本発明は、老視眼において見え方の質(QOV)を良好に保ちつつ低下した視力調節能力を補うことを可能とする老視用コンタクトレンズの関連技術に係り、詳しくは、特定の複数種類の老視用コンタクトレンズを所定の選択基準情報に基づいて選択適用できるように組み合わせてなる老視用コンタクトレンズセットと、かかる複数種類の老視用コンタクトレンズの選択方法に関するものである。
従来から、老視眼に適用されて、低下した視力調節能力を補う老視用コンタクトレンズが知られている。老視用コンタクトレンズは、一つのコンタクトレンズの光学領域内に異なるレンズ度数が設定された複数の領域が設けられている。即ち、老視用コンタクトレンズの光学領域には、近方観察に際して適切なレンズ度数が設定された近用領域と、遠方観察に際して適切なレンズ度数が設定された遠用領域が設けられており、更に必要に応じて中間距離の観察用に調整されたレンズ度数が設定された中間領域や移行領域が設けられたものもある。
そして、これら近用領域や遠用領域が選択的にまたは同時に用いられることにより、必要とされる距離に応じた視力補正が行われるようになっている。例えば、近用領域と遠用領域が選択的に用いられる交代視型の老視用コンタクトレンズとしては、特開昭63−95415号公報(特許文献1)や特開平1−319729号公報(特許文献2),米国特許第4693572号明細書(特許文献3)等に記載のものがあり、視軸の移動によって、レンズ度数の異なる領域が選択的に用いられることで必要な視力を得るようになっている。また、近用領域と遠用領域が同時に用いられる同時視型の老視用コンタクトレンズとしては、特開昭59−208524号公報(特許文献4)や特開平2−217818号公報(特許文献5)等に記載のものがあり、レンズ度数の異なる領域を同時に観察して脳の判断により必要な像を選別して認識することで必要な視力を得るようになっている。
ところで、このような交代視型と同時視型との何れであっても、従前の老視用コンタクトレンズでは、近用領域と遠用領域に対して何れも一定のレンズ度数を設定したバイフォーカルタイプとされていた。これに加えて、近年では、近用領域と遠用領域の少なくとも一方において、無段階で変化するレンズ度数を設定したプログレッシブタイプ(累進多焦点型)の老視用コンタクトレンズも提供されている。
かかるプログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズは、連続的に変化する視認距離に対して光学的に焦点を与え得るものであることから、眼光学系の視力調節能力を無段階に補うことができる旨の商品説明がなされている。それ故、老視用コンタクトレンズの使用者や処方者も、視認距離が変化しても連続して眼のピントが合って、どの距離の物も良く見えることを期待して、プログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズを選択することが多くなってきている。
ところが、本発明者が調査や検討を重ねたところ、プログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズを実際に装用すると、見え方に満足できないケースも存在することが判った。そこで、本発明者は、プログレッシブタイプとバイフォーカルタイプの両方の老視用コンタクトレンズでは見え方が異なることに着目し、それら両タイプをそれぞれ使用者に装用してもらって実際に見え方を比較確認してもらい、使用者にとって見え方が良かった方のタイプを選択して提供することを検討した。
しかし、従来の老視用コンタクトレンズでは、プログレッシブタイプのコンタクトレンズとバイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズとが何れも、各社から多様な材料や表面形状、大きさ(DIA)、レンズ厚さ、レンズ度数範囲等をもって、各別に独立した商品として提供されているに過ぎない。それ故、一方のタイプの老視用コンタクトレンズだけでも選択肢が多いのに、二つのタイプの老視用コンタクトレンズを組み合わせて検討するとなると、何れの商品を組み合わせて採用すべきかを選ぶだけでも面倒であった。
しかも、使用者毎に異なる視力調節能力に対応して、プログレッシブタイプのコンタクトレンズとバイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズを装用して比較確認できるようにするには、両タイプの老視用コンタクトレンズについて全てのレンズ度数を網羅して常時備えておく必要がある。それ故、老視用コンタクトレンズの処方者や販売者は、極めて多数の老視用コンタクトレンズを常時管理してストックすることが必要となり、その作業が面倒で労力やスペースの負担も大きくなることが避けられない。
加えて、使用者毎に、プログレッシブタイプとバイフォーカルタイプの両方の老視用コンタクトレンズを装用してもらって比較検討してもらう必要があることから、使用者と処方者の両者に時間的および肉体的に過度の負担を強いることとなる。
さらに、両タイプの選択が、専門的知識や技術的知識の無い使用者の主観に委ねられることから、たとえ処方者がチェックするとしても、客観的な判断基準が存在せず、複数社から異なる製品として互いに独立して提供されているプログレッシブタイプやバイフォーカルタイプの多様な老視用コンタクトレンズの中から適合するものを選択する行為は、処方者毎の経験や知識の差によって大きなばらつきが避けられない。それ故、使用者と処方者の何れにとっても、選択結果が本当に当該個人に適合しているのか確信をもち難く、信頼感や安心感を得難いという問題もあった。
特開昭63−95415号公報
特開平1−319729号公報
米国特許第4693572号明細書
特開昭59−208524号公報
特開平2−217818号公報
本発明は上述の事情を背景として為されたものであって、その解決課題とするところは、各使用者に対して適合したタイプの老視用コンタクトレンズを効率的に提供することを可能にする老視用コンタクトレンズセットおよび老視用コンタクトレンズの選定方法を提供することにある。
以下、かかる課題を解決するために為された本発明の態様を記載する。なお、以下に記載の各態様において採用されるそれぞれの構成は、可能な限り任意の組み合わせで採用可能である。
本発明の第一の態様は、近用レンズ度数が設定された近用領域と遠用レンズ度数が設定された遠用領域とがそれぞれレンズ度数を一定にした所定大きさの領域として設けられたバイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズと、近用レンズ度数が設定された近用領域と遠用レンズ度数が設定された遠用領域との少なくとも一方が次第に変化するレンズ度数分布の領域として設けられたプログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズとが、それぞれ該近用領域と該遠用領域における設定レンズ度数を異ならせた複数種類ずつ組み合わされることによって構成されており、近方視で想定される視認対象距離と装用眼に残存する調節能力とを含む選択基準情報に基づいて該バイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズと該プログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズが選択されて提供されるものである老視用コンタクトレンズセットを、特徴とする。
本発明は、バイフォーカルタイプとプログレッシブタイプの光学特性や装用時の見え方等について、本発明者が多くの検討と実験を行った結果に基づいて完成されたものであり、特に、近方視で想定される視認対象距離と装用眼に残存する調節能力とを含む選択基準情報に基づいて何れかのタイプが選択されるように、バイフォーカルタイプとプログレッシブタイプの両方を組み合わせて構成することで、予め準備しておく各タイプのレンズ度数範囲を効率的にしぼることが可能となる。それ故、販売店等において、老視用コンタクトレンズセットをストックしておくスペースが少なくて済むと共に、担当者の管理や取り扱いも容易となる。
しかも、本発明に係る老視用コンタクトレンズセットでは、近方視で想定される視認対象距離と装用眼に残存する調節能力とを含む選択基準情報に基づいて、使用者毎に、バイフォーカルタイプとプログレッシブタイプの何れかが選択的に提案され得る。即ち、使用者毎の条件を考慮して、良好な見え方が提供されるであろうタイプの老視用コンタクトレンズが、予め提供された客観的な情報に基づいて選択され得るのであり、それ故、使用者の主観的な判断や処方者の経験差等に起因するばらつきが効果的に防止されて、優れた安心感と信頼性をもって、使用者に適合したタイプの老視用コンタクトレンズを効率的に提案することが可能になる。
また、本発明に係る老視用コンタクトレンズセットでは、バイフォーカルタイプとプログレッシブタイプが組み合わされたセットとして市場に提供されて処方者や販売者に提供されることから、材質やベースカーブ等のレンズ形状、DIAや厚さの寸法などを予め同一又は類似のものにそろえて両タイプの老視用コンタクトレンズを提供することも可能になる。その結果、仮に処方に際して両タイプの老視用コンタクトレンズを比較するに際しても、従来のように各別に市場に提供された多種多様な商品群のなかから選択する場合に比して、効率的に比較対象を特定することができる。また、使用者の視力調節能力の変化等に対応して、例えばプログレッシブタイプからバイフォーカルタイプに変更する際にも、上述の如き予め組み合わされるセットとして両タイプが統一性をもって適切に設計され得る本発明に係る老視用コンタクトレンズセットによれば、処方者のレンズ選択作業が容易とされるだけでなく、使用者における装用感等の違和感を軽減することも可能となる。
本発明の第二の態様は、前記第一の態様に係る老視用コンタクトレンズセットであって、近方視で想定される視認対象距離と装用眼に残存する調節能力とに基づいて、前記バイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズと前記プログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズとの何れかを選択するための前記選択基準情報を提供する選択基準情報体を含んで構成されたものである。
本態様の老視用コンタクトレンズセットでは、バイフォーカルタイプとプログレッシブタイプとの選択基準としての情報を提供する選択基準情報体を併せて提供することで、処方者の知識や経験を一層効果的に補って効率的な処方の実現が可能となる。なお、選択基準情報体は、例えば数式やグラフ、表などを用いて選択基準情報を表した冊子やパンフレットのほか、電子情報を記憶した記憶素子や配信信号などであっても良い。
すなわち、前述のように本発明者は、多くの実験や検討に基づいて、バイフォーカルタイプとプログレッシブタイプとを選択可能にすることで各使用者に適する老視用コンタクトレンズを提供し得るとの知見を得ると共に、近方視で想定される視認対象距離と装用眼に残存する調節能力とに基づく情報を選択基準とすることで両タイプを効率的に選択することが可能になるとの知見を得た。このような選択基準は、後述の実施形態に記載する客観的な光学特性データからも理論的に裏付けることのできる、タイプ選択のための有意な情報であるが、一方、近方視で想定される視認対象距離と装用眼に残存する調節能力とを如何に評価して具体的な選択基準とするかは、限定されるものでない。それ故、近方視で想定される視認対象距離と装用眼に残存する調節能力とに基づいて処方者が独自に選定した閾値等を選択情報として採用することも可能であるが、本態様に従って、予め特定された所定の選択基準を、老視用コンタクトレンズセットの構成要素のひとつとして提供することにより、処方者の能力や知識や経験などに左右されずに高い信頼性をもって使用者に適切なタイプの老視用コンタクトレンズを一層容易に選択することが可能になり、処方者の労力軽減と使用者の安心感の更なる向上にもつながる。
以下に記載する本発明の第三および第四の態様は、何れも、前記第一又は第二の態様に係る老視用コンタクトレンズセットにおいて好適に採用され得る、近方視で想定される視認対象距離と装用眼に残存する調節能力とに基づく選択基準情報を、より具体的に例示するものである。
すなわち、本発明の第三の態様は、前記選択基準情報が、近方視で想定される視認対象距離と装用眼に残存する調節能力とに基づいて求められる、遠方視に必要とされるレンズ度数で補正した眼光学系において近方視に必要とされる付加度数について、前記バイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズと前記プログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズとを選択する閾値を示し、該閾値に対して近方視に必要とされる該付加度数が小さい場合に該プログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズが選択される一方、該閾値に対して近方視に必要とされる該付加度数が大きい場合に該バイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズが選択されるようにした情報とされる。
なお、本態様における「閾値」は、両タイプのコンタクトレンズの選択区分としての境界値を示す一つの閾値であっても良い。または、バイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズの選択用の第一閾値と、プログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズの選択用の第二閾値の二つの閾値を設定して、それら第一閾値と第二閾値との間では、使用者の好みや各種条件を考慮して何れのタイプを任意選択可能とすることも可能である。
本発明の第四の態様は、前記選択基準情報が、遠方視に必要とされるレンズ度数で補正した眼光学系において、近方視で想定される視認対象距離を明視可能とするのに必要な付加度数を用い、該付加度数が必要ない場合には前記プログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズが選択されるようにした情報とされる。
本態様では、付加度数を指標とすることで、両タイプの老視用コンタクトレンズの選択基準が一層簡単に利用し易く実現され得る。なお、かかる付加度数が必要とされる場合には、バイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズの選択が好適である。しかし、付加度数が必要とされる場合にも、付加度数が1D(ディオプター)以下や0.5D以下等の小さい場合には、プログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズを適用しても良いし、そのような付加度数領域では、使用者の好みや使用条件等を考慮して個別に選択対応することも可能である。
さらに、本発明に係る老視用コンタクトレンズセットでは、選択基準情報として以下の第五および第六の態様に従う構成を採用することも可能であり、それによって、両タイプの老視用コンタクトレンズの選択基準が一層簡単とされて本発明の活用が更に効率的で容易となる。
すなわち、本発明の第五の態様は、前記第一〜四の何れかの態様に係る老視用コンタクトレンズセットであって、前記選択基準情報において、前記遠用レンズ度数に対して前記近用レンズ度数に加えられている付加度数が少なくとも2.0D未満のものは前記プログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズが選択されるようになっているものである。
また、本発明の第六の態様は、前記第一〜五の何れかの態様に係る老視用コンタクトレンズセットであって、前記選択基準情報において、前記遠用レンズ度数に対して前記近用レンズ度数に加えられている付加度数が少なくとも2.0D以上のものは前記バイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズが選択されるようになっているものである。
さらに、本発明の第七の態様は、前記第一〜六の何れかの態様に係る老視用コンタクトレンズにおいて、前記バイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズと前記プログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズとの何れもが、ソフトコンタクトレンズとハードコンタクトレンズと2種材コンタクトレンズのうちの何れか同じレンズ種類によって構成されているものである。
本態様に従えば、老視用コンタクトレンズセットとして互いに組み合わされて用いられるバイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズと前記プログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズとが、何れも、同じレンズ種類とされることにより、何れのタイプを選択して装用する場合でも、大きく異ならない装用感を得ることができる。それ故、例えば近視用コンタクトレンズとしてソフトコンタクトレンズを利用してきた使用者が、プログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズを利用するようになり、更に視力調節能力の低下に伴ってバイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズを利用するようになる場合を想定した場合にも、従前から慣れているソフトコンタクトレンズの種類を使い続けることが可能となって、大きな違和感なく移行することが可能になる。このことは、ハードコンタクトレンズや2種材コンタクトレンズの何れにおいても同様である。
なお、何れの種類のコンタクトレンズも任意の各種の材質を採用可能であり、例えばソフトコンタクトレンズとしてはHEMA(ハイドロキシエチルメタクリレート)やN−VP(N−ビニルピロリドン)、DMAA(ジメチルアクリルアミド)、アミノ酸共重合体等の生体親和性材料等の材質が採用され得ると共に、シリコーンを含めたシリコーンハイドロゲル素材のソフトコンタクトレンズが採用可能である。一方、ハードコンタクトレンズとしてはMMA(メチルメタクリレート)やSMA(シロキサニルアルキルメタクリレート)等の材質が採用され得、更に、2種材コンタクトレンズとしては、例えば光学領域をハード材料とし且つ外周部分をソフト材料とした複合材質が採用され得る。
本発明の第八の態様は、前記第七の態様に係る老視用コンタクトレンズにおいて、前記バイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズと前記プログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズとの何れもが同じ材質とされているものである。
本態様の老視用コンタクトレンズでは、レンズの種類に加えて材質までも同じにされて両タイプを組み合わせた老視用コンタクトレンズセットが提供されることから、例えばプログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズの使用者が視力調節能力の低下に伴ってバイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズを利用するようになった場合でも、大きな違和感なく一層良好に移行することが可能になる。
本発明の第九の態様は、前記第一〜八の何れかの態様に係る老視用コンタクトレンズセットにおいて、前記バイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズと前記プログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズの何れもが、同時視タイプと交代視タイプとの何れか同じタイプによって構成されているものである。
老視用コンタクトレンズの種類として、脳による像の選別を利用した同時視型と視軸の移動を利用した交代視型とがあることは前述のとおりであるが、両者はそれぞれに慣れが必要とされる。本態様の老視用コンタクトレンズでは、同時視型と交代視型の何れか同じ型からなるバイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズと前記プログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズとを組み合わせた老視用コンタクトレンズセットが提供されることから、例えばプログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズの使用者が視力調節能力の低下に伴ってバイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズを利用するようになった場合でも、視覚操作方法を違えることなく柔和な移行が可能になる。
なお、本発明に係る老視用コンタクトレンズでは、光学領域にレンズ度数を設定するためのレンズ構造として、屈折レンズ構造と回折レンズ構造との何れを採用することも可能である。特にレンズ度数を一定にした所定大きさの領域として設けられた近用領域又は遠用領域においては、目的とするレンズ度数を与える回折格子の設計も容易となって回折レンズ構造を採用し易い。そして、回折レンズ構造を採用することにより、屈折レンズ構造に比して、目的とする光学特性を薄肉のレンズ厚さで実現することのできる利点がある。
本発明の第十の態様は、前記第一〜九の何れかの態様に係る老視用コンタクトレンズセットにおいて、前記バイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズと前記プログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズとの少なくとも一方において、前記近用レンズ度数と前記遠用レンズ度数との間の中間用レンズ度数が設定された中間用領域が設けられているものである。
本態様に従う構造とされた老視用コンタクトレンズセットでは、近方と遠方との中間距離にある領域の見え方を、中間用領域の光学特性によって向上させることができる。なお、かかる中間用領域は、例えば近用レンズ度数と遠用レンズ度数との何れとも異なる一定の大きさの中間用レンズ度数をもって設定することも可能であるが、近用レンズ度数と遠用レンズ度数の少なくとも一方から次第に連続的に又は段階的に変化する中間用レンズ度数をもって設定することも可能である。特に、プログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズでは、次第に変化するレンズ度数分布が設定された近用領域又は遠用領域から連続的に変化するレンズ度数をもって、かかる近用領域又は遠用領域と一体的な中間用領域を設けることも可能である。
さらに、本発明に係る老視用コンタクトレンズセットにおけるバイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズおよびプログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズとしては、以下の第十一および第十二の態様に従う老視用コンタクトレンズも採用可能である。即ち、本発明の第十一の態様は、前記第一〜十の何れかの態様に係る老視用コンタクトレンズセットにおいて、前記バイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズと前記プログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズとの少なくとも一方がディセンターレンズとされているものである。
また、本発明の第十二の態様は、前記第一〜十一の何れかの態様に係る老視用コンタクトレンズセットにおいて、前記バイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズと前記プログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズとの少なくとも一方がトーリックレンズとされているものである。
老視用コンタクトレンズの選択方法に関する本発明の特徴とするところは、近方視に要求される視認対象距離と装用眼に残存する調節能力とによる選択基準情報に基づいて、近用レンズ度数が設定された近用領域と遠用レンズ度数が設定された遠用領域とがそれぞれレンズ度数を一定にした所定大きさの領域として設けられたバイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズと、近用レンズ度数が設定された近用領域と遠用レンズ度数が設定された遠用領域との少なくとも一方が次第に変化するレンズ度数分布の領域として設けられたプログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズとの、何れかを適合するものとして選択する老視用コンタクトレンズの選択方法にある。
このような本発明方法に従えば、使用者毎に適合して良好な見え方を実現し得る老視用コンタクトレンズとして、バイフォーカルタイプとプログレッシブタイプの何れかを、予め提供される特定の選択基準情報に基づいて、容易に且つ効率的に選択することが可能になる。それ故、使用者の主観的な判断や処方者の経験差等に起因するばらつきが効果的に防止されて、優れた安心感と信頼性をもって、使用者に適合したタイプの老視用コンタクトレンズを提案することが可能になる。
ところで、本発明方法では、前記遠用レンズ度数で補正した状態において、近方視で想定される視認対象距離が明視できる場合には前記プログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズを選択する一方、近方視で想定される視認対象距離が明視困難な場合には前記バイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズを選択することが、効果的である。
このような具体的な選択方法に従えば、バイフォーカルタイプとプログレッシブタイプとの選択を、各使用者に応じて一層効率的且つ効果的に行うことが可能となる。
本発明の構成に従う老視用コンタクトレンズセットおよび老視用コンタクトレンズの選択方法では、使用者毎に取得された客観的な選択基準情報に基づいて適切な老視用コンタクトレンズの候補を予め絞り込むことが出来る。それ故、使用者や処方者等が最適な老視用コンタクトレンズの選択に費やす手間と時間を大幅に抑えることが可能になる。
本発明の第一の実施形態としての老視用コンタクトレンズセットを示す説明図。
本実施形態の老視用コンタクトレンズセットを構成する老視用コンタクトレンズの一例を示す正面図であり、(a)がバイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズ、(b)がプログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズを示す。
図2(a)に示されたバイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズにおける光学特性の設定態様であるレンズ度数分布を表すグラフ。
図2(b)に示されたプログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズにおける光学特性の設定態様であるレンズ度数分布を表すグラフ。
図3に示されたレンズ度数分布を有するバイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズにおけるMTFを表すグラフ。
図4に示されたレンズ度数分布を有するプログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズにおけるMTFを表すグラフ。
比較例としての単焦点タイプの近視用コンタクトレンズにおけるレンズ度数分布を表すグラフ。
図7に示されたレンズ度数分布を有する比較例としての近視用コンタクトレンズにおけるMTFを表すグラフ。
図2(a)に示されたバイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズにおける第二の実施形態としての光学特性の設定態様であるレンズ度数分布を表すグラフ。
図2(b)に示されたプログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズにおける第二の実施形態としての光学特性の設定態様であるレンズ度数分布を表すグラフ。
図9に示されたレンズ度数分布を有するバイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズにおけるMTFを表すグラフ。
図10に示されたレンズ度数分布を有するプログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズにおけるMTFを表すグラフ。
本発明に従うバイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズとして採用され得る別実施形態としてのレンズ度数分布を表すグラフ。
本発明に従うプログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズとして採用され得る別実施形態としてのレンズ度数分布を表すグラフ。
本発明に従うプログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズとして採用され得る更に別実施形態としてのレンズ度数分布を表すグラフ。
本発明に従うプログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズとして採用され得る更に別実施形態としてのレンズ度数分布を表すグラフ。
(a)はバイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズの度数分布の一例を表すグラフであり、(b)は(a)の要部拡大図。
プログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズの度数分布の一例を表すグラフ。
以下、本発明を更に具体的に明らかにするために、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ、詳細に説明する。
先ず、図1には本発明の第一の実施形態としての老視用コンタクトレンズセット10が示されている。
この老視用コンタクトレンズセット10には、バイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズ12とプログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズ14とを、各レンズ12,14に設定されるレンズ度数を異ならせて各複数種類ずつ組み合わせたものが含まれている。また、これら各複数種類の光学特性を有するものが組み合わされたバイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズ12とプログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズ14とのなかから、使用者毎に適切な種類の老視用コンタクトレンズを選択するための選択基準情報を提供する選択基準情報体15を、更に組み合わせて、本実施形態の老視用コンタクトレンズセット10が構成されている。
なお、バイフォーカルタイプおよびプログレッシブタイプの各コンタクトレンズ12,14の具体的な材質や構造等は、従来から公知のコンタクトレンズに従って設定され得る。すなわち、何れのタイプのコンタクトレンズ12,14も、基本的には、凹形の略球冠形状であるレンズ前面と凸形の略球冠形状であるレンズ後面がレンズ外周端のエッジ部16において滑らかに接続された外面形状とされている。そして、各コンタクトレンズ12,14の中央部分には、所定の径寸法において、視力矯正用の光学特性を有する光学部18が設けられている一方、光学部18の外周端からエッジ部16の内周端の間には光学特性を有しない円環形状の周辺部20が設けられている。
また、本発明の老視用コンタクトレンズ12,14としては、ソフトタイプとハードタイプの何れも採用可能である。ここにおいて、何れのタイプのコンタクトレンズも任意の各種の材質を採用可能であり、ソフトコンタクトレンズとしては、例えばHEMA(ハイドロキシエチルメタクリレート)やN−VP(N−ビニルピロリドン)、DMAA(ジメチルアクリルアミド)、アミノ酸共重合体等の生体親和性材料等の材質が採用され得る他、シリコーンを含めたシリコーンハイドロゲル素材のソフトコンタクトレンズも採用可能である。一方、ハードコンタクトレンズとしては、例えばMMA(メチルメタクリレート)やSMA(シロキサニルアルキルメタクリレート)等の材質が採用され得る。更に、老視用コンタクトレンズ12,14は、ソフトタイプとハードタイプの特長を併せ持つ2種材コンタクトレンズも採用可能であり、例えば光学部18をハードタイプの材質から形成すると共に周辺部20をソフトタイプの材質から形成した複合材質等も採用され得る。
尤も、セットとして組み合わされて一つの老視用コンタクトレンズセット10を構成する、各複数種類のレンズ度数が設定されたバイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズ12およびプログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズ14は、何れも、ソフトタイプレンズとハードタイプレンズと2種材コンタクトレンズとの何れかに統一されることが好ましい。本実施形態の老視用コンタクトレンズセット10では、それを構成する各複数種類のバイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズ12およびプログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズ14が、何れもソフトタイプとされており、その材質も実質的に同じとされている。
さらに、本実施形態では、バイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズ12およびプログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズ14として、同時視タイプのものが採用されている。具体的には、図2(a),(b)に示されているように、光学部18の中央部分に略円形状の第一の矯正領域22が形成されていると共に、光学部18の外周部分に略円環形状の第二の矯正領域24が形成されている。そして、老視用コンタクトレンズ12(14)の装用状態下で、互いに同心的に形成されて異なるレンズ度数が設定された第一の矯正領域22と第二の矯正領域24を透過した光線が同時に網膜に入射されて、使用者の脳による選択作用で近方または遠方に位置する明瞭な像を視認することができるようになっている。
特に本実施形態では、バイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズ12およびプログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズ14の何れもが、第一の矯正領域22が近用領域とされていると共に、第二の矯正領域24が遠用領域とされている。即ち、バイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズ12では、近方視に必要とされるレンズ度数が一定のディオプター値をもって第一の矯正領域22に設定されている一方、遠方視に必要とされるレンズ度数が一定のディオプター値をもって第二の矯正領域24に設定されている。また、プログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズ14では、近方視に必要とされるレンズ度数が光学部中心から径方向外方に向かって次第に変化するディオプター値をもって第一の矯正領域22に設定されている一方、遠方視に必要とされるレンズ度数が一定のディオプター値をもって第二の矯正領域22に設定されている。
例えば、バイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズ12の光学部18に設定されるレンズ度数の具体例が図3に示されている。この具体例は、遠方視に必要とされるレンズ度数が−4.0Dとされた場合において、近方視に必要な付加度数を+0.50D,+1.5D,+2.5Dとした3種類の光学特性を例示するものである。即ち、遠用領域である第二の矯正領域24の設定レンズ度数は、何れも−4.0Dで一定とされている。一方、近用領域である第一の矯正領域22の設定レンズ度数が、付加度数の値に応じて、−3.5D,−2.5D,−1.5Dと異なる値をもった一定のレンズ度数に設定されている。
一方、プログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズ14の光学部18に設定されるレンズ度数の具体例が図4に示されている。この具体例は、図3と同様に、遠方視に必要とされるレンズ度数が−4.0Dとされた場合において、近方視に必要な付加度数を+0.50D,+1.5D,+2.5Dとした3種類の光学特性を例示するものである。即ち、遠用領域である第二の矯正領域24の設定レンズ度数は、何れも−4.0Dで一定とされている。一方、近用領域である第一の矯正領域22の設定レンズ度数が、付加度数の値に応じて、−3.5D,−2.5D,−1.5Dと異なる値をもった光学中心から径方向外方に向かって次第に付加度数が小さく変化している。特に図4に示された具体例では、第二の矯正領域24との接続点となる第一の矯正領域22の外周縁部において、第一の矯正領域22の設定レンズ度数が第二の矯正領域24の設定レンズ度数である−4.0Dとなるまで変化せしめられている。
また、バイフォーカルタイプとプログレッシブタイプの何れの老視用コンタクトレンズ12,14においても、近用領域である第一の矯正領域22と遠用領域である第二の矯正領域24との境界部分に、近用レンズ度数と遠用レンズ度数との間の中間用レンズ度数が設定された中間用領域としての移行領域26が設けられていても良い。具体的には、バイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズ12では、例えば図2(a)および図3に示されているように、第一の矯正領域22と第二の矯正領域24の間に、近用レンズ度数と遠用レンズ度数とを相互に連続的に繋ぐ径方向のレンズ度数変化を示す移行領域26が設けられ得る。また、プログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズ14では、例えば図4に示されているように、設計上は第一の矯正領域22から連続的に繋がって変化するレンズ度数を与えられて、第一の矯正領域22の一部のように設計された、遠用レンズ度数に極めて近いレンズ度数が設定された第一の矯正領域22の外周縁部の所定領域を、近用レンズ度数と遠用レンズ度数とを相互に連続的に繋ぐ径方向のレンズ度数変化を示す移行領域26として把握することができる。なお、プログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズ14の移行領域26は、例えば、付加度数の1/5以下の設定領域として把握することができる。
そして、そして、このような移行領域26を設けることにより、近方視の設定レンズ度数と遠方視の設定レンズ度数との境界領域においてレンズ度数が急激に変化することに起因する像のジャンプやボケ等といった見え方の低下を軽減する効果を期待することができる。
尤も、かかる移行領域26は、近方視と遠方視の何れに対しても光学的には殆ど機能しないレンズ度数領域としても考えることができるから、本発明の老視用コンタクトレンズ12,14において必須でない。即ち、バイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズ12では、例えば図3に示される付加度数+2.5Dのレンズにおいて、レンズ度数が−4.0Dに設定された第二の矯正領域24の内周縁とレンズ度数が−1.5Dに設定された第一の矯正領域22の外周縁とが、レンズ幾何中心からの半径距離1.0mmの周上で直接に接続されて、かかる周上に2.5Dの段差状の度数変化点が設定されていても良い。また、プログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズ14では、例えば図4に示される付加度数+2.5Dのレンズにおいて、レンズ度数が−4.0Dに設定された第二の矯正領域24の内周縁とレンズ度数が−1.5Dから漸次に変化して−3.5Dとされた第一の矯正領域22の外周縁とが、レンズ幾何中心からの半径距離およそ1.3mmの周上で直接に接続されて、かかる周上に0.5Dの段差状の度数変化点が設定されていても良い。
なお、図3,図4は、本実施形態の老視用コンタクトレンズセット10を構成するバイフォーカルタイプおよびプログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズ12,14の一部を例示するに過ぎない。本実施形態の老視用コンタクトレンズセット10では、バイフォーカルタイプおよびプログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズ12,14の何れにおいても、第二の矯正領域24のレンズ度数として例えば0.5D毎に異なる多段階に設定されたものが準備され、更に、それら各段階の第二の矯正領域24のレンズ度数に対して、第一の矯正領域22の付加度数として例えば0.5D毎に異なる多段階に設定されたものが組み合わされて準備されることとなる。
具体的に例示すると、本実施形態の老視用コンタクトレンズセット10におけるバイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズ12としては、例えば、付加度数(ADD)を+4.50,+4.00・・・と順次に複数段階に異ならせたものを、使用者の遠方視に必要とされる矯正用のBASEレンズ度数(一般に近視矯正用レンズ度数)の各設定度数毎に準備したものが採用される。一方、本実施形態の老視用コンタクトレンズセット10におけるプログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズ14としては、例えば、付加度数を+0.50,+1.00・・・と順次に複数段階に異ならせたものを、使用者の遠方視に必要とされる矯正用のBASEレンズ度数の各設定度数毎に準備したものが採用される。
ここにおいて、後述する選択基準情報に基づく両タイプの選択使用条件を考慮して、準備する付加度数の上限値は、バイフォーカルタイプに比してプログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズ14の方を小さくする一方、準備する付加度数の下限値は、プログレッシブタイプに比してバイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズ12の方を大きくすることができる。これにより、BASEレンズ度数と付加度数との全ての組み合わせにおいて、バイフォーカルタイプとプログレッシブタイプとの両方の老視用コンタクトレンズ12,14をそれぞれ準備する場合に比して、老視用コンタクトレンズセット10を構成するのに必要とされる老視用コンタクトレンズ12,14の総数を効率的に抑えることが可能になる。
さらに、バイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズ12およびプログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズ14におけるそれぞれの第一の矯正領域22の外径寸法φCb,φCpは、0.5mm≦φCb,φCp≦5.0mmの範囲内に設定されることが好ましく、より好ましくは1.0mm≦φCb,φCp≦2.0mmの範囲内に設定される。また、老視用コンタクトレンズ12,14におけるそれぞれの第二の矯正領域24の外径寸法φDb,φDpは、8.0mm≦φDb,φDpとされることが好ましく、より好ましくは7.0mm≦φDb,Dpに設定される。なお、プログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズ14において、第一の矯正領域22および第二の矯正領域24におけるレンズ度数の径方向変化率は、1(D/mm)以下であることが好ましい。このように、径方向におけるレンズ度数変化率を小さく設定することにより、急激な見え方の変化が抑制される。
更にまた、移行領域26を設ける場合には、その径方向幅寸法Tが、0mm<T≦1.5mmの範囲内に設定されることが好ましく、より好ましくは0.3mm≦T≦0.9mmの範囲内に設定される。そして、移行領域26の径方向幅寸法Tの分だけ、第一の矯正領域22の外径寸法の減少や第二の矯正領域24の内径寸法の拡大が設定されることとなる。なお、移行領域26でつながれる第一の矯正領域22と第二の矯正領域24とのレンズ度数差(付加度数)は、特に限定されるものでなく、図3,図4に例示の0.5Dより小さくても良いし、2.5Dより大きくても良い。また、移行領域に設定されるレンズ度数の径方向変化率(D/mm)は限定されるものでない。尤も、第一の矯正領域22と第二の矯正領域24とのレンズ度数差の大きさに応じて、移行領域26の径方向幅寸法を異ならせても良い。
次に、上述の如き近用及び遠用のレンズ度数領域を備えたバイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズ12およびプログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズ14について、眼光学系の網膜上に与える光学像を検討するために、それぞれの変調伝達関数(MTF)を算出したものの具体例を示す。ここにおいて、第一の矯正領域22および第二の矯正領域24に設定される径寸法やレンズ度数により変調伝達関数も変化することから、以下に示される変調伝達関数は単なる例示であり、本発明において採用されるバイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズ12およびプログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズ14を何等限定するものではない。
なお、算出用の老視用コンタクトレンズは、図2(a),(b)の如き形状を有し且つ図3,4に示す光学特性を備えたバイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズ12およびプログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズ14であって、何れも、株式会社メニコンによる「2WEEKメニコン プレミオ」(商品名)の材料を用いて、ベースカーブ(B.C.):8.6mm、レンズ外径(DIA.):14.2mm、中心厚(C.T.):0.08mmの規格で想定したものである。かかる老視用コンタクトレンズにおける変調伝達関数の算出結果を図5および図6に示す。
図5および図6に示された変調伝達関数は、スルーフォーカス即ち焦点位置を変えた場合における像のコントラストの相対変化を示すものであり、横軸が焦点位置から算出されるレンズ度数(D)とされている一方、縦軸が相対コントラスト強度、即ち解像度とされている。なお、図5,6のそれぞれにおいて、実線が付加度数+0.50D、破線が付加度数+1.50D、一点鎖線が付加度数+2.50Dの各レンズの算出値である。かかる変調伝達関数の算出に際しては、屈折率として想定されたコンタクトレンズの材質から求められる屈折率(1.423)を採用すると共に、光の波長を546nm(e線)、空間周波数を視角1度あたり30サイクル(30cyc/deg)とした。なお、変調伝達関数の具体的な算出は、例えばシンクレア・オプティクス社(Sinclair Optics,Inc.)のオシロ・シックス(OSLO SIX)や、フォーカス・ソフトウェア社(Focus Software,Inc.)のゼマックス(ZEMAX)等を用いて行うことができる。
上記図5に示された算出結果から、バイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズ12では、何れの付加度数レンズにおいても、変調伝達関数に主なピーク即ち高解像度を示す顕著なピークが2カ所において明確に認められる。また、これらのピークにおけるレンズ度数は、バイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズ12に設定された近用レンズ度数および遠用レンズ度数となっている。即ち、変調伝達関数のピークの1つが遠用レンズ度数である略−4.00Dの位置に現れていると共に、もう1つの高解像度を示すピークが各レンズの付加度数に応じて−3.50D,−2.50D,−1.50Dの位置に現れている。
一方、プログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズ14では、上記図6に示された算出結果から、変調伝達関数における顕著なピークが、そのレンズ度数だけでなく数や大きさまでも、付加度数の設定値に応じて異なっていることが認められる。具体的には、付加度数が+0.50Dと小さい場合には、遠用レンズ度数(−4.00D)と合わさるようにして実質的に一つの大きなピークが認められ、且つ当該ピークの裾部の度数範囲が大きく広がって焦点深度も大きくなっている。そして、付加度数が+1.50D,+2.50Dと大きくなるに従って、最大ピーク値が小さくなると共に、略同程度の複数のピークが認められるようになり、遠用レンズ度数(−4.00D)におけるピーク値も小さくなっている。
これら図5および図6に示されている変調伝達関数の算出結果から、バイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズ12とプログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズ14について、見え方の相違を把握することができる。なお、図5,6は、各付加度数のレンズの算出結果を、絶対値レベルを合わせて表示したものであり、参考のために所定レベルの評価基準線28を表中に示しておく。
すなわち、バイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズ12では、図5に示された算出結果において、遠用レンズ度数と近用レンズ度数とに各対応する二つの明確なピークが認められることから、遠用点と近用点でそれぞれ高いコントラストが得られる。これら二つのピークが、何れも評価基準線28に満たない多くの小ピークに比して評価基準線28を充分に超えた略同等な大きさで認められる。
それ故、例えば付加度数が+2.50Dのように遠用レンズ度数と近用レンズ度数の差が大きい場合には、遠方または近方の一方の視認状態で、当該一方が明瞭にフォーカスされると共に他方が大きくデフォーカスされる。その結果、脳が一方のフォーカス像を容易に選択し得て明瞭な見え方を安定して得ることができると考えられる。
ところが、例えば付加度数が+0.50Dのように遠用レンズ度数と近用レンズ度数の差が小さい場合には、遠方および近方の一方の視認状態で、当該一方のフォーカス像に対する他方の像のデフォーカスの程度が小さくなり、両者の明瞭差が小さくなる。そのために、脳が一方のフォーカス像だけを選択し難くなり、デフォーカス像のダブりが認識されることにより見え方の質が低下してしまうおそれがあると考えられる。
一方、プログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズ14では、付加度数が+0.50Dのように遠用レンズ度数と近用レンズ度数の差が小さい場合には、実質的に一つの大きなピークにより、単焦点に近い解像度が広い焦点深度で得られることとなる。それ故、遠用点から近用点に至る広い視認領域において、目的とする像をダブりのない一つのフォーカス像として認識することが可能になり、良好な見え方を安定して得ることができると考えられる。
ところが、例えば付加度数が+2.50Dのように遠用レンズ度数と近用レンズ度数の差が大きい場合には、複数発生するピークが何れも小さくなって全体的に解像度が低くなってしまう。そのために、何れの距離の点においても明瞭な像を視認することが困難となり、見え方の質が低下してしまうおそれがある。
なお、図5,6に示された変調伝達関数の把握を容易とするために、比較例として、図7に示されているように光学部に一定(−4.0D)のレンズ度数が設定された単焦点タイプのコンタクトレンズにおける変調伝達関数の測定結果を図8に示す。因みに、図5,6中に示した評価基準線28は、かかる比較例の単焦点レンズの変調伝達関数の最大値に対して25(%)のラインとして、実用上で明瞭視可能なレベルを表したものである。
而して、上述の如きバイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズ12とプログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズ14との各複数種類ずつの組み合わせからなるレンズセットを含んで構成された本実施形態の老視用コンタクトレンズセット10では、図3,4に示される如き光学特性だけでなく、図5,6に示される如き変調伝達関数についても、両タイプにおける特徴や相違点などを考慮したうえで、選択基準情報体15によって提供される選択基準に基づいて使用者毎に何れかのタイプが選択されて適用されることとなる。
ここにおいて、両タイプの何れの老視用コンタクトレンズ12,14を選択するかに際して考慮されるべき選択基準情報は、近方視で想定される視認対象距離の情報と老視用コンタクトレンズ使用者の装用眼に残存する調節能力の情報を含む。
前者の近方視で想定される視認対象距離の情報は、例えば、老視用コンタクトレンズ使用者の近方作業時における装用眼から視認対象までの距離であり、老視用コンタクトレンズを装用することにより使用者が略ぼやけることなく視認可能となることを希望する近方の距離である。視認対象距離の具体的な数値は何等限定されるものではない。例えば、読書等に際しては一般的な視認対象距離はおよそ33cmとされているが、パソコンの入力等の作業に際しては視認対象距離は更に大きな値が選択され得る一方、精密な作業に際しては更に小さな値が選択され得る。このように、近方視で想定される視認対象距離は、主に使用者の生活環境などに合わせて、使用者毎に設定される情報である。
また、後者の老視用コンタクトレンズ使用者の装用眼に残存する調節能力の情報は、老視用コンタクトレンズ装用時に残存する調節能力、即ち使用者の眼光学系が有する近方の物体に焦点を合わせる能力(D)を表している。一般的に人眼の調節能力は加齢とともに減退するため、遠方視の能力を満たす眼光学系において近方の物体を明瞭に視認することが困難となり、これが老視の症状となって現れる。この老視眼に残存する調節能力の測定方法は、例えば、以下の通りである。先ず、所定距離の遠方を視認可能とするためのレンズ度数を有するコンタクトレンズや眼鏡を対象眼に装用して、遠方に対して焦点を合わせ得るようにする。なお、目的とする遠方が視認可能であることの確認には、例えば、ランドルト環等を用いた視力表等が採用され得る。その後、かかる遠方視に必要とされるレンズ度数で補正した眼光学系において、例えば、新聞等の目視対象をゆっくりと眼前に近づける。そして、紙面がぼやける等して文字の認識が困難となった地点から対象眼までの距離を測定する。或いは、新聞等を眼前でぼやける状態で保持して、ここからゆっくりと遠ざけて、文字の認識が可能となった地点から対象眼までの距離を測定しても良い。または、これらの測定を順次行ったり、同一の測定を複数回繰り返したりして、平均値を算出しても良い。或いは、オートレフメーターやオートレフケラトメーターなどを用いて、老視眼の残存調節能力を光学的に自動測定することも可能である。このような測定により求められる距離が、残存調節能力により調節され得る焦点距離の近点であり、100をかかる近点距離F(cm)で除した値が残存調節能力(D)とされる。
ところで、眼に残存する調節能力は、老視の進行に伴って低下することとなる。また、老視は、一般に目標とする近点を明瞭に視認できない成熟老視の状態をいうと理解されていることも多いが、目標とする近点を明瞭に視認できる残存調節能力が存在している状態でも、補正すべき初期老視が存在する。即ち、初期老視では成熟老視に比較して残存調節能力が大きく、遠方視から近方視に視点を移した際に、対象者自身の眼光学系の調節能力で近方の物体に焦点を合わせることが可能であることが多い。しかし、劣った調節能力で見えるぎりぎりの距離にある近方を見続けなければならない近方作業等を長時間に亘って行うと、見え方がばやけたり、疲れたり、頭痛等を伴う眼精疲労などが症状として現れるおそれがある。
そこで、このような初期老視における症状は、例えば、比較的小さい付加度数が設定された老視用コンタクトレンズを採用して、残存調節能力を光学的に補って、目標とする近方視の距離よりも近くまで明瞭視できる距離を与えることによって緩和することができると考えられる。換言すれば、調節能力に余力を残した状態で対象者が近方作業を行うことにより、初期老視における症状を緩和することが出来ると考えられる。要するに、残存調節能力が小さく、遠方視から近方視に視点を移した際に、対象者自身の調節能力で近方の物体に焦点を合わせることが不能である成熟老視に比して、小さい付加度数が設定された老視用コンタクトレンズを適用することにより、初期老視における近方視が改善され得るのである。
具体的な数値を例示して説明する。例えば、近方視で想定される視認対象距離を33(cm)とすると、そのディオプター値(100を近方視で想定される視認対象距離で除した数値)は略3.0Dとなる。この場合、遠方視から近方視へ視点を移す際に、近方視で想定される視認対象距離にある物体を明瞭に視認するためには3.0Dの調節能力が必要とされる。従って、残存調節能力が3.0Dに満たない場合は、対象者自身の調節能力で近方の物体に焦点を合わせることが不能な成熟老視とされる。一方、残存調節能力で近方の物体の視認を可能とする場合(本具体例では3.0D以上)であっても、残存調節能力が、例えば必要とされる値の1.5倍(本具体例では4.5D)未満であれば、長時間に亘って近方作業を行うと眼精疲労等の症状が現れるおそれがある、上述の初期老視とみなすことができる。そして、成熟老視と初期老視の何れにおいても、老視用コンタクトレンズ12,14の適用対象とすることが望ましい。なお、このことから明らかなように、老視用コンタクトレンズに設定される付加度数は、初期老視の場合は比較的小さい値となる一方、成熟老視の場合は比較的大きい値となることから、初期老視の場合にはプログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズ12が好適に採用される一方、成熟老視の場合にはバイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズ14が好適に採用される。
而して、このようにして使用者毎に取得された近方視で想定される視認対象距離の情報と老視用コンタクトレンズ使用者の装用眼に残存する調節能力の情報とに基づいて、選択基準情報体15によって提供される情報を併せて考慮することにより、当該使用者に適合するレンズタイプが、客観的に選択されることとなる。
選択基準情報体15によって与えられる情報は、近方視で想定される視認対象距離と装用眼に残存する調節能力との情報に基づいて老視用コンタクトレンズ12,14の何れかを選択するのに資する情報であり、具体的には以下の(A)〜(E)が例示される。なお、これら(A)〜(E)のうち、(C),(D),(E)は、他の情報と適宜に組み合わせて採用することが可能である。
(A) 遠方視に必要とされるレンズ度数で補正した使用者の眼光学系において近方視で想定される視認対象距離を明視するのに必要とされる付加度数を指標とし、かかる指標に関する閾値を情報として提供するものであって、当該閾値より付加度数が小さい場合にはプログレッシブタイプを選択する一方、閾値より付加度数が大きい場合にはバイフォーカルタイプを選択することを指示する選択基準情報。
(B) 上記(A)と同じ付加度数を指標とし、当該付加度数が必要ない場合にはプログレッシブタイプを選択することを指示する選択基準情報。
(C) 使用者に処方される老視用コンタクトレンズにおいて遠用レンズ度数に対して近用レンズ度数に加えられている付加度数を指標とし、かかる付加度数が2.0ディオプター未満の場合にはプログレッシブタイプを選択することを指示する選択基準情報。
(D) 上記(C)と同じ付加度数を指標とし、かかる付加度数が2.0ディオプター以上の場合にはバイフォーカルタイプを選択することを指示する選択基準情報。
(E) レンズ度数を横軸にして変調伝達関数の算出値を表したMTFグラフで、遠用レンズ度数と近用レンズ度数との各別の極大値が認められずに一つの極大値として現れる場合には、同じ設定度数のバイフォーカルタイプに優先してプログレッシブタイプを選択することを指示する選択基準情報。
上記(A)について具体的に説明する。バイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズ12とプログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズ14とを選択する付加度数の閾値は、特に限定されるものでなく、好適には+0.5〜+3.0Dの範囲内の値に設定され、より好適には+1.0〜2.0Dの範囲内の値に設定される。例えば、かかる閾値を+1.60Dとした場合には、付加度数が+1.60Dより大きい場合にバイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズ12が選択される一方、+1.60Dより小さい場合にプログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズ14が選択されることとなる。
なお、かかる閾値は複数決定されても良く、例えば、第一の閾値を+1.00Dとして、かかる第一の閾値(+1.00D)より付加度数が小さい場合にはプログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズ14が選択されるようにすると共に、第二の閾値を+1.75Dとして、かかる第二の閾値(+1.75D)より付加度数が大きい場合にはバイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズ12が選択されるようにしても良い。この際、第一の閾値(+1.00D)と第二の閾値(+1.75D)の中間の付加度数が設定される場合には、バイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズ12とプログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズ14の何れかを、例えば使用者が経験や使用者の主観等を考慮して選択し得るようにしても良いし、別の選択基準を設けて選択可能にしても良い。
上記(B)について具体的に説明する。ここでは、前記(A)と同じ付加度数を指標とするが、かかる付加度数が必要か否かという選択基準情報が与えられる。換言すれば、(B)では老視の進行程度、即ち初期老視か否かに応じてレンズタイプを選択する情報を提供するものとも考えられる。即ち、(B)に従えば、付加度数が0の初期老視である場合には、プログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズ14を選択することとなる。なお、付加度数が0に近い成熟老視の場合でも、使用者の主観等に応じてバイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズ12を選択しても良い。
上記(C)について具体的に説明する。かかる(C)は、老視用コンタクトレンズ12,14の光学特性等に関するデータを統計学的に考慮して、選択基準を与えるものである。具体的には、例えば遠用レンズ度数が−4.0Dで且つ近用レンズ度数が−3.5D(付加度数が+0.5D)のように、付加度数が+2.0D未満の場合はプログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズ14が選択される。
上記(D)も、(C)と同様に統計学的な見地から選択基準を与えるものであり、例えば遠用レンズ度数が−4.0Dで且つ近用レンズ度数が−2.0D(付加度数が+2.0D)のように、付加度数が+2.0D以上の場合はバイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズ12が選択される。
上記(E)について具体的に説明する。例えばプログレッシブタイプとバイフォーカルタイプの二種類の老視用コンタクトレンズが、何れも遠用レンズ度数:−4.0D,近用レンズ度数:−3.5Dのように、同じ設定レンズ度数とされている場合でも、各レンズのMTFグラフは互いに異なる。そこで、同じ設定レンズ度数のレンズにおけるMTFグラフで、遠用レンズ度数と近用レンズ度数との各別の極大値が認められずに一つの極大値として現れる場合には、バイフォーカルタイプに優先して当該プログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズが選択されることとなる。
なお、遠用レンズ度数と近用レンズ度数との差として設定されるレンズの付加度数は、使用者において近方視で想定される視認対象距離と装用眼に残存する調節能力とに基づいて求められる。例えば、バイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズ12が採用される場合には、余力を残して眼精疲労を軽減等する趣旨から、残存調節能力に1/2や2/3等の係数を乗じて、例えば、(近方視に必要とされる調節能力)=(残存調節能力)×(1/2)+(付加度数)とするレンズの付加度数算出方法が採用され得る。即ち、係数が1/2とされる場合は残存調節能力の1/2を利用するものであり、残りの1/2は余力とされる。また、係数が2/3とされる場合は残存調節能力の2/3を利用するものであり、残りの1/3は余力とされる。かかる係数を1/2および2/3とする調節法をバイフォーカルタイプにおける1/2法およびバイフォーカルタイプにおける2/3法とする。
一方、例えば、プログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズ14が採用される場合には、余力を残して眼精疲労を軽減等する趣旨から、近方視で想定される視認対象距離よりも近方まで、例えばかかる視認対象距離に1/2や2/3等の係数を乗じた距離までを視認可能となるようにレンズの付加度数が設定される。具体的には、[{(近方視で想定される視認対象距離)×(1/2)}を視認可能とするのに必要とされる調節能力]=(残存調節能力)+(付加度数)とするレンズの付加度数算出方法が採用され得る。即ち、係数が1/2とされる場合は視認対象距離に1/2を乗じた距離までが余力を残して視認できる距離とされる。また、係数が2/3とされる場合は視認対象距離に2/3を乗じた距離までが余力を残して視認できる距離とされる。かかる係数を1/2および2/3とする調節法をプログレッシブタイプにおける1/2法およびプログレッシブタイプにおける2/3法とする。
なお、上記におけるレンズの付加度数算出方法は単なる例示であって、本発明における付加度数について何等限定するものではない。また、かかる調節法の係数および算出方法は老視の進行状況に応じて設定することが出来る。例えば、成熟老視の場合は、比較的高い付加度数が要求されると共に余力を大きく残したいことから、バイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズ12における1/2を係数とする1/2法が好適に採用される。一方、初期老視の場合は比較的小さい付加度数が要求されると共に余力を大きくする必要がないことから、プログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズ14における2/3を係数とする2/3法が好適に採用される。
さらに、本実施形態において上述の如きレンズタイプの選択に参照される選択基準情報を提供する選択基準情報体15は、かかる選択基準情報を数式やグラフ、表等を用いて直接に記載した冊子やパンフレット、パッケージ、包装などの他、電子情報として記憶させた半導体記憶装置や光学記憶装置等を採用することも可能である。更にまた、例えばインターネットのウェブサイト上で、サイト上にある選択基準情報体15の選択基準情報を公開して提供することも可能である。
以上のような構成とされた本発明の老視用コンタクトレンズセット10によれば、バイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズ12とプログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズ14とを、客観的な選択基準情報に基づいて、各使用者の装用眼に適した老視用コンタクトレンズを容易に且つ安定して、高い信頼性のもとに提供することが可能になる。
また、本発明の老視用コンタクトレンズセット10では、同一のセット内にバイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズ12とプログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズ14が含まれており、例えば従来のように両タイプの老視用コンタクトレンズ12,14を別々に提供を受ける場合と比較して、コンタクトレンズ販売者による老視用コンタクトレンズの管理や保管の労力が大幅に軽減されて作業の効率化が図られ得る。
加えて、従来では、バイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズセットとプログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズセットとが、別の商品として提供されていたが、本実施形態では一つの商品として材質や光学特性を共通又は類似させて両タイプの老視用コンタクトレンズが提供される。それ故、バイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズ12とプログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズ14における装用感や見え方の差異が可及的に抑えられて、老視の進行等に伴う両タイプ間での移行もスムーズに行われて、使用者の負担軽減も図られる。
また、本実施形態のバイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズ12およびプログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズ14では、第一の矯正領域22と第二の矯正領域24の間に移行領域26が設けられている。このことから、近方視から遠方視、または遠方視から近方視へと視界を変化させる際に、滑らかな視界の移行が可能とされる。
次に、本発明の第二の実施形態としての老視用コンタクトレンズセットについて説明する。なお、本実施形態において、老視用コンタクトレンズセット、およびかかるセットを構成するバイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズおよびプログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズの形状は前記実施形態と略同一であるため、図示を省略する。また、以降の説明において、前記第一の実施形態と同一の部位について前記第一の実施形態と同一の符号を付すことにより、詳細な説明を省略する。
図9,10には、それぞれ本実施形態のバイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズおよびプログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズにおける光学特性としてのレンズ度数分布が、幾つかを選出した具体例として示されている。本実施形態では、前記第一の実施形態と比べて、バイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズおよびプログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズのそれぞれの光学部における第一の矯正領域22と第二の矯正領域24に設定されるレンズ度数を反対にしたものである。即ち、光学部の中央部分である第一の矯正領域22が遠用領域とされている一方、第二の矯正領域24が近用領域とされている。また、それぞれの両領域22,24の間には移行領域26が形成されている。なお、本実施形態の光学部における各寸法は、前記第一の実施形態と略等しくされている。
なお、図9に示されたバイフォーカルタイプの具体例では、第一の矯正領域22および第二の矯正領域24に設定される遠用レンズ度数および近用レンズ度数が、前記第一の実施形態と略等しくされている。即ち、遠用レンズ度数は−4.00Dで一定と設定されていると共に、付加度数として+0.50D、+1.50D、+2.50Dが設定されて、近用レンズ度数としてそれぞれ−3.50D、−2.50D、−1.50Dが設定されている。また、移行領域26に設定される中間用レンズ度数は、それぞれの近用レンズ度数と遠用レンズ度数の中間のレンズ度数が設定されている。
更にまた、図10に示されたプログレッシブタイプの具体例では、遠用レンズ度数として、レンズ幾何中心が−4.00Dに設定されている。また、付加度数として+0.50D、+1.50D、+2.50Dが設定されており、近用レンズ度数が−3.50D、−2.50D、−1.50Dとされている。また、遠用レンズ度数は、レンズ幾何中心から第一の矯正領域22の内周縁まで、−4.00Dからそれぞれの近用レンズ度数まで次第に変化するように設定されている。なお、本実施形態のプログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズにおいても移行領域26が形成されており、前記第一の実施形態と同様に、設計上、第一の度数領域22の一部のように形成されている。
さらに、図11,12には、それぞれ図9,10に示されているバイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズおよびプログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズの老視用コンタクトレンズの変調伝達関数(MTF)が示されている。なお、図11,12において、実線が付加度数+0.50D、破線が付加度数+1.50D、一点鎖線が付加度数+2.50Dとされている。なお、図11,12中においても、前記第一の実施形態の図5,6と同様に、評価基準線28を示す。
図11に示されている変調伝達関数からも明らかなように、本実施形態のバイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズにおいては、前記第一の実施形態のバイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズ12と同様に、何れの付加度数レンズにおいても、変調伝達関数に近用レンズ度数および遠用レンズ度数由来の主なピーク、即ち高解像度を示す顕著な極大値が2カ所において明確に認められる。
また、図12に示されている本実施形態におけるプログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズによる変調伝達関数も前記第一の実施形態におけるプログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズ14による変調伝達関数と同様である。即ち、付加度数が+0.50Dと小さい場合には、遠用レンズ度数(−4.00D)と合わさるようにして実質的に一つの大きなピークが認められ、且つ当該ピークの裾部の度数範囲が大きく広がって焦点深度も大きくなっている。そして、付加度数が+1.50D,+2.50Dと大きくなるに従って、最大ピーク値が小さくなると共に、略同程度の複数のピークが認められるようになり、遠用レンズ度数(−4.00D)におけるピーク値も小さくなっている。
これらのことから、本実施形態におけるバイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズも前記第一の実施形態におけるバイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズ12と同様の特性を示す。即ち、例えば付加度数が+2.50Dのように遠用レンズ度数と近用レンズ度数の差が大きい場合には、遠方または近方の一方の視認状態で、当該一方が明瞭にフォーカスされると共に他方が大きくデフォーカスされる。一方、付加度数が+0.50Dのように遠用レンズ度数と近用レンズ度数の差が小さい場合には、遠方または近方の一方の視認状態で、当該一方のフォーカス像に対する他方の像のデフォーカスの程度が小さくなり、両者の明瞭差が小さくなる。
一方、本実施形態におけるタイプの老視用コンタクトレンズも前記第一の実施形態におけるバイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズ12と同様の特性を示す。即ち、付加度数が+0.50Dのように遠用レンズ度数と近用レンズ度数の差が小さい場合には、実質的に一つの大きなピークにより、単焦点に近い解像度が広い焦点深度で得られることとなる。これに対して、例えば付加度数が+2.50Dのように遠用レンズ度数と近用レンズ度数の差が大きい場合には、複数発生するピークが何れも小さくなって全体的に解像度が低くなってしまう。
従って、本実施形態のように、前記第一の実施形態と比べて第一の矯正領域22および第二の矯正領域24に設定されるレンズ度数を反対としたとしても、大きな付加度数が設定される場合はバイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズが好適であり、小さな付加度数が設定される場合はプログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズが好適であると考えられる。
このことから、本実施形態においても、前記第一の実施形態と同様のバイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズとプログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズとの選択方法が採用され得ると共に、本実施形態における老視用コンタクトレンズセットも、前記第一の実施形態と同様の効果が発揮され得る。
以下に、前記第一および第二の実施形態において記載した選択方法に従い、老視用コンタクトレンズセットからバイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズまたはプログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズを選択した実施例1〜3について説明する。なお、かかる実施例は本発明を何等限定するものではない。
[実施例1]
実施例1では、付加度数の高い(High:+2.00D〜+3.00D)バイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズ、付加度数の低い(Low:+0.50D〜+1.50D)バイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズ、付加度数の高い(High:+2.00D〜+3.00D)プログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズ、付加度数の低い(Low:+0.50D〜+1.50D)プログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズの4種類の老視用コンタクトレンズを老視の症状を示す被験者に装用して、見え方の鮮明性について官能試験を行った。
先ず、それぞれの被験者は遠方の視力標に焦点が合うように視力を矯正して、かかる眼光学系において近方の新聞紙面を認識可能か、或いは認識不能かを判定した。ここで、近方の新聞紙面は33(cm)に固定した。即ち、前記実施形態の近方視で想定される視認対象距離を33(cm)とするものであり、かかる距離を認識可能とする調節能力はおよそ3Dである。従って、各被験者が近方の新聞紙面を認識可能であれば残存調節能力は3Dより大きいとされ、認識不能であれば残存調節能力は3Dより小さいとされる。このように、残存調節能力3Dを分岐として各被験者を、残存調節能力大、即ち初期老視と残存調節能力小、即ち成熟老視の2タイプに分類した。
次に、被験者に上記4種類の老視用コンタクトレンズを装用して、遠方の視力標と近方の新聞紙面を鮮明に視認可能か、或いは像がぼやけたり歪んだりして鮮明な視認が不能かを判定した。そして、老視用コンタクトレンズを装用した被験者のうち、遠方視、近方視ともに鮮明に視認可能とされる人数を確認して、この割合を適応率としてパーセンテージで表した。
以下の表1にかかる官能試験の結果を示す。例えば、表1中の上段の最も左の欄では、残存調節能力大とされる7名において、小さな付加度数が設定されたバイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズを装用した際に、3名が遠方視、近方視共に鮮明に視認可能と判断しており、適応率が43%であることが示されている。
表1中において、残存調節能力の小さい被験者に対して付加度数が大きく設定されたバイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズを装用した場合、および残存調節能力の大きい被験者に対して付加度数が小さく設定されたプログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズを装用した場合の適応率が、その他と比較して大きな値を示していることが理解され得る。この結果は、残存調節能力の小さい、即ち成熟老視の患者には付加度数の大きなバイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズが特に好適であり、また、残存調節能力の大きい、即ち初期老視の患者には付加度数の小さなプログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズが特に好適であることを示している。なお、その他の場合においても、適応率が0%を示すことはなく鮮明に見える被験者も存在していることから、本発明の選択方法が、例えば、成熟老視の患者には付加度数の大きなバイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズが選択される、或いは初期老視の患者には付加度数の小さなプログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズが選択されることに限定されるものではない。
[実施例2]
実施例2では、老視の症状を示す対象者を想定して、前記実施形態に記載したバイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズとプログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズの選択方法の具体的な1例を表2に示す。例えば、表2中に記載されている情報が選択基準情報として採用され得て、選択基準情報体15により対象者やコンタクトレンズ処方者に提供され得る。
本実施例では、先ず、近方視で想定される視認対象距離を33(cm)に決定して、これに伴い、必要とされる調節能力が3.0Dに決定される。次に、所定距離の遠方(表中では無限遠)を視認可能とするように視力が矯正される。かかる眼光学系において、遠方から物体を徐々に眼前に近づける。そして、眼前において、かかる物体がぼやけることがなく明瞭に視認可能な範囲が明視域とされる。例えば表中の最上段では、明視域が∞〜100(cm)とされており、即ち100(cm)より眼前では物体が明瞭には視認できないことを示している。かかる明視域の最も眼前までの距離をF(cm)として、100/Fを計算する。これにより対象者の残存調節能力(D)が算出される。
次に、遠方を視認可能とする眼光学系において、視認対象距離に位置する近方の物体が認識可能であるかを判定して、認識可能であれば○、認識不能であれば×とされている。本実施例では、近方の物体は眼前の33(cm)に位置しており、明視域が∞〜33(cm)より広い対象者は認識可能であるので○とされる。或いは、かかる物体を視認可能とするために必要な調節能力は3.0Dであり、残存調節能力が3.0D以上の対象者は認識可能であるので○とされる。一方、明視域が∞〜33(cm)より狭い対象者、換言すれば残存調節能力が3.0Dより小さい対象者は、近方の物体が認識不能であるため×とされて、成熟老視と判断される。
成熟老視と判断された対象者には、最適な老視用コンタクトレンズとしてバイフォーカルタイプが選択される。また、調節法としてバイフォーカルタイプにおける1/2法が選択されて、必要とされる調節能力と装用眼の残存調節能力に基づいて、最適な付加度数が算出される。
一方、近方物体視認可能の欄が○な対象者は初期老視、或いは初期老視まで老視が進行していないと判断される。かかる対象者には調節法としてプログレッシブタイプにおける2/3法が選択されて、必要とされる調節能力と装用眼の残存調節能力に基づいて、最適な付加度数が算出される。ここで、かかる付加度数が0より大きい対象者は初期老視と判断されて、プログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズが選択される。一方、かかる付加度数が0、または、算出の結果、0より小さくなる対象者は、老視が初期老視まで進行していないと判断されて、本実施例では単焦点タイプのコンタクトレンズが選択されている。具体的には、本実施例においては、近方の物体が33cmの位置にあり、プログレッシブタイプにおける調節法が採用された場合には、33(cm)に(2/3)を乗じて遠方から22(cm)までが視認可能とされるように調節される。その際、必要とされる調節能力は4.5D であり、残存調節能力が4.5D以上の対象者の場合、かかる対象者は余力を持って近方の物体を視認可能と判断されることから、老視が初期老視まで進行していないと判断される。
本実施例では、以上の方法により、老視用コンタクトレンズセットからバイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズとプログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズとの何れかが選択されると共に最適な付加度数が決定されている。なお、本実施例では、初期老視まで老視が進行していない対象者、即ち付加度数の設定が不要とされる対象者には単焦点タイプのコンタクトレンズが選択されている。
なお、バイフォーカルタイプにおける1/2法と2/3法の切換え点において、設定される最適な付加度数に比較的大きな度数差があり、具体的には1.00Dと1.75Dである。同様に、プログレッシブタイプにおける1/2法と2/3法の切換え点において、設定される最適な付加度数に比較的大きな度数差があり、具体的には1.50Dと3.50Dである。そして、バイフォーカルタイプにおける1/2法およびプログレッシブタイプにおける2/3法により算出される最適な付加度数が、かかる度数差を相互に補完するように設定されることからも、付加度数の大きいバイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズ12と付加度数の小さいプログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズ14が効果的であることが理解できる。
[実施例3]
実施例3では、老視の症状を示す対象者を想定して、前記実施形態に記載したバイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズとプログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズの選択方法の具体的な別例を表3に示す。
本実施例では、近方の物体位置、即ち近方視で想定される視認対象距離が20(cm)に設定されており、このことから必要とされる調節能力は5.0Dとされる。具体的な選択方法は前記実施例2と同様であるため、詳細な説明は省略するが、簡単に説明すると、残存調節能力が5.0D以下とされる対象者は成熟老視と判断される。これにより、バイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズが選択されると共に、調節法としてバイフォーカルタイプにおける1/2法が選択されて、最適な付加度数が算出される。
一方、残存調節能力が5.0Dから7.5D未満の対象者は初期老視と判断されてプログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズが選択されると共に、調節法としてプログレッシブタイプにおける2/3法が選択されて、最適な付加度数が算出される。更に、残存調節能力が7.5D以上の対象者は初期老視まで老視が進行していないと判断されて、本実施例では、単焦点タイプのコンタクトレンズが選択されている。
なお、実施例2と同様に、バイフォーカルタイプおよびプログレッシブタイプにおける1/2法と2/3法の切換え点において、設定される最適な付加度数に比較的大きな度数差があり、バイフォーカルタイプにおける1/2法およびプログレッシブタイプにおける2/3法により算出される最適な付加度数が、かかる度数差を相互に補完するように設定される。従って、例えば、近方視で想定される視認対象距離が変化しても、付加度数の大きいバイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズ12と付加度数の小さいプログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズ14が効果的であることが理解できる。
なお、実施例2,3において、具体的な数値をもってバイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズとプログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズとの選択方法を例示したが、本発明における選択方法はかかる選択方法に限定されるものではないことは明らかである。
以上、本発明の実施形態および実施例について詳述してきたが、本発明はその具体的な記載によって限定されない。例えば、図1中においては、バイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズ12およびプログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズ14のそれぞれにおいて、付加度数を複数種類異ならせて付加させた態様が示されているが、付加度数は1種類でもよい。
さらに、バイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズ12として図13に示されているようなレンズ度数分布を示す老視用コンタクトレンズが採用されても良いし、プログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズ14として図14に示されているようなレンズ度数分布を示す老視用コンタクトレンズが採用されても良い。即ち、前記実施形態では、移行領域26に設定される中間用レンズ度数は近用レンズ度数から遠用レンズ度数まで直線的に、或いは次第に近づくように滑らかに変化していたが、かかる態様に限定されない。要するに、移行領域26の所定領域において、近用レンズ度数と遠用レンズ度数の中間のレンズ度数が一定に設けられていても良い。なお、図13,14に示されているレンズ度数分布はそれぞれ、図3,4に示されているレンズ度数分布と同様に、光学部の中央部分である第一の矯正領域22が近用領域とされている一方、かかる第一の矯正領域22の外周部分が第二の矯正領域24である遠用領域とされている。そして、移行領域26中に一定のレンズ度数が複数設けられており、近用レンズ度数から遠用レンズ度数まで段階的に変化するようにされている。
また、従来から近用領域と遠用領域を有する老視用コンタクトレンズは、同時視タイプと交代視タイプの2タイプに大別される。例えば、特許文献1〜3には交代視タイプの老視用コンタクトレンズが示されており、光学部の略下半部が近用領域とされている一方、光学部の略上半部が遠用領域とされている。また、特許文献4,5には同時視タイプの老視用コンタクトレンズが示されており、光学部において近用領域と遠用領域が同心円状に設けられている。前記実施形態のバイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズ12およびプログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズ14は何れも同時視タイプとされていたが、何れも交代視タイプとされても良い。或いは、バイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズとプログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズの一方が同時視タイプ、他方が交代視タイプとされても良いが、両老視用コンタクトレンズとして同一のタイプが採用されることが好ましい。
さらに、前記実施形態におけるプログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズ14では、第一の矯正領域22および第二の矯正領域24に設定される近用レンズ度数または遠用レンズ度数の一方が一定とされていたが、かかる一定とされる領域が実質的に略0とされてもよく、即ち光学部の全体に亘ってレンズ度数が次第に変化するようにされても良い。また、図15,16に示されているプログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズ14のように、第一の矯正領域22および第二の矯正領域24に設定されるレンズ度数のどちらもが一定とされる領域を備えておらず、次第に変化するようにされていてもよい。特に、図16に示されているプログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズ14では、第一の矯正領域22と第二の矯正領域24の境界(レンズ幾何中心からの距離が1.5mmの地点)においてレンズ度数が折れ点を有しないで滑らかに変化しており、近方視と遠方視の更なる円滑な移行が実現され得る。
また、本発明において、レンズ度数が一定の領域は、球面収差等による若干の度数変化が存在している場合を含む。例えば、図17(a)には光学部の中央部分と外周部分に対して各一定の異なるレンズ度数が設定されたバイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズにおけるレンズ度数分布の測定結果の一例が示されている。また、図17(b)には、図17(a)におけるバイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズについての光学部中央部分の外周端における拡大図が示されている。また、図18には、光学部の中央部分が次第に変化するレンズ度数とされている一方、光学部の外周部分のレンズ度数が一定とされたプログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズにおけるレンズ度数分布の測定結果の一例が示されている。これら図17(a),(b)、図18に示されているように、何れも一定のレンズ度数の設定領域であるバイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズにおける光学部中央部分と外周部分、およびプログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズにおける光学部外周部分の各領域において、外周側に行くに従って大きくなるような主に球面収差に因ると考えられる程度の度数変化が、実測値として認められる。
このようなずれは、コンタクトレンズに設定されるレンズ度数が一定とされる領域を球面形状として製造する際には球面収差として生じるものであることから、若干の度数変化が生じているとしても一定のレンズ度数として考慮されるべきである。
また、バイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズは、例えば、近用領域と遠用領域が同心円状に交互に設けられた回折型の老視用コンタクトレンズとされてもよい。更に、バイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズおよびプログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズの少なくとも一方にはそれぞれ乱視矯正用のレンズ度数が設定されても良く、即ちトーリックレンズとされても良い。更にまた、バイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズおよびプログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズの少なくとも一方はコンタクトレンズの中央に光学部が設けられていなくても良い。即ち、光学部はコンタクトレンズの中央から周方向の何れかの方向に偏倚していても良く、所謂ディセンターレンズとされても良い。その際、コンタクトレンズの周方向を判別するためのマーク等が付されていても良いし、コンタクトレンズの周辺部が部分的に厚肉や薄肉とされて位置決め効果を発揮するようにしても良い。
さらに、基本的には、残存調節能力は両眼で測定されて、バイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズ12とプログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズ14の何れか同じ種類の老視用コンタクトレンズが両眼に装用される。しかしながら、左右眼で残存調節能力に大きな差がある場合等においては、例えば、残存調節能力の大きな眼にプログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズ14を、残存調節能力の小さな眼にバイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズ12を装用する、即ちモノビジョン或いはモディファイドモノビジョンと呼ばれる装用方法も可能である。
更にまた、残存調節能力は対象者毎に測定する必要はない。残存調節能力は加齢とともに減退するため、例えば、年齢と残存調節能力に関する既知のデータ等を考慮して、対象者の年齢から残存調節能力を推定することも可能である。また、かかる残存調節能力の測定方法は前記実施形態に記載した方法に限定されず、例えば、近点計やアコモドポリレコーダーのような機器によって他覚的に測定しても良い。
さらに、バイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズおよびプログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズは、前記実施形態のような円形に限定されない。例えば、両老視用コンタクトレンズは楕円形であっても良いし、コンタクトレンズにおける下側の所定領域を弦方向に切断したトランケーションレンズであっても良い。
10:老視用コンタクトレンズセット、12:バイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズ、14:プログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズ、15:選択基準情報体、22:第一の矯正領域、24:第二の矯正領域、26:移行領域
本発明は、老視眼において見え方の質(QOV)を良好に保ちつつ低下した視力調節能力を補うことを可能とする老視用コンタクトレンズの関連技術に係り、詳しくは、特定の複数種類の老視用コンタクトレンズを所定の選択基準情報に基づいて選択適用できるように組み合わせてなる老視用コンタクトレンズセットに関するものである。
従来から、老視眼に適用されて、低下した視力調節能力を補う老視用コンタクトレンズが知られている。老視用コンタクトレンズは、一つのコンタクトレンズの光学領域内に異なるレンズ度数が設定された複数の領域が設けられている。即ち、老視用コンタクトレンズの光学領域には、近方観察に際して適切なレンズ度数が設定された近用領域と、遠方観察に際して適切なレンズ度数が設定された遠用領域が設けられており、更に必要に応じて中間距離の観察用に調整されたレンズ度数が設定された中間領域や移行領域が設けられたものもある。
そして、これら近用領域や遠用領域が選択的にまたは同時に用いられることにより、必要とされる距離に応じた視力補正が行われるようになっている。例えば、近用領域と遠用領域が選択的に用いられる交代視型の老視用コンタクトレンズとしては、特開昭63−95415号公報(特許文献1)や特開平1−319729号公報(特許文献2),米国特許第4693572号明細書(特許文献3)等に記載のものがあり、視軸の移動によって、レンズ度数の異なる領域が選択的に用いられることで必要な視力を得るようになっている。また、近用領域と遠用領域が同時に用いられる同時視型の老視用コンタクトレンズとしては、特開昭59−208524号公報(特許文献4)や特開平2−217818号公報(特許文献5)等に記載のものがあり、レンズ度数の異なる領域を同時に観察して脳の判断により必要な像を選別して認識することで必要な視力を得るようになっている。
ところで、このような交代視型と同時視型との何れであっても、従前の老視用コンタクトレンズでは、近用領域と遠用領域に対して何れも一定のレンズ度数を設定したバイフォーカルタイプとされていた。これに加えて、近年では、近用領域と遠用領域の少なくとも一方において、無段階で変化するレンズ度数を設定したプログレッシブタイプ(累進多焦点型)の老視用コンタクトレンズも提供されている。
かかるプログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズは、連続的に変化する視認距離に対して光学的に焦点を与え得るものであることから、眼光学系の視力調節能力を無段階に補うことができる旨の商品説明がなされている。それ故、老視用コンタクトレンズの使用者や処方者も、視認距離が変化しても連続して眼のピントが合って、どの距離の物も良く見えることを期待して、プログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズを選択することが多くなってきている。
ところが、本発明者が調査や検討を重ねたところ、プログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズを実際に装用すると、見え方に満足できないケースも存在することが判った。そこで、本発明者は、プログレッシブタイプとバイフォーカルタイプの両方の老視用コンタクトレンズでは見え方が異なることに着目し、それら両タイプをそれぞれ使用者に装用してもらって実際に見え方を比較確認してもらい、使用者にとって見え方が良かった方のタイプを選択して提供することを検討した。
しかし、従来の老視用コンタクトレンズでは、プログレッシブタイプのコンタクトレンズとバイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズとが何れも、各社から多様な材料や表面形状、大きさ(DIA)、レンズ厚さ、レンズ度数範囲等をもって、各別に独立した商品として提供されているに過ぎない。それ故、一方のタイプの老視用コンタクトレンズだけでも選択肢が多いのに、二つのタイプの老視用コンタクトレンズを組み合わせて検討するとなると、何れの商品を組み合わせて採用すべきかを選ぶだけでも面倒であった。
しかも、使用者毎に異なる視力調節能力に対応して、プログレッシブタイプのコンタクトレンズとバイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズを装用して比較確認できるようにするには、両タイプの老視用コンタクトレンズについて全てのレンズ度数を網羅して常時備えておく必要がある。それ故、老視用コンタクトレンズの処方者や販売者は、極めて多数の老視用コンタクトレンズを常時管理してストックすることが必要となり、その作業が面倒で労力やスペースの負担も大きくなることが避けられない。
加えて、使用者毎に、プログレッシブタイプとバイフォーカルタイプの両方の老視用コンタクトレンズを装用してもらって比較検討してもらう必要があることから、使用者と処方者の両者に時間的および肉体的に過度の負担を強いることとなる。
さらに、両タイプの選択が、専門的知識や技術的知識の無い使用者の主観に委ねられることから、たとえ処方者がチェックするとしても、客観的な判断基準が存在せず、複数社から異なる製品として互いに独立して提供されているプログレッシブタイプやバイフォーカルタイプの多様な老視用コンタクトレンズの中から適合するものを選択する行為は、処方者毎の経験や知識の差によって大きなばらつきが避けられない。それ故、使用者と処方者の何れにとっても、選択結果が本当に当該個人に適合しているのか確信をもち難く、信頼感や安心感を得難いという問題もあった。
特開昭63−95415号公報
特開平1−319729号公報
米国特許第4693572号明細書
特開昭59−208524号公報
特開平2−217818号公報
本発明は上述の事情を背景として為されたものであって、その解決課題とするところは、各使用者に対して適合したタイプの老視用コンタクトレンズを効率的に提供することを可能にする老視用コンタクトレンズセットを提供することにある。
以下、かかる課題を解決するために為された本発明の態様を記載する。なお、以下に記載の各態様において採用されるそれぞれの構成は、可能な限り任意の組み合わせで採用可能である。
本発明の第一の態様は、近用レンズ度数が設定された近用領域と遠用レンズ度数が設定された遠用領域とがそれぞれレンズ度数を一定にした所定大きさの領域として設けられたバイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズと、近用レンズ度数が設定された近用領域と遠用レンズ度数が設定された遠用領域との少なくとも一方が次第に変化するレンズ度数分布の領域として設けられたプログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズとが、それぞれ該近用領域と該遠用領域における設定レンズ度数を異ならせた複数種類ずつ組み合わされることによって構成されており、近方視で想定される視認対象距離と装用眼に残存する調節能力とを含む選択基準情報に基づいて該バイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズと該プログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズが選択されて提供されるものである老視用コンタクトレンズセットを、特徴とする。
本発明は、バイフォーカルタイプとプログレッシブタイプの光学特性や装用時の見え方等について、本発明者が多くの検討と実験を行った結果に基づいて完成されたものであり、特に、近方視で想定される視認対象距離と装用眼に残存する調節能力とを含む選択基準情報に基づいて何れかのタイプが選択されるように、バイフォーカルタイプとプログレッシブタイプの両方を組み合わせて構成することで、予め準備しておく各タイプのレンズ度数範囲を効率的にしぼることが可能となる。それ故、販売店等において、老視用コンタクトレンズセットをストックしておくスペースが少なくて済むと共に、担当者の管理や取り扱いも容易となる。
しかも、本発明に係る老視用コンタクトレンズセットでは、近方視で想定される視認対象距離と装用眼に残存する調節能力とを含む選択基準情報に基づいて、使用者毎に、バイフォーカルタイプとプログレッシブタイプの何れかが選択的に提案され得る。即ち、使用者毎の条件を考慮して、良好な見え方が提供されるであろうタイプの老視用コンタクトレンズが、予め提供された客観的な情報に基づいて選択され得るのであり、それ故、使用者の主観的な判断や処方者の経験差等に起因するばらつきが効果的に防止されて、優れた安心感と信頼性をもって、使用者に適合したタイプの老視用コンタクトレンズを効率的に提案することが可能になる。
また、本発明に係る老視用コンタクトレンズセットでは、バイフォーカルタイプとプログレッシブタイプが組み合わされたセットとして市場に提供されて処方者や販売者に提供されることから、材質やベースカーブ等のレンズ形状、DIAや厚さの寸法などを予め同一又は類似のものにそろえて両タイプの老視用コンタクトレンズを提供することも可能になる。その結果、仮に処方に際して両タイプの老視用コンタクトレンズを比較するに際しても、従来のように各別に市場に提供された多種多様な商品群のなかから選択する場合に比して、効率的に比較対象を特定することができる。また、使用者の視力調節能力の変化等に対応して、例えばプログレッシブタイプからバイフォーカルタイプに変更する際にも、上述の如き予め組み合わされるセットとして両タイプが統一性をもって適切に設計され得る本発明に係る老視用コンタクトレンズセットによれば、処方者のレンズ選択作業が容易とされるだけでなく、使用者における装用感等の違和感を軽減することも可能となる。
本発明の第二の態様は、前記第一の態様に係る老視用コンタクトレンズセットであって、近方視で想定される視認対象距離と装用眼に残存する調節能力とに基づいて、前記バイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズと前記プログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズとの何れかを選択するための前記選択基準情報を提供する選択基準情報体を含んで構成されたものである。
本態様の老視用コンタクトレンズセットでは、バイフォーカルタイプとプログレッシブタイプとの選択基準としての情報を提供する選択基準情報体を併せて提供することで、処方者の知識や経験を一層効果的に補って効率的な処方の実現が可能となる。なお、選択基準情報体は、例えば数式やグラフ、表などを用いて選択基準情報を表した冊子やパンフレットのほか、電子情報を記憶した記憶素子や配信信号などであっても良い。
すなわち、前述のように本発明者は、多くの実験や検討に基づいて、バイフォーカルタイプとプログレッシブタイプとを選択可能にすることで各使用者に適する老視用コンタクトレンズを提供し得るとの知見を得ると共に、近方視で想定される視認対象距離と装用眼に残存する調節能力とに基づく情報を選択基準とすることで両タイプを効率的に選択することが可能になるとの知見を得た。このような選択基準は、後述の実施形態に記載する客観的な光学特性データからも理論的に裏付けることのできる、タイプ選択のための有意な情報であるが、一方、近方視で想定される視認対象距離と装用眼に残存する調節能力とを如何に評価して具体的な選択基準とするかは、限定されるものでない。それ故、近方視で想定される視認対象距離と装用眼に残存する調節能力とに基づいて処方者が独自に選定した閾値等を選択情報として採用することも可能であるが、本態様に従って、予め特定された所定の選択基準を、老視用コンタクトレンズセットの構成要素のひとつとして提供することにより、処方者の能力や知識や経験などに左右されずに高い信頼性をもって使用者に適切なタイプの老視用コンタクトレンズを一層容易に選択することが可能になり、処方者の労力軽減と使用者の安心感の更なる向上にもつながる。
以下に記載する本発明の第三および第四の態様は、何れも、前記第一又は第二の態様に係る老視用コンタクトレンズセットにおいて好適に採用され得る、近方視で想定される視認対象距離と装用眼に残存する調節能力とに基づく選択基準情報を、より具体的に例示するものである。
すなわち、本発明の第三の態様は、前記選択基準情報が、近方視で想定される視認対象距離と装用眼に残存する調節能力とに基づいて求められる、遠方視に必要とされるレンズ度数で補正した眼光学系において近方視に必要とされる付加度数について、前記バイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズと前記プログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズとを選択する閾値を示し、該閾値に対して近方視に必要とされる該付加度数が小さい場合に該プログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズが選択される一方、該閾値に対して近方視に必要とされる該付加度数が大きい場合に該バイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズが選択されるようにした情報とされる。
なお、本態様における「閾値」は、両タイプのコンタクトレンズの選択区分としての境界値を示す一つの閾値であっても良い。または、バイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズの選択用の第一閾値と、プログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズの選択用の第二閾値の二つの閾値を設定して、それら第一閾値と第二閾値との間では、使用者の好みや各種条件を考慮して何れのタイプを任意選択可能とすることも可能である。
本発明の第四の態様は、前記選択基準情報が、遠方視に必要とされるレンズ度数で補正した眼光学系において、近方視で想定される視認対象距離を明視可能とするのに必要な付加度数を用い、該付加度数が必要ない場合には前記プログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズが選択されるようにした情報とされる。
本態様では、付加度数を指標とすることで、両タイプの老視用コンタクトレンズの選択基準が一層簡単に利用し易く実現され得る。なお、かかる付加度数が必要とされる場合には、バイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズの選択が好適である。しかし、付加度数が必要とされる場合にも、付加度数が1D(ディオプター)以下や0.5D以下等の小さい場合には、プログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズを適用しても良いし、そのような付加度数領域では、使用者の好みや使用条件等を考慮して個別に選択対応することも可能である。
さらに、本発明に係る老視用コンタクトレンズセットでは、選択基準情報として以下の第五および第六の態様に従う構成を採用することも可能であり、それによって、両タイプの老視用コンタクトレンズの選択基準が一層簡単とされて本発明の活用が更に効率的で容易となる。
すなわち、本発明の第五の態様は、前記第一〜四の何れかの態様に係る老視用コンタクトレンズセットであって、前記選択基準情報において、前記遠用レンズ度数に対して前記近用レンズ度数に加えられている付加度数が少なくとも2.0D未満のものは前記プログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズが選択されるようになっているものである。
また、本発明の第六の態様は、前記第一〜五の何れかの態様に係る老視用コンタクトレンズセットであって、前記選択基準情報において、前記遠用レンズ度数に対して前記近用レンズ度数に加えられている付加度数が少なくとも2.0D以上のものは前記バイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズが選択されるようになっているものである。
さらに、本発明の第七の態様は、前記第一〜六の何れかの態様に係る老視用コンタクトレンズにおいて、前記バイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズと前記プログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズとの何れもが、ソフトコンタクトレンズとハードコンタクトレンズと2種材コンタクトレンズのうちの何れか同じレンズ種類によって構成されているものである。
本態様に従えば、老視用コンタクトレンズセットとして互いに組み合わされて用いられるバイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズと前記プログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズとが、何れも、同じレンズ種類とされることにより、何れのタイプを選択して装用する場合でも、大きく異ならない装用感を得ることができる。それ故、例えば近視用コンタクトレンズとしてソフトコンタクトレンズを利用してきた使用者が、プログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズを利用するようになり、更に視力調節能力の低下に伴ってバイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズを利用するようになる場合を想定した場合にも、従前から慣れているソフトコンタクトレンズの種類を使い続けることが可能となって、大きな違和感なく移行することが可能になる。このことは、ハードコンタクトレンズや2種材コンタクトレンズの何れにおいても同様である。
なお、何れの種類のコンタクトレンズも任意の各種の材質を採用可能であり、例えばソフトコンタクトレンズとしてはHEMA(ハイドロキシエチルメタクリレート)やN−VP(N−ビニルピロリドン)、DMAA(ジメチルアクリルアミド)、アミノ酸共重合体等の生体親和性材料等の材質が採用され得ると共に、シリコーンを含めたシリコーンハイドロゲル素材のソフトコンタクトレンズが採用可能である。一方、ハードコンタクトレンズとしてはMMA(メチルメタクリレート)やSMA(シロキサニルアルキルメタクリレート)等の材質が採用され得、更に、2種材コンタクトレンズとしては、例えば光学領域をハード材料とし且つ外周部分をソフト材料とした複合材質が採用され得る。
本発明の第八の態様は、前記第七の態様に係る老視用コンタクトレンズにおいて、前記バイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズと前記プログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズとの何れもが同じ材質とされているものである。
本態様の老視用コンタクトレンズでは、レンズの種類に加えて材質までも同じにされて両タイプを組み合わせた老視用コンタクトレンズセットが提供されることから、例えばプログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズの使用者が視力調節能力の低下に伴ってバイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズを利用するようになった場合でも、大きな違和感なく一層良好に移行することが可能になる。
本発明の第九の態様は、前記第一〜八の何れかの態様に係る老視用コンタクトレンズセットにおいて、前記バイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズと前記プログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズの何れもが、同時視タイプと交代視タイプとの何れか同じタイプによって構成されているものである。
老視用コンタクトレンズの種類として、脳による像の選別を利用した同時視型と視軸の移動を利用した交代視型とがあることは前述のとおりであるが、両者はそれぞれに慣れが必要とされる。本態様の老視用コンタクトレンズでは、同時視型と交代視型の何れか同じ型からなるバイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズと前記プログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズとを組み合わせた老視用コンタクトレンズセットが提供されることから、例えばプログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズの使用者が視力調節能力の低下に伴ってバイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズを利用するようになった場合でも、視覚操作方法を違えることなく柔和な移行が可能になる。
なお、本発明に係る老視用コンタクトレンズでは、光学領域にレンズ度数を設定するためのレンズ構造として、屈折レンズ構造と回折レンズ構造との何れを採用することも可能である。特にレンズ度数を一定にした所定大きさの領域として設けられた近用領域又は遠用領域においては、目的とするレンズ度数を与える回折格子の設計も容易となって回折レンズ構造を採用し易い。そして、回折レンズ構造を採用することにより、屈折レンズ構造に比して、目的とする光学特性を薄肉のレンズ厚さで実現することのできる利点がある。
本発明の第十の態様は、前記第一〜九の何れかの態様に係る老視用コンタクトレンズセットにおいて、前記バイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズと前記プログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズとの少なくとも一方において、前記近用レンズ度数と前記遠用レンズ度数との間の中間用レンズ度数が設定された中間用領域が設けられているものである。
本態様に従う構造とされた老視用コンタクトレンズセットでは、近方と遠方との中間距離にある領域の見え方を、中間用領域の光学特性によって向上させることができる。なお、かかる中間用領域は、例えば近用レンズ度数と遠用レンズ度数との何れとも異なる一定の大きさの中間用レンズ度数をもって設定することも可能であるが、近用レンズ度数と遠用レンズ度数の少なくとも一方から次第に連続的に又は段階的に変化する中間用レンズ度数をもって設定することも可能である。特に、プログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズでは、次第に変化するレンズ度数分布が設定された近用領域又は遠用領域から連続的に変化するレンズ度数をもって、かかる近用領域又は遠用領域と一体的な中間用領域を設けることも可能である。
さらに、本発明に係る老視用コンタクトレンズセットにおけるバイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズおよびプログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズとしては、以下の第十一および第十二の態様に従う老視用コンタクトレンズも採用可能である。即ち、本発明の第十一の態様は、前記第一〜十の何れかの態様に係る老視用コンタクトレンズセットにおいて、前記バイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズと前記プログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズとの少なくとも一方がディセンターレンズとされているものである。
また、本発明の第十二の態様は、前記第一〜十一の何れかの態様に係る老視用コンタクトレンズセットにおいて、前記バイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズと前記プログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズとの少なくとも一方がトーリックレンズとされているものである。
老視用コンタクトレンズの選択方法としては、近方視に要求される視認対象距離と装用眼に残存する調節能力とによる選択基準情報に基づいて、近用レンズ度数が設定された近用領域と遠用レンズ度数が設定された遠用領域とがそれぞれレンズ度数を一定にした所定大きさの領域として設けられたバイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズと、近用レンズ度数が設定された近用領域と遠用レンズ度数が設定された遠用領域との少なくとも一方が次第に変化するレンズ度数分布の領域として設けられたプログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズとの、何れかを適合するものとして選択する老視用コンタクトレンズの選択方法を採用しても良い。
このような老視用コンタクトレンズの選択方法に従えば、使用者毎に適合して良好な見え方を実現し得る老視用コンタクトレンズとして、バイフォーカルタイプとプログレッシブタイプの何れかを、予め提供される特定の選択基準情報に基づいて、容易に且つ効率的に選択することが可能になる。それ故、使用者の主観的な判断や処方者の経験差等に起因するばらつきが効果的に防止されて、優れた安心感と信頼性をもって、使用者に適合したタイプの老視用コンタクトレンズを提案することが可能になる。
ところで、このような老視用コンタクトレンズの選択方法では、前記遠用レンズ度数で補正した状態において、近方視で想定される視認対象距離が明視できる場合には前記プログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズを選択する一方、近方視で想定される視認対象距離が明視困難な場合には前記バイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズを選択することが、効果的である。
このような具体的な選択方法に従えば、バイフォーカルタイプとプログレッシブタイプとの選択を、各使用者に応じて一層効率的且つ効果的に行うことが可能となる。
本発明の構成に従う老視用コンタクトレンズセットでは、使用者毎に取得された客観的な選択基準情報に基づいて適切な老視用コンタクトレンズの候補を予め絞り込むことが出来る。それ故、使用者や処方者等が最適な老視用コンタクトレンズの選択に費やす手間と時間を大幅に抑えることが可能になる。
本発明の第一の実施形態としての老視用コンタクトレンズセットを示す説明図。
本実施形態の老視用コンタクトレンズセットを構成する老視用コンタクトレンズの一例を示す正面図であり、(a)がバイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズ、(b)がプログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズを示す。
図2(a)に示されたバイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズにおける光学特性の設定態様であるレンズ度数分布を表すグラフ。
図2(b)に示されたプログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズにおける光学特性の設定態様であるレンズ度数分布を表すグラフ。
図3に示されたレンズ度数分布を有するバイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズにおけるMTFを表すグラフ。
図4に示されたレンズ度数分布を有するプログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズにおけるMTFを表すグラフ。
比較例としての単焦点タイプの近視用コンタクトレンズにおけるレンズ度数分布を表すグラフ。
図7に示されたレンズ度数分布を有する比較例としての近視用コンタクトレンズにおけるMTFを表すグラフ。
図2(a)に示されたバイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズにおける第二の実施形態としての光学特性の設定態様であるレンズ度数分布を表すグラフ。
図2(b)に示されたプログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズにおける第二の実施形態としての光学特性の設定態様であるレンズ度数分布を表すグラフ。
図9に示されたレンズ度数分布を有するバイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズにおけるMTFを表すグラフ。
図10に示されたレンズ度数分布を有するプログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズにおけるMTFを表すグラフ。
本発明に従うバイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズとして採用され得る別実施形態としてのレンズ度数分布を表すグラフ。
本発明に従うプログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズとして採用され得る別実施形態としてのレンズ度数分布を表すグラフ。
本発明に従うプログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズとして採用され得る更に別実施形態としてのレンズ度数分布を表すグラフ。
本発明に従うプログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズとして採用され得る更に別実施形態としてのレンズ度数分布を表すグラフ。
(a)はバイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズの度数分布の一例を表すグラフであり、(b)は(a)の要部拡大図。
プログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズの度数分布の一例を表すグラフ。
以下、本発明を更に具体的に明らかにするために、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ、詳細に説明する。
先ず、図1には本発明の第一の実施形態としての老視用コンタクトレンズセット10が示されている。
この老視用コンタクトレンズセット10には、バイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズ12とプログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズ14とを、各レンズ12,14に設定されるレンズ度数を異ならせて各複数種類ずつ組み合わせたものが含まれている。また、これら各複数種類の光学特性を有するものが組み合わされたバイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズ12とプログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズ14とのなかから、使用者毎に適切な種類の老視用コンタクトレンズを選択するための選択基準情報を提供する選択基準情報体15を、更に組み合わせて、本実施形態の老視用コンタクトレンズセット10が構成されている。
なお、バイフォーカルタイプおよびプログレッシブタイプの各コンタクトレンズ12,14の具体的な材質や構造等は、従来から公知のコンタクトレンズに従って設定され得る。すなわち、何れのタイプのコンタクトレンズ12,14も、基本的には、凹形の略球冠形状であるレンズ前面と凸形の略球冠形状であるレンズ後面がレンズ外周端のエッジ部16において滑らかに接続された外面形状とされている。そして、各コンタクトレンズ12,14の中央部分には、所定の径寸法において、視力矯正用の光学特性を有する光学部18が設けられている一方、光学部18の外周端からエッジ部16の内周端の間には光学特性を有しない円環形状の周辺部20が設けられている。
また、本発明の老視用コンタクトレンズ12,14としては、ソフトタイプとハードタイプの何れも採用可能である。ここにおいて、何れのタイプのコンタクトレンズも任意の各種の材質を採用可能であり、ソフトコンタクトレンズとしては、例えばHEMA(ハイドロキシエチルメタクリレート)やN−VP(N−ビニルピロリドン)、DMAA(ジメチルアクリルアミド)、アミノ酸共重合体等の生体親和性材料等の材質が採用され得る他、シリコーンを含めたシリコーンハイドロゲル素材のソフトコンタクトレンズも採用可能である。一方、ハードコンタクトレンズとしては、例えばMMA(メチルメタクリレート)やSMA(シロキサニルアルキルメタクリレート)等の材質が採用され得る。更に、老視用コンタクトレンズ12,14は、ソフトタイプとハードタイプの特長を併せ持つ2種材コンタクトレンズも採用可能であり、例えば光学部18をハードタイプの材質から形成すると共に周辺部20をソフトタイプの材質から形成した複合材質等も採用され得る。
尤も、セットとして組み合わされて一つの老視用コンタクトレンズセット10を構成する、各複数種類のレンズ度数が設定されたバイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズ12およびプログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズ14は、何れも、ソフトタイプレンズとハードタイプレンズと2種材コンタクトレンズとの何れかに統一されることが好ましい。本実施形態の老視用コンタクトレンズセット10では、それを構成する各複数種類のバイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズ12およびプログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズ14が、何れもソフトタイプとされており、その材質も実質的に同じとされている。
さらに、本実施形態では、バイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズ12およびプログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズ14として、同時視タイプのものが採用されている。具体的には、図2(a),(b)に示されているように、光学部18の中央部分に略円形状の第一の矯正領域22が形成されていると共に、光学部18の外周部分に略円環形状の第二の矯正領域24が形成されている。そして、老視用コンタクトレンズ12(14)の装用状態下で、互いに同心的に形成されて異なるレンズ度数が設定された第一の矯正領域22と第二の矯正領域24を透過した光線が同時に網膜に入射されて、使用者の脳による選択作用で近方または遠方に位置する明瞭な像を視認することができるようになっている。
特に本実施形態では、バイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズ12およびプログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズ14の何れもが、第一の矯正領域22が近用領域とされていると共に、第二の矯正領域24が遠用領域とされている。即ち、バイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズ12では、近方視に必要とされるレンズ度数が一定のディオプター値をもって第一の矯正領域22に設定されている一方、遠方視に必要とされるレンズ度数が一定のディオプター値をもって第二の矯正領域24に設定されている。また、プログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズ14では、近方視に必要とされるレンズ度数が光学部中心から径方向外方に向かって次第に変化するディオプター値をもって第一の矯正領域22に設定されている一方、遠方視に必要とされるレンズ度数が一定のディオプター値をもって第二の矯正領域22に設定されている。
例えば、バイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズ12の光学部18に設定されるレンズ度数の具体例が図3に示されている。この具体例は、遠方視に必要とされるレンズ度数が−4.0Dとされた場合において、近方視に必要な付加度数を+0.50D,+1.5D,+2.5Dとした3種類の光学特性を例示するものである。即ち、遠用領域である第二の矯正領域24の設定レンズ度数は、何れも−4.0Dで一定とされている。一方、近用領域である第一の矯正領域22の設定レンズ度数が、付加度数の値に応じて、−3.5D,−2.5D,−1.5Dと異なる値をもった一定のレンズ度数に設定されている。
一方、プログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズ14の光学部18に設定されるレンズ度数の具体例が図4に示されている。この具体例は、図3と同様に、遠方視に必要とされるレンズ度数が−4.0Dとされた場合において、近方視に必要な付加度数を+0.50D,+1.5D,+2.5Dとした3種類の光学特性を例示するものである。即ち、遠用領域である第二の矯正領域24の設定レンズ度数は、何れも−4.0Dで一定とされている。一方、近用領域である第一の矯正領域22の設定レンズ度数が、付加度数の値に応じて、−3.5D,−2.5D,−1.5Dと異なる値をもった光学中心から径方向外方に向かって次第に付加度数が小さく変化している。特に図4に示された具体例では、第二の矯正領域24との接続点となる第一の矯正領域22の外周縁部において、第一の矯正領域22の設定レンズ度数が第二の矯正領域24の設定レンズ度数である−4.0Dとなるまで変化せしめられている。
また、バイフォーカルタイプとプログレッシブタイプの何れの老視用コンタクトレンズ12,14においても、近用領域である第一の矯正領域22と遠用領域である第二の矯正領域24との境界部分に、近用レンズ度数と遠用レンズ度数との間の中間用レンズ度数が設定された中間用領域としての移行領域26が設けられていても良い。具体的には、バイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズ12では、例えば図2(a)および図3に示されているように、第一の矯正領域22と第二の矯正領域24の間に、近用レンズ度数と遠用レンズ度数とを相互に連続的に繋ぐ径方向のレンズ度数変化を示す移行領域26が設けられ得る。また、プログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズ14では、例えば図4に示されているように、設計上は第一の矯正領域22から連続的に繋がって変化するレンズ度数を与えられて、第一の矯正領域22の一部のように設計された、遠用レンズ度数に極めて近いレンズ度数が設定された第一の矯正領域22の外周縁部の所定領域を、近用レンズ度数と遠用レンズ度数とを相互に連続的に繋ぐ径方向のレンズ度数変化を示す移行領域26として把握することができる。なお、プログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズ14の移行領域26は、例えば、付加度数の1/5以下の設定領域として把握することができる。
そして、そして、このような移行領域26を設けることにより、近方視の設定レンズ度数と遠方視の設定レンズ度数との境界領域においてレンズ度数が急激に変化することに起因する像のジャンプやボケ等といった見え方の低下を軽減する効果を期待することができる。
尤も、かかる移行領域26は、近方視と遠方視の何れに対しても光学的には殆ど機能しないレンズ度数領域としても考えることができるから、本発明の老視用コンタクトレンズ12,14において必須でない。即ち、バイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズ12では、例えば図3に示される付加度数+2.5Dのレンズにおいて、レンズ度数が−4.0Dに設定された第二の矯正領域24の内周縁とレンズ度数が−1.5Dに設定された第一の矯正領域22の外周縁とが、レンズ幾何中心からの半径距離1.0mmの周上で直接に接続されて、かかる周上に2.5Dの段差状の度数変化点が設定されていても良い。また、プログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズ14では、例えば図4に示される付加度数+2.5Dのレンズにおいて、レンズ度数が−4.0Dに設定された第二の矯正領域24の内周縁とレンズ度数が−1.5Dから漸次に変化して−3.5Dとされた第一の矯正領域22の外周縁とが、レンズ幾何中心からの半径距離およそ1.3mmの周上で直接に接続されて、かかる周上に0.5Dの段差状の度数変化点が設定されていても良い。
なお、図3,図4は、本実施形態の老視用コンタクトレンズセット10を構成するバイフォーカルタイプおよびプログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズ12,14の一部を例示するに過ぎない。本実施形態の老視用コンタクトレンズセット10では、バイフォーカルタイプおよびプログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズ12,14の何れにおいても、第二の矯正領域24のレンズ度数として例えば0.5D毎に異なる多段階に設定されたものが準備され、更に、それら各段階の第二の矯正領域24のレンズ度数に対して、第一の矯正領域22の付加度数として例えば0.5D毎に異なる多段階に設定されたものが組み合わされて準備されることとなる。
具体的に例示すると、本実施形態の老視用コンタクトレンズセット10におけるバイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズ12としては、例えば、付加度数(ADD)を+4.50,+4.00・・・と順次に複数段階に異ならせたものを、使用者の遠方視に必要とされる矯正用のBASEレンズ度数(一般に近視矯正用レンズ度数)の各設定度数毎に準備したものが採用される。一方、本実施形態の老視用コンタクトレンズセット10におけるプログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズ14としては、例えば、付加度数を+0.50,+1.00・・・と順次に複数段階に異ならせたものを、使用者の遠方視に必要とされる矯正用のBASEレンズ度数の各設定度数毎に準備したものが採用される。
ここにおいて、後述する選択基準情報に基づく両タイプの選択使用条件を考慮して、準備する付加度数の上限値は、バイフォーカルタイプに比してプログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズ14の方を小さくする一方、準備する付加度数の下限値は、プログレッシブタイプに比してバイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズ12の方を大きくすることができる。これにより、BASEレンズ度数と付加度数との全ての組み合わせにおいて、バイフォーカルタイプとプログレッシブタイプとの両方の老視用コンタクトレンズ12,14をそれぞれ準備する場合に比して、老視用コンタクトレンズセット10を構成するのに必要とされる老視用コンタクトレンズ12,14の総数を効率的に抑えることが可能になる。
さらに、バイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズ12およびプログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズ14におけるそれぞれの第一の矯正領域22の外径寸法φCb,φCpは、0.5mm≦φCb,φCp≦5.0mmの範囲内に設定されることが好ましく、より好ましくは1.0mm≦φCb,φCp≦2.0mmの範囲内に設定される。また、老視用コンタクトレンズ12,14におけるそれぞれの第二の矯正領域24の外径寸法φDb,φDpは、8.0mm≦φDb,φDpとされることが好ましく、より好ましくは7.0mm≦φDb,Dpに設定される。なお、プログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズ14において、第一の矯正領域22および第二の矯正領域24におけるレンズ度数の径方向変化率は、1(D/mm)以下であることが好ましい。このように、径方向におけるレンズ度数変化率を小さく設定することにより、急激な見え方の変化が抑制される。
更にまた、移行領域26を設ける場合には、その径方向幅寸法Tが、0mm<T≦1.5mmの範囲内に設定されることが好ましく、より好ましくは0.3mm≦T≦0.9mmの範囲内に設定される。そして、移行領域26の径方向幅寸法Tの分だけ、第一の矯正領域22の外径寸法の減少や第二の矯正領域24の内径寸法の拡大が設定されることとなる。なお、移行領域26でつながれる第一の矯正領域22と第二の矯正領域24とのレンズ度数差(付加度数)は、特に限定されるものでなく、図3,図4に例示の0.5Dより小さくても良いし、2.5Dより大きくても良い。また、移行領域に設定されるレンズ度数の径方向変化率(D/mm)は限定されるものでない。尤も、第一の矯正領域22と第二の矯正領域24とのレンズ度数差の大きさに応じて、移行領域26の径方向幅寸法を異ならせても良い。
次に、上述の如き近用及び遠用のレンズ度数領域を備えたバイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズ12およびプログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズ14について、眼光学系の網膜上に与える光学像を検討するために、それぞれの変調伝達関数(MTF)を算出したものの具体例を示す。ここにおいて、第一の矯正領域22および第二の矯正領域24に設定される径寸法やレンズ度数により変調伝達関数も変化することから、以下に示される変調伝達関数は単なる例示であり、本発明において採用されるバイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズ12およびプログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズ14を何等限定するものではない。
なお、算出用の老視用コンタクトレンズは、図2(a),(b)の如き形状を有し且つ図3,4に示す光学特性を備えたバイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズ12およびプログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズ14であって、何れも、株式会社メニコンによる「2WEEKメニコン プレミオ」(商品名)の材料を用いて、ベースカーブ(B.C.):8.6mm、レンズ外径(DIA.):14.2mm、中心厚(C.T.):0.08mmの規格で想定したものである。かかる老視用コンタクトレンズにおける変調伝達関数の算出結果を図5および図6に示す。
図5および図6に示された変調伝達関数は、スルーフォーカス即ち焦点位置を変えた場合における像のコントラストの相対変化を示すものであり、横軸が焦点位置から算出されるレンズ度数(D)とされている一方、縦軸が相対コントラスト強度、即ち解像度とされている。なお、図5,6のそれぞれにおいて、実線が付加度数+0.50D、破線が付加度数+1.50D、一点鎖線が付加度数+2.50Dの各レンズの算出値である。かかる変調伝達関数の算出に際しては、屈折率として想定されたコンタクトレンズの材質から求められる屈折率(1.423)を採用すると共に、光の波長を546nm(e線)、空間周波数を視角1度あたり30サイクル(30cyc/deg)とした。なお、変調伝達関数の具体的な算出は、例えばシンクレア・オプティクス社(Sinclair Optics,Inc.)のオシロ・シックス(OSLO SIX)や、フォーカス・ソフトウェア社(Focus Software,Inc.)のゼマックス(ZEMAX)等を用いて行うことができる。
上記図5に示された算出結果から、バイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズ12では、何れの付加度数レンズにおいても、変調伝達関数に主なピーク即ち高解像度を示す顕著なピークが2カ所において明確に認められる。また、これらのピークにおけるレンズ度数は、バイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズ12に設定された近用レンズ度数および遠用レンズ度数となっている。即ち、変調伝達関数のピークの1つが遠用レンズ度数である略−4.00Dの位置に現れていると共に、もう1つの高解像度を示すピークが各レンズの付加度数に応じて−3.50D,−2.50D,−1.50Dの位置に現れている。
一方、プログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズ14では、上記図6に示された算出結果から、変調伝達関数における顕著なピークが、そのレンズ度数だけでなく数や大きさまでも、付加度数の設定値に応じて異なっていることが認められる。具体的には、付加度数が+0.50Dと小さい場合には、遠用レンズ度数(−4.00D)と合わさるようにして実質的に一つの大きなピークが認められ、且つ当該ピークの裾部の度数範囲が大きく広がって焦点深度も大きくなっている。そして、付加度数が+1.50D,+2.50Dと大きくなるに従って、最大ピーク値が小さくなると共に、略同程度の複数のピークが認められるようになり、遠用レンズ度数(−4.00D)におけるピーク値も小さくなっている。
これら図5および図6に示されている変調伝達関数の算出結果から、バイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズ12とプログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズ14について、見え方の相違を把握することができる。なお、図5,6は、各付加度数のレンズの算出結果を、絶対値レベルを合わせて表示したものであり、参考のために所定レベルの評価基準線28を表中に示しておく。
すなわち、バイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズ12では、図5に示された算出結果において、遠用レンズ度数と近用レンズ度数とに各対応する二つの明確なピークが認められることから、遠用点と近用点でそれぞれ高いコントラストが得られる。これら二つのピークが、何れも評価基準線28に満たない多くの小ピークに比して評価基準線28を充分に超えた略同等な大きさで認められる。
それ故、例えば付加度数が+2.50Dのように遠用レンズ度数と近用レンズ度数の差が大きい場合には、遠方または近方の一方の視認状態で、当該一方が明瞭にフォーカスされると共に他方が大きくデフォーカスされる。その結果、脳が一方のフォーカス像を容易に選択し得て明瞭な見え方を安定して得ることができると考えられる。
ところが、例えば付加度数が+0.50Dのように遠用レンズ度数と近用レンズ度数の差が小さい場合には、遠方および近方の一方の視認状態で、当該一方のフォーカス像に対する他方の像のデフォーカスの程度が小さくなり、両者の明瞭差が小さくなる。そのために、脳が一方のフォーカス像だけを選択し難くなり、デフォーカス像のダブりが認識されることにより見え方の質が低下してしまうおそれがあると考えられる。
一方、プログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズ14では、付加度数が+0.50Dのように遠用レンズ度数と近用レンズ度数の差が小さい場合には、実質的に一つの大きなピークにより、単焦点に近い解像度が広い焦点深度で得られることとなる。それ故、遠用点から近用点に至る広い視認領域において、目的とする像をダブりのない一つのフォーカス像として認識することが可能になり、良好な見え方を安定して得ることができると考えられる。
ところが、例えば付加度数が+2.50Dのように遠用レンズ度数と近用レンズ度数の差が大きい場合には、複数発生するピークが何れも小さくなって全体的に解像度が低くなってしまう。そのために、何れの距離の点においても明瞭な像を視認することが困難となり、見え方の質が低下してしまうおそれがある。
なお、図5,6に示された変調伝達関数の把握を容易とするために、比較例として、図7に示されているように光学部に一定(−4.0D)のレンズ度数が設定された単焦点タイプのコンタクトレンズにおける変調伝達関数の測定結果を図8に示す。因みに、図5,6中に示した評価基準線28は、かかる比較例の単焦点レンズの変調伝達関数の最大値に対して25(%)のラインとして、実用上で明瞭視可能なレベルを表したものである。
而して、上述の如きバイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズ12とプログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズ14との各複数種類ずつの組み合わせからなるレンズセットを含んで構成された本実施形態の老視用コンタクトレンズセット10では、図3,4に示される如き光学特性だけでなく、図5,6に示される如き変調伝達関数についても、両タイプにおける特徴や相違点などを考慮したうえで、選択基準情報体15によって提供される選択基準に基づいて使用者毎に何れかのタイプが選択されて適用されることとなる。
ここにおいて、両タイプの何れの老視用コンタクトレンズ12,14を選択するかに際して考慮されるべき選択基準情報は、近方視で想定される視認対象距離の情報と老視用コンタクトレンズ使用者の装用眼に残存する調節能力の情報を含む。
前者の近方視で想定される視認対象距離の情報は、例えば、老視用コンタクトレンズ使用者の近方作業時における装用眼から視認対象までの距離であり、老視用コンタクトレンズを装用することにより使用者が略ぼやけることなく視認可能となることを希望する近方の距離である。視認対象距離の具体的な数値は何等限定されるものではない。例えば、読書等に際しては一般的な視認対象距離はおよそ33cmとされているが、パソコンの入力等の作業に際しては視認対象距離は更に大きな値が選択され得る一方、精密な作業に際しては更に小さな値が選択され得る。このように、近方視で想定される視認対象距離は、主に使用者の生活環境などに合わせて、使用者毎に設定される情報である。
また、後者の老視用コンタクトレンズ使用者の装用眼に残存する調節能力の情報は、老視用コンタクトレンズ装用時に残存する調節能力、即ち使用者の眼光学系が有する近方の物体に焦点を合わせる能力(D)を表している。一般的に人眼の調節能力は加齢とともに減退するため、遠方視の能力を満たす眼光学系において近方の物体を明瞭に視認することが困難となり、これが老視の症状となって現れる。この老視眼に残存する調節能力の測定方法は、例えば、以下の通りである。先ず、所定距離の遠方を視認可能とするためのレンズ度数を有するコンタクトレンズや眼鏡を対象眼に装用して、遠方に対して焦点を合わせ得るようにする。なお、目的とする遠方が視認可能であることの確認には、例えば、ランドルト環等を用いた視力表等が採用され得る。その後、かかる遠方視に必要とされるレンズ度数で補正した眼光学系において、例えば、新聞等の目視対象をゆっくりと眼前に近づける。そして、紙面がぼやける等して文字の認識が困難となった地点から対象眼までの距離を測定する。或いは、新聞等を眼前でぼやける状態で保持して、ここからゆっくりと遠ざけて、文字の認識が可能となった地点から対象眼までの距離を測定しても良い。または、これらの測定を順次行ったり、同一の測定を複数回繰り返したりして、平均値を算出しても良い。或いは、オートレフメーターやオートレフケラトメーターなどを用いて、老視眼の残存調節能力を光学的に自動測定することも可能である。このような測定により求められる距離が、残存調節能力により調節され得る焦点距離の近点であり、100をかかる近点距離F(cm)で除した値が残存調節能力(D)とされる。
ところで、眼に残存する調節能力は、老視の進行に伴って低下することとなる。また、老視は、一般に目標とする近点を明瞭に視認できない成熟老視の状態をいうと理解されていることも多いが、目標とする近点を明瞭に視認できる残存調節能力が存在している状態でも、補正すべき初期老視が存在する。即ち、初期老視では成熟老視に比較して残存調節能力が大きく、遠方視から近方視に視点を移した際に、対象者自身の眼光学系の調節能力で近方の物体に焦点を合わせることが可能であることが多い。しかし、劣った調節能力で見えるぎりぎりの距離にある近方を見続けなければならない近方作業等を長時間に亘って行うと、見え方がばやけたり、疲れたり、頭痛等を伴う眼精疲労などが症状として現れるおそれがある。
そこで、このような初期老視における症状は、例えば、比較的小さい付加度数が設定された老視用コンタクトレンズを採用して、残存調節能力を光学的に補って、目標とする近方視の距離よりも近くまで明瞭視できる距離を与えることによって緩和することができると考えられる。換言すれば、調節能力に余力を残した状態で対象者が近方作業を行うことにより、初期老視における症状を緩和することが出来ると考えられる。要するに、残存調節能力が小さく、遠方視から近方視に視点を移した際に、対象者自身の調節能力で近方の物体に焦点を合わせることが不能である成熟老視に比して、小さい付加度数が設定された老視用コンタクトレンズを適用することにより、初期老視における近方視が改善され得るのである。
具体的な数値を例示して説明する。例えば、近方視で想定される視認対象距離を33(cm)とすると、そのディオプター値(100を近方視で想定される視認対象距離で除した数値)は略3.0Dとなる。この場合、遠方視から近方視へ視点を移す際に、近方視で想定される視認対象距離にある物体を明瞭に視認するためには3.0Dの調節能力が必要とされる。従って、残存調節能力が3.0Dに満たない場合は、対象者自身の調節能力で近方の物体に焦点を合わせることが不能な成熟老視とされる。一方、残存調節能力で近方の物体の視認を可能とする場合(本具体例では3.0D以上)であっても、残存調節能力が、例えば必要とされる値の1.5倍(本具体例では4.5D)未満であれば、長時間に亘って近方作業を行うと眼精疲労等の症状が現れるおそれがある、上述の初期老視とみなすことができる。そして、成熟老視と初期老視の何れにおいても、老視用コンタクトレンズ12,14の適用対象とすることが望ましい。なお、このことから明らかなように、老視用コンタクトレンズに設定される付加度数は、初期老視の場合は比較的小さい値となる一方、成熟老視の場合は比較的大きい値となることから、初期老視の場合にはプログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズ12が好適に採用される一方、成熟老視の場合にはバイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズ14が好適に採用される。
而して、このようにして使用者毎に取得された近方視で想定される視認対象距離の情報と老視用コンタクトレンズ使用者の装用眼に残存する調節能力の情報とに基づいて、選択基準情報体15によって提供される情報を併せて考慮することにより、当該使用者に適合するレンズタイプが、客観的に選択されることとなる。
選択基準情報体15によって与えられる情報は、近方視で想定される視認対象距離と装用眼に残存する調節能力との情報に基づいて老視用コンタクトレンズ12,14の何れかを選択するのに資する情報であり、具体的には以下の(A)〜(E)が例示される。なお、これら(A)〜(E)のうち、(C),(D),(E)は、他の情報と適宜に組み合わせて採用することが可能である。
(A) 遠方視に必要とされるレンズ度数で補正した使用者の眼光学系において近方視で想定される視認対象距離を明視するのに必要とされる付加度数を指標とし、かかる指標に関する閾値を情報として提供するものであって、当該閾値より付加度数が小さい場合にはプログレッシブタイプを選択する一方、閾値より付加度数が大きい場合にはバイフォーカルタイプを選択することを指示する選択基準情報。
(B) 上記(A)と同じ付加度数を指標とし、当該付加度数が必要ない場合にはプログレッシブタイプを選択することを指示する選択基準情報。
(C) 使用者に処方される老視用コンタクトレンズにおいて遠用レンズ度数に対して近用レンズ度数に加えられている付加度数を指標とし、かかる付加度数が2.0ディオプター未満の場合にはプログレッシブタイプを選択することを指示する選択基準情報。
(D) 上記(C)と同じ付加度数を指標とし、かかる付加度数が2.0ディオプター以上の場合にはバイフォーカルタイプを選択することを指示する選択基準情報。
(E) レンズ度数を横軸にして変調伝達関数の算出値を表したMTFグラフで、遠用レンズ度数と近用レンズ度数との各別の極大値が認められずに一つの極大値として現れる場合には、同じ設定度数のバイフォーカルタイプに優先してプログレッシブタイプを選択することを指示する選択基準情報。
上記(A)について具体的に説明する。バイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズ12とプログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズ14とを選択する付加度数の閾値は、特に限定されるものでなく、好適には+0.5〜+3.0Dの範囲内の値に設定され、より好適には+1.0〜2.0Dの範囲内の値に設定される。例えば、かかる閾値を+1.60Dとした場合には、付加度数が+1.60Dより大きい場合にバイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズ12が選択される一方、+1.60Dより小さい場合にプログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズ14が選択されることとなる。
なお、かかる閾値は複数決定されても良く、例えば、第一の閾値を+1.00Dとして、かかる第一の閾値(+1.00D)より付加度数が小さい場合にはプログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズ14が選択されるようにすると共に、第二の閾値を+1.75Dとして、かかる第二の閾値(+1.75D)より付加度数が大きい場合にはバイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズ12が選択されるようにしても良い。この際、第一の閾値(+1.00D)と第二の閾値(+1.75D)の中間の付加度数が設定される場合には、バイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズ12とプログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズ14の何れかを、例えば使用者が経験や使用者の主観等を考慮して選択し得るようにしても良いし、別の選択基準を設けて選択可能にしても良い。
上記(B)について具体的に説明する。ここでは、前記(A)と同じ付加度数を指標とするが、かかる付加度数が必要か否かという選択基準情報が与えられる。換言すれば、(B)では老視の進行程度、即ち初期老視か否かに応じてレンズタイプを選択する情報を提供するものとも考えられる。即ち、(B)に従えば、付加度数が0の初期老視である場合には、プログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズ14を選択することとなる。なお、付加度数が0に近い成熟老視の場合でも、使用者の主観等に応じてバイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズ12を選択しても良い。
上記(C)について具体的に説明する。かかる(C)は、老視用コンタクトレンズ12,14の光学特性等に関するデータを統計学的に考慮して、選択基準を与えるものである。具体的には、例えば遠用レンズ度数が−4.0Dで且つ近用レンズ度数が−3.5D(付加度数が+0.5D)のように、付加度数が+2.0D未満の場合はプログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズ14が選択される。
上記(D)も、(C)と同様に統計学的な見地から選択基準を与えるものであり、例えば遠用レンズ度数が−4.0Dで且つ近用レンズ度数が−2.0D(付加度数が+2.0D)のように、付加度数が+2.0D以上の場合はバイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズ12が選択される。
上記(E)について具体的に説明する。例えばプログレッシブタイプとバイフォーカルタイプの二種類の老視用コンタクトレンズが、何れも遠用レンズ度数:−4.0D,近用レンズ度数:−3.5Dのように、同じ設定レンズ度数とされている場合でも、各レンズのMTFグラフは互いに異なる。そこで、同じ設定レンズ度数のレンズにおけるMTFグラフで、遠用レンズ度数と近用レンズ度数との各別の極大値が認められずに一つの極大値として現れる場合には、バイフォーカルタイプに優先して当該プログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズが選択されることとなる。
なお、遠用レンズ度数と近用レンズ度数との差として設定されるレンズの付加度数は、使用者において近方視で想定される視認対象距離と装用眼に残存する調節能力とに基づいて求められる。例えば、バイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズ12が採用される場合には、余力を残して眼精疲労を軽減等する趣旨から、残存調節能力に1/2や2/3等の係数を乗じて、例えば、(近方視に必要とされる調節能力)=(残存調節能力)×(1/2)+(付加度数)とするレンズの付加度数算出方法が採用され得る。即ち、係数が1/2とされる場合は残存調節能力の1/2を利用するものであり、残りの1/2は余力とされる。また、係数が2/3とされる場合は残存調節能力の2/3を利用するものであり、残りの1/3は余力とされる。かかる係数を1/2および2/3とする調節法をバイフォーカルタイプにおける1/2法およびバイフォーカルタイプにおける2/3法とする。
一方、例えば、プログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズ14が採用される場合には、余力を残して眼精疲労を軽減等する趣旨から、近方視で想定される視認対象距離よりも近方まで、例えばかかる視認対象距離に1/2や2/3等の係数を乗じた距離までを視認可能となるようにレンズの付加度数が設定される。具体的には、[{(近方視で想定される視認対象距離)×(1/2)}を視認可能とするのに必要とされる調節能力]=(残存調節能力)+(付加度数)とするレンズの付加度数算出方法が採用され得る。即ち、係数が1/2とされる場合は視認対象距離に1/2を乗じた距離までが余力を残して視認できる距離とされる。また、係数が2/3とされる場合は視認対象距離に2/3を乗じた距離までが余力を残して視認できる距離とされる。かかる係数を1/2および2/3とする調節法をプログレッシブタイプにおける1/2法およびプログレッシブタイプにおける2/3法とする。
なお、上記におけるレンズの付加度数算出方法は単なる例示であって、本発明における付加度数について何等限定するものではない。また、かかる調節法の係数および算出方法は老視の進行状況に応じて設定することが出来る。例えば、成熟老視の場合は、比較的高い付加度数が要求されると共に余力を大きく残したいことから、バイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズ12における1/2を係数とする1/2法が好適に採用される。一方、初期老視の場合は比較的小さい付加度数が要求されると共に余力を大きくする必要がないことから、プログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズ14における2/3を係数とする2/3法が好適に採用される。
さらに、本実施形態において上述の如きレンズタイプの選択に参照される選択基準情報を提供する選択基準情報体15は、かかる選択基準情報を数式やグラフ、表等を用いて直接に記載した冊子やパンフレット、パッケージ、包装などの他、電子情報として記憶させた半導体記憶装置や光学記憶装置等を採用することも可能である。更にまた、例えばインターネットのウェブサイト上で、サイト上にある選択基準情報体15の選択基準情報を公開して提供することも可能である。
以上のような構成とされた本発明の老視用コンタクトレンズセット10によれば、バイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズ12とプログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズ14とを、客観的な選択基準情報に基づいて、各使用者の装用眼に適した老視用コンタクトレンズを容易に且つ安定して、高い信頼性のもとに提供することが可能になる。
また、本発明の老視用コンタクトレンズセット10では、同一のセット内にバイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズ12とプログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズ14が含まれており、例えば従来のように両タイプの老視用コンタクトレンズ12,14を別々に提供を受ける場合と比較して、コンタクトレンズ販売者による老視用コンタクトレンズの管理や保管の労力が大幅に軽減されて作業の効率化が図られ得る。
加えて、従来では、バイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズセットとプログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズセットとが、別の商品として提供されていたが、本実施形態では一つの商品として材質や光学特性を共通又は類似させて両タイプの老視用コンタクトレンズが提供される。それ故、バイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズ12とプログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズ14における装用感や見え方の差異が可及的に抑えられて、老視の進行等に伴う両タイプ間での移行もスムーズに行われて、使用者の負担軽減も図られる。
また、本実施形態のバイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズ12およびプログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズ14では、第一の矯正領域22と第二の矯正領域24の間に移行領域26が設けられている。このことから、近方視から遠方視、または遠方視から近方視へと視界を変化させる際に、滑らかな視界の移行が可能とされる。
次に、本発明の第二の実施形態としての老視用コンタクトレンズセットについて説明する。なお、本実施形態において、老視用コンタクトレンズセット、およびかかるセットを構成するバイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズおよびプログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズの形状は前記実施形態と略同一であるため、図示を省略する。また、以降の説明において、前記第一の実施形態と同一の部位について前記第一の実施形態と同一の符号を付すことにより、詳細な説明を省略する。
図9,10には、それぞれ本実施形態のバイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズおよびプログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズにおける光学特性としてのレンズ度数分布が、幾つかを選出した具体例として示されている。本実施形態では、前記第一の実施形態と比べて、バイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズおよびプログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズのそれぞれの光学部における第一の矯正領域22と第二の矯正領域24に設定されるレンズ度数を反対にしたものである。即ち、光学部の中央部分である第一の矯正領域22が遠用領域とされている一方、第二の矯正領域24が近用領域とされている。また、それぞれの両領域22,24の間には移行領域26が形成されている。なお、本実施形態の光学部における各寸法は、前記第一の実施形態と略等しくされている。
なお、図9に示されたバイフォーカルタイプの具体例では、第一の矯正領域22および第二の矯正領域24に設定される遠用レンズ度数および近用レンズ度数が、前記第一の実施形態と略等しくされている。即ち、遠用レンズ度数は−4.00Dで一定と設定されていると共に、付加度数として+0.50D、+1.50D、+2.50Dが設定されて、近用レンズ度数としてそれぞれ−3.50D、−2.50D、−1.50Dが設定されている。また、移行領域26に設定される中間用レンズ度数は、それぞれの近用レンズ度数と遠用レンズ度数の中間のレンズ度数が設定されている。
更にまた、図10に示されたプログレッシブタイプの具体例では、遠用レンズ度数として、レンズ幾何中心が−4.00Dに設定されている。また、付加度数として+0.50D、+1.50D、+2.50Dが設定されており、近用レンズ度数が−3.50D、−2.50D、−1.50Dとされている。また、遠用レンズ度数は、レンズ幾何中心から第一の矯正領域22の内周縁まで、−4.00Dからそれぞれの近用レンズ度数まで次第に変化するように設定されている。なお、本実施形態のプログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズにおいても移行領域26が形成されており、前記第一の実施形態と同様に、設計上、第一の度数領域22の一部のように形成されている。
さらに、図11,12には、それぞれ図9,10に示されているバイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズおよびプログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズの老視用コンタクトレンズの変調伝達関数(MTF)が示されている。なお、図11,12において、実線が付加度数+0.50D、破線が付加度数+1.50D、一点鎖線が付加度数+2.50Dとされている。なお、図11,12中においても、前記第一の実施形態の図5,6と同様に、評価基準線28を示す。
図11に示されている変調伝達関数からも明らかなように、本実施形態のバイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズにおいては、前記第一の実施形態のバイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズ12と同様に、何れの付加度数レンズにおいても、変調伝達関数に近用レンズ度数および遠用レンズ度数由来の主なピーク、即ち高解像度を示す顕著な極大値が2カ所において明確に認められる。
また、図12に示されている本実施形態におけるプログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズによる変調伝達関数も前記第一の実施形態におけるプログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズ14による変調伝達関数と同様である。即ち、付加度数が+0.50Dと小さい場合には、遠用レンズ度数(−4.00D)と合わさるようにして実質的に一つの大きなピークが認められ、且つ当該ピークの裾部の度数範囲が大きく広がって焦点深度も大きくなっている。そして、付加度数が+1.50D,+2.50Dと大きくなるに従って、最大ピーク値が小さくなると共に、略同程度の複数のピークが認められるようになり、遠用レンズ度数(−4.00D)におけるピーク値も小さくなっている。
これらのことから、本実施形態におけるバイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズも前記第一の実施形態におけるバイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズ12と同様の特性を示す。即ち、例えば付加度数が+2.50Dのように遠用レンズ度数と近用レンズ度数の差が大きい場合には、遠方または近方の一方の視認状態で、当該一方が明瞭にフォーカスされると共に他方が大きくデフォーカスされる。一方、付加度数が+0.50Dのように遠用レンズ度数と近用レンズ度数の差が小さい場合には、遠方または近方の一方の視認状態で、当該一方のフォーカス像に対する他方の像のデフォーカスの程度が小さくなり、両者の明瞭差が小さくなる。
一方、本実施形態におけるタイプの老視用コンタクトレンズも前記第一の実施形態におけるバイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズ12と同様の特性を示す。即ち、付加度数が+0.50Dのように遠用レンズ度数と近用レンズ度数の差が小さい場合には、実質的に一つの大きなピークにより、単焦点に近い解像度が広い焦点深度で得られることとなる。これに対して、例えば付加度数が+2.50Dのように遠用レンズ度数と近用レンズ度数の差が大きい場合には、複数発生するピークが何れも小さくなって全体的に解像度が低くなってしまう。
従って、本実施形態のように、前記第一の実施形態と比べて第一の矯正領域22および第二の矯正領域24に設定されるレンズ度数を反対としたとしても、大きな付加度数が設定される場合はバイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズが好適であり、小さな付加度数が設定される場合はプログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズが好適であると考えられる。
このことから、本実施形態においても、前記第一の実施形態と同様のバイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズとプログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズとの選択方法が採用され得ると共に、本実施形態における老視用コンタクトレンズセットも、前記第一の実施形態と同様の効果が発揮され得る。
以下に、前記第一および第二の実施形態において記載した選択方法に従い、老視用コンタクトレンズセットからバイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズまたはプログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズを選択した実施例1〜3について説明する。なお、かかる実施例は本発明を何等限定するものではない。
[実施例1]
実施例1では、付加度数の高い(High:+2.00D〜+3.00D)バイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズ、付加度数の低い(Low:+0.50D〜+1.50D)バイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズ、付加度数の高い(High:+2.00D〜+3.00D)プログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズ、付加度数の低い(Low:+0.50D〜+1.50D)プログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズの4種類の老視用コンタクトレンズを老視の症状を示す被験者に装用して、見え方の鮮明性について官能試験を行った。
先ず、それぞれの被験者は遠方の視力標に焦点が合うように視力を矯正して、かかる眼光学系において近方の新聞紙面を認識可能か、或いは認識不能かを判定した。ここで、近方の新聞紙面は33(cm)に固定した。即ち、前記実施形態の近方視で想定される視認対象距離を33(cm)とするものであり、かかる距離を認識可能とする調節能力はおよそ3Dである。従って、各被験者が近方の新聞紙面を認識可能であれば残存調節能力は3Dより大きいとされ、認識不能であれば残存調節能力は3Dより小さいとされる。このように、残存調節能力3Dを分岐として各被験者を、残存調節能力大、即ち初期老視と残存調節能力小、即ち成熟老視の2タイプに分類した。
次に、被験者に上記4種類の老視用コンタクトレンズを装用して、遠方の視力標と近方の新聞紙面を鮮明に視認可能か、或いは像がぼやけたり歪んだりして鮮明な視認が不能かを判定した。そして、老視用コンタクトレンズを装用した被験者のうち、遠方視、近方視ともに鮮明に視認可能とされる人数を確認して、この割合を適応率としてパーセンテージで表した。
以下の表1にかかる官能試験の結果を示す。例えば、表1中の上段の最も左の欄では、残存調節能力大とされる7名において、小さな付加度数が設定されたバイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズを装用した際に、3名が遠方視、近方視共に鮮明に視認可能と判断しており、適応率が43%であることが示されている。
表1中において、残存調節能力の小さい被験者に対して付加度数が大きく設定されたバイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズを装用した場合、および残存調節能力の大きい被験者に対して付加度数が小さく設定されたプログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズを装用した場合の適応率が、その他と比較して大きな値を示していることが理解され得る。この結果は、残存調節能力の小さい、即ち成熟老視の患者には付加度数の大きなバイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズが特に好適であり、また、残存調節能力の大きい、即ち初期老視の患者には付加度数の小さなプログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズが特に好適であることを示している。なお、その他の場合においても、適応率が0%を示すことはなく鮮明に見える被験者も存在していることから、本発明の選択方法が、例えば、成熟老視の患者には付加度数の大きなバイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズが選択される、或いは初期老視の患者には付加度数の小さなプログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズが選択されることに限定されるものではない。
[実施例2]
実施例2では、老視の症状を示す対象者を想定して、前記実施形態に記載したバイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズとプログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズの選択方法の具体的な1例を表2に示す。例えば、表2中に記載されている情報が選択基準情報として採用され得て、選択基準情報体15により対象者やコンタクトレンズ処方者に提供され得る。
本実施例では、先ず、近方視で想定される視認対象距離を33(cm)に決定して、これに伴い、必要とされる調節能力が3.0Dに決定される。次に、所定距離の遠方(表中では無限遠)を視認可能とするように視力が矯正される。かかる眼光学系において、遠方から物体を徐々に眼前に近づける。そして、眼前において、かかる物体がぼやけることがなく明瞭に視認可能な範囲が明視域とされる。例えば表中の最上段では、明視域が∞〜100(cm)とされており、即ち100(cm)より眼前では物体が明瞭には視認できないことを示している。かかる明視域の最も眼前までの距離をF(cm)として、100/Fを計算する。これにより対象者の残存調節能力(D)が算出される。
次に、遠方を視認可能とする眼光学系において、視認対象距離に位置する近方の物体が認識可能であるかを判定して、認識可能であれば○、認識不能であれば×とされている。本実施例では、近方の物体は眼前の33(cm)に位置しており、明視域が∞〜33(cm)より広い対象者は認識可能であるので○とされる。或いは、かかる物体を視認可能とするために必要な調節能力は3.0Dであり、残存調節能力が3.0D以上の対象者は認識可能であるので○とされる。一方、明視域が∞〜33(cm)より狭い対象者、換言すれば残存調節能力が3.0Dより小さい対象者は、近方の物体が認識不能であるため×とされて、成熟老視と判断される。
成熟老視と判断された対象者には、最適な老視用コンタクトレンズとしてバイフォーカルタイプが選択される。また、調節法としてバイフォーカルタイプにおける1/2法が選択されて、必要とされる調節能力と装用眼の残存調節能力に基づいて、最適な付加度数が算出される。
一方、近方物体視認可能の欄が○な対象者は初期老視、或いは初期老視まで老視が進行していないと判断される。かかる対象者には調節法としてプログレッシブタイプにおける2/3法が選択されて、必要とされる調節能力と装用眼の残存調節能力に基づいて、最適な付加度数が算出される。ここで、かかる付加度数が0より大きい対象者は初期老視と判断されて、プログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズが選択される。一方、かかる付加度数が0、または、算出の結果、0より小さくなる対象者は、老視が初期老視まで進行していないと判断されて、本実施例では単焦点タイプのコンタクトレンズが選択されている。具体的には、本実施例においては、近方の物体が33cmの位置にあり、プログレッシブタイプにおける調節法が採用された場合には、33(cm)に(2/3)を乗じて遠方から22(cm)までが視認可能とされるように調節される。その際、必要とされる調節能力は4.5D であり、残存調節能力が4.5D以上の対象者の場合、かかる対象者は余力を持って近方の物体を視認可能と判断されることから、老視が初期老視まで進行していないと判断される。
本実施例では、以上の方法により、老視用コンタクトレンズセットからバイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズとプログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズとの何れかが選択されると共に最適な付加度数が決定されている。なお、本実施例では、初期老視まで老視が進行していない対象者、即ち付加度数の設定が不要とされる対象者には単焦点タイプのコンタクトレンズが選択されている。
なお、バイフォーカルタイプにおける1/2法と2/3法の切換え点において、設定される最適な付加度数に比較的大きな度数差があり、具体的には1.00Dと1.75Dである。同様に、プログレッシブタイプにおける1/2法と2/3法の切換え点において、設定される最適な付加度数に比較的大きな度数差があり、具体的には1.50Dと3.50Dである。そして、バイフォーカルタイプにおける1/2法およびプログレッシブタイプにおける2/3法により算出される最適な付加度数が、かかる度数差を相互に補完するように設定されることからも、付加度数の大きいバイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズ12と付加度数の小さいプログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズ14が効果的であることが理解できる。
[実施例3]
実施例3では、老視の症状を示す対象者を想定して、前記実施形態に記載したバイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズとプログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズの選択方法の具体的な別例を表3に示す。
本実施例では、近方の物体位置、即ち近方視で想定される視認対象距離が20(cm)に設定されており、このことから必要とされる調節能力は5.0Dとされる。具体的な選択方法は前記実施例2と同様であるため、詳細な説明は省略するが、簡単に説明すると、残存調節能力が5.0D以下とされる対象者は成熟老視と判断される。これにより、バイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズが選択されると共に、調節法としてバイフォーカルタイプにおける1/2法が選択されて、最適な付加度数が算出される。
一方、残存調節能力が5.0Dから7.5D未満の対象者は初期老視と判断されてプログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズが選択されると共に、調節法としてプログレッシブタイプにおける2/3法が選択されて、最適な付加度数が算出される。更に、残存調節能力が7.5D以上の対象者は初期老視まで老視が進行していないと判断されて、本実施例では、単焦点タイプのコンタクトレンズが選択されている。
なお、実施例2と同様に、バイフォーカルタイプおよびプログレッシブタイプにおける1/2法と2/3法の切換え点において、設定される最適な付加度数に比較的大きな度数差があり、バイフォーカルタイプにおける1/2法およびプログレッシブタイプにおける2/3法により算出される最適な付加度数が、かかる度数差を相互に補完するように設定される。従って、例えば、近方視で想定される視認対象距離が変化しても、付加度数の大きいバイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズ12と付加度数の小さいプログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズ14が効果的であることが理解できる。
なお、実施例2,3において、具体的な数値をもってバイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズとプログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズとの選択方法を例示したが、選択方法はかかる選択方法に限定されるものではないことは明らかである。
以上、本発明の実施形態および実施例について詳述してきたが、本発明はその具体的な記載によって限定されない。例えば、図1中においては、バイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズ12およびプログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズ14のそれぞれにおいて、付加度数を複数種類異ならせて付加させた態様が示されているが、付加度数は1種類でもよい。
さらに、バイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズ12として図13に示されているようなレンズ度数分布を示す老視用コンタクトレンズが採用されても良いし、プログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズ14として図14に示されているようなレンズ度数分布を示す老視用コンタクトレンズが採用されても良い。即ち、前記実施形態では、移行領域26に設定される中間用レンズ度数は近用レンズ度数から遠用レンズ度数まで直線的に、或いは次第に近づくように滑らかに変化していたが、かかる態様に限定されない。要するに、移行領域26の所定領域において、近用レンズ度数と遠用レンズ度数の中間のレンズ度数が一定に設けられていても良い。なお、図13,14に示されているレンズ度数分布はそれぞれ、図3,4に示されているレンズ度数分布と同様に、光学部の中央部分である第一の矯正領域22が近用領域とされている一方、かかる第一の矯正領域22の外周部分が第二の矯正領域24である遠用領域とされている。そして、移行領域26中に一定のレンズ度数が複数設けられており、近用レンズ度数から遠用レンズ度数まで段階的に変化するようにされている。
また、従来から近用領域と遠用領域を有する老視用コンタクトレンズは、同時視タイプと交代視タイプの2タイプに大別される。例えば、特許文献1〜3には交代視タイプの老視用コンタクトレンズが示されており、光学部の略下半部が近用領域とされている一方、光学部の略上半部が遠用領域とされている。また、特許文献4,5には同時視タイプの老視用コンタクトレンズが示されており、光学部において近用領域と遠用領域が同心円状に設けられている。前記実施形態のバイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズ12およびプログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズ14は何れも同時視タイプとされていたが、何れも交代視タイプとされても良い。或いは、バイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズとプログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズの一方が同時視タイプ、他方が交代視タイプとされても良いが、両老視用コンタクトレンズとして同一のタイプが採用されることが好ましい。
さらに、前記実施形態におけるプログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズ14では、第一の矯正領域22および第二の矯正領域24に設定される近用レンズ度数または遠用レンズ度数の一方が一定とされていたが、かかる一定とされる領域が実質的に略0とされてもよく、即ち光学部の全体に亘ってレンズ度数が次第に変化するようにされても良い。また、図15,16に示されているプログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズ14のように、第一の矯正領域22および第二の矯正領域24に設定されるレンズ度数のどちらもが一定とされる領域を備えておらず、次第に変化するようにされていてもよい。特に、図16に示されているプログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズ14では、第一の矯正領域22と第二の矯正領域24の境界(レンズ幾何中心からの距離が1.5mmの地点)においてレンズ度数が折れ点を有しないで滑らかに変化しており、近方視と遠方視の更なる円滑な移行が実現され得る。
また、本発明において、レンズ度数が一定の領域は、球面収差等による若干の度数変化が存在している場合を含む。例えば、図17(a)には光学部の中央部分と外周部分に対して各一定の異なるレンズ度数が設定されたバイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズにおけるレンズ度数分布の測定結果の一例が示されている。また、図17(b)には、図17(a)におけるバイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズについての光学部中央部分の外周端における拡大図が示されている。また、図18には、光学部の中央部分が次第に変化するレンズ度数とされている一方、光学部の外周部分のレンズ度数が一定とされたプログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズにおけるレンズ度数分布の測定結果の一例が示されている。これら図17(a),(b)、図18に示されているように、何れも一定のレンズ度数の設定領域であるバイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズにおける光学部中央部分と外周部分、およびプログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズにおける光学部外周部分の各領域において、外周側に行くに従って大きくなるような主に球面収差に因ると考えられる程度の度数変化が、実測値として認められる。
このようなずれは、コンタクトレンズに設定されるレンズ度数が一定とされる領域を球面形状として製造する際には球面収差として生じるものであることから、若干の度数変化が生じているとしても一定のレンズ度数として考慮されるべきである。
また、バイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズは、例えば、近用領域と遠用領域が同心円状に交互に設けられた回折型の老視用コンタクトレンズとされてもよい。更に、バイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズおよびプログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズの少なくとも一方にはそれぞれ乱視矯正用のレンズ度数が設定されても良く、即ちトーリックレンズとされても良い。更にまた、バイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズおよびプログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズの少なくとも一方はコンタクトレンズの中央に光学部が設けられていなくても良い。即ち、光学部はコンタクトレンズの中央から周方向の何れかの方向に偏倚していても良く、所謂ディセンターレンズとされても良い。その際、コンタクトレンズの周方向を判別するためのマーク等が付されていても良いし、コンタクトレンズの周辺部が部分的に厚肉や薄肉とされて位置決め効果を発揮するようにしても良い。
さらに、基本的には、残存調節能力は両眼で測定されて、バイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズ12とプログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズ14の何れか同じ種類の老視用コンタクトレンズが両眼に装用される。しかしながら、左右眼で残存調節能力に大きな差がある場合等においては、例えば、残存調節能力の大きな眼にプログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズ14を、残存調節能力の小さな眼にバイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズ12を装用する、即ちモノビジョン或いはモディファイドモノビジョンと呼ばれる装用方法も可能である。
更にまた、残存調節能力は対象者毎に測定する必要はない。残存調節能力は加齢とともに減退するため、例えば、年齢と残存調節能力に関する既知のデータ等を考慮して、対象者の年齢から残存調節能力を推定することも可能である。また、かかる残存調節能力の測定方法は前記実施形態に記載した方法に限定されず、例えば、近点計やアコモドポリレコーダーのような機器によって他覚的に測定しても良い。
さらに、バイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズおよびプログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズは、前記実施形態のような円形に限定されない。例えば、両老視用コンタクトレンズは楕円形であっても良いし、コンタクトレンズにおける下側の所定領域を弦方向に切断したトランケーションレンズであっても良い。
10:老視用コンタクトレンズセット、12:バイフォーカルタイプの老視用コンタクトレンズ、14:プログレッシブタイプの老視用コンタクトレンズ、15:選択基準情報体、22:第一の矯正領域、24:第二の矯正領域、26:移行領域