JPWO2015049757A1 - 変位場およびひずみ場の測定方法、および、材料試験機 - Google Patents

変位場およびひずみ場の測定方法、および、材料試験機 Download PDF

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Abstract

この発明の材料試験機による変位場およびひずみ場の計測では、ビデオカメラ23によりグレースケールで取得した画像における固定ノイズを、暗度に基づいて確率的にモデル化し、この固定ノイズの確率的モデルを利用して、荷重が与えられたときの試験片の表面に付されたドットの重心の測定値の不確かさを評価する。そして、ドットの重心の測定結果から、ドット変位量、変位場およびひずみ場を、不確かさの伝播則により確率的に算出することから、これらの物理量の測定結果に、不確かさを併せて示すことが可能となる。

Description

この発明は、静的材料試験における変位場およびひずみ場の測定方法、および、材料試験機に関する。
試験片に一方向の軸に沿って、引張負荷または圧縮負荷を与える静的試験では、試験片の荷重変形を、ひずみゲージなどの接触式伸び計やビデオカメラを利用した非接触式伸び計により、負荷軸方向の変位量およびひずみ量として測定している。
また、ビデオカメラにより取得した試験片の画像を解析することにより、負荷軸方向の変位量やひずみ量だけではなく、荷重により試験片に生じている連続した変形である変位場やひずみ場を計測し、試験片の力学特性を評価する材料試験機が提案されている(特許文献1および特許文献2参照)。
負荷を与えられた試験片に生じる変位場やひずみ場は、特許文献1および特許文献2に記載されているように、画像データ(例えば、各画素の階調値)を利用して算出される。従来のデジタル画像相関法を採用した計測では、変位をピクセル単位で同定することから、計測結果としての変位場やひずみ場の測定精度は、画像分解能による制限を受けることになる。なお、デジタル画像相関法とは、試験片の表面に複数の標点を付し、負荷が加えられる前と後での試験片における標点パターンを比較することにより、試験片の変位を求める手法である。
このため、近年ではドット重心追跡法と呼称される手法を採用することにより、変位場およびひずみ場の計測を画像分解能以上の高い精度で行うことも提案されている。図10は、ドット重心追跡法による従来の変位場およびひずみ場の算出手順を示すフローチャートである。
まず試験実行前に、表面にランダムに標点(ドット)が付された試験片を材料試験機の本体に取り付け、試験中の試験片の画像を収集するビデオカメラの配置、視野、サンプリング周波数などの設定、光や試験環境などの設定、および、試験片に与える荷重の設定を行う(ステップS101、S102)。
ビデオカメラによる撮影により得られた試験片の画像において、試験片の表面に付された各ドットの認識が行われ、各ドットの重心位置が算出される(ステップS103)。そして、試験片に負荷が与えられている試験中において、各ドットの重心位置の移動を追跡するドット重心測定を行う(ステップS104)。この時、試験中の各ドットの重心位置の移動量であるドットの変位量の算出が行われ(ステップS105)、この各ドットの変位量と形状関数に基づいて、試験片の任意の点における変位量およびひずみ量が算出されるとともに、変位場およびひずみ場が導出される(ステップS106、S107)。
負荷を与えられた試験片に生じる2次元の連続した変化である変位場やひずみ場は、上述したドット重心の移動量に基づいて算出され、ドット重心は、画像におけるドットを構成する各画素の階調値(例えば、256階調のグレースケール)から算出される。このように、ドット重心追跡法では、画像分解能を超えた解像度でドットの移動を測定することができるため、変位場やひずみ場の測定精度が、デジタル画像相関法よりも向上し、接触式の歪みゲージを用いた場合に近い測定精度を実現している。
特開2004−184152号公報 登録実用新案第3119564号公報
一方、ビデオカメラにより取得した画像データには、材料試験機が設置されている場所の彩光や振動などの環境ノイズ、カメラレンズのゆがみなどの機械的ノイズ、画像センサーにおける電気ノイズなどの様々なノイズが含まれている。そして、これらのノイズは、材料試験機を設置する環境や材料試験機に配設するカメラの選定およびそれらに関連したパラメータ設定により、その大きさが変動する。
画素の階調値などのデータは、このような測定試験における観測値に相当するものであり、これらのデータに含まれるノイズは、観測値から計算により求められる物理量である変位場およびひずみ場の測定精度に影響を及ぼすことになる。さらに、ドット重心追跡法を用いた変位場およびひずみ場の評価においては、測定結果が数値解析法の近似誤差やコンピュータの丸め誤差の影響を受けるだけではなく、画像上のドットの大きさやドットの密度の影響も問題となる。
ビデオカメラによる測定手法では、画像処理を介して得られた情報から一意に求められた測定値が、どの程度の信頼性を持つ数値であるのかの考察が難しかったため、測定値の誤差範囲に関する検討が行われていなかった。
この発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、撮影手段により取得された画像データに含まれるノイズによって生じる変位場およびひずみ場の測定の不確かさを提示することが可能な変位場およびひずみ場の測定方法、および、材料試験機を提供することを目的とする。
請求項1に記載の発明は、試験片に負荷を与える負荷機構と、前記試験片を撮影する撮影手段とを備えた材料試験機を用いて、前記撮影手段により取得された負荷が加えられた前記試験片の画像を解析することにより、前記試験片に生じる変位場およびひずみ場を測定する変位場およびひずみ場の測定方法であって、試験実行前に、前記撮像手段により取得された前記試験片の画像データの各画素に含まれるノイズを確率的にモデル化する固定ノイズモデル作成工程と、前記試験片の表面に無作為に付された複数の標点を認識して各標点の重心を平均値として算出するとともに、前記固定ノイズモデル作成工程においてモデル化された各画素のノイズに基づいて各標点の重心の不確かさを推定することにより、前記試験片に負荷が与えられているときの各標点の重心を確率的に測定する重心測定工程と、前記重心測定工程において算出された重心の平均値と標準偏差を利用して、各標点の重心の変位量を算出するとともに、該重心の変位量の不確かさを推定することにより、各標点の重心の変位量を確率的に算出する重心変位量算出工程と、前記重心変位量算出工程において算出された前記重心の変位量を利用して、前記試験片における任意の点での変位量およびひずみ量を算出するとともに、前記重心の変位量の不確かさを利用して、変位場およびひずみ場の不確かさを推定することにより、変位場およびひずみ場を確率的に算出する変位場およびひずみ場算出工程と、前記変位場およびひずみ場算出工程における算出結果を利用して、変位場の誤差範囲およびひずみ場の誤差範囲を推定する誤差範囲推定工程と、を有することを特徴とする。
請求項2に記載の発明は、請求項1に発明において、固定ノイズモデル作成工程は、異なる暗度を持つ標本に対して前記撮像手段によりグレースケールで繰り返し取得した各画素の暗度の測定値を統計処理することにより、各画素における暗度の平均値と標準偏差を算出して暗度と標準偏差の相関を導出するとともに、任意の暗度の確率分布を推定する。
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の発明において、前記重心測定工程は、前記複数の標点を認識して各標点を構成する各画素の暗度と、前記固定ノイズモデル作成工程において推定された任意の暗度における確率分布を利用して、平均値として算出された各標点の重心の不確かさを推定する。
請求項4に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記誤差範囲推定工程は、前記変位場およびひずみ場算出工程において、前記標点の重心の変位量がガウス過程に従うと仮定して得られた前記任意の点での変位量およびひずみ量の確率密度関数を積分したときに、所定の確率が得られる積分範囲を測定誤差範囲とする。
請求項5に記載の発明は、試験片に負荷を与える負荷機構と、前記試験片を撮影する撮影手段とを備え、前記撮影手段により取得された負荷が加えられた前記試験片の画像を解析することにより、前記試験片に生じる変位場およびひずみ場を測定する材料試験機であって、試験実行前に前記撮像手段により取得された前記試験片の画像データの各画素に含まれるノイズをモデル化する固定ノイズモデル作成部と、前記試験片の表面に無作為に付された複数の標点を認識して該標点の重心を平均値として算出するとともに、前記固定ノイズモデル作成部においてモデル化された各画素のノイズに基づいて該標点の重心の標準偏差を推定することにより、前記試験片に負荷が与えられているときの各標点の重心を確率的に測定する重心測定部と、前記重心測定部において算出された重心の平均値と標準偏差を利用して、各標点の重心の変位量を算出するとともに、該標点の重心の変位量の不確かさを推定することにより、各標点の重心の変位量を確率的に算出する重心変位量算出部と、前記重心変位量算出部において算出された前記標点重心の変位量と前記標点の重心の変位量の不確かさを利用して、前記試験片の表面の任意の点における変位量およびひずみ量を算出するとともに、変位場およびひずみ場の不確かさを推定することにより変位場およびひずみ場を確率的に算出する変位場およびひずみ場算出部と、前記変位場およびひずみ場算出部にける算出結果を利用して、変位場の誤差範囲およびひずみ場の誤差範囲を推定する誤差範囲推定部と、を有する画像解析手段を備えることを特徴とする。
請求項1から請求項5に記載の発明によれば、撮像手段により取得した画像データに含まれるノイズをモデル化し、従来のドット重心追跡法に統計学的手法を取り入れて、試験片に付された標点の重心を確率的に測定し、さらに、不確かさの伝播則により変位場およびひずみ場の不確かさを推定することにより、一般的には測定量の値の近似値あるいは推定値であると解される測定結果に、不確かさを併せて示すことができる。したがって、撮像手段により取得した画像を処理することにより導出される変位場およびひずみ場の測定値の信頼度を向上させることが可能となる。
この発明の材料試験機の主要な構成を示す概要図である。 この発明の材料試験機の主要な制御系を示すブロック図である。 この発明の材料試験機における変位場およびひずみ場の測定手順を示すフローチャートである。 各画素の固定ノイズのモデル化を説明するグラフである。 各画素の固定ノイズのモデル化を説明するグラフである。 試験片10に付されたドットの一例を示す模式図である。 ドット重心の確率的測定の概念図である。 ドット変位量の確率的算出の概念図である。 変位場およびひずみ場の確率的算出後の表示例である。 ドット重心追跡法による従来の変位場およびひずみ場の算出手順を示すフローチャートである。
以下、この発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。図1は、この発明の材料試験機の構成を示す概要図である。
この材料試験機は、テーブル16と、テーブル16に鉛直方向を向く状態で回転可能に立設された一対のねじ棹11と、これらのねじ棹11に沿って移動可能なクロスヘッド13と、このクロスヘッド13を移動させて試験片10に対して試験力を付与するための負荷機構30と、試験片10の変位場およびひずむ場を計測するためのビデオカメラ23を備える。
クロスヘッド13は、一対のねじ棹11に対して、図示を省略したナットを介して連結されている。各ねじ棹11の下端部は、負荷機構30に連結されており、負荷機構30における動力源としてのモータ31(図2参照)からの動力が、一対のねじ棹11に伝達される構成となっている。一対のねじ棹11が同期して回転することにより、クロスヘッド13は、これら一対のねじ棹11に沿って昇降する。
クロスヘッド13には、試験片10の上端部を把持するための上つかみ具21が付設されている。一方、テーブル16には、試験片10の下端部を把持するための下つかみ具22が付設されている。引っ張り試験を行う場合には、試験片10の両端部をこれらの上つかみ具21および下つかみ具22により把持した状態で、クロスヘッド13を上昇させることにより、試験片10に試験力(引張荷重)を負荷する。このときに、試験片10に作用する試験力はロードセル14によって検出され、制御部35に入力される。また、試験片10の変位量などの物理量は、ビデオカメラ23により取得された画像に基づいて制御部35において算出される。
制御部35は、プログラムや各種データを格納可能なRAM、ROMなどの記憶装置と、CPUなどの演算装置とを備えたコンピュータにより構成され、この材料試験機の全体の動作を制御する制御装置として機能するとともに、この発明の画像解析手段として機能する。制御部35には、表示部36と入力部37が接続される。入力部37は、試験条件の変更などのユーザーによる操作を受け付ける。表示部36は、試験条件や試験中の試験片10の変位などを表示する。
図2は、この発明の材料試験機の主要な制御系を示すブロック図である。
この材料試験機の制御部35は、機能的構成として、負荷制御部41、画像処理部50、表示制御部42、記憶部43とを備える。負荷制御部41は、入力部37を介してユーザーにより設定された試験条件に基づいて、負荷機構30におけるモータ31を作動させるとともに、試験中のロードセル14が検出した荷重に基づいて、試験中のモータ31の動作を調整する。
画像処理部50は、試験前にビデオカメラ23により取得された画像データにおける各画素での固定ノイズをモデル化する固定ノイズモデル作成部51と、試験片10の画像データを処理することにより試験片10の表面にランダムに付された標点(ドット)の重心を測定するとともにその測定の不確かさ(Uncertainty of Measurement)を算出するドット重心測定部52と、各ドットの重心の変位量を算出するドット変位量算出部53と、変位場およびひずみ場等を確率的に算出するとともに、算出された物理量および物理場等の不確かさを推定する変位場およびひずみ場算出部54と、推定された不確かさから変位場およびひずみ場の誤差範囲を推定する誤差範囲推定部55、を備える。なお、変位場およびひずみ場の誤差範囲は、例えば、変位場およびひずみ場算出部54において算出された試験片10の表面における任意の点の変位量およびひずみ量の確率分布における信頼の水準が、例えば、90〜95%となるような信頼区間である。
表示制御部42は、ビデオカメラ23が撮影した試験片10の画像を表示部36に表示するとともに、画像データおよび画像処理部50における各種演算結果などの表示を実行する。
記憶部43は、ビデオカメラ23により取得された画像データを記憶するとともに、画像解析部50における各種処理結果などを記憶する。
上述した構成を備える材料試験機に、以下に説明する変位場およびひずみ場の測定方法を適用して、材料試験の準備から材料試験を実行し、変位場およびひずみ場を画像データに基づいて算出するとともに、その算出された値の誤差範囲を推定するまでの動作について説明する。図3は、この発明の材料試験機における変位場およびひずみ場の測定手順を示すフローチャートである。図4および図5は、画像における各画素の固定ノイズのモデル化を説明するグラフである。図6は、試験片10に付されたドットの一例を示す模式図である。また、図7は、ドット重心の確率的測定の概念図であり、図8は、ドット変位量の確率的算出の概念図である。
この材料試験機による変位場およびひずみ場の計測では、ビデオカメラ23によりグレースケールで取得した画像における固定ノイズを、暗度に基づいて確率的にモデル化し、この固定ノイズの確率的モデルを利用して、荷重が与えられたときの試験片の表面に付されたドットの重心の測定値の不確かさを評価する。そして、ドットの重心の測定結果から、ドット変位量、変位場およびひずみ場を、不確かさの伝播則により確率的に算出する。すなわち、ドット重心追跡法による計測を確率的に行うことにより、観測値から計算により導出される各物理量に不確かさを伝播させることにより、測定値の信頼度をユーザーに提示するものである。
まず、材料試験の準備として、試験片10の両端を上つかみ具21および下つかみ具22に把持させ、ビデオカメラ23の配置、視野、データのサンプリング周波数などの設定、光や試験環境などの設定を行う(ステップS1)。試験片10に与える荷重を設定して(ステップS2)試験を実行する前に、ビデオカメラ23からグレースケールで取得される画像の各画素の固定ノイズの確率的モデル化を行う(ステップS3)。
各画素の固定ノイズの確率的モデル化は、次のような手順で行う。まず、白から黒の色の濃さを段階的に異ならせた紙を10枚程度、順次試験片10の表面に張り付け、それぞれ異なる濃さの紙ごとに暗度測定を少なくとも2000回以上繰り返し行い、階調値を取得する。通常、256階調のグレースケールの階調値は、白が255、黒が0の値となるが、固定ノイズの確率的モデル化においては、この階調値を反転させて、白を0、黒を255とする暗度を表す測定値として記憶部43に記憶させる。なお、暗度を表す測定値(暗度値)は、色を表現する要素の一つである輝度値に基づくものである。すなわち、ビデオカメラ23から取得した試験片10のカラー画像を、輝度値のみの画像に変換することによりグレースケール画像を取得し、暗度値を得るようにしている。
そして、各画素の暗度の平均値と標準偏差を計算し、図4のグラフを完成させる。図4に示すように、暗度値が小さいより白く明るい色の方が、より黒く暗い色よりもノイズを含みやすく測定における不確かさが増す傾向にある。図4のグラフは、画素の暗度の平均値を入力、標準偏差を出力とする下記の式(1)に示す関数で表される。
Figure 2015049757
このように、この発明では、各画素の測定暗度を統計処理することにより、図4のグラフに示すように、各画素の固定ノイズの確率的モデルを構築している。これにより、図5に示すように、任意の暗度における確率分布、言い換えると、正規分布の確率密度関数の推定が可能になる。
図4に示すグラフを完成させ、式(1)を得ると、次に、試験片10に荷重を与える材料試験を実行する。この実施形態においては、図6に示すように、中央部に円孔が形成された試験片10の表面に、円孔から放射状に大きさの異なるドットを付している。なお、ドットの付し方はこの実施形態に示すものに限定されるものではなく、同じサイズのドットをランダムに付してもよい。
材料試験の実行中においては、ビデオカメラ23により逐次画像を取得して、試験片10の表面に付された各ドットの重心を算出し、その重心の移動を追跡する。すなわち、画像上の各ドット形状の認識(ステップS4)と、認識されたドット形状におけるドット重心の確率的測定(ステップS5)と、ドット変位量の確率的算出(ステップS6)とを、試験片10に与えられる荷重の変化に応じて繰り返し行う。図6に示すように、試験片10の表面に付されている各ドットは、複数の画素から成り、各ドットを構成する各画素における測定暗度はそれぞれ異なる。このため、式(1)より、ステップk(任意のある時間の画像)でのi番目のドットのj番目の画素の測定暗度に対する推定標準偏差は、以下の式(2)で表される。
Figure 2015049757
なお、i番目のドットの重心位置は、測定を無限回反復したと仮想して、以下の式(3)により平均値として算出される。
Figure 2015049757
正規分布の重み付き合計として与えられるドット重心の平均値の式(3)を用いて、ドット重心の測定不確かさは、解析的に以下の式(4)で導かれる。
Figure 2015049757
式(4)に示すドット重心の測定不確かさは、式(2)の推定標準偏差を、式(3)を利用した不確かさの伝播則に従って伝播させることにより推定できる。すなわち、図7の上段に示すように、ある1つのドット形状を構成する各画素における中心と推定される位置xの標準偏差を、図4に示す暗度と標準偏差との関係を利用して推定する。すなわち、各ドットを構成する各画素で観測された暗度の確率分布を推定する(図5参照)。そして、図7の下段に示すように、各画素の推定標準偏差をx方向およびy方向の2次元において合成することにより、ドット重心の不確かさが推定できる。なお、通常、この実施形態に示すようなドットにおいては、x方向とy方向とで同じ不確かさを持つことが実験的にわかっていることから、以下の式(5)に示すように、x方向の標準偏差とy方向の標準偏差を同じものとして扱うことができる。
Figure 2015049757
次に、i番目のドットのステップk−1でのドット重心とステップkでのドット重心から、ステップk−1とステップkの間の時間でのi番目のドット重心の変位量は、以下の式(6)と表される(図8の上段参照)。
Figure 2015049757
i番目のドットのステップk−1でのドット重心の不確かさとステップkでのドット重心の不確かさは、式(4)により与えられる。式(6)の各項のそれぞれの不確かさは、ステップk−1でのドット重心の不確かさと、ステップkでのドット重心の不確かさを、式(6)を利用して解析的またはシミュレーションにより伝播することにより推定する(図8の下段参照)。ドット重心の変位量の不確かさは式(7)と表される。
Figure 2015049757
なお、通常、この実施形態に示すようなドットにおいては、x方向とy方向とで同じ不確かさを持つことが実験的にわかっていることから、式(8)に示すように、x方向の標準偏差とy方向の標準偏差を同じものとして扱うことができる。
Figure 2015049757
上述した式(6)により、試験片10に付された全てのドットにおけるドット重心の変位量が算出される(ステップS6)。すなわち、変位場およびひずみ場を確率的に算出するとは、式(6)で表される平均値であるドット重心の変位量を既知として、未知の値である任意の点での変位量およびひずみ量の平均値と分散を求めることに相当する。任意の点での変位量は、有限要素法またはメッシュフリー法のいずれを用いても、近傍のドットにおけるドット重心の変位量と形状関数の近似行列から、式(9)で表される。
Figure 2015049757
任意の点でのひずみ量は、式(9)に、さらにラプラス微分演算子行列を加えた下記式(10)により算出される。
Figure 2015049757

式(9)により平均値として算出される任意の点での変位量と、式(10)により平均値として算出される任意の点でのひずみ量の不確かさは、式(7)で示されるドット変位量の不確かさで表現できる。したがって、変位場の不確かさσ は、ドット変位量の不確かさを式(9)により伝播させることで推定でき(ステップS7)、ひずみ場の不確かさσ εは、ドット変位量の不確かさを式(10)により伝播させることで推定できる(ステップS8)。すなわち、変位量およびひずみ量の確率的算出とは、ドット重心の測定から導かれるドット変位量がガウス過程に従っていると仮定して、任意の点での変位量およびひずみ量の不確かさを推定することである。
図9は、変位場およびひずみ場の確率的算出後の表示例である。
式(1)から式(10)を参照して説明した確率的算出手法により得られた変位場およびひずみ場は、試験片10の表面に生じている2次元の変形状態のユーザーによる理解を助けるために、画像処理部50および表示制御部42の作用により、画像化され表示部36に表示される。
図6に示す板の中央部に円孔が形成された試験片10に引張荷重を加えると、円孔近傍にせん断力による変形(負荷軸に対して角度を持った変形)が生じる。このため、図9においては、円孔周辺で観測された試験片10の表面における変位およびひずみの場をせん断ひずみ(Shear Strain)分布として表している。試験片10の表面画像上に挿入した平均値であるせん断ひずみの値を、図9中に所定の数値範囲ごとに異なるハッチングで示すことにより可視化している。加えて、せん断ひずみ分布の不確かさ(Uncertainty)を、図9中に所定の数値ごとに異なる線種で示す等値線図を試験片10の表面のせん断ひずみ分布を表示する画面に重ねて表示している。なお、この図9に等値線図で示す不確かさは、平均値として導出されたせん断ひずみの標準偏差である。
図9に示すように、円孔から右上および左下方向に大きなせん断ひずみが生じていることがわかり、円孔から右上に実線で示された等値線の領域では不確かさの値が小さく、測定精度が高いことが理解される。なお、図9では、便宜上、せん断ひずみの数値範囲を異なるハッチングで示し、不確かさについては異なる線種を用いて表現しているが、多数の色を用いた色分けにより、ユーザーに対してよりわかりやすい態様で情報を提示することができる。
また、この実施形態では、平均値として算出されるそれぞれの測定値の不確かさの表記として、測定誤差範囲を数値によりユーザー側に提示する。変位量やひずみ量などの測定値の母集団としての性質は確率密度関数で表されることから、変位場およびひずみ場の測定誤差範囲は、確率密度関数を積分して1に近い確率(例えば、0.95や0.90)が得られる範囲(信頼の水準)として推定することができる(ステップS9、S10)。
また、この実施形態における変位場およびひずみ場の計測では、表示部36への画像表示や物理量の数値表示と併せて測定値の誤差範囲の数値を、材料試験機のユーザーに提供することができ、測定値の信頼度を向上させることが可能となる。
上述したように、この発明を適用した変位場およびひずみ場の計測では、ビデオカメラ23によりグレースケールで取得した画像における固定ノイズを、暗度に基づいて確率的にモデル化し、この固定ノイズの確率的モデルを利用して、荷重が与えられたときの試験片の表面に付されたドットの重心の測定値の不確かさを評価している。そして、このようなドット重心の測定値の不確かさを、ドット重心の測定結果から、さらに計算によって求められるドット変位量、変位場およびひずみ場に伝播させることにより、これらの物理量を確率的に算出している。したがって、従来の材料試験機によるドット重心追跡法による変位場およびひずみ場の計測では、確定値として測定値を出力しているのに対し、この発明を適用した材料試験機では、一般的には測定量の値の近似値あるいは推定値であると解される測定結果に、不確かさを併せて示すことが可能となる。
10 試験片
11 ねじ棹
13 クロスヘッド
14 ロードセル
16 テーブル
19 支柱
21 上つかみ具
22 下つかみ具
23 ビデオカメラ
30 負荷機構
31 モータ
35 制御部
36 表示部
37 入力部
41 負荷制御部
42 表示制御部
43 記憶部
50 画像処理部
51 固定ノイズモデル作成部
52 ドット重心算出部
53 ドット変位量算出部
54 変位場およびひずみ場算出部
55 誤差範囲推定部

Claims (5)

  1. 試験片に負荷を与える負荷機構と、前記試験片を撮影する撮影手段とを備えた材料試験機を用いて、前記撮影手段により取得された負荷が加えられた前記試験片の画像を解析することにより、前記試験片に生じる変位場およびひずみ場を測定する変位場およびひずみ場の測定方法であって、
    試験実行前に、前記撮像手段により取得された前記試験片の画像データの各画素に含まれるノイズを確率的にモデル化する固定ノイズモデル作成工程と、
    前記試験片の表面に無作為に付された複数の標点を認識して各標点の重心を平均値として算出するとともに、前記固定ノイズモデル作成工程においてモデル化された各画素のノイズに基づいて各標点の重心の不確かさを推定することにより、前記試験片に負荷が与えられているときの各標点の重心を確率的に測定する重心測定工程と、
    前記重心測定工程において算出された重心の平均値と標準偏差を利用して、各標点の重心の変位量を算出するとともに、該重心の変位量の不確かさを推定することにより、各標点の重心の変位量を確率的に算出する重心変位量算出工程と、
    前記重心変位量算出工程において算出された前記重心の変位量を利用して、前記試験片における任意の点での変位量およびひずみ量を算出するとともに、前記重心の変位量の不確かさを利用して、変位場およびひずみ場の不確かさを推定することにより、変位場およびひずみ場を確率的に算出する変位場およびひずみ場算出工程と、
    前記変位場およびひずみ場算出工程における算出結果を利用して、変位場の誤差範囲およびひずみ場の誤差範囲を推定する誤差範囲推定工程と、
    を有する変位場およびひずみ場の測定方法。
  2. 請求項1に記載の変位場およびひずみ場の測定方法において、
    固定ノイズモデル作成工程は、異なる暗度を持つ標本に対して前記撮像手段によりグレースケールで繰り返し取得した各画素の暗度の測定値を統計処理することにより、各画素における暗度の平均値と標準偏差を算出して暗度と標準偏差の相関を導出するとともに、任意の暗度の確率分布を推定する変位場およびひずみ場の測定方法。
  3. 請求項2に記載の変位場およびひずみ場の測定方法において、
    前記重心測定工程は、前記複数の標点を認識して各標点を構成する各画素の暗度と、前記固定ノイズモデル作成工程において推定された任意の暗度における確率分布を利用して、平均値として算出された各標点の重心の不確かさを推定する変位場およびひずみ場の測定方法。
  4. 請求項1に記載の変位場およびひずみ場の測定方法において、
    前記誤差範囲推定工程は、前記変位場およびひずみ場算出工程において、前記標点の重心の変位量がガウス過程に従うと仮定して得られた前記任意の点での変位量およびひずみ量の確率密度関数を積分したときに、所定の確率が得られる積分範囲を測定誤差範囲とする変位場およびひずみ場の測定方法。
  5. 試験片に負荷を与える負荷機構と、前記試験片を撮影する撮影手段とを備え、前記撮影手段により取得された負荷が加えられた前記試験片の画像を解析することにより、前記試験片に生じる変位場およびひずみ場を測定する材料試験機であって、
    試験実行前に前記撮像手段により取得された前記試験片の画像データの各画素に含まれるノイズをモデル化する固定ノイズモデル作成部と、
    前記試験片の表面に無作為に付された複数の標点を認識して該標点の重心を平均値として算出するとともに、前記固定ノイズモデル作成部においてモデル化された各画素のノイズに基づいて該標点の重心の標準偏差を推定することにより、前記試験片に負荷が与えられているときの各標点の重心を確率的に測定する重心測定部と、
    前記重心測定部において算出された重心の平均値と標準偏差を利用して、各標点の重心の変位量を算出するとともに、該標点の重心の変位量の不確かさを推定することにより、各標点の重心の変位量を確率的に算出する重心変位量算出部と、
    前記重心変位量算出部において算出された前記標点重心の変位量と前記標点の重心の変位量の不確かさを利用して、前記試験片の表面の任意の点における変位量およびひずみ量を算出するとともに、変位場およびひずみ場の不確かさを推定することにより変位場およびひずみ場を確率的に算出する変位場およびひずみ場算出部と、
    前記変位場およびひずみ場算出部にける算出結果を利用して、変位場の誤差範囲およびひずみ場の誤差範囲を推定する誤差範囲推定部と、
    を有する画像解析手段を備える材料試験機。
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