JPWO2007097109A1 - 抗関節リウマチ活性を有する物質のスクリーニング方法及び評価方法 - Google Patents

抗関節リウマチ活性を有する物質のスクリーニング方法及び評価方法 Download PDF

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Abstract

本発明の目的は、被験物質の抗関節リウマチ活性を効率的に評価する方法、及び、該方法を利用して、抗関節リウマチ活性を有する物質、中でも、関節リウマチにおける関節破壊を治療又は予防可能な、優れた関節リウマチ治療薬又は予防薬の候補物質を、効率的にスクリーニングする方法を提供することにある。即ち、本発明は、被験物質の抗関節リウマチ活性を評価する方法であって、(a)サイクリン依存性キナーゼに対する被験物質の結合能力を検出する工程、及び(b)関節組織の破壊を誘導する生命現象に対する被験物質の抑制作用を検出する工程、を含む方法、並びに該方法を利用したスクリーニング方法に関する。

Description

本発明は、被験物質の抗関節リウマチ活性を評価する方法、及び、該方法を利用して、抗関節リウマチ活性を有する物質をスクリーニングする方法に関する。
関節リウマチは、その原因は未だ明らかではないが、遺伝因子や、感染、その他の環境因子などが契機となって、関節の組織に炎症が起こり、関節が腫れて痛む疾患である。その症状が進行すると、罹患関節の軟骨や硬骨は破壊され、手足の関節の変形や機能障害を引き起こす。この関節リウマチに罹患した関節の滑膜組織では、リンパ球やマクロファージなどの炎症細胞が浸潤し、腫瘍壊死因子(TNFα)やインターロイキン(IL)−1、IL−6などの様々な炎症性サイトカインが大量に産生されて、炎症が起こる。そして、これらの炎症性サイトカインにより、更に、関節の滑膜組織を形成する滑膜線維芽細胞(RSF)が活性化され、過度の増殖が引き起こされる。この異常増殖した滑膜線維芽細胞により、パンヌスと呼ばれる肉芽腫性滑膜組織が形成され、罹患関節の軟骨や硬骨の破壊が導かれる。また、この異常増殖した滑膜線維芽細胞により、MMP−3などの多くの関節破壊関連因子が産生され、また、破骨細胞が活性化されて、骨基質の吸収が促進される。これらの様々な事象により、罹患関節の軟骨及び硬骨の破壊がもたらされる。
従来より、関節リウマチ治療薬としては、例えば、メトトレキサート、ブシラミン、金製剤や、インフリキシマブ、エタネルセプト等のサイトカイン阻害薬などが知られている。これらの治療薬は、関節リウマチの治療において有効に使用されてきている。
しかしながら、これらの従来の治療薬は、そのほとんどが関節リウマチにおける炎症症状の改善を対象としたものであり、効果が充分得られないことも多く、対象とした炎症因子の抑制が他の炎症因子の活性化を促すことにより治療効果が不完全となったり、治療効果が長続きしないなどという欠点も有しており、全ての患者において十分な、関節リウマチの根治的な治療薬であるとは言い難いものであった。
そこで、近年、滑膜線維芽細胞の増殖を抑制することによって、関節リウマチにおける軟骨や硬骨の破壊を治療又は予防する試みがなされている。例えば、サイクリン依存性キナーゼインヒビター(CDKI)の一種であるp16INK4a又はp21Cip1を滑膜組織に強制発現させ、CDK4のリン酸化活性を阻害したところ、滑膜線維芽細胞の増殖が抑制され、これが関節リウマチ動物モデルの治療に有効であったことが報告されている(例えば、非特許文献1〜3参照)。
ところが、この報告後、サイクリン依存性キナーゼインヒビターがサイクリン依存性キナーゼ抑制を介さずに炎症性サイトカインなどを抑制することが報告された(非特許文献4)。
このため、抗関節リウマチ活性において、実際は、サイクリン依存性キナーゼの抑制が有効であるのか、それともサイクリン依存性キナーゼインヒビターによる直接の炎症抑制作用が有効であるのかが、依然として不明であった。
Taniguchiら;Nat Med.1999;5:760−767 Nasu;J Immunol.2000;165:7246−7252 Nonomura;Int Immunol.2001;13:723−731 Nonomuraら;J Immunol.2003;171(9):4913−4919
本発明は、従来の関節リウマチ治療における前記諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、被験物質の抗関節リウマチ活性を効率的に評価する方法、及び、該方法を利用して、抗関節リウマチ活性を有する物質、中でも、関節リウマチにおける関節破壊を治療又は予防可能な、優れた関節リウマチ治療薬又は予防薬の候補物質を、効率的にスクリーニングする方法を提供することを目的とする。
前記課題を解決するため、本発明者らは、関節リウマチにおける関節破壊に着目し、鋭意検討を重ねた結果、以下のような知見を得た。即ち、抗関節リウマチ活性において、サイクリン依存性キナーゼインヒビターによる直接の炎症抑制作用のみならず、サイクリン依存性キナーゼの抑制が有効であるという知見である。この知見により、関節リウマチにおける関節破壊を誘導する様々な生命現象が、サイクリン依存性キナーゼの働きによって直接的に制御されていることが明らかとなり、サイクリン依存性キナーゼの働きを抑制し、かつ、関節破壊を誘導する生命現象を抑制することのできる物質を探索することによって、関節リウマチの優れた治療薬又は予防薬となり得る物質をより効率的にスクリーニングすることが可能となった。
更に、関節破壊を誘導する様々な生命現象は、必ずしも同一の経路によらず、それぞれが互いに異なる経路を介してサイクリン依存性キナーゼによる制御を受けており、このような制御経路の異なりを利用して、関節破壊を誘導する様々な生命現象のうち、所望の生命現象を所望の度合いで抑制することのできる物質を探索することによって、関節リウマチに対して所望の治療又は予防効果を有する物質をより効率的にスクリーニングし得るという知見である。
例えば、関節破壊を誘導する様々な生命現象の一例として、滑膜線維芽細胞の増殖やMMP−3の遺伝子発現などが挙げられるが、これらのうち、MMP−3の遺伝子発現は抑制するが滑膜線維芽細胞の増殖は抑制しないような物質を選択すれば、関節破壊に対して治療又は予防効果を有する一方で、正常な細胞増殖まで停止させてしまうなどの副作用の危険性の少ない、安全性の高い物質を選択することが可能となる。
一方、MMP−3の遺伝子発現及び滑膜線維芽細胞の増殖の双方を抑制するような物質を選択すれば、滑膜線維芽細胞の異常増殖が原因となる関節破壊に対して、より強い治療又は予防効果が期待できる物質を選択することが可能となる。
本発明者らは、被験物質が有する、サイクリン依存性キナーゼの働きに対する抑制作用と、関節破壊を誘導する様々な生命現象に対する抑制作用のバランスとを様々に検討することによって、所望の治療又は予防効果を有する、優れた関節リウマチ治療薬又は予防薬の候補物質を、効率的にスクリーニングできる可能性を見出し、本発明の完成に至った。
本発明は、本発明者らの前記知見に基づくものであり、前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> 被験物質の抗関節リウマチ活性を評価する方法であって、
(a)サイクリン依存性キナーゼに対する被験物質の結合能力を検出する工程、及び
(b)関節組織の破壊を誘導する生命現象に対する被験物質の抑制作用を検出する工程、を含むことを特徴とする方法である。
<2> サイクリン依存性キナーゼがCDK4及びCDK6の少なくともいずれかである<1>に記載の方法である。
<3> 関節組織の破壊が軟骨組織の破壊である<1>から<2>のいずれかに記載の方法である。
<4> 関節組織の破壊を誘導する生命現象が遺伝子発現である<3>に記載の方法である。
<5> 関節組織の破壊を誘導する生命現象が滑膜線維芽細胞におけるMMP−3の遺伝子発現である<3>に記載の方法である。
<6> 関節組織の破壊を誘導する生命現象が滑膜線維芽細胞の増殖である<3>に記載の方法である。
<7> 被験物質の抗関節リウマチ活性を評価する方法であって、
(a)サイクリン依存性キナーゼに対する被験物質の結合能力を検出する工程、
(b)滑膜線維芽細胞におけるMMP−3の遺伝子発現に対する被験物質の抑制作用を検出する工程、及び
(c)滑膜線維芽細胞の増殖に対する被験物質の抑制作用を検出する工程、
を含むことを特徴とする方法である。
<8> 関節組織の破壊が硬骨組織の破壊である<1>から<2>のいずれかに記載の方法である。
<9> 関節組織の破壊を誘導する生命現象が遺伝子発現である<8>に記載の方法である。
<10> 関節組織の破壊を誘導する生命現象が破骨前駆細胞におけるNFATc1の遺伝子発現である<8>に記載の方法である。
<11> 関節組織の破壊を誘導する生命現象が破骨前駆細胞から破骨細胞への分化である<8>に記載の方法である。
<12> 関節組織の破壊を誘導する生命現象が破骨前駆細胞の増殖である<8>に記載の方法である。
<13> 被験物質の抗関節リウマチ活性を評価する方法であって、
(a)サイクリン依存性キナーゼに対する被験物質の結合能力を検出する工程、
(b)破骨前駆細胞におけるNFATc1の遺伝子発現に対する被験物質の抑制作用を検出する工程、及び
(c)破骨前駆細胞の増殖に対する被験物質の抑制作用を検出する工程、
を含むことを特徴とする方法である。
<14> 被験物質の抗関節リウマチ活性を評価する方法であって、
(a)サイクリン依存性キナーゼに対する被験物質の結合能力を検出する工程、及び
(b)破骨前駆細胞の増殖及び破骨細胞への分化に対する被験物質の抑制作用を検出する工程、
を含むことを特徴とする方法である。
<15> 抗関節リウマチ活性を有する物質のスクリーニング方法であって、
(A)<1>から<14>のいずれかに記載の方法により、被験物質の抗関節リウマチ活性を評価する工程、及び
(B)工程(A)において抗関節リウマチ活性を有すると評価された被験物質を選択する工程、を含むことを特徴とする方法である。
本発明によれば、前記従来の関節リウマチ治療における諸問題を解決し、前記目的を達成することができ、被験物質の抗関節リウマチ活性を効率的に評価する方法、及び、該方法を利用して、抗関節リウマチ活性を有する物質、中でも、関節リウマチにおける関節破壊を治療又は予防可能な、優れた関節リウマチ治療薬又は予防薬の候補物質を、効率的にスクリーニングする方法を提供することができる。
図1Aは、p16INK4aのRSF細胞増殖に対する抑制作用を、H−チミジン取り込みにより調べた結果を示すグラフである。 図1Bは、p16INK4aのRSF細胞増殖に対する抑制作用を、フローサイトメトリーにより調べた結果を示す表である。 図1Cは、p16INK4aのMMP−3及びMCP−1タンパク質発現に対する抑制作用を、ELISAにより調べた結果を示すグラフである。 図1Dは、p16INK4a又はp21Cip1のMIP−3及びIL−6タンパク質発現に対する抑制作用を、ELISAにより調べた結果を示すグラフである。 図1Eは、p16INK4a、CDK4I、又は活性型Rbの、MMP−3mRNA発現に対する抑制作用を、PCRにより調べた結果を示すグラフである。 図1Fは、p16INK4a、CDK4I、又は活性型Rbの、MCP−1mRNA発現に対する抑制作用を、PCRにより調べた結果を示すグラフである。 図1Gは、p16INK4a又はp21Cip1の、IL−1R1mRNA発現に対する抑制作用を、PCRにより調べた結果を示すグラフである。 図1Hは、p16INK4a、p18INK4c又はp21Cip1の、JNKに対する結合を、免疫沈降及びウエスタンブロットにより調べた結果を示すブロット像である。 図2Aは、p18INK4cのRSF細胞増殖に対する抑制作用を、H−チミジン取り込みにより調べた結果を示すグラフである。 図2Bは、p18INK4cのRSF細胞増殖に対する抑制作用を、フローサイトメトリーにより調べた結果を示す表である。 図2Cは、p18INK4cのMMP−3及びMCP−1タンパク質発現に対する抑制作用を、ELISAにより調べた結果を示すグラフである。 図3Aは、CDK4IのRSF細胞増殖に対する抑制作用を、H−チミジン取り込みにより調べた結果を示すグラフである。 図3Bは、CDK4IのRSF細胞増殖に対する抑制作用を、フローサイトメトリーにより調べた結果を示す表である。 図3Cは、CDK4IのMMP−3及びMCP−1タンパク質発現に対する抑制作用を、ELISAにより調べた結果を示すグラフである。 図4Aは、活性型RbのRSF細胞増殖に対する抑制作用を、H−チミジン取り込みにより調べた結果を示すグラフである。 図4Bは、活性型RbのRSF細胞増殖に対する抑制作用を、フローサイトメトリーにより調べた結果を示す表である。 図4Cは、活性型RbのMMP−3及びMCP−1タンパク質発現に対する抑制作用を、ELISAにより調べた結果を示すグラフである。 図5Aは、CDK4Iの、骨髄細胞から破骨細胞への分化に対する抑制作用を、組織学的に観察した結果を示す図である。 図5Bは、CDK4Iの、骨髄細胞から破骨細胞への分化に対する抑制作用を、細胞数測定により評価した結果を示すグラフである。 図6は、CDK4Iの、骨髄細胞から破骨細胞への分化における細胞増殖に対する抑制作用を、細胞数測定により評価した結果を示すグラフである。 図7Aは、CDK4Iの、RAW264.7細胞から破骨細胞への分化に対する抑制作用を、組織学的に観察した結果を示す図である。 図7Bは、CDK4Iの、RAW264.7細胞から破骨細胞への分化に対する抑制作用を、細胞数測定により評価した結果を示すグラフである。 図8Aは、CDK4IのNFATc1mRNA発現に対する抑制作用を、PCRにより調べた結果を示すグラフである。 図8Bは、CDK4IのTRAPmRNA発現に対する抑制作用を、PCRにより調べた結果を示すグラフである。 図8Cは、CDK4IのOSCARmRNA発現に対する抑制作用を、PCRにより調べた結果を示すグラフである。 図9Aは、サイクリンD1及びCDK4を共導入した場合の、RSF細胞増殖に対する作用を、H−チミジン取り込みにより調べた結果を示すグラフである。 図9Bは、サイクリンD1及びCDK4を共導入した場合の、RSF細胞増殖に対する作用を、フローサイトメトリーにより調べた結果を示す表である。 図9Cは、サイクリンD1及びCDK4を共導入した場合の、MMP−3タンパク質発現に対する作用を、ELISAにより調べた結果を示すグラフである。 図10は、CDKを介した関節破壊に関連する生命現象の多様な制御経路の一部を表す経路図である。
(評価方法)
本発明の、被験物質の抗関節リウマチ活性を評価する方法は、
(a)サイクリン依存性キナーゼに対する被験物質の結合能力を検出する工程、及び
(b)関節組織の破壊を誘導する生命現象に対する被験物質の抑制作用を検出する工程、を含み、必要に応じて更にその他の工程を含む。
<被験物質>
前記被験物質としては、抗関節リウマチ活性の評価対象となり得る物質であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、低分子化合物、核酸、ポリペプチドなどが挙げられる。前記低分子化合物、核酸、ポリペプチドなどは、天然物から抽出及び精製されたものであってもよく、人工的に合成されたものであってもよい。また、精製されたものに限らず、例えば、未精製の細胞抽出液などであっても、前記被験物質として使用することができる。本発明では、これらの中でも、前記被験物質を、関節リウマチの治療薬又は予防薬として適用することを考慮した場合、前記被験物質は低分子化合物であることが好ましい。前記被験物質としては、新規な物質に限らず、公知の物質やその改良物であってもよい。例えば、新規な抗関節リウマチ治療薬や予防薬の開発のため、既存の治療薬又は予防薬やその誘導体につき、本発明の方法により、抗関節リウマチ活性を評価することができる。また、既知のサイクリン依存性キナーゼインヒビター(CDKI)や、それらを改良したものなどを使用することもできる。ここで、前記CDKIとは、サイクリン依存性キナーゼのキナーゼ活性を阻害する細胞内タンパク質群であり、例えば、CDK4及び/又はCDK6を特異的に阻害することが知られている、p15INK4b、p16INK4a、p18INK4c、p19INK4d等のINK4ファミリー・タンパク質、全てのCDKを阻害することが知られている、p21Cip1、p27Kip1、p57Kip2等のCip/Kipファミリー・タンパク質などが挙げられる(例えば、Sherrraら;Genes Dev.1999;13:1501−1512参照)。
<(a)工程>
前記(a)工程では、サイクリン依存性キナーゼに対する被験物質の結合能力を検出する。
前記サイクリン依存性キナーゼ(以下、CDKと称することがある)としては、関節リウマチにおける関節組織の破壊を誘導する生命現象に関与し得るものであれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、CDK4(配列番号:1〜配列番号:4参照、以下同様;なお、配列番号:1中、「n」はa、t、g、及びcのいずれかを表す)、CDK6(配列番号:5〜配列番号:8参照、以下同様)などが好ましい。
前記CDKに対する被験物質の結合能力の検出方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、直接的に前記CDKと被験物質との結合の有無を調べることができる方法として、Biacoreシステム(Biacore社)を用いた方法;QCM(Quarts Crystal Microbalance:水晶振動子)を用いた方法;アフィニティークロマトグラフィーを用いた方法;電気化学測定を用いた方法;ELISA法;質量分析法;などが挙げられる。
前記Biacoreシステム(Biacore社)とは、物質間の相互作用を、結合特異性、相互作用の速度、アフィニティーなどの観点から解析できるシステムであり、例えば、センサー表面にCDKを固定化して該システムを使用することにより、被験物質とCDKとの結合の有無を判断することができる。
前記QCMとは、水晶振動子の電極表面に物質が付着すると、その質量に応じて共振周波数が変動する(下がる)性質を利用した、極めて微量な質量変化を計測することの可能な質量センサーであり、例えば、CDKを電極上に固定化して該センサーを使用することにより、被験物質のCDKに対する結合量の重さを、リアルタイムに検出することができ、被験物質とCDKとの結合の有無を判断することができる。
前記アフィニティークロマトグラフィーは、分子等の分離に使用されるクロマトグラフィー法の応用であり、例えば、クロマトグラフィーのカラムに詰める担体表面にCDKを固定化し、そこに被験物質を流すことにより、被験物質のCDKに対する結合性の差を利用して、CDKに結合する被験物質を分離することができる。これにより、被験物質とCDKとの結合の有無を判断することができる。
前記電気化学測定は、リガンドを電極上に固定化して、物質の結合を別に加えた酸化還元種の電機化学応答によって検出する方法であり、例えば、CDKを電極上に固定化して、被験物質と、酸化還元種を加えることにより使用する。被験物質がCDKと結合する場合は、それらの結合物が電極表面を覆うため、酸化還元種が電極に物理的に近づくことができず、電気化学応答が下がることから、被験物質とCDKとの結合の有無を判断することができる。
また、前記サイクリン依存性キナーゼに対する被験物質の結合能力は、前記したようなサイクリン依存性キナーゼと被験物質との結合の有無を直接的に調べる方法のみに制限されず、サイクリン依存性キナーゼのリン酸化作用に対する被験物質の抑制作用を調べる方法によって、間接的に検出することもできる。
サイクリン依存性キナーゼは、細胞周期の進行にあたり、サイクリンと複合体を形成することによって活性化し、網膜芽細胞腫遺伝子産物(Rb;配列番号:9〜配列番号:12参照、以下同様)や他の関連するタンパク質をリン酸化する。Rbのリン酸化により、E2F転写因子の転写活性を阻害しているRbの機能は不活化されて、細胞周期が進行することが知られている。
したがって、サイクリン依存性キナーゼのリン酸化作用に対する被験物質の抑制作用は、サイクリン依存性キナーゼの基質であるRbや、そのミミックなどのリン酸化状態を調べることにより検出することができる。
CDKの基質であるRbやそのミミックなどのリン酸化状態を調べる方法としては、例えば、被験物物質の存在下で、RPPTLSPIPHIPR(配列番号:51)などの合成ペプチドと、組換え技術を用いて作成したCDK4やCDK6タンパクとを、Tris−HCl(pH7.4)、10mmol/L MgCl、4.5mmol/L 2−メルカプトエタノール、1mmol/L EGTA、50μmol/L ATP、及び、1μCi(37kBq)γ−33P ATPとともに反応させること、などが挙げられる。被験物質の非存在下と比較して、被験物質の存在下では、前記合成ペプチドのリン酸化が抑制されるという結果が得られた場合、被験物質はCDKの基質のリン酸化に対して抑制能力を有していると判断することができ、即ち、被験物質がCDKに対して結合能力を有すると判定することができる。
前記(a)工程においては、前記CDKに対する被験物質の結合能力を検出する方法のうち、1種のみを行ってもよいし、2種以上を行ってもよい。なお、2種以上の方法を行う場合、必ずしも選択した全ての方法において被験物質がCDKに対する結合能力を示す結果となる必要はなく、選択した中で、少なくとも1種の方法において被験物質がCDKに対する結合能力を有するという結果であれば、前記被験物質はCDKに対する結合能力を有すると判定することができる。
<(b)工程>
前記(b)工程では、関節組織の破壊を誘導する生命現象に対する被験物質の抑制作用を検出する。
−関節組織の破壊を誘導する生命現象−
前記関節組織の破壊を誘導する生命現象としては、関節組織の破壊に関連して生体内で起こり得る現象であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば以下に示すような、軟骨組織及び硬骨組織の少なくともいずれかの破壊に関連する任意の現象が挙げられる。
なお、前記関節組織の破壊を誘導する生命現象を、便宜的に軟骨組織及び硬骨組織の場合に分け、以下、順に説明をするが、生体内において互いの生命現象は複雑に関連し合っており、関節組織の破壊は、軟骨組織及び硬骨組織を含む、全体として進行する。したがって、前記(b)工程においては、後述する軟骨組織及び硬骨組織の少なくともいずれかの破壊を誘導する生命現象に対する被験物質の抑制作用を検出することによって、全体としての関節組織の破壊を誘導する生命現象に対する被験物質の抑制作用を検出することができる。
――軟骨組織の破壊を誘導する生命現象――
関節リウマチにおける軟骨組織の破壊は、例えば、以下のようにして引き起こされることが知られている。関節リウマチが進行した関節の滑膜組織では、リンパ球やマクロファージなどの炎症細胞が浸潤し、様々な炎症性サイトカインを産生する。これらの炎症性サイトカインにより、滑膜組織を形成する滑膜線維芽細胞(RSF)は活性化され、過剰に増殖する。この異常増殖した滑膜線維芽細胞が、パンヌスと呼ばれる増殖性肉芽腫性滑膜組織を形成することにより、罹患関節の軟骨の破壊が引き起こされる。また、この異常増殖した滑膜線維芽細胞は、マトリクス・メタロプロテイナーゼ(MMP)−3(配列番号:17〜配列番号:20参照、以下同様)、単球走化性タンパク質(MCP)−1(配列番号:13〜配列番号:16参照、以下同様)などの関節破壊関連因子を産生する。これらの関節破壊関連因子の働きによっても、罹患関節の軟骨組織の破壊は促進される。
マトリクス・メタロプロテイナーゼ(MMP)−3とは、プロテオグリカン、ゲラチン、フィブロネクチン、及びコラーゲンを分解する組織分解プロテイナーゼである。MMP−3は、他のMMPを活性化する機能も有しており、関節リウマチに罹患した関節での組織分解酵素カスケードにおける主要プロテイナーゼとして知られている(例えば、Okada;In Ruddyら;Textbook of Rheumatology.6th.Philadelphia:W.B.Saunders;2001.55−72、Tolboomら;Ann Rheum Dis、2002;61:975−980、及び、Nagase;Biol Chem、1997;378:151−160参照)。更に、MMP−3は関節リウマチ動物モデルにおいてもその発現が必須である(例えば、van Meursら;Arthritis Rheum、1999;42:2074−2084参照)。MMP−3により活性化されたプロテイナーゼを抑制するMMPインヒビターは、他の関節リウマチモデルの関節破壊を予防することが報告されている(例えば、Hamadaら;Br J Pharmacol、2000;131:1513−1520、Ishikawaら;Eur J Pharmacol、2005;508:239−247.Epub 2005 Jan 2012、及び、Lewisら;Br J Pharmacol、1997;121:540−546参照)。
また、単球走化性タンパク質(MCP)−1は、リウマチ性滑膜組織のリンパ球やマクロファージの遊走や活性化を起こすことが知られている(例えば、Kochら;J Clin Invest、1992;90:772−779参照)。MCP−1アンタゴニストの投与は、関節リウマチ動物モデルの治療に有効であったことが報告されている(例えば、Gongら;J Exp Med、1997;186:131−137参照)。
即ち、これらMMP−3、MCP−1などの関節破壊関連因子は、関節リウマチにおいて重要な役割を果たす。
したがって、前記軟骨組織の破壊を誘導する生命現象としては、特に制限はなく、例えば、リンパ球やマクロファージなどの炎症細胞の組織浸潤、炎症性サイトカインの産生、滑膜線維芽細胞の増殖、パンヌスの形成、MMP−3、MCP−1等の関節破壊関連因子の遺伝子発現、などが挙げられる。
―――関節破壊関連因子の遺伝子発現に対する被験物質の抑制作用の検出方法―――
MMP−3やMCP−1などの関節破壊関連因子の遺伝子発現に対する、被験物質の抑制作用の検出方法としては、特に制限はなく、公知の方法の中から目的に応じて適宜選択することができ、例えば、各種PCR法(半定量的PCR法、定量的PCR法、リアルタイムPCR法など)、ノーザンブロット法、in situ ハイブリダイゼーション法、ELISA法、ウエスタンブロット法等を用いて、被験物質の存在下で培養した滑膜線維芽細胞における、関節破壊関連因子の遺伝子発現量を検出する方法、などが挙げられる。
なお、遺伝子発現とは、mRNA発現及びタンパク質発現の少なくともいずれかを指すものとする。例えば、前記した方法の中では、各種PCR法、ノーザンブロット法、in situ ハイブリダイゼーション法により、mRNAレベルでの遺伝子発現量を検出することができ、ELISA法、ウエスタンブロット法により、タンパク質レベルでの遺伝子発現量を検出することができる。
なお、前記検出を「被験物質の存在下」で行うには、前記検出時に、被験物質が標的(ここでは、滑膜線維芽細胞)に作用し得る状態にあれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、滑膜線維芽細胞の培養液中に被験物質を添加することにより、被験物質を滑膜線維芽細胞に作用させることができる。また、被験物質遺伝子をアデノウイルスに組み込み、該アデノウイルスを滑膜線維芽細胞に感染させることによって、被験物質を滑膜線維芽細胞に導入することもできる。
また、前記検出における被験物質の使用量としては、特に制限はなく、被験物質の種類、検出方法の種類、被験物質の最終的な使用目的などを考慮して、適宜選択することができる。
本明細書中において、「被験物質の存在下」という場合は上記と同義である。
前記したような、MMP−3やMCP−1などの関節破壊関連因子の遺伝子発現に対する被験物質の抑制作用の検出を行った場合、具体的には、被験物質の存在下での関節破壊関連因子の遺伝子発現量が、被験物質の非存在下での関節破壊関連因子の遺伝子発現量に対して低ければ、被験物質が、選択された関節破壊関連因子の遺伝子発現に対して抑制作用を有すると判定することができる。
―――滑膜線維芽細胞の増殖に対する被験物質の抑制作用の検出方法―――
前記滑膜線維芽細胞の増殖に対する被験物質の抑制作用の検出方法としても、特に制限はなく、公知の方法の中から目的に応じて適宜選択することができ、例えば、被験物質の存在下で培養した滑膜線維芽細胞について、G0/G1期からS期への細胞周期の進行度合いを、H−チミジン取り込み量の測定、フローサイトメトリー等によって調べる方法などが挙げられる。
前記滑膜線維芽細胞の増殖に対する被験物質の抑制作用を、前記H−チミジン取り込み量の測定により調べた場合、具体的には、被験物質の存在下でのH−チミジン取り込み量が、被験物質での非存在下でのH−チミジン取り込み量に対して低ければ、被験物質が、滑膜線維芽細胞の増殖に対して抑制作用を有していると判定することができる。
また、前記滑膜線維芽細胞の増殖に対する被験物質の抑制作用の検出を、前記フローサイトメトリーにより行った場合、具体的には、被験物質の存在下での、全細胞中におけるS期以降(G2期、M期を含む)の細胞の割合が、被験物質の非存在下での同割合に対して低ければ、被験物質が、滑膜線維芽細胞の増殖に対して抑制作用を有していると判定することができる。
―――軟骨組織における有用な検出態様―――
軟骨組織の破壊を誘導する生命現象に対する被験物質の抑制作用を検出する場合、前記した方法の中でも、関節破壊関連因子の遺伝子発現(mRNA発現及び/又はタンパク質発現)を調べることが好ましく、中でも、以下の点から、MMP−3の遺伝子発現を調べることがより好ましい。
本発明者らは、関節リウマチにおける関節破壊を誘導する様々な生命現象がサイクリン依存性キナーゼの働きによって直接的に制御されていることを見出し、更に、これらの様々な生命現象が、様々な経路を介して制御されている可能性を見出した。中でも、本発明者らは、後述の実施例においても示される通り、MMP−3のmRNA発現と、滑膜線維芽細胞の増殖とは、それぞれ異なる経路を介して、CDKによる制御をうけている可能性を見出した。
CDKは、サイクリンと複合体を形成して、網膜芽細胞腫遺伝子産物(Rb)をリン酸化する働きを有する。Rbがリン酸化され、不活性化されると、細胞周期の進行に働くE2F転写因子の抑制は解除され、細胞周期が進行する。すなわち、Rbが活性化すれば、細胞周期の進行は抑制される。
本発明者らの実験において、このRbの活性型である非リン酸化Rbを滑膜線維芽細胞において過剰発現させたところ、細胞周期の進行は抑制され、かつ、MMP−3のタンパク質発現量は低下したが、MMP−3のmRNA発現量は変化しない、という結果が得られた。
一方、サイクリン依存性キナーゼインヒビター(CDKI)を滑膜線維芽細胞に導入し、CDKの働きを阻害させたところ、MMP−3のタンパク質発現量が低下した点においてはRbの過剰発現の場合と同様であったが、MMP−3のmRNA発現量も低下するという点において、Rbの過剰発現の場合とは異なる結果が得られた。
これらの結果から、MMP−3のmRNA発現は、従来知られているCDKの基質であるRbを介した経路以外の経路により、CDKによる発現制御を受けていることが見出された。この経路はRbを介さないため、Rbの不活性化が重要な役割を果たす細胞周期の進行を抑制することなしに、MMP−3の発現量のみを低下させることができると考えられる。
このように、本発明の評価方法における工程(b)の「関節組織の破壊を誘導する様々な生命現象」は、上記MMP−3の発現と滑膜線維芽細胞の増殖の例から明らかなように、それぞれ独立性を有しうるものである。したがって、本発明の評価方法における工程(b)においては、技術の本質に反しない限り、関節組織の破壊を誘導する様々な生命現象のうち、複数を組み合わせて検出してもよい。
例えば、MMP−3の発現と滑膜線維芽細胞の増殖の双方を検出した場合において、被験物質が、MMP−3のmRNA発現に対しては抑制作用を有し、滑膜線維芽細胞増殖に対しては抑制作用を有しないという結果が得られた場合、このような被験物質は、細胞増殖を抑制することなしに、関節の破壊を抑制する効果が期待できる。このため、正常な細胞増殖まで抑制してしまうなどといった副作用の危険性の少ない、安全性の高い、関節リウマチ治療薬又は予防薬の候補物質として評価することができる。このような候補物質は、例えば、副作用を引き起こすリスクの高い関節リウマチ患者の治療に対して、有用であることが期待される。
一方、被験物質が、MMP−3のmRNA発現に対しても、滑膜線維芽細胞増殖に対しても抑制作用を有する場合、このような被験物質は、滑膜線維芽細胞の過剰増殖が引き起こす関節破壊に対しても、強い効果を有する、関節リウマチ治療薬又は予防薬の候補物質であるとして、評価することができる。
このようなことから、軟骨組織の破壊を誘導する生命現象に対する被験物質の抑制作用を検出する場合において、MMP−3の遺伝子発現を調べることは有意である。中でも、MMP−3のmRNA発現を調べることは有用であり、MMP−3のmRNA発現と併せ、滑膜線維芽細胞増殖の抑制の有無を調べることもまた、有意である。
また、MMP−3に限らず、他の組織分解プロテイナーゼも、MMP−3と同様な経路(Rb非依存的経路)を介して制御されている可能性が高い。一方、後述する実施例にも示されるように、MCP−1はRbを介した経路(Rb依存的経路)により制御されていることが示されており、このようなことからも、関節破壊を誘導する様々な生命現象は、それぞれが互いに多様な経路によりCDKによる制御を受けていることがわかる。
――硬骨組織の破壊を誘導する生命現象――
関節リウマチにおける硬骨組織の破壊は、例えば、前記した軟骨組織の破壊と同様なメカニズムを経て、引き起こされ得る。即ち、関節リウマチが進行した関節の滑膜組織においては、リンパ球やマクロファージなどの炎症細胞が浸潤し、様々な炎症性サイトカインを産生する。これらの炎症性サイトカインにより、滑膜組織を形成する滑膜線維芽細胞は活性化され、過剰に増殖する。この異常増殖した滑膜線維芽細胞が、パンヌスと呼ばれる増殖性肉芽腫性滑膜組織を形成することによって、前記軟骨と同様に、罹患関節の硬骨も破壊される。また、これらの異常増殖した滑膜線維芽細胞が産生する破骨細胞分化誘導因子(RANKL)の作用により、骨髄細胞などの破骨前駆細胞は、過度に破骨細胞へと分化誘導される。この破骨細胞の活性化により、硬骨組織の破壊は促進される。この破骨前駆細胞から破骨細胞への分化には、活性化T細胞核内因子c1(NFATc1:nuclear factor of activated T cells c1)(配列番号:21〜配列番号:34参照、以下同様)がマスター分子として機能していることが知られている。また、破骨細胞に特異的な因子として、例えば、破骨細胞関連受容体(OSCAR:osteoclast−associated receptor)(配列番号:39〜配列番号:50参照、以下同様)、酒石酸抵抗性酸ホスファターゼ(TRAP:tartrate−resistant acid phosphatase)(配列番号:35〜配列番号:38参照、以下同様)などが知られている。
したがって、前記硬骨組織の破壊を誘導する生命現象としては、特に制限されるものではないが、例えば、前記軟骨組織の場合と同様の生命現象の他、骨髄細胞などの破骨前駆細胞の増殖、破骨前駆細胞から破骨細胞への分化、NFATc1、OSCAR、TRAP等の破骨細胞関連因子の遺伝子発現、などが挙げられる。
なお、破骨前駆細胞とは、破骨細胞へと分化し得る可能性のある細胞全てを指すものとし、骨髄細胞も含まれるものとする。
―――破骨細胞関連因子の遺伝子発現に対する被験物質の抑制作用の検出方法―――
前記したNFATc1、OSCAR、TRAP等の破骨細胞関連因子の遺伝子発現に対する被験物質の抑制作用の検出方法としては、特に制限はなく、公知の方法の中から目的に応じて適宜選択することができ、例えば、各種PCR法(半定量的PCR法、定量的PCR法、リアルタイムPCR法など)、ノーザンブロット法、in situ ハイブリダイゼーション法、ELISA法、ウエスタンブロット法等を用いて、被験物質の存在下で培養された破骨前駆細胞又は破骨細胞における各因子の遺伝子発現量を検出する方法、などが挙げられる。
前記破骨細胞関連因子の遺伝子発現に対する被験物質の抑制作用の検出を、遺伝子発現量の検出により行った場合、具体的には、被験物質の存在下での破骨細胞関連因子の遺伝子発現量が、被験物質の非存在下での破骨細胞関連因子の遺伝子発現量に対して低いとき、被験物質が、選択された破骨細胞関連因子の遺伝子発現に対して、抑制作用を有すると判定することができる。
―――骨髄細胞(破骨前駆細胞)の増殖に対する被験物質の抑制作用の検出方法―――
前記骨髄細胞(破骨前駆細胞)の増殖に対する、被験物質の抑制作用の検出方法としては、特に制限はなく、公知の方法の中から目的に応じて適宜選択することができ、例えば、WST−8を利用した、セルカウンティングキット−8(Cell Counting Kit−8;同仁化学)等を用いて、被験物質の存在下で培養された骨髄細胞の細胞数を測定する方法などが挙げられる。
前記骨髄細胞の増殖に対する被験物質の抑制作用を、骨髄細胞の細胞数を測定する方法により検定する場合、具体的には、被験物質の存在下での骨髄細胞数が、被験物質の非存在下での骨髄細胞数に対して少ないとき、被験物質が骨髄細胞の増殖に対して抑制作用を有していると判定することができる。
―――破骨前駆細胞から破骨細胞への分化に対する被験物質の抑制作用の検出方法―――
前記破骨前駆細胞から破骨細胞への分化に対する、被験物質の抑制作用の検出方法としては、特に制限はなく、公知の方法の中から目的に応じて適宜選択することができ、例えば、被験物質の存在下で骨髄細胞を培養し、更に破骨細胞分化誘導因子の添加により破骨細胞への分化を誘導した後、TRAP染色キット(セルガレージ)等を用いて、破骨細胞に分化された細胞数を測定する方法、などが挙げられる。
前記破骨前駆細胞から破骨細胞への分化に対する被験物質の抑制作用を、破骨細胞に分化された細胞数を測定することにより検定する場合、具体的には、被験物質の存在下での破骨細胞数が、被験物質の非存在下での破骨細胞数に対して少ないとき、被験物質が、破骨前駆細胞から破骨細胞への分化に対して抑制作用を有していると判定することができる。
―――硬骨組織における有用な検出態様―――
硬骨組織の破壊を誘導する生命現象に対する被験物質の抑制作用を検出する場合、前記した方法の中でも、検出が容易である点で、破骨細胞関連因子の遺伝子発現(mRNA発現及び/又はタンパク質発現)を調べることが好ましく、中でも、破骨前駆細胞から破骨細胞への分化のマスター分子であるNFATc1因子の遺伝子発現を調べることが、より好ましい。
本発明者らは、硬骨組織に関しても、前記軟骨組織の場合と同様に、様々な生命現象が、それぞれ異なる経路を介して、CDKによる制御を受けている可能性を見出した。中でも、本発明者らは、後述する実施例にも示されるとおり、骨髄細胞(破骨前駆細胞)の増殖と、NFATc1などの破骨細胞関連因子の遺伝子発現とが、互いに異なる経路により制御されている可能性を見出した。
例えば、ある被験物質が、破骨細胞関連因子の遺伝子発現に対しては抑制作用を有し、骨髄細胞(破骨前駆細胞)増殖に対しては抑制作用を有しない場合、このような被験物質は、細胞増殖を抑制することなしに関節破壊を抑制する効果が期待できることから、正常な細胞増殖まで阻害してしまうなどといった副作用の危険性の少ない、安全性の高い、関節リウマチの治療薬又は予防薬の候補物質として評価することができる。このような候補物質は、例えば、副作用を引き起こすリスクの高い関節リウマチ患者の治療に対して、有用であることが期待される。
一方、被験物質が、破骨細胞関連因子の遺伝子発現に対しても、骨髄細胞(破骨前駆細胞)増殖に対しても抑制作用を有する場合、このような被験物質は、細胞の過剰増殖により引き起こされる関節破壊に対しても、強い効果を有する、関節リウマチの治療薬又は予防薬の候補物質であると評価することができる。
したがって、硬骨の破壊を誘導する生命現象に対する被験物質の抑制作用を検出する場合、破骨細胞関連因子の遺伝子発現を調べることは有意であり、破骨細胞関連因子の遺伝子発現と併せ、破骨前駆細胞増殖の抑制作用の有無を調べることもまた、有意である。中でも、破骨前駆細胞から破骨細胞への分化のマスター分子であるNFATc1の遺伝子発現を調べることが好ましく、NFATc1の遺伝子発現と併せ、破骨前駆細胞増殖の抑制作用の有無を検出することもまた、好ましい。
また、破骨細胞関連因子の遺伝子発現と、破骨前駆細胞から破骨細胞への分化とは、互いに密接に関連した事象である。したがって、硬骨の破壊を誘導する生命現象に対する被験物質の抑制作用を検出する場合、破骨前駆細胞から破骨細胞への分化を調べることもまた、有用であり、破骨細胞前駆細胞から破骨細胞の分化と併せ、破骨細胞前駆細胞増殖の抑制作用の有無を調べることもまた、有意である。
前記したような例に限らず、関節破壊を誘導する様々な生命現象は、それぞれが多様な経路を介して、サイクリン依存性キナーゼによる制御をうけている可能性が高く、このような制御経路の違いを利用することにより、被験物質の抗関節リウマチ活性を、様々な視点から評価することが可能となる。即ち、例えば、関節リウマチの治療にあたり、個々の患者の症状に応じた、より適切な治療薬又は予防薬を選択することなども可能となると考えられる。
前記(b)工程においては、前記したような関節組織の破壊を誘導する生命現象に対する被験物質の抑制作用の検出方法のうち、1種のみを行ってもよいし、2種以上を行ってもよい。2種以上の検出方法を行う場合、必ずしも選択した全ての検出方法において、被験物質が抑制作用を有する結果となる必要性はなく、選択した検出方法の中で、少なくとも1種の検出方法に対して被験物質が抑制作用を有する結果となれば、被験物質は関節組織の破壊を誘導する生命現象に対して抑制作用を有すると判定することができる。検出方法及び結果の組み合わせを適宜選択することにより、被験物質の抗関節リウマチ活性を、様々な視点から評価することが可能となる。
<評価>
以上のように、被験物質が、前記(a)工程においてサイクリン依存性キナーゼに対する結合能力を有すると判定され、かつ、前記(b)工程において関節組織の破壊を誘導する生命現象に対する抑制作用を有すると判定された場合に、前記被験物質は、抗関節リウマチ活性を有すると評価される。
なお、前記(a)工程及び前記(b)工程は、いずれを先に行ってもよいし、同時に行ってもよい。
(スクリーニング方法)
本発明の抗関節リウマチ活性を有する物質のスクリーニング方法は、
(A)前記評価方法を実施する工程、及び
(B)工程(A)において抗関節リウマチ活性を有すると評価された被験物質を選択する工程、を含み、更に必要に応じてその他の工程を含む。
前記(A)工程は、前記評価方法を実施する工程であり、前記(a)及び(b)工程と同様に実施することができる。
前記(B)工程は、前記(A)工程により、抗関節リウマチ活性を有すると評価された被験物質を選択する工程である。ここで選択された被験物質は、抗関節リウマチ活性を有する物質であり、関節リウマチに対する治療薬又は予防薬の候補物質(以下、候補物質と称する場合がある)であるということができる。前記候補物質は、関節リウマチ、特に、関節リウマチにおける関節破壊に対して、治療又は予防効果が期待できる。
(確認方法)
前記スクリーニング方法により選択された、抗関節リウマチ活性を有すると評価された被験物質(候補物質)が、実際に関節リウマチの治療又は予防に有効であるかどうかは、例えば、関節リウマチモデル動物への、候補物質の投与実験などにより確認することができる。
前記関節リウマチモデル動物としては、例えば、コラーゲン誘導性関節炎マウス(Chondrex社)、コラーゲン誘導性関節炎ラット(Chondrex社)、アジュバント関節炎ラットなどが使用できる。前記アジュバント関節炎ラットは、例えば、8週齢程度のLewisラットに、1mgのM.butyricum死菌(Difco Laboratories,Detroit,Michigan)を100μLのミネラルオイルに懸濁して、尾根部皮内に免疫することにより得ることができる。
候補物質が投与された前記関節リウマチモデル動物の、関節リウマチの症状の緩和度合いを観察することによって、前記スクリーニング方法により選択された関節リウマチ治療薬又は予防薬の候補物質の効果を確認することができる。
なお、前記スクリーニング方法により選択された関節リウマチ治療薬又は予防薬の候補物質の適用対象となり得る動物としては、関節リウマチに罹患する可能性のある動物であれば特に制限はなく、例えば、ヒト、イヌ、ネコ、ウマ、ウシ、ヒツジ、ブタ、マウスなどが挙げられる。
(効果)
前記評価方法又はスクリーニング方法によれば、抗関節リウマチ活性を有する物質、中でも、関節リウマチにおける関節破壊を治療又は予防可能な、優れた関節リウマチの治療薬又は予防薬の候補物質を、効率的に選択することができる。
より具体的には、前記評価方法又はスクリーニング方法によれば、所望の効果のバランスを有する、優れた関節リウマチ治療薬又は予防薬の候補物質を、効率的に選択することができる。例えば、関節における細胞の異常増殖の抑制と、関節の破壊に関連する因子(前記した関節破壊関連因子、破骨細胞関連因子などを含む)の産生抑制という2種類の効果が、所望のバランスで奏される、優れた関節リウマチ治療薬又は予防薬の候補物質を選択することが可能となる。即ち、例えば、正常な細胞の増殖は阻害することなく、関節の破壊に関連する因子の産生のみを抑制することのできる、副作用の危険性の少ない物質を選択することも可能となり、一方で、細胞の異常増殖と関節の破壊に関連する因子の産生とを共に抑制することのできる、強い効果の期待できる物質を選択することも可能となる。
したがって、前記評価方法又はスクリーニング方法は、関節リウマチの治療又は予防に関する様々な場面において有用であり、例えば、以下(1)〜(4)のような用途において、特に有用であると考えられる。
(1)新たに開発された関節リウマチの治療薬又は予防薬の、抗関節リウマチ活性を効率的に評価することができる。
(2)公知のCDK阻害剤、他疾患対象の薬剤などの中から、関節リウマチの治療薬又は予防薬として使用可能な物質を、効率的に選択することができる。
(3)既存の関節リウマチの治療薬又は予防薬の中から、例えば、患者の症状に応じて所望の効果を有する治療薬又は予防薬を、適切に選択することができる。
(4)既存の関節リウマチの治療薬又は予防薬に改良を加え、より副作用の少ない治療薬又は予防薬など、所望の効果に優れた治療薬又は予防薬を効率的に得ることができる。
関節リウマチの根治には、関節リウマチの進行により引き起こされる、関節破壊と炎症という2つの側面を、それぞれ効率的に抑制することが有効であると考えられる。前記評価方法又はスクリーニング方法によれば、抗関節リウマチ活性を有する物質、中でも、関節破壊を治療又は予防可能な、優れた関節リウマチ治療薬又は予防薬の候補物質を得ることができることから、既存の炎症療法などと併用することによって、関節リウマチの根治的な治療方法の開発が期待できる。
以下に本発明の実施例について説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
(実施例1〜5:軟骨における評価)
被験物質として、p16INK4a(実施例1)、p21Cip1(実施例2)、p18INK4c(実施例3)、CDK4I(実施例4)、活性型Rb(実施例5)を選択し、各々の抗関節リウマチ活性を、軟骨組織の破壊を誘導する生命現象に対する抑制作用の観点から、以下のようにして評価した。
ここで、実施例4として選択したCDK4Iとは、CDK4及びCDK6を特異的に阻害するCDK4/6インヒビターである合成化合物、2−ブロモ−12,13−ジヒドロ−5H−インドロ[2,3−1]ピロロ[3,4−c]カルバゾール−5,7(6H)−ジオン(2−bromo−12,13−dihydro−5H−indolo[2,3−1]pyrrolo[3,4−c]carbazole−5,7(6H)−dione)である。
なお、実施例1〜3で選択したp16INK4a、p21Cip1、p18INK4cは、それぞれサイクリン依存性キナーゼのキナーゼ活性を阻害する細胞内タンパク質群であるサイクリン依存性キナーゼインヒビター(CDKI)の一種である。p16INK4a及びp18INK4cは、CDK4及びCDK6を特異的に阻害することが知られており、p21Cip1は全てのCDKを阻害することが知られている。
また、実施例5で選択したRb(網膜芽細胞腫遺伝子産物)は、CDK4及びCDK6の主な基質として知られており、Rbがリン酸化されて不活性化されることにより、細胞周期の進行に働くE2F転写因子の抑制が解除され、細胞周期が進行することが知られている。即ち、実施例5において使用する活性型Rbは、細胞周期の進行の抑制に寄与する。
<細胞増殖の評価>
各被験物質の細胞増殖に対する抑制作用は、以下のようにして評価した。
−滑膜線維芽細胞(RSF)培養−
滑膜組織を、抗リウマチ薬への反応が悪く、東京医科歯科大学病院、東京都立墨東病院、国立療養所下志津病院で、関節置換術及び/又は滑膜切除術を受けたリウマチ患者から採取した。滑膜組織を採取した全患者が、関節リウマチ(RA)分類についての、米国リウマチ学会、関節リウマチ診断基準(Arnettら;Arthritis Rheum.1988;31:315−324参照)を満たしていた。滑膜組織を採取した患者らは、本実施例1〜5における全処置に合意しており、また、本実施例1〜5における全処置は、東京医科歯科大学及び理化学研究所の倫理委員会により承認されている。得られたヒト絨毛性、鬱血性滑膜組織検体から、滑膜線維芽細胞(RSF)を分離し、Taniguchiら;Nat Med.1999;5:760−767に記載の方法で培養した。これらを早期継代(3〜9継代)で使用した。
−被験物質導入アデノウイルスの感染−
p16INK4a(実施例1)、p21Cip1(実施例2)、p18INK4c(実施例3)、及び活性型Rb(実施例5)の各被験物質は、アデノウイルスを利用してRSFに導入した。
以下の、各被験物質遺伝子を含む組み換え型アデノウイルスを、購入又は調製した;ヒトp16INK4a遺伝子を含むアデノウイルス(AxCAp16)(Teradaら;J Am Soc Nephrol.1997;8:51−60参照)、ヒトp18INK4c遺伝子を含むアデノウイルス(Ad−RGD−p18)(Blaisら;Biochem Biophys Res Commun.1998;247:146−153、Mizuguchi及びKay;Hum Gene Ther.1999;10:2013−2017、並びに、Mizuguchi及びKay;Hum Gene Ther.1998;9:2577−2583参照)、ヒトp21Cip1遺伝子を含むアデノウイルス(AxCAp21)(Teradaら;J Am Soc Nephrol.1997;8:51−60参照)、非リン酸化型で、構成的活性型をコードするヒトRb遺伝子を含むアデノウイルス(Ad−Rb)(Changら;Science.1995;267:518−522、及び、Teraoら;Hepatology.1998;28:605−612参照)。
また、βガラクトシダーゼ遺伝子を含むアデノウイルス(Ad−LacZ)を準備した(Changら;Science.1995;267:518−522、及び、Teraoら;Hepatology.1998;28:605−612参照)。
また、挿入遺伝子を持たないコントロール・アデノウイルスAx1w1(独立行政法人 理化学研究所 筑波研究所 バイオリソースセンター、日本、つくば市)及びコントロールAd5−RGD(Mizuguchiら;Gene Ther.2001;8:730−735参照)を準備した。
準備したアデノウイルスのうち一種を、100%の感染効率を保証する最低限の多重感染率(MOI)(通常、50〜200MOI)で、得られた滑膜線維芽細胞(RSF)に感染させた。
アデノウイルス感染から3日後、導入遺伝子の発現レベルが最高に達した時点で、RSFの増殖を検証、又は、RSFをサイトカイン刺激した。サイトカイン刺激は、5ng/mL TNFα(Genzyme社、マサチューセッツ州ケンブリッジ)、5ng/mL IL−1β(Peprotech社、ニュージャージー州ロッキーヒル)、及び25μMインドメタシン(Sigma社、ミズーリ州セントルイス)を用いて行い、12時間にわたり、炎症メディエーター(関節破壊関連因子)の産生を刺激した。なお、予備実験は、RSF刺激時の各サイトカインの最適濃度が、5ng/mLであることを示していた。
−CDK4Iの添加−
CDK4I(実施例4)は、培養液中に添加することにより、RSFに作用させた。
CDK4I(2−ブロモ−12,13−ジヒドロ−5H−インドロ[2,3−1]ピロロ[3,4−c]カルバゾール−5,7(6H)−ジオン)(2−bromo−12,13−dihydro−5H−indolo[2,3−1]pyrrolo[3,4−c]carbazole−5,7(6H)−dione)(Merck社、ニュージャージー州ホワイトハウス・ステーション)(Zhuら;J Med Chem.2003;46:2027−2030参照)はDMSOに溶解させ、RSF培養液に添加した。培養液中のDMSOの最終濃度は0.5%(v/v)とした。CDK4Iを添加した状態で、RSFを6時間、前培養した。次に、細胞及び培養上清を回収するまでの36時間、又はRNAを抽出するまでの12時間、前記アデノウイルス感染の場合と同様に、RSFをサイトカイン刺激した。
H−チミジン取り込み−
RSF細胞増殖を、H−チミジン取り込みにより評価した。アデノウイルス感染から3日後、アデノウイルス感染RSFを8,000細胞/ウェルでマイクロタイター・ウェルに播種し、10%ウシ胎仔血清(FBS)、IL−1β、TNFα、及びインドメタシン添加DMEM培地で、36時間培養した。最後24時間の培養で、H−チミジン(Amersham Biosciences社、英国バッキンガムシャー州)を存在させ、取り込まれた放射活性をカウントした。相対的生細胞数は、セルカウンティングキット−8(Cell Counting Kit−8;同仁化学)により測定した。
−フロー・サイトメトリー−
アデノウイルス感染から3日後、RSFを回収し、PBSで洗浄した。洗浄後、RSFを0.15%(v/v)TritonX含有PBSで、10分間固定した。固定後、RSFを、50μg/mLのヨウ化プロピジウム(Propidium iodide)(Sigma社、ミズーリ州セントルイス)、及び5μg/mLのRNaseAとともにインキュベートした。データを、フローサイトメーター(FACS Calibur;BD Biosciences社、カリフォルニア州サンディエゴ)を用いて集計した。
<遺伝子発現の評価>
各被験物質の遺伝子発現に対する抑制作用は、以下のようにして評価した。
−ノーザンブロット解析及びリアルタイムPCR−
ノーザンブロット解析及びリアルタイムPCRでは、全RNAを単離するために、RNeasy キット(RNeasy kit:Qiagen社、カリフォルニア州ヴァレンシア)を使用した。I型インターロイキン1受容体(IL−1R1)及びマトリクス・メタロプロテイナーゼ(MMP)−3mRNA検出のためのノーザンブロット解析を、Nonomuraら:J.Immunol.2003;171:4913−4919に記載の方法で実施した。リアルタイムPCRでは、スーパースクリプトII逆転写酵素(SuperScript II reverse transcriptase:Invitrogen社、カリフォルニア州カールズバッド)を用いて、cDNAを合成した。リアルタイムPCRは、iQ サイバーグリーンスーパーミックス(iQ SYBER green supermix:Bio−Rad社、カリフォルニア州ハーキュリーズ)、及び、MMP−3mRNA特異的プライマー・セット(Elshawら;Br J Pharmacol.2004;142:1318−1324参照)又は単球走化性タンパク質(MCP)−1mRNA特異的プライマー・セット(Piererら;J Immunol.2004;172:1256−1265参照)を用いて実施した。ヒト・グリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)mRNAを、サイクル閾値法での標準化のために用いた(Zhong及びSimons;Biochem Biophys Res Commun.1999;259:523−526参照)。
−酵素免疫吸着測定法(ELISA)−
ELISAでは、アデノウイルス感染RSFを60時間培養し、1.0×10細胞/mLで、マイクロウェルに播種した。播種から12時間後、培養上清を、IL−1β、TNFα、インドメタシンと、10%FBSを含む新しいDMEM培地と交換した。24時間の培養後、培養上清を回収した。MCP−1(Biosource International社、カリフォルニア州カマリロ)、IL−6(Biosource International社)、マクロファージ炎症性タンパク質(MIP)−3α(R&D Systems社、ミネソタ州マッキンレー)、MMP−3(富士化学、日本、富山)に対する各ELISAキットを使用し、培養上清中の各タンパク質濃度を定量した。
<その他の評価>
−免疫沈降及びウェスタン・ブロット解析−
免疫沈降では、アデノウイルス感染から3日後に、RSF細胞の全溶解物を調製した(Taniguchiら;Nat Med.1999;5:760−767、及び、Nonomura;J Immunol.2003;171:4913−4919参照)。JNK 1−3を、マウス抗JNKモノクローナル抗体(Ab)(sc−7345;Santa Cruz Biotech社)を用いて、免疫沈降させた(Patelら;J Cell Sci 1998;111:2247−2255参照)。ウサギ抗ヒトp16INK4a、マウス抗ヒトp18INK4c、及びp21Cip1ポリクローナル抗体(各sc−468、sc−9965、sc−387;Santa Cruz Biotech社、カリフォルニア州サンタクルーズ)を、ウェスタン・ブロット解析での一次抗体として使用した。ホースラディシュ・ペルオキシダーゼ結合抗ウサギIgGポリクローナル抗体(NA−934;Amersham Biosciences社)又は抗マウスIgGポリクローナル抗体(6175−05;Southern Biotec社、アラバマ州バーミングハム)を、二次抗体として使用した。結合抗体を、ECL(Amersham Biosciences社)で可視化させた。
−マルチウェル比色転写因子アッセイ−
RSFにおける転写因子及びJNK活性を測定するために、核抽出キット(Nuclear Extract kit;Active Motif社、カリフォルニア州カールズバッド)を使用して核抽出物を調製した。AP−1及びNF−кB転写因子のDNA結合活性を定量するために、AP−1/c−Jun、NF−кB/p50、及びp65 転写因子アッセイキット(Trans AM;Transcription Factor Assay kits)(Active Motif社)を使用した。
<統計解析>
前記H−チミジン取り込み、リアルタイムPCRにおける強度比、及びRSF上清におけるタンパク質濃度は、スタットビュー(StatView)−5.0Jソフトウェア(SAS Institute Inc.社、ノースカロライナ州カリー)を使用し、対応のあるスチューデントt−検定により比較した。
<評価結果:実施例1(p16INK4a)及び実施例2(p21Cip1)>
−細胞増殖の評価結果−
関節リウマチを患う患者の関節由来RSFを、前記の方法によりインビトロで培養した。特異抗体を用いたウェスタン・ブロット解析では、内在性p16INK4aが、いずれの培養RSF試料においても発現していないことを示していた(データは図示せず)。ヒトp16INK4a遺伝子が導入されたAxCAp16アデノウイルス、又は、導入遺伝子を有さないコントロールAx1w1アデノウイルスを、培養RSF試料に感染させた。導入遺伝子の発現レベルが最高の場合に、H−標識チミジン取り込み及びフローサイトメトリーにより、細胞増殖及び細胞周期進行を検証した。p16INK4a発現RSFによるH−標識チミジン取り込みは、コントロール・ウイルス感染RSFによる取り込みと比較して、大幅に抑制された。これは、細胞周期のG0/G1期率の上昇を伴った(図1A及び図1B)。
以下に、図1A及び図1Bを具体的に説明する。図1A及び図1Bは、p16INK4a遺伝子導入が、RSFの増殖を阻害し、G0/G1期における細胞周期停止を誘導したことを示す図である。
図1Aは、p16INK4a遺伝子(p16INK4a、黒いカラム)を有するアデノウイルス、又は、コントロールアデノウイルス(コントロール、白いカラム)を感染させたRSFを、前記のようにして、インターロイキン(IL)−1β及び腫瘍壊死因子(TNF)αで刺激した結果を示す。RSFによるH−チミジン取り込みを、アデノウイルス感染から3日後にカウントした。カラムとバーは、5個のウェルでの平均値と標準偏差(SD)を表している。p16INK4aによるH−チミジン取り込みの平均低下率は83%であった(**P<0.01)。
図1Bは、フロー・サイトメトリー解析の結果を示す。コントロール細胞(コントロール)と比較し、p16INK4a発現RSF(p16INK4a)では、細胞周期G0/G1期停止の増加を示した。3検体中1検体での代表結果を示している。
−遺伝子発現(タンパク質発現/mRNA発現)の評価結果−
p16INK4aが発現している又は発現していないRSFをサイトカイン刺激し、MMP−3、MCP−1、MIP−3α及びIL−6のタンパク質発現を、特異的ELISAにより検証した。なお、MMP−3、MCP−1、MIP−3α及びIL−6は、p21Cip1の遺伝子導入によりダウンレギュレートされることが知られている、炎症メディエーター(関節破壊関連因子)の一員である(Nonomuraら;J Immunol.2003;171:4913−4919参照)。培養上清中のMMP−3及びMCP−1産生は、いずれもp16INK4aの発現により抑制されたが、IL−6及びMIP−3α産生は、影響を受けなかった(図1C及び図1D参照)。なお、これらの炎症メディエーター(関節破壊関連因子)の産生は、アデノウイルス感染のみでは促進されなかった(データは図示せず)。
以下に、図1C及び図1Dを具体的に説明する。図1C及び図1Dは、p16INK4a遺伝子導入は、RSFによるMMP−3及びMCP−1のタンパク質産生を抑制したが、IL−6及びマクロファージ炎症性タンパク質(MIP)−3αの産生は抑制しなかったことを示す図である。p16INK4aアデノウイルス(p16INK4a、黒いカラム)又はコントロール・アデノウイルス(コントロール、白いカラム)を感染させたRSFを24時間、IL−1β及びTNFαの併用で刺激した。培養上清中のMMP−3、MCP−1、MIP−3α、及びIL−6タンパク質発現を、ELISAで測定した。刺激されたRSFでの、これらの分子の産生を、コントロール・ウイルスを感染させたコントロールRSFのものと比較して示している。過去の一連の実験(Nonomuraら;J Immunol.2003;171:4913−4919参照)において、p21Cip1アデノウイルス(p21Cip1、灰色のカラム)を用いて研究されたMIP−3α及びIL−6での増殖に対するp21Cip1の作用を、同形式で示した。カラムとバーはそれぞれ、3検体での平均値と標準偏差(SD)を表している。p16INK4aによるMMP−3及びMCP−1産生の平均低下率は、それぞれ78%、91%であった(P<0.05)。p21Cip1によるMIP−3α及びIL−6産生の平均低下率は、それぞれ69%、67%であった。p21Cip1とは異なり、RSFでのMIP−3α及びIL−6の産生は、p16INK4aにより影響を受けなかった。
また、前記タンパク質発現を測定した場合と同様に、アデノウイルス感染後サイトカイン刺激したRSFにおいて、MMP−3及びMCP−1のmRNA発現レベルを検証した。ノーザンブロット解析では、p16INK4a発現RSFにおいてMMP−3mRNAレベルの低下を示したが、MCP−1mRNAレベルに有意な変化は観察されなかった(データは図示せず)。この結果をリアルタイムPCR解析により確認したところ、p16INK4a発現RSFではMMP−3mRNAの有意な低下を示したが、MCP−1mRNAは小幅な低下しか示さなかったことが確認された(図1E及び図1F)。したがって、MCP−1mRNAレベルの変化では、タンパク質の減少を説明できなかった。
これらの結果から、MMP−3産生は、CDKの働きにより、mRNAレベルで調節されるが、MCP−1産出はmRNAレベルで調節されないことが示された。
以下、図1E及び図1Fを具体的に説明する。図1E及び図1Fは、MMP−3mRNAレベルは、p16INK4a及びCDK4I(後述、実施例4)によりダウンレギュレートされたが、MCP−1mRNAレベルはダウンレギュレートされず、また、両方とも活性型Rb(後述、実施例5)により影響を受けなかったことを示す図である。RSFをp16INK4a(p16INK4a、黒いカラム)、Rb(Rb、黒いカラム)、又はコントロール(コントロール、白いカラム)アデノウイルスに感染させた。また、濃度1μMのCDK4I(CDK4I、黒いカラム)又はDMSO培地コントロール(DMSO、白いカラム)で、RSFを処理した。これらのRSFを、前記のようにして、IL−1β及びTNFαで刺激した。MMP−3及びMCP−1のmRNAを、リアルタイムPCRで定量した。これらのmRNA発現量を、GAPDHと比較して示している。カラムとバーはそれぞれ、平均値と標準偏差(SD)を表している。2検体中1検体の代表結果を示した。
また、p21Cip1による炎症メディエーター(関節破壊関連因子)の分泌抑制は、少なくとも部分的にはIL−1R1発現のダウンレギュレーションに起因するはずである(Nonomuraら;J Immunol.2003; 171: 4913−4919参照)。しかし、p16INK4a発現RSFにおいて、IL−1R1mRNA発現は、コントロール・アデノウイルスを感染させたものと比較して低下していなかった(図1G)。
以下、図1Gを具体的に説明する。図1Gは、p21Cip1はIL−1R1mRNA発現をダウンレギュレートするが、p16INK4aはIL−1R1mRNA発現をダウンレギュレートしないことを示す図である。コントロール・ウイルス感染RSF(コントロール、白いカラム)及びp16INK4aアデノウイルス感染RSF(p16INK4a、黒いカラム)のRNAについて、I型インターロイキン−1受容体(IL−1R1)及びグリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)のmRNA発現をノーザンブロット解析により検証した。IL−1R1mRNA発現に対するp21Cip1アデノウイルス(p21Cip1、灰色のカラム)の作用も、同様に図示した。カラムとバーはそれぞれ、3検体の平均値と標準偏差(SD)を表している。p21Cip1によるIL−1R1mRNA発現の平均低下率は71%であった(P<0.05)。p21Cip1とは異なり、p16INK4aは、IL−1R1mRNA発現に影響を与えなかった。
また、本発明者らや他のグループにより、p21Cip1はJNKと結合してJNK酵素活性を低下させることが示されている(Nonomuraら;J Immunol.2003;171:4913−4919、Shimら;Nature.1996;381:804−806、及び、Perlmanら;J Immunol.2003;170:838−845参照)。本発明者らは、更に、p21Cip1発現RSFにおいて、AP−1のDNA結合活性の低下を示しており、AP−1はJNK経路の下流に存在することを示している(Nonomuraら;J Immunol.2003;171:4913−4919参照)。このことから、JNKの免疫沈降により、p16INK4aとJNKとの結合活性を検証した。また、p21Cip1とJNKとの結合活性を確認した。
ヒトp16INK4a遺伝子を含むAxCAp16アデノウイルス感染RSF細胞又はヒトp21Cip1遺伝子を含むAxCAp21アデノウイルス感染RSF細胞の溶解物を、抗16Ink4a又は抗p21Cip1抗体を用いて免疫沈降させた。続く免疫ブロッティングでは、p16INK4aではなく、p21Cip1がJNKと結合することが明らかになった(図1H)。p21Cip1とは異なり、p16INK4aは、30分間にわたりサイトカイン刺激されたRSFにおいて、AP−1およびNF−кBのDNA結合活性を阻害しなかった(データは図示せず)。これらのデータは、p16INK4aは、炎症メディエーターの産生を阻害するために、JNK経路抑制またはIL−1R1発現抑制に依存しないことを示している。
以下、図1Hを具体的に説明する。図1Hは、p21Cip1はc−Jun N−末端キナーゼ(JNK)と共に免疫沈降されたが、p16INK4a及びp18INK4c(後述、実施例3)タンパク質は、c−Jun N−末端キナーゼ(JNK)と共に免疫沈降されなかったことを示す図である。p16INK4a又はp18INK4c発現RSF細胞の全抽出物を抗JNK抗体(Ab)(α−JNK)又はコントロールIgG(IgG)と免疫沈降させ、各CDKI特異的抗体(抗−p16INK4a(α−p16)、抗−p18INK4cAb(α−p18)、抗−p21Cip1抗体(α−p21))を用いて、ウェスタン・ブロットにより解析した。別々の2検体の、ウエスタンブロットの代表結果を示している。
<評価結果:実施例3(p18INK4c)>
p18INK4cは、前記実施例1及び2と同様にしてJNKとの結合を解析したところ、p16INK4aと同様に、JNKとは結合しなかった(図1H)。
また、ヒトp18INK4c遺伝子を含むAd−RGD−p18アデノウイルス、及びコントロール・アデノウイルスを感染させた培養RSFを用いて、実施例1及び2と同様に、細胞増殖の評価及び遺伝子発現の評価を行った。RSFがp18INK4cを発現した場合、コントロールと比較して、H−標識チミジンの取り込みが減少した(図2A)。また、フロー・サイトメトリー解析によって、p18INK4c発現RSFにおいて、細胞周期進行がG0/G1期で阻害されることが明らかになった(図2B)。培養上清を用いたELISAでは、p18INK4c遺伝子導入が、RSFによるMMP−3及びMCP−1タンパク質産生をダウンレギュレートさせることを示した(図2C)。これらのH−標識チミジン取り込み、フローサイトメトリー解析、及びELISAにおけるp18INK4cの結果は、p16INK4aと類似しており、p16INK4a及びp18INK4cが同様の作用を有することが示唆された。
以下に、図2A〜Cを具体的に説明する。
図2A及びBは、p18INK4c遺伝子導入はRSFの増殖を抑制し、G0/G1期における細胞周期停止をもたらしたことを示す図である。図2Aに、p18INK4c遺伝子を有するアデノウイルス(p18INK4c、黒いカラム)又はコントロール・アデノウイルス(コントロール、白いカラム)を感染させたRSFを、IL−1β及びTNFαで刺激して、H−チミジン取り込みを評価した結果を示した。3検体中1検体の代表結果を示した。カラムとバーはそれぞれ、5個のウェルの平均値と標準偏差(SD)を表している。p18INK4cによるH−チミジン取り込みの平均低下率は43%であった(**P<0.01)。図2Bに、細胞周期のフロー・サイトメトリー解析による、p18INK4cによるG0/G1期細胞の増加を示した。3検体の代表結果を示した。
図2Cは、p18INK4c遺伝子導入は、RSFによるMMP−3及びMCP−1タンパク質産生を抑制したことを示す図である。p18INK4cアデノウイルス(p18INK4c、黒いカラム)及びコントロール・アデノウイルス(コントロール、白いカラム)を感染させたRSFを、IL−1β及びTNFαの併用で刺激した。培養上清中のMMP−3及びMCP−1をELISAで測定した。カラムとバーはそれぞれ、3検体の平均値と標準偏差(SD)を現している。p18NK4cによるMMP−3及びMCP−1産生の平均低下率は、それぞれ48%、71%であった。差は統計的に有意であった(P<0.05,**P<0.01)。
<評価結果:実施例4(CDK4I)>
被験物質として、CDK4/6キナーゼを特異的に阻害する合成化合物であるCDK4I(2−ブロモ−12,13−ジヒドロ−5H−インドロ[2,3−1]ピロロ[3,4−c]カルバゾール−5,7(6H)−ジオン)(2−bromo−12,13−dihydro−5H−indolo[2,3−1]pyrrolo[3,4−c]carbazole−5,7(6H)−dione)を使用した。実施例1と同様に、CDK4IのRSFにおける影響を検証した。この化合物は、サイトカイン刺激されたRSFによるH−チミジン取り込みを用量依存的に阻害した。検証された最高濃度でさえ、細胞の生存に影響を及ぼすことなく、細胞周期進行におけるG0/G1期の割合を増加させた(図3A及び図3B)。CDK4Iで処理されたRSFは、コントロールであるDMSO処理されたRSFよりも、MMP−3及びMCP−1のタンパク質産生量が有意に減少した(図3C)。
また、実施例1と同様にして、CDK4IのMMP−3及びMCP−1のmRNA発現量に及ぼす影響を検証したところ、p16INK4aと同様に、CDK4IはRSFにおけるMMP−3mRNAを低下させたが、MCP−1mRNAは低下させなかった(図1E及び図1F)。
以下に、図3A〜Cを具体的に説明する。
図3A及び図3Bは、CDK4Iは、G0/G1期における細胞周期停止を誘導することにより、RSFの増殖を阻害することを示す図である。RSFを、阻害濃度のCDK4/6特異的インヒビターCDK4Iで12時間処理し、次いでIL−1β及びTNFαで刺激した。図3Aには、処理済みRSFによるH標識−チミジン取り込みを、未処理RSFと比較して示した。図3Bには、フロー・サイトメトリー解析において、培地コントロール(DMSO)と比較し、濃度1μMのCDK4Iで処理した細胞(CDK4I)での、G0/G1期の増加を示した。2つの独立した実験の代表を示した。
図3Cは、CDK4Iは、RSFによるMMP−3及びMCP−1タンパク質産生を抑制したことを示す図である。1μMのCDK4I(CDK4I、黒いカラム)又はコントロールである0.5%DMSO培地(コントロール、白いカラム)で処理したRSFを、IL−1β及びTNFαで刺激した。培養上清のMMP−3又はMCP−1をELISAで測定した。カラムとバーはそれぞれ、5検体の平均値と標準偏差(SD)を表している。CDK4IによるMMP−3及びMCP−1産生の平均低下率は、それぞれ57%と64%であった(P<0.05)。
<評価結果:実施例5(活性型Rb)>
活性型、つまり非リン酸化型Rb導入は、リウマチ様炎症に関与する組織分解酵素の1種であるMMP−1の産生を転写後レベルで抑制することが報告されている(Bradleyら;Arthritis Rheum.2004; 50: 78−87参照)。被験物質として、リン酸化部位に置換変異を有する変異Rb遺伝子を利用した。この遺伝子をアデノウイルス導入することで、活性な非リン酸化型Rbを増加させ、これによってRbのCDK依存性リン酸化の抑制を模倣させた(Changら;Science.1995;267:518−522参照)。実施例1と同様に、活性型Rbの、RSFにおける影響を検証した。活性型RbのRSFが活性型Rbを過剰発現した場合、コントロールRSFと比較し、H−チミジン取り込みが減少した(図4A)。細胞周期のフロー・サイトメトリー解析は、活性型Rbが細胞周期をG0/G1期に停止させることを示した(図4B)。
細胞上清でのELISA解析は、活性型Rbを発現するRSFにおけるMMP−3及びMCP−1双方のタンパク質産生低下を示した(図4C)。リアルタイムPCR解析は、コントロールRSFと比較し、活性型Rb過剰発現RSFにおいてMMP−3及びMCP−1mRNAが維持されることを明らかにした(図1E及び図1F)。これらのことから、MMP−3の転写制御は、Rb非依存的であることが示された。
以下に、図4A〜Cを具体的に説明する。
図4A及び図4Bは、構成的活性型Rbの遺伝子導入は、RSFの増殖を抑制したことを示す図である。非リン酸化型Rbをコードするアデノウイルス(Rb、黒いカラム)又はコントロール・アデノウイルス(コントロール、白いカラム)を感染させたRSFをIL−1β及びTNFαで刺激し、H−チミジン取り込みを評価した。図4AはH−チミジン取り込みの評価結果である。2検体中1検体の代表結果を示している。カラムとバーは5個のウェルの平均値とSDを表している。図4Bには、フロー・サイトメトリー解析における、構成的活性型Rb発現RSFにおける細胞周期G0/G1期の増加を示した。独立した2検体の代表を示した。
図4Cは、構成的活性型Rbは、RSFによるMMP−3及びMCP−1タンパク質産生を抑制したことを示す図である。構成的活性型Rbアデノウイルス(Rb、黒いカラム)又はコントロール・アデノウイルス(コントロール、白いカラム)を感染させたRSFを、IL−1β及びTNFαの併用で、24時間刺激した。培養上清中のMMP−3及びMCP−1を、ELISAで測定した。刺激されたRSFによるこれらの分子の産生を、コントロール・アデノウイルスを感染させたコントロールRSFと比較して示した。カラムとバーはそれぞれ、3検体の平均値と標準偏差(SD)を表している。RbによるMMP−3及びMCP−1産生の平均低下率は、それぞれ48%、36%であった(P<0.05)。
以上、実施例1〜5により、被験物質として選択したp16INK4a、p21Cip1、p18INK4c、CDK4I、活性型Rbは、それぞれが抗関節リウマチ活性を有すると評価することができた。また、被験物質の種類により各項目の評価結果が異なることから、各被験物質は、多様な経路で関節破壊関連因子と関係しており、それぞれが独自の、関節リウマチに対する抑制効果を有している可能性が示された。
(実施例6:硬骨における評価)
被験物質として、CDK4I(CDK4インヒビター;Merck社製)を選択し、硬骨組織の破壊を誘導する生命現象に対する抑制作用の観点から、CDK4Iの抗関節リウマチ活性を以下のようにして評価した。
<破骨細胞前駆細胞から破骨細胞への分化の評価>
DBA/1Jマウス(オリエンタル酵母工業(株)製)の大腿骨より採取した骨髄細胞(BM)を、2.5×10細胞/ウェル(48ウェルプレート)でまき、10%ウシ胎仔血清(FBS:fetal bovine serum;Hyclone社)、20ng/mlマクロファージコロニー刺激因子(M−CSF:macrophage colony−stimulating factor;peprotech社)を含んだα−MEM培地(α−minimum essential medium;Invitrogen社)で2日間培養した。2日後、付着した細胞を骨髄/マクロファージ系統細胞(BMM:bone marrow macrophages)とした。BMMを、20ng/ml M−CSF、100ng/ml 破骨細胞分化誘導因子(RANKL:soluble receptor activator of NF−κB ligand;peprotech)を含んだα−MEM培地で培養し、破骨細胞(OC:Osteoclast)に分化させた。OC分化に及ぼすCDK4Iの作用を検討するため、CDK4I(CDK4inhibitor;Calbiochem社)を、RANKL添加と同時に、図5Bに示す各濃度で細胞に加えた。3日後、TRAP染色キット(セルガレージ)で細胞を染色し、TRAP陽性多核(核が3つ以上認められる)細胞(TRAP+MNC:tartrate−resistant acid phosphatase−positive multinucleated(>3 nuclei)cells)をカウントした。
また、RAW264.7細胞(ATCCより入手)(1×10細胞/ウェル;96ウェルプレート)は、前記BMと同様に、CDK4I(1μM)存在、又は非存在下で、RANKL(100ng/ml)で刺激し、5日後、TRAP+MNCをカウントした。
<細胞増殖の評価>
CDK4Iによる細胞増殖への作用を検討するため、前記と同様に骨髄細胞(BM)を1.25×10細胞(96ウェルプレート)まき、M−CSF存在下で2日間培養した後、M−CSF、RANKL、及び、CDK4I(1μM)の存在又は非存在下で、3日間培養した。細胞増殖は、セルカウンティングキット−8(Cell Counting Kit−8;同仁化学)で評価した。
<遺伝子発現の評価>
−定量的PCR−
BMMにRANKLを加えて、3日後の細胞からRNeasy ミニキット(RNeasy Mini kit;Qiagen社)にて全RNAを抽出した。1μgの全RNAを、オムニスクリプトRTキット(Ominiscript RT kit;Qiagen社)にてcDNAに合成した。サイバーグリーン(Sybr Green)を用いた定量的PCR法で、活性化T細胞核内因子c1(NFATc1:nuclear factor of activated T cells c1)、破骨細胞会合受容体(OSCAR:osteoclast−associated receptor)、酒石酸抵抗性酸ホスファターゼ(TRAP:tartrate−resistant acid phosphatase)の各遺伝子発現を、内在性コントロールとしてGAPDHを用い、リアルタイムPCR装置ABI7900(アプライドバイオシステム社製)にて解析した。BMの発現を1として、各遺伝子発現を評価した。
<評価結果>
M−CSF及びRANKL存在下で、BMMからOCに分化誘導されるときの、CDK4Iの作用を解析した。CDK4Iはコントロール(DMSO)と比べて、著しくOC分化を抑制した(図5A及び図5B)。
細胞増殖に影響を与えないCDK4I(1μM)の濃度においても、(図6)、破骨細胞の分化抑制が認められることから(図5B)、CDK4Iは細胞増殖抑制に依存せずに、破骨細胞分化を抑制することが考えられた。
また、RAW264.7でも破骨細胞分化の抑制が認められたことから(図7A及び図7B)、CDK4IはM−CSFの作用には影響を与えず、RANKLによる作用を阻害することで、OC分化を抑制していることが示唆された。
RANKLは、破骨細胞の分化に必須な遺伝子であるNFATc1の発現を誘導することが知られている。NFATc1のmRNA発現を定量的PCR法で検討したところ、CDK4IはNFATc1の発現を著明に抑制した(図8A)。更に、NFATc1によって発現誘導されるOSCARやTRAPのmRNA発現も顕著に抑制された(図8B及び図8C)。このことから、CDK4IはNFATc1の発現を阻害することで、OCの分化を抑制していることが示唆された。
以上、実施例6により、被験物質として選択したCDK4Iは、抗関節リウマチ活性を有すると評価することができた。
(参考例:CDK4及びサイクリンD1の共導入)
なお、参考例として、RSFへの、CDK4及びサイクリンD1の共導入の影響を調べた。
核局在化シグナルを有するヒト・サイクリンD1を導入したアデノウイルス(Ad−D1NLS)、及びヒトCDK4遺伝子を導入したアデノウイルス(Ad−CDK4)を準備した(Tamamori−Adachiら;Biochem Biophys Res Commun.2002;296:274−280、及び、Tamamori−Adachら;Circ Res.2003;92:e12−19参照)。実施例1と同様にして、RSFにおけるCDK4及びサイクリンD1の共導入の影響を検証した。結果を以下に示す。
正常細胞でのCDK4/6活性はサイクリンD量によって制御されるが、サイクリンD遺伝子導入のみではRSFの細胞周期進行を加速させなかった(データは図示せず)。核内CDK4と結合するサイクリンDの機能を促進させるために、サイクリンD1導入遺伝子の産物に核局在化シグナルをコードするミニ遺伝子を付加することで核内へ移動させた(Tamamori−Adachiら;Biochem Biophys Res Commun.2002;296:274−280参照)。アデノウイルスにより、RSFにサイクリンD1−NLS遺伝子コンストラクトとCDK4遺伝子を共導入することで、Rbがリン酸化された、つまり、Rbが不活化された(Tamamori−Adachiら;Circ Res.2003;92:e12−19)。これは、培養RSFでのH−チミジン取り込みをアップレギュレートさせ、G0/G1期の細胞を減少させた(図9A及び図9B)。
また、サイクリンD1とCDK4とを共導入することで、CDK4/6キナーゼ活性を上昇させた場合の、RSFでの炎症メディエーターの産生(間接破壊関連因子)に対する影響を調べた。調製されたアデノウイルスの力価には限度があるため、培養上清についてはMMP−3のELISAのみ行った。サイクリンD1−NLSとCDK4を過剰発現するRSFを刺激した場合、コントロール・ウイルス感染RSFを刺激した場合よりも多量のMMP−3を産生した(図9C)。したがって、MMP−3発現レベルはCDK4活性と直接相関していた。CDK4活性の上昇は、細胞増殖及びRSFでのMMP−3発現をアップレギュレートさせることが示された。
以下に、図9A〜Cを具体的に説明する。
図9A及び図9Bは、サイクリンD1−NLS及びCDK4の同時遺伝子導入はRSFの増殖を高めたことを示す図である。NLSを有するサイクリンD1及びCDK4をコードするアデノウイルス(D1+CDK4、黒いカラム)、又はコントロール・アデノウイルス(コントロール、白いカラム)を、RSFに感染させた。感染から60時間後、RSFによるH−チミジン取り込みをカウントした。H−チミジン取り込みの結果を、図9Aに示している。カラムとバーはそれぞれ、平均値と標準偏差(SD)を表している。平均増加率は240%であった。差は統計的に有意であった(*P<0.01)。また、細胞周期のフロー・サイトメトリー解析の結果を、図9Bに示している。コントロールであるアデノウイルス感染RSF(コントロール)と比較し、サイクリンD1−NLS及びCDK4の遺伝子を導入したRSF(D1+CDK4)においては、G0/G1期の細胞の減少が示された。独立した2検体の代表を示した。
図9Cは、サイクリンD1−NLS及びCDK4の遺伝子導入が、RSFによるMMP−3タンパク質産生をアップレギュレートさせたことを示す図である。NLSを有するサイクリンD1及びCDK4(D1+CDK4、黒いカラム)発現RSFと、コントロールRSF(コントロール、白いカラム)との培養上清におけるMMP−3を、ELISAにより測定した。カラムとバーはそれぞれ、コントロールRSFと比較した、3検体の平均値と標準偏差(SD)を示している。平均増加率は490%であった(**P<0.01)。
なお、図10には、本実施例1〜5及び参考例で関節リウマチ性の滑膜線維芽細胞(RSF)について示された、CDKを介した関節破壊に関連する生命現象の多様な調節を、経路図として表した。
p16INK4a、p18INK4c、又は小分子CDK4インヒビター(CDK4I)によるサイクリンD−CDK4/6阻害は、RSFでのMMP−3及びMCP−1タンパク質産生を抑制した。また、このCDK4/6阻害はMMP−3mRNAを抑制したが、MCP−1mRNAは抑制しなかった。活性型Rbは、転写後調節によりMMP−3及びMCP−1タンパク質発現を低下させた。p21Cip1はCDK−Rb経路以外で抗炎症作用を発揮できることが報告されており、本実施例においても同様に確認された。サイクリン依存性キナーゼ4/6は、網膜芽細胞腫タンパク質(Rb)依存的及び非依存的経路により、種々の関節炎メディエーター(関節破壊関連因子)の発現を直接的に制御することが示唆された。
また、本実施例における結果から、以下のようなことが実証又は推測される。
本実施例において、CDK4/6キナーゼ活性がRb非依存的にMMP−3産生を制御することが明らかにされた。この制御はmRNAレベルである。CDK4/6の基質であるRbは、MMP−3と同様に、MCP−1の発現を転写後レベルで調節可能であるが、CDK4/6活性はこれよりも上流で作用している(図10)。現在、知られている唯一のCDK4/6の基質はRbであり、これは細胞周期進行のためのE2F転写因子の機能的可用性を調節する。本実施例の結果は、MMP−3mRNAの産生を調節する、Rb以外の、CDK4/6への結合分子の存在を予測している。また、MMP−3mRNA以外の組織分解酵素のmRNA発現も、同様に調節されている可能性が高い。
Bradleyらは、Rbのリン酸化状態とMMP−1及びIL−6産生との相関関係を報告した(Bradleyら;Arthritis Rheum、2004;50:78−87参照)。彼らは、非リン酸化Rbによる転写後レベルでのMMP−1発現抑制を示し、この抑制がp38キナーゼ阻害を介することを示唆した。本発明者らは、同様の調節がMMP−3及びMCP−1の翻訳において作用することを見出した。しかし、本発明において明らかにされたRb非依存的制御は、MMP−3産生調節の中心にあると考えられる。これは、Rb依存性制御よりも上流にある。また、CDK阻害分子が、活性型Rbと同程度の効率でMMP−3産生を抑制することも指摘されている。
本発明者らは、p21Cip1がCDK非依存的に炎症メディエーターを調節可能であることを報告した。本実施例において、本発明者らは、CDKとその基質であるRbは個別にそれらを調節可能であることを示している。したがって、細胞周期タンパク質は、多様な経路において炎症分子の発現と密接に関連している。恐らく、未知なる進化上の選択が、細胞周期調節因子による炎症の安全制御をもたらしたのであろう。
また、CDK4/6の阻害によりダウンレギュレートされる炎症メディエーター(関節破壊関連因子)は、リウマチ様炎症において重要な役割を果たす。それにもかかわらず、p16INK4aは、MMP−3及びMCP−1の産生を完全には消失させなかった。IL−1β及びTNFαで刺激されたp16INK4a発現RSFは、未刺激のRSFよりも多量の炎症メディエーターを産生する。CDK4/6阻害による抗炎症作用は、CDKI遺伝子治療におけるCDKIの増殖抑制作用を助ける可能性があると、本発明者らは推測している。
ヒーラ細胞において、p16INK4aはNF−кBと相互作用し、その転写を阻害する(Wolff及びNaumann;Oncogene、1999;18:2663−2666参照)。本発明者らの予備試験では、RSFのp16INK4aが、CDK4/6非依存的に他のサイトカイン発現を調節可能であることを示唆している。しかし、RSFでのp16INK4a過剰発現が、AP−1及びNF−кBのDNA結合活性を抑制しないことを本発明者らは見出した(データは図示せず)。Etsファミリー転写因子であるEts−1、Ets−2は、MMP−3発現をアップレギュレートさせるため、それらの抑制がMMP−3発現のダウンレギュレーションの主な原因となる可能性がある(Wasylykら;EMBO J、1991;10:1127−1134、及び、Whiteら;Connect Tissue Res、1997;36:321−335参照)。
p16INK4a、p18INK4c、及びp21Cip1遺伝子導入が、CDK4/6活性の阻害によりRSFでの炎症メディエーターやプロテアーゼの産生を抑制可能であることを本発明者らは示した。小分子CDKI化合物(CDK4I)も、これらの分子の発現をダウンレギュレートさせた。臨床応用のためには、遺伝子導入よりも、小分子CDKインヒビターによるサイクリン−CDKキナーゼ活性調節の方がより実現可能であると考えられる。多くの小分子CDKインヒビターが既に開発されており、抗腫瘍薬として治験が実施されている(Senderowicz;Oncogene、2003;22:6609−6620参照)。それらは関節リウマチ治療に有用であろう。炎症分子の阻害はRb非依存的であるため、異なるインヒビターが、増殖抑制及び抗炎症作用の異なるバランスを有する可能性がある。したがって、小分子CDKインヒビターを用いて実際にリウマチ患者を治療する場合、2つの共同作用を最適化する必要があるだろう。その最適化においても、本発明の評価方法及びスクリーニング方法は、非常に有用であると考えられる。
本発明の評価方法又はスクリーニング方法によれば、抗関節リウマチ活性を有する物質を効率的に選択することができることから、優れた関節リウマチ治療薬又は予防薬の候補物質の探索に非常に有用である。
前記評価方法又はスクリーニング方法は、例えば、以下(1)〜(4)のような用途において、特に有用であると考えられる。
(1)新たに開発された関節リウマチ候補薬の、抗関節リウマチ活性を効率的に評価することができる。
(2)公知のCDK阻害剤、他疾患対象の薬剤などの中から、関節リウマチ治療薬又は予防薬として使用可能な物質を、効率的に選択することができる。
(3)既存の関節リウマチ治療薬又は予防薬の中から、例えば、患者の症状に応じて所望の効果を有する治療薬又は予防薬を適切に選択することができる。
(4)既存の関節リウマチ治療薬又は予防薬に改良を加え、より副作用の少ない治療薬又は予防薬など、所望の効果に優れた治療薬又は予防薬を効率的に得ることができる。

Claims (15)

  1. 被験物質の抗関節リウマチ活性を評価する方法であって、
    (a)サイクリン依存性キナーゼに対する被験物質の結合能力を検出する工程、及び
    (b)関節組織の破壊を誘導する生命現象に対する被験物質の抑制作用を検出する工程、を含むことを特徴とする方法。
  2. サイクリン依存性キナーゼがCDK4及びCDK6の少なくともいずれかである請求項1に記載の方法。
  3. 関節組織の破壊が軟骨組織の破壊である請求項1から2のいずれかに記載の方法。
  4. 関節組織の破壊を誘導する生命現象が遺伝子発現である請求項3に記載の方法。
  5. 関節組織の破壊を誘導する生命現象が滑膜線維芽細胞におけるMMP−3の遺伝子発現である請求項3に記載の方法。
  6. 関節組織の破壊を誘導する生命現象が滑膜線維芽細胞の増殖である請求項3に記載の方法。
  7. 被験物質の抗関節リウマチ活性を評価する方法であって、
    (a)サイクリン依存性キナーゼに対する被験物質の結合能力を検出する工程、
    (b)滑膜線維芽細胞におけるMMP−3の遺伝子発現に対する被験物質の抑制作用を検出する工程、及び
    (c)滑膜線維芽細胞の増殖に対する被験物質の抑制作用を検出する工程、
    を含むことを特徴とする方法。
  8. 関節組織の破壊が硬骨組織の破壊である請求項1から2のいずれかに記載の方法。
  9. 関節組織の破壊を誘導する生命現象が遺伝子発現である請求項8に記載の方法。
  10. 関節組織の破壊を誘導する生命現象が破骨前駆細胞におけるNFATc1の遺伝子発現である請求項8に記載の方法。
  11. 関節組織の破壊を誘導する生命現象が破骨前駆細胞から破骨細胞への分化である請求項8に記載の方法。
  12. 関節組織の破壊を誘導する生命現象が破骨前駆細胞の増殖である請求項8に記載の方法。
  13. 被験物質の抗関節リウマチ活性を評価する方法であって、
    (a)サイクリン依存性キナーゼに対する被験物質の結合能力を検出する工程、
    (b)破骨前駆細胞におけるNFATc1の遺伝子発現に対する被験物質の抑制作用を検出する工程、及び
    (c)破骨前駆細胞の増殖に対する被験物質の抑制作用を検出する工程、
    を含むことを特徴とする方法。
  14. 被験物質の抗関節リウマチ活性を評価する方法であって、
    (a)サイクリン依存性キナーゼに対する被験物質の結合能力を検出する工程、及び
    (b)破骨前駆細胞の増殖及び破骨細胞への分化に対する被験物質の抑制作用を検出する工程、
    を含むことを特徴とする方法。
  15. 抗関節リウマチ活性を有する物質のスクリーニング方法であって、
    (A)請求項1から14のいずれかに記載の方法により、被験物質の抗関節リウマチ活性を評価する工程、及び
    (B)工程(A)において抗関節リウマチ活性を有すると評価された被験物質を選択する工程、を含むことを特徴とする方法。
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