明細書
FAM3Dに対する抗体のエフェクター機能による細胞障害方法 技術分野
本発明は、 FAM3Dに対する抗体のエフェクター機能による細胞障害方法、 あ るいはそのための組成物に関する。 背景技術
肺癌は、 最もよく見られる致死的なヒトの腫瘍の一つである。 非小細胞肺癌 (NSCLC) は、 肺腫瘍の 80%近くを占め、 最もよく見られる形態である(American Cancer Society. Cancer Facts and Figures 2001 (Am. Chem. So Atlanta). 2001)。 大半の NSCLCは進行期まで診断されないため、 近年の多様式療法 (multi- modality therapy) の進歩にもかかわらず、 全体的な 10年生存率は 10%と低くとど まったままである(Fryら, Cancer. 86: 1867-76, 1999)。 現在、 プラチナを用い た化学療法は NSCLCの治療の基本であると考えられている。 しかし薬剤による治療 効果は、 現在のところ、 進行 NSCLC患者の生存をある程度延ばすことができる程度 に留まってレ る (Chemotherapy in 醒- small cell lung cancer: a metaanalysis using updated data on individual patients from 52 randomised clinical trials. Non-smal 1 Cell Lung Cancer Collaborative Group, Bmj.
311: 899-909, 1995)。 肺がんに関して、 チロシンキナーゼ阻害剤を含む多数の標 的療法が研究されている。 しかしこれまでに、 望ましい治療効果が達成された患 者の数は多くない。 また一部の患者においては、 治療効果とともに重篤な副作用 をともなう場合もあった(Krisら, Proc Am Soc Clin Oncol. 21: 292a(A1166), 2002)
発癌機構の解明を目的とする研究により、 すでに多くの抗腫瘍剤の分子標的候
補が見出されている。 例えば、 フアルネシルトランスフェラ一ゼ (FTI) の阻害剤 は、 動物モデルにおいて Ras依存性腫瘍の治療に有効である (Heら、 Cel l 99 : 335- 45 (1999) ) 。 この薬剤は、 転写後のフアルネシル化に依存する Rasに関連する増 殖シグナル経路を阻害するために開発された。 原癌遺伝子 HER2/neuを拮抗する目 的のために行われた、 抗 HER2モノクローナル抗体であるトラスッズマブと抗癌剤 の併用投与は、 ヒ卜での臨床試験において、 臨床反応の改善および乳癌患者の全 体的な生存率の改善が達成されている (Linら、 Cancer Res 61 : 6345-9 (2001) ) 。 チロシンキナーゼ阻害剤 ST 1-571は be r- ab 1融合夕ンパク質を選択的に不活性化す るものである。 この薬剤は be r-ab 1チロシンキナーゼの恒常的な活性化が白血球の 形質転換において重要な役割を果たす慢性骨髄性白血病を治療するために開発さ れた。 これらの種類の薬剤は、 特異的な遺伝子産物の発癌活性を抑制するように デザインされている (Fuj i taら、 Cancer Res 61 : 7722-6 (2001) ) 。 したがって、 通常、 癌細胞において発現が促進される遺伝子産物は、 新規抗癌剤を開発するた めの潜在的標的となる可能性がある。
一方、 がんの治療戦略の一つとして、 がん細胞に結合する抗体が利用されてい る。 抗体によるがん治療の代表的なメカニズムを次に示す。
ミサイル療法:がん細胞に特異的に結合する抗体に薬剤を結合し、 薬剤をがん 細胞に特異的に作用させる試みである。 副作用が強い薬剤であっても、 がん細胞 に集中的に作用させることができる。 薬剤のほか、 その前駆体、 あるいは前駆体 を活性型に代謝する酵素などを抗体に結合する試みも報告されている。
機能性分子を標的とする抗体の利用:たとえば増殖因子やその受容体に結合す る抗体によって、 がん細胞と増殖因子との結合を阻害する試みである。 がん細胞 には、 増殖因子に依存して増殖するものがある。 たとえば、 上皮細胞増殖因子
(EGF)、 あるいは血管内皮細胞 (VEGF)依存性のがんが知られている。 この種のが んにおいては、 増殖因子と細胞の結合を阻害することで治療効果を期待できる。 抗体の細胞障害作用:ある種の抗原に結合する抗体は、 がん細胞に対して障害
作用を有する場合がある。 このような抗体は、 抗体分子そのものが、 直接的な抗 腫瘍効果を有することになる。 がんに対して細胞障害作用を示す抗体は、 高い抗 腫瘍効果を期待できる抗体医薬として注目されている。 発明の開示
本発明者らは、 細胞において発現上昇が見られる遺伝子を標的として、 細胞の 障害作用を誘導することができる抗体を探索した。 その結果、 FAM3Dを認識す る抗体を FAM3D発現細胞に接触させたときに、 当該細胞に対する強力な細胞障 害作用が誘導されることを明らかにして本発明を完成した。
すなわち本発明は、 以下の医薬組成物、 あるいは方法に関する。
〔1〕 FAM3Dに結合する抗体を有効成分として含有する、 抗体のエフヱクタ一 機能によって FAM3Dを発現する細胞を障害するための医薬組成物。
〔2〕 FAM3Dを発現する細胞が肺がん細胞である 〔1〕 に記載の医薬組成物。 〔3〕 FAM3Dに結合する抗体が、 モノクローナル抗体である 〔1〕 に記載の医 薬組成物。
〔4〕 抗体のエフェクター機能が、 抗体依存性細胞障害作用、 および補体依存性 細胞障害作用のいずれか、 または両方である 〔1〕 に記載の医薬組成物。 〔5〕 次の工程を含む、 FAM3Dを発現する細胞を障害するための方法。
1) FAM3Dに結合する抗体を前記 FAM3Dを発現する細胞に接触させる工程、 および
2) 前記 FAM3Dを発現する細胞に結合した前記抗体のエフェクター機能に よつて前記細胞を障害する工程
〔6〕 FAM3Dまたはその免疫学的に活性な断片、 もしくはそれらを発現するこ とができる DNAを有効成分として含有する、 FAM3Dを発現する細胞に対す るエフェクター機能を有する抗体を誘導するための免疫原組成物。
〔7〕 FAM3Dまたはその免疫学的に活性な断片、 もしくはそれらを発現するこ
とができる DNAまたは細胞を投与する工程を含む、 FAM3Dを発現する細胞 に対するエフェクター機能を有する抗体を誘導するための方法。
本発明は、 FAM3Dに結合する抗体を有効成分として含有する、 抗体のェフエ クタ一機能によって FAM3Dを発現する細胞を障害するための医薬組成物に関す る。 あるいは本発明は、 FAM3Dに結合する抗体の、 抗体のエフェクター機能に よって FAM3Dを発現する細胞を障害するための医薬組成物の製造における使用 に関する。 本発明における医薬組成物は、 FAM3Dに結合する抗体と薬学的に許 容される担体を含む。 本発明者らは、 肺がん患者から採取された肺がん細胞と正 常細胞の間で c DNAマイクロアレイによる遺伝子発現解析を試みた。
そして肺がん細胞において、 特異的に発現上昇している複数の遺伝子を同定し た。 更に、 これら肺がん細胞において発現が変化していた遺伝子のうち、 主要臓 器における発現レベルが低い遺伝子を肺がんの治療標的の候補遺伝子として選択 した。 主要臓器における発現レベルが低い遺伝子を選択することによって、 副作 用の危険を避けることができると考えた。 こうして選択されたいくつかの遺伝子 によってコードされるタンパク質のうち、 FAM3Dを認識する抗体が FAM3Dを発 現している細胞に対するエフェクター機能を示すことを確認し、 本発明を完成し た。
本発明者らが得た知見によれば、 c-myc-Hisタグを付加した FAM3Dは、 強制発 現系においては、 細胞質顆粒 (cytoplasmic granules)、 ゴルジ (golgi)、 および細胞 質膜 (cytoplasmic membrane)への局在が観察された。 更に培養液中への FAM3D の分泌がウエスタンプロッティングによって確認されたことから、 FAM3Dは分 泌夕ンパク質であると考えられた。
FAM3D遺伝子は、 N末端にシグナルべプチドと予想されるアミノ酸配列をコー ドしていた。 このタンパク質は、 先に述べたように、 細胞においては、 主に細胞 質顆粒 (cytoplasmic granules), およびゴルジ (golgi)への局在が観察されたことか ら、 分泌タンパク質である可能性が考えられた。 更にこの遺伝子の正常組織にお
ける低い発現レベルと、 複数の非小細胞がん細胞における高発現は、 FAM3Dが 診断マーカーや治療標的として有用であることを示唆した。 しかし現在のところ、 FAM3Dを発現する細胞において、 FAM3Dに対する抗体がエフェクター機能を示 すことは知られていない。
エフェクター機能でがん細胞を破壊するには、 たとえば次のような条件が求め られる。
一がん細胞の膜上に発現している抗原分子数が多いこと
一抗原の分布ががん組織内で一様であること
一抗体と結合した抗原が長く細胞表面にとどまつていること
より具体的には、 たとえば、 抗体が認識する抗原が細胞膜表面に発現している 必要がある。 加えて、 がん組織を構成する細胞における抗原陽性細胞の割合がで きるだけ高いことが望まれる。 全ての癌細胞が抗原陽性であることが理想的な条 件である。 がん細胞集団の中で、 抗原陽性細胞と陰性細胞が混在する場合には、 抗体の臨床的な治療効果は望めない。
また、 通常、 できるだけたくさんの分子が細胞表面に発現しているほうが、 強 力なエフェクター機能を期待できる。 更に抗原に結合した抗体が細胞内に取り込 まれないことが重要である。 一部の受容体は、 リガンドとの結合の後に細胞内に 取り込まれる (endocytosis)場合がある。 抗体においても同様に、 細胞表面抗原に 結合した抗体が細胞内に取り込まれる場合がある。 このような現象によって抗体 が細胞内に取り込まれることを、 インターナリゼーシヨンと呼んでいる。 インタ ーナリゼーシヨンが起きると、 抗体の Fc領域が細胞内に取り込まれてしまう。 一 方、 エフヱクタ一機能に必要な分子あるいは細胞は、 抗原を発現している細胞の 外にある。 つまり、 インターナリゼーシヨンの結果、 抗体のエフェクター機能が 阻害されることになる。 したがって、 抗体のエフェクター機能を期待するときに は、 抗体のインターナリゼーシヨンを起こしにくい抗原を選ぶことが重要である。
FAM3Dがこのような特徵を備えた標的抗原であることは、 本発明者らによって
始めて明らかにされた。
本発明においてエフェク夕一機能とは、 抗体の定常領域 (Fc)が関与する細胞障 害作用を指す。 あるいは、 抗原に結合した抗体の Fcが、 その抗原を有する細胞を 障害する作用を駆動する機能を、 抗体のエフェクター機能と呼ぶこともできる。 より具体的には、 抗体依存性細胞障害作用 (Antibody Dependent Cell-mediated Cytotoxicity; ADCC)、 補体依存性細胞障害作用 (compliment dependent
Cytotoxicity; CDC) および中和活性 (neutralize activity)が、 抗体のェフエクタ 一機能として知られている。 各機能について以下に説明する。
抗体依存性細胞障害作用 (Antibody Dependent Cell-mediated Cytotoxicity;
ADCC):
ィムノグロブリンのうち、 IgG、 IgE、 あるいは IgAクラスのィムノグロブリン の Fc領域は、 それぞれに特異的な Fc受容体を持つ細胞が存在する。 対応する Fc受 容体を有する細胞は、 細胞膜などに結合した抗体を認識して結合する。 たとえば、 IgGクラスの抗体は、 T細胞、 NK細胞、 好中球、 およびマクロファージ上の Fc受 容体に認識される。 これらの細胞は、 IgGクラスの抗体の Fc領域に結合して活性 化され、 抗体が結合した細胞に対する障害作用を発現する。 抗体のエフェクター 機能を介して細胞障害作用を獲得する細胞群は、 エフェクター細胞と呼ばれる。 エフェクター細胞の種類に基づいて、 ADCCを次のように区別する場合がある。
ADMC: IgG抗体によるマクロファージの活性化機能、 および
ADCC: IgG抗体による NK細胞の活性化機能
本発明における ADCCのエフェクター細胞の種類は限定されない。 すなわち、 マクロファージをエフェクター細胞とする ADMCは本発明の ADCCに含まれる。 特に抗体を用いたがんの治療においては、 抗体の ADCCが抗腫瘍効果の重要な メカニズムを構成していることが指摘されている (Nature Med., 6: 443-446, 2000)。 たとえば抗 CD20抗体キメラ抗体の治療効果と ADCCとの密接な関係が報 告された (Blood, 99: 754-758, 2002)。 したがって、 本発明においても、 抗体のェ
フエクタ一機能の中で ADCCは特に重要である。
たとえば既に臨床応用を開始しているハーセプチン (Hercept in) ゃリツキサン (Ri tuxan) の抗腫瘍効果の主要なメカニズムの一つは ADCCであると考えられてい る。 なお前者は転移性乳がんの、 また後者は非ホジキンリンパ腫 (non-Hodgkin' s ly即 homa) の治療薬である。
現在のところ、 ADCCによる細胞障害作用メカニズムは、 およそ次のように説 明されている。 すなわち、 細胞表面に結合した抗体を介して標的細胞と架橋され たエフェクター細胞が、 標的細胞に対して何らかの致死性のシグナルを伝達する ことによって、 標的細胞の細胞死が誘導されると考えられている。 いずれにせよ、 エフェクター細胞による細胞障害作用を誘導する抗体は、 本発明におけるェフエ クタ一機能を有する抗体に含まれる。
補体依存性細胞障害作用 (compliment dependent Cytotoxicity; CDC):
抗原と結合したィムノグロブリンの Fc領域は、 補体系路を活性化することが知 られている。 ィムノグロブリンのクラスにより、 活性化経路が異なる場合がある ことも明らかにされている。 たとえばヒト抗体においては、 IgMと IgGが古典経路 を活性化する。 一方、 IgA、 IgD、 および IgEは、 古典経路を活性化しない。 活性 化された補体は、 いくつかの反応を経て、 細胞膜障害活性を有する膜侵襲複合体 C5b-9(membrane attack complex! MAC)を生成する。 こうして生成された MAC は、 エフェクター細胞に依存することなく細胞膜やウィルス粒子を障害すると考 えられている。 MACによる細胞障害は次のようなメカニズムに基づいている。
MACは細胞膜に対する強い結合親和性を有する。 細胞膜に結合した MACは細胞 膜に穴をあける。 この穴によって水の出入りが容易となる。 その結果、 細胞膜の 不安定化、 あるいは浸透圧の変化などがもたらされ、 細胞が破壊される。 補体の 活性化による細胞障害作用は、 抗原に結合した抗体の近くにある膜にしか及ばな いとされている。 そのため、 MACによる細胞障害作用は抗体の特異性に依存して いる。 ADCCと CDCは相互に依存することなく細胞障害作用を発現することがで
きる。 しかし、 生体内においては、 実際には、 これらの細胞障害作用が、 複合的 に作用している場合もあると考えられている。
中和活性 (neutralize activityノ:
抗体の中には、 毒素の活性や病原体の感染能力を奪う機能を有する抗体が存在 する。 抗体による中和は、 可変領域の抗原への結合によって達成される場合と、 補体の介在を必要とする場合があることが知られている。 たとえばウィルスに対 する抗体には、 ウィルスの感染能の喪失のために補体の存在を要求する場合があ る。 補体が関与するためには、 Fc領域が必要である。 すなわちこのような抗体は、 細胞やウィルスの中和のために Fcを必要とするエフェクター機能を有する抗体で ある。
本発明において、 エフェクター機能とは、 抗体の抗原認識が引き金となって発 現する生物活性を決定する役割、 ということもできる。 本発明における好ましい 標的細胞はがん細胞である。 そしてェフエクタ一細胞は各種抗体の Fc領域が担う 機能で, 抗体クラスに大きく依存している。 IgG、 IgE、 IgAクラスの抗体の Fc領 域はそれぞれに特異的な Fc受容体に結合し、 Fc受容体をもつ細胞を活性化したり, 抗体の細胞間トランスポートに働く。 特に IgGクラス抗体がェフエクタ一細胞上 の Fc受容体を介して、 これらのエフェクター細胞を活性化し、 抗体の可変領域が 結合した標的細胞を殺すことを ADCC (抗体依存性細胞障害) とよぶ。 ADCCに おいては、 T細胞、 NK細胞、 好中球、 あるいはマクロファージなどがェフエクタ —細胞として機能する。 一方、 補体を活性化する機能は IgMと IgGクラスの抗体に 限られ, 抗体の可変領域が結合した細胞を溶解させる機能を特に CDC (補体依存 性細胞障害) と呼ぶ。
これらのエフェクター機能の中で、 本発明において、 好ましいエフェクター機 能は、 ADCC、 および CDCのいずれか、 あるいは両方である。 本発明は、
FAM3Dを認識する抗体が、 FAM3Dを発現する細胞に結合してエフェクター機能 を発現することを明らかにしたことに基づいている。
また本発明は、 次の工程を含む FAM3D細胞を発現する細胞を障害するための 方法に関する。
FAM3Dに結合する抗体を前記 FAM3Dを発現する細胞に接触させる工程、 および
2) 前記 FAM3Dを発現する細胞に結合した前記抗体のエフェクター機能に よつて前記細胞を障害する工程
本発明の医薬組成物あるいは細胞を障害するための方法において、 FAM3Dを 発現する細胞は、 任意の細胞であることができる。 たとえば肺がん細胞は、 本発 明における FAM3Dを発現する細胞として好適である。 中でも、 非小細胞性肺が ん細胞 (non-small cell lung cancer; NSCLC) は、 本発明における FAM3D発現細 胞として好ましい。 細胞と抗体とは、 生体内 n w o)で、 あるいは生体外
vitro)において接触させられる。 FAM3Dを発現する細胞として生体内にある肺が ん細胞を対象とする場合には、 本発明の方法は肺がんの治療方法あるいは予防方 法に他ならない。 すなわち本発明は、 次の工程を含む、 肺がんの治療方法を提供 する。
1) FAM3Dに結合する抗体を肺がん患者に投与する工程、 および
2) 肺がん細胞に結合した前記抗体のェフエクタ一機能によつて前記細胞を 障害する工程
肺がんにおいて過剰発現している遺伝子として本発明者らが同定した FAM3D は、 生命維持に重要な臓器の細胞での発現がほとんどなく、 肺がん細胞表面に特 異的に発現することを確認している。 そして FAM3Dに対する抗体は、 肺がん細 胞表面の抗原を特異的に認識し、 そのエフェクター機能によりがん細胞障害活性 を免疫系細胞に誘導しうると考えられる。
FAM3Dに結合する抗体が、 そのエフェクタ一機能によつて FAM3Dを発現する 細胞、 特に肺がん細胞を効果的に障害することを本発明者らは確認している。 更 に本発明者らは、 FAM3Dが高い確率で肺がん細胞で高度に発現していることを
確認している。 加えて、 FAM3Dの正常組織における発現レベルは低い。 これら の情報を総合すれば、 FAM3Dの投与による肺がんの治療方法は、 副作用の危険 が小さい、 効果的な治療方法であると言うことができる。
本発明において、 抗体は、 目的とするエフェクター機能を有する限り、 限定 されない。 たとえば ADCCを発現するためには、 IgA、 IgE、 あるいは IgGの Fc 領域を有する抗体が必要である。 また CDCを発現するためには、 抗体の Fc領 域は、 IgMまたは IgGであることが望ましい。 したがって、 ヒ卜に由来するこ れらのクラスに属する抗体は、 本発明における好ましい抗体である。 ヒト抗体 は、 ヒトから採取された抗体産生細胞、 あるいはヒトの抗体遺伝子を移植され たキメラ動物 (Cloning and Stem Cells., 4: 85 95, 2002)などを利用して得るこ とができる。
また、 抗体の Fc領域は任意の可変領域に接合することができる。 すなわち、 異種の動物の可変領域にヒ卜の定常領域を接合したキメラ抗体が公知である。 あるいはヒト由来の可変領域に、 任意の定常領域を接合して、 ヒトーヒトキメ ラ抗体を得ることもできる。 更に、 ヒト抗体の可変領域を構成する CDRを異 種の抗体の CDRで置換する技術 (CDR graft)も公知である ("Immunoglobulin genes", Academic Press(London), pp260-274, 1989; Proc. Natl. Acad. Sci. USA., 91: 969-973, 1994)。 CDRの置換により、 抗体の結合特異性が置換され る。 すなわち、 ヒトの FAM3Dに結合する抗体の CDRを移植されたヒト化抗体 は、 ヒトの FAM3Dを認識する。 移植された抗体は、 ヒト化抗体 (humanized antibody)とも呼ばれる。 このようにして得ることができる、 エフェクター機 能に必要な Fcを備えた抗体は、 可変領域の由来に関わらず、 本発明における抗 体として有用である。 たとえば、 可変領域として他のクラス、 あるいは他の種 のィムノグロプリンに由来するアミノ酸配列を含んでいても、 ヒト IgGの Fcを 有する抗体は、 本発明における好ましい抗体である。
本発明における抗体は、 モノクローナル抗体であっても、 ポリクローナル抗
体であってもよい。 ヒトに投与する場合であっても、 先に述べたヒトの抗体遺 伝子を移植された動物を用いて、 ヒトポリクローナル抗体を得ることもできる。 あるいはヒト化抗体、 ヒト—異種動物キメラ抗体、 ヒトーヒ卜キメラ抗体など の遺伝子工学的手法によって構築されたィムノグロブリンを用いることもでき る。 更に、 ヒト抗体産生細胞をクローン化することによって、 ヒトモノクロ一 ナル抗体を得る方法も知られている。
本発明の抗体を得るためには、 FAM3Dまたはその部分べプチドからなる断 片が免疫原として利用される。 本発明における FAM3Dの由来は、 任意の種で あることができる。 好ましくはヒト、 マウス、 またはラットなどの哺乳類に由 来し、 より好ましくはヒトに由来する。 ヒト FAM3Dの塩基配列、 並びにアミ ノ酸配列は公知である(NM— 138805)。 FAM3Dの cDNAの塩基配列を配列番 号: 1に、 その塩基配列によってコードされるアミノ酸配列を配列番号: 2に 示した。 与えられた塩基配列を有する遺伝子を単離し、 必要に応じてその断片 を調製し、 目的とするアミノ酸配列を有するタンパク質を得ることは当業者が 日常的に行っていることである。
たとえば FAM3Dタンパク質またはその断片をコードする遺伝子を、 公知の 発現ベクターに挿入した後に、 宿主細胞を形質転換するために使用することが できる。 所望のタンパク質、 またはその断片は、 宿主細胞の内外から任意の標 準的な方法により回収することができ、 またその後、 抗原として使用すること ができる。 または、 タンパク質もしくはその溶解物、 または化学的に合成され たタンパク質を、 抗原として使用することができる。 更に、 FAM3Dタンパク 質またはその断片を発現する細胞そのものを免疫原として利用することもでき る。
FAM3Dの免疫原として部分ペプチドを用いる場合には、 特に細胞外ドメイ ンと予測される領域を構成するアミノ酸配列を選択するのが望ましい。
FAM3Dの N末端 1-16にシグナルべプチドの存在が予測される。 したがって、
たとえば N末端側のシグナルペプチド (1 6アミノ酸残基) を除く領域は、 本 発明における抗体を得るための免疫原として好ましい。 すなわち、 FAM3Dの 細胞外ドメインに結合する抗体は、 本発明における抗体として好ましい。 . したがって、 FAM3Dの細胞外ドメインに結合することができる可変領域と、 エフェクター機能に必要な Fcを備えた抗体が、 本発明における好ましい抗体で ある。 ヒトに投与することを目的とする場合には、 IgGの Fcを備えることが望 ましい。
任意の哺乳動物をこの抗原で免疫化することができるが、 好ましくは、 細胞 融合に用いる親細胞との適合性を考慮に入れる。 一般に、 げっ歯類、 ゥサギ目、 または霊長類の動物を使用する。
げっ歯類の動物には、 例えばマウス、 ラット、 およびハムス夕一などが含ま れる。 ゥサギ目の動物には、 例えばゥサギが含まれる。 霊長類の動物には、 例 えば力二クイザル (Macaca fascicularis) 、 ァカゲザル、 マントヒヒ (sacred baboon) 、 およびチンパンジーなどの狭鼻猿類のサル (旧世界ザル) が含ま れる。
動物を抗原で免疫化する方法は当技術分野で公知である。 抗原の腹腔内注射 または皮下注射は、 哺乳類を免疫化する標準的な方法である。 具体的には、 抗 原は適量のリン酸緩衝食塩水 (PBS) や生理食塩水などで希釈および懸濁する ことができる。 所望ならば、 抗原懸濁物を、 フロイント完全アジュバントなど の適量の標準的なアジュバントと混合し、 乳濁液にした後、 哺乳動物に投与す ることができる。 好ましくは、 これに続いて、 適量のフロイント不完全アジュ バン卜と混合した抗原を、 4〜21日毎に複数回投与する。 適切な担体を免疫化 に使用することもできる。 上記のように免疫化を行った後に、 所望の抗体量の 増加に関して、 標準的な方法で血清を調べる。
FAM3Dのタンパク質に対するポリクローナル抗体は、 血清中の所望の抗体 の増加を調べた免疫化した哺乳類から血液を回収することにより、 および任意
の従来の方法で血清を血液から分離することにより、 調製することができる。 ポリクローナル抗体は、 ポリクローナル抗体を含む血清、 ならびに血清から単 離可能なポリクローナル抗体を含む画分を含む。 IgGまたは IgMは、 FAM3D タンパク質を認識する画分から、 例えば FAM3Dタンパク質を結合させたァフ ィニティカラムを用いて、 この画分をプロテイン Aまたはプロテイン Gのカラ ムでさらに精製することにより、 調製することができる。 本発明において、 ポ リクローナル抗体は、 抗血清のまま用いることもできる。 あるいは、 精製され た IgGや IgMを用いることもできる。
モノクローナル抗体を調製するため、 抗原で免疫化した哺乳類から免疫細胞 を回収し、 上述のように血清中の所望の抗体レベルの増加を調べ、 細胞融合に 使用する。 細胞融合に使用する免疫細胞は、 好ましくは脾臓から得られる。 上 記の免疫細胞と融合される他の好ましい親細胞には、 例えば哺乳類のミエロー マ細胞、 およびより好ましくは、 薬剤によって融合細胞を選択するための性質 を獲得したミエローマ細胞などが含まれる。
上記の免疫細胞およびミエ口一マ細胞は、 公知の方法、 例えば Milsteinらの 方法に従って融合することができる (Galfre, G.および Milstein, C.、 Methods. Enzymol. (1981) 、 73、 3-46) 。
細胞融合によって得られるハイプリドーマを、 HAT培地 (ヒポキサンチン、 アミノプテリン、 およびチミジンを含む培地) などの標準的な選択培地で培養 することにより、 選択することができる。 細胞培養は通常、 HAT培地中で数 日から数週間、 所望のハイプリドーマを除く他のすべての細胞 (融合していな い細胞) を死滅させるのに十分な期間、 継続する。 次に、 標準的な限界希釈を 行い、 所望の抗体を産生するハイプリドーマ細胞のスクリーニングおよびクロ 一二ングを行う。
ハイプリドーマを調製するための抗原で非ヒト動物を免疫化する上記の方法 に加えて、 EBウィルスに感染させた細胞などのヒトリンパ球を、 タンパク質、
タンパク質発現細胞、 またはこれらの溶解物を用いてインビトロで免疫化する ことができる。 次に、 免疫化されたリンパ球を、 無制限に分裂可能なヒト由来 のミエローマ細胞 (U266など) と融合させることにより、 タンパク質に結合 可能な所望のヒト抗体を産生するハイプリドーマが得られる (特開昭 63- 17688号) 。
得られたハイプリドーマを、 続いてマウスの腹腔に移植して腹水を抽出する。 得られたモノクローナル抗体を、 例えば、 硫酸アンモニゥム沈殿、 プロテイン Aもしくはプロテイン Gカラム、 DEAEイオン交換クロマトグラフィー、 また は本発明のタンパク質を結合させたァフィ二ティカラムによって精製すること ができる。 本発明の抗体は、 本発明のタンパク質の精製および検出だけでなく、 本発明のタンパク質の作用物質および拮抗物質の候補として使用することもで きる。 また、 この抗体を、 本発明のタンパク質に関連する疾患の抗体療法に応 用することができる。 得られた抗体をヒトの身体に投与する場合 (抗体療法) は、 ヒト抗体またはヒト化抗体は免疫原性を低下させるために好ましい。
例えば、 ヒト抗体遺伝子のレパートリーを有するトランスジエニック動物を、 タンパク質、 タンパク質発現細胞、 またはこれらの溶解物から選択される抗原 で免疫化することができる。 次に抗体産生細胞を動物から回収し、 ミエローマ 細胞と融合させてハイプリドーマを得て、 このハイプリドーマからタンパク質 に対するヒト抗体を調製することができる (国際公開公報第 92-03918号、 国 際公開公報第 93-2227号、 国際公開公報第 94·02602号、 国際公開公報第 94- 25585号、 国際公開公報第 96-33735号、 および国際公開公報第 96-34096号を 参照) 。
または、 抗体を産生する免疫化されたリンパ球などの免疫細胞を、 癌遺伝子 によって不死化して、 モノクローナル抗体の調製に使用することができる。 このようにして得られたモノクローナル抗体は、 遺伝子工学的手法を用いて 調製することもできる (例えば、 Borrebaeck, C.A.K.および Larrick, J.W.、
Therapeutic Monoclonal Antibodies, MacMillan Publishers社 (英国、
1990) を参照) 。 例えば抗体をコードする DNAを、 ハイプリドーマまたは抗 体を産生する免疫化されたリンパ球などの免疫細胞からクローニングし、 適切 なベクターに挿入し、 宿主細胞に導入して、 組換え抗体を調製することができ る。 本発明には、 上述のように調製された組換え抗体を利用することもできる。 抗体は、 ポリエチレングリコール (PEG) などの様々な分子との結合によつ て修飾することができる。 このような修飾抗体を本発明に利用することもでき る。 修飾抗体は、 抗体を化学的に修飾することにより得られる。 このような修 飾法は当技術分野で常套的なものである。 抗体を他のタンパク質分子によって 修飾することもできる。 タンパク質分子で修飾された抗体は、 遺伝子工学的に 作成することができる。 すなわち、 抗体遺伝子と修飾タンパク質分子をコード する遺伝子の融合により、 目的とするタンパク質を発現させることができる。 たとえば、 サイト力インあるいはケモカインとの結合によって、 抗体のェフエ クタ一機能の強化が期待される。 実際、 IL-2や GM-CSFとの融合タンパク質に おいて、 抗体のエフェクター機能の強化が確認されている (Human Antibody, 10: 43-49, 2000)。 エフェクター機能を強化するサイトカインあるいはケモカ インとして、 IL-2、 IL 12, GM-CSF, TNF、 あるいは好酸球走化性物質
(RANTES)などを示すことができる。
または本発明の抗体は、 非ヒト抗体由来の可変領域とヒト抗体由来の定常領 域とのキメラ抗体として、 または非ヒト抗体由来の相補性決定領域 (CDR) 、 ヒト抗体由来のフレームワーク領域 (FR) 、 および定常領域を含むヒト化抗 体として得られる。 このような抗体は、 公知の手法で調製することができる。 上述のように得られた抗体を均一になるまで精製することができる。 例えば、 抗体の分離および精製は、 一般的なタンパク質に関して用いられる分離法およ び精製法に従って実施することができる。 例えば抗体は、 ァフィ二テイクロマ トグラフィー、 濾過、 限外濾過、 塩析、 透析、 SDSポリアクリルアミドゲル電
気泳動、 等電点電気泳動などを含むがこれらに限定されないカラムクロマトグ ラフィーを、 適切に選択し組み合わせることによって、 分離および単離するこ と力できる 、 「Antibodies: A Laboratory ManualJ 、 Harlowおよび David Lane i、 Cold Spring Harbor Laboratory、 1988) 。 使用することができる。 使用される例示的なプロテイン Aカラムには、 例えば Hyper D、 POROS, および Sepharose F.F. (Pharmacia) が含まれる。
例示的なクロマトグラフィー (ァフィニティクロマトグラフィーを除く) に は、 例えばイオン交換クロマトグラフィー、 疎水性クロマトグラフィー、 ゲル 濾過、 逆相クロマトグラフィー、 吸着クロマトグラフィーなどがある
( 「Strategies for Protein Purification and Characterization: A Laboratory Course ManualJ 、 Daniel R. Marshakら編、 Cold Spring Harbor
Laboratory Press, 1996) 。 クロマトグラフィーの手順は、 HPLCや FPLCな どの液相クロマトグラフィーにより実施することができる。
例えば、 吸光度の測定、 酵素結合免疫吸着アツセィ法 (ELISA) 、 酵素免疫 アツセィ法 (EIA) 、 放射免疫アツセィ法 (RIA) 、 および/または免疫蛍光法 を用いて、 本発明の抗体の抗原結合活性を測定することができる。 ELISAでは、 本発明の抗体をプレー卜上に固定し、 本発明のタンパク質をプレート上に添加 した後に、 抗体産生細胞の培養上清または精製抗体などの所望の抗体を含む試 料を添加する。 次に、 一次抗体を認識しアルカリホスファターゼなどの酵素で 標識された二次抗体を添加し、 プレートをインキュベートする。 続いて洗浄後 に、 P-ニトロフエニルリン酸などの酵素基質をプレートに添加し、 吸光度を測 定して、 試料の抗原結合活性を評価する。 タンパク質の断片 (C末端または N 末端の断片など) もタンパク質と同様に使用することができる。 BIAcore (Pharmacia) を用いて、 本発明に係る抗体の結合活性を評価することができ る。
更に、 たとえば実施例に示すような方法にしたがって、 抗体のエフェクター 機能を評価することもできる。 たとえば、 エフェクター機能を評価すべき抗体 の存在下で、 FAM3Dを発現する標的細胞とエフェクター細胞とをインキュべ —卜する。 標的細胞の破壊が検出されれば、 その抗体は ADCCを誘導するエフ ェク夕一機能を有していることが確認できる。 エフェクター機能のレベルは、 抗体またはエフェクター細胞のいずれかが無い条件下で観察される標的細胞の 破壊のレベルを対照として比較することができる。 標的細胞には、 FAM3Dを 発現していることが明らかな細胞を利用することができる。 具体的には、 実施 例において FAM3Dの発現が確認された各種の細胞株を用いることができる。 これらの細胞株は、 セルバンクから入手することができる。 そして、 より強力 なエフェクター機能を有するモノクローナル抗体が選択される。
本発明においては、 ヒトあるいは他の動物に FAM3Dに対する抗体を薬剤と して投与する。 本発明において、 抗体を投与するヒト以外の動物としては、 マ ウス、 ラット、 モルモット、 ゥサギ、 ニヮトリ、 ネコ、 ィヌ、 ヒッジ、 ブタ、 ゥシ、 サル、 ヒヒ、 チンパンジーなどを示すことができる。 抗体は、 対象に対 して直接投与することができるほか、 公知の薬学的調製法を用いて投与剤型に 製剤化することができる。 例えば必要に応じて、 水または他の任意の薬学的に 許容される液体との無菌性溶液もしくは懸濁液の注射液の形状で非経口的に投 与することができる。 例えば、 このような化合物は、 薬学的に許容される担体 または溶媒、 具体的には滅菌水、 生理食塩水、 植物油、 乳化剤、 懸濁剤、 界面 活性剤、 安定剤、 香味剤、 賦形剤、 溶剤、 保存剤、 結合剤などと共に、 一般に 容認された薬剤使用に必要な単位用量中に混合することができる。
生理食塩水、 グルコース、 およびアジュバント (D-ソルビトール、 D-マン ノース、 D-マンニトール、 および塩化ナトリウムなど) を含む他の等張性溶液 を、 注射用水溶液として使用することができる。 これらは、 アルコール、 具体 的にはエタノール、 ポリアルコール (例えばプロピレングリコールやポリェチ
レングリコール) 、 非イオン性界面活性剤 (例えばポリソルベート 80 (商標) や HCO-50) ) などの適切な可溶化剤とともに使用することができる。
ゴマ油またはダイズ油を油性溶液として使用することができ、 可溶化剤とし て安息香酸ベンジルまたはべンジルアルコールとともに使用することができ、 また緩衝液 (リン酸緩衝液および酢酸ナトリウム緩衝液など) ;鎮痛薬 (塩酸 プロ力インなど) ;安定剤 (ベンジルアルコール、 フエノールなど) ;ならび に抗酸化剤を用いて製剤化することができる。 調製した注射液は適切なアンプ ルに充填することができる。
本発明において、 FAM3Dに対する抗体は、 例えば動脈内注射、 静脈内注射、 経皮内注射として、 また鼻腔内投与、 経気管支投与、 局所投与、 あるいは筋肉 内投与などの方法で患者に投与することができる。 たとえば肺がん患者に抗体 を全身投与する方法としては、 点滴あるいは注射による血管内投与 (静脈) が 一般的である。 抗体薬を肺がん原発巣もしくは肺内転移巣局所に集積させる方 法としては気管支鏡 (bronchoscopy)を用いた局所注入、 CTガイド下の局所注 入、 もしくは胸腔鏡下の局所注入 (Injection under CT guidance or with thoracoscopy) 等を利用することもできる。 更に、 動脈内力テ一テルをがん細 胞に栄養を供給する動脈付近まで挿入し、 抗体薬等の杭がん剤を局所注入する 方法は、 肺がん原発巣のみならず転移巣の局所コントロール治療にも有効であ る。
用量および投与方法は、 患者の体重および年齢ならびに投与方法に応じて変 化するが、 当業者であればこれらを慣例的に選択することができる。 更に抗体 をコードする DNAを遺伝子治療用のベクタ一に挿入し、 ベクタ一を治療のた めに投与することができる。 用量および投与方法は、 患者の体重、 年齢、 およ び症状に応じて変化するが、 当業者であればこれらを適切に選択することがで さる。
FAM3D抗体は、 生体において、 FAM3D発現細胞に対するエフェクター機
能に基づく細胞障害作用が確認できる量が投与される。 例えば、 症状によって ある程度の差があるものの、 FAM3D抗体の用量は、 1日当たり、 0.1 〜 250 mg/kgである。 通常、 成人 (体重 60kg) 1人当たりの投与量は、 5 mg〜: 17.5 g/day、 好ましくは 5 mg〜: I0 g/day、 より好ましくは 100 mg〜3 g/dayである。 投 与スケジュールとしては、 2日〜 1 0日間隔で、 1〜 1 0回、 たとえば 3〜6 回の投与を試みて経過が観察される。
加えて本発明は、 FAM3Dまたはその免疫学的に活性な断片、 もしくはそれら を発現することができる DNAまたは細胞を有効成分として含有する、 FAM3Dを 発現する細胞に対するエフェクター機能を有する抗体を誘導するための免疫原組 成物を提供する。 あるいは本発明は、 FAM3Dまたはその免疫学的に活性な断片、 もしくはそれらを発現することができる DNAまたは細胞の、 FAM3Dを発現する 細胞に対するエフェクター機能を有する抗体を誘導するための免疫原組成物の製 造における使用に関する。
FAM3D抗体の投与は、 そのエフェクター機能によってがん細胞を障害する。 したがって、 FAM3D抗体を生体内に誘導することができれば、 抗体の投与と同 等の治療効果を達成することができる。 抗原を含む免疫原組成物を投与すれば、 生体内において、 目的とする抗体を誘導することができる。 本発明の免疫原組成 物は、 FAM 3 Dを発現する細胞に対するワクチン療法を可能とする。 したがって、 本発明の免疫原組成物は、 たとえば肺がんの治療のためのワクチン組成物として 有用である。
本発明の免疫原組成物は、 FAM3Dまたはその免疫学的に活性な断片を有効成 分として含有することができる。 FAM3Dの免疫学的に活性な断片とは、 FAM3D を認識し、 かつエフェクター機能を有する抗体を誘導しうる断片を言う。 以下
FAM3Dおよびその免疫学的に活性な断片を、 免疫原タンパク質と記載する。 あ る断片が目的とする抗体を誘導するかどうかは、 実際に動物に免疫し、 誘導され る抗体の活性を確認することによって知ることができる。 抗体の誘導と、 その活
性の確認は、 たとえば実施例に記載したような方法によって実施することができ る。 たとえば、 FAM3Dの 28-172位あるいは 69-208位に相当するアミノ酸配列か らなる断片は、 本発明における免疫原として有用である。
本発明の免疫原組成物は、 有効成分である免疫原タンパク質に加えて、 薬学的 に許容される担体を含む。 更に必要に応じて、 アジュバントを組み合わせること ができる。 アジュバントとしては、 結核死菌、 ジフテリアトキソイド、 あるいは サポニンなどを利用することができる。
あるいは、 免疫原タンパク質をコードする DNA、 もしくは当該 DNAを発現可 能に保持した細胞を、 免疫原組成物として利用することもできる。 目的とする抗 原を発現する DNAを免疫原として用いる、 いわゆる DNAワクチンの手法は公知 である。 DNAワクチンは、 FAM3Dまたはその断片をコードする DNAを適当な発 現ベクターに組み込むことにより、 得ることができる。
ベクターには、 レトロウイルスベクター、 アデノウイルスベクター、 アデノ随 伴ウィルスベクター、 並びにセンダイウィルスベクターなどを利用することがで きる。 更に、 免疫原タンパク質をコードする DNAをプロモーターの下流に機能的 に連結した DNAをネーキッド DNAとして直接細胞に導入し、 発現させることも 可能である。 ネ一キッド DNAは、 リボソームやウィルスエンベロープベクターな どに封入して細胞に導入することができる。
更に、 免疫原タンパク質を発現することができるベクターあるいは DNAを導入 した免疫原タンパク質発現細胞を、 本発明における免疫原組成物として利用する こともできる。 たとえば患者の血液細胞を回収し、 免疫原タンパク質を発現する ことができるベクターで形質転換し、 患者に戻すことができる。 形質転換された 血液細胞は、 患者の体内において免疫原タンパク質を産生し、 目的とする抗体を 誘導する。
免疫原タンパク質をコードする DNA、 あるいはそれによつて形質転換された細 胞を、 本発明の免疫原組成物として利用する場合には、 免疫原タンパク質ととも
に、 その免疫原性を強化するキャリアータンパク質を併用することができる。 あるいは本発明は、 FAM3Dまたはその免疫学的に活性な断片、 もしくはそれ らを発現することができる DNAまたは細胞を投与する工程を含む、 FAM3Dを発 現する細胞に対するエフェクター機能を有する抗体を誘導するための方法を提供 する。 本発明の方法によって、 肺がんなどの FAM3D発現細胞を障害するェフエ クタ一機能を有する抗体が誘導される。 その結果、 肺がんなどの治療効果を得る ことができる。
本発明における免疫原組成物は、 経口、 あるいは非経口的に、 たとえば 0.1〜 250 mg kg/day投与することができる。 非経口的な投与には、 たとえば皮下注射、 あるいは静脈注射などが含まれる。 成人 1人あたりの投与量は、 通常、 5 mg 〜 17.5 g/day, 好ましくは 5 mg〜 10 g/day, より好ましくは 100 mg〜3 g/dayで ある。
なお本明細書において引用された全ての先行技術文献は、 参照として本明細書 に組み入れられる。 図面の簡単な説明
図 1は、 抗 FAM3D抗体を用いた ADCCアツセィの結果を示す図である。 図中、 縦軸は細胞障害活性 (%)、 横軸はエフェクター細胞:標的細胞比 (E:T比)を示す。 細胞障害活性は、 % specific lysis (特異的溶解) = 100 x (experimental cpm - spontaneous cpmノ /(maximum cpm - spontaneous。 111) {こより求め/こ。
experimental cpm: (実験的 cpm) 各条件において測定された上清の計数値 spontaneous cpm: (自発的 cpm) ノ ックグランドの計数値
maximum cpm: (最大計数値) 標識された標的細胞の計数値 発明を実施するための最良の形態
以下、 実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明する。
〔細胞株〕
ヒト肺癌細胞株は、 10¾ゥシ胎仔血清を添加した適切な培地中で、 単層として増 殖させた。 実験に用いた細胞株を表 1に示した。 表 1
更に、 抗 FAM3D抗体による ADCCアツセィに以下の細胞株を用いた。 :
肺腺癌 (ADC) ; LC319、 PC-14, NCI-H1373
肺扁平上皮癌 (SCO ; RERF-LC-AK EBC-K NCI-H2170, NCL-H226
小細胞肺癌 (SCLC) ; DMS114, SBC - 3、 SBC- 5。
〔抗体の作製〕
個々のタンパク質特異的抗体は、 標準の手順に従い、 細菌内で発現させた Hi s夕 グ融合夕ンパク質を免疫原として産生させた。 融合夕ンパク質には夕ンパク質の 一部 (28〜172残基および 69〜208残基) に相当するタンパク質の部分を組み入れ た。
〔フローサイトメトリー解析〕
癌細胞 (1 X 106個) を精製ポリクローナル抗体 (pAb) またはゥサギ IgG (対 照) とともに、 4でで 1時間インキュベートした。 細胞をリン酸緩衝食塩水 (PBS) で洗浄した後、 FITC標識 Alexa Flour 488中で 4 で 30分間インキュベートした。
細胞を PBSで洗浄し、 フローサイトメーター (FACScan、 Bec ton Dickinson) で分 析して ModFiぃノフトウエア (Ver i ty Sof tware House, Inc. ) により解析した。 平 均蛍光強度 (MFI) は、 フローサイトメーター強度の比率 (各タンパク質特異的抗 体による強度/ゥサギ IgGによる強度) として定義した。
抗 FAM3D抗体 BB016を用いて、 LC319、 PC- 14、 NCI- H1373、 RERF-LC-AK EBC_1、 NCI- H2170、 NCL-H226、 DMS114, SBC - 3、 および SBC-5細胞上の FAM3D発現を検査し た。 その結果、 抗 FAM3D抗体 (BB016) は、 ゥサギ IgG (対照) が結合するよりも高 い比率で全細胞に結合した (表 2 ) 。
表 2
a平均蛍光強度
b肺腺癌
c肺扁平上皮癌
d 小細胞肺癌
〔ADCCアツセィ法〕
標的細胞を51 Cr 100pCiとともに 37t:で 1時間標識した後、 これらの細胞を 10 分ごとに混合して懸濁状態を保った。 アツセィ用に添加する前に標的癌細胞を 2回 洗浄し、 その後 96ゥエル U底プレートに播種した (2 x l04細 ^ゥエル) 。 ヒト末 梢血単核細胞 (PMBC) を健常人から採取し、 Ficoll-Paque (Amersham
Biosciences) 密度勾配遠心分離により分離し、 エフェクター細胞として使用した。 様々な E:T比 (50:1、 25:1、 12.5:1、 および 6.25:1) の標的癌細胞 (T)およびェフエ クタ一細胞 (E)を、 抗 FAM3D抗体 BB016 (2pg/ゥエル) または対照抗体ハーセプ
チン (2pg/ゥエル; Roche) とともに、 96ゥエル U底プレートで AIM-V培地
(Life Technologies, Inc.) 200μ1中、 3連で、 37 にて 6時間インキュベートした。
SBC-5細胞に対する抗 FAM3D抗体 (BB016) の ADCC効果は、 上清 (70μ1) の 放射能をガンマカウンターで測定した場合の測定値に基づいて評価した。 式:% 特異的溶解 = 100 χ (実験的 cpm - 自発的 cpm) I (最大 cpm - 自発的 cpm) に 従い、 特異的溶解の割合を算出した。 抗 FAM3D抗体 BB016のみまたはエフェク ター細胞のみと標的細胞をインキュベーションして対照アツセィとした。 ハーセ プチンは、 いくつかの実験において対照として用いた。 抗 FAM3D抗体 BB016自 体による SBC-5細胞に対する直接的な細胞障害は認められなかったが、 BB016は FAM3Dを過剰発現する SBC-5細胞に対して ADCCを誘導した (図 1 ) 。 産業上の利用の可能性
本発明によって、 FAM3Dを発現する細胞を抗体の細胞障害作用によって障害 できることが明らかにされた。 FAM3Dは肺がんで高発現している遺伝子として 本発明者らが同定した遺伝子である。 したがって、 FAM3Dに結合する抗体によ つて、 肺がんの治療が可能である。 実際本発明者らが確認した結果によれば、 肺 癌細胞株において、 FAM3D抗体存在下での ADCC効果による細胞障害が確認され た。