JPWO2019039477A1 - 原子核スピンの高偏極化方法及び高偏極化装置 - Google Patents

原子核スピンの高偏極化方法及び高偏極化装置 Download PDF

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Abstract

原子核スピンの高偏極化方法は、主磁場形成部により一様な静磁場が形成された空間に配置され、固体の安息香酸誘導体にペンタセン誘導体が添加された試料に、レーザ光源から光を試料に照射するステップと、光照射に続き、掃引磁場の印加とともにマイクロ波源からマイクロ波を試料に照射するステップと、掃引磁場印加、光照射及びマイクロ波照射を繰返した後、試料中の安息香酸誘導体を溶解させるステップとを含む。これにより、原子核スピンが高偏極化された安息香酸誘導体を含む水溶液を生成することができる。

Description

本発明は、原子核スピンを高度に偏極させるための方法及び装置に関し、特に、トリプレットDNPを利用した原子核スピンの高偏極化方法及び高偏極化装置に関する。
NMR分光は化学分析において、MRIは医療診断において、それぞれなくてはならないツールである。これらの感度を向上できる方法の一つである動的核偏極(以下、DNP(Dynamic Nuclear Polarization)ともいう)が近年盛んに研究されている。
NMR分光及びMRIでは、強い静磁場の下で物質中の原子核スピン(以下、単に核スピンともいう)を精密に制御し、核スピン間の相互作用等により変調された電磁波信号(NMR信号)から分子レベルの豊富な情報を読出す。NMR信号の感度は偏極率に比例するが、超電導磁石によって印加される数T(テスラ)から数十Tの強磁場の下でも、核スピンのゼーマンエネルギーは非常に低い。このゼーマンエネルギーは、室温の熱エネルギーより5桁も小さいため、核スピンの向きが静磁場の方向に偏っている割合(偏極率)は10−5〜10−6(0.001〜0.0001%)程度と極めて低く、共鳴する核スピンのうち検出信号に寄与する核スピンの割合は極めて小さい。したがって、NMR分光及びMRIの感度を向上するには、核スピンの偏極率を高くすることが重要である。本明細書において「高偏極」とは、原子核スピンの偏極率が室温における偏極率を超える状態を意味する。
DNPでは、試料に偏極源となるフリーラジカル分子を混合させ、その試料を極低温にした後、マイクロ波を照射することにより、試料中の原子核スピンの偏極率を向上させる。これにより、NMR信号が増大し、NMR分光及びMRIの高感度化が可能になる。DNPは、化学分析においても使用され、微量試料の解析、物質の界面分析、並びに、蛋白質の機能及び構造解析等の様々な応用研究がなされている。また、DNPによる高偏極化後に試料を溶解して体内に注射し、その代謝をイメージングすることにより、がん治療の効果判定を行なうという医療応用が実用化されている。
従来のDNPによる高偏極化技術では、試料中に少量添加されたラジカル分子の不対電子スピンを、熱平衡化という古典的な過程で偏極し、DNPを行なうので、水素核スピンの偏極率を、理論的に室温の偏極率の660倍を超える値にすることができない。そこで、数%から数十%の核スピン偏極率を得るために、1K近くの極低温及び3Tを超える高磁場下においてDNPが行なわれていた。そのため、DNPのための装置は、高額かつ大型である問題があった。
これを解決する方法として、分子の光励起三重項状態の電子スピンを偏極源に用いるトリプレットDNPが知られている(下記特許文献1〜3参照)。ペンタセンなどのπ共役分子を光励起すると、電子スピンが励起され、その後一部の電子スピンは項間交差で励起三重項状態に遷移する。この状態では電子スピンは、量子的な過程で自発的に数十%に偏極する。この現象は温度及び磁場には関係しないので、これを偏極源に利用すると室温及び低磁場においても、核スピンの偏極率を、熱限界である室温の偏極率の660倍以上に高偏極化させることができる。
トリプレットDNPで高偏極化できる試料に関しては、p−ターフェニルを代表として、固体で水に難溶なものしか知られていなかった。このことが、トリプレットDNPを化学分析応用又は医療応用する上での妨げになっていた。これを解決するために、下記特許文献4には、種々の溶媒に可溶な、特定のペンタセン誘導体を用いる方法が開示されている。
米国特許第7,205,764号明細書 米国特許第7,351,402号明細書 特許第3682044号明細書 特開2017−15443号公報
しかし、特許文献4に開示されている特定のペンタセン誘導体を用いる方法以外にも、より多くの組成物、特に、可溶性であり人体に無害な組成物を高偏極化できることが要望されている。
また、従来のトリプレットDNPでは、光源として590nm単色のレーザ光が用いられ、大型で高額なレーザ光発生装置が必要であるという問題がある。この問題は、特許文献1〜4によっては解決することはできない。
したがって、本発明は、トリプレットDNPにより、従来よりも多種の組成物の原子核スピンを高偏極化することができる原子核スピンの高偏極化方法及び高偏極化装置を提供することを第1の目的とする。
また、本発明は、比較的小型で低価格な、原子核スピンの高偏極化装置を提供することを第2の目的とする。
本発明の第1の局面に係る原子核スピンの高偏極化方法は、一様な静磁場が形成された空間に配置された試料に、光を照射する光照射ステップと、光照射ステップに続き、試料に掃引磁場を印加中に、試料にマイクロ波を照射するマイクロ波照射ステップとを含む。試料は、固体の安息香酸誘導体にペンタセン誘導体が添加された試料であり、光照射ステップ及びマイクロ波照射ステップを繰返した後、試料中の安息香酸誘導体を溶解させて溶液を生成する溶解ステップをさらに含む。
これにより、原子核スピンが高偏極化された安息香酸誘導体を含む水溶液を生成することができる。
好ましくは、試料は、安息香酸誘導体に可溶な可溶性物質がさらに添加され、溶解ステップにおいて、試料中の安息香酸誘導体及び可溶性物質を溶解させる。
これにより、原子核スピンが高偏極化された安息香酸誘導体及び可溶性物質を含む水溶液を生成することができる。
より好ましくは、試料中のペンタセン誘導体以外の物質のうち、少なくとも1つの物質は、核スピンがゼロでない炭素、酸素及び窒素の同位体のうち、少なくとも1つの同位体を含む。
これにより、電子スピンの偏極を直接、試料中の炭素、酸素又は窒素の同位体の核スピンに移すことができる。
さらに好ましくは、原子核スピンの高偏極化方法は、光照射ステップ及びマイクロ波照射ステップを繰返した後、溶解ステップを行なう前に、交差偏極により試料中のペンタセン誘導体以外の物質の水素核スピンの偏極を、同位体の核スピンに移動させる核スピン偏極ステップを、さらに含む。
これにより、同位体の核スピンが高偏極化された安息香酸誘導体を含む水溶液を生成することができる。試料が、安息香酸誘導体に可溶な可溶性物質を含む場合には、同位体の核スピンが高偏極化された可溶性物質を含む水溶液を生成することができる。
好ましくは、溶解ステップにおいて、弱酸遊離を引き起こす分子又はpH調整用の分子の水溶液により、試料中のペンタセン誘導体以外の物質を溶解させ、溶液を生成する。
これにより、原子核スピンが高偏極化された水溶液を容易に生成することができる。
より好ましくは、原子核スピンの高偏極化方法は、溶液を固化させて、固体物質を生成する再固化ステップと、交差偏極により、固体物質中の安息香酸誘導体の原子核スピンの偏極を、当該水溶液に含まれる、弱酸遊離を引き起こす分子又はpH調整用の分子の原子核スピンに移動させる核スピン移動ステップと、核スピン移動ステップの後、固体物質を液化させる液化ステップとを、さらに含む。
これにより、弱酸遊離を引き起こす分子又はpH調整用の分子に含まれるアルカリ金属等の核スピンが高偏極化された水溶液を生成することができる。
本発明の第2の局面に係る原子核スピンの高偏極化方法は、一様な静磁場が形成された空間に配置された試料に、光を照射する光照射ステップと、光照射ステップに続き、試料に掃引磁場を印加中に、試料にマイクロ波を照射するマイクロ波照射ステップとを含む。試料は、安息香酸誘導体と、安息香酸誘導体以外のパートナー分子とを混合して生成した混合物にペンタセン誘導体が添加された試料である。原子核スピンの高偏極化方法は、光照射ステップ及びマイクロ波照射ステップを繰返した後、試料中の安息香酸誘導体及びパートナー分子を溶解させて溶液を生成する溶解ステップをさらに含む。
これにより、原子核スピンが高偏極化された安息香酸誘導体以外のパートナー分子を含む水溶液を生成することができる。
好ましくは、パートナー分子は、安息香酸誘導体以外のカルボン酸、又は、安息香酸誘導体と塩を形成する塩基であり、混合物は、共結晶状若しくは共晶状の多結晶試料、又は、アモルファス状試料である。
これにより、原子核スピンが高偏極化された安息香酸誘導体以外のカルボン酸、又は、安息香酸誘導体と塩を形成する塩基を含む水溶液を生成することができる。
より好ましくは、試料は、安息香酸誘導体と安息香酸誘導体以外のパートナー分子との混合物に可溶な可溶性物質がさらに添加され、溶解ステップにおいて、試料中の安息香酸誘導体、パートナー分子、及び可溶性物質を溶解させる。
これにより、原子核スピンが高偏極化された安息香酸誘導体、及び、安息香酸誘導体と安息香酸誘導体以外のパートナー分子との混合物に可溶な可溶性物質とを含む水溶液を生成することができる。
さらに好ましくは、原子核スピンの高偏極化方法は、溶解ステップにより生成された溶液に、核スピンを高偏極化させる対象である対象物質を溶解させるステップと、対象物質が溶解された溶液を固化させて、固体物質を生成する再固化ステップと、スピン拡散により、固体物質中の安息香酸誘導体の原子核スピンの偏極を、対象物質中の原子核スピンに移動させるターゲット核スピン偏極ステップと、ターゲット核スピン偏極ステップの後、固体物質を液化させる液化ステップとを、さらに含む。
これにより、原子核スピンが高偏極化された対象物質を含む水溶液を生成することができる。
好ましくは、再固化ステップにおいて、対象物質が溶解された溶液を凍結させることにより固体物質を生成し、液化ステップにおいて、凍結された固体物質を、加熱することにより液化させる。
これにより、原子核スピンが高偏極化された対象物質を含む水溶液を容易に生成することができる。
より好ましくは、対象物質は、カルボン酸系化合物、アミノ基を有する化合物、糖、生体内分子、又は医薬品分子である。
これにより、原子核スピンが高偏極化されたカルボン酸系化合物、アミノ基を有する化合物、糖、生体内分子、又は医薬品分子(例えば、ピルビン酸、フマル酸、尿素、フルクトース、カフェイン及びフルオロウラシル等)を含む水溶液を生成することができる。
本発明の第3の局面に係る原子核スピンの高偏極化装置は、トリプレットDNPにより試料中の原子核スピンを高偏極化するための装置である。この原子核スピンの高偏極化装置は、静磁場を形成する磁場形成部と、静磁場が形成された領域に配置された試料に光を照射する光照射部と、静磁場が形成された領域に配置された試料にマイクロ波パルスを照射するマイクロ波照射部と、光照射部及びマイクロ波照射部を制御する制御部とを含む。制御部は、光照射部及びマイクロ波照射部を制御して、トリプレットDNPにより試料中の原子核スピンを高偏極化させ、光照射部は、波長が400nm以上600nm以下の範囲に含まれる非コヒーレントな光を出力する。
これにより、小型で、安価な原子核スピンの高偏極化装置を実現することができる。
好ましくは、マイクロ波照射部は、固体高出力増幅器と、静磁場が形成される領域に配置された、空洞共振器とは異なる共振器とを含む。光照射部は、当該共振器の内部に配置された試料に光を照射し、マイクロ波照射部は、当該共振器の内部に配置された試料に、固体高出力増幅器によりマイクロ波パルスを増幅して照射する。
より好ましくは、空洞共振器とは異なる共振器は、誘電体共振器又はループギャップ共振器である。
これらにより、小型の共振器を用いることができ、より一層小型で、安価な原子核スピンの高偏極化装置を実現することができる。
本発明によれば、試料を冷却することなく室温環境において、原子核スピンが高偏極化された安息香酸誘導体を含む水溶液を生成することができる。原子核スピンが高偏極化された安息香酸誘導体を含む水溶液をNMR分光装置又はMRI装置で使用することにより、超高感度な化学分析又は超高感度な代謝イメージングが可能になる。
また、再固化することにより、高い偏極率で様々な試料を汎用的に高偏極化可能である。例えば、安息香酸誘導体を溶解した水溶液に含まれていた生成物、特にアルカリ金属(ナトリウム、カリウム及びリチウム等)の原子核スピン、又は、後から追加した物質(ピルビン酸、尿素、フルクトース、フマル酸、カフェイン及びフルオロウラシル等)の原子核スピンを高偏極化することができる。したがって、より超高感度な化学分析又は超高感度な代謝イメージングが可能になる。
また、化学分析又は医療応用が可能な、室温で原子核スピンを高偏極化することができる、小型で低コストの原子核スピンの高偏極化装置を実現することができる。この高偏極化装置を市販のNMR分光装置又はMRI装置に付属させることにより、超高感度な化学分析又は超高感度な代謝イメージングが可能になる。
本発明の第1の実施の形態に係る原子核スピンの高偏極化装置の概略構成を示すブロック図である。 図1のキャビティ周辺を示す模式図である。 図1の原子核スピンの高偏極化装置を用いた原子核スピンの高偏極化方法を示すフローチャートである。 原子核スピンを高偏極化させる試料の状態を示す模式図である。 図1の装置で使用されるレーザ光照射、マイクロ波照射、及び掃引磁場印加のシーケンスを示すタイミングチャートである。 ペンタセンのエネルギー準位を示す図である。 安息香酸の水素核スピンの偏極率を示すグラフである。 サリチル酸の水素核スピンの偏極率を示すグラフである。 安息香酸の溶解前後におけるNMR信号の変化を示すグラフである。 安息香酸の粉末試料及び単結晶試料の水素核スピンの偏極率を示すグラフである。 本発明の第2の実施の形態に係る原子スピンの高偏極化方法を示すフローチャートである。 原子核スピンを高偏極化させる試料の状態を示す模式図である。 本発明の第3の実施の形態に係る原子核スピンの高偏極化装置の概略構成を示すブロック図である。 ペンタセン誘導体を示す化学式である。
以下の実施の形態では、同一の部品には同一の参照番号を付してある。それらの名称及び機能も同一である。したがって、それらについての詳細な説明は繰返さない。
(第1の実施の形態)
図1を参照して、本発明の実施の形態に係る原子核スピンの高偏極化装置100は、主磁場形成部102と、主磁場形成部102の磁極間に配置されたキャビティ104と、キャビティ104内に配置された試料106に照射するレーザ光を生成するレーザ光源108と、試料106に照射するマイクロ波を生成するマイクロ波源110と、マイクロ波源110のマイクロ波を増幅する増幅部112とを含む。さらに、原子核スピンの高偏極化装置100は、キャビティ104内に配置された掃引磁場形成部114と、掃引磁場形成部114に電流を供給する電源部116と、NMR信号を検出するためのNMR信号検出部118と、NMR信号検出部118により検出されたNMR信号を分析するNMR分析部120と、各部を制御する制御部122とを含む。
キャビティ104及びその周囲の構成の具体例を図2に示す。図2では、キャビティ104及び導波管134は破断した断面で示す。
再度図1を参照して、主磁場形成部102は、電磁石であり、電源(図示せず)から電流が供給され、試料106が配置される領域において、方向及び強度が一様な静磁場を形成する。図1では、主磁場形成部102は2つ配置されており、これは、2つの対向する磁極を有する電磁石(例えば、対向するヘルムホルツコイル)であることを示している。光励起三重項電子スピンの偏極率は、温度及び磁場強度に比例するわけではないので、主磁場形成部102には、超電導磁石等の高磁場を発生させる磁石を使用する必要はない。したがって、主磁場形成部102として常電導磁石を用いることができる。
なお、主磁場形成部102は、対向する磁極を有しない電磁石、例えば、空芯のソレノイドコイルを用いた電磁石であってもよい。その場合、キャビティ104は、ソレノイドコイルの内部に配置される。また、主磁場形成部102は永久磁石であってもよい。
キャビティ104は、マイクロ波源110から増幅部112及び導波管134(図2)を介して供給されるマイクロ波の共振器として機能する。キャビティ104は、磁性材料ではない電気導体で形成されている。キャビティ104は、共振周波数が、マイクロ波源110から出力されるマイクロ波の周波数と等しくなるように形成されている。キャビティ104と導波管134との接合部は、供給されるマイクロ波の反射を抑制するために、公知のアイリスで結合されることが好ましい。
図1に示すレーザ光源108は、制御部122により制御されて、所定のタイミングで所定の期間、所定波長のレーザ光を出力する。出力されたレーザ光は、光伝送部130(図2)を介してキャビティ104まで伝送される。キャビティ104内には、集光部132が設けられ、光伝送部130から放出されるレーザ光を集光して、試料106に照射する。レーザ光源108は、例えば、公知のフラッシュランプ励起色素レーザである。光伝送部130は、例えば光ファイバであり、集光部132は、例えばレンズである。
マイクロ波源110は、制御部122により制御されて、所定のタイミングで所定の期間、所定周波数のマイクロ波を生成して出力する。マイクロ波源110には、公知のマイクロ波発生装置を使用することができる。DNPでは、マイクロ波パルスを試料に供給するので、マイクロ波源110から連続して出力されるマイクロ波から、スイッチ(図示せず)によりパルス波を生成する。
増幅部112は、マイクロ波源110から出力されたマイクロ波を増幅して出力する。増幅部112は、例えば、公知の進行波管増幅器(Traveling−Wave−Tube Amplifier、以下、TWT増幅器ともいう)を使用する。なお、増幅部112の出力側に、公知のサーキュレータを配置して、試料に供給するマイクロ波パルスをモニタしてもよい。
掃引磁場形成部114は、後述する掃引磁場を形成するためのものであり、例えば、コイルを使用することができる。電源部116は、制御部122による制御を受けて、掃引磁場形成部114に電流を供給する。掃引磁場は、共鳴周波数に幅のあるスピンの集合を励起するためのものであり、掃引磁場形成部114に流れる電流値を時間的に変化させることにより、磁場強度を変化、即ち磁場を掃引させる。掃引磁場の強度は、主磁場の強度よりも十分に小さい。掃引磁場方向は、主磁場と同じ方向又はその逆方向である。図2は、掃引磁場形成部114として公知のサドルコイルを使用する場合を示している。図2には、掃引磁場形成部114(サドルコイル)を構成する平行な4本の直線部分のうちの2本の直線部分を示している。図2では、主磁場方向が紙面に垂直上方であるので、2本の直線部分に逆向きの電流を供給すれば(図示していない残りの2本の直線部分に関しても同様)、試料106が配置された領域に、主磁場と同方向又は逆方向の掃引磁場を形成することができる。
NMR信号検出部118は、主磁場の周りに歳差運動するスピンによるNMR信号(例えば、FID信号)を検出するためのコイルである。NMR信号検出部118を構成するコイルは、主磁場と直交する方向の磁場変化を検出することができる。NMR分析部120は、制御部122による制御を受けて、NMR信号検出部118を用いてNMR信号を測定し、公知のNMR分析を行なう。なお、NMR信号検出部118の共振周波数は、コンデンサ等の調整部品(図示せず)により、主磁場の強度に応じたNMR周波数と等しくなるように調整される。
図2を参照して、試料収容部136は、試料106を保持するためのものであり、供給されるレーザ光及びマイクロ波を透過する物質で形成されている。試料収容部136は、例えばガラス管である。試料収容部136及びNMR信号検出部118は、キャビティ104に対して変位可能に保持されることが好ましい。即ち、試料収容部136をキャビティ104の外部に移動させ、試料収容部136内部に試料106を投入することを可能にし、且つ、試料106が投入された試料収容部136をキャビティ104内部の所定位置に配置することができる機構を備えていることが好ましい。同様に、NMR信号検出部118をキャビティ104の外部に移動させること、及び、NMR信号検出部118をキャビティ104の内部の所定位置(試料106の周囲)に配置することができる機構を備えていることが好ましい。
溶媒供給部138は、固体の試料106を溶解させるための溶液(溶媒)を保持するためのものである。図2では、溶媒供給部138としてスポイトを示している。溶媒供給部138(スポイト)は、保持している溶液を試料106に滴下して、試料106を含む溶液を生成する。
(原子核スピンの高偏極化)
以下に、図3を参照して、図1の原子核スピンの高偏極化装置100を用いて、試料106の原子核スピンを高偏極化させる方法に関して説明する。
ステップ300において、処理対象の試料を準備する。具体的には、粉末状の安息香酸(CCOOH)にペンタセン(C2214)を少量添加し、試料106として試料収容部136に投入する。このとき、安息香酸分子の間にペンタセンが均一に分散するように攪拌することが好ましい。試料106が投入された試料収容部136にNMR信号検出部118をセットし、図4の(a)に示すように、試料106がキャビティ104の中央に位置するように、試料収容部136をキャビティ104に配置する。図4には、便宜上、掃引磁場形成部114、NMR信号検出部118及び導波管134等は図示していない。
安息香酸の量は、使用するレーザ光源の能力(出力パワー)に応じて決定することができる。強力なレーザ光を出力できるレーザ光源を使用すれば、より多量の安息香酸を使用することができる。
ステップ302において、主磁場形成部102に通電して静磁場を形成した状態で、制御部122によりレーザ光源108、マイクロ波源110及び掃引磁場形成部114を制御して、試料106に対してトリプレットDNPを行なう。具体的には、図5を参照して、掃引磁場形成部114により磁場を掃引しながら、期間T1の間、レーザ光源108によりレーザ光を試料106に照射し、それに続く期間T2の間、マイクロ波源110によりマイクロ波を試料106に照射する。なお、期間T1の間においては、磁場の掃引は任意である。
ステップ304において、制御部122は、トリプレットDNPを終了するか否かを判定する。終了と判定された場合、制御はステップ306に移行する。そうでなければ、期間T3が経過した後、制御はステップ302に戻る。これにより、図5に示したシーケンスが、期間T3を1周期として繰返される。
トリプレットDNPの終了の判定は、例えば、予め実行回数Nを設定しておき、レーザ光照射及びマイクロ波照射がN回実行されたか否かを判定することにより成され得る。また、予め実行時間ΔTを設定しておき、最初にレーザ光照射及びマイクロ波照射を行なった時から、時間ΔTが経過したか否かを判定することにより、トリプレットDNPの終了を判定してもよい。
図6にペンタセンのエネルギー準位を示す。ペンタセンにレーザ光を照射すると、ペンタセンの電子は、レーザ光によって励起され、基底状態Sから励起一重項状態Sへと遷移する。その後、主として、誘導放射等の光を放射して基底状態に遷移するが、それ以外に、スピン軌道相互作用(項間交差(ISC:Inter System Crossing))により励起三重項状態(T)へと遷移する。この量子的な過程における選択則により、電子スピン分布は、22%と大きく偏る。励起三重項状態は100マイクロ秒程度で基底状態Sへと崩壊(遷移)するが、それまでの間にマイクロ波を照射してパルスDNPを行なう。ペンタセンが磁場中にあれば、図6の右端に示したように、励起三重項状態のレベルは3つのレベルに分離するので、|−1>のレベルと|0>のレベルとのエネルギー差、又は、|0>のレベルと|+1>のレベルとのエネルギー差に応じた周波数のマイクロ波を照射すると、電子スピンの高偏極は、交差偏極等のメカニズムにより、水素の原子核(H)スピン(以下、水素核スピンともいう)に移される。マイクロ波を照射する時間は、1μs以上であることが好ましい。このとき、ペンタセンの水素核スピンが高偏極され、さらにその高偏極は、安息香酸の水素核スピンに移される。したがって、上記したように、ステップ302を繰返すことにより、試料106全体の水素核スピンを高偏極化することができる。
トリプレットDNPを終了すると判定されると、ステップ306において、制御部122は、レーザ光源108、マイクロ波源110及び電源部116を停止させる。
ステップ308において、図4の(b)に示すように、溶媒供給部138が保持している溶媒150を試料106に滴下して、試料106中の安息香酸を溶解させる。これにより、試料中の安息香酸が溶解した水溶液152が生成される。溶媒150は、例えば炭酸ナトリウム水溶液であり、その場合、水溶液152として安息香酸ナトリウム水溶液が生成される。なお、溶媒150を加熱して、常温よりも高い温度にしておいてもよい。ペンタセンは溶解しないので、フィルタ等により、容易に除去することができる。
以上により、水素核スピンが高偏極化された安息香酸を含む水溶液(安息香酸ナトリウム水溶液)を生成することができる。この水溶液を公知のNMR分光装置及びMRI装置で使用することにより、超高感度NMR分光及び超高感度MRIを実現することができる。安息香酸は人体に無害であり、体内で代謝されるので、人体に有害なペンタセンを含まない、安息香酸を含む水溶液は、人体を対象とするMRI検査等において安全に使用することができる。
上記では、トリプレットDNPの終了を、予め設定された繰返し回数N、又は、予め設定された実行時間ΔTを用いて判定する場合を説明したが、これに限定されない。例えば、トリプレットDNPを繰返し実行しながら、NMR信号検出部118によりNMR信号を観測し、所定強度のNMR信号が観測された場合に、トリプレットDNPを終了すると判定してもよい。
上記では、安息香酸を溶解する液体を、粉末の安息香酸に滴下する場合を説明したが、これに限定されない。例えば、安息香酸を溶解する液体を、粉末の安息香酸にスプレーなどで噴霧してもよい。また、容器に収容された安息香酸を溶解する液体中に、粉末の安息香酸を投入してもよい。
上記では、安息香酸にペンタセンを添加した試料を用いる場合を説明したが、これに限定されない。安息香酸に代えて安息香酸の誘導体を用いてもよく、ペンタセンに代えてペンタセンの誘導体を用いてもよい。即ち、「安息香酸誘導体」に「ペンタセン誘導体」を添加した試料を用いることができる。ここで、安息香酸誘導体とは、安息香酸、及び、安息香酸のベンゼン環の任意の1つ以上の水素が、ハロゲン、アルカリ金属、ヒドロキシ基、カルボキシ基、フェニル基、又はアミノ基等で置換されたものを意味する。
また、ペンタセン誘導体とは、ペンタセン、及び、特許文献4に開示されている分子、即ち、図14に示す化学式で表されるものを意味する。
図14の化学式中、Rはそれぞれ独立して、水素原子(H)、重水素原子(D)、又は、酸素原子、硫黄原子及びケイ素原子からなる群より選択される少なくとも1種の原子を含んでいてもよい炭素数1〜20の炭化水素基を表し、Rの少なくとも1つは、酸素原子、硫黄原子及びケイ素原子からなる群より選択される少なくとも1種の原子を含んでいてもよい炭素数1〜20の炭化水素基である。
上記では、安息香酸誘導体の水素核スピンを高偏極化する場合を説明したが、それ以外の核スピンを高偏極化することもできる。例えば、試料に、核スピンがゼロでない炭素13(13C)を含む安息香酸誘導体を使用し、ステップ308を実行する前に、公知の交差偏極により、水素核スピンから炭素13核スピンに偏極を移動させれば、ステップ308を実行することにより、炭素13核スピンが高偏極化された安息香酸ナトリウム水溶液を生成することができる。交差偏極により、第1核スピン及び第2核スピン(ここでは、水素核スピン及び炭素13核スピン)の間で偏極を移動させる場合、試料106を含む試料収容部136を、主磁場形成部102により形成される磁場強度よりも高磁場の環境に移動させ、試料106に印加されている静磁場に応じて、第1核スピン及び第2核スピンのそれぞれの共鳴周波数のマイクロ波(Hartmann−Hahnマッチング条件を満たす周波数のマイクロ波)を照射する(以下、交差偏極照射ともいう)。
また、炭素13以外の、核スピンがゼロでない炭素の同位体を含む安息香酸誘導体を使用してもよく、核スピンがゼロでない酸素又は窒素等の同位体を含む安息香酸誘導体を使用してもよい。例えば、酸素17(17O)又は窒素15(15N)を含む安息香酸誘導体を使用してもよい。その場合にも上記と同様に、ステップ308を実行する前に交差偏極により、同位体の核スピンを高偏極化させることができる。なお、これらの同位体は、安定でなく、短い半減期で崩壊するものであってもよい。
また、ステップ300で、安息香酸誘導体にペンタセン誘導体を添加したものに、さらに、安息香酸誘導体に可溶(安息香酸誘導体を融点以上に加熱し液化させた場合)な物質を添加したものを試料として用いてもよい。安息香酸誘導体に可溶な物質は、ゼロでない核スピンを有しており、高偏極化させる対象物質(以下、ターゲット物質ともいう)であり、例えばプロトカテク酸である。ステップ302でのトリプレットDNPにより、ターゲット物質の水素核スピンは、安息香酸誘導体の水素核スピンと同様に高偏極化される。その後、ステップ308により、水素核スピンが高偏極化された安息香酸誘導体及びターゲット物質を含む水溶液を生成することができる。
また、試料は、複数種類の安息香酸誘導体を含んでいてもよい。また、試料は、複数種類のペンタセン誘導体が添加されたものであっても、複数種類のターゲット物質が添加されたものであってもよい。
なお、試料に、核スピンがゼロでない炭素、酸素又は窒素等の同位体を含む安息香酸誘導体を使用する場合には、ステップ302でのトリプレットDNPにより、ペンタセン誘導体の電子スピンの高偏極を、上記のように水素核スピンを介さずに、直接、安息香酸誘導体に含まれるその同位体の核スピンに移すことも可能である。例えば、炭素13を含む安息香酸誘導体を使用する場合、ペンタセン誘導体の電子スピンの高偏極が、直接、炭素13核スピンに移る現象も発生し得る。
同様に、試料に、核スピンがゼロでない炭素、酸素又は窒素等の同位体を含むターゲット物質を添加した場合には、ペンタセン誘導体の電子スピンの高偏極を、直接、ターゲット物質に含まれるその同位体の核スピンに移すことも可能である。
上記では、安息香酸誘導体を含む試料を使用する場合を説明したが、これに限定されない。本願発明者は、例えば、安息香酸誘導体と、安息香酸誘導体以外のパートナー分子とを、所定の割合で混合して生成した混合物(特に、共結晶状の多結晶試料等)は、安息香酸単体試料と同程度の高偏極化が可能であることを見出した。ここで、「パートナー分子」とは、安息香酸誘導体とは別のカルボン酸、又は、安息香酸誘導体と塩を形成する塩基等の物質を意味する。即ち、試料106として、そのような混合物(共結晶状の多結晶試料等)を使用することができる。例えば、安息香酸と、ニコチン酸(CNCOOH)又はサリチル酸(C(OH)COOH)とを1:1(モル比)で混合して生成した共結晶状若しくは共晶状の多結晶試料、又は、アモルファス状試料を使用して、上記したようにトリプレットDNPを実施した後、試料を溶解させることにより、生体内で重要な働きをする分子であるニコチン酸又はサリチル酸に含まれる水素核スピンを高偏極化することができる。
なお、安息香酸誘導体と、安息香酸誘導体以外のパートナー分子とを混合させる割合は、1:1のモル比に限定されず、任意である。例えば、安息香酸誘導体とパートナー分子とを、10:1から1:3の範囲のモル比で混和させたものを使用することができる。
従来、ペンタセンを使用してニコチン酸及びサリチル酸を高偏極化することはできなかった。トリプレットDNPを行なうにはまずペンタセンを溶かし込めることが最低条件である。さらに、溶かし込んだとしても、結晶構造によってはペンタセンの光特性及びスピン特性が大きくゆがめられてしまい、トリプレットDNPの効率が著しく低い場合もある。ニコチン酸単体では、融解時はペンタセンを溶かし込むことができるが、凝固する際ペンタセンを析出する。サリチル酸単体では、ペンタセンを固体状態で溶かし込むことができるが、吸収効率が低くなってしまいトリプレットDNPで高効率な高偏極化ができない。
以下に、実験結果を示し、本発明の有効性を示す。図1に示した構成で実験を行なった。
レーザ光源108には、フラッシュランプ励起色素レーザを用い、パルス幅1マイクロ秒(図5のT1が1μs)、波長約590nm、繰返し周波数50Hz(図5のT3が20ms)、光出力10mJのレーザ光を試料に照射した。主磁場形成部102には、0.4Tの静磁場を形成する電磁石を用いた。マイクロ波源110には、12GHzのマイクロ波を出力するものを用いた。マイクロ波源110から出力される12GHzの連続波を、スイッチでパルス化して10マイクロ秒のパルス(図5のT2が10μs)を生成し、TWT増幅器でピーク電力約10Wまで増幅し、キャビティ104に入力した。キャビティ104には、TE102モードの共振周波数が12GHzとなるものを用いた。キャビティと導波管とはアイリスで結合し、クリティカルカップリング(無反射状態)となるように調節した。マイクロ波を照射する10μsの間、磁場を線形に掃引した。磁場掃引のための信号はファンクションジェネレータで発生させ、掃引磁場の振幅(磁場強度)約10mTになるようにオペアンプで増幅した信号を掃引磁場形成部114に入力した。
トリプレットDNPで高偏極化した後に、核スピン偏極率等をNMR信号で確認するために、NMR分光計を含めNMR実験のための装置(NMR信号検出部118及びNMR分析部120)を使用した。NMR信号検出部118のNMRコイルは外部コンデンサで17MHzに共振させた。また、NMR分光計を制御部122として使用し、マイクロ波スイッチ、ファンクションジェネレータ、及びフラッシュランプ励起色素レーザを作動させるタイミングを制御した。
上記の条件で、粉末の安息香酸(約0.5mg)に、様々な濃度でペンタセンを添加して作製した粉末試料を用いて実験した結果を図7に示す。図7において、三角形はペンタセン濃度0.06mol%、四角形はペンタセン濃度0.04mol%、ひし形はペンタセン濃度0.02mol%、及び、逆三角はペンタセン濃度0.01mol%の試料の測定結果を表す。丸はカルボキシ基を重水素化(Hを重水素Dで置換)した安息香酸(CCOOD)に、0.04mol%重水素ペンタセンをドープした試料の測定結果を表す。ここで、mol%とは、安息香酸のモル数に対するペンタセンのモル数の割合(%)を意味する。
図7から分かるように、ペンタセン濃度0.04mol%の試料で、偏極率0.4%を達成できた。四角形、菱形、及び逆三角形のそれぞれに対応するグラフから分かるように、最終到達偏極率は、概ねペンタセン濃度に比例する。但し、ペンタセン濃度0.06mol%(三角形に対応するグラフ)の試料の最終到達偏極率は、ペンタセン濃度0.04mol%(四角形に対応するグラフ)の試料と同じである。これは、ペンタセン濃度0.06mol%の試料では、ペンタセンが濃すぎて、試料の発熱によるスピン格子緩和の促進、又は、試料の質の低下等の原因によるものと考えられる。
安息香酸粉末の水素核スピン格子緩和時間は4分であった。固体中ではカルボキシ基の水素はモビリティが高く、核スピン格子緩和の原因になっている。安息香酸のカルボキシ基だけを部分的重水素置換した場合の縦緩和時間Tを測定したところ5分であった。さらに、ペンタセンをも併せて重水素化した場合、約10分間の室温下トリプレットDNPで、偏極率0.8%(丸に対応するグラフ)を達成できた。
この偏極率は、通常MRIが行なわれる磁場強度3Tにおける、室温での熱平衡偏極率の810倍であり、DNPの熱限界である660倍を超えている。
実施例1と同様の構成の装置を用い、重水素化安息香酸(全てのHを重水素Dで置換)、サリチル酸、及びペンタセンを1:1:0.04(モル比)で混合して生成した粉末試料を用いて実験した結果を図8に示す。図8の縦軸は水素核スピン(H)の偏極率を表す。使用した重水素化安息香酸には水素核スピン(H)がないため、図8の偏極率はサリチル酸の水素核スピン(H)の偏極率である。達成した水素核スピン偏極率は0.8%であり、混合したパートナー分子(サリチル酸)でも安息香酸単体と同程度の偏極率を得ることができた。
実施例1と同様の構成の装置及び試料を用い、試料を高偏極化後に溶解してNMR信号を観測した。具体的には、ガラス管に粉末試料(ペンタセンを添加した安息香酸)を入れて、10分間トリプレットDNPを行なった後、1秒間隔で9°パルスを印加して磁化を測定した。そして、測定開始から約15秒後に、約80℃の炭酸ナトリウム水溶液(濃度1M(モーラー))を、ガラス管に注入して試料を溶解させた。
得られたNMR信号(FID信号をフーリエ変換した信号)を図9に示す。t=15(秒)までは固体状態なので双極子緩和の影響で広い幅のスペクトルであるのが、炭酸ナトリウム水溶液の注入後、液体状態特有のモーショナルナローイングによる鋭いピークへと変化している。t=15(秒)時の信号の面積強度と、t=16(秒)時の信号の面積強度とはほとんど変わらず、ほとんどの核スピンが偏極率を保持したまま、安息香酸が溶解していることが分かる。液体状態ではスピン格子緩和時間が数秒程度となり、その時定数で信号は速やかに減衰している。これにより、安息香酸の核スピンの高偏極が保持されることが確認された。
実施例1と同様の構成の装置を用い、実施例1よりも高い偏極率を得ることができる試料を用いて、実験を行なった。具体的には、粉末ではなくバルクの安息香酸(約0.5mgの単結晶1個)にペンタセンを添加して、試料とした。
測定結果を図10に示す。ペンタセン濃度は、いずれも0.04mol%である。三角形に対応する2つのグラフは、いずれも粉末の安息香酸を用いた試料の測定結果を表しており、上側のグラフは、重水素化ペンタセンを部分的に重水素化された安息香酸に添加した試料の測定結果であり、下側のグラフは、ペンタセンも安息香酸も重水素化されていない試料の測定結果である。丸に対応する2つのグラフは、いずれも単結晶の安息香酸を用いた試料の測定結果を表しており、上側のグラフは、重水素化ペンタセンを部分的に重水素化された安息香酸に添加した試料の測定結果であり、下側のグラフは、ペンタセンも安息香酸も重水素化されていない試料の測定結果である。
粉末の安息香酸では、ゼロ磁場分裂相互作用の異方性によって広いESRスペクトルとなり、三重項フラクションが非常に低いものとなるために、偏極率が高くならない。それに対して、バルクの単結晶を使用することにより、図10の最も上側のグラフで示されているように、三重項フラクションの割合が増えたことによる効果に加えて、砕かないことにより結晶の質が良いためTが長くなったことによって、偏極率2.4%を達成できた。これは、通常MRIが行なわれる磁場強度3Tにおける、室温での熱平衡偏極率の2500倍である。
バルクの単結晶は溶けるのに時間がかかってしまう。それを改善するには、例えば、複数枚の薄膜状(単結晶)に試料を成形すればよい。表面積が増えるので、高速に溶解させることができる。
(第2の実施の形態)
第1の実施の形態では、安息香酸誘導体の水素原子核スピンを高偏極化する場合を説明したが、第2の実施の形態では、さらに汎用的に様々な試料の原子核スピンを高偏極化する。
本実施の形態においても、第1の実施の形態と同様に、図1に示した原子核スピンの高偏極化装置100を使用する。本実施の形態に係る原子核スピンの高偏極化方法を図11に示す。図11のフローチャートは、図3のフローチャートに、ステップ320〜332が追加されたものである。ステップ300〜308の処理は、第1の実施の形態として上記した通りであり、説明を繰返さない。以下においては、主として、新たなステップ320〜332に関して説明する。
本実施の形態では、第1の実施の形態と同様に、処理対象の試料(ペンタセン誘導体を少量添加した、粉末状の安息香酸誘導体)を準備し、トリプレットDNPを実行する(ステップ302)。但し、試料中の安息香酸誘導体は、炭素13を含むものである。
その後、ステップ320において、交差偏極照射により、高偏極化している水素核スピンから、炭素13核スピンに偏極を移動させる。交差偏極照射では、上記したように、印加されている静磁場に応じて、水素核スピン及び炭素13核スピンのそれぞれの共鳴周波数のマイクロ波を照射する。
ステップ308により試料を溶解させて、炭素13核スピンが高偏極化された安息香酸誘導体を含む水溶液(具体的には、安息香酸ナトリウム水溶液)を生成した後、ステップ322において、現在の水溶液に、別の高偏極化させる対象物質(ターゲット物質)を追加するか否かに応じて、処理を分岐する。追加しない場合には、ステップ324に移行する。追加する場合には、ステップ330に移行する。
ステップ324において、ステップ308により得られた水溶液(液体)を再固化させる。具体的には、例えば、図12の(a)に示すように、試料収容部136をキャビティ104から取り出して液体窒素154に投入し、冷却する。これにより、試料収容部136内の安息香酸ナトリウム水溶液は凍結し、固体になる。
ステップ326において、凍結している安息香酸ナトリウム水溶液に交差偏極照射を行ない、高偏極化している炭素13核スピンから、ナトリウム核スピンに偏極を移動させる。
ステップ328において、試料収容部136内の固化している安息香酸ナトリウム水溶液を、液化させる。具体的には、例えば、図12の(b)に示すように、試料収容部136をキャビティ104から取り出してヒータ156により加熱して、融解させる。これにより、高偏極化しているナトリウムイオンを含む安息香酸ナトリウム水溶液(液体)を得ることができる。
ターゲットを追加する場合には、ステップ330において、ターゲット物質を、試料収容部136内の安息香酸ナトリウム水溶液に投入する。例えば、炭素13を含むピルビン酸(CHCOCOOH)を追加する。
ステップ332において、ターゲットが追加された水溶液を、ステップ324と同様に再固化させる。これにより、安息香酸誘導体とターゲット(例えば、ピルビン酸)とが近接して固定される。固定された状態では、核スピン偏極は分子を超えて拡散(スピン拡散)するので、安息香酸誘導体の炭素13核スピンの偏極が、ピルビン酸の炭素13核スピンに移り、炭素13核スピンが高偏極化されたピルビン酸が生成される。
上記と同様に、ステップ328において、試料収容部136内の固化している、ターゲットを含む安息香酸ナトリウム水溶液を融解させる。これにより、炭素13核スピンが高偏極化しているピルビン酸を含む水溶液を得ることができる。
以上により、高偏極化しているナトリウムイオン、又は、炭素13核スピンが高偏極化しているターゲットを含む水溶液を得ることができる。得られた水溶液は、NMR分光装置又はMRI装置等において使用され得る。
特に、ターゲット物質が、安息香酸誘導体に難溶な物質であっても、その炭素13核スピンを高偏極化させることができる。
上記では、粉末の安息香酸誘導体を溶解するために炭酸ナトリウム水溶液を使用する場合を説明したが、これに限定されない。例えば、リチウムイオン、又は、カリウムイオンを含むアルカリ金属炭酸塩等の弱酸遊離を引き起こす分子、又は、pHを調整するための分子を含む水溶液により、粉末の安息香酸誘導体を溶解させてもよい。弱酸遊離を引き起こす分子として、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、及び炭酸リチウム等の炭酸塩は、弱酸の遊離により安息香酸を水に溶けやすい安息香酸塩に変換し、溶解させる。pHを調整するための分子は、例えばアンモニア分子等である。その場合、ステップ326により、高偏極化している炭素13核スピンから、リチウム核スピン又はカリウム核スピンに偏極を移動させることができ、高偏極化しているリチウムイオン又はカリウムイオンを含む水溶液を得ることができる。
また、ターゲットは、ピルビン酸に限定されず、1つ以上のカルボキシ基を有するカルボン酸系化合物、アミノ基を有する化合物、糖、生体内分子、及び医薬品分子等、種々の物質をターゲットとして使用することができる。生体内分子は、例えばピルビン酸及び尿素等であるが、これらに限定されず、人及び動物を含む生体内で合成、分解等される分子であればよい。医薬品分子は、例えばカフェイン及びフルオロウラシル等であるが、これらに限定されず、人又は動物の疾病の診断、治療及び予防等のために用いられる薬品に含まれる分子であればよい。例えば、ターゲットとして、フマル酸(ジカルボン酸)、尿素、又はフルクトース等を使用し、高偏極化させることができる。それらは、従来のDissolution DNP法で使用されたことがある代表的なものであり、従来、ペンタセンを用いたトリプレットDNP法では高偏極化できなかったものである。
また、核スピンがゼロでない原子を含む任意のターゲットを使用することができる。そのようなターゲットを追加した場合、水溶液の再固化(ステップ332)の後、融解させる(ステップ328)前に、ステップ326と同様に、交差偏極照射を行なう。照射するマイクロ波周波数を、ターゲットの核スピンがゼロでない原子に応じた共鳴周波数に設定することにより、高偏極化している炭素13核スピンから、ターゲットに含まれる原子核スピンに偏極を移動させることができる。これにより、任意の試料の原子核スピンの高偏極化が可能である。
上記では、炭素13を含む安息香酸誘導体を使用し、ステップ320(交差偏極照射)により、水素核スピンの偏極を炭素13核スピンに移動させる場合を説明したが、これに限定されない。ステップ320の処理を行なわず、水素核スピンを高偏極化させたまま、ステップ326(交差偏極照射)により、水素核スピンの偏極をナトリウム核スピンに移動させる、又は、ステップ332(スピン拡散)により、水素核スピンの偏極をターゲット(例えば、ピルビン酸)の水素核スピンに移動させてもよい。この場合、安息香酸誘導体は炭素13を含まなくてもよい。また、核スピンがゼロでない炭素、酸素又は窒素等の同位体を含む安息香酸誘導体を使用してもよい。例えば、酸素17又は窒素15を含む安息香酸誘導体を使用し、ステップ320(交差偏極照射)により、水素核スピンの偏極を酸素17又は窒素15の核スピンに移動させてもよい。
上記では、ステップ324又はステップ332において、安息香酸誘導体を含む水溶液を冷却して固化させる場合を説明したが、これに限定されない。例えば、再沈殿等の化学的な方法を用いて固化させてもよい。再沈殿された固体物質は、ステップ328において、化学的な方法を用いて液化することができる。
(第3の実施の形態)
第1の実施の形態では、単色レーザ光を照射し、導波管及びキャビティによりマイクロ波を照射する場合を説明したが、第3の実施の形態では、これらの構成を変更し、装置を小型化する。
図13を参照して、本実施の形態に係る原子核スピンの高偏極化装置200は、図1の原子核スピンの高偏極化装置100において、レーザ光源108、キャビティ104及び増幅部112をそれぞれフラッシュランプ202、誘電体共振器204及びSSPA206で代替したものである。主磁場形成部102には、永久磁石を使用する。
フラッシュランプ202は、極めて短時間だけ発光する公知のフラッシュランプであり、例えば、キセノンフラッシュランプ等を使用することができる。フラッシュランプから出力される光は、レーザ光のようにコヒーレントな光ではなく、非コヒーレントな光であり、その波長は所定範囲の幅を有する。誘電体共振器204は、誘電体を用いた公知の共振器である。図1の原子核スピンの高偏極化装置100で用いたキャビティ(空洞共振器)は、金属壁で構成されており、電磁波が金属壁で完全反射されることにより共振する。誘電体共振器では、誘電体内の電磁波が誘電体と空気との境界で全反射されることにより共振する。SSPA206は、半導体を用いた高出力増幅器であり、公知の固体高出力増幅器(Solid State Power Amplifier)である。
図1の原子核スピンの高偏極化装置100では、光源に色素レーザを用いたが、レーザ光以外の光によってもトリプレットDNPが可能であることが確認された。具体的には、集光した部分で光強度が100mWのフラッシュランプを用いて、パルス幅を約10マイクロ秒、繰返し周波数を60Hzに設定して、図5に示したパルスシーケンスにより、実施例1と同様の試料に集光した光を照射してトリプレットDNP実験を行なった。その結果、0.1mgの試料を色素レーザと同程度に高偏極化することに成功した。
したがって、非常に安価で小型な光源、例えばフラッシュランプを使用しても高効率にペンタセン誘導体の電子スピンを高偏極化でき、第1及び第2の実施の形態として上記したように、ペンタセン誘導体を添加した安息香酸誘導体を始め、種々の物質の原子核スピンを高偏極化できる。
なお、DNPは光ポンピングのように光学遷移の選択則に依るものではないので、励起光のスペクトルにも敏感ではない。実際に、主磁場及び掃引磁場等の条件を同じにして、色素レーザの波長をペンタセンの吸収効率の低い570nmに設定してトリプレットDNPを行なった結果、最終到達核スピン偏極率は、ペンタセンの吸収効率が最も高い波長590nmを使用した場合とほぼ同じ値であった。即ち、低い吸収効率の波長でもトリプレットDNPを行なうには十分であることが分かった。ペンタセンは、波長が400nm以上600nm以下の範囲の光を吸収することができ、キセノンフラッシュランプは、これと同じ波長範囲に、総光量の三分の一を含む。したがって、キセノンフラッシュランプは、トリプレットDNPを行なうのに適していると言える。なお、フラッシュランプは、400nm以上600nm以下の全範囲にわたる波長を出力するものが好ましいが、400nm以上600nm以下の範囲の一部の範囲を出力するフラッシュランプであっても、ペンタセンを用いたトリプレットDNPで使用可能である。
したがって、ペンタセンを添加した試料に対してトリプレットDNPを実施するための光源は、フラッシュランプに限定されない。400nm以上600nm以下の範囲に含まれる波長の非コヒーレントな光を放射し、発光時間を1μs程度で制御可能な光源であればよく、種々の公知の光源を使用することができ、より小型の光源を採用することが可能である。例えば、LEDを光源として使用することができる。
主磁場形成部102に関しては、希土類磁石等の強力な磁石材料を使用することにより、0.4T程度の磁場を永久磁石で実現することができるので、永久磁石を使用することにより、小型化できる。
試料106を収容する共振器として、誘電体共振器204を採用することにより、共振器の小型化を実現することができる。これにより、主磁場が形成される空間を小さくすることができ、対向する磁石の極板間隔を狭くすることができる。磁場の強度は、磁極から離れると急激に減少するので、対向する磁極間隔を小さくできれば、その領域に形成される磁場強度をより大きくすることができる。したがって、同じ強度の磁場を形成する場合には、磁石をより小型化できる。
なお、誘電体共振器204として、電気導体を含まないものを使用する場合には、誘電体共振器204の外部に掃引磁場形成部114を配置することができる。誘電体共振器204として、電気導体を含むもの(例えば、誘電体の一部に金属板が配置されたもの)を使用する場合には、図2と同様に、誘電体共振器204内部に掃引磁場形成部114を配置することが好ましい。
誘電体共振器204を用いる場合、NMR信号検出部118から出力されるマイクロ波の増幅器として、固体高出力増幅器(SSPA)を用いることができる。TWT増幅器では電子管が使用されるのに対して、固体高出力増幅器では半導体が使用され、固体高出力増幅器はTWT増幅器よりも小型である。入力電力磁場変換効率を高効率化することにより、マイクロ波の増幅器を、TWTから、より小型な固体高出力増幅器で代替できる。
図13の原子核スピンの高偏極化装置200を用いて、図3及び図11と同様に、トリプレットDNPによる原子核スピンの高偏極化方法を実施することができる。その内容は、第1及び第2の実施の形態として上記したものと同じであり、説明を繰返さない。
上記では、誘電体共振器を使用する場合を説明したが、これに限定されない。空洞共振器よりも小型の共振器であればよく、そのような共振器を用いることにより、対向する磁極間隔を小さくできる。例えば、公知のループギャップ共振器を使用することができる。
以上、実施の形態を説明することにより本発明を説明したが、上記した実施の形態は例示であって、本発明は上記した実施の形態のみに制限されるわけではない。本発明の範囲は、発明の詳細な説明の記載を参酌した上で、請求の範囲の各請求項によって示され、そこに記載された文言と均等の意味及び範囲内での全ての変更を含む。
本発明によれば、試料を冷却することなく室温環境において、原子核スピンが高偏極化された安息香酸誘導体を含む水溶液を生成することができる。原子核スピンが高偏極化された安息香酸誘導体を含む水溶液をNMR分光装置又はMRI装置で使用することにより、超高感度な化学分析又は超高感度な代謝イメージングが可能になる。
100、200 原子核スピンの高偏極化装置
102 主磁場形成部
104 キャビティ
106 試料
108 レーザ光源
110 マイクロ波源
112 増幅部
114 掃引磁場形成部
116 電源部
118 NMR信号検出部
120 NMR分析部
122 制御部
130 光伝送部
132 集光部
134 導波管
136 試料収容部
138 溶媒供給部
150 溶媒
152 水溶液
154 液体窒素
156 ヒータ
202 フラッシュランプ
204 誘電体共振器
206 SSPA

Claims (15)

  1. 一様な静磁場が形成された空間に配置された試料に、光を照射する光照射ステップと、
    前記光照射ステップに続き、前記試料に掃引磁場を印加中に、前記試料にマイクロ波を照射するマイクロ波照射ステップとを含み、
    前記試料は、固体の安息香酸誘導体にペンタセン誘導体が添加された試料であり、
    前記光照射ステップ及び前記マイクロ波照射ステップを繰返した後、前記試料中の安息香酸誘導体を溶解させて溶液を生成する溶解ステップをさらに含む原子核スピンの高偏極化方法。
  2. 前記試料は、安息香酸誘導体に可溶な可溶性物質がさらに添加され、
    前記溶解ステップにおいて、前記試料中の安息香酸誘導体及び前記可溶性物質を溶解させる、請求項1に記載の原子核スピンの高偏極化方法。
  3. 前記試料中のペンタセン誘導体以外の物質のうち、少なくとも1つの物質は、核スピンがゼロでない炭素、酸素及び窒素の同位体のうち、少なくとも1つの同位体を含む、請求項1に記載の原子核スピンの高偏極化方法。
  4. 前記光照射ステップ及び前記マイクロ波照射ステップを繰返した後、前記溶解ステップを行なう前に、交差偏極により前記試料中のペンタセン誘導体以外の物質の水素核スピンの偏極を、前記同位体の核スピンに移動させる核スピン偏極ステップを、さらに含む、請求項3に記載の原子核スピンの高偏極化方法。
  5. 前記溶解ステップにおいて、弱酸遊離を引き起こす分子又はpH調整用の分子の水溶液により、前記試料中のペンタセン誘導体以外の物質を溶解させ、前記溶液を生成する、請求項1に記載の原子核スピンの高偏極化方法。
  6. 前記溶液を固化させて、固体物質を生成する再固化ステップと、
    交差偏極により、前記固体物質中の安息香酸誘導体の原子核スピンの偏極を、前記水溶液に含まれる、弱酸遊離を引き起こす前記分子又はpH調整用の前記分子の原子核スピンに移動させる核スピン移動ステップと、
    前記核スピン移動ステップの後、前記固体物質を液化させる液化ステップとを、さらに含む、請求項5に記載の原子核スピンの高偏極化方法。
  7. 一様な静磁場が形成された空間に配置された試料に、光を照射する光照射ステップと、
    前記光照射ステップに続き、前記試料に掃引磁場を印加中に、前記試料にマイクロ波を照射するマイクロ波照射ステップとを含み、
    前記試料は、安息香酸誘導体と、安息香酸誘導体以外のパートナー分子とを混合して生成した混合物にペンタセン誘導体が添加された試料であり、
    前記光照射ステップ及び前記マイクロ波照射ステップを繰返した後、前記試料中の安息香酸誘導体及びパートナー分子を溶解させて溶液を生成する溶解ステップをさらに含む、原子核スピンの高偏極化方法。
  8. 前記パートナー分子は、安息香酸誘導体以外のカルボン酸、又は、安息香酸誘導体と塩を形成する塩基であり、
    前記混合物は、共結晶状若しくは共晶状の多結晶試料、又は、アモルファス状試料である、請求項7に記載の原子核スピンの高偏極化方法。
  9. 前記試料は、前記混合物に可溶な可溶性物質がさらに添加され、
    前記溶解ステップにおいて、前記試料中の安息香酸誘導体、パートナー分子、及び可溶性物質を溶解させる、請求項7に記載の原子核スピンの高偏極化方法。
  10. 前記溶解ステップにより生成された溶液に、核スピンを高偏極化させる対象である対象物質を溶解させるステップと、
    前記対象物質が溶解された溶液を固化させて、固体物質を生成する再固化ステップと、
    スピン拡散により、前記固体物質中の安息香酸誘導体の原子核スピンの偏極を、前記対象物質中の原子核スピンに移動させるターゲット核スピン偏極ステップと、
    前記ターゲット核スピン偏極ステップの後、前記固体物質を液化させる液化ステップとを、さらに含む、請求項1に記載の原子核スピンの高偏極化方法。
  11. 前記再固化ステップにおいて、前記対象物質が溶解された溶液を凍結させることにより前記固体物質を生成し、
    前記液化ステップにおいて、凍結された前記固体物質を、加熱することにより液化させる、請求項10に記載の原子核スピンの高偏極化方法。
  12. 前記対象物質は、カルボン酸系化合物、アミノ基を有する化合物、糖、生体内分子、又は医薬品分子である、請求項10に記載の原子核スピンの高偏極化方法。
  13. トリプレットDNPにより試料中の原子核スピンを高偏極化するための装置であって、
    静磁場を形成する磁場形成部と、
    前記静磁場が形成された領域に配置された前記試料に光を照射する光照射部と、
    前記静磁場が形成された領域に配置された前記試料にマイクロ波パルスを照射するマイクロ波照射部と、
    前記光照射部及び前記マイクロ波照射部を制御する制御部と、
    前記制御部は、前記光照射部及び前記マイクロ波照射部を制御して、トリプレットDNPにより前記試料中の原子核スピンを高偏極化させ、
    前記光照射部は、波長が400nm以上600nm以下の範囲に含まれる非コヒーレントな光を出力する、原子核スピンの高偏極化装置。
  14. 前記マイクロ波照射部は、固体高出力増幅器と、前記静磁場が形成される領域に配置された、空洞共振器とは異なる共振器とを含み、
    前記光照射部は、前記共振器の内部に配置された前記試料に光を照射し、
    前記マイクロ波照射部は、前記共振器の内部に配置された前記試料に、前記固体高出力増幅器によりマイクロ波パルスを増幅して照射する、請求項13に記載の原子核スピンの高偏極化装置。
  15. 前記共振器は、誘電体共振器又はループギャップ共振器である、請求項14に記載の原子核スピンの高偏極化装置。
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