JPWO2020213258A1 - 切削工具 - Google Patents
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Abstract
Description
すくい面と、逃げ面と、上記すくい面と上記逃げ面とを繋ぐ刃先部とを含む切削工具であって、
基材と、上記基材上に設けられているAlTiN層とを備え、
上記AlTiN層は、立方晶型のAlxTi1−xNの結晶粒を含み、
上記AlxTi1−xNにおけるAlの原子比xは、0.7以上0.95未満であり、
上記AlTiN層は、中央部を含み、
上記中央部は、上記基材の側の第一界面から厚み方向に1μm離れた地点を通る上記第一界面に平行な仮想平面Dと、上記基材の側と反対の第二界面から厚み方向に1μm離れた地点を通る上記第二界面に平行な仮想平面Eとに挟まれた領域であり、
上記第一界面は、上記第二界面に対して平行であり、
上記すくい面における上記第二界面の法線及び上記逃げ面における上記第二界面の法線を含む平面で、上記AlTiN層を切断したときの断面に対し、電界放射型走査顕微鏡を用いた電子後方散乱回折像解析によって上記AlxTi1−xNの結晶粒のそれぞれの結晶方位を特定し、これに基づいたカラーマップを作成した場合に、
上記カラーマップにおいて、
上記すくい面における上記中央部は、(111)面の法線方向が上記すくい面における上記第二界面の法線方向に対して±15°以内となる上記AlxTi1−xNの結晶粒の占める面積比率が80%以上であり、
上記刃先部における上記中央部は、(111)面の法線方向が上記刃先部における法線方向に対して±15°以内となる上記AlxTi1−xNの結晶粒の占める面積比率が50%以上80%未満であり、
上記刃先部における法線方向は、上記基材における、上記すくい面と上記刃先部との境界線と、上記基材における、上記逃げ面と上記刃先部との境界線とを含む仮想平面Cの法線方向である。
近年はより高効率な(送り速度が大きい)切削加工が求められており、特に高送り加工に用いられる切削工具の更なる耐クレータ摩耗性の向上(クレータ摩耗の抑制)が期待されている。
本開示によれば、優れた耐クレータ摩耗性を有する切削工具を提供することが可能になる。
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。
すくい面と、逃げ面と、上記すくい面と上記逃げ面とを繋ぐ刃先部とを含む切削工具であって、
基材と、上記基材上に設けられているAlTiN層とを備え、
上記AlTiN層は、立方晶型のAlxTi1−xNの結晶粒を含み、
上記AlxTi1−xNにおけるAlの原子比xは、0.7以上0.95未満であり、
上記AlTiN層は、中央部を含み、
上記中央部は、上記基材の側の第一界面から厚み方向に1μm離れた地点を通る上記第一界面に平行な仮想平面Dと、上記基材の側と反対の第二界面から厚み方向に1μm離れた地点を通る上記第二界面に平行な仮想平面Eとに挟まれた領域であり、
上記第一界面は、上記第二界面に対して平行であり、
上記すくい面における上記第二界面の法線及び上記逃げ面における上記第二界面の法線を含む平面で、上記AlTiN層を切断したときの断面に対し、電界放射型走査顕微鏡を用いた電子後方散乱回折像解析によって上記AlxTi1−xNの結晶粒のそれぞれの結晶方位を特定し、これに基づいたカラーマップを作成した場合に、
上記カラーマップにおいて、
上記すくい面における上記中央部は、(111)面の法線方向が上記すくい面における上記第二界面の法線方向に対して±15°以内となる上記AlxTi1−xNの結晶粒の占める面積比率が80%以上であり、
上記刃先部における上記中央部は、(111)面の法線方向が上記刃先部における法線方向に対して±15°以内となる上記AlxTi1−xNの結晶粒の占める面積比率が50%以上80%未満であり、
上記刃先部における法線方向は、上記基材における、上記すくい面と上記刃先部との境界線と、上記基材における、上記逃げ面と上記刃先部との境界線とを含む仮想平面Cの法線方向である。
上記下地層は、周期表4族元素、5族元素、6族元素及びアルミニウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素と、炭素、窒素、酸素及びホウ素からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素とからなる化合物からなる。このように規定することで、耐クレータ摩耗性に加えて、上記AlTiN層の耐剥離性に優れた切削工具を提供することが可能になる。
上記表面層は、周期表4族元素、5族元素、6族元素及びアルミニウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素と、炭素、窒素、酸素及びホウ素からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素とからなる化合物からなる。このように規定することで、耐クレータ摩耗性に更に優れた切削工具を提供することが可能になる。
以下、本開示の一実施形態(以下「本実施形態」と記す。)について説明する。ただし、本実施形態はこれに限定されるものではない。本明細書において「X〜Y」という形式の表記は、範囲の上限下限(すなわちX以上Y以下)を意味し、Xにおいて単位の記載がなく、Yにおいてのみ単位が記載されている場合、Xの単位とYの単位とは同じである。さらに、本明細書において、例えば「TiN」等のように、構成元素の組成比が限定されていない化学式によって化合物が表された場合には、その化学式は従来公知のあらゆる組成比(元素比)を含むものとする。このとき上記化学式は、化学量論組成のみならず、非化学量論組成も含むものとする。例えば「TiN」の化学式には、化学量論組成「Ti1N1」のみならず、例えば「Ti1N0.8」のような非化学量論組成も含まれる。このことは、「TiN」以外の化合物の記載についても同様である。
本開示に係る切削工具は、
すくい面と、逃げ面と、上記すくい面と上記逃げ面とを繋ぐ刃先部とを含む切削工具であって、
基材と、上記基材上に設けられているAlTiN層とを備え、
上記AlTiN層は、立方晶型のAlxTi1−xNの結晶粒を含み、
上記AlxTi1−xNにおけるAlの原子比xは、0.7以上0.95未満であり、
上記AlTiN層は、中央部を含み、
上記中央部は、上記基材の側の第一界面から厚み方向に1μm離れた地点を通る上記第一界面に平行な仮想平面Dと、上記基材の側と反対の第二界面から厚み方向に1μm離れた地点を通る上記第二界面に平行な仮想平面Eとに挟まれた領域であり、
上記第一界面は、上記第二界面に対して平行であり、
上記すくい面における上記第二界面の法線及び上記逃げ面における上記第二界面の法線を含む平面で、上記AlTiN層を切断したときの断面に対し、電界放射型走査顕微鏡を用いた電子後方散乱回折像解析によって上記AlxTi1−xNの結晶粒のそれぞれの結晶方位を特定し、これに基づいたカラーマップを作成した場合に、
上記カラーマップにおいて、
上記すくい面における上記中央部は、(111)面の法線方向が上記すくい面における上記第二界面の法線方向に対して±15°以内となる上記AlxTi1−xNの結晶粒の占める面積比率が80%以上であり、
上記刃先部における上記中央部は、(111)面の法線方向が上記刃先部における法線方向に対して±15°以内となる上記AlxTi1−xNの結晶粒の占める面積比率が50%以上80%未満であり、
上記刃先部における法線方向は、上記基材における、上記すくい面と上記刃先部との境界線と、上記基材における、上記逃げ面と上記刃先部との境界線とを含む仮想平面Cの法線方向である。
本実施形態において「平行」とは幾何学的な平行のみならず、略平行も含む概念である。
なお、上記基材10上に設けられている上述の各層をまとめて「被膜」と呼ぶ場合がある。すなわち、上記切削工具1は上記基材10上に設けられている被膜14を備え、上記被膜は上記AlTiN層11を含む。また、上記被膜14は、上記下地層12又は上記表面層13を更に含んでいてもよい。
仮想平面Aはすくい面1aを延長した面に相当する。境界線AAはすくい面1aと刃先面1cとの境界線である。仮想平面Bは逃げ面1bを延長した面に相当する。境界線BBは逃げ面1bと刃先面1cとの境界線である。
図3に示す場合は、刃先部1cは円弧面(ホーニング)であり、すくい面1aと逃げ面1bとが刃先部1cを介して繋がっている。
なお図3において、仮想平面Aおよび仮想平面Bは線状に示され、境界線AA、および境界線BBは点状に示される。
図3に示す場合と同様に、図4および図5に示す場合においてもすくい面1aと逃げ面1bとが刃先部1cを介して繋がっており、仮想平面A、境界線AA、仮想平面B、および境界線BBが設定される。
本実施形態の基材は、この種の基材として従来公知のものであればいずれの基材も使用することができる。例えば、上記基材は、超硬合金(例えば、炭化タングステン(WC)基超硬合金、WCの他にCoを含む超硬合金、WCの他にCr、Ti、Ta、Nb等の炭窒化物を添加した超硬合金等)、サーメット(TiC、TiN、TiCN等を主成分とするもの)、高速度鋼、セラミックス(炭化チタン、炭化珪素、窒化珪素、窒化アルミニウム、酸化アルミニウム等)、立方晶型窒化ホウ素焼結体(cBN焼結体)及びダイヤモンド焼結体からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。
本実施形態に係る被膜は、上記基材上に設けられたAlTiN層を含む。「被膜」は、上記基材の少なくとも一部(例えば、切削加工時に切り屑と接するすくい面、被削材と接する逃げ面等)を被覆することで、切削工具における耐欠損性、耐摩耗性(耐クレータ摩耗性、耐逃げ面摩耗性等)、耐剥離性等の諸特性を向上させる作用を有するものである。上記被膜は、上記基材の一部に限らず上記基材の全面を被覆することが好ましい。しかしながら、上記基材の一部が上記被膜で被覆されていなかったり被膜の構成が部分的に異なっていたりしていたとしても本実施形態の範囲を逸脱するものではない。
本実施形態のAlTiN層は、立方晶型のAlxTi1−xNの結晶粒(以下、単に「結晶粒」という場合がある。)を含む。すなわち、上記AlTiN層は、多結晶のAlxTi1−xNを含む層である。本実施形態において、「AlxTi1−xNの結晶粒」とは、AlN(窒化アルミニウム)からなる層(以下、「AlN層」という場合がある。)と、TiN(窒化チタン)からなる層(以下、「TiN層」という場合がある。)とが交互に積層されている複合結晶の結晶粒を意味する。本実施形態において、上記AlN層は、その一部においてAlがTiに置換されているものも含まれる。また、上記TiN層は、その一部においてTiがAlに置換されているものも含まれる。立方晶型のAlxTi1−xNの結晶粒の場合、AlN層及びTiN層は共にFCC構造(Face−Centered Cubic構造)を有している。後述する六方晶型のAlxTi1−xNの結晶粒の場合、AlN層及びTiN層は共にHCP構造(Hexagonal Close−Packed構造)を有している。上記AlxTi1−xNにおけるAl(アルミニウム)の原子比xは、0.7以上0.95未満であり、0.8以上0.9以下であることが好ましい。上記xは、上述の断面サンプルにあらわれたAlTiN層における結晶粒に対して走査型電子顕微鏡(SEM)又はTEMに付帯のエネルギー分散型X線分析(EDX:Energy Dispersive X−ray spectroscopy)装置を用いて分析することにより、求めることが可能である。このときに求められるAlの原子比xは、AlxTi1−xNの結晶粒全体の平均として求められる値である。具体的には、上記断面サンプルのAlTiN層における任意の10点それぞれを測定して上記xの値を求め、求められた10点の値の平均値を上記AlxTi1−xNにおけるxとする。ここで当該「任意の10点」は、上記AlTiN層の互いに異なる結晶粒から選択するものとする。上記EDX装置としては、例えば、日本電子株式会社製のJED−2300(商品名)が挙げられる。なお、Alに限らず、Ti、Nの原子比も上述の方法で算出することが可能である。
本実施形態の一側面において「基材上に設けられている」状態は、「基材上に配置されている」状態と把握することもできる。すなわち、上記AlTiN層は、上記基材の直上に配置されていてもよいし、後述する下地層等の他の層を介して上記基材の上に配置されていてもよい、と把握することもできる。
上記AlTiN層は、その上に表面層等の他の層が設けられていてもよい。また、上記AlTiN層は、上記被膜の最表面であってもよい。
上記カラーマップにおいて、
上記すくい面における上記中央部は、(111)面の法線方向が上記すくい面における上記第二界面の法線方向に対して±15°以内となる上記AlxTi1−xNの結晶粒(以下、「(111)面配向性結晶粒」とも記す。)の占める面積比率が80%以上であり、
上記刃先部における上記中央部は、(111)面の法線方向が上記刃先部における法線方向に対して±15°以内となる上記AlxTi1−xNの結晶粒の占める面積比率が50%以上80%未満である。
また、上記基材の上記刃先部における法線方向は、上記基材における、上記すくい面と上記刃先部との境界線と、上記基材における、上記逃げ面と上記刃先部との境界線とを含む仮想平面Cの法線方向である。
本実施形態の一側面において、上記逃げ面における上記中央部は、(111)面の法線方向が上記逃げ面における上記第二界面の法線方向に対して±15°以内となる上記AlxTi1−xNの結晶粒の占める面積比率が50%以上80%未満であることが好ましい。
加速電圧:6kV
照射角度:AlTiN層の第二界面11bの法線方向(すなわち切断面におけるAlTiN層の厚み方向に平行となる直線方向)から0°
照射時間:8時間。
特性X線: Cu−Kα(波長1.54Å)
管電圧: 45kV
管電流: 40mA
フィルター: 多層ミラー
光学系: 集中法
X線回折法: θ−2θ法。
上記六方晶型のAlxTi1−xNの含有割合(体積%)=Ih/(Ih+Ic)×100
本実施形態において、AlTiN層の厚みが2.5μm以上20μm以下であることが好ましく、3μm以上20μm以下であることがより好ましく、5μm以上15μm以下であることが更に好ましい。これにより、上記のような優れた効果を発揮することができる。
上記被膜は、上記基材と上記AlTiN層との間に設けられている下地層を更に含み、上記下地層は、周期表4族元素、5族元素、6族元素及びアルミニウム(Al)からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素と、炭素、窒素、酸素及びホウ素からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素とからなる化合物からなることが好ましい。周期表4族元素としては、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)等が挙げられる。周期表5族元素としては、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)等が挙げられる。周期表6族元素としては、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)等が挙げられる。上記下地層は、TiCNで示される化合物からなることが好ましい。このような下地層は、上記AlTiN層に対して強い密着力を発揮する。その結果、被膜の耐剥離性が向上する。
上記被膜は、上記AlTiN層上に設けられている表面層を更に含み、
上記表面層は、周期表4族元素、5族元素、6族元素及びアルミニウム(Al)からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素と、炭素、窒素、酸素及びホウ素からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素とからなる化合物からなることが好ましい。
本実施形態に係る切削工具が奏する効果を損なわない範囲において、上記被膜は、他の層を更に含んでいてもよい。上記他の層は、上記AlTiN層、上記下地層、又は上記表面層とは組成が異なっていてもよいし、同じであってもよい。他の層に含まれる化合物としては、例えば、TiN、TiCN、TiBN及びAl2O3等を挙げることができる。なお、上記他の層は、その積層の順も特に限定されない。例えば、上記他の層としては、上記下地層と上記AlTiN層との間に設けられている中間層が挙げられる。上記他の層の厚みは、本実施形態の効果を損なわない範囲において、特に制限はないが例えば、0.1μm以上20μm以下が挙げられる。
本実施形態に係る切削工具の製造方法は、
上記基材を準備する第1工程(以下、単に「第1工程」という場合がある。)と、
化学気相蒸着法を用いて、上記基材上に上記AlTiN層を形成する第2工程(以下、単に「第2工程」という場合がある。)と、
上記AlTiN層をブラスト処理する第3工程(以下、単に「第3工程」という場合がある。)と、を含み、
上記第2工程は、アルミニウムのハロゲン化物ガス及びチタンのハロゲン化物ガスを含む第一ガスと、アルミニウムのハロゲン化物ガス、チタンのハロゲン化物ガス及びアンモニアガスを含む第二ガスと、アンモニウムガスを含む第三ガスとのそれぞれを、650℃以上900℃以下且つ0.5kPa以上30kPa以下の雰囲気において上記基材上に噴出することを含む。
第1工程では基材を準備する。例えば、基材として超硬合金基材が準備される。超硬合金基材は、市販品を用いてもよく、一般的な粉末冶金法で製造してもよい。一般的な粉末冶金法で製造する場合、例えば、ボールミル等によってWC粉末とCo粉末等とを混合して混合粉末を得る。該混合粉末を乾燥した後、所定の形状(例えば、SEET13T3AGSN−G等)に成形して成形体を得る。さらに該成形体を焼結することにより、WC−Co系超硬合金(焼結体)を得る。次いで該焼結体に対して、ホーニング処理等の所定の刃先加工を施すことにより、WC−Co系超硬合金からなる基材を製造することができる。第1工程では、上記以外の基材であっても、この種の基材として従来公知の基材であればいずれも準備可能である。
第2工程では、アルミニウムのハロゲン化物ガス及びチタンのハロゲン化物ガスを含む第一ガスと、アルミニウムのハロゲン化物ガス、チタンのハロゲン化物ガス及びアンモニアガスを含む第二ガスと、アンモニアガスを含む第三ガスとのそれぞれを、650℃以上900℃以下且つ0.5kPa以上30kPa以下の雰囲気において上記基材に噴出する。この工程は、例えば以下に説明するCVD装置を用いて行うことができる。
図10に、本実施形態の切削工具の製造に用いられるCVD装置の一例の模式的な断面図を示す。図10に示すように、CVD装置50は、基材10を設置するための基材セット治具52の複数と、基材セット治具52を内包する耐熱合金鋼製の反応容器53とを備えている。また、反応容器53の周囲には、反応容器53内の温度を制御するための調温装置54が設けられている。本実施形態において、基材10は、例えば、ガス導入管58から放射状に伸びる金属串棒(図示せず)に当該基材10の貫通孔を通し、すくい面1aが上記ガス導入管58の方向を向くように設置することが好ましい。このように設置することで、すくい面において(111)面配向性結晶粒が多くなるように成膜することができる。
上記第一ガスは、アルミニウムのハロゲン化物ガス及びチタンのハロゲン化物ガスを含む。
上記第二ガスは、アルミニウムのハロゲン化物ガス、チタンのハロゲン化物ガス及びアンモニアガスを含む。アルミニウムのハロゲン化物ガス及びチタンのハロゲン化物ガスは、上記(第一ガス)の欄において例示されたガスを用いることができる。このとき、上記第一ガスに用いられたアルミニウムのハロゲン化物ガス及びチタンのハロゲン化物ガスそれぞれと、第二ガスに用いられたアルミニウムのハロゲン化物ガス及びチタンのハロゲン化物ガスそれぞれとは、同じであってもよいし、異なっていてもよい。
上記第三ガスは、アンモニアガスを含む。また上記第三ガスは、水素ガスを含んでもよいし、アルゴンガス等の不活性ガスを含んでもよい。
本工程では、上記被膜にブラスト処理を実施する。上記ブラスト処理の条件としては例えば、以下の条件が挙げられる。ブラスト処理を実施することで上記被膜に圧縮残留応力を付与することができる。
ブラスト処理の条件
メディア:ジルコニア粒子、500g
投射角度:45°
投射距離:50mm
投射時間:3秒
本実施形態に係る製造方法では、上述した工程の他にも、本実施形態の効果を損なわない範囲で追加工程を適宜行ってもよい。上記追加工程としては例えば、上記基材と上記AlTiN層との間に下地層を形成する工程、及び上記AlTiN層上に表面層を形成する工程等が挙げられる。下地層及び表面層を形成する方法としては、特に制限はなく、例えば、CVD法等によって形成する方法が挙げられる。なお、上記AlTiN層上に表面層を形成する工程を行った場合、上記第3工程は、当該表面層を形成した後に行う。
(付記1)
すくい面と、逃げ面と、前記すくい面と前記逃げ面とを繋ぐ刃先部とを含む表面被覆切削工具であって、
基材と、前記基材上に設けられているAlTiN層とを備え、
前記AlTiN層は、立方晶型のAlxTi1−xNの結晶粒を含み、
前記AlxTi1−xNにおけるAlの原子比xは、0.7以上0.95未満であり、
前記AlTiN層は、中央部を含み、
前記中央部は、前記基材の側の第一界面から厚み方向に1μm離れた地点を通る前記第一界面に平行な仮想平面Dと、前記基材の側と反対の第二界面から厚み方向に1μm離れた地点を通る前記第二界面に平行な仮想平面Eとに挟まれた領域であり、
前記第一界面は、前記第二界面に対して平行であり、
前記すくい面における前記第二界面の法線及び前記逃げ面における前記第二界面の法線を含む平面で、前記AlTiN層を切断したときの断面に対し、電界放射型走査顕微鏡を用いた電子後方散乱回折像解析によって前記AlxTi1−xNの結晶粒のそれぞれの結晶方位を特定し、これに基づいたカラーマップを作成した場合に、
前記カラーマップにおいて、
前記すくい面における前記中央部は、(111)面の法線方向が前記すくい面における前記第二界面の法線方向に対して±15°以内となる前記AlxTi1−xNの結晶粒の占める面積比率が80%以上であり、
前記刃先部における前記中央部は、(111)面の法線方向が前記刃先部における法線方向に対して±15°以内となる前記AlxTi1−xNの結晶粒の占める面積比率が50%以上80%未満であり、
前記刃先部における法線方向は、前記基材における、前記すくい面と前記刃先部との境界線と、前記基材における、前記逃げ面と前記刃先部との境界線とを含む仮想平面Cの法線方向である、表面被覆切削工具。
(付記2)
前記AlTiN層は、その厚みが2.5μm以上20μm以下である、付記1に記載の表面被覆切削工具。
(付記3)
前記基材と前記AlTiN層との間に設けられている下地層を更に含み、
前記下地層は、周期表4族元素、5族元素、6族元素及びAlからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素と、炭素、窒素、酸素及びホウ素からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素とからなる化合物からなる、付記1又は付記2に記載の表面被覆切削工具。
(付記4)
前記AlTiN層上に設けられている表面層を更に含み、
前記表面層は、周期表4族元素、5族元素、6族元素及びAlからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素と、炭素、窒素、酸素及びホウ素からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素とからなる化合物からなる、付記1から付記3のいずれかに記載の表面被覆切削工具。
<基材の準備>
まず、被膜を形成させる対象となる基材として、以下の表1に示す超硬合金からなる基材(以下、単に「基材」という場合がある。)を準備した(第1工程)。具体的には、まず、表1に記載の配合組成(質量%)からなる原料粉末を均一に混合した。表1中の「残り」とは、WCが配合組成(質量%)の残部を占めることを示している。
上記基材の表面上に、表8に示される下地層、AlTiN層及び表面層を形成することによって、上記基材の表面上に被膜を作製した。被膜の作製には、主にCVD法を用いた。以下、被膜を構成する各層の作製方法について説明する。
表2に記載の成膜条件のもとで、表3〜5に記載の組成をそれぞれ有する第一ガス、第二ガス及び第三ガスをこの順で繰り返して上記基材の表面上に噴出してAlTiN層を作製した(第2工程)。このとき、上記基材は、ガス導入管から放射状に伸びる金属串棒に当該基材の貫通孔を通し、すくい面が上記ガス導入管の方向を向くように設置した。なお、上記基材の表面に下地層を設けた場合は、当該下地層の表面上にAlTiN層を作製した。
表7に記載の成膜条件のもとで、表7に記載の組成を有する反応ガスを基材の表面上に噴出して下地層を作製した。表7に記載の成膜条件のもとで、表7に記載の組成を有する反応ガスをAlTiN層の表面上に噴出して表面層を作製した。
以下の条件によって、基材の表面に被覆された被膜に対してブラスト処理を行った(第3工程)。
ブラスト処理の条件
メディア:ジルコニア粒子、500g
投射角度:45°
投射距離:50mm
投射時間:3秒
上述のようにして作製した試料の切削工具を用いて、以下のように、切削工具の各特性を評価した。ここで、試料番号1〜7の切削工具は、実施例に相当する。試料番号8〜10の切削工具は、比較例に相当する。
被膜、及び当該被膜を構成する下地層、AlTiN層及び表面層の厚みは、走査透過型電子顕微鏡(STEM)(日本電子株式会社製、商品名:JEM−2100F)を用いて、基材の表面の法線方向に平行な断面サンプルにおける任意の10点を各層ごとに測定し、測定された10点の厚みの平均値をとることで求めた。結果を表8に示す。「表面層」の欄における「なし」との表記は、当該表面層が被膜中に存在しないことを示す。また、「AlTiN層」の欄における「[1](5.0)」等の表記は、AlTiN層が表6の識別記号[1]で示される構成を有し、厚みが5.0μmであることを示す。表8中、「TiCN(1.0)」等の表記は、該当する層が厚み1.0μmのTiCNの層であることを示す。また、1つの欄内に2つの化合物が記載されている場合(例えば、「Al2O3(0.2)−TiN(0.1)」等の場合)は、左側の化合物(Al2O3(0.2))が基材の表面に近い側に位置する層であることを意味し、右側の化合物(TiN(0.1))が基材の表面から遠い側に位置する層であることを意味している。さらに「[Al2O3(0.2)−TiN(0.1)]x3」等の表記は、「Al2O3(0.2)−TiN(0.1)」で示される層が3回繰り返して積層されていることを意味している。
まず、被膜におけるAlTiN層の表面(又は界面)に垂直な断面が得られるように上記切削工具を切断した。その後、その切断面を耐水研磨紙(株式会社ノリタケコーテッドアブレーシブ(NCA)製、商品名:WATERPROOF PAPER、#400、#800、#1500)で研磨を実施し、AlTiN層の加工面を作製した。引き続き、上記加工面をArイオンによるイオンミーリング処理によりさらに平滑化を行った。イオンミーリング処理の条件は以下の通りである。
加速電圧:6kV
照射角度:AlTiN層の第二界面の法線方向(すなわち切断面におけるAlTiN層の厚み方向に平行となる直線方向)から0°
照射時間:6時間
(切削評価:連続加工試験)
上述のようにして作製した試料(試料番号1〜10)の切削工具を用いて、以下の切削条件により、逃げ面の摩耗量が0.25mmに達したとき又は刃先部に欠損が生じたときの切削距離(m)を測定した。また、切削後の損傷形態(最終損傷形態)を観察した。その結果を表9に示す。切削距離が長い程、耐逃げ面摩耗性に優れる切削工具として評価することができる。切削後の損傷形態でクレータ摩耗が観察されなければ、耐クレータ摩耗性に優れる切削工具として評価することができる。
連続加工の試験条件
被削材 :S45C(ブロック材、W300×L50)
切削速度:200m/min
送り :0.4mm/t
切込み量 :2mm
切り込み幅:60mm
切削油 :乾式
Claims (4)
- すくい面と、逃げ面と、前記すくい面と前記逃げ面とを繋ぐ刃先部とを含む切削工具であって、
基材と、前記基材上に設けられているAlTiN層とを備え、
前記AlTiN層は、立方晶型のAlxTi1−xNの結晶粒を含み、
前記AlxTi1−xNにおけるAlの原子比xは、0.7以上0.95未満であり、
前記AlTiN層は、中央部を含み、
前記中央部は、前記基材の側の第一界面から厚み方向に1μm離れた地点を通る前記第一界面に平行な仮想平面Dと、前記基材の側と反対の第二界面から厚み方向に1μm離れた地点を通る前記第二界面に平行な仮想平面Eとに挟まれた領域であり、
前記第一界面は、前記第二界面に対して平行であり、
前記すくい面における前記第二界面の法線及び前記逃げ面における前記第二界面の法線を含む平面で、前記AlTiN層を切断したときの断面に対し、電界放射型走査顕微鏡を用いた電子後方散乱回折像解析によって前記AlxTi1−xNの結晶粒のそれぞれの結晶方位を特定し、これに基づいたカラーマップを作成した場合に、
前記カラーマップにおいて、
前記すくい面における前記中央部は、(111)面の法線方向が前記すくい面における前記第二界面の法線方向に対して±15°以内となる前記AlxTi1−xNの結晶粒の占める面積比率が80%以上であり、
前記刃先部における前記中央部は、(111)面の法線方向が前記刃先部における法線方向に対して±15°以内となる前記AlxTi1−xNの結晶粒の占める面積比率が50%以上80%未満であり、
前記刃先部における法線方向は、前記基材における、前記すくい面と前記刃先部との境界線と、前記基材における、前記逃げ面と前記刃先部との境界線とを含む仮想平面Cの法線方向である、切削工具。 - 前記AlTiN層の厚みが2.5μm以上20μm以下である、請求項1に記載の切削工具。
- 前記基材と前記AlTiN層との間に設けられている下地層を更に含み、
前記下地層は、周期表4族元素、5族元素、6族元素及びアルミニウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素と、炭素、窒素、酸素及びホウ素からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素とからなる化合物からなる、請求項1又は請求項2に記載の切削工具。 - 前記AlTiN層上に設けられている表面層を更に含み、
前記表面層は、周期表4族元素、5族元素、6族元素及びアルミニウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素と、炭素、窒素、酸素及びホウ素からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素とからなる化合物からなる、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の切削工具。
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