本発明は、上述の事情を背景に為されたものであって、その解決課題は、ダブルシンタイプにおける良好な装用感を確保しつつ、酸素透過性および涙液交換性の向上が図られ得る、新規な構造のコンタクトレンズを提供することにある。
以下、このような課題を解決するために為された本発明の態様を記載する。なお、以下に記載の各態様において採用される構成要素は、可能な限り任意の組み合わせで採用可能である。
本発明の第1の態様は、中央部分の光学部とその周囲の周辺部とを備えたコンタクトレンズにおいて、前記光学部がプリズムによる重心偏倚を有しておらず、前記周辺部には、装用状態で上下両側に位置する部分に一対の薄肉部がそれぞれ一定の厚さ寸法で周方向に延びて形成されていると共に、装用状態で左右両側に位置する部分に一対の厚肉部がそれぞれ前記薄肉部よりも大きな厚さ寸法で周方向に延びて形成されており、一対の前記厚肉部のそれぞれにおけるレンズ後面には、装用状態で左右方向に対称位置となる凹部が少なくとも1つ形成されていると共に、該凹部の形成部分における最小厚さ寸法が、前記薄肉部の厚さ寸法よりも大きくされていることを、特徴とする。
本発明によれば、厚肉部に凹部が形成されることにより、厚肉部における余分な肉が削ぎ落とされて、厚肉部の厚さ寸法が部分的に小さくされている。これにより、厚肉部による圧迫を抑えて、異物感を軽減することが出来る。特に、凹部が後面に開口していることから、例えば装用眼に瞼裂斑が存在する場合等には、瞼裂斑に対応する位置に凹部を形成することによって、厚肉部による瞼裂斑の圧迫を低減して、更なる装用感の向上を図ることが出来る。それと共に、凹部で厚肉部の厚さ寸法が部分的に小さくされることによって、厚肉部における酸素透過性の向上を図ることが出来る。
さらに、凹部を装用状態で左右方向に対称位置にして形成したことによって、左右それぞれの厚肉部において強度が部分的に低減された部分が、装用状態の鉛直上下方向で互いに等しく位置される。これにより、瞬目の作用によって、装用状態における上下方向で潰されるような撓み変形をレンズに生ぜしめることが出来る。この撓み変形とその復元によって、角膜上でのレンズ移動量を増大させることが出来る。従って、ポンピング作用がより効果的に発揮され得て、涙液交換性の更なる向上を図ることが出来る。その結果、角膜の健康状態をより良好に保つことが出来ると共に、不純物や気泡をより速やかに排除することも出来て、装用感の更なる向上も図ることが出来る。
加えて、厚肉部上に凹部を形成して、凹部の形成部分における厚さ寸法を薄肉部に近づけることによって、厚肉部と薄肉部の厚さ寸法の差異に起因するレンズ外周部分における剛性の偏在を軽減して、レンズの形状保持性能を向上することが出来る。これにより、装用する際に指の上でレンズが丸まってしまう不具合を軽減することが出来る。
さらに、凹部の形成部分における最小厚さ寸法を、薄肉部の厚さ寸法よりも大きくしたことによって、凹部の形成部分における強度を或る程度確保しつつ、上述の如き異物感の軽減効果や酸素透過性の向上効果等を実現することが出来る。
そして、上下両側の薄肉部と左右両側の厚肉部により、全体としてダブルシンタイプ形状とされていることから、回転抑制効果は従来のダブルシンタイプと略同等に確保することが可能であり、例えばトーリックレンズなど、光学特性に関して特定の径方向軸が設定されているレンズへの適用好適性を確保することが出来る。
加えて、薄肉部が周方向で一定の厚さ寸法とされていることから、薄肉部の中でもより薄く貧弱な部位が局所的に形成されることが避けられて、薄肉部における最小厚さ寸法を或る程度確保することが出来る。これにより、薄肉部を含むレンズ全体に亘って強度を効率的に確保することが出来る。また、薄肉部に眼瞼が重なる際に、薄肉部の肉厚が局所的に異なることに起因して、局所的な刺激による装用感低下のおそれも軽減される。更に、薄肉部が、周方向の全体に亘って一定厚さの薄肉形状とされていることから、薄肉部を周方向の長い領域で眼瞼に対する食い込み状態とすることも可能となり、眼瞼への食い込み作用によるレンズ周方向安定性の向上も図られ得る。
しかも、光学部がプリズムのような重心偏倚を有さないことから、光学部の厚さ寸法を小さくすることが出来る。これにより、従来のプリズムバラスト法における装用感低下の問題が回避され得、より優れた装用感を得ることが出来る。
さらに、プリズムバラストを採用していないことから、従来のプリズムバラスト法を採用したコンタクトレンズのように、光学部におけるプリズム設定に起因する光学上の悪影響のおそれもない。即ち、本態様のコンタクトレンズによれば、重心偏倚のための大きなプリズム設定(従来のプリズムバラスト)による悪影響を受けることなく、光学部において目的とする視力矯正効果が高精度に発揮され得ることとなる。
なお、コンタクトレンズにおいて周辺部の厚さ寸法は、レンズ径方向で変化して設定されることとなり、一般にレンズ径方向外方に行くに従って次第に小さくなるようにされる。そこにおいて、本明細書中で厚肉部や薄肉部等の厚さ寸法を相互に比較する場合には、レンズ幾何中心回りの同一円周上での厚さ寸法を比較するものである。具体的には、例えば厚肉部が薄肉部よりも大きな厚さ寸法であるとは、レンズ幾何中心から同距離だけ径方向に離隔した位置で厚さ寸法を比較した場合に、薄肉部の厚さ寸法よりも厚肉部の厚さ寸法が大きいことを言う。
本発明の第二の態様は、前記第一の態様に記載のものにおいて、一対の前記厚肉部のそれぞれにおいて、前記凹部の一つが、装用状態でレンズ中心軸を通って左右方向に延びる水平径方向線上に形成されているものである。
本態様によれば、厚肉部の周方向中央部分に凹部が形成されることから、厚肉部における酸素透過性を周方向中央部分において効果的に向上することが出来る。更に、装用状態における上下方向の中央部分に凹部が形成されて強度が低下されることによって、瞬目に際する撓み変形をより効果的に生ぜしめることが出来て、涙液交換性の更なる向上を図ることが出来る。
本発明の第三の態様は、前記第一又は第二の態様に記載のものにおいて、装用状態で上下両側に位置する一対の前記薄肉部と、装用状態で左右両側に位置する一対の前記厚肉部が、一対の該厚肉部にそれぞれ形成された前記凹部を含んで、装用状態でレンズ中心軸を通って左右方向に延びる水平径方向線と装用状態でレンズ中心軸を通って上下方向に延びる鉛直径方向線との何れの径方向線に関しても対称形状とされているものである。
本態様によれば、厚肉部が凹部を含んで鉛直径方向線に関して対称形状とされることで、左右それぞれの厚肉部に形成された凹部を上下方向で互いに等しく位置させて、瞬目の作用に対する撓み変形を発現させ易くすることが出来る。それと共に、厚肉部が凹部を含んで水平径方向線に関しても対称形状とされることで、左右各厚肉部のそれぞれにおいて凹部を上下方向でバランス良く位置させることが出来て、凹部による酸素透過性向上効果を左右それぞれの厚肉部の上下方向でバランス良く生ぜしめることが出来る。また、周辺部の厚さ形状が装用状態における上下方向および左右方向の何れの方向にもバランス良く設定されることから、より優れた回転抑制効果を得ることも出来て、装用状態で周方向位置決めが必要とされるレンズ等により好適に用いることが出来る。
本発明の第四の態様は、前記第一〜第三の何れか一つの態様に記載のものにおいて、前記凹部の形成部分における最小厚さ寸法が、前記厚肉部の最大厚さ寸法の1/2〜9/10であるものである。
凹部の最小厚さ寸法を厚肉部の最大厚さ寸法の1/2以上に設定することによって、厚肉部が凹部の形成部分において過度に薄肉となることを回避して、レンズの形状安定性を確保することが出来ると共に、深さ寸法が過度に大きな凹部を形成する必要が無いことから、コンタクトレンズを型成形する場合にも、樹脂製のコンタクトレンズ成形型や、該成形型を製造するための金型の製造も容易となる。一方、凹部の最小厚さ寸法を厚肉部の最大厚さ寸法の9/10以下に設定することによって、凹部の形成部分の薄肉化による酸素透過性の向上効果や涙液交換性の向上効果をより効果的に得ることが出来る。
本発明の第五の態様は、前記第一〜第四の何れか一つの態様に記載のものにおいて、前記厚肉部における周方向両側部分は、前記薄肉部に向けて厚さ寸法が次第に小さくなる移行部とされているものである。
このようにすれば、周辺部の周方向における急激な厚さ寸法の変化を軽減することが出来る。これにより、上下眼瞼の引っ掛かりを軽減して、装用感を向上することが出来る。更に、瞬目に際して上眼瞼が移行部に次第に乗り上げたり降りたりすることに伴って、上眼瞼によるレンズの押し出し的な作用力の釣り合いによって、より優れた周方向位置決め効果を得ることも出来る。
本発明の第六の態様は、前記第五の態様に記載のものにおいて、前記厚肉部の周方向中央部分が一定の厚さ寸法で周方向に延びる連続部とされており、該連続部におけるレンズ中心軸回りの中心角:Δが40度〜70度の範囲内で設定されているものである。
連続部の中心角:Δを40度以上に設定したことによって、連続部の周方向長さを適度に確保して、左右厚肉部の重量バランスや瞬目に際する上眼瞼の押し出し効果を安定的に得ることが出来ると共に、連続部の中心角:Δを70度以下に設定したことによって、瞬目をしていない状態での上下眼瞼の連続部への重なり合いを軽減乃至は回避して装用感の向上を図ることが出来る。
本発明の第七の態様は、前記第五又は第六の態様に記載のものにおいて、前記凹部が、周方向両側で深さ寸法が次第に小さくなる両側テーパ形状の底面をもって形成されており、該凹部の該底面における周方向の傾斜角度が、前記厚肉部の前記移行部における周方向の傾斜角度以上で大きくされているものである。これにより、凹部の周方向寸法を大きくせずとも深さ寸法を確保することが出来て、凹部形状の設計自由度を向上することが出来る。そして、移行部では周方向傾斜を小さくして装用感を良好に維持しつつ、凹部では周方向傾斜を大きくして前述の撓み変形の集中化や効率化を図りポンピング作用の向上を図ることも可能となる。
本発明の第八の態様は、前記第一〜第七の何れか一つの態様に記載のものにおいて、前記薄肉部におけるレンズ中心軸回りの中心角:αが20度〜60度の範囲内で設定されているものである。
薄肉部の中心角:αを20度以上に設定することによって、薄肉部を周方向で所定寸法に亘って形成出来ることから、瞬目をしていない状態での上下眼瞼の厚肉部への重なり合いを軽減して装用感を向上出来ると共に、厚肉部よりも高い酸素透過性を有する薄肉部を所定の周方向寸法に亘って形成することによって、レンズ全体としての酸素透過性を確保することが出来る。更に、薄肉部の中心角:αを20度以上に設定することによって、厚肉部の周方向寸法が相対的に大きくなって厚肉部においてレンズ強度が過度に大きくされることを回避して、瞬目に際する撓み変形を安定的に生ぜしめることが出来る。一方、薄肉部の中心角:αを60度以下に設定することによって、厚肉部の周方向寸法を適度に確保してレンズ強度を確保すると共に、瞬目に際する上眼瞼の押し出し作用等に基づく回転抑制効果を安定的に発揮することが出来る。
本発明の第九の態様は、前記第一〜第八の何れか一つの態様に記載のものにおいて、前記厚肉部におけるレンズ中心軸回りの中心角:βが120度〜160度の範囲内で設定されているものである。
厚肉部の中心角:βを120度以上に設定することによって、瞬目に際する上眼瞼の押し出し作用等に基づく回転抑制効果を安定的に発揮することが出来る。一方、厚肉部の中心角:βを160度以下に設定することによって、上下眼瞼の厚肉部への重なり合いを回避して装用感を向上することが出来ると共に、厚肉部よりも高い酸素透過性を有する薄肉部を所定の周方向寸法に亘って形成して、レンズ全体としての酸素透過性を確保することが出来る。更に、厚肉部の周方向寸法が過度に大きくなって、厚肉部において瞬目に際する撓み変形が生ぜしめられ難くなることを回避乃至は軽減することが出来る。
本発明の第十の態様は、前記第一〜第九の何れか一つの態様に記載のものにおいて、前記凹部におけるレンズ中心軸回りの中心角:γが20度〜60度の範囲内で設定されているものである。
凹部の中心角:γを20度以上に設定することによって、凹部の周方向長さを適度に確保して、厚肉部における酸素透過性を向上出来ると共に、撓み変形を生ぜしめ易くすることが出来る。一方、凹部の中心角:γを60度以下に設定することによって、厚肉部におけるレンズ強度を確保することが出来る。
本発明の第十一の態様は、前記第一〜第十の何れか一つの態様に記載のものにおいて、前記薄肉部の最小厚さ寸法が0.10mm〜0.20mmの範囲内で設定されているものである。
薄肉部の最小厚さ寸法を0.10mm以上に設定することによって、レンズの形状保持特性を損なわない程度に周辺部によってレンズ全体形状の保持強度を確保することが出来る。一方、薄肉部の最小厚さ寸法を0.20mm以下に設定することによって、上下眼瞼への薄肉部の食い込みに起因する異物感を一層効果的に軽減することが出来る。
本発明の第十二の態様は、前記第一〜第十一の何れか一つの態様に記載のものにおいて、前記厚肉部の最大厚さ寸法が0.20mm〜0.45mmの範囲内で設定されているものである。
厚肉部の最大厚さ寸法を0.20mm以上に設定することによって、レンズ強度を確保出来ると共に、厚肉部への上眼瞼の押し出し作用等による回転抑制効果がより安定的に発揮される。一方、厚肉部の最大厚さ寸法を0.45mm以下に設定することによって、上眼瞼の厚肉部への過度の接触を抑えて、一層優れた装用感を得ることが出来る。
本発明の第十三の態様は、前記第一〜第十二の何れか一つの態様に記載のものにおいて、前記光学部及び前記周辺部において、それらの前面がレンズ中心軸回りの回転体形状とされている一方、それらの後面がレンズ中心軸回りで非回転体形状とされることにより、該光学部における光学特性に関して特定の径方向軸が設定されていると共に、該周辺部において一対の前記薄肉部と一対の前記厚肉部及びそれら各厚肉部における前記凹部が設けられているものである。
本態様によれば、光学的方向性を有する光学部と、装用時の方向性を特定する周辺部とが何れもレンズ後面に形成される。従って、目的とするコンタクトレンズを型成形する場合に、レンズ前面側の成形型と後面側の成形型を組み合わせてレンズ成形キャビティを形成するレンズ成形型において、光学部における周方向の方向性と周辺部における周方向の方向性とが何れも同じレンズ後面側の成形型において特定されて設定されることから、レンズ製造時に、光学部の周方向の方向性と周辺部の周方向の方向性とを、特別な操作を要することなく高精度に一致させることが出来る。そして、レンズ前面が回転体形状とされていることから、レンズ前面の成形型とレンズ後面の成形型との周方向での相対的な位置合わせも不要とすることが出来て、より優れた製造効率を得ることが出来る。加えて、光学部における周方向の方向性と周辺部における周方向の方向性が特定されたレンズ後面側の成形型を共用して、回転体形状とされたレンズ前面側の成形型のみを異ならせることで多数の度数のレンズを成形することが可能となることから、かかる成形型ひいては該成形型を形成するための金型の規格数を削減することが出来て、生産性を向上することが出来る。
本発明の第十四の態様は、前記第一〜第十三の何れか一つの態様に記載のものにおいて、前記光学部がトーリックレンズ、バイフォーカルレンズ、マルチフォーカルレンズ、トーリックバイフォーカルレンズ、トーリックマルチフォーカルレンズ、ディセンタートーリック、ディセンターバイフォーカルレンズ、ディセンターマルチフォーカルレンズ、ディセンタートーリックバイフォーカルレンズ、ディセンタートーリックマルチフォーカルの何れかであるものである。
特に本発明は、それら各種レンズの中でも、光学特性に関して特定の径方向軸が設定されているものに好適に採用される。例えばトーリックレンズは、眼球の乱視軸と光学部の円柱軸との相対位置に関して高精度で且つ安定した合致性が要求される。そして、本発明によれば、従来のダブルシンと略同等の回転抑制効果を発揮出来ることから、これら特定の径方向軸が設定されたレンズに対して好適に採用され、従来と略同等の回転抑制効果を発揮しつつ、酸素透過性や装用感の向上を図ることが出来る。なお、トーリックとバイフォーカルやマルチフォーカル、更には球面度数等を適当に組み合わせた光学部を採用することも可能であり、そのようなレンズも、本態様に含まれる。
本発明によれば、装用状態で左右に位置する厚肉部のそれぞれに凹部を形成して、厚肉部を部分的に薄肉としたことによって、厚肉部による圧迫を軽減して装用感の向上を図ると共に、厚肉部における酸素透過性を向上することが出来る。更に、凹部を形成して厚肉部のレンズ強度を部分的に低減したことによって、瞬目の際にレンズに撓み変形を生ぜしめることが可能となり、この撓み変形とその復元に基づくレンズ移動量の増加やポンピング作用により、涙液交換性の向上を図ることが出来る。
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
先ず、図1および図2に、本発明の第一の実施形態としてのコンタクトレンズ10を示す。コンタクトレンズ10は、全体として部分的な略球殻形状を有しており、良く知られているように、眼球における角膜の表面に重ねて装用されることによって使用されるようになっている。なお、本発明は、ソフトタイプおよびハードタイプの何れのコンタクトレンズにも適用可能であるが、本実施形態におけるコンタクトレンズ10はソフトタイプのコンタクトレンズであり、その材料は何等限定されるものではなく、従来から公知のPHEMA(ポリヒドロキシエチルメタクリレート)やPVP(ポリビニルピロリドン)等の含水性材料の他、アクリルゴムやシリコーン等の非含水性材料等も採用可能である。
コンタクトレンズ10は、図1に示された正面視において円形状を有しており、矯正光学系としての光学部12が、レンズ外形の幾何中心軸であるレンズ中心軸14上に広がる円形状でレンズ中央部分に形成されている。また、レンズ外周部分には、非光学領域としての周辺部16が、光学部12の周りを囲む所定幅の円環帯形状をもってレンズ中心軸14上に形成されている。更にまた、レンズ外周縁部には、略凸状球面とされたレンズ前面18と略凹状非球面とされたレンズ後面20を滑らかに繋ぐエッジ部22が全周に亘って円環形状で形成されている。
なお、コンタクトレンズ10は、レンズ中心軸14を通る一つの鉛直径方向線24に関して線対称形状とされており、装用状態下で、この鉛直径方向線24が略鉛直上下方向に延びるようにされている。また、レンズ中心軸14を通り鉛直径方向線24と直交する径方向線である水平径方向線26が、装用状態下で、略水平左右方向に延びるようにされている。
レンズ前面18は、径方向断面形状として数次の多項式を始めとする任意の形状が採用可能であるが、特に本実施形態においては、レンズ前面18は、略一定の曲率半径を有する凸状の略円弧形断面とされており、レンズ中心軸14回りの回転体形状とされている。一方、レンズ後面20は、レンズ中心軸14回りの非回転体形状とされており、正面視で円形状の光学部後面28と、同円環形状の周辺部後面30によって構成されている。これら光学部後面28および周辺部後面30は、レンズ中心軸14を中心として同心的な円形の周縁部をもって、径方向で内側から外側に順次並んで形成されている。これにより、コンタクトレンズ10は、構造上、光学部後面28でレンズ後面が形成された光学部12と、周辺部後面30でレンズ後面が形成された周辺部16、および最外周縁部に位置してレンズ前後面18,20を接続するエッジ部22によって構成されている。
なお、周辺部16は、好適には、コンタクトレンズ10の径方向でレンズ外周端縁部から0.02mm〜5.0mmの範囲内、より好適には、レンズ外周端縁部から0.04mm〜4.0mmの範囲内に形成される。周辺部16をレンズ径方向でレンズ外周端縁部から0.02mm以上の範囲に形成することによって、エッジ部22の径方向幅寸法を適当に確保して、レンズ前面18とレンズ後面20を滑らかに接続することが出来ると共に、周辺部16をレンズ径方向でレンズ外周端縁部から5.0mm以下の範囲に形成することによって、光学部12の形成領域を確保して、有効な視力矯正効果を得ることが出来る。
光学部後面28は、レンズ前面18と協働して、要求される視力矯正機能等の光学特性として、例えば単一焦点や二以上の多焦点のレンズ度数を実現せしめるように、適当な曲率半径の球面や非球面が採用される。特に本実施形態においては、光学部後面28に光学特性に関して特定の径方向軸が設定されたトーリック面が形成されており、レンズ前面18と光学部後面28が同じレンズ中心軸14上で形成されることによって、光学部12が円柱レンズ度数をもったトーリックレンズとされている。但し、光学部12は、例えば方向性を持たない球面度数だけをもった非球面レンズや球面レンズでも良いし、二焦点を与えるバイフォーカルレンズや、三焦点以上の多焦点を与えるマルチフォーカルレンズ、またはそれらとトーリックレンズを組み合わせたトーリックバイフォーカルレンズや、トーリックマルチフォーカルレンズとすること等も可能である。更に、光学部12は、光学中心がレンズ幾何中心に対して偏倚しているディセンタータイプであっても良く、例えば、ディセンタートーリック、ディセンターバイフォーカルレンズ、ディセンターマルチフォーカルレンズ、ディセンタートーリックバイフォーカルレンズ、ディセンタートーリックマルチフォーカル等であっても良い。
また、光学部12は、レンズ前面18と光学部後面28が同じレンズ中心軸14上に形成されることによって、光学部12の幾何中心軸がレンズ中心軸14と等しく位置されている。それと共に、光学部12の厚さ寸法がレンズ中心軸14に関する対称位置において略等しくされていることによって、光学部12の重心位置が光学部12の幾何中心軸上に位置されている。このことから明らかなように、本実施形態では、コンタクトレンズ10の光学部12には、重心を下方に偏倚させて周方向位置を安定させる目的でのプリズムが設定されていない。
一方、周辺部16は、コンタクトレンズ10の光学特性に影響を与えるものではないことから、その形状を、要求される光学特性による拘束を受けることなく設定することが出来る。そこで、コンタクトレンズ10に対して装用時の位置安定性や装用感が良好に発揮されるように、周辺部後面30の形状を設定することが可能である。
本実施形態における周辺部後面30は、周辺部16の厚さ寸法が周方向で変化されるように形状設定されている。図3に、周辺部16の周方向の厚さ寸法の変化をモデル的に示す。なお、図3は、装用状態の正面視において右側に位置する半周の厚さ寸法の変化を示し、装用状態での12時位置を0度としている。従って、装用状態において、鉛直径方向線24が0度および180度の位置を通り、水平径方向線26が90度の位置を通る。また、後述するように、本実施形態における周辺部16は鉛直径方向線24に関して対称形状を有することから、装用状態の正面視において左側に位置する半周の厚さ寸法の変化も、図3と同様となる。なお、図4に周辺部16の水平径方向線26における断面形状(後述する凹部46が形成されていないもの)と、鉛直径方向線24における断面形状をモデル的に併せ示すように、周辺部16の厚さ寸法はレンズ径方向(図4中、左右方向)でも変化しており、一般に、レンズ径方向外方に行くに従って次第に小さくなる。従って、図3は、レンズ中心軸14から所定距離だけ径方向に離隔した位置における周方向での厚さ寸法の変化を示す。また、図3中の点線は、後述する比較例を示すものである。
周辺部16には、装用状態で上下両側に位置する部分に、相対的に薄肉とされた上側薄肉部38aおよび下側薄肉部38bが形成されている。そして、周辺部16の周方向で上側薄肉部38aと下側薄肉部38bの間に位置して、装用状態で左右両側に位置する部分には、薄肉部38a,38bよりも大きな厚さ寸法をもって周方向に延びる右側厚肉部40aおよび左側厚肉部40bが形成されている。なお、装用状態の正面視において右側(図1中、右側)に位置するものを右側厚肉部40a,左側(図1中、左側)に位置するものを左側厚肉部40bとする。
上側薄肉部38aおよび下側薄肉部38bは、それぞれ、一定の径方向断面形状をもって周方向に延びており、一定の厚さ寸法:Tcをもって周辺部16の周方向の所定寸法に亘って形成されている。上側薄肉部38aと下側薄肉部38bの厚さ寸法:Tcは、互いに異ならされていても良いが、本実施形態においては、互いに等しくされている。このように、薄肉部38a,38bの厚さ寸法:Tcは互いに異ならされていても良いし、図4に示したように、上側薄肉部38aおよび下側薄肉部38bのそれぞれにおいても、レンズ径方向で厚さ寸法は変化している。そこにおいて、薄肉部38a、38b(エッジ部22を除く)の全体中で最小の厚さ寸法は、好適には、0.10mm〜0.20mmの範囲内、より好適には、0.13mm〜0.17mmの範囲内で設定される。薄肉部38a、38bの最小厚さ寸法を0.10mm以上に設定することによって、両薄肉部38a,38bの強度を確保すると共に、最小厚さ寸法を0.20mm以下に設定することによって、上眼瞼や下眼瞼への食い込みに際する異物感を軽減することが出来る。
上側薄肉部38aおよび下側薄肉部38bの周方向左右両端縁部は、所定の厚さ寸法:Tcによって規定される。レンズ中心軸14回りで、上側薄肉部38aの周方向左右両端縁部間の中心角:α1、および下側薄肉部38bの周方向左右両端縁部間の中心角:α2は、それぞれ、20度〜60度の範囲内、より好適には、30度〜50度の範囲内で設定されることが好ましい。薄肉部38a,38bの中心角:α1、α2を20度以上に設定することによって、上眼瞼や下眼瞼への食い込みに際する異物感を軽減出来ると共に、中心角:α1、α2を60度以下に設定することによって、レンズ強度を確保することが出来る。
本実施形態においては、上側薄肉部38aにおけるレンズ中心軸14回りの中心角:α1と、下側薄肉部38bにおけるレンズ中心軸14回りの中心角:α2は、互いに等しくされている。且つ、上側薄肉部38aおよび下側薄肉部38bは、それぞれ、周方向中央部分が鉛直径方向線24上に位置されている。これにより、上側薄肉部38aおよび下側薄肉部38bは、それぞれ、鉛直径方向線24を通ってレンズ光軸方向に広がる面(鉛直径方向線24及びレンズ光軸を含む面)に対して立体の鏡面対称形状とされていると共に、上側薄肉部38aおよび下側薄肉部38bは、水平径方向線26を通ってレンズ光軸方向に広がる面(水平径方向線26及びレンズ光軸を含む面)に対して互いに立体の鏡面対称形状とされている。
但し、上側薄肉部38aの中心角:α1と、下側薄肉部38bの中心角:α2は、互いに異ならされていても良い。その場合には、中心角:α1>中心角:α2、即ち、下側薄肉部38bの周方向寸法よりも上側薄肉部38aの周方向寸法の方が大きくされることが好ましい。このようにすれば、下側薄肉部38bの下眼瞼への食い込み量を小さくすることが出来ると共に、下眼瞼に比してより広範囲にコンタクトレンズ10に重なり合うと共に瞬目の際の動きも大きい上眼瞼と重なり合う上側薄肉部38aを大きく形成出来ることから、装用感の更なる向上も図られる。
一方、右側厚肉部40aおよび左側厚肉部40bは、上側薄肉部38aおよび下側薄肉部38bよりも大きな厚さ寸法をもって周辺部16の周方向の所定寸法に亘って形成されている。厚肉部40a,40bのそれぞれにおける周方向両側部分には、周方向で薄肉部38a,38bに向けて厚さ寸法が次第に小さくなる一対の移行部42、42が形成されている。そして、各移行部42における一方の周方向端部が上側薄肉部38a又は下側薄肉部38bと接続されている一方、他方の周方向端部は、厚肉部40a,40bのそれぞれにおいて最大厚さ寸法:Taを有する最大厚肉部44と接続されている。従って、厚肉部40a,40bの厚さ寸法は、周方向両側に形成された移行部42,42によって、最大厚肉部44の厚さ寸法:Taから、薄肉部38a,38bの厚さ寸法:Tcに周方向で次第に変化されている。
本実施形態において、右側厚肉部40aの最大厚さ寸法:Taと、左側厚肉部40bの最大厚さ寸法:Taは、互いに等しくされているが、互いに異ならされていても良い。そして、前記薄肉部38a,38bと同様、図4に示したように、右側厚肉部40aおよび左側厚肉部40bのそれぞれにおいても、レンズ径方向で厚さ寸法は変化している。そこにおいて、厚肉部40a,40b(エッジ部22を除く)の全体中で最大の厚さ寸法は、好適には、0.20〜0.45mmの範囲内、より好適には、0.23mm〜0.42mmの範囲内となるように設定される。厚肉部40a,40bの最大厚さ寸法を0.20mm以上に設定することによって、レンズ強度を確保すると共に、最大厚さ寸法を0.45mm以下に設定することによって、一層優れた装用感を確保することが出来る。
右側厚肉部40aおよび左側厚肉部40bの周方向上下両端縁部は、上側薄肉部38aおよび下側薄肉部38bの周方向端縁部の厚さ寸法:Tcで規定される。レンズ中心軸14回りで、右側厚肉部40aの周方向上下両端縁部間の中心角:β1、および左側厚肉部40bの周方向上下両端縁部間の中心角:β2は、それぞれ、120度〜160度の範囲内、より好適には、130度〜150度の範囲内で設定されることが好ましい。厚肉部40a,40bの中心角:β1、β2を120度以上に設定することによって、上眼瞼の押し出し作用等に基づく回転抑制効果を安定的に発揮すると共に、中心角:β1、β2を160度以下に設定することによって、薄肉部38a,38bの周方向寸法を確保して、コンタクトレンズ10の酸素透過性を確保することが出来る。
そして、厚肉部40a,40bにおける周辺部後面30には、凹部46が形成されている。凹部46は、周辺部後面30上で窪んだ凹形状をもって形成されており、周辺部後面30上に開口されている。各厚肉部40a,40bにおいて、凹部46の形成個数は限定されるものではなく、複数の凹部46を形成しても良いが、本実施形態においては、各厚肉部40a,40bのそれぞれの周方向中間部分で、最大厚肉部44,44間に跨るようにして1つ形成されている。従って、本実施形態の右側厚肉部40aと左側厚肉部40bは、それぞれ、移行部42の周方向中央側の端部が最大厚肉部44で凹部46と接続されていることによって、厚肉部40a,40bの全体が周方向で厚さ寸法の変化する移行部とされている。
凹部46は、厚肉部40a,40bの周方向断面において、装用状態の上下方向(図3中、左右方向)で対称形状を有している。本実施形態における凹部46の底面47は、深さ寸法が最も大きくなる底部48を挟む両側に、周方向の外側に行くに連れて深さ寸法が次第に小さくなる傾斜部50,50を有する両側テーパ形状とされている。
凹部46の形成部分における厚さ寸法は底部48において最も小さくされており、凹部46の形成部分における最小厚さ寸法:Tbは、薄肉部38a,38bの厚さ寸法:Tcよりも大きく設定される。これにより、コンタクトレンズ10の形状保持特性を確保することが出来る。更に、凹部46の形成部分における最小厚さ寸法:Tbは、好適には、厚肉部40a,40bの最大厚さ寸法:Taの1/2〜9/10に設定される。凹部46の形成部分における最小厚さ寸法:Tbを厚肉部40a,40bの最大厚さ寸法:Taの1/2以上に設定することによって、コンタクトレンズ10の形状安定性を確保することが出来ると共に、凹部46が過度に深くなることを回避して、後述する成形型やそれを成形するための金型の製造を容易にすることが出来る。また、凹部46の形成部分における最小厚さ寸法:Tbを厚肉部40a,40bの最大厚さ寸法:Taの9/10以下に設定することによって、凹部46の形成部分の薄肉化による酸素透過性の向上効果や装用感の向上効果を有効に得ることが出来る。
また、凹部46におけるレンズ中心軸14回りの中心角:γは、好適には、20度〜60度の範囲内、より好適には、30度〜50度の範囲内で設定される。凹部46の中心角:γを20度以上に設定することによって、凹部46の周方向長さを適当に確保して、凹部46による酸素透過性の向上効果や撓み変形を容易に生ぜしめることが出来ると共に、凹部46の中心角:γを60度以下に設定することによって、厚肉部40a,40bにおけるレンズ強度を確保することが出来る。
さらに、前述のように、厚肉部40a,40bは、それぞれ、移行部42が周方向で傾斜していることによって、移行部42において、周方向で厚さ寸法がTcからTaに(或いは、TaからTcに)次第に変化されている。移行部42の周方向の傾斜角度は、周方向の単位長さに対する厚さ寸法の変化量を表すものとして把握され、具体的には、移行部42の周方向上下両側の端縁部間の中心角:εとすると、(Ta−Tc)/εで表される。一方、厚肉部40a,40bは、それぞれ、凹部46の傾斜部50が周方向で傾斜していることによって、傾斜部50において、厚さ寸法がTaからTbに(或いは、TbからTaに)次第に変化されている。傾斜部50は凹部46の半周分であることから、傾斜部50の周方向の傾斜角度は、移行部42と同様にして、(Ta−Tb)/(γ/2)で表される。そして、凹部46における傾斜部50の周方向の傾斜角度:(Ta−Tb)/(γ/2)は、移行部42の周方向の傾斜角度:(Ta−Tc)/ε以上に設定されることが好ましい。要するに、図3において、凹部46の傾斜部50の傾きが、移行部42の傾き以上に設定されることが好ましい。このようにすれば、凹部46の周方向寸法を大きくすることなく、凹部46の深さ寸法を確保することが出来て、凹部46の形状の設計自由度を向上することが出来る。
また、本実施形態における右側厚肉部40aと左側厚肉部40bは、それぞれ、凹部46および移行部42,42を含む全体が、水平径方向線26及びレンズ光軸を含む面に関して立体の鏡面対称形状を有している。そして、これら右側厚肉部40aと左側厚肉部40bは、周方向中央部分に形成された凹部46の底部48が装用状態で水平径方向線26上に位置されるようになっており、装用状態で、右側厚肉部40aの凹部46と左側厚肉部40bの凹部46が、水平径方向線26上で互いに左右方向に対称位置されるようになっている。更に、右側厚肉部40aの中心角:β1と左側厚肉部40bの中心角:β2が互いに等しくされており、これにより、右側厚肉部40aと左側厚肉部40bは、鉛直径方向線24及びレンズ光軸を含む面に対して互いに立体の鏡面形状とされている。
なお、右側厚肉部40aの中心角:β1と、左側厚肉部40bの中心角:β2は、互いに異ならされていても良い。例えば、人眼における上下眼瞼間の対向距離は、平常の開眼状態で耳側よりも鼻側の方が小さくなる傾向にあることから、それに対応して、右側厚肉部40a又は左側厚肉部40bのうち、レンズ装用状態で鼻側に位置せしめられる方の周長(中心角)を耳側に位置せしめられる方の周長(中心角)よりも小さく設定することで、装用感や眼瞼作用による周方向位置決め精度の更なる向上を図ることも可能である。
また、一層良好な装用感を実現するために、レンズ径方向断面形状において周辺部後面30は折れ点のない滑らかな形状とされることが望ましい。より好適には、光学部後面28と周辺部後面30の接続点であるジャンクション52を含むレンズ後面20の実質的に全体に亘って、径方向において接線の傾斜角度が連続的に変化せしめられることにより、エッジ状の折れ点がなく連続した滑らかな形状とされる。
このようなコンタクトレンズ10は、右側厚肉部40aおよび左側厚肉部40bにそれぞれ凹部46を形成して、両側厚肉部40a,40bの厚さ寸法を部分的に小さくしたことによって、厚肉部40a,40bの圧迫による異物感を軽減することが出来る。特に、凹部46がレンズ後面20に開口していることから、例えば瞼裂斑に対応する位置に凹部46を形成することによって、瞼裂班の圧迫を軽減することも出来る。更に、凹部46の形成位置において両側厚肉部40a,40bの厚さ寸法が小さくされることによって、酸素透過性の向上を図ることも出来る。
また、凹部46で厚肉部40a,40bの強度を部分的に小さくしたことによって、瞬目の際にコンタクトレンズ10に上下方向で潰されるような撓み変形を生ぜしめることが出来る。この撓み変形によって、角膜上でのコンタクトレンズ10の移動量を増大することが出来て、涙液交換性を向上することが出来る。特に本実施形態によれば、右側厚肉部40aの凹部46と左側厚肉部40bの凹部46がコンタクトレンズ10の上下方向中央部分となる水平径方向線26上で左右対称に位置されていることから、撓み変形を効果的に生ぜしめることが出来る。
加えて、厚肉部40a,40bと薄肉部38a,38bの間でのレンズ剛性の偏在も軽減されて、レンズの形状保持特性を向上することが出来る。その結果、装用時に指の上でレンズが丸まってしまう等の不具合も軽減することが出来る。
そして、本実施形態におけるコンタクトレンズ10は、上下両側の薄肉部38a,38bと、左右両側の厚肉部40a,40bとによって、全体としてダブルシンタイプ形状を有している。これにより、従来のダブルシンタイプと略同等の回転抑制効果を得ることが出来る。従って、トーリックレンズ等のように光学部12の光学特性に関して特定の径方向軸が設定されているレンズに好適に採用することが出来る。
加えて、上下両側の薄肉部38a,38b、および左右両側の厚肉部40a,40bが、凹部46を含んで水平径方向線26および鉛直径方向線24の何れに関しても対称形状とされている。これにより、凹部46を上下方向および左右方向の何れの方向にもバランス良く配設して、酸素透過性を上下方向および左右方向でバランス良く向上出来ると共に、撓み変形をより安定的に生ぜしめることが出来る。それと共に、周辺部16の厚さ形状が上下方向および左右方向の何れの方向にもバランス良く設定されることによって、より優れた回転抑制効果を得ることも出来る。
なお、このような構造とされたコンタクトレンズ10は、適当な材料で予め重合成形されたブロックを直接に切削加工することで形成することも可能であるが、量産性や品質安定性を考慮すると、モールド成形や、モールド成形と切削加工の組合せによって有利に製造され得る。
具体的には、例えば、合成樹脂製の成形型を用いてコンタクトレンズ10を製造するに際しては、図5に示すように、レンズ後面20に対応した非球状凸面形状の成形面60を有する雄型62と、レンズ前面18に対応した球状凹面形状の成形面64を有する雌型66とからなる成形型を用いる。そして、これら雌雄両型62,66を相互に型合わせすることによって、両型の成形面60、64間に略密閉状の成形キャビティ68を画成する。この成形キャビティ68内で、所定の重合用モノマーを重合成形することによって、目的とするレンズ前後面18,20を備えたコンタクトレンズ10を製造する成形方法が、好適に採用され得る。
上述のように、目的とするコンタクトレンズ10は、レンズ前面18が回転体形状とされる一方、レンズ後面20が、光学部後面28および周辺部後面30を有する非回転体形状とされている。これにより、光学部12の非回転体形状と、薄肉部38a,38b,厚肉部40a,40bが、何れもレンズ後面20によって形成されるようになっている。従って、レンズ後面20の面形状を付与する雄型62の成形面60の形状を適当に設定することによって、光学部12とこれら薄肉部38a,38b,厚肉部40a,40bとの周方向の位置合わせが行われた状態の雄型62を得ることが出来て、これらの周方向位置を精度良く位置決めすることが出来る。
さらに、レンズ前面18が回転体形状とされていることから、両成形型62、66の周方向の位置合わせも不要とされる。また、例えば光学部12の円柱軸度が異ならされた複数種類のコンタクトレンズを製造するような場合にも、レンズ後面20の形状を付与する雄型62を複数種類用意することで対応することが出来、レンズ前面18の形状を付与する雌型66を共通して用いることが出来る。それ故、雌雄型62、66を形成するための金型数も大幅に削減することが出来て、目的とするコンタクトレンズ10を、良好な加工効率と精度をもって有利に製造することが出来る。
以上、本発明の実施形態について詳述してきたが、これはあくまでも例示であって、本発明は、かかる実施形態における具体的な記載によって、何等、限定的に解釈されるものではない。以下に、本発明の異なる実施形態を幾つか示すが、本発明の具体的態様が以下のものに限定されることを示すものではない。なお、以下の図6〜図9に示す各実施形態は、前記第一の実施形態に比して凹部を含む厚肉部の具体的形状が異なるのみであることから、第一の実施形態における図3に対応する図面を示し、各部の名称および符号は前記第一の実施形態と同様のものを用いて説明する。
先ず、図6に、本発明の第二の実施形態としてのコンタクトレンズを示す。本実施形態の厚肉部40には、周方向両側の移行部42,42で挟まれた周方向中央部分に、一定の厚さ寸法:Taで周方向に延びる連続部70が形成されている。連続部70の厚さ寸法:Taは厚肉部40の周方向における最大厚さ寸法とされている。そして、連続部70の周方向中央部分に、凹部72が形成されている。本実施形態によれば、連続部70で厚肉部40の厚さ寸法を確保して、より優れたレンズ形状保持特性や回転抑制効果を得ることが出来る。そして、最大の厚さ寸法を有し、酸素透過性が相対的に低い連続部70の周方向中央部分に凹部72を形成することによって、厚肉部40における酸素透過性を効果的に向上することが出来る。
なお、連続部70のレンズ中心軸14回りの中心角:Δは、好適には40度〜70度、より好適には50度〜60度の範囲内で設定される。連続部70の中心角:Δを40度以上に設定することによって、厚肉部40としての肉厚を確保して、より優れたレンズ形状保持特性や回転抑制効果を得ることが出来ると共に、連続部70の中心角:Δを70度以下に設定することによって、連続部70の圧迫による異物感を抑えることが出来る。
次に、図7に、本発明の第三の実施形態としてのコンタクトレンズを示す。本実施形態においては、厚肉部40の周方向両側における移行部42,42が、それぞれ、周方向断面形状において、薄肉部38および最大厚肉部44に対して、エッジ状の折れ点を有することなく滑らかに接続されている。これにより、装用状態における異物感をより軽減することが出来て、より優れた装用感を得ることが出来る。また、本実施形態における凹部80は、周方向断面形状において湾曲凹形状とされている。これにより、凹部80の容積をより大きく確保して、例えば瞼裂斑等への圧迫をより軽減することが出来る。なお、凹部80の底面47における周方向中央部分には、凹部80の開口方向(図7中、上方)に僅かに突出する中央突部82が形成されており、中央突部82を挟む周方向両側に、最小厚さ寸法:Tbを有する一対の底部48,48が形成されている。このように、凹部の形成部分において最小厚さ寸法を有する部分を複数箇所に形成することも可能である。
さらに、図8に、本発明の第四の実施形態としてのコンタクトレンズを示す。本実施形態においては、1つの厚肉部40に、3つの凹部90、90,90が周方向に並んで形成されている。これら凹部90,90,90は互いに略同様の形状とされている。更に、本実施形態における厚肉部40は、これら3つの凹部90,90,90を含んで、水平径方向線26に関して対称形状を有している。本実施形態から明らかなように、1つの厚肉部に複数の凹部を形成することも可能である。このようにすれば、厚肉部40における酸素透過性や瞬目に際する撓み変形量をより高度に設定することが出来る。
また、図9に、本発明の第五の実施形態としてのコンタクトレンズを示す。本実施形態の厚肉部40には、周方向中央部分に位置する凹部102と、凹部102を挟んで周方向両側に位置する一対の凹部104が形成されている。凹部102の周方向断面形状は、周方向で対称の略V字形状とされている一方、一対の凹部104の周方向断面形状は、それぞれ、周方向外側の深さ寸法に比して、周方向中央側の深さ寸法がより大きくされた、周方向で非対称の略V字形状とされている。そして、一対の凹部104の深さ寸法に比して、凹部102の深さ寸法がより大きくされており、凹部102の底部48における厚さ寸法が、凹部102,104の形成部分における最小厚さ寸法:Tbとされている。なお、本実施形態において凹部102,104の形成部分における最小厚さ寸法:Tbは、厚肉部40の最大厚さ寸法:Taの1/2よりも大きくされている。
本実施形態から明らかなように、凹部の周方向断面形状は周方向で対称形状とされているものに限定されない。なお、本実施形態における凹部102,104を一つの凹部と捉えて、水平径方向線26に関して対称形状を有する凹部と捉えることも出来る。
上述したように、上記各実施形態はあくまでも例示である。例えば、凹部の具体的形状は上述の形状に限定されるものではなく、要求される酸素透過性やレンズ動き量等を考慮して適宜に設定される。そして、上述のように、厚肉部に複数の凹部を形成する場合には、それら複数の凹部の具体的形状は、互いに同様の形状とされていても良いし、互いに異ならされても良い。更に、厚肉部に複数の凹部を形成する場合において、それら複数の凹部は装用状態の厚肉部において必ずしも上下方向に対称位置される必要は無く、装用状態で上下方向に偏倚して位置しても良い。
また、前記厚肉部において、周方向両側に形成される一対の移行部は、水平方向経線に対して対称形状を有するものに限定されるものではなく、例えば、互いの周方向寸法が異ならされていても良いし、上下両側の薄肉部の厚さ寸法が互いに異ならされる等することによって、一対の移行部のそれぞれの周方向両端部における厚さ寸法が互いに異ならされたりしても良い。
さらに、前記実施形態においては、レンズ後面を非回転体形状とすることによって、光学部および薄肉部や厚肉部を形成していたが、例えば、レンズ後面を回転体形状とする一方、レンズ前面を非回転体形状とすることによって、レンズ前面で光学部の非回転体形状および薄肉部や厚肉部を形成するなどしても良い。
また、前記実施形態における具体的な光学特性や幾何学形状等は、あくまでも例示である。本発明に従う形状のコンタクトレンズは、外径寸法(DIA.)やレンズ後面の曲率半径(ベースカーブ)、光学部の光学特性、周辺部の内外径寸法などの各値が適当に変更設定されることにより、多数のコンタクトレンズ装用者において要求される多様な光学特性や幾何形状等に対応することが出来るようにされるものであり、多くの場合には、各種設定値を適当な間隔で変更設定した複数種類を組み合わせてシリーズとして市場に提供されることとなる。
なお、本発明に従う構造とされたコンタクトレンズの有用性について、以下に示す試験体を用意して比較検討した結果を以下に示す。
先ず、図10に厚み分布で示す、第一の実施形態に従う構造とされた実施例と、従来構造に従う構造とされた比較例を用意した。実施例は、外径寸法(DIA.)=14.5mm、ベースカーブ(B.C.)=8.60mmで、図3に示したように、レンズ後面に凹部を有するものである。実施例は、レンズ中心軸から径方向外方に6.3mm離隔した周上において、厚肉部の最大厚さ寸法:Ta=0.3mm、凹部の形成部分における最小厚さ寸法:Tb=0.25mm、薄肉部の厚さ寸法:Tc=0.15mmとした。また、上側薄肉部におけるレンズ中心軸回りの中心角:α1を40度、下側薄肉部におけるレンズ中心軸回りの中心角:α2を40度、左右それぞれの厚肉部におけるレンズ中心軸回りの中心角:β1、β2をそれぞれ140度、凹部におけるレンズ中心軸回りの中心角:γを40度とした。
一方、比較例は、実施例の凹部を有さないものであり、図3中に点線で示すように、実施例において凹部に対応する部分が一定の厚さ寸法:Taで形成されたものである。従って、比較例は実施例と同一のレンズ素材から形成されており、凹部を除く上記各部の厚さ寸法や中心角の大きさは実施例と等しいものである。
先ず、本発明に従う構造とされた実施例の、比較例に対する酸素透過率の向上効果について検討した。酸素透過率はDk/Tで表される。ここにおいて、Dkはレンズ素材の酸素透過性係数((cm2 /sec)・(ml・O2 (STP)/ml・mmHg))、Tはレンズ厚さ(cm)である。実施例と比較例は同じレンズ素材で形成されていることから、Dk値は互いに等しい。従って、実施例において凹部の形成部分における最小厚さ寸法を有する部位の酸素透過率と、比較例においてこれに対応する部位の酸素透過率との比は、厚さ寸法の比で決定されることとなり、比較例:実施例=0.3mm:0.25mm=1:0.83であることから、本発明によれば、凹部形成部位において、凹部を有さない従来構造に比して酸素透過率を17%程度向上することが出来る。
次に、実施例および比較例のコンタクトレンズを、17名34眼に装用させて、垂直方向の動き量を測定したところ、比較例の平均値が0.23mmであったのに対して、実施例の平均値は0.38mmであった。これにより、本発明に従う構造とされたコンタクトレンズによれば、装用状態における垂直方向のレンズ動き量が増大されて、涙液交換性が高められることが確認された。
さらに、実施例および比較例のコンタクトレンズを、15名30眼に装用させて、装用感について調査した結果を、表1に示す。表1から明らかなように、本発明に従う構造とされたコンタクトレンズによれば、比較例よりも優れた装用感が得られることが確認された。