JPWO2013100140A1 - 生殖細胞からの多能性幹細胞様細胞の誘導 - Google Patents

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Abstract

生殖幹細胞から効果的に多能性幹細胞を誘導する方法を提供する。Sox2及び/又はOct4が過剰発現された生殖幹細胞を用いることにより、従来の方法に比べて効率よく多能性幹細胞様細胞を誘導しうる。生殖幹細胞について、Dnmt1遺伝子、Dmap1遺伝子Dmrt1遺伝子及びOct1遺伝子から選択される1種又は複数種の遺伝子を抑制するか、Sox2遺伝子及び/又はOct4遺伝子を過剰発現させるか、あるいはSox2及び/又はOct4のタンパク質を直接導入することなどによる。係る方法により、従来の方法に比べて生殖幹細胞から効率よく多能性幹細胞様細胞を誘導しうる。

Description

本発明は、生殖幹細胞由来多能性幹細胞様細胞に関する。より詳しくは、生殖幹細胞から効果的に多能性幹細胞様細胞を誘導する方法に関する。
本出願は、参照によりここに援用されるところの米国仮出願61/581172号優先権を請求する。
生殖細胞(germ cell)は子孫へ遺伝子を伝播する能力を有する点でユニークである。この細胞は生殖のための配偶子を作るために高度に特殊化されているが、多くの証拠によりこの細胞の多能性が示唆されている。例えば、テラトーマ(teratoma)は、生殖腺にほとんど常に発生し、多様な成熟段階の多種の細胞や組織を含む。さらに、胎仔生殖細胞は特殊な条件下で培養したときに、多能性細胞を生じることが知られている。これらの胚性生殖細胞(embryonic germ cell:EG細胞)は内部細胞塊(inner cell mass)から単離した胚性幹細胞(embryonic stem cell:ES細胞)に類似した分化特性を有している。これらの知見は、生殖系列(germline lineage)細胞は多能性細胞を生み出す能力を維持していることを強く示唆するが、出生後の正常生殖腺から多能性細胞が確立できたことはない。ES細胞及びEG細胞は、いずれも出生前の胚あるいは胎仔から採取されるので、ヒトへの臨床応用に際しては、倫理上の大きな問題を有しており、出生後の個体から多能性細胞を樹立する技術の開発が求められていた。
体内において子係へ遺伝情報を伝えることのできる唯一の幹細胞である、精原幹細胞のin vitroでの培養方法が本願発明者らにより報告されている(非特許文献1:Biol. Reprod., vol. 69, p612-616, 2003)。ここでは、新生仔の精巣細胞をグリア細胞由来神経栄養因子(glial cell-line derived neurotrophic factor:GDNF)、白血病抑制因子(leukemia inhibitory factor:LIF)、上皮細胞成長因子(epidermal growth factor:EGF)、塩基性繊維芽細胞成長因子(basic fibroblast growth factor:bFGF)等の存在下で培養すると、生殖細胞が固有の形状のコロニーを形成し、幹細胞が5ヶ月以上にわたり増殖したことが報告されている。報告者らは、コロニー形成された細胞をES細胞やEG細胞と識別するために、生殖系列幹細胞(germline stem cell:以下「GS細胞」ともいう。)と命名した。GS細胞は、ES/EG細胞とは分化能力において明らかに異なっている。
Trp53(細胞変異関連タンパク53 kDa:腫瘍抑制因子p53の同義語)不全の精巣細胞をGDNF又はその均等物を含む培地を用いてさらに培養すると、GS細胞のコロニーに加えて、ES細胞コロニーと識別がつかない形態を呈するコロニーが出現し、ES様の多能性幹細胞(以下、「多能性幹細胞様細胞」ともいう。)が形成されることが、本願発明者らにより報告されている(特許文献1:国際公開WO2005/100548号パンフレット)。これらの多能性幹細胞様細胞をES細胞の培養条件下で選択的に増殖させ、当該多能性幹細胞様細胞をヌードマウスの皮下等に移植するとテラトーマ(teratoma)を発生し、in vitroで多様な機能細胞へと分化誘導されることが確認されている。当該多能性幹細胞様細胞を胚盤胞(blastcyst)内にマイクロインジェクションすることにより正常な胚発生が起こり、生殖細胞も含む極めて多様な組織を形成することなども確認されている。
しかしながら、上記多能性幹細胞様細胞が形成されることが確認されたものの、その頻度は低いのが問題であった。そこで、生殖細胞より多能性幹細胞様細胞を効果的に誘導する方法が望まれてきた。
Biol. Reprod., vol. 69, p612-616, 2003
国際公開WO2005/100548号パンフレット
本発明は、生殖細胞から効果的に多能性幹細胞様細胞を誘導する方法を提供することを課題とする。
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、Sox2及び/又はOct4が過剰発現された生殖細胞を用いることにより、従来の方法に比べて効率よく多能性幹細胞様細胞を誘導しうることを見出し、本発明を完成した。
即ち本発明は、以下よりなる。
1.Sox2及び/又はOct4が過剰発現された生殖細胞を培養することを特徴とする、多能性幹細胞様細胞の誘導方法。
2.Sox2及び/又はOct4が過剰発現された生殖細胞が、Dmrt遺伝子、Dnmt(DNA methyltransferase)遺伝子、Dmap遺伝子及びOct1遺伝子から選択されるいずれか1種又は複数種の遺伝子が抑制された生殖細胞である、前項1に記載の多能性幹細胞様細胞の誘導方法。
3.Sox2及び/又はOct4が過剰発現された生殖細胞が、Sox2遺伝子及び/又はOct4遺伝子の過剰発現ベクターが導入された生殖細胞である、前項1又は2に記載の多能性幹細胞様細胞の誘導方法。
4.Dmrtが、Dmrt1である、前項2又は3に記載の多能性幹細胞様細胞の誘導方法。
5.Dnmtが、Dnmt1である、前項2〜4のいずれか1に記載の多能性幹細胞様細胞の誘導方法。
6.Dmapが、Dmap1である、前項2〜5のいずれか1に記載の多能性幹細胞様細胞の誘導方法。
7.生殖細胞が、さらにTrp53遺伝子が抑制された生殖細胞である、前項1〜6のいずれか1に記載の多能性幹細胞様細胞の誘導方法。
8.生殖細胞が哺乳類の精巣由来細胞である、前項1〜7のいずれか1に記載の多能性幹細胞様細胞の誘導方法。
9.精巣由来細胞が精原幹細胞である、前項8に記載の多能性幹細胞様細胞の誘導方法。
10.精原幹細胞が生殖幹細胞(GS細胞)である、前項9に記載の多能性幹細胞様細胞の誘導方法。
11.以下の工程を含む、多能性幹細胞様細胞の製造方法:
1)生殖細胞においてSox2及び/又はOct4を過剰発現させる工程;
2)上記Sox2及び/又はOct4を過剰発現させた生殖細胞を培養する工程。
12.生殖細胞においてSox2及び/又はOct4を過剰発現させる工程が、Dmrt遺伝子、Dnmt遺伝子、Dmap遺伝子、及びOct1遺伝子から選択されるいずれか1種又は複数種の遺伝子を抑制することによる、前項11に記載の多能性幹細胞様細胞の製造方法。
13.生殖細胞にSox2及び/又はOct4を過剰発現させる工程が、Sox2遺伝子及び/又はOct4遺伝子の過剰発現ベクターを細胞に導入することによる、請求項11又は12に記載の多能性幹細胞様細胞の製造方法。
14.さらにTrp53遺伝子を抑制する工程を含む、前項11〜13のいずれか1に記載の多能性幹細胞様細胞の製造方法。
15.生殖細胞が、哺乳類の精巣由来細胞である、前項11〜14のいずれか1に記載の多能性幹細胞様細胞の製造方法。
16.精巣由来細胞が、精原幹細胞である、前項15に記載の多能性幹細胞様細胞の製造方法。
17.精原幹細胞が、生殖幹細胞(GS細胞)である、前項16に記載の多能性幹細胞様細胞の製造方法。
18.Sox2及び/又はOct4が過剰発現していることを特徴とする前項11〜17のいずれか1に記載の製造方法に用いる多能性幹細胞様細胞作製用生殖細胞。
19.Dmrt遺伝子、Dnmt遺伝子、Dmap遺伝子、及びOct1遺伝子から選択されるいずれか1種又は複数種の遺伝子が抑制されていることを特徴とする、前項18に記載の多能性幹細胞様細胞作製用生殖細胞。
20.生殖細胞が、さらにTrp53遺伝子が抑制されていることを特徴とする、前項19に記載の多能性幹細胞様細胞作製用生殖細胞。
21.前項18〜20のいずれか1に記載の多能性幹細胞様細胞作製用生殖細胞より誘導されてなる多能性幹細胞様細胞。
本発明の多能性幹細胞様細胞の誘導方法により、より効率的に多能性幹細胞様細胞を誘導することができる。得られた多能性幹細胞様細胞は、ES細胞やiPS細胞(induced Pluripotent Stem cell)等の多能性幹細胞に特異的に発現するNanog遺伝子を発現した。本発明の方法により作製された多分化能を有する多能性幹細胞様細胞を動物に移植したときに、奇形腫の病理切片が確認され、移植細胞由来の神経上皮(neuroepithelium)、内胚葉上皮(endoderm)や軟骨組織(chondrocyte)が確認された。加えて、この細胞をマウス着床前発生胚に注入後、マウス子宮に戻すと、注入した多能性幹細胞様細胞は個体発生に寄与し、誕生した仔マウスの種々の臓器細胞に分化していた。これにより、本発明の多能性幹細胞様細胞は、多分化能を有することが認められた。
Trp53-KO(Trp53ノックアウト)GS細胞にDnmt1-KD(Dnmt1ノックダウン)ウイルスを感染させ、誘導した多能性生殖系列幹細胞(mGS細胞)を示す写真図である。(実施例1)A:Dnmt1-KDウイルス感染後11日目の野生型及びTrp53-KO GS細胞の形態を示す写真図である。B:GS細胞の増殖曲線を示す写真図である。Dnmt1-KD細胞は徐々に死滅する。Trp53-KO GS細胞は、野生型と比べて死滅速度は遅い。C:ES細胞を示す写真図である。D:Trp53-KO GS細胞にDnmt1-KDウイルスを感染させ、誘導したmGS細胞を示す写真図である。E:Dの細胞について、EGFPが発現され、緑色蛍光を示す写真図である。 野生型GS細胞にTrp53-KDウイルス及びDnmt1-KDウイルスを感染させ、誘導したmGS細胞を示す写真図である。(実施例1) Trp53-KO GS細胞にDnmt1-KDウイルスを感染させ誘導した細胞について、多能性幹細胞の指標となるNanogの発現を確認した写真図である。(実験例1−1) Trp53-KO GS細胞はNanogを発現しないが、Dnmt1-KDウイルス感染により誘導したmGS細胞は、ES細胞同様にNanogを発現した。 野生型GS細胞にDnmt1-KDウイルスを感染させ誘導した細胞について、多能性幹細胞の指標となるNanogの発現を確認した写真図である。(実験例1−1) 野生型GS細胞はNanogを発現しないが、Trp53とDnmt1のダブルノックダウンにより誘導した細胞は、ES細胞同様にNanogを発現した。 Dnmt1抑制がテラトーマ関連遺伝子の発現に与える影響を確認した結果を示す図である。(実験例1−2) Trp53-KO GS細胞にDnmt1-KDウイルス感染後14日目にRNAを抽出し、リアルタイムPCR法によりDnmt1、Dmrt1又はDnd1の各遺伝子の発現を定量的に比較した。 野生型GS細胞にTrp53-KDウイルス及びDmrt1-KDウイルスを感染させ誘導したmGS細胞を示す写真図である。(実験例1−2) 野生型GS細胞にTrp53-KDウイルス及びDmrt1-KDウイルスを感染させ誘導したmGS細胞、並びに野生型GS細胞にTrp53-KDウイルス及びDnmt1-KDウイルスを感染させ誘導したmGS細胞、マウス精巣より自然に出現して得られた野生型mGS細胞、及び野生型GS細胞におけるトランスクリプトーム解析を行った図である。野生型mGS細胞と、Dmrt1-KDウイルス又はDnmt1-KDウイルスを感染させ誘導したmGS細胞は非常によく似た遺伝子発現パターンを示し、野生型GSとは大きく異なっていた。(実験例1−2) Trp53-KO GS細胞にDnmt1-KDウイルスを感染させ誘導したmGS細胞より形成された奇形腫の切片像を示す図である。移植細胞由来の神経上皮(NE:neuroepithelium)、内胚葉上皮(Endo:endoderm)や軟骨組織(Ch:chondrocyte)が確認された。(実験例1−3) 野生型GS細胞にTrp53-KDウイルス及びDnmt1-KDウイルスを感染させ誘導したmGS細胞より形成された奇形腫の切片像を示す図である。移植細胞由来の神経上皮(NE:neuroepithelium)や軟骨組織(Ch:chondrocyte)が確認された。(実験例1−3) 野生型GS細胞にTrp53-KDウイルス及びDmrt1-KDウイルスを感染させ誘導したmGS細胞より形成された奇形腫の切片像を示す写真図である。内胚葉上皮(Endo:endoderm)や軟骨組織(Ch:chondrocyte)が確認された。(実験例1−3) DBA-GFPマウス由来GS細胞に、Trp53遺伝子、Dmrt1遺伝子に対するsiRNAを細胞にトランスフェクション試薬を用いて遺伝子導入し、導入後2ヶ月目に誘導されたmGS細胞を示す写真図である。(実施例2) DBA-GFPマウス由来GS細胞に、Trp53遺伝子、Dmrt1遺伝子に対するsiRNAを細胞にトランスフェクション試薬を用いて遺伝子導入し、導入後2ヶ月目に誘導されたmGS細胞から作製したキメラマウスを示す写真図である。黒毛色のマウス胚盤胞にシナモン毛色個体由来の上記細胞を注入したキメラマウスなので、黒毛色の中にシナモン毛色の部分が混在する。また、脳、腸管、心臓、精巣を観察すると、それぞれにおいて一部GFP蛍光が観察され、誘導した多能性幹細胞が種々の臓器形成に寄与していることが確認された。(実施例2) Trp53-KO GS細胞についてDnmt1-KDウイルスの感染によるDmrt1遺伝子の抑制がSox2の発現を誘導する結果を示す図である。(実験例3−1) DBA-GFPマウス由来GS細胞にTrp53-KDウイルス及びSox2-OEウイルスを感染させて誘導したmGS細胞を示す写真図である。(実験例3−1) GS細胞におけるSox2遺伝子の過剰発現がOct4の発現を誘導する結果を示す図である。(実験例3−2) DBA-GFPマウス由来GS細胞にTrp53-KDウイルス及びOct4-OEウイルスを感染させて誘導したmGS細胞を示す写真図である。(実験例3−2) GS細胞におけるOct1, Oct4, Oct6遺伝子の発現を示す図である。ES細胞、iPS細胞及びmGS細胞では細胞の全能性維持に必須のOct4が強く発現するが、体細胞にユビキタスに発現するOct1の発現は低い。一方、GS細胞ではOct4の発現は低いがOct1は強く発現する。(実験例3−3) DBA-GFPマウス由来GS細胞にTrp53-KDウイルス及びOct1-KDウイルスを感染後21日目にmGS細胞の初代コロニーが確認された結果を示す写真図である。中心に大きく盛り上がった未分化細胞の塊があり、周辺にやや分化した細胞の進展がみられる。コロニーの外縁を黒点線で示している。(実験例3−3) 野生型GS細胞にTrp53-KDウイルス及びSox2-OEウイルスを感染させてTrp53のノックダウンとSox2の過剰発現を行い誘導したmGS細胞を、ヌードマウス皮下に移植し形成された奇形腫の病理切片像を示す写真図である。移植細胞由来の神経上皮(Neuroepithelium)、骨格筋(Skeletal muscle)や腸管上皮(Gut epithelium)が確認された。(実験例3−4) 野生型GS細胞にTrp53-KDウイルス及びOct4-OEウイルスを感染させてTrp53のノックダウンとOct4の過剰発現を行い誘導したmGS細胞を、ヌードマウス皮下に移植し形成された奇形腫の病理切片像を示す写真図である。移植細胞由来の神経上皮(Neuroepithelium)、軟骨組織(Chondrocyte)や腸管上皮(Gut epithelium)が確認された。(実験例3−4)。 DBA-GFPマウス由来GS細胞にTrp53-KDウイルス及びSox2-OEウイルスを感染させて誘導したmGS細胞にAxCANCreアデノウイルスを感染させ、Sox2遺伝子過剰発現を停止させた細胞の写真図である。Sox2の発現を停止し、赤色蛍光タンパク質DsRedを発現するようになっている。(実施例4) DBA-GFPマウス由来GS細胞にTrp53-KDウイルス及びOct4-OEウイルスを感染させて誘導したmGS細胞にAxCANCreアデノウイルスを感染させ、Oct4遺伝子過剰発現を停止させた細胞の写真図である。Oct4の発現を停止し、赤色蛍光タンパク質DsRedを発現するようになっている。(実施例4) 図21で示した細胞により形成されたキメラマウスを示す写真図である。野生型黒色毛色のマウス着床前胚に、DBA-GFPマウス由来のGS細胞にTrp53-KDウイルス及びSox2-OEウイルスを感染させて誘導したmGS細胞を注入して得られたため、個体の各所にGFPによる緑色蛍光が観察される。(実施例4) 図22で示した細胞により形成されたキメラマウスを示す写真図である。野生型白色毛色のマウス着床前胚に、DBA-GFPマウス由来のGS細胞にTrp53-KDウイルス及びOct4-OEウイルスを感染させて誘導したmGS細胞を注入して得られたため、個体の各所にGFPによる緑色蛍光が観察される。(実施例4)
本発明は、生殖幹細胞から効果的に多能性幹細胞様細胞を誘導する方法を提供することを課題とする。
本明細書において、生殖細胞とは具体的には精巣細胞をいい、精巣を構成する全ての細胞を含み、例えば、精原幹細胞、精原細胞、精細胞、精祖細胞、精母細胞、精娘細胞、精子、ライディヒ細胞、セルトリ細胞、間細胞、雄性生殖細胞等が挙げられる。精原幹細胞とは、自己再生し、精子又はその前駆細胞(例えば精原細胞、精細胞、精祖細胞、精母細胞、精娘細胞等)へ分化し得る能力(精原幹細胞としての能力)を有する生殖系列細胞をいう。精原幹細胞としては、例えば、始原生殖細胞(primordial germ cell)、雄性生殖細胞(gonocyte)、生殖系列幹細胞(germline stem cell:GS細胞)等が挙げられる。本発明において、精原幹細胞は、好ましくは雄性生殖細胞やGS細胞である。
本明細書において、目的産物である多能性幹細胞様細胞とは、場合によってはES様幹細胞又は多能性生殖系列幹細胞(multipotent germline stem cells:mGS細胞)ともいい、いわゆるES細胞や、EG細胞又はGS細胞とは区別して使用される。本明細書において多能性幹細胞様細胞とは、in vitroで培養可能で、長期間にわたって増殖することができ、自己複製能を持ち、生体を構成する全ての細胞やその前駆細胞に分化しうる能力を有する細胞をいう。
本発明の多能性幹細胞様細胞は、Sox2及び/又はOct4が過剰発現された生殖細胞から誘導される。また、本発明の多能性幹細胞様細胞は、Dmrt遺伝子、Dnmt遺伝子、Dmap遺伝子、及びOct1遺伝子から選択される1種又は複数種の遺伝子が抑制された生殖細胞からも誘導される。本明細書において、遺伝子を抑制するとは遺伝子の機能及び/又は発現を抑制することをいう。Dmrt遺伝子、Dnmt遺伝子、Dmap遺伝子、及びOct1遺伝子から選択される1種又は複数種の遺伝子、好ましくはDmrt遺伝子が抑制されることで、相対的にSox2及び/又はOct4が過剰発現された生殖細胞を得ることができる。
DNAの情報は単に遺伝的塩基配列だけで完結しているのではないことが明らかになっている。細胞は塩基配列情報に制御を加えることで、特定の遺伝子を利用するかを調製する後天的(epigenetic)な情報を作り出しているといえる。この制御は、ヌクレオソーム(nucleosome)によって行われることもあれば、DNAの塩基がメチル化されてタンパク質合成時の塩基配列の読み取られ方が修正されることで行われる場合がある。このDNAの塩基をメチル化することで、ある遺伝子にメチル基が付与され、遺伝子の活性が制御される。一般的にDNMTは、DNAメチル基転移酵素(メチルトランスフェラーゼ)ともいう。Dnmtの相同遺伝子として、Dnmt1、Dnmt2、Dnmt3a、Dnmt3b、Dnmt3等が報告されている。DMAPは、DNAメチル基転移酵素関連タンパク質ともいい、Dmap遺伝子はDMAPをコードする遺伝子である。Dmapの相同遺伝子としては、現在のところDmap1のみが報告されている。Dmrt遺伝子は生殖器の分化と維持に関わる遺伝子である。Oct4やSox2は胚性幹細胞(ES細胞)の全能性に必須であり、iPS細胞を誘導する山中因子に含まれる遺伝子である。Oct4を含むOctamer transcriprion factorファミリーは、Oct1, Oct2, Oct4, Oct6, Oct7, Oct8, Oct9, Oct11 から構成される。これらの遺伝子のほとんどは組織特異的な発現を示すが、Oct1とOct6は種々の体細胞にユビキタスに発現することが知られている。Oct1は種々の体細胞にユビキタスに発現する遺伝子であるが、機能・構造はOct4に類似しており、Oct4と同様Sox2と結合しES細胞特異的な遺伝子の転写を制御する。
従来の生殖細胞からの誘導方法に比べて、Sox2及び/又はOct4が過剰発現された生殖細胞、あるいはDmrt遺伝子、Dnmt遺伝子、Dmap遺伝子、及びOct1遺伝子から選択される1種又は複数種の遺伝子が抑制された生殖細胞を用いると、効果的に本発明の多能性幹細胞様細胞が誘導される。Sox2及び/又はOct4が過剰発現された生殖細胞、あるいはDmrt遺伝子、Dnmt遺伝子、Dmap遺伝子、及びOct1遺伝子から選択される1種又は複数種の遺伝子が抑制された生殖細胞は、さらに、Trp53が抑制された細胞、いい換えればTrp53遺伝子が抑制されている細胞であるのが好ましい。p53は腫瘍抑制因子として公知であるが、別名Trp53(Transformation-related protein53:細胞変異関連タンパク53 kDa)ともいう。以下本明細書ではp53について、「Trp53」ということとする。p53は腫瘍抑制因子であるため、Trp53遺伝子の抑制は発癌を誘導する危険性が考えられるが、Trp53遺伝子に対するsiRNAの導入は、多能性幹細胞様細胞の誘導を行う期間に限定された一過性のものとすることができるため、作製した多能性幹細胞様細胞から誘導された、例えば神経細胞や肝実質細胞等に癌化を誘導する可能性は低いと考えられる。
本発明においてSox2が過剰発現された生殖細胞とは、生殖細胞においてSox2遺伝子が機能的に過剰である状態、又は当該生殖細胞の培養系にSox2が含まれている状態をいう。例えば当該生殖細胞においてSox2遺伝子が機能的に過剰である状態、即ちSox2遺伝子が本来有する機能を上回る効果を発揮する状態が挙げられる。Dmrt遺伝子が全く発現していない状態、又はDmrt遺伝子が本来有する正常な機能が発揮できない程度にその発現量が低下している状態、あるいはDmrt遺伝子産物の機能が完全に喪失した状態、又はDmrt遺伝子が本来有する正常な機能が発揮できない程度にDmrt遺伝子産物の機能が低下した場合にも、Sox2が過剰発現された状態となりうる。
本発明においてOct4が過剰発現された生殖細胞とは、生殖細胞においてOct4遺伝子が機能的に過剰である状態、又は当該生殖細胞の培養系にOct4が含まれている状態をいう。例えば当該生殖細胞においてOct4遺伝子が機能的に過剰である状態、即ちOct4遺伝子が本来有する機能を上回る効果を発揮する状態が挙げられる。Dmrt遺伝子が全く発現していない状態、又はDmrt遺伝子が本来有する正常な機能が発揮できない程度にその発現量が低下している状態、あるいはDmrt遺伝子産物の機能が完全に喪失した状態、又はDmrt遺伝子が本来有する正常な機能が発揮できない程度にDmrt遺伝子産物の機能が低下した場合にも、Oct4が過剰発現された状態となりうる。
生殖細胞にSox2及び/又はOct4を過剰発現させる方法は、各遺伝子の過剰発現ベクターを生殖細胞に導入してもよいし、生殖細胞の培養系にタンパク質を添加してもよい。又は、他の遺伝子を調節することによって、相対的にSox2及び/又はOct4が過剰発現させることもできる。他の遺伝子を調節する場合の例として、例えばDmrt遺伝子、Dnmt遺伝子、Dmap遺伝子、及びOct1遺伝子から選択される1種又は複数種の遺伝子、特に好ましくはDmrt遺伝子を抑制することが挙げられる。
本発明においてDmrt遺伝子が抑制された生殖細胞とは、生殖細胞においてDmrt遺伝子が機能的に不十分である状態、即ちDmrt遺伝子が本来有する正常な機能を十分に発揮できない状態をいい、Dmrt遺伝子が全く発現していない状態、又はDmrt遺伝子が本来有する正常な機能が発揮できない程度にその発現量が低下している状態、あるいはDmrt遺伝子産物の機能が完全に喪失した状態、又はDmrt遺伝子が本来有する正常な機能が発揮できない程度にDmrt遺伝子産物の機能が低下した状態が挙げられる。本発明においてDmrtとは、特に限定されないが、好ましくはDmrt1である。
本発明においてDnmt遺伝子が抑制された生殖細胞とは、生殖細胞においてDnmt遺伝子が機能的に不十分である状態、即ちDnmt遺伝子が本来有する正常な機能を十分に発揮できない状態をいい、Dnmt遺伝子が全く発現していない状態、又はDnmt遺伝子が本来有する正常な機能が発揮できない程度にその発現量が低下している状態、あるいはDnmt遺伝子産物の機能が完全に喪失した状態、又はDnmt遺伝子が本来有する正常な機能が発揮できない程度にDnmt遺伝子産物の機能が低下した状態が挙げられる。本発明において、Dnmtとは、特に限定されないが、好ましくはDnmt1である。
本発明においてDmap遺伝子が抑制された生殖細胞とは、生殖細胞においてDmap遺伝子が機能的に不十分である状態、即ちDmap遺伝子が本来有する正常な機能を十分に発揮できない状態をいい、Dmap遺伝子が全く発現していない状態、又はDmap遺伝子が本来有する正常な機能が発揮できない程度にその発現量が低下している状態、あるいはDmap遺伝子産物の機能が完全に喪失した状態、又はDmap遺伝子が本来有する正常な機能が発揮できない程度にDmap遺伝子産物の機能が低下した状態が挙げられる。本発明において、Dmapとは、特に限定されないが、好ましくはDmap1である。
本発明においてOct1遺伝子が抑制された生殖細胞とは、生殖細胞においてOct1遺伝子が機能的に不十分である状態、即ちOct1遺伝子が本来有する正常な機能を十分に発揮できない状態をいい、Oct1遺伝子が全く発現していない状態、又はOct1遺伝子が本来有する正常な機能が発揮できない程度にその発現量が低下している状態、あるいはOct1遺伝子産物の機能が完全に喪失した状態、又はOct1遺伝子が本来有する正常な機能が発揮できない程度にOct1遺伝子産物の機能が低下した状態が挙げられる。
本発明においてTrp53遺伝子が抑制された生殖細胞とは、生殖細胞においてTrp53遺伝子が機能的に不十分である状態、即ちTrp53遺伝子が本来有する正常な機能を十分に発揮できない状態をいい、Trp53遺伝子が全く発現していない状態、又はTrp53遺伝子が本来有する正常な機能が発揮できない程度にその発現量が低下している状態、あるいはTrp53遺伝子産物の機能が完全に喪失した状態、又はTrp53遺伝子が本来有する正常な機能が発揮できない程度にTrp53遺伝子産物の機能が低下した状態が挙げられる。
Dmrt遺伝子、Dnmt遺伝子、Dmap遺伝子、及びOct1遺伝子等から選択される1種又は複数種の遺伝子が抑制された生殖細胞は、例えばいずれかの遺伝子に対するターゲッティングベクターを生殖細胞に導入し、相同性組換えにより当該いずれかの遺伝子を欠損させることによっても作製することができる。「遺伝子を欠損させる」ことを、又は「遺伝子をノックアウト(KO)する」という場合もある。また別の実施態様では、当該いずれかの遺伝子の発現又は機能を抑制する物質(例えば、アンチセンス核酸、RNAi誘導性核酸(siRNA、stRNA、miRNA等)等)を生殖細胞へ導入することで調製することができる。当該いずれかの遺伝子の発現又は機能を抑制する物質の生殖細胞への導入は、自体公知の方法により行うことができる。例えば、各遺伝子について発現又は機能を抑制する物質が、RNAi誘導性核酸等の核酸分子又はそれを含む発現ベクターである場合、リン酸カルシウム法、リポフェクション法/リポソーム法、エレクトロポレーション法などが用いられ得る。また、Trp53遺伝子が抑制された生殖細胞についても、上記Dmrt遺伝子、Dnmt遺伝子、Dmap遺伝子又はOct1遺伝子の発現が抑制された生殖細胞と同手法により作製することができる。具体的には特許文献1に示す方法を利用することができる。遺伝子の発現又は機能を抑制させることを、「遺伝子をノックダウン(KD)する」という場合もある。
本発明の多能性幹細胞様細胞の誘導方法に使用可能な生殖細胞は、自体公知の方法で調製することができる。例えば精巣を摘出し、摘出された精巣をコラゲナーゼ、トリプシン、DNaseなどの分解酵素で消化することにより、精巣細胞を分散させ、調製することができる。上述の酵素処理で得られた精巣細胞をGDNFレセプター作動性化合物(GDNF又はその均等物)、FGF2等の存在下で培養させることにより、GS細胞を増殖させ、本発明の多能性幹細胞様細胞作製用の材料としてもよい。本明細書において、GS細胞とはin vitroでGDNFレセプター作動性化合物(GDNF又はその均等物)に依存的に増殖された精原幹細胞をいい、例えば、Biol. Reprod., vol. 69, p.612-616, 2003に記載された方法により増殖された精原幹細胞をいう。また、本発明の生殖細胞は、多能性幹細胞様細胞を産生する能力の高い画分を選別し濃縮したものであってもよい。濃縮方法としては、例えば当該画分の細胞に特異的に発現する細胞表面抗原を認識する抗体を用いて、セルソーターや、抗体磁性マイクロビーズ等を用いる方法などが挙げられる。例えば、精原幹細胞は、α6-インテグリン、c-kit、CD9等の細胞表面抗原を指標に濃縮することができる。
本発明において用いられる生殖細胞は、本発明の方法により多能性幹細胞様細胞を製造し得る範囲において特に限定されず、脊椎動物由来、無脊椎動物由来のいずれであってもよいが、好ましくは脊椎動物である。脊椎動物としては、例えば、哺乳動物、鳥、魚、両生動物および爬虫類動物が挙げられる。哺乳動物としては、例えば、ヒト、サル、オランウータン、チンパンジー等の霊長類、マウス、ラット、ハムスター、モルモット等のげっ歯類やウサギ等の実験動物、ブタ、ウシ、ヤギ、ウマ、ヒツジ等の家畜、イヌ、ネコ等のペット、等を挙げることが出来る。鳥類としては、ニワトリ、ウズラ、アヒル、ガチョウ、シチメンチョウ、ダチョウ、ホロホロ鳥、ハト等を挙げることができる。
本発明に使用される基礎培地は、自体公知のものを用いることができる。本発明の方法により多能性幹細胞様細胞を誘導し得る範囲において特に限定されないが、例えばDMEM、EMEM、RPMI-1640、α-MEM、F-12、F-10、M-199、HAM、ATCC-CRCM30、DM-160、DM-201、BME、SFM-101、Fischer、McCoy's 5A、Le ibovitz's L-15、RITC80-7、HF-C1、MCDB107、NCTC135、Waymouth's MB 752/1、StemPro(R) 34 SFM等が挙げられる。また、ES細胞培養用等に改変された培地を用いてもよく、上記基礎培地の混合物を用いてもよい。当該培地は、自体公知の添加物を含むことができる。添加物としては、本発明の方法により多能性幹細胞様細胞を製造し得る範囲において特に限定されないが、例えば成長因子(例えばインスリン等)、鉄源(例えばトランスフェリン等)、ポリアミン類(例えばプトレシン等)、ミネラル(例えばセレン酸ナトリウム等)、糖類(例えばグルコース等)、有機酸(例えばピルビン酸、乳酸等)、血清タンパク質(例えばアルブミン等)、アミノ酸(例えばL-グルタミン等)、還元剤(例えば2-メルカプトエタノール等)、ビタミン類(例えばアスコルビン酸等)、ステロイド(例えばβ-エストラジオール、プロゲステロン等)、抗生物質(例えばストレプトマイシン、ペニシリン、ゲンタマイシン等)、緩衝剤(例えばHEPES等)、栄養添加物(例えばStemPro(R) Nutrient Supplement等)等が挙げられる。当該添加物は、それぞれ自体公知の濃度範囲内で含まれることが好ましい。また、当該培地は、血清を含むことができる。血清としては、動物由来の血清であれば、本発明の方法により多能性幹細胞様細胞を製造し得る範囲において特に限定されないが、好ましくは上記哺乳動物由来の血清(例えばウシ胎仔血清、ヒト血清等)である。また血清の代替添加物(例えばKnockout Serum Replacement(KSR);Invitrogen社製)等を用いてもよい。血清の濃度は、本発明の方法により多能性幹細胞様細胞を製造し得る範囲において特に限定されないが、通常0.1〜30(v/v)%の範囲である。
本発明の方法において多能性幹細胞様細胞を誘導するための生殖細胞は、フィーダー細胞の存在下で培養してもよい。フィーダー細胞としては、本発明の方法により多能性幹細胞様細胞を誘導し得る範囲において特に限定されないが、ES細胞やEG細胞等の多能性幹細胞を多能性を維持しながら培養する際に用いられる自体公知のフィーダー細胞を用いることができ、例えば、繊維芽細胞(マウス胎仔繊維芽細胞、マウス繊維芽細胞株STO等)が挙げられる。フィーダー細胞は自体公知の方法、例えば放射線(ガンマ線等)照射や抗癌剤(マイトマイシンC等)処理等で不活化されていることが好ましい。
本発明の方法における細胞培養条件は、細胞培養技術において通常用いられる培養条件を適用することができる。例えば、培養温度は通常約30〜40℃の範囲であり、好ましくは約37℃が例示される。CO2濃度は通常約1〜10%の範囲であり、好ましくは約5%が例示される。湿度は通常約70〜100%の範囲であり、好ましくは約95〜100%が例示される。
本発明の多能性幹細胞様細胞は、以下の方法により培養し、誘導することができる。上述の方法で調製した生殖細胞を、本明細書に示す培地中に懸濁し、細胞培養用容器内に播種し、培養する(第一の培養)。当該細胞培養用容器は、通常の細胞培養において使用されるものを用いることができるが、ゼラチン等によってコーティングされているものが好ましい。以下の培養に用いられる容器も同様である。前記第一の培養を継続することのみによっても、多能性幹細胞様細胞を誘導することは可能であるが、第一の培養の開始から約6〜18時間後に、少なからず生殖細胞を含む培養細胞、好ましくは浮遊している培養細胞を、別の細胞培養用容器へ継代し、第二の培養とすることができる。継代された培養細胞は、培養条件によっても異なるが、継代後通常1週間以内に細胞培養用容器の底面にコロニーを形成しうる。コロニー形成は顕微鏡等を用いて確認することができる。
上記でコロニー形成が観察された細胞をトリプシン処理等により培養容器から剥がして分散させ、培地中に再度懸濁して、更に新しい培養用プレートへ継代することができる(第三の培養)。同様の継代を繰り返すことで、平坦な形状の体細胞は消滅する。従って、二度目あるいは三度目の継代以降は、細胞をフィーダー細胞の存在下で培養することが好ましい。継代の間隔、細胞の希釈率は、培養条件によって適宜判断されるが、例えば2〜5日間隔、1〜1/4希釈(培養初期においては好ましくは1〜1/2希釈)が例示される。また、確立された多能性幹細胞様細胞コロニーの継代の間隔、細胞の希釈率としては、例えば2〜5日間隔、1/4〜1/10希釈が例示される。
本発明の方法においては、工程全体を通して、同一組成の培地を用いてもよいが、複数の組成の培地を、経時的に使い分けて用いてもよい。このようにすることで多能性幹細胞様細胞をより選択的に増殖させ、効率よく誘導することができる場合がある。例えば、培養に用いる培地を、培養の途中で、生殖細胞の初期培養用培地(培地Aとする)から、多能性幹細胞様細胞の長期培養用培地(培地Bとする)へ変換することができる。即ち、培地Aを用いて生殖細胞を培養し、培養細胞を得て、当該培養細胞を培地Bを用いて培養することで、多能性幹細胞様細胞を効率よく得ることができる。
また、培地A、Bにそれぞれ含まれ得る血清の濃度は、上述と同様であるが、培地A中に含まれ得る血清の濃度は、好ましくは0.1〜5(v/v)%であり、より好ましくは0.3〜3(v/v)%である。培地B中に含まれ得る血清の濃度は、好ましくは2〜30(v/v)%であり、より好ましくは10〜20(v/v)%である。また、培地A、Bのそれぞれの基礎培地は、上述と同様であるが、培地Aの基礎培地は、精原幹細胞(GS細胞等)の培養に好適に用いられる基礎培地(例えばStemPro(R) 34 SFM等)であり得、培地Bの基礎培地はES細胞の培養に好適に用いられる基礎培地(例えばDMEM等)であり得る。
培地A、Bが含むことができる添加物は、上述と同様である。培地を培地Aから培地Bに変換する時期は、培養条件等によって異なるため、一律に規定しがたい。例えばマウスの場合、第一の培養の開始から10〜120日後、好ましくは14〜40日後である。更に、培地Aを培地Bへ変換した直後の約4〜40日間、培地BにGDNF又はその均等物を上述の濃度で添加した組成の培地を用いて細胞を培養することにより、より高い効率で多能性幹細胞様細胞を誘導し得る。またこのような培地A、培地Bを用いる生殖細胞の培養は上述と同様にフィーダー細胞の存在下で行ってもよい。本発明の方法により得られた多能性幹細胞様細胞は、通常2ヶ月以上、好ましくは5ヶ月以上にわたり、多能性を維持しながら増殖することができる。単離された当該多能性幹細胞様細胞の維持、増殖、培養においては、好ましくは、上述の培地Bが用いられる。
上記培養において、培養された細胞は培養開始後約10日〜6週間までには、二種類の形態のコロニーを形成し得る。一方のコロニーは、細胞間架橋(intercellular bridge)と桑実胚(morula)様構造により特徴付けられる形態を有しており、これはGS細胞のコロニーである。他方のコロニーは、より硬く詰め込まれ(packed)、ES細胞のコロニーの形態と極めて類似した形態を有する。ES細胞様のコロニー形態を形成する細胞が本発明に係る多能性幹細胞様細胞である。従って、GS細胞のコロニーと、本発明にかかる多能性幹細胞様細胞のコロニーとは、明確に視覚的に識別することができる。
上述の形態を指標に、例えば、顕微鏡下で多能性幹細胞様細胞のコロニーをパスツールピペット、マイクロマニピュレーター等を用いて選択的にピックアップするか、限界希釈等により、多能性幹細胞様細胞を単離することができる。あるいは多能性幹細胞様細胞の細胞表面マーカー等を指標にして、セルソーター等を用いて多能性幹細胞様細胞を単離することができる。また、一態様において、上述と同様の培養条件により、GDNF又はその均等物を含む培地を用いて生殖細胞を培養することによりGS細胞を得て、該GS細胞を更に上述の培養条件によりGDNF又はその均等物を含む培地を用いて引続き培養することによっても、GS細胞から本発明の多能性幹細胞様細胞が誘導され、製造することが出来る。GS細胞のコロニーの形態は、上述の通り、本発明の多能性幹細胞様細胞のコロニーとは明確に視覚的に識別可能である。
本明細書において、多能性幹細胞様細胞を誘導する際の培地中に含まれるGDNF又はその均等物の濃度は、本発明の方法により多能性幹細胞様細胞を誘導し得る範囲において特に限定されないが、通常0.05ng/ml〜100mg/ml、例えば0.5ng/ml〜100μg/ml、好ましくは0.5ng/ml〜10μg/ml、より好ましくは0.5ng/ml〜1μg/ml、更に好ましくは0.5〜200ng/ml、いっそうより好ましくは0.5〜50ng/ml、最も好ましくは2〜20ng/mlである。培地は、更にLIFを含むことが好ましい。LIFが培地中に含まれる場合には、その濃度は、本発明の方法により多能性幹細胞様細胞を誘導し得る範囲において特に限定されないが、通常10〜106units/ml、例えば10〜105units/ml、好ましくは102〜104units/ml、より好ましくは3×102〜5×103units/mlである。
本発明の多能性幹細胞様細胞を誘導する際の培地中には、更にEGF及びbFGFの少なくともいずれか、より好ましくは両方を含めることができる。EGFが培地中に含まれる場合には、その濃度は、本発明の方法により多能性幹細胞様細胞を製造し得る範囲において特に限定されないが、通常濃度0.05ng/ml〜100mg/ml、例えば0.5ng/ml〜100μg/ml、好ましくは0.5ng/ml〜10μg/ml、より好ましくは0.5ng/ml〜1μg/ml、さらに好ましくは0.5〜200ng/ml、いっそうより好ましくは0.5〜50ng/ml、最も好ましくは2〜30ng/mlである。またbFGFが培地中に含まれる場合には、その濃度は、本発明の方法により多能性幹細胞様細胞を製造し得る範囲において特に限定されないが、通常濃度0.05ng/ml〜100mg/ml、例えば0.5ng/ml〜100μg/ml、好ましくは0.5ng/ml〜10μg/ml、より好ましくは0.5ng/ml〜1μg/ml、さらに好ましくは0.5〜200ng/ml、いっそうより好ましくは0.5〜50ng/ml、最も好ましくは2〜20ng/mlである。
本発明は多能性幹細胞様細胞の製造方法にも及ぶ。多能性幹細胞様細胞は、少なくとも以下の1)及び2)の工程を含む方法により製造することができる。
1)生殖細胞においてSox2及び/又はOct4を過剰発現させる工程;
2)上記Sox2及び/又はOct4を過剰発現させた生殖細胞を培養する工程。
上記において、生殖細胞においてSox2及び/又はOct4を過剰発現させる工程は、Dmrt遺伝子、Dnmt遺伝子、Dmap遺伝子、及びOct1遺伝子から選択されるいずれか1種又は複数種の遺伝子を抑制する工程によっても達成することができる。さらに、生殖細胞のTrp53遺伝子を抑制する工程を含んでいてもよい。
多能性幹細胞様細胞の製造方法は、具体的には、以下の1)〜4)の工程を含む多能性幹細胞様細胞の製造方法により達成することができる。1)、2)及び3)の工程は何れが先であってもよいし、同時であってもよい。また、1)の工程を行うことで、結果的に2)の工程を達成することもできるし、2)の工程を行うことで、結果的に1)の工程を達成することもできる。
1)生殖細胞においてSox2及び/又はOct4を過剰発現させる工程;
2)生殖細胞のDmrt遺伝子、Dnmt遺伝子、Dmap遺伝子及びOct1遺伝子から選択される1種又は複数種の遺伝子を抑制する工程;
3)生殖細胞のTrp53遺伝子を抑制する工程;
4)上記各遺伝子が操作された細胞を培養する工程。
本発明は、さらに多能性幹細胞様細胞を作製するための細胞にも及ぶ。多能性幹細胞様細胞を作製するための細胞は、Sox2及び/又はOct4が過剰発現している細胞である。そして、Dmrt遺伝子、Dnmt遺伝子、Dmap遺伝子及びOct1遺伝子から選択される1種又は複数種の遺伝子が抑制されていることが好ましい。さらに、当該細胞はTrp53遺伝子が抑制されていることが好ましい。
上記本発明の多能性幹細胞様細胞が、例えばマウス由来であれば、SSEA-1、フォルスマン抗原、β1-及びα6-インテグリン、EpCAM、CD9、EE2及びc-kitからなる群から選ばれる少なくともいずれかが陽性であり、好ましくは全てが陽性である。また、フォルスマン抗原及びc-kitは好ましくは弱陽性である。一方、GS細胞はSSEA-1及びフォルスマン抗原が陰性であるので、本発明の誘導方法により得られる多能性幹細胞様細胞は、GS細胞から明確に識別される。
本発明の製造方法により得られた細胞が多能性を保持しているか否かは、例えば逆転写酵素(Reverse Transcriptase: RT)によりcDNAを合成し、対象遺伝子に対するプライマーを用いた逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)法等によって、多能性幹細胞様細胞に特異的に発現している遺伝子等の発現を解析することで確認することができる。例えばマウス由来の多能性幹細胞様細胞であれば、多能性幹細胞に特異的に発現している遺伝子として、Oct4、Rex-1、Nanog、Cripto、Eras、UTF1、ZFP57、Esg-1等の未分化なES細胞を維持するのに必須の分子が例示される。本発明の方法により得られる多能性幹細胞様細胞は、Oct4、Rex-1、Nanog、Cripto、Eras、UTF1、ZFP57及びEsg-1からなる群から選ばれる少なくともいずれかの遺伝子を発現しており、好ましくは、全ての遺伝子を発現している。一方、GS細胞においては、これらの遺伝子の発現は本発明の方法により得られる多能性幹細胞様細胞と比較して一般に弱く、特にNanogの発現がほとんど認められない。これによっても、当該多能性幹細胞様細胞は、GS細胞から明確に識別される。更に、染色体DNA中のDMRの亜硫酸染色体シークエンシング(Development, vol. 129, p1807-1817, 2002)やCOBRA(Nucl. Acid. Res., vol. 25, p2532-2534, 1997)等により、細胞のインプリンティングパターンを解析することによっても、本発明の製造方法により得られた細胞が多能性を保持しているかを確認し、或いは他の幹細胞(ES細胞、GS細胞等)と明確に識別することが出来る。
本発明の理解を深めるために、実施例及び実験例に示してより具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではないことはいうまでもない。
(実施例1)生殖細胞からの多能性生殖系列幹細胞(mGS細胞)の誘導1
1) 生殖系列幹細胞(GS細胞)の樹立
特許文献1(国際公開WO2005/100548号パンフレット)の記載に準じて、生後7〜10日齢の野生型及びGFPトランスジェニックDBA/2マウス、又は成獣の野生型DBA/2マウスより精巣を摘出し、トリプシン・コラゲナーゼ処理にて精巣細胞を分散させた。当該分散した精巣細胞を、マウス胎児繊維芽細胞(mouse embryonic fibroblast: MEF)フィーダー上にGDNF(10 ng/ml)、LIF(103 units/ml)及びFGF-2(10 ng/ml)を添加した培地(StemPro(R) 34 SFM培地;Invitrogen社)を用いて培養し、GS細胞を樹立した。樹立にはおよそ一か月程度を要した。得られたGS細胞は上記の培地を用いて継代培養した。
2)レンチウイルスベクターの調製
Trp53遺伝子、Dnmt1遺伝子、Dmap1遺伝子、Dmrt1遺伝子に対するshRNAを発現する各プラスミドDNA(pSicoR p53, pSicoR Dnmt1, CS-H1-shDmap1-EF1a-EGFP, pLKO1-shDmrt1)及びレンチウイルス粒子の産生に必要な分子を発現するパッケージングベクター(pCAG-HIVgp, pCMV-VSV-G-RSV-Rev)をトランスフェクション試薬(FuGene(R) 6試薬;Promega社)を用いてHEK293T細胞へリポフェクションし、10%ウシ胎児血清入りダルベッコ改変イーグルス培地にて37℃ 5% CO2 インキュベーターにて培養した。遺伝子導入後2〜5日目までの培養上清を回収し、上清32mlを19400rpm, 4℃で2時間超遠心処理し、得られたウイルスペレットを100μlの培地(StemPro(R) 34 SFM培地;Invitrogen社)に懸濁し、使用時まで-80℃で凍結保存した。
Trp53遺伝子、Dnmt1遺伝子、Dmrt1遺伝子に対するshRNAを発現するレンチウイルスベクターを、各々Trp53遺伝子ノックダウンウイルス(Trp53-KDウイルス)、Dnmt1遺伝子ノックダウンウイルス(Dnmt1-KDウイルス)、Dmap1遺伝子ノックダウンウイルス(Dmap1-KDウイルス)、Dmrt1遺伝子ノックダウンウイルス(Dmrt1-KDウイルス)という。
また、各遺伝子に対するshRNAを発現しないレンチウイルスベクターを、Mockウイルスといい、対照として使用した。
3) GS細胞へのレンチウイルスの感染処理
ここではGS細胞に、上記2)のTrp53-KDウイルス、Dnmt1-KDウイルス又はDmrt1-KDウイルスの感染により、上記の遺伝子が抑制された細胞を作製した。
あらかじめMEFフィーダーを播種しておいた12 well培養プレートに、上記1)で作製したGS細胞を5×105 cells/600μl medium/wellで播種した。このとき、感染を促進するため終濃度10μg/mlとなるように臭化ヘキサジメトリン(ポリブレン;Sigma Code H9268)を添加した。そして上記各遺伝子に対するKDウイルス溶液を各25μl/wellで添加し、3000rpm, 32℃で60分間遠心処理による感染処理を行った(spin infection)。感染処理により、各遺伝子が各々抑制されたGS細胞を37℃ 5% CO2 インキュベーターにて培養した。以下、Trp53-KDウイルス、Dnmt1-KDウイルス、Dmap1-KDウイルス、Dmrt1-KDウイルスを各々感染させ、各遺伝子が抑制された細胞を、各々Trp53-KD GS細胞、Dnmt1-KD GS細胞、Dmap1-KD GS細胞、Dmrt1-KD GS細胞という。またTrp53遺伝子が相同組換えにより欠損している細胞をTrp53-KO GS細胞ともいう。各遺伝子の抑制操作がされていないGS細胞を、野生型GS細胞という。
各KDウイルス感染の翌日、過剰なウイルス感染による細胞死をさけるべく、培地を上記1)に記載のGDNF, LIF, FGF-2が添加された新鮮なStemPro(R) 34 SFM培地に交換し、培養を継続した。1回目の継代は感染後3〜5日後に行った。このときMEFフィーダーを播種しておいた6 well培養プレートの1 wellに、感染させたGS細胞 12 well 培養プレートの1 well分を再播種した。以後、1週間おきに6 well培養プレートの1 well分の細胞をそのまま新しい6 well MEF plateの1 wellに継代し(1倍継代)、培養を続けた。
DNAメチル基転移酵素I型(Dnmt1)はDNAにメチル基を付与する酵素であるが、予備的な実験として、この遺伝子を抑制することで、多能性細胞ができるかを検討した。しかし、Dnmt1-KD GS細胞は徐々に死滅することが確認された(図1A、B参照)。Dnmt1遺伝子抑制時にTrp53遺伝子も同時に抑制すると細胞の延命効果があることが知られているので(Nat Genet 2001; 27: 31-39)、Trp53-KO GS細胞にDnmt1-KDウイルスを感染させた場合は、野生型GS細胞にDnmt1-KDウイルスを感染させた場合に比べて、細胞の死滅の速度が抑制された(図1A,B参照)。また、図1CにES細胞を示し、図1DにTrp53-KO GS細胞にDnmt1-KDウイルスを感染させた細胞を示した。
4) 細胞の培養
上記作製した各細胞について、mGS細胞の出現を確認後、MEFフィーダー上にStemPro(R) 34 SFM培地(GDNF, LIF, FGF-2添加)で1倍継代すると、2日程でwell内に多数のmGS細胞コロニーが形成された。次にこの細胞をMEFフィーダー上に2倍継代を行ったが、これ以降はES細胞培地(15% FBS及び1000U/ml LIF添加 ダルベッコ改変イーグルス培地)で 培養を行った。毎日培地交換を行い、2日に一回継代し維持した。得られたmGS細胞の形態を図2に示した。また、Trp53-KO GS細胞にDmap1-KDウイルスを感染させた場合にもmGS細胞の出現が確認された (Data not shown)。
(実験例1−1)Nanogの発現の確認
本実験例では、上記方法で得た各細胞について、mGS細胞の機能、即ち多分化能を有するかを確認した。多分化能は、ES細胞やiPS細胞特異的に発現するNanog遺伝子をmGS細胞の指標として測定した。
(1) Trp53-KO GS細胞、(2) ES細胞、(3) Trp53-KO 新生児マウス精巣由来細胞、(4) Trp53-KO GS細胞にDnmt1-KDウイルスを感染させて誘導した細胞について、Nanog遺伝子の発現を確認した。遺伝子の発現は、細胞より全RNA抽出試薬(Trizol(R)試薬;Invitrogen)にてRNAを回収し、Nanog遺伝子に対するプライマーを用いたRT-PCR法により測定した。
その結果、(1) Trp53-KO GS細胞ではNanogの発現は確認できなかったが、(4) Trp53-KO GS細胞にDnmt1-KDウイルスを感染させて誘導した細胞ではNanogの発現を確認した。従って、(4) においてmGS細胞が誘導されることが確認された(図3参照)。野生型GS細胞からDnmt1遺伝子及びTrp53遺伝子を抑制(ダブルノックダウン(KD))した細胞についても確認した。その結果、Dnmt1遺伝子及びTrp53遺伝子をダブルノックダウンした場合に、Nanogの発現が確認され、mGS細胞が誘導されることが確認された(図4参照)。
(実験例1−2) GS細胞からmGS細胞への変化機構の解析
本実験例では、Dnmt1遺伝子の抑制により、どのようにしてGS細胞をmGS細胞に変化させているかを確認した。従来より生殖細胞特異的遺伝子であるDnd1遺伝子及びDmrt1遺伝子の欠損は、精巣性テラトーマを誘導することが知られていた。そこで、Trp53-KO GS細胞にDnmt1-KDウイルスを感染させて誘導した細胞におけるDnmt1遺伝子、Dmrt1遺伝子及びDnd1遺伝子の発現変化をリアルタイムPCRにて検討したところ、Dmrt1の発現が有意に抑制されていることが確認された(図5参照)。
そこで、Dmrt1遺伝子の抑制がmGS細胞の誘導に関与するかを検討した。野生型GS細胞からTrp53遺伝子及びDmrt1遺伝子を抑制したところ、Dnmt1遺伝子抑制時よりもより速い時期であるウイルス感染後13〜16日の間にmGS細胞が誘導された(図6参照)。これらのデータは、Dnmt1遺伝子の抑制によりDmrt1遺伝子の発現も抑制され、その結果GS細胞がmGS細胞に変化した事を示唆している。
野生型GS細胞について上述の方法でTrp53遺伝子とDnmt1遺伝子を抑制し、誘導したmGS細胞(Dnmt1 KD-induced mGS cell)、同様に野生型GS細胞についてTrp53遺伝子とDmrt1遺伝子を抑制し、誘導したmGS細胞(Dmrt1 KD-induced mGS cell)、及び野生型新生児マウス精巣由来mGS細胞における遺伝子発現の違いを比較するため、DNAマイクロアレイによるトランスクリプトーム解析を行った。その結果、Dnmt1 KD-induced mGS cell及びDmrt1 KD-induced mGS cellは、多能性が証明されているmGS細胞と非常によく似た遺伝子発現パターンを示す事が確認された。一方、これらの細胞は野生型GS細胞とは全く異なる遺伝子発現パターンを示す事も確認された(図7参照)。
(実験例1−3) 奇形腫形成能の検討
本実験例では、Trp53-KO GS細胞について、上述の方法でDnmt1遺伝子抑制により誘導した細胞について、in vivoでの奇形腫形成能を確認した。
Trp53-KO GS細胞からDnmt1遺伝子抑制により誘導した細胞をトリプシンにより剥離し、2×106 cells/100μlでES細胞培地に再懸濁した。この懸濁液を26G針付き1ml シリンジにより免疫不全ヌードマウスの皮下に注入した。移植細胞は1ヶ月程で直径2〜3 cm程の腫瘤を形成したので、頸椎脱臼による犧死後摘出した。得られた組織はホルマリン固定の後パラフィン切片による病理切片を作製し、HE(Hematoxylin-Eosin)染色を行い観察した。Trp53-KO GS細胞にDnmt1-KDウイルスを感染させ誘導した細胞を移植したときに、病理切片において奇形腫が確認され、移植細胞由来の神経上皮(NE:Neuroepithelium)、内胚葉上皮(Endo:endoderm)や軟骨組織(Ch:chondrocyte)が確認された(図8参照)。同様に、野生型GS細胞にTrp53-KDウイルス及びDnmt1-KDウイルスを感染させ誘導した細胞、並びに野生型GS細胞にTrp53-KDウイルス及びDmrt1-KDウイルスを感染させ誘導した細胞を移植した場合も、病理切片において奇形腫が確認され、移植細胞由来の神経上皮(NE)や軟骨組織(Ch)が確認された(図9、図10参照)。
(実施例2)生殖細胞からの多能性生殖系列幹細胞(mGS細胞)の誘導2
本実施例ではウイルスベクターによる遺伝子導入によらない方法で、Dnmt1遺伝子を抑制し、誘導した細胞を作製した。
1)トランスフェクション試薬によるsiRNAの導入
本実施例では、DBA-GFPマウス由来精子幹細胞を用いて実施例1の1と同手法により作製したGS細胞に、Trp53遺伝子、Dmrt1遺伝子に対するsiRNAを細胞にトランスフェクション試薬を用いて遺伝子導入することで、各遺伝子が抑制された細胞を作製した。あらかじめMEFフィーダーを播種しておいた12 well培養プレートに各種GS細胞を1.5×105 cells/600μl medium/wellで播種した。翌日、siRNAやStealth RNAi用トランスフェクション試薬(Lipofectamine RNAi max試薬;Invitrogen社)を用い、Dmrt1, Trp53の各遺伝子に対するsiRNA(Invitrogen, stealth RNAi)を細胞へ導入した。細胞へのsiRNA導入は3日おき、継代は6日おきに1倍継代で行った。siRNAの導入後1〜2ヶ月目の細胞の形態を観察したところ、mGS細胞の誘導が観察された(図11参照)。
2) キメラマウスの作製
上記誘導された細胞をトリプシンにより剥離し、B6×DBA F1マウスの胚盤胞期胚へマイクロマニピュレーターにより注入した。その後、偽妊娠処理を行ったメスのICRマウス子宮にガラス細管を用いて移植し、胚の発生を進行させた。
上記の方法で誘導されたmGS細胞を注入したマウス胚盤胞期胚を計134個作製し、9匹の偽妊娠マウス子宮へ移植した。出産直前に偽母マウスを犧死させ帝王切開を行ったところ、33個の着床が確認された。また、母体番号7において、2匹が出生した。生存を確認後、蛍光実体顕微鏡にてGFP蛍光を観察したところ(表1参照)、出生した二匹のうち一匹は体の一部がGFP蛍光を示しており(図12参照)、移植した細胞がキメラ形成能を有することを示していた。このことから、誘導したmGS細胞の分化多能性が証明された。
(実施例3)生殖細胞からの多能性生殖系列幹細胞(mGS細胞)の誘導3
本実施例では、実施例1と同手法によりmGS細胞を誘導した。実施例1の方法に加えて、Oct1遺伝子の抑制、Sox2やOct4の過剰発現について検討した。
1) 生殖系列幹細胞(GS細胞)の樹立
実施例1と同手法により樹立した。
2)レンチウイルスベクターの調製
Trp53遺伝子、Dnmt1遺伝子、Dmap1遺伝子、Dmrt1遺伝子に対するshRNAを発現する各プラスミドDNA(pSicoR p53, pSicoR Dnmt1, CS-H1-shDmap1-EF1a-EGFP, pLKO1-shDmrt1)や、Sox2遺伝子又はOct4遺伝子を過剰発現させる各プラスミドDNAであるが、Creリコンビナーゼの作用によりSox2遺伝子又はOct4遺伝子の発現が停止され、代わりにDsRed赤色蛍光タンパク質が発現される各プラスミドDNA(CSII-EFa-loxP-Sox2-stop-loxP-DsRed-IRES-Venus, CSII-EFa-loxP-Oct4-stop-loxP-DsRed-IRES-Venus)及びレンチウイルス粒子の産生に必要な分子を発現するパッケージングベクター(pCAG-HIVgp, pCMV-VSV-G-RSV-Rev)を用いて、実施例1と同手法により各種レンチウイルスベクター調製し、保存した。
実施例1と同様に、Oct1遺伝子に対するshRNAを発現するレンチウイルスベクターを、Oct1遺伝子ノックダウンウイルス(Oct1-KDウイルス)という。また、Sox2遺伝子、Oct4遺伝子の過剰発現を誘導するレンチウイルスベクターを、各々Sox2遺伝子過剰発現ウイルス(Sox2-OEウイルス)、Oct4遺伝子過剰発現ウイルス(Oct4-OEウイルス)という。
また、各遺伝子に対するshRNAを発現しないレンチウイルスベクターを、Mockウイルスといい、対照として使用した。
3) GS細胞へのレンチウイルスの感染処理
ここではGS細胞に、実施例1と同手法により上記各種ウイルスの感染処理を行った。
4) 細胞の培養
上記の遺伝子が抑制された、又は過剰発現された細胞を、各々Trp53-KD GS細胞、Dnmt1-KD GS細胞、Dmap1-KD GS細胞、Dmrt1-KD GS細胞、Sox2-OE GS細胞、Oct4-OE GS細胞という。またTrp53遺伝子が相同組換えにより欠損している細胞をTrp53-KO GS細胞ともいう。各遺伝子の抑制操作がされていないGS細胞を、野生型GS細胞という。作製した各細胞を、実施例1と同手法により培養した。
(実験例3−1) GS細胞からmGS細胞への変化機構の解析2
本実験例では、Dmrt1遺伝子の抑制により、どのようにしてGS細胞をmGS細胞に変化させているかを確認した。従来よりDmrt1はES細胞の全能性に関わるSox2遺伝子を制御していることが知られていた。そこで、Trp53-KO GS細胞にDmrt1-KDウイルスを感染後3日目及び7日目にRNAを抽出し、リアルタイムPCRによりDmrt1及びSox2の発現を解析した。Dmrt1が抑制されたGS細胞において、Sox2遺伝子の発現が有意に誘導されていることが確認された(図13参照)。
そこで、Sox2遺伝子の過剰発現がmGS細胞の誘導に関与するかを検討した。野生型GS細胞にTrp53-KDウイルス及びSox2-OEウイルス感染させ、Trp53遺伝子を抑制し、同時にSox2を過剰発現させたところ、ウイルス感染させてから16日から34日の間にmGS細胞が誘導された(図14参照)。これらのデータは、Dmrt1遺伝子の抑制によりSox2の発現が誘導され、その結果GS細胞がmGS細胞に変化した事を示唆している。
(実験例3−2) GS細胞からmGS細胞への変化機構の解析3
本実験例では、Sox2遺伝子の過剰発現により、どのようにしてGS細胞をmGS細胞に変化させているかを確認した。従来よりSox2はES細胞の全能性に関わるOct4遺伝子の発現維持に必須であることが知られていた。そこで、Trp53-KO GS細胞にSox2-OEウイルスを感染させ誘導した細胞におけるOct4遺伝子の発現変化をリアルタイムPCRにて検討した。その結果、Oct4の発現が有意に誘導されていることが確認された(図15参照)。
そこで、Oct4遺伝子の過剰発現がmGS細胞の誘導に関与するかを検討した。野生型GS細胞にTrp53-KDウイルス及びOct4-OEウイルスを感染させて16日から19日の間にmGS細胞が誘導された(図16参照)。これらのデータは、Sox2遺伝子の過剰発現によりOct4の発現が誘導され、その結果GS細胞がmGS細胞に変化した事を示唆している。
(実験例3−3) GS細胞からmGS細胞への変化機構の解析4
本実験例では、Oct4遺伝子の過剰発現により、どのようにしてGS細胞をmGS細胞に変化させているかを確認した。Oct4を含むOctamer transcriprion factorファミリーは、Oct1, Oct2, Oct4, Oct6, Oct7, Oct8, Oct9, Oct11 から構成される。これらの遺伝子のほとんどは組織特異的な発現を示すが、Oct1とOct6は種々の体細胞にユビキタスに発現することが知られている。そこで生殖細胞とES細胞、mGS細胞、iPS細胞、及び体細胞である胎児繊維芽細胞におけるOct1, Oct4, Oct6の発現をRT-PCRにより検討したところ、Oct6は胎児繊維芽細胞を含む全ての細胞に発現していた。また、Oct4はGS細胞に弱く、ES細胞、iPS細胞、mGS細胞に強く発現していた。ところがOct1は繊維芽細胞とGS細胞で強く発現していたが、ES細胞では弱く発現するものの、iPS細胞、mGS細胞では発現が見られなかった(図17参照)。Oct4遺伝子から産生されるOct4タンパク質は、Sox2タンパク質と直接相互作用することでその機能を発揮し、ES細胞の全能性を維持することが知られているが、Oct1タンパク質もまたOct4タンパク質と同様Sox2タンパク質と相互作用することが知られている。これらのことは、Oct1タンパク質はGS細胞において、Oct4タンパク質とSox2タンパク質の相互作用を競合的に阻害している可能性が考えられた。
そこで、Oct1遺伝子の抑制がmGS細胞の誘導に関与するか否かを検討した。野生型GS細胞からTrp53遺伝子を抑制し、同時にOct1遺伝子の抑制を行ったところ、ウイルス感染後20日から28日の間にmGS細胞が誘導された。図18にDBA-GFPマウス由来GS細胞へTrp53-KDウイルス及びOct1-KDウイルスを感染させて21日目に出現したmGSの初代コロニーを示した。中心に大きく盛り上がった未分化細胞の塊があり、周辺にやや分化した細胞の進展が見られた。これらのデータは、Oct1遺伝子の抑制によりGS細胞に内在性に発現するOct4タンパク質とSox2タンパク質が相互作用しやすくなり、その結果GS細胞がmGS細胞に変化した事を示唆している。
(実験例3−4) 奇形腫形成能の検討
本実験例では、野生型GS細胞について上述の方法でSox2遺伝子の過剰発現、又はOct4遺伝子の過剰発現により誘導した細胞について、in vivoでの奇形腫形成能を確認した。
野生型GS細胞にTrp53-KDウイルス及びSox2-OEウイルスを感染させて誘導した細胞、及び野生型GS細胞にTrp53-KDウイルス及びOct4-OEウイルスを感染させて誘導した細胞をトリプシンにより剥離し、2×106 cells/100μlでES細胞培地に再懸濁した。この懸濁液を26G針付き1ml シリンジにより免疫不全ヌードマウスの皮下に注入した。
移植細胞は1ヶ月程で直径2〜3 cm程の腫瘤を形成したので、頸椎脱臼による犧死後摘出した。得られた組織はホルマリン固定の後パラフィン切片を作製、HE(Hematoxylin-Eosin)染色を行い観察した。野生型GS細胞にTrp53-KDウイルス及びSox2-OEウイルスを感染させて誘導した細胞、及び野生型GS細胞にTrp53-KDウイルス及びOct4-OEウイルスを感染させて誘導した細胞を移植したときに奇形腫の病理切片が確認され、移植細胞由来の神経上皮(NE:Neuroepithelium)、内胚葉上皮(Endo:endoderm)や軟骨組織(Ch:chondrocyte)が確認された(図19、20参照)。
(実施例4)生殖細胞からの多能性生殖系列幹細胞(mGS細胞)の誘導4
本実施例では、実施例3と同手法により、Sox2-OEウイルスやOct4-OEウイルスの感染によるSox2遺伝子又はOct4遺伝子の過剰発現でmGS細胞を誘導した後、導入したSox2遺伝子又はOct4遺伝子を破壊して遺伝子の過剰発現を停止させた細胞を作製した。
1)Sox2-OEウイルス又はOct4-OEウイルスの感染により誘導されたmGS細胞での、導入遺伝子の発現停止
Trp53-KDウイルスとともに、Sox2-OEウイルス又はOct4-OEウイルスの感染により誘導したmGS細胞に、Creリコンビナーゼ発現を誘導するアデノウイルスAxCAnCreを感染させた。この作業により、導入されたSox2遺伝子、又はOct4遺伝子が除去され、代わりに赤色蛍光タンパク質であるDsRedが発現された。この際、細胞の形態に大きな変化は無く、ES細胞やiPS細胞、mGS細胞等のmGS細胞と類似の形態を維持していた(図21、22参照)。
2) キメラマウスの作製
上記誘導されたmGS細胞をトリプシンにより剥離させた後、B6×DBA F1マウス、又はICRマウスの胚盤胞期胚へマイクロマニピュレーターを用いて注入した。その後、偽妊娠処理を行った雌のICRマウス子宮にガラス細管を用いて移植し、胚の発生を進行させた。
Sox2-OEウイルスの感染により誘導されたmGS細胞を注入したマウス胚盤胞期胚を114個作製し、偽妊娠マウス子宮へ移植した。出産直前に偽母マウスを犧死させ帝王切開を行ったところ、34個の着床が確認された。そして計18匹が出生した。生存を確認後、蛍光実体顕微鏡にてGFP蛍光を観察したところ、出生した18匹のうち5匹は体の一部がGFP蛍光を示した(図23参照)。これにより、移植したmGS細胞がキメラ形成能を有することが示された。
また、Oct4-OEウイルス感染により誘導されたmGS細胞を注入したマウス胚盤胞期胚を106個作製し、偽妊娠マウス子宮へ移植した。出産直前に偽母マウスを犧死させ帝王切開を行ったところ、34個の着床が確認された。そして計23匹が出生、内10匹の体の一部がGFP蛍光を示した(図24)。これにより、移植したmGS細胞がキメラ形成能を有することが示された。
これらのことから、Sox2-OEウイルスや Oct4-OEウイルスの感染により誘導して得たmGS細胞の分化多能性が証明された。
以上詳述したように、Sox2やOct4を過剰発現させて得た多能性幹細胞様細胞は、分化多能性が証明され有用であることが確認された。本発明の多能性幹細胞様細胞は、従来のiPS細胞の作製方法と同様に、Sox2遺伝子及び/又はOct4遺伝子の過剰発現用ウイルスベクターを用いてGS細胞に導入し、又はこれらのタンパク質を直接GS細胞に導入することにより誘導することができる。一方本発明の方法では、Dnmt1遺伝子、Dmrt1遺伝子、Dmap1遺伝子、Oct1遺伝子等に対するshRNAやsiRNAを用いてDnmt1遺伝子、Dmrt1遺伝子、Dmap1遺伝子、Oct1遺伝子等に対する遺伝子発現を抑制し、Sox2やOct4を過剰発現させることも可能である。各因子のshRNAやsiRNAを発現するウイルスベクターを用いて、遺伝子を抑制することも可能であるが、siRNAそのものをトランスフェクション試薬を用いて導入し、遺伝子を抑制することも可能である。ウイルスベクターやタンパク質を用いる方法よりも安全且つ簡便な方法である。
本発明の誘導方法により作製された多能性幹細胞様細胞は、創薬・診断分野での利用が可能である。具体的には、薬理試験、毒性試験、医薬のスクリーニング等に応用することができる。また、遺伝子疾患の罹患者よりこの細胞を作製することで、疾患モデルの作製、発症機序の解析、治療法開発等に応用することができる。さらに、再生医療の基盤研究に用いることができ、再生医療の材料としても利用できる。

Claims (14)

  1. Sox2及び/又はOct4が過剰発現された生殖細胞を培養することを特徴とする、多能性幹細胞様細胞の誘導方法。
  2. Sox2及び/又はOct4が過剰発現された生殖細胞が、Dmrt遺伝子、Dnmt遺伝子、Dmap遺伝子、及びOct1遺伝子から選択されるいずれか1種又は複数種の遺伝子が抑制された生殖細胞である、請求項1に記載の多能性幹細胞様細胞の誘導方法。
  3. Sox2及び/又はOct4が過剰発現された生殖細胞が、Sox2遺伝子及び/又はOct4遺伝子の過剰発現ベクターが導入された生殖細胞である、請求項1又は2に記載の多能性幹細胞様細胞の誘導方法。
  4. 生殖細胞が、さらにTrp53遺伝子が抑制された生殖細胞である、請求項1〜3いずれか1に記載の多能性幹細胞様細胞の誘導方法。
  5. 生殖細胞が生殖幹細胞(GS細胞)である、請求項1〜4のいずれか1に記載の多能性幹細胞様細胞の誘導方法。
  6. 以下の工程を含む、多能性幹細胞様細胞の製造方法:
    1)生殖細胞にSox2及び/又はOct4を過剰発現させる工程;
    2)上記Sox2及び/又はOct4を過剰発現させた生殖細胞を培養する工程。
  7. 生殖細胞にSox2及び/又はOct4を過剰発現させる工程が、Dmrt遺伝子、Dnmt遺伝子、Dmap遺伝子、及びOct1遺伝子から選択されるいずれか1種又は複数種の遺伝子を抑制するベクターを導入することによる、請求項6に記載の多能性幹細胞様細胞の製造方法。
  8. 生殖細胞にSox2及び/又はOct4を過剰発現させる工程が、Sox2遺伝子及び/又はOct4遺伝子の過剰発現ベクターを細胞に導入することによる、請求項6に記載の多能性幹細胞様細胞の製造方法。
  9. さらにTrp53遺伝子を抑制する工程を含む、請求項6〜8のいずれか1に記載の多能性幹細胞様細胞の製造方法。
  10. 生殖細胞が生殖幹細胞(GS細胞)である、請求項6〜9のいずれか1に記載の多能性幹細胞様細胞の製造方法。
  11. Sox2及び/又はOct4が過剰発現していることを特徴とする請求項6〜10のいずれか1に記載の製造方法に用いる多能性幹細胞様細胞作製用生殖細胞。
  12. Dmrt遺伝子、Dnmt遺伝子、Dmap遺伝子、及びOct1遺伝子から選択されるいずれか1種又は複数種の遺伝子が抑制されていることを特徴とする、請求項11に記載の多能性幹細胞様細胞作製用生殖細胞。
  13. 生殖細胞が、さらにTrp53遺伝子が抑制されていることを特徴とする、請求項11又は12に記載の多能性幹細胞様細胞作製用生殖細胞。
  14. 請求項11〜13のいずれか1に記載の多能性幹細胞様細胞作製用生殖細胞より誘導されてなる多能性幹細胞様細胞。
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