌｉｍｉｔ　ｃｙｃｌｅを含むならば、それを閉じてｓｉｎｋ，ｓｏｕｒｃｅ，ｌｉｍｉｔ　ｃｙｃｌｅを消去する。
２．　ｓｉｎｋの（吸引）領域を、ｃｅｎｔｅｒ／ｄｉｓｋとｈｏｍｏｃｌｉｎｉｃ（∂−）ｓａｄｄｌｅ　ｃｏｎｎｅｃｔｉｏｎに置き換える。
３．　ｓｏｕｒｃｅの（発散）領域を、ｃｅｎｔｅｒ／ｄｉｓｋ　とｈｏｍｏｃｌｉｎｉｃ（∂−）ｓａｄｄｌｅ　ｃｏｎｎｅｃｔｉｏｎに置き換える。

　そして、操作語付与部１０２ｅは、流線解析部１０２ｂにより前処理が施された流線図について、∂−ｓａｄｄｌｅが存在するか判定する（ステップＳＢ−３）。

　∂−ｓａｄｄｌｅが存在する場合（ステップＳＢ−３，Ｙｅｓ）、操作語付与部１０２ｅは、ちょうど２つの∂−ｓａｄｄｌｅが存在する境界で、ｓｓ−∂−ｓａｄｄｌｅ　ｃｏｎｎｅｃｔｉｏｎを持つものがあるか否かを判定する（ステップＳＢ−４）。

　ちょうど二つの∂−ｓａｄｄｌｅが存在する境界を含むｓｓ−∂−ｓａｄｄｌｅ　ｃｏｎｎｅｃｔｉｏｎを持つものがｋ個ある場合（ステップＳＢ−４，Ｙｅｓ）、操作語付与部１０２ｅは、操作語Ａ_２をｋ個付与し（ステップＳＢ−５）、流線解析部１０２ｂは、流線図上において、これら二つの∂−ｓａｄｄｌｅｓと境界（ｂｏｕｎｄａｒｙ）を消去して、一本のｓｓ−ｏｒｂｉｔに置き換える操作をｋ回行う（ステップＳＢ−６）。

　一方、ちょうど二つの∂−ｓａｄｄｌｅが存在する境界を含むｓｓ−∂−ｓａｄｄｌｅ　ｃｏｎｎｅｃｔｉｏｎを持つものがない場合（ステップＳＢ−４，Ｎｏ）、操作語付与部１０２ｅは、ちょうど２つの∂−ｓａｄｄｌｅが存在する境界で、同じ境界上の∂−ｓａｄｄｌｅ　ｃｏｎｎｅｃｔｉｏｎを持つものがあるか否かを判定する（ステップＳＢ−７）。

　ちょうど２つの∂−ｓａｄｄｌｅが存在する境界を含む∂−ｓａｄｄｌｅ　ｃｏｎｎｅｃｔｉｏｎを持つものがｋ個ある場合（ステップＳＢ−７，Ｙｅｓ）、操作語付与部１０２ｅは、操作語Ｂ_２をｋ個付与し（ステップＳＢ−８）、流線解析部１０２ｂは、流線図上において、同じ境界上の∂−ｓａｄｄｌｅ　ｃｏｎｎｅｃｔｉｏｎで結ばれた∂−ｓａｄｄｌｅと境界（ｂｏｕｎｄａｒｙ）を消去して一本のｐｅｒｉｏｄｉｃ　ｏｒｂｉｔ　に置き換える操作をｋ回行う（ステップＳＢ−９）。

　一方、ちょうど二つの∂−ｓａｄｄｌｅが存在する境界を含む∂−ｓａｄｄｌｅ　ｃｏｎｎｅｃｔｉｏｎを持つものがない場合（ステップＳＢ−７，Ｎｏ）、操作語付与部１０２ｅは、４つ以上の∂−ｓａｄｄｌｅを持つ境界の中に、同じ境界上の∂−ｓａｄｄｌｅ　ｃｏｎｎｅｃｔｉｏｎで、その内側がｃｅｎｔｅｒ／ｄｉｓｋであるものがあるか否かを判定する（ステップＳＢ−１０）。

　∂−ｓａｄｄｌｅを４つ以上含む境界上の∂−ｓａｄｄｌｅ　ｃｏｎｎｅｃｔｉｏｎで、その内側がｃｅｎｔｅｒ／ｄｉｓｋであるような境界がｋ個ある場合（ステップＳＢ−１０，Ｙｅｓ）、操作語付与部１０２ｅは、操作語Ｃをｋ個付与し（ステップＳＢ−１１）、流線解析部１０２ｂは、流線図上において、同じ境界上の∂−ｓａｄｄｌｅ　ｃｏｎｎｅｃｔｉｏｎと、それによって結ばれている二つの∂−ｓａｄｄｌｅと、それらに囲まれるｃｅｎｔｅｒ／ｄｉｓｋを消去する操作をｋ回行う（ステップＳＢ−１２）。

　一方、∂−ｓａｄｄｌｅを４つ以上含む境界上の∂−ｓａｄｄｌｅ　ｃｏｎｎｅｃｔｉｏｎで、その内側がｃｅｎｔｅｒ／ｄｉｓｋであるような境界がない場合（ステップＳＢ−１０，Ｎｏ）、もっとも内側にあるＦｉｇｕｒｅ　ｅｉｇｈｔ（すなわち∂−ｓａｄｄｌｅ　ｃｏｎｎｅｃｔｉｏｎで、その内側の少なくとも片方がｃｅｎｔｅｒ／ｄｉｓｋであるもの）が存在するので、その数をｋ個とし、操作語付与部１０２ｅは、操作語Ｂ_０をｋ個付与し（ステップＳＢ−１３）、流線解析部１０２ｂは、流線図上において、もっとも内側にあるＦｉｇｕｒｅ　ｅｉｇｈｔからｓａｄｄｌｅ　ｐｏｉｎｔとｂｏｕｎｄａｒｙを一つ消去して、ｃｅｎｔｅｒ／ｄｉｓｋを囲むｐｅｒｉｏｄｉｃ　ｏｒｂｉｔに置き換える操作をｋ回行う（ステップＳＢ−１４）。ここで、「Ｆｉｇｕｒｅ　ｅｉｇｈｔ」とは、一つのサドル点とそれをつなぐ二つのｈｏｍｏｃｌｉｎｉｃ　ｓａｄｄｌｅ　ｃｏｎｎｅｃｔｉｏｎｓからなり、各ｈｏｍｏｃｌｉｎｉｃ　ｓａｄｄｌｅ　ｃｏｎｎｅｃｔｉｏｎはその内部にｃｅｎｔｅｒ／ｄｉｓｋを囲んでいるような（８の字のような形をした）流れの構造を指す。

　そして、以上の処理を行った後、処理をステップＳＢ−３に戻し、まだ∂−ｓａｄｄｌｅが存在する場合は（ステップＳＢ−３，Ｙｅｓ）、流体遷移分析装置１００は、上述した処理を繰り返す。

　一方、∂−ｓａｄｄｌｅがなくなった場合は（ステップＳＢ−３，Ｎｏ）、図１５に示すように、操作語付与部１０２ｅは、ｓａｄｄｌｅ　ｐｏｉｎｔ（サドル点）が存在するか否かを判定する（ステップＳＢ−１５）。

　ｓａｄｄｌｅ　ｐｏｉｎｔが存在する場合（ステップＳＢ−１５，Ｙｅｓ）、操作語付与部１０２ｅは、Ｆｉｇｕｒｅ　ｅｉｇｈｔパターンに存在するｓａｄｄｌｅ　ｐｏｉｎｔがあるか否かを判定する（ステップＳＢ−１６）。

　Ｆｉｇｕｒｅ　ｅｉｇｈｔパターンに存在するｓａｄｄｌｅ　ｐｏｉｎｔがｋ個ある場合（ステップＳＢ−１６，Ｙｅｓ）、操作語付与部１０２ｅは、操作語Ｂ_０をｋ個付与し（ステップＳＢ−１７）、流線解析部１０２ｂは、流線図上において、もっとも内側にあるＦｉｇｕｒｅ　ｅｉｇｈｔパターンを一つのｃｅｎｔｅｒ／ｄｉｓｋまわりのｐｅｒｉｏｄｉｃ　ｏｒｂｉｔに置き換える操作をｋ回行う（ステップＳＢ−１８）。

　一方、Ｆｉｇｕｒｅ　ｅｉｇｈｔパターンに存在するｓａｄｄｌｅ　ｐｏｉｎｔがない場合（ステップＳＢ−１６，Ｎｏ）、ｓｓ−ｓａｄｄｌｅ　ｃｏｎｎｅｃｔｉｏｎで，かつｈｏｍｏｃｌｉｎｉｃ　ｓａｄｄｌｅ　ｃｏｎｎｅｃｔｉｏｎを持ち、その内側がｃｅｎｔｅｒ／ｄｉｓｋであるものが存在するので、その数をｋ個とし、操作語付与部１０２ｅは、操作語Ａ_０を付与し（ステップＳＢ−１９）、流線解析部１０２ｂは、ｓａｄｄｌｅ　ｐｏｉｎｔ（サドル点）とそれを結ぶｈｏｍｏｃｌｉｎｉｃ　ｓａｄｄｌｅ　ｃｏｎｎｅｃｔｉｏｎおよび、それらに囲まれるｃｅｎｔｅｒ／ｄｉｓｋを消去する操作をｋ回行う（ステップＳＢ−２０）。

　そして、以上の処理を行った後、処理をステップＳＢ−１５に戻し、まだｓａｄｄｌｅ　ｐｏｉｎｔが存在する場合は（ステップＳＢ−１５，Ｙｅｓ）、流体遷移分析装置１００は、上述した処理を繰り返す。

　一方、ｓａｄｄｌｅ　ｐｏｉｎｔがもはやない場合は（ステップＳＢ−１５，Ｎｏ）、流体遷移分析装置１００は、アルゴリズムＢにおけるＩ系列の操作語の割り当て処理を終え、語表現形成部１０２ｃにより形成された語表現は、対応関係取得部１０２ｇの制御により、その時点で物体が受ける力に対応付けて、対応関係ファイル１０６ｃに格納される。なお、語表現形成部１０２ｃの極大語表現部１０２ｆは、得られた文字列の中から一つＡ_２を選んで、それをＩと置き換えて文字列の先頭に移動させ、残りの文字列をルールに従って並び替えれば、極大語（ｍａｘｉｍａｌ　ｗｏｒｄ）に変換することができる。

［Ｂ−３．ＩＩ系列における操作語の割り当て処理］
　つづいて、アルゴリズムＢにおけるＩＩ系列の操作語の割り当て処理の一例について、図１６を参照して説明する。図１６は、アルゴリズムＢにおけるＩＩ系列の操作語の割り当て処理の一例を示すフローチャートである。なお、Ｉ系列の操作語の割り当て処理のステップＳＢ−１およびステップＳＢ−２と同様に、流線解析により流線図の作成と前処理が行われていてもよい。

　図１６に示すように、操作語付与部１０２ｅは、与えられた流線図について、∂−ｓａｄｄｌｅが存在するか判定する（ステップＳＣ−１）。

　∂−ｓａｄｄｌｅが存在する場合（ステップＳＣ−１，Ｙｅｓ）、操作語付与部１０２ｅは、ちょうど２つの∂−ｓａｄｄｌｅが存在する境界で、その境界上の∂−ｓａｄｄｌｅ　ｃｏｎｎｅｃｔｉｏｎを持つものがあるか否かを判定する（ステップＳＣ−２）。

　ちょうど２つの∂−ｓａｄｄｌｅが存在する境界を含む∂−ｓａｄｄｌｅ　ｃｏｎｎｅｃｔｉｏｎを持つものがｋ個ある場合（ステップＳＣ−２，Ｙｅｓ）、操作語付与部１０２ｅは、操作語Ｂ_２をｋ個付与し（ステップＳＣ−３）、流線解析部１０２ｂは、流線図上において、同じ境界上の∂−ｓａｄｄｌｅと∂−ｓａｄｄｌｅ　ｃｏｎｎｅｃｔｉｏｎを一本のｐｅｒｉｏｄｉｃ　ｏｒｂｉｔに置き換える操作をｋ回行う（ステップＳＣ−４）。

　一方、ちょうど２つの∂−ｓａｄｄｌｅが存在する境界を含む∂−ｓａｄｄｌｅ　ｃｏｎｎｅｃｔｉｏｎを持つものがない場合（ステップＳＣ−２，Ｎｏ）、操作語付与部１０２ｅは、４つ以上の∂−ｓａｄｄｌｅを持つ境界の中に、同じ境界上の∂−ｓａｄｄｌｅ　ｃｏｎｎｅｃｔｉｏｎで、その内側がｃｅｎｔｅｒ／ｄｉｓｋであるものがあるか否かを判定する（ステップＳＣ−５）。

　∂−ｓａｄｄｌｅを４つ以上含む境界上の∂−ｓａｄｄｌｅ　ｃｏｎｎｅｃｔｉｏｎで、その内側がｃｅｎｔｅｒ／ｄｉｓｋであるような境界がｋ個ある場合（ステップＳＣ−５，Ｙｅｓ）、操作語付与部１０２ｅは、操作語Ｃをｋ個付与し（ステップＳＣ−６）、流線解析部１０２ｂは、流線図上において、同じ境界上の∂−ｓａｄｄｌｅ　ｃｏｎｎｅｃｔｉｏｎと、それによって結ばれている二つの∂−ｓａｄｄｌｅと、それらに囲まれるｃｅｎｔｅｒ／ｄｉｓｋを消去する操作をｋ回行う（ステップＳＣ−７）。

　一方、∂−ｓａｄｄｌｅを４つ以上含む境界上の∂−ｓａｄｄｌｅ　ｃｏｎｎｅｃｔｉｏｎで、その内側がｃｅｎｔｅｒ／ｄｉｓｋであるような境界がない場合（ステップＳＣ−５，Ｎｏ）、もっとも内側にあるＦｉｇｕｒｅ　ｅｉｇｈｔが存在するので、その数をｋ個とし、操作語付与部１０２ｅは、操作語Ｂ_０をｋ個付与し（ステップＳＣ−８）、流線解析部１０２ｂは、流線図上において、もっとも内側にあるＦｉｇｕｒｅ　ｅｉｇｈｔパターンを、一つのｃｅｎｔｅｒ／ｄｉｓｋを囲むｐｅｒｉｏｄｉｃ　ｏｒｂｉｔに置き換える操作をｋ回行う（ステップＳＣ−９）。

　そして、以上の処理を行った後、処理をステップＳＣ−１に戻し、まだ∂−ｓａｄｄｌｅが存在する場合は（ステップＳＣ−１，Ｙｅｓ）、流体遷移分析装置１００は、上述した処理を繰り返す。

　一方、∂−ｓａｄｄｌｅがもはやない場合は（ステップＳＣ−１，Ｎｏ）、操作語付与部１０２ｅは、ｓａｄｄｌｅ　ｐｏｉｎｔ（サドル点）が存在するか否かを判定する（ステップＳＣ−１０）。

　ｓａｄｄｌｅ　ｐｏｉｎｔが存在する場合（ステップＳＣ−１０，Ｙｅｓ）、操作語付与部１０２ｅは、Ｆｉｇｕｒｅ　ｅｉｇｈｔパターンに存在するｓａｄｄｌｅ　ｐｏｉｎｔがあるか否かを判定する（ステップＳＣ−１１）。

　Ｆｉｇｕｒｅ　ｅｉｇｈｔパターンに存在するｓａｄｄｌｅ　ｐｏｉｎｔがｋ個ある場合（ステップＳＣ−１１，Ｙｅｓ）、操作語付与部１０２ｅは、操作語Ｂ_０をｋ個付与し（ステップＳＣ−１２）、流線解析部１０２ｂは、流線図上において、もっとも内側にあるＦｉｇｕｒｅ　ｅｉｇｈｔパターンを一つのｃｅｎｔｅｒ／ｄｉｓｋまわりのｐｅｒｉｏｄｉｃ　ｏｒｂｉｔに置き換える操作をｋ回行う（ステップＳＣ−１３）。

　一方、Ｆｉｇｕｒｅ　ｅｉｇｈｔパターンに存在するｓａｄｄｌｅ　ｐｏｉｎｔがない場合（ステップＳＣ−１１，Ｎｏ）、ｓｓ−ｓａｄｄｌｅ　ｃｏｎｎｅｃｔｉｏｎで，かつｈｏｍｏｃｌｉｎｉｃ　ｓａｄｄｌｅ　ｃｏｎｎｅｃｔｉｏｎを持ち、その内側がｃｅｎｔｅｒ／ｄｉｓｋであるものが存在するので、その数をｋ個とし、操作語付与部１０２ｅは、操作語Ａ_０をｋ個付与し（ステップＳＣ−１４）、流線解析部１０２ｂは、ｓａｄｄｌｅ　ｐｏｉｎｔ（サドル点）とそれを結ぶｈｏｍｏｃｌｉｎｉｃ　ｓａｄｄｌｅ　ｃｏｎｎｅｃｔｉｏｎおよび、それらに囲まれるｃｅｎｔｅｒ／ｄｉｓｋを消去する操作をｋ回行う（ステップＳＣ−１５）。

　そして、以上の処理を行った後、処理をステップＳＣ−１０に戻し、まだｓａｄｄｌｅ　ｐｏｉｎｔが存在する場合は（ステップＳＣ−１０，Ｙｅｓ）、流体遷移分析装置１００は、上述した処理を繰り返す。

　一方、ｓａｄｄｌｅ　ｐｏｉｎｔがもはやない場合は（ステップＳＣ−１０，Ｎｏ）、流体遷移分析装置１００は、アルゴリズムＢにおけるＩＩ系列の操作語の割り当て処理を終える。なお、得られた文字列の中から一つＡ_０を選んで、それをＩＩと置き換えて文字列の先端に移動し、残りの文字列をルールに従って並び替えれば極大語（ｍａｘｉｍａｌ　ｗｏｒｄ）に変換することが可能である。

　以上が、流線図からＩ系列およびＩＩ系列の語表現を求めるアルゴリズムＢの処理の詳細な例である。これにより、吸い込み湧き出し対を有する流線図に対応する語表現を適切に求めることができる。なお、以上のアルゴリズムＢの処理は、一例に過ぎず、本発明は、上記のアルゴリズムに限定されるものではない。例えば、アルゴリズムＢの処理の他の例として、以下の処理を行ってもよいものである。

［Ｂ−４．Ｉ，ＩＩ系列における操作語の割り当て処理（亜種アルゴリズム）］
　ここで、アルゴリズムＢにおける操作語Ｉ，ＩＩの割り当て処理の他の例（亜種アルゴリズム）について、図１７および図１８を参照して説明する。図１７および図１８は、アルゴリズムＢ（Ｉ，ＩＩ−Ｗｏｒｄ　ａｌｇ）におけるＩ，ＩＩ系列の操作語の割り当て処理の他の例を示すフローチャートである。なお、上述した割り当て処理のステップＳＢ−１およびステップＳＢ−２と同様に、流線解析により流線図の作成と前処理が行われていてもよい。また、以下の操作語の割り当て処理において、操作語を付与する場合は、後ろから前に付与するものとする。

　図１７および図１８に示すように、操作語付与部１０２ｅは、流線解析部１０２ｂにより前処理が施された流線図について、吸い込み湧き出し対（１−ｓｏｕｒｃｅ−ｓｉｎｋ）に繋がっていないｓａｄｄｌｅが存在する、または、∂−ｓａｄｄｌｅ　ｃｏｎｎｅｃｔｉｏｎが存在するか判定する（ステップＳＩ−１）。

　吸い込み湧き出し対（１−ｓｏｕｒｃｅ−ｓｉｎｋ）に繋がっていないｓａｄｄｌｅが存在する、または、∂−ｓａｄｄｌｅ　ｃｏｎｎｅｃｔｉｏｎが存在する場合（ステップＳＩ−１，Ｙｅｓ）、操作語付与部１０２ｅは、ちょうど２つの∂−ｓａｄｄｌｅが存在する境界で、∂−ｓａｄｄｌｅ　ｃｏｎｎｅｃｔｉｏｎを持つものがあるか否かを判定する（ステップＳＩ−２）。

　ちょうど２つの∂−ｓａｄｄｌｅが存在する境界で、∂−ｓａｄｄｌｅ　ｃｏｎｎｅｃｔｉｏｎを持つものがｋ個ある場合（ステップＳＩ−２，Ｙｅｓ）、操作語付与部１０２ｅは、操作語Ｂ_２をｋ個付与し（ステップＳＩ−３）、流線解析部１０２ｂは、流線図上において、同じ境界上の∂−ｓａｄｄｌｅ　ｃｏｎｎｅｃｔｉｏｎで結ばれた∂−ｓａｄｄｌｅと境界（ｂｏｕｎｄａｒｙ）を消去して一本のｐｅｒｉｏｄｉｃ　ｏｒｂｉｔ　に置き換える操作をｋ回行う（ステップＳＩ−４）。

　ちょうど２つの∂−ｓａｄｄｌｅが存在する境界で、∂−ｓａｄｄｌｅ　ｃｏｎｎｅｃｔｉｏｎを持つものがない場合であって（ステップＳＩ−２，Ｎｏ）、もっとも内側にあるＦｉｇｕｒｅ　ｅｉｇｈｔパターンがある場合（ステップＳＩ−５，Ｙｅｓ）、操作語付与部１０２ｅは、操作語Ｂ_０を付与し、操作語付与部１０２ｅは、流線図上において、もっとも内側にあるＦｉｇｕｒｅ　ｅｉｇｈｔパターンを一つのｃｅｎｔｅｒ／ｄｉｓｋまわりのｐｅｒｉｏｄｉｃ　ｏｒｂｉｔに置き換える操作を行う（ステップＳＩ−６）。この操作（操作語Ｂ_０を付与し、ｐｅｒｉｏｄｉｃ　ｏｒｂｉｔに置き換える操作）は、可能な限り繰り返し実行される。

　一方、もっとも内側にあるＦｉｇｕｒｅ　ｅｉｇｈｔパターンに存在するｓａｄｄｌｅ　ｐｏｉｎｔがない場合（ステップＳＩ−５，Ｎｏ）、すなわち∂−ｓａｄｄｌｅを４つ以上含む境界上の∂−ｓａｄｄｌｅ　ｃｏｎｎｅｃｔｉｏｎで、その内側がｃｅｎｔｅｒ／ｄｉｓｋであるような境界がある場合、操作語付与部１０２ｅは、操作語Ｃを付与し、流線解析部１０２ｂは、流線図上において、その境界上の∂−ｓａｄｄｌｅ　ｃｏｎｎｅｃｔｉｏｎと、それによって結ばれている二つの∂−ｓａｄｄｌｅと、それらに囲まれるｃｅｎｔｅｒ／ｄｉｓｋを消去する操作を繰り返し行う（ステップＳＩ−７）。この操作（操作語Ｃを付与し、ｃｅｎｔｅｒ／ｄｉｓｋを消去する操作）は、可能な限り繰り返し実行される。

　そして、以上の処理を行った後、処理をステップＳＩ−１に戻し、まだ吸い込み湧き出し対（１−ｓｏｕｒｃｅ−ｓｉｎｋ）に繋がっていないｓａｄｄｌｅが存在する、または、∂−ｓａｄｄｌｅ　ｃｏｎｎｅｃｔｉｏｎが存在する場合は（ステップＳＩ−１，Ｙｅｓ）、流体遷移分析装置１００は、上述した処理を繰り返す。

　一方、吸い込み湧き出し対（１−ｓｏｕｒｃｅ−ｓｉｎｋ）に繋がっているｓａｄｄｌｅのみが存在し、かつ、∂−ｓａｄｄｌｅ　ｃｏｎｎｅｃｔｉｏｎがもはやない場合は（ステップＳＩ−１，Ｎｏ）、図１８に示すように、操作語付与部１０２ｅは、ｓｓ−∂−ｓａｄｄｌｅが存在するか判定する（ステップＳＨ−１）。

　そして、ｓｓ−∂−ｓａｄｄｌｅが存在しない場合（ステップＳＨ−１，Ｎｏ）、流線解析部１０２ｂは、ｓａｄｄｌｅ　ｐｏｉｎｔ（サドル点）とそれを結ぶｈｏｍｏｃｌｉｎｉｃ　ｓａｄｄｌｅ　ｃｏｎｎｅｃｔｉｏｎおよび、それらに囲まれるｃｅｎｔｅｒ／ｄｉｓｋを消去する操作を１回行う（ステップＳＨ−２）。

　そして、ｓｓ−ｓａｄｄｌｅがｋ個あるとき、操作語付与部１０２ｅは、操作語Ａ_０をｋ個付与する（ステップＳＨ−３）。

　そして、流線解析部１０２ｂは、ｓａｄｄｌｅ　ｐｏｉｎｔ（サドル点）とそれを結ぶｈｏｍｏｃｌｉｎｉｃ　ｓａｄｄｌｅ　ｃｏｎｎｅｃｔｉｏｎおよび、それらに囲まれるｃｅｎｔｅｒ／ｄｉｓｋを消去する操作をｋ回行う（ステップＳＨ−４）。

　そして、パターン語付与部１０２ｄは、パターン語ＩＩを付与し（ステップＳＨ−５）、流体遷移分析装置１００は、アルゴリズムＢ（Ｉ，ＩＩ−Ｗｏｒｄ　ａｌｇ）におけるＩ，ＩＩ系列の操作語の割り当て処理を終える。なお、得られた文字列は極大語（ｍａｘｉｍａｌ　ｗｏｒｄ）である。

　一方、上記のステップＳＨ−１において、ｓｓ−∂−ｓａｄｄｌｅが存在する場合（ステップＳＨ−１，Ｙｅｓ）、流線解析部１０２ｂは、流線図上において、これら二つの∂−ｓａｄｄｌｅｓと境界（ｂｏｕｎｄａｒｙ）を消去して、一本のｓｓ−ｏｒｂｉｔに置き換える操作を１回行う（ステップＳＨ−７）。

　そして、ｓｓ−∂−ｓａｄｄｌｅがｋ個あるとき、操作語付与部１０２ｅは、操作語Ａ_２をｋ個付与する（ステップＳＨ−８）。

　そして、流線解析部１０２ｂは、流線図上において、これら二つの∂−ｓａｄｄｌｅｓと境界（ｂｏｕｎｄａｒｙ）を消去して、一本のｓｓ−ｏｒｂｉｔに置き換える操作をｋ回行う（ステップＳＨ−９）。

　そして、操作語付与部１０２ｅは、ｓｓ−ｓａｄｄｌｅがｋ個あるとき、操作語Ａ_０をｋ個付与する（ステップＳＨ−１０）。

　そして、流線解析部１０２ｂは、ｓａｄｄｌｅ　ｐｏｉｎｔ（サドル点）とそれを結ぶｈｏｍｏｃｌｉｎｉｃ　ｓａｄｄｌｅ　ｃｏｎｎｅｃｔｉｏｎおよび、それらに囲まれるｃｅｎｔｅｒ／ｄｉｓｋを消去する操作をｋ回行う（ステップＳＨ−１１）。

　そして、パターン語付与部１０２ｄは、パターン語Ｉを付与し（ステップＳＨ−１２）、流体遷移分析装置１００は、アルゴリズムＢ（Ｉ，ＩＩ−Ｗｏｒｄ　ａｌｇ）におけるＩ，ＩＩ系列の操作語の割り当て処理を終える。なお、得られた文字列は極大語（ｍａｘｉｍａｌ　ｗｏｒｄ）である。

　以上が、流線図から語表現を求めるＩ系列およびＩＩ系列のアルゴリズムＢの処理（亜種アルゴリズム）の詳細な例である。これにより、任意の流線図に対応する語表現を適切に求めることができる。

［極大語表現］
　得られる語表現には冗長性がある場合があるので、パターン語の組み合わせから全文字列を生成したのち、各文字列が極大語になっているか否かを判定し、冗長性のない極大語表現を得る原理と方法について説明する。

　すなわち、操作語を付与する場合の制約条件に従えば、原則的にはすべての構造安定な流れの位相構造は、操作語を列挙することで表現することができる。ただし、注意すべき点は、「一つの流れパターンを表現する語は複数ある」ということである。また一方で「一つの語表現で表される流れのパターンも複数ある」という点である。この実例は、ＩＡ_０Ａ_２とＩＡ_２Ａ_０等にみることができる。語表現という観点からすれば、後者の点は特に大きな問題ではない。ある一つの語がある流れパターンの集合（グループ）を表現するにすぎないからである。一方、前者の点は一つの流れを複数の語が表現すると冗長であり、たいへん紛らわしいので問題である。そこで、「極大語表現（ｍａｘｉｍａｌ　ｗｏｒｄ　ｒｅｐｒｅｓｅｎｔａｔｉｏｎ）」というものを用いてこの問題を解決することができる。

　この極大語表現は、Ｉ系列，ＩＩ系列，Ｏ系列で与えられている操作を表す文字列の順序の入れ替えによって、それが表現している流れの集合がどうなるかを調べることによって導入される。例えば、文字ＩＡ_０Ａ_２とＩＡ_２Ａ_０なる二つの語表現について、これらが表す流れのパターンは同じであることが示されるのでＡ_０とＡ_２の入れ替えによって表現されるパターンは変化しない。そこで、「Ａ_０のほうがＡ_２より先に語表現の中で現れる」というルールを追加して、重複するＩＡ_２Ａ_０という表現を排除する。このような文字の入れ替えに関して起こる、語表現されるパターンの変化を象徴的にＡ_０Ａ_２＝Ａ_２Ａ_０のように表現することにする。このように語を入れ替えても、それが表すパターンが変化しないような組み合わせが、Ｌｅｍｍａ３．５とＬｅｍｍａ３．６に与えられる。

　一方で、語を入れ替えることによって、それが表現するパターンの集合が変化する場合もある。例えばＩＢ_０Ａ_０とＩＡ_０Ｂ_０については、前者が表すパターンの集合は後者が表すパターンの集合に含まれる包含関係がある。すなわち集合の記号を使えば、（ＩＢ_０Ａ_０）⊂（ＩＡ_０Ｂ_０）となる。このように入れ替えによって、一方が一方のパターンの集合を含んでしまう場合は、含まれる側の語表現は排除して、より大きな語表現のみを採用する。この関係式を象徴的にＢ_０Ａ_０≦Ａ_０Ｂ_０と表現することにする。このような包含関係を生むような語の入れ替えの組み合わせはＬｅｍｍａ３．７で与えられる。

　これらの語の入れ替えによる包含関係式をまとめたものが下の表である。なお、Ｂ_２Ｃ｜｜ＣＢ_２は、Ｂ_２とＣが入れ替えても包含関係が成立しないので、この二つは入れ替えることができないことを表している。

　なお、ある適切なアルゴリズムを１つ固定すると、これらの語表現の入れ替えによりできる極大語表現は、一つのパターンに対して、必ず一つしかないということを数学的に証明可能である（Ｌｅｍｍａ　３．８参照）。

　さらに、これに基づいて極大語表現の標準形を求めることができる。Ｏ系列に対する極大語表現の標準形を与えたのがＴｈｅｏｒｅｍ　３．３であり、Ｉ系列に対する極大語表現の標準形を与えたのがＴｈｅｏｒｅｍ　３．４であり、ＩＩ系列に対するそれはＴｈｅｏｒｅｍ　３．５で与えられている。

　上記の理論に基づいて、文字列が極大語になっているか否かを判定し、アルゴリズムＢにおいて極大語表現になるように書き換えたり、アルゴリズムＡにおいて極大語表現のみを書き出したりすることができる。これにより、重複なく文字列を得ることができるので、位相上、一つの流れパターンについて、一つの語表現を割り当てることができ、冗長性を排除することができる。

　本願発明者らは、二次元多重連結領域内における非粘性・非圧縮流体の運動における、構造安定な流れについて、その位相構造を分類し、それに一意の語表現を与えるアルゴリズムを開発し発表を行っている（文献「Ｔ．　Ｙｏｋｏｙａｍａ　ａｎｄ　Ｔ．　Ｓａｋａｊｏ，　“Ｗｏｒｄ　ｒｅｐｒｅｓｅｎｔａｔｉｏｎ　ｏｆ　ｓｔｒｅａｍｌｉｎｅ　ｔｏｐｏｌｏｇｙ　ｆｏｒ　ｓｔｒｕｃｔｕｒａｌｌｙ　ｓｔａｂｌｅ　ｖｏｒｔｅｘ　ｆｌｏｗｓ　ｉｎ　ｍｕｌｔｉｐｌｙ　ｃｏｎｎｅｃｔｅｄ　ｄｏｍａｉｎｓ”，　Ｐｒｏｃ．　Ｒｏｙ．　Ｓｏｃ．　Ａ　４６９　（２０１３）ｄｏｉ：　１０．１０９８／ｒｓｐａ．２０１２．０５５８」参照）．

　以下の本実施形態にかかる実施例においては、上述の文献における「語変換アルゴリズム」を用いて、各時刻において与えられた二次元非粘性・非圧縮流体の流れの位相構造（トポロジー）に一意な極大語表現を与え、揚抗比の遷移と語表現による特徴づけを行うことを目的とした。

　より具体的には、「語変換アルゴリズム」を各時刻における瞬間の流線構造に対して適用することで、非定常な流れの時間発展を、その流線構造の極大語表現の変化として特徴づけた。そこで、本実施形態を具体的な問題に適用した結果について以下に記述する。

　まず、上述した図１に示すように、二次元外部領域内における粘性・非圧縮流体を考え、その中に有限の厚みを持つ薄い一枚の平板が一様流に対して一定の角度で傾いておかれている状況を考える（各記号の説明は後ほど与える）。このような流れは、航空機に代表される飛翔物体における翼のモデルとしてしばしば用いられ、流体からその平板が受ける力を考えることが応用上重要である。そのため、こうした流れに対して、数多くの風洞実験や数値計算による定量的な研究が行われてきた。本実施例では、こうした従来の研究手法とは全く異なり、語変換アルゴリズムを用いて平板回りの流れの流線の位相構造を語表現して、その語の変化と平板が受ける力の変動を対応づけることにより、その定量的な情報と流れの特徴構造を対応づける分類表を作ることを目的とする。

　本語表現の理論は、非粘性流体に対して作られたものであるが、対象とする流体は粘性流体であるため、理論の適用を無条件に行うことはできないので、特に以下の観点を考慮して工夫した。すなわち、非粘性流体における流れの境界条件は、物体境界に接する方向に流体が流れるという「すべり境界条件（ｓｌｉｐ　ｂｏｕｎｄａｒｙ　ｃｏｎｄｉｔｉｏｎ）」を課すのが自然であるが、粘性流体では流体が物体境界で動かない「すべりなし境界条件」を課す必要がある。

　この境界条件のために、粘性流体では境界の近傍に境界層とよばれる渦ありの流れ領域が形成されるだけでなく、時間発展を通じてそこから多くの渦構造が生成され、物体の周辺に放出されることが知られている。本理論を適用するにあたって、本願発明者らは、これらの問題にどう対処するかを鋭意検討し、そこには一定の制限がつくものの、好適に適用することができる方法を見出した。なお、本実施形態によれば、粘性流体の現象の語表現による記述の限界がどこにあるかについて明らかにすることも可能となる。

　本実施形態において、とりあげる計測量は、物体に働く揚力と抗力およびその比（揚抗比）である。揚力とは、流体から物体が受ける流れに垂直な向きの力で、これが翼の飛翔を支える基本的な流体力である。一方、抗力は、流体から物体が受ける流れ方向の抵抗力である。抵抗力は、流体に粘性があり、そこに物体がある以上ゼロにすることは難しい（一方で、非粘性の流れにおいては抵抗力がゼロとなることが知られている）ので、ここで着目すべき量は得られる揚力と抗力のトレードオフを表す揚力と抗力の比（＝揚抗比）である。

　この揚抗比を大きくしたまま時間変動を抑えて流れを安定化させることが効率的な飛翔物体の設計には重要であるが、一般に流体運動が非定常である場合は、揚抗比は一定でなく時間的に大きな変動を示す。従来、このような変動が周辺の流れの構造のどのような変化によってもたらされるかについて精密な記述が行われた例は極めて少ない。特に、本願のように、ある流れパターンの流れに対して、一意な語表現を与えるという汎用性・可搬性の高い形式で、記述された例は全くない。

　そこで、本実施例では、様々な流体のパラメータ領域に対して記述を試み、語表現による流線構造の遷移表現と揚抗比の変動を対応づける表を提示することを特徴とする。そして、様々なパラメータについて網羅的に対応表が得られれば、どのようなパラメータに設定すれば流れが安定するか、理想的な流れパターンに導くには、前段階としてどのような遷移順序で導けばよいのか、反対に、渦が絶えず移動するような不安定な流れにならないようにするにはどのような構造の特徴が必要かなどの知見を得ることができ、語表現を基準として様々な構造設計等が可能となる。

　本実施例において、この粘性・非圧縮流れの時間発展は、二次元のナヴィエ・ストークス方程式を数値的（近似的）に解くことで求めた。流れの中に平板のような境界が存在している場合について、境界近傍の流れを精度良く近似するために、本実施例では、Ｖｏｌｕｍｅ　ｐｅｎａｌｉｚａｔｉｏｎ法（ＶＰ法）と呼ばれる数値計算手法を用いた（文献「Ｐ．　Ａｎｇｏｔ，　Ｃ．−Ｈ．　Ｂｒｕｎｅａｕ　ａｎｄ　Ｐ．　Ｆａｂｒｉｅ，　“Ａ　ｐｅｎａｌｉｚａｔｉｏｎ　ｍｅｔｈｏｄ　ｔｏ　ｔａｋｅ　ｉｎｔｏ　ａｃｃｏｕｎｔ　ｏｂｓｔａｃｌｅｓ　ｉｎ　ｉｎｃｏｍｐｒｅｓｓｉｂｌｅ　ｖｉｓｃｏｕｓ　ｆｌｏｗｓ”，　Ｎｕｍ．　Ｍａｔｈ．　８１　（１９９９）　ｐｐ．　４９７−５２０．」参照）。

　なお、この流体方程式の数値計算法には、他にも有限要素法や有限差分法、有限体積法といったものが数多く知られているが、いずれの手法で解いても十分な近似精度がある離散化を行えば、その結果得られる流れの様子はほとんど同じであるため、どの数値計算法を用いるかについては本質的なものではない。ここで、本実施形態が実施可能であることを示す意味でも、本実施例において、用いた数値計算パラメータを以下に示す。本実施例では、空間離散化はフーリエ・スペクトル法を用いて行い、ｘ軸、ｙ軸方向に周期境界条件を課した。なお、その手法及びパラメータについて、文献「Ｄ．Ｋｏｌｏｍｅｎｓｋｉｙ，　Ｋ．Ｓｃｈｎｅｉｄｅｒ，　“Ａ　Ｆｏｕｒｉｅｒ　ｓｐｅｃｔｒａｌ　ｍｅｔｈｏｄ　ｆｏｒ　ｔｈｅ　Ｎａｖｉｅｒ−　Ｓｔｏｋｅｓ　ｅｑｕａｔｉｏｎｓ　ｗｉｔｈ　ｖｏｌｕｍｅ　ｐｅｎａｌｉｚａｔｉｏｎ　ｆｏｒ　ｍｏｖｉｎｇ　ｓｏｌｉｄ　ｏｂｓｔａｃｌｅｓ”，　Ｊｏｕｒｎａｌ　ｏｆ　Ｃｏｍｐｕｔａｔｏｎａｌ　Ｐｈｙｓｉｃｓ　２２８　（２００９）　ｐｐ．　５６８７−５７０９」を参考にした。

　また、本実施例では、平板に対してガウシアンフィルタを用いて、ＶＰ法において平板を表すマスク関数を平滑化している。さらに、平板で生じる渦が流れ去って周期境界条件の影響で再び前方からその渦が流入する影響を取り除くため、渦度を人工的に消すフリンジ領域を平板後方に十分離れた箇所に設けている（文献「澤村陽一，　石原卓，　“Ｖｏｌｕｍｅ　Ｐｅｎａｌｉｚａｔｉｏｎ　法による翼果まわりの流れの数値解析”，京都大学数理解析研究所講究録Ｎｏ．１８０８　（２０１２）　ｐｐ．１０１−１２０」参照）。

　数値計算のパラメータとして、空間のサイズはｙ方向Ｌｙ＝４、ｘ方向Ｌｘ＝１６、すなわち計算領域は、縦横比１：４の長方形とした。また、格子点数は、ｙ方向に２５６、ｘ方向に１０２４とした。時間方向の積分は、４段４次精度ルンゲクッタ法を用い、時間刻み幅５×１０^−４とした。ＶＰ法特有のパラメータとして、境界への浸透率があり、このパラメータは、１０^−３とした。流体の初期条件は、静止状態からスタートし、一様流の速度を１として与えた。平板形状は、コード長（長辺）をｃｌ＝２、厚み（短辺）を０．１とし、一様流速度を代表速度、平板のコード長を代表長さとしたレイノルズ数は１３７０とした。また、平板の一様流に対する迎角はθ＝１５度とした。なお、本実施形態を適用するにあたって、これらのパラメータを、どれを変えるか、どの範囲で変更するかについては、これに限定されず、制約のない限り任意である。なお、パラメータのうち、レイノルズ数と迎角は、その値を変更することで揚抗比が大きく変化するので重要と考えられる。このほか、厚みについても値を変更すれば、その揚抗比に影響を与えると考えられる。本実施例では、以下に示すように、与えた特定のパラメータについて計算された流れに対応する語表現の変化と揚抗比の遷移の対応づけを行った。

　まず、図１９は、上記のパラメータの計算条件下において計算された一枚平板に加わる揚抗比、揚力、抗力の時間変化を表した図である。なお、図中の破線は、揚力を示しており、一点鎖線は、抗力を示しており、実線は、揚抗比を示している。図１９に示すように、時刻ｔ＝５まで揚抗比は、単調に増加した後、急激に減少し、それ以降は揚抗比の振動が見られる。このような時刻ｔ＝５までは、静止状態の初期値からある一定の準定常的な運動状態にいたるまでの遷移過程と考えられるので、本実施例では、揚抗比が振動を繰り返すようになる時刻であるｔ＝５以後の運動について分析対象とした。特に、この揚抗比振動の最初の一周期（ｔ＝５．５からｔ＝１２．８まで）について詳細に検討して、その流線構造の語表現との対応関係を得た。

　図２０は、揚抗比が最大になる時刻ｔ＝５．５から極小に陥るｔ＝１１までの流れの時間発展を示す図である。また、図２２は、揚抗比が極小状態から再び極大に到るまでの、時刻ｔ＝１１．４から極小に陥るｔ＝１３．０までの渦度の時間発展を示す図である。図は流れの渦度を表現しており、黄色い部分は反時計回りの正の渦度がある領域を表し、青い部分は時計回りの負の渦度がある領域を表している。

　従来技術では、渦度の時間発展の様子を観察するのみであり、どのような流れの構造がこうした揚抗比の変化を起こしているのかを判定することは困難であった。そこで、本実施例では、これらの流れに対して語変換アルゴリズムを適用して、各時刻における流線の位相構造の語表現を与えた。しかし、上で述べたように、ここで扱っている流体は粘性流体であるため境界条件の違いを考慮して工夫を施さなければならない。そこで、まず、与えられた数値計算結果から、この語変換アルゴリズムをどう適用したかについて、詳しく解説する。

　まず、流線の位相構造は数値計算によって計算される流れ関数の等高線をプロットすることで得られるので、境界から離れた領域ではこれら等高線の中からｓａｄｄｌｅ　ｐｏｉｎｔやｓｓ−∂−ｓａｄｄｌｅ　ｃｏｎｎｅｃｔｉｏｎ、∂−ｓａｄｄｌｅ　ｃｏｎｎｅｃｔｉｏｎ、∂−ｓａｄｄｌｅといった構造安定な流線を構成する軌道をすべて抽出した。

　つぎに、図２０や図２２によると、平板の境界付近では境界層が形成され、その中では渦度が層状（すなわち、黄色や青色の薄い層）に分布していることがわかった。また、この近傍での流れ関数の振る舞いは平板にほぼ平行になっていることがわかる。このことから、平板の境界を少し拡大して、境界層の上端を仮想的な境界と見なすことで、流れ場の境界条件を滑り境界条件とすることができ、非粘性流体に対する語表現の理論を適用することができるようになった。なお、本実施例の数値計算で用いた程度のレイノルズ数で成り立つことがわかったが、このような境界層の穏やかな振る舞いは常に保証されるわけではない。例えば、実際に流れの速度が速くなったりしてレイノルズ数が高くなると、もはやこうした境界層の穏やかな振る舞いは期待できず、そのような流れ場に対しては、非粘性流体を前提とした語変換アルゴリズムでは、境界付近での流れを表現することは困難になることが予想される。その意味で、本実施形態を用いて各パラメータについて網羅的な分析を行えば、こうした語表現が可能なパラメータ領域を確定するのもできるようになる。

　本実施例の数値計算結果に対しては、プログラムＢ亜種アルゴリズムを用いて境界を仮想的に拡張することで非粘性流体についての語変換アルゴリズムを適用することができ、図２１および図２３に示すように、渦度の時間発展の計算結果と対応する語表現が得られた。図２１は、上記の流線抽出の方法を用いて時刻ｔ＝５．５からｔ＝１１．０までの流れの流線関数の位相構造とその語表現を示す図である。図２３は、流線抽出の方法を用いて時刻ｔ＝１１．４から１３．０までの流れの流線関数の位相構造とその語表現を示す図である。

　図２１に示すように、揚抗比は最大から極小に変化した時間間隔（ｔ＝５．５~１１．０）において、時刻ｔ＝５．５のとき（図２１（ａ））の流線構造はＩＣＣＢ_０で表現されるが、このＣＣＢ_０に対応する渦構造は、平板の上に∂−ｓａｄｄｌｅ　ｃｏｎｎｅｃｔｉｏｎによって「閉じ込められて」いる。こうした閉じ込め渦の存在が平板に加わる揚力を増加させ、最大の揚抗比を実現している。しかし、この閉じ込め渦は安定には存在できず、時間発展とともに流れの構造は変化して次第に揚力が減少していく。

　時刻ｔ＝６．６の流線の位相構造（図２１（ｂ））の語表現はＩＡ_０ＣＢ_０となる。前の時刻で閉じ込められていた渦のうちＢ_０に対応する８の字状に閉じこめられた双子渦構造はＡ_０によって作られるｈｏｍｏｃｌｉｎｉｃ　ｓａｄｄｌｅ　ｃｏｎｎｅｃｔｉｏｎに取り込まれてしまうため平板の上にもはや留まれなくなっている。このＢ_０に対応する双子渦構造はＩＡ_０Ａ_０Ｃなる語表現を持つｔ＝７．７の流線構造（図２１（ｃ））においてはＡ_０Ａ_０なる二つの渦構造に分解して、その後は平板の外側へ押し出される。

　一方で、時刻ｔ＝８．８（図２１（ｄ））において、平板上側に生成する境界層から生成された渦度が平板の後端に集まってくることで、語Ｃに対応する新しい渦構造が生成され、その語表現はＩＡ_０Ａ_０ＣＣに変化する。それ以後の流線位相構造（図２１（ｅ）および（ｆ））を表現する語は変化しないものの、この新しい渦構造は時刻ｔ＝１１にかけて成長して大きくなってゆき、この時刻で揚抗比は極小に到達する。

　そして、図２３に示すように、揚抗比が極小から極大に変化した時間間隔（ｔ＝１１．４~１３．０）において、時刻ｔ＝１１．４の流線の位相構造（図２３（ａ））までは語表現は変化せずＩＡ_０Ａ_０ＣＣのままであるが、時刻ｔ＝１１．８（図２３（ｂ））からは再びその位相構造の変化が始まる。

　時刻ｔ＝１１．８では、その流線構造がＩＡ_０ＣＣＢ_０で表現されるが、このときには平板の上に語ＣＣＢ_０に対応する∂−ｓａｄｄｌｅ　ｃｏｎｎｅｃｔｉｏｎによって閉じ込められたｔ＝５．５の時と同様のＣＣＢ_０に対応する渦構造が再び生成されて、その構造が時刻ｔ＝１２．６まで継続する。この遷移のおかげで時刻ｔ＝１１付近で極小状態にあった揚抗比が、この閉じ込め渦の出現により次の極大状態へ遷移していることがわかる。

　時刻ｔ＝１２．２（図２３（ｃ））や時刻ｔ＝１２．６（図２３（ｄ））における流線構造とそれに対応する語表現は少しずつ変化するものの、その語の中に含まれるＣＣＢ_０という語に対応する閉じ込め渦の構造が消えないことから、このＣＣＢ_０の閉じこめ渦構造が揚抗比の極大化に重要であることがわかる。実際、ｔ＝１３では閉じ込め渦が再び崩れてＩＡ_０Ａ_０Ａ_０Ａ_０Ｃなる構造へと変化するため、急速に揚抗比が次の極小状態へと向かっていく。

　本実施例で取得された対応関係から得られた知見について纏めると、以下の通りである。
（１）翼の特性を記述する揚力・抗力比に対する従来にない流れの特徴づけが可能になったこと
（２）ＣＣＢ_０の文字に対応する構造が揚力を増加させること
（３）Ａ_０Ａ_０に対応する放出渦の生成が揚力を減退させること
（４）この振動を繰り返すことで翼まわりの揚力抗力比の振動が生まれること
（５）与えられた翼回りの速度や翼の大きさなどをみれば、この特徴が再現される範囲を特定することができること

　以上が与えられた流れの時間発展の語変換アルゴリズムを用いた定性的な語表現の変化と定量的な平板が流体から受ける揚抗比の振動の対応の記述の実施例である。従来、流れの時間発展の図２０や図２２のような表示から、揚抗比の遷移がどのような流れの構造に対応して発現しているかを見つけるのは難しかったが、本実施例により、図２１や図２３で示される流線の位相構造を語表現で得ることによって、分析が容易になった。より具体的には、本実施例では、ＣＣＢ_０という語が表現する平板上の閉じ込め渦構造がＡ_０Ａ_０という語が表現する非閉じ込め渦に変化していくことで揚力が失われ、また再びＣＣＢ_０の閉じこめ渦が再生されることで揚力が回復していくことが明確にわかった。本実施例により、こうした流線の位相構造の語表現を通して閉じこめ渦状態の変化をみることによって、揚抗比の変化を予想できることがわかった。

　なお、平板（羽根）の角度を変えても同じ考察が成立する。ここで、上記の実施例において平板の傾き角度を、２０度および１０度に設定して再計算した実施例について、図２４~図２９を参照して説明する。ここで、図２４は、平板の角度をθ＝２０度に変更したパラメータの計算条件下において計算された一枚平板に加わる揚抗比、揚力、抗力の時間変化を表した図である。なお、図中の破線は、揚力を示しており、一点鎖線は、抗力を示しており、実線は、揚抗比を示している。

　図２４に示すように、平板の角度が２０度のとき、揚力・揚抗比の変化は、時刻ｔ＝９．４５およびｔ＝１３．９５のとき揚抗比が極小になり、時刻ｔ＝１１．１５およびｔ＝１５．６のとき揚抗比が極大になる。ここで、図２５は、時刻ｔ＝９．４５，ｔ＝１１．１５，ｔ＝１３．９５，ｔ＝１５．６のときの流れの渦度を示す図である。また、図２６は、流線抽出の方法を用いて時刻ｔ＝９．４５，ｔ＝１１．１５，ｔ＝１３．９５，ｔ＝１５．６のときの流れの流線関数の位相構造とその語表現を示す図である。

　すなわち、揚抗比が極小になる時刻ｔ＝９．４５（図２５（ａ））およびｔ＝１３．９５（図２５（ｃ））、揚抗比が極大になる時刻ｔ＝１１．１５（図２５（ｂ））および時刻ｔ＝１５．６（図２５（ｄ））の流れについて、図２６に示すように語表現を割り当てた。図２６（ａ）に示すように、極小となっているときの時刻ｔ＝９．４５では、語表現Ｗｏｒｄは、ＩＡ_０ＣＣ、図２６（ｃ）ではＩＡ_０Ａ_０ＣＢ_０なる語表現を持つ。また、極大になっているときは、ｔ＝１１．１５のときはＩＡ_０Ａ_０ＣＣＢ_０なる語表現を持ち、ｔ＝１５．６のときはＩＣＢ_０となっている。このように、極小時にはＡ_０に相当する構造が生じて、閉じこめ渦に相当する構造が崩れて揚抗比が減ずる一方で、極大時には閉じこめ渦に相当する（Ｃ）ＣＢ_０の構造が見られ、角度が１５度の場合と同様のことが成立することが分かった。ここで、図２７は、平板の角度をθ＝１０度に変更したパラメータの計算条件下において計算された一枚平板に加わる揚抗比、揚力、抗力の時間変化を表した図である。なお、図中の破線は、揚力を示しており、一点鎖線は、抗力を示しており、実線は、揚抗比を示している。

　図２７に示すように、平板の角度が１０度のとき、揚力・揚抗比の変化は、時刻ｔ＝１１．７，ｔ＝１４．５のとき揚抗比が極小になり、時刻ｔ＝１３．２とｔ＝１６．３のとき揚抗比が極大になる。図２８は、時刻ｔ＝１１．７，ｔ＝１３．２，ｔ＝１４．５，ｔ＝１６．３のときの流れの渦度を示す図である。また、図２９は、流線抽出の方法を用いて時刻ｔ＝１１．７，ｔ＝１３．２，ｔ＝１４．５，ｔ＝１６．３のときの流れの流線関数の位相構造とその語表現を示す図である。

　すなわち、揚抗比が極小になる時刻ｔ＝１１．７（図２８（ａ）），ｔ＝１４．５（図２８（ｃ））と、極大になる時刻ｔ＝１３．２（図２８（ｂ））とｔ＝１６．３（図２８（ｄ））の場合について、本アルゴリズムによって図２９に示すように語表現を割り当てた。その結果、それぞれＩＡ_０ＣＢ_０Ｂ_０（ｔ＝１１．７，図２９（ａ）），ＩＡ_０Ｃ（ｔ＝１４．５，図２９（ｃ）），ＩＣＣＢ_０（ｔ＝１３．２，図２９（ｂ）），ＩＣＢ_０（ｔ＝１６．３，図２９（ｄ））となった。このように、揚抗比の極小時にはＡ_０に相当する渦構造の射出によるＣＣＢ_０の構造が崩れており、極大時には（Ｃ）ＣＢ_０に相当する閉じこめ渦の構造があって揚力増加を招いている。

　なお、本実施例では、レイノルズ数や平板の傾き角度や、平板の形状など多くのパラメータをいくつかの数値に固定して行った数値計算に対してのみ与えられた結果であり、ここで得られた流線の位相構造の語表現の変化と揚抗比の振動の対応関係がユニバーサルなものかについては知見を完全には得ていないが、本実施の形態を、こうしたパラメータをいろいろ変えることによって、ここで得られたような対応関係の広さと限界を、対応表を網羅的に得ることが可能となり、本実施例で得た知見に限られず、多くの数値計算を用いて上記のような考察結果を得ることが可能となる。

　なお、本実施の形態によれば、一例として航空機等の構造物設計の最適化手法において得られた対応表を利用することができる。例えば、上述の実施形態により、流れパターンの遷移順序や、ある流れパターンとなるためのパラメータの範囲等が得られるので、流体遷移分析装置１００は、対応関係ファイル１０６ｃに記憶されたパラメータの範囲や遷移順序等の情報に基づく制約の下で、シミュレーション部１０２ａにより最適な構造物が探索されるよう制御してもよい。例えば、揚力を減衰させるＡ_０Ａ_０の放出渦が存在している間は、シミュレーション部１０２ａは、焼きなまし法において、ローカルミニマムを抜け出せるように、設計変数に対して大きな変更を許容するように、グローバルパラメータＴ（温度）を高く設定してもよい。このほか、航空機等の設計において理想的な流れパターン（例えば、揚力を増加させるＣＣＢ_０のパターン）があるか否か語表現との一致不一致に従って、シミュレーション部１０２ａは、設定された所望のパターンを規定する探索範囲が当該所望のパターンになるよう調整してもよい。例えば、上記と同様に、シミュレーション部１０２ａは、焼きなまし法において、探索範囲が所望のパターンと不一致の場合は、設計変数に対して大きな変更を許容するようにグローバルパラメータＴ（温度）を高く設定し、一方、探索範囲が所望のパターンと一致している場合は、設計変数に対して小さな変更を求めるようにグローバルパラメータＴ（温度）を低く設定してもよい。このように、河川や海洋、飛行など物体配置と流れの相互作用の最適状態を、短時間および低コストで高精度の計算を行うことが可能となる。また、目的に応じた流線パターンの特定によって、構造物設計の省力化を図ることができる。

［他の実施形態］
　さて、これまで本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上述した実施形態以外にも、特許請求の範囲に記載した技術的思想の範囲内において種々の異なる実施形態にて実施されてよいものである。

　特に上記の実施形態においては、本発明を、三次元流体のシミュレーションにおける断面（構造物の断面等）について適用した例について説明したが、これに限られず、二次元流体のシミュレーションに適用してもよいものである。

　また、上述の実施の形態において、構造安定性について記述した箇所があったが、本発明は、構造安定な流れのみを扱うことに限られない。なお、構造安定とは、与えられた流れに小さな擾乱（乱れ）が加わっても流れの特定の位相構造が変化しないものを呼ぶ。これはすべての起こりうる流れのパターンに対してある種の制限をつけることになるが、構造安定な流れは実用上重要なものであるため、その制限は特に問題とならない。すなわち、通常、流れの様子を観測したり、計算機によって流れの様子を可視化した場合には、観測誤差や計算誤差が入るので、こういった誤差によらない流れ構造が観測されやすいからである。

　例えば、流体遷移分析装置１００がスタンドアローンの形態で処理を行う場合を一例に説明したが、流体遷移分析装置１００は、クライアント端末からの要求に応じて処理を行い、その処理結果を当該クライアント端末に返却するようにしてもよい。

　また、実施形態において説明した各処理のうち、自動的に行われるものとして説明した処理の全部または一部を手動的に行うこともでき、あるいは、手動的に行われるものとして説明した処理の全部または一部を公知の方法で自動的に行うこともできる。

　このほか、上記文献中や図面中で示した処理手順、制御手順、具体的名称、各処理の登録データや検索条件等のパラメータを含む情報、画面例、データベース構成については、特記する場合を除いて任意に変更することができる。

　また、流体遷移分析装置１００に関して、図示の各構成要素は機能概念的なものであり、必ずしも物理的に図示の如く構成されていることを要しない。

　例えば、流体遷移分析装置１００の各装置が備える処理機能、特に制御部１０２にて行われる各処理機能については、その全部または任意の一部を、ＣＰＵ（Ｃｅｎｔｒａｌ　Ｐｒｏｃｅｓｓｉｎｇ　Ｕｎｉｔ）および当該ＣＰＵにて解釈実行されるプログラムにて実現してもよく、また、ワイヤードロジックによるハードウェアとして実現してもよい。尚、プログラムは、後述する記録媒体に記録されており、必要に応じて流体遷移分析装置１００に機械的に読み取られる。すなわち、ＲＯＭまたはＨＤなどの記憶部１０６などには、ＯＳ（Ｏｐｅｒａｔｉｎｇ　Ｓｙｓｔｅｍ）として協働してＣＰＵに命令を与え、各種処理を行うためのコンピュータプログラムが記録されている。このコンピュータプログラムは、ＲＡＭにロードされることによって実行され、ＣＰＵと協働して制御部１０２を構成する。

　また、このコンピュータプログラムは、流体遷移分析装置１００に対して任意のネットワーク３００を介して接続されたアプリケーションプログラムサーバに記憶されていてもよく、必要に応じてその全部または一部をダウンロードすることも可能である。

　また、本発明に係るプログラムを、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に格納してもよく、また、プログラム製品として構成することもできる。ここで、この「記録媒体」とは、メモリーカード、ＵＳＢメモリ、ＳＤカード、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ＲＯＭ、ＥＰＲＯＭ、ＥＥＰＲＯＭ、ＣＤ−ＲＯＭ、ＭＯ、ＤＶＤ、および、Ｂｌｕ−ｒａｙ　Ｄｉｓｃ等の任意の「可搬用の物理媒体」を含むものとする。

　また、「プログラム」とは、任意の言語や記述方法にて記述されたデータ処理方法であり、ソースコードやバイナリコード等の形式を問わない。なお、「プログラム」は必ずしも単一的に構成されるものに限られず、複数のモジュールやライブラリとして分散構成されるものや、ＯＳ（Ｏｐｅｒａｔｉｎｇ　Ｓｙｓｔｅｍ）に代表される別個のプログラムと協働してその機能を達成するものをも含む。なお、実施形態に示した各装置において記録媒体を読み取るための具体的な構成、読み取り手順、あるいは、読み取り後のインストール手順等については、周知の構成や手順を用いることができる。

　記憶部１０６に格納される各種のデータベース等（シミュレーション結果ファイル１０６ａ、流線図ファイル１０６ｂ、対応関係ファイル１０６ｃ等）は、ＲＡＭ、ＲＯＭ等のメモリ装置、ハードディスク等の固定ディスク装置、フレキシブルディスク、および、光ディスク等のストレージ手段であり、各種処理やウェブサイト提供に用いる各種のプログラム、テーブル、データベース、および、ウェブページ用ファイル等を格納する。

　また、流体遷移分析装置１００は、既知のパーソナルコンピュータ、ワークステーション等の情報処理装置として構成してもよく、また、該情報処理装置に任意の周辺装置を接続して構成してもよい。また、流体遷移分析装置１００は、該情報処理装置に本発明の方法を実現させるソフトウェア（プログラム、データ等を含む）を実装することにより実現してもよい。

　更に、装置の分散・統合の具体的形態は図示するものに限られず、その全部または一部を、各種の付加等に応じて、または、機能負荷に応じて、任意の単位で機能的または物理的に分散・統合して構成することができる。すなわち、上述した実施形態を任意に組み合わせて実施してもよく、実施形態を選択的に実施してもよい。

　以上詳述に説明したように、本発明によれば、飛翔物体などのように一様流中におかれた物体まわりの流れパターンの遷移と物体が受ける力の変動との関係についての知見を得ることができる、流体遷移分析装置、流体遷移分析方法、および、プログラムを提供することができる。例えば、飛行物体の設計、列車のパンタグラフの構造、レーシングカー等の自動車の構造、スキージャンプなどのスポーツ用品の設計、高速船の設計など、構造物の設計や制御や配置を伴う様々な分野において極めて有用である。

　１００　流体遷移分析装置
　１０２　制御部
　１０２ａ　シミュレーション部
　１０２ｂ　流線解析部
　１０２ｃ　語表現形成部
　１０２ｄ　パターン語付与部
　１０２ｅ　操作語付与部
　１０２ｆ　極大語表現部
　１０２ｇ　対応関係取得部
　１０４　通信制御インターフェース部
　１０６　記憶部
　１０６ａ　シミュレーション結果ファイル
　１０６ｂ　流線図ファイル
　１０６ｃ　対応関係ファイル
　１０８　入出力制御インターフェース部
　１１２　入力装置
　１１４　出力装置
　２００　外部システム
　３００　ネットワーク

Claims

　記憶部と制御部とを備えた流体遷移分析装置において、
　上記記憶部は、
　一様流中におかれた物体について、ある期間における、物体が受ける力と物体周りの流れの実験結果または数値計算結果を記憶し、
　上記制御部は、
　上記期間中のある時点における、上記物体周りの流れを流線解析して流線図を取得する流線解析手段と、
　上記流線解析手段により取得された上記流線図に基づいて、一つの穴を有する単連結外部領域において位相幾何学的に採り得る２種類の流れパターンを規定する語のうちのいずれか一語とともに、上記流れパターンに一つの穴を加える場合に位相幾何学的に採り得る５種類の操作を規定した語のうちのいずれか一語を、追加された穴の数だけ付与することにより、上記物体周りの流れの流れパターンを示す語表現を形成させる語表現形成手段と、
　上記語表現形成手段により形成された、ある時点における上記流れパターンを示す上記語表現と当該時点における上記物体が受ける力とを対応付けて上記記憶部に格納して、分析対象とする複数の時点において、上記語表現の遷移と上記物体が受ける力の変動との対応関係情報を取得する対応関係取得手段と、
　を備えたことを特徴とする、流体遷移分析装置。
　請求項１に記載の流体遷移分析装置において、
　上記物体が受ける力は、上記物体の揚力と抗力であること
　を特徴とする、流体遷移分析装置。
　請求項２に記載の流体遷移分析装置において、
　上記物体が受ける力の比は、上記物体の揚抗比であること
　を特徴とする、流体遷移分析装置。
　請求項１乃至３のいずれか一つに記載の流体遷移分析装置において、
　上記対応関係情報は、
　上記語表現の遷移と上記物体が受ける力の変動との対応関係を示す表であること
　を特徴とする、流体遷移分析装置。
　請求項１乃至４のいずれか一つに記載の流体遷移分析装置において、
　上記２種類の流れパターンは、
　１）上記吸い込み湧き出し対をもち、二つのｓｓ−∂−ｓａｄｄｌｅ　ｃｏｎｎｅｃｔｉｏｎをもつパターンＩ、および
　２）上記吸い込み湧き出し対をもち、一つのｓａｄｄｌｅ　ｐｏｉｎｔ、それを結ぶｈｏｍｏｃｌｉｎｉｃ　ｓａｄｄｌｅ　ｃｏｎｎｅｃｔｉｏｎと二つのｓｓ−ｓａｄｄｌｅ　ｃｏｎｎｅｃｔｉｏｎをもつパターンＩＩ、
　であることを特徴とする、流体遷移分析装置。
　請求項１乃至５のいずれか一つに記載の流体遷移分析装置において、
　上記位相幾何学的に採り得る５種類の操作は、
　１）一本のｓｓ−ｏｒｂｉｔを、一つのｓａｄｄｌｅ　ｐｏｉｎｔ、それを結び内部に穴をもつｈｏｍｏｃｌｉｎｉｃ　ｓａｄｄｌｅ　ｃｏｎｎｅｃｔｉｏｎと二つのｓｓ−ｓａｄｄｌｅ　ｃｏｎｎｅｃｔｉｏｎに置き換えるＡ_０操作、
　２）一本のｓｓ−ｏｒｂｉｔを、二つのｓｓ−∂−ｓａｄｄｌｅ　ｃｏｎｎｅｃｔｉｏｎと新たに追加した境界上の二つの∂−ｓａｄｄｌｅに置き換えるＡ_２操作、
　３）一本のｃｌｏｓｅｄ　ｏｒｂｉｔを、一つの穴とｓａｄｄｌｅ　ｐｏｉｎｔを追加して８の字をした２本のｈｏｍｏｃｌｉｎｉｃ　ｓａｄｄｌｅ　ｃｏｎｎｅｃｔｉｏｎに置き換えるＢ_０操作、
　４）一本のｃｌｏｓｅｄ　ｏｒｂｉｔを、新たに追加した穴の境界上に二つ∂−ｓａｄｄｌｅをつけて一本の∂−ｓａｄｄｌｅ　ｃｏｎｎｅｃｔｉｏｎでつなぐような軌道に置き換えるＢ_２操作、および、
　５）既に２ｋ個（ｋ＞０）の∂−ｓａｄｄｌｅをもつ境界に、新たに二つの∂−ｓａｄｄｌｅを付け加えて一本の∂−ｓａｄｄｌｅ　ｃｏｎｎｅｃｔｉｏｎでつなぎ内部に新たに付け加えた穴を置くＣ操作、
　であることを特徴とする、流体遷移分析装置。
　請求項６に記載の流体遷移分析装置において、
　上記語表現形成手段は、
　上記５種類の操作を規定した語を付与する場合に、
　１）一本のｓｓ−ｏｒｂｉｔが存在することを条件として、上記Ａ_０操作または上記Ａ_２操作を規定した語を付与し、
　２）一本のｃｌｏｓｅｄ　ｏｒｂｉｔが存在することを条件として、上記Ｂ_０操作または上記Ｂ_２操作を規定した語を付与し、
　３）∂−ｓａｄｄｌｅｓを持つ境界が存在することを条件として、上記Ｃ操作を規定した語を付与すること
　を特徴とする、流体遷移分析装置。
　記憶部と制御部とを備えたコンピュータにおいて実行される流体遷移分析方法であって、
　上記記憶部は、
　一様流中におかれた物体について、ある期間における、物体が受ける力と物体周りの流れの実験結果または数値計算結果を記憶し、
　上記制御部において実行される、
　上記期間中のある時点における、上記物体周りの流れを流線解析して流線図を取得する流線解析ステップと、
　上記流線解析ステップにて取得された上記流線図に基づいて、一つの穴を有する単連結外部領域において位相幾何学的に採り得る２種類の流れパターンを規定する語のうちのいずれか一語とともに、上記流れパターンに一つの穴を加える場合に位相幾何学的に採り得る５種類の操作を規定した語のうちのいずれか一語を、追加された穴の数だけ付与することにより、上記物体周りの流れの流れパターンを示す語表現を形成させる語表現形成ステップと、
　上記語表現形成ステップにて形成された、ある時点における上記流れパターンを示す上記語表現と当該時点における上記物体が受ける力とを対応付けて上記記憶部に格納し、分析対象とする複数の時点において、上記語表現の遷移と上記物体が受ける力の変動との対応関係情報を取得する対応関係取得ステップと、
　を含むことを特徴とする、流体遷移分析方法。
　記憶部と制御部とを備えたコンピュータに実行させるためのプログラムであって、
　上記記憶部は、
　一様流中におかれた物体について、ある期間における、物体が受ける力と物体周りの流れの実験結果または数値計算結果を記憶し、
　上記制御部において、
　上記期間中のある時点における、上記物体周りの流れを流線解析して流線図を取得する流線解析ステップと、
　上記流線解析ステップにて取得された上記流線図に基づいて、一つの穴を有する単連結外部領域において位相幾何学的に採り得る２種類の流れパターンを規定する語のうちのいずれか一語とともに、上記流れパターンに一つの穴を加える場合に位相幾何学的に採り得る５種類の操作を規定した語のうちのいずれか一語を、追加された穴の数だけ付与することにより、上記物体周りの流れの流れパターンを示す語表現を形成させる語表現形成ステップと、
　上記語表現形成ステップにて形成された、ある時点における上記流れパターンを示す上記語表現と当該時点における上記物体が受ける力とを対応付けて上記記憶部に格納し、分析対象とする複数の時点において、上記語表現の遷移と上記物体が受ける力の変動との対応関係情報を取得する対応関係取得ステップと、
　を実行させることを特徴とする、プログラム。