JPWO2016178431A1 - ポリイオンコンプレックス型ポリマーソームを用いたナノリアクタとその製造方法 - Google Patents

ポリイオンコンプレックス型ポリマーソームを用いたナノリアクタとその製造方法 Download PDF

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Abstract

本発明は、ポリイオンコンプレックス型ポリマーソームを用いたナノリアクタ(ナノサイズの反応場)とその製造方法を提供する。本発明は、例えば、酵素を内包したポリイオンコンプレックス型ポリマーソームであって、酵素は、ポリイオンコンプレックス型ポリマーソームの膜を透過する物質を基質とする酵素である、ポリイオンコンプレックス型ポリマーソームを提供する。

Description

本発明は、ポリイオンコンプレックス型ポリマーソームを用いたナノリアクタとその製造方法に関する。
血中や体内で目的タンパク質を安定的に維持し、その酵素活性を血中で発揮させることに関して、医療・産業界からのニーズが存在し、様々な技術が開発されている。例えば、特許文献1は、アルコールオキシダーゼ酵素およびカタラーゼ酵素を内包したナノカプセルを提供する。特許文献1のナノカプセルは、血中アルコールを分解し、二日酔いや急性アルコール中毒などの症状を処置するためのものとして提案されている。特許文献2には、薬剤送達に用いるベシクルに薬剤や核酸を内包させる技術が記載されている。また、特許文献3には、ベシクル作成時の環境負荷や手順を低減する技術として、水溶性であり、かつ荷電した重合体により形成されるベシクルが記載されている。
WO2013/6763 WO2011/145745 WO2012/14942
本発明は、内包した分子のベシクル外への漏洩を防止し、血中において長期に安定して酵素活性を発揮させる技術として、ポリイオンコンプレックス型ポリマーソームを用いたナノリアクタ(ナノサイズの反応場)とその製造方法を提供する。
本発明者らは、酵素を内包したポリイオンコンプレックス型ポリマーソームが、血中において内包する酵素を長期にわたり安定化できること、および、酵素の活性を長期にわたり維持できることを見いだした。本発明者らはまた、ポリイオンコンプレックス型ポリマーソームを構成するカチオン性ポリマーおよびアニオン性ポリマーの架橋の度合いによって物質の透過性を制御できることを見いだした。本発明者らはさらにまた、L−アスパラギナーゼ内包ポリイオンコンプレックス型ポリマーソームが、血中のアスパラギンを極めて効率よく加水分解できることを明らかにした。本発明者らは、その他の酵素でもポリイオンコンプレックス型ポリマーソームに内包することができ、内包すると血中滞留時間が向上すること、およびその酵素活性が良好に維持されることを明らかにした。本発明はこれらの知見に基づくものである。
すなわち、本発明では以下の発明が提供される。
(1)酵素を内包したポリイオンコンプレックス型ポリマーソームであって、
酵素は、ポリイオンコンプレックス型ポリマーソームの膜を透過する物質を基質とする酵素である、ポリイオンコンプレックス型ポリマーソーム。
(2)酵素の分子量が、5kDa以上である、上記(1)に記載のポリイオンコンプレックス型ポリマーソーム。
(3)酵素の基質の分子量が、1kDa以下である、上記(1)または(2)に記載のポリイオンコンプレックス型ポリマーソーム。
(4)酵素が、球状タンパク質である、上記(1)〜(3)のいずれかに記載のポリイオンコンプレックス型ポリマーソーム。
(5)酵素が、L−アスパラギナーゼ、ウリカーゼ、α−ガラクトシダーゼおよびα−グルコシダーゼから選択される酵素である、上記(1)に記載のポリイオンコンプレックス型ポリマーソーム。
(6)ポリイオンコンプレックス型ポリマーソームが、
COOH基を側鎖に有するアミノ酸を単量体単位として含む重合体(A)と、
NH2基を側鎖に有するアミノ酸を単量体単位として含む重合体(B)と
のポリイオンコンプレックス型ポリマーソームである、上記(1)〜(5)のいずれかに記載のポリイオンコンプレックス型ポリマーソーム。
(7)重合体(A)に存在するCOOH基の50%以上が重合体(B)のNH2基と架橋されている、上記(6)に記載のポリイオンコンプレックス型ポリマーソーム。
(8)10mM リン酸緩衝溶液(pH7.4)中において37℃条件下で測定した場合に、内包した酵素の累積放出率(%)が前記水溶液と接触後7日目に20%以下である、上記(1)〜(7)のいずれかに記載のポリイオンコンプレックス型ポリマーソーム。
(9)10mM リン酸緩衝溶液(pH7.4)中において37℃条件下で測定した場合に、数平均分子量2kDaの直鎖状ポリエチレングリコールの放出速度定数kが5×10-3以下である、上記(7)に記載のポリイオンコンプレックス型ポリマーソーム。
(10)上記(1)〜(9)のいずれかに記載のポリイオンコンプレックス型ポリマーソームであって、内包される酵素が、血漿成分を基質とする、ポリイオンコンプレックス型ポリマーソーム。
(11)上記(10)のポリイオンコンプレックス型ポリマーソームを含んでなる、医薬組成物。
(12)医薬組成物が、酵素欠損または異常を起因とする疾患に罹患している患者に投与するための医薬組成物であり、酵素が、該対象において欠損した、または異常を有する酵素である、上記(11)に記載の医薬組成物。
(13)酵素が、L−アスパラギナーゼ、ウリカーゼ、α−ガラクトシダーゼおよびα−グルコシダーゼから選択される酵素である、上記(11)に記載の医薬組成物。
(14)酵素が、新生物または微生物の生育に必要な栄養素を分解する酵素である、上記(11)に記載の医薬組成物。
(15)酵素が、L−アスパラギナーゼであり、アスパラギン要求性腫瘍を処置するための、上記(13)に記載の医薬組成物。
(16)アスパラギン要求性腫瘍が、アスパラギン産生酵素の発現量が、正常細胞における該酵素の発現量に対して80%以下である腫瘍である、上記(15)に記載の医薬組成物。
(17)アスパラギン要求性腫瘍が、急性リンパ性白血病、T細胞悪性リンパ腫、NK細胞性白血病および急性骨髄性白血病からなる群から選択される、上記(15)または(16)に記載の医薬組成物。
(18)酵素が、α−ガラクトシダーゼであり、α−ガラクトシダーゼの異常を原因とする疾患を処置することに用いるための、上記(11)または(12)に記載の医薬組成物。
(19)酵素が、ウリカーゼであり、高尿酸血症または高尿酸血症を原因とする疾患を処置することに用いるための、上記(11)または(12)に記載の医薬組成物。
(20)酵素が、α−グルコシダーゼであり、α−グルコシダーゼの異常を原因とする疾患を処置することに用いるための、上記(11)または(12)に記載の医薬組成物。
本発明によれば、本発明の医薬組成物により補充された酵素は、血中安定性が高く、また、異種生物で生成した酵素による免疫原性を削減できる点で有利である。
図1は、L−アスパラギナーゼを内包したポリイオンコンプレックス型ポリマーソームの粒径分布(図1A)およびその透過電子顕微鏡(TEM)像を示す。 図2は、ポリイオンコンプレックス型ポリマーソーム中に内包させたL−アスパラギナーゼ、および裸のL−アスパラギナーゼを蛍光相関分光法により解析した結果を示す。 図3は、裸のL−アスパラギナーゼのミカエリス・メンテンプロット(図3A)およびラインウィーバー・バークプロット(図3B)を示す。 図4は、ポリイオンコンプレックス型ポリマーソームに内包させたL−アスパラギナーゼにおけるミカエリス・メンテンプロット(図4A)およびラインウィーバー・バークプロット(図4B)を示す。 図5は、ポリイオンコンプレックス型ポリマーソームに内包させたL−アスパラギナーゼの血中滞留性を示す。 図6は、L−アスパラギナーゼの酵素反応速度の経時変化を示す。 図7は、L−アスパラギナーゼを尾静脈投与したマウスにおける血中アンモニア窒素濃度(図7A)および血中アンモニア窒素濃度の上昇量(図7B)を示す。 図8は、架橋剤であるEDC等量と得られたポリイオンコンプレックス型ポリマーソームのFT−IRスペクトル(図8A)および架橋割合(%)とEDC等量との関係(図8B)を示す。 図9は、架橋前と架橋後におけるポリイオンコンプレックス型ポリマーソームの粒径(図9A)、多分散度(PDI)(図9B)およびそのTEM像(図9C)を示す。 図10は、内包させる分子のサイズおよび分子の使用濃度と、得られるポリイオンコンプレックス型ポリマーソームの粒径との関係を示す。 図11は、図中で示される様々な架橋割合(%)のポリイオンコンプレックス型ポリマーソームにおける、内包物の放出割合の経時的変化(図11A)および架橋割合と放出速度定数との関係(図11B)を示す。 図12は、分子量の異なるポリエチレングリコール(PEG)のポリイオンコンプレックス型ポリマーソームからの放出割合の経時的変化を示す。図12では、PEG6(分子量6k)、PEG20(分子量20k)、PEG42(分子量42k)が示されている。図中のLCは、架橋率40%未満のポリイオンコンプレックス型ポリマーソームにおける放出割合を示し、HCは架橋率80%以上のポリイオンコンプレックス型ポリマーソームにおける放出割合を示す。FPEGは、フルオレセイン標識されたPEGを意味する。 図13は、直鎖PEGと分岐PEGとの放出率の差を示す図である。 図14は、ポリイオンコンプレックス型ポリマーソームからのPEGの放出速度定数と温度との関係を示す図である。図中のLCは、架橋率40%未満のポリイオンコンプレックス型ポリマーソームにおける放出割合を示し、HCは架橋率80%以上のポリイオンコンプレックス型ポリマーソームにおける放出割合を示す。 図15は、PEGの分子量と放出定数との関係を示す図である。図15では、丸印は4℃、三角印は25℃、四角印は37℃、ひし形印は50℃での放出速度定数を示し、白抜きの印は低架橋率、黒塗りは高架橋率のPICsomeにおける放出速度定数であることを示す。 図16は、時刻tにおける累積放出量(%)と時刻tとの関係を示す。図において傾きがポリイオンコンプレックス型ポリマーソームの膜中での分子の拡散係数に比例する。 図17は、α−ガラクトシダーゼ(以下、「α−GAL」ともいう)を内包したPICsomeの粒径分布(図17A)と、蛍光相関分光法による裸の遊離型α−ガラクトシダーゼとPICsome内包型α−ガラクトシダーゼの分析結果を示す。 図18は、蛍光相関分光法によるPICsome内包型α−グルコシダーゼまたはウリカーゼの蛍光相関分光法による解析結果を示す。 図19は、PICsome内包型α−GALの血中滞留性(図19A)とその酵素活性の測定スキームを示す(図19B)。
発明の具体的な説明
本明細書では、「重合体」または「ポリマー」とは、モノマー単位が重合してできる分子をいい、ホモ重合体、共重合体およびブロック共重合体を包含する意味で用いられる。本明細書では、「ホモ重合体」または「ホモポリマー」とは、1種類の単量体単位を重合させて得られる重合体を言う。本明細書では、「共重合体」とは、2種類以上のモノマー単位を重合させて得られるポリマーを言い、ブロック共重合体を包含する意味で用いられる。本明細書では、「ブロック共重合体」とは、同種の単量体単位が連続して形成されたブロックと別種の単量体単位が連続して形成されたブロックとが連結してなる共重合体を言う。
本発明では、「ポリイオンコンプレックス型ポリマーソーム」とは、PICsomeとも呼ばれ、ポリイオンコンプレックスにより形成される中空の微粒子を意味する。PICsomeは、血中滞留時間の観点では、その外表面をポリエチレングリコールで修飾することが好ましいと知られている。
本明細書では、「ポリイオンコンプレックス」(以下、「PIC」ともいう)とは、PEGとアニオン性ブロックとの共重合体と、PEGとカチオン性ブロックとの共重合体とを水溶液中で荷電を中和するように混合すると両ブロック共重合体のカチオン性ブロックとアニオン性ブロックとの間で形成されるイオン層である。PEGと上記の荷電性連鎖とを結合させる意義は、ポリイオンコンプレックスが凝集して沈殿することを抑制すること、および、それにより、ポリイオンコンプレックスが粒径数十nmの単分散なコア−シェル構造を有するナノ微粒子を形成することである。この際、PEGはナノ微粒子の外殻(シェル)を覆うため、生体適合性が高く、血中滞留時間を向上させる点で都合がよいことでも知られている。また、ポリイオンコンプレックス形成において、一方の荷電性ブロックコポリマーは、PEG部分を必要とせず、ホモポリマー、界面活性剤、核酸および/または酵素に置き換えてもよいことが明らかとなっている。そして、ポリイオンコンプレックス形成においては、アニオン性ポリマーおよびカチオン性ポリマーの少なくとも1つがPEGとの共重合体を形成しており、その両方がPEGとの共重合体を形成していてもよい。また、PEG含有量を低減させるとPICsomeが形成されやすい。PICsomeに酵素を内包させるためには、PICsomeと酵素を混合して、激しく攪拌することができる。攪拌は、ボルテックスミキサー(商標)などの攪拌装置などを用いて行うことができる。また、PICsome形成時に酵素を共存させてもPICsomeに酵素を内包させることができる。
本明細書では、「酵素」とは、触媒活性を有するタンパク質を意味する。酵素の分子量は、一般的に10kDa〜200kDaを中心として広く分布していることが知られている。
本明細書では、「対象」とは、ヒトを含む哺乳動物である。対象は、健常の対象であってもよいし、何らかの疾患に罹患した対象であってもよい。
本発明者らは、PICsomeに酵素を内包させて、PICsomeの外部から該酵素の基質をPICsomeと接触させたところ、酵素はPICsomeの内部に保たれたが、基質はPICsomeの膜を透過するために、PICsome外の基質がPICsome内の酵素と反応しうること、反応生成物はPICsomeの外に放出されることを見いだした。本発明者らはまた、PICsomeに内包させた酵素は、裸の酵素と比較して血中滞留性が顕著に向上することも見いだした。
従って、本発明によれば、酵素を内包したポリイオンコンプレックス型ポリマーソームが提供される。本発明によれば、酵素は、ポリイオンコンプレックス型ポリマーソームの膜を透過する物質を基質とする酵素とすることができる。
本発明によれば、分子量6kDaのPEGはPICsomeの膜に対する透過性は低かった。また、繊維型でないタンパク質はさらにPICsomeの膜に対する透過性が低いと予想される。従って、本発明のある態様では、酵素は、分子量5kDa以上、10kDa以上、20kDa以上、30kDa以上、40kDa以上、50kDa以上、60kDa以上、70kDa以上、80kDa以上、90kDa以上、100kDa以上、110kDa以上、120kDa以上、130kDa以上または140kDa以上の酵素を用いることができる。分子量は5kDa以上であればPICsome内部に保持することができるが、分子量が大きいほどPICsomeを通過しにくく内部に保持されやすい。
本発明によれば、酵素の基質は、分子量5kDa未満、4kDa以下、3kDa以下、2kDa以下、1kDa以下、750Da以下、500Da以下、400Da以下、300Da以下または200Da以下とすることができる。分子量は、5kDa未満であればPICsomeの膜を透過することができるが、分子量が小さいほどPICsomeの膜を通過して酵素と接触し易くなり、反応効率が高まる。
本発明によれば、繊維状ポリマーもPICsome内に有利に保持されたが、分岐状ポリマーにおいてPICsomeの膜透過性がより低下して内部により有利に保持される。従って、本発明では酵素として、繊維状タンパク質を用いることも可能であるが、好ましくは球状タンパク質を用いることができる。
本発明によれば、PICsomeに内包された酵素は、生理的条件下および血中において、裸の酵素と比較して安定である。特に、本発明によれば、PICsomeに内包された酵素は、血中において、裸の酵素と比較して安定である。従って、本発明のある態様では、酵素は、その基質が血漿成分である酵素とすることができる。このようにすることで、血中において安定的に酵素およびその活性を維持しながら、血中の基質を効果的に処理することができる。
本発明のある態様では、酵素として、L−アスパラギナーゼを用いることができる。L−アスパラギナーゼ(以下「L−ASP」ということがある)は、分子量約141kDaのタンパク質であり、アスパラギンを加水分解してアスパラギン酸とNH3を生成する。L−ASPは、急性リンパ性白血病の処置用に市販されており、例えば協和発酵キリン社からロイナーゼ(商標)の商品名で市販されている。L−ASPは、肥満細胞腫の処置にも用いられる。L−ASPは、静脈内注射により投与することができる。
L−ASPは、血中のL−アスパラギンを加水分解し、アスパラギン要求性の腫瘍細胞を栄養欠乏状態にすることにより抗腫瘍効果を発揮すると考えられている。アスパラギナーゼとしては、大腸菌(Escherichia coli)由来のものや、エルウィニア・クリサンテミ(Erwinia chrysanthemi)由来のものを用いることができる。しかし、これらの細菌由来のアスパラギナーゼは、ヒトにアレルギー反応を引き起こさせる可能性がある。本発明によれば、アスパラギナーゼは、PICsome中に内包され、アレルギー反応の問題は低減される。L−ASPとしては、PEGで修飾されたPEGアスパラギナーゼを用いてもよい。
本発明によれば、PICsome中に内包されたL−ASP(以下、「内包型L−ASP」ということがある)は、裸のL−ASP(以下、「遊離型L−ASP」ということがある)と比較して高い血中滞留性とNH3生成能(すなわち、アスパラギン加水分解能)を示した。従って、本発明によれば、アスパラギン要求性または感受性の腫瘍細胞の処置において、従来のL−ASPよりも効果的に用いることができる。従って、本発明によれば、内包させる酵素がL−ASPである、PICsomeを含む医薬組成物が提供される。
本発明の、内包させる酵素がL−ASPであるPICsomeを含む医薬組成物は、アスパラギン要求性の腫瘍を処置することに用いることができる。アスパラギン要求性の腫瘍としては、急性白血病、例えば、急性リンパ性白血病、急性リンパ芽球性白血病、特に小児急性リンパ性白血病、急性骨髄性白血病、その他の急性白血病、および悪性リンパ腫、例えば、T細胞悪性リンパ腫、ホジキン氏病、細網肉腫およびリンパ肉腫が挙げられる。
近年、細胞内のアスパラギン産生酵素の欠損または低発現を示すNK細胞性白血病および急性骨髄性白血病では、アスパラギナーゼ投与によりアスパラギンを枯渇させやすく、腫瘍細胞に細胞死を誘導させることができることが明らかとなった。従って、本発明のある態様では、アスパラギン要求性の腫瘍は、アスパラギン産生酵素の発現を調べることにより同定することができる。例えば、本発明のある態様では、アスパラギン要求性の腫瘍は、アスパラギン産生酵素の発現が、正常細胞に対して80%以下、70%以下、60%以下、50%以下、40%以下、30%以下、20%以下、10%以下、5%以下、3%以下または1%以下の腫瘍とすることができる。本発明のある態様では、アスパラギン要求性の腫瘍は、NK細胞性白血病および急性骨髄性白血病のいずれかとすることができる。
本発明の、内包させる酵素がL−ASPであるPICsomeを含む医薬組成物は、L−ASPを用いた化学療法によりアレルギー症状(例えば、アナフィラキシー症状)を呈するに至った腫瘍患者を対象として投与することができる。
腫瘍のような新生物以外にも、細菌およびウイルスなどの微生物が必要とする栄養源を分解する酵素をPICsomeに内包して生体に投与することにより、新生物や微生物の死滅・減少を誘導することができる。
本発明のある態様では、内包させる酵素として、ウリカーゼを用いることができる。ウリカーゼ(EC1.7.33)は、尿酸オキシダーゼともよばれ、プリン代謝およびカフェイン代謝に関与すし尿酸を分解することができる。そのため、血中の尿酸値が高値を示す高尿酸血症および高尿酸血症を原因とする疾患(例えば、合併症)の処置にウリカーゼを用いることができる。高尿酸血症を原因とする疾患としては、痛風(例えば、痛風結節および痛風関節炎)並びに尿酸塩沈着症および尿酸結石、間質性腎炎、腎不全、および動脈硬化症などの高尿酸血症を原因とする疾患が挙げられる。本発明によれば、内包させる酵素がウリカーゼであるPICsomeを含む医薬組成物であって、高尿酸血症または高尿酸血症を原因とする疾患を処置することに用いるための医薬組成物が提供される。
さらに、PICsomeに内包された酵素は血中で安定であることから、PICsomeに酵素を内包することにより、酵素を血中から細胞内に輸送させることにも有効に利用できる。細胞内、特にライソゾーム内には多数の酵素が存在し、その酵素の欠損又は異常によりライソゾーム病が生じる。従って、本発明のある態様では、欠損又は異常(例えば、酵素活性の低下)によりライソゾーム病を生じる酵素を、PICsomeに内包させて、当該酵素の欠損又は異常によりライソゾーム病に罹患した対象に対して投与することができる。
本発明のある態様では、内包させる酵素として、ライソゾーム内の酵素、例えば、α−ガラクトシダーゼ(以下、「α−GAL」ともいう)を用いることができる。α−ガラクトシダーゼ(EC3.2.1.22)は、α−D−ガラクトシドを加水分解する活性を有しており、種々のアルコール誘導体へのα−D−ガラクトシドのO−転移を促進する活性を有する。α−ガラクトシダーゼは、その活性が欠乏するとライソゾーム病の一種、ファブリー病の原因となる。α−ガラクトシダーゼは、点滴投与による補充療法において、ファブリー病の症状の改善や進行を抑えることができる。
本発明によれば、内包させる酵素がα−ガラクトシダーゼであるPICsomeを含む医薬組成物は、α−ガラクトシダーゼの異常を原因とする疾患、例えば、ライソゾーム病(例えば、ファブリー病)などのα−ガラクトシダーゼの活性低下または欠損を原因とする疾患を処置することに用いることができる。本発明によれば、内包させる酵素がα−ガラクトシダーゼであるPICsomeを含む医薬組成物であって、α−ガラクトシダーゼの異常を原因とする疾患(例えば、ライソゾーム病)を処置することに用いるための医薬組成物が提供される。
本発明のある態様では、内包させる酵素として、α−グルコシダーゼを用いることができる。α−グルコシダーゼ(EC3.2.1.20)は、糖のα−1,4−グルコシド結合を加水分解する活性を有している。α−グルコシダーゼは、その活性が欠乏するとライソゾーム病(例えば、ポンベ病(OMIM No.: 232300))の原因となる。従って、α−グルコシダーゼは、α−グルコシダーゼの異常(例えば、活性低下または欠損)を原因とする疾患の処置に用いることができる。α−グルコシダーゼの活性低下または欠損を原因とする疾患としては、ライソゾーム病(例えば、ポンベ病)などのα−グルコシダーゼの活性低下または欠損を原因とする疾患が挙げられる。従って、本発明によれば、内用される酵素がα−グルコシダーゼであるPICsomeを含む医薬組成物であって、α−グルコシダーゼの活性低下または欠損を原因とする疾患を処置することに用いるための医薬組成物が提供される。
本発明の酵素は、ここに記載した酵素に限定されるものではなく、生体内で欠損又は異常により、不足している酵素を補うための酵素補充療法に広く利用することできる。
PICsomeを形成するブロック共重合体としては、PEGブロックとポリカチオンブロックとのブロック共重合体およびホモポリアニオン、または、PEGブロックとポリアニオンブロックとのブロック共重合体およびホモポリカチオンが挙げられる。ブロック共重合体としては、生分解性であるブロック共重合体を用いることが好ましく、そのような共重合体としては様々な共重合体が知られ、いずれを用いることも原理的に可能である。
本発明では、ポリカチオンブロックとしては、例えば、カチオン性天然アミノ酸およびカチオン性非天然アミノ酸、例えば、ヒスチジン、トリプトファン、オルニチン、アルギニンおよびリジンなどのカチオン性天然アミノ酸、および/または、−(NH−(CH22p−NH2で表される基{ここで、pは1〜5の整数である。}をカチオン性の側鎖として有するポリマーブロック、例えば、上記カチオン性の側鎖を有するカチオン性非天然アミノ酸のポリマーブロック、例えば、上記カチオン性の側鎖を有するアスパラギン酸またはグルタミン酸などのカチオン性非天然アミノ酸のポリマーブロックが挙げられる。本発明のある態様では、ポリカチオンブロックは、−(NH−(CH22p−NH2で表される基{ここで、pは1〜5の整数である。}を側鎖として有するポリマーブロックである。ここで、カチオン性天然アミノ酸としては、好ましくはヒスチジン、トリプトファン、オルニチン、アルギニンおよびリジンが挙げられ、より好ましくはアルギニン、オルニチンおよびリジンが挙げられ、さらに好ましくはオルニチンおよびリジンが挙げられ、さらにより好ましくはリジンが挙げられる。生体適合性が高く、生分解性であるブロック共重合体としては、例えば、ポリ(アスパラギン酸−テトラエチレンペンタアミン)ブロック共重合体、および、ポリエチレングリコール−ポリ((5−アミノペンチル)−アスパラギン酸)ブロック共重合体を用いることができる。
ポリカチオンブロックには、カチオン性アミノ酸およびカチオン性の側鎖を有するアミノ酸が混在していてもよい。すなわち、本発明のある態様では、ポリカチオンブロックは、カチオン性天然アミノ酸、カチオン性非天然アミノ酸、または、カチオン性天然アミノ酸およびカチオン性非天然アミノ酸を含むモノマー単位の重合体である。本発明のある態様では、ポリカチオンブロック中のモノマー単位間の結合はペプチド結合である。本発明の好ましい態様では、カチオン性非天然アミノ酸が、側鎖として−(NH−(CH22p−NH2で表される基{ここで、nは1〜5の整数である}を有するアミノ酸である。また、本発明のある態様では、ポリカチオンブロックは、カチオン性天然アミノ酸並びに−(NH−(CH22p−NH2で表される基{ここで、pは1〜5の整数である。}で修飾されたアスパラギン酸およびグルタミン酸が任意の順番で重合してなるポリカチオンブロックとすることができる。本発明のある態様では、ポリマー中のモノマー単位の40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、98%または100%が側鎖として−(NH−(CH22p−NH2で表される基{ここで、pは1〜5の整数である。}を有する。
本発明のある態様では、PICsomeはPEGブロックとポリカチオンブロックとのブロック共重合体およびホモポリアニオンとのポリイオンコンプレックスにより形成できる。本発明のある特定の態様では、PEGブロックとポリカチオンブロックとのブロック共重合体は、PEGブロックとポリ(アミノペンチル−アスパラギン酸)との共重合体とすることができる。本発明のある特定の態様では、ホモポリアニオンは、ポリアスパラギン酸とすることができる。本発明のさらなる特定の態様では、PICsomeはPEGブロックとポリカチオンブロックとのブロック共重合体およびホモポリアニオンはそれぞれ、PEGブロックとポリ(アミノペンチル−アスパラギン酸)との共重合体およびポリアスパラギン酸とすることができる。このさらなる特定の態様において、PEGブロック、ポリアスパラギン酸ブロックおよびポリ(アミノペンチル−アスパラギン酸)ブロックの重合度は、それぞれ独立して、5〜20,000の整数、好ましくは10〜5,000の整数、より好ましくは40〜500の整数、さらに好ましくは5〜1,000の整数、さらにより好ましくは10〜200の整数とすることができる。
本発明では、ポリカチオンブロックとしては、例えば、PEG−ポリ(N’−[N−(2−アミノエチル)−2−アミノエチル]−アスパラギン酸)ブロック共重合体(PEG−P(Asp−DET))を用いることができる。PEG−P(Asp−DET)は、常法に従って調製することができる(Chem. Med. Chem. 1 (2006) 439−444参照)。
P(Asp−DET)において、Asp−DETは、側鎖のカルボキシル基がジエチルトリアミン(DET)基(−NH−CH2−CH2−NH−CH2−CH2−NH2)で置換されたアスパラギン酸である。P(Asp−DET)の構造は以下の化学式で示される。
P(Asp−DET)
Figure 2016178431
{式中、
1は、水酸基、保護基、疎水性基、または重合性基であり、
4は、H、保護基、疎水性基、または重合性基であり、
3は、−(NH−(CH222−NH2で表される基であり、
nは、0〜5000のいずれかの整数であり、例えば、0〜500のいずれかの整数であり、
mは、0〜5000のいずれかの整数であり、例えば、0〜500のいずれかの整数であり、
m+nは、2〜5000のいずれかの整数であり、例えば、2〜500のいずれかの整数であり、
n−mは、0以上の整数であり、
式中の各繰り返し単位は記載の都合上特定の順で示しているが、各繰り返し単位は順不同に存在することができ、各繰り返し単位はランダムに存在してもよく、また、各繰り返し単位は同一であっても異なっていてもよい。}
ポリカチオンブロックが、ポリエチレングリコールと共重合体を形成している場合には、R1またはR4が結合を表し、ポリエチレングリコールは、該結合を介してポリカチオンブロックと共重合体を形成させることができる。なお、上記一般式(I)のポリマーでは、各繰り返し単位がペプチド結合により結合している。
本発明のある態様では、PICsomeは、PICsomeを形成後にカチオン性重合体とアニオン性重合体とを架橋してもよい。架橋は、当業者に周知の方法を用いて適宜行うことができる。例えば、本発明のPICsomeは、PEGで修飾されていてもよいカチオン性重合体とPEGで修飾されていてもよいアニオン性重合体を用いて形成し、その後、カチオン性重合体とアニオン性重合体とを架橋して得ることができる。本発明のある態様では、カチオン性重合体は、側鎖にNH2基を有するカチオン性アミノ酸を単量体単位として含み、PEGで修飾されていてもよい重合体と側鎖にCOOH基を有するアニオン性アミノ酸を単量体単位として含み、PEGで修飾されていてもよい重合体とを水溶液中で混合してPICsomeを形成させ、その後、架橋剤として1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩を用いてカチオン性重合体とアニオン性重合体とを架橋して得てもよい。架橋は、PICsomeに酵素を内包させた後に行うことができる。
従って、本発明のある態様では、PICsomeは、
COOH基を側鎖に有するアミノ酸を単量体単位として含む重合体(A)と、
NH2基を側鎖に有するアミノ酸を単量体単位として含む重合体(B)と
のPICsomeとしてもよい。この態様では、重合体(A)と重合体(B)とを架橋するために、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC)を用いることができる。
PICsome中でのカチオン性重合体とアニオン性重合体との架橋率(%)は、例えば、フーリエ変換赤外分光法(FT−IR)により、PEG−PAspのポリマー(未架橋)のスペクトルを参照とし、PEGに由来するピーク(1460cm-1;C−H基の変角振動に由来)に対するカルボキシル基に由来するピーク(1600cm-1;COO-基の伸縮振動に由来)の比を求めることにより算出することができる。架橋率は架橋剤の使用量を増加させることで高めることができる。
本発明によれば、PICsomeを構成するカチオン性重合体とアニオン性重合体とを架橋することを含む、PICsomeの膜に対する分子の透過性を低下させる方法またはPICsome内部からの分子の放出速度を低下させる方法が提供される。本発明のある態様では、5kDa未満、4kDa以下、3kDa以下、2kDa以下、1kDa以下、750Da以下、500Da以下、400Da以下、300Da以下または200Da以下の分子に対する透過性は、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、または実質的に保たれる。本発明のある態様では、透過性を低下させる分子または放出速度を低下させる分子は、5kDa以上、10kDa以上、20kDa以上、30kDa以上、40kDa以上、50kDa以上、60kDa以上、70kDa以上、80kDa以上、90kDa以上、100kDa以上、110kDa以上、120kDa以上、130kDa以上または140kDa以上の酵素を用いることができる。
本発明によれば、PICsomeを構成するカチオン性重合体とアニオン性重合体との架橋率(%)が高まるほど、PICsome内部からの分子の放出速度が低下して放出速度定数が低下する。例えば、架橋率(%)は、25%以上、30%以上、40%以上、50%以上、60%以上、70%以上または80%以上とすることができる。架橋率は90%以上であってもよい。このうち、架橋率が40%を超えると放出速度定数が大きく低下する。従って、架橋率(%)は、大きいことが好ましく、好ましくは、50%以上、60%以上、70%以上または80%以上とすることができる。
本発明によれば、PICsomeを構成するカチオン性重合体とアニオン性重合体架橋率を高めることにより、内包される酵素のPICsome外への放出量を低減することができ、10mM リン酸緩衝溶液(pH7.4)中において37℃条件下で測定した場合に、内包した酵素の累積放出率(%)が前記水溶液と接触後7日目に60%以下、50%以下、40%以下、30%以下、20%以下、10%以下または5%以下である、PICsomeが提供される。本発明によれば、10mM リン酸緩衝溶液(pH7.4)において37℃条件下で測定した場合に、数平均分子量2kDaの直鎖状ポリエチレングリコールの放出速度定数kが5×10-3以下、4×10-3以下、3×10-3以下、2×10-3以下または1×10-3以下である、PICsomeが提供される。ある態様では、酵素として、5kDa以上、10kDa以上、20kDa以上、30kDa以上、40kDa以上、50kDa以上、60kDa以上、70kDa以上、80kDa以上、90kDa以上、100kDa以上、110kDa以上、120kDa以上、130kDa以上または140kDa以上の酵素を用いることができる。
本発明の別の側面によれば、L−ASPを内包させることに用いるための、PICsomeを含む組成物が提供される。この側面において、ある態様では、PICsomeは、本発明のPICsomeとすることができる。この側面において、組成物は、L−ASPと混合することにより、L−ASPをPICsomeの内部に内包させることができる。PICsome外のアスパラギンであってもPICsomeの膜を透過して内部に到達できるので、本発明の組成物は、アスパラギンと接触させることにより、アスパラギンの加水分解に用いることができる。
本発明の別の側面によれば、α−ガラクトシダーゼを内包させることに用いるための、PICsomeを含む組成物が提供される。この側面において、ある態様では、PICsomeは、本発明のPICsomeとすることができる。この側面において、本発明の組成物は、α−ガラクトシダーゼと混合することにより、α−ガラクトシダーゼをPICsomeの内部に内包させることができる。PICsome外の基質(例えば、グロボトリアオシルセラミド)であってもPICsomeの膜を透過して内部に到達できるので、本発明の組成物は、α−ガラクトシダーゼと接触させることにより、アスパラギンの加水分解に用いることができる。
本発明のある態様では、ウリカーゼを内包させることに用いるための、PICsomeを含む組成物が提供される。この側面において、ある態様では、PICsomeは、本発明のPICsomeとすることができる。この側面において、本発明の組成物は、ウリカーゼと混合することにより、ウリカーゼをPICsomeの内部に内包させることができる。PICsome外の基質(例えば、尿酸)であってもPICsomeの膜を透過して内部に到達できるので、本発明の組成物は、ウリカーゼと接触させることにより、尿素の加水分解に用いることができる。
本発明のある態様では、α−グルコシダーゼを内包させることに用いるための、PICsomeを含む組成物が提供される。この側面において、ある態様では、PICsomeは、本発明のPICsomeとすることができる。この側面において、本発明の組成物は、α−グルコシダーゼと混合することにより、α−グルコシダーゼをPICsomeの内部に内包させることができる。PICsome外の基質(例えば、グリコーゲン)であってもPICsomeの膜を透過して内部に到達できるので、本発明の組成物は、α−ガラクトシダーゼと接触させることにより、α−1,4−グルコシド結合の加水分解に用いることができる。
本発明の別の側面によれば、PICsomeに内包させることに用いるための、L−ASPを含む組成物が提供される。この側面において、ある態様では、PICsomeは、本発明のPICsomeとすることができる。この側面において、組成物は、L−ASPと混合することにより、L−ASPをPICsomeの内部に内包させることができる。PICsome外のアスパラギンであってもPICsomeの膜を透過して内部に到達できるので、本発明の組成物は、アスパラギンと接触させることにより、アスパラギンの加水分解に用いることができる。
本発明のある態様では、PICsomeに内包させることに用いるための、α−ガラクトシダーゼを含む組成物が提供される。この側面において、ある態様では、PICsomeは、本発明のPICsomeとすることができる。この側面において、組成物は、α−ガラクトシダーゼと混合することにより、α−ガラクトシダーゼをPICsomeの内部に内包させることができる。PICsome外の基質であってもPICsomeの膜を透過して内部に到達できるので、本発明の組成物は、α−ガラクトシダーゼと接触させることにより、基質の加水分解に用いることができる。
本発明のある態様では、PICsomeに内包させることに用いるための、ウリカーゼを含む組成物が提供される。この側面において、ある態様では、PICsomeは、本発明のPICsomeとすることができる。この側面において、組成物は、ウリカーゼと混合することにより、ウリカーゼをPICsomeの内部に内包させることができる。PICsome外の尿素であってもPICsomeの膜を透過して内部に到達できるので、本発明の組成物は、ウリカーゼと接触させることにより、尿素の加水分解に用いることができる。
本発明のある態様では、PICsomeに内包させることに用いるための、α−グルコシダーゼを含む組成物が提供される。この側面において、ある態様では、PICsomeは、本発明のPICsomeとすることができる。この側面において、組成物は、ウリカーゼと混合することにより、α−グルコシダーゼをPICsomeの内部に内包させることができる。PICsome外の基質であってもPICsomeの膜を透過して内部に到達できるので、本発明の組成物は、α−グルコシダーゼと接触させることにより、基質の加水分解に用いることができる。
本発明の別の側面によれば、PEG化されていてもよいポリカチオンと、ポリアニオンと、L−ASPとの組合せが提供される。本発明の別の側面によれば、ポリカチオンと、PEG化されていてもよいポリアニオンと、L−ASPとの組合せが提供される。本発明の組合せは、L−ASPを内包したPICsomeを調製することに用いることができる。
本発明のある態様では、PEG化されていてもよいポリカチオンと、ポリアニオンと、α−ガラクトシダーゼの組合せが提供される。本発明のある態様では、PEG化されていてもよいポリカチオンと、ポリアニオンと、ウリカーゼの組合せが提供される。PEG化されていてもよいポリカチオンと、ポリアニオンと、α−グルコシダーゼの組合せが提供される。
本発明のある態様では、ポリカチオンと、PEG化されていてもよいポリアニオンと、α−ガラクトシダーゼとの組合せが提供される。本発明のある態様では、ポリカチオンと、PEG化されていてもよいポリアニオンと、ウリカーゼとの組合せが提供される。本発明のある態様では、ポリカチオンと、PEG化されていてもよいポリアニオンと、α−グルコシダーゼとの組合せが提供される。これらの組合せは、上記の通り、前記酵素を内包したPICsomeを調製することに用いることができる。
本発明のさらなる別の側面によれば、酵素を内包した本発明のPICsomeを、その酵素の投与を必要とする対象に投与することを含む、対象を処置する方法が提供される。対象は、特定の酵素を欠損した、またはその発現が低下したことにより、疾患に罹患した対象とすることができる。
酵素としては、L−ASPが挙げられ、疾患としては、アスパラギン要求性の腫瘍が挙げられる。従って、本発明によれば、アスパラギン要求性の腫瘍を処置する方法であって、その必要のある対象に、L−ASP含む有効量のPICsomeを投与することを含んでなる、方法が提供される。アスパラギン要求性腫瘍としては、急性白血病、例えば、急性リンパ性白血病、急性リンパ芽球性白血病、特に小児急性リンパ性白血病、急性骨髄性白血病、その他の急性白血病、および悪性リンパ腫、例えば、T細胞悪性リンパ腫、ホジキン氏病、細網肉腫およびリンパ肉腫が挙げられる。アスパラギン要求性の腫瘍は、正常細胞と比較して、アスパラギン産生酵素の発現が、正常細胞に対して80%以下、70%以下、60%以下、50%以下、40%以下、30%以下、20%以下、10%以下、5%以下、3%以下または1%以下の腫瘍とすることもできる。本発明のある態様では、対象を、L−APSを用いた化学療法によりアレルギー症状(例えば、アナフィラキシー症状)を呈するに至った腫瘍患者を対象とすることができる。
あるいは、酵素としては、α−ガラクトシダーゼが挙げられ、疾患としては、α−ガラクトシダーゼの異常を原因とする疾患(例えば、ファブリー病)が挙げられる。従って、本発明によれば、α−ガラクトシダーゼの異常を原因とする疾患(例えば、ライソゾーム病(例えば、ファブリー病)などのα−ガラクトシダーゼの活性低下または欠損を原因とする疾患)を処置する方法であって、その必要のある対象に、α−ガラクトシダーゼを含む有効量のPICsomeを投与することを含んでなる、方法が提供される。本発明のある態様では、対象を、α−ガラクトシダーゼを用いた化学療法によりアレルギー症状(例えば、アナフィラキシー症状)を呈するに至った腫瘍患者を対象とすることができる。
あるいは、酵素としては、ウリカーゼが挙げられ、疾患としては、高尿酸血症および高尿酸血症を原因とする疾患の処置に用いることができる。高尿酸血症を原因とする疾患としては、痛風(例えば、痛風結節および痛風関節炎)並びに尿酸塩沈着症および尿酸結石、間質性腎炎、腎不全、および動脈硬化症などの高尿酸血症を原因とする疾患が挙げられる。従って、本発明によれば、高尿酸血症および高尿酸血症を原因とする疾患を処置する方法であって、その必要のある対象に、ウリカーゼを含む有効量のPICsomeを投与することを含んでなる、方法が提供される。本発明のある態様では、対象を、ウリカーゼを用いた化学療法によりアレルギー症状(例えば、アナフィラキシー症状)を呈するに至った腫瘍患者を対象とすることができる。
あるいは、酵素としては、α−グルコシダーゼが挙げられ、疾患としては、α−グルコシダーゼの異常を原因とする疾患(例えば、ポンベ病)が挙げられる。従って、本発明によれば、α−グルコシダーゼの異常を原因とする疾患(例えば、ライソゾーム病(例えば、ポンベ病)などのα−グルコシダーゼの活性低下または欠損を原因とする疾患)を処置する方法であって、その必要のある対象に、α−グルコシダーゼを含む有効量のPICsomeを投与することを含んでなる、方法が提供される。本発明のある態様では、対象を、α−グルコシダーゼを用いた化学療法によりアレルギー症状(例えば、アナフィラキシー症状)を呈するに至った腫瘍患者を対象とすることができる。
本明細書では、「処置」とは、疾患または障害を治癒、予防若しくは寛解、または、疾患または障害の進行速度の低下をもたらすことを意味する。処置は、治療上有効な量の医薬組成物を投与することにより達成され得る。
実施例1:酵素を封入したPICsomeの調製
本実施例では、酵素L−アスパラギナーゼ(以下、「L−ASP」とも言う)を封入したPICsomeを調製した。
1.PEG−P(Asp)の合成
まず、ポリエチレングリコール−ポリ(β−ベンジル−L−アスパルテート)ブロック共重合体(PEG−PBLA)をβ−ベンジル−L−アスパルテート−N−カルボン酸無水物(BLA−NCA)(中央化製品社に製造委託して得た)の重合により得た。具体的には、BLA−NCA 18.9gをN,N'−ジメチルホルムアミド(DMF)20mLに溶解する。メトキシ基の末端とアミノエチル基の末端を有するポリエチレングリコール(Me−O−PEG−NH2)(分子量2,000)2.0gをDMF 20mLに溶解し、その溶液をBLA−NCA溶液に加える。混合溶液を35℃に保ちながら40時間重合した。赤外分光(IR)分析で重合反応が終了したことを確認した後、反応混合物をジエチルエーテル2Lに滴下して沈澱したポリマーを吸引濾過により回収し、ジエチルエーテルで洗浄した後に真空乾燥してPEG−PBLA 15.51g(収率79%)を得た。
次に、PEG−PBLAからポリエチレングリコール−ポリアスパラギン酸ブロック共重合体(PEG−P(Asp.)を合成した。具体的には、PEG−PBLA 1.0gを0.5N水酸化ナトリウムに懸濁しながら室温でベンジルエステルを加水分解した。コポリマーが溶解した後、透析膜(分画分子量6,000−8,000)を用いて水中で透析した。膜内の溶液を凍結乾燥してPEG−P(Asp) 654mg(収率78%)を得た。
2.ホモP(Asp−AP)の合成
まず、ポリ(β−ベンジル−L−アスパルテート)(ホモPBLAポリマー)をBLA−NCAの重合により得た。具体的には、β−ベンジル−L−アスパルテート−N−カルボン酸無水物(BLA−NCA)20gをN,N’−ジメチルホルムアミド(DMF)33.3mL、ジクロロメタン300mLに溶解する。N−ブチルアミン89.0μLを上記BLA−NCA溶液に加える。混合溶液を35℃に保ちながら40時間重合した。赤外分光(IR)分析で重合反応が終了したことを確認したのち、反応混合物をヘキサン/酢酸エチル溶液(ヘキサン:酢酸エチル=6:4)1Lに滴下して沈澱したポリマーを吸引濾過により回収し、ジエチルエーテルで洗浄した後に真空乾燥してホモPBLAポリマー 14.82g(79%)を得た。
次に、得られたホモPBLAポリマーからポリ((5−アミノペンチル)−アスパラギン酸)(ホモP(Asp.−AP))を合成した。具体的には、ベンゼン凍結乾燥をしたホモPBLA 1gをN−メチル−2−ピロリドン(NMP)10mLに溶解する。DAP 17.2mLをNMP 17.2mLに溶解し、ホモPBLA溶液に加える。混合溶液を5℃に保ちながら40分反応した。その後、反応液に20重量%の酢酸水溶液10mLを添加し、透析膜(分画分子量6,000−8,000)を用いて水中で透析した。膜内の溶液を凍結乾燥してP(Asp.−AP) 0.76g(82%)を得た。
3.DyLight 488ラベル化L−ASPの調製
L−アスパラギナーゼ(L−ASP;Sigma-Aldrich製、製品番号:A3809) 15mgを10mM リン酸緩衝液(PB、pH 7.4、0mM NaCl)10mLに溶解した。DyLight 488−N−ヒドロキシスクシンイミドエステル(Thermo scientific社製、製品番号:46402)2mgを、1mLのDMSOに溶解し、L−ASP溶液に加え、25℃で4時間反応させた。その後、分画分子量10,000の膜のついた限外濾過チューブを用いて、未反応のDyLight 488−N−ヒドロキシスクシンイミドエステル分子を除去した。
4.Cy5ラベル化L−ASPの調製
L−ASP 75mgを10mM リン酸緩衝液(PB、pH 7.4、0mM NaCl)50mLに溶解した。Cy5−N−ヒドロキシスクシンイミドエステル dye pack(GE Healthcare社製、製品番号:PA25001)20Vialを、5mLのDMSOに溶解し、L−ASP溶液に加え、25℃で4時間反応させた。その後、分画分子量10,000の膜のついた限外濾過チューブを用いて、未反応のCy5−N−ヒドロキシスクシンイミドエステル分子を除去した。
5.L−ASP内包PICsomeの調製
PEG−P(Asp.)20mgを10mM リン酸緩衝液(PB、pH7.4、0mM NaCl)20mLに溶解し、1mg/mLのPEG−P(Asp.)溶液を調製した。また、ホモP(Asp.−AP)30mgも同様にPB 50mLに溶解し、1mg/mLのホモP(Asp.−AP)溶液を調製した。次に、PEG−P(Asp.)溶液およびホモP(Asp.−AP)溶液のそれぞれ4.0mLおよび5.0mLを50mLのコニカルチューブ中で混合し、ボルテックスにより2分間撹拌した(2000rpm)。(以下、この溶液を空のPICsome溶液と呼ぶ。)
その後、L−ASP 32mgを10mM リン酸緩衝液(PB、pH 7.4、0mM NaCl)5.7mLに溶解し、5.6mg/mLのL−ASP溶液を調製した。または、DyLight 488ラベル化L−ASPもしくはCy5ラベル化L−ASPの10mM リン酸緩衝液(PB、pH 7.4、0mM NaCl)溶液を限外濾過により濃縮し、5.6mg/mLの蛍光ラベル化L−ASP溶液を調製した。
5.6mg/mLのL−ASP溶液もしくは蛍光ラベル化L−ASP溶液5.0mLを、空のPICsome溶液9.0mLに混合し、ボルテックスにより2分間撹拌した(2000rpm)。その後、水溶性の縮合剤であるEDC(10mg/mL)を含有するPB溶液5.6mLを加え、一晩静置してポリイオンコンプレクスを架橋した。その後、分画分子量300,000の膜のついた限外濾過チューブを用いて、PICsome形成に関与していないポリマー、PICsomeに封入されなかったL−ASP、およびEDCなどを除去した。
実施例2:PICsomeのキャラクタリゼーション
本実施例では、得られたPICsomeのサイズ(Z平均粒子径)および多分散指数(PDI)は、ゼータサイザー(Malvern)で測定した。また、PICsomeの形状は、透過型電子顕微鏡(TEM、JEM−1400)を用いて、酢酸ウラニルで染色後に観察した。
1.得られたL−ASP内包PICsomeのゼータサイザーによる評価
得られたL−ASP封入PICsomeのサイズ(Z平均粒子径)および多分散指数(PDI)は、ゼータサイザー(Malvern)で測定した。サイズはブラウン運動により移動している粒子の拡散を測定し、その測定結果をストークス・アインシュタインの式を用いて粒子径と粒度分布に変換した。またミセルの形状は、透過型電子顕微鏡(TEM、JEM−1400)を用いて評価した。ここで、Z平均粒子径とは、粒子分散 物等の動的光散乱法の測定データを、キュムラント解析法を用いて解析したデータである。キュムラント解析においては、粒子径の平均値と多分散指数(PDI)が得られ、本発明においては、この平均粒子径をZ平均粒子径と定義する。厳密には、測定で得られたG1相関関数の対数に、多項式をフィットさせる作業を、キュムラント解析といい、下式:
LN(G1)=a+bt+ct2+dt3+et4+・・・
における定数bが、二次キュムラントまたは、Z平均拡散係数と呼ばれる。Z平均拡散係数の値を分散媒の粘度と幾つかの装置定数を用いて粒子径に換算した値がZ平均粒子径であり、分散安定性の指標として品質管理目的に適した値である。
得られたL−ASPを内包するPICsomeの粒径分布および透過電子顕微鏡(TEM)像はそれぞれ、図1Aおよび図1Bに示される通りであった。図1Aに示されるように、得られたL−ASPを内包するPICsomeは、直径100nm程度に最頻値を有する単分散の粒径分布を示し、図1Bに示されるように、TEM像においても直径100nm程度の粒径を有するPICsomeが多く観察された。
2.L−ASPがPICsome中に内包されていることの確認
次に、L−ASPがPICsome内に内包されていることを確認するため、遊離のL−ASP(すなわち、PICsomeに内包されていないものをいい、「遊離型L−ASP」とも言う)と、PICsome内に内包されているL−ASP(「内包型L−ASP」とも言う)の溶液中での拡散速度を蛍光相関分光法(FCS)により評価した。
蛍光相関分光法は、以下のように行った。共焦点レーザー走査顕微鏡(LSM 510 META/Confocal3, Carl Zeiss社)で488nmのArレーザーラインを搭載したものを用いた。サンプル溶液は8ウェルチャンバーに滴下し、水浸の対物レンズを介して励起光の照射および蛍光の検出を行った。蛍光強度のゆらぎを自己相関関数を用いて解析し、拡散時間、および一粒子当たりの蛍光強度を算出した。
結果は、図2に示される通りであった。図2の試料(i)は、DyLight488で標識した遊離型L−ASPを示し、試料(ii)は、DyLight488で標識した内包型L−ASPを示す。図2に示されるように、内包型L−ASPは、遊離型L−ASPよりも大きな拡散時間および一粒子当たりの蛍光強度(count per molecule)を示し、確かにL−ASPがPICsome内に内包されていることが確認された(図2AおよびB)。また、一粒子当たりの蛍光強度の比較から、1つのPICsome内にはL−ASPが2分子封入されていると見積もられた(図2B)。
次に、遊離型L−ASPと内包型L−ASPについてそれぞれ、酵素活性を評価した。L−ASPの酵素活性により分解されて7−アミノ−4−メチルクマリン(「AMC」とも言う)を生じ、蛍光(Ex/Em=350 nm/450 nm)を発する基質L−アスパラギン酸β−(7−アミド−4−メチルクマリン)(「Asp−AMC」とも言う)との反応に関する、ミカエリス・メンテンプロットおよびラインウィーバー・バークプロットを作成した。具体的には、まず、Asp−AMC、遊離型L−ASP、および内包型L−ASPの各溶液(PBS中)を恒温槽に静置して37℃とした。その後、Asp−AMCの溶液を遊離型L−ASPもしくは内包型L−ASPの各溶液と混合し、速やかに所定量を96ウェルプレート(テカン)に注いだ。プレートを予め37℃に保温しておいたマルチプレートリーダーの内部に入れ、蛍光強度を一定時間経時的に測定した。この際、予め調製したAMCの標準溶液を用いて作製した検量線を用い、蛍光強度の変化を生成物の生成速度に変換することで反応速度Vを求めた。基質濃度[S]を様々に変え、横軸に[S]を、縦軸にVを取り、プロットの結果に次式を当てはめることでミカエリス・メンテン係数(Km)を算出した。
Figure 2016178431
遊離型L−ASPにおけるミカエリス・メンテンプロット(図3A)およびラインウィーバー・バークプロット(図3B)と、内包型L−ASPにおけるミカエリス・メンテンプロット(図4A)およびラインウィーバー・バークプロット(図4B)とを比較すると、酵素活性に大きな相違は見られなかった。また、ミカエリス・メンテン係数(Km)をそれぞれ計算したところ、遊離型L−ASPのKm値は186μMであったのに対して内包型L−ASPのKm値は194μMであり、内包型L−ASPは遊離型L−ASPとほぼ同じ酵素活性を有していることが明らかとなった。
3.PICsome中に内包されたL−ASPの血中滞留性
さらに、マウスを用いて遊離型L−ASPと内包型L−ASPの血中滞留性を評価した。Cy5標識した遊離型L−ASP 8UとCy5標識した内包型L−ASP 250μg(PICsomeを構成するポリマーの見積もり重量)をマウス(Balb/c、5週齢、n=5)に尾静脈投与し、投与から0時間後、3時間後および24時間後にマウスを犠牲にして血液を採取した。血液は遠心分離して上澄みの蛍光強度(Ex/Em=650nm/670nm)を回収し、上澄みをマルチプレートリーダー(TECAN、M1000PRO)を用いて測定した。結果は図5に示される通りであった。
図5では、投与直後の蛍光強度を100%として、各時点での蛍光強度を相対的に示した。図5に示されるように、内包型L−ASPの血中滞留性は、遊離型L−ASPの血中滞留性と比較して格段に高かった。
4.生理的条件下での酵素活性の経時的変化
10%FBSを含む水溶液中に遊離型L−ASPおよび内包型L−ASPをそれぞれ4.8μg/mLまたは2mg/mL(PICsomeを構成するポリマーの見積もり濃度)の濃度で溶解させ、37℃で0時間、3時間、6時間、12時間または24時間静置して、その後、1000μMのL−アスパラギン酸 β−7−アミド−4−メチルクマリン(Asp−AMC)(Sigma−Aldrich、A1057)を基質として用いて各時点での酵素の反応速度を求めた。静置時間が0時間のサンプルの反応速度を1として、各時点での反応速度を標準化し、相対的反応速度を求めた。結果は、図6に示される通りであった。
図6に示されるように、インビトロでは、遊離型L−ASPおよび内包型L−ASPのいずれも長時間にわたって生理的条件下で酵素活性を維持することができた。
5.血中におけるPICsomeに内包されたL−ASPの酵素活性
マウス(Balb/c、5週齢、n=3)に遊離型L−ASPまたは内包型L−ASPそれぞれ100U/kgを尾静脈投与し、24時間後の血中アンモニア窒素濃度(NH3−N)を測定した。投与24時間後に、マウスを犠牲にして血液を採取した。採取した血液を遠心分離して得られた上澄み(血漿)を回収し、上澄み中のアンモニア窒素濃度を生化学自動分析装置(Drichem)を用いて測定し、予め作成した検量線を用いて値を較正した。結果は、図7に示される通りであった。なお、L−ASPは、L−アスパラギンを分解してL−アスパラギン酸とアンモニアを発生することが知られている。
図7に示されるように、血漿中のアンモニア窒素の濃度は、内包型L−ASPを投与した群で、遊離型L−ASPを投与した群よりも圧倒的に高かった(図7A)。また、投与前後のアンモニア窒素濃度から血漿中のアンモニア窒素の増加量を計算したところ、図7Bに示されるように、遊離L−ASPを投与した群では血漿アンモニア窒素濃度はほとんど上昇していなかったのに対して、内包型L−ASPを投与した群では血漿アンモニア窒素濃度は飛躍的に上昇していた。このように、内包型L−ASPは、投与することにより血漿成分と反応し、その酵素活性により該血漿成分を変換してアンモニア窒素を効率よく生成できた。
実施例3:PICsomeの化学修飾の酵素反応への影響
架橋剤であるEDCの濃度を変える以外は実施例1に記載された通りにL−ASP内包PICsomeを調製し、架橋率とPICsomeの性質との関係を調べた。
実施例1のEDC濃度を1等量とし、その0.5倍、3倍、5倍または10倍のEDCにより処理して得たPICsomeのFT−IRスペクトルを図8Aに示し、EDC等量と架橋割合の関係を図8Bに示す。架橋割合は、FT−IRにより算出した。図8Bでは、PEG−ポリAsp共重合体中に存在するCOO-基のうち、架橋されたものの割合(%)を架橋率として示す。
図8に示されるように、架橋に用いるEDCの量を変えることにより、PICsomeの構成分子間の架橋率の制御が可能であることが明らかとなった。0.5等量では、COO-基のうち、30.2%が架橋され、1等量では44.5%が架橋され、3等量では60.5%が架橋され、5等量では77.1%が架橋され、10等量では89.1%が架橋された。
架橋に用いるEDCの量と粒径との関係、EDC量と多分散度(PDI)との関係、EDC量とPICsome形状との関係を図9に示す。これらの粒径、多分散度、形状(TEM像)の取得は、EDC量を変えた以外は、実施例1および2と同様に行った。
その結果、図9Aに示されるように、いずれのEDC量においても、粒径(図9A)、多分散度(図9B)およびPICsome形状(図9C)において、有意な相違は認められなかった。また、いずれのEDC量においても、粒径100nmを最頻値とし、単分散を示す粒径分布が得られた。
実施例4:内包させる物質の分子量と得られるPICsomeの形状
数平均分子量6000〜42000までの様々な大きさのPEGをPICsomeに内包させて、得られたPICsomeの形状を確認した。
PEGは、フルオレセインで標識し、0.5mg/mL、1mg/mL、3mg/mL、5mg/mL、または10mg/mLの濃度で、実施例1に記載の方法でPICsomeに内包させた。PEGとしては、数平均分子量6kのPEG6(日油株式会社、MEPA−50H)、12kのPEG12(日油株式会社、MEPA−12T)、20kのPEG20(日油株式会社、MEPA−20T)、42kのPEG42(日油株式会社、MEPA−40T)を用いた。
その結果、図10に示されるように、添加濃度が5mg/mL以下の場合には、粒径は概ね100nmであり、単分散な粒径分布を有するPICsomeが形成された。
実施例5:架橋PICsomeの物質透過性
本実施例では、フルオレセイン標識PEG12を4mg/mLの濃度で用いて様々なEDC量で架橋する以外は実施例1に記載された通りにPEG12内包PICsomeを調製し、PICsomeからのPEG12の放出量を調べた。
実施例3からEDC等量を調整して架橋率を調整して得られたPEG12内包PICsomeからのPEG12の累積放出量をサイズ除外クロマトグラフィーおよび蛍光強度の分析により求めた。サイズ除外クロマトグラフィーは、ゲルろ過クロマトグラフィーカラム:Superdex 200−10/300GL、GE Healthcare、および高速液体クロマトグラフ:日本分光株式会社、LC−2000plusを用いて行った。蛍光強度は、常法によりフルオレセインの蛍光強度により保持時間の早い分画(PICsomeに内包されたPEG)と遅い分画(放出されたPEG)とで比較して、累積放出量を求めた。溶液条件は、10mM リン酸緩衝溶液(pH7.4、37℃)とした。結果は、図11Aに示される通りであった。
図11Aに示される通り、架橋率に依存してPEG12のPICsomeからの放出量は変化した。具体的には、架橋率が高いほど、PEG12はPICsome内に多く保持された。放出速度定数から算出したところ、結果は図11Bに示される通りであった。なお、放出速度定数kは、得られた累積放出率の結果を、一次放出モデルから得られる次式に当てはめることにより算出した。
Figure 2016178431
図11Bに示される通り、架橋割合が高まるほど、放出速度定数が小さくなることが明らかとなった。また、架橋割合45〜60%を境にして、放出速度定数が大きく変動する様子が見られる(図11B)。
次に、放出速度定数の分子量依存性について調べた。架橋率40%以下の低架橋率(LC)のPICsomeと、架橋率80%以上の高架橋率(HC)のPICsomeとで、PEG6、PEG20およびPEG42の放出速度を調べた。PEGはいずれもフルオレセインで標識し、放出速度定数は、上記の通りに求めた。結果は、図12に示される通りであった。
図12に示されるように、PEG6では、1日以内にPICsomeからのPEGの大量の放出が観察されたが、PEG20およびPEG42では、0〜7日にわたって一定した速度でゆっくりとPEGがPICsomeから放出された。また、架橋率が高い方がPEGのPICsomeからの放出が抑制された。このことから、小さい分子はPICsomeを透過しやすく、大きい分子はPICsomeを透過しにくいことが明らかとなった。また、分子量6000以下では透過性が比較的高く、分子量20000以上では透過性が比較的低いことが明らかとなった。
実施例6:分子構造とPICsomeの透過性との関係
本実施例では、直鎖状PEGと分岐型PEGとでPICsomeの透過性が相違するか否かを調べた。
直鎖状PEGとしては、フルオレセインで標識したPEG12を4mg/mL(PICsome溶液との混合時の濃度)で用い、分岐型PEGとしては、4分岐のPEG(日油株式会社、PTE−100PA、数平均分子量10k)を4mg/mL(PICsome溶液との混合時の濃度)で用いた以外は、実施例1と同様にPICsomeを得た。
実施例5と同様にPICsomeからのPEGの累積放出率を測定した。結果は図13に示される通りであった。
図13に示されるように、分岐型のPEGは、線型のPEGよりもPICsomeの膜透過性が低いことが分かった。
実施例7:放出速度定数の温度依存性
実施例5および6では、PICsomeからの内包物の放出を37℃条件下で調べた。本実施例では、放出速度定数の温度依存性を明らかにした。
実施例5と同様にフルオレセイン標識PEG6、PEG20およびPEG42をPICsomeに内包させ、様々な温度条件下で放出速度定数を計算した。結果は図14および15に示される通りであった。
図14および15に示されるように、放出速度定数の温度依存性は40%未満の低架橋率のPICsomeにおいて顕著であった。なお、図15では、丸は4℃、三角は25℃、四角は37℃、ひし形は50℃での放出速度定数を示し、白抜きの印は低架橋率、黒塗りは高架橋率のPICsomeにおける放出速度定数であることを示す。
Figure 2016178431
{式中、左辺は時刻tにおける累積放出量(%)を示し、Dは内包された物質のPICsome膜中での拡散係数を示し、lはPICsomeの膜の厚み(〜15nm)を示す。}
上記式により、時刻tにおける累積放出量と時刻tとの関係を対数プロットすると、図16に示さるグラフが得られる。ここで、グラフ中の直線の傾きがDに比例する。図16中の記号の定義は、図15と同じである。
図16に示されるように、低架橋率PICsomeの膜中でより高い拡散係数を示すことが分かった。
これらの実施例から、分子量が1万を超える非線型タンパク質は、PICsome内に効果的に保持でき得ること、数千以下、好ましくは1000以下の分子量が小さい分子は、PICsomeを効率よく通過することが示唆された。
また、このようなPICsomeの性質により、分子量の小さな分子を基質とする分子量の大きな酵素をPICsomeに内包させて血中滞留性を劇的に向上させれば、PICsomeは、内包した酵素を血中で安定に保持しながら、血液中の基質と反応し続けることが可能となることが明らかとなった。
L−ASPは、アスパラギン要求性腫瘍細胞に対して増殖抑制効果を有することで知られ、臨床では小児急性リンパ性白血病治療薬として用いられる。本実施例から、本発明のL−ASP内包PICsomeは、小児急性リンパ性白血病治療薬として高い効果を奏することが示される。
実施例8A:他の酵素の封入と安定性評価
本実施例では、α−ガラクトシダーゼ、α−グルコシダーゼおよびウリカーゼについて血中安定性を調べた。
1.α−GAL内包PICsome溶液の調製
実施例1の項目5と同様に、空のPICsome溶液を得て、その後、α−ガラクトシダーゼ(以下、「α−GAL」ともいう)11.4mgを10mM リン酸緩衝液(PB、pH 7.4、0mM NaCl)5.7mLに溶解し、2mg/mLのα−GAL溶液を調製した。
2mg/mLのα−GAL溶液1mLを、空のPICsome溶液1mLに混合し、ボルテックスにより2分間撹拌した(2000rpm)。その後、水溶性の縮合剤であるEDC(10mg/mL)を含有するPB溶液5.6mLを加え、一晩静置してポリイオンコンプレクスを架橋した。その後、分画分子量300,000の膜のついた限外濾過チューブを用いて、PICsome形成に関与していないポリマー、PICsomeに封入されなかったα−GALおよびEDCなどを除去した。蛍光ラベル化α−GAL溶液も同様に調製した。
α−グルコシダーゼおよびウリカーゼ内包PICsomeも同様に作製した。
上記と同様に、空のPICsome溶液を得て、その後、α−グルコシダーゼおよびウリカーゼそれぞれ6.2mgおよび10.4mgを10mM リン酸緩衝液(PB、pH 7.4、0mM NaCl)3.1mLおよび5.2mLに溶解し、2mg/mLのα−グルコシダーゼ溶液および2mg/mLのウリカーゼ溶液を調製した。
2mg/mLのα−グルコシダーゼ溶液および2mg/mLのウリカーゼ溶液をそれぞれ、空のPICsome溶液1mLに混合し、ボルテックスにより2分間撹拌した(2000rpm)。その後、水溶性の縮合剤であるEDC(10mg/mL)を含有するPB溶液5.6mLを加え、一晩静置してポリイオンコンプレクスを架橋した。その後、分画分子量300,000の膜のついた限外濾過チューブを用いて、PICsome形成に関与していないポリマー、PICsomeに封入されなかったα−グルコシダーゼおよびウリカーゼ並びにEDCなどを除去した。蛍光ラベル化α−グルコシダーゼおよびウリカーゼ溶液も同様に調製した。
2.α−GAL内包PICsomeのゼータサイザーによる評価
実施例2の項目1に記載されたように、得られたα−GAL内包PICsomeのサイズ(Z平均粒子径)および多分散指数(PDI)は、ゼータサイザー(Malvern)で測定した。サイズはブラウン運動により移動している粒子の拡散を測定し、その測定結果をストークス・アインシュタインの式を用いて粒子径と粒度分布に変換した。結果は、図17Aに示される通りであった。図17Aに示されるように、L−ASP内包PICsomeと同様に単分散でサイズの均質なPICsomeが得られた。
3.α−GALがPICsome中に内包されていることの確認
実施例2の項目2に記載されたように、α−GALがPICsome中に内包されていることを確認するため、遊離型α−GALと内包型α−GALの溶液を対象として、分子の拡散速度を蛍光相関分光法(FCS)により評価した。結果は、図17Bに示される砦あった。図17Bに示されるように、内包型α−GALは、遊離型α−GALよりも大きな拡散時間および1粒子あたりの蛍光強度を示し、確かにα−GALがPICsome中に内包されていることが確認された。また、表1に示されるように、一粒子当たりの蛍光強度の比較から、1つのPICsome内にはα−GALが3分子封入されていると見積もられた。
さらに、α−グルコシダーゼおよびウリカーゼについても、蛍光相関分光法(FCS)により、PICsome中に内包されていることが確認された(図18)。
Figure 2016178431
4.PICsome中に内包されたα−GALの血中滞留性
実施例2の項目3に記載されたように、遊離型α−GALと内包型α−GALの血中滞留性を評価した。マウス(Balb/c、6週齢、n=3)にCy5−α−GALを内包したPICsomeを尾静脈投与し、12時間後に採血して、上澄みの蛍光強度(Ex/Em=650nm/670nm)を測定した。結果は、図19Aに示される通りであった。図19Aに示されるように、内包型α−GALの血中滞留性は、遊離型α−GALの血中滞留性と比較して格段に高かった。
5.生理的条件下での酵素活性の維持
次に、遊離型α−GALと内包型α−GALについてそれぞれ、酵素活性を評価した。α−GALの酵素活性は、図19Bに示されるように、基質α−ガラクトシル−β−(7−アミド−4−メチルクマリン)(「Gal−AMC」とも言う)との反応により確認した。Gal−AMCは、α−GALの酵素活性により分解されて7−アミノ−4−メチルクマリン(「AMC」ともいう)を生じ、蛍光(Ex/Em=350 nm/450 nm)を発する。
具体的には、まず、Gal−AMC、遊離型α−GAL、および内包型α−GALの各溶液(PBS中)を恒温槽に静置して37℃とした。その後、Gal−AMCの溶液を遊離型α−GALもしくは内包型α−GALの各溶液と混合し、速やかに所定量を96ウェルプレート(テカン)に注いだ。プレートを予め37℃に保温しておいたマルチプレートリーダーの内部に入れ、蛍光強度を一定時間経時的に測定した。
酵素活性は、ミカエリス・メンテンプロットおよびラインウィーバー・バークプロットを作成して評価した。この際、予め調製したAMCの標準溶液を用いて作製した検量線を用い、蛍光強度の変化を生成物の生成速度に変換することで反応速度Vを求めた。基質濃度[S]を様々に変え、横軸に[S]を、縦軸にVを取り、プロットの結果に次式を当てはめることでミカエリス・メンテン係数(K)を算出した。結果は、表2に示される通りであった。
Figure 2016178431
表2に示されるように、PICsome中に内包されたα−GALは、生体内で安定であり、遊離型α−GALと同等の酵素活性を維持していた。

Claims (20)

  1. 酵素を内包したポリイオンコンプレックス型ポリマーソームであって、
    酵素は、ポリイオンコンプレックス型ポリマーソームの膜を透過する物質を基質とする酵素である、ポリイオンコンプレックス型ポリマーソーム。
  2. 酵素の分子量が、5kDa以上である、請求項1に記載のポリイオンコンプレックス型ポリマーソーム。
  3. 酵素の基質の分子量が、1kDa以下である、請求項1または2に記載のポリイオンコンプレックス型ポリマーソーム。
  4. 酵素が、球状タンパク質である、請求項1〜3のいずれか一項に記載のポリイオンコンプレックス型ポリマーソーム。
  5. 酵素が、L−アスパラギナーゼ、ウリカーゼ、α−ガラクトシダーゼおよびα−グルコシダーゼから選択される酵素である、請求項1に記載のポリイオンコンプレックス型ポリマーソーム。
  6. ポリイオンコンプレックス型ポリマーソームが、
    COOH基を側鎖に有するアミノ酸を単量体単位として含む重合体(A)と、
    NH2基を側鎖に有するアミノ酸を単量体単位として含む重合体(B)と
    のポリイオンコンプレックス型ポリマーソームである、請求項1〜5のいずれか一項に記載のポリイオンコンプレックス型ポリマーソーム。
  7. 重合体(A)に存在するCOOH基の50%以上が重合体(B)のNH2基と架橋され
    ている、請求項6に記載のポリイオンコンプレックス型ポリマーソーム。
  8. 10mM リン酸緩衝溶液(pH7.4)中において37℃条件下で測定した場合に、内包した酵素の累積放出率(%)が前記水溶液と接触後7日目に20%以下である、請求項1〜7のいずれか一項に記載のポリイオンコンプレックス型ポリマーソーム。
  9. 10mM リン酸緩衝溶液(pH7.4)中において37℃条件下で測定した場合に、数平均分子量2kDaの直鎖状ポリエチレングリコールの放出速度定数kが5×10-3以下である、請求項7に記載のポリイオンコンプレックス型ポリマーソーム。
  10. 請求項1〜9のいずれか一項に記載のポリイオンコンプレックス型ポリマーソームであって、内包される酵素が、血漿成分を基質とする、ポリイオンコンプレックス型ポリマーソーム。
  11. 請求項10のポリイオンコンプレックス型ポリマーソームを含んでなる、医薬組成物。
  12. 医薬組成物が、酵素欠損または異常を起因とする疾患に罹患している患者に投与するための医薬組成物であり、酵素が、該対象において欠損した、または異常を有する酵素である、請求項11に記載の医薬組成物。
  13. 酵素が、L−アスパラギナーゼ、ウリカーゼ、α−ガラクトシダーゼ、およびα−グルコシダーゼから選択される酵素である、請求項11または12に記載の医薬組成物。
  14. 酵素が、新生物または微生物の生育に必要な栄養素を分解する酵素である、請求項11に記載の医薬組成物。
  15. アスパラギン要求性腫瘍を処置するための、請求項13に記載の医薬組成物。
  16. アスパラギン要求性腫瘍が、アスパラギン産生酵素の発現量が、正常細胞における該酵素の発現量に対して80%以下である腫瘍である、15に記載の医薬組成物。
  17. アスパラギン要求性腫瘍が、急性リンパ性白血病、T細胞悪性リンパ腫、NK細胞性白血病および急性骨髄性白血病からなる群から選択される、請求項15または16に記載の医薬組成物。
  18. 酵素が、α−ガラクトシダーゼであり、α−ガラクトシダーゼの異常を原因とする疾患を処置することに用いるための、請求項11または12に記載の医薬組成物。
  19. 酵素が、ウリカーゼであり、高尿酸血症または高尿酸血症を原因とする疾患を処置することに用いるための、請求項11または12に記載の医薬組成物。
  20. 酵素が、α−グルコシダーゼであり、α−グルコシダーゼの異常を原因とする疾患を処置することに用いるための、請求項11または12に記載の医薬組成物。
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