明 細 書
PET撮像による画像定量化装置及び方法
技術分野
[0001] 本発明は、陽電子放射断層撮影 (Positron Emission Tomography (PET))による脳 血流、脳酸素代謝および脳酸素摂取率の定量画像評価に関するものである。
背景技術
[0002] 0— 15標識酸素 (すなわち150)を用いた陽電子放射断層撮影による検査は、以下 の量について実用化されている。脳局所酸素代謝 (150ガス)、脳局所血液量 (c15o
2
ガス)。脳局所血流量(C15〇ガス)、脳局所血流量(H 15〇)。ここで、()内に示す 0-15
2 2
標識酸素を含む標識化合物が、それぞれの量の検査に使用されている。 PET撮像 による検査には、以下の利点がある。
(1)投与する標識薬剤はもともと生体内に存在する分子を構成する元素の同位元素 であることから、生体内に存在する分子を修飾することなく標識薬剤として生体の機 能を観察できる。
(2)半減期が短いため、生体の被爆が少ない。そのため反復検査や不可検査が容 易である。
(3)半減期が短いため比放射能が高く極微量の核種で診断が可能である。
[0003] PET検査により脳血流、脳酸素代謝および脳酸素摂取率の定量画像評価が可能 であり、脳卒中などの検査が行われている。この検査は、 0-15標識酸素を投与する ことで実施されている。 0-15標識酸素は、酸素分子の体内挙動をトレースする診断 プローブであるが、その脳内動態は、組織酸素代謝だけでなぐ代謝生成水分子の 洗い出しすなわち血流量に依存する。さらに酸素摂取率が正常では 40%程度と低 いため、血管内の放射能濃度が酸素代謝画像に寄与する。このため、 PET検査で は 0-15標識酸素ガスの吸入に基づく検査だけでなぐ 0-15標識水を使った血流検 查および 0-15標識一酸化炭素吸入に基づく血液量検査が行われる。これら脳酸素 代謝、脳血流および脳酸素摂取率のための 3つの検査は独立して行われる力 検査 の間に放射性減衰を待つ。広く使われる定常法では、検査毎に体内放射能濃度分
布が一定になるまで持続的に薬剤を投与し続ける必要があった (以下の論文参照。( lj Correia JA, Aipert NM, Buxton RB, Ackerman RH (198o Analysis of some errors in the measurement of oxygen extraction and oxygen consumption by the equilibriu m inhalation method, J Cereb Blood Flow Metab 5:591-9、 (2) Frackowiak RS, Jones T, Lenzi GL, Heather JD (1980a) Regional cerebral oxygen utilization and blood flo w in normal man using oxygen— lb and positron emission tomography, Acta Neurol S cand 62:336—344、 (3) Frackowiak RS, Lenzi GL, Jones T, Heather JD (1980) Quant itative measurement of regional cerebral blood flow and oxygen metabolism in man u sing 150 and positron emission tomography theory, procedure, and normal values, J Comput Assist Tomogr. 4:727-36、および、 (4) Lammertsma AA, Heather JD, Jone s T, Frackowiak RS, Lenzi GL, (1982) A statistical study of the steady state techniq ue for measuring regional cerebral blood flow and oxygen utilization using 150, J Co mput Assist Tomogr 6:566-573)。
これに対して、 3種類の標識化合物の短期間投与に基づく方法が開発され、検査 時間は 1時間程度と短縮された(以下の論文参照。(5) Mintun MA, Raichle ME, Mar tin WR, Herscovitch P, (1984) J Nucl Med 25:177—187、 (6) Hatazawa J, Fujita H, K anno I, Satoh T, lida H, Miwa S, Murakami M, Okudera T, Inugami A, Ogawa T, et al., (1995) Regional cerebral blood flow, blood volume, oxygen extraction fraction, a nd oxygen utilization rate in normal volunteers measured by the autoradiographic te chnique and the single breath inhalation method, Ann Nucl Med. 9:15-21、 (7) Shida hara M, Watabe H, Kim KM, Oka H, Sago M, Hayashi T, Miyake Y, Ishida Y, Hayas hida K, Nakamura T, lida H, (2002) Evaluation of a commercial PET tomograph- bas ed system for the quantitative assessment of rCBF, rOEF and rCMR02 by using se quential administration of 15〇- labeled compounds, Ann Nucl Med. Ib: l7- 327)。図 1に、この方法による PET撮像の時間経過を示す。まず、血液量検査のため、 0-15 標識一酸化炭素の吸入の後に PET撮像を 6分間行う。さらに、放射性減衰のため 15 〜20分待って、脳酸素代謝検査のため、 0-15標識酸素ガスの吸入を行い、その後 に PET撮像を 3分間行う。ふたたび、放射性減衰のため 15〜20分待って、血流検
查のため、 0-15標識水ガスの投与を行い、その後に PET撮像を 2分間行う。従って 、検査時間は全体として 40〜50分かかっている。
発明の開示
発明が解決しょうとする課題
[0005] 0-15標識酸素を用いた酸素分子の体内挙動の従来の検査では、 0-15標識酸素を 含む 3種類のそれぞれの標識化合物の短期間投与に基づき上述の脳酸素代謝を検 查するが、 3回の独立した PET撮像の間の待ち時間が標識ィ匕合物を減衰させるため に必要である。 PET撮像をその前の PET撮像のために投与された薬剤の減衰を待 ちながら行うため、検査時間が 30分から 1時間と長くなるが、この長い時間にわたつ て被検体の頭部が固定されている必要がある。この固定処置は被検体にとって大き な負担となっている。したがって、より短時間(たとえば 10分以内)で PET撮像を行う ことが望ましい。これにより、 PET検査で局所脳血流、局所脳酸素摂取率、局所酸素 代謝量を短時間で検査可能となる。
[0006] この発明の目的は、 0-15標識酸素を用いた酸素分子の体内挙動の検査をより短時 間で行えるようにすることである。
課題を解決するための手段
[0007] 本発明に係る PET撮像による画像定量ィ匕方法では、標識酸素と標識水及び標識 二酸ィ匕炭素のいずれか 1つとを時間差を設けて被検体に投与しつつ 1回の連続的 P ET撮像を行って得られた被検体の組織のサイノグラムまたはサイノグラムカゝら再構成 された放射線濃度画像のデータ C (t)と、この PET撮影と並行して得られた被検体の 血液中の酸素成分の放射能濃度 A (t)および水成分の放射能濃度 A (t)を入力する。 そして、前記の組織中のサイノグラムまたは放射線濃度のデータ C (t)を表す以下の 数式
[0008] [数 1] C
i (t) = E - f - A
0 (†) ® e
+ V
0 -A
0 (t) ( 1 )
(ここに、 fは血流量、 Eは酸素摂取率、 Voは血管内の放射能濃度、 pは水の分配定 数、 tは時間を示し、
[0009] [数 2]
®
は重畳積分を示す)において、 2つの重畳積分部分を、 pを所定の一定値として、あ る fの範囲内の複数の離散的な fの値に対して計算し、下記の F , F
1 2
[0010] [数 3]
ム
と fのテーブルとして記憶しておく。次に、前記のテーブルを用いて、前記の離散的な fの値に対して
[0011] 画
c ( = ^ ·4 ( 3 )
における Εと Voに対する解を最小自乗法により求める。次に、
[0012] [数 5]
s1 =(Clit)-Fl -E-Fl-V0 -A0f ( 4 )
を最小とする f, E、 Voを求める。
[0013] 本発明に係る画像定量化装置は、
標識酸素と標識水及び標識二酸ィヒ炭素のいずれかとを時間差を設けて被検体に 投与しつつ 1回の連続的 PET撮像を行って得られた被検体の組織のサイノグラムま たはサイノグラムカゝら再構成された放射線濃度のデータ C (t)と、この PET撮影と並行 して得られた被検体の血液の酸素成分の放射能濃度 A (t)および水成分の放射能濃 度 A (t)とを入力するデータ入力手段と、
前記の組織中のサイノグラムまたは放射線濃度のデータ C(t)を表す以下の数式 [0014] 園 Ciit) = E-f-A0{t)®e p +f-A t)®e p +V0 -A t) ( 1 )
(ここに、 fは血流量、 Eは酸素摂取率、 Voは血管内の放射能濃度、 pは水の分配定 数、 tは時間を示し、
[0015] [数 7]
®
は重畳積分を示す)において、 2つの重畳積分部分を、 pを所定の一定値として、あ る fの範囲内の複数の離散的な fの値に対して計算し、下記の F , F
1 2
[0016] [数 8]
ム
と fのテーブルとして記憶しておくテーブル作成手段と、
前記のテーブルを用いて、前記の離散的な fの値に対して
[0017] [数 9]
c ( = ^ ·4 ( 3 )
における Εと Voに対する解を最小自乗法により求め、次に、
[0018] [数 10]
s1 =(Clit)-Fl -E-Fl-V0 -A0f ( 4)
を最小とする f, E, Voを求める未知数決定手段とからなる。
[0019] 本発明に係るコンピュータにより実行される PET撮像による画像定量ィ匕プログラム は、
標識酸素と標識水及び標識二酸ィヒ炭素のいずれかとを時間差を設けて被検体に 投与しつつ 1回の連続的 PET撮像を行って得られた被検体の組織のサイノグラムま たはサイノグラムカゝら再構成された放射線濃度画像のデータ C(t)を入力するステップ と、
前記の組織中のサイノグラムまたは放射線濃度のデータ C(t)を表す以下の数式 [0020] [数 11] Ciit) = E-f-A0{t)®e p +f-A t)®e p +V0 -A t) ( 1 )
(ここに、 fは血流量、 Eは酸素摂取率、 Voは血管内の放射能濃度、 pは水の分配定 数、 tは時間を示し、
[0021] [数 12]
®
は重畳積分を示す)において、 2つの重畳積分部分を、 pを所定の一定値として、あ る fの範囲内の複数の離散的な fの値に対して計算し、下記の F , F
1 2
[0022] [数 13]
ム
と fのテーブルとして記憶しておくステップと、
次に、前記のテーブルを用いて、前記の離散的な fの値に対して
[0023] [数 14]
c ( = ^ ·4 ( 3 ) における Εと Voに対する解を最小自乗法により求めるステップと、
次に、
[0024] [数 15]
s1 =(Clit)-Fl -E-Fl -V0 -Aaf (4 ) を最小とする f, E、 Voを求めるステップとからなる。ここで、投与した 2つの薬剤のうち 、先に投与した薬剤の血夜中および脳組織中の残留放射は上記の数式により予測 し、後に投与した薬剤の放射線濃度は、先に投与した薬剤による残留放射の予測値 を差し引くことにより評価する。
発明の効果
[0025] 本発明の効果は、 2種の薬剤を連続的に投与しつつ 1回の PET撮像を行うだけで
、測定精度を維持しつつ検査時間が短縮できることである。
図面の簡単な説明
[0026] [図 1]従来の PET検査法の時間経過を示す図である。
[図 2]発明の 1実施形態における PET検査法の時間経過を示す図である。
[図 3]PET撮像のためのシステムのブロック図である。
[図 4]コンピュータの構成を示すブロック図である。
[図 5]定量解析のフローチャートである。
[図 6]PET検査により検出される放射線濃度の時間経過の 1例を示す図である。
[図 7]力-クイザルを使った測定結果の図である。
発明を実施するための最良の形態
[0027] 以下、本発明の実施の形態を添付の図面を参照して説明する。
0-15標識酸素を用いた酸素分子の体内挙動の PET撮像による検査において、従 来は 3種類の標識ィヒ合物である標識一酸ィヒ炭素、標識酸素と標識水をそれぞれ独 立して投与して PET撮像を行っていた(図 1参照)。これに対して、本発明の実施形 態では、以下の 3点を導入することにより、 PET検査時間を飛躍的に短時間化させる
[0028] 1点目は、従来標識一酸化炭素投与検査により行っていた脳血液量補正において 、脳血液量を数式理論により推定可能としたことである。これにより、標識一酸化炭素 検査を要しない。
[0029] 2点目は、従来別々に行っていた 0-15標識水と 0-15標識酸素ガスの投与の代わり に、 0-15標識水と 0-15標識酸素ガスをたとえば 3分間隔と 、う短時間間隔で連続的 に投与する検査法を採用したことである。これにより、従来は別々に計算して求めて いた酸素代謝量と血流量を、同時に計算できる。これ〖こより、 1回の PET撮像で検査 ができる。
[0030] 3点目は、数式理論を用い、 1回の撮像のデータから短時間(おおむね 2分)内に 局所酸素代謝量、局所脳酸素摂取率、局所脳血流といった複数の機能の画像の計 算を可能としたことである。具体的には、次のように計算する。まず、脳内での酸素動 態を記述する既存の式において、非線形な部分、すなわち、酸素の組織への取り込 みを記述する部分と、水の取り込みを記述する部分とを、それぞれ、変数 f (血流量) についてテーブル化する。通常、血流量は脳組織において 0〜2mL/g/minの範囲内 で 0. OlmL/g/minごとに計算すれば十分であり、テーブルィ匕された部分は fに対して 0〜2mL/g/minの範囲内で離散的に 0. OlmL/g/minごとに 200通りの値を持つ。こ れらのテーブル化された 2項を変数として扱うことで、酸素動態を記述する式は線形 化され、未知数は最小自乗法として解くことができる。ここで、 fに対して 200通りの組
み合わせが得られ、これらの中で最も酸素動態としてふさわし 、組み合わせを取り出 し、脳酸素代謝量と血流量を得る。
[0031] 以下で、さらに具体的に説明する。発明の 1つの実施の形態では、図 2に示すよう に、標識酸素 (150ガス)と標識水 (H 150)を、短い時間差 (たとえば 3分間隔)で連続
2 2
的に被検体に投与する。これ〖こより、 1回の PET撮像で、先に投与した薬剤の減衰を 待たずに、 2つの薬剤について連続的に測定を行う。また、標識一酸化炭素吸入 (投 与)に基づく脳血液量補正のための検査を要しない計算法を開発したので、一酸ィ匕 炭素投与による PET撮像を省略できる。したがって、標識酸素および標識水の連続 投与法による撮像と、一酸ィヒ炭素投与による撮像の省略とにより、通常 1時間程度を 要して ヽた撮像時間を 10分程度に短縮できる。このため PET撮像を受ける被検体の 負担が大幅に軽減する。こうして得られた測定データを基に、後で説明するように、 脳血流、脳酸素代謝量および脳酸素摂取率の定量画像評価をおこなう。
[0032] PET撮像のためのシステムについて説明すると、図 3に示すように、 PET装置(す なわち陽電子断層撮像装置) 10は、被検体の放射線濃度の測定に使用される。べッ ド 12の上で、被検体(図示しない)の頭部を PET装置の視野内に固定しておく。一方 、サイクロトロン 14により O— 15を生成し、標識薬剤合成装置 16において、その O— 1 5を用いて O— 15標識酸素と O— 15標識水を合成する。所定の時間順序で、標識ガ ス投与装置 18により、 0— 15標識酸素を被検体の口から吸入させ、次に、標識水注 入装置 20により、 O— 15標識水を被検体のたとえば静脈に投与する。一方、撮像時 には、被検体のたとえば腕から、採血用ポンプ 22により連続的に血液を引き出しつ つ、放射線濃度測定装置である血液入力関数モニター 24 (たとえば GSOセンサ (N. Kudomi, E. し hoi, H. Watabe, K. M. Kim, Μ. Shidahara, Μ. Ogawa, Ν. Teramoto, Ε . Sakamoto, Η. Iida, (2003) Development of a GSO Detector Assembly for a Continu ous Blood Sampling System, IEEE TNS 50:70- 73)や Aloka製の BGO検出器)で血液 中の放射線濃度を測定する。 PET装置 10と血液入力関数モニター 24の測定データ は、コンピュータ 26に格納される。
[0033] コンピュータ 26は、たとえば、通常のパーソナルコンピュータである。そのシステム の構成は従来と同様である。図 4は、コンピュータ 26の内部の構成を示す。全体を制
御する CPU30は、プログラム、データなどを記憶する ROM32、ワークエリアである R AM34、キーボード、マウスなどの入力装置 36、ディスプレイ装置 38、 PET装置 10 と血液入力関数モニター 24との間で信号を送受信するインタフェース 40および記憶 装置であるハードディスク装置 42を備える。ハードディスク装置 42のハードディスクに は、画像データ、血液データなどの測定データ 44や、この測定データを解析する定 量解析プログラム 46が記憶される。
[0034] 次に、 PET撮像データの解析につ 、て説明する。標識酸素および標識水の連続 投与により得られた PET撮像データの解析において、先に投与した薬剤の血夜中お よび脳組織中の残留放射は数式理論により予測する。また、後に投与した薬剤の放 射線濃度は、先に投与した薬剤による残留放射の予測値を差し引くことにより評価す る。また、脳血液量の補正は、数式理論に脳血液量の効果を組み込んで同時に評 価するので、標識一酸ィ匕炭素投与による PET撮像は不要になる。
[0035] さらに詳しく説明すると、 0-15標識酸素は、酸素分子の体内挙動をトレースする診 断プローブであるが、その脳内動態は、組織酸素代謝だけでなぐ血流量と血管内 の放射能濃度が寄与する。この酸素動態は次の式(1)で記述できる(Mintun MA et al. (1984) J Nucl Med 25:177- 187参照)。
[0036] [数 16]
Cl (t) = E - f - AO (t) ® e p + f - Aw (t) ®e " + V0 · Αα (ΐ) ( 1 ) 式(1)において、 C;(t)は PET装置 10により観測される組織中の画素 iでの放射線濃 度の時間 tによる経過を示す。また、 fは血流量、 Eは酸素摂取率、 Voは血管内の放 射能濃度、 A (t)および A (t)はそれぞれ血液中の酸素成分および水成分の放射能濃 度、 pは水の分配定数を示し、
[0037] [数 17]
®
は重畳積分を示す。酸素代謝量は酸素摂取率 Eと血流量 fを乗ずることで得られる。 放射線濃度 C (t)は右辺に示される 3つの寄与の和である。右辺第 1項は、組織の酸 素分子の挙動、すなわち酸素分子の取り込みとその代謝物である水分子の洗い出し
を示し、酸素代謝量 E'fに関連する。右辺第 2項は、体内での代謝により生成された 水分子の挙動を示し、血流量に関連する。右辺第 3項は、血管内の放射能濃度を示 し、血液量に関連する。血液中の酸素成分の放射能濃度 A (t)および水成分の放射 能濃度 A (t)は、血液中の全放射線濃度を測定し、体内での代謝により生成された標 識水分子の量を評価して酸素成分および水成分に分離することで得られる(lida H, J ones Γ, Miura S u993) Modeling approach to eliminate the need to separate arteral plasma in oxygen— 15 inhalation positron emission tomography, J Nucl Med 34:1333— 1340参照)。また、式(1)において脳の検査に対しては水の分配定数 p = 0.8mL/g/ minとすることができる(lida JCBFM (1989)参照)。したがって、式(1)において、酸素 摂取率 E、血流量 fおよび血管内の放射能濃度 Voが評価すべき未知量である。
[0038] 次に、酸素摂取率 E、血流量 fおよび血管内の放射能濃度 Voを導出する方法を示 す。式(1)において右辺の酸素の糸且織への取り込みを記述する第 1項と水の取り込 みを記述する第 2項の重畳積分部分がそれぞれ非線形である。そこでこの 2項を離 散的に血流量 fに対してテーブルィ匕する。具体的には、現実的にありうる fの範囲内( 0〜2mL/g/min)で 0. OlmL/g/min毎にその時曲線を次のように定義しておく。
[0039] [数 18]
ム
これにより、式(1)は酸素摂取率 Eと血管内の放射能濃度 Vのみを未知数とする式(3 )として次のように書ける。
[0040] [数 19]
C1(t) = F1 +E-F2+Va -.40 ( 3 )
式(3)はある特定の血流量 fに対して線形方程式として最小自乗法を用いて解くこと ができる。ここで、所定範囲内(0〜2mL/g/min)の 200通りの fについて酸素摂取率 E と放射能濃度 Voに対する解をいつたん求める。次に、最小自乗法の誤差
[0041] [数 20]
s2 =(C1{t)-Fl -E-Fl-V0 -Aoy ( 4 )
を最小とする f, E, Voの組み合わせを求め、血流量 f、酸素摂取率 E、血管内の放射 能濃度 Voに対する解とする。これを用いて式(1)より被検体の画像を再構成できる。
[0042] なお、水の分配定数 pは脳に対しては 0. 8mL/g/minと一定にした力 他の臓器に 対してもその数値が求められており、一定とすることができる。
[0043] 次に、検査手順について説明する。
[0044] まず、患者または実験動物を PET装置 10の視野内に固定する。
[0045] また、標識薬剤合成装置 16では、標識酸素および標識水を合成する。二種類の標 識ィ匕合物を短時間に合成する必要があるが、標識一酸ィ匕炭素を合成する必要がな くなるため、合成面での作業負荷が軽減される。
[0046] 最初の薬剤投与のおおむね 30秒前より動脈からの血液の採血を開始し、検査中 それを持続する。これにより血液中全放射能濃度曲線を得る。
[0047] 次に、薬剤投与装置 18により標識酸素を投与し、 3分後に薬剤注入装置 20により 標識水 (もしくは薬剤投与装置 18により標識二酸化炭素)を被検体に投与する。これ らの薬剤の投与の順はこの逆でも可能である。薬剤投与力も「3分後」の状態では、ま だ最初に投与した薬剤が減衰していないが、本検査法では、その状態で第 2の薬剤 を投与する。
[0048] 最初の薬剤投与と同時に PET装置 10による撮像を開始し、撮像はこの例では 6分 間続ける。これにより、脳内の放射能分布の投影データ(1次データ、サイノグラムと 呼ばれる)を得る。このサイノグラムを時間 tごとに画像再構成することで、放射線濃度 のデータの時系列曲線 Ci(t)を脳内の放射能分布ごとに得る。放射線濃度のデータ C i(t)を用いて、脳血流、脳酸素代謝および脳酸素摂取率の定量画像評価を行う。
[0049] このように、 PET検査による脳血流、脳酸素代謝量および脳酸素摂取率の定量画 像評価にお!、て、 O— 15標識ガスおよび O— 15標識水を 3分間隔と 、う短時間間隔 に投与する検査法を採用するので、検査時間を 10分以下に短縮できる。また、脳血 液量補正のための標識一酸ィ匕炭素投与検査を要しない。これにより、通常 1時間程 度を要していた検査時間を 10分程度に短縮できる。
[0050] 図 5は、前述の解析手順を実行する定量解析プログラム 46のフローチャートである 。 PET装置 10から画像データである画素 iでの放射線濃度 Ci(t)を読み込む(S10)。
また、血液入力関数モニター 24から血液中の全放射線濃度曲線データを読み込み (S12)、血液中の酸素成分の放射能濃度 Ao(t)および水成分の放射能濃度 Aw(t)に 分離する (S14)。
[0051] 次に、所定範囲(0〜2mL/g/min)内の複数の離散値にっ 、て 200通りの血流量 f について式(2)の 2つの非線形部分 (重畳積分部分) F , Fのテーブルィ匕を行い、記
1 2
憶する(S 16)。
[0052] 次に、画像の画素 iごとに、前記の 200通りの fについて最小自乗法により酸素摂取 率 Eと血管内の放射能濃度 Voを計算する(S18)。次に、式 (4)の最小自乗法の誤差 s2を最小とする血流量 f、酸素摂取率 E、血管内の放射能濃度 Voを決定する(S20)。 そして、得られた測定データ (機能画像データ)を記憶するとともに、ディスプレイ装置 38に画像を表示する(S22)。
[0053] 図 6に、 PET検査により検出される放射線濃度の時間経過の 1例を示す。この例で は、時刻 0分において標識酸素を投与し時刻 3分で標識水を投与している。図 5にお いて、実線 61は上式の左辺つまり PETにおける画素 iでの放射線濃度の測定量 Ci(t) を、破線 62は式(1)の右辺第 1項 (組織中の酸素分子の挙動)、破線 63は式(1)の 右辺第 2項 (体内の代謝で得られた水分子の挙動)、点線 64は式(1)の右辺第 3項( 血管内の放射能濃度)を示す。破線 63は、時刻 3分での標識水の投与に対応して急 に増加している。
[0054] 図 7は、力-クイザルを被検体として用いて上述の新規の検査法と 3種類の標識ィ匕 合物の短期間投与に基づく従来法とでそれぞれ得られた脳血流量、脳酸素摂取率 および脳酸素代謝量の測定データ (画像)を示す。新規の検査法では、 1回の PET 検査のみで検査を終了できるので測定時間が 10分以内に大幅に短縮できる一方、 従来法と同等の測定精度の測定結果が得られた。これにより、検査法の正当性と妥 当性を確認できた。
[0055] なお、血流検査のため、標識水の代わりに標識二酸ィ匕炭素を用いることもできる。
標識二酸化炭素は、標識ガス投与装置 18により投与する。この場合、標識水を用い る場合と同様に、標識酸素と標識二酸化炭素を、時間間隔をあけて連続的に被検体 に投与し、一回の PET撮像で放射線濃度を求める。
[0056] 先に投与した薬剤の血夜中および脳組織中の残留放射は数式理論により予測し、 後に投与した薬剤の放射線濃度は、先に投与した薬剤による残留放射の予測値を 差し引くことにより評価するが、標識酸素と標識水 (または標識二酸ィ匕炭素)の 2つの 薬剤の投与の順番は、逆にしてもよい。
[0057] また、上述の例では PET装置 10からの一次データであるサイノグラム(投影データ )をまず放射線濃度の画像データ Ci(t)に再構成してから、局所ごとに脳酸素代謝量 等を計算した。そして、脳酸素代謝量等の定量ィ匕画像を得た。しかし、その代わりに 、投影データの時曲線力 投影データとしての脳酸素代謝量等を同様に計算し、そ の計算結果から定量化画像を再構成してもよ!/、。
[0058] 以上に説明した画像定量化では、従来標識一酸化炭素投与検査により行っていた 脳血液量補正について、脳血液量を数式理論により推定可能としたので、標識一酸 化炭素を用いた検査が不要となる。また、従来別々に行っていた 0-15標識水と 0-15 標識酸素ガスをたとえば 3分という短時間間隔で連続的に投与する検査法を採用し たので、 1回の PET撮像で検査ができる。さらに、数式理論を用い、 1回の撮像のデ ータから短時間(おおむね 2分)内に酸素代謝量、酸素摂取率、血流といった複数の 機能の画像の計算を可能となる。したがって、 2種の薬剤を連続的に投与しつつ 1回 の PET撮像を行うだけで、測定精度を維持しつつ、検査時間が短縮できる。