JPWO2020090559A1 - ハミルトニアンの励起状態を求めるための方法及びそのためのプログラム - Google Patents

ハミルトニアンの励起状態を求めるための方法及びそのためのプログラム Download PDF

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Abstract

古典コンピュータは、量子ビット数nの第1の量子回路U(θ)と、一組のk+1個の初期状態であって、量子ビット数nの互いに直交する初期状態とを決定する。そして、古典コンピュータは、量子計算を量子コンピュータに実行させ、計算結果を受信して記憶する。そして、各初期状態について、計算結果を統計処理してハミルトニアンHの期待値を算出し、一組の初期状態について、期待値の和を算出する。古典コンピュータは、期待値の和が収束するまでθを変更して量子計算を繰り返し、最適値θ*を記憶する。

Description

開示の技術は、ハミルトニアンの励起状態を求めるための方法及びそのためのプログラムに関する。
量子コンピュータは、今後100から150量子ビットを超えていくことでスーパーコンピュータによるシミュレーションでは困難ないし不可能であったシミュレーションを可能とするものとして大きな期待を集めている。
量子コンピュータの実用化に向けて、量子コンピュータのハードウェアの研究が進むとともに、かかるハードウェアを用いて量子計算を実行するためのアルゴリズムの研究も進んでいる。
アルゴリズムの研究は、シミュレーションによって解きたい問題をハミルトニアンとして表現し、その基底状態を求めることから始まり、現在では基底状態のみならず励起状態を求めることが試みられている。励起状態は、これに限られないが一例として、化学反応の過程を理解すること、発光(燐光・蛍光等)現象の分析、発光現象を有する分子の設計等に有益である。
たとえば、O. Higgott, D. Wang, and S. Brierley, "Variational Quantum Computation of Excited States ", (2018), arXiv:1805.08138には、量子コンピュータと古典コンピュータを組み合わせたハイブリッドシステムにおいて、ハミルトニアンの基底状態を求める手法として知られるVQE(Variational Quantum Eigensolver)を拡張して励起状態を求める手法が開示されている。
しかしながら、上記文献に記載の手法では多大な計算時間及び量子ビット数を要する。量子計算における計算の効率化が望まれている。
開示の技術は、このような問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、量子コンピュータと古典コンピュータとを備えるハイブリッドシステムにおいてハミルトニアンの励起状態を求めるための方法及びそのためのプログラム並びに当該ハイブリッドシステムを構成するための古典コンピュータにおいて、計算の効率化を図ることにある。
このような目的を達成するために、開示の技術の第1の態様は、ハミルトニアンの励起状態を求めるための方法であって、量子ビット数n(nは正の整数)のハミルトニアンHに対する一組の互いに直交するk+1個(kは0以上2n−1以下の整数)の初期状態を決定するステップと、量子ビット数nのユニタリー性を有する第1の量子回路U(θ)を決定するステップと、第1のパラメータθを決定して第1の量子回路U(θ)を量子コンピュータが有する量子ビット群に対して実行するための量子計算情報を生成するステップと、前記量子計算情報に基づく前記一組の初期状態のそれぞれに対する量子計算の計算結果を記憶するステップと、各初期状態に対する計算結果に基づいて式(1)に示す前記ハミルトニアンHの期待値の和L(θ)を算出するステップと、前記和が最小値に近づく方向に前記第1のパラメータθを変更して収束条件を満たした値θを記憶するステップとを含むことを特徴とする。
Figure 2020090559

ここで、|ψ(θ)>はj番目の初期状態に対して第1の量子回路(θ)を実行した後の量子状態であり、wは正の係数である。
また、開示の技術の第2の態様は、第1の態様において、係数wのいずれかw(sは0以上k以下の整数)は、他の係数w(j≠s)の値よりも小さいことを特徴とする。
また、開示の技術の第3の態様は、第2の態様において、量子状態|ψ(θ)>に関する情報を第k励起状態に関する解情報として送信するステップをさらに含むことを特徴とする。
また、開示の技術の第4の態様は、第1の態様において、係数wのいずれも同一の値であることを特徴とする。
また、開示の技術の第5の態様は、第4の態様において、前記一組の初期状態を混ぜ合わせる第2の量子回路V(φ)を決定するステップと、第2のパラメータφを決定して、第1の量子回路U(θ)及び第2の量子回路V(φ)を量子コンピュータが有する量子ビット群に対して実行するための量子計算情報を生成するステップと、前記量子計算情報に基づく前記一組の初期状態のうちの任意のs番目(sは0以上k以下の整数)の初期状態に対する量子計算の計算結果を記憶するステップと、前記s番目の初期状態に対する計算結果に基づいて式(2)に示す前記ハミルトニアンHの期待値L(φ)を算出するステップと、前記期待値が最大値に近づく方向に前記第2のパラメータφを変更して収束条件を満たした値φを記憶するステップとを含むことを特徴とする。
Figure 2020090559

また、開示の技術の第6の態様は、第5の態様において、前記第2の量子回路V(φ)は、k+1個の前記一組の初期状態にのみ作用することを特徴とする。
また、開示の技術の第7の態様は、第5又は第6の態様において、|ψ(φ)>をj番目の初期状態に対して第2の量子回路(φ)を実行した後の量子状態として、|ψ(φ)>に関する情報を第k励起状態に関する解情報として送信するステップをさらに含むことを特徴とする。
また、開示の技術の第8の態様は、第1から第7のいずれかの態様において、前記方法は、前記量子コンピュータとコンピュータネットワークを介して接続された古典コンピュータが実行することを特徴とする。
また、開示の技術の第9の態様は、古典コンピュータに、ハミルトニアンの励起状態を求めるための方法を実行させるためのプログラムであって、前記方法は、前記古典コンピュータが、量子ビット数n(nは正の整数)のハミルトニアンHに対する一組の互いに直交するk+1個(kは0以上2n−1以下の整数)の初期状態を決定するステップと、量子ビット数nのユニタリー性を有する第1の量子回路U(θ)を決定するステップと、第1のパラメータθを決定して第1の量子回路U(θ)を量子コンピュータが有する量子ビット群に対して実行するための量子計算情報を生成するステップと、前記量子計算情報に基づく前記一組の初期状態のそれぞれに対する量子計算の計算結果を記憶するステップと、各初期状態に対する計算結果に基づいて式(1)に示す前記ハミルトニアンHの期待値の和L(θ)を算出するステップと、前記和が最小値に近づく方向に前記第1のパラメータθを変更して収束条件を満たした値θを記憶するステップとを含むことを特徴とする。
Figure 2020090559

ここで、|ψ(θ)>はj番目の初期状態に対して第1の量子回路(θ)を実行した後の量子状態であり、wは正の係数である。
また、開示の技術の第10の態様は、ハミルトニアンの励起状態を求めるための古典コンピュータであって、量子ビット数n(nは正の整数)のハミルトニアンHに対する一組の互いに直交するk+1個(kは0以上2n−1以下の整数)の初期状態を決定し、量子ビット数nのユニタリー性を有する第1の量子回路U(θ)を決定し、第1のパラメータθを決定して第1の量子回路U(θ)を量子コンピュータが有する量子ビット群に対して実行するための量子計算情報を生成し、前記量子計算情報に基づく前記一組の初期状態のそれぞれに対する量子計算の計算結果を記憶し、各初期状態に対する計算結果に基づいて式(1)に示す前記ハミルトニアンHの期待値の和L(θ)を算出し、前記和が最小値に近づく方向に前記第1のパラメータθを変更して収束条件を満たした値θを記憶することを特徴とする。
Figure 2020090559

ここで、|ψ(θ)>はj番目の初期状態に対して第1の量子回路(θ)を実行
した後の量子状態であり、wは正の係数である。
開示の技術の第11の態様は、開示の技術の第1の態様において、 グリーン関数のスペクトル関数の虚部A(ω)(qは波数、ωは周波数)に出現する、ハミルトニアンHの基底状態のエネルギーEと、ハミルトニアンHのn番目の固有値Eと、<E|c|G>(|E>はハミルトニアンHのn番目の固有状態、|G>はハミルトニアンHの基底状態、cは電子の演算子)と、<E|c |G>(†はエルミート共役)とを算出する際に、前記収束条件を満たした値θに基づいて、以下の式(3)を計算することにより、ハミルトニアンHの基底状態のエネルギーEと、ハミルトニアンHの任意のj番目の固有値Eとを算出するステップと、電子の演算子cを、電子の演算子の実部と電子の演算子の虚部とに分けるステップと、前記収束条件を満たした値θに基づいて、以下の式(4)における左辺の<ψ(θ)|A|ψ(θ)>のうちの、<ψ(θ)|にハミルトニアンHのn番目の固有状態<E|を代入し、|ψ(θ)>にハミルトニアンHの基底状態|G>を代入し、ハミルトニアンHの任意のi番目の固有値EをハミルトニアンHのn番目の固有値Eとして設定し、ハミルトニアンHの任意のj番目の固有値EをハミルトニアンHの基底状態のエネルギーEとして設定し、任意の変数Aに電子の演算子の実部と電子の演算子の虚部とを代入することにより、<E|c|G>と<E|c |G>を算出するステップと、ハミルトニアンHの基底状態のエネルギーEと、ハミルトニアンHの任意のj番目の固有値Eのjをnとすることにより得られるハミルトニアンHのn番目の固有値Eと、<E|c|G>と、<E|c |G>とに基づいて、以下の式(5)を計算することにより、グリーン関数のスペクトル関数の虚部A(ω)を計算するステップと、を更に含む方法である。
Figure 2020090559

(3)
Figure 2020090559

(4)

Figure 2020090559


(5)
ここで、|ψ+x ij(θ)>、|ψ+y ij(θ)>は以下のように定義される。なお、添え字とは異なる箇所に出現する記号「i」は虚数単位を表す。
Figure 2020090559

Figure 2020090559
開示の技術の第12の態様は、ハミルトニアンの励起状態を求めるための量子コンピュータであって、量子ビット数n(nは正の整数)のハミルトニアンHに対する一組の互いに直交するk+1個(kは0以上2n−1以下の整数)の初期状態と、量子ビット数nのユニタリー性を有する第1の量子回路U(θ)と、第1のパラメータθと、を含む量子計算情報に基づいて、第1の量子回路U(θ)を量子ビット群に対して実行し、前記量子計算情報に基づく前記一組の初期状態のそれぞれに対する量子計算の計算結果を出力することを特徴とする量子コンピュータである。
開示の技術の第13の態様は、本開示の古典コンピュータと本開示の量子コンピュータとを備える、ハミルトニアンの励起状態を求めるためのハイブリッドシステムである。
開示の技術の一態様によれば、ハミルトニアンHの量子ビット数n及び求めるべきエネルギーの励起準位kに応じて決定される一組のk+1個の初期状態に直交性を要求することから導かれる性質を用いることによって、量子コンピュータと古典コンピュータとを備えるハイブリッドシステムにおいてハミルトニアンの励起状態を求めるための方法及びそのためのプログラム並びに当該ハイブリッドシステムを構成するための古典コンピュータにおいて、計算の効率化が可能となる。
開示の技術の第1の実施形態にかかるハイブリッドシステムを示す図である。 開示の技術の第1の実施形態にかかる励起状態を特定するための方法の流れ図である。 開示の技術の第2の実施形態にかかる励起状態を特定するための方法の流れ図である。 開示の技術の第2の実施形態に第2の量子回路V(φ)の一例を模式的に示す図である。 図4に示す第1の量子回路U(θ)及び第2の量子回路V(φ)の一例を示す図である。 第1のパラメータθの最適化プロセスを示す図である。 第2のパラメータφの最適化プロセスを示す図である。
以下、図面を参照して開示の技術の実施形態を詳細に説明する。
(第1の実施形態)
図1に、開示の技術の第1の実施形態にかかるハイブリッドシステムを示す。ハイブリッドシステム100は、古典コンピュータ110と量子コンピュータ120とを備え、古典コンピュータ110と量子コンピュータ120とは、一例としてIPネットワークなどのコンピュータネットワークを介して接続されている。両者は、単一の組織が管理する場合も考えられるが、別個の組織により管理されており、古典コンピュータ110からの要求に応じて量子コンピュータ120が所要の量子計算を行い、当該量子計算の計算結果を古典コンピュータ110に返すことで全体として計算が進んでいく場合を例に以下説明を行う。
古典コンピュータ110は、通信インターフェースなどの通信部111と、プロセッサ、CPU等の処理部112と、メモリ、ハードディスク等の記憶装置又は記憶媒体を含む記憶部113とを備え、各処理を行うためのプログラムを実行することによって構成することができ、古典コンピュータ110は1又は複数の装置ないしサーバを含むことがある。また、当該プログラムは1又は複数のプログラムを含むことがあり、また、コンピュータ読み取り可能な記憶媒体に記録して非一過性のプログラムプロダクトとすることができる。
まず、古典コンピュータ110は、量子コンピューティングによって解きたい問題に関する問題情報をユーザーのユーザー端末130より受信する(S201)。問題の例としては、分子、特に芳香環を有するような発光分子の第k励起状態のエネルギー(kは1以上の整数)、触媒が標的分子に近接した際の第k励起状態のエネルギーなどが挙げられる。また、ユーザーにおいてハミルトニアンとして当該問題を表現できる場合には、ハミルトニアンを問題情報として受信してもよい。ユーザー端末130は、IPネットワークなどのコンピュータネットワークを介して古典コンピュータ110又は古典コンピュータ110がアクセス可能な記憶媒体又は記憶装置に問題情報を送信してもよいが、記憶媒体又は記憶装置に記憶して古典コンピュータ110の運営者に渡し、当該運営者が古典コンピュータ110に当該記憶媒体又は記憶装置を用いて問題情報を入力することも考えられる。
古典コンピュータ110は、問題情報を量子計算可能なハミルトニアンHへの変換を必要に応じて行う。古典コンピュータ110が利用可能な量子コンピュータ120の量子ビット数がN(Nは整数)である場合、一例として、古典コンピュータ110が処理可能なハミルトニアンHの量子ビット数nはN以下とすることが考えられるが、ハミルトニアンHの量子ビット数nは必ずしも量子コンピュータ120の量子ビット数N以下に制約されるものではなくNを超える値を取ることも考えられる。解きたい問題がハミルトニアンとして与えられている場合においても、そのハミルトニアンをJordan−Wigner変換等によって量子コンピュータの扱いやすい形式に変換する必要がある場合や、解きたい問題がハミルトニアンとして与えられておらずハミルトニアンとしての表現に変換を行う必要がある場合がある。また、古典コンピュータ110は、ユーザー端末130から求めたい第k励起状態のk値を受け取っていればその値を用いるが、受け取っていなければ、1以上2n−1以下のなんらかの整数をk値として定めて量子計算に進む。
次いで、古典コンピュータ110は、量子ビット数nの第1の量子回路U(θ)を決定する(S202)。第1の量子回路U(θ)は、ユニタリー性を有する任意の量子回路とすることができ、一例として、ハミルトニアンHに応じた量子回路とすることができる。第1の量子回路U(θ)は、パラメータ化されていることから変分量子回路と呼ばれることもある。第1の量子回路U(θ)は、記憶部113又は古典コンピュータ110からアクセス可能な記憶媒体又は記憶装置に記憶しておき、いずれかを特定することによって決定することができる。ハミルトニアンHに応じた回路とする場合には、問題情報に基づいてハミルトニアンHが定まった後に当該ハミルトニアンHに適した回路を生成することによって第1の量子回路U(θ)を決定してもよい。
また、古典コンピュータ110は、一組のk+1個の初期状態であって、量子ビット数nの互いに直交する初期状態を決定する(S203)。n=4、k=2の場合、たとえば|0000>、|0001>及び|0010>を一組の初期状態とすることができる。一組の初期状態は、記憶部113又は古典コンピュータ110からアクセス可能な記憶媒体又は記憶装置に記憶された量子状態の中からハミルトニアンHの量子ビット数n及び求めるべきエネルギーの励起準位kに応じて選択することによって決定することができる。また、ハミルトニアンHの量子ビット数n及び求めるべきエネルギーの励起準位kに応じて生成することによって一組の初期状態を決定してもよい。
そして、古典コンピュータ110は、第1の量子回路U(θ)の第1のパラメータθ(iは1以上の整数)を決定する(S204)。たとえば、第1のパラメータθは0以上2π未満等の一定の範囲内の乱数又は疑似乱数とすることが考えられる。ここでは、第1の量子回路U(θ)の決定、初期状態の決定、第1のパラメータθの決定の順序で説明したが、これらの順序は異なる順序でもよい。
古典コンピュータ110は、量子計算情報を量子コンピュータ120に送信する(S205)。i=1の場合、量子計算情報は一組の初期状態のそれぞれを量子コンピュータ120が有する量子ビット群123において実現するための初期設定情報と、第1の量子回路U(θ)を量子ビット群123において実行するための量子ゲート情報とを含み、i≧2の場合、量子ゲート情報のみを量子計算情報としてもよい。初期設定情報は、量子計算情報と同時又はその前後に別途送信するようにしてもよい。
量子コンピュータ120は、一例として、古典コンピュータ110から送信される量子計算情報に基づいて量子ビット群123の少なくともいずれかに照射する電磁波を生成し、電磁波の照射を行うことで、量子回路を実行する。図1の例では、量子コンピュータ120は、古典コンピュータ110と通信を行う介在装置121と、介在装置121からの要求に応じて電磁波を生成する電磁波生成装置122と、電磁波生成装置122からの電磁波照射を受ける量子ビット群123とを備える。本明細書において「量子コンピュータ」とは、古典ビットによる演算を一切行わないことを意味するものではなく、量子ビットによる演算を含むコンピュータをいう。
介在装置121は、古典ビットにより演算を行う古典コンピュータであり、古典コンピュータ110において行うものとして本明細書にて説明する処理の一部又は全部を代替的に行うことが考えられる。たとえば、第1の量子回路U(θ)を記憶又は決定しておき、量子計算情報として第1のパラメータθを受信したことに応じて、介在装置121において、第1の量子回路U(θ)を量子ビット群123において実行するための量子ゲート情報を生成してもよい。また、量子計算情報として一組の初期状態を表す情報を受信したことに応じて、当該一組の初期状態を量子ビット群123において実現するための初期設定情報を介在装置121において生成してもよい。
量子コンピュータ120は、受信した量子計算情報に基づいて、量子計算を実行する(S206)。量子計算を実行するためには、初期設定情報に基づいて量子ビット群123に対する初期設定が必要である。n=4、k=2の場合、たとえば|0000>、|0001>及び|0010>を一組の初期状態とすることができ、各初期状態に対して第1の量子回路U(θ)を実行する前に、量子ビット群123が各初期状態となるようにXゲートなどのゲート操作を実行する。量子コンピュータ120の詳細に応じて実行可能なゲート操作が異なることから、初期設定情報及び量子ゲート情報は用いる量子コンピュータ120において実行可能なゲート操作又は量子ゲートの組み合わせに必要に応じて分解又は変換される。分解又は変換後の情報を初期設定情報及び量子ゲート情報としてもよいし、分解又は変換前の情報を初期設定情報及び量子ゲート情報として量子コンピュータ120において必要に応じた分解又は変換をしてもよい。
また、それぞれのゲート操作は対応する電磁波波形へと変換され、生成された電磁波が電磁波生成装置122によって量子ビット群123に照射される。電磁波波形への変換は、電磁波生成装置122において行うことができるが、介在装置121において行ってもよい。また、変換を古典コンピュータ110において行って量子計算情報を電磁波波形の形式で生成することも考えられる。ここでは、電磁波の照射によって量子回路を実行する例を説明しているが、異なる方式による量子回路の実行を除外するものではない。
そして、量子コンピュータ120は、量子計算の計算結果を測定する(S207)。量子計算は、一組の初期状態のうちの各初期状態について実行され、測定される。たとえば、以下の表に示すようなビット列が測定結果として得られる。この例は、n=4、k=2として電磁波の照射と測定を繰り返した結果である。繰り返し回数は、古典コンピュータ110において決定して、量子計算情報の一部として又は量子計算情報とは別個に量子コンピュータ120に送信することが考えられる。あるいは、量子コンピュータ120又はその介在装置121において決定することが考えられる。
Figure 2020090559
古典コンピュータ110は、量子コンピュータ120から量子計算情報に応じた量子計算の測定結果を受信して記憶する(S208)。そして、各初期状態について、測定結果を統計処理してハミルトニアンHのエネルギー期待値を算出し、一組の初期状態について、期待値の和L(θ)を算出する(S209)。一組のk+1個の初期状態のうちのj番目(jは0以上k以下の整数)の初期状態に対して第1の量子回路U(θ)を実行した後の量子状態を|ψ(θ)>と表記して、期待値の和L(θ)は次式で表すことができる。ここで、wは正の係数である。
Figure 2020090559

次にi=1の場合、iをインクリメントして第1のパラメータθを更新し、当該第1のパラメータθについて期待値の和L(θ)を算出する。i=2以上の場合、期待値の和L(θ)が収束したか否かの収束判定を行う(S210)。たとえば、L(θ)を最小化するθの値又はそれに近い値を得るために、εを閾値として|L(θi+1)−L(θ)|<εを満たしたときに収束したと判定することができる。収束していない場合には、iをインクリメントして第1のパラメータθを更新し、期待値の和計算を繰り返す。第1のパラメータθは、Nelder−Mead法等の最適化アルゴリズムによって決定することができるが、最適化手法に頼らずランダムにθを動かしてコスト関数L(θ)が最小値等の所望の値となるまで試すこともできる。
ここでは、期待値の和L(θ)が最小値に近づくように第1のパラメータθを変更しているところ、これは期待値の和に負号を付して、これが最大値に近づくように第1のパラメータθを変更することと同義である。
期待値の和L(θ)を収束させたθを第1のパラメータθの最適値θとして古典コンピュータ110は記憶する(S211)。
上述の説明において古典コンピュータ110において行うものとして説明した各初期状態についての期待値算出、期待値の和の算出、及び収束判定は、量子コンピュータ120の介在装置121において代替的に行うことが考えられる。
期待値の和L(θ)が最小化されるということは、第1の量子回路U(θ)のユニタリー性に鑑みれば、各量子状態|ψ(θ)>は互いに直交し、かつ、それぞれがハミルトニアンHの基底状態|g>から第k励起状態|e>までの線形結合によって表されることを意味する。第k+1励起状態|ek+1>以上の量子状態が含まれていれば、L(θ)は最小値よりも大きな値とならざるを得ないからである。
ここで、一例としてwを1/2、wからwk−1までを1とすれば、最も係数の小さい|ψ(θ)>が与えるエネルギー期待値を最も大きいものとするように第1の量子回路U(θ)が最適化されていき、|ψ(θ)>=|e>となることが分かる。このように係数wのいずれかw(sは0以上k以下の整数)を他の係数w(j≠s)よりも小さくすることによって、当該係数に対応する量子状態|ψ(θ)>を第k励起状態に最適化していくことが出来る。
また、別の例として、w<wj−1と定めることによって、|ψ(θ)>=|e>となることが分かる。このように係数wを順序付けて小さい値にすることによって、j番目の係数に対応する量子状態|ψ(θ)>を第j励起状態に最適化していくことが出来る。逆に、係数wを順序付けて大きい値にすることによって、j番目の係数に対応する量子状態|ψ(θ)>を第k−j励起状態に最適化していくことが出来る。
これらの例のように第k励起状態|e>が得られる場合には、ユーザー端末130のユーザーが解きたい問題に対する解に関する解情報を古典コンピュータ110は必要に応じてユーザー端末130に送信することができる(S212)。解情報には、第k励起状態に関する情報が含まれ、より具体的には、第k励起状態のハミルトニアンHの期待値を含むことができる。また、解情報には、第k励起状態の測定結果又はこれに対応する情報を含むことができる。また、解情報には、第k励起状態と第m励起状態(0≦m<k)の間の遷移確率、当該遷移確率をもとにして計算される分子の電気感受率等を含むことが考えられる。
その他にも、本実施形態にかかる手法の応用例としては、第1の量子回路U(θ)として上述した第k励起状態までのすべての励起状態を生成する量子回路を用いることで、ハミルトニアンH下の時間発展をシミュレートすることが考えられる。
本実施形態によれば、量子ビット数nのハミルトニアンHの任意の第k励起状態の特定を第1のパラメータθという単一のパラメータの最適化によって短時間に少ない量子ビット数で行うことができる。非特許文献1においては、量子コンピュータ120の量子ビット数が2nである必要があったが、本実施形態によれば、この要求を半数のnにまで下げることができる。発明者らは、n=4という比較的少ない量子ビット数について、量子コンピュータ120を古典コンピューティングによってシミュレーションを行い、本実施形態の検証をした。シミュレーションではなく実際の量子コンピュータ120を用いても同様の結果が得られると考えることに理論上支障はなく、また量子ビット数nについても100以上、さらには150以上としても理論上支障なく同様の結果が得られる。
上述の説明では、異なる組織によって古典コンピュータ110及び量子コンピュータ120が管理されている場合を想定しているが、同一の組織によって一体として管理されている場合には、量子計算情報の古典コンピュータ110から量子コンピュータ120への送信及び量子コンピュータ120から古典コンピュータ110への測定結果の送信は不要となる。量子コンピュータ120の介在装置121において上述の説明における古典コンピュータ110の役割を担うことが考えられる。
なお、「××のみに基づいて」、「××のみに応じて」、「××のみの場合」というように「のみ」との記載がなければ、本明細書においては、付加的な情報も考慮し得ることが想定されていることに留意されたい。また、一例として、「aの場合にbする」という記載は、明示した場合を除き、「aの場合に常にbする」ことを必ずしも意味しないことに留意されたい。
また、念のため、なんらかの方法、プログラム、端末、装置、サーバ又はシステム(以下「方法等」)において、本明細書で記述された動作と異なる動作を行う側面があるとしても、開示の技術の各態様は、本明細書で記述された動作のいずれかと同一の動作を対象とするものであり、本明細書で記述された動作と異なる動作が存在することは、当該方法等を開示の技術の各態様の範囲外とするものではないことを付言する。
また、第1の実施形態で述べたさまざまな代替形態は第2の実施形態又は第3の実施形態においても同様に適用可能であることを付言する。
(第2の実施形態)
第1の実施形態において、係数wをすべて同一の値とした場合、|ψ(θ)>は、ハミルトニアンHの基底状態|g>から第k励起状態|e>までの線形結合によって表されるものの、これらが混在した状態となる。第1のパラメータθの最適化によって、量子ビット数nの量子状態の取り得る2個の互いに直交する量子状態のうちk+1個の量子状態によって張られる部分空間に|ψ(θ)>が閉じられていると理解することができる。係数wをすべて同一の値とした場合、第2の実施形態では、第2の量子回路V(φ)を導入することによって当該部分空間内で第k励起状態を求めることを可能にする。
第1のパラメータθの最適値θが得られた後に、古典コンピュータ110は、第2の量子回路V(φ)を決定する(S301)。第2の量子回路V(φ)は、上述の一組の初期状態を混ぜ合わせるものであり、換言すれば、これらの初期状態の線形結合によって表される空間内の量子状態に各初期状態を変化させる。第2の量子回路V(φ)は、パラメータ化されていることから変分量子回路と呼ばれることもある。たとえば、n=4、k=3の場合、量子ビット数4の一組の初期状態のそれぞれを下位のビットから埋めていったビット列|0000>、|0001>、|0010>及び|0011>により表し、埋められた下位2ビットのみに作用する回路を第2の量子回路V(φ)とすることが考えられる。より一般的には、第2の量子回路V(φ)は、一組のk+1個の初期状態にのみ作用するものとすることが考えられる。
図4は、第1の量子回路U(θ)及び第2の量子回路V(φ)を模式的に示す一例である。第2の量子回路V(φ)は、記憶部113又は古典コンピュータ110からアクセス可能な記憶媒体又は記憶装置に記憶しておき、いずれかを特定することによって決定することができる。
次に、古典コンピュータ110は、第2のパラメータφ(iは1以上の整数)を決定する(S302)。たとえば、第2のパラメータφは0以上2π未満等の一定の範囲内の乱数又は疑似乱数とすることが考えられる。ここでは、第2の量子回路V(φ)の決定、第2のパラメータφの決定の順序で説明したが、異なる順序でもよい。
そして、古典コンピュータ110は、第1の実施形態と同様に量子計算情報を量子コンピュータ120に送信する(S303)。異なる点は、量子ゲート情報として送信する情報が、最適化された第1の量子回路U(θ)を量子ビット群123において実行するための情報に加えて第2の量子回路V(φ)を量子ビット群123において実行するための情報を含む点と、初期設定情報として送信する情報が、一組の初期状態のうちの任意のs番目(sは0以上k以下の整数)の初期状態を量子コンピュータ120が有する量子ビット群123において実現するための情報を含めばよい点である。
量子コンピュータ120は、受信した量子計算情報に基づいて、s番目の初期状態について量子計算を実行し(S304)、量子計算の結果を測定する(S305)。電磁波照射及び測定が繰り返し行われる点、そして電磁波照射に限られない点は第1の実施形態と同様である。
その後、古典コンピュータ110は、量子コンピュータ120から量子計算情報に応じた量子計算の計算結果を受信して記憶する(S306)。そして、s番目の初期状態について、測定結果を統計処理してハミルトニアンHのエネルギー期待値L(φ)を算出する(S307)。任意のs番目の初期状態に対して第1の量子回路U(θ)及び第2の量子回路V(φ)を実行した後の量子状態を|ψ(φ)>と表記して、期待値L(φ)は次式で表すことができる。
Figure 2020090559

次にi=1の場合、iをインクリメントして第1のパラメータθを更新し、当該第2のパラメータφについて期待値L(φ)を算出する。i=2以上の場合、期待値L(φ)が収束したか否かの収束判定を行う(S308)。収束判定は、第1の実施形態と同様に行うことができる。
期待値L(φ)を収束させたφを第2のパラメータφの最適値φとして古典コンピュータ110は記憶する(S309)。
上述の説明において古典コンピュータ110において行うものとして説明したs番目の初期状態についての期待値算出及び収束判定は、量子コンピュータ120の介在装置121において代替的に行うことが考えられる。
期待値L(φ)が最小化されるということは、各初期状態に対して第1の量子回路U(θ)を実行した量子状態|ψ(θ)>は互いに直交し、かつ、それぞれがハミルトニアンHの基底状態|g>から第k励起状態|e>までの線形結合によって表され、そして第2の量子回路V(φ)は各初期状態を混ぜ合わせるものであることに鑑みれば、|ψ(φ)>は第k励起状態|e>となることを意味する。第k−1励起状態|ek−1>以下の量子状態が含まれていれば、L(φ)は最小値よりも大きな値とならざるを得ないからである。
上記L(φ)では、|ψ(φ)>におけるハミルトニアンHのエネルギー期待値に負号を加えて定義し、期待値L(φ)が最小値に近づくように第2のパラメータφを変更しているところ、このことは、符号を付さずにハミルトニアンHのエネルギー期待値自体をL(φ)と定義し、これが最大値に近づくように第2のパラメータφを変更することと同義である。
古典コンピュータ110は、ユーザー端末130のユーザーが解きたい問題に対する解に関する解情報を必要に応じてユーザー端末130に送信することができる(S310)。解情報には、第k励起状態に関する情報を含むことができ、より具体的には、第k励起状態のハミルトニアンHの期待値を含むことができる。また、解情報には、第k励起状態の測定結果又はこれに対応する情報を含むことができる。
本実施形態によれば、第1のパラメータθの最適化によって、量子ビット数nの量子状態の取り得る2個の互いに直交する量子状態のうちk+1個の量子状態によって張られる部分空間に量子状態を閉じた上で、当該部分空間内で追加の第2のパラメータφの最適化を行うことにより、第1の実施形態よりも高速に励起状態を得ることができる。
(第3の実施形態)
第3の実施形態では、第1の実施形態又は第2の実施形態のハミルトニアンHの励起状態を求めるための方法を用いてグリーン関数を計算する。
グリーン関数とは理論計算等において用いられる関数であり、グリーン関数を計算することにより、例えば、物質の相に関する情報を得ることができる。以下の式(A)は、グリーン関数の一表現形式である。
Figure 2020090559

(A)
なお、tは時刻であり、c(・)及びc(・)は電子の演算子であり、a,bは電子の励起モード(例えば、波数)であり、Θ(t)はヘビサイドの階段関数である。また、†はエルミート共役を表す。なお、以下において、添え字とは異なる箇所に出現する記号「i」は虚数単位を表す。
なお、第3の実施形態では、ハミルトニアンHの励起状態を求めるための方法を用いて、グリーン関数のスペクトル関数を計算する。これにより、グリーン関数も算出可能となる。
なお、第3の実施形態では、グリーン関数に対するフーリエ変換により得られるスペクトル関数の虚部のみを計算する。スペクトル関数の虚部の計算結果が得られれば、クラマース・クローニッヒの関係式によりスペクトル関数の実部も再現可能であるためである。
以下の式は、グリーン関数のスペクトル関数と、そのスペクトル関数の虚部である。なお、ηは正の定数である。また、qは波数である。なお、ここでは電子の励起モードa,bが共に波数qと上向きスピン↑を持つ場合について記述するが、第3の実施形態は一般の励起モードa,bに関するグリーン関数についても同様に適用可能である。
Figure 2020090559

Figure 2020090559

(B)
第3の実施形態のハイブリッドシステム100は、上記式におけるスペクトル関数の虚部A(ω)を計算する。スペクトル関数の虚部A(ω)は、以下の式(C)によって表される。以下の式(3)は、レーマン表示により表されたスペクトル関数である。
Figure 2020090559

(C)
上記式(C)におけるEは、ハミルトニアンHの基底状態のエネルギーである。また、|G>は、ハミルトニアンHの基底状態である。また、EはハミルトニアンHのn番目の固有値である。また、|E>はハミルトニアンHのn番目の固有状態である。
第3の実施形態のハイブリッドシステム100は、上記式(C)のうちの、グリーン関数のスペクトル関数の虚部A(ω)に出現する、ハミルトニアンHの基底状態のエネルギーEと、ハミルトニアンHのn番目の固有値Eと、<E|c|G>と、<E|c |G>とを算出する。
具体的には、まず、ハイブリッドシステム100のうちの、古典コンピュータ110と量子コンピュータ120とが、第1の実施形態又は第2の実施形態の収束条件を満たした値θに基づいて、以下の式(D)を計算することにより、ハミルトニアンHの基底状態のエネルギーEと、ハミルトニアンHの任意のj番目の固有値Eとを算出する。また、収束条件を満たした値θに基づいて、以下の式(D)を計算することにより、ハミルトニアンHの基底状態|G>と、ハミルトニアンHの任意のj番目の固有状態|E>を求める。
Figure 2020090559

(D)
なお、スペクトル関数のレーマン表示では、ハミルトニアンHの固有値Eのnはあり得る全ての固有状態を取るが、第3の実施形態では固有値の小さい方から(k+1)個までしか求めることはできない。
なお、量子コンピュータがN量子ビットの系である場合、ハミルトニアンHの固有値Eのうちのnは1から2のN乗までを取り得る。ハミルトニアンHが2×2の行列によって表されるため、固有状態が2個存在するからである。
次に、ハイブリッドシステム100は、上記式(C)のうちの、グリーン関数のスペクトル関数の虚部A(ω)に出現する、<E|c|G>と、<E|c |G>とを算出する。
具体的には、ハイブリッドシステム100のうちの古典コンピュータ110は、<E|c|G>のうちの電子の演算子cと、<E|c |G>のうちの電子の演算子c とを、以下の式(E)に示すジョルダン‐ウィグナー変換等によりパウリ行列の和に変換する。なお、添え字q,↑は、電子の波数とそのスピンを表す。
Figure 2020090559

(E)
なお、上記式(E)におけるλは係数を表し、実数及び純虚数の何れかである。また、Pはパウリ行列である。また、Nは、状態の総数を表す。なお、以下ではcq,↑を単に「c」と表記し、c q,↑を単に「c 」と表記する。
そして、古典コンピュータ110は、上記式(E)によって得られたパウリ行列の和を、係数λが実数のものと虚数のものとに分ける。
そして、古典コンピュータ110は、実数と虚数とに分けられたパウリ行列の和を、以下の形式によって表す。
=α+iβ
=α’+iβ’
上記式における、αとβ(及び、α’とβ’)とがエルミート演算子となっており、可観測量になっている。すなわち、本実施形態においては、電子の演算子というそのままの形式では計測不可な物理量を、αとβ(及び、α’とβ’)という計測可能な部分に分割する。
次に、古典コンピュータ110は、以下の式(F1)及び(F2)の任意の変数Aに電子の演算子の実部と電子の演算子の虚部とを代入する。具体的には、古典コンピュータ110は、分割により得られたαとβ(及び、α’とβ’)を以下の式(F1)及び(F2)に代入する。
Figure 2020090559

(F1)
Figure 2020090559

(F2)
ここで、|ψ+x ij(θ)>、|ψ+y ij(θ)>は以下のように定義される。
Figure 2020090559

Figure 2020090559
なお、上記式(F1)及び(F2)におけるAは、任意の変数を表す。古典コンピュータ110は、上記式(F1)及び(F2)のAに、c=α+iβとc =α’+iβ’とを代入する。
更に、古典コンピュータ110は、上記式(F1)及び(F2)における左辺の<ψ(θ)|A|ψ(θ)>のうちの、<ψ(θ)|にハミルトニアンHの任意のi番目の固有状態<E|を代入する。また、古典コンピュータ110は、上記式(F1)及び(F2)における左辺の|ψ(θ)>にハミルトニアンHの任意のj番目の固有状態|E>を代入する。
これにより、上記式(F1)及び(F2)の左辺は、<E|c|E>となる。古典コンピュータ110は、ハミルトニアンHの任意のi番目の固有値EをハミルトニアンHのn番目の固有値Eとして設定し、ハミルトニアンHの任意のj番目の固有値EをハミルトニアンHの基底状態のエネルギーEとして設定する。これにより、上記式(F1)及び(F2)の左辺は、<E|c|E>から<E|c|G>となる。
更に、上述のように、<E|c|G>のうちのcには、α+iβが代入されるため、<E|c|G>=<E|α|G>+i<E|β|G>となる。
このようにして得られた式に基づいて、量子コンピュータ120が量子計算を行い、<E|c|G>が算出される。なお、<E|c |G>についても同様の方法により算出される。
そして、古典コンピュータ110は、ハミルトニアンHの基底状態のエネルギーEと、ハミルトニアンHのn番目の固有値Eと、<E|c|G>と、<E|c |G>とに基づいて、上記式(C)を計算することにより、グリーン関数のスペクトル関数の虚部A(ω)を計算する。グリーン関数のスペクトル関数の虚部A(ω)が得られれば、スペクトル関数の実部も計算可能となる。これにより、グリーン関数も計算可能となる。
なお、グリーン関数を計算する場合には、ユーザー端末130又は古典コンピュータ110によって、ハミルトニアンH、電子の演算子を指定する情報である波数q(又はa,b)、何個の固有値を求めるかを表すk一組の互いに直交するk+1個の初期状態、及び量子回路U(θ)が決定される。また、cとc とを分解したときに得られる演算子α,β,α’,β’も、ユーザー端末130又は古典コンピュータ110によって決定されてもよい。
なお、量子コンピュータ120は、ユーザー端末130又は古典コンピュータ110によって決定された、一組の互いに直交するk+1個の初期状態、量子回路U(θ)、及びcとc とを分解したときに得られる演算子α,β,α’,β’を取得し、それらに基づいて量子計算を行う。
なお、上記第3の実施形態においては、複数の係数wの少なくとも1つが異なる場合を例に説明したが、これに限定されるものではない。例えば、以下の文献に基づいて、複数の係数wの各々をすべて同一の値とした場合のグリーン関数の計算を実行することができる。
R. M. Parrish, E. G. Hohenstein, P. L. McMahon, and T. J. Marttinez, Physical Review Letters 122, 230401 (2019).
このように、第3の実施形態によれば、ハミルトニアンの励起状態を求めるための方法を用いてグリーン関数を計算することができる。
なお、上記実施形態でCPUがソフトウェア(プログラム)を読み込んで実行した処理を、CPU以外の各種のプロセッサが実行してもよい。この場合のプロセッサとしては、FPGA(Field−Programmable Gate Array)等の製造後に回路構成を変更可能なPLD(Programmable Logic Device)、及びASIC(Application Specific Integrated Circuit)等の特定の処理を実行させるために専用に設計された回路構成を有するプロセッサである専用電気回路等が例示される。また、各処理を、これらの各種のプロセッサのうちの1つで実行してもよいし、同種又は異種の2つ以上のプロセッサの組み合わせ(例えば、複数のFPGA、及びCPUとFPGAとの組み合わせ等)で実行してもよい。また、これらの各種のプロセッサのハードウェア的な構造は、より具体的には、半導体素子等の回路素子を組み合わせた電気回路である。
また、上記各実施形態では、プログラムがストレージに予め記憶(インストール)されている態様を説明したが、これに限定されない。プログラムは、CD−ROM(Compact Disk Read Only Memory)、DVD−ROM(Digital Versatile Disk Read Only Memory)、及びUSB(Universal Serial Bus)メモリ等の非一時的(non−transitory)記憶媒体に記憶された形態で提供されてもよい。また、プログラムは、ネットワークを介して外部装置からダウンロードされる形態としてもよい。
また、本実施形態の各処理を、汎用演算処理装置及び記憶装置等を備えたコンピュータ又はサーバ等により構成して、各処理がプログラムによって実行されるものとしてもよい。このプログラムは記憶装置に記憶されており、磁気ディスク、光ディスク、半導体メモリ等の記録媒体に記録することも、ネットワークを通して提供することも可能である。もちろん、その他いかなる構成要素についても、単一のコンピュータやサーバによって実現しなければならないものではなく、ネットワークによって接続された複数のコンピュータに分散して実現してもよい。
なお、本実施形態は、上述した各実施形態に限定されるものではなく、各実施形態の要旨を逸脱しない範囲内で様々な変形や応用が可能である。
2018年11月4日に出願された日本国特許出願2018-207825号及び2019年7月12日に出願された日本国特許出願2019-130414号の開示は、その全体が参照により本明細書に取り込まれる。本明細書に記載された全ての文献、特許出願、および技術規格は、個々の文献、特許出願、および技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書中に参照により取り込まれる。
実施例
n=4のハミルトニアンHについてのシミュレーション結果を示す。図5は、図4に示す第1の量子回路U(θ)及び第2の量子回路V(φ)の一例であり、パラメータD及びDは括弧内での繰り返し数を示し、D=2、D=6とした。一組の初期状態は、{|0000>,|0001>,|0010>,|00011>}とした。第1のパラメータθ及び第2のパラメータφの初期値は0以上2π未満等の一定の範囲内の乱数とし、異なる10個の初期値から行った最適化のうち最も低いコスト関数の値を与えた結果を以下に示す。パラメータの最適化にはSciPyライブラリのBFGS法を用いた。励起状態を求める励起順位kは3とした。
解くべき問題を表したハミルトニアンHは次式とした。これは、全結合横磁場イジングモデルである。係数a及びJijは、0以上1未満の均一な分布からランダムにサンプルした。量子ビット数nは4である。
Figure 2020090559

図6に、第1のパラメータθの最適化プロセスを示す。図6において、フィデリティ(fidelity)は{|g>,|e>,|e>,|e>}により張られる空間と第1の量子回路U(θ)の出力との間の重なり(overlap)により定義される。より詳細には、|g>を便宜上「e>と表記し、j番目(jは0以上k以下の整数)の初期状態に対して第1の量子回路U(θ)を実行した後の量子状態を|ψ(θ)>と表記して、フィデリティを次式で定義した。図6から、コスト関数が最小値に近づくにつれて期待されたようにフィデリティが1に近づいていくことが分かる。
Figure 2020090559

図7は、第2のパラメータφの最適化プロセスを示す。ここでは、3番目の初期状態|0010>について量子計算を実行し、フィデリティは次式で定義した。図7から、エネルギー期待値が第3励起状態の値に精度よく収束していることが確認された。
Figure 2020090559

Claims (13)

  1. ハミルトニアンの励起状態を求めるための方法であって、
    量子ビット数n(nは正の整数)のハミルトニアンHに対する一組の互いに直交するk+1個(kは0以上2n−1以下の整数)の初期状態を決定するステップと、
    量子ビット数nのユニタリー性を有する第1の量子回路U(θ)を決定するステップと、
    第1のパラメータθを決定して第1の量子回路U(θ)を量子コンピュータが有する量子ビット群に対して実行するための量子計算情報を生成するステップと、
    前記量子計算情報に基づく前記一組の初期状態のそれぞれに対する量子計算の計算結果を記憶するステップと、
    各初期状態に対する計算結果に基づいて式(1)に示す前記ハミルトニアンHの期待値の和L(θ)を算出するステップと、
    前記和が最小値に近づく方向に前記第1のパラメータθを変更して収束条件を満たした値θを記憶するステップと
    を含むことを特徴とする方法。
    Figure 2020090559


    ここで、|ψ(θ)>はj番目の初期状態に対して第1の量子回路(θ)を実行した後の量子状態であり、wは正の係数である。
  2. 係数wのいずれかw(sは0以上k以下の整数)は、他の係数w(j≠s)の値よりも小さいことを特徴とする請求項1に記載の方法。
  3. 量子状態|ψ(θ)>に関する情報を第k励起状態に関する解情報として送信するステップをさらに含むことを特徴とする請求項2に記載の方法。
  4. 係数wのいずれも同一の値であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
  5. 前記一組の初期状態を混ぜ合わせる第2の量子回路V(φ)を決定するステップと、
    第2のパラメータφを決定して、第1の量子回路U(θ)及び第2の量子回路V(φ)を量子コンピュータが有する量子ビット群に対して実行するための量子計算情報を生成するステップと、
    前記量子計算情報に基づく前記一組の初期状態のうちの任意のs番目(sは0以上k以下の整数)の初期状態に対する量子計算の計算結果を記憶するステップと、
    前記s番目の初期状態に対する計算結果に基づいて式(2)に示す前記ハミルトニアンHの期待値L(φ)を算出するステップと、
    前記期待値が最大値に近づく方向に前記第2のパラメータφを変更して収束条件を満たした値φを記憶するステップと
    を含むことを特徴とする請求項4に記載の方法。
    Figure 2020090559

  6. 前記第2の量子回路V(φ)は、k+1個の前記一組の初期状態にのみ作用することを特徴とする請求項5に記載の方法。
  7. |ψ(φ)>をj番目の初期状態に対して第2の量子回路(φ)を実行した後の量子状態として、|ψ(φ)>に関する情報を第k励起状態に関する解情報として送信するステップをさらに含むことを特徴とする請求項5又は6に記載の方法。
  8. 前記方法は、前記量子コンピュータとコンピュータネットワークを介して接続された古典コンピュータが実行することを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載の方法。
  9. グリーン関数のスペクトル関数の虚部A(ω)(qは波数、ωは周波数)に出現する、ハミルトニアンHの基底状態のエネルギーEと、ハミルトニアンHのn番目の固有値Eと、<E|c|G>(|E>はハミルトニアンHのn番目の固有状態、|G>はハミルトニアンHの基底状態、cは電子の演算子)と、<E|c |G>(†はエルミート共役)とを算出する際に、
    前記収束条件を満たした値θに基づいて、以下の式(3)を計算することにより、ハミルトニアンHの基底状態のエネルギーEと、ハミルトニアンHの任意のj番目の固有値Eとを算出するステップと、
    電子の演算子cを、電子の演算子の実部と電子の演算子の虚部とに分けるステップと、
    前記収束条件を満たした値θに基づいて、以下の式(4)における左辺の<ψ(θ)|A|ψ(θ)>のうちの、<ψ(θ)|にハミルトニアンHのn番目の固有状態<E|を代入し、|ψ(θ)>にハミルトニアンHの基底状態|G>を代入し、任意の変数Aに電子の演算子の実部と電子の演算子の虚部とを代入することにより、<E|c|G>と<E|c |G>を算出するステップと、
    ハミルトニアンHの基底状態のエネルギーEと、ハミルトニアンHの任意のj番目の固有値Eのjをnとすることにより得られるハミルトニアンHのn番目の固有値Eと、<E|c|G>と、<E|c |G>とに基づいて、以下の式(5)を計算することにより、グリーン関数のスペクトル関数の虚部A(ω)を計算するステップと、
    を更に含む請求項1に記載の方法。
    Figure 2020090559

    (3)
    Figure 2020090559

    (4)

    Figure 2020090559


    (5)
    ここで、|ψ+x ij(θ)>、|ψ+y ij(θ)>は以下のように定義される。なお、添え字とは異なる箇所に出現する記号「i」は虚数単位を表す。
    Figure 2020090559

    Figure 2020090559
  10. 古典コンピュータに、ハミルトニアンの励起状態を求めるための方法を実行させるためのプログラムであって、前記方法は、前記古典コンピュータが、
    量子ビット数n(nは正の整数)のハミルトニアンHに対する一組の互いに直交するk+1個(kは0以上2n−1以下の整数)の初期状態を決定するステップと、
    量子ビット数nのユニタリー性を有する第1の量子回路U(θ)を決定するステップと、
    第1のパラメータθを決定して第1の量子回路U(θ)を量子コンピュータが有する量子ビット群に対して実行するための量子計算情報を生成するステップと、
    前記量子計算情報に基づく前記一組の初期状態のそれぞれに対する量子計算の計算結果を記憶するステップと、
    各初期状態に対する計算結果に基づいて式(1)に示す前記ハミルトニアンHの期待値の和L(θ)を算出するステップと、
    前記和が最小値に近づく方向に前記第1のパラメータθを変更して収束条件を満たした値θを記憶するステップと
    を含むことを特徴とする方法。
    Figure 2020090559


    ここで、|ψ(θ)>はj番目の初期状態に対して第1の量子回路(θ)を実行した後の量子状態であり、wは正の係数である。
  11. ハミルトニアンの励起状態を求めるための古典コンピュータであって、
    量子ビット数n(nは正の整数)のハミルトニアンHに対する一組の互いに直交するk+1個(kは0以上2n−1以下の整数)の初期状態を決定し、
    量子ビット数nのユニタリー性を有する第1の量子回路U(θ)を決定し、
    第1のパラメータθを決定して第1の量子回路U(θ)を量子コンピュータが有する量子ビット群に対して実行するための量子計算情報を生成し、
    前記量子計算情報に基づく前記一組の初期状態のそれぞれに対する量子計算の計算結果を記憶し、
    各初期状態に対する計算結果に基づいて式(1)に示す前記ハミルトニアンHの期待値の和L(θ)を算出し、
    前記和が最小値に近づく方向に前記第1のパラメータθを変更して収束条件を満たした値θを記憶することを特徴とする古典コンピュータ。
    Figure 2020090559


    ここで、|ψ(θ)>はj番目の初期状態に対して第1の量子回路(θ)を実行した後の量子状態であり、wは正の係数である。
  12. ハミルトニアンの励起状態を求めるための量子コンピュータであって、
    量子ビット数n(nは正の整数)のハミルトニアンHに対する一組の互いに直交するk+1個(kは0以上2n−1以下の整数)の初期状態と、
    量子ビット数nのユニタリー性を有する第1の量子回路U(θ)と、
    第1のパラメータθと、を含む量子計算情報に基づいて、
    第1の量子回路U(θ)を量子ビット群に対して実行し、前記量子計算情報に基づく前記一組の初期状態のそれぞれに対する量子計算の計算結果を出力することを特徴とする量子コンピュータ。
  13. 請求項11に記載の古典コンピュータと請求項12に記載の量子コンピュータとを備える、ハミルトニアンの励起状態を求めるためのハイブリッドシステム。
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