明 細 書
糖鎖構造解析方法
技術分野
[0001] 本発明は、構造未知の糖鎖について CID— MSn測定を行い、得られたデータをす でに取得されている参照データと比較することにより該糖鎖の構造解析を行う方法に 関する。さらに本発明は、構造既知の複数の参照糖鎖を CID— MSn測定することに より得られる複数の特定の m/zの娘イオンの総イオンカウント数と CIDエネルギーと の関係を示す CIDエネルギー依存曲線力 なる CIDエネルギー依存曲線ライブラリ 一に関する。
背景技術
[0002] 糖鎖は主に細胞表面に糖タンパク質や糖脂質の一部として存在し、発生、分ィ匕誘 導、受精、免疫、癌化、感染症等、様々な生命現象に深く関与している。このように多 彩な機能を有する糖鎖の研究は近年盛んになつている。また、糖鎖は、タンパク質の 翻訳後修飾の重要な部分を占め、今後の大きな研究対象である。糖タンパク質や糖 脂質の機能は糖鎖により制御される場合があり、糖鎖の構造解析を極微量において 達成する技術が必要である。しかし、糖鎖は生物工学的手法により増幅ができない 分子種であるため、微量の物質のみで構造解析を達成することを可能とする新たな 構造解析技術の開発が必要である。タンパク質の配列はゲノム配列が判明して 、る 場合、対応するタンパク質のアミノ酸配列も取得できるため、目的のタンパク質のアミ ノ酸配列は質量分析 (例えば、 MSZMS法)により解析することができる。しかし、被 修飾タンパク質の配列解析技術にっ 、ては今後の課題として残されて 、る。特に、 糖鎖によるタンパク質の修飾は極めて大きな分子の多様性を生み出して 、る。したが つて、糖鎖の構造解析技術の開発は必要不可欠である。
[0003] 糖鎖は、核酸やタンパク質とは異なり配列以外の要因による構造異性体群を形成 している。この理由の基本は、糖鎖を形成する単糖には反応点となる水酸基が複数 存在するため結合位置異性体を形成する性質を有し、かつ、単糖間の結合の際に はァノメリック位の立体異性によるァノマー異性体を形成する性質を有しているため
である。単糖間の結合は、生物体内においては糖鎖の合成に関わる酵素群の連続 反応により行われるため、必ずしも組み合わせの原理に基づく糖鎖群を形成している わけではない。しかし、酵素反応は副反応を伴うことが知られており、このような現象 の生物における意味は解明されておらず、このような場合には遺伝情報によることの ない全く新しい概念に基づく構造解析法が必要である。もちろん、遺伝情報が解明さ れていない、また、糖鎖の生合成経路が解明されていない生物種における糖鎖構造 の解析につ ヽても新し 、構造解析法が必要である。
[0004] 現在用いられている糖鎖の構造解析技術としては、(1)核磁気共鳴分光法、(2)質 量分析法、(3)多次元クロマトグラフィーによるマッピング法(Royle, L. et al, Anal. Bi ochem., 2002,304,70-90を参照)、(4)加水分解酵素による特異的部分加水分解法( Chaplin, M.F et al., Carbohydrate Analysis, A Practical Approach, IRL Press, Oxfor d, 1994を参照)、(5)レクチンによるマッピング法(Chaplin, M.F et al., Carbohydrate Analysis, A Practical Approach, IRL Press, Oxford, 1994を参照)、及び(6)メチル化 加水分解-ガスクロマトグラフィーによる組成分析法(Chaplin, M.F et al., Carbohyd rate Analysis, A Practical Approach, IRL Press, Oxford, 1994を参照)をあげることが でき、通常はこれらを組み合わせて糖鎖の解析が行われて ヽる。
[0005] 上記の中でも特に有効な糖鎖の解析手段としては、核磁気共鳴分光法及び質量 分析法をあげることができるが、前者の問題点は解析に必要な量が μ g以上であるこ とであり、後者の問題点は立体異性体の解析が不可能なことである。これらの方法を 含めいずれの解析法を用いるにせよ、糖鎖の構造解析は、得られた天然糖鎖構造 の構造解析を直接行わなければならない (Dell, A., Adv. Carbohydr. Chem. Biochem . 1987, 45, 19-72を参照)。
[0006] 一方、異なる糖鎖を質量分析することにより、その結果が異なることが示されている 。例えば、ステロイドの水酸基の立体異性体の CID— MSZMS測定によるフラグメン トイ匕を行うと、各フラグメント強度が異なること(Faretto, D. et al., Mass Spectrom., 19 91, 5,240-244を参照)や、合成された硫酸化糖鎖の構造異性体の CID— MSZMS 測定を FAB— q— Massで行って、特定イオンの強度を測定すると、その値に差があ ること(Kurono, S. et al" J. Mass Spectrom., 1998, 33,35- 44を参照)が示されている
。しかし、これらはいずれも具体的に糖鎖の構造解析方法を示すものではなかった。
[0007] 質量分析装置を用いる糖鎖の構造解析技術にぉ ヽて一般的な構造解析法として は、 mZzとそのピーク強度をパラメータとし、構造既知の糖鎖のそれと比較すること で同一構造か否かの判定をする方法がある(Viseux. N. et al., Anal. Chem. 1998, 7
0, 4951-4959、および Kameyama, A. et al., Anal. Chem. 2005, 77, 4719- 4725を参 照)。この方法は、特定の一点の電圧におけるフラグメントのピーク強度を指標とし、 各々のフラグメントの強度が総合的に一致する力否かをスコア化して判定する方法で あり、参照とする化合物群の網羅的なデータセット、あるいは、網羅的なデータべ一 スが必要である。また、この方法の限界は、合否の判定をするだけで否の場合の構 造予測が不可能な点であった。
[0008] 構造的に類似性のある化合物群に対しては、多変量解析が、質量分析により得ら れたデータ力 構造的特徴を抽出するのに新たな可能性を与えることを示唆してい る報告があるが、 2糖の構造予測に応用できることを報告しているにすぎず、長い糖 鎖の構造予測の可能性については具体的には何も触れていない(Faengmark, I. et al, Anal. Chem. 1999, 71, 1105-1110)。
[0009] さらに、質量分析法は極微量分析であり、検出される質量数 (H、 Na付加等)から 物質の分子量が分かると共に、フラグメントイオンの解裂様式から、分子構造に関し て重要な情報を得ることができるものの、サンプルに異性体 (構造異性体、光学異性 体)が混入して存在する場合、質量分析計のみではその混入物の存在すら識別でき なかった。
発明の開示
発明が解決しょうとする課題
[0010] 本発明の目的は、構造未知の糖鎖について CID— MSn測定を行い、得られたデ ータをすでに取得されている参照データと比較することにより該糖鎖の構造解析を行 う方法を提供することである。具体的には、本発明の目的は、構造解析の目的糖鎖 に関する特定の mZzのフラグメントイオンつ 、て CID— MSZMS測定を行!、、得ら れた CIDエネルギー依存曲線を、同一の mZzの親イオンから同一の mZzの娘ィォ ンを得た参照データである CIDエネルギー依存曲線と比較して、同一か否かを特定
することにより該糖鎖の構造決定を行う方法を提供することである。本発明の別の目 的は、上記の目的糖鎖および参照糖鎖の CIDエネルギー依存曲線について、これ らの曲線を特徴付ける数値で表した解裂イオンパラメータをそれぞれ作成し、これら のパラメータを統計的に解析することにより、 目的糖鎖の構造決定又は構造推定を 行う方法を提供することである。本発明のさらに別の目的は、質量分析計のみを用い た糖鎖の構造異性体混合物を識別するための分析方法を提供することである。 課題を解決するための手段
[0011] 本発明者らは、上記課題を達成するために鋭意検討を進めた結果、構造が異なる 糖鎖および立体異性の糖鎖を合成し、特定の mZzのフラグメントイオンが得られるま で CID— MSn測定を行!、、該フラグメントイオンにっ 、てさらに CID— MSZMS測 定を行 、、得られた特定の mZzの娘イオンの総イオンカウント数と CIDエネルギーと の関係を示す CIDエネルギー依存曲線を作成したところ、同一の構造を有する糖鎖 は複数回これを測定しても同一の CIDエネルギー依存曲線が得られ、逆に構造が異 なる糖鎖は CIDエネルギー依存曲線も異なることを見出した。また、立体異性体も CI Dエネルギー依存曲線が異なることを見出した。さらに、糖鎖の部分構造、そこから 得られる CIDエネルギー依存曲線または CIDエネルギー依存曲線のパラメータがー 致しなくても、パラメータの統計的解析に基づき部分構造を推定できることを見出した 。本発明はこれらの知見に基づ 、て成し遂げられたものである。
[0012] すなわち本発明によれば、以下の発明が提供される。
(1) (a)目的糖鎖について特定の mZzのフラグメントイオンが得られるまで CID— MSn測定を行い、(b)該フラグメントイオンについてさらに CID— MSZMS測定を行 V、、得られた特定の mZzの娘イオンの総イオンカウント数と CIDエネルギーとの関係 を示す CIDエネルギー依存曲線を作成し、(c)該 CIDエネルギー依存曲線と、構造 既知の参照糖鎖力も得られた、上記フラグメントイオンと同一の mZzのフラグメントィ オンを CID—MSZMS測定することにより得られた、上記娘イオンと同一の mZzの 娘イオンの CIDエネルギー依存曲線とを比較することを特徴とする糖鎖構造解析方 法。
[0013] (2) 構造既知の複数の参照糖鎖を CID— MSn測定することにより得られる複数の
特定の mZzの娘イオンの総イオンカウント数と CIDエネルギーとの関係を示す CID エネルギー依存曲線力 なる CIDエネルギー依存曲線ライブラリー。
(3) 参照糖鎖が 3糖からなることを特徴とする(2)に記載のライブラリー。
[0014] (4) (2)に記載の CIDエネルギー依存曲線力 作成された、構造既知の複数の参 照糖鎖の解裂イオンパラメータ力もなる解裂イオンパラメータライブラリー。
(5) 構造既知の複数の参照糖鎖の解裂イオンパラメータが、特定の mZzの娘ィォ ンのイオン強度の最大値を該娘イオンの総イオンカウント数の相対数としてあらわし た相対値、前記相対値が 50%となる CIDエネルギー値、 CIDエネルギー依存曲線 の変曲点での傾き、力も選ばれる少なくとも 1つのパラメータであることを特徴とする、
(4)に記載のライブラリー。
(6) 参照糖鎖が 3糖からなることを特徴とする (4)または(5)に記載のライブラリー。
[0015] (7) (a)目的糖鎖について特定の mZzのフラグメントイオンが得られるまで CID—
MSn測定を行い、(b)該フラグメントイオンについてさらに CID— MSZMS測定を行 V、、得られた特定の mZzの娘イオンの総イオンカウント数と CIDエネルギーとの関係 を示す CIDエネルギー依存曲線を作成し、(c)該 CIDエネルギー依存曲線と、(2)ま たは(3)に記載のライブラリーに含まれる、上記フラグメントイオンと同一の mZzのフ ラグメントイオンを CID— MSZMS測定することにより得られた、上記娘イオンと同一 の mZzの娘イオンの CIDエネルギー依存曲線とを比較することを特徴とする糖鎖構 造解析方法。
[0016] (8) (1)または(7)に記載の(c)の工程において、 目的糖鎖の特定の mZzの娘ィ オンの CIDエネルギー依存曲線の解裂イオンパラメータを作成し、該解裂イオンパラ メータと、構造既知の参照糖鎖の上記娘イオンと同一の mZzの娘イオンの CIDエネ ルギー依存曲線の解裂イオンパラメータとを比較することを特徴とする、 (1)または(7 )に記載の方法。
[0017] (9) 解裂イオンパラメータ力 特定の mZzの娘イオンのイオン強度の最大値を該娘 イオンの総イオンカウント数の相対数としてあらわした相対値、前記相対値が 50%と なる CIDエネルギー値、 CIDエネルギー依存曲線の変曲点での傾き、から選ばれる 少なくとも 1つのパラメータであることを特徴とする、 (8)に記載の方法。
[0018] (10) (a)目的糖鎖について特定の mZzのフラグメントイオンが得られるまで CID— MSn測定を行い、(b)該フラグメントイオンについてさらに CID— MSZMS測定を行 V、、得られた特定の mZzの娘イオンの総イオンカウント数と CIDエネルギーとの関係 を示す CIDエネルギー依存曲線を作成し、(c)該 CIDエネルギー依存曲線の解裂ィ オンパラメータを作成し、 (d)該解裂イオンパラメータと、(4)〜(6)の 、ずれかに記 載のライブラリーに含まれる、上記フラグメントイオンと同一の mZzのフラグメントィォ ンを CID— MSZMS測定することにより得られた、上記娘イオンと同一の mZzの娘 イオンの CIDエネルギー依存曲線カゝら作成された解裂イオンパラメータを比較するこ とを特徴とする糖鎖構造解析方法。
[0019] (11) CIDエネルギー依存曲線の特定の mZzの娘イオンの総イオンカウント数が、 特定の mZzの娘イオンの総イオンカウント数と、該娘イオンの総イオンカウント数と親 イオンの総イオンカウント数の和の比であることを特徴とする(1)または(7)〜(10)の いずれかに記載の方法。
[0020] (12) 目的糖鎖に含まれる異なる特定の mZzのフラグメントイオンについて(1)もし くは(7)に記載の(a)〜(c)の工程または(10)に記載の(a)〜(d)の工程を繰り返し 、それらの結果を組み合わせることを特徴とする糖鎖構造解析方法。
[0021] (13) 少なくとも CID— MSn測定装置、(2)〜(6)のいずれかに記載のライブラリー をコンピューター読み取り可能なように記録した記録媒体、および目的糖鎖に含まれ る異なる特定のフラグメントイオンにっ 、て(1)もしくは(7)に記載の (b)および (c)の 工程または(10)に記載の (b)〜(d)の工程を行なうためのプログラムを記録した記録 媒体を含む糖鎖構造解析システム。
[0022] (14) (a)糖鎖検体について特定の mZzのフラグメントイオンが消失しないような任 意の電圧で CID— MSn測定を行 、、 (b)残存する該フラグメントイオンにっ 、てさら に CID— MSZMS測定を行い、(c)前記 2工程で得られたマススペクトル、 CIDエネ ルギー依存曲線または該曲線の解裂イオンパラメータを比較することを特徴とする、 糖鎖構造異性体の混入検定方法。
発明を実施するための最良の形態
[0023] 以下、本発明を更に詳細に説明するが、以下の構成要件の説明は、本発明の実
施態様の代表例であり、本発明はこれらの内容のみに特定されるものではない。 以下の説明において、「CID— MSn測定」とは、 CID (Collision induced dissociation :衝突誘起解離)による多段マススぺタトロメトリーの取得を行うことを示し、「フラグメン トイオン」とは、上記 CID— MSn測定や物理ィ匕学的分解等により得られる各 mZzを 有するイオンを示し、「mZz」とは、質量数 (m)と電荷 (z)の比を示し、「娘イオン」とは 、フラグメントイオンを上記 CID— MSn測定することにより得られる各 mZzを有するフ ラグメントイオンを示し、「総イオンカウント数」とは、各 mZzを有するすべてのフラグメ ントイオンのイオン強度の総和を示し、また、「CIDエネルギー」とは、 CIDを起こすと きに加えるエネルギーを一般的に示し、実際にはイオンを振動させるためのある周波 数の電場の電圧を示す。さらに、「構造解析方法」とは、構造決定方法および Zまた は構造推定方法を意味する。
本発明の方法を図 1〜5に示し、この図に従って以下に本発明を説明する。
(1)構造解析方法の概略 (図 1)
本発明は、構造未知の糖鎖 (本明細書中では、これを「目的糖鎖」と称することがあ る)を特定の mZzのフラグメントイオン (以下、これを「親イオン」又は「親フラグメントィ オン」と称することがある)が得られるまで CID— MSn測定を行い(フロー A1)、得られ た親フラグメントイオンについてさらに CID— MSZMS測定を行う(フロー Bl)。ここ で、得られた特定の mZzを有する娘イオンにつ!、て総イオンカウント数と CIDェネル ギ一との関係を示す CIDエネルギー依存曲線を作成し、必要に応じて該曲線の各特 長をパラメータ化した解裂イオンパラメータを作成する (フロー Bl)。一方、参照デー タとして、構造既知の糖鎖 (本明細書中では、これを「参照糖鎖」と称することがある) またはそのライブラリーについて、特定の m/zのフラグメントイオンが得られるまで CI D— MSn測定を行い(フロー A2)、得られたフラグメントイオンについてさらに CID— MSZMS測定を行う(フロー B2)。ここで、得られた特定の娘イオンについて総ィォ ンカウント数と CIDエネルギーとの関係を示す CIDエネルギー依存曲線を作成し、必 要に応じて該曲線の各特長をパラメータ化した解裂イオンパラメータを作成する(フロ 一 B2)。本明細書中では、これら参照糖鎖の CIDエネルギー依存曲線および解裂ィ オンパラメータをあわせて「参照データ」と称することがある。なお、フロー A1に先立
つて、目的糖鎖について CID— MSn測定による糖鎖構造異性体の混入検定を行つ てもよい(フロー D)。
[0025] 力べして得られた目的糖鎖の特定の mZzのフラグメントイオン力 得られた特定の mZzの娘イオンの CIDエネルギー依存曲線、または解裂イオンパラメータを、参照 データと比較し (フロー C)、目的糖鎖のデータと一致する参照データがあった場合に 、その参照データが得られた参照糖鎖と目的糖鎖の一部の構造が一致すると判断 することができる。
[0026] また、目的糖鎖のデータと参照データが一致しない場合でも、目的糖鎖のパラメ一 タが参照糖鎖のパラメータの統計的解析結果の範囲内であれば、部分構造を推定 することができる。本発明には、このような構造の推定を行う方法も含まれる。
[0027] このようにして目的糖鎖の一部の構造が決定または推定された場合、これらを目的 糖鎖の生合成経路を参照する等して全体の構造を決定または推定して 、く(フロー A1)ことができる。
[0028] (2)目的親フラグメントイオンの調製(図 1 ·図 2Zフロー A1)
本発明に用いられる目的糖鎖は、以下に説明する方法により分解するなどして CI D— MSn測定を行い得るものであればいかなるものであってもよい。また、構造解析 を目的として本発明の方法に供するものであるので、その全部または一部の構造が 未知のものが好ましい。 目的糖鎖は、生体組織又は細胞等力 得られたものでもよい し、合成されたタンパク質に結合したものから得られたものでもよぐまたそれを酸カロ 水分解又は酵素分解したり、さらに HPLC等で分離精製したもの等を用いることがで きる。また、化学合成された糖鎖を用いることもできる。
[0029] 本発明では、目的糖鎖と参照糖鎖力 得られる同一の mZzを有する親イオンにつ いて、 CID— MSn測定して得られる娘イオン強度を比較するので、参照データを誘 導する親イオン (以下、これを「参照親フラグメントイオン」と称することがある)と同一 の mZzを有するフラグメントイオン (以下、これを「目的親フラグメントイオン」と称する ことがある)が得られるまで何らかの方法で分解する必要がある。分解の方法は、そ れ自体公知の常法を用いることができるが、例えば、酸加水分解、酵素分解等により 得られる糖鎖を液体クロマトグラフィー、キヤビラリ一電気泳動、ゲル電気泳動等によ
り分離精製して用いることもでき、あるいは後述する CID— MSn測定等により得られる 任意のフラグメントイオンを m/zにより分離して用いることができる。フロー A1では、 参照糖鎖として 3糖ライブラリーを用いた場合を示しているので、目的糖鎖を 1〜3糖 に分解することが望ましい。また、目的糖鎖が置換基を有する場合、これを除去して も、また参照データに置換基を含むものがあれば付いたままでも用いることができる。 最終的に得られた目的糖鎖分解物は、それぞれ質量分析することにより mZzを確認 し、この質量とその他の情報、例えば生合成経路などの情報力 配列を決定すること もできるが、本発明の方法は、ここで決定することのできな力つたフラグメントイオンに ついて用いることができる。
[0030] (3)目的親フラグメントイオンの CID— MSn測定(図 1、図 3Zフロー B1)
上記で得られた目的親フラグメントイオンは、これを CID— MSn測定する(CID— M Sn測定により得られた目的親フラグメントの場合は、これを CID— MSZMS測定する
) o
[0031] イオンィ匕法としては、 FAB (高速原子衝撃法)、 CI (化学イオン化法)、 ESI (エレクト ロスプレーイオンィ匕法)、 MALDI (マトリクス支援レーザー脱離イオンィ匕法)、 APCI ( 大気圧化学イオン化法)等が用いられるが、本発明にお 、てはサンプル調製が容易 で、かつ、マトリックス由来の夾雑イオンの影響がない ESI法を用いることが好ましい。 しかし、上記 CID— MSn測定が可能であればイオンィ匕法はこれらに限定されるもの ではない。また、 ESI法にはマイクロスプレー法とナノスプレー法がある力 サンプル 使用量の面から本発明にお 、てはナノスプレー法が好ましく用いられる。
[0032] 上記目的糖鎖またはその分解物をイオンィ匕する場合、微液滴を真空下溶媒を蒸発 させることでイオンィ匕するため水 Zメタノールあるいは水 Zァセトニトリル(1 : 1)を溶 媒として用いることができるが、物質の性質に従い選択が可能でありこれに限られるこ とはない。目的糖鎖またはその分解物は、この溶媒に対して 0. 01〜: LOOnmolZml 、より好ましくは 0. 5〜5nmolZml、さらに好ましくは InmolZmlの濃度に溶解する ことが好ましい。
[0033] また、 CID— MSn測定を行なう装置は、これが可能であれば、機種を問うものでは ないが、本発明においては、 CID— MSn測定が可能な四重極イオントラップ型質量
分析計を用いることが好ましい。このような装置としては、具体的には例えば、 esquir e 3000 plus (ブルカーダルト-タス社製)、 LCQ DECA (サーモフィ-ガン社製) 、 AXIMA QIT (島津社製)、 LCMS— IT— TOF (島津社製)等が挙げられる。測 定方法としては、各親フラグメントイオン力 解離する娘イオンのイオン強度が測定で きる方法であればいかなるものでもよいが、具体的には、例えば、熱キヤビラリ一温度 20〜365°C、キヤピラリー電圧 0〜6. OkV、 CIDエネルギーが 0〜25V、ポジティブ モードまたはネガティブモードの 、ずれか等で測定することができる。ポジティブモー ドを用いる場合には、プロトン、ナトリウム、カリウム、リチウム、カルシウム、アンモ-ゥ ム等の陽イオンを選択して用いることができる。
[0034] 目的親フラグメントイオンについて、さらに上述の CID— MSn測定(または CID— M SZMS測定)を行なう。該測定により得られたプロットから、特定の mZzの娘イオン の総イオンカウント数と CIDエネルギーとの関係を示す CIDエネルギー依存曲線を 作成する(式 1)。このうち、特定の mZzの娘イオンの総イオンカウント数を、該娘ィォ ンの総ィ才ンカウント数と、該娘ィ才ンの総ィ才ンカウント数と上記親ィ才ンの総ィ才ン カウント数の和との比で表すことが好ましい(式 2)。なお、式 1及び式 2は、親イオン A 力も娘イオン a, b, c, d, · ··, (i) , · '·ηが生成する場合の関係式を示す。この比で娘 イオン強度を表すことにより、微弱なその他のイオンカウント数に影響を受けず、正確 な CIDエネルギー依存曲線を作成することができる。特定の mZzの娘イオンとは、 目的親フラグメントイオン力も解離する何れの娘イオンでもよいし、その全てでもよい
[0036] [数 2]
[LC.
[IC [IC]
[0037] さらに、上記 CIDエネルギー依存曲線をそれ自体公知の方法で、特徴付ける数値 で表すことにより、解裂イオンパラメータを作成することもできる。
[0038] 解裂イオンパラメータとしては、例えば、特定の mZzの娘イオンのイオン強度の最 大値を該娘イオンの総イオンカウント数の相対数としてあらわした相対値、前記相対 値が 50%となる CIDエネルギー値、及び CIDエネルギー依存曲線の変曲点での傾 き、力も選ばれる少なくとも 1つのパラメータを用いることができる。また、 CIDェネル ギー依存曲線をイオンカウント数の相対数としての基底値 (Bottom=0)と最大値 (T op = 100)、その 50%にあたる CIDエネルギー(V )、および CIDエネルギー依存
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曲線の変曲点での傾き(Slope)を指標として以下の式 3により計算し、解裂イオンパ ラメータとすることもできる。式 3の Xは、 CIDエネルギーを示す。
[0039] [数 3]
V 50
y = Bottom + (Top + Bottom)(\ + exp slope )
[0040] 上記の CIDエネルギー依存曲線あるいは解裂イオンパラメータを作成するための c
ID— MSn測定において、 CID— MSn測定器の機種、あるいは個体間においてデー タのばらつきがあると、後述する参照データとの正確な比較が困難となる。そこで、必 要に応じてスタンダードとなり得る物質についても同様に CID— MSn測定を行ない、 このデータを用いて補正して比較することが好まし 、。
[0041] (4)参照親フラグメントイオンの調製(図 1、図 2Zフロー A2)
参照データを取得する目的で、参照糖鎖について上記(2)と同様に親フラグメント イオンを調製する。参照糖鎖は、 目的糖鎖の全部または一部の構造を本発明の方法 を用いて決定し得るものであればいかなるものであってもよい。具体的には、 目的糖 鎖またはその一部と構造が一致する可能性があり、構造が明らかであるものが用いら れる。このような参照糖鎖は、天然のものでも合成されたものでもよぐまた置換基が ついていてもよい。糖鎖の長さは、 1〜13個の糖が連結したものが用いられる。
[0042] この参照糖鎖として、ある特定の集団であるライブラリーを用いることによれば、より 網羅的、組織的に目的糖鎖の構造決定を行なうことができる。このようなライブラリー
としては、例えば、 2〜25個の糖が連結した構造を有しており、ライブラリーを構成す る各糖鎖は、天然糖鎖を構成する全ての種類の単糖の順列組み合わせの配列を有 するもので、かつ立体異性も含むもの等が好ましく用いられる。また、非天然の単糖 を含んでいてもよい。
[0043] また、糖鎖構造を一般化すれば、非還元末端糖、還元末端糖、およびそれらの中 間に存在する糖からなるポリマー性糖ィ匕合物ということができ、このポリマーの最小単 位は 3糖が連結した糖鎖である。このような 3糖からなる天然糖鎖を構成する全ての 種類の単糖の順列組み合わせの配列を有するもので、かつ立体異性も含む 3糖ライ ブラリーは、生体に存在するあらゆる直鎖構造を有する糖鎖の部分構造を含んでい るため、本発明の参照糖鎖のライブラリーとしてより好ましい。
[0044] 上記の天然糖鎖を構成する単糖とは、例えば、グルコース、ガラクトース、マンノー ス、 N-ァセチルダルコサミン、 N-ァセチルガラタトサミン、キシロース、シアル酸、グル クロン酸、フコース等が挙げられる。また、これらは修飾基を有していても良い。
[0045] 参照糖鎖および参照糖鎖ライブラリ一は、これをィ匕学合成することが好ま U、。合成 の方法としては、通常用いられるそれ自体公知の方法を用いることができる。化学合 成には、上述のような単糖各々を適当に保護した合成ユニットが必要である。さらに、 立体異性体力 成る糖鎖ライブラリーを効率良く合成するためには、立体選択的な 合成ではひーグリコシドを得るためには隣接基関与のない保護基、例えばべンジル 基 (Bn)を、 βーグリコシドを得るためには、隣接基関与のある保護基、例えばァセチ ル基等を用いる必要がある。これらの立体制御のための保護基の他に通して用いる 保護基を用いる必要性から、単糖合成ユニット数は多くなり、合成経路の複雑化につ ながる。従って、 2位の保護基は隣接基関与のない保護基とし、合成経路の簡略ィ匕 を、例えば PCTZJP2004Z009523号明細書に記載の方法等に従って行なうこと が好ましい。
[0046] 力べして得られた参照糖鎖または参照糖鎖ライブラリ一は、これを目的糖鎖と同様 に特定の mZzのフラグメントイオンが得られるまで CID— MSn測定を行なう。特定の mZzのフラグメントイオンとは、目的糖鎖の親フラグメントイオンが有する mZzと同一 のものであればいかなるものでもよい。また、参照糖鎖がライブラリーの場合には、該
ライブラリーの各構成要素力 得られる何れの解裂しえるフラグメントイオンでもよぐ 全ての解裂し得るフラグメントイオンでもよ!/、。
[0047] (5)参照親フラグメントイオンの CID— MSn測定(図 1、図 3Zフロー B2)
上記 (4)で取得された参照親フラグメントイオンは、これを目的親フラグメントイオン と同様に CID— MSn測定する(CID— MSn測定により取得された参照親フラグメント の場合は、これを CID— MSZMS測定する)。イオン化法、溶媒、糖鎖の調製、測定 装置などは全て目的糖鎖および親フラグメントイオンと同様のものを用いることができ る。該測定により得られたプロットから、特定の mZzの娘イオンの総イオンカウント数 と CIDエネルギーとの関係を示す CIDエネルギー依存曲線を作成する(前述の式 1) 。このうち、特定の mZzの娘イオンの総イオンカウント数を、該娘イオンの総イオン力 ゥント数と、該娘イオンの総イオンカウント数と上記親イオンの総イオンカウント数の和 との比で表すことも好ましい(前述の式 2)。この比で娘イオン強度を表すことにより、 微弱なその他のイオンカウント数に影響を受けず、正確な CIDエネルギー依存曲線 を作成することができる。特定の mZzの娘イオンとは、参照親フラグメントイオンから 解離する何れの娘イオンでもよいし、その全てでもよい。さらに、参照糖鎖が、ライブ ラリーであった場合、該ライブラリーの全ての構成要素カゝら得られる参照親フラグメン トイオンにつ 、て得られる全ての娘イオンであることが網羅的、組織的解析を行なう 上で好ましい。
[0048] さらに、上記 CIDエネルギー依存曲線をそれ自体公知の方法で、特徴付ける数値 で表すことにより、解裂イオンパラメータを作成することもできる。
[0049] 解裂イオンパラメータとしては、例えば、特定の mZzの娘イオンのイオン強度の最 大値を該娘イオンの総イオンカウント数の相対数としてあらわした相対値、前記相対 値が 50%となる CIDエネルギー値、及び CIDエネルギー依存曲線の変曲点での傾 き、力も選ばれる少なくとも 1つのパラメータを用いることができる。また、 CIDェネル ギー依存曲線をイオンカウント数の相対数としての基底値 (Bottom=0)と最大値 (T op = 100)、その 50%にあたる CIDエネルギー(V )、および CIDエネルギー依存
50
曲線の変曲点での傾き(Slope)を指標として前述の式 3により計算し、解裂イオンパ ラメータとすること等が挙げられる。このとき、他の式による CIDエネルギー依存曲線
のカーブフィッティングを行なうこともでき、そのような場合には対応するパラメータを 用!/、ることができる。
[0050] 上記した方法により得られる、構造既知の複数の参照糖鎖を CID— MSn測定する ことにより得られる複数の特定の mZzの娘イオンの総イオンカウント数と CIDェネル ギ一との関係を示す CIDエネルギー依存曲線力 なる CIDエネルギー依存曲線ライ ブラリー、並びに上記 CIDエネルギー依存曲線力も作成された、構造既知の複数の 参照糖鎖の解裂イオンパラメータカゝらなる解裂イオンパラメータライブラリーも本発明 に含まれる。
[0051] さらに、参照糖鎖または参照糖鎖ライブラリーを CID— MSn測定することにより得ら れる CIDエネルギー依存曲線、解裂イオンパラメータ等の参照データを、コンビユー タにより読み取り可能な記憶装置に格納したデータセットも本発明に含まれる。
[0052] さらに、 CIDエネルギー依存曲線、または解裂イオンパラメータは深度を持つ新し V、種類のバーコードとして扱うこともでき、分子の構造を記述するために用いることも できる。参照データとともに参照糖鎖名、起源、測定方法や条件等も同時にコード化 することができ、サンプル瓶等に貼ることができる。従って、これを読み取るバーコード リーダー等と解析ソフトウェアについても当業者によれば作成することは可能であり本 発明の範囲に含まれる。
[0053] (6)目的糖鎖の構造決定 (図 1、図 4Zフロー C)
本発明にお ヽては、上記(3)で得られた目的糖鎖の特定の mZzの親フラグメントィ オン力 得られた特定の mZzの娘イオン (以下、これを「目的娘イオン」と称すること がある)の CIDエネルギー依存曲線について、 目的親フラグメントイオンと同一の m/ zを有する参照親フラグメントイオン力も得られた、 目的娘イオンと同一の mZzの娘ィ オン (以下、これを「参照娘イオン」と称することがある)の CIDエネルギー依存曲線を 選択し、これを比較する。また、これらの CIDエネルギー依存曲線力も得られた解裂 イオンパラメータを比較してもよ 、。
[0054] また、参照糖鎖がライブラリーである場合には、まず、参照データから目的親フラグ メントイオンと同一の mZzを有する親イオンのデータを選択し、さらにその中から、比 較しょうとする目的娘イオンと同一の mZzの娘イオンの CIDエネルギー依存曲線ま
たは解裂イオンパラメータを選択してこれを比較する。
[0055] 目的親フラグメントイオン力 得られた CIDエネルギー依存曲線または解裂イオン パラメータと、これに対応する参照データが一致した場合、参照データが誘導された もとの参照親フラグメントイオンの構造と目的親フラグメントイオンの構造が同じである と決定することができる。ここで、それぞれのデータが一致するとは、 CIDエネルギー 依存曲線の場合、各々の曲線が 95%以上の一致度を示すこといい、また、解裂ィォ ンパラメータの場合にはその値の差が ± 2%以内であることを示す。また、 目的親フラ グメントイオンに置換基が結合して 、た場合には、置換基が結合した参照親フラグメ ントイオン力も得られた参照データと比較して、一致した場合には、同一の置換基を 有していると判断することができる。このとき、 Z検定を判断基準とすることもできる。
[0056] ここで、 1つの特定の mZzを有する娘イオンの CIDエネルギー依存曲線または解 裂イオンパラメータが一致しても、さらに他の mZzを有する娘イオンのデータを比較 すると異なる場合もあるので、複数の娘イオンのデータを比較することが好ま 、。
[0057] カゝくして本発明の方法により目的糖鎖の一部が決定された場合、これらの全配列を 決定するために、例えば、生合成経路に当てはまるものを参照してつなぎ合わせたり 、初めに目的親フラグメントイオンを産生するために分解した場合には、その分解の 方法力 再構築する等の方法が用いられる。
[0058] (7)目的糖鎖の構造推定 (図 1、図 4Zフロー C)
上記(6)で比較した CIDエネルギー依存曲線または解裂イオンパラメータが一致し な力つた場合は、解裂イオンパラメータを比較し、 目的糖鎖の構造を推定することが できる。具体的には、 目的娘イオンの CIDエネルギー依存曲線力も解裂イオンパラメ ータを作成し、参照娘イオンの CIDエネルギー依存曲線力も作成した解裂イオンパ ラメータと比較すること〖こより、 目的糖鎖の構造を推定すればよい。統計的解析により 比較するのが好ましぐまた参照糖鎖として、前述の糖鎖ライブラリーを用いるのが好 ましい。また、解裂イオンパラメータとして、例えば、 CIDエネルギー依存曲線をィォ ンカウント数の相対数としての基底値 (Bottom=0)と最大値 (Top = 100)、その 50 %にあたる CIDエネルギー(V )、および CIDエネルギー依存曲線の変曲点での傾
50
き(Slope)を指標として前述の式 3により計算した値を、挙げることができる。
[0059] (8)糖鎖の構造異性体の純度検定(図 1、図 5Zフロー D)
前述のように、糖鎖の構造異性体毎に CID— MSn測定結果は相違する (図 10)。す なわち、同一質量数であっても構造が異なる糖鎖異性体はこれを形成する結合の解 裂反応の様子が異なる。この理由は構造異性を形成する化学結合エネルギーに差 異が存在し、このため、異なる結合が各々 CID条件下で解裂することによるためであ る。これを利用し、 CID— MSn測定で親イオンが消失しない程度に衝突誘起解離を 行い、この残存する親イオンを n+ 1段目で再度衝突誘起解離を行うこと (CID-MS n+1測定)により、糖鎖の構造異性体の純度検定を行うことができる。検体が純品なら ば CID— MSnと CID— MSn+1の段数で得られるマススペクトル、あるいは、エネルギ 一依存曲線は一致する。検体が同一質量数の物質力 なる混合物である (構造異性 体混合物)ならば、 CID— MSnと CID— MSn+1の各段の親イオンの組成比が異なるこ ととなるので、得られる質量分析結果、特に、各シグナル強度、あるいは、エネルギー 依存曲線が異なる。上記の純度検定の概略を図 5に示す。
実施例
[0060] 以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施 例により限定されるものではない。
実施例 1 CID- MS¾I定の定量件の確認
(1) CID MSZMS測定値の定量性
立体異性体や結合位置異性体力 なる糖鎖の CID— MSZMS測定を行 、、得ら れた CID エネルギー依存曲線を比較して上記糖鎖の化学構造を決定するために は、取得したデータの定量性が問題となるためこれを確認した。 Fuc a (1— 3) Gal j8 — Octyl (PCTZjP04Z009523号明細書に記載の方法で合成した)を H O メタ
2 ノール(1 : 1)溶液に最終濃度 lOngZ w lとなるように溶解し、これを CID— MSn測定 装置(esquire 3000 plus :ブルカーダルト-タス社製)の-一ドルにシリンジポン プを用いたインフュージョン法 (流速を 2 μ 1Z分)で注入し、熱キヤピラリー温度 250 。C、キヤビラリ一電圧 4. OkV、 CIDエネノレギ一が 0. 5〜1. 5V、ポジティブモードで 測定を行った。
[0061] 上記の測定で得られる実際のイオングラフの 1例として、 mZz = 315のフラグメント
イオンのイオンクロマトグラム (TIC)を図 6Aに示す。図中、階段状のカーブが電圧変 化を示し、縦軸が総イオンカウント数、横軸が測定時間である。
[0062] 上記の測定における mZz = 315およびその親イオンである 416について、 CIDェ ネルギー(電圧)と総イオンカウント数の関係を示したグラフ(CIDエネルギー依存曲 線)を図 6Bに示す。図中丸で示したグラフが m/z = 315のもので、四角で示したグ ラフは mZz=416のもので、いずれも 16プロットから電圧変化の直前直後の各々 2 プロットを除 、た平均値をプロットした。
[0063] 図 6Bの縦軸は、 mZz = 315の総イオンカウント数と、 mZz = 315の総イオンカウ ント数と親イオン (mZz=416)の総イオンカウント数の和の比である。この値を用い ることにより、微弱な他の mZzのイオンカウント数の影響を受けない値で参照データ との it較することがでさる。
[0064] このグラフの定量性を検証するために mZz = 315の CIDエネルギー依存曲線の 立ち上がり点(0. 94V)、減衰する親イオン (mZz=416)の CIDエネルギー依存曲 線との交点(1. 12V)、およびプラトーに達する点(1. 38V)の 3点におけるイオン力 ゥント数について上記 16プロットから上限 2プロットを除いた 12プロットで、 CV値(変 動係数)を算出した結果を図 6Cに示す。算出式は、標準偏差 Z平均値 X 100であ る。結果、それぞれの電圧における値の CV値 (変動係数)が CIDエネルギー依存曲 線の立ち上がり点で 24. 2%、親イオン CIDエネルギー依存曲線との交点で 3. 5% 、およびプラトー到達点で 7. 3%であり、特に親イオン CIDエネルギー依存曲線との 交点以降のデータは信頼性が高ぐ上記の方法により定量的解析が可能であること を示した。
[0065] (2) CID— MSn測定により得られる CIDエネルギー依存曲線の同一性
本発明においては、同一のフラグメントイオンについて、 CID— MSZMSと MSZ MSZMS測定またはそれ以上の各 CID— MSn測定で得られた CIDエネルギー依 存曲線が同一でないと、参照データとの比較ができないので、これを確認した。
[0066] マルトへキサオース(6糖)のピリジルァミノ化物(図 7A)を H OZメタノール(1 : 1)
2
溶液に最終濃度 lOngZ 1となるように溶解し、これを CID— MSn測定装置 (esquir e 3000 plus :ブルカーダルト-タス社製)の-一ドルにシリンジポンプを用いたイン
フュージョン法 (流速を 2 1Z分)で注入し、熱キヤピラリー温度 250°C、キヤビラリ一 電圧 4. OkV、 CIDエネルギーが 0. 9〜: LV、ポジティブモードで測定を行った。上記 CID— MSZMS測定で得られた mZz=443 (2糖)の CIDエネルギー依存曲線を 図 7A— 1に示した。ここで、縦軸は、 m/z=443の総イオンカウント数と、 m/z=4 43の総イオンカウント数と親イオン(mZz= 1091)の総イオンカウント数の和の比で ある。
[0067] 次にマルトへプタオース(7糖)のピリジルァミノ化物(図 7B)を上記と同様に CID— MSZMS測定を行い、得られた mZz= 1091のフラグメントイオンについて、さらに 1. 1〜1. 9Vの CIDエネルギーで CID— MS (この時点では MSZMSZMS)測定 を行って得られた mZz=443 (2糖)の CIDエネルギー依存曲線を図 7B— 1に示し た。さらに上記 2つの CIDエネルギー依存曲線を重ね合わせたものを図 7Cに示した 。図から明らかなように、同一のフラグメントイオンの CIDエネルギー依存曲線は、 CI D MSn測定の異なる段数で得られたものでも同一であり CID— MSn測定の定量性 が確認された。
[0068] 施例 2 CTDヱネルギー 存 ft線比 による構诰決定
(1)天然糖鎖と合成オリゴ糖鎖における CIDエネルギー依存曲線の同一性 本発明は、参照糖鎖 (ライブラリー)の CIDエネルギー依存曲線と構造未知の天然 の糖鎖の CIDエネルギー依存曲線を比較することにより目的糖鎖の構造解析を行う 方法である。ここで、構造は同じであるが異なる置換基を有している合成糖鎖と天然 糖鎖について、 CID— MSZMS測定で同一の mZzを有する親イオンを取得し、こ れをさらに CID - MSZMS測定した場合、得られた娘イオンの CIDエネルギー依存 曲線が同一であることを確認した。
[0069] Fuc a (l - 6) Gal j8 (l—4) Glc j8—Octyl (合成品 Z図 8B)と、 Fuc a (1— 2) G al j8 (1— 4) Glcを含む H O—メタノール(l : l) (Dextra Lanoratories, Ltd.製/
2
図 8A)について、例 1 (1)と同様にして、 CID— MSZMS測定を行い、得られた mZ z = 305. 08のフラグメントイオン (グルコース環が解裂したもの(A°、 2イオン))につい て、さらに CID— MSZMS測定を行った。この測定の mZz = 245の時の CIDエネ ルギー依存曲線を図 8に示す。図中、 A—1で示されるグラフが天然の糖鎖力 得ら
れたもの、 B—lがォクチル基が付いた合成オリゴ糖から得られたものである。また、こ れらを重ね合わせたものを Cで示した。図から明らかなように、合成オリゴ糖と天然糖 鎖では、同一の mZzを有するフラグメントイオンでは、その前段数の CID— MSZM S測定の親イオンが異なる置換基を有していても、また、天然糖鎖と合成糖鎖でも同 一の CIDエネルギー依存曲線が得られることが確認された。
[0070] また、上記 CIDエネルギー依存曲線をイオンカウント数の相対数としての基底値 (B ottom=0)と最大値 (Top= 100)、その 50%にあたる CIDエネルギー(V )、およ
50 び CIDエネルギー依存曲線の変曲点での傾き(Slope)を指標として式 1によりパラメ ータ化(Prism4 (GraphPad Software社製)を用いた)し、比較したところ、ほぼ同 一の値を示した。従って、上記パラメータの比較によっても、構造未知の天然糖鎖の 部分構造を明らかにすることができることが確認された。
[0071] (2)異なる構造を有する糖鎖力も得られる同一のフラグメントイオンにおける CIDエネ ルギー依存曲線の同一性
本発明の方法は、 目的糖鎖 (参照データの親フラグメントイオンとは異なる構造を有 する)を参照データの親イオンと同一の構造を有するフラグメントイオンが得られるま で CID— MSn測定を行い、これをさらに CID— MSZMS測定することにより得られ た CIDエネルギー依存曲線を参照データと比較することにより糖鎖の構造解析を行 う方法である。そこで、異なる構造を有する 2種の糖鎖について同一のフラグメントィ オンが得られるまで CID— MSn測定を行 、、得られたフラグメントイオンをさらに CID MSZMS測定し、得られた娘イオンの CIDエネルギー依存曲線が同一であること を確認した。
[0072] PAィ匕 LeX5糖(図 9A)および還元末端遊離の LeX5糖 (B)のナトリウム付加イオン を実施例 1と同様に CID— MSZMS測定を行 ヽ、 LeX— osyl残基 (LeX構造を含 み、 N ァセチルダルコサミン 1位の酸素原子を含む)由来のフラグメントイオン (mZ z = 552. 19)が共通に観察された。
[0073] そこで、このフラグメントイオンについてさらに CID— MS/MS (この時点での段数 は 3段目となる)測定を行った。得られたプロットから mZz=406 (C)および 388 (D) のフラグメントイオンについて CIDエネルギー依存曲線を作成した結果を図 9Cおよ
び Dに示す。図中丸で示したグラフは、 PAィ匕 LeX5糖由来のもの、四角が還元末端 遊離の LeX5糖由来のものを示す。図から明らかなように、異なる構造を有する糖鎖 力 得られたものであっても、同一の構造を有するフラグメントイオン力 得られる同 一の mZzの娘イオンの CIDエネルギー依存曲線は一致することが確認された。
[0074] (3)ァノマーの識別
同一の構造を有するが立体異性のフラグメントイオンについて、これを本発明の方 法で識別することができることを確認した。 Fuc α Z j8 ( 1— 6) Gal α Z j8 ( 1— 6) Glc α / β— Octyl (図 10Α)の 3つのグリコシド結合がそれぞれ異なる 8種のァノマーを 化学合成し、 HPLCで分離精製を行なった後、これらを実施例 1と同様に CID— MS ZMS測定を行った。このときの Fuc a ( 1— 6) Gal a ( 1—6) Glc j8—Octylの MSZ MSを異なる CIDエネルギー(B : 0. 82V、C : 0. 96V)で測定したスペクトルの 1例を 図 10B、 Cに示した。図から明らかなように、 m/z = 623. 3の親イオンは、 CIDエネ ルギ一が 0. 82Vでは mZz =477. 2のフラグメントイオンを生じ、さらに 0. 96Vでは 、該親イオンは mZz =477. 2と 331. 1の 2つのフラグメントイオンを生じた。
[0075] 本解析に用いた糖鎖が構造未知であったとすると、上記の結果からは、該糖鎖が デォキシへキソースとへキソースを含むことが判る力 上記 8種のァノマーの!/、ずれの グリコシド結合を有して 、るかは判らな 、。
[0076] そこで、上記で得られた mZz =477. 2のフラグメントイオンについてさらに CID— MSZMS測定を行った (この時点での段数は 3段目となる)。条件は、実施例 1と同 じで、 CIDエネルギーは 0. 5〜1. 75Vで行った。 mZz =477. 23のフラグメントィ オンは還元末端の単糖 (フコース)を失った 2糖の 4種のァノマーのものである。
[0077] 得られたプロットから mZz = 315のフラグメントイオンについて CIDエネルギー依存 曲線を作成した結果を図 10Dに示す。図中丸で示したグラフは、グリコシド結合 a Z aのもの、四角が j8 Z aのもの、三角が a Z jSのもの、ひし形が j8 Z j8のものを示 す。また、黒で示したグラフは 1段目の CIDで遊離したフコースとのグリコシド結合が aであったもの、白で示したグラフが j8であったものを示す。
[0078] 図から明らかなように、ァノマー間では、 CIDエネルギー依存曲線が明らかに異なり 、本解析によりァノマーを識別できることが判った。また、親イオンのァノマーの違い
は娘イオンの CIDエネルギー依存曲線には影響しないことが判った。
[0079] さらに、上記の CIDエネルギー依存曲線をイオンカウント数の相対数としての基底 値(Bottom=0)と最大値 (Top = 100)、その 50%にあたる CIDエネルギー(V )
50、 および CID— MSエネルギー依存曲線の変曲点での傾き(Slope)を指標として上記 式 1により Prism4 (GraphPad Software社製)を用いて算出、比較したところ、ァノ マー間では異なる値となり、また、親イオンのァノマーの違いは娘イオンの値には影 響せず、上記計算式によってもァノマーを識別できることが判った。
[0080] 従って、構造未知の糖鎖について CID— MSn測定を行い、得られる CIDエネルギ 一依存曲線を参照データと比較し、同一のものがあった場合には、目的糖鎖は、該 CIDエネルギー依存曲線を与えた糖鎖と同一の構造であり、ァノマーの違いも特定 できることがわかった。
[0081] 逆に、構造が同一の糖鎖の参照データと、目的糖鎖を CID— MSn測定して得られ た CIDエネルギー依存曲線が一致しな力つた場合、参照データのもととなる糖鎖は 目的糖鎖のァノマーである可能性がある。
[0082] (4) CID— MSn測定の異なる段数における CIDエネルギー依存曲線の比較
本発明において、目的糖鎖の特定の mZzのフラグメントイオンの娘イオンの CIDェ ネルギー依存曲線力 参照データと一致した場合、この段数では一致していても、構 造が異なることが考えられる。そこで、該 CID— MSn測定で得られるその他の娘ィォ ンについても参照データの同一の mZzの娘イオンの CIDエネルギー依存曲線と比 較すると、さらに正確な構造解析を行うことができる。この場合の例を以下に示す。
[0083] 非還元末端に O型血液型抗原ェピトープ (Fuc a (1 - 2) Gal)を有する天然型糖 鎖 2種を比較対象として選択した。これらの糖鎖はェピトープ (Fuc α (1— 2) Gal)を 共有するものの、フコースが結合しているガラクトースを含む 2糖構造力 Sラクト系列(図 11A)とネオラクト系列(図 11B)であり、結合位置異性体である。さらに、 Aは 3糖、 B は 5糖であり、親イオンとしての質量数も明らかに異なるが、糖鎖 A、 Bをそれぞれ CI D— MSn測定を行うことによりダルコサミニル結合部分で解裂したと考えられる共通の mZzを有するフラグメントイオン (mZz = 534. 18)がナトリウム付加物として得られ る(図 11A、および Bの線の左側部分)。
[0084] そこで、さらにこのフラグメントイオンについて CID— MSN測定を行い、これらの娘ィ オン (mZz = 388)の CIDエネルギー依存曲線を作成したところ、これらは一致した( 図 11C)。し力し、その他の娘イオンについても同様に CIDエネルギー依存曲線を作 成したところ、 m/z = 349の娘イオンでは図 11Dとなり、 m/z = 331の娘イオンで は図 11Eとなり、明らかに CIDエネルギー依存曲線は異なることがわ力つた。このこと から、上記 2種の糖鎖の構造は異なると判断することができた。
[0085] 実施例 3 パラメータ解析による構造異性の判別の可能性の確認
最初にァノマー異性体、および、結合位置異性体の判定をおこなうことの可能性に 関して、単一の単糖の特定の結合のみ力もなるオリゴ糖を用いて検討した。マルトォ リゴ糖はグルコースのみがひ(1—4)、セロオリゴ糖は |8 (1—4)結合それぞれした構 造体でありであり、ァノマー異性体の比較に適している。また、イソマルトオリゴ糖は α (1— 6)の結合力 成っており、マルトオリゴ糖との比較において結合位置異性の判 別に重要な位置を占める。
[0086] (1)ァノマー異性の判別
実施例 1 (2)においてマルトオリゴ糖の CID— MSZMSと MSZMSZMS (CID MSNと CID— MSN+1)測定の CIDエネルギー依存曲線が良い一致を示すことを示 した。ここで得られたエネルギー依存曲線をシグモイドカーブフィットし、得られたパラ メータ (Top、 Slope, V )について 3D散布図を作成、この 2D展開図を作成した。同
50
時に結合位置はマルトオリゴ糖と同じでァノマー立体配置のみが異なるセロオリゴ糖 に関して同様にプロットした(図 12)。この結果、 CID— MSN測定の 2段目と 3段目に おいてプレカーサ一イオンが同一であればパラメータが良い一致を示し、特に、 V
50 が 1. 40-1. 45Vの範囲に集中することが分かった。一方、セロオリゴ糖においては V 値が 1. 5V付近にあり、これは、ァノマー立体配置の相違による結合の解裂状況
50
をパラメータで判別できることを示す結果である。
[0087] (2)結合位置異性の判別
実施例 3 (1)のマルトースの結果に対し α (1—6)の結合力 成っているイソマルト オリゴ糖の衝突エネルギーマップ力 各パラメータを取得し、マルトースのそれらと共 にグラフとした(図 13)。この結果、 V 値が結合位置異性の指標として使用できること
が示された。
[0088] 実施例 4 構诰椎定方法に利用可能な 3糖ライブラリーの参照データの同定
( 1) 3糖ライブラリーの合成およびその CID— MSn測定
3糖ライブラリーの一部であるフコース (Fuc)、ガラタトース(Gal)、および、ダルコ一 ス(Glc)で構成される 3糖 Fuc a Z jS ( l— 6) Gal a Z j8 ( 1 - 2/3/4/6) Glc a / β— Octylをァノマー混合物として合成し HPLCを用いて単離した各々の 3糖につ いて CID— MSn測定を行い、得られたライブラリー化合物からの構造情報を用いて 構造未定化合物の構造予測をおこなった。情報源となる化合物は本来計 32種 (23 X 4)である力 単離可能であった計 23化合物についてライブラリー構造データとしてあ つかった。全てのサンプルにお!/、て CID - MS/MS測定は m/z = 623 [M + Na] + 、 CID— MSZMSZMS測定は mZz = 477 [M——Fuc + Na]+に関しておこなつ た。
[0089] (2) CID— MSZMS測定時の 3糖ライブラリーのフコース残基解離データ
実施例 1に記載の方法で CID— MSZMS測定をそれぞれのサンプルに関して行 つてデータを取得した (図 14)。その後カーブフィット(ボルツマンのシグモイド式)をお こない、各パラメータ (Top、 Slope, V )を算出した (図 15)。 3糖ライブラリーの 23ィ匕
50
合物のうち、 Fuc α / β ( l - 6) Gal a / j8 ( l— 6) Glc j8—Octylの例を図 14およ び 15に示す。
[0090] 算出されたパラメータの散布図を作成するとプロットが二分していることが明らかで あり、ァノマー異性体 (Fuc α:黒丸、 FuC j8:白丸)に着目すると、プロットが CIDプロ セス下のフラグメント化においてグリコシド結合の立体 (ァノマー異性)を反映すること が明らかである (図 16)。この場合、 V と Slopeの両パラメータがァノマー異性の判別
50
の指標となることが分かる。 j8体において 1点のみ Slopeが小さな値を示した力 これ はデータのばらつきによるエラーであり統計的にもはずれ値として認識される。
[0091] (3) CID— MSZMSZMS測定時の 3糖ライブラリーのガラクトース残基解離データ
CID— MSZMSZMS測定においても CID— MSZMS測定時の Fucの脱離に 関するプロットと同様に Galが脱離した mZz = 315に関するデータは、 2極化の傾向 がある(図 17)。この結果は V のみがァノマー異性体を反映する結果である。
[0092] 実施例 5 3糖ライブラリーの CID— MSn散布図を利用したァノマーの識別法
( 1)各プロットと各平均との距離によるプロットの範囲
CID— MSn測定により得られるシグモイドカーブのグラフから、 a配置および β配 置 (本実施例においてはフコースとガラクトースの場合について説明)はそれぞれあ る範囲を持ち収束していることがわかる。未知糖鎖のァノマー解析を行う際、この範 囲に入っているか否かによりァノマーの推定が可能である。
[0093] まずバラつきの範囲を認識するために、 Fucの α配位、 β配位の V および Slope
50
の平均をそれぞれもとめ、各プロットとの距離の値を範囲 (R)とした。具体例を示すと、 Fuc α ( 1— 6) Gal α ( 1— 3) Glc j8— Octylでは、
V — α全体の V の平均 = 0. 00597、
50 50
Slope— α全体の Slopeの平均 = 0. 000229
である。この値からの距離をもとめ、この距離を半径とする円を Fuc αの範囲とした (図 18)。 Fuc aに関するライブラリ一力ゝら得た数値を表 1に示す。
[0094] [表 1]
Table 1.算出した距離の数値
0.8759 0.00597 0.02884 0.000229 0.5974 1
0.8684 -0.00153 0.0286 -1.1E-05 0.1530 x 1ひ2
0.8949 0.02497 0.02718 0.027T8 2.5011 χ ΐσ2
0.8749 O.OD497 0.02774 -0.000871 0.5046 x 1ひ2
0.8533 -0.01663 0.02604 -0.002571 1.6828 Χ 102
0.8559 -0.01403 0.02758 - 0.001031 1.4068 χ ΐσ2
0.8694 - 0.00053 0.02937 0.000759 0.09257 x 1
0.8708 0.00087 0.03002 0.001409 0.1656 1Ο2
0.8763 0.00637 0.03077 0.002159 0.6726 X 1
0.8595 -0.01043 0.02997 0.001359 1.0518 x 10
z
163 BAB 0.9553 0.D 7046154 0.04419 0.003145385 1.7333921 10-2
163 BBA 0.9393 0.001046154 0.03922 - 0Ό01824615 0.21032494 x 10-2
163 BAA 0.949 0.010746154 0.02918 -O.011B64615 1.6007769 x 10-2
163 BBB 0.9332 -0.005053846 0.04186 0.0008153S5 0.51192004 -2
166 BAA 0.9478 0.009546154 O.O4305 0.002005385 0.97545184 10-2
166 BBB 0.9145 -0.023753846 -0.000104615 2.37540764 10-2
166 BAB 0.9402 0.001946154 0.04173 0.000685385 0.20633147 x 10-2
166 BBA 0.9187 -0.019553846 0.04136 0.000315385 1.95563892 10-2
164 BAA 0.9551 0.016846154 0.04228 0.001235385 1.68913906 x 10-2
164 BBA 0.9319 -0.006353B46 0.04117 0.000125335 0.63 50831 10-2
164 BBB D.9389 0-000646154 0.04162 0.000575385 0.08652069 10-2
162 BBB 0.9212 -0.017053846 0.0421 0.001055385 1.70864712 x 10-2
162 BAB 0.9522 0.013946154 0.04488 0.003835385 1.44639341 x 1CH2
[0095] (3)構造解析における分子量の影響の補正
実施例 2で、糖鎖ライブラリーをなす化合物の CID解析から得られる部分構造体の エネルギー依存曲線と未知物質の部分構造体のエネルギー依存カーブの比較から 、カーブが完全一致すれば部分構造を推定できることを示した。これは異なった元の 構造力 得られた同一のフラグメントをライブラリーデータと参照することで可能として いる。この場合トラップされたイオンは同一分子量であるため、部分構造の完全一致 が可能となる。し力し質量分析において、親イオンの分子量 (分子の大きさ)は結果に 影響する重要な因子であり、本研究においても分子量の差異によりカーブおよびパ ラメータ (V 、 Slope等)が異なる結果が得られているため、分子量の影響を考慮した
50
糖鎖構造解析が必要となる。以下、得られた結果の補正法を提供する(図 20)。
[0096] 糖鎖ライブラリー(Fuc a Z jS (l— 6) Gal a Z j8 ( 1 - 2/3/4/6) Glc α / j8 - Octyl)の mZz=477のフラグメントイオンの CIDエネルギー依存曲線と、今回補正
サンプルとして用いる未知糖鎖の目的娘イオンと同一の mZzを有する Lewis aの 参照娘イオンの CIDエネルギー依存曲線からそれぞれ得られる V および Slopeを
50
同一グラフにプロットした (図 21)。ここ力もプロットは分子量の差異の影響を大きく受 けていることが分かる。次にこの差異から V 、 Slopeの補正値を導いた。以下に式を
50
示す。
V の補正値 = 脱 Fuc aライブラリー(mZz = 477)の V 平均 Z Lewis aの V
50 50 50
Slopeの補正値 =脱 Fuc aライブラリー(mZz = 477)の Slope平均 Z Lewis a の Slope
[0097] この算出された各補正値を未知糖鎖の目的娘イオンの CIDエネルギー依存曲線 から得られる V および Slopeに掛け合わせた。一例を示すと未知糖鎖の補正前プロ
50
ットは図 21に示すように、この未知糖鎖が Fuc βとは大きく差があるため Fuc aという ことが示唆された。この方法のみではデォキシへキソースが何であるかの特定はでき ないが、ここで未知糖鎖として使用した糖鎖はヒトから単離された四糖構造であり、ヒト にお 、て存在するデォキシへキソースがフコースであるので未知検体は Fuc a構造 を有すると推測できた。実際に未知糖鎖として用いた糖鎖は Lewis Xであり Fucひ構 造を持っている。ライブラリーデータを充足することで、より精度の高い構造予測が可 能である。
[0098] (4)機器間のデータ補正
質量分析計を用いた構造解析を行うにあたり問題視されるのは、機器間のデータ の差異である。これを上記の方法を用いて補正を行った。まず、共通のサンプルとし て Fuc a (l— 6)Gal a (1— 6) Glc j8— Octylを補正サンプルとして用いた。比較に 用いた機器は同一会社ではあるがブルカー QITMSを用いることで「個体差」の補正 をおこなった。エネルギー依存曲線データを比べると X軸 (Amplおよび V )に差異が
50 見られる (図 22)。次に、このサンプルを補正サンプルとして Fuc j8 (l - 6) Gal j8 (1— 6) Glc a—Octylの補正を段落番号 0096の補正と同様の方法で行ったところ、差異 が少なくなり補正可能であることが示唆された。補正用検体数を増やすことにより補 正の精度を改善できる。
[0099] 実施例 6 糖鎖の構诰異件体の混入枪定
(1)検体の調製および質量分析
以下の 4種類の検体を調製し、それぞれを実施例 1の方法に従い測定した。すなわ ち、検体の質量分析計への注入はインフュージョン法で、流速 120 /z lZhで行い、 用いているイオン源(エレクトロスプレーイオン化法: ESI)は 1 μ lZmin〜lmlZmin の範囲で使用した。また、 on lineあるいは off line nanoESIを用いることにより、 nl Zminスケールでの分析が可能であった。検出機として質量分析計はブルカーダル トニクス esquire 3000plus (QIT? MS")を用いた。分析条件を以下に示す。 1)熱 キヤビラリ一温度: 205°C、 2)キヤビラリ一電圧: 4. OkV、 3) Dry Guas :4. 01/min 。ポジティブイオンモードで測定。ここで、 CID— MSn測定の条件である Isolation widthは同位体を含まない 0. 8 msで行った。
[0100] 純品 A Gal a (1 - 3) Gal a -OMe (7 nmol)
純品 B Gal a (1 - 3) Gal j8 -OMe (7 nmol)
混合物 C 純品 A:純品 B = 1 : 1
混合物 D 純品 A:純品 B = 1: 9
[0101] (2)純品 Aおよび純品 Bの分析結果
純品 Aの CID— MSZMS測定及び CID— MSZMSZMS測定の Ampl Volta ge毎の各フラグメント強度と各々の差を図 23に示した。 CID— MSZMS測定及び C ID— MSZMSZMS測定では結果に差異が見られな力つた。純品 Bも同様の結果 であった(図 24)。
[0102] (3)混合物 Cおよび混合物 Dの分析結果
混合物 cおよび混合物 Dの ciD— MSZMS測定及び ciD— MSZMSZMS測 定の Ampl Voltage毎の各フラグメント強度と各々の差を図 25および図 26にそれ ぞれ示した。それぞれの混合物に関して、純品に比べ大きな差異が見られた。この 差異から混合物 Z非混合物の判定が可能であった。
産業上の利用可能性
[0103] 本発明の糖鎖解析方法は、構造未知の糖鎖について CID— MSn測定を行ない、 得られた CIDエネルギー依存曲線を構造既知の糖鎖からえら得た参照データと比較 することにより構造決定を行う方法である。該方法は、天然に存在する構造未知の糖
鎖を、置換基が異なるものや立体異性体等も含めその構造、またはその一部を決定 又は推定することができ、また極微量の解析が行える点で非常に有用である。また該 方法は、糖鎖の構造解析と!/ヽぅ次世代生命科学研究の基盤技術となるのみならず、 糖鎖の異常を伴う疾病や感染症を引き起こすきっかけとなる糖鎖レセプターの特定 等、診断医療に貢献する技術となるものである。さらに、本発明の純度検定方法によ り、検体の詳細なデータ解析をおこなう以前にその必要性を簡便に判定することが可 能となる。
図面の簡単な説明
[図 1]図 1は、本発明の方法の概略を示した図である。
[図 2]図 2は、本発明の方法の概略を示した図である。
[図 3]図 3は、本発明の方法の概略を示した図である。
[図 4]図 4は、本発明の方法の概略を示した図である。
[図 5]図 5は、本発明の方法の概略を示した図である。
[図 6]図 6は、 Fuc a (l - 3) Gal j8— Octylを CID— MSn測定した結果を示すグラフ である。
[図 7]図 7は、マルトへキサオースとマルトへプタオースの構造、およびそれらを CID MSn測定した結果、並びにそれらを比較した結果を示すグラフである。
[図 8]図 8は、 FuC j8 (1— 6) Gal |8 (1— 4) Glcの天然物および合成品の構造、およ びそれらを CID— MSn測定した結果、並びにそれらを比較した結果を示すグラフで ある。
[図 9]図 9は、 PAィ匕 LeX5糖と還元末端遊離の LeX5糖の構造、およびそれらを CID MSn測定した結果、並びにそれらを比較した結果を示すグラフである。
[図 10]図 10は、 Fuc a (l -6) Gal j8 (1 6) Glc j8—Octylのァノマーの構造、およ びそれらを CID— MSn測定した結果、並びにそれらを比較した結果を示すグラフで ある。
[図 11]図 11は、非還元末端に O型血液型抗原ェピトープ (Fuc a (1— 2) Gal)を有 する天然型糖鎖 2種の構造、およびそれらを CID— MSn測定した結果、並びにそれ らを比較した結果を示すグラフである。
[図 12]図 12は、マルトへキサオースとマルトへプタオースの CIDエネルギー依存曲線 力も得られた解裂イオンパラメータ (Top、 Slope, V )をそれぞれ 2D展開図にプロッ
50
トした結果を示すグラフである。
[図 13]図 13は、マルトへキサオースとイソマルトへキサオースの CIDエネルギー依存 曲線力も得られた解裂イオンパラメータ (Top、 Slope, V )をそれぞれ 2D展開図に
50
プロットした結果を示すグラフである。
[図 14]図 14は、 3糖ライブラリーを構成する FucaZjS (l— 6)GalaZj8 (1-2/3 Z4Z6)GlcaZj8—Octylのァノマーのうち、 Fuc α (1— 6) Gala (l— 6)GlCj8 - Octylを CID - MSn測定した結果を示すグラフである。
[図 15]図 15は、 Fuca (l-6)Gala (1— 6) Glc j8— Octylの CIDエネルギー依存 曲線をカーブフィットした結果を示すグラフと、そのグラフから得られた解裂イオンパラ メータ(Top、 Slope, V )の値である。
50
[図 16]図 16は、 3糖ライブラリーを構成する Fuca ZJ8 (l— 6)GalaZj8 (1-2/3 /4/6) Glc a / j8 Octylの各ァノマーのフコース残基を解離させた解裂イオンパ ラメータ (Top、 Slope, V )を 2D展開図にプロットした結果を示すグラフである。各ァ
50
ノマ一は結合位置異性で略して表記し、例えば 163AABは Fuca (1— 6)Gala (1 3)0 |8—0 1を意味する。
[図 17]図 17は、 3糖ライブラリーを構成する Fuca ZJ8 (l— 6)GalaZj8 (1-2/3 /4/6) Glc a / j8 Octylの各ァノマーのガラクトース残基をさらに解離させた解 裂イオンパラメータ(Slope、 V )を 2D展開図にプロットした結果を示すグラフである
50
[図 18]図 18は、 3糖ライブラリーを構成するァノマーの解裂イオンパラメータの平均値 の 2D展開図において、未知糖鎖のァノマーの推定が可能な範囲を示すグラフであ る。
[図 19]図 19は、 3糖ライブラリーを構成するァノマーのフコースを解離させた解裂ィォ ンパラメータ(Slope、 V )の α配置および 13配置の各平均値ならびにそれらの標準
50
偏差と、 FucjS (1 6) Gal a (1— 6) Glc α— Octylのフコースを解離させた解裂ィ オンパラメータを 2D展開図にプロットした結果を示すグラフである。
[図 20]図 20は、参照娘イオンと目的娘イオンの分子量が異なった場合の補正方法の 概略を示した図である。
[図 21]図 21は、参照娘イオンと目的娘イオンの分子量が異なった場合に得られる解 裂イオンパラメータ(Slope、 V )の 2D展開図における、測定値と補正値の関係を示
50
すグラフである。
[図 22]図 22は、 Fuca (1-6) Gala (1 6) Glc j8— Octylを異なる機種の質量分 析計を用 、て CID - MSn測定した結果を示すグラフである。
[図 23]図 23は、 2糖の純品 A(Gala (1— 3)Gala— OMe)を、親イオンと最も強度 の高いフラグメントイオンの比が約 1:3、 1:1、 3:1となる Ampl Vにてそれぞれ CID MSZMS測定および CID— MSZMSZMS測定した結果を示すグラフである。
[図 24]図 24は、 2糖の純品 B (Gala (1— 3)Galj8— OMe)を、親イオンと最も強度 の高いフラグメントイオンの比が約 1:3、 1:1、 3:1となる Ampl Vにてそれぞれ CID MSZMS測定および CID— MSZMSZMS測定した結果を示すグラフである。
[図 25]図 25は、 2糖の純品 A (Gala (1— 3) Gal a— OMe)および純品 B (Gal a (1 -3)Gal|8—OMe)を 1:1の比で混合した混合物 Cを、親イオンと最も強度の高いフ ラグメントイオンの比が約 1:3、 1:1、 3:1となる Ampl Vにてそれぞれ CID— MSZ MS測定および CID— MSZMSZMS測定した結果を示すグラフである。
[図 26]図 26は、 2糖の純品 A (Gala (1— 3) Gal a— OMe)および純品 B (Gal a (1 -3)Gal|8 OMe)を 1:9の比で混合した混合物 Cを、親イオンと最も強度の高いフ ラグメントイオンの比が約 1:3、 1:1、 3:1となる Ampl Vにてそれぞれ CID— MSZ MS測定および CID— MSZMSZMS測定した結果を示すグラフである。