JPWO2012165654A1 - 非水系二次電池用正極活物質の製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】 粒度分布が狭く単分散性であり、電池容量を大きくすることが可能な非水系二次電池用正極活物質と、その工業的な製造方法を提供する。【解決手段】 一般式:Li1+uNixCoyMnzMtO2+α(0.05≰u≰0.95、x+y+z+t=1、0≰x≰0.5、0≰y≰0.5、0.5≰z<0.8、0≰t≰0.1、Mは添加元素であり、Mg、Ca、Al、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Wから選択される1種以上の元素)で表さる、平均粒径が3〜12μm、粒度分布の広がりを示す指標である〔(d90−d10)/平均粒径〕が0.60以下であることを特徴とする非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法。【選択図】図4

Description

本発明は、非水系二次電池用正極活物質とその製造方法、並びにその正極活物質を用いた非水系電解質二次電池に関する。
近年、携帯電話やノート型パソコンなどの携帯電子機器の普及に伴い、高いエネルギー密度を有する小型で軽量な非水系電解質二次電池の開発が強く望まれている。また、ハイブリット自動車を始めとする電気自動車用の電池として高出力の二次電池の開発が強く望まれている。このような要求を満たす二次電池として、リチウムイオン二次電池がある。
リチウムイオン二次電池は、負極および正極と電解液等で構成され、負極および正極の活物質には、リチウムを脱離および挿入することの可能な材料が用いられている。
このようなリチウムイオン二次電池は、現在研究、開発が盛んに行われているところであるが、中でも、層状またはスピネル型のリチウム金属複合酸化物を正極材料に用いたリチウムイオン二次電池は、4V級の高い電圧が得られるため、高いエネルギー密度を有する電池として実用化が進んでいる。
これまで主に提案されている材料としては、合成が比較的容易なリチウム・コバルト複合酸化物(LiCoO)や、コバルトよりも安価なニッケルを用いたリチウム・ニッケル複合酸化物(LiNiO)、リチウム・ニッケル・コバルト・マンガン複合酸化物(LiNi1/3Co1/3Mn1/3)、マンガンを用いたリチウム・マンガン複合酸化物(LiMn)、LiMnOを含有しているリチウム・ニッケル・コバルト・マンガン複合酸化物などを挙げることができる。
これらの正極活物質の中でも、近年、高容量で熱安定性に優れているリチウム過剰ニッケル・コバルト・マンガン複合酸化物(LiMnO−LiNiMnCo)が注目されている。このリチウム過剰ニッケル・コバルト・マンガン複合酸化物は、リチウム・コバルト複合酸化物やリチウム・ニッケル複合酸化物などと同じく層状化合物である(非特許文献1参照)。
そのような材料の中で、上記要求を満たす性能を得るためには、均一で適度な粒径を有しかつ比表面積が高い複合酸化物が適している。
粒径が大きく比表面積が低い複合酸化物を使用すると、電解液との反応面積が十分に確保できず、電池として十分な容量が得られない。また、微粒子が含まれる粒度分布が広い複合酸化物を使用すると、電極内で粒子に掛かる電圧が不均一となり、充放電を繰り返すと該微粒子が選択的に劣化して、容量が低下するなどのサイクル劣化が生じやすくなるためである。
したがって、適度な粒径で粒度分布の均一な複合酸化物を製造することが必要であり、そのためには粒度分布の均一な複合水酸化物を用い、製造条件を最適化することが重要である。
特に、プラグインハイブリッド自動車や電気自動車といった大きな電流を使用する用途では、抵抗低減を狙い電解液との接触面積をふやすために粒度分布が小さい方がよい。
上記複合水酸化物の製造法については、現在までに様々な提案がなされている。
たとえば特許文献1では、ニッケル・コバルト・マンガン塩水溶液とアルカリ金属水酸化物水溶液と、アンモニウムイオン供給体とをそれぞれ連続的または間欠的に反応系に供給し、反応系の温度を30〜70℃の範囲内の一定値にし、かつpHを10〜13の範囲内のほぼ一定値に保持した状態で進行させてニッケル・コバルト・マンガン複合水酸化物粒子を合成している。
また、特許文献2では、リチウム二次電池正極活物質を製造する方法において、反応槽を用い、前記物質の各構成元素の塩を水に溶解させて塩濃度を調節した複合金属塩水溶液、金属イオンと錯塩を形成する水溶性の錯化剤、及び水酸化リチウム水溶液をそれぞれ反応槽に連続供給して複合金属錯塩を生成させ、次いでこの錯塩を水酸化リチウムにより分解してリチウム共沈複合金属塩を析出させ、その錯塩の生成及び分解を槽内で循環させながら繰り返しリチウム共沈複合金属塩をオーバーフローさせて取り出すことにより、粒子形状が略球状であるリチウム共沈複合金属塩を合成している。
これらの方法は、密度の高い粒子を作製するには適しているが、粒子成長が十分に制御されているとは言えず、特に連続晶析法では粒度分布が正規分布となって広がりやすく、ほぼ均一な粒径の粒子を得るために適しているとは言いがたい。
また、特許文献3では、非水電解質電池用正極活物質の製造方法において、2種以上の遷移金属塩を含む水溶液または異なる遷移金属塩の2種以上の水溶液と、アルカリ溶液とを同時に反応槽に投入し、還元剤を共存させながらまたは不活性ガスを通気しながら共沈させることにより前駆体である水酸化物または酸化物を得る方法が提案されている。
この方法自体は、原子レベルでの固溶が不完全になることを抑制することを目的としており、粒径の制御を行なうものではないが、高密度で大きな粒径をもつ球状の水酸化物または酸化物を得ための装置が開示されている。この装置は、水溶液の混合物を下から上にフローさせ、結晶がある程度発達して比重が増加した結晶粒子は、沈降して下部の捕集部に到達するが、未発達の結晶粒子は下部からフローされる溶液の力に押し戻され、下部に落ちないシステムとしたものである。
この装置は、生成した結晶を分級しながら回収して、大きな粒径の結晶粒子を得ようとするものであるが、均一な粒径の生成物を得るためには、製造条件を厳密に管理する必要があると思われ、工業的規模の生産においては問題となる可能性が高い。さらに、実施例において、得られた複合水酸化物、あるいは正極活物質の粒径分布に関して開示されておらず、効果についても不明である。
さらに、電池を高出力化するためには、粒径を変えずに反応面積を大きくすることが効果的である。すなわち、粒子を多孔質あるいは粒子構造を中空化することで、電池反応に寄与する表面積を大きくすることができ、反応抵抗を低減することが可能となる。
たとえば、特許文献4には、層状構造を有する六方晶系リチウム含有複合酸化物により構成されるリチウム・ニッケル・マンガン複合酸化物からなる正極活物質であって、平均粒径が2〜8μmであり、粒度分布の広がりを示す指標である〔(d90−d10)/平均粒径〕が0.60以下であり、凝集した一次粒子が焼結している外殻部と、その内側に存在する中空部とからなる中空構造を備える非水系電解質二次電池用正極活物質が開示されている。また、その製造方法は、容易で大規模生産に適したものであり、この非水系電解質二次電池用正極活物質は、非水系二次電池に用いた場合に測定される正極抵抗の値を低減することができ、高容量でサイクル特性が良好で、高出力が得られるとの記載もある。
しかしながら、特許文献4に開示されている正極活物質は、高容量であるが、さらなる高エネルギー密度化が求められている。また、高出力化においても、より一層の改善が求められている。
上記高出力化を実現する方法として異元素の添加が用いられており、とりわけW、Mo、Nb、Ta、Reなどの高価数をとることができる遷移金属が有用とされている。
例えば、特許文献5には、リチウムイオンの挿入・脱離が可能な機能を有するリチウム遷移金属系化合物を主成分とし、該主成分原料に、焼成時の粒成長や焼結を抑制する添加剤の1種以上を、主成分原料中の遷移金属元素の合計モル量に対して0.01モル%以上、2モル%未満の割合で添加した後、焼成されてなるリチウム二次電池正極材料用リチウム遷移金属系化合物粉体が提案され、その添加剤として、Mo、W、Nb、Ta、及びReから選ばれる少なくとも一種以上の元素を含有する酸化物が開示されている。
このリチウム遷移金属系化合物粉体においては、一次粒子の表面部分のLi及び前記添加元素以外の金属元素の合計に対する該添加元素の合計の原子比が、粒子全体の該原子比の5倍以上であるとされ、レート・出力特性といった負荷特性の向上、低コスト化、耐高電圧化及び高安全性化との両立が可能であるとされている。しかしながら、そのリチウム遷移金属系化合物粉体は、出力特性は改善されているものの、高容量化やサイクル特性の改善が十分なものとは言い難いものである。
国際公開WO2004/092073号 特開平10−214624号公報 特開2003−86182号公報 特許4915488号 特開2008−305777号公報
FBテクニカルニュース,No.66,2011.1
本発明は上記問題点に鑑み、粒度分布が均一であり、電池に用いた場合に容量とサイクル特性を向上させることが可能な、さらには高出力化を実現することができる非水系二次電池用正極活物質を工業的な製造方法で提供すること。さらに、このような正極活物質を用いた電気特性に優れた非水系電解質二次電池を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記課題を解決するため、リチウム・ニッケル・コバルト・マンガン複合酸化物の電池特性に対する影響について鋭意研究したところ、特定のリチウム含有量と粒度分布が狭いリチウム・ニッケル・コバルト・マンガン複合酸化物を正極活物質として用いることで電池特性が大幅に改善されること、晶析工程で核生成と粒子成長を分離させて得られた粒度分布が狭いニッケル・コバルト・マンガン複合水酸化物を特定の比率でリチウム化合物と混合し焼成することで、上記リチウム・ニッケル・コバルト・マンガン複合酸化物が得られることを見出し、本発明の完成に至ったものである。
すなわち、本発明の非水系電解質二次電池用正極活物質における第1の発明は、一般式:Li1+uNiCoMn2+α(0.05≦u≦0.95、x+y+z+t=1、0≦x≦0.5、0≦y≦0.5、0.5≦z<0.8、0≦t≦0.1、Mは添加元素であり、Mg、Ca、Al、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Wから選択される1種以上の元素)で表され、層状構造を有する六方晶系リチウム含有複合酸化物により構成されるリチウム金属複合酸化物からなる正極活物質で、その平均粒径が3〜12μm、その粒度分布の広がりを示す指標である〔(d90−d10)/平均粒径〕が0.60以下であることを特徴とする非水系電解質二次電池用正極活物質である。
本発明の第2の発明は、第1の発明におけるリチウム金属複合酸化物が、一般式:bLiMnM t1・(1−b)Li1+vNiCoMn t2(0.2≦b≦0.7、−0.05≦v≦0.20、t1+t2=t、x+y+z+t=1、0.1≦x≦0.4、0.2≦y≦0.8、0.1≦z≦0.4、0≦t≦0.1、M、Mは添加元素であり、Mg、Ca、Al、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Wから選択される1種以上の元素)で表されることを特徴とする非水系電解質二次電池用正極活物質である。
本発明の第3の発明は、第1の発明における一般式が、Li1+sNiCoMn2+α(0.40≦s<0.60、z−x>0.4の時z−x≦s、z<0.6の時s≦z、0≦x≦0.5、0≦y≦0.5、0.5≦z<0.8、0<x+y、x+y+z+t=1、z−x<0.6、0.4≦α<0.6)で表されることを特徴とする非水系電解質二次電池用正極活物質である。
本発明の第4の発明は、第3の発明における一般式をsLiMnM t1・(1−s)LiNM t2(Nは、NiもしくはCoを必須とし、Ni、Co、Mnの少なくとも1種からなる)として表した場合、LiMnO:LiNOの比が0.40:0.60〜0.55:0.45である非水系電解質二次電池用正極活物質である。
本発明の第5の発明は、第4の発明におけるLiNO中に含まれるNi:Mnの比(Ni/Mn)が、0.8〜1.2である非水系電解質二次電池用正極活物質である。
本発明の第6の発明は、第1〜5の発明におけるリチウム金属複合酸化物が、一次粒子および一次粒子が凝集して構成された二次粒子からなるリチウム金属複合酸化物であって、そのリチウム金属複合酸化物の表面または粒界に、タングステンが濃縮されたリチウムを含む平均層厚が20nm以下の化合物層を有する非水系電解質二次電池用正極活物質である。
本発明の第7の発明は、第6の発明における化合物層中に含有されるタングステン量が、リチウム金属複合酸化物に含まれるリチウム以外の金属元素の原子数の和に対して、タングステンの原子数が0.1〜3.0原子%である非水系電解質二次電池用正極活物質である。
本発明の第8の発明は、第1〜7の発明におけるリチウム金属複合酸化物が、凝集した一次粒子が焼結している外殻部と、その内側に存在する中空部とからなる中空構造を備える非水系電解質二次電池用正極活物質である。
本発明の第9の発明は、第1〜8の発明におけるリチウム金属複合酸化物の平均粒径が、3〜8μmである非水系電解質二次電池用正極活物質である。
本発明の第10の発明は、第1〜9の発明における非水系電解質二次電池用正極活物質が、正極活物質として2032型コイン電池に用いられた場合、220mAh/g以上の初期放電容量を有することを特徴とするものである。
本発明の第11の発明は、第1〜10の発明における非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法で、一般式NiCoMn(OH)2+a(x+y+z+t=1、0≦x≦0.5、0≦y≦0.5、0.5≦z<0.8、0≦t≦0.1、0≦a≦0.5、Mは添加元素であり、Mg、Ca、Al、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Wから選択される1種以上の元素)で表されるマンガン複合水酸化物で、その平均粒径が3〜12μm、粒度分布の広がりを示す指標である〔(d90−d10)/平均粒径〕が0.55以下であるマンガン複合水酸化物粒子を、少なくともマンガンの化合物を含む水溶液、及びアンモニウムイオン供給体を含む水溶液を、反応槽内に供給して反応液とし、かつ水酸化ナトリウム水溶液を、反応槽内の前記反応液を所定のpHに保持するために添加量を調整して供給し、前記反応液のpHを液温25℃基準で12.0〜14.0に制御して核生成を行う核生成段階と、pHを液温25℃基準で10.5〜12.0の範囲で核生成段階より低くなるように制御して該核生成段階において生成した核を成長させる粒子成長段階に分離して上記マンガン複合水酸化物粒子を得る第1工程と、第1工程で得られたマンガン複合水酸化物粒子を、105〜750℃で熱処理する第2工程と、熱処理後のマンガン複合水酸化物、または熱処理前のマンガン複合酸化物、もしくはそれらの混合物に、リチウム以外の金属元素の原子数の和Meと、リチウムの原子数Liとの比Li/Meが1.05〜1.95となるようにリチウム化合物を加えてリチウム混合物を形成し、形成したリチウム混合物を酸化性雰囲気中、800℃〜1050℃の温度で焼成した後、解砕して、リチウム金属複合酸化物を得る第3工程と、を有することを特徴とするものである。
本発明の第12の発明は、第6〜10の発明における非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法であって、第11の発明におけるリチウム化合物を加えてリチウム混合物を形成する際に、さらにタングステン化合物を混合することを特徴とするものである。
本発明の第13の発明は、第12の発明におけるリチウム混合物を形成する際に混合されるタングステン化合物の一次粒子径の平均値に対して、前記マンガン複合水酸化物の二次粒子径の平均値が5倍以上である非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法である。
本発明の第14の発明は、第11〜13の発明における第1工程が、反応槽内の空間の酸素濃度が1容量%を超える酸化性雰囲気中で核生成を行う核生成段階と、粒子成長段階の開始時から粒子成長段階時間の全体に対して0〜40%の範囲で、酸化性雰囲気から酸素濃度1容量%以下の酸素と不活性ガスの混合雰囲気に切り替えて、核を成長させる粒子成長段階とを有することを特徴とする非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法である。
本発明の第15の発明は、第11〜14の発明における第1工程において、予め液温25℃基準でpH値を12〜14に制御して生成させた核となる複合水酸化物粒子を種晶として反応液に添加した後、反応液のpHを液温25℃基準で10.5〜12.0に制御して該粒子を成長させることにより核生成段階と粒子成長段階を分離することを特徴とする非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法である。
本発明の第16の発明は、第11〜15の発明における第1工程において核生成後あるいは粒子成長段階の途中で、反応後溶液の一部を反応槽外に排出することにより反応槽内の複合水酸化物粒子濃度を高めた後に、引き続き粒子成長を行うことを特徴とする非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法である。
本発明の第17の発明は、第11〜16の発明における第1工程において反応液の温度が、35℃以上60℃以下の任意の温度範囲に制御されることを特徴とする非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法である。
本発明の第18の発明は、第11〜17の発明における晶析工程において反応液中のアンモニア濃度が、3〜25g/Lの範囲内の任意の一定値に保持されることを特徴とする非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法である。
本発明の第19の発明は、第11〜18の発明における粒子成長段階で得られたマンガン複合水酸化物に、添加元素M(Mg、Ca、Al、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、W)から1種以上の添加元素を含む化合物を被覆することを特徴とする非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法である。
本発明の第20の発明は、第11〜19の発明における第3工程の焼成に際して、予め、焼成温度より低く、かつ350℃〜800℃の温度で仮焼を行うことを特徴とする非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法である。
本発明の第21の発明は、第1〜10の発明の非水系電解質二次電池用正極活物質を活物質とする正極を有することを特徴とする非水系電解質二次電池である。
本発明により、粒度分布が狭く単分散性である非水系二次電池用正極活物質を得て、その正極活物質を用いて電池を構成することにより放電容量の大きい非水系電解質二次電池が得られる。
また、低抵抗化も可能となり、高出力を実現できる非水系電解質二次電池が得られる。
さらに、本発明における非水系二次電池用正極活物質の製造方法は、容易且つ大量生産にも適したものであり工業上顕著な効果を奏するものである。
第1工程におけるマンガン複合水酸化物粒子の製造工程の概略フローチャートである。 第1工程におけるマンガン複合水酸化物粒子の製造工程の別態様を示す概略フローチャートである。 実施例1において得られた正極活物質のSEM写真(観察倍率1000倍)である。 実施例1において得られた正極活物質の粒度分布を示す図である。 実施例において評価に用いたコインセルの断面図である。 本発明のマンガン複合水酸化物のSEM写真(観察倍率1000倍)である。 本発明のマンガン複合水酸化物の断面SEM写真(観察倍率10000倍)である。 本発明の正極活物質であるリチウム金属複合酸化物のSEM写真(観察倍率1000倍)である。 本発明の正極活物質であるリチウム金属複合酸化物の断面SEM写真(観察倍率10000倍)である。 インピーダンス評価の測定例と解析に使用した等価回路の概略説明図である。
本発明の非水系電解質二次電池用正極活物質と、その正極活物質の製造方法について詳細に説明した後、本発明の非水系電解質二次電池を説明する。
(1)非水系電解質二次電池用正極活物質
本発明に係る非水系電解質二次電池用正極活物質は、一般式:Li1+uNiCoMn2+α(0.05≦u≦0.95、x+y+z+t=1、0≦x≦0.5、0≦y≦0.5、0.5≦z<0.8、0≦t≦0.1、Mは添加元素であり、Mg、Ca、Al、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Wから選択される1種以上の元素)で表され、層状構造を有する六方晶系リチウム含有複合酸化物により構成されるリチウム金属複合酸化物からなる正極活物質であって、その平均粒径が3〜12μm、粒度分布の広がりを示す指標である〔(d90−d10)/平均粒径〕が0.60以下であることを特徴とするものである。
この一般式における原子数によるリチウム以外の金属元素、およびLiとリチウム以外の金属元素の合計の比(以下Li/Me比と記載することがある。)といった組成比が電池の初期放電容量に与える影響が大きく、組成比が上記一般式で表される場合に電池として高容量が得られる。これは該組成比によって、高容量に寄与するLiMnOのできる割合が変化するためと考えられる。
このような高容量が得られる理由は、以下のように推察される。
Liが挿抜され充放電反応を起こす層状化合物であるLiMOが周囲に存在することで、通常はLiの挿抜反応が起こりにくいLiMnOにおいてもLiの挿抜反応が促進されて電池容量が増加する。したがって、理論容量的にはLiMnOの割合が多いほど放電容量は大きくなると考えられるが、LiMnOの割合が多くなり過ぎると、LiMnOの周囲に存在するLiMOが少なくなり、上記Li挿抜に対する促進効果が低下して不活性なLiMnOが増えることで、電池容量の低下を示す。また、上記促進効果を高めるためには、LiMnOとLiMOの接触界面が多いことが有利であり、LiMnOとLiMOが微細に混在する組織であることが好ましい。
上記一般式において、Li過剰量を示す「u」が多くなることにより、LiMnOの存在が増加して電池の容量が増加する。このため、uは0.05以上とすることが必要であり、0.05未満になるとLiMnOの存在が少なくなり十分な電池の容量が得られない。一方、uが0.95を超えると、活性が極端に落ちて電気を取り出せなくなり正極活物質の初期放電容量が低下するとともに、正極の反応抵抗も増加してしまう。
上記リチウム金属複合酸化物は、一般式:bLiMnM t1・(1−b)Li1+vNiCoMn t2(0.2≦b≦0.7、−0.05≦v≦0.20、t1+t2=t、x+y+z+t=1、0.1≦x≦0.4、0.2≦y≦0.8、0.1≦z≦0.4、0≦t≦0.1、M及びMは添加元素であり、Mg、Ca、Al、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Wから選択される1種以上の元素)と表されるものであることが好ましい。
ここで、vが−0.05未満の場合、得られた正極活物質を用いた非水系電解質二次電池における正極の反応抵抗が大きくなるため、電池の出力が低くなってしまう。一方、vが0.20を超える場合、上記正極活物質を電池の正極に用いた場合の初期放電容量が低下するとともに、正極の反応抵抗も増加してしまう。したがって、vは、その反応抵抗をより低減させるためには0.05以上とすることが好ましく、0.15以下とすることが好ましい。
また、上記一般式で表されるように、本発明の正極活物質は、リチウム金属複合酸化物粒子に添加元素を含有するように調整されていることが、より好ましい。上記添加元素を含有させることで、これを正極活物質として用いた電池の耐久特性や出力特性を向上させることができる。
特に、添加元素が粒子の表面または内部に均一に分布することで、粒子全体で上記効果を得ることができ、少量の添加で上記効果が得られるとともに容量の低下を抑制できる。
さらに、より少ない添加量で効果を得るためには、粒子内部より粒子表面における添加元素の濃度を高めることが好ましい。
全原子に対する添加元素Mの原子比tが0.1を超えると、Redox反応に貢献する金属元素が減少するため、電池容量が低下するため好ましくない。したがって、添加元素Mは、上記原子比tで上記範囲となるように調整する。
上記リチウム金属複合酸化物が、一般式:Li1+sNiCoMn2+α(0.40≦s<0.60、(z−x>0.4の時z−x≦s、z<0.6の時s≦z)、0≦x≦0.5、0≦y≦0.5、0.5≦z<0.8、0<x+y、x+y+z+t=1、z−x<0.6、0.4≦α<0.6)で表されるものであることが好ましい。
ここで、Niに対するMnの過剰量、すなわち、「z−x」が0.4より大きい場合、sを(z−x)以上とする必要がある。sが(z−x)未満になると、LiMnOの形成量が少なくなり、電池容量が低下する。また、Mn量を示すzが0.6未満の場合、Li量がMn量を超えると、MnとLiMnOを形成しない過剰のLiが増加するため、電池容量が低下する。
NiおよびCoは、少なくとも1種が好ましく、Ni量を示すxは0≦x≦0.5であり、Co量を示すyは0≦y≦0.5である。xおよびyのいずれかが0.5を超えるとLiMnOの形成量が少なくなり、電池容量が低下する。一方、xおよびyの両方が0になると、LiMOが形成されずに電池容量が低下する。
Mn量を示すzは、0.5≦z<0.8であり、zが0.5未満になると、LiMnOが十分に生成されなくなるとともに未反応のLiが存在するようになるため電池特性が低下する。一方、zが0.8以上となると、LiMnOとLiMOを形成するために必要なLiが不足してしまうため、LiNi0.5Mn1.5といったスピネル相が発生してしまい、電池特性が低下してしまう。スピネル相の発生を抑制するためには、この(x−z)を0.6以下とすることが好ましい。
さらに一般式におけるαは、O(酸素)の過剰量を示す数値であり、LiMnOとLiMOを形成させるためにはsと同様の数値範囲とする必要がある。
以上のように理論容量的には、LiMnOの割合が多いほど放電容量は大きくなると考えられるが、本発明者らが上記組成比の電池容量に及ぼす影響を詳細に検討した結果、上記一般式をsLiMnO・(1−s)LiMO(MはNiもしくはCoを必須としてNi、CoおよびMnの少なくとも1種)として表した場合、LiMOを1に対してLiMnOが0.5程度の割合の時に放電容量が大きくなる傾向を示すとの知見を得た。
特に、実質的にLiMnOの割合が0.5で、残りの層状化合物中のNiとMnの比が1:1になる組成が最も高容量を示す。層状化合物であるLiMO中でNiとMnの比が1:1になる時には、Niが2価、Mnが4価を示して、平均3価となる。このようなNi(2価)とMn(4価)のペアが存在することで、通常は充放電に寄与しないLiMnOのLiが挿抜される反応をさらに起こしやすくしていると考えられる。
したがって、上記正極活物質は、上記一般式をsLiMnO・(1−s)LiMOとして表した場合、LiMnO:LiMOの比が0.40:0.60〜0.55:0.45であることが好ましい。また、該LiMO中に含まれるNi:Mnの比(Ni/Mn)が、0.8〜1.2であることが好ましい。
上記リチウム金属複合酸化物は、その形態が一次粒子および一次粒子が凝集して構成された二次粒子からなるもので、そのリチウム金属複合酸化物の表面または粒界に、Wが濃縮されたLiを含む化合物層を有し、その平均層厚が20nm以下であることが好ましい。
一般に、正極活物質の表面が異種化合物により完全に被覆されてしまうと、リチウムイオンの移動(インターカレーション)が大きく制限されるため、結果的にリチウム金属複合酸化物の持つ高容量という長所が消されてしまうが、本発明においては、リチウム金属複合酸化物粉末の表面にWおよびLiを含む微粒子により構成された化合物層を形成させているが、この微粒子は、リチウムイオン伝導率が高く、リチウムイオンの移動を促す効果がある。このため、リチウム金属複合酸化物粉末の表面に上記化合物層を形成させることで、電解液との界面でLiの伝導パスを形成することから、活物質の反応抵抗を低減して出力特性を向上させるものである。
ここで、正極活物質の表面を層状物で被覆した場合には、その被覆厚みに関わらず、比表面積の低下が起こるため、たとえ被覆物が高いリチウムイオン伝導度を持っていたとしても、電解液との接触面積が小さくなってしまい、それによって充放電容量の低下、反応抵抗の上昇を招きやすい。しかし、本発明のように微粒子により形成させることで、電解液との接触面積を十分なものとして、リチウムイオン伝導を効果的に向上できるため、充放電容量の低下を抑制するとともに反応抵抗を低減させることができる。
このような微粒子は、その一次粒子径が平均層厚上限である20nm以下であることが好ましい。一次粒子径が20nmを超えると、微粒子1個による被覆が厚くなりすぎてしまい、化合物層が形成されにくくなるほか、空隙が多くなるため、抵抗が増加してしまう。
その粒子径が1nm未満では、微細な粒子が十分なリチウムイオン伝導度を有しない場合がある。
さらに、電解液との接触は、一次粒子表面で起こるため、一次粒子表面に微粒子が形成されていることが重要である。ここで、本発明における一次粒子表面とは、二次粒子の外面で露出している一次粒子表面と二次粒子外部と通じて電解液が浸透可能な二次粒子の表面近傍および内部の空隙に露出している一次粒子表面を含むものである。さらに、一次粒子間の粒界であっても一次粒子の結合が不完全で電解液が浸透可能な状態となっていれば含まれるものである。
この電解液との接触は、一次粒子が凝集して構成された二次粒子の外面のみでなく、上記二次粒子の表面近傍および内部の空隙、さらには上記不完全な粒界でも生じるため、上記一次粒子表面にも微粒子を形成させ、リチウムイオンの移動を促すことが必要である。
したがって、一次粒子表面全体に微粒子を形成させることで、リチウム金属複合酸化物粒子の反応抵抗をより一層低減させることが可能となる。
ここで、微粒子は完全に一次粒子の全表面において形成されている必要はなく、点在している状態でもよい。点在している状態でも、リチウム金属複合酸化物粒子の外面および内部の空隙に露出している一次粒子表面に微粒子が形成されていれば、反応抵抗の低減効果が得られる。
このようなリチウム金属複合酸化物粉末の表面の性状は、例えば、電界放射型走査電子顕微鏡で観察することにより判断でき、本発明の非水系電解質二次電池用正極活物質については、リチウム金属複合酸化物からなる粉末の表面にWおよびLiを含む微粒子が形成されていることを確認している。
一方、リチウム金属複合酸化物粉末間で不均一に微粒子が形成された場合は、リチウム金属複合酸化物粉末間でのリチウムイオンの移動が不均一となるため、特定のリチウム金属複合酸化物粉末に負荷がかかり、サイクル特性の悪化や反応抵抗の上昇を招きやすい。
したがって、リチウム金属複合酸化物粉末間においても均一に微粒子が形成されていることが好ましい。
本発明の微粒子は、タングステンおよびリチウムを含むものであればよいが、タングステンおよびリチウムがタングステン酸リチウムの形態となっていることが好ましい。このタングステン酸リチウムが形成されることで、リチウムイオン伝導度がさらに高まり、反応抵抗の低減効果がより大きなものとなる。
化合物層に含まれるタングステン量は、リチウム金属複合酸化物に含まれるリチウム以外の金属元素の原子数の合計に対して、0.1〜3.0原子%とすることが好ましい。これにより、高い充放電容量と出力特性を両立することができる。
タングステン量が0.1原子%未満であると表面、内部の粒界ともにリチウムイオン伝道を向上させるパスが十分確保されない。タングステンが3.0原子%を超えた場合は、タングステンによる焼結防止効果が進み、二次粒子を形成する一次粒子が小さくなりすぎて抵抗の原因となる粒界が増えすぎるほか、化合物層が一定の層厚を維持できなくなり、平均層厚が20nmを超えてしまい、抵抗は再び上昇してしまうため、放電容量の低下にもつながる。
化合物層に含まれるリチウム量は、特に限定されるものではなく、化合物層に含まれればリチウムイオン伝導度の向上効果が得られるが、タングステン酸リチウムを形成させるのに十分な量とすることが好ましい。
さらに、本発明の正極活物質は、その粒度特性も重要である。
すなわち、平均粒径が3〜12μm、好ましくは3〜8μm、より好ましくは3〜7μmであり、粒度分布の広がりを示す指標である〔(d90−d10)/平均粒径〕が0.6以下、好ましくは0.55以下であることにより、従来にない高エネルギー密度が達成される。
平均粒径が3μm未満の場合には、正極を形成したときに粒子の充填密度が低下して、正極の容積あたりの電池容量が低下する。一方、平均粒径が12μmを超えると、正極活物質の比表面積が低下して、電池の電解液との界面が減少することにより、正極の抵抗が上昇して電池の出力特性が低下する。また、上記複合酸化物は、元来、導電性の低い材料であるため、取り出せる放電容量は低下してしまう。
また、粒度分布が広範囲になっている場合、平均粒径に対して粒径が非常に小さい微粒子や、平均粒径に対して非常に粒径の大きい粗大粒子が正極活物質に多く存在することになる。
そのため、本発明の正極活物質は組成的に熱安定性に優れた材料であるが、正極活物質中に微粒子が多い場合には、電池の正極中で微粒子の局所的な反応に起因して発熱する可能性があり熱安定性が低下する。また、微粒子が選択的に劣化するのでサイクル特性が悪化してしまう。
一方、粗大粒子が多く存在する場合には、上記低導電性の影響により、取り出せる放電容量は低下してしまう。
したがって、正極活物質の粒度分布の上記指標である〔(d90−d10)/平均粒径〕を0.6以下となるように制御すれば、該正極活物質を用いた電池では、高容量で、良好なサイクル特性を有するものとすることができる。
なお、粒度分布の広がりを示す指標〔(d90−d10)/平均粒径〕において、d10は、各粒径における粒子数を粒径が小さいほうから累積したときにおいて、その累積体積が全粒子の合計体積の10%となる粒径を意味している。また、d90は、各粒径における粒子数を粒径が小さいほうから累積したときにおいて、その累積体積が全粒子の合計体積の90%となる粒径を意味している。
平均粒径や、d90、d10を求める方法は特に限定されないが、たとえば、レーザー光回折散乱式粒度分析計で測定した体積積算値から求めることができる。平均粒径としてd50を用いる場合には、d90と同様に累積体積が全粒子体積の50%となる粒径を用いればよい。
したがって、本発明の正極活物質を、上記粒度分布を示し、かつ、平均粒径が3〜12μm、好ましくは、3〜8μm、より好ましくは3〜7μm、さらに好ましくは3〜6.5μmとなるように調整すれば、電池の正極に用いた場合、電池容量が大きく、優れた電池特性が得られる。
本発明の正極活物質は、図8、図9に例示するように、凝集した一次粒子が焼結している外殻部と、その内側に存在する中空部とからなる中空構造を有することができる。
このような中空構造とすることにより、反応表面積を大きくすることができ、かつ、外殻部の一次粒子間の粒界あるいは空隙から電解液が浸入して、粒子内部の中空側の一次粒子表面における反応界面でもリチウムの挿脱入が行われるため、Liイオン、電子の移動が妨げられず、出力特性を高くすることができる。
ここで、この外殻部の厚みは、リチウム金属複合酸化物粒子の粒径に対する比率において5〜45%であることが好ましく、8〜38%であることがより好ましい。また、絶対値においては0.5〜2.5μmの範囲にあることがより好ましく、0.4〜2.0μmの範囲にあることが特に好ましい。
外殻部の厚みの比率が5%未満であると、リチウム金属複合酸化物粒子の強度が低下するため、粉体取扱時および電池の正極とするときに粒子が破壊され微粒子が発生し、特性を悪化させる。一方、外殻部の厚みの比率が45%を超えると、粒子内部の中空部へ電解液が侵入可能な上記粒界あるいは空隙から電解液が少なくなり、電池反応に寄与する表面積が小さくなるため、正極抵抗が上がり、出力特性が低下してしまう。
なお、リチウム金属複合酸化物粒子径に対する外殻部の厚みの比率は、リチウム金属複合酸化物粒子の断面を、走査型電子顕微鏡を用いて観察することによって測定できる。
たとえば、複数のリチウム金属複合酸化物粒子(二次粒子)を樹脂などに埋め込み、クロスセクションポリッシャ加工などにより該粒子の断面観察が可能な状態とする。上記外殻部の厚みの二次粒子径に対する比率は、以下のように求めることができる。
この樹脂中の二次粒子から、ほぼ粒子中心の断面観察が可能な粒子を選択して、3箇所以上の任意の箇所で、外殻部の外周上と中心部側の内周上の距離が最短となる2点間の距離を測定して、粒子ごとの外殻部の平均厚みを求める。二次粒子外周上で距離が最大となる任意の2点間の距離を二次粒子径として該平均厚みを除することで、粒子ごとの外殻部の厚さの上記比率を求める。さらに、10個以上の粒子について求めた粒子ごとの該比率を平均することで、上記リチウム金属複合酸化物粒子における、二次粒子径に対する外殻部の厚みの比率を求めることができる。
(2)非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法
本発明に係る正極活物質の製造方法は、以下の3工程を有している。
[第1工程]
一般式:NiCoMn(OH)2+a(x+y+z+t=1、0≦x≦0.5、0≦y≦0.5、0.5≦z<0.8、0≦t≦0.1、0≦a≦0.5、Mは添加元素であり、Mg、Ca、Al、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Wから選択される1種以上の元素)で表され、平均粒径が3〜12μm、その粒度分布の広がりを示す指標である〔(d90−d10)/平均粒径〕が0.55以下であるマンガン複合水酸化物粒子を、少なくともマンガンの化合物を含む水溶液、及びアンモニウムイオン供給体を含む水溶液を、反応槽内に供給して反応液とし、かつ水酸化ナトリウム水溶液を、その反応槽内の反応液を所定のpHに保持するために添加量を調整して供給し、その反応液のpHを液温25℃基準で12.0〜14.0に制御して核生成を行う核生成段階と、pHを液温25℃基準で10.5〜12.0の範囲で核生成段階より低くなるように制御して、先の核生成段階において生成した核を成長させる粒子成長段階に分離して、上記マンガン複合水酸化物粒子を得る工程である。
[第2工程]
第1工程で得られたマンガン複合水酸化物を、105〜750℃で熱処理する工程である。
[第3工程]
第2工程を経たマンガン複合水酸化物、または熱処理前のマンガン複合酸化物、もしくはそれらの混合物に、リチウム以外の金属元素の原子数の和Meと、リチウムの原子数Liとの比Li/Meが1.05〜1.95となるようにリチウム化合物を加えてリチウム混合物を形成し、前記リチウム混合物を酸化性雰囲気中、800℃〜1050℃の温度で焼成した後、解砕して、リチウム金属複合酸化物を得る工程である。
以下、各工程を詳細に説明する。
(2−a)第1工程
本発明の製造方法における第1工程は、一般式:NiCoMn(OH)2+a(x+y+z+t=1、0≦x≦0.5、0≦y≦0.5、0.5≦z<0.8、0≦t≦0.1、0≦a≦0.5、Mは添加元素であり、Mg、Ca、Al、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Wから選択される1種以上の元素)で表され、その平均粒径が3〜12μm、その粒度分布の広がりを示す指標である〔(d90−d10)/平均粒径〕が0.55以下であるマンガン複合水酸化物粒子を得る工程である。
この複合水酸化物粒子は、均質な組成で効率よく生産が可能な晶析法によって得られる。通常、工業的に複合水酸化物を晶析法によって作製する場合は、連続晶析法が多く用いられる。この方法は組成の等しい複合水酸化物を大量にかつ簡便に作製できる方法である。しかしながら、この連続晶析法では、得られた生成物の粒度分布が比較的幅広い正規分布になりやすく、必ずしも粒径の揃った粒度分布が狭い粒子を得ることができないという課題がある。
そこで、幅広い正規分布を有する複合水酸化物粒子を、分級して粒度分布の狭い複合水酸化物を得ることも考えられるが、本発明の複合水酸化物粒子のような平均粒径では、使用可能な目開きの篩自体がなく、篩いによる分級は困難である。また、湿式サイクロンのような装置を用いても十分に狭い粒度分布に分級することはできず、工業的な分級方法では、粒径が均一で粒度分布が狭い複合水酸化物を得ることは困難である。
本発明ではかかる問題を解決するため、核生成段階と粒子成長段階を明確に分離させ、核生成段階で生成した核を次の粒子成長段階で核から粒子を成長させる晶析工程を採用することで粒子径の均一化をはかり、粒度分布の狭い複合水酸化物を得るに至った。
したがって、本発明における第1工程に用いる晶析工程は、少なくともマンガンの化合物を含む水溶液、必要に応じてニッケル、コバルト及び添加元素Mの化合物を含む水溶液及びアンモニウムイオン供給体を含む水溶液を反応槽内に供給すると共に、水酸化ナトリウム水溶液を反応槽内の反応液を所定のpHに保持するために添加量を調整して供給し、この反応液のpHを液温25℃基準で12.0〜14.0に制御して核生成を行う核生成段階と、pHを液温25℃基準で10.5〜12.0の範囲で核生成段階より低くなるように制御して核生成段階で生成した核を、成長させる粒子成長段階とに分離して、第1工程におけるマンガン複合水酸化物粒子を得るものである。
第1工程における複合水酸化物粒子の製造方法の概略を、図1および図2に示す。なお、図1および図2では、(A)が核生成段階に相当し、(B)が粒子成長段階に相当する。以下、各段階について詳細に説明する。
(核生成段階)
まず、易水溶性の上記一般式を構成する金属の化合物(以下、これらを後述の添加元素を含めて金属化合物と記載することがある)を、所定の割合で水に溶解してマンガン混合水溶液を作製する。
次いで、作製した混合水溶液と、アンモニウムイオン供給体を含む水溶液とを、撹拌している晶析反応槽内の反応液へ供給すると同時に、水酸化ナトリウム水溶液も供給する。
ここで、反応液のpHが液温25℃基準で12.0〜14.0の範囲内で一定値となるように水酸化ナトリウム水溶液量を調節することで、反応液中にて生成した核はほとんど成長せず、上記複合水酸化物の微小な核を選択的に生成するものである。
そのpHが12.0未満では、粒子成長も同時に起こってしまうため、核の総数が不足するとともに粗大な粒径の粒子が発生してしまい、このような状態で核生成段階から次段階である粒子成長段階に移行させると、晶析工程で得られる複合水酸化物が粗大化するとともに粒度分布も広がりやすい。一方、pHが14.0を超えると、生成する核が微細になり過ぎ、反応液がゲル化して晶析が困難となる場合が生じてしまう。
さらに、そのpHは、一定値に制御されていることが好ましく、具体的には変動幅として±0.2で制御されることが好ましい。このpHの変動幅が大きくなると、得られる上記核の総数が変動し、粒径の制御が困難になるため好ましくない。
また、粒度分布の良好な複合水酸化物粒子を得るためには、核生成段階で供給する金属化合物量を、全体量、すなわち複合水酸化物粒子を得るために供給する全金属化合物の0.1%から2%とすることが好ましく、1.5%以下とすることがより好ましい。
(粒子成長段階)
次に粒子成長段階では、新たな核形成を抑制して前工程の核生成段階で得られた核の粒子成長のみを生じさせることで、粒度分布の範囲が狭く粒径が均一な複合水酸化物粒子を得るものである。
このため粒子成長段階においては、反応液のpHを液温25℃基準で10.5〜12.0の範囲内で一定値となるように制御する。またpHの制御は、水酸化ナトリウム水溶液量を調節することで行われる。すなわち、そのpHが12.0を超えると、新たな核生成を十分に抑制することができずに得られる粒子の粒度分布は広くなる。一方、pHが10.5未満では、アンモニアイオンによる金属化合物の溶解度が高く、析出せずに液中に残る金属イオンが増えるため好ましくない。また、金属硫酸塩を原料として使用した場合に粒子中に残るS(イオウ)分が多くなるため好ましくない。
そこで、粒子成長段階におけるpHも、核形成段階と同様に一定値に制御されることが好ましく、具体的には変動幅として±0.2で制御されることが好ましい。pHの変動幅が大きくなると、金属イオンの溶解度が変化するため、得られる複合水酸化物の粒度分布が広くなることがある。
なお、このpHが12の場合は、核生成と核成長の境界条件であるため、反応水溶液中に存在する核の有無により、核生成工程もしくは粒子成長工程のいずれかの条件とすることができる。
すなわち、核生成段階のpHを12より高くして多量に核生成させた後、粒子成長段階でpHを12とすると、反応水溶液中に多量の核が存在するため、核の成長が優先して起こり、粒径分布が狭く比較的大きな粒径の水酸化物粒子が得られる。
一方、反応水溶液中に核が存在しない状態、すなわち、核生成段階においてpHを12とした場合、成長する核が存在しないため、核生成が優先して起こり、粒子成長工程のpHを12より小さくすることで、生成した核が成長して良好な前記水酸化物粒子が得られる。
したがって、いずれの場合においても、粒子成長段階のpHを核生成段階のpHより低い値で制御すればよく、核生成と粒子成長を明確に分離するためには、粒子成長工程のpHを核生成工程のpHより0.5以上低くすることが好ましく、1.0以上低くすることがより好ましい。
以下、核生成段階および粒子成長段階において共通した条件に関して説明する。
本発明の製造方法では、両段階において、金属イオンは核または複合水酸化物粒子となって晶出するので、反応液中の金属成分に対する液体成分の割合が増加する。このような状態では、見かけ上、供給する混合水溶液の濃度が低下したようになり、粒子成長段階において、複合水酸化物粒子が十分に成長しない可能性がある。
したがって、核生成後あるいは粒子成長段階の途中で、反応液の一部を反応槽外に排出することにより反応液中の複合水酸化物粒子濃度を高めた後、引き続き粒子成長を行うことも可能である。
このような方法によって、混合水溶液の相対的な濃度が高い状態で複合水酸化物粒子を成長させることができるので、より粒子の粒度分布を狭めることができ、粒子密度も高めることができる。具体的には、反応液に対する混合水溶液等の供給および攪拌を停止して、核や複合水酸化物粒子を沈降させて、反応液の上澄み液を排出すればよい。
核生成段階から粒子成長段階への移行は、たとえば、核生成が完了した反応液のpHを、粒子成長段階のpHに調整して引き続いて粒子成長を行うことができ、粒子成長段階への移行を迅速に行うことができる。このpHの調整は、一時的にアルカリ水溶液の供給を停止することで容易に行うことができるほか、金属化合物を構成する酸と同種の無機酸、例えは、硫酸塩の場合は硫酸を反応水溶液に添加することでも調整することができる。
一方、粒子成長段階に適したpHおよびアンモニウムイオン濃度に調整された反応液が入った反応槽を準備しておき、この粒子成長段階用の反応槽に、別の反応槽で生成させた種晶となる核を含有する水溶液を添加して粒子成長段階を行ってもよい。
この場合、核生成段階と粒子成長段階の分離をより確実に行うことができるので、各段階における反応水溶液の状態を各段階に最適な条件とすることができる。とくに、粒子成長段階を開始する初期から、反応液のpHを最適な条件とすることができるため、より粒度分布の範囲が狭くかつ粒径が均一なものとすることができる。
本発明の製造方法においては、晶析反応時の雰囲気制御も重要となる。
すなわち、晶析反応時の雰囲気を酸化性とすると、核生成時や粒子成長時に複合水酸化物粒子中の金属元素の酸化が促進されるため、複合水酸化物二次粒子内部の構造に微小な空隙が生じる。したがって、核生成段階および粒子成長段階における雰囲気の酸素濃度を制御する、あるいは粒子成長段階において酸化性雰囲気と非酸化性雰囲気のそれぞれにさらす時間帯を組み合わせることにより、複合水酸化物粒子の空隙の割合を変化させて緻密性を制御することが可能である。
上記第1工程で得られるマンガン複合水酸化物粒子は、図6に例示されるように、略球状の粒子であり、具体的には、図7に例示されるように、複数の板状一次粒子が凝集して形成された略球状の二次粒子となっている。このような構造により、本発明の正極活物質であるリチウム金属複合酸化物を形成する第3(焼結工程)において、粒子内へのリチウムの拡散が十分に行われるため、リチウムの分布が均一で良好な正極活物質が得られる。
また、本発明の正極活物質において、凝集した一次粒子が焼結している外殻部と、その内側に存在する中空部とからなる中空構造を有する金属複合酸化物を得ようとする場合には、粒子内部には微細一次粒子からなる中心部を有し、中心部の外側に該微細一次粒子よりも大きな板状一次粒子からなる外殻部を有する構造を備えたマンガン複合水酸化物を用いる。
ここで、上記中心部は、微細な一次粒子が連なった隙間の多い構造であるため、より大きく厚みのある板状一次粒子からなる外殻部と比べると、上記焼成工程において焼結による収縮が低温から発生する。このため、焼成時に低温から焼結が進行して、粒子の中心から焼結の進行が遅い外殻部側に収縮して、中心部に空間が生じる。また、中心部は低密度と考えられ、収縮率も大きいことから、中心部は十分な大きさを有する空間となる。これにより、焼成後に得られる正極活物質が中空構造となる。
また、板状一次粒子がランダムな方向に凝集して二次粒子を形成したものであれば、より好ましい。板状一次粒子がランダムな方向に凝集することで、一次粒子間にほぼ均一に空隙が生じて、リチウム化合物と混合して焼成するとき、溶融したリチウム化合物が二次粒子内へ行きわたり、リチウムの拡散が十分に行われるからである。
さらに、ランダムな方向に凝集していることで、上記焼成工程における中心部の収縮も均等に生じることから、正極活物質内部に十分な大きさを有する空間を形成することができ、好ましい。
上記焼成時の空間形成のため、上記微細一次粒子は、その平均粒径が0.01〜0.3μmであることが好ましく、0.1〜0.3μmであることがさらに好ましい。また、この微細一次粒子よりも大きな板状一次粒子は、その平均粒径が0.3〜3μmであることが好ましく、0.4〜1.5μmであることがさらに好ましく、0.4〜1.0μmであることが特に好ましい。この微細一次粒子の平均粒径が0.01μm未満であると、複合水酸化物粒子において十分な大きさの中心部が形成されないことがあり、0.3μmを超えると、上記焼結開始の低温化および収縮が十分でなく、焼成後に十分な大きさの空間が得られないことがある。
一方、外殻部の板状一次粒子の平均粒径が、0.3μm未満であると、焼成時の焼結が低温化して焼成後に十分な大きさの空間が得られないことがあり、3μmを超えると、得られる正極活物質の結晶性を十分なのもとするために、焼成温度を高くする必要があり、上記二次粒子間で焼結が発生して、得られる正極活物質の粒径が上記範囲を超えることがある。
さらに、微細一次粒子は、板状および/または針状であることが好ましい。微細一次粒子が、これらの形状となることで、上記中心部は十分に低密度となり、焼成によって大きな収縮が発生して十分な量の空間が生じる。
また、上記二次粒子においては、外殻部の厚みは、その二次粒子の粒径に対する比率で5〜45%であることが好ましく、7〜35%であることがより好ましい。
上記複合水酸化物を原料として得られる正極活物質粒子は、中空構造を有し、その粒子径に対する外殻部の厚みの比率は、上記複合水酸化物二次粒子の比率が概ね維持される。
したがって、上記二次粒子径に対する外殻部の厚さの比率を上記範囲とすることで、リチウム金属複合酸化物粒子に十分な中空部を形成することができる。この外殻部の厚みが、二次粒子の粒径に対する比率で5%未満と薄すぎると、正極活物質の製造時の焼成工程において、複合水酸化物粒子の収縮が大きくなり、かつ、リチウム金属複合酸化物の二次粒子間に焼結が生じて、正極活物質の粒度分布が悪化することがある。一方、45%を超えると、十分な大きさの中心部が形成されないなどの問題を生ずる場合がある。
なお、上記二次粒子径に対する外殻部の厚みの比率は、リチウム金属複合酸化物粒子における外殻部の厚みの比率の測定と同様に行うことができる。また、上記微細一次粒子および板状一次粒子の粒径は、たとえば、以下のように測定することができる。
まず、複数のマンガン複合水酸化物粒子(二次粒子)を樹脂などに埋め込み、クロスセクションポリッシャ加工などにより該粒子の断面観察が可能な状態とする。上記微細一次粒子および板状一次粒子の粒径は、二次粒子中の、好ましくは10個以上の上記一次粒子断面の最大径を粒径として測定し、平均値を計算することで求めることができる。
上記雰囲気制御により、マンガン複合水酸化物粒子を形成する一次粒子の成長が制御され、酸化性雰囲気では、微細な一次粒子により形成され空隙が多い低密度の粒子が形成され、弱酸化性雰囲気から非酸化性雰囲気では、一次粒子が大きく緻密で高密度の粒子が形成される。
すなわち、核生成段階と粒子成長段階の初期の一部を酸化性雰囲気とすることで、微細一次粒子からなる中心部が形成され、その後の粒子成長段階において酸化性雰囲気から切り替えて弱酸化性から非酸化性の範囲の雰囲気とすることで、その中心部の外側に微細一次粒子よりも大きな板状一次粒子からなる外殻部を有する粒子構造を形成することができ、後工程の焼成により中空構造を有する正極活物資が得られる。
一方、晶析反応時全体を反応槽内の空間の酸素濃度が5容量%以下となるように制御すると、複合酸化物粒子全体が比較的大きな一次粒子で構成されるため、焼成後に中実構造を有するものとすることができる。
上記雰囲気制御された晶析反応においては、通常、上記中心部の一次粒子は微細な板状および/または針状となり、外殻部の一次粒子は板状となる。しかしながら、上記一次粒子は、その組成により、直方体、楕円、稜面体などの形状となることもある。
本発明における上記中心部を形成するための上記酸化性雰囲気は、反応槽内の空間の酸素濃度が1容量%を超える雰囲気と定義される。該酸素濃度は2容量%を超える酸化性雰囲気が好ましく、10容量%を超える酸化性雰囲気がさらに好ましく、制御が容易な大気雰囲気(酸素濃度:21容量%)とすることが特に好ましい。
反応槽内の空間の酸素濃度が1容量%を超える雰囲気とすることで、一次粒子の平均粒径を0.01〜0.3μmとすることができる。酸素濃度が1容量%以下では、中心部の一次粒子の平均粒径が0.3μmを超えることがある。反応容器蓋と液面の間の空間の酸素濃度の上限は、特に限定されるものではないが、30容量%を超えると、上記一次粒子の平均粒径が0.01μm未満となる場合があり、好ましくない。
一方、本発明における上記外殻部を形成するための弱酸化性から非酸化性の範囲の雰囲気は、反応槽内空間の反応容器蓋と液面の間の空間の酸素濃度が1容量%以下である雰囲気と定義される。好ましくは核酸素濃度が0.5容量%以下、より好ましくは0.2容量%以下となるように、酸素と不活性ガスの混合雰囲気に制御する。
反応容器蓋と液面の間の空間の酸素濃度を1容量%以下にして粒子成長させることで、粒子の不要な酸化を抑制し、一次粒子の成長を促して、平均粒径0.3〜3μmの中心部より大きい一次粒子径で粒度が揃った、緻密で高密度の外殻部を有する二次粒子を得ることができる。
このような雰囲気に反応槽内空間を保つための手段としては、窒素などの不活性ガスを反応槽内空間部へ流通させること、さらには反応液中に不活性ガスをバブリングさせることがあげられる。
上記粒子成長段階における雰囲気の切り替えは、最終的に得られる正極活物質において、微粒子が発生してサイクル特性が悪化しない程度の中空部が得られるように、マンガン複合水酸化物粒子の中心部の大きさを考慮して、そのタイミングが決定される。
たとえば、粒子成長段階時間の全体に対して、粒子成長段階の開始時から0〜40%、好ましくは0〜30%、さら好ましくは0〜25%の時間の範囲で行う。粒子成長段階時間の全体に対して30%を超える時点で上記切り替えを行うと、形成される中心部が大きくなり、上記二次粒子の粒径に対する外殻部の厚みが薄くなり過ぎることがある。
一方、粒子成長段階の開始前、すなわち、核生成段階中に上記切り替えを行うと、中心部が小さくなりすぎるか、上記構造を有する二次粒子が形成されない。
上記反応液中のアンモニア濃度は、好ましくは3〜25g/L、より好ましくは3〜15g/Lの範囲内の一定値に保持される。アンモニア濃度が3g/L未満では金属イオンの溶解度を一定に保持することができないため、整った水酸化物粒子の形成が成り立たず、核生成段階ではゲル状の核が生成しやすい。このため粒度分布も広がりやすい。一方、アンモニア濃度が25g/Lを超えると水酸化物が緻密に形成されるため、最終的に得られる非水系電解質二次電池用正極活物質も緻密な構造になり、比表面積が低くなってしまうため好ましくない。
さらに、そのアンモニア濃度は、一定値に制御されることが好ましく、具体的には変動幅として±2.5g/Lで制御されることが好ましい。このアンモニア濃度が変動すると、金属イオンの溶解度が変動し、均一な水酸化物粒子が形成されないことがある。
なお、アンモニウムイオン供給体はとくに限定されないが、例えば、アンモニア、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、炭酸アンモニウム、フッ化アンモニウムなどを使用することができる。
また、反応液の温度は35℃〜60℃に設定することが好ましい。
その反応液の温度が35℃未満では、供給する金属イオンの溶解度が充分に得られず、核発生が起こりやすく制御が難しくなる。また、60℃を越えるとアンモニアの揮発が促進されることにより錯形成するためのアンモニアが不足し、上記と同様に金属イオンの溶解度が減少しやすくなるため好ましくない。
複合水酸化物粒子の粒径は、核生成段階における核の総数によって制御することが可能であり、その核の総数は、核生成段階における反応液のpHやアンモニア濃度及び供給される混合水溶液中の金属成分の量によって制御できる。すなわち、核生成時のpHを高pH側とすることにより、あるいは核生成時間を長くして添加する金属化合物量を増やすことで、核生成数を多くすることができる。これにより、粒子成長段階を同条件とした場合でも複合水酸化物粒子の粒径を小さくできる。一方、逆に核生成数が少なくするように制御すれば、複合水酸化物粒子の粒径を大きくすることができる。
また、複合水酸化物粒子の粒径は、粒子成長段階に添加する金属化合物量により制御できる。所望の粒径に成長するまで粒子成長段階を継続して金属化合物を添加すれば、所望の粒径を有する複合水酸化物粒子を得ることができる。
その添加する金属化合物として、電池特性を改善するための添加元素の化合物水溶液を必要に応じて供給することができる。その化合物水溶液を混合水溶液に添加すると析出物が生成する場合には、化合物水溶液と混合水溶液を個別に、かつ同時に反応液に供給する。また、得られる複合水酸化物の各金属の組成比は、各水溶液に含有される金属成分の組成比と一致するため、所望の金属成分の組成比となるように各水溶液に溶解させる金属化合物量を調整すればよい。用いる金属化合物は、水溶性の化合物を用いることができ、硝酸塩、硫酸塩、塩酸塩等が挙げられる。例えば、硫酸ニッケル、硫酸コバルト、硫酸マンガンが好ましく用いられる。
混合水溶液の濃度は、金属化合物の合計で1〜2.6mol/Lとすることが好ましく、1〜2.2mol/Lとすることがより好ましい。
混合水溶液の濃度が1mol/L未満でも複合水酸化物粒子を晶析反応させることは可能であるが、反応槽当たりの晶析物量が少なくなるために生産性が低下して好ましくない。一方、混合水溶液の濃度が2.6mol/Lを超えると、常温での飽和濃度を超えるため、結晶が再析出して設備の配管を詰まらせるなどの危険がある。
また、金属化合物は、必ずしも混合水溶液として反応槽に供給しなくてもよく、反応水溶液中における金属化合物の合計の濃度が上記範囲となるように、個々の金属化合物の水溶液として所定の割合で反応槽内に供給してもよい。
添加元素(M、M、M:Mg、Ca、Al、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Wから選択される1種以上の元素)は、水溶性の化合物を用いることが好ましく、たとえば、硫酸チタン、ペルオキソチタン酸アンモニウム、シュウ酸チタンカリウム、硫酸バナジウム、バナジン酸アンモニウム、硫酸クロム、クロム酸カリウム、硫酸ジルコニウム、硝酸ジルコニウム、シュウ酸ニオブ、モリブデン酸アンモニウム、タングステン酸ナトリウム、タングステン酸アンモニウムなどを用いることができる。
上記添加元素を複合水酸化物粒子の内部に均一に分散させる場合には、混合水溶液に、添加元素を含有する添加物を添加すればよく、複合水酸化物粒子の内部に添加元素を均一に分散させた状態で共沈させることできる。
また、上記複合水酸化物粒子の表面を添加元素で被覆する場合には、たとえば、添加元素を含んだ水溶液で該複合水酸化物粒子をスラリー化し、所定のpHとなるように制御しつつ、前記1種以上の添加元素を含む水溶液を添加して、晶析反応により添加元素を複合水酸化物粒子表面に析出させれば、その表面を添加元素で均一に被覆することができる。
この場合、添加元素を含んだ水溶液に替えて、添加元素のアルコキシド溶液を用いてもよい。さらに、上記複合水酸化物粒子に対して、添加元素を含んだ水溶液あるいはスラリーを吹き付けて乾燥させることによっても、複合水酸化物粒子の表面を添加元素で被覆することができる。また、複合水酸化物粒子と前記1種以上の添加元素を含む塩が懸濁したスラリーを噴霧乾燥させる、あるいは複合水酸化物と前記1種以上の添加元素を含む塩を固相法で混合するなどの方法により被覆することができる。
なお、表面を添加元素で被覆する場合、混合水溶液中に存在する添加元素イオンの原子数比を被覆する量だけ少なくしておくことで、得られる複合水酸化物粒子の金属イオンの原子数比と一致させることができる。また、粒子の表面を添加元素で被覆する工程は、複合水酸化物粒子を加熱した後の粒子に対して行ってもよい。
以上述べてきた核生成段階と粒子成長段階を分離する製造方法では、反応が完了するまで生成物を回収しない方式の装置を用いる。例えば、撹拌機が設置された通常に用いられるバッチ反応槽などである。かかる装置を採用すると、一般的なオーバーフローによって生成物を回収する連続晶析装置のように成長中の粒子がオーバーフロー液と同時に回収されるという問題が生じないので、粒度分布が狭く粒径の揃った粒子を得ることができる。
また、晶析反応時の雰囲気を制御する場合には、密閉式の装置などの雰囲気制御可能な装置であることが好ましい。このような装置を用いることにより、核生成段階や粒子成長段階で上記金属元素の酸化を容易に制御することができる。
使用する混合溶液、アンモニウムイオン供給体を含む水溶液、および水酸化ナトリウム水溶液は、流量制御が可能なポンプ等で供給すればよい。また、アンモニウムイオン供給体を含む水溶液および水酸化ナトリウム水溶液は、一般的なイオンメーター、pH計によって反応液を測定しながら供給量を調整する。
以上説明してきたような製造方法によって、所望の組成、粒度および構造を有するマンガン複合水酸化物粒子を得ることができる。その複合水酸化物粒子に含有される金属元素の組成比は、後工程によってもほぼ変化することがない。したがって、複合水酸化物粒子と最終的に得ようとする正極活物質の組成比は実質的に同じにすることで、電池に用いた場合の特性が良好な正極活物質を獲ることができる。
また、平均粒径も後工程によってもほぼ変化することがないため、最終的に得ようとする正極活物質と同等の範囲、すなわち2〜12μmとすればよい。一方、粒度分布の広がりを示す指標である〔(d90−d10)/平均粒径〕は、後工程である焼成等により若干悪化する場合がある。このため、複合水酸化物に対する指標は、正極活物質より若干向上させておく必要があり、0.55以下とすればよい。
(2−b)第2工程
第2工程は、第1工程で得られたマンガン複合水酸化物粒子を、105℃〜750℃で熱処理する工程である。
この工程によって、複合水酸化物粒子中の残留水分を除去して減少させることができる。また、複合水酸化物粒子を複合酸化物粒子に転換することができるので、得られる正極活物質中の金属の原子数やリチウムの原子数の割合がばらつくことを防ぐことができる。
なお、この割合にばらつきが生じない程度に水分が除去できればよいので、必ずしも全ての複合水酸化物粒子を複合酸化物粒子に転換する必要はなく、複合水酸化物と複合酸化物の混合物であってもよい。しかしながら、得られる正極活物質中の金属の原子数やリチウムの原子数の割合を正確に制御するためには、熱処理温度を500℃以上として複合水酸化物粒子を複合酸化物粒子にすべて転換することが好ましい。
この熱処理は、水分除去と複合酸化物粒子に転換することが目的であるため、酸化性雰囲気であればよいが、十分な流量を有した空気雰囲気中で行うことが容易であり好ましい。その熱処理温度が105℃未満では、熱処理に長時間を要するため工業的に適当でないばかりか残留水分を十分に除去できない。一方、熱処理温度が750℃を超えると、複合酸化物となった粒子間で焼結が生じて粒度分布が悪化するため好ましくない。
また、熱処理時間はとくに制限されないが、1時間未満では複合水酸化物粒子中の残留水分の除去が十分に行われない場合があるため、1時間以上が好ましく、5〜15時間がより好ましい。
第2工程は、正極活物質中の金属の原子数やリチウムの原子数の割合がばらつくことを防止することが目的であるため、組成の制御が十分に可能である場合には省略することができる。
この熱処理に用いる設備は、特に限定されるものではなく、空気気流中で加熱できるものであれば良く、送風乾燥器、ガス発生がない電気炉が好適に使用できる。
(2−c)第3工程
第3工程は、第2工程で得られた複合水酸化物または複合酸化物、もしくはそれらの混合物と、リチウム化合物とを混合し、得られた混合物を酸化性雰囲気中800〜1050℃で焼成する工程である。
リチウム化合物との混合は、得られるリチウム金属複合酸化物中のリチウム以外の金属元素の原子数の和(Me)とリチウム(Li)の原子数との比(Li/Me)が、1.05〜1.95となるように混合してリチウム混合物を形成する。焼成前後でのLi/Me比はほぼ一致するため、この混合物とリチウム金属複合酸化物のLi/Me比を同等とすることで、優れた電池特性を有する正極活物質を獲ることができる。
このリチウム化合物は、特に限定されるものではないが、水酸化リチウム、炭酸リチウムのいずれか、もしくは、その混合物を好適に用いることができる。取り扱いの容易さ、品質の安定性を考慮すると、炭酸リチウムを用いることがより好ましい。
このような焼成を施されるマンガン複合水酸化物とリチウム化合物は、焼成前に十分混合しておくことが好ましい。その混合が不十分な場合には、個々の粒子間でLi/Meがばらつき、十分な電池特性が得られない間等の問題が生じる可能性がある。
混合には、一般的な混合機を使用することができ、例えばシェーカーミキサーやレーディゲミキサー、ジュリアミキサー、Vブレンダーなどを用いることができ、熱処理された粒子の形骸が破壊されない程度でリチウム化合物と十分に混合してやればよい。
ここで、リチウム金属複合酸化物の表面または粒界に、タングステンが濃縮されたリチウムを含む平均層厚20nm以下の化合物層を形成させる場合には、リチウム混合物形成時に、さらにタングステン化合物を混合することが好ましい。タングステンは、マンガン複合水酸化物に添加元素として含有させることもできるが、リチウム混合物にタングステン化合物を混合することで、該化合物層を十分に形成させることができる。
混合するタングステン化合物の平均粒子径は、上記マンガン複合水酸化物あるいはマンガン複合酸化物の平均粒子径に対し1/5倍以下とすることが好ましい。タングステン化合物の平均粒子径が1/5よりも大きいと、上記化合物層が形成されず、タングステン酸リチウムが単独で存在する粒子を生成するほか、局部的な濃度の偏りが起こることから、平均層厚20nm以下にならないことがある。
上記化合物層中に含有されるタングステン量は、チウム混合物形成時に混合するタングステン化合物量として制御すればよく、リチウム金属複合酸化物に含まれるリチウム以外の金属元素の原子数の和に対して、タングステンの原子数が0.1〜30原子%となるようにすればよい。
さらに、リチウム金属複合酸化物全体でのタングステン量は、マンガン複合水酸化物に含有されるタングステン量と混合するタングステン化合物量の合計として制御すればよい。一方、混合するリチウム化合物量は、リチウム混合物形成時に添加したタングステン化合物がタングステン酸リチウムを形成できる量を追加して添加することが好ましい。
第3工程における焼成温度が800℃未満であると、マンガン複合水酸化物あるいはマンガン複合酸化物粒子中へのリチウムの拡散が十分でなく、余剰のリチウムと未反応のマンガン複合酸化物が残る、あるいはMnスピネル相が残留し、結晶構造が十分整わない。一方、焼成温度が1050℃を超えるとリチウム・金属複合酸化物粒子間で激しく焼結が生じるとともに、異常粒成長を生じることから粒子が粗大となり、球状二次粒子の形態、粒度分布を保持できなくなる。
さらに、本発明の温度範囲以外のいずれの条件で焼成を行なった場合でも、電池容量が低下する。したがって、焼成温度を800〜1050℃、より好ましくは900〜1000℃とすることで、電池に用いた場合に良好な特性が発揮されるリチウム金属複合酸化物を得ることができる。
なお、熱処理粒子とリチウム化合物との反応を均一に行わせる観点から、昇温速度を3〜10℃/minとして上記温度まで昇温することが好ましい。さらには、リチウム化合物の融点付近の温度にて1〜5時間程度保持することで、より反応を均一に行わせることができる
この焼成時間は、1時間以上とすることが好ましく、より好ましくは4〜24時間、さらに好ましくは5〜15時間である。1時間未満では、リチウム金属複合酸化物の生成が十分に行われないことがある。
また、この焼成に際して、焼成前に焼成温度より低い350〜800℃の温度に1〜10時間程度保持して仮焼した後、引き続いて800〜1050℃で焼成することが好ましい。これは水酸化リチウムもしくは炭酸リチウムの融点付近あるいは反応温度付近で保持することにより、リチウムの拡散を十分に行ない、均一なリチウム金属複合酸化物を得ることができるからである。
その焼成雰囲気は、酸化性雰囲気とするが、酸素濃度が18〜100容量%の雰囲気とすることが好ましい。すなわち、大気〜酸素雰囲気中で行なうことが好ましい。コスト面を考慮すると、空気気流中で行なうことが、特に好ましい。酸素濃度が18容量%未満であると、酸化が十分でなく、リチウム金属複合酸化物の結晶性が十分でない場合がある。
焼成に用いられる炉は、特に限定されるものではなく、大気〜酸素雰囲気で加熱できるものであればよいが、ガス発生がない電気炉が好ましく、バッチ式あるいは連続式の炉が用いられる。
この焼成後に解砕して、非水系電解質二次電池用正極活物質を得る。
この解砕は、本発明の範囲内の焼成温度で焼成した場合、リチウム金属複合酸化物粒子間に激しい焼結は生じないが、二次粒子間の焼結ネッキング等が生じる場合があるため、解砕することで、焼結ネッキング等が解消されて良好な粒度分布を有する正極活物質が得られる。なお、解砕とは、焼結ネッキング等により生じた複数の二次粒子からなる凝集体に機械的エネルギーを投入して、二次粒子をほとんど破壊することなく二次粒子を分離させて凝集体をほぐす操作のことである。
(3)非水系電解質二次電池
本発明の非水系電解質二次電池は、正極、負極および非水系電解液などからなり、一般の非水系電解質二次電池と同様の構成要素により構成される。なお、以下に説明する実施形態は例示に過ぎず、本発明の非水系電解質二次電池は、本明細書に記載されている実施形態を基に、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した形態で実施することができる。また、本発明の非水系電解質二次電池は、その用途を特に限定するものではない。
(3−a)正極
前述のように得られた非水系電解質二次電池用正極活物質を用いて、例えば、以下のようにして、非水系電解質二次電池の正極を作製する。
まず、粉末状の正極活物質、導電材および結着剤を混合し、さらに必要に応じて活性炭や、粘度調整などの目的の溶剤を添加し、これを混練して正極合材ペーストを作製する。
その際、正極合材ペースト中のそれぞれの混合比も、非水系電解質二次電池の性能を決定する重要な要素となる。溶剤を除いた正極合材の固形分を100質量部とした場合、一般の非水系電解質二次電池の正極と同様、正極活物質の含有量を60〜95質量部とし、導電材の含有量を1〜20質量部とし、結着剤の含有量を1〜20質量部とすることが望ましい。
得られた正極合材ペーストを、例えば、アルミニウム箔製の集電体の表面に塗布し、乾燥して、溶剤を飛散させる。必要に応じ、電極密度を高めるべく、ロールプレスなどにより加圧することもある。このようにして、シート状の正極を作製することができる。このシート状の正極は、目的とする電池に応じて適当な大きさに裁断などをして、電池の作製に供することができる。ただし、正極の作製方法は、前記例示のものに限られることなく、他の方法によってもよい。
正極の作製に当たって、導電材としては、例えば、黒鉛(天然黒鉛、人造黒鉛および膨張黒鉛など)や、アセチレンブラックやケッチェンブラックなどのカーボンブラック系材料を用いることができる。
結着剤は、活物質粒子をつなぎ止める役割を果たすもので、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、フッ素ゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、スチレンブタジエン、セルロース系樹脂およびポリアクリル酸を用いることができる。
必要に応じ、正極活物質、導電材および活性炭を分散させ、結着剤を溶解する溶剤を正極合材に添加する。溶剤としては、具体的には、N−メチル−2−ピロリドンなどの有機溶剤を用いることができる。また、正極合材には、電気二重層容量を増加させるために、活性炭を添加することができる。
(3−b)負極
負極には、金属リチウムやリチウム合金など、あるいは、リチウムイオンを吸蔵および脱離できる負極活物質に、結着剤を混合し、適当な溶剤を加えてペースト状にした負極合材を、銅などの金属箔集電体の表面に塗布し、乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成したものを使用する。
負極活物質としては、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛およびフェノール樹脂などの有機化合物焼成体、およびコークスなどの炭素物質の粉状体を用いることができる。
この場合、負極結着剤としては、正極同様、PVDFなどの含フッ素樹脂を用いることができ、これらの活物質および結着剤を分散させる溶剤としては、N−メチル−2−ピロリドンなどの有機溶剤を用いることができる。
(3−c)セパレータ
正極と負極との間には、セパレータを挟み込んで配置する。
このセパレータは、正極と負極とを分離し、電解質を保持するものであり、ポリエチレンやポリプロピレンなどの薄い膜で、微少な孔を多数有する膜を用いることができる。
(3−d)非水系電解液
非水系電解液は、支持塩としてのリチウム塩を有機溶媒に溶解したものである。
有機溶媒としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネートおよびトリフルオロプロピレンカーボネートなどの環状カーボネート、また、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネートおよびジプロピルカーボネートなどの鎖状カーボネート、さらに、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフランおよびジメトキシエタンなどのエーテル化合物、エチルメチルスルホンやブタンスルトンなどの硫黄化合物、リン酸トリエチルやリン酸トリオクチルなどのリン化合物などから選ばれる1種を単独で、あるいは2種以上を混合して用いることができる。
支持塩としては、LiPF、LiBF、LiClO、LiAsF、LiN(CFSO、およびそれらの複合塩などを用いることができる。
さらに、非水系電解液は、ラジカル捕捉剤、界面活性剤および難燃剤などを含んでいてもよい。
(3−e)電池の形状、構成
以上説明した正極、負極、セパレータおよび非水系電解液で構成される本発明の非水系電解質二次電池は、円筒形や積層形など、種々の形状にすることができる。
いずれの形状を採る場合であっても、正極および負極を、セパレータを介して積層させて電極体とし、得られた電極体に、非水系電解液を含浸させ、正極集電体と外部に通ずる正極端子との間、および、負極集電体と外部に通ずる負極端子との間を、集電用リードなどを用いて接続し、電池ケースに密閉して、非水系電解質二次電池を完成させる。
(3−f)特性
本発明の正極活物質を用いた非水系電解質二次電池は、たとえば2032型コイン電池とした場合、220mAh/g以上、より好ましい態様では250mAh/g以上の高い初期放電容量、低い正極抵抗および高いサイクル容量維持率が得られるものとなり、非水系電解質二次電池用正極活物質として優れた特性を示すものである。また、従来のリチウム・コバルト系酸化物あるいはリチウム・ニッケル系酸化物の正極活物質との比較においても熱安定性は同等程度で、安全性においても問題ないといえる。
以下、本発明の実施例および比較例について、詳述する。なお、すべての実施例および比較例を通じて、複合水酸化物粒子、正極活物質および二次電池の作製には、特に記載のないものは和光純薬工業株式会社製試薬特級の各試料を使用した。
実施例1
(共沈殿工程)
まず、反応槽内に純水を半分の量まで入れて撹拌しながら、窒素ガスを流通させ反応槽内の酸素濃度を5容量%以下に低下させ、槽内温度を40℃に設定し、純水に25質量%水酸化ナトリウム水溶液と25質量%アンモニア水を適量加えて、液のpHを液温25℃基準で(pHは全て液温25℃基準で調整)12.8に、液中アンモニア濃度を10g/Lに調節して反応液を調製した。ここに、硫酸ニッケル、硫酸コバルト、硫酸マンガン(金属元素モル比でNi:Co:Mn=2:1:7)を純水に溶かして得た1.8mol/Lの水溶液(混合水溶液A)と、上記アンモニア水および水酸化ナトリウム水溶液を一定速度で加えていき、pH値を12.8(核生成pH)に制御しながら2分30秒間晶析を行った。
その後、pHが11.6(核成長pH)になるまで、その水酸化ナトリウム水溶液の供給のみを一時停止し、pHの値として11.6に到達した後、再度水酸化ナトリウム水溶液の供給を再開した。次いで、pHを11.6に制御したまま、2時間晶析を継続し、反応槽内が満水になったところで晶析を停止し撹拌を止めて静置することで、生成物の沈殿を促した。上澄み液を半量抜き出したのちに、晶析を再開した。さらに2時間晶析を行った後(計4時間)、晶析を終了させて、生成物を水洗、濾過、乾燥させた。
以上、述べた方法により、Ni0.20Co0.10Mn0.70(OH)2+β(0≦β≦0.5)で表される複合水酸化物を得た。
(熱処理、焼成工程)
得られた複合水酸化物を大気雰囲気中150℃で12時間熱処理した後、Li/Me=1.5となるように炭酸リチウムを秤量し、シェーカーミキサー装置(ウィリー・エ・バッコーフェン(WAB)社製TURBULA TypeT2C)を用いて、その熱処理した複合水酸化物と炭酸リチウムを十分に混合した混合物を得た。この混合物を空気(酸素:21容量%)気流中にて900℃で10時間焼成し、さらに解砕して非水系電解質二次電池用正極活物質を得た。
得られた非水系電解質二次電池用正極活物質を、X線回折(XRD)装置により結晶構造を確認したところ、XRDパターンからLiMnOとLiMOの存在が確認された。なお、LiMnOとLiMOの割合は、組成から算出すると0.5:0.5となる。
得られた複合水酸化物および非水系電解質二次電池用正極活物質の平均粒径、および〔(d90−d10)/平均粒径〕値、初期放電容量値を表1に、正極活物質のSEM(日本電子株式会社製走査電子顕微鏡JSM−6360LA)観察結果を図3に示す。
なお、平均粒子径測定は、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置(日機装株式会社製、マイクロトラックHRA)により測定し、その粒度分布測定結果を図4に示す。
(電池評価)
得られた非水系電解質二次電池用正極活物質の評価は、以下のように電池を作製し、充放電容量を測定することで行なった。
非水系電解質二次電池用正極活物質52.5mg、アセチレンブラック15mg、およびポリテトラフッ化エチレン樹脂(PTFE)7.5mgを混合し、100MPaの圧力で直径11mm、厚さ100μmにプレス成形して図5に示す正極1(評価用電極)を作製した。その作製した正極1を真空乾燥機中120℃で12時間乾燥した。そして、この正極1を用いて2032型コイン電池Bを、露点が−80℃に管理されたAr雰囲気のグローブボックス内で作製した。
負極2には、直径17mm厚さ1mmのLi金属を用い、電解液には、1MのLiPF6を支持電解質とするエチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)の3:7混合液(富山薬品工業株式会社製)を用いた。セパレータ3には膜厚25μmのポリエチレン多孔膜を用いた。また、コイン電池Bは、ガスケット4とウェーブワッシャー5を有し、正極缶6と負極缶7とでコイン状の電池に組み立てられた。
作製したコイン電池(B)は、組立てから24時間程度放置し、開回路電圧OCV(Open Circuit Voltage)が安定した後、正極に対する電流密度を0.1mA/cmとしてカットオフ電圧が4.8Vとなるまで充電して、1時間の休止後、カットオフ電圧が2.0Vになるまで放電したときの放電容量を測定する充放電試験を行なって初期放電容量を評価した。
また、耐久特性を測定するために、3.0Vから4.6Vの電圧範囲で、1時間で充電が終了する電流密度および温度40℃の条件下で充放電サイクルを200サイクル繰り返し、初期とサイクル後の放電容量比より容量維持率を算出した。
充放電容量の測定には,マルチチャンネル電圧/電流発生器(株式会社富士通アクセス製)を用いた。
初期充放電試験の結果、得られた非水系電解質二次電池用正極活物質を用いた二次電池の初期放電容量は269mAh/gであった。また、200サイクル後の容量維持率は73.1%であった。
実施例2
Li/Me比を1.41とした以外は、実施例1と同様にして非水系電解質二次電池用正極活物質を得るとともに評価した。
得られた非水系電解質二次電池用正極活物質のNi、Co、Mnの組成比、Li/Me比、組成から算出されたLiMnOとLiMOの割合、および初期放電容量、容量維持率を表1に示す。
実施例3
Li/Me比を1.55とした以外は、実施例1と同様にして非水系電解質二次電池用正極活物質を得るとともに評価した。
得られた非水系電解質二次電池用正極活物質のNi、Co、Mnの組成比、Li/Me比、組成から算出されたLiMnOとLiMOの割合、および初期放電容量、容量維持率を表1に示す。
実施例4
組成をモル比でNi:Co:Mn=1:3:6と変更した以外は、実施例1と同様にして非水系電解質二次電池用正極活物質を得るとともに評価した。
得られた非水系電解質二次電池用正極活物質のNi、Co、Mnの組成比、Li/Me比、組成から算出されたLiMnOとLiMOの割合、および初期放電容量、容量維持率を表1に示す。
実施例5
組成をモル比でNi:Co:Mn=3:1:6と変更した以外は、実施例1と同様にして非水系電解質二次電池用正極活物質を得るとともに評価した。
得られた非水系電解質二次電池用正極活物質のNi、Co、Mnの組成比、Li/Me比、組成から算出されたLiMnOとLiMOの割合、および初期放電容量、容量維持率を表1に示す。
実施例6
組成をモル比でNi:Co:Mn=4:1:5と変更した以外は、実施例1と同様にして非水系電解質二次電池用正極活物質を得るとともに評価した。
得られた非水系電解質二次電池用正極活物質のNi、Co、Mnの組成比、Li/Me比、組成から算出されたLiMnOとLiMOの割合、および初期放電容量、容量維持率を表1に示す。
(比較例1)
組成をモル比でNi:Co:Mn=2:0:8と変更したこと、Li/Me比を1.3としたこと以外は、実施例1と同様にして非水系電解質二次電池用正極活物質を得るとともに評価した。
得られた非水系電解質二次電池用正極活物質のNi、Co、Mnの組成比、Li/Me比、組成から算出されたLiMnOとLiMOの割合、および初期放電容量を表1に示す。なお、初期放電容量が低いため、容量維持率は測定しなかった。
(比較例2)
組成をモル比でNi:Co:Mn=2:0:8と変更したこと、Li/Me比を1.6としたこと以外は、実施例1と同様にして非水系電解質二次電池用正極活物質を得るとともに評価した。
得られた非水系電解質二次電池用正極活物質のNi、Co、Mnの組成比、Li/Me比、組成から算出されたLiMnOとLiMOの割合、および初期放電容量を表1に示す。なお、初期放電容量が低いため、容量維持率は測定しなかった。
(比較例3)
組成をモル比でNi:Co:Mn=5:1:4と変更した以外は、実施例1と同様にして非水系電解質二次電池用正極活物質を得るとともに評価した。
得られた非水系電解質二次電池用正極活物質のNi、Co、Mnの組成比、Li/Me比、組成から算出されたLiMnOとLiMOの割合、および初期放電容量を表1に示す。未反応のLiが余るLi過剰の組成であるため、容量維持率は測定しなかった。
(比較例4)
組成をモル比てNi:Co:Mn=1:1:8と変更した以外は、実施例1と同様にして非水系電解質二次電池用正極活物質を得るとともに評価した。
得られた非水系電解質二次電池用正極活物質のNi、Co、Mnの組成比、Li/Me比、組成から算出されたLiMnOとLiMOの割合、および初期放電容量を表1に示す。なお、スピネル相が発生したため、容量維持率は測定しなかった。
(比較例5)
組成をモル比でNi:Co:Mn=1:1:8と変更した以外は、実施例1と同様にして非水系電解質二次電池用正極活物質を得るとともに評価した。
得られた非水系電解質二次電池用正極活物質のNi、Co、Mnの組成比、Li/Me比、組成から算出されたLiMnOとLiMOの割合、および初期放電容量を表1に示す。なお、スピネル相が発生したため、容量維持率は測定しなかった。
(比較例6)
焼成温度を1050℃にした以外は、実施例1と同様にして非水系電解質二次電池用正極活物質を得るとともに評価した。得られた非水系電解質二次電池用正極活物質のNi、Co、Mnの組成比、Li/Me比、組成から算出されたLiMnOとLiMOの割合、初期放電容量、および200サイクル後の容量維持率を表1に示す。
(比較例7)
核生成段階においてpHを14.5(核生成pH)に制御しながら4分間晶析を行った以外は、実施例1と同様にして非水系電解質二次電池用正極活物質を得るとともに評価した。得られた非水系電解質二次電池用正極活物質のNi、Co、Mnの組成比、Li/Me比、組成から算出されたLiMnOとLiMOの割合、初期放電容量、および200サイクル後の容量維持率を表1に示す。
(比較例8)
pHを12.0一定(核生成段階なし)とし、合計の晶析時間を3時間とした以外は、実施例1と同様にして非水系電解質二次電池用正極活物質を得るとともに評価した。得られた非水系電解質二次電池用正極活物質のNi、Co、Mnの組成比、Li/Me比、組成から算出されたLiMnOとLiMOの割合、初期放電容量、および200サイクル後の容量維持率を表1に示す。
(比較例9)
攪拌機とオーバーフローパイプを備えた34Lの円筒形反応槽を用いて、上記混合水溶液Aを30cm/分、25%アンモニア水を3cm/分の流量にて反応槽に添加しながらpHを11.5〜12.0に制御し、反応槽内が定常状態になった後、オーバーフローパイプより複合水酸化物粒子を連続的に採取したこと、採取した複合水酸化物粒子を湿式サイクロン(ハイドロサイクロン、日本化学機械製造株式会社製、NHC−1)を用いて、供給圧力を上げて粗粉を除去した後、再度、供給圧力を下げて微粒を除去したこと以外は、実施例1と同様にして非水系電解質二次電池用正極活物質を得ると共に評価した。
得られた非水系電解質二次電池用正極活物質のNi、Co、Mnの組成比、Li/Me比、組成から算出されたLiMnOとLiMOの割合、初期放電容量、および200サイクル後の容量維持率を表1に示す。
表1より、本発明の組成比、粒度分布を有する実施例は高い初期放電容量を示すことがわかる。一方Ni量に対するMn量が多い比較例1および比較例2は、Li/Meを変化させても初期放電容量が低い。
また、Mn量が少ない比較例3では、初期放電容量は比較例1比較例2より高いが、未反応のLiが存在するため熱安全性に問題がある。さらに、Ni量に対するMn量が多い比較例4および比較例5は、スピネル相が発生して、初期放電容量が大幅に低下している。
平均粒径が3μm未満と細かい比較例7、8では、その粒度分布に関わらず、反応面積が増えるため放電容量は取り出せるが、サイクルに伴う容量劣化が大きくなることがわかる。さらに、平均粒径は6.5μmと本発明内にあるが、粒度分布が広い比較例9でも、粒子サイズの違いによる反応ムラにより、細かい粒子が先に劣化して行き、サイクルに伴う容量劣化が大きくなることがわかる。
実施例7
[複合水酸化物粒子の製造]
複合水酸化物粒子を、以下のようにして作製した。
(核生成段階)
まず、反応槽(34L)内に、水を半分の量まで入れて撹拌しながら、槽内温度を40℃に設定した。このときの反応槽内は、大気雰囲気(酸素濃度:21容量%)とした。この反応槽内の水に、25質量%水酸化ナトリウム水溶液と25質量%アンモニア水を適量加えて、液温25℃基準で、槽内の反応液のpH値が12.8となるように調整した。さらに、該反応液中のアンモニア濃度を10g/Lに調節して反応前水溶液とした。
次に、硫酸ニッケルと硫酸コバルト、硫酸マンガンを水に溶かして1.8mol/Lの混合水溶液を調製した。この混合水溶液では、各金属の元素モル比が、Ni:Co:Mn=0.167:0.167:0.666となるように調整した。
この混合水溶液を、反応槽内の反応前水溶液に88ml/minの割合で加えて、反応水溶液とした。同時に、25質量%アンモニア水および25質量%水酸化ナトリウム水溶液も、この反応水溶液に一定速度で加えていき、反応水溶液(核生成用水溶液)中のアンモニア濃度を上記値に保持した状態で、pH値を12.8(核生成pH値)に制御しながら、2分30秒間晶析させて核生成を行った。
(粒子成長段階)
核生成終了後、反応水溶液のpH値が液温25℃基準で11.6になるまで、25質量%水酸化ナトリウム水溶液の供給のみを一時停止した。
反応水溶液のpH値が11.6に到達した後、反応水溶液(粒子成長用水溶液)に、再度、25質量%水酸化ナトリウム水溶液の供給を再開し、アンモニア濃度を上記値に保持してpH値を液温25℃基準で11.6、に制御したまま、30分間の晶析を継続し粒子成長を行った後、給液を一旦停止し、反応槽内空間の反応容器蓋と液面の間の空間の酸素濃度が0.2容量%以下となるまで窒素ガスを5L/minで流通させた。その後、給液を再開し、成長開始からあわせて2時間晶析を行った。
反応槽内が満液になったところで、晶析を停止するとともに、撹拌を止めて静置することで、生成物の沈殿を促した。その後、反応槽から上澄み液を半量抜き出した後、晶析を再開し、2時間晶析を行った後(計4時間)、晶析を終了させた。
そして、生成物を水洗、濾過、乾燥させて複合水酸化物粒子を得た。なお、上記大気雰囲気から窒素雰囲気への切り替えは、粒子成長工程の開始時から粒子成長工程時間の全体に対して12.5%の時点で行ったことになる。
上記晶析において、pHは、pHコントローラにより水酸化ナトリウム水溶液の供給流量を調整することで制御され、変動幅は設定値の上下0.2の範囲内であった。
[複合水酸化物の分析]
得られた複合水酸化物について、その試料を無機酸により溶解した後、ICP発光分光法により化学分析を行ったところ、その組成は、Ni0.169Co0.164Mn0.667(OH)2+a(0≦a≦0.5)であった。
また、この複合水酸化物について、平均粒径および粒度分布を示す〔(d90−d10)/平均粒径〕値を、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置(日機装株式会社製、マイクロトラックHRA)を用いて測定した体積積算値から算出して求めた。その結果、平均粒径は5.8μmであり、〔(d90−d10)/平均粒径〕値は、0.46であった。
次に、得られた複合水酸化物粒子のSEM(株式会社日立ハイテクノロジース製、走査電子顕微鏡S−4700)観察(倍率:1000倍)を行ったところ、この複合水酸化物粒子は、略球状であり、粒径がほぼ均一に揃っていることが確認された。SEM観察結果を図6に示す。
また、得られた複合水酸化物粒子の試料を、樹脂に埋め込み、クロスセクションポリッシャ加工を行ったものについて、倍率を10,000倍としたSEM観察結果を行ったところ、この複合水酸化物粒子が二次粒子により構成され、該二次粒子は、針状、薄片状の微細一次粒子(粒径およそ0.3μm)からなる中心部と、該中心部の外側にこの微細一次粒子よりも大きい板状の一次粒子(粒径およそ0.6μm)からなる外殻部とにより構成されていることが確認された。
この断面のSEM観察結果を、図7に示す。この断面のSEM観察から求めた、二次粒子径に対する外殻部の厚さは、14%であった。
[正極活物質の製造]
上記複合水酸化物粒子を、空気(酸素:21容量%)気流中にて、700℃で6時間の熱処理を行って、複合酸化物粒子に転換して回収した。
Li/Me=1.50となるように炭酸リチウムを秤量し、上記複合酸化物粒子と混合してリチウム混合物を調製した。混合は、シェーカーミキサー装置(ウィリー・エ・バッコーフェン(WAB)社製、TURBULA TypeT2C)を用いて行った。
得られたリチウム混合物を大気中(酸素:21容量%)にて、500℃で4時間仮焼した後、950℃で10時間焼成し、冷却した後、解砕して正極活物質を得た。
[正極活物質の分析]
複合水酸化物粒子と同様の方法で、得られた正極活物質の粒度分布を測定したところ、平均粒径は5.3μmであり、〔(d90−d10)/平均粒径〕値は、0.46であった。
また、複合水酸化物粒子と同様の方法で、正極活物質のSEM観察および断面SEM観察を行ったところ、得られた正極活物質は、略球状であり、粒径がほぼ均一に揃っていることが確認された。この正極活物質のSEM観察結果を図8に示す。
一方、断面SEM観察により、この正極活物質が、一次粒子が焼結して構成された外殻部と、その内部に中空部を備える中空構造となっていることを確認した。この正極活物質の断面SEM観察結果を図9に示す。この観察から求めた、正極活物質の粒子径に対する外殻部の厚さの比率は、13%であった。
得られた正極活物質について、流動方式ガス吸着法比表面積測定装置(ユアサアイオニクス社製、マルチソーブ)により比表面積を求めたところ、1.5m/gであった。
さらに、同様にICP発光分光法により、正極活物質の組成分析を行ったところ、Li1.50Ni0.167Co0.167Mn0.6662.5であることが確認された。
[二次電池の製造及び評価]
得られた正極活物質の評価には、実施例1と同様に作製した2032型コイン電池を使用した。
[電池評価]
得られたコイン型電池の性能を評価する、初期放電容量、サイクル容量維持率、正極抵抗は、以下のように定義した。
初期放電容量は、コイン型電池を作製してから24時間程度放置し、開回路電圧OCV(open circuit voltage)が安定した後、正極に対する電流密度を0.1mA/cmとしてカットオフ電圧4.7Vまで充電し、1時間の休止後、カットオフ電圧2.5Vまで放電したときの容量を初期放電容量とした。
サイクル容量維持率は、正極に対する電流密度を2mA/cmとして、4.7Vまで充電して3.0Vまで放電を行うサイクルを200回繰り返し、充放電を繰り返した後の放電容量と初期放電容量の比を計算して容量維持率とした。
充放電容量の測定には,マルチチャンネル電圧/電流発生器(株式会社アドバンテスト製、R6741A)を用いた。
また、正極抵抗は、以下のようにして評価した。
コイン型電池を充電電位4.1Vで充電して、周波数応答アナライザおよびポテンショガルバノスタット(ソーラトロン製、1255B)を使用して、交流インピーダンス法により測定すると、図10に示すナイキストプロットが得られる。このナイキストプロットは、溶液抵抗、負極抵抗とその容量、および、正極抵抗とその容量を示す特性曲線の和として表しているため、このナイキストプロットに基づき等価回路を用いてフィッティング計算して、正極抵抗の値を算出した。
上記正極活物質を用いて形成された正極を有するコイン型電池について、電池評価を行ったところ、初期放電容量は272mAh/gであり、正極抵抗は37Ωであった。また、200サイクル後の容量維持率は80%であった。
本実施例7により得られた複合水酸化物の特性を表2に、正極活物質の特性およびこの正極活物質を用いて製造したコイン型電池の各評価を表3に、それぞれ示す。また、以下の実施例8〜15および比較例10〜14についても、同様の内容について、表2および表3に示す。
実施例8
Li/Me=1.70となるように水酸化リチウムと複合酸化物粒子を混合したこと、焼成温度を850℃としたこと以外は、実施例7と同様にして、非水系電解質二次電池用正極活物質を得るとともに評価を行った。得られた正極活物質の組成は、Li1.70Ni0.167Co0.167Mn0.6662.7であることが確認された。
実施例9
複合水酸化物粒子製造工程における粒子成長工程において、大気雰囲気から窒素雰囲気への切り替えを、粒子成長工程時間全体に対して6.25%の時点で行ったこと以外は、実施例7と同様にして、非水系電解質二次電池用正極活物質を得るとともに評価した。なお、得られた複合水酸化物粒子および正極活物質の組成は、実施例7と同様であり、複合水酸化物粒子は実施例1と同様に針状の微細一次粒子(粒径およそ0.4μm)からなる中心部と、該中心部の外側にこの微細一次粒子よりも大きい板状の一次粒子(粒径0.8μm)からなる外殻部とにより構成されていた。
実施例10
複合水酸化物粒子製造工程において、硫酸ニッケルと硫酸マンガンに加えて、タングステン酸ナトリウムを水に溶かして1.8mol/Lの混合水溶液を形成したこと以外は、実施例7と同様にして、非水系電解質二次電池用正極活物質を得るとともに評価した。なお、この混合水溶液では、各金属の元素モル比が、Ni:Co:Mn:W=0.167:0.167:0.661:0.005となるように調整した。得られた複合水酸化物の組成は、Ni0.167Co0.166Mn0.6620.005(OH)2+a(0≦a≦0.5)であった。また、得られた正極活物質の組成は、Li1.50Ni0.167Co0.166Mn0.6620.0052.5であることが確認された。
実施例11
Li/Me=1.25となるように、水酸化リチウムと複合酸化物粒子を混合したこと以外は実施例7と同様にして、非水系電解質二次電池用正極活物質を得るとともに評価した。得られた正極活物質の組成は、Li1.25Ni0.167Co0.167Mn0.6662.25であることが確認された。
実施例12
複合水酸化物粒子製造工程において、槽内温度を50℃、アンモニア濃度を15g/Lとしたこと以外は、実施例7と同様にして、非水系電解質二次電池用正極活物質を得るとともに評価した。なお、得られた複合水酸化物および正極活物質の組成は、実施例7と同様であり、複合水酸化物粒子は実施例7と同様に針状の微細一次粒子(粒径およそ0.3μm)からなる中心部と、該中心部の外側にこの微細一次粒子よりも大きい板状の一次粒子(粒径およそ0.8μm)からなる外殻部とにより構成されていた。
実施例13
複合水酸化物粒子製造工程において、粒子成長工程における、大気雰囲気から窒素雰囲気への切り替えを、粒子成長工程時間全体に対して25%の時点で行ったこと以外は、実施例7と同様にして、非水系電解質二次電池用正極活物質を得るとともに評価した。なお、得られた複合水酸化物および正極活物質の組成は、実施例7と同様であり、複合水酸化物粒子は実施例7と同様に針状の微細一次粒子(粒径0.3μm)からなる中心部と、該中心部の外側にこの微細一次粒子よりも大きい板状の一次粒子(粒径0.5μm)からなる外殻部とにより構成されていた。
実施例14
実施例7と同様にして得られた複合水酸化物と炭酸リチウムを混合する際に、酸化タングステンを実施例10の活物質組成と同じになるように加え、焼成した以外は実施例7と同様にして正極活物質を得た。なお、得られた活物質の組成は実施例10と同様の結果であった。
実施例15
実施例7と同様にして得られた複合水酸化物をタングステン酸アンモニウム溶液に150g/Lとなるように分散し、スラリー化したのち、該スラリーをマイクロミストドライヤ(藤崎電機株式会社製、MDL−050M)を用いて噴霧乾燥し、タングステン酸アンモニウム塩を被覆させた複合水酸化物を得た以外は、実施例7と同様にして正極活物質を得た。なお、得られた活物質の組成は実施例10と同様であり、タングステンが活物質粒子の表面付近に多く存在することが確認された。
(比較例10)
上部にオーバーフロー用配管を備えた連続晶析用の反応槽を用いて、大気雰囲気中で、反応水溶液のpH値を液温25℃基準で11.0の一定値に保ちながら、実施例7と同様の混合水溶液とアンモニア水溶液および水酸化ナトリウム溶液を一定流量で連続的に加えて、オーバーフローするスラリーを連続的に回収する、一般的な方法により晶析を行った。反応槽内の平均滞留時間を10時間として、連続槽内が平衡状態になってから、スラリーを回収して、固液分離して、晶析物を得たこと以外は、実施例7と同様にして、非水系電解質二次電池用正極活物質を得るとともに評価した。
なお、得られた複合水酸化物および正極活物質の組成は、実施例7と同様であった。複合水酸化物粒子全体が実施例7の外殻部と同様な一次粒子で構成されたため、正極活物質は緻密な中実構造の粒子となった。
(比較例11)
核生成時と粒子成長時のpH値を、いずれも液温25℃基準で11.6の一定値に保ったこと以外は、実施例7と同様にして、非水系電解質二次電池用正極活物質を得るとともに評価した。晶析中は、反応槽内空間に窒素ガスを5L/minで流通させて、反応容器蓋と液面の間の空間の酸素濃度が0.2容量%以下となるように保持した。なお、得られた複合水酸化物および正極活物質の組成は、実施例1と同様であった。複合水酸化物粒子全体が実施例7の外殻部と同様な一次粒子で構成されたため、正極活物質は緻密な中実構造の粒子となった。
(比較例12)
核生成時と粒子成長時のpH値を、いずれも液温25℃基準で12.6の一定値に保ったこと以外は、実施例7と同様にして、ニッケル・コバルト・マンガン複合水酸化物を得た。晶析中は、反応槽内空間に窒素ガスを5L/minで流通させて、反応容器蓋と液面の間の空間の酸素濃度が0.2容量%以下となるように保持した。しかしながら、晶析反応全期間において新たな核が生成したために、粒度分布が広くゲル状の析出物を含む不定形の粒子となり、固液分離が困難であり処理を中止した。
(比較例13)
焼成温度を1100℃としたこと以外は、実施例7と同様にして、非水系電解質二次電池用正極活物質を得るとともに評価した。得られた複合水酸化物および正極活物質の組成は、実施例7と同様であったが、粒成長が激しく粒成長しており、比表面積が0.8m/gまで低下し初期容量、正極抵抗の大幅な低下が起きた。
(比較例14)
粒成長工程における大気雰囲気から窒素雰囲気への切り替えを、粒子成長工程開始時から粒子成長工程時間全体に対して50%の時点で行ったこと以外は、実施例7と同様にして、非水系電解質二次電池用正極活物質を得るとともに評価した。
複合水酸化物の外殻部の厚みが不足していたため、正極活物質とする焼成段階において二次粒子同士の焼結が進み、粗大粒を含む活物質となった。なお、得られた複合水酸化物および正極活物質の組成は、実施例7と同様であった。
(評価)
実施例7〜15の複合水酸化物粒子および正極活物質は、本発明に従って製造されたため、平均粒径および粒度分布の広がりを示す指標である〔(d90−d10)/平均粒径〕値のいずれもが、好ましい範囲にあり、粒径分布が良好で粒径がほぼ揃った粒子となっている。また、いずれの正極活物質も、凝集した一次粒子が焼結している外殻部と、その内側の中空部とからなる構造を備えている。これらの正極活物質を用いたコイン型電池は、初期放電容量が高く、サイクル特性に優れ、正極抵抗も低いものとなっており、優れた特性を有した電池となっている。
比較例10は、連続晶析法を用いたため、核生成と粒子成長の分離ができず、粒子成長時間が一定でないため、粒度分布が広いものとなっている。このため、コイン型電池は、初期放電容量は高いものの、サイクル特性が悪くなっている。
比較例11では、核成長時と粒子成長時のpH値をいずれも12以下としたため、核生成量が不足し、複合水酸化物粒子、正極活物質ともに大粒径となっている。このため、この正極活物質を用いたコイン型電池は、反応表面積が不足して実施例より高い正極抵抗となっている。
比較例12では、核成長時と粒子成長時のpH値をいずれも12以上としたため、晶析反応全期間において新たな核が生成し、粒子が微細化して凝集したために、粒度分布が広くなり、正極活物質の製造も困難となってしまっている。
比較例13は、焼成温度を高くし過ぎたために比表面積が小さくなり、初期放電容量が低下するほか正極抵抗が上昇した。
比較例14は、粒子成長工程における大気雰囲気が長いために、低密度部が大きくなり過ぎ、正極活物質作製時に粗大粒が生成して電池特性が大幅に悪化していた。放電特性が低いため、サイクル特性については測定しなかった。
以上の結果より、本発明の製造方法を用いて、マンガン複合水酸化物粒子および正極活物質を製造すれば、この正極活物質を用いた非水系電解質二次電池は、初期放電容量が高く、サイクル特性に優れ、正極抵抗も低いものとなり、優れた特性を有した電池となることが確認できる。
実施例16
実施例1の共沈殿工程における核生成量を調整することにより、平均粒子径6.4μm、(d90−d10)/平均粒径が0.55の前駆体であるマンガン複合水酸化物粒子を得た。得られた複合水酸化物中のニッケル、コバルト、マンガンの原子数の総量に対して1.2原子%となるように計算し秤量した酸化タングステンと、Li/Me比が1.5となる量とさらに添加する酸化タングステンをタングステン酸リチウムにするのに必要な量の合計を計算し秤量した炭酸リチウムをスパルタンリューザーで混合した。添加した酸化タングステンの平均粒子径は840nmであり、酸化タングステンに対するマンガン複合水酸化物粒子の平均粒子径比(酸化タングステン/マンガン複合水酸化物粒子)は、7.6倍となった。
次に雰囲気を大気とし、950℃で10時間保持するように焼成を行い、所望のリチウム金属複合酸化物を得た。
このときのタングステンとリチウムからなる化合物層の層厚はTEM(透過型電子顕微鏡)観察像からおよそ6〜11nmであることが分かった。
(電池の製造および評価)
正極活物質の評価には、実施例1と同様に作製した2032型コイン電池1(以下、コイン型電池と称す)を使用した。
製造したコイン型電池の性能を示す初期放電容量、正極抵抗は、以下のように評価した。
初期放電容量は、コイン型電池を製作してから24時間程度放置し、開回路電圧OCV(Open Circuit Voltage)が安定した後、正極に対する電流密度を0.1mA/cmとしてカットオフ電圧4.8Vまで充電し、1時間の休止後、カットオフ電圧2.5Vまで放電したときの容量を初期放電容量とした。
抵抗の測定は、定電流−低電圧充電を行い、電位を4.0Vに合わせた後、1.3mAの電流を10秒間流し、4.0Vから10秒後の電位を引いてΔVを求め、ΔVを流した電流値である1.3mAで割ることで抵抗(Ω)を算出した。
電池評価測定を行ったところ、表4に示すように初期放電容量は268.5mAh/g、DC−IRによる3Cでの抵抗値は実施例20を基準とした相対値を抵抗削減率として算出したところ36%であった。
本実施例のW添加条件と得られた正極活物質の特性およびこの正極活物質を用いて製造したコイン型電池の各評価を表4に示す。また、以下の実施例17〜19および比較例15〜18についても、同様の内容について、表4に示す。
実施例17
酸化タングステンの添加量を1.2原子%から2.5原子%に変更した以外は、実施例16と同様にしてリチウム金属複合酸化物を製造し評価を行ったところ、表4に示すように層厚は13〜17nm、初期放電容量は265.2mAh/g、抵抗削減率は31%であった。
実施例18
平均粒子径比が17倍となる平均粒子径370nmの酸化タングステンを0.7原子%添加したこと以外は、実施例16と同様にしてリチウム金属複合酸化物を製造し評価を行ったところ、表4に示すように層厚は2〜6nm、初期放電容量は270.1mAh/g、抵抗削減率は33%であった。
実施例19
平均粒子径比が5.7倍となる平均粒子径1.1μmの酸化タングステンを2.3原子%添加したこと以外は、実施例16と同様にしてリチウム金属複合酸化物を製造し評価を行ったところ、表4に示すように層厚は11〜19nm、初期放電容量は263.0mAh/g、抵抗削減率は29%であった。
実施例20
酸化タングステンを添加しなかったこと以外は実施例16と同様にしてリチウム金属複合酸化物を製造し評価を行ったところ、表4に示すように初期放電容量は272.8mAh/gであった。
実施例21
酸化タングステンの添加量を1.2原子%から4.7原子%に変更した以外は、実施例16と同様にしてリチウム金属複合酸化物を製造し評価を行ったところ、表4に示すように膜厚は16〜34nm、初期放電容量は254.1mAh/g、抵抗削減率は6%であった。
実施例22
酸化タングステンの添加量を1.2原子%から0.05原子%に変更した以外は、実施例16と同様にしてリチウム金属複合酸化物を製造し評価を行ったところ、表4に示すように層厚は0〜3nmと被覆されていないところがかなり多く見られるようになり、初期放電容量は271.0mAh/g、抵抗削減率は2%であった。
本発明の非水系二次電池は、高容量の優れた電気特性を有することから、最近の携帯電話やノート型パソコンなどの携帯電子機器などの高エネルギー密度が要求される小型電源装置として好適である。
また、本発明の非水系二次電池は、優れた安全性を有することから、純粋に電気エネルギーで駆動される電気自動車、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンなどの燃焼機関と併用するハイブリッド自動車もしくはプラグインハイブリッド自動車などの大型電源装置としても好適に用いることができる。
1 正極(評価用電極)
2 Li金属負極
3 セパレータ
4 ガスケット
5 ウェーブワッシャー
6 正極缶
7 負極缶
また、平均粒径も後工程によってもほぼ変化することがないため、最終的に得ようとする正極活物質と同等の範囲、すなわち〜12μmとすればよい。一方、粒度分布の広がりを示す指標である〔(d90−d10)/平均粒径〕は、後工程である焼成等により若干悪化する場合がある。このため、複合水酸化物に対する指標は、正極活物質より若干向上させておく必要があり、0.55以下とすればよい。
本発明は、非水系二次電池用正極活物質製造方法に関する。
近年、携帯電話やノート型パソコンなどの携帯電子機器の普及に伴い、高いエネルギー密度を有する小型で軽量な非水系電解質二次電池の開発が強く望まれている。また、ハイブリット自動車を始めとする電気自動車用の電池として高出力の二次電池の開発が強く望まれている。このような要求を満たす二次電池として、リチウムイオン二次電池がある。
リチウムイオン二次電池は、負極および正極と電解液等で構成され、負極および正極の活物質には、リチウムを脱離および挿入することの可能な材料が用いられている。
このようなリチウムイオン二次電池は、現在研究、開発が盛んに行われているところであるが、中でも、層状またはスピネル型のリチウム金属複合酸化物を正極材料に用いたリチウムイオン二次電池は、4V級の高い電圧が得られるため、高いエネルギー密度を有する電池として実用化が進んでいる。
これまで主に提案されている材料としては、合成が比較的容易なリチウム・コバルト複合酸化物(LiCoO)や、コバルトよりも安価なニッケルを用いたリチウム・ニッケル複合酸化物(LiNiO)、リチウム・ニッケル・コバルト・マンガン複合酸化物(LiNi1/3Co1/3Mn1/3)、マンガンを用いたリチウム・マンガン複合酸化物(LiMn)、LiMnOを含有しているリチウム・ニッケル・コバルト・マンガン複合酸化物などを挙げることができる。
これらの正極活物質の中でも、近年、高容量で熱安定性に優れているリチウム過剰ニッケル・コバルト・マンガン複合酸化物(Li2MnO-LiNiMnCo)が注目されている。このリチウム過剰ニッケル・コバルト・マンガン複合酸化物は、リチウム・コバルト複合酸化物やリチウム・ニッケル複合酸化物などと同じく層状化合物である(非特許文献1参照)。
そのような材料の中で、上記要求を満たす性能を得るためには、均一で適度な粒径を有しかつ比表面積が高い複合酸化物が適している。
粒径が大きく比表面積が低い複合酸化物を使用すると、電解液との反応面積が十分に確保できず、電池として十分な容量が得られない。また、微粒子が含まれる粒度分布が広い複合酸化物を使用すると、電極内で粒子に掛かる電圧が不均一となり、充放電を繰り返すと該微粒子が選択的に劣化して、容量が低下するなどのサイクル劣化が生じやすくなるためである。
したがって、適度な粒径で粒度分布の均一な複合酸化物を製造することが必要であり、そのためには粒度分布の均一な複合水酸化物を用い、製造条件を最適化することが重要である。
特に、プラグインハイブリッド自動車や電気自動車といった大きな電流を使用する用途では、抵抗低減を狙い電解液との接触面積をふやすために粒度分布が小さい方がよい。
上記複合水酸化物の製造法については、現在までに様々な提案がなされている。
たとえば特許文献1では、ニッケル・コバルト・マンガン塩水溶液とアルカリ金属水酸化物水溶液と、アンモニウムイオン供給体とをそれぞれ連続的または間欠的に反応系に供給し、反応系の温度を30〜70℃の範囲内の一定値にし、かつpHを10〜13の範囲内のほぼ一定値に保持した状態で進行させてニッケル・コバルト・マンガン複合水酸化物粒子を合成している。
また、特許文献2では、リチウム二次電池正極活物質を製造する方法において、反応槽を用い、前記物質の各構成元素の塩を水に溶解させて塩濃度を調節した複合金属塩水溶液、金属イオンと錯塩を形成する水溶性の錯化剤、及び水酸化リチウム水溶液をそれぞれ反応槽に連続供給して複合金属錯塩を生成させ、次いでこの錯塩を水酸化リチウムにより分解してリチウム共沈複合金属塩を析出させ、その錯塩の生成及び分解を槽内で循環させながら繰り返しリチウム共沈複合金属塩をオーバーフローさせて取り出すことにより、粒子形状が略球状であるリチウム共沈複合金属塩を合成している。
これらの方法は、密度の高い粒子を作製するには適しているが、粒子成長が十分に制御されているとは言えず、特に連続晶析法では粒度分布が正規分布となって広がりやすく、ほぼ均一な粒径の粒子を得るために適しているとは言いがたい。
また、特許文献3では、非水電解質電池用正極活物質の製造方法において、2種以上の遷移金属塩を含む水溶液または異なる遷移金属塩の2種以上の水溶液と、アルカリ溶液とを同時に反応槽に投入し、還元剤を共存させながらまたは不活性ガスを通気しながら共沈させることにより前駆体である水酸化物または酸化物を得る方法が提案されている。
この方法自体は、原子レベルでの固溶が不完全になることを抑制することを目的としており、粒径の制御を行なうものではないが、高密度で大きな粒径をもつ球状の水酸化物または酸化物を得ための装置が開示されている。この装置は、水溶液の混合物を下から上にフローさせ、結晶がある程度発達して比重が増加した結晶粒子は、沈降して下部の捕集部に到達するが、未発達の結晶粒子は下部からフローされる溶液の力に押し戻され、下部に落ちないシステムとしたものである。
この装置は、生成した結晶を分級しながら回収して、大きな粒径の結晶粒子を得ようとするものであるが、均一な粒径の生成物を得るためには、製造条件を厳密に管理する必要があると思われ、工業的規模の生産においては問題となる可能性が高い。さらに、実施例において、得られた複合水酸化物、あるいは正極活物質の粒径分布に関して開示されておらず、効果についても不明である。
さらに、電池を高出力化するためには、粒径を変えずに反応面積を大きくすることが効果的である。すなわち、粒子を多孔質あるいは粒子構造を中空化することで、電池反応に寄与する表面積を大きくすることができ、反応抵抗を低減することが可能となる。
たとえば、特許文献4には、層状構造を有する六方晶系リチウム含有複合酸化物により構成されるリチウム・ニッケル・マンガン複合酸化物からなる正極活物質であって、平均粒径が2〜8μmであり、粒度分布の広がりを示す指標である〔(d90−d10)/平均粒径〕が0.60以下であり、凝集した一次粒子が焼結している外殻部と、その内側に存在する中空部とからなる中空構造を備える非水系電解質二次電池用正極活物質が開示されている。また、その製造方法は、容易で大規模生産に適したものであり、この非水系電解質二次電池用正極活物質は、非水系二次電池に用いた場合に測定される正極抵抗の値を低減することができ、高容量でサイクル特性が良好で、高出力が得られるとの記載もある。
しかしながら、特許文献4に開示されている正極活物質は、高容量であるが、さらなる高エネルギー密度化が求められている。また、高出力化においても、より一層の改善が求められている。
上記高出力化を実現する方法として異元素の添加が用いられており、とりわけW、Mo、Nb、Ta、Reなどの高価数をとることができる遷移金属が有用とされている。
例えば、特許文献5には、リチウムイオンの挿入・脱離が可能な機能を有するリチウム遷移金属系化合物を主成分とし、該主成分原料に、焼成時の粒成長や焼結を抑制する添加剤の1種以上を、主成分原料中の遷移金属元素の合計モル量に対して0.01モル%以上、2モル%未満の割合で添加した後、焼成されてなるリチウム二次電池正極材料用リチウム遷移金属系化合物粉体が提案され、その添加剤として、Mo、W、Nb、Ta、及びReから選ばれる少なくとも一種以上の元素を含有する酸化物が開示されている。
このリチウム遷移金属系化合物粉体においては、一次粒子の表面部分のLi及び前記添加元素以外の金属元素の合計に対する該添加元素の合計の原子比が、粒子全体の該原子比の5倍以上であるとされ、レート・出力特性といった負荷特性の向上、低コスト化、耐高電圧化及び高安全性化との両立が可能であるとされている。しかしながら、そのリチウム遷移金属系化合物粉体は、出力特性は改善されているものの、高容量化やサイクル特性の改善が十分なものとは言い難いものである。
国際公開W02004/092073号 特開平10−214624号公報 特開2003−86182号公報 特許4915488号 特開2008−305777号公報
FBテクニカルニュース,No.66,2011.1
本発明は上記問題点に鑑み、粒度分布が均一であり、電池に用いた場合に容量とサイクル特性を向上させることが可能な、さらには高出力化を実現することができる非水系二次電池用正極活物質を工業的な製造方法で提供することを目的とする。
本発明者らは、上記課題を解決するため、リチウム・ニッケル・コバルト・マンガン複合酸化物の電池特性に対する影響について鋭意研究したところ、特定のリチウム含有量と粒度分布が狭いリチウム・ニッケル・コバルト・マンガン複合酸化物を正極活物質として用いることで電池特性が大幅に改善されること、晶析工程で核生成と粒子成長を分離させて得られた粒度分布が狭いニッケル・コバルト・マンガン複合水酸化物を特定の比率でリチウム化合物と混合し焼成することで、上記リチウム・ニッケル・コバルト・マンガン複合酸化物が得られることを見出し、本発明の完成に至ったものである。
すなわち、本発明の第の発明は、非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法で、一般式NiCoMn(OH)2+a(x+y+z+t=1、0≦x≦0.5、0≦y≦0.5、0.5≦z<0.8、0≦t≦0.1、0≦a≦0.5、Mは添加元素であり、Mg、Ca、Al、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Wから選択される1種以上の元素)で表されるマンガン複合水酸化物で、その平均粒径が3〜12μm、粒度分布の広がりを示す指標である〔(d90−d10)/平均粒径〕が0.55以下であるマンガン複合水酸化物粒子を、少なくともマンガンの化合物を含む水溶液、及びアンモニウムイオン供給体を含む水溶液を、反応槽内に供給して反応液とし、かつ水酸化ナトリウム水溶液を、反応槽内の前記反応液を所定のpHに保持するために添加量を調整して供給し、前記反応液のpHを液温25℃基準で12.0〜14.0に制御して核生成を行う核生成段階と、pHを液温25℃基準で10.5〜12.0の範囲で核生成段階より低くなるように制御して該核生成段階において生成した核を成長させる粒子成長段階に分離して上記マンガン複合水酸化物粒子を得る第1工程と、第1工程で得られたマンガン複合水酸化物粒子を、105〜750℃で熱処理する第2工程と、熱処理後のマンガン複合水酸化物、または熱処理前のマンガン複合酸化物、もしくはそれらの混合物に、リチウム以外の金属元素の原子数の和Meと、リチウムの原子数Liとの比Li/Meが1.05〜1.95となるようにリチウム化合物を加えてリチウム混合物を形成し、形成したリチウム混合物を酸化性雰囲気中、800℃〜1050℃の温度で焼成した後、解砕して、リチウム金属複合酸化物を得る第3工程と、を有することを特徴とするものである。
本発明の第の発明は、第の発明における非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法であって、第の発明におけるリチウム化合物を加えてリチウム混合物を形成する際に、さらにタングステン化合物を混合することを特徴とするものである。
本発明の第の発明は、第の発明におけるリチウム混合物を形成する際に混合されるタングステン化合物の一次粒子径の平均値に対して、前記マンガン複合水酸化物の二次粒子径の平均値が5倍以上である非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法である。
本発明の第の発明は、第の発明における第1工程が、反応槽内の空間の酸素濃度が1容量%を超える酸化性雰囲気中で核生成を行う核生成段階と、粒子成長段階の開始時から粒子成長段階時間の全体に対して0〜40%の範囲で、酸化性雰囲気から酸素濃度1容量%以下の酸素と不活性ガスの混合雰囲気に切り替えて、核を成長させる粒子成長段階とを有することを特徴とする非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法である。
本発明の第の発明は、第の発明における第1工程において、予め液温25℃基準でpH値を12〜14に制御して生成させた核となる複合水酸化物粒子を種晶として反応液に添加した後、反応液のpHを液温25℃基準で10.5〜12.0に制御して該粒子を成長させることにより核生成段階と粒子成長段階を分離することを特徴とする非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法である。
本発明の第の発明は、第の発明における第1工程において核生成後あるいは粒子成長段階の途中で、反応後溶液の一部を反応槽外に排出することにより反応槽内の複合水酸化物粒子濃度を高めた後に、引き続き粒子成長を行うことを特徴とする非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法である。
本発明の第の発明は、第の発明における第1工程において反応液の温度が、35℃以上60℃以下の任意の温度範囲に制御されることを特徴とする非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法である。
本発明の第の発明は、第の発明における晶析工程において反応液中のアンモニア濃度が、3〜25g/Lの範囲内の任意の一定値に保持されることを特徴とする非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法である。
本発明の第の発明は、第の発明における粒子成長段階で得られたマンガン複合水酸化物に、添加元素M(Mg、Ca、Al、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、W)から1種以上の添加元素を含む化合物を被覆することを特徴とする非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法である。
本発明の第10の発明は、第の発明における第3工程の焼成に際して、予め、焼成温度より低く、かつ350℃〜800℃の温度で仮焼を行うことを特徴とする非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法である。
本発明における非水系二次電池用正極活物質の製造方法は、容易且つ大量生産にも適したものであり工業上顕著な効果を奏するものである。
さらにその効果は、粒度分布が狭く単分散性である非水系二次電池用正極活物質を得て、その正極活物質を用いて電池を構成することにより低抵抗化も可能とし、高出力を実現できる放電容量の大きい非水系電解質二次電池が得られる効果が期待できる
第1工程におけるマンガン複合水酸化物粒子の製造工程の概略フローチャートである。 第1工程におけるマンガン複合水酸化物粒子の製造工程の別態様を示す概略フローチャートである。 実施例1において得られた正極活物質のSEM写真(観察倍率1000倍)である。 実施例1において得られた正極活物質の粒度分布を示す図である。 実施例において評価に用いたコインセルの断面図である。 本発明のマンガン複合水酸化物のSEM写真(観察倍率1000倍)である。 本発明のマンガン複合水酸化物の断面SEM写真(観察倍率10000倍)である。 本発明の正極活物質であるリチウム金属複合酸化物のSEM写真(観察倍率1000倍)である。 本発明の正極活物質であるリチウム金属複合酸化物の断面SEM写真(観察倍率10000倍)である。 インピーダンス評価の測定例と解析に使用した等価回路の概略説明図である。
本発明の非水系電解質二次電池用正極活物質と、その正極活物質の製造方法について詳細に説明した後、本発明の非水系電解質二次電池を説明する。
(1)非水系電解質二次電池用正極活物質
本発明に係る非水系電解質二次電池用正極活物質は、一般式:Li1+uNiCoMn2+α(0.05≦u≦0.95、x+y+z+t=1、0≦x≦0.5、0≦y≦0.5、0.5≦z<0.8、0≦t≦0.1、Mは添加元素であり、Mg、Ca、Al、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Wから選択される1種以上の元素)で表され、層状構造を有する六方晶系リチウム含有複合酸化物により構成されるリチウム金属複合酸化物からなる正極活物質であって、その平均粒径が3〜12μm、粒度分布の広がりを示す指標である〔(d90−d10)/平均粒径〕が0.60以下であることを特徴とするものである。
この一般式における原子数によるリチウム以外の金属元素、およびLiとリチウム以外の金属元素の合計の比(以下Li/Me比と記載することがある。)といった組成比が電池の初期放電容量に与える影響が大きく、組成比が上記一般式で表される場合に電池として高容量が得られる。これは該組成比によって、高容量に寄与するLiMnOのできる割合が変化するためと考えられる。
このような高容量が得られる理由は、以下のように推察される。
Liが挿抜され充放電反応を起こす層状化合物であるLiMOが周囲に存在することで、通常はLiの挿抜反応が起こりにくいLiMnOにおいてもLiの挿抜反応が促進されて電池容量が増加する。したがって、理論容量的にはLiMnOの割合が多いほど放電容量は大きくなると考えられるが、LiMnOの割合が多くなり過ぎると、LiMnOの周囲に存在するLiMOが少なくなり、上記Li挿抜に対する促進効果が低下して不活性なLiMnOが増えることで、電池容量の低下を示す。また、上記促進効果を高めるためには、LiMnOとLiMOの接触界面が多いことが有利であり、LiMnOとLiMOが微細に混在する組織であることが好ましい。
上記一般式において、Li過剰量を示す「u」が多くなることにより、LiMnOの存在が増加して電池の容量が増加する。このため、uは0.05以上とすることが必要であり、0.05未満になるとLiMnOの存在が少なくなり十分な電池の容量が得られない。一方、uが0.95を超えると、活性が極端に落ちて電気を取り出せなくなり正極活物質の初期放電容量が低下するとともに、正極の反応抵抗も増加してしまう。
上記リチウム金属複合酸化物は、一般式:bLiMnM t1・(1−b)Li1+vNiCoMn t2(0.2≦b≦0.7、−0.05≦v≦0.20、t1+t2=t、x+y+z+t=1、0.1≦x≦0.4、0.2≦y≦0.8、0.1≦z≦0.4、0≦t≦0.1、M及びMは添加元素であり、Mg、Ca、Al、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Wから選択される1種以上の元素)と表されるものであることが好ましい。
ここで、vが−0.05未満の場合、得られた正極活物質を用いた非水系電解質二次電池における正極の反応抵抗が大きくなるため、電池の出力が低くなってしまう。一方、vが0.20を超える場合、上記正極活物質を電池の正極に用いた場合の初期放電容量が低下するとともに、正極の反応抵抗も増加してしまう。したがって、vは、その反応抵抗をより低減させるためには0.05以上とすることが好ましく、0.15以下とすることが好ましい。
また、上記一般式で表されるように、本発明の正極活物質は、リチウム金属複合酸化物粒子に添加元素を含有するように調整されていることが、より好ましい。上記添加元素を含有させることで、これを正極活物質として用いた電池の耐久特性や出力特性を向上させることができる。
特に、添加元素が粒子の表面または内部に均一に分布することで、粒子全体で上記効果を得ることができ、少量の添加で上記効果が得られるとともに容量の低下を抑制できる。
さらに、より少ない添加量で効果を得るためには、粒子内部より粒子表面における添加元素の濃度を高めることが好ましい。
全原子に対する添加元素Mの原子比tが0.1を超えると、Redox反応に貢献する金属元素が減少するため、電池容量が低下するため好ましくない。したがって、添加元素Mは、上記原子比tで上記範囲となるように調整する。
上記リチウム金属複合酸化物が、一般式:Li1+sNiCoMn2+α(0.40≦s<0.60、(z−x>0.4の時z−x≦s、z<0.6の時s≦z)、0≦x≦0.5、0≦y≦0.5、0.5≦z<0.8、0<x+y、x+y+z+t=1、z−x<0.6、0.4≦α<0.6)で表されるものであることが好ましい。
ここで、Niに対するMnの過剰量、すなわち、「z−x」が0.4より大きい場合、sを(z−x)以上とする必要がある。sが(z−x)未満になると、LiMnOの形成量が少なくなり、電池容量が低下する。また、Mn量を示すzが0.6未満の場合、Li量がMn量を超えると、MnとLiMnOを形成しない過剰のLiが増加するため、電池容量が低下する。
NiおよびCoは、少なくとも1種が好ましく、Ni量を示すxは0≦x≦0.5であり、Co量を示すyは0≦y≦0.5である。xおよびyのいずれかが0.5を超えるとLiMnOの形成量が少なくなり、電池容量が低下する。一方、xおよびyの両方が0になると、LiMOが形成されずに電池容量が低下する。
Mn量を示すzは、0.5≦z<0.8であり、zが0.5未満になると、LiMnOが十分に生成されなくなるとともに未反応のLiが存在するようになるため電池特性が低下する。一方、zが0.8以上となると、LiMnOとLiMOを形成するために必要なLiが不足してしまうため、LiNi0.5Mn1.5といったスピネル相が発生してしまい、電池特性が低下してしまう。スピネル相の発生を抑制するためには、この(x−z)を0.6以下とすることが好ましい。
さらに一般式におけるαは、O(酸素)の過剰量を示す数値であり、LiMnOとLiMOを形成させるためにはsと同様の数値範囲とする必要がある。
以上のように理論容量的には、LiMnOの割合が多いほど放電容量は大きくなると考えられるが、本発明者らが上記組成比の電池容量に及ぼす影響を詳細に検討した結果、上記一般式をsLiMnO・(1−s)LiMO(MはNiもしくはCoを必須としてNi、CoおよびMnの少なくとも1種)として表した場合、LiMOを1に対してLiMnOが0.5程度の割合の時に放電容量が大きくなる傾向を示すとの知見を得た。
特に、実質的にLiMnOの割合が0.5で、残りの層状化合物中のNiとMnの比が1:1になる組成が最も高容量を示す。層状化合物であるLiMO中でNiとMnの比が1:1になる時には、Niが2価、Mnが4価を示して、平均3価となる。このようなNi(2価)とMn(4価)のペアが存在することで、通常は充放電に寄与しないLiMnOのLiが挿抜される反応をさらに起こしやすくしていると考えられる。
したがって、上記正極活物質は、上記一般式をsLiMnO・(1−s)LiMOとして表した場合、LiMnO:LiMOの比が0.40:0.60〜0.55:0.45であることが好ましい。また、該LiMO中に含まれるNi:Mnの比(Ni/Mn)が、0.8〜1.2であることが好ましい。
上記リチウム金属複合酸化物は、その形態が一次粒子および一次粒子が凝集して構成された二次粒子からなるもので、そのリチウム金属複合酸化物の表面または粒界に、Wが濃縮されたLiを含む化合物層を有し、その平均層厚が20nm以下であることが好ましい。
一般に、正極活物質の表面が異種化合物により完全に被覆されてしまうと、リチウムイオンの移動(インターカレーション)が大きく制限されるため、結果的にリチウム金属複合酸化物の持つ高容量という長所が消されてしまうが、本発明においては、リチウム金属複合酸化物粉末の表面にWおよびLiを含む微粒子により構成された化合物層を形成させているが、この微粒子は、リチウムイオン伝導率が高く、リチウムイオンの移動を促す効果がある。このため、リチウム金属複合酸化物粉末の表面に上記化合物層を形成させることで、電解液との界面でLiの伝導パスを形成することから、活物質の反応抵抗を低減して出力特性を向上させるものである。
ここで、正極活物質の表面を層状物で被覆した場合には、その被覆厚みに関わらず、比表面積の低下が起こるため、たとえ被覆物が高いリチウムイオン伝導度を持っていたとしても、電解液との接触面積が小さくなってしまい、それによって充放電容量の低下、反応抵抗の上昇を招きやすい。しかし、本発明のように微粒子により形成させることで、電解液との接触面積を十分なものとして、リチウムイオン伝導を効果的に向上できるため、充放電容量の低下を抑制するとともに反応抵抗を低減させることができる。
このような微粒子は、その一次粒子径が平均層厚上限である20nm以下であることが好ましい。一次粒子径が20nmを超えると、微粒子1個による被覆が厚くなりすぎてしまい、化合物層が形成されにくくなるほか、空隙が多くなるため、抵抗が増加してしまう。
その粒子径が1nm未満では、微細な粒子が十分なリチウムイオン伝導度を有しない場合がある。
さらに、電解液との接触は、一次粒子表面で起こるため、一次粒子表面に微粒子が形成されていることが重要である。ここで、本発明における一次粒子表面とは、二次粒子の外面で露出している一次粒子表面と二次粒子外部と通じて電解液が浸透可能な二次粒子の表面近傍および内部の空隙に露出している一次粒子表面を含むものである。さらに、一次粒子間の粒界であっても一次粒子の結合が不完全で電解液が浸透可能な状態となっていれば含まれるものである。
この電解液との接触は、一次粒子が凝集して構成された二次粒子の外面のみでなく、上記二次粒子の表面近傍および内部の空隙、さらには上記不完全な粒界でも生じるため、上記一次粒子表面にも微粒子を形成させ、リチウムイオンの移動を促すことが必要である。
したがって、一次粒子表面全体に微粒子を形成させることで、リチウム金属複合酸化物粒子の反応抵抗をより一層低減させることが可能となる。
ここで、微粒子は完全に一次粒子の全表面において形成されている必要はなく、点在している状態でもよい。点在している状態でも、リチウム金属複合酸化物粒子の外面および内部の空隙に露出している一次粒子表面に微粒子が形成されていれば、反応抵抗の低減効果が得られる。
このようなリチウム金属複合酸化物粉末の表面の性状は、例えば、電界放射型走査電子顕微鏡で観察することにより判断でき、本発明の非水系電解質二次電池用正極活物質については、リチウム金属複合酸化物からなる粉末の表面にWおよびLiを含む微粒子が形成されていることを確認している。
一方、リチウム金属複合酸化物粉末間で不均一に微粒子が形成された場合は、リチウム金属複合酸化物粉末間でのリチウムイオンの移動が不均一となるため、特定のリチウム金属複合酸化物粉末に負荷がかかり、サイクル特性の悪化や反応抵抗の上昇を招きやすい。
したがって、リチウム金属複合酸化物粉末間においても均一に微粒子が形成されていることが好ましい。
本発明の微粒子は、タングステンおよびリチウムを含むものであればよいが、タングステンおよびリチウムがタングステン酸リチウムの形態となっていることが好ましい。このタングステン酸リチウムが形成されることで、リチウムイオン伝導度がさらに高まり、反応抵抗の低減効果がより大きなものとなる。
化合物層に含まれるタングステン量は、リチウム金属複合酸化物に含まれるリチウム以外の金属元素の原子数の合計に対して、0.1〜3.0原子%とすることが好ましい。これにより、高い充放電容量と出力特性を両立することができる。
タングステン量が0.1原子%未満であると表面、内部の粒界ともにリチウムイオン伝道を向上させるパスが十分確保されない。タングステンが3.0原子%を超えた場合は、タングステンによる焼結防止効果が進み、二次粒子を形成する一次粒子が小さくなりすぎて抵抗の原因となる粒界が増えすぎるほか、化合物層が一定の層厚を維持できなくなり、平均層厚が20nmを超えてしまい、抵抗は再び上昇してしまうため、放電容量の低下にもつながる。
化合物層に含まれるリチウム量は、特に限定されるものではなく、化合物層に含まれればリチウムイオン伝導度の向上効果が得られるが、タングステン酸リチウムを形成させるのに十分な量とすることが好ましい。
さらに、本発明の正極活物質は、その粒度特性も重要である。
すなわち、平均粒径が3〜12μm、好ましくは3〜8μm、より好ましくは3〜7μmであり、粒度分布の広がりを示す指標である〔(d90−d10)/平均粒径〕が0.6以下、好ましくは0.55以下であることにより、従来にない高エネルギー密度が達成される。
平均粒径が3μm未満の場合には、正極を形成したときに粒子の充填密度が低下して、正極の容積あたりの電池容量が低下する。一方、平均粒径が12μmを超えると、正極活物質の比表面積が低下して、電池の電解液との界面が減少することにより、正極の抵抗が上昇して電池の出力特性が低下する。また、上記複合酸化物は、元来、導電性の低い材料であるため、取り出せる放電容量は低下してしまう。
また、粒度分布が広範囲になっている場合、平均粒径に対して粒径が非常に小さい微粒子や、平均粒径に対して非常に粒径の大きい粗大粒子が正極活物質に多く存在することになる。
そのため、本発明の正極活物質は組成的に熱安定性に優れた材料であるが、正極活物質中に微粒子が多い場合には、電池の正極中で微粒子の局所的な反応に起因して発熱する可能性があり熱安定性が低下する。また、微粒子が選択的に劣化するのでサイクル特性が悪化してしまう。
一方、粗大粒子が多く存在する場合には、上記低導電性の影響により、取り出せる放電容量は低下してしまう。
したがって、正極活物質の粒度分布の上記指標である〔(d90−d10)/平均粒径〕を0.6以下となるように制御すれば、該正極活物質を用いた電池では、高容量で、良好なサイクル特性を有するものとすることができる。
なお、粒度分布の広がりを示す指標〔(d90−d10)/平均粒径〕において、d10は、各粒径における粒子数を粒径が小さいほうから累積したときにおいて、その累積体積が全粒子の合計体積の10%となる粒径を意味している。また、d90は、各粒径における粒子数を粒径が小さいほうから累積したときにおいて、その累積体積が全粒子の合計体積の90%となる粒径を意味している。
平均粒径や、d90、d10を求める方法は特に限定されないが、たとえば、レーザー光回折散乱式粒度分析計で測定した体積積算値から求めることができる。平均粒径としてd50を用いる場合には、d90と同様に累積体積が全粒子体積の50%となる粒径を用いればよい。
したがって、本発明の正極活物質を、上記粒度分布を示し、かつ、平均粒径が3〜12μm、好ましくは、3〜8μm、より好ましくは3〜7μm、さらに好ましくは3〜6.5μmとなるように調整すれば、電池の正極に用いた場合、電池容量が大きく、優れた電池特性が得られる。
本発明の正極活物質は、図8、図9に例示するように、凝集した一次粒子が焼結している外殻部と、その内側に存在する中空部とからなる中空構造を有することができる。
このような中空構造とすることにより、反応表面積を大きくすることができ、かつ、外殻部の一次粒子間の粒界あるいは空隙から電解液が浸入して、粒子内部の中空側の一次粒子表面における反応界面でもリチウムの挿脱入が行われるため、Liイオン、電子の移動が妨げられず、出力特性を高くすることができる。
ここで、この外殻部の厚みは、リチウム金属複合酸化物粒子の粒径に対する比率において5〜45%であることが好ましく、8〜38%であることがより好ましい。また、絶対値においては0.5〜2.5μmの範囲にあることがより好ましく、0.4〜2.0μmの範囲にあることが特に好ましい。
外殻部の厚みの比率が5%未満であると、リチウム金属複合酸化物粒子の強度が低下するため、粉体取扱時および電池の正極とするときに粒子が破壊され微粒子が発生し、特性を悪化させる。一方、外殻部の厚みの比率が45%を超えると、粒子内部の中空部へ電解液が侵入可能な上記粒界あるいは空隙から電解液が少なくなり、電池反応に寄与する表面積が小さくなるため、正極抵抗が上がり、出力特性が低下してしまう。
なお、リチウム金属複合酸化物粒子径に対する外殻部の厚みの比率は、リチウム金属複合酸化物粒子の断面を、走査型電子顕微鏡を用いて観察することによって測定できる。
たとえば、複数のリチウム金属複合酸化物粒子(二次粒子)を樹脂などに埋め込み、クロスセクションポリッシャ加工などにより該粒子の断面観察が可能な状態とする。上記外殻部の厚みの二次粒子径に対する比率は、以下のように求めることができる。
この樹脂中の二次粒子から、ほぼ粒子中心の断面観察が可能な粒子を選択して、3箇所以上の任意の箇所で、外殻部の外周上と中心部側の内周上の距離が最短となる2点間の距離を測定して、粒子ごとの外殻部の平均厚みを求める。二次粒子外周上で距離が最大となる任意の2点間の距離を二次粒子径として該平均厚みを除することで、粒子ごとの外殻部の厚さの上記比率を求める。さらに、10個以上の粒子について求めた粒子ごとの該比率を平均することで、上記リチウム金属複合酸化物粒子における、二次粒子径に対する外殻部の厚みの比率を求めることができる。
(2)非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法
本発明に係る正極活物質の製造方法は、以下の3工程を有している。
[第1工程]
一般式:NiCoMn(OH)2+a(x+y+z+t=1、0≦x≦0.5、0≦y≦0.5、0.5≦z<0.8、0≦t≦0.1、0≦a≦0.5、Mは添加元素であり、Mg、Ca、Al、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Wから選択される1種以上の元素)で表され、平均粒径が3〜12μm、その粒度分布の広がりを示す指標である〔(d90−d10)/平均粒径〕が0.55以下であるマンガン複合水酸化物粒子を、少なくともマンガンの化合物を含む水溶液、及びアンモニウムイオン供給体を含む水溶液を、反応槽内に供給して反応液とし、かつ水酸化ナトリウム水溶液を、その反応槽内の反応液を所定のpHに保持するために添加量を調整して供給し、その反応液のpHを液温25℃基準で12.0〜14.0に制御して核生成を行う核生成段階と、pHを液温25℃基準で10.5〜12.0の範囲で核生成段階より低くなるように制御して、先の核生成段階において生成した核を成長させる粒子成長段階に分離して、上記マンガン複合水酸化物粒子を得る工程である。
[第2工程]
第1工程で得られたマンガン複合水酸化物を、105〜750℃で熱処理する工程である。
[第3工程]
第2工程を経たマンガン複合水酸化物、または熱処理前のマンガン複合酸化物、もしくはそれらの混合物に、リチウム以外の金属元素の原子数の和Meと、リチウムの原子数Liとの比Li/Meが1.05〜1.95となるようにリチウム化合物を加えてリチウム混合物を形成し、前記リチウム混合物を酸化性雰囲気中、800℃〜1050℃の温度で焼成した後、解砕して、リチウム金属複合酸化物を得る工程である。
以下、各工程を詳細に説明する。
(2−a)第1工程
本発明の製造方法における第1工程は、一般式:NiCoMn(OH)2+a(x+y+z+t=1、0≦x≦0.5、0≦y≦0.5、0.5≦z<0.8、0≦t≦0.1、0≦a≦0.5、Mは添加元素であり、Mg、Ca、Al、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Wから選択される1種以上の元素)で表され、その平均粒径が3〜12μm、その粒度分布の広がりを示す指標である〔(d90−d10)/平均粒径〕が0.55以下であるマンガン複合水酸化物粒子を得る工程である。
この複合水酸化物粒子は、均質な組成で効率よく生産が可能な晶析法によって得られる。通常、工業的に複合水酸化物を晶析法によって作製する場合は、連続晶析法が多く用いられる。この方法は組成の等しい複合水酸化物を大量にかつ簡便に作製できる方法である。しかしながら、この連続晶析法では、得られた生成物の粒度分布が比較的幅広い正規分布になりやすく、必ずしも粒径の揃った粒度分布が狭い粒子を得ることができないという課題がある。
そこで、幅広い正規分布を有する複合水酸化物粒子を、分級して粒度分布の狭い複合水酸化物を得ることも考えられるが、本発明の複合水酸化物粒子のような平均粒径では、使用可能な目開きの篩自体がなく、篩いによる分級は困難である。また、湿式サイクロンのような装置を用いても十分に狭い粒度分布に分級することはできず、工業的な分級方法では、粒径が均一で粒度分布が狭い複合水酸化物を得ることは困難である。
本発明ではかかる問題を解決するため、核生成段階と粒子成長段階を明確に分離させ、核生成段階で生成した核を次の粒子成長段階で核から粒子を成長させる晶析工程を採用することで粒子径の均一化をはかり、粒度分布の狭い複合水酸化物を得るに至った。
したがって、本発明における第1工程に用いる晶析工程は、少なくともマンガンの化合物を含む水溶液、必要に応じてニッケル、コバルト及び添加元素Mの化合物を含む水溶液及びアンモニウムイオン供給体を含む水溶液を反応槽内に供給すると共に、水酸化ナトリウム水溶液を反応槽内の反応液を所定のpHに保持するために添加量を調整して供給し、この反応液のpHを液温25℃基準で12.0〜14.0に制御して核生成を行う核生成段階と、pHを液温25℃基準で10.5〜12.0の範囲で核生成段階より低くなるように制御して核生成段階で生成した核を、成長させる粒子成長段階とに分離して、第1工程におけるマンガン複合水酸化物粒子を得るものである。
第1工程における複合水酸化物粒子の製造方法の概略を、図1および図2に示す。なお、図1および図2では、(A)が核生成段階に相当し、(B)が粒子成長段階に相当する。以下、各段階について詳細に説明する。
(核生成段階)
まず、易水溶性の上記一般式を構成する金属の化合物(以下、これらを後述の添加元素を含めて金属化合物と記載することがある)を、所定の割合で水に溶解してマンガン混合水溶液を作製する。
次いで、作製した混合水溶液と、アンモニウムイオン供給体を含む水溶液とを、撹拌している晶析反応槽内の反応液へ供給すると同時に、水酸化ナトリウム水溶液も供給する。
ここで、反応液のpHが液温25℃基準で12.0〜14.0の範囲内で一定値となるように水酸化ナトリウム水溶液量を調節することで、反応液中にて生成した核はほとんど成長せず、上記複合水酸化物の微小な核を選択的に生成するものである。
そのpHが12.0未満では、粒子成長も同時に起こってしまうため、核の総数が不足するとともに粗大な粒径の粒子が発生してしまい、このような状態で核生成段階から次段階である粒子成長段階に移行させると、晶析工程で得られる複合水酸化物が粗大化するとともに粒度分布も広がりやすい。一方、pHが14.0を超えると、生成する核が微細になり過ぎ、反応液がゲル化して晶析が困難となる場合が生じてしまう。
さらに、そのpHは、一定値に制御されていることが好ましく、具体的には変動幅として±0.2で制御されることが好ましい。このpHの変動幅が大きくなると、得られる上記核の総数が変動し、粒径の制御が困難になるため好ましくない。
また、粒度分布の良好な複合水酸化物粒子を得るためには、核生成段階で供給する金属化合物量を、全体量、すなわち複合水酸化物粒子を得るために供給する全金属化合物の0.1%から2%とすることが好ましく、1.5%以下とすることがより好ましい。
(粒子成長段階)
次に粒子成長段階では、新たな核形成を抑制して前工程の核生成段階で得られた核の粒子成長のみを生じさせることで、粒度分布の範囲が狭く粒径が均一な複合水酸化物粒子を得るものである。
このため粒子成長段階においては、反応液のpHを液温25℃基準で10.5〜12.0の範囲内で一定値となるように制御する。またpHの制御は、水酸化ナトリウム水溶液量を調節することで行われる。すなわち、そのpHが12.0を超えると、新たな核生成を十分に抑制することができずに得られる粒子の粒度分布は広くなる。一方、pHが10.5未満では、アンモニアイオンによる金属化合物の溶解度が高く、析出せずに液中に残る金属イオンが増えるため好ましくない。また、金属硫酸塩を原料として使用した場合に粒子中に残るS(イオウ)分が多くなるため好ましくない。
そこで、粒子成長段階におけるpHも、核形成段階と同様に一定値に制御されることが好ましく、具体的には変動幅として±0.2で制御されることが好ましい。pHの変動幅が大きくなると、金属イオンの溶解度が変化するため、得られる複合水酸化物の粒度分布が広くなることがある。
なお、このpHが12の場合は、核生成と核成長の境界条件であるため、反応水溶液中に存在する核の有無により、核生成工程もしくは粒子成長工程のいずれかの条件とすることができる。
すなわち、核生成段階のpHを12より高くして多量に核生成させた後、粒子成長段階でpHを12とすると、反応水溶液中に多量の核が存在するため、核の成長が優先して起こり、粒径分布が狭く比較的大きな粒径の水酸化物粒子が得られる。
一方、反応水溶液中に核が存在しない状態、すなわち、核生成段階においてpHを12とした場合、成長する核が存在しないため、核生成が優先して起こり、粒子成長工程のpHを12より小さくすることで、生成した核が成長して良好な前記水酸化物粒子が得られる。
したがって、いずれの場合においても、粒子成長段階のpHを核生成段階のpHより低い値で制御すればよく、核生成と粒子成長を明確に分離するためには、粒子成長工程のpHを核生成工程のpHより0.5以上低くすることが好ましく、1.0以上低くすることがより好ましい。
以下、核生成段階および粒子成長段階において共通した条件に関して説明する。
本発明の製造方法では、両段階において、金属イオンは核または複合水酸化物粒子となって晶出するので、反応液中の金属成分に対する液体成分の割合が増加する。このような状態では、見かけ上、供給する混合水溶液の濃度が低下したようになり、粒子成長段階において、複合水酸化物粒子が十分に成長しない可能性がある。
したがって、核生成後あるいは粒子成長段階の途中で、反応液の一部を反応槽外に排出することにより反応液中の複合水酸化物粒子濃度を高めた後、引き続き粒子成長を行うことも可能である。
このような方法によって、混合水溶液の相対的な濃度が高い状態で複合水酸化物粒子を成長させることができるので、より粒子の粒度分布を狭めることができ、粒子密度も高めることができる。具体的には、反応液に対する混合水溶液等の供給および攪拌を停止して、核や複合水酸化物粒子を沈降させて、反応液の上澄み液を排出すればよい。
核生成段階から粒子成長段階への移行は、たとえば、核生成が完了した反応液のpHを、粒子成長段階のpHに調整して引き続いて粒子成長を行うことができ、粒子成長段階への移行を迅速に行うことができる。このpHの調整は、一時的にアルカリ水溶液の供給を停止することで容易に行うことができるほか、金属化合物を構成すると同種の無機酸、例えは、硫酸塩の場合は硫酸を反応水溶液に添加することでも調整することができる。
一方、粒子成長段階に適したpHおよびアンモニウムイオン濃度に調整された反応液が入った反応槽を準備しておき、この粒子成長段階用の反応槽に、別の反応槽で生成させた種晶となる核を含有する水溶液を添加して粒子成長段階を行ってもよい。
この場合、核生成段階と粒子成長段階の分離をより確実に行うことができるので、各段階における反応水溶液の状態を各段階に最適な条件とすることができる。とくに、粒子成長段階を開始する初期から、反応液のpHを最適な条件とすることができるため、より粒度分布の範囲が狭くかつ粒径が均一なものとすることができる。
本発明の製造方法においては、晶析反応時の雰囲気制御も重要となる。
すなわち、晶析反応時の雰囲気を酸化性とすると、核生成時や粒子成長時に複合水酸化物粒子中の金属元素の酸化が促進されるため、複合水酸化物二次粒子内部の構造に微小な空隙が生じる。したがって、核生成段階および粒子成長段階における雰囲気の酸素濃度を制御する、あるいは粒子成長段階において酸化性雰囲気と非酸化性雰囲気のそれぞれにさらす時間帯を組み合わせることにより、複合水酸化物粒子の空隙の割合を変化させて緻密性を制御することが可能である。
上記第1工程で得られるマンガン複合水酸化物粒子は、図6に例示されるように、略球状の粒子であり、具体的には、図7に例示されるように、複数の板状一次粒子が凝集して形成された略球状の二次粒子となっている。このような構造により、本発明の正極活物質であるリチウム金属複合酸化物を形成する第3(焼結工程)において、粒子内へのリチウムの拡散が十分に行われるため、リチウムの分布が均一で良好な正極活物質が得られる。
また、本発明の正極活物質において、凝集した一次粒子が焼結している外殻部と、その内側に存在する中空部とからなる中空構造を有する金属複合酸化物を得ようとする場合には、粒子内部には微細一次粒子からなる中心部を有し、中心部の外側に該微細一次粒子よりも大きな板状一次粒子からなる外殻部を有する構造を備えたマンガン複合水酸化物を用いる。
ここで、上記中心部は、微細な一次粒子が連なった隙間の多い構造であるため、より大きく厚みのある板状一次粒子からなる外殻部と比べると、上記焼成工程において焼結による収縮が低温から発生する。このため、焼成時に低温から焼結が進行して、粒子の中心から焼結の進行が遅い外殻部側に収縮して、中心部に空間が生じる。また、中心部は低密度と考えられ、収縮率も大きいことから、中心部は十分な大きさを有する空間となる。これにより、焼成後に得られる正極活物質が中空構造となる。
また、板状一次粒子がランダムな方向に凝集して二次粒子を形成したものであれば、より好ましい。板状一次粒子がランダムな方向に凝集することで、一次粒子間にほぼ均一に空隙が生じて、リチウム化合物と混合して焼成するとき、溶融したリチウム化合物が二次粒子内へ行きわたり、リチウムの拡散が十分に行われるからである。
さらに、ランダムな方向に凝集していることで、上記焼成工程における中心部の収縮も均等に生じることから、正極活物質内部に十分な大きさを有する空間を形成することができ、好ましい。
上記焼成時の空間形成のため、上記微細一次粒子は、その平均粒径が0.01〜0.3μmであることが好ましく、0.1〜0.3μmであることがさらに好ましい。また、この微細一次粒子よりも大きな板状一次粒子は、その平均粒径が0.3〜3μmであることが好ましく、0.4〜1.5μmであることがさらに好ましく、0.4〜1.0μmであることが特に好ましい。この微細一次粒子の平均粒径が0.01μm未満であると、複合水酸化物粒子において十分な大きさの中心部が形成されないことがあり、0.3μmを超えると、上記焼結開始の低温化および収縮が十分でなく、焼成後に十分な大きさの空間が得られないことがある。
一方、外殻部の板状一次粒子の平均粒径が、0.3μm未満であると、焼成時の焼結が低温化して焼成後に十分な大きさの空間が得られないことがあり、3μmを超えると、得られる正極活物質の結晶性を十分なのもとするために、焼成温度を高くする必要があり、上記二次粒子間で焼結が発生して、得られる正極活物質の粒径が上記範囲を超えることがある。
さらに、微細一次粒子は、板状および/または針状であることが好ましい。微細一次粒子が、これらの形状となることで、上記中心部は十分に低密度となり、焼成によって大きな収縮が発生して十分な量の空間が生じる。
また、上記二次粒子においては、外殻部の厚みは、その二次粒子の粒径に対する比率で5〜45%であることが好ましく、7〜35%であることがより好ましい。
上記複合水酸化物を原料として得られる正極活物質粒子は、中空構造を有し、その粒子径に対する外殻部の厚みの比率は、上記複合水酸化物二次粒子の比率が概ね維持される。
したがって、上記二次粒子径に対する外殻部の厚さの比率を上記範囲とすることで、リチウム金属複合酸化物粒子に十分な中空部を形成することができる。この外殻部の厚みが、二次粒子の粒径に対する比率で5%未満と薄すぎると、正極活物質の製造時の焼成工程において、複合水酸化物粒子の収縮が大きくなり、かつ、リチウム金属複合酸化物の二次粒子間に焼結が生じて、正極活物質の粒度分布が悪化することがある。一方、45%を超えると、十分な大きさの中心部が形成されないなどの問題を生ずる場合がある。
なお、上記二次粒子径に対する外殻部の厚みの比率は、リチウム金属複合酸化物粒子における外殻部の厚みの比率の測定と同様に行うことができる。また、上記微細一次粒子および板状一次粒子の粒径は、たとえば、以下のように測定することができる。
まず、複数のマンガン複合水酸化物粒子(二次粒子)を樹脂などに埋め込み、クロスセクションポリッシャ加工などにより該粒子の断面観察が可能な状態とする。上記微細一次粒子および板状一次粒子の粒径は、二次粒子中の、好ましくは10個以上の上記一次粒子断面の最大径を粒径として測定し、平均値を計算することで求めることができる。
上記雰囲気制御により、マンガン複合水酸化物粒子を形成する一次粒子の成長が制御され、酸化性雰囲気では、微細な一次粒子により形成され空隙が多い低密度の粒子が形成され、弱酸化性雰囲気から非酸化性雰囲気では、一次粒子が大きく緻密で高密度の粒子が形成される。
すなわち、核生成段階と粒子成長段階の初期の一部を酸化性雰囲気とすることで、微細一次粒子からなる中心部が形成され、その後の粒子成長段階において酸化性雰囲気から切り替えて弱酸化性から非酸化性の範囲の雰囲気とすることで、その中心部の外側に微細一次粒子よりも大きな板状一次粒子からなる外殻部を有する粒子構造を形成することができ、後工程の焼成により中空構造を有する正極活物資が得られる。
一方、晶析反応時全体を反応槽内の空間の酸素濃度が5容量%以下となるように制御すると、複合酸化物粒子全体が比較的大きな一次粒子で構成されるため、焼成後に中実構造を有するものとすることができる。
上記雰囲気制御された晶析反応においては、通常、上記中心部の一次粒子は微細な板状および/または針状となり、外殻部の一次粒子は板状となる。しかしながら、上記一次粒子は、その組成により、直方体、楕円、稜面体などの形状となることもある。
本発明における上記中心部を形成するための上記酸化性雰囲気は、反応槽内の空間の酸素濃度が1容量%を超える雰囲気と定義される。該酸素濃度は2容量%を超える酸化性雰囲気が好ましく、10容量%を超える酸化性雰囲気がさらに好ましく、制御が容易な大気雰囲気(酸素濃度:21容量%)とすることが特に好ましい。
反応槽内の空間の酸素濃度が1容量%を超える雰囲気とすることで、一次粒子の平均粒径を0.01〜0.3μmとすることができる。酸素濃度が1容量%以下では、中心部の一次粒子の平均粒径が0.3μmを超えることがある。反応容器蓋と液面の間の空間の酸素濃度の上限は、特に限定されるものではないが、30容量%を超えると、上記一次粒子の平均粒径が0.01μm未満となる場合があり、好ましくない。
一方、本発明における上記外殻部を形成するための弱酸化性から非酸化性の範囲の雰囲気は、反応槽内空間の反応容器蓋と液面の間の空間の酸素濃度が1容量%以下である雰囲気と定義される。好ましくは該酸素濃度が0.5容量%以下、より好ましくは0.2容量%以下となるように、酸素と不活性ガスの混合雰囲気に制御する。
反応容器蓋と液面の間の空間の酸素濃度を1容量%以下にして粒子成長させることで、粒子の不要な酸化を抑制し、一次粒子の成長を促して、平均粒径0.3〜3μmの中心部より大きい一次粒子径で粒度が揃った、緻密で高密度の外殻部を有する二次粒子を得ることができる。
このような雰囲気に反応槽内空間を保つための手段としては、窒素などの不活性ガスを反応槽内空間部へ流通させること、さらには反応液中に不活性ガスをバブリングさせることがあげられる。
上記粒子成長段階における雰囲気の切り替えは、最終的に得られる正極活物質において、微粒子が発生してサイクル特性が悪化しない程度の中空部が得られるように、マンガン複合水酸化物粒子の中心部の大きさを考慮して、そのタイミングが決定される。
たとえば、粒子成長段階時間の全体に対して、粒子成長段階の開始時から0〜40%、好ましくは0〜30%、さら好ましくは0〜25%の時間の範囲で行う。粒子成長段階時間の全体に対して30%を超える時点で上記切り替えを行うと、形成される中心部が大きくなり、上記二次粒子の粒径に対する外殻部の厚みが薄くなり過ぎることがある。
一方、粒子成長段階の開始前、すなわち、核生成段階中に上記切り替えを行うと、中心部が小さくなりすぎるか、上記構造を有する二次粒子が形成されない。
上記反応液中のアンモニア濃度は、好ましくは3〜25g/L、より好ましくは3〜15g/Lの範囲内の一定値に保持される。アンモニア濃度が3g/L未満では金属イオンの溶解度を一定に保持することができないため、整った水酸化物粒子の形成が成り立たず、核生成段階ではゲル状の核が生成しやすい。このため粒度分布も広がりやすい。一方、アンモニア濃度が25g/Lを超えると水酸化物が緻密に形成されるため、最終的に得られる非水系電解質二次電池用正極活物質も緻密な構造になり、比表面積が低くなってしまうため好ましくない。
さらに、そのアンモニア濃度は、一定値に制御されることが好ましく、具体的には変動幅として±2.5g/Lで制御されることが好ましい。このアンモニア濃度が変動すると、金属イオンの溶解度が変動し、均一な水酸化物粒子が形成されないことがある。
なお、アンモニウムイオン供給体はとくに限定されないが、例えば、アンモニア、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、炭酸アンモニウム、フッ化アンモニウムなどを使用することができる。
また、反応液の温度は35℃〜60℃に設定することが好ましい。
その反応液の温度が35℃未満では、供給する金属イオンの溶解度が充分に得られず、核発生が起こりやすく制御が難しくなる。また、60℃を越えるとアンモニアの揮発が促進されることにより錯形成するためのアンモニアが不足し、上記と同様に金属イオンの溶解度が減少しやすくなるため好ましくない。
複合水酸化物粒子の粒径は、核生成段階における核の総数によって制御することが可能であり、その核の総数は、核生成段階における反応液のpHやアンモニア濃度及び供給される混合水溶液中の金属成分の量によって制御できる。すなわち、核生成時のpHを高pH側とすることにより、あるいは核生成時間を長くして添加する金属化合物量を増やすことで、核生成数を多くすることができる。これにより、粒子成長段階を同条件とした場合でも複合水酸化物粒子の粒径を小さくできる。一方、逆に核生成数が少なくするように制御すれば、複合水酸化物粒子の粒径を大きくすることができる。
また、複合水酸化物粒子の粒径は、粒子成長段階に添加する金属化合物量により制御できる。所望の粒径に成長するまで粒子成長段階を継続して金属化合物を添加すれば、所望の粒径を有する複合水酸化物粒子を得ることができる。
その添加する金属化合物として、電池特性を改善するための添加元素の化合物水溶液を必要に応じて供給することができる。その化合物水溶液を混合水溶液に添加すると析出物が生成する場合には、化合物水溶液と混合水溶液を個別に、かつ同時に反応液に供給する。また、得られる複合水酸化物の各金属の組成比は、各水溶液に含有される金属成分の組成比と一致するため、所望の金属成分の組成比となるように各水溶液に溶解させる金属化合物量を調整すればよい。用いる金属化合物は、水溶性の化合物を用いることができ、硝酸塩、硫酸塩、塩酸塩等が挙げられる。例えば、硫酸ニッケル、硫酸コバルト、硫酸マンガンが好ましく用いられる。
混合水溶液の濃度は、金属化合物の合計で1〜2.6mol/Lとすることが好ましく、1〜2.2mol/Lとすることがより好ましい。
混合水溶液の濃度が1mol/L未満でも複合水酸化物粒子を晶析反応させることは可能であるが、反応槽当たりの晶析物量が少なくなるために生産性が低下して好ましくない。一方、混合水溶液の濃度が2.6mol/Lを超えると、常温での飽和濃度を超えるため、結晶が再析出して設備の配管を詰まらせるなどの危険がある。
また、金属化合物は、必ずしも混合水溶液として反応槽に供給しなくてもよく、反応水溶液中における金属化合物の合計の濃度が上記範囲となるように、個々の金属化合物の水溶液として所定の割合で反応槽内に供給してもよい。
添加元素(M、M、M:Mg、Ca、Al、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Wから選択される1種以上の元素)は、水溶性の化合物を用いることが好ましく、たとえば、硫酸チタン、ペルオキソチタン酸アンモニウム、シュウ酸チタンカリウム、硫酸バナジウム、バナジン酸アンモニウム、硫酸クロム、クロム酸カリウム、硫酸ジルコニウム、硝酸ジルコニウム、シュウ酸ニオブ、モリブデン酸アンモニウム、タングステン酸ナトリウム、タングステン酸アンモニウムなどを用いることができる。
上記添加元素を複合水酸化物粒子の内部に均一に分散させる場合には、混合水溶液に、添加元素を含有する添加物を添加すればよく、複合水酸化物粒子の内部に添加元素を均一に分散させた状態で共沈させることできる。
また、上記複合水酸化物粒子の表面を添加元素で被覆する場合には、たとえば、添加元素を含んだ水溶液で該複合水酸化物粒子をスラリー化し、所定のpHとなるように制御しつつ、前記1種以上の添加元素を含む水溶液を添加して、晶析反応により添加元素を複合水酸化物粒子表面に析出させれば、その表面を添加元素で均一に被覆することができる。
この場合、添加元素を含んだ水溶液に替えて、添加元素のアルコキシド溶液を用いてもよい。さらに、上記複合水酸化物粒子に対して、添加元素を含んだ水溶液あるいはスラリーを吹き付けて乾燥させることによっても、複合水酸化物粒子の表面を添加元素で被覆することができる。また、複合水酸化物粒子と前記1種以上の添加元素を含む塩が懸濁したスラリーを噴霧乾燥させる、あるいは複合水酸化物と前記1種以上の添加元素を含む塩を固相法で混合するなどの方法により被覆することができる。
なお、表面を添加元素で被覆する場合、混合水溶液中に存在する添加元素イオンの原子数比を被覆する量だけ少なくしておくことで、得られる複合水酸化物粒子の金属イオンの原子数比と一致させることができる。また、粒子の表面を添加元素で被覆する工程は、複合水酸化物粒子を加熱した後の粒子に対して行ってもよい。
以上述べてきた核生成段階と粒子成長段階を分離する製造方法では、反応が完了するまで生成物を回収しない方式の装置を用いる。例えば、撹拌機が設置された通常に用いられるバッチ反応槽などである。かかる装置を採用すると、一般的なオーバーフローによって生成物を回収する連続晶析装置のように成長中の粒子がオーバーフロー液と同時に回収されるという問題が生じないので、粒度分布が狭く粒径の揃った粒子を得ることができる。
また、晶析反応時の雰囲気を制御する場合には、密閉式の装置などの雰囲気制御可能な装置であることが好ましい。このような装置を用いることにより、核生成段階や粒子成長段階で上記金属元素の酸化を容易に制御することができる。
使用する混合溶液、アンモニウムイオン供給体を含む水溶液、および水酸化ナトリウム水溶液は、流量制御が可能なポンプ等で供給すればよい。また、アンモニウムイオン供給体を含む水溶液および水酸化ナトリウム水溶液は、一般的なイオンメーター、pH計によって反応液を測定しながら供給量を調整する。
以上説明してきたような製造方法によって、所望の組成、粒度および構造を有するマンガン複合水酸化物粒子を得ることができる。その複合水酸化物粒子に含有される金属元素の組成比は、後工程によってもほぼ変化することがない。したがって、複合水酸化物粒子と最終的に得ようとする正極活物質の組成比は実質的に同じにすることで、電池に用いた場合の特性が良好な正極活物質を獲ることができる。
また、平均粒径も後工程によってもほぼ変化することがないため、最終的に得ようとする正極活物質と同等の範囲、すなわち3〜12μmとすればよい。一方、粒度分布の広がりを示す指標である〔(d90−d10)/平均粒径〕は、後工程である焼成等により若干悪化する場合がある。このため、複合水酸化物に対する指標は、正極活物質より若干向上させておく必要があり、0.55以下とすればよい。
(2−b)第2工程
第2工程は、第1工程で得られたマンガン複合水酸化物粒子を、105℃〜750℃で熱処理する工程である。
この工程によって、複合水酸化物粒子中の残留水分を除去して減少させることができる。また、複合水酸化物粒子を複合酸化物粒子に転換することができるので、得られる正極活物質中の金属の原子数やリチウムの原子数の割合がばらつくことを防ぐことができる。
なお、この割合にばらつきが生じない程度に水分が除去できればよいので、必ずしも全ての複合水酸化物粒子を複合酸化物粒子に転換する必要はなく、複合水酸化物と複合酸化物の混合物であってもよい。しかしながら、得られる正極活物質中の金属の原子数やリチウムの原子数の割合を正確に制御するためには、熱処理温度を500℃以上として複合水酸化物粒子を複合酸化物粒子にすべて転換することが好ましい。
この熱処理は、水分除去と複合酸化物粒子に転換することが目的であるため、酸化性雰囲気であればよいが、十分な流量を有した空気雰囲気中で行うことが容易であり好ましい。その熱処理温度が105℃未満では、熱処理に長時間を要するため工業的に適当でないばかりか残留水分を十分に除去できない。一方、熱処理温度が750℃を超えると、複合酸化物となった粒子間で焼結が生じて粒度分布が悪化するため好ましくない。
また、熱処理時間はとくに制限されないが、1時間未満では複合水酸化物粒子中の残留水分の除去が十分に行われない場合があるため、1時間以上が好ましく、5〜15時間がより好ましい。
第2工程は、正極活物質中の金属の原子数やリチウムの原子数の割合がばらつくことを防止することが目的であるため、組成の制御が十分に可能である場合には省略することができる。
この熱処理に用いる設備は、特に限定されるものではなく、空気気流中で加熱できるものであれば良く、送風乾燥器、ガス発生がない電気炉が好適に使用できる。
(2−c)第3工程
第3工程は、第2工程で得られた複合水酸化物または複合酸化物、もしくはそれらの混合物と、リチウム化合物とを混合し、得られた混合物を酸化性雰囲気中800〜1050℃で焼成する工程である。
リチウム化合物との混合は、得られるリチウム金属複合酸化物中のリチウム以外の金属元素の原子数の和(Me)とリチウム(Li)の原子数との比(Li/Me)が、1.05〜1.95となるように混合してリチウム混合物を形成する。焼成前後でのLi/Me比はほぼ一致するため、この混合物とリチウム金属複合酸化物のLi/Me比を同等とすることで、優れた電池特性を有する正極活物質を獲ることができる。
このリチウム化合物は、特に限定されるものではないが、水酸化リチウム、炭酸リチウムのいずれか、もしくは、その混合物を好適に用いることができる。取り扱いの容易さ、品質の安定性を考慮すると、炭酸リチウムを用いることがより好ましい。
このような焼成を施されるマンガン複合水酸化物とリチウム化合物は、焼成前に十分混合しておくことが好ましい。その混合が不十分な場合には、個々の粒子間でLi/Meがばらつき、十分な電池特性が得られない間等の問題が生じる可能性がある。
混合には、一般的な混合機を使用することができ、例えばシェーカーミキサーやレーディゲミキサー、ジュリアミキサー、Vブレンダーなどを用いることができ、熱処理された粒子の形骸が破壊されない程度でリチウム化合物と十分に混合してやればよい。
ここで、リチウム金属複合酸化物の表面または粒界に、タングステンが濃縮されたリチウムを含む平均層厚20nm以下の化合物層を形成させる場合には、リチウム混合物形成時に、さらにタングステン化合物を混合することが好ましい。タングステンは、マンガン複合水酸化物に添加元素として含有させることもできるが、リチウム混合物にタングステン化合物を混合することで、該化合物層を十分に形成させることができる。
混合するタングステン化合物の平均粒子径は、上記マンガン複合水酸化物あるいはマンガン複合酸化物の平均粒子径に対し1/5倍以下とすることが好ましい。タングステン化合物の平均粒子径が1/5よりも大きいと、上記化合物層が形成されず、タングステン酸リチウムが単独で存在する粒子を生成するほか、局部的な濃度の偏りが起こることから、平均層厚20nm以下にならないことがある。
上記化合物層中に含有されるタングステン量は、チウム混合物形成時に混合するタングステン化合物量として制御すればよく、リチウム金属複合酸化物に含まれるリチウム以外の金属元素の原子数の和に対して、タングステンの原子数が0.1〜30原子%となるようにすればよい。
さらに、リチウム金属複合酸化物全体でのタングステン量は、マンガン複合水酸化物に含有されるタングステン量と混合するタングステン化合物量の合計として制御すればよい。一方、混合するリチウム化合物量は、リチウム混合物形成時に添加したタングステン化合物がタングステン酸リチウムを形成できる量を追加して添加することが好ましい。
第3工程における焼成温度が800℃未満であると、マンガン複合水酸化物あるいはマンガン複合酸化物粒子中へのリチウムの拡散が十分でなく、余剰のリチウムと未反応のマンガン複合酸化物が残る、あるいはMnスピネル相が残留し、結晶構造が十分整わない。一方、焼成温度が1050℃を超えるとリチウム・金属複合酸化物粒子間で激しく焼結が生じるとともに、異常粒成長を生じることから粒子が粗大となり、球状二次粒子の形態、粒度分布を保持できなくなる。
さらに、本発明の温度範囲以外のいずれの条件で焼成を行なった場合でも、電池容量が低下する。したがって、焼成温度を800〜1050℃、より好ましくは900〜1000℃とすることで、電池に用いた場合に良好な特性が発揮されるリチウム金属複合酸化物を得ることができる。
なお、熱処理粒子とリチウム化合物との反応を均一に行わせる観点から、昇温速度を3〜10℃/minとして上記温度まで昇温することが好ましい。さらには、リチウム化合物の融点付近の温度にて1〜5時間程度保持することで、より反応を均一に行わせることができる
この焼成時間は、1時間以上とすることが好ましく、より好ましくは4〜24時間、さらに好ましくは5〜15時間である。1時間未満では、リチウム金属複合酸化物の生成が十分に行われないことがある。
また、この焼成に際して、焼成前に焼成温度より低い350〜800℃の温度に1〜10時間程度保持して仮焼した後、引き続いて800〜1050℃で焼成することが好ましい。これは水酸化リチウムもしくは炭酸リチウムの融点付近あるいは反応温度付近で保持することにより、リチウムの拡散を十分に行ない、均一なリチウム金属複合酸化物を得ることができるからである。
その焼成雰囲気は、酸化性雰囲気とするが、酸素濃度が18〜100容量%の雰囲気とすることが好ましい。すなわち、大気〜酸素雰囲気中で行なうことが好ましい。コスト面を考慮すると、空気気流中で行なうことが、特に好ましい。酸素濃度が18容量%未満であると、酸化が十分でなく、リチウム金属複合酸化物の結晶性が十分でない場合がある。
焼成に用いられる炉は、特に限定されるものではなく、大気〜酸素雰囲気で加熱できるものであればよいが、ガス発生がない電気炉が好ましく、バッチ式あるいは連続式の炉が用いられる。
この焼成後に解砕して、非水系電解質二次電池用正極活物質を得る。
この解砕は、本発明の範囲内の焼成温度で焼成した場合、リチウム金属複合酸化物粒子間に激しい焼結は生じないが、二次粒子間の焼結ネッキング等が生じる場合があるため、解砕することで、焼結ネッキング等が解消されて良好な粒度分布を有する正極活物質が得られる。なお、解砕とは、焼結ネッキング等により生じた複数の二次粒子からなる凝集体に機械的エネルギーを投入して、二次粒子をほとんど破壊することなく二次粒子を分離させて凝集体をほぐす操作のことである。
(3)非水系電解質二次電池
本発明の非水系電解質二次電池は、正極、負極および非水系電解液などからなり、一般の非水系電解質二次電池と同様の構成要素により構成される。なお、以下に説明する実施形態は例示に過ぎず、本発明の非水系電解質二次電池は、本明細書に記載されている実施形態を基に、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した形態で実施することができる。また、本発明の非水系電解質二次電池は、その用途を特に限定するものではない。
(3−a)正極
前述のように得られた非水系電解質二次電池用正極活物質を用いて、例えば、以下のようにして、非水系電解質二次電池の正極を作製する。
まず、粉末状の正極活物質、導電材および結着剤を混合し、さらに必要に応じて活性炭や、粘度調整などの目的の溶剤を添加し、これを混練して正極合材ペーストを作製する。
その際、正極合材ペースト中のそれぞれの混合比も、非水系電解質二次電池の性能を決定する重要な要素となる。溶剤を除いた正極合材の固形分を100質量部とした場合、一般の非水系電解質二次電池の正極と同様、正極活物質の含有量を60〜95質量部とし、導電材の含有量を1〜20質量部とし、結着剤の含有量を1〜20質量部とすることが望ましい。
得られた正極合材ペーストを、例えば、アルミニウム箔製の集電体の表面に塗布し、乾燥して、溶剤を飛散させる。必要に応じ、電極密度を高めるべく、ロールプレスなどにより加圧することもある。このようにして、シート状の正極を作製することができる。このシート状の正極は、目的とする電池に応じて適当な大きさに裁断などをして、電池の作製に供することができる。ただし、正極の作製方法は、前記例示のものに限られることなく、他の方法によってもよい。
正極の作製に当たって、導電材としては、例えば、黒鉛(天然黒鉛、人造黒鉛および膨張黒鉛など)や、アセチレンブラックやケッチェンブラックなどのカーボンブラック系材料を用いることができる。
結着剤は、活物質粒子をつなぎ止める役割を果たすもので、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、フッ素ゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、スチレンブタジエン、セルロース系樹脂およびポリアクリル酸を用いることができる。
必要に応じ、正極活物質、導電材および活性炭を分散させ、結着剤を溶解する溶剤を正極合材に添加する。溶剤としては、具体的には、N−メチル−2−ピロリドンなどの有機溶剤を用いることができる。また、正極合材には、電気二重層容量を増加させるために、活性炭を添加することができる。
(3−b)負極
負極には、金属リチウムやリチウム合金など、あるいは、リチウムイオンを吸蔵および脱離できる負極活物質に、結着剤を混合し、適当な溶剤を加えてペースト状にした負極合材を、銅などの金属箔集電体の表面に塗布し、乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成したものを使用する。
負極活物質としては、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛およびフェノール樹脂などの有機化合物焼成体、およびコークスなどの炭素物質の粉状体を用いることができる。
この場合、負極結着剤としては、正極同様、PVDFなどの含フッ素樹脂を用いることができ、これらの活物質および結着剤を分散させる溶剤としては、N−メチル−2−ピロリドンなどの有機溶剤を用いることができる。
(3−c)セパレータ
正極と負極との間には、セパレータを挟み込んで配置する。
このセパレータは、正極と負極とを分離し、電解質を保持するものであり、ポリエチレンやポリプロピレンなどの薄い膜で、微少な孔を多数有する膜を用いることができる。
(3−d)非水系電解液
非水系電解液は、支持塩としてのリチウム塩を有機溶媒に溶解したものである。
有機溶媒としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネートおよびトリフルオロプロピレンカーボネートなどの環状カーボネート、また、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネートおよびジプロピルカーボネートなどの鎖状カーボネート、さらに、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフランおよびジメトキシエタンなどのエーテル化合物、エチルメチルスルホンやブタンスルトンなどの硫黄化合物、リン酸トリエチルやリン酸トリオクチルなどのリン化合物などから選ばれる1種を単独で、あるいは2種以上を混合して用いることができる。
支持塩としては、LiPF、LiBF、LiClO、LiAsF、LiN(CFSO、およびそれらの複合塩などを用いることができる。
さらに、非水系電解液は、ラジカル捕捉剤、界面活性剤および難燃剤などを含んでいてもよい。
(3−e)電池の形状、構成
以上説明した正極、負極、セパレータおよび非水系電解液で構成される本発明の非水系電解質二次電池は、円筒形や積層形など、種々の形状にすることができる。
いずれの形状を採る場合であっても、正極および負極を、セパレータを介して積層させて電極体とし、得られた電極体に、非水系電解液を含浸させ、正極集電体と外部に通ずる正極端子との間、および、負極集電体と外部に通ずる負極端子との間を、集電用リードなどを用いて接続し、電池ケースに密閉して、非水系電解質二次電池を完成させる。
(3−f)特性
本発明の正極活物質を用いた非水系電解質二次電池は、たとえば2032型コイン電池とした場合、220mAh/g以上、より好ましい態様では250mAh/g以上の高い初期放電容量、低い正極抵抗および高いサイクル容量維持率が得られるものとなり、非水系電解質二次電池用正極活物質として優れた特性を示すものである。また、従来のリチウム・コバルト系酸化物あるいはリチウム・ニッケル系酸化物の正極活物質との比較においても熱安定性は同等程度で、安全性においても問題ないといえる。
以下、本発明の実施例および比較例について、詳述する。なお、すべての実施例および比較例を通じて、複合水酸化物粒子、正極活物質および二次電池の作製には、特に記載のないものは和光純薬工業株式会社製試薬特級の各試料を使用した。
(共沈殿工程)
まず、反応槽内に純水を半分の量まで入れて撹拌しながら、窒素ガスを流通させ反応槽内の酸素濃度を5容量%以下に低下させ、槽内温度を40℃に設定し、純水に25質量%水酸化ナトリウム水溶液と25質量%アンモニア水を適量加えて、液のpHを液温25℃基準で(pHは全て液温25℃基準で調整)12.8に、液中アンモニア濃度を10g/Lに調節して反応液を調製した。ここに、硫酸ニッケル、硫酸コバルト、硫酸マンガン(金属元素モル比でNi:Co:Mn=2:1:7)を純水に溶かして得た1.8mol/Lの水溶液(混合水溶液A)と、上記アンモニア水および水酸化ナトリウム水溶液を一定速度で加えていき、pH値を12.8(核生成pH)に制御しながら2分30秒間晶析を行った。
その後、pHが11.6(核成長pH)になるまで、その水酸化ナトリウム水溶液の供給のみを一時停止し、pHの値として11.6に到達した後、再度水酸化ナトリウム水溶液の供給を再開した。次いで、pHを11.6に制御したまま、2時間晶析を継続し、反応槽内が満水になったところで晶析を停止し撹拌を止めて静置することで、生成物の沈殿を促した。上澄み液を半量抜き出したのちに、晶析を再開した。さらに2時間晶析を行った後(計4時間)、晶析を終了させて、生成物を水洗、濾過、乾燥させた。
以上、述べた方法により、Ni0.20Co0.10Mn0.70(OH)2+β(0≦β≦0.5)で表される複合水酸化物を得た。
(熱処理、焼成工程)
得られた複合水酸化物を大気雰囲気中150℃で12時間熱処理した後、Li/Me=1.5となるように炭酸リチウムを秤量し、シェーカーミキサー装置(ウィリー・エ・バッコーフェン(WAB)社製TURBULA TypeT2C)を用いて、その熱処理した複合水酸化物と炭酸リチウムを十分に混合した混合物を得た。この混合物を空気(酸素:21容量%)気流中にて900℃で10時間焼成し、さらに解砕して非水系電解質二次電池用正極活物質を得た。
得られた非水系電解質二次電池用正極活物質を、X線回折(XRD)装置により結晶構造を確認したところ、XRDパターンからLiMnOとLiMOの存在が確認された。なお、LiMnOとLiMOの割合は、組成から算出すると0.5:0.5となる。
得られた複合水酸化物および非水系電解質二次電池用正極活物質の平均粒径、および〔(d90−d10)/平均粒径〕値、初期放電容量値を表1に、正極活物質のSEM(日本電子株式会社製走査電子顕微鏡JSM−6360LA)観察結果を図3に示す。
なお、平均粒子径測定は、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置(日機装株式会社製、マイクロトラックHRA)により測定し、その粒度分布測定結果を図4に示す。
(電池評価)
得られた非水系電解質二次電池用正極活物質の評価は、以下のように電池を作製し、充放電容量を測定することで行なった。
非水系電解質二次電池用正極活物質52.5mg、アセチレンブラック15mg、およびポリテトラフッ化エチレン樹脂(PTFE)7.5mgを混合し、100MPaの圧力で直径11mm、厚さ100μmにプレス成形して図5に示す正極1(評価用電極)を作製した。その作製した正極1を真空乾燥機中120℃で12時間乾燥した。そして、この正極1を用いて2032型コイン電池Bを、露点が−80℃に管理されたAr雰囲気のグローブボックス内で作製した。
負極2には、直径17mm厚さ1mmのLi金属を用い、電解液には、1MのLiPF6を支持電解質とするエチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)の3:7混合液(富山薬品工業株式会社製)を用いた。セパレータ3には膜厚25μmのポリエチレン多孔膜を用いた。また、コイン電池Bは、ガスケット4とウェーブワッシャー5を有し、正極缶6と負極缶7とでコイン状の電池に組み立てられた。
作製したコイン電池(B)は、組立てから24時間程度放置し、開回路電圧OCV(Open Circuit Voltage)が安定した後、正極に対する電流密度を0.1mA/cmとしてカットオフ電圧が4.8Vとなるまで充電して、1時間の休止後、カットオフ電圧が2.0Vになるまで放電したときの放電容量を測定する充放電試験を行なって初期放電容量を評価した。
また、耐久特性を測定するために、3.0Vから4.6Vの電圧範囲で、1時間で充電が終了する電流密度および温度40℃の条件下で充放電サイクルを200サイクル繰り返し、初期とサイクル後の放電容量比より容量維持率を算出した。
充放電容量の測定には,マルチチャンネル電圧/電流発生器(株式会社富士通アクセス製)を用いた。
初期充放電試験の結果、得られた非水系電解質二次電池用正極活物質を用いた二次電池の初期放電容量は269mAh/gであった。また、200サイクル後の容量維持率は73.1%であった。
Li/Me比を1.41とした以外は、実施例1と同様にして非水系電解質二次電池用正極活物質を得るとともに評価した。
得られた非水系電解質二次電池用正極活物質のNi、Co、Mnの組成比、Li/Me比、組成から算出されたLiMnOとLiMOの割合、および初期放電容量、容量維持率を表1に示す。
Li/Me比を1.55とした以外は、実施例1と同様にして非水系電解質二次電池用正極活物質を得るとともに評価した。
得られた非水系電解質二次電池用正極活物質のNi、Co、Mnの組成比、Li/Me比、組成から算出されたLiMnOとLiMOの割合、および初期放電容量、容量維持率を表1に示す。
組成をモル比でNi:Co:Mn=1:3:6と変更した以外は、実施例1と同様にして非水系電解質二次電池用正極活物質を得るとともに評価した。
得られた非水系電解質二次電池用正極活物質のNi、Co、Mnの組成比、Li/Me比、組成から算出されたLiMnOとLiMOの割合、および初期放電容量、容量維持率を表1に示す。
組成をモル比でNi:Co:Mn=3:1:6と変更した以外は、実施例1と同様にして非水系電解質二次電池用正極活物質を得るとともに評価した。
得られた非水系電解質二次電池用正極活物質のNi、Co、Mnの組成比、Li/Me比、組成から算出されたLiMnOとLiMOの割合、および初期放電容量、容量維持率を表1に示す。
組成をモル比でNi:Co:Mn=4:1:5と変更した以外は、実施例1と同様にして非水系電解質二次電池用正極活物質を得るとともに評価した。
得られた非水系電解質二次電池用正極活物質のNi、Co、Mnの組成比、Li/Me比、組成から算出されたLiMnOとLiMOの割合、および初期放電容量、容量維持率を表1に示す。
(比較例1)
組成をモル比でNi:Co:Mn=2:0:8と変更したこと、Li/Me比を1.3としたこと以外は、実施例1と同様にして非水系電解質二次電池用正極活物質を得るとともに評価した。
得られた非水系電解質二次電池用正極活物質のNi、Co、Mnの組成比、Li/Me比、組成から算出されたLiMnOとLiMOの割合、および初期放電容量を表1に示す。なお、初期放電容量が低いため、容量維持率は測定しなかった。
(比較例2)
組成をモル比でNi:Co:Mn=2:0:8と変更したこと、Li/Me比を1.6としたこと以外は、実施例1と同様にして非水系電解質二次電池用正極活物質を得るとともに評価した。
得られた非水系電解質二次電池用正極活物質のNi、Co、Mnの組成比、Li/Me比、組成から算出されたLiMnOとLiMOの割合、および初期放電容量を表1に示す。なお、初期放電容量が低いため、容量維持率は測定しなかった。
(比較例3)
組成をモル比でNi:Co:Mn=5:1:4と変更した以外は、実施例1と同様にして非水系電解質二次電池用正極活物質を得るとともに評価した。
得られた非水系電解質二次電池用正極活物質のNi、Co、Mnの組成比、Li/Me比、組成から算出されたLiMnOとLiMOの割合、および初期放電容量を表1に示す。未反応のLiが余るLi過剰の組成であるため、容量維持率は測定しなかった。
(比較例4)
組成をモル比でNi:Co:Mn=1:1:8と変更した以外は、実施例1と同様にして非水系電解質二次電池用正極活物質を得るとともに評価した。
得られた非水系電解質二次電池用正極活物質のNi、Co、Mnの組成比、Li/Me比、組成から算出されたLiMnOとLiMOの割合、および初期放電容量を表1に示す。なお、スピネル相が発生したため、容量維持率は測定しなかった。
(比較例5)
組成をモル比でNi:Co:Mn=1:1:8と変更した以外は、実施例1と同様にして非水系電解質二次電池用正極活物質を得るとともに評価した。
得られた非水系電解質二次電池用正極活物質のNi、Co、Mnの組成比、Li/Me比、組成から算出されたLiMnOとLiMOの割合、および初期放電容量を表1に示す。なお、スピネル相が発生したため、容量維持率は測定しなかった。
(比較例6)
焼成温度を1050℃にした以外は、実施例1と同様にして非水系電解質二次電池用正極活物質を得るとともに評価した。得られた非水系電解質二次電池用正極活物質のNi、Co、Mnの組成比、Li/Me比、組成から算出されたLiMnOとLiMOの割合、初期放電容量、および200サイクル後の容量維持率を表1に示す。
(比較例7)
核生成段階においてpHを14.5(核生成pH)に制御しながら4分間晶析を行った以外は、実施例1と同様にして非水系電解質二次電池用正極活物質を得るとともに評価した。得られた非水系電解質二次電池用正極活物質のNi、Co、Mnの組成比、Li/Me比、組成から算出されたLiMnOとLiMOの割合、初期放電容量、および200サイクル後の容量維持率を表1に示す。
(比較例8)
pHを12.0一定(核生成段階なし)とし、合計の晶析時間を3時間とした以外は、実施例1と同様にして非水系電解質二次電池用正極活物質を得るとともに評価した。得られた非水系電解質二次電池用正極活物質のNi、Co、Mnの組成比、Li/Me比、組成から算出されたLiMnOとLiMOの割合、初期放電容量、および200サイクル後の容量維持率を表1に示す。
(比較例9)
攪拌機とオーバーフローパイプを備えた34Lの円筒形反応槽を用いて、上記混合水溶液Aを30cm/分、25%アンモニア水を3cm/分の流量にて反応槽に添加しながらpHを11.5〜12.0に制御し、反応槽内が定常状態になった後、オーバーフローパイプより複合水酸化物粒子を連続的に採取したこと、採取した複合水酸化物粒子を湿式サイクロン(ハイドロサイクロン、日本化学機械製造株式会社製、NHC−1)を用いて、供給圧力を上げて粗粉を除去した後、再度、供給圧力を下げて微粒を除去したこと以外は、実施例1と同様にして非水系電解質二次電池用正極活物質を得ると共に評価した。
得られた非水系電解質二次電池用正極活物質のNi、Co、Mnの組成比、Li/Me比、組成から算出されたLiMnOとLiMOの割合、初期放電容量、および200サイクル後の容量維持率を表1に示す。
表1より、本発明の組成比、粒度分布を有する実施例は高い初期放電容量を示すことがわかる。一方Ni量に対するMn量が多い比較例1および比較例2は、Li/Meを変化させても初期放電容量が低い。
また、Mn量が少ない比較例3では、初期放電容量は比較例1比較例2より高いが、未反応のLiが存在するため熱安全性に問題がある。さらに、Ni量に対するMn量が多い比較例4および比較例5は、スピネル相が発生して、初期放電容量が大幅に低下している。
平均粒径が3μm未満と細かい比較例7、8では、その粒度分布に関わらず、反応面積が増えるため放電容量は取り出せるが、サイクルに伴う容量劣化が大きくなることがわかる。さらに、平均粒径は6.5μmと本発明内にあるが、粒度分布が広い比較例9でも、粒子サイズの違いによる反応ムラにより、細かい粒子が先に劣化して行き、サイクルに伴う容量劣化が大きくなることがわかる。
[複合水酸化物粒子の製造]
複合水酸化物粒子を、以下のようにして作製した。
(核生成段階)
まず、反応槽(34L)内に、水を半分の量まで入れて撹拌しながら、槽内温度を40℃に設定した。このときの反応槽内は、大気雰囲気(酸素濃度:21容量%)とした。この反応槽内の水に、25質量%水酸化ナトリウム水溶液と25質量%アンモニア水を適量加えて、液温25℃基準で、槽内の反応液のpH値が12.8となるように調整した。さらに、該反応液中のアンモニア濃度を10g/Lに調節して反応前水溶液とした。
次に、硫酸ニッケルと硫酸コバルト、硫酸マンガンを水に溶かして1.8mol/Lの混合水溶液を調製した。この混合水溶液では、各金属の元素モル比が、Ni:Co:Mn=0.167:0.167:0.666となるように調整した。
この混合水溶液を、反応槽内の反応前水溶液に88ml/minの割合で加えて、反応水溶液とした。同時に、25質量%アンモニア水および25質量%水酸化ナトリウム水溶液も、この反応水溶液に一定速度で加えていき、反応水溶液(核生成用水溶液)中のアンモニア濃度を上記値に保持した状態で、pH値を12.8(核生成pH値)に制御しながら、2分30秒間晶析させて核生成を行った。
(粒子成長段階)
核生成終了後、反応水溶液のpH値が液温25℃基準で11.6になるまで、25質量%水酸化ナトリウム水溶液の供給のみを一時停止した。
反応水溶液のpH値が11.6に到達した後、反応水溶液(粒子成長用水溶液)に、再度、25質量%水酸化ナトリウム水溶液の供給を再開し、アンモニア濃度を上記値に保持してpH値を液温25℃基準で11.6、に制御したまま、30分間の晶析を継続し粒子成長を行った後、給液を一旦停止し、反応槽内空間の反応容器蓋と液面の間の空間の酸素濃度が0.2容量%以下となるまで窒素ガスを5L/minで流通させた。その後、給液を再開し、成長開始からあわせて2時間晶析を行った。
反応槽内が満液になったところで、晶析を停止するとともに、撹拌を止めて静置することで、生成物の沈殿を促した。その後、反応槽から上澄み液を半量抜き出した後、晶析を再開し、2時間晶析を行った後(計4時間)、晶析を終了させた。
そして、生成物を水洗、濾過、乾燥させて複合水酸化物粒子を得た。なお、上記大気雰囲気から窒素雰囲気への切り替えは、粒子成長工程の開始時から粒子成長工程時間の全体に対して12.5%の時点で行ったことになる。
上記晶析において、pHは、pHコントローラにより水酸化ナトリウム水溶液の供給流量を調整することで制御され、変動幅は設定値の上下0.2の範囲内であった。
[複合水酸化物の分析]
得られた複合水酸化物について、その試料を無機酸により溶解した後、ICP発光分光法により化学分析を行ったところ、その組成は、Ni0.169Co0.164Mn0.667(OH)2+a(0≦a≦0.5)であった。
また、この複合水酸化物について、平均粒径および粒度分布を示す〔(d90−d10)/平均粒径〕値を、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置(日機装株式会社製、マイクロトラックHRA)を用いて測定した体積積算値から算出して求めた。その結果、平均粒径は5.8μmであり、〔(d90−d10)/平均粒径〕値は、0.46であった。
次に、得られた複合水酸化物粒子のSEM(株式会社日立ハイテクノロジース製、走査電子顕微鏡S−4700)観察(倍率:1000倍)を行ったところ、この複合水酸化物粒子は、略球状であり、粒径がほぼ均一に揃っていることが確認された。SEM観察結果を図6に示す。
また、得られた複合水酸化物粒子の試料を、樹脂に埋め込み、クロスセクションポリッシャ加工を行ったものについて、倍率を10,000倍としたSEM観察結果を行ったところ、この複合水酸化物粒子が二次粒子により構成され、該二次粒子は、針状、薄片状の微細一次粒子(粒径およそ0.3μm)からなる中心部と、該中心部の外側にこの微細一次粒子よりも大きい板状の一次粒子(粒径およそ0.6μm)からなる外殻部とにより構成されていることが確認された。
この断面のSEM観察結果を、図7に示す。この断面のSEM観察から求めた、二次粒子径に対する外殻部の厚さは、14%であった。
[正極活物質の製造]
上記複合水酸化物粒子を、空気(酸素:21容量%)気流中にて、700℃で6時間の熱処理を行って、複合酸化物粒子に転換して回収した。
Li/Me=1.50となるように炭酸リチウムを秤量し、上記複合酸化物粒子と混合してリチウム混合物を調製した。混合は、シェーカーミキサー装置(ウィリー・エ・バッコーフェン(WAB)社製、TURBULA TypeT2C)を用いて行った。
得られたリチウム混合物を大気中(酸素:21容量%)にて、500℃で4時間仮焼した後、950℃で10時間焼成し、冷却した後、解砕して正極活物質を得た。
[正極活物質の分析]
複合水酸化物粒子と同様の方法で、得られた正極活物質の粒度分布を測定したところ、平均粒径は5.3μmであり、〔(d90−d10)/平均粒径〕値は、0.46であった。
また、複合水酸化物粒子と同様の方法で、正極活物質のSEM観察および断面SEM観察を行ったところ、得られた正極活物質は、略球状であり、粒径がほぼ均一に揃っていることが確認された。この正極活物質のSEM観察結果を図8に示す。
一方、断面SEM観察により、この正極活物質が、一次粒子が焼結して構成された外殻部と、その内部に中空部を備える中空構造となっていることを確認した。この正極活物質の断面SEM観察結果を図9に示す。この観察から求めた、正極活物質の粒子径に対する外殻部の厚さの比率は、13%であった。
得られた正極活物質について、流動方式ガス吸着法比表面積測定装置(ユアサアイオニクス社製、マルチソーブ)により比表面積を求めたところ、1.5m2/gであった。
さらに、同様にICP発光分光法により、正極活物質の組成分析を行ったところ、Li1.50Ni0.167Co0.167Mn0.6662.5であることが確認された。
[二次電池の製造及び評価]
得られた正極活物質の評価には、実施例1と同様に作製した2032型コイン電池を使用した。
[電池評価]
得られたコイン型電池の性能を評価する、初期放電容量、サイクル容量維持率、正極抵抗は、以下のように定義した。
初期放電容量は、コイン型電池を作製してから24時間程度放置し、開回路電圧OCV(open circuit voltage)が安定した後、正極に対する電流密度を0.1mA/cmとしてカットオフ電圧4.7Vまで充電し、1時間の休止後、カットオフ電圧2.5Vまで放電したときの容量を初期放電容量とした。
サイクル容量維持率は、正極に対する電流密度を2mA/cmとして、4.7Vまで充電して3.0Vまで放電を行うサイクルを200回繰り返し、充放電を繰り返した後の放電容量と初期放電容量の比を計算して容量維持率とした。
充放電容量の測定には,マルチチャンネル電圧/電流発生器(株式会社アドバンテスト製、R6741A)を用いた。
また、正極抵抗は、以下のようにして評価した。
コイン型電池を充電電位4.1Vで充電して、周波数応答アナライザおよびポテンショガルバノスタット(ソーラトロン製、1255B)を使用して、交流インピーダンス法により測定すると、図10に示すナイキストプロットが得られる。このナイキストプロットは、溶液抵抗、負極抵抗とその容量、および、正極抵抗とその容量を示す特性曲線の和として表しているため、このナイキストプロットに基づき等価回路を用いてフィッティング計算して、正極抵抗の値を算出した。
上記正極活物質を用いて形成された正極を有するコイン型電池について、電池評価を行ったところ、初期放電容量は272mAh/gであり、正極抵抗は37Ωであった。また、200サイクル後の容量維持率は80%であった。
本実施例7により得られた複合水酸化物の特性を表2に、正極活物質の特性およびこの正極活物質を用いて製造したコイン型電池の各評価を表3に、それぞれ示す。また、以下の実施例8〜15および比較例10〜14についても、同様の内容について、表2および表3に示す。
Li/Me=1.70となるように水酸化リチウムと複合酸化物粒子を混合したこと、焼成温度を850℃としたこと以外は、実施例7と同様にして、非水系電解質二次電池用正極活物質を得るとともに評価を行った。得られた正極活物質の組成は、Li1.70Ni0.167Co0.167Mn0.6662.7であることが確認された。
複合水酸化物粒子製造工程における粒子成長工程において、大気雰囲気から窒素雰囲気への切り替えを、粒子成長工程時間全体に対して6.25%の時点で行ったこと以外は、実施例7と同様にして、非水系電解質二次電池用正極活物質を得るとともに評価した。なお、得られた複合水酸化物粒子および正極活物質の組成は、実施例7と同様であり、複合水酸化物粒子は実施例1と同様に針状の微細一次粒子(粒径およそ0.4μm)からなる中心部と、該中心部の外側にこの微細一次粒子よりも大きい板状の一次粒子(粒径0.8μm)からなる外殻部とにより構成されていた。
複合水酸化物粒子製造工程において、硫酸ニッケルと硫酸マンガンに加えて、タングステン酸ナトリウムを水に溶かして1.8mol/Lの混合水溶液を形成したこと以外は、実施例7と同様にして、非水系電解質二次電池用正極活物質を得るとともに評価した。なお、この混合水溶液では、各金属の元素モル比が、Ni:Co:Mn:W=0.167:0.167:0.661:0.005となるように調整した。得られた複合水酸化物の組成は、Ni0.167Co0.166Mn0.6620.005(OH)2+a(0≦a≦0.5)であった。また、得られた正極活物質の組成は、Li1.50Ni0.167Co0.166Mn0.6620.0052.5であることが確認された。
Li/Me=1.25となるように、水酸化リチウムと複合酸化物粒子を混合したこと以外は実施例7と同様にして、非水系電解質二次電池用正極活物質を得るとともに評価した。得られた正極活物質の組成は、Li1.25Ni0.167Co0.167Mn0.6662.25であることが確認された。
複合水酸化物粒子製造工程において、槽内温度を50℃、アンモニア濃度を15g/Lとしたこと以外は、実施例7と同様にして、非水系電解質二次電池用正極活物質を得るとともに評価した。なお、得られた複合水酸化物および正極活物質の組成は、実施例7と同様であり、複合水酸化物粒子は実施例7と同様に針状の微細一次粒子(粒径およそ0.3μm)からなる中心部と、該中心部の外側にこの微細一次粒子よりも大きい板状の一次粒子(粒径およそ0.8μm)からなる外殻部とにより構成されていた。
複合水酸化物粒子製造工程において、粒子成長工程における、大気雰囲気から窒素雰囲気への切り替えを、粒子成長工程時間全体に対して25%の時点で行ったこと以外は、実施例7と同様にして、非水系電解質二次電池用正極活物質を得るとともに評価した。なお、得られた複合水酸化物および正極活物質の組成は、実施例7と同様であり、複合水酸化物粒子は実施例7と同様に針状の微細一次粒子(粒径0.3μm)からなる中心部と、該中心部の外側にこの微細一次粒子よりも大きい板状の一次粒子(粒径0.5μm)からなる外殻部とにより構成されていた。
実施例7と同様にして得られた複合水酸化物と炭酸リチウムを混合する際に、酸化タングステンを実施例10の活物質組成と同じになるように加え、焼成した以外は実施例7と同様にして正極活物質を得た。なお、得られた活物質の組成は実施例10と同様の結果であった。
実施例7と同様にして得られた複合水酸化物をタングステン酸アンモニウム溶液に150g/Lとなるように分散し、スラリー化したのち、該スラリーをマイクロミストドライヤ(藤崎電機株式会社製、MDL−050M)を用いて噴霧乾燥し、タングステン酸アンモニウム塩を被覆させた複合水酸化物を得た以外は、実施例7と同様にして正極活物質を得た。なお、得られた活物質の組成は実施例10と同様であり、タングステンが活物質粒子の表面付近に多く存在することが確認された。
(比較例10)
上部にオーバーフロー用配管を備えた連続晶析用の反応槽を用いて、大気雰囲気中で、反応水溶液のpH値を液温25℃基準で11.0の一定値に保ちながら、実施例7と同様の混合水溶液とアンモニア水溶液および水酸化ナトリウム溶液を一定流量で連続的に加えて、オーバーフローするスラリーを連続的に回収する、一般的な方法により晶析を行った。反応槽内の平均滞留時間を10時間として、連続槽内が平衡状態になってから、スラリーを回収して、固液分離して、晶析物を得たこと以外は、実施例7と同様にして、非水系電解質二次電池用正極活物質を得るとともに評価した。
なお、得られた複合水酸化物および正極活物質の組成は、実施例7と同様であった。複合水酸化物粒子全体が実施例7の外殻部と同様な一次粒子で構成されたため、正極活物質は緻密な中実構造の粒子となった。
(比較例11)
核生成時と粒子成長時のpH値を、いずれも液温25℃基準で11.6の一定値に保ったこと以外は、実施例7と同様にして、非水系電解質二次電池用正極活物質を得るとともに評価した。晶析中は、反応槽内空間に窒素ガスを5L/minで流通させて、反応容器蓋と液面の間の空間の酸素濃度が0.2容量%以下となるように保持した。なお、得られた複合水酸化物および正極活物質の組成は、実施例1と同様であった。複合水酸化物粒子全体が実施例7の外殻部と同様な一次粒子で構成されたため、正極活物質は緻密な中実構造の粒子となった。
(比較例12)
核生成時と粒子成長時のpH値を、いずれも液温25℃基準で12.6の一定値に保ったこと以外は、実施例7と同様にして、ニッケル・コバルト・マンガン複合水酸化物を得た。晶析中は、反応槽内空間に窒素ガスを5L/minで流通させて、反応容器蓋と液面の間の空間の酸素濃度が0.2容量%以下となるように保持した。しかしながら、晶析反応全期間において新たな核が生成したために、粒度分布が広くゲル状の析出物を含む不定形の粒子となり、固液分離が困難であり処理を中止した。
(比較例13)
焼成温度を1100℃としたこと以外は、実施例7と同様にして、非水系電解質二次電池用正極活物質を得るとともに評価した。得られた複合水酸化物および正極活物質の組成は、実施例7と同様であったが、粒成長が激しく粒成長しており、比表面積が0.8m/gまで低下し初期容量、正極抵抗の大幅な低下が起きた。
(比較例14)
粒成長工程における大気雰囲気から窒素雰囲気への切り替えを、粒子成長工程開始時から粒子成長工程時間全体に対して50%の時点で行ったこと以外は、実施例7と同様にして、非水系電解質二次電池用正極活物質を得るとともに評価した。
複合水酸化物の外殻部の厚みが不足していたため、正極活物質とする焼成段階において二次粒子同士の焼結が進み、粗大粒を含む活物質となった。なお、得られた複合水酸化物および正極活物質の組成は、実施例7と同様であった。
(評価)
実施例7〜15の複合水酸化物粒子および正極活物質は、本発明に従って製造されたため、平均粒径および粒度分布の広がりを示す指標である〔(d90−d10)/平均粒径〕値のいずれもが、好ましい範囲にあり、粒径分布が良好で粒径がほぼ揃った粒子となっている。また、いずれの正極活物質も、凝集した一次粒子が焼結している外殻部と、その内側の中空部とからなる構造を備えている。これらの正極活物質を用いたコイン型電池は、初期放電容量が高く、サイクル特性に優れ、正極抵抗も低いものとなっており、優れた特性を有した電池となっている。
比較例10は、連続晶析法を用いたため、核生成と粒子成長の分離ができず、粒子成長時間が一定でないため、粒度分布が広いものとなっている。このため、コイン型電池は、初期放電容量は高いものの、サイクル特性が悪くなっている。
比較例11では、核成長時と粒子成長時のpH値をいずれも12以下としたため、核生成量が不足し、複合水酸化物粒子、正極活物質ともに大粒径となっている。このため、この正極活物質を用いたコイン型電池は、反応表面積が不足して実施例より高い正極抵抗となっている。
比較例12では、核成長時と粒子成長時のpH値をいずれも12以上としたため、晶析反応全期間において新たな核が生成し、粒子が微細化して凝集したために、粒度分布が広くなり、正極活物質の製造も困難となってしまっている。
比較例13は、焼成温度を高くし過ぎたために比表面積が小さくなり、初期放電容量が低下するほか正極抵抗が上昇した。
比較例14は、粒子成長工程における大気雰囲気が長いために、低密度部が大きくなり過ぎ、正極活物質作製時に粗大粒が生成して電池特性が大幅に悪化していた。放電特性が低いため、サイクル特性については測定しなかった。
以上の結果より、本発明の製造方法を用いて、マンガン複合水酸化物粒子および正極活物質を製造すれば、この正極活物質を用いた非水系電解質二次電池は、初期放電容量が高く、サイクル特性に優れ、正極抵抗も低いものとなり、優れた特性を有した電池となることが確認できる。
実施例1の共沈殿工程における核生成量を調整することにより、平均粒子径6.4μm、(d90−d10)/平均粒径が0.55の前駆体であるマンガン複合水酸化物粒子を得た。得られた複合水酸化物中のニッケル、コバルト、マンガンの原子数の総量に対して1.2原子%となるように計算し秤量した酸化タングステンと、Li/Me比が1.5となる量とさらに添加する酸化タングステンをタングステン酸リチウムにするのに必要な量の合計を計算し秤量した炭酸リチウムをスパルタンリューザーで混合した。添加した酸化タングステンの平均粒子径は840nmであり、酸化タングステンに対するマンガン複合水酸化物粒子の平均粒子径比(酸化タングステン/マンガン複合水酸化物粒子)は、7.6倍となった。
次に雰囲気を大気とし、950℃で10時間保持するように焼成を行い、所望のリチウム金属複合酸化物を得た。
このときのタングステンとリチウムからなる化合物層の層厚はTEM(透過型電子顕微鏡)観察像からおよそ6〜11nmであることが分かった。
(電池の製造および評価)
正極活物質の評価には、実施例1と同様に作製した2032型コイン電池1(以下、コイン型電池と称す)を使用した。
製造したコイン型電池の性能を示す初期放電容量、正極抵抗は、以下のように評価した。
初期放電容量は、コイン型電池を製作してから24時間程度放置し、開回路電圧OCV(Open Circuit Voltage)が安定した後、正極に対する電流密度を0.1mA/cmとしてカットオフ電圧4.8Vまで充電し、1時間の休止後、カットオフ電圧2.5Vまで放電したときの容量を初期放電容量とした。
抵抗の測定は、定電流−低電圧充電を行い、電位を4.0Vに合わせた後、1.3mAの電流を10秒間流し、4.0Vから10秒後の電位を引いてΔVを求め、ΔVを流した電流値である1.3mAで割ることで抵抗(Ω)を算出した。
電池評価測定を行ったところ、表4に示すように初期放電容量は268.5mAh/g、DC−IRによる3Cでの抵抗値は実施例20を基準とした相対値を抵抗削減率として算出したところ36%であった。
本実施例のW添加条件と得られた正極活物質の特性およびこの正極活物質を用いて製造したコイン型電池の各評価を表4に示す。また、以下の実施例17〜19および比較例15〜18についても、同様の内容について、表4に示す。
酸化タングステンの添加量を1.2原子%から2.5原子%に変更した以外は、実施例16と同様にしてリチウム金属複合酸化物を製造し評価を行ったところ、表4に示すように層厚は13〜17nm、初期放電容量は265.2mAh/g、抵抗削減率は31%であった。
平均粒子径比が17倍となる平均粒子径370nmの酸化タングステンを0.7原子%添加したこと以外は、実施例16と同様にしてリチウム金属複合酸化物を製造し評価を行ったところ、表4に示すように層厚は2〜6nm、初期放電容量は270.1mAh/g、抵抗削減率は33%であった。
平均粒子径比が5.7倍となる平均粒子径1.1μmの酸化タングステンを2.3原子%添加したこと以外は、実施例16と同様にしてリチウム金属複合酸化物を製造し評価を行ったところ、表4に示すように層厚は11〜19nm、初期放電容量は263.0mAh/g、抵抗削減率は29%であった。
酸化タングステンを添加しなかったこと以外は実施例16と同様にしてリチウム金属複合酸化物を製造し評価を行ったところ、表4に示すように初期放電容量は272.8mAh/gであった。
酸化タングステンの添加量を1.2原子%から4.7原子%に変更した以外は、実施例16と同様にしてリチウム金属複合酸化物を製造し評価を行ったところ、表4に示すように膜厚は16〜34nm、初期放電容量は254.1mAh/g、抵抗削減率は6%であった。
酸化タングステンの添加量を1.2原子%から0.05原子%に変更した以外は、実施例16と同様にしてリチウム金属複合酸化物を製造し評価を行ったところ、表4に示すように層厚は0〜3nmと被覆されていないところがかなり多く見られるようになり、初期放電容量は271.0mAh/g、抵抗削減率は2%であった。
本発明の製造方法による非水系二次電池は、高容量の優れた電気特性を有することから、最近の携帯電話やノート型パソコンなどの携帯電子機器などの高エネルギー密度が要求される小型電源装置として好適である。
また、本発明の製造方法による非水系二次電池は、優れた安全性を有することから、純粋に電気エネルギーで駆動される電気自動車、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンなどの燃焼機関と併用するハイブリッド自動車もしくはプラグインハイブリッド自動車などの大型電源装置としても好適に用いることができる。
1 正極(評価用電極)
2 Li金属負極
3 セパレータ
4 ガスケット
5 ウェーブワッシャー
6 正極缶
7 負極缶

Claims (21)

  1. 一般式:Li1+uNiCoMn2+α(0.05≦u≦0.95、x+y+z+t=1、0≦x≦0.5、0≦y≦0.5、0.5≦z<0.8、0≦t≦0.1、Mは添加元素であり、Mg、Ca、Al、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Wから選択される1種以上の元素)で表され、層状構造を有する六方晶系リチウム含有複合酸化物により構成されるリチウム金属複合酸化物からなる正極活物質であって、
    平均粒径が3〜12μm、粒度分布の広がりを示す指標である〔(d90−d10)/平均粒径〕が0.60以下であることを特徴とする非水系電解質二次電池用正極活物質。
  2. 前記リチウム金属複合酸化物が、一般式:bLiMnM t1・(1−b)Li1+vNiCoMn t2(0.2≦b≦0.7、−0.05≦v≦0.20、t1+t2=t、x+y+z+t=1、0.1≦x≦0.4、0.2≦y≦0.8、0.1≦z≦0.4、0≦t≦0.1、M及びMは添加元素であり、Mg、Ca、Al、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Wから選択される1種以上の元素)で表されることを特徴とする請求項1に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質。
  3. 前記リチウム金属複合酸化物が、一般式:Li1+sNiCoMn2+α(0.40≦s<0.60、z−x>0.4の時z−x≦s、z<0.6の時s≦z、0≦x≦0.5、0≦y≦0.5、0.5≦z<0.8、0<x+y、x+y+z+t=1、z−x<0.6、0.4≦α<0.6)で表されることを特徴とする請求項1に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質。
  4. 請求項3における前記一般式を、sLiMnM t1・(1−s)LiNM t2(Nは、NiもしくはCoを必須とし、Ni、Co、Mnの少なくとも1種からなる)として表した場合、LiMnO:LiNOの比が0.40:0.60〜0.55:0.45であることを特徴とする請求項3に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質。
  5. 前記LiNO中に含まれるNi:Mnの比(Ni/Mn)が、0.8〜1.2であることを特徴とする請求項4に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質。
  6. 前記リチウム金属複合酸化物が、一次粒子および前記一次粒子が凝集して構成された二次粒子からなるリチウム金属複合酸化物であって、前記リチウム金属複合酸化物の表面または粒界に、タングステンが濃縮されたリチウムを含む層厚が20nm以下の化合物層を有することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質。
  7. 前記化合物層中に含有されるタングステン量が、リチウム金属複合酸化物に含まれるリチウム以外の金属元素の原子数の和に対して、タングステンの原子数が0.1〜3.0原子%であることを特徴とする請求項6に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質。
  8. 前記リチウム金属複合酸化物が、凝集した一次粒子が焼結している外殻部と、その内側に存在する中空部とからなる中空構造を備えることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質。
  9. 前記リチウム金属複合酸化物の平均粒径が、3〜8μmであることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質。
  10. 正極活物質として2032型コイン電池に用いた場合、220mAh/g以上の初期放電容量を有することを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質。
  11. 請求項1〜10のいずれか1項に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法であって、
    一般式NiCoMn(OH)2+a(x+y+z+t=1、0≦x≦0.5、0≦y≦0.5、0.5≦z<0.8、0≦t≦0.1、0≦a≦0.5、Mは添加元素であり、Mg、Ca、Al、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Wから選択される1種以上の元素)で表されるマンガン複合水酸化物で、その平均粒径が2〜12μm、粒度分布の広がりを示す指標である〔(d90−d10)/平均粒径〕が0.55以下であるマンガン複合水酸化物粒子を、少なくともマンガンの化合物を含む水溶液、及びアンモニウムイオン供給体を含む水溶液を、反応槽内に供給して反応液とし、かつ水酸化ナトリウム水溶液を、反応槽内の前記反応液を所定のpHに保持するために添加量を調整して供給し、前記反応液のpHを液温25℃基準で12.0〜14.0に制御して核生成を行う核生成段階と、pHを液温25℃基準で10.5〜12.0の範囲で核生成段階より低くなるように制御して該核生成段階において生成した核を成長させる粒子成長段階に分離して上記マンガン複合水酸化物粒子を得る第1工程と、
    前記マンガン複合水酸化物粒子を、105〜750℃で熱処理する第2工程と、
    前記熱処理後のマンガン複合水酸化物、または熱処理前のマンガン複合酸化物、もしくはそれらの混合物に、リチウム以外の金属元素の原子数の和Meと、リチウムの原子数Liとの比Li/Meが1.05〜1.95となるようにリチウム化合物を加えてリチウム混合物を形成し、前記リチウム混合物を酸化性雰囲気中、800℃〜1050℃の温度で焼成した後、解砕して、リチウム金属複合酸化物を得る第3工程と、
    を有することを特徴とする非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
  12. 請求項6〜10のいずれか1項に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法であって、
    前記リチウム化合物を加えてリチウム混合物を形成する際に、さらにタングステン化合物を混合することを特徴とする請求項11に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
  13. 前記タングステン化合物の一次粒子径の平均値に対して、前記マンガン複合水酸化物の二次粒子径の平均値が5倍以上であることを特徴とする請求項12に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
  14. 前記第1工程が、反応槽内の空間の酸素濃度が1容量%を超える酸化性雰囲気中で核生成を行う核生成段階と、
    粒子成長段階の開始時から粒子成長段階時間の全体に対して0〜40%の範囲で前記酸化性雰囲気から酸素濃度1容量%以下の酸素と不活性ガスの混合雰囲気に切り替えて、前記核を成長させる粒子成長段階とを有することを特徴とする請求項11〜13のいずれか1項に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
  15. 前記第1工程において、予め液温25℃基準でpH値を12〜14に制御して生成させた核となる複合水酸化物粒子を種晶として反応液に添加した後、反応液のpHを液温25℃基準で10.5〜12.0に制御して該粒子を成長させることにより核生成段階と粒子成長段階を分離することを特徴とする請求項11〜14のいずれか1項に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
  16. 前記第1工程において核生成後あるいは粒子成長段階の途中で、反応後溶液の一部を反応槽外に排出することにより反応槽内の複合水酸化物粒子濃度を高めた後に、引き続き粒子成長を行うことを特徴とする請求項11〜15のいずれか1項に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
  17. 前記第1工程における反応液の温度が、35℃以上60℃以下の任意の温度範囲に制御されることを特徴とする請求項11〜16のいずれか1項に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
  18. 前記晶析工程における反応液中のアンモニア濃度が、3〜25g/Lの範囲内の任意の一定値に保持されることを特徴とする請求項11〜17のいずれか1項に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
  19. 前記粒子成長段階で得られたマンガン複合水酸化物に、前記添加元素M(Mg、Ca、Al、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、W)から1種以上の添加元素を含む化合物を被覆することを特徴とする請求項11〜18のいずれか1項に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
  20. 前記第3工程の焼成に際して、予め、焼成温度より低く、かつ350℃〜800℃の温度で仮焼を行うことを特徴とする請求項11〜19のいずれか1項に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
  21. 請求項1〜10のいずれか1項に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質を活物質とする正極を有することを特徴とする非水系電解質二次電池。
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