糖尿病性腎症の予防 ·治療剤
技術分野
[0001] 本発明は、糖尿病性腎症の予防'治療剤に関する。
背景技術
[0002] 哺乳類の動物レクチンは糖鎖結合蛋白であり、特異的な糖鎖構造を認識する。動 物レクチンは、 C型レクチン、 P型レクチン、 pentraxins、ガレクチンの 4つのグループ に分類されて 、る。糖鎖は多くの細胞膜蛋白と細胞外基質の構成成分として重要で あり、レクチンとそのリガンドとの間の相互作用は様々な生物学的機能に関与してい る。
[0003] 動物レクチンの一種であるガレクチンは、 j8—ガラクトシドを特異的に認識し、これ に特異的に結合する。現在までに少なくとも 10種類のガレクチン(ガレクチン— 1〜1 0)が同定されクローユングされている(Perilo NLら, J.Mol.Med. 76 :402-412, 1998 ; Wada Jら, J.Biol.Chem. 272 : 6078-6086, 1997 ;Wada Jら, J.Clin.Invest. 99 :
2452-2461, 1997)。
[0004] 各種ガレクチンには構造に相同性があり、リガンドの認識にも共通性がある力 生 理学的又は病理学的にはそれぞれ異なった機能に関与している。ガレクチンの機能 の多様性は、細胞上のリガンドである糖鎖の多様性と、様々な組織における糖鎖の 分布に関係している。
[0005] ガレクチンの様々な機能の中でも、アポトーシスの誘導や免疫反応における役割に ついて多くの報告がある。例えば、ガレクチン 1は実験的な自己免疫疾患を改善し (Levi Gら, Eur.J.Immunol. 13 : 500-507, 1983 ; Offher Hら, Neuroimmnology 28 : 177-184, 1990)、活性化されたヒト末梢 T細胞や単離されたヒト胸腺細胞のアポトーシ スを誘導すること(Perillo NLら, Nature 378 : 736-739, 1995 ; Perillo NLら, J.Exp.Med 185 : 1851-1858, 1997)、胸腺で強く発現しているガレクチン 9も胸腺細胞のアポト 一シスを誘導すること(Wada Jら, J.Clin.Invest. 99 : 2452-2461, 1997)、逆にガレクチ ン— 3は T細胞を保護するように働き、細胞質で beト 2とへテロダイマーを形成すること
によりアポトーシスを阻止すること(Yang R- Yら, Pro Natl.Acad.Sci.USA 93 :
6737-6742, 1996)が報告されている。
[0006] また、ガレクチン— 1、 3及び 9については、腎炎の予防 '治療効果を有することが知 られている(特許文献 1参照)。また、ガレクチン 3については、細胞外基質産生細 胞からの細胞外基質産生促進効果を有することが知られており (特許文献 2参照)、ガ レクチン 3の生物活性を阻害することにより、糖尿病性腎症による細胞外基質の過 剰産生及び蓄積を抑制する医薬組成物が開発されている (特許文献 2参照)。
特許文献 1:特開 2002— 322082号公報
特許文献 2:特表 2002— 522398号公報
発明の開示
発明が解決しょうとする課題
[0007] 本発明は、新規な糖尿病性腎症の予防'治療剤を提供することを目的とする。
課題を解決するための手段
[0008] 上記目的を達成するために、本発明の糖尿病性腎症の予防 '治療剤は、以下の (a) 又は (b)に示すポリペプチドを有効成分として含有する。
(a)配列番号 1記載のアミノ酸配列力 なるポリペプチド
(b)配列番号 1記載のアミノ酸配列において 1又は複数個のアミノ酸が欠失、置換又 は付加されたアミノ酸配列力もなり、かつ j8—ガラクトシドに特異的な結合活性を有 するポリペプチド
発明の効果
[0009] 本発明により、糖尿病性腎症の予防'治療剤が提供される。
図面の簡単な説明
[0010] [図 l]db/m群、 db/db群及び db/db+G9群における尿中アルブミン排泄量 (mg/day)を 示す図である。
[図 2](a)は、 db/m群、 db/db群及び db/db+G9群の糸球体の PAS (periodic
acid-Schifi)による染色結果を示す図であり、(b)は、 db/m群、 db/db群及び db/db+G9 群における糸球体面積 (tuft area, m2)及びメサンギゥム基質面積 Z糸球体面積 (メ
サンギゥムインデックス (mesangial index), %)を示す図である。
[図 3](a)は、 db/m群、 db/db群及び db/db+G9群の糸球体の蛍光抗体法による染色結 果を示す図であり、(b)は、 db/m群、 db/db群及び db/db+G9群における糸球体内 IV 型コラーゲン発現量湘対量)を示す図である。
[図 4]db/m群、 db/db群及び db/db+G9群におけるノーザン解析の結果を示す図であ る。
[図 5](a)は、 db/m群、 db/db群及び db/db+G9群における糸球体内の p21陽性細胞の 酵素抗体法による染色結果を示す図であり、(b)は、 db/m群、 db/db群及び db/db+G9 群における糸球体内の p21陽性細胞の割合 (%)を示す図である。
[図 6](a)は、 db/m群、 db/db群及び db/db+G9群における糸球体内の p27陽性細胞の 酵素抗体法による染色結果を示す図であり、(b)は、 db/m群、 db/db群及び db/db+G9 群における糸球体内の p27陽性細胞の割合 (%)を示す図である。
[図 7][ ]-チミジン取り込み量 (dpm/well)及び [ ]-プロリン取り込み量 (dpm/細胞 mg タンパク質)の測定結果を示す図である。
[図 8]各種条件で培養した MPC細胞におけるウェスタンプロットの結果を示す図であ る。
[図 9]各種培養条件における GOZG1期、 S期及び G2ZM期の細胞数を示す図で ある。
発明を実施するための最良の形態
[0011] 本発明の糖尿病性腎症の予防 *治療剤は、以下の (a)又は (b)に示すポリペプチドを 有効成分として含有する。
(a)配列番号 1記載のアミノ酸配列力 なるポリペプチド(以下「ポリペプチド (a)」という 場合がある。 )
(b)配列番号 1記載のアミノ酸配列において 1又は複数個のアミノ酸が欠失、置換又 は付加されたアミノ酸配列力もなり、かつ j8—ガラクトシドに特異的な結合活性を有 するポリペプチド(以下「ポリペプチド (b)」という場合がある。 )
[0012] ポリペプチド (a)及び (b)は、 β—ガラタトシドに特異的な結合活性を有するポリぺプ チドである。「|8—ガラクトシドに特異的な結合活性を有する」とは、 |8—ガラクトシド(
例えば、ラタトース (グルコース 13 D ガラクトシド))に対する結合活性は有する 力 β ガラクトシド以外の糖鎖構造に対する結合活性は有しないことを意味する。 β ガラクトシド以外の糖鎖構造としては、例えば、グルコース a 1, 4—ダルコ一 ス、グルコース— a 1, 2—フルクトース等が挙げられる。なお、「ガラタトシド」は、ガラ クトースのへミアセタール水酸基が他の化合物とエーテル結合したものの総称であり 、その具体例としては、ラタトースゃメリビオース等の少糖類の他、ガラクトースを含む 配糖体や糖脂質等が挙げられる。「ガラタトシド」は、その結合配位によってひ型と |8 型とに分けられ、このうち 13 ガラクトシドは j8型のものである。
[0013] ポリペプチド (a)は、マウス由来のガレクチン一 9である。「ガレクチン」は、 β —ガラク トシドに特異的な結合活性を有するタンパク質及び糖タンパク質の総称である。ガレ クチンには、 1本のポリペプチド鎖力もなる糖鎖結合ドメイン(約 14kDのサブユニット) のホモダイマー(プロトタイプ)として存在するガレクチン(ガレクチン 1、ガレクチン 2、ガレクチン 5、ガレクチン 7、ガレクチン 10等)、 C末端に 1つの糖鎖結合 ドメイン及び N末端に hnRNP様ドメインを有するキメラタイプとして存在するガレクチン (ガレクチン 3等)、同一のペプチド鎖に 2つの糖鎖結合ドメインを有するタンデムリ ピートタイプ (直列反復型)として存在するガレクチン(ガレクチン 9、ガレクチンー4、 ガレクチン 6、ガレクチン 8、ガレクチン 9等)がある。ガレクチン 9等のタンデ ムリピートタイプのガレクチンにおける 2つの糖鎖結合ドメインは同一ではなぐァミノ 酸レベルで約 38%の相同性を有している。ガレクチン— 9の糖鎖結合ドメインは、例 えば、配列番号 1記載のアミノ酸配列のうち、 15〜146番目又は 192〜322番目のアミ ノ酸残基からなる部分と考えられて 、る。
[0014] ポリペプチド (b)には、ポリペプチド (a)に対して人為的に欠失、置換、付加等の変異 を導入したポリペプチドの他、欠失、置換、付加等の変異が導入された状態で天然 に存在するポリペプチドや、それに対して人為的に欠失、置換、付加等の変異を導 入したポリペプチドも含まれる。欠失、置換、付加等の変異が導入された状態で天然 に存在するポリペプチドとしては、例えば、ヒトを含む哺乳動物(例えば、ヒト、サル、 ゥシ、ヒッジ、ャギ、ゥマ、ブタ、ゥサギ、ィヌ、ネコ、マウス、ラット等)由来のガレクチン 9 (多型によって変異が生じたガレクチン 9を含む)が挙げられる。ヒト由来のガレ
クチン 9のアミノ酸配列を配列番号 2に示し、ラット由来のガレクチン 9のアミノ酸 配列を配列番号 3に示す。
[0015] 配列番号 1記載のアミノ酸配列において欠失、置換又は付加されるアミノ酸の個数 は、ポリペプチド (b)が ガラクトシドに特異的な結合活性を有する限り特に限定さ れるものではなぐその個数は 1又は複数個、好ましくは 1又は数個であり、その具体 的な範囲は、好ましくは 1〜25個、さらに好ましくは 1〜10個である。このとき、ポリべ プチド (b)のアミノ酸配列は、ポリペプチド (a)のアミノ酸配列と少なくとも 50%以上、好 ましくは 70%以上、さらに好ましくは 90%以上の相同性を有する。
[0016] 配列番号 1記載のアミノ酸配列において欠失、置換又は付加されるアミノ酸の位置 は、ポリペプチド (b)が ガラクトシドに特異的な結合活性を有する限り特に限定さ れるものではない。配列番号 1記載のアミノ酸配列において欠失、置換又は付加され るアミノ酸の位置としては、例えば、糖鎖結合ドメイン以外の部分が考えられる。
[0017] ポリペプチド (b)は、 j8—ガラクトシドに特異的な結合活性を有するとともに、ガレク チン 9と同様の構造をとり得ること、すなわち、同一のペプチド鎖に 2つの糖鎖結合 ドメインを有することが好ましぐガレクチン 9と同様の生物学的機能を有しているこ とがさらに好ましい。ガレクチン 9の生物学的機能としては、例えば、好酸球走化能 、胸腺細胞の分化と胸腺細胞のアポトーシスの誘導、末梢活性化 T細胞のアポトー シス誘導等が挙げられる。
[0018] ポリペプチド (a)及び (b)には、糖鎖が付加されたポリペプチド及び糖鎖が付加され て!、な 、ポリペプチドの 、ずれもが含まれる。ポリペプチドに付加される糖鎖の種類、 位置等は、ポリペプチドの製造の際に使用される宿主細胞の種類によって異なる力 糖鎖が付加されたポリペプチドには、 、ずれの宿主細胞を用いて得られるポリべプチ ドも含まれる。
[0019] ポリペプチド (a)及び (b)には、その医薬的に許容される塩が含まれる。医薬的に許 容される塩としては、例えば、ナトリウム、カリウム、リチウム、カルシウム、マグネシウム 、ノ リウム、アンモ-ゥム等の無毒性アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモ- ゥム塩等が挙げられる。また、上記塩には、ポリペプチドと適当な有機酸又は無機酸 との反応による無毒性酸付加塩も含まれる。代表的無毒性酸付加塩としては、例え
ば、塩酸塩、塩化水素酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩、重硫酸塩、酢酸塩、蓚酸塩、 吉草酸塩、ォレイン酸塩、ラウリン酸塩、硼酸塩、安息香酸塩、乳酸塩、リン酸塩、 P —トルエンスルホン酸塩 (トシレート)、クェン酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、コハク 酸塩、酒石酸塩、スルホン酸塩、グリコール酸塩、マレイン酸塩、ァスコルビン酸塩、 ベンゼンスルホン酸塩等が挙げられる。
[0020] ポリペプチド (a)又は (b)は、ポリペプチド (a)又は (b)をコードする DNAを用いて常法 に従って製造できる。
[0021] ポリペプチド (a)をコードする DNAとしては、例えば、配列番号 4記載の塩基配列か らなる DNA (マウス由来ガレクチンー9をコードする DNA)等が挙げられる。但し、ポリ ペプチド (a)をコードする DNAは、配列番号 4記載の塩基配列力もなる DNAに限定 されるものではなぐポリペプチド (a)をコードする限り、その他の塩基配列力もなる DN Aも含まれる。
[0022] ポリペプチド (b)をコードする DNAとしては、例えば、ポリペプチド (a)をコードする D NAとストリンジェントな条件下でノ、イブリダィズでき、 β—ガラタトシドに特異的な結 合活性を有するポリペプチドをコードする DNAが挙げられる。ポリペプチド (a)をコー ドする DNAとストリンジェントな条件下でハイブリダィズできる DNAとしては、例えば 、ポリペプチド (a)をコードする DNAと少なくとも 50%以上、好ましくは 70%以上、さら に好ましくは 90%以上の相同性を有する DNAが挙げられる。「ストリンジェントな条 件」としては、例えば、 42°C、 2 X SSC及び 0. 1%SDSの条件、好ましくは 65°C、 0. 1 X SSC及び 0. 1%SDSの条件が挙げられる。
[0023] ポリペプチド (a)又は (b)をコードする DNAは、ポリペプチド (a)又は (b)をコードするォ ープンリーディングフレームとその 3'末端に位置する終止コドンとを含む。また、ポリ ペプチド (a)又は (b)をコードする DNAは、オープンリーディングフレームの 5'末端及 び Z又は 3'末端に非翻訳領域 (UTR)を含むことができる。
[0024] ポリペプチド (a)又は (b)をコードする DNAは、例えば、ヒトを含む哺乳動物の細胞又 は組織力ゝら抽出した mRNAを用いて cDNAライブラリーを作製し、既知のガレクチン 9のアミノ酸配列(例えば、配列番号 1、 2又は 3)又はガレクチン 9をコードする 既知の DNAの塩基配列(例えば、配列番号 4)に基づいて合成したプローブを用い
て、 cDNAライブラリーから目的の DNAを含むクローンをスクリーニングすることによ り得られる。以下、 cDNAライブラリーの作製、及び目的の DNAを含むクローンのス クリーニングの各工程にっ 、て説明する。
[0025] 〔cDNAライブラリーの作製〕
ヒトを含む哺乳動物由来 mRNAを常法に従って調製する。例えば、ヒトを含む哺乳 動物の腎臓の組織又は細胞を、グァ-ジン試薬、フエノール試薬等で処理して全 R NAを得た後、オリゴ dT—セルロースゃセファロース 2Bを担体とするポリ U -セファロ 一ス等を用いたァフィユティーカラム法、ノ ツチ法等によりポリ (A+)RNA(mRNA)を 得る。得られた mRNAを铸型として、オリゴ dTプライマー及び逆転写酵素を用いて 一本鎖 cDNAを合成した後、該一本鎖 cDNAから二本鎖 cDNAを合成する。このよ うにして得られた二本鎖 cDNAを適当なクローユングベクターに組み込んで組換え ベクターを作製する。得られた組換えベクターを用いて大腸菌等の宿主細胞を形質 転換し、テトラサイクリン耐性、アンピシリン耐性を指標として形質転換体を選択するこ とにより、 cDNAのライブラリーを得ることができる。 cDNAライブラリーを作製するた めのクロー-ングベクターは、宿主細胞中で自立複製できるものであればよぐ例え ば、ファージベクター、プラスミドベクター等を使用できる。宿主細胞としては、例えば 、大腸菌 (Escherichia coli)等を使用できる。大腸菌等の宿主細胞の形質転換は、 Hanahanの方法 (Hanahan.D., J. Mol. Biol. 166 : 557-580(1983》、すなわち、塩化力 ルシゥム、塩ィ匕マグネシウム又は塩化ルビジウムを共存させて調製したコンビテント細 胞に、組換えベクターを加える方法等により行うことができる。なお、ベクターとしてプ ラスミドを用いる場合は、テトラサイクリン、アンピシリン等の薬剤耐性遺伝子を含有さ せておくことが好ましい。 cDNAライブラリーの作製の際には、市販のキット、例えば、 buperbcnpt Plasmid System for cDNA synthesis and Plasmid Cloning(uibco BRL社 製)、 ZAP- cDNA Synthesis Kit (ストラタジーン社製)等を使用できる。
[0026] 〔目的の DNAを含むクローンのスクリーニング〕
既知のガレクチン 9のアミノ酸配列(例えば、配列番号 1、 2又は 3)又はガレクチ ンー 9をコードする既知の DNAの塩基配列(例えば、配列番号 4)に基づいてプライ マーを合成し、これを用いてポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を行ない、 PCR増幅断片
を得る。 PCR増幅断片は、適当なプラスミドベクターを用いてサブクローユングしても よい。 PCRに使用するプライマーとして、配列番号 4記載の塩基配列力 なる DNA に対しては、例えば、 5'-gcattggttcccctgagatag-3, (センスプライマー)、
5し cgttccagagaccggatcc- 3' (アンチセンスプライマー)を使用できる。 cDNAライブラリ 一に対して、 PCR増幅断片をプローブとしてコロニーハイブリダィゼーシヨン又はプラ ークハイブリダィゼーシヨンを行なうことにより、 目的の DNAを取得できる。プローブと しては、 PCR増幅断片をアイソトープ(例えば32 P、 35S)、ピオチン、ジゴキシゲニン等 で標識したものを使用できる。 目的の DNAを含むクローンは、抗体を用いたィムノス クリーニング等の発現スクリーニングによっても取得できる。
[0027] 〔塩基配列の決定〕
取得された DNAの塩基配列は、該 DNA断片をそのまま又は適当な制限酵素等 で切断した後、常法によりベクターに組み込み、通常用いられる塩基配列解析方法 、例えば、マキサム ギルバートの化学修飾法、ジデォキシヌクレオチド鎖終結法を 使用して決定できる。塩基配列解析の際には、通常、 373A DNAシークェンサ一 (Perkin Elmer社製)等の塩基配列分析装置が使用される。
[0028] ポリペプチド (a)又は (b)をコードする DNAは、その塩基配列に従って化学合成によ り取得することもできる。 DNAの化学合成は、市販の DNA合成機、例えば、チォホ スフアイト法を利用した DNA合成機(島津製作所社製)、フォスフォアミダイト法を利 用した DNA合成機 (パーキン ·エルマ一社製)を用いて行うことができる。
[0029] ポリペプチド (b)をコードする DNAは、ポリペプチド (a)をコードする DNAに、例えば 部位特異的変異誘発法によって人為的に変異を導入することにより取得することもで きる。変異の導入は、例えば、変異導入用キット、例えば、 Mutant- K(TAKARA社製) 、 Mutant— G(TAKARA社製)、 TAKARA社の LA PCR in vitro Mutagenesisシリーズキ ットを使用して行なうことができる。また、塩基配列が既に決定されている DNAにつ いては、化学合成により取得することもできる。
[0030] ポリペプチド (a)又は (b)は、例えば、以下の工程に従って、ポリペプチド (a)又は (b)を コードする DNAを宿主細胞中で発現させることにより製造できる。
[0031] 〔組換えベクター及び形質転換体の作製〕
目的とするポリペプチドのコード領域を含む適当な長さの DNA断片を調製する。こ のとき、目的とするポリペプチドのコード領域の塩基配列を、宿主細胞における発現 に最適なコドンとなるように塩基を置換することが好まし ヽ。上記 DNA断片を適当な 発現ベクターのプロモーターの下流に挿入することにより組換えベクターを作製し、 該糸且換えベクターを適当な宿主細胞に導入することにより、目的とするポリペプチドを 生産し得る形質転換体を取得できる。
[0032] 宿主細胞としては、目的とする遺伝子を発現し得る限り、原核細胞、酵母、動物細 胞、昆虫細胞、植物細胞等のいずれを使用してもよい。また、動物個体や植物個体 を使用してもよい。
[0033] 発現ベクターは、宿主細胞において自立複製が可能なものであれば特に限定され ず、例えば、プラスミドベクター、ファージベクター等を使用できる。発現ベクターの具 体例としては、 pBTrp2、 pBTacl、 pBTac2 (ベーリンガーマンハイム社製)、 pKK233-2 (フアルマシア社製)、 pSE280 (Invitrogen社製)、 pGEMEX- 1 (Promega社製)、 pQE- 8 (QIAGEN社製)、 pBluescript II SK+ (ストラタジーン社製)、 pBluescript II SK (-) (ストラ タジーン社製)、 pGEX (フアルマシア社製)、 pETシステム(ノバジェン社製)、 pSupex、 pUB110、 pTP5、 pC194、 pTrxFus (Invitrogen社製)、 pMAL— c2 (New England Biolabs 社製)、 pSTV28 (宝酒造社製)、 pUC118 (宝酒造社製)等が挙げられる。
[0034] 細菌を宿主細胞とする場合、例えば、エッシェリヒァ 'コリ(Escherichia coli)等のェ シエリヒア属、バチルス'ズブチリス(Bacillus subtilis)等のバチルス属、シユードモナ ス.プチダ(pseudomonas putida)等のシユードモナス属、リゾビゥム 'メリロティ (Rhizobium meliloti)等のリゾビゥム属に属する細菌を宿主細胞として使用できる。具 体的には、 Escherichia coll XLl- Blue、 Escherichia coll XL2- Blue、 Escherichia coll DH1、 Escherichia coli K12、 Escherichia coli JM109、 Escherichia coli HB101等の大 腸菌や、 Bacillus subtilis MI 114、 Bacillus subtilis 207-21等の枯草菌を宿主細胞とし て使用できる。この場合のプロモーターは、大腸菌等の細菌中で発現できるものであ れば特に限定されず、例えば、 trpプロモーター、 lacプロモーター、 Pプロモーター、
L
Pプロモーター等の大腸菌やファージ等に由来するプロモーターを使用できる。また
R
、 tacプロモーター、 lacT7プロモーター、 let Iプロモーターのように人為的に設計改変
されたプロモーターを使用することもできる。
[0035] 細菌への組換えベクターの導入方法は、細菌に DNAを導入し得る方法であれば 特に限定されず、例えば、カルシウムイオンを用いる方法 (Cohen, S.N. et al., Proc. Natl. Acad. Sci., USA, 69 : 2110-2114 (1972))、エレクト口ポレーシヨン法等を使用で きる。
[0036] 酵母を宿主細胞とする場合、例えば、サッカロミセス ·セレピシェ
(¾accharomycescerevisiae)^ンゾサッ 7口 ス ·ポンべ (¾chizosaccharomyces pombe)、ピヒア'パストリス(Pichia pastoris)等を宿主細胞として使用できる。この場合 のプロモーターは、酵母中で発現できるものであれば特に限定されず、例えば、 gall プロモーター、 gallOプロモーター、ヒートショックタンパク質プロモーター、 MF a 1プロ モーター、 PH05プロモーター、 PGKプロモーター、 GAPプロモーター、 ADHプロモー ター、 AOX1プロモーター等を使用できる。
[0037] 酵母への組換えベクターの導入方法は、酵母に DNAを導入し得る方法であれば 特に限定されず、例えば、エレクト口ポレーシヨン法(Becker, D.M. et al.,Methods. EnzymoL, 194 : 182-187 (1990))、スフエロプラスト法(Hinnen, A.et al., Proc. Natl. Acad. Sci., USA, 75 : 1929-1933 (1978》、酢酸リチウム法 (Itoh, H" J. BacterioL, 153 : 163-168 (1983》等を使用できる。
[0038] 動物細胞を宿主細胞とする場合、例えば、サル細胞 COS-7、 Vero、チャイニーズハ ムスター卵巣細胞(CHO細胞)、マウス L細胞、ラット GH3、ヒト FL細胞等を宿主細胞と して使用できる。この場合のプロモーターは、動物細胞中で発現できるものであれば 特に限定されず、例えば、 SR aプロモーター、 SV40プロモーター、 LTR (Long Terminal Repeat)プロモーター、 CMVプロモーター、ヒトサイトメガロウィルスの初期 遺伝子プロモーター等を使用できる。
[0039] 動物細胞への組換えベクターの導入方法は、動物細胞に DNAを導入し得る方法 であれば特に限定されず、例えば、エレクト口ポレーシヨン法、リン酸カルシウム法、リ ポフエクシヨン法等を使用できる。
[0040] 昆虫細胞を宿主とする場合、例えば、 Spodoptera frugiperdaの卵巣細胞、
Trichoplusia niの卵巣細胞、カイコ卵巣由来の培養細胞等を宿主細胞として使用で
きる。 Spodoptera frugiperdaの卵巣細胞としては S19、 Sf21等、 Trichoplusia niの卵巣 細胞としては High 5、 BTI-TN-5B1-4 (インビトロジェン社製)等、カイコ卵巣由来の培 養細胞としては Bombyx mori N4等を使用できる。
[0041] 昆虫細胞への組換えベクターの導入方法は、昆虫細胞に DNAを導入し得る限り 特に限定されず、例えば、リン酸カルシウム法、リポフエクシヨン法、エレクト口ポレー シヨン法等を使用できる。
[0042] 〔形質転換体の培養〕
目的とするポリペプチドをコードする DNAを組み込んだ組換えベクターを導入した 形質転換体を通常の培養方法に従って培養する。形質転換体の培養は、宿主細胞 の培養に用いられる通常の方法に従って行うことができる。
[0043] 大腸菌や酵母等の微生物を宿主細胞として得られた形質転換体を培養する培地と しては、該微生物が資化し得る炭素源、窒素源、無機塩類等を含有し、形質転換体 の培養を効率的に行なえる培地であれば天然培地、合成培地の ヽずれを使用して ちょい。
[0044] 炭素源としては、グルコース、フラクトース、スクロース、デンプン等の炭水化物、酢 酸、プロピオン酸等の有機酸、エタノール、プロパノール等のアルコール類を使用で きる。窒素源としては、アンモニア、塩化アンモ-ゥム、硫酸アンモ-ゥム、酢酸アン モ-ゥム、リン酸アンモ-ゥム等の無機酸又は有機酸のアンモ-ゥム塩、ペプトン、肉 エキス、酵母エキス、コーンスチープリカー、カゼイン加水分解物等を使用できる。無 機塩としては、リン酸第一カリウム、リン酸第二カリウム、リン酸マグネシウム、硫酸マグ ネシゥム、塩ィ匕ナトリウム、硫酸第一鉄、硫酸マンガン、硫酸銅、炭酸カルシウム等を 使用できる。
[0045] 形質転換体の培養は、振盪培養又は通気攪拌培養等の好気的条件下で行なう。
培養温度は通常 37°C、培養時間は通常 8〜 12時間であり、培養期間中は pHを 7. 2〜7. 4に保持する。 pHの調整は、無機酸、有機酸、アルカリ溶液、尿素、炭酸カル シゥム、アンモニア等を使用して行なうことができる。また、培養の際、必要に応じてァ ンピシリン、テトラサイクリン等の抗生物質を培地に添加してもよい。
[0046] プロモーターとして誘導性のプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した微
生物を培養するときには、必要に応じてインデューサーを培地に添加してもよい。例 えば、 lacプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した微生物を培養するとき にはイソプロピル一 β—D—チォガラタトピラノシド等を、 trpプロモーターを用いた発 現ベクターで形質転換した微生物を培養するときにはインドールアクリル酸等を培地 に添カ卩してもよい。
[0047] 動物細胞を宿主細胞として得られた形質転換体を培養する培地としては、一般に 使用されている RPMI1640培地、 Eagleの MEM培地、 DMEM培地又はこれら培地に牛 胎児血清等を添加した培地等を使用できる。形質転換体の培養は、通常 5%CO存
2 在下、 37〜42°Cで 2〜4日間行なう。培養の際、必要に応じてカナマイシン、ベニシ リン、ストレプトマイシン等の抗生物質を培地に添加してもよい。
[0048] 昆虫細胞を宿主細胞として得られた形質転換体を培養する培地としては、一般に 使用されている TNM-FH培地 (ファーミンジェン社製)、 Sf-900 II SFM培地 (Gibco BRL 社製)、 ExCell400、 ExCell405(JRHバイオサイエンシーズ社製)等を使用できる。形質 転換体の培養は、通常 27°Cで 12〜24時間行なう。培養の際、必要に応じてゲンタ マイシン等の抗生物質を培地に添加してもよ 、。
[0049] 目的とするポリペプチドは、分泌タンパク質又は融合タンパク質として発現させるこ ともできる。融合させるタンパク質又はペプチドとしては、例えば、 j8—ガラクトシダー ゼ、プロテイン A、プロテイン Aの IgG結合領域、クロラムフエ-コール'ァセチルトラン スフエラーゼ、ポリ (Arg)、ポリ (Glu)、プロテイン G、マルトース結合タンパク質、グルタ チオン S-トランスフェラーゼ、ポリヒスチジン鎖(His- tag)、 Sペプチド、 DNA結合タン パク質ドメイン、 Tac抗原、チォレドキシン、グリーン 'フルォレツセント'プロテイン等が 挙げられる。
[0050] 〔ポリペプチドの単離 '精製〕
形質転換体の培養物より目的とするポリペプチドを採取することにより、 目的とする ポリペプチドを取得できる。「培養物」には、培養上清、培養細胞、培養菌体、細胞又 は菌体の破砕物の 、ずれもが含まれる。
[0051] 目的とするポリペプチドが形質転換体の細胞内に蓄積される場合には、培養物を 遠心分離することにより、培養物中の細胞を集め、該細胞を洗浄した後に細胞を破
砕して、 目的とするポリペプチドを抽出する。 目的とするポリペプチドが形質転換体の 細胞外に分泌される場合には、培養上清をそのまま使用するか、遠心分離等により 培養上清から細胞又は菌体を除去する。
[0052] 取得されたポリペプチド (a)又は (b)は、溶媒抽出法、硫安等による塩析法脱塩法、 有機溶媒による沈殿法、ジェチルアミノエチル (DEAE) セファロース、イオン交換ク 口マトグラフィ一法、疎水性クロマトグラフィー法、ゲルろ過法、ァフィユティークロマト グラフィ一法等により精製できる。
[0053] ポリペプチド (a)又は (b)は、そのアミノ酸配列に基づいて、 Fmoc法 (フルォレニルメチ ルォキシカルボ-ル法)、 tBoc法 (t ブチルォキシカルボ-ル法)等の化学合成法に よって製造することもできる。この際、市販のペプチド合成機を利用できる。
[0054] 本発明の糖尿病性腎症の予防 '治療剤は、ポリペプチド (a)及び (b)に含まれる 1種 類のポリペプチドを有効成分としてもよ 、し、 2種類以上のポリペプチドを有効成分と してちよい。
[0055] 本発明の糖尿病性腎症の予防 '治療剤は、ポリペプチド (a)又は (b)のみ力も構成さ れていてもよいが、通常は医薬的に許容され得る 1種以上の担体及び Z又は添加剤 とともに常法に従って製剤化する。製剤化する場合、製剤中の有効成分の量は、通 常 0. 1〜5重量%、好ましくは 1〜5重量%程度である。
[0056] 医薬的に許容される担体としては、例えば、水、医薬的に許容される有機溶剤、コ ラーゲン、ポリビュルアルコール、ポリビュルピロリドン、カルボキシビュルポリマー、ァ ルギン酸ナトリウム、水溶性デキストラン、カルボキシメチルスターチナトリウム、ぺクチ ン、キサンタンガム、アラビアゴム、カゼイン、ゼラチン、寒天、グリセリン、プロピレング リコール、ポリエチレングリコール、ワセリン、パラフィン、ステアリルアルコール、ステア リン酸、ヒト血清アルブミン、マン-トール、ソルビトール、ラタトース等が挙げられる。
[0057] 製剤化に際して使用される添加剤としては、例えば、充填剤、増量剤、結合剤、付 湿剤、崩壊剤、表面活性剤、滑沢剤、賦形剤、安定化剤、殺菌剤、緩衝剤、等張ィ匕 剤、キレート剤、 pH調整剤、界面活性剤等が挙げられ、これらの添加剤は製剤の投 与単位形態等に応じて適宜選択される。これらのうち、通常の蛋白製剤等に使用さ れる成分、例えば、安定化剤、殺菌剤、緩衝剤、等張化剤、キレート剤、 pH調整剤、
界面活性剤等が好ましく選択される。
[0058] 添加剤の具体例を以下に例示する。
安定化剤:ヒト血清アルブミン;グリシン、システィン、グルタミン酸等の L アミノ酸; グルコース、マンノース、ガラクトース、果糖等の単糖類、マン-トール、イノシトール、 キシリトール等の糖アルコール、ショ糖、マルトース、乳糖等の二糖類、デキストラン、 ヒドロキシプロピルスターチ、コンドロイチン硫酸、ヒアルロン酸等の多糖類及びそれら の誘導体等の糖類;メチルセルロース、ェチルセルロース、ヒドロキシェチルセルロー ス、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カノレボキシメ チルセルロースナトリウム等のセルロース誘導体等。
[0059] 界面活性剤:ポリオキシエチレングリコールソルビタンアルキルエステル、ポリオキシ エチレンアルキルエーテル系、ソルビタンモノァシルエステル系、脂肪酸グリセリド系 等の界面活性剤。
[0060] 緩衝剤:ホウ酸、リン酸、酢酸、クェン酸、 ε アミノカプロン酸、グルタミン酸及びそ れらの塩(例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩等のアル カリ金属塩やアルカリ土類金属塩)。
[0061] 等張化剤:塩ィ匕ナトリウム、塩ィ匕カリウム、糖類、グリセリン等。
キレート剤:ェデト酸ナトリウム、クェン酸等。
[0062] 投与経路及び投与剤形は、治療に際して最も効果的なものを使用するのが望まし い。投与経路としては、例えば、経口投与、口腔内、気道内、直腸内、皮下、筋肉内 及び静脈内等の非経口投与が挙げられ、投与剤形としては、例えば、噴霧剤、カブ セル剤、錠剤、顆粒剤、シロップ剤、乳剤、座剤、注射剤、軟膏、テープ剤等が挙げ られる。
[0063] 経口投与に適当な製剤としては、例えば、乳剤、シロップ剤、カプセル剤、錠剤、散 剤、顆粒剤等が挙げられる。乳剤やシロップ剤のような液体調製物は、水、ショ糖、ソ ルビトール、果糖等の糖類、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコ ール類、ごま油、ォリーブ油、大豆油等の油類、 ρ ヒドロキシ安息香酸エステル類等 の防腐剤、ストロベリーフレーバー、ペパーミント等のフレーバー類等を添加剤として 使用して製造できる。カプセル剤、錠剤、散剤、顆粒剤等は、乳糖、ブドウ糖、ショ糖
、マン-トール等の賦形剤、デンプン、アルギン酸ナトリウム等の崩壊剤、ステアリン 酸マグネシウム、タルク等の滑沢剤、ポリビュルアルコール、ヒドロキシプロピルセル口 ース、ゼラチン等の結合剤、脂肪酸エステル等の界面活性剤、グリセリン等の可塑剤 等を添加剤として使用して製造できる。
[0064] 非経口投与に適当な製剤としては、例えば、注射剤、座剤、噴霧剤等が挙げられる 。例えば、注射剤は、塩溶液、ブドウ糖溶液又はこれらの混合物を担体として使用し て製造できる。座剤は、カカオ脂、水素化脂肪又はカルボン酸等を担体として使用し て製造できる。噴霧剤は、受容者の口腔及び気道粘膜を刺激せず、かつを有効成 分を微細な粒子として分散させ吸収を容易にさせる担体として、乳糖、グリセリン等を 使用して製造でき、エアロゾル、ドライパウダー等に製剤化できる。
[0065] 投与量及び投与回数は、 目的とする治療効果、投与方法、治療期間、年齢、体重 等により異なるが、投与量は、有効成分量に換算して成人 1日当たり通常 0. 01〜1 mg/kg体重の範囲力 適宜選択でき、投与回数は、 1日 1回力 数回の範囲力 適宜 選択できる。投与対象動物は特に限定されないが、例えば、ヒトを含む哺乳動物等が 挙げられる。
[0066] 本発明の糖尿病性腎症の予防'治療剤は、糖尿病性腎炎を予防及び Z又は治療 できる。糖尿病性腎症は糖尿病の合併症であり、糖尿病性腎症の症状としては、例 えば、蛋白尿 (アルブミン尿)、糸球体内の細胞外基質(例えば、 IV型コラーゲン、 I型 コラーゲン、 III型コラーゲン、フイブロネクチン等)の蓄積、細胞周期の G1期での停 止、糸球体肥大、腎肥大、糸球体硬化、間質の線維化、細動脈硬化等が挙げられ、 本発明の糖尿病性腎症の予防'治療剤により、これらの症状を予防及び Z又は治療 することができる。
実施例
[0067] 1.方法
(1)実験動物
実験動物としては、レブチン受容体を欠損した 2型糖尿病モデル動物である雄性 db/dbマウス(日本クレア)を使用した。 db/dbマウスは、高血糖、高インスリン血症、高 レプチン血症等を呈し、 4〜7週齢には肥満を呈するようになる。 db/dbマウスは 8週
齢には 100%が高血糖を呈するため、 8週齢より治療介入を開始した。 8週齢の db/db マウスに lmmol/L DTTを含有するリン酸緩衝生理食塩水(PBS- DTT)に溶解したマ ウスガレクチン一 9組換えタンパク質(lmg/kg体重)を週 3回腹腔内投与し、これを 8 週間継続した(n=20, db/db+G9群)。コントロールとして db/dbマウス(n=20, db/db群) 及び非糖尿病モデル動物である db/mマウス(日本クレア) (n=20, db/m群)に PBS-DTTを同様に投与した。 8週齢及び 16週齢の時点で採血を行い、マウス採尿ケ ージ(夏目製作所)にマウスを入れ、 24時間尿を採取し、尿中アルブミン排泄量 (mg/day)を測定した。 16週齢の時点で屠殺し、腎臓を組織学的検討、ノーザン解析 及びウェスタンブロットに供した。
[0068] (2)マウスガレクチン 9組換えタンパク質 (配列番号 1)の作製
マウスガレクチン 9組換えタンパク質(以下「G9」という。 )は、公知の方法(Wada J.等, J.Biol.Chem. 272 : 6078-6086, 1997 ;Wada J.等, J.Clin.Invest 99 : 2452-2461, 1997)に基づいて、 pTrcHis2ベクター(Invitrogen, San Diego, CA, USA)を使用して 産生させた。なお、 G9は、 C末端に c-mycェピトープ及び (His)を有する融合タンパク
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質として産生される。
[0069] マウスガレクチン 9をコードする DNA (配列番号 4)を含むベクター(以下「
pTrcHis2/G9」という。 )を、 TOP10バクテリア宿主(Invitrogen社製)にトランスフォーメ ーシヨンした。トランスフォーメーションした細菌コロニーを、 Luria- Bertani's培地で培 養し、 lmmol/Lの isopropy j8—D—tiogalactopyranoside (IPTG)をカロえることによりタ ンパク質合成を誘導した。 l%TritonX- 100、 10mmol/L benzamidineゝ 10mmol/L ε —amino— n—caproic acid及び 2mmol/L phenylmethanesulfonyl fluorideを含む
Tris-dithiothreitol (Tris— DTT)緩衝液 (20mmol/L Tris (pH 7.4), 5mmol/L ethylenediaminetetraacetic acid (EDTA), 150mmol/L sodium chroride, lmmol/L DTT)で細菌を溶解した。その溶解液を 4°Cで 30分間、 20000 X gで遠心した。遠心上 清を 10mLの lactosy卜 Sepharoseカラム(Sigma, ST丄 ouis, MO, USA)に添カ卩した。非 結合タンパク質を洗浄した後、融合タンパク質を 200mmol/L Lactoseを含む
Tris- DTTバッファーで溶出した。その溶出画分を lmmol/L DTTを含有するリン酸緩 衝液 (PBS)で透析し、 - 70°Cで保存した。サンプルを 12.5%の SDS- PAGE (sodium
dodecyl sulfate— polyacrylamide gel electrophoresis)で解析したところ、単一のノ ンド が得られ、分子量は 39kDaであり、構成アミノ酸数から予測される分子量と一致した。
[0070] (3)組織学的検討
腎臓組織は 10%ホルムアルデヒドで固定し、パラフィンに包埋した後、 厚の切 片を作製した。切片は PAS (periodic acid-Schiff)で染色した。それぞれの動物につ いて 50個の糸球体面積及びメサンギゥム基質面積を OPTIMAS version 6.5 (Media Cybernetics, Silver Spring, MD, USA)を用いて計測した。
[0071] (4)蛍光抗体法
糸球体内の細胞外基質の定量を行うために、 IV型コラーゲン a 1鎖抗体を用いた 蛍光抗体法を行い、蛍光強度を定量することにより IV型コラーゲン発現量をを定量し た。すなわち、凍結切片を氷上でアセトン固定し、これらの切片を Rabbit polyclonal anti-collagen human type IV ( a 1) (Santaし nz Biotecnnology, Santaし ruz, CA, USA)と 1時間反応させた後、 FITC標識抗ゥサギ IgG (Cappel)と 1時間反応させて染 色し 7こ。 Confocal laser fluorescence microscope (LSM-510,し arl Zeiss, Jena, Germany)を用いて撮影した後、画像ファイルを NIH imageのグレイスケールモードで 取り込み、濃度を 0から 256までのスケールに変換し、 densityとして [density X positive area]の計算式によって IV型コラーゲンのタンパク質発現の定量を行った。
[0072] (5)酵素抗体法
糸球体内の p21陽性細胞数及び p27陽性細胞数を定量するために、酵素抗体法を 実施した。すなわち、腎臓組織のパラフィン切片を 10mmol/Lクェン酸バッファー(pH 6.0)に浸漬し、マイクロウェイブを用いて 500watt、 20分間加熱した。冷却し、メタノー ル(3% H 0 )でブロッキングを行った後、正常血清及びアビジンピオチンブロッキン
2 2
グ試薬 (Vector Laboratories, Burlingame, CA, USA)を用いてブロッキングを行った 。次いで、一次抗体であるゥサギ抗ヒト p21ポリクローナル抗体(rabbit polyclonal anti-human p21)及びゥサギ抗ヒト p27Kiplポリクローナル抗体(rabbit polyclonal anti-human p27Kpl) (Santa Cruz),二次抗体であるピオチン標識ロバ抗ゥサギ IgG抗 体 (biotin labeled donkey anti-rabbit IgG) (Jackson Immunoresearch Laboratory, West Grove ^ PA)、三次抗体 (ABC試薬, Vectastain Elite kit, Vector Laboratories,
Burlingame, CA, USA)と反応させ、 DAB試薬によって発色させた後、 1匹の動物あた り 50個以上の糸球体について糸球体内の p21陽性細胞数及び p27陽性細胞数をカウ ントした。
[0073] (6)ノーザン解析
腎皮質又は培養細胞から total RNAを抽出し、 2.2mol/Lホルムアルデヒド含有 1 % ァガロースゲノレで電気泳動を行い、さらに Hybond N+ nylon (Amersham, Arlington Heights, IL, USA)に転写した。 TGF jS (transforming growth factor- j8 )、 IV型コラー ゲン α 1鎖及び α 5鎖、並びに 13 -ァクチンの cDNAを Rediprime II DNA Labelling System (Amersham)により [ α - 32P] dCTPラベルした。それぞれの cDNA (lxlO6 cpm/mLノを Express HybTM Hyondization solution (し lontech, Palo Alto, CA, UbA) を用いて、 68°Cで 2時間ハイブリダィゼーシヨンした。ナイロンフィルターを lxSSC ^standard sodium citrate)/0.1 %SDS (sodium aodecyl sulfate)で 4回 (2 し)、
0.1xSSC/0.1 %SDSで 2回(68°C)洗浄し、オートラジオグラフィーを実施した
(Hyperfilm MP, Amersham)。
[0074] (7)ウェスタンブロット
培養細胞を lysis buffer中でホモジナイズし、タンパク質濃度を Bradford法で測定し 7こ後 (Amersham入 40 μ gを SDS/12%PAGE (polyacrlamaide gel electrophoresis) 【こ て展開し、 Transblot SD Semi-Dry Transfer Cell (Bio— Rad Laboratories, CA, USA) を用いて-トロセルロース膜(Hybond-ECL, Amersham)に転写した。 5%スキムミル クを含む TBS (20mM TrisHCl, pH 7.6, 150mM NaCl)中で室温にて 1時間ブロッキン グを行った。 TTBS (0.1 % Tween20を含む TBS)を用いて、一次抗体であるゥサギ抗ヒ ト p21ポリクローナル抗体(rabbit polyclonal anti-human p21)及びゥサギ抗ヒト p27Kpl ポリクローナル抗体(rabbit polyclonal anti-human ρ27Κρ1) (Santa Cruz),並びにゥサ ギ抗ァクチンポリクローナノレ抗体 (rabbit polyclonal anti— actin) (Sigma, Saint Louis, MI, USA)を 200倍希釈してメンブレンと室温で 1時間反応させた。 TTBS (0.1 % Tween20を含む TBS)で 10分間 3回以上洗浄した後、 0.1 %BSAを含む TTBS (0.05% Tween20を含む TBS)を用いて二次抗体(HRP標識抗ゥサギ IgG抗体)を 20,000倍希 釈し、メンブレンと室温で 30分間反応させた。 TTBS (0.05% Tween20を含む TBS)で
10分間 3回以上洗浄した後、 ECL plus (Amersham)にて化学発光を行うとともに、 X 線フィルム(Hyperfilm ECL, Amersham)への感光'現像を行なった。
[0075] (8)培養細胞実験
Conditionally immortalized mouse podocyte cell lines (MPしノを Dr. Peter Mundelよ り供与をうけ実験に使用した(Mundel P等, Exp Cell Res 236:248-258, 1997)。 MPC 細胞の培養には、 10% fetal bovine serum, 100 units/mlペニシリン 'ストレプトマイシ ン及びグルタミン含有 RPMI 1640培地(Gibco)を用いた。まず、細胞を増殖させるた めに、 50 U/ml y -IFN (Gibco)存在下、 33°Cで 7日間培養した。次いで、分化誘導を 行うために、 γ -IFN不含有の培地に変更するとともに培養温度を 37°Cに上昇させ、さ らに 7日間培養した。分化は、著明な細胞突起の形成及び synaptopondinの発現によ り確認した。その後、正常濃度糖添加 (5.5mMグルコース)、高濃度糖添加 (25mM グルコース)下で 6日間培養した。コントロール(高浸透圧)としてマン-トール
(25mM)を用いた。高濃度糖添加培養条件においては、 InM及び 100nMの G9を 48 時間ごとに添カ卩した。コントロールとして vehicleである同量の PBS-DTTを添カ卩した。 培養終了時に、ウェスタンブロット、 DNA合成量及びタンパク質合成量の定量、並 びに細胞周期の解析に供した。
[0076] (9) [ ]-チミジン及び [ ]-プロリン取り込み量の測定
12ゥエル培養ディッシュ中で 3xl04/wellの MPC細胞を同期して分化させ、 [ ]-チミ ジン(2 μ Ci/ml)及び [3H]-プロリン(5 μ Ci/ml)でパルスラベルを行い、 [ ]-チミジ ンは 6時間後に、 [ ]-プロリンは 12時間後に上清を除去し、 PBSで洗浄し、氷冷 10% trichloroacetic acid (TCA)で沈降させた後、乾燥させた。 0.4N NaOHで溶解し、 37 °Cで 20分間インキュベーションした後、 0.2N acetic acidで中和した。液体シンチレ一 シヨンカウンターで [ ]-チミジン及び [ ]-プロリン取り込み量を測定し、さらに [ ]- プロリンについてはタンパク質濃度で補正を行った。
[0077] (10)細胞周期の解析
MPC細胞をチャンバースライド(Falcon)中で培養し、分化誘導した。 100%エタノー ルに 15分間浸漬し固定した後、 Propidium Iodide (50 μ g/ml)/RNAseA (200 μ g/ml) (Sigma)溶液にて 15分間染色を行った。 Vecter Shield (Vecter)で封入し、 OLYMPUS
Laser Scanning Cytometer (LSC)により個々の細胞の細胞周期(GO期, G1期, S期 , G2期, M期)の同定を行った。少なくとも 2000細胞について解析を行った。
[0078] (11)統計処理
データは平均士標準誤差で示した。 One-way ANOVA検定を用いて pく 0.05を有意 とした。
[0079] 2.結果
(1)糖代謝、脂質代謝及び血圧に対する G9投与の効果
db/m群、 db/db群及び db/db+G9群における体重 (g)、収縮期血圧、拡張期血圧、 HbAlc(%),空腹時血糖 (mg/dl)、空腹時 IRI(ng/ml)、血清クレアチニン (mg/dl)、血中 コレステロール (mg/dl)、血中中性脂肪 (mg/dl)、血中遊離脂肪酸 EQ/1)、左腎重量 (g/kg体重)及び右腎重量 (g/kg体重)を表 1に示す。なお、表 1中、「8W」は 8週齢、「 16W」は 16週齢を表す。
[0080] [表 1]
00081
db/m群 db/db群 体重 (8W)(g) 26.95±0.408 42.31 ±0.642 体重 (16W)(g) 29.89±0.402 44.61 ±1.728 収縮期血圧 (8W) 131.9±3.427 126.7±2.906 収縮期血圧 (16W) 126±5.14 137.53±3.374 拡張期血圧 (8W) 85.2±2.462 76.16±4.394 拡張期血圧 (16W) 83.211 ±3.506 91.48±4.351
HbA1c(8W)(%) 2.983±0.031 9.611 ±0.231 空腹時血糖 (8W)(m
g/dl) 105±9.495 298.143±26.519 空腹時血糖 (16W )(mg/dl) 48.3±2.712 587.444±25.705 空腹時 IRI (ng/ml) 0.26±0.031 1.2±0.153 血清クレアチニン(m
g/dl) 0,077 ±0.01 0.092±0.016 コレステロール(mg/dl) 71.2±4.211 118.778± 10.387 中性脂肪(mg/dl) 17±3.629 59·125±13·023 遊離脂肪酸 (jUEQ/l) 774±50.36 1278±89.792 左腎重量 (g/k
g体重) 0.679±0.047 0.573±0.02
右腎重量(g/k
g体重) 0.192±0.006 0.291 ±0.013
(mg/dl)、空腹時 IRI(ng/ml)、血中コレステロール (mg/dl)、血中中性脂肪 (mg/dl)及び 血中遊離脂肪酸 ( EQ/1)が有意に増カロしたことから、 db/db群では糖尿病が発症し て糖代謝及び脂質代謝に異常が生じていることが示された。また、表 1に示すように、 糖代謝、脂質代謝及び血圧にっ 、て db/db群及び db/db+G9群間で有意差が認めら れな力つたことから、 G9投与は、糖代謝、脂質代謝及び血圧に影響を及ぼさないこ とが示された。
[0082] (2)腎障害及び糸球体肥大に対する G9投与の効果
db/m群、 db/db群及び db/db+G9群における尿中アルブミン排泄量 (mg/day)を図 1 に示す。なお、図 1中、「8W」は 8週齢、「12W」は 12週齢、「16W」は 16週齢を表す。
[0083] db/m群、 db/db群及び db/db+G9群の糸球体の PAS (periodic acid-Schiff)〖こよる染 色結果を図 2(a)に示し、 db/m群、 db/db群及び db/db+G9群における糸球体面積 (tuft area, μ m2)及びメサンギゥム基質面積 Ζ糸球体面積 (メサンギゥムインデックス (mesangial index), %)を図 2(b)に示す。
[0084] 図 1に示すように、 db/db群では db/m群と比較して尿中アルブミン排泄量 (mg/day) が有意に増加したことから、 db/db群では糖尿病性腎症が発症して腎障害が生じて いることが示された。また、図 2に示すように、 db/db群では db/m群と比較して糸球体 面積 ( m2)及びメサンギゥムインデックス (%)が有意に上昇したことから、 db/db群で は糖尿病性腎症が発症して糸球体が肥大していることが示された。
[0085] これに対して、図 1に示すように、 db/db+G9群では db/db群と比較して尿中アルブミ ン排泄量 (mg/day)が有意に減少したことから、 G9投与により、糖尿病性腎症の一症 状である腎障害を改善できることが示された。また、図 2に示すように、 db/db+G9群で は db/db群と比較して糸球体面積 ( μ m2)及びメサンギゥムインデックス (%)が有意に減 少したことから、 G9投与により、糖尿病性腎症の一症状である糸球体肥大を抑制で きることが示された。
[0086] (3)糸球体内の細胞外基質の蓄積に対する G9投与の効果
db/m群、 db/db群及び db/db+G9群の糸球体の蛍光抗体法による染色結果を図 3( a)に示し、 db/m群、 db/db群及び db/db+G9群における糸球体内 IV型コラーゲン発現 量湘対量)を図 3(b)に示す。なお、糸球体内 IV型コラーゲン発現量湘対量)は、
db/m群の発現量を 1としたときの各群の発現量を示す。
db/m群、 db/db群及び db/db+G9群におけるノーザン解析の結果を図 4に示す。
[0087] 図 3に示すように、 db/db群では db/m群と比較して糸球体内 IV型コラーゲンのタン パク質発現量が有意に増加したこと、及び、図 4に示すように、 db/db群では db/m群 と比較して糸球体内 IV型コラーゲン oc 1鎖及び oc 5鎖の mRNA発現量が顕著に増加し たから、 db/db群では糖尿病性腎症が発症して糸球体内に IV型コラーゲン等の細胞 外基質が蓄積していることが示された。なお、糸球体内の細胞外基質の蓄積は糸球 体硬化を引き起こす原因となる。
[0088] これに対して、図 3に示すように、 db/db+G9群では db/db群と比較して糸球体内 IV 型コラーゲンのタンパク質発現量が有意に減少したこと、及び、図 4に示すように、 db/db+G9群では db/db群と比較して糸球体内 IV型コラーゲン a 1鎖及び a 5鎖の mRNA発現量が顕著に減少したことから、 G9投与により、糖尿病性腎症の一症状で ある糸球体内の細胞外基質の蓄積及びそれにより引き起こされる糸球体硬化を抑制 できることが示された。
[0089] なお、糸球体内の細胞外基質の蓄積に関する重要なメディエーターである TGF |8 の mRNA発現量について、図 4に示すように、 db/db群では db/m群と比較してが顕著 に増加した力 db/db+G9群では db/db群と比較して顕著な変化が観察されな力つた ことから、 G9投与による上記効果は TGF |8を介さない経路で惹起されると推察される
[0090] (4)サイクリン依存性キナーゼ阻害因子の発現に対する G9投与の効果
db/m群、 db/db群及び db/db+G9群における糸球体内の p21陽性細胞及び p27陽性 細胞の酵素抗体法による染色結果をそれぞれ図 5(a)及び図 6(a)に示し、 db/m群、 db/db群及び db/db+G9群における糸球体内の p21陽性細胞及び p27陽性細胞の割 合(%)をそれぞれ図 5(b)及び図 6(b)に示す。
[0091] 図 5及び図 6に示すように、 db/db群では db/m群と比較して糸球体内の p21陽性細 胞及び p27陽性細胞の割合が有意に増加した。また、図 5(a)及び図 6(a)に示すように 、主として糸球体上皮細胞 (podocyte)において p21陽性細胞及び p27陽性細胞が増 カロしていることが観察された。これらの結果は、糖尿病性腎症において、 p21、 p27等
のサイクリン依存性キナーゼ阻害因子 (cyclin dependent kinase inhibitor(CDK- 1》の 発現が亢進することにより細胞周期が Gl期で停止 (arrest)し、細胞周期が停止した 状態でタンパク質合成が進行することにより細胞肥大が生じ、これにより糸球体肥大 が生じると!、う従来の知見と合致する。
[0092] これに対して、図 5及び図 6に示すように、 db/db+G9群では db/db群と比較して糸球 体内の p21陽性細胞及び p27陽性細胞の割合が有意に減少したことから、 G9投与に より、 p21、 p27等のサイクリン依存性キナーゼ阻害因子の発現を抑制することにより細 胞周期を改善し、糖尿病性腎症の一症状である糸球体肥大を抑制できることが示さ れた。
[0093] (5)細胞周期に対する G9投与の効果
[ ]-チミジン取り込み量 (dpm/well)及び [ ]-プロリン取り込み量 (dpm/細胞 mgタン ノ ク質)の測定結果を図 7に示す。なお、図 7中、「NG」は正常濃度糖添カ卩 (5.5mMグ ルコース)下での培養、「MN」はマン-トール添カ卩 (25mM)添カ卩下での培養、「HG」 は高濃度糖添加 (25mMグルコース)下での培養、「G9 1ηΜ」は高濃度糖添カロ (25mMグルコース)及び InM G9添カ卩下での培養、「G9 100nM」は高濃度糖添カロ (25mMグルコース)及び 100nM G9添カ卩下での培養を表す。
[0094] 各種条件で培養した MPC細胞におけるウェスタンブロットの結果を図 8に示す。な お、図 8中、「NG」、「HG」、「G9 1ηΜ」、「G9 100nM」及び「MN」は上記と同義である。
[0095] 各種培養条件における GOZG1期、 S期及び G2ZM期の細胞数を図 9に示す。な お、図 9中、「NG」、「HG」、「G9 1ηΜ」、「G9 100nM」及び「MN」は上記と同義である。
[0096] 図 7に示すように、高濃度糖添加下で培養した場合、正常濃度糖添加下で培養し た場合と比較して [ ]-チミジン取り込み量が有意差はないものの減少した。一方、図 7に示すように、高濃度糖添加下で培養した場合、正常濃度糖添加下で培養した場 合と比較して [ ]-プロリン取り込み量が有意に増加し、タンパク質合成が亢進して!/ヽ ることが示された。これに対して、図 7に示すように、高濃度糖添加下で培養した場合 に観察された [ ]-プロリン取り込み量の増加は G9添カ卩により抑制された。なお、コン トロールとして用いたマン-トール添加下で培養した場合にはこのような変化は観察 されなかった。
[0097] 図 8に示すように、高濃度糖添加下で培養した場合、 db/db群の糸球体上皮細胞で 観察されたように、 p27及び p21のタンパク質発現量が増加した力 これらの増加は G 9添カ卩により抑制された。
[0098] 図 9に示すように、高濃度糖添加下で培養した場合、 GO/G1期の細胞の増加及び G2/M期の細胞の減少が観察されたことから、高濃度糖添加下で培養した場合には 細胞周期が G1期で停止したことが示された。これに対して、図 9に示すように、 G9添 加により、用量依存的に GO/G 1期の細胞が減少するとともに G2/M期の細胞が増加 し、正常濃度糖添加下で培養した場合と同レベルまで復帰した。
[0099] これらの結果から、 G9投与は、 p21、 p27等のサイクリン依存性キナーゼ阻害因子の 発現を抑制することにより細胞周期を正常化し、タンパク質合成を正常化することに より糖尿病性腎症の一症状である糸球体肥大を抑制できることが示された。
[0100] 3.考察
糖尿病性腎症ではメサンギゥム細胞等の糸球体細胞の細胞周期が G1期で停止す ることが報告されている。細胞周期の停止に加えて、腎組織では高血糖によってタン パク質合成が亢進することが相俟って尿細管細胞,糸球体細胞の肥大、ひいては糸 球体肥大、腎肥大が引き起こされる。この腎肥大は、糖尿病性腎症に特徴的な病態 である。その分子機序として p21、 p27等のサイクリン依存性キナーゼ阻害因子の発現 亢進が報告されている。 p21、 p27等はサイクリン Dを抑制することによって腎臓におけ る細胞周期を G1期で停止させていると考えられている(Wolf G等, Am J Pathol 158:1091-1100, 2001 ;Wolf G等, Kidney Int 53:869-879, 1998 ;Monkawa T等, J Am Soc Nephrol 13:1172-1178, 2002) 0ガレクチン 9投与は db/db群で観察される 糸球体肥大を抑制し、尿中アルブミン排泄量を減少させ、メサンギゥム基質の増加及 び IV型コラーゲンの産生を抑制した。この作用機序として、 p21及び p27の発現を検 討したところ、ガレクチン一 9投与はそれらの発現を抑制した。さらに詳細なメカ-ズ ムを明らかにするために、 MPC細胞を用いて検討したが、高濃度糖添加培養条件下 で引き起こされる DNA合成の抑制及びタンパク質合成の促進は G9添カ卩によって正 常化し、 G1期にある細胞数を減少させた。
[0101] TGF βは糖尿病性腎症で発現が増加し、細胞外基質の産生増加、細胞増殖の抑
制、細胞肥大を誘導すると考えられている(Ziyadeh FN等 Proc Natl Acad Sci U S A 97:8015-8020, 2000)。ガレクチン 9投与は細胞外基質の産生増加、細胞増殖の 抑制、細胞肥大のいずれをも改善する力 db/dbマウスを用いた検討では、ガレクチ ンー 9投与は TGF jSの mRNA発現を大きく変化させておらず、ガレクチン 9の作用 は TGF j8を介していなのではないかと推測される。したがって、ガレクチン一 9による p21、 p27等の発現抑制も TGF |8を介していない可能性がある。
[0102] ガレクチン 9は今までの研究から、活性化 T細胞、胸腺細胞等の細胞にアポトー シスを誘導することが知られているが、本研究により、ガレクチン 9が糖尿病性腎症 で引き起こされる G1期の細胞周期停止を正常化させることが示された。アポトーシス の誘導は S期における細胞周期の停止によって起こることから、ガレクチン 9は細 胞周期の調節に重要な分子であると考えられる。細胞周期に介入することは癌の治 療戦略において重要であることは周知であるが、本研究により、糖尿病性腎症にお ける細胞周期異常への介入が新し 、治療ターゲットであることが示された。ガレクチ ン— 9が腎臓細胞に作用する場合、 β - galactosideを有する糖タンパク質と結合して その作用を発揮すると考えられるがそのターゲットは今のところ不明である。今後はこ のような作用が膜表面上のどのような分子を介して起こっているのかの検討が必要で ある。
[0103] ガレクチンをめぐる創薬は癌のアポトーシスや増殖抑制といった観点から、癌治療 のターゲットとして注目されている。代表的な生活習慣病である糖尿病においては、 大血管障害である動脈硬化、細小血管障害である神経障害、網膜症、腎症が重要 であるが、これら慢性血管合併症においても細胞周期異常の関与が少な力もずある と思われる。例えば、動脈硬化巣における平滑筋増殖、内皮細胞のアポトーシス、網 膜血管の pericyteの増殖、腎糸球体細胞の細胞周期の停止と肥大である。ガレクチ ン— 9がその細胞の状態に応じて細胞周期への影響が異なれば、すなわち増殖細 胞に対してはその抑制を、細胞周期が停止状態であればそれを解除するのであれ ば、糖尿病における様々な細胞周期異常を同時に治療できる可能性がある。