JPWO2019131961A1 - 相同組換え修復活性の定量法 - Google Patents

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Abstract

細胞における相同組換え修復活性の測定方法は、部位特異的ヌクレアーゼにより、細胞内の標的ゲノムDNA領域の二本鎖を特定部位で切断すること、細胞にタグ配列を含むドナーベクターを導入し、相同組換えにより、標的ゲノムDNA領域の二本鎖の前記切断された特定部位に前記マーカー配列を組み込むこと、及び細胞中の前記標的ゲノムDNA領域及び前記マーカー配列を含む融合DNA配列を測定することを含む。

Description

本発明は、相同組換え修復活性の定量法に関し、より詳細には細胞における相同組換え修復活性の直接定量法に関する。
生体は様々なDNA損傷を受けており、DNA二本鎖切断は最も重大な損傷の一つである。DNA二本鎖切断は通常、相同組換え(homologues recombination, HR)及び非相同末端結合(non-homologous end joining, NHEJ)により修復されているが、相同組換え修復は間違いの起こらない修復経路という点でより重要である。
がん薬物療法の中でもDNA傷害性薬剤は大きな役割を占める。DNA傷害性薬剤はDNA損傷を生じることで抗がん活性を示すため、DNA修復能に異常があるがんに対して特に大きな効果が期待できる。ポリ(ADP-リボース)ポリメラーゼ(PARP)はDNA一本鎖切断の修復作用を有する酵素であり、近年では、相同組換え修復の障害と合成致死を示すPARP阻害薬が、相同組換え修復に障害を有するがんに高い効果を発揮することで注目されている。
がんの多くで相同組換え修復経路の傷害を認め、卵巣がんのゲノム解析では、卵巣がん患者の約半数に相同組換え修復関連因子の変異があり、相同組換え修復の機能不全が生じていることが報告されている。卵巣がんの他、乳がん及び前立腺がんでも相同組換え修復の機能不全が高頻度で認められ、他のがんにおいても一定の頻度で相同組換え修復の機能不全が存在することが知られている。このような相同組換え修復の機能不全を有するがん患者には、PARP阻害剤が有効であることが分かってきている。したがって、がんの有効な治療のために、相同組換え修復の機能不全を有する症例を同定することが重要である。
相同組換え修復の機能不全は、遺伝性乳がんの場合はその原因となるBRCA1又はBRCA2の変異によって生じるが、その他の多様な因子の変異も相同組換え修復の機能不全に寄与する。したがって、BRCA1又は2の変異の検査では相同組換え修復の機能不全を有する例の一部しか同定できない。一方、すべての相同組換え修復関連因子の変異検査は労力とコストが極めて高く、現実的でない。さらに、BRCA1及び2を含む相同組換え修復関連因子に生じた変異のすべてが相同組換え修復の機能不全を引き起こす訳ではなく、意義が不明な変異も存在する。よって、変異解析によって相同組換え修復に機能不全を有する症例を同定することは臨床的に不十分である。
これらから、DNA傷害性薬剤又はPARP阻害剤の有効症例の選別には、遺伝子変異などの代理マーカーではなく、相同組換え修復活性(HR活性)のそのものの直接評価が有効と考えられるが、現在のところ臨床応用に適したHR活性の評価法は存在しない。
相同組換え修復活性測定法がいくつか既に公表されている。
一つの方法は、遺伝子改変した細胞株を用いたdirect-repeat GFP(DR-GFP)アッセイと呼ばれる細胞ベースの方法であり、例えば非特許文献1は測定対象の細胞のゲノムに、制限酵素の認識配列を持つレポーター遺伝子と制限酵素の認識配列を持たない不完全なレポーター遺伝子の塩基配列とを組み込んだ、安定細胞株を樹立し、トランスフェクションによって導入した制限酵素によってレポーター遺伝子内にDNA二本鎖切断を作成し、相同組換え修復によって作成された完全なレポーター遺伝子の発現を定量するものである。この方法は安定細胞株の樹立が必要であることから多検体処理には向かず、安定細胞株の樹立が困難な初代培養細胞には使用できない。また、DR-GFPアッセイは外来遺伝子座における相同組換え修復活性を評価しており、内在性遺伝子座における相同組換え修復活性については評価していない。大きな問題として、DR-GFPアッセイにより決定された相同組換え修復活性は、抗がん剤に対する感受性との相関が低い場合がある(非特許文献2)。
DR-GFPアッセイの改変法として、非特許文献3はCRISPER/Cas9を用いたレポーターノックインアッセイを用いて相同組換え修復活性を測定している。このアッセイではニッカーゼ活性を有する変異Casにより標的遺伝子に特異的DNA二本鎖切断を生じさせ、標的遺伝子に相同な配列とレポーターとしてmCloverを含むHRドナーベクターを用いて相同組換え修復を行い、標的遺伝子とmCloverの融合遺伝子を発現する細胞の数をフローサイトメトリーで計測している。このアッセイでは内在性遺伝子座における相同組換え修復活性を評価可能であるが、転写されないゲノム領域や発現量の低いゲノム領域の相同組換え修復活性を検出することができない。
別の方法は、相同組換え修復活性の低下によって蓄積するゲノム損傷を、次世代シークエンサーによって解析し、定量するものである(非特許文献4参照)。この方法では、相同組換え修復活性低下の結果として生じた現象を相同組換え修復活性の代理マーカーとして用いており、相同組換え修復活性そのものの直接的な評価ではない。また、ゲノム損傷の蓄積を定量することから、その測定値は相同組換え修復活性の低下期間に依存し、修復活性の障害初期の相同組換え修復活性低下の検知、及び一旦低下した相同組換え修復活性が復帰変異によって回復した場合の検知などは不可能である。さらに、測定に次世代シークエンサーを用いることから、コストが高い。
Cancer Res. 70(3), 988-95 2010 Elife 6, 1-21 (2017) Nucleic Acids Res. 43, 9379-92 (2015) Clin Cancer Res. 22(15), 3764-73 2016.
安定細胞株の樹立が不要で、任意の細胞内の任意の内在性ゲノム領域におけるDNA二本鎖切断の相同組換え修復活性を直接評価することができれば、より生理的な細胞の相同組換え修復能の評価が可能となり、有用である。
本発明が解決すべき課題は、臨床検体由来の初代培養細胞を含む任意の細胞内の任意の内在性ゲノム領域における相同組換え修復活性を高精度に直接定量することを可能にし、任意の細胞における相同組換え修復活性を測定するための方法、相同組換え修復活性を促進又は阻害する化合物のスクリーニング方法、並びに相同組換え修復活性を利用した薬剤の治療効果の予測方法を提供することにある。
本発明は、以下の項に記載の主題を包含する。
項1.細胞における相同組換え修復活性の測定方法であって、
部位特異的ヌクレアーゼにより、細胞内の標的ゲノムDNA領域の二本鎖を特定部位で切断すること、
前記細胞にマーカー配列を含むドナーベクターを導入し、相同組換えにより、前記標的ゲノムDNA領域の二本鎖の前記切断された特定部位に前記マーカー配列を組み込むこと、及び
前記細胞中の前記標的ゲノムDNA領域及び前記マーカー配列を含む融合DNA配列を測定すること
を含む方法。
項2.前記細胞が腫瘍細胞である項1に記載の方法。
項3.前記部位特異的ヌクレアーゼが、CRISPR/Cas、TALEヌクレアーゼ(TALEN)、又はジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)である項1又は2に記載の方法。
項4.前記ドナーベクターは、前記切断された、各々が二本鎖からなる前記標的ゲノムDNA領域の2つの末端のDNA領域と相同組換えが起こる程度に相同な配列を有する2つの二本鎖DNA領域と、前記2つの二本鎖DNA領域の間に挟まれた前記マーカー配列とを含む相同DNAポリヌクレオチド配列アームを備え、前記細胞中に相同組換えにより前記相同DNAポリヌクレオチド配列アームが組み込まれる項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
項5.前記マーカー配列が、ペプチドタグをコードするポリヌクレオチド配列、レポーター遺伝子、又はハプテンをコードするポリヌクレオチド配列である項1〜4のいずれかに記載の方法。
項6.前記融合DNA配列を測定することが、前記融合DNA配列の発現量を測定すること又は前記融合DNA配列の翻訳産物であるタンパク質の発現量を測定することを含む項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
項7.前記融合DNA配列を測定することが、定量PCRにより前記融合DNA配列の量を測定することを含む項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
項8.相同組換え修復活性を促進又は阻害する化合物をスクリーニングする方法であって、
細胞を被験化合物と接触させること、
部位特異的ヌクレアーゼにより、前記細胞内の標的ゲノムDNA領域の二本鎖を特定部位で切断すること、
前記細胞に、マーカー配列を含むドナーベクターを導入し、相同組換えにより、前記標的ゲノムDNA領域の二本鎖の前記切断された特定部位に前記マーカー配列を組み込むこと、及び
前記細胞中の前記標的ゲノムDNA領域及び前記マーカー配列を含む融合DNA配列の測定値に基づいて、前記化合物が、相同組換え修復活性を促進又は阻害する化合物であるか否かを判定すること
を含む方法。
項9.前記判定することが、
前記細胞を前記被験化合物と接触させた場合の前記融合DNA配列の量が、基準値に比べて多い場合に、前記被験化合物を相同組換え修復活性を促進する化合物と判定するか、又は
前記細胞を前記被験化合物と接触させた場合の前記融合DNA配列の量が、基準値に比べて少ない場合に、前記被験化合物を相同組換え修復活性を阻害する化合物と判定することを含む、項8に記載の方法。
項10.前記修復活性を活性化又は阻害する化合物がキナーゼ阻害薬、プロテアーゼ阻害薬、又は核酸医薬である項8又は9に記載の方法。
項11.上記の修復活性を活性化又は阻害する化合物がアルキル化薬、タキサン系製剤、抗腫瘍性抗生物質、プラチナ製剤、トポイソメラーゼ阻害薬、微小管重合阻害薬、微小管脱重合阻害薬、又は分子標的薬である請求項8又は9に記載の方法。
項12.薬剤又は放射線照射の治療効果の予測方法であって、
部位特異的ヌクレアーゼにより、薬剤又は放射線照射を施した細胞内の前記標的ゲノムDNA領域の二本鎖を特定部位で切断すること、
前記細胞に、マーカー配列を含むドナーベクターを導入し、相同組換えにより、前記標的ゲノムDNA領域の二本鎖の前記切断された特定部位に前記マーカー配列を組み込むこと、及び
前記細胞中の前記標的ゲノムDNA領域及び前記マーカー配列を含む融合DNA配列の測定値に基づいて、前記薬剤又は放射線照射の治療効果を判定すること
を含む方法。
項13.前記判定することが、
前記細胞の前記融合DNA配列の量が、基準値に比べて多い場合に、前記薬剤又は放射線照射が十分な治療効果を示す可能性が高いと判定するか、又は
前記細胞の前記融合DNA配列の量が、基準値に比べて同じか又は低い場合に、薬剤又は放射線照射が十分な治療効果を示す可能性が低いと判定することを含む、項12に記載の方法。
項14.前記細胞が腫瘍細胞である項12又は13に記載の方法。
項15.前記薬剤が抗がん剤である項12又は13に記載の方法。
項16.疾患の判定方法であって、
部位特異的ヌクレアーゼにより、細胞内の標的ゲノムDNA領域の二本鎖を特定部位で切断すること、
細胞に、マーカー配列を含むドナーベクターを導入し、相同組換えにより、標的ゲノムDNA領域の二本鎖の前記切断された特定部位にマーカー配列を組み込むこと、及び
細胞中の標的ゲノムDNA領域及びマーカー配列を含む融合DNA配列の測定値に基づいて、疾患を判定すること
を含む方法。
本発明の方法によれば、対象より採取した細胞及び初代培養細胞を含む任意の細胞の、内在性ゲノムにおける任意に選択可能な領域におけるDNA二本鎖切断の相同組換え修復活性を、直接評価することができる。このため、より少ない制約で、生理的な細胞の相同組換え修復能をより正確に反映した相同組換え修復活性の評価が可能となる。
本発明の細胞における相同組換え修復活性の測定方法を説明する模式図。 ACTB遺伝子の核酸配列及びドナーベクターの模式図。ドナーベクターはACTB遺伝子に対する2つのホモロジーアームの間に3xFLAG遺伝子を含む。黄色で強調したgRNAの標的配列(CCGCAA…TAGGCG)をACTBの停止コドン(下線部)周囲のアンチセンス鎖に配置する。二本鎖切断は停止コドンから10bp塩基上流であって、かつPAM配列の3bp下流で生じる(はさみで示した箇所)。ドナーベクターは5’ 及び3’アームと、停止コドンのすぐ上流に白抜きで示したマーカー配列とを含む。 (A)免疫沈降によるHeLa細胞におけるβ−アクチン及び3xFLAG融合遺伝子の検出、(B)免疫沈降によるHEK-293K細胞におけるβ−アクチン及び3xFLAG融合遺伝子の検出、(C)HeLa細胞におけるRACK1及び3xFLAG融合遺伝子の検出、(D)及び(E)フローサイトメトリー及び蛍光顕微鏡によるβ−アクチン及びmClover融合遺伝子の検出。エラーバーは3回の独立した実験の平均誤差(SEM)を示す。スケールバー:50μm。Input: 免疫沈降しないライセート、IP:免疫沈降、WB:ウェスタンブロッティング、scr:スクランブル配列。 各アッセイ形式のためのトランスフェクションプロトコル。 (A)β−アクチン及び3xFLAGの発現に対するBRCA1ノックダウン及びレスキューの影響。BRCA1の3'-UTRに対するsiRNAをHA標識した野生型BRCA1 (HA-BRCA1 WT)、C39Y、C61G及びΔNに対する発現ベクター、又は空のベクターにより1回目のトランスフェクション(プロトコル1)でトランスフェクトした。細胞をATCTB-Cas9及びドナーベクターのトランスフェクションの72時間後に採集した。(B)BARD1ノックダウンのβ−アクチン及び3xFLAGの発現に対する影響。BARD1に対するsiRNAを1回目のトランスフェクション(プロトコル1)でトランスフェクトした。細胞をATCTB-Cas9及びドナーベクターのトランスフェクションの72時間後に採集した。(C)実験で用いたBRCA1の変異体の略図。(D)BRCA1ノックダウンがβ−アクチン及びmCloverの発現に及ぼす影響。BRCA1の3'-UTRに対するsiRNAを1回目のトランスフェクション(プロトコル2)でトランスフェクトした。2回目のトランスフェクションで、siRNAをATCTB-Cas9及びドナーベクターでトランスフェクトし、細胞をトランスフェクションの72時間後に採集した。縦軸は全細胞に対する融合遺伝子産物を発現する細胞の割合(%)を示す。エラーバーは3回の独立した実験の平均誤差(SEM)を示す。 本発明によるアッセイシステムのための定量PCR形式。(A)ノックイン及びプライマーデザインの略図。ドナーベクターは200bp長の5’アーム及び3’アームと、マーカーとしてのmCloverとを含む。融合遺伝子の増幅のため、フォワードプライマーはmClover内、リバースプライマーはACTB内に配置し、これは3’アームの相同配列の範囲外であった。二本鎖切断よりも上流に位置するプライマー対を参照として用いた。(B)半定量PCRの電気泳動イメージ。半定量PCRにより、ACTB-Cas9及びドナーベクターでトランスフェクトした細胞において融合タンパク質が特異的に増幅されていることが明らかとなった。ACTB-Cas9及びドナーベクターでのトランスフェクションの72時間後にゲノムDNAを抽出した。矢印及び矢頭はそれぞれ融合アンプリコン及び参照アンプリコンを示す。 (A)定量PCRによる融合遺伝子の検出。ACTB-Cas9及びドナーベクターでのトランスフェクションの24、36、48、及び72時間後にゲノムDNAを抽出した。72時間のサンプルを対照として用いて融合遺伝子の相対量を計算した。エラーバーは3回の独立した実験の平均誤差(SEM)を示す。n.s.:有意差なし。(B)qPCR形式を用いたBRCA1変異体のHR活性の定量化。ACTB-Cas9及びドナーベクターでのトランスフェクションの72時間後にゲノムDNAを抽出した(図4のプロトコル1)。対照siRNA及び対照としての空のベクターでトランスフェクトしたサンプルを用いて融合遺伝子の相対量を計算した。エラーバーは3回の独立した実験の平均誤差(SEM)を示す。BRCA1-WTに対する有意差(p<0.01)を星印(*)で示す。(C)qPCR形式を用いたBRCA1-I26A変異体のHR活性の定量化。実験は図7(B)に記載しているように行った。エラーバーは3回の独立した実験の平均誤差(SEM)を示す。(D)WB形式におけるBRCA1-I26A変異体のHR活性の定量化の分析。siRNA及びプラスミドを図4のプロトコル1に従ってトランスフェクトし、2回目のトランスフェクションの72時間後に収穫した。 BRCA1欠損細胞におけるBRCA1強制発現による相同組換え修復活性への影響を示す定量的PCRの結果を示す図。縦軸はBRCA1の発現抑制及び外来性BRCA1の発現がない状態に対する融合遺伝子量を示す。 qPCRによるRAD51非結合の遺伝子座におけるノックインの検出。(A)ノックイン及びプライマー設計の略図。ドナーベクターは200bp長の5’アーム及び3’アームと、マーカーとしてのmCloverとを含む。融合遺伝子の増幅のため、フォワードプライマーはmClover内、リバースプライマーはKLF7座内に配置し、これは3’アームの相同配列の範囲外であった。二本鎖切断よりも上流に位置するプライマー対を参照として用いた。3’相同配列に配置されたフォワードプライマー及び融合アンプリコンに使用されるリバースプライマーを参照として用いた。(B)半定量PCRの電気泳動イメージ。KLF7-Cas9及びドナーベクターでのトランスフェクションの72時間後にゲノムDNAを抽出した。矢印及び矢頭はそれぞれ融合アンプリコン及び参照アンプリコンを示す。(C)KLF7座におけるHRの定量化2回目のトランスフェクションの48時間後にゲノムDNAを抽出した。融合遺伝子の量を対照siRNAでトランスフェクトした細胞に対して計算した。エラーバーは3回の独立した実験の平均誤差(SEM)を示す。n.s.は有意差なし。(D)(C)で調製したサンプルのWB分析。 (A)ノックインはHRまたはNHEJ因子に依存する。(A)β-アクチン及び3xFLAGの発現に対するRAD51、53BP1又はLIG4のノックダウンの影響。トランスフェクションは図4のプロトコル1に従って行った。(B)及び(C)RAD51、53BP1又はLIG4のノックダウン細胞のACTB座(B)又はKLF7座(C)におけるノックインのqPCR分析。ACTB-Cas9及びドナーベクターでのトランスフェクションの48時間後にゲノムDNAを抽出した(図4のプロトコル1)。融合遺伝子の量を対照siRNAでトランスフェクトしたサンプルに対して計算した。エラーバーは3回の独立した実験の平均誤差(SEM)を示す。対照siRNAでトランスフェクトしたサンプルに対する有意差を星印で示す。*:p<0.05、**:p<0.01、n.s.:有意差なし。 (A)オラパリブ感受性試験のプロトコル。(B)HeLa細胞にBRCA1発現ベクターをトランスフェクトした場合のqPCRによる融合遺伝子の相対量のグラフ。(C)HeLa細胞に野生型BRCA1発現ベクター又は各変異型BRCA1発現ベクターをトランスフェクトした場合の各種オラパリブ濃度におけるHeLa細胞の相対生存率のグラフ。(D)オラパリブ感受性が高かった3種の細胞株の各種濃度に対する細胞生存率のグラフ。(E)DR-GFPアッセイ。
本発明は細胞における相同組換え修復活性の測定方法に関し、特にはゲノム編集技術を用いた細胞における相同組換え修復活性の測定方法に関する。
本発明は、細胞における相同組換え修復活性の測定方法であって、
部位特異的ヌクレアーゼにより、細胞内の標的ゲノムDNA領域の二本鎖を特定部位で切断すること、
細胞に、マーカー配列を含むドナーベクターを導入し、相同組換えにより、標的ゲノムDNA領域の二本鎖の切断された特定部位にマーカー配列を組み込むこと、及び
細胞中の標的ゲノムDNA領域及びマーカー配列を含む融合DNA配列を測定することからなる方法を包含する。
本発明の相同組換え修復活性の測定方法はインビトロにおける相同組換え修復活性の測定方法である。
本明細書において、細胞は、対象から採取した細胞であり、培養細胞を含む。細胞は、対象から単離した単離細胞ということもできる。「対象」とは、特に記載した場合を除き、ヒトを含む動物を意味する。好ましくは、対象は哺乳動物であり、より好ましくは対象はヒトである。
培養細胞には、初代培養細胞及び継代培養細胞(安定して継代培養できる継代培養細胞である細胞株を含む)が含まれる。
細胞の種類は特に限定されず、測定目的に応じて正常細胞であっても腫瘍細胞であってもよい。腫瘍細胞では、例えば頭頚部がん、消化器がん、肺がん(非小細胞肺がん、小細胞肺がんなど)、乳がん、卵巣がん、子宮がん(子宮頚がん、子宮体がんなど)、腎がん、及び前立腺がん、皮膚がん、悪性黒色腫、中皮腫、肉腫、白血病、リンパ腫及び神経膠腫からなる群から選択される少なくとも一種である。消化器がんとしては、例えば食道がん、胃がん、十二指腸がん、肝臓がん、胆道がん(胆嚢・胆管がんなど)、膵臓がん、小腸がん、大腸がん(結腸がん、直腸がんなど)が挙げられる。
測定対象(標的)となるゲノムDNA領域は、ウェスタンブロット、免疫沈降、フローサイトメトリーなどを検出に用いる場合、測定対象である細胞で発現する遺伝子である必要がある。定量PCRを検出に用いる場合は、測定対象(標的)となるゲノムDNA領域は特に限定されない。ウェスタンブロット、免疫沈降、フローサイトメトリーなどを用いて、融合DNA配列の翻訳産物を検出する場合、細胞中で共通して一定量発現する遺伝子であるという点から、標的ゲノムDNA領域はハウスキーピング遺伝子が好ましい。ハウスキーピング遺伝子としては、ACTB、GUSB、TRPL19、PSMC4、SF3A1、PUM1、GAPD、RPLP0及びTFRCなどが挙げられるがこれらに限定されない。定量PCRなどを用いて融合DNA配列を検出する場合、融合DNA配列を特異的に検出可能であれば、標的ゲノムDNA領域はゲノム内の任意の領域とすることができる。
部位特異的ヌクレアーゼとしては、公知の部位特異的ヌクレアーゼのみならず、今後遺伝子ターゲッティングのために使用される新たな部位特異的ヌクレアーゼも包含される。公知の部位特異的ヌクレアーゼとしては、例えばCRISPR/Cas (Clustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeats / CRISPR associated proteins 9)、TALEヌクレアーゼ(Trancription Activator-Like Effector Nucleases, TALEN)、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(Zinc Finger Nuclease, ZFN)などが挙げられる。これらのゲノム編集用ヌクレアーゼを用いることにより、ゲノム領域の特定部位で二本鎖切断を行うことができ、次いで、細胞にマーカー配列を含むドナーベクターを導入することで、ゲノム編集を行うことができる。ゲノム編集は、ゲノム領域の特定部位、例えば特定の遺伝子座において二本鎖切断を生じさせ、切断した箇所にゲノムの改変を加えて細胞へ導入する方法をいう。ゲノム編集には、内在性のゲノム領域の改変に相同組換え技術を用いる遺伝子工学的手法である遺伝子ターゲッティングの手法が用いられる。中でもCRISPR/Casが好ましい。
遺伝子ターゲティング用ベクターとして、CRISPR/Cas、TALEヌクレアーゼ(TALEN)、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)などを搭載した部位特異的ヌクレアーゼの発現用ベクターを使用することができる。かかる発現用ベクターは市販品を利用することができる。
ドナーベクターに含まれるマーカー配列は、ウェスタンブロット、フローサイトメトリーなどを用いて融合DNA配列の翻訳産物を検出する場合、マーカーとしての特定のタンパク質又はペプチドの全部又は一部をコードする、ポリヌクレオチド配列である。しかし、定量PCRなどを用いて融合DNA配列そのものを検出する場合、マーカー配列は、定量PCRで検出可能な程度に特異的なポリヌクレオチド配列であればよく、特定のタンパク質又はペプチドの全部又は一部、特にはタンパク質又はペプチドのコード領域の全部又は一部に相当するコード配列である必要はない。マーカー配列としては、2以上のアミノ酸からなるポリペプチドタグをコードするポリヌクレオチド配列、レポーター遺伝子であるポリヌクレオチド配列、ハプテンをコードするポリヌクレオチド配列、薬剤耐性因子をコードするポリヌクレオチド配列、非機能性の人工ポリヌクレオチド配列などが挙げられるがこれらに限定されない。
ポリペプチドタグとしては、GST、MBP、NusA、チオレドキシン、ユビキチン、FLAG、HA、Myc、BAP、6xHIS、STREP、CBP、CBDなどが挙げられるがこれらに限定されない。
レポーター遺伝子としては、ルシフェラーゼ(luxA、luxB、luxAB、luc、ruc、nluc)などの発光酵素、アルカリホスファターゼ、lacZ、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)などの化学発光基質を変換する酵素、緑色蛍光タンパク質(GFP)、増強緑色蛍光タンパク質(eGFP及びmClover)、黄色蛍光タンパク質(YFP)、増強黄色蛍光タンパク質(eYFP)、赤色蛍光タンパク質(RFP)、シアン蛍光タンパク質(CFP)、増強シアン蛍光タンパク質(eCFP)、青色蛍光タンパク質(BFP)、mCherryなどの蛍光タンパク質、ampC、CAT、ermなどの選択マーカーなどの遺伝子が挙げられるがこれらに限定されない。
薬剤耐性因子としてはクロラムフェニコール、テトラサイクリン、エリスロマイシン、ネオマイシン、カナマイシンなどが挙げられるがこれらに限定されない。
レポーター遺伝子を初めとするマーカー遺伝子の種類を適宜選択することにより、様々な検出法を用いることができ、薬剤開発に必要なハイスループットアッセイにも応用可能である。
ドナーベクターは、標的ゲノムDNA領域の二本鎖の切断された特定部位に相同組換えにより組み込まれる相同DNAポリヌクレオチド配列アーム(以下、単に「相同DNAポリヌクレオチド配列」とも称する)を有する。
相同DNAポリヌクレオチド配列アームと標的ゲノムDNA領域の切断部位の両端との間の10から2,000ヌクレオチド(又は任意の整数値のそれらの間のヌクレオチド、例えば約10、20、50、100、200、500、750、1000、1500、2000ヌクレオチド)又はそれ以上の長さのヌクレオチドの配列相同性により、それらの間の相同組換えが支援される。相同DNAポリヌクレオチド配列は、10から5000ヌクレオチド(又は任意の整数値のそれらの間のヌクレオチド)又はそれ以上の長さの範囲であり得る。相同組換えの効率の点で、好ましくは、相同DNAポリヌクレオチド配列の長さは100から5000ヌクレオチドである。また、定量PCRを行う場合、好ましくは相同DNAポリヌクレオチド配列の長さは100〜10000ヌクレオチド、より好ましくは100から500ヌクレオチドである。
相同DNAポリヌクレオチド配列アームは、マーカー配列の両側に隣接して、標的ゲノムDNA領域の切断された二本鎖の2つの末端と相同性の高い配列を有する二本鎖DNAポリヌクレオチドからなる領域を備えていることが好ましい。好ましくは、相同DNAポリヌクレオチド配列は、標的ゲノムDNA領域の切断された、各々が二本鎖からなる前記ゲノムDNA領域の2つの末端のDNA領域と相同組換えが起こる程度に相同な配列を有する2つの二本鎖DNA領域と、当該2つの二本鎖DNA領域の間に挟まれた上記マーカー配列とを有する。
相同DNAポリヌクレオチド配列アームのマーカー配列の両側の上記2つの二本鎖DNAからなる2つの領域の一方又は両方の配列は、通常、標的ゲノムDNA領域の対応する配列と同一ではない。例えば、標的ゲノムDNA領域の対応する配列との十分な相同性が存在する限り、2つの二本鎖DNA領域の各々の配列は、標的ゲノムDNA領域の対応する配列に対して、1つ又は複数の単一塩基変更、挿入、欠失、逆位又は再編成を含有することができる。全般的に、相同DNAポリヌクレオチド配列アームの2つの二本鎖DNA領域の各々の配列は、標的ゲノムDNA領域の対応する配列に対して50%以上の配列同一性を有する。特定の実施形態では、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、95%以上、98%以上、99%以上又は99.9%以上の配列同一性を有する。
ここで「相同性」とは、当該技術分野において公知の数学的アルゴリズムを用いて2つの塩基配列をアラインさせた場合の最適なアラインメント(好ましくは、該アルゴリズムは最適なアラインメントのために配列の一方もしくは両方へのギャップの導入を考慮し得る)における、オーバーラップする全塩基に対する同一塩基の割合(%)を意味する。
塩基配列の相同性を決定するための他のアルゴリズムとしては、例えば、Karlinら,Proc. Natle. Adcad. Sci. USA, 90:5873-5877(1993)に記載のアルゴリズム、Needlemanら,J. Mol. Biol., 48-444-453(1970)に記載のアルゴリズム、Myers及びMiller, CABIOS, 4:11-17(1988)に記載のアルゴリズム、Pearsonら,Proc.Natl. Acad. Scie. USA, 85: 2444-2448(1988)に記載のアルゴリズムが挙げられるが、それらに限定されない。
ドナーベクターはさらに、大腸菌などの宿主を用いて増幅し、単離精製することができるよう、複製起点、プロモータ、及び薬剤耐性遺伝子などのさらなる配列を有することができる。
ヌクレアーゼ発現用ベクター及びドナーベクターとしては、プラスミドベクター、ウイルスベクター、人工染色体ベクター、コスミドベクターなどを使用することができる。
また、ベクターを構成する成分としては、DNA、RNAなどの核酸、GNA、LNA、BNA、PNA、TNAなどの核酸アナログなどを用いても良い。
上記のマーカー配列は、相同組換えにより、標的ゲノムDNA領域の二本鎖の切断された特定部位に組み込まれる。
図1は、本発明の細胞における相同組換え修復活性の測定方法を説明する模式図である。
部位特異的ヌクレアーゼとしてCRISPR/Cas9を備えた遺伝子ターゲティング用ベクター(1)を用いる。細胞内の内在性の標的ゲノムDNA領域はACTB遺伝子(2)である。
まず、遺伝子ターゲティング用ベクターからguide RNA (gRNA)(3)とCas9ヌクレアーゼ(4)が発現する。gRNA(3)がCas9ヌクレアーゼ(4)を、相補的塩基対を形成できる標的配列に先導し、Cas9ヌクレアーゼ(4)は5'-NGGプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)(5)の上流でACTB遺伝子(2)のゲノムDNAを二本鎖切断する。
他方、ドナーベクター(6)は、2つの相同DNAポリヌクレオチド配列アーム (8)に挟まれたマーカー遺伝子の配列であるマーカー配列 (9)からなるドナーDNA(7)を備えている。2つの相同DNAポリヌクレオチド配列アーム (8)とマーカー3xFLAG配列(9)は隣接している。相同DNAポリヌクレオチド配列アーム (8)のうち、左側の相同DNAポリヌクレオチド配列アーム (c)と、二本鎖切断されたACTB遺伝子(2)の末端のうち左側の末端(a)の配列は相同性が高く、右側の相同DNAポリヌクレオチド配列アーム (d)と、二本鎖切断されたACTB遺伝子(2)の末端のうち右側の末端(b)の配列は相同性が高い。
このため、相同組換えが起こると、ドナーDNA(7)がACTB遺伝子(2)における末端(a)及び末端(b)に渡る領域で入れ替わり、マーカー配列 (9)が二本鎖切断部位でACTB遺伝子(2)に組み込まれる。本発明では、相同組換えにより生じたマーカー配列と標的遺伝子の融合遺伝子 (10)を測定する。
融合DNA配列(以下、特には融合遺伝子)の測定には、融合DNA配列(融合遺伝子)の存在の測定、融合DNA配列(融合遺伝子)の濃度の測定、融合DNA配列(融合遺伝子)の量の測定、又は融合DNA配列(融合遺伝子)のシグナル強度の直接的又は間接的な測定が含まれる。
融合DNA配列(融合遺伝子)の量の測定には、融合DNA配列(融合遺伝子)の量の測定、融合DNA配列(融合遺伝子)の翻訳産物であるタンパク質の量の測定、及びその両方の測定が含まれる。
融合DNA配列の存在量の測定には、公知の核酸の定量的測定法を使用することができる。そのような例として、ゲル電気泳動、各種の分離精製法(例:イオン交換クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィーなど)、表面プラズモン共鳴法、イオン化法(例:電子衝撃イオン化法、フィールドディソープション法、二次イオン化法、高速原子衝突法、マトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)法、エレクトロスプレーイオン化法など)、PCR、及び質量分析計(例:二重収束質量分析計、四重極型分析計、飛行時間型質量分析計、フーリエ変換質量分析計、イオンサイクロトロン質量分析計、免疫質量分析計、安定同位体を内部標準にした質量分析計、免疫顕微鏡計など)などの技術が挙げられ、これらを単独で又は組み合わせて使用することができる。これらの特異的核酸定量法、PCR及び質量分析によれば、相同組換え修復の結果として生じる遺伝子を、転写及び翻訳を介せずとも、DNAを直接、迅速かつ高い精度に検出することができ、標的ゲノムDNA領域はコード配列である必要はなく、コード配列と非コード配列の相同組換え修復活性を比較することも可能である。
定量PCR法での測定法は本発明における融合DNA配列の量の測定法の特に好ましい態様である。相同組換え活性は、相同DNAポリヌクレオチド配列が1000ポリヌクレオチド以上の場合は効率がよいが、1000ポリヌクレオチド未満になると著しく低下することが報告されている(KungらApplied and Environmental Micrbiology,79:1712-1717(2013))。このため、PCR産物の長さが100-200bp程度の場合に検出感度が最も良い定量PCRを、相同組換え活性の評価に使用することは困難であると考えられていた。
しかしながら予想外なことに、本発明者らは、定量PCR法で相同DNAポリヌクレオチド配列の長さを約200ポリヌクレオチドとした場合、相同組換え活性は著しく低下し、ウェスタンブロット、フローサイトメトリーなどを用いて融合DNA配列(特には融合遺伝子)の産物の発現を検出する系ではほとんど融合DNA配列(融合遺伝子)の産物が検出できなかったのに対し、定量PCRでは十分に効率よく、融合DNA配列(融合遺伝子)を検出可能であることを見出した。
融合DNA配列(融合遺伝子)の量の測定に定量PCR法を用いる利点は主に3点ある。1点目は感度の高さである。ウェスタンブロッティングでの高感度法よりさらに1000倍以上の感度が期待でき、臨床検体や初代培養細胞など、遺伝子導入効率が低いサンプルでも、検出可能と考えられる。2点目は定量性である。正常細胞は2本のアリルを有するため、融合遺伝子を作成させたとき、相同組換え活性に応じて融合遺伝子が作成されないもの(融合遺伝子が0個)、片アリルのみ融合遺伝子となるもの(融合遺伝子が1個)、両アリルともに融合遺伝子となるもの(融合遺伝子が2個)の3種が生じる。フローサイトメトリーでは個々の細胞で判定されるため、軽度の相同組換え修復障害によって片アリルのみが融合遺伝子となる細胞が増加する場合、判定が困難となる可能性がある。ウェスタンブロッティング及び定量PCR法では細胞集団内の融合遺伝子産物量又は融合遺伝子量を計測するため、上記の問題は生じにくい。しかし、ウェスタンブロッティングは半定量試験である。よって、定量PCR法が最も定量性が高いと考えられる。3点目は簡便性及び優れた再現性である。フローサイトメトリー及びウェスタンブロッティングに比べて定量PCR法は、非熟練者でも容易に実行できる。また、内部標準を用いて補正を行うため、サンプル間の誤差の標準化が容易で、結果の再現性が高い。また、機械を用いた自動化への対応も容易である。
融合DNA配列(融合遺伝子)の翻訳産物であるタンパク質の量の測定には、公知のタンパク質の定量的測定法を使用することができる。そのような例として、ウェスタンブロット、フローサイトメトリー、ELISA(酵素結合免疫吸着測定法)、ルシフェラーゼアッセイ、薬剤耐性コロニーアッセイ、質量分析法などの技術が挙げられ、これらを単独で又は組み合わせて使用することができる。
上記の本発明の方法によれば、部位特異的ヌクレアーゼを用いて、任意の細胞の標的となる内在性ゲノムDNA領域に部位特異的なDNA二本鎖切断を作成し、マーカー配列を含む相同組換え基質DNA断片と標的の内在性ゲノムDNA領域間の相同組換えによって、標的ゲノムDNA領域とマーカー配列の融合DNA配列を生じさせる。そして、この融合DNA配列の作成効率を、当該細胞における細胞の相同組換え修復活性として定量する。
このため、臨床検体由来の初代培養細胞を含む任意の細胞で、内在性ゲノムDNA領域、特には標的遺伝子座における相同組換え修復活性を、安価かつ容易に、直接高精度に定量することができる。
本発明の新規な相同組換え修復活性の測定方法と、網羅的shDNAライブラリ、プロテオーム解析などとを組み合わせることで、これまで知られていなかった相同組換え修復因子を同定し、新たなDNA修復機構の解明に繋がる可能性がある。
本発明はまた、相同組換え修復活性を促進又は阻害する化合物をスクリーニングする方法であって、
細胞を被験化合物と接触させること、
部位特異的ヌクレアーゼにより、前記細胞内の標的ゲノムDNA領域の二本鎖を特定部位で切断すること、
前記細胞に、マーカー配列を含むドナーベクターを導入し、相同組換えにより、前記標的ゲノムDNA領域の二本鎖の前記切断された特定部位に前記マーカー配列を組み込むこと、及び
前記細胞中の前記標的ゲノムDNA領域及び前記マーカー配列を含む融合DNA配列の測定値に基づいて、前記化合物が、相同組換え修復活性を促進又は阻害する化合物であるか否かを判定すること
を含む方法を包含する。
部位特異的ヌクレアーゼ、マーカー配列を含むドナーベクター、及び融合DNA配列の測定方法については、本発明の細胞における相同組換え修復活性の測定方法に関して上述した通りである。
細胞の種類は特に限定されず、測定目的に応じて正常細胞であっても腫瘍細胞であってもよい。腫瘍細胞では、例えば頭頚部がん、消化器がん、肺がん(非小細胞肺がん、小細胞肺がんなど)、乳がん、卵巣がん、子宮がん(子宮頚がん、子宮体がんなど)、腎がん、及び前立腺がん、皮膚がん、悪性黒色腫、中皮腫、肉腫、白血病、リンパ腫及び神経膠腫からなる群から選択される少なくとも一種である。消化器がんとしては、例えば食道がん、胃がん、十二指腸がん、肝臓がん、胆道がん(胆嚢・胆管がんなど)、膵臓がん、小腸がん、大腸がん(結腸がん、直腸がんなど)が挙げられる。
一実施形態では、細胞は遺伝子変異を有する細胞である。同じ遺伝子内に1〜数個の塩基の変異を有する異なる複数の細胞の各々について相同組換え修復活性を測定することで、細胞を被験化合物を接触させたときの相同組換え修復活性の変化と変異との関係を検討することができる。
一実施形態では、上記の修復活性を活性化又は阻害する化合物としては、例えばキナーゼ阻害薬、プロテアーゼ阻害薬などの小分子化合物、及び核酸医薬などが挙げられる。核酸医薬としてはsiRNA、アンチセンスポリヌクレオチド、microRNA、アプタマー、デコイなどが挙げられる。
別の実施形態では、上記の修復活性を活性化又は阻害する化合物としては、アルキル化薬、タキサン系製剤、抗腫瘍性抗生物質、プラチナ製剤、トポイソメラーゼ阻害薬、微小管重合阻害薬、微小管脱重合阻害薬、分子標的薬などが挙げられる。これらの化合物は抗がん剤として機能し得る。
分子標的薬としては、低分子分子標的薬、抗体医薬、核酸医薬、mTOR阻害薬、ラパマイシン誘導体静注薬、カルシニューリン阻害薬などが挙げられるがこれらに限定されない。
低分子分子標的薬としては、キナーゼ阻害剤、PARP阻害剤、プロテアソーム阻害剤阻害剤、HDAC阻害剤などが挙げられるがこれらに限定されない。
核酸医薬は天然型ヌクレオチドまたは化学修飾型ヌクレオチドを基本骨格とする薬物であり、アンチセンスオリゴヌクレオチド、siRNA、microRNA、アプタマー、デコイなどが挙げられるがこれらに限定されない。
一実施形態において、上記判定することは、細胞を被験化合物と接触させた場合の融合DNA配列の量が、基準値に比べて多い場合に、被験化合物を相同組換え修復活性を促進する化合物と判定することを含む。
一実施形態において、上記基準値は、細胞を被験化合物と接触させない場合の融合DNA配列の量である。別の実施形態において、上記基準値は、例えば被験体と接触させる細胞と同種の複数の細胞を被験化合物と接触させた場合の、融合DNA配列の相同組換え修復活性を促進する量の平均値又は中央値、若しくはその関数(例えば当該平均値又は中央値に係数を乗じた値)である。このような適当な基準値の計算方法は、当技術分野でよく知られている。
別の実施形態において、上記判定することは、細胞を被験化合物と接触させた場合の融合DNA配列の量が、基準値に比べて少ない場合に、被験化合物を相同組換え修復活性を阻害する化合物と判定することを含む。
一実施形態において、上記基準値は、細胞を被験化合物と接触させない場合の融合DNA配列の量である。別の実施形態において、上記基準値は、例えば被験体と接触させる細胞と同種の複数の細胞を、被験化合物と接触させた場合の、融合DNA配列の相同組換え修復活性を阻害する量の平均値又は中央値、若しくはその関数(例えば当該平均値又は中央値に係数を乗じた値)である。このような適当な基準値の計算方法は、当技術分野でよく知られている。
上記の本発明のスクリーニング方法によれば、相同組換え活性に影響を及ぼす薬剤のスクリーニングが可能となる。本発明を用いて同定される相同組換え活性を阻害する薬剤が、それ自体抗がん剤としての治療効果を有する可能性を検討できるだけでなく、抗がん剤や放射線治療に対する効果を増大させる増感剤となり得るかも検討することができる。また、本発明を用いて同定される相同組換え活性を賦活化する薬剤は、抗がん剤や放射線治療に対する有害事象の軽減及び治療に用いられる可能性がある他、放射線障害に対する防護薬となり得る可能性がある。
本発明はまた、薬剤又は放射線照射の治療効果の予測方法であって、
部位特異的ヌクレアーゼにより、薬剤又は放射線照射を施した細胞内の標的ゲノムDNA領域の二本鎖を特定部位で切断すること、
細胞に、マーカー配列を含むドナーベクターを導入し、相同組換えにより、標的ゲノムDNA領域の二本鎖の前記切断された特定部位にマーカー配列を組み込むこと、及び
細胞中の標的ゲノムDNA領域及びマーカー配列を含む融合DNA配列の測定値に基づいて、薬剤の治療効果を判定すること
を含む方法を包含する。
部位特異的ヌクレアーゼ、マーカー配列を含むドナーベクター、及び融合DNA配列の測定方法については、本発明の細胞における相同組換え修復活性の測定方法に関して上述した通りである。
細胞は、対象に薬剤又は放射線照射を施した後、対象から採取した細胞であることもできるし、薬剤又は放射線照射を施した培養細胞であることもできる。
細胞の種類は特に限定されず、測定目的に応じて正常細胞であっても腫瘍細胞であってもよい。腫瘍細胞では、例えば頭頚部がん、消化器がん、肺がん(非小細胞肺がん、小細胞肺がんなど)、乳がん、卵巣がん、子宮がん(子宮頚がん、子宮体がんなど)、腎がん、及び前立腺がん、皮膚がん、悪性黒色腫、中皮腫、肉腫、白血病、リンパ腫及び神経膠腫からなる群から選択される少なくとも一種である。消化器がんとしては、例えば食道がん、胃がん、十二指腸がん、肝臓がん、胆道がん(胆嚢・胆管がんなど)、膵臓がん、小腸がん、大腸がん(結腸がん、直腸がんなど)が挙げられる。
一実施形態では、細胞は遺伝子変異を有する細胞である。同じ遺伝子内に1〜数個の塩基の変異を有する異なる複数の細胞の各々について相同組換え修復活性を測定することで、薬剤又は放射線照射を施したときの相同組換え修復活性の変化と変異との関係を検討することができる
上記の薬剤としては、例えば抗がん剤が挙げられる。好ましい抗がん剤としては、アルキル化薬、タキサン系製剤、抗腫瘍性抗生物質、プラチナ製剤、トポイソメラーゼ阻害薬、微小管重合阻害薬、微小管脱重合阻害薬、分子標的薬などが挙げられる。
アルキル化薬としては、シクロホスファミド、イホスファミド、メルファラン、ブスルファン、テオテパなどのナイトロジェンマスタード;ニムスチン、ラニムスチン、ダカルバジン、プロカルバシン、テモゾロマイド、カルムスチン、ストレプトゾトシン、ベンダムスチンなどのニトロソウレア;などが挙げられるがこれらに限定されない。
抗腫瘍性抗生物質としては、マイトマイシンC、アントラサイクリン(例:ドキソルビシン、エピルビシン、ダウノルビシン)、ブレオマイシンなどが挙げられるがこれらに限定されない。
プラチナ製剤としては、シスプラチン、カルボプラチン、オキサリプラチン、ネダプラチンなどが挙げられるがこれらに限定されない。
トポイソメラーゼ阻害薬としては、カンプトテシンとその誘導体(例:イリノテカン、ノギテカン)、アンスラサイクリン(例:ドキソルビシン)、エピポドフィロトキシン(例:エトポシド)、キノロン系阻害剤(例:レボフロキサシン、シプロフロキサシン)などが挙げられるがこれらに限定されない。
微小管重合阻害薬としては、ビンカアルカロイド(例:ビンブラスチン、ビンクリスチン、ビンデシン)が挙げられるがこれに限定されない。
微小管脱重合阻害薬としては、タキサン系製剤(例:パクリタキセル、ドセタキセル)が挙げられるがこれに限定されない。
分子標的薬としては、低分子分子標的薬、抗体医薬、核酸医薬、TNF阻害薬、インターロイキン阻害薬、T細胞阻害薬、mTOR阻害薬、ラパマイシン誘導体静注薬、カルシニューリン阻害薬などが挙げられるがこれらに限定されない。
低分子分子標的薬としては、キナーゼ阻害剤(例:イマチニブ、ニロチニブ、エルロチニブ、ゲフィチニブ、アファチニブ、オシメルチニブ、スニチニブ、ダサチニブ、イブルチニブ、ソラフェニブ、ベムラフェニブ、トラメチニブ、パルボシクリブ)、PARP阻害剤(例:オラパリブ)、プロテアソーム阻害剤阻害剤(例:ボルテゾミブ、カルフィルゾミブ)、HDAC阻害剤(例:ボリノスタット他)などが挙げられるがこれらに限定されない。
抗体医薬としては、トラスツズマブ、リツキシマブ、セツキシマブ、ニボルマブ、ペルツズマブなどが挙げられるがこれらに限定されない。
核酸医薬は天然型ヌクレオチドまたは化学修飾型ヌクレオチドを基本骨格とする薬物であり、アンチセンスオリゴヌクレオチド、siRNA、microRNA、アプタマー、デコイなどが挙げられるがこれらに限定されない。
上記の放射線照射としては、ガンマ線、X線、電子線、ベータ線、アルファ線、重粒子線などを用いた照射が挙げられる。
一実施形態において、上記判定することは、細胞における融合DNA配列の量が基準値と比べて少ない場合に、薬剤又は放射線照射が十分な治療効果を示す可能性が高いと判定することを含む。基準値は、例えば、融合DNA配列の量を測定する細胞と同種の複数の細胞において薬剤投与又は放射線照射を施した場合の、融合DNA配列の治療効果を示す量の平均値又は中央値、若しくはその関数(例えば当該平均値又は中央値に係数を乗じた値)である。このような適当な基準値の計算方法は、当技術分野でよく知られている。
別の実施形態において、上記判定することは、細胞における融合DNA配列の量が基準値と比べて同等又は多い場合に、薬剤又は放射線照射が十分な治療効果を示す可能性が低いと判定することを含む。基準値は、例えば、融合DNA配列の量を測定する細胞と同種の複数の細胞において薬剤投与又は放射線照射を施した場合の、融合DNA配列の治療効果を示さない量の平均値又は中央値、若しくはその関数(例えば当該平均値又は中央値に係数を乗じた値)である。このような適当な基準値の計算方法は、当技術分野でよく知られている。
上記の本発明の薬剤又は放射線照射の治療効果の予測方法によれば、細胞に対する薬剤又は放射線照射の治療効果の予測が可能となる。また、薬剤又は放射線照射の有効症例の層別化のためのツールとして使用することができる。
本発明はまた、疾患の判定方法を包含する。例えば、遺伝性乳がん卵巣がん症候群では、原因遺伝子であるBRCA1とBRCA2の遺伝子診断が行われるが、塩基配列のみでは、点突然変異などではその病的な意義が不明なものがあり、確定診断ができない場合がある。しかし、BRCA1とBRCA2は共にそのがん抑制能に相同組換え修復が重要であると考えられていることから、本発明によって従来法よりもより簡便にその病的な意義を明らかにすることができる。
本発明の疾患の判定方法は、
部位特異的ヌクレアーゼにより、細胞内の標的ゲノムDNA領域の二本鎖を特定部位で切断すること、
細胞に、マーカー配列を含むドナーベクターを導入し、相同組換えにより、標的ゲノムDNA領域の二本鎖の前記切断された特定部位にマーカー配列を組み込むこと、及び
細胞中の標的ゲノムDNA領域及びマーカー配列を含む融合DNA配列の測定値に基づいて、疾患を判定すること
を含む。
疾患は好ましくはがんであり、より好ましくはがんは乳がん、卵巣がん、前立腺がん、又は膵がんである。
疾患の判定は、疾患の有無、疾患の発症の危険性の評価、疾患の重症度の判定、疾患の治療方法の選択、疾患の治療効果の評価、疾患の再発の有無、又は疾患の再発の危険性の評価を含む。
融合DNA配列の測定値が、基準値に対して低い場合、疾患の発症の危険性が高いと判定することができる。基準値は例えば、健常者の融合DNA配列の量の平均値又は中央値、若しくはその関数(例えば当該平均値又は中央値に係数を乗じた値)である。
また、融合DNA配列の量の測定値の時系列的変化を評価することで、DNA傷害性薬剤をはじめとする抗がん剤などによる化学療法前と比較して融合DNA配列の量が増大した時点で、その抗がん剤治療に耐性化した可能性が高いと判定することができる。
本明細書中に引用されているすべての特許出願及び文献の開示は、それらの全体が参照により本明細書に組み込まれるものとする。
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
1.方法
(1)細胞株及び培養
HEK-293細胞及びHeLa細胞はAmerican Type Culture Collection(アメリカ合衆国バージニア州マナサス)より購入した。U-2 OS細胞は東北大学加齢医学研究所の医用細胞資源センター・細胞バンク(日本国宮城県 仙台)より提供された。HEK-293細胞、HeLa細胞、及びU-2 OS細胞は8%ウシ血清アルブミンを補充したDulbecco改変Eagle培地(DMEM)に維持した。細胞はすべて5%CO2を含む大気中でインキュベートした。
(2)遺伝子ターゲティング用ベクターの作製
遺伝子ターゲティング用ベクターにはLentiCRISPR v2 (Addgene #52961)を用いた。標的ゲノムDNA領域であるACTB遺伝子、RACK1遺伝子、又はKLF7遺伝子に対するgRNAを発現するLentiCRISPR v2を寄託者の説明書に従って作成した。コントロールベクターは、ACTB遺伝子に対するgRNAの配列をランダムに並べ替えたスクランブルgRNAを発現するLentiCRISPR v2とした。ACTB、RACK1、及びKLF7に対するgRNAの配列を配列番号1〜3に示す。スクランブルgRNAの配列を配列番号4に示す。
(3)ドナーベクターの作製
ACTBに対するHRドナーベクターを構築するために、MCF-7のゲノムDNAから、ACTB遺伝子のコード配列の停止コドンに対して-1554から+1527の領域をPCRで増幅し、InFusion clonase (タカラバイオ 日本国滋賀県 草津)を用いてpBlueScript SKII(+)(Stratagene、アメリカ合衆国カリフォルニア州サンディエゴ)のEcoRVサイトにクローニングした。5'側のアーム(1555bp)の塩基配列を配列番号5に、3'側のアーム(1526bp)の塩基配列を配列番号6に示す。上記プラスミドを鋳型にして、ACTB遺伝子の終始コドンから始まるフォワードプライマー(配列番号7)と、終止コドンの直上から始まるリバースプライマー(配列番号8)を用いてPCRを行い、マーカー配列である3xFLAG(配列番号9)をコードするオリゴヌクレオチドとライゲーションして作成した。mCloverを含むドナーベクターの作成では、ACTB遺伝子の終始コドンから始まるフォワードプライマー(配列番号7)と、終止コドンの直上から始まるリバースプライマー(配列番号8)とによるPCR産物と、その両端に対する20塩基の相同配列を付加したプライマーセット(配列番号10及び11)で増幅したmClover遺伝子を、InFusion clonase (タカラバイオ 日本国滋賀県 草津)を用いて連結して作成した。
RACK1に対するHRドナーベクターを構築するためには、RACK遺伝子のコード配列の停止コドンに対して-1337から+1378の領域をpBlueScript SKII(+)でクローニングし、3xFLAGを停止コドンの5’側に挿入した。
KLF7に対するHRドナーベクターを構築するためには、GFPプライマー配列を含むプライマーを用いて二本鎖切断に対して-200から+200の配列を増幅し、増幅されたDNAをT4 DNAリガーゼを用いてpBlueScript SKII(+)でクローニングした。
定量PCR用のドナーベクターは、上記のmCloverを有するドナーベクターを鋳型として、フォワードプライマー(配列番号12)とリバースプライマー(配列番号13)のセットを用いて、相同DNAポリヌクレオチド配列アームをそれぞれ200塩基に短縮したものを作成した。
(4)相同組換えの方法
下記の各実施例でより詳細に説明するように、細胞に遺伝子ターゲティング用ベクター又はコントロールベクターと、ドナーベクターとの混合物をトランスフェクションし、72時間培養後に回収してサンプルとした。トランスフェクションにはポリエチレンイミン MAX(Polyscience、アメリカ合衆国ペンシルバニア州ワーリントン)を用いた。
(5)RNA干渉(iRNA)
BRCA1及びBARD1のノックダウンのために使用されるsiRNAはSilencer siRNA Construction Kit(Thermo-FisherScientific、アメリカ合衆国マサチューセッツ州ワルサム)を用いて合成した。RAD1、53BP1、及びLIG4のノックダウンのために使用されるsiRNAはIntegrated DNA technologies(アメリカ合衆国アイオワ州コーラルビル)から購入した。siRNAの標的配列は以下の通りであった:
BRCA1の3'-UTRに対する配列:aagguuucaaagcgccaguca (配列番号14)
BARD1に対する配列:gaguaaagcuucagugcaatt (配列番号15)
RAD1に対する配列:gucacaaacugaucuaaaauguuta (配列番号16)
53BP1に対する配列:gcuugaguucucacagaauugauga (配列番号17)
LIG4に対する配列:gauacagacuugaaccaacugaagg (配列番号18)
Silencer社の陰性対照のsiRNAテンプレートセットをコントロールとして用いた。siRNA(終濃度15nM)のトランスフェクションにはRNAiMAX(Thermo-FisherScientific)を用いた。siRNA及びプラスミドDNAの同時トランスフェクションにはTrans-IT X2(Mirus Bio、アメリカ合衆国ワイオミング州マジソン)を用いた。
(6)ウェスタンブロッティング(WB)
3.5cmディッシュに培養した細胞に、遺伝子ターゲティング用ベクター又はコントロールベクターと、ドナーベクターとをそれぞれ0.5 μgずつトランスフェクションし、72時間後にLysis buffer (10mM HEPES pH 7.6, 250mM NaCl, 1mM EGTA, 0.5% NP-40)を用いて溶解し、不要物を遠心機で除き、y上清を回収した。SDS-PAGEとウェスタンブロッティングはMol.Cell 53, 101-14(2014)に記載の通りに行なった。一次抗体は以下のものを用いた:抗FLAG抗体(1:5000、Sigma-Aldrich、clone M2、アメリカ合衆国ミズーリ州セントルイス)、抗β-アクチン抗体(1:3000, C4, SantaCruz Biotechnology、アメリカ合衆国テキサス州ダラス)、抗GFP抗体(1:2000, Wako)及び抗チューブリン抗体(1:5000, Merck、ドイツ国ダルムシュタット,)。二次抗体は以下のものを用いた: HRP標識抗マウスIgG抗体 (GE Healthcare, 英国リトル チャルフォント), HRP標識抗ウサギIgG抗体 (GE Healthcare)及び and HRP標識抗nativeマウスIgG抗体 (TrueBlot、Rockland,、アメリカ合衆国ペンシルバニア州リムリック。α−チューブリン又はIgGをinput又はIPサンプルのローディング対照として用いた。シグナルはECL 基質(アトー株式会社、日本国東京)を用いてCD画像装置(Image Quant LAS 4000 mini、GE Healthcare)で検出した。
(7)免疫沈降法(IP)
細胞をプロテアーゼ阻害剤とホスファターゼ阻害剤のカクテルを補充した溶解バッファ(10 mM HEPES [pH 7.6], 250 mM NaCl, 0.5% Nonidet P-40, 5 mM EDTA)に溶解し、2500g、10分間遠心により清澄化した。溶解物を2μlの抗FLAG抗体(clone M2)と共に4℃で一晩ローテーションした後、Protein G-Sepharose (GE Healthcare)を用いてさらに一時間ローテーションした。強く洗浄した後、1×サンプルバッファーでタンパク質を溶出し、ウェスタンブロッティングで分析した。
(8)フローサイトメトリー(FC)
細胞をトリプシン消化して遠心により収集した。フェノールフタレインを含まないDMEMを用いて単細胞浮遊液を調製し、サンプルとした。サンプルをフローサイトメーター(FC500, Beckman-Coulter)にて解析し、525nmの検出波長を用いてmClover陽性細胞を計数した。
(9)ゲノムの定量及び半定量PCR
ガラスビーズを用いて慣用法にてゲノムDNAを抽出し、サンプルとした。GoTaq qPCR master mix(Promega、アメリカ合衆国ウィスコンシン州マディソン)を用い、リアルタイムPCR装置(CFX98、BioRad、アメリカ合衆国カリフォルニア州ヘルクレス)にて定量PCRを行った。ノックインアレル(対立遺伝子)の以下の式を用いてΔΔCt法により計算した:
2^(-ΔΔCt), ΔΔCt = ΔCt[サンプル] - ΔCt[陽性対照], ΔCt = Ct[融合アレル] -Ct[参照アレル]
半定量PCRはEmeraldAmp MAX(Takara Bio)を用いて行い、産物をアガロースゲル電気泳動にかけた。プライマー配列は以下の通りとした:
ACTBの参照アレルに対するACTB-ref-F (5'-GTCACCAACTGGGACGACAT-3'、配列番号19) 及びACTB-ref-R (5'-AGAACCAGTGAGAAAGGGCG-3'、配列番号20);
ACTBの融合アレルに対するGFP-F1 (5'GTCCTGCTGGAGTTCGTGACCG-3'、配列番号21)及びACTB-common-R1 (5' -GTGCAATCAAAGTCCTCGGC-3'、配列番号22);
KLF7の参照アレルに対するKLF7-common-F1 (5'-AGCCGGTGTCGTGGACAAGT-3'、配列番号23)及びKLF7-R1 (5' -CTGCACTGTACACGCTGGATG-3'、配列番号24);
KLF7の融合アレルに対するKLF7-common-F1 及び GFP-R1 (5'- CGGTCACGAACTCCAGCAGGAC -3'、配列番号25)。
(10)画像処理
画像分析にはImageJ v1.49(http://imagej.nih.gov/ij/)を用いた。
(11)統計分析
統計分析はJMP 12ソフトウエア(SAS Institute、日本国 東京)を用いて行った。グラフはExcel 2016 (Microsoft Corporation、アメリカ合衆国ワシントン州レッドモンド)を用いて作成した。2つ異なるサンプル間の統計学的比較はtwo-tailed Welch's testにより行った。2つよりも多いサンプル間の比較はANOVAにより行った。ANOVAの結果が統計学的な差を示した場合、Dunnett's test によるpost-hoc比較を行い p値を計算した。p値< 0.05の場合を統計学的に有意であるとみなした。
(12)オラパリブ感受性試験
HeLa細胞を3.5cmディッシュに6万個/ディッシュの密度で播種し、翌日BRCA1の3'-UTRに対するsiRNAとHAタグを付加した野生型BRCA1発現ベクター(WT)又は変異型BRCA1発現ベクター(M18T, I21V, T37R, C47G)(Ransburgh and Chiba., et al. Cancer Res. 2010)をトランスフェクションした。トランスフェクションにはTrans-IT X2試薬(Mirus社)を用いた。
トランスフェクション後、細胞を24時間培養し、96ウェルプレートに500個/wellの密度で播種した。オラパリブ処理群では播種と同時にオラパリブを0.5 μM添加した。
オラパリブ添加後、120時間培養し、細胞数を計測した。細胞数の計測にはPrestoBlue試薬(Thermo-Fisher社)を用いた。細胞の生存率は下記式により計算した。(サンプル)は、内在性BRCA1をノックダウンし、かつ変異型BRCAを外来性に強制発現した細胞、(対照)は内在性BRCA1をノックダウンし、かつ野生型BRCAを外来性に強制発現した細胞、(BRCA1 siRNA KD)は内在性BRCA1をノックダウンした細胞のそれぞれの細胞数を指す。
相対生存率(%) = [(サンプル)−(BRCA1 siRNA KD)]/[(対照)−(BRCA1 siRNA KD)]×100
2.結果
(1)相同組換え産物の特異的検出
gRNA(3)及びCas9(4)の配列と、HRドナー配列とを発現する2つのベクターで細胞を一過性トランスフェクトした後、gRNA標的部位でCas9によりゲノムに二本鎖切断を生成した。この二本鎖切断を、標的部位に相同な2つのホモロジーアーム配列(8)とその間に配置されたマーカー配列(9)とを含むドナーベクター(6)を用いて、相同組換え活性により修復した(図1)。ドナーベクター(6)中のマーカー配列(9)はゲノムに組み込まれ、ゲノム中のマーカー配列の量に基づいて相同組換え活性を概算した。
β-アクチン遺伝子ACTBを発明者らが標的遺伝子として選択したのは、種々の細胞腫で高く安定に発現しているためである。gRNA配列はACTBの停止コドンに及び、Cas9を停止コドン付近に誘導した(図2)。スクランブル配列を有するgRNAを対照として用い、これらのgRNAsをLentiCRISPR v2でクローニングし、ACTB-Cas9及びscr-Cas9とした。これらの構築物は野生型Cas9とgRNAを同時発現していた。
HRドナーベクターを構築するために、2つのホモロジアームの配列と、その間の3xFLAG又は mCloverをコードするマーカー配列とをACTB遺伝子の停止コドンの5’側に挿入した(図2)。
相同組換えによるACTB とマーカーとの融合遺伝子の作製が成功しているか否かを決定するために、ACTB-Cas9と3xFLAG配列を含むドナーベクターとをHeLa細胞に同時トランスフェクトした。トランスフェクトの72時間後に、細胞溶解物を調製し、ACTBと3xFLAG の融合遺伝子(β-アクチン::3xFLAG)の発現をウェスタンブロッティング(WB) (図3A)で分析した。その結果、遺伝子ターゲティング用ベクターを導入した細胞のInputでのみ抗FLAG抗体で検出されるバンドが見られ、3xFLAG遺伝子とACTB遺伝子の融合遺伝子産物であると考えられた。
また、抗FLAG抗体で免疫沈降(IP)したタンパク質では、抗FLAG抗体及び抗β-アクチン抗体の両方でバンドが検出され、このバンドの泳動度はInputで見られる抗FALG抗体で検出されるバンドと同じであったことから、Inputで見られる抗FLAG抗体で検出されるバンドが3xFLAG遺伝子とACTB遺伝子の融合遺伝子産物であることが確認された(図3A)。
さらに、抗FLAG抗体を用いて免疫沈降したタンパク質は抗β-アクチン抗体と反応し、非特異的バンドは観察されないことを確認した(データ非図示)。従って、発明者らは、野生型Cas9のオフターゲット効果はβ-アクチン::3xFLAGの検出に影響を及ぼさないと結論付けた。β-アクチン::3xFLAGの発現はHEK-293K細胞(図3B)及びU-2 OS細胞(データ非図示)における免疫沈降でも検出及び確認された(図3B)。
標的遺伝子を活性化Cキナーゼ1に対する受容体(RACK1)に変えても、HeLa細胞でRACK1::3xFLAGの検出に成功した(図3C)。
フローサイトメトリーでは、マーカーをmCloverに変えたが、mClover配列を含むベクターとACTB-Cas9でトランスフェクトしたHeLa細胞は、ドナーベクターとscr-Cas9でトランスフェクトしたHeLa細胞よりもACTB::mClover陽性細胞の割合が有意に高かった(図3D及び図3E)。
(2)BRCA1及びBARD1の障害による相同組換えの欠損の評価
BRCA1タンパク質はBRCA1関連RINGドメインタンパク質 (BARD1)とヘテロ二量体を形成することにより、相同組換えにおいて機能することが報告されている(Nat. Rev. Mol. Cell Biol. 11, 138-148 (2010))。本アッセイにより相同組換えの欠損を検出できるかどうかを決定するために、発明者らはRNAiによりBRCA1又はBARD1をノックダウンし、ウェスタンブロッティングでβ-アクチン::3xFLAGの発現を分析した (図4のプロトコル1)。BRCA1のノックダウンはβ-アクチン::3xFLAGの発現を顕著に減少させ、HA標識した野生型BRCA1 (HA-BRCA1 WT)を発現するベクターをBRCA1のsiRNAと共に導入すると、β-アクチン::3xFLAG の発現レベルが対照のレベルに回復(rescue)した (図5A)。BARD1のノックダウンもβ-アクチン::3xFLAGの発現を顕著に減少させた(図5B)。
BRCA1中の複数の変異でも相同組換えの機能が欠損することが報告されている(Elife 6, 1-21(2017); Hum. Mutat. 34, 439-45 (2013); Cancer Res. 70, 988-95 (2010); Genetics 200, 413-422 (2015); Cancer Discov. 3, 1142-1155 (2013); Nat. Commun. 6, 1-13 (2015))。
本発明者らは上記の方法を適用して2つのBRCA1のミスセンス変異体であるC39Y及びC61Gと、BARD1との相互作用の責を担うRINGドメインが欠失したN-末端欠失変異体(BRCA1-ΔN)との相同組換え活性を調べた。各変異体の構造を図5Cに示す。その結果、C39Y及びC61GはBRCA1ノックダウン細胞におけるβ−アクチン::3xFLAGの発現をレスキューしないが、BRCA1-ΔNは相同組換え活性を部分的にレスキューすることが示された(図5A)。これらの結果はElife 6, 1-21(2017); Hum. Mutat. 34, 439-45 (2013); Cancer Res. 70, 988-95 (2010)のDR-GFPアッセイで得られた結果と一致している。
次に、本発明者らは、図4で示したプロトコル2のようにsiRNAを2回導入して、フローサイトメトリーの形式でBRCA1のノックダウンの効果を分析したところ、ACTB::mClover陽性細胞の割合が減少した(図5D)。
(3)ゲノム定量PCR (qPCR)による相同組換え活性の直接的定量
上記(1)及び(2)のウェスタンブロッティング形式とフローサイトメトリー形式による相同組換え活性の評価は、(i)半定量的であり、低レベルの遺伝子産物の検出には不十分である可能性がある、及び(ii)非転写領域の相同組換え活性を評価することはできないという課題があることから、本発明者らはqPCR形式のアッセイを開発した。
この方法では、2つの200 bpアームに隣接されたmCloverを含むプラスミドをドナーベクターとして用いた(図6A)。mCloverと融合されたACTBを特異的に増幅するために、本発明者らはmCloverにおいてフォワードプライマーを設計し、ACTBの停止コドンから300bp下流にリバースプライマーを設計した。ACTBの開始コドンの周囲のプライマーセットを内部対照として使用した。
ACTB-Cas9 とドナープラスミドでトランスフェクトしたHeLa細胞において、ACTB::mClover の特異的増幅が観察され(図6B)、ゲノムqPCRによりノックイン産物を特異的に定量することができた(図7A)。さらに、qPCR形式を用いればトランスフェクション後48時間のインキュベーションで検出に十分であり、これはWB形式で必要とされる72時間よりも短かった。
次に、BRCA1 ノックダウン及びレスキューを用いてqPCRの精度を評価した。BRCA1ノックダウンによりACTB::mCloverの発現が有意に減少し(図7Bの左から3本目のグラフ)、先の実験と同様、野生型BRCA1の内因性の発現はACTB::mClover の生成をレスキューするが(図7Bの左から4本目のグラフ)、C39Y及びC61G はレスキューしなかった (図7Bの左から5及び6本目のグラフ)。BRCA1-ΔNは、WB形式(図4B)とFC形式(データ非図示)並びにDR-GFPアッセイ(Cancer Res. 70, 988-95 (2010))では部分的にレスキュー活性を示したにもかかわらず、qPCR形式ではレスキュー活性を有しなかった(図7Bの右から1本目のグラフ)。これらの知見は、qPCRで得られる結果がWB形式又はDR-GFPアッセイで得られる結果と異なる可能性があり得ることを示している。
BRCA1-I26A変異体 (図5C)はE3リガーゼ活性が欠損しており(Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A. 105, 20876-81 (2008))、シスプラチン及びオラパリブに対する高感受性を引き起こす(Elife 6, 1-21 (2017))。しかしながら、BRCA1-I26AはDR-GFPアッセイではHR能があると分類されていた(Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A. 105, 20876-81 (2008); Elife 6, 1-21 (2017))。そこで、本発明者らがqPCR形式でBRCA1-I26AのHR活性を測定したところ、BRCA1-I26Aはレスキュー活性を示さなかった(図7B)。対照的にWB形式ではBRCA1-I26A は部分的レスキュー活性を有することが明らかとなった(図7C,D)。DR-GFP法や本法のWB形式やFC形式よりも、本法のqPCR形式の結果がよりシスプラチン及びオラパリブに対する感受性を反映する測定値が得られると考えられる。
相同組換え活性は相同DNAポリヌクレオチド配列が1000ポリヌクレオチドの場合は効率がよいが、500ポリヌクレオチド以下になると著しく低下することが報告されている(Kungら、2013、前掲)。Kungらの報告では、96 bpから4000bpまでのフランキング領域(相同DNAポリヌクレオチド配列に相当)が検討され、1000-4000bpのフランキング領域で同程度の高い相同組換え活性を検出している。また、相同DNAポリヌクレオチド配列が4000bpよりも長くなるとドナーベクターの作製が困難になってくると考えられる。
本法では約200ポリヌクレオチドの相同DNAポリヌクレオチド配列としたところ、予想外なことに、効率よく、融合遺伝子を検出することが可能であった。これは、相同組換え活性は低下するものの、定量PCR法の検出感度が十分に高いためと考えられた。
(4)BRCA1欠損細胞におけるBRCA1強制発現による相同組換え修復活性への影響
3.5cmディッシュに培養したHCC1937細胞(内在性BRCA1欠損細胞)に、遺伝子ターゲティング用ベクター又はコントロールベクター、及びドナーベクター(それぞれ0.5μg ずつ)、並びに野生型BRCA1発現ベクター又はコントロールベクターをトランスフェクションし、72時間後にProteinase K法を用いてゲノムDNAを回収し、サンプルとした。上記「(9)ゲノムの定量及び半定量PCR」で用いた配列番号19及び配列番号20のプライマーセット、並びに配列番号21及び配列番号22のプライマーセットで、GoTaq qPCR master mix(Promega)を用い、リアルタイムPCR装置(CFX98、BioRad)にて定量PCRを行った。
その結果、野生型BRCA1を強制発現した細胞では(左から3、4本目のグラフ)、強制発現しなかった細胞(左から2本目のグラフ)と比較して融合遺伝子の量が増加しており、その程度は導入する野生型BRCA1発現ベクターの量に依存していた。本細胞はHeLa細胞と比較してトランスフェクション効率及び増殖効率が低く、本細胞で同様の実験を3xFLAGをタグとして用いたウェスタンブロッティング、及びGFPをタグとして用いたフローサイトメトリーでも試みたが、ともに検出不可能であった。したがって、定量PCRを用いることで本細胞の様なトランスフェクション効率の低い細胞でも、相同組換え修復活性を評価可能であることが示された(図8)。
(5)qPCR形式による非転写領域におけるHR活性の測定
qPCR形式では、遺伝子の転写活性にかかわらず、ゲノムの任意の遺伝子座を標的にできる。遺伝子座によってHR活性が異なり得るかどうかを検討するために、本発明者らは、遺伝子外領域に位置し、かつ二本鎖切断の生成の後にRAD51によって蓄積されないKLF7に隣接する座(以後、単にKLF7座と称する)におけるHR活性を定量し、かつBRCA1の機能を評価した。
このため、本発明者らはgRNA/Cas9発現ベクターと、KLF7座用のドナーベクターを構築し、KLF7座におけるノックイン産物をqPCRにより定量化したところ(図9A)、ノックイン産物の検出及び定量化に成功した(図9B及び図9C)。KLF7座におけるHRに対するBRCA1ノックダウンの効果を決定するために、BRCA1又はBARD1ノックダウン後のノックイン産物を定量化したところ、どちらのノックダウンでもHR活性は減少しなかった(図9C)。WBによればBRCA1及びBARD1のノックダウンが確認された(図9D)。
(6)ノックインに対するBRCA1及びRAD51の貢献の遺伝子座間の相違についての検討
マーカー配列のノックインに対するHR及びNHEJ経路の貢献を分析するために、本発明者らはHR又はNHEJ関連因子をノックダウンし、WB形式又はqPCR形式を用いてノックイン産物を定量した。 図10Aに示すように、β−アクチン::3xFLAGの発現はRAD51及びBRCA1のノックダウン後に有意に低下した。対照的に、NHEJ関連因子の53BP1又はDNAリガーゼIV (LIG4)のノックダウンはβ−アクチン::3xFLAGの発現に影響を及ぼさなかった。同様の結果がACTB座のqPCRにより観察された(図10B)。RAD51のノックダウンもKLF7座でのノックイン効率を低下させたが、この低下はACTB座におけるノックイン効率の低下よりも小さかった(図10)。RAD51, 53BP1及びLIG4のノックダウンはWBでも観察された(データ非図示)。非転写領域におけるHR活性は転写領域におけるHR活性とは異なる機構によって生じていると考えられ、薬剤感受性を反映するのは転写活性の高い領域におけるHR活性であり、薬剤感受性を正確に判定するには、本法のように測定対象の遺伝子座位を適切に選択できる方法を用いる必要があると考えられる。
(7)オラパリブ感受性試験
図11Aに示したプロトコルで試験をおこない、siRNAと野生型BRCA1発現ベクター(WT)又は各変異型BRCA1発現ベクター(M18T, I21V, T37R, C47G)をトランスフェクトした場合の相対生存率(%)を調べたところ、図11Bに示すように、HeLa細胞にBRCA1発現ベクターをトランスフェクトした場合のqPCRによる融合遺伝子の相対量は、野生型BRCA1発現ベクターをトランスフェクトした場合に最も高く、次にI21V変異型、T37R変異型及び C47G変異型BRCA1発現ベクターの順であった。
図11Cに示すように、HeLa細胞の相対生存率は、野生型BRCA1発現ベクターをトランスフェクトした場合に最も高く、次にI21V、C47G変異型BRCA1発現ベクターで高かった。オラパリブ感受性が高かった3種の細胞株の各種濃度に対する細胞生存率のグラフを図11Dに示す。
これらの結果から、細胞におけるHRにより生じた融合遺伝子の相対量はオラパリブ感受性と高い相関があり、極めて有効なオラパリブ感受性の指標にすることができると理解される。DR-GFPアッセイによるBRCA1変異体の機能評価では、HR活性が正常ないし異常と判定する定性的な評価にとどまり、薬剤感受性との相関は十分に高いものではなかった。一方、本試験によると、本法の、特にpPCR形式を用いることで細胞のHR活性を定量的に相関することができた。また、測定したHR活性値とオラパリブ感受性は極めて高い相関を示し、かつその相関は定量的であった。したがって、本法は従来法よりもより正確かつ詳細に薬剤感受性を予測可能であると考えられる。

Claims (14)

  1. 薬剤又は放射線照射の治療効果の予測方法であって、
    部位特異的ヌクレアーゼにより、薬剤又は放射線照射を施した細胞内の前記標的ゲノムDNA領域の二本鎖を特定部位で切断すること、
    前記細胞に、マーカー配列を含むドナーベクターを導入し、相同組換えにより、前記標的ゲノムDNA領域の二本鎖の前記切断された特定部位に前記マーカー配列を組み込むこと、及び
    前記細胞中の前記標的ゲノムDNA領域及び前記マーカー配列を含む融合DNA配列の測定値に基づいて、前記薬剤又は放射線照射の治療効果を判定すること
    を含む方法。
  2. 前記判定することが、
    前記細胞の前記融合DNA配列の量が、基準値に比べて多い場合に、前記薬剤又は放射線照射が十分な治療効果を示す可能性が高いと判定するか、又は
    前記細胞の前記融合DNA配列の量が、基準値に比べて同じか又は低い場合に、薬剤又は放射線照射が十分な治療効果を示す可能性が低いと判定することを含む、請求項1に記載の方法。
  3. 前記細胞が腫瘍細胞である請求項1又は2に記載の方法。
  4. 前記薬剤が抗がん剤である請求項1又は2に記載の方法。
  5. 相同組換え修復活性を促進又は阻害する化合物をスクリーニングする方法であって、
    細胞を被験化合物と接触させること、
    部位特異的ヌクレアーゼにより、前記細胞内の標的ゲノムDNA領域の二本鎖を特定部位で切断すること、
    前記細胞に、マーカー配列を含むドナーベクターを導入し、相同組換えにより、前記標的ゲノムDNA領域の二本鎖の前記切断された特定部位に前記マーカー配列を組み込むこと、及び
    前記細胞中の前記標的ゲノムDNA領域及び前記マーカー配列を含む融合DNA配列の測定値に基づいて、前記化合物が、相同組換え修復活性を促進又は阻害する化合物であるか否かを判定すること
    を含む方法。
  6. 前記判定することが、
    前記細胞を前記被験化合物と接触させた場合の前記融合DNA配列の量が、基準値に比べて多い場合に、前記被験化合物を相同組換え修復活性を促進する化合物と判定するか、又は
    前記細胞を前記被験化合物と接触させた場合の前記融合DNA配列の量が、基準値に比べて少ない場合に、前記被験化合物を相同組換え修復活性を阻害する化合物と判定することを含む、請求項9に記載の方法。
  7. 前記修復活性を活性化又は阻害する化合物がキナーゼ阻害薬、プロテアーゼ阻害薬、又は核酸医薬である請求項5又は6に記載の方法。
  8. 上記の修復活性を活性化又は阻害する化合物がアルキル化薬、タキサン系製剤、抗腫瘍性抗生物質、プラチナ製剤、トポイソメラーゼ阻害薬、微小管重合阻害薬、微小管脱重合阻害薬、又は分子標的薬である請求項5又は6に記載の方法。
  9. 疾患の判定方法であって、
    部位特異的ヌクレアーゼにより、細胞内の標的ゲノムDNA領域の二本鎖を特定部位で切断すること、
    細胞に、マーカー配列を含むドナーベクターを導入し、相同組換えにより、標的ゲノムDNA領域の二本鎖の前記切断された特定部位にマーカー配列を組み込むこと、及び
    細胞中の標的ゲノムDNA領域及びマーカー配列を含む融合DNA配列の測定値に基づいて、疾患を判定すること
    を含む方法。
  10. 細胞における相同組換え修復活性の測定方法であって、
    部位特異的ヌクレアーゼにより、細胞内の標的ゲノムDNA領域の二本鎖を特定部位で切断すること、
    前記細胞にマーカー配列を含むドナーベクターを導入し、相同組換えにより、前記標的ゲノムDNA領域の二本鎖の前記切断された特定部位に前記マーカー配列を組み込むこと、及び
    前記細胞中の、前記標的ゲノムDNA領域及び前記マーカー配列を含む融合DNA配列を定量PCRにより測定すること
    を含む方法。
  11. 前記細胞が腫瘍細胞である請求項10に記載の方法。
  12. 前記部位特異的ヌクレアーゼが、CRISPR/Cas、TALEヌクレアーゼ(TALEN)、又はジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)である請求項10又は11に記載の方法。
  13. 前記ドナーベクターは、前記切断された、各々が二本鎖からなる前記標的ゲノムDNA領域の2つの末端のDNA領域と相同組換えが起こる程度に相同な配列を有する2つの二本鎖DNA領域と、前記2つの二本鎖DNA領域の間に挟まれた前記マーカー配列とを含む相同DNAポリヌクレオチド配列アームを備え、
    前記細胞中に相同組換えにより前記相同DNAポリヌクレオチド配列アームが組み込まれる請求項10〜12のいずれかに記載の方法。
  14. 前記マーカー配列が、ペプチドタグをコードするポリヌクレオチド配列、レポーター遺伝子、又はハプテンをコードするポリヌクレオチド配列である請求項10〜13のいずれかに記載の方法。
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