JPWO2015199248A1 - 発汗抑制剤 - Google Patents
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Abstract
Description
例えば、5歳から64歳までの5807人を対象としたアンケート調査では、810人から、多汗症の自覚症状があるとの回答が得られている。つまり、調査対象の14%もの人が、多汗症の自覚症状を有していることになる。当該割合を日本の全人口に換算すれば、略1732万人もの人が、多汗症の自覚症状を有していることになる。なお、上記調査では、略全ての年齢層において、略同程度の割合の人が多汗症の自覚症状を有しているとの結果が報告されている。
また、多汗症には様々な種類があり、当該種類として、重症原発性掌蹠多汗症、難治性重症原発性掌蹠多汗症、手掌多汗症、足底多汗症、腋窩多汗症などを挙げることができる。
ある調査では、日本の全人口の略0.64%(略80.12万人)が重症原発性掌蹠多汗症を患っており、重症原発性掌蹠多汗症を患っている患者の略5.6%(略4.5万人)が、難治性重症原発性掌蹠多汗症を患っていることが報告されている。
また、ある調査では、手掌多汗症を発症する平均年齢は13.3歳であって、当該年齢の略5.5%が手掌多汗症を発症していること、足底多汗症を発症する平均年齢は15.5歳であって、当該年齢の略2.7%が足底多汗症を発症していること、腋窩多汗症を発症する平均年齢は19.4歳であって、当該年齢の略5.7%が腋窩多汗症を発症していることが報告されている。
また、上述した調査では、手掌多汗症、足底多汗症および腋窩多汗症を患っている患者を症状の重篤度別に分類した場合、患者の12.2%が重度の症状に分類され、患者の34.6%が中等度の症状に分類され、患者の53.2%が軽度の症状に分類されると、報告されている。
以上のように、発汗を伴う疾患(例えば、多汗症)を患う患者の数は非常に多く、発汗を調節する技術の開発が急がれている。
このような状況の中、現在までに、発汗を調節するための様々な技術が開発されている(例えば、非特許文献1参照)。例えば、発汗を調節するための技術として、ボツリヌス毒素局所注射療法、および、交感神経遮断術などを挙げることができる。
例えば、ボツリヌス毒素局所注射療法は、生体の局所へボツリヌス毒素を注射する方法であるが、(a)体の一部分においてしか発汗を制御できない、換言すれば、体の全体の発汗を制御できないという問題点、(b)ボツリヌス毒素を注射することによって、生体が悪影響を受ける可能性があるという問題点、(c)注射時の疼痛や手の筋力の低下という問題点、(d)注射時の痛みのコントロールのために注射前に局所麻酔薬の外用、アイスパックでの冷却、または麻酔薬の静脈注射等を行わなければならないという問題点、を有している。
また、交感神経遮断術は、交感神経の一部を物理的に切断する方法であるが故に、(e)交感神経を切断することによって、生体が悪影響を受ける可能性があるという問題点、(f)神経が支配する体の領域には個人差が有り、所望の領域の発汗を正確に抑制することが困難であるという問題点、(g)交感神経遮断術は侵襲性の高い治療方法であり、神経遮断は不可逆的であるという問題点、(h)代償性発汗を合併するという問題点、を有している。
本発明は、上記従来の問題点に鑑みなされたものであって、その目的は、発汗を効果的にかつ安全に制御できる発汗抑制剤を提供することにある。
本発明の発汗抑制剤は、上記課題を解決するために、mTOR阻害剤を含むことを特徴としている。
本発明の多汗症治療剤は、mTOR阻害剤を含むことを特徴としている。
本発明の発汗抑制剤(特に、外用薬)は、生体に悪影響(例えば、副作用)を及ぼすことなく、安全に発汗を抑制することができるという効果を奏する。
具体的に、本発明の発汗抑制剤は、一過性に発汗を抑制した後、生体の発汗能力を元の状態に戻すことができる。それ故に、本発明は、生体に悪影響を及ぼすことなく、安全に発汗を抑制することができる。
本発明の発汗抑制剤は、生体の局所の発汗は勿論のこと、生体の全身の発汗を抑制することができるという効果を奏する。例えば、本発明を外用薬として使用すれば、生体の局所の発汗を抑制することができ、本発明を内服薬または注射剤として使用すれば、生体の全身の発汗を抑制することができる。
特に外用薬は、簡便に使用することができ、希望する部位において的確に効果を発揮することができ、全身の副作用を心配することなく長期間使用でき、好適である。
図2の(a)〜(d)は、実施例において、発汗刺激を加えた後のmTORの状態を示す染色写真である。
図3の(a)は、実施例において、mTOR阻害剤を経口投与する前の皮膚の様子を示す写真であり、(b)は、実施例において、mTOR阻害剤を経口投与した後の皮膚の様子を示す写真である。
図4は、実施例における、mTOR阻害剤を経口投与した場合の発汗量の変化を示すグラフである。
図5は、実施例において、mTOR阻害剤の投与(外用、単回投与)が発汗に及ぼす影響を示す写真である。
図6は、実施例において、mTOR阻害剤の投与(外用、単回投与)が発汗に及ぼす影響を示すグラフである。
図7は、実施例において、mTOR阻害剤の投与(外用、連続投与)が発汗に及ぼす影響を示すグラフである。
図8は、実施例において、mTOR阻害剤の投与(内服、連続投与)が発汗に及ぼす影響を示すグラフである。
図9は、実施例において、mTOR阻害剤の投与と中止(内服、連続投与後の投与中止)が発汗に及ぼす影響を示すグラフである。
図10は、実施例において、ラパマイシンを含有するゲル剤が発汗量に及ぼす効果(健常人対象)を示すグラフである。
図11は、実施例において、ラパマイシンを含有するゲル剤が発汗量に及ぼす効果(健常人対象)を示すグラフである。
図12は、実施例において、ラパマイシンを含有するゲル剤が発汗量に及ぼす効果(健常人対象)を示すグラフである。
図13は、実施例において、ラパマイシンを含有するゲル剤が発汗量に及ぼす効果(多汗症患者対象)を示すグラフである。
図14は、実施例において、ラパマイシンを含有するゲル剤が発汗量に及ぼす効果(多汗症患者対象)を示すグラフである。
また、本明細書中に「A〜B」と記載した場合には、「A以上、B以下」を意図するものとする。
本発明の発汗抑制剤は、発汗抑制効果を発揮する有効成分として、mTOR阻害剤を含んでいる。
上記mTOR阻害剤は、生体(例えば、細胞、組織、個体など)内におけるmTOR(mammalian target of rapamycin)の活性を低下させ得るものであればよく、限定されない。
例えば、mTOR阻害剤は、mTOR遺伝子の転写および/または翻訳を阻害するものであってもよいし、mTORタンパク質の活性化を阻害するものであってもよいし、mTORタンパク質の分解を促進するものであってもよい。勿論、mTOR阻害剤は、上記以外の作用によってmTORの活性を低下させ得るものであってもよい。
上記mTOR阻害剤としては、例えば、ラパマイシン、ラパマイシン誘導体、mTORキナーゼ阻害剤を挙げることができる。
上述したmTOR阻害剤のうち、ラパマイシンやラパマイシン誘導体は、既に、他の病気の治療にも用いられており、臨床における安全性が確認されている。それ故に、これらのmTOR阻害剤を用いれば、より安全性の高い発汗抑制剤を実現することができる。
上記ラパマイシン誘導体としては、特に限定されないが、例えば、エベロリムス、テムシロリムス、リダフォロリムス、およびゾタロリムスを挙げることができる。
上記mTOR阻害剤の中では、ラパマイシン、およびエベロリムスが好ましい。その理由は、これらは、古くから使用されている薬剤であるとともに、安価な薬剤であるからである。
上記mTORキナーゼ阻害剤としては、特に限定されないが、例えば、MLN−0128、CC−223を挙げることができる。勿論、これら以外のmTORキナーゼ阻害剤も使用し得る。
本発明の発汗抑制剤は、発汗を伴う様々な症状の治療に用いることができる。本発明の発汗抑制剤は、例えば、多汗症、汗疹、エクリン汗嚢腫、または異汗性湿疹の治療に用いられ得る。
多汗症は、全身の発汗が増加する全身性多汗症と、体の一部のみの発汗量が増加する局所性多汗症とに分類されている。全身性多汗症には、特に原因のない原発性全身性多汗症と、他の疾患に合併して起きる続発性全身性多汗症とがある。一方、局所性多汗症にも、原発性局所性多汗症と、続発性局所性多汗症とがある。本発明の発汗抑制剤は、いずれの多汗症の治療にも用いることができる。多汗症としては、更に具体的に、原発性多汗症(原発性腋窩多汗症、原発性手掌多汗症、原発性足底多汗症)などを挙げることができる。
本発明の発汗抑制剤のうちでも特に外用薬は、体の局所に的確に用いられ得るので、掌蹠多汗症等の局所多感症、または、異観性湿疹など、部分的な症状を示す全ての多汗症の治療に用いられることが好ましい。
本発明の発汗抑制剤は、ヒトは勿論のこと、非ヒト動物に対しても用いることができる。非ヒト動物としては、例えば、ヒトを除く哺乳類を挙げることができる。ヒトを除く哺乳類としては、例えば、ウシ、イノシシ、ブタ、ヒツジ、ヤギなどの偶蹄類、ウマなどの奇蹄類、マウス、ラット、ハムスター、リスなどのげっ歯類、ウサギなどのウサギ目、イヌ、ネコ、フェレットなどの食肉類などを挙げることができる。また、これらの非ヒト動物は、家畜またはコンパニオンアニマル(愛玩動物)であることに限定されるものではなく、野生動物であってもよい。
本発明の発汗抑制剤の投与経路は限定されるものではなく、経皮、経口、経腸、経静脈、経粘膜等のいずれの投与経路であってもよい。それ故に、本発明の発汗抑制剤は、内服薬、外用薬、注射剤、坐剤、吸入剤等の形態であってもよい。本発明の発汗抑制剤は、好適には、外用薬、内服薬または注射剤の形態である。より好適には外用薬である。
何れの形態であっても効果的に発汗を抑制できるが、外用薬の形態であれば、生体の局所の発汗を抑制することが容易であり、内服薬や注射剤の形態であれば、生体の全身の発汗を抑制することが容易である。簡便さと安全性の観点からは、外用薬が特に好ましい。
以下に、まず、外用薬の形態である発汗抑制剤の具体的な構成について説明し、次いで内服薬の形態である発汗抑制剤の具体的な構成について説明する。
(A)外用薬
以下に、外用薬の形態である発汗抑制剤について説明する。
外用薬としては、軟膏剤、ゲル剤、貼付剤、パップ剤、リニメント剤、ローション剤、および、クリーム剤等が挙げられる。
例えば、i)mTOR阻害剤を含有している溶液をゲル化することにより、ゲル剤を調製することができる。また、ii)周知の方法によりmTOR阻害剤を含む軟膏剤を調製することができる。また、貼付剤、パップ剤、リニメント剤、ローション剤およびクリーム剤は、周知の方法にしたがって調製することができる。
このような外用薬の形態の発汗抑制剤を局所投与することにより、mTOR阻害剤による発汗抑制効果を高めることができる。
また、このようにして作製された発汗抑制剤であれば、少量のmTOR阻害剤によって所望の効果を得ることができるので、副作用を、より軽減することができる。
なお、ゲル剤は軟膏剤よりも薬剤の吸収が良く、これらの効果を有効に発揮するので、ゲル剤および軟膏剤の中では、ゲル剤の方が好ましいといえる。
以下に、ゲル剤の具体的な構成、および、軟膏剤の具体的な構成について説明する。
(A−1)ゲル剤
上述したように、本発明の発汗抑制剤は、mTOR阻害剤を含有している溶液をゲル化して得られる、ゲル剤であってもよい。
mTOR阻害剤を含有している溶液をゲル化する場合には、当該溶液を、ゲル化誘導剤を用いてゲル化すればよい。ゲル化誘導剤として、例えば、カーボポール(登録商標)934NFを用いる場合、上記溶液にカーボポール(登録商標)934NFを添加し、更に、トリスヒドロキシメチルアミノメタンなどのpH調整剤によって溶液のpHを中性に調整することによって、溶液のゲル化を誘導することができる。
上記溶液の溶媒としては、例えば、イソプロパノール、エタノール、および、炭酸プロピレンを挙げることができる。上述した溶媒の中では、イソプロパノール、および、エタノールがより好ましい。当該構成であれば、より効果の高いゲル剤を実現することができる。
ゲル剤に含まれる上記溶媒の量は、特に限定されず、mTOR阻害剤を十分に溶解することができる量であればよい。例えば、上記溶媒の重量は、mTOR阻害剤の重量の100〜300倍であってもよく、120〜250倍であってもよい。
ゲル剤に含まれる上記ゲル化誘導剤の量は、特に限定されず、mTOR阻害剤を含有している溶液がゲル化するに十分な量であればよい。
例えば、ゲル化を誘導する成分として、カーボポール(登録商標)のようなゲル化誘導剤と、ゲル化を誘導するためのpH調整剤(トリスヒドロキシメチルアミノメタンなど)とを用いる場合、ゲル化誘導剤の量が、外用薬の総重量を基準として、例えば1.6重量%であり、pH調整剤の量が、外用薬の総重量を基準として、例えば0.4重量%、0.6重量%または0.8重量%であってもよい。勿論、本発明は、当該比率に限定されない。
ゲル剤には、mTOR阻害剤以外の他の成分が含まれていてもよい。当該他の成分としては、例えば、水溶性高分子、pH調整剤、水、および、mTOR阻害剤以外の薬効成分が挙げられる。
上記水溶性高分子としては、例えば、ポリエチレングリコール、デンプン、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、ポリビニルアルコール、ポリビニルメチルエーテル、および、ポリビニルピロリドンなどを挙げることができる。
ゲル剤にヒドロキシプロピルセルロースが含まれていれば、当該ゲル剤の粘着性を向上させることができる。つまり、ゲル剤が皮膚から剥がれ難くすることができる。
ゲル剤に含まれる上記他の成分の量は、特に限定されないが、例えば、ゲル剤の総重量を基準として、50重量%以下であってもよいし、40重量%以下であってもよいし、30重量%以下であってもよいし、20重量%以下であってもよいし、10重量%以下であってもよい。
ゲル剤に含まれるmTOR阻害剤の量は特に限定されないが、例えば、ゲル剤の総重量を基準として、0.001重量%以上2.0重量%以下が好ましく、0.01重量%以上1.0重量%以下がより好ましく、0.1重量%以上0.9重量%以下がより好ましく、0.2重量%以上0.8重量%以下が最も好ましい。また、ゲル剤に含まれるmTOR阻害剤の量は、例えば、ゲル剤の総重量を基準として、0.02重量%以上0.9重量%以下であってもよく、0.03重量%以上0.8重量%以下であってもよく、0.04重量%以上0.7重量%以下であってもよく、0.05重量%以上0.6重量%以下であってもよく、0.06重量%以上0.5重量%以下であってもよく、0.07重量%以上0.4重量%以下であってもよく、0.08重量%以上0.3重量%以下であってもよく、0.09重量%以上0.25重量%以下であってもよく、0.1重量%以上0.2重量%以下であってもよい。なお、これらの範囲の下限値は、0.05重量%であってもよい。また、mTOR阻害剤の量は、0.4重量%以上0.8重量%以下であってもよい。
ゲル剤に含まれるmTOR阻害剤の量の上限値は特に限定されないが、例えば、0.8重量%を上限値とすることが好ましく、0.4重量%を上限値とすることがより好ましい。
上述した量であれば、効果的に発汗を抑制することができるとともに、発汗抑制剤の安全性を高めることができる。
生体における単位表面積あたりのmTOR阻害剤の1日あたりの塗布量は特に限定されないが、ラパマイシンおよびラパマイシン誘導体の場合、例えば、0.0001mg/cm2以上2mg/cm2以下、好ましくは0.0002mg/cm2以上1mg/cm2以下、より好ましくは0.0005mg/cm2以上0.5mg/cm2以下、より好ましくは0.001mg/cm2以上0.05mg/cm2以下、より好ましくは0.00125mg/cm2以上0.04mg/cm2以下を、1日に1回塗布、または、複数回に分けて塗布すればよい。換言すれば、本発明のゲル剤は、上述した塗布量を実現できるものであることが好ましい。
また、年齢、投与部位、皮膚の厚さ等により、好適な製剤中の濃度および投与回数を調整することが好ましい。ラパマイシンおよびラパマイシン誘導体の場合、例えば、小さい子供の薄い皮膚や腋下等には、0.05%〜0.2%の濃度のゲル剤を1日に1〜3回塗布することができる。また、掌、足の裏等には、0.2%〜0.8%のゲル剤を1日に1〜2回塗布することができる。
以下にゲル剤の更に具体的な組成の一例を示すが、本発明は、当該組成に限定されない。なお、下記構成であれば、mTOR阻害剤による発汗抑制効果をより高めることができる。また、下記構成であれば、より少ない量のmTOR阻害剤によって所望の効果を得ることができるので、副作用が生じることを、より良く防ぐことができる。
ゲル剤は、mTOR阻害剤の他に、カーボポール(登録商標)934NF、水、アルコール(例えば、エタノール、または、イソプロパノールなど(好ましくは、エタノール))、および、トリスヒドロキシメチルアミノメタンを含むことが可能である。
このとき、mTOR阻害剤、カーボポール(登録商標)934NF、水、アルコール、および、トリスヒドロキシメチルアミノメタンの重量の比は、mTOR阻害剤:カーボポール(登録商標)934NF:水:アルコール:トリスヒドロキシメチルアミノメタン=0.5〜2:16:490:450〜500:6であり得る。
上記比は、mTOR阻害剤:カーボポール(登録商標)934NF:水:アルコール:トリスヒドロキシメチルアミノメタン=0.5〜2:16:490:480〜490:6であってもよいし、mTOR阻害剤:カーボポール(登録商標)934NF:水:アルコール:トリスヒドロキシメチルアミノメタン=2:16:490:486:6であってもよい。
(A−2)軟膏剤
上述したように、本発明の発汗抑制剤は、軟膏中にmTOR阻害剤を含有させることによって得られる、軟膏剤であってもよい。基剤としては、例えば、ロウ類(例えば、サラシミツロウ、ラノリン、カルナバロウ、鯨ロウなどの天然ロウ、モンタンロウなどの鉱物ロウ、合成ロウなど)、パラフィン類(例えば、流動パラフィン、固形パラフィンなど)、ワセリン(例えば、白色ワセリン、黄色ワセリンなど)などを挙げることができる。
基剤の量は特に限定されないが、例えば、軟膏剤の総重量を基準として、10重量%以上であってもよく、20重量%以上であってもよく、30重量%以上であってもよく、40重量%以上であってもよく、50重量%以上であってもよく、60重量%以上であってもよく、70重量%以上であってもよく、80重量%以上であってもよく、90重量%以上であってもよい。
軟膏剤には、mTOR阻害剤以外の他の成分が含まれていてもよい。当該他の成分としては、上述した(A−1)に記載の様々な成分を挙げることができる。なお、これらの成分の詳細については既に説明したので、ここでは、その詳細な説明を省略する。
軟膏剤は、mTOR阻害剤の他に、炭酸プロピレン、固形パラフィンおよび白色ワセリンを含むことが可能である。また、軟膏剤は、炭酸プロピレン、固形パラフィンおよび白色ワセリンに加えて、更に流動パラフィンを含むことも可能である。また、軟膏剤は、炭酸プロピレン、固形パラフィン、白色ワセリンおよび流動パラフィンに加えて、更にサラシミツロウを含むことが可能である。
このとき、mTOR阻害剤、炭酸プロピレン、固形パラフィン、白色ワセリン、流動パラフィンおよびサラシミツロウの重量の比は、mTOR阻害剤:炭酸プロピレン:固形パラフィン:白色ワセリン:流動パラフィン:サラシミツロウ=0.3〜10:50〜59.4:30〜45:895:0〜10:0〜5であってもよい。但し、上記比において、有効成分、炭酸プロピレン、固形パラフィンおよび流動パラフィンの合計は、105となる。
更に具体的には、上記比は、mTOR阻害剤:炭酸プロピレン:固形パラフィン:白色ワセリン:流動パラフィン:サラシミツロウ=2:58:30:895:10:5であってもよく(以下、比率3と呼ぶ)、mTOR阻害剤:炭酸プロピレン:固形パラフィン:白色ワセリン:流動パラフィン:サラシミツロウ=2:58:45:895:0:0であってもよく(以下、比率4と呼ぶ)、mTOR阻害剤:炭酸プロピレン:固形パラフィン:白色ワセリン:流動パラフィン:サラシミツロウ=2:58:35:895:10:0であってもよい(以下、比率5と呼ぶ)。
上述した比率3と比率4とを比較した場合、比率3にて作製された外用薬の方が、比率4にて作製された外用薬よりも、透明度が高いとともに、外用薬の表面に存在する水の量を少なくすることができる。
上述した比率3と比率5とを比較した場合、比率3にて作製された外用薬の方が、比率5にて作製された外用薬よりも、滑らかであるとともに、外用薬の表面に存在する水の量を少なくすることができる。
軟膏剤に含まれるmTOR阻害剤の量は特に限定されないが、例えば、軟膏剤の総重量を基準として、0.001重量%以上2.0重量%以下が好ましく、0.01重量%以上1.0重量%以下がより好ましく、0.1重量%以上0.9重量%以下がより好ましく、0.2重量%以上0.8重量%以下が最も好ましい。また、軟膏剤に含まれるmTOR阻害剤の量は、例えば、軟膏剤の総重量を基準として、0.02重量%以上0.9重量%以下であってもよく、0.03重量%以上0.8重量%以下であってもよく、0.04重量%以上0.7重量%以下であってもよく、0.05重量%以上0.6重量%以下であってもよく、0.06重量%以上0.5重量%以下であってもよく、0.07重量%以上0.4重量%以下であってもよく、0.08重量%以上0.3重量%以下であってもよく、0.09重量%以上0.25重量%以下であってもよく、0.1重量%以上0.2重量%以下であってもよい。なお、これらの範囲の下限値は、0.05重量%であってもよい。また、mTOR阻害剤の量は、0.4重量%以上0.8重量%以下であってもよい。
上述した量であれば、効果的に発汗を抑制することができる。
軟膏剤に含まれるmTOR阻害剤の量の上限値は特に限定されないが、例えば、0.8重量%を上限値とすることが好ましく、0.4重量%を上限値とすることがより好ましい。
上述した上限値であれば、mTOR阻害剤による局所の副作用を、より良く防止することができる。
生体における単位表面積あたりのmTOR阻害剤の1日あたりの塗布量は特に限定されないが、ラパマイシンおよびラパマイシン誘導体の場合、例えば、0.0001mg/cm2以上2mg/cm2以下、好ましくは0.0002mg/cm2以上1mg/cm2以下、より好ましくは0.0005mg/cm2以上0.5mg/cm2以下、より好ましくは0.001mg/cm2以上0.05mg/cm2以下、より好ましくは0.00125mg/cm2以上0.04mg/cm2以下を、1日に1回塗布、または、複数回に分けて塗布すればよい。換言すれば、本発明の軟膏剤は、上述した塗布量を実現できるものであることが好ましい。
また、年齢、投与部位、皮膚の厚さ等により、好適な製剤中の濃度および投与回数を調整することが好ましい。ラパマイシンおよびラパマイシン誘導体の場合、例えば、小さい子供の薄い皮膚や腋下等には、0.05%〜0.2%の濃度の軟膏剤を1日に1〜3回塗布することができる。また、掌、足の裏等には、0.2%〜0.8%の軟膏剤を1日に1〜2回塗布することができる。
軟膏剤は、周知の方法にしたがって製造することができる。以下に、製造方法の一例を説明する。
例えば、mTOR阻害剤が溶解した溶液を、基剤に添加し、自転公転ミキサー(例えば、シンキ株式会社製)、または、ホモミキサー(例えば、プライミクス株式会社製)を用いて攪拌する。自転公転ミキサーを用いる場合、例えば、1分間、2000rpmにて攪拌し、次いで5分間、1000rpmにて攪拌し、そして3分間、500rpmにて攪拌を行えばよい。ホモミキサーを用いる場合、例えば、ホモミキサーに添付された説明書等に基づいて当業者が適宜設定することができる。ホモミキサーを用いれば、軟膏剤を大量に調製することができる。
なお、基剤が室温において固体である場合、液体になるまで加温し、mTOR阻害剤が溶解した溶液と混合すればよい。例えば、室温において固体である各種成分(ロウ類、パラフィン類、ワセリン)などを融点以上(例えば70℃)に加温して溶解したものにmTOR阻害剤が溶解した溶液を添加し、撹拌混合する。そして、撹拌しながらこの混合物を室温付近にまで(例えば40℃)冷却し、軟膏剤を製造することができる。
上記他の成分を軟膏剤に含有させる場合、mTOR阻害剤と他の成分とを、mTOR阻害剤を溶解させる溶媒に溶解し、その後、生じた溶液と基剤とを混合すればよい。
(B)内服薬
以下に、内服薬の形態である発汗抑制剤について説明する。
内服薬の形態である発汗抑制剤の場合、周知の内服薬に用いられる成分と、mTOR阻害剤とを混合することによって、発汗抑制剤を作製することができる。
1服の内服薬に含まれるmTOR阻害剤の量は特に限定されず、投与対象に応じて適宜設定することができる。
例えば、mTOR阻害剤の成人への1日あたりの投与量は、0.001mg以上10mg以下であることが好ましく、0.01mg以上9mg以下であることが好ましく、0.05mg以上8mg以下であることが好ましく、0.1mg以上7mg以下であることが好ましく、0.1mg以上6mg以下であることが好ましく、0.1mg以上5mg以下であることがより好ましく、0.1mg以上4mg以下であることが好ましく、0.1mg以上3mg以下であることが好ましく、0.1mg以上2mg以下であることがより好ましく、0.1mg以上1mg以下であることがより好ましい。
上述した量であれば、効果的に発汗を抑制することができる。
上述した上限値であれば、mTOR阻害剤による副作用を、より良く防止することができる。
内服薬としての剤型は限定されるものではなく、例えば、錠剤、カプセル剤、散剤、分散剤、シロップ剤等が挙げられる。
(C)注射剤
以下に、注射剤の形態である発汗抑制剤について説明する。なお、注射剤には、点滴剤も含まれる。
注射剤の形態である発汗抑制剤の場合、周知の注射剤に用いられる成分と、mTOR阻害剤とを混合することによって、発汗抑制剤を作製することができる。
1回に投与される注射剤に含まれるmTOR阻害剤の量は特に限定されず、投与対象に応じて適宜設定することができる。
例えば、mTOR阻害剤の成人への1日あたりの投与量は、0.001mg以上10mg以下であることが好ましく、0.01mg以上9mg以下であることが好ましく、0.05mg以上8mg以下であることが好ましく、0.1mg以上7mg以下であることが好ましく、0.1mg以上6mg以下であることが好ましく、0.1mg以上5mg以下であることがより好ましく、0.1mg以上4mg以下であることが好ましく、0.1mg以上3mg以下であることが好ましく、0.1mg以上2mg以下であることがより好ましく、0.1mg以上1mg以下であることがより好ましい。
上述した量であれば、効果的に発汗を抑制することができる。
上述した上限値であれば、mTOR阻害剤による副作用を、より良く防止することができる。
注射剤は、血液と等張にするために十分な量の塩(例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム等)またはブドウ糖等を含有していてもよい。
本発明の発汗抑制剤は、多汗症治療剤として使用することができる。本発明の多汗症治療剤は、mTOR阻害剤を含むことを特徴としている。本発明の多汗症治療剤の説明は、上述した本発明の発汗抑制剤についての説明を援用することができる。
なお、本発明の発汗抑制剤を用いた発汗を抑制する方法、および本発明の発汗抑制剤を用いた多汗症の治療方法についても、本発明の範疇に含まれる。発汗を抑制する方法および多汗症の治療方法は、本発明の発汗抑制剤を、上述した投与経路で、上述した投与量、投与回数で、患者(ヒトまたは非ヒト動物)に投与する投与工程を包含する。すなわち、発汗を抑制する方法および多汗症の治療方法は、本発明の発汗抑制剤を患者に投与する投与工程を包含している。投与工程において、発汗抑制剤の投与方法は特に限定されず、経口投与、静脈内または動脈内への血管内投与といった手法により全身投与されてもよく、皮膚への本発明の発汗抑制剤の塗布による経皮投与により局所投与されてもよい。例えば、内服薬、注射剤等の形態で本発明の発汗抑制剤を全身投与することにより、生体の全身の発汗を抑制することができる。特に、外用薬の形態で本発明の発汗抑制剤を局所投与することにより、希望する部位において的確に効果を発揮することができ、且つ全身の副作用の虞がない。よって、投与工程は、本発明の発汗抑制剤を患者の患部に塗布する工程であることが好ましい。
本発明の発汗抑制剤は、上記課題を解決するために、mTOR阻害剤を含むことを特徴としている。
本発明の発汗抑制剤では、上記mTOR阻害剤は、ラパマイシン、またはラパマイシン誘導体であることが好ましい。
本発明の発汗抑制剤では、上記ラパマイシンの誘導体は、エベロリムス、テムシロリムス、リダフォロリムス、またはゾタロリムスであることが好ましい。
本発明の発汗抑制剤は、外用薬、内服薬、または注射剤であることが好ましい。
本発明の発汗抑制剤は、外用薬であることがより好ましい。
本発明の発汗抑制剤は、多汗症、汗疹、エクリン汗嚢腫、または異汗性湿疹(汗疱)の治療に用いられることが好ましい。
本発明の多汗症治療剤は、mTOR阻害剤を含むことを特徴としている。
発汗を調節するメカニズムを解析するために、マウスに対して発汗刺激(アセチルコリン)を加えたときに状態が変化する分子を調べた。以下に、試験方法および試験結果について説明する。
7週齢の雌のC57BL6Jマウスを、Clea(Osaka,Japan)より購入した。試験中、無菌の動物飼育施設内で上記マウスを飼育した。また、本実施例および後述する実施例では、国立大学法人大阪大学のガイドラインにしたがって、動物の管理を行った。
マウスの体重1kgあたり0.3mgのドミトール、5mgのベトロファール、および、4mgのドルミカムを、マウスの腹腔内へ注射することによって、マウスに全身麻酔をかけた。
次いで、リン酸緩衝液(Phosphate Buffered Saline)中に、発汗刺激として機能するアセチルコリン(pilocarpine hydrochloride’ Junsei Chemical,Co.,Ltd,Tokyo,Japan)を溶解して、刺激用溶液(アセチルコリンの濃度:50μg/μL)を作製した。
全身麻酔がかけられたマウスの後ろ足の皮下に、アセチルコリンを含まない10μLのリン酸緩衝液、または、10μLの上記刺激用溶液、を注射した。
注射を行ってから2分後に、マウスの後ろ足の皮膚サンプルを回収し、当該皮膚サンプルをOCTコンパウンド(Lab−Tek Products,Illinois,USA)内に包埋した。
上記OCTコンパウンドから、5μm厚の切片を作製し、当該切片を、周知の蛍光染色法にしたがって染色した。
当該蛍光染色法に用いた一次抗体は、anti−phospho−mTOR(ser2448)(1:50,Cell Signaling Technology,Tokyo,Japan)、および、anti−smooth muscle actin(SMA)(1:1000,DAKO,Tokyo,Japan)であった。
なお、anti−phospho−mTORは、mTORタンパク質のアミノ末端から2448番目のセリンがリン酸化された状態を認識する抗体、換言すれば、活性化されたmTORタンパク質を認識する抗体である。
また、当該蛍光染色法に用いた二次抗体は、Alexa Fluor 488またはAlexa Fluor 555が連結されている市販の二次抗体であった(Invitrogen,Carlsbad,CA)。
また、蛍光染色の像は、BZ−8000顕微鏡(Keyence)を用いて観察した。
図1(a)〜図1(d)に、アセチルコリンを含まないリン酸緩衝液を用いた場合の染色結果を示し、図2(a)〜図2(d)に、アセチルコリンを含むリン酸緩衝液を用いた場合の染色結果を示す。
更に具体的に、図1(a)および図2(a)は、mTORの染色結果を示し、図1(b)および図2(b)は、smooth muscle actinの染色結果を示し、図1(c)および図2(c)は、ヘキスト(Hoechst)染色の染色結果を示し、図1(d)および図2(d)は、図1(a)〜図1(c)の染色結果または図2(a)〜図2(c)の染色結果を重ね合せた像を示している。
図1(a)および図2(a)に示すように、アセチルコリンを用いて発汗を促すと、活性化したmTORの染色像が強くなることが明らかになった。つまり、アセチルコリンを用いて発汗を促すと、mTORが活性化されることが明らかになった。
このことは、発汗の調節にとってmTORが重要な役割を担っていることを示唆するとともに、mTORの活性を阻害すれば発汗を抑制し得ることを示している。
<2.mTOR阻害剤の投与が皮膚に及ぼす影響>
mTOR阻害剤が皮膚に及ぼす影響を観察した。
具体的には、mTOR阻害剤(エベロリムス(アフィニトール(登録商標))を、ヒトに対して1日あたり10mg経口投与するとともに、皮膚に現れる症状を観察した。
図3(a)および図3(b)に、皮膚に現れた症状の写真を示す。具体的に、図3(a)は、mTOR阻害剤を投与する前の皮膚の様子を示す写真であり、図3(b)は、mTOR阻害剤を投与した後の皮膚の様子を示す写真である。
皮膚に現れた症状を観察した結果、当該症状は、発汗が抑制された結果現れた、ドライスキンの症状であった。
つまり、本結果は、mTORの活性を阻害すれば発汗が抑制されることを示している。
<3.mTOR阻害剤の投与が発汗に及ぼす影響>
結節性硬化症に伴う腎の血管筋脂肪腫の患者に対して、略4ヶ月間にわたってmTOR阻害剤(エベロリムス(アフィニトール(登録商標)))を、1日あたり10mg経口投与し、その後、mTOR阻害剤の経口投与を中止した。
この間、mTOR阻害剤の経口投与を開始してから、経時的に、当該患者の正常な皮膚における発汗量と、白斑の症状を示している皮膚における発汗量と、を測定した。
また、発汗量の測定には、スキノス技研の局所発汗計(定量的軸索反射性発汗量測定装置)を用い、具体的な測定方法は、当該装置に添付のプロトコールにしたがった。
図4に、発汗量の変化を示す。図4に示すように、正常な皮膚における発汗量、および、白斑の症状を示している皮膚における発汗量(mg/5min)は、共に、mTOR阻害剤の投与によって減少した。また、投与中止により発汗量が回復した。
つまり、当該試験から、mTOR阻害剤が発汗量を抑える効果を有することが明らかになった。
<4.mTOR阻害剤の投与(外用、単回投与)が発汗に及ぼす影響>
本試験では、マウスを用いた動物実験にて、mTOR阻害剤が発汗を抑制する効果を有していることを確認した。以下に、具体的な試験方法および試験結果を説明する。
mTOR阻害剤を含有しないゲル、0.4重量%のmTOR阻害剤(具体的には、ラパマイシン)を含有するゲル、または、0.8重量%のmTOR阻害剤(具体的には、ラパマイシン)を含有するゲルの各々0.2gを、11〜12週齢のC57BL6マウスの後ろ足の足底部に、1回塗布した。
なお、上記ゲル1gにおけるmTOR阻害剤以外の成分は、カーボポール(登録商標)934NF16mg、水490mg、エタノール480〜490mg、および、トリスヒドロキシメチルアミノメタン6mgであった。
より具体的には、0.4重量%のラパマイシンを含有するゲル(全量100g)の組成は、0.4gラパマイシン、48.4g無水エタノール、43g注射用水、1.6gカーボポール(登録商標)934NF、および、6.6gトロメタモール液(1:10)であり、0.8重量%のラパマイシンを含有するゲル(全量100g)の組成は、0.8gラパマイシン、48g無水エタノール、43g注射用水、1.6gカーボポール(登録商標)934NF、および、6.6gトロメタモール液(1:10)であった。
ゲルを塗布してから60分後に、ドミトール、ベトロファール、および、ドルミカムをマウスの腹腔内へ注射することによってマウスに全身麻酔をかけ、かつ、発汗刺激となるアセチルコリンをマウスへ投与した。
次いで、周知のヨウ素デンプン法(Iodine−starch method)にしたがって、発汗量の変化を測定した。
まず、マウスの後ろ足の足底部に、ヨウ素エタノール溶液とでん粉とを溶解したミネラルオイルを塗布した。
その後、マウスの後ろ足の足底部の皮下に、ピロカルピン塩酸塩(50μg/20μL/匹)を注射した。
注射を行ってから5分後に、マウスの後ろ足の足底部を観察し、後ろ足の足底部(更に具体的には、足底部の肉球に存在する汗腺)に出現した黒点の数をカウントした。なお、当該黒点が、ヨウ素デンプン反応にて陽性を示す箇所である。また、統計解析は、t検定を用いて行った。
図5に、マウスの後ろ足底部の写真を示す。
図5に示すように、mTOR阻害剤を含有しないゲル(図5中の「Control」)では、肉球に存在する汗腺の多くが黒く染まり、発汗が促進されていることが明らかになった。一方、0.4重量%のmTOR阻害剤を含有するゲル(図5中の「0.4%」)、および、0.8重量%のmTOR阻害剤を含有するゲル(図5中の「0.8%」)では、肉球に存在する汗腺の多くが黒く染まらず、発汗が抑制されていることが明らかになった。
図6に、黒く染まった汗腺の数を示すグラフを示す。図6に示すように、mTOR阻害剤を含有しないゲル(図6中の「Control」)では、発汗が促進されており、一方、0.4重量%のmTOR阻害剤を含有するゲル(図6中の「0.4%」)、および、0.8重量%のmTOR阻害剤を含有するゲル(図6中の「0.8%」)では、有意に発汗が抑制されていることが明らかになった。
また、図6から、発汗抑制効果は、mTOR阻害剤の濃度依存的に上昇することも明らかになった。
<5.mTOR阻害剤の投与(外用または内服、連続投与)が発汗に及ぼす影響>
<5−1.mTOR阻害剤の外用、連続投与について>
mTOR阻害剤を含有しないゲル、または、0.4重量%のmTOR阻害剤(具体的には、ラパマイシン)を含有するゲルの各々0.5mgを、11〜12週齢のC57BL6マウスの後ろ足の足底部に、1日につき1回塗布した。そして、当該塗布を、5日間連続して行った。
なお、上記ゲルにおけるmTOR阻害剤以外の成分は、上記<4.mTOR阻害剤の投与(外用、単回投与)が発汗に及ぼす影響>における製剤と同じであった。
そして、最後の塗布が終わってから60分後に、発汗刺激を行うとともに、周知のヨウ素デンプン法(Iodine−starch method)にしたがって、発汗量の変化を測定した。なお、具体的な発汗量の測定方法は、<4.mTOR阻害剤の投与(外用、単回投与)が発汗に及ぼす影響>にて説明したので、ここでは、その説明を省略し、測定結果のみを説明する。
図7に、黒く染まった汗腺の数を示すグラフを示す。図7に示すように、mTOR阻害剤を含有しないゲル(図7中の「Control」)では、発汗が促進されており、一方、0.4重量%のmTOR阻害剤を含有するゲル(図7中の「Rapamycin」)では、発汗が抑制されていることが明らかになった。
<5−2.mTOR阻害剤の内服、連続投与について>
ラパマイシンを、11〜12週齢のC57BL6マウスに、1日につき1回経口投与した。そして、当該経口投与を、5日間連続して行った。なお、1回の経口投与にてマウスに投与されたラパマイシンの量は、マウスの体重1kgあたり2mgであった。
そして、最後の経口投与が終わってから60分後に、発汗刺激を行うとともに、周知のヨウ素デンプン法(Iodine−starch method)にしたがって、発汗量の変化を測定した(以下、試験Aと呼ぶ)。
また、別の試験として、最後の経口投与が終わってから10日後に、発汗刺激を行うとともに、周知のヨウ素デンプン法(Iodine−starch method)にしたがって、発汗量の変化を測定した(以下、試験Bと呼ぶ)。
具体的な発汗量の測定方法は、<4.mTOR阻害剤の投与(外用、単回投与)が発汗に及ぼす影響>にて説明したので、ここでは、その説明を省略し、測定結果のみを説明する。
図8に、試験Aにおいて黒く染まった汗腺の数を示すグラフを示す。図8に示すように、mTOR阻害剤を経口投与されなかったマウス(図8中の「Control」)では、発汗が促進されており、一方、mTOR阻害剤を経口投与されたマウス(図8中の「Rapamycin」)では、発汗が抑制されていることが明らかになった。
また、図9に、試験Bにおいて黒く染まった汗腺の数を示すグラフを示す。図9に示すように、mTOR阻害剤を投与する前のマウス(図9中の「Pre」)に比べて、mTOR阻害剤を5日間経口投与されたマウス(図9中の「oral−5days」)では発汗が抑制され、mTOR阻害剤の経口投与を止めて10日後のマウス(図9中の「10days−rest」)では、発汗量が、mTOR阻害剤を経口投与する前の量に戻っていることが明らかになった。
つまり、発汗の抑制効果が、一過性の効果であることが明らかになった。
<6.ラパマイシンを含有するゲル剤による発汗量に及ぼす効果を検討する臨床試験>
本試験は、国立大学法人大阪大学倫理審査委員会で審議の上、承認を得て、行った。
<6−1.ラパマイシンを含有するゲル剤が発汗量に及ぼす効果(健常人対象)>
健常人9人の一方の手掌に0.2重量%ラパマイシン含有ゲル剤(各々1g/300cm2/回)を他方の手掌に基剤のみ(すなわち、ラパマイシンを含有しないゲル剤(プラセボ))を外用し、外用前、外用後30分後、60分後の発汗量を密封換気カプセル法(スキノス技研測定器)で測定し、各時間におけるラパマイシン含有ゲル剤外用部とプラセボ外用部との発汗低下量の差を計算し、有効な発汗低下量とした(図10、図11)。また、0.2重量%ラパマイシン含有ゲル剤を外用した健常人とは別の健常人9人の一方の手掌に0.8重量%ラパマイシン含有ゲル剤(各々1g/300cm2/回)を他方の手掌に基剤のみを外用した以外は、上記と同じ実験を行って、各時間におけるラパマイシン含有ゲル剤外用部とプラセボ外用部との発汗低下量の差を計算し、有効な発汗低下量とした(図10、図11)。なお、統計解析は、t検定を用いて行った。
具体的には、発汗量の変化量(「発汗低下量」ともいう)は、以下の式を用いて算出した。
発汗量の変化量(mg/5min)=(ラパマイシン含有ゲル剤を外用後所定の時間経過後の発汗量−外用前の発汗量)−(プラセボを外用後所定の時間経過後の発汗量−外用前の発汗量)
なお、上記ゲル1gにおけるmTOR阻害剤(具体的には、ラパマイシン)以外の成分は、上記<4.mTOR阻害剤の投与(外用、単回投与)が発汗に及ぼす影響>における製剤と同じであった。
図10に、ラパマイシン外用薬(具体的には、ラパマイシン含有ゲル剤)による健常人の発汗抑制効果を濃度別、時間別に表したグラフを示す。図10の(a)は、0.2重量%ラパマイシン含有ゲル剤を塗布した場合の結果を示し、図10の(b)は、0.8重量%ラパマイシン含有ゲル剤を塗布した場合の結果を示す。図10に示すように、ラパマイシン含有ゲル剤外用前と比較して、ラパマイシン含有ゲル剤外用後30分後に発汗量が減少していることが明らかになった。0.8重量%ラパマイシン含有ゲル剤を塗布した場合には、外用前と比較して、外用後30分後に発汗量が有意に減少していることが明らかになった(P<0.05)。また、外用後60分後の発汗低下量は、外用後30分後の発汗低下量と同程度の量であった。
図11に、ラパマイシン外用薬(具体的には、ラパマイシン含有ゲル剤)塗布後の発汗量の経時的変化を表したグラフを示す。図11に示すように、ラパマイシン含有ゲル剤外用後30分後に発汗量が最も減少していることが明らかになった。また、0.8重量%ラパマイシン含有ゲル剤を塗布した場合には、外用後60分後の発汗低下量が、外用後30分後の発汗低下量と同程度の量であった。
次いで、1人の健常人の一方の手掌に0.2重量%、0.4重量%または0.8重量%のラパマイシン含有ゲル剤(各々1g/300cm2/回)を他方の手掌に基剤のみ(すなわち、ラパマイシンを含有しないゲル剤(プラセボ))を外用し、外用前、外用後15分後、30分後、60分後、120分後、180分後(0.2重量%のラパマイシン含有ゲル剤を用いた試験については、外用前、外用後15分後、30分後、60分後、120分後)の発汗量を密封換気カプセル法(スキノス技研測定器)で測定し、各時間におけるラパマイシン含有ゲル剤外用部とプラセボ外用部の発汗低下量の差を計算し、有効な発汗低下量とした(図12)。本試験では、1人の被験者に対して、3種類の濃度が異なるラパマイシン含有ゲル剤を用いた3通りの試験を、試験と試験との間隔を1週間以上あけて行った。
図12に、ラパマイシン外用薬(具体的には、ラパマイシン含有ゲル剤)塗布後の発汗量の経時的変化を表したグラフを示す。図12に示すように、0.2重量%ラパマイシン含有ゲル剤および0.4重量%ラパマイシン含有ゲル剤を塗布した場合には、ラパマイシン含有ゲル剤外用後30分後に発汗量が最も減少していることが明らかになった。一方、0.8重量%ラパマイシン含有ゲル剤を塗布した場合には、ラパマイシン含有ゲル剤外用後120分後に発汗量が最も減少していることが明らかになった。ラパマイシン含有ゲル剤外用後の発汗低下量は、0.4重量%ラパマイシン含有ゲル剤を塗布した場合が最も多かった。ただし、効果の安定性、持続性は、0.8重量%ラパマイシン含有ゲル剤が良かった。いずれの濃度の外用薬も120分後においても発汗抑制効果が認められた。0.4重量%外用薬および0.8重量%外用薬では、180分後においても発汗抑制効果が認められた。
<6−2.ラパマイシンを含有するゲル剤が発汗量に及ぼす効果(多汗症患者対象)>
多汗症の患者3人(被験者1〜3)の左右対称の被験部(手掌および鼻)の一方に0.2重量%のラパマイシン含有ゲル剤(1g/300cm2/回)を他方に基剤のみ(すなわち、ラパマイシンを含有しないゲル剤(プラセボ))をダブルブラインドで1日2回6週間外用した。外用前、外用後2週および6週目に受診しそれぞれ外用前と外用後30分後の発汗量を密封換気カプセル法(スキノス技研測定器)で測定しラパマイシン含有ゲル剤外用部とプラセボ外用部の発汗低下量の差を計算し、有効な発汗低下量とした(図13)。なお、統計解析は、t検定を用いて行った。
図13に、多汗症患者に対するラパマイシン外用薬(具体的には、ラパマイシン含有ゲル剤)の発汗抑制効果を表したグラフを示す。図13の(a)は、被験者1の手掌にラパマイシン含有ゲル剤を塗布した場合の結果を示し、グラフの縦軸は、外用前、外用後2週および6週目の発汗低下量を表している。図13の(b)は、被験者2の鼻にラパマイシン含有ゲル剤を塗布した場合の結果を示し、グラフの縦軸は、外用前、外用後2週および6週目の発汗低下量を表している。図13の(c)は、被験者3の手掌にラパマイシン含有ゲル剤を塗布した場合の結果を示し、グラフの縦軸は、外用前、外用後2週および8週目の発汗低下量を表している。
上記「発汗低下量」は、具体的には、以下の式を用いて算出した。
発汗低下量(mg/5min)=(ラパマイシン含有ゲル剤を外用後30分経過後の発汗量−外用前の発汗量)−(プラセボを外用後30分経過後の発汗量−外用前の発汗量)
図13に示すように、多汗症患者においても、ラパマイシン含有ゲル剤を外用することによる発汗抑制効果が認められた。しかも、6週間連続投与により持続的かつ顕著な発汗抑制効果が認められた。
図14に、多汗症患者に対するラパマイシン外用薬(具体的には、ラパマイシン含有ゲル剤)の発汗抑制効果を表したグラフを示す。図14は、被験者1〜3の手掌における外用前、外用後2週および6週目(被験者3については外用後8週目)の発汗低下量の平均値を示している。被験者1〜3における外用前、外用後2週および6週目(被験者3については外用後8週目)の発汗低下量を表1に示す。
図14に示すように、多汗症患者においても、ラパマイシン含有ゲル剤を外用することによる発汗抑制効果が認められた。
<6−3.安全性>
上記健常人における試験、多汗症患者における試験において、副作用はみとめられず、安全性について問題となる所見は認められなかった。
以下に、外用薬の形態である発汗抑制剤について説明する。
上述したように、本発明の発汗抑制剤は、mTOR阻害剤を含有している溶液をゲル化して得られる、ゲル剤であってもよい。
上述したように、本発明の発汗抑制剤は、軟膏中にmTOR阻害剤を含有させることによって得られる、軟膏剤であってもよい。基剤としては、例えば、ロウ類(例えば、サラシミツロウ、ラノリン、カルナバロウ、鯨ロウなどの天然ロウ、モンタンロウなどの鉱物ロウ、合成ロウなど)、パラフィン類(例えば、流動パラフィン、固形パラフィンなど)、ワセリン(例えば、白色ワセリン、黄色ワセリンなど)などを挙げることができる。
以下に、内服薬の形態である発汗抑制剤について説明する。
以下に、注射剤の形態である発汗抑制剤について説明する。なお、注射剤には、点滴剤も含まれる。
発汗を調節するメカニズムを解析するために、マウスに対して発汗刺激(アセチルコリン)を加えたときに状態が変化する分子を調べた。以下に、試験方法および試験結果について説明する。
mTOR阻害剤が皮膚に及ぼす影響を観察した。
結節性硬化症に伴う腎の血管筋脂肪腫の患者に対して、略4ヶ月間にわたってmTOR阻害剤(エベロリムス(アフィニトール(登録商標)))を、1日あたり10mg経口投与し、その後、mTOR阻害剤の経口投与を中止した。
本試験では、マウスを用いた動物実験にて、mTOR阻害剤が発汗を抑制する効果を有していることを確認した。以下に、具体的な試験方法および試験結果を説明する。
<5−1.mTOR阻害剤の外用、連続投与について>
mTOR阻害剤を含有しないゲル、または、0.4重量%のmTOR阻害剤(具体的には、ラパマイシン)を含有するゲルの各々0.5mgを、11〜12週齢のC57BL6マウスの後ろ足の足底部に、1日につき1回塗布した。そして、当該塗布を、5日間連続して行った。
ラパマイシンを、11〜12週齢のC57BL6マウスに、1日につき1回経口投与した。そして、当該経口投与を、5日間連続して行った。なお、1回の経口投与にてマウスに投与されたラパマイシンの量は、マウスの体重1kgあたり2mgであった。
本試験は、国立大学法人大阪大学倫理審査委員会で審議の上、承認を得て、行った。
健常人9人の一方の手掌に0.2重量%ラパマイシン含有ゲル剤(各々1g/300cm2/回)を他方の手掌に基剤のみ(すなわち、ラパマイシンを含有しないゲル剤(プラセボ))を外用し、外用前、外用後30分後、60分後の発汗量を密封換気カプセル法(スキノス技研測定器)で測定し、各時間におけるラパマイシン含有ゲル剤外用部とプラセボ外用部との発汗低下量の差を計算し、有効な発汗低下量とした(図10、図11)。また、0.2重量%ラパマイシン含有ゲル剤を外用した健常人とは別の健常人9人の一方の手掌に0.8重量%ラパマイシン含有ゲル剤(各々1g/300cm2/回)を他方の手掌に基剤のみを外用した以外は、上記と同じ実験を行って、各時間におけるラパマイシン含有ゲル剤外用部とプラセボ外用部との発汗低下量の差を計算し、有効な発汗低下量とした(図10、図11)。なお、統計解析は、t検定を用いて行った。
なお、上記ゲル1gにおけるmTOR阻害剤(具体的には、ラパマイシン)以外の成分は、上記<4.mTOR阻害剤の投与(外用、単回投与)が発汗に及ぼす影響>における製剤と同じであった。
多汗症の患者3人(被験者1〜3)の左右対称の被験部(手掌および鼻)の一方に0.2重量%のラパマイシン含有ゲル剤(1g/300cm2/回)を他方に基剤のみ(すなわち、ラパマイシンを含有しないゲル剤(プラセボ))をダブルブラインドで1日2回6週間外用した。外用前、外用後2週および6週目に受診しそれぞれ外用前と外用後30分後の発汗量を密封換気カプセル法(スキノス技研測定器)で測定しラパマイシン含有ゲル剤外用部とプラセボ外用部の発汗低下量の差を計算し、有効な発汗低下量とした(図13)。なお、統計解析は、t検定を用いて行った。
図13に示すように、多汗症患者においても、ラパマイシン含有ゲル剤を外用することによる発汗抑制効果が認められた。しかも、6週間連続投与により持続的かつ顕著な発汗抑制効果が認められた。
上記健常人における試験、多汗症患者における試験において、副作用はみとめられず、安全性について問題となる所見は認められなかった。
Claims (7)
- mTOR阻害剤を含むことを特徴とする発汗抑制剤。
- 上記mTOR阻害剤は、ラパマイシン、またはラパマイシン誘導体であることを特徴とする請求項1に記載の発汗抑制剤。
- 上記ラパマイシンの誘導体は、エベロリムス、テムシロリムス、リダフォロリムス、またはゾタロリムスであることを特徴とする請求項2に記載の発汗抑制剤。
- 外用薬、内服薬、または注射剤であることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の発汗抑制剤。
- 外用薬であることを特徴とする請求項4に記載の発汗抑制剤。
- 多汗症、汗疹、エクリン汗嚢腫、または異汗性湿疹の治療に用いられることを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載の発汗抑制剤。
- mTOR阻害剤を含むことを特徴とする多汗症治療剤。
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