JPWO2006132321A1 - リン障害予防改善治療剤及びその製造方法 - Google Patents

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Abstract

本発明は、第一鉄種が存在する条件下で生成された水酸化第二鉄を有効成分として含むことを特徴とする、生体安全性が高くリン吸着能も高いリン障害予防改善治療剤及び経口剤を提供する。

Description

本発明は、過剰摂取が問題となるリン酸イオンを高効率で吸着可能である薬剤及び経口剤に関する。より具体的には、(1)腎不全患者のリン血中濃度の改善及びリンの体内蓄積量のコントロールを可能にする、リンによる臓器障害の予防、改善又は治療剤、(2)飲食品等からのリンの過剰摂取の問題解消を可能にする、リンに起因した各種疾病を予防するための経口剤、に関する。
リンは、生体に必須な物質である。ここで、ヒトは、食物を消化管(特に小腸)でリン酸イオンにまで分解し吸収する。ところで、日本人の成人の一日平均リンの摂取量は、約1000mgである。正常人に関しては、このうち約80パーセントが吸収され、そして、吸収された約80パーセントのリンが腎臓より排泄される、といわれている。しかしながら、腎機能が損なわれると(腎不全)、リンの排泄量が減少する結果、血清のリンの濃度が上昇する(高リン血症)。ここで、健常人の血清リン濃度は、0.25〜4.5mg/dlに維持されており、4.5mg/dl以上が高リン血症と定義されている。
この高リン血症は、カルシウム代謝の異常、副甲状腺機能の亢進を惹起し、全身の骨の変化(腎性骨異栄養症状症)や、様々な臓器へのカルシウムの沈着、特に、心臓弁膜・大動脈・肺等への沈着をもたらす(異所性石灰沈着)。これらは、腎不全患者のQOL(生活の質)を損ねるだけでなく、心筋梗塞等の致命的な合併症を引き起こし、生命予後を悪くしている。更に、高リン血症そのものが、腎障害の促進因子ともいわれている。このように、腎不全患者ではいかにリンの血中濃度を正常に保つかが重要な課題である。
ここで、前記のように、腎不全では腎臓が排泄できるリンの絶対量が減少する。したがって、腎不全では、消化管より吸収されたリンの量が、この腎臓のキャパシティーを超えているときは体内にリンが蓄積されることになる。そこで、これまでは、消化管より吸収されるリンの総量が腎臓のキャパシティーを超えないようにするといった、腎不全の治療がなされてきた。具体的には、リン制限食による食事療法に加え、リン吸着剤(消化管、特に小腸内で、食物より生成されたリン酸イオンを吸着し、そのまま便に排泄させ、リンの吸収量を減らすことができる薬剤)との併用で、治療が行われてきた(例えば、特許文献1〜4)。
しかしながら、これまで実際に使用されまた臨床応用が検討されているリン吸着剤は、以下のような問題を抱えている。
まず、アルミニウム製剤(水酸化アルミゲル)は、消化管内でのリン酸イオンの吸着力が強く血清リン濃度を下げるが、いったん消化管より吸収されたアルミニウムは体外へ排泄されないため、アルミニウムの体内蓄積によるアルミニウム中毒が問題となった(アルミニウム脳症、アルミニウム骨症、貧血)。このため、我が国では、1992年6月より透析患者へのアルミニウム製剤の投与は禁忌となっている。
次に、カルシウム製剤(炭酸カルシウム、酢酸カルシウム等)は、アルミ製剤にかわり現在でも我が国で広く使われているが、高リン血症を改善するには多量の服用が必要であること及び味覚が悪く飲みにくいこと、逆にカルシウムが消化管より吸収され高カルシウム血症を引き起こし異所性石灰化等の更なる悪化をもたらすという問題がある。
更に、近年新しい物質がリン吸着剤として登場し、現在その使用が検討されている。その一つは、米国で開発されたリン結合性ポリマーであるプロプ−2−エン−1−アミンと1−クロロ−2,3−エポキシプロパンとの重合体の塩酸塩{塩酸セベラマー(商標)}であり、既に我が国では2003年1月に認可され使用されている。しかしながら、当該剤は、高リン血症を改善するには多量服用をしなければならない場合が多いことに加え、便秘等の消化管合併症の頻度が高くまだ解決しなければならない問題が沢山ある。また、もう一つの炭酸ランタンは、米国及び欧州でその使用が検討されているが、ランタンの生体への影響が充分解明されておらず、アルミニウム製剤と同じ問題を抱えている可能性があることから、実用化されるかどうか疑問がある。
特開平2−77266号公報 特開平3−182259号公報 特開平7−2903号公報 WO01/66607号公報
更に、1999年以降、各種鉄化合物(stabilized polynuclear iron hydroxide, iron(3)-saccharide complex,
iron(3)-sucrose complex, ferric polymaltose complex, ferric citrate)をリン吸着剤として使用することが検討されている。しかしながら、前記鉄化合物は、リン酸吸着力が低く高リン血症を改善するには炭酸カルシウムや塩酸セベラマー(商標)と同様多量に服用しなければならないという問題がある。但し、当該物質は、臨床応用された際、アルミゲルのような体内蓄積(鉄中毒)や塩酸セベラマーのような重篤な消化器の合併症はない。そこで、本発明は、このような長所を持つ鉄化合物に着目した上で、当該鉄化合物のリン酸吸着性を従来の吸着剤と同程度乃至はこれを凌駕する程に吸着性を高めることにより、生体安全性が高く性能的にも見劣りしないリン障害予防改善治療剤を提供することを第一の目的とする。
加えて、リン含有飲食品を多量に摂取するかリン酸塩を含む薬剤を摂取すると、消化管の中で多量のリン酸イオンが出現する。そして、消化管の中で生成した多量のリン酸が消化管粘膜より多量に吸収され、腎臓の排泄能力を超えたとき、体内にリンが蓄積する結果、前記リン障害がもたらされる可能性もある。そこで、本発明は、飲食物や薬剤の消化分解により発生するリン酸イオンを吸着することにより、当該リン酸イオンが直接的又は間接的に関与する各種疾病等を予防するために有効な、リン酸イオンの吸着能が高い鉄化合物を有効成分とする生体安全性に優れた経口剤(例えば、飲食品付加剤、飲食品補助剤、薬品付加剤又は薬品補助剤)を提供することを第二の目的とする。
本発明(1)は、第一鉄種が存在する条件下で生成された水酸化第二鉄を含有することを特徴とするリン障害予防改善治療剤である。
本発明(2)は、前記水酸化第二鉄が、第一鉄水溶液に酸化剤を第一鉄の当量未満の量で加えた後、アルカリを加え反応終了時のpHが1.5〜5.5(好適には1.5〜4.0、より好適には2.0〜3.5)になるよう調整して生成された、前記発明(1)のリン障害予防改善治療剤である。
本発明(3)は、前記水酸化第二鉄が、第一鉄水溶液に酸化剤を酸化還元電位が+100〜400mV(好適には+100〜350mV、より好適には+200〜300mV)になるように加えた後、アルカリを加え反応終了時のpHが1.5〜5.5(好適には1.5〜4.0、より好適には2.0〜3.5)になるよう調整して生成された、前記発明(1)のリン障害予防改善治療剤である。
本発明(4)は、前記水酸化第二鉄が、第一鉄水溶液に酸化剤を第一鉄の当量未満の量で加えて酸化還元電位を+100〜400mVとした後、アルカリを加え反応終了時のpHが1.5〜5.5になるよう調整して生成された、前記発明(1)のリン障害予防改善治療剤である。
本発明(5)は、前記酸化剤が次亜塩素酸塩である、前記発明(2)〜(4)のいずれか一つのリン障害予防改善治療剤である。
本発明(6)は、前記水酸化第二鉄が非晶質である、前記発明(1)〜(5)のいずれか一つのリン障害予防改善治療剤である。
本発明(7)は、グリセリンを更に含む、前記発明(1)〜(6)のいずれか一つのリン障害予防改善治療剤である。
本発明(8)は、前記障害が高リン血症である、前記発明(1)〜(7)のいずれか一つのリン障害予防改善治療剤である。
本発明(9)は、第一鉄水溶液に酸化剤を第一鉄の当量未満の量で加えた後、アルカリを加えpH1.5〜5.5(好適には1.5〜4.0、より好適には2.0〜3.5)になるよう調整する工程を含むことを特徴とする、水酸化第二鉄を含有するリン障害予防改善治療剤の製造方法である。
本発明(10)は、第一鉄水溶液に酸化剤を酸化還元電位が+100〜400mV(好適には+100〜350mV、より好適には+200〜300mV)になるように加えた後、アルカリを加えpH1.5〜5.5(好適には1.5〜4.0、より好適には2.0〜3.5)になるよう調整する工程を含むことを特徴とする、水酸化第二鉄を含有するリン障害予防改善治療剤の製造方法である。
本発明(11)は、第一鉄水溶液に酸化剤を第一鉄の当量未満の量で加えて酸化還元電位を+100〜400mV(好適には+100〜350mV、より好適には+200〜300mV)とした後、アルカリを加えpH1.5〜5.5(好適には1.5〜4.0、より好適には2.0〜3.5)になるよう調整する工程を含むことを特徴とする、水酸化第二鉄を含有するリン障害予防改善治療剤の製造方法である。
本発明(12)は、前記酸化剤が次亜塩素酸塩である、前記発明(9)〜(11)のいずれか一つの製造方法である。
本発明(13)は、前記水酸化第二鉄が非晶質である、前記発明(9)〜(12)のいずれか一つの製造方法である。
本発明(14)は、グリセリンを添加する工程を更に含む、前記発明(9)〜(13)のいずれか一つの製造方法である。
本発明(15)は、脱水、凍結乾燥又は噴霧乾燥する工程を更に含む、前記発明(9)〜(14)のいずれか一つの製造方法である。
本発明(16)は、前記pH調整工程の後、脱水、凍結乾燥又は噴霧乾燥する工程の前、当該工程時又はその後に、グリセリンの添加工程を実施する、前記発明(15)の製造方法である。
本発明(17)は、前記障害が高リン血症である、前記発明(9)〜(16)のいずれか一つの製造方法である。
本発明(18)は、第一鉄種が存在する条件下で生成された水酸化第二鉄を含有することを特徴とする、飲食品又は薬品中のリン酸イオンを吸着するための経口剤である。
本発明(19)は、前記水酸化第二鉄が、第一鉄水溶液に酸化剤を第一鉄の当量未満の量で加えた後、アルカリを加え反応終了時のpHが1.5〜5.5(好適には1.5〜4.0、より好適には2.0〜3.5)になるよう調整して生成された、前記発明(18)の経口剤である。
本発明(20)は、前記水酸化第二鉄が、第一鉄水溶液に酸化剤を酸化還元電位が+100〜400mV(好適には+100〜350mV、より好適には+200〜300mV)になるように加えた後、アルカリを加え反応終了時のpHが1.5〜5.5(好適には1.5〜4.0、より好適には2.0〜3.5)になるよう調整して生成された、前記発明(18)の経口剤である。
本発明(21)は、前記水酸化第二鉄が、第一鉄水溶液に酸化剤を第一鉄の当量未満の量で加えて酸化還元電位を+100〜400mV(好適には+100〜350mV、より好適には+200〜300mV)とした後、アルカリを加え反応終了時のpHが1.5〜5.5(好適には1.5〜4.0、より好適には2.0〜3.5)になるよう調整して生成された、前記発明(18)の経口剤である。
本発明(22)は、前記酸化剤が次亜塩素酸塩である、前記発明(19)〜(21)のいずれか一つの経口剤である。
本発明(23)は、前記水酸化第二鉄が非晶質である、前記発明(18)〜(22)のいずれか一つの経口剤である。
本発明(24)は、グリセリンを更に含む、前記発明(18)〜(23)のいずれか一つの経口剤である。
本発明(25)は、飲食品付加剤、飲食品補助剤、薬品付加剤又は薬品補助剤である、前記発明(18)〜(24)のいずれか一つの経口剤である。
本発明(26)は、第一鉄水溶液に酸化剤を第一鉄の当量未満の量で加えた後、アルカリを加えpH1.5〜5.5(好適には1.5〜4.0、より好適には2.0〜3.5)になるよう調整する工程を含むことを特徴とする、水酸化第二鉄を含有する、飲食品又は薬品中のリン酸イオンを吸着するための経口剤の製造方法である。
本発明(27)は、第一鉄水溶液に酸化剤を酸化還元電位が+100〜400mV(好適には+100〜350mV、より好適には+200〜300mV)になるように加えた後、アルカリを加えpH1.5〜5.5(好適には1.5〜4.0、より好適には2.0〜3.5)になるよう調整する工程を含むことを特徴とする、水酸化第二鉄を含有する、飲食品又は薬品中のリン酸イオンを吸着するための経口剤の製造方法である。
本発明(28)は、第一鉄水溶液に酸化剤を第一鉄の当量未満の量で加えて酸化還元電位を+100〜400mV(好適には+100〜350mV、より好適には+200〜300mV)とした後、アルカリを加えpH1.5〜5.5(好適には1.5〜4.0、より好適には2.0〜3.5)になるよう調整する工程を含むことを特徴とする、飲食品又は薬品中のリン酸イオンを吸着するための経口剤の製造方法である。
本発明(29)は、前記酸化剤が次亜塩素酸塩である、前記発明(26)〜(28)のいずれか一つの製造方法である。
本発明(30)は、前記水酸化第二鉄が非晶質である、前記発明(26)〜(29)のいずれか一つの製造方法である。
本発明(31)は、グリセリンを添加する工程を更に含む、前記発明(26)〜(30)のいずれか一つの製造方法である。
本発明(32)は、脱水、凍結乾燥又は噴霧乾燥する工程を更に含む、前記発明(26)〜(31)のいずれか一つの製造方法である。
本発明(33)は、前記pH調整工程の後、脱水、凍結乾燥又は噴霧乾燥する工程の前、当該工程時又はその後に、グリセリンの添加工程を実施する、前記発明(32)の製造方法である。
本発明(34)は、飲食品付加剤、飲食品補助剤、薬品付加剤又は薬品補助剤である、前記発明(26)〜(33)のいずれか一つの製造方法である。
ここで、本明細書における各用語について説明する。「第一鉄種」とは、第一鉄イオンや第一鉄化合物(例えば水酸化第一鉄)等の、鉄が二価で存在する物質を指す。「第一鉄水溶液」とは、第一鉄イオンが存在する水溶液であれば特に限定されず、他の物質を含んでいてもよい。「酸化剤」とは、特に限定されず、次亜塩素酸塩、過酸化水素、カルシウムハイドロパーオキサイドを挙げることができ、好適には、次亜塩素酸塩である。「リン障害」とは、多くの場合は慢性腎不全に起因した、体内にリンが過剰に溜まったために各種臓器に障害が引き起こされることを指し、主たる疾病乃至は症状としては、例えば、骨の障害や心臓・動脈・肺等の臓器へのカルシウムの沈着、貧血、二次性副甲状腺機能亢進症を挙げることができる。「予防改善治療剤」とは、予防、改善、治療の内、少なくとも一つの目的で使用される薬剤を指す。「経口剤」とは、経口的に投与されるものであれば特に限定されず、例えば、飲食品に添加する場合(飲食品付加剤)、飲食品とは別に摂取する場合(サプリメントのような飲食品補助剤)、薬剤に添加する場合(薬品付加剤)、薬剤とは別に摂取する場合(薬品補助剤)のいずれをも包含する。
以下、本発明の最良形態について説明する。尚、本発明に係る「リン障害予防改善治療剤」及び「飲食品又は薬品中のリン酸イオンを吸着するための経口剤」は、用途が一部異なる点を除き(リン障害の予防という点では共通)、成分的には共通する(リン吸着剤)。したがって、まず、当該リン吸着剤を説明し、次に、各用途について詳述する。
本リン吸着剤は、第一鉄種(例えば水酸化第一鉄)が存在する条件下で生成された非晶質の水酸化第二鉄を含む。ここで、高リン吸着能を示す有効成分は、非晶質の水酸化第二鉄であるが、水酸化第二鉄であれば当該効果を奏する訳ではない。例えば、第二鉄溶液に苛性ソーダを加え生成した水酸化第二鉄や市販の水酸化第二鉄はそれ程高いリン吸着能を示さない(実施例参照)。本水酸化第二鉄は、Fe2+−Fe(OH)系でのEh(酸化還元電位)−pH図に基づけば、鉄イオンが安定な化学種として存在する場合には第一鉄に止まっているEh−pH条件下でありながら、第二鉄として存在しているような極めて不安定な条件下で生成したものであるので、生成した沈殿物中の水酸化第二鉄に第一鉄を含むと共に、不安定で非晶質程度が極めて高い状態にある。したがって、−Fe−O−Fe−O−Fe−結合が不安定で切れやすい特性を具えており、本水酸化第二鉄は結合を切りながら、新たに生成するFe-OH基とリン酸イオンなどとが反応して、著しく高い吸着力を示すと推測される。
ここで、水酸化第二鉄の化学構造は定かでないが、実験結果等に基づけば以下の構造ではないかと推定される(但し、本発明の水酸化第二鉄は、当該推定された形態に何ら限定されるものではない)。即ち、本水酸化第二鉄は、第二鉄を必須的に含有すると共に、鉄原子に酸素原子又は水酸基が六配位しており、酸素原子を介して六配位の鉄が連結している形態であると推定される。そして、当該鉄原子の周囲に存在するある種の水分子が、鉄原子と酸素原子との結合に影響を与える結果、当該結合を不安定化しているものと推定される。そして、鉄原子に配位している水酸基又は不安定化した酸素原子とアニオン(例えばリン酸イオン)が交換する結果、鉄原子がアニオン(リン酸イオン)と結合すると考えられる。当該仮定の下、好適な形態は、適度な水酸基の存在によって−Fe−O−Fe−O−Fe−(クラスター)が適度の大きさであるものである。
ここで、本リン吸着剤の一製造工程においては、以下で説明するように、第一鉄と酸化剤(例えば次亜塩素酸ナトリウム)とを反応させることにより、水酸化第二鉄に変化させている。ここで、当該酸化還元反応式を以下に示す。尚、以下の式では、理解の容易上、水酸化第二鉄を簡略化して「Fe(OH)」と記載した。
式1
このように、第一鉄2モルに対して次亜塩素酸1モルが反応する(即ち、第一鉄2モルに対して次亜塩素酸1モルが当量となる)。そして、以下で説明するように、当該製造工程においては、使用する酸化剤の量を第一鉄の当量未満(例えば、第一鉄2モルの場合には、次亜塩素酸1モル未満)とすることにより、第一鉄が完全には第二鉄に酸化されない状態を構築するようにしている。
ここで、「非晶質の」や「非晶質程度が極めて高い」とは、CuのKα線をX線源とする粉末X線回折において2θ値で5°〜80°の範囲に少なくとも1つの非晶質ハロー(halo)図形を有し、明らかな結晶性ピークが存在しないことを意味する。尚、製造時の出発原料等によって非晶質ハロー図形中に僅かながら結晶性ピークが観測される場合があるが、そのような場合、CuのKα線をX線源とする粉末X線回折において2θ値で5°〜80°の範囲に観測される結晶性ピーク強度が、対応する結晶性参照物質の結晶性ピークに対する割合(%X線回折強度/参照物質)で5%以下であればよい。具体的な%X線回折強度/参照物質としてはASTM(American Society for Testing and Materials)D3906に準拠して次式で与えられるものを使用することができる。尚、積分反射強度の算出に用いる結晶性ピーク数は特に限定されることはないが、1〜8本の範囲が好ましい。
式2
このように、有効成分は水酸化第二鉄であるが、前記のように第一鉄種(例えば水酸化第一鉄)が存在する条件下で生成されるので、不可避的に第一鉄種を含有する。第一鉄種(例えば水酸化第一鉄)の含有量は、特に限定されないが、乾燥重量(炉乾、105℃、2h)に対し、通常は5重量%以下であり、好適には0.01〜4重量%であり、より好適には0.1〜2重量%である。尚、製造時にはこのように不可避的に第一鉄種を含有するが、当該成分を洗浄により除去してもよい。
更に、本リン吸着剤は、有効成分である非晶質の水酸化第二鉄が存在する限り、結晶質の水酸化第二鉄を含有していてもよい。この場合、好適には、非晶質成分が30%以上であり、より好適には50%以上、更に好適には75%以上である。
本リン吸着剤は、更にグリセリンを含有することが好適である。水酸化第二鉄は、乾燥やaging(長期保存)の方法如何では、−Fe−O−Fe−O−Fe−の鉄に結合しているOH基が脱水し、クラスターが大きくなる等して安定な状態に変化し、吸着力が低下する可能性がある。したがって、例えば、湿状態の水酸化第二鉄にグリセリンを混合することにより、乾燥してもOH基の脱水が起こり難くなるため、吸着力の低下を顕著に抑制できる。ここで、グリセリンの含有量は、好適には乾燥重量(炉乾、105℃、2h)に対し、20重量%以下である。
次に、本最良形態に係るリン吸着剤の製造方法について説明する。本リン吸着剤は、(工程1A)第一鉄水溶液に酸化剤(例えば次亜塩素酸塩水溶液)を第一鉄の当量未満(好適には0.3〜0.95、より好適には0.4〜0.8)の量で加えた後、又は、(工程1B)第一鉄水溶液に酸化剤(例えば次亜塩素酸塩水溶液)を酸化還元電位が+100〜400mV(好適には+100〜350mV、より好適には+200〜300mV)になるように加えた後、(工程2)アルカリ(好適には苛性アルカリ)を加えpH1.5〜5.5(好適には1.5〜4.0、より好適には2.0〜3.5)になるよう調整する、ことにより得られる。ここで、(工程1A)又は(工程1B)と(工程2)の順番が重要であり、逆にすると吸着能の高いリン吸着剤を得ることができない。以下、各条件について説明する。
まず、第一鉄水溶液において使用可能な第一鉄塩は、水溶性塩である限り特に限定されず、例えば、硫酸第一鉄、塩化第一鉄、硝酸第一鉄を挙げることができるが、沈殿物の濾過が簡単であるために硫酸第一鉄が好適である。更に、第一鉄水溶液における第一鉄イオンの濃度は、0.05〜2Mが好適である。
次に、使用可能な酸化剤は、特に限定されないが、好適には次亜塩素酸塩である。ここで、次亜塩素酸塩としては、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カルシウムを挙げることができるが、特に次亜塩素酸ナトリウムが好適である。尚、次亜塩素酸塩水溶液における次亜塩素酸塩濃度は、特に限定されないが、市販されている5〜10%のものが使用可能である。
ここで、工程1Aを採用する場合においては、使用する酸化剤の量を、第一鉄水溶液における第一鉄の当量未満となる量とする。ここで、当該酸化剤の量は、第一鉄の量に対して、当量比で0.3〜0.95が好適であり、0.4〜0.8がより好適である。
また、工程1Bを採用する場合においては、第一鉄水溶液に酸化剤(例えば次亜塩素酸塩水溶液)を、酸化還元電位が+100〜400mV(好適には+100〜350mV、より好適には+200〜300mV)になるように添加する。この際、攪拌しながら酸化剤液(例えば次亜塩素酸塩水溶液)を滴下することが好適である。
尚、工程1Aと工程1Bとは、必ずしも相互独立の工程とは限らず、工程1Aを実施すると、結果的に工程1Bを実施することになる場合や、その逆の場合をも包含する。
次に、工程1Aで所定量の酸化剤を添加した後、又は、工程1Bで酸化還元電位が前記範囲内に収まったことを確認した後、アルカリを添加するという工程2を行う。ここで、アルカリは、特には限定されないが、好適には苛性アルカリである。苛性アルカリとしては、例えば、苛性ソーダ、苛性カリウムを挙げることができ、苛性ソーダが好適である。加えて、アルカリ濃度(好適には苛性アルカリ濃度)は、例えば、0.5〜5Nである。そして、所定量の酸化剤が添加された溶液(工程1A)又は前記酸化還元電位が前記範囲内に収まった溶液(工程1B)に、アルカリ水溶液(好適には苛性アルカリ水溶液)を添加し、pH1.5〜5.5(好適には1.5〜4.0、より好適には2.0〜3.5)になるよう調整する。この操作を行なうことにより、非晶質の水酸化第二鉄が沈殿し、本リン吸着剤を得ることができる。
尚、本リン吸着剤は、取扱上乾燥形態が好適である。ここで、乾燥方法は、脱水、凍結乾燥又は噴霧乾燥が好適であり、これらの方法によると乾燥時のFe−OH結合からの脱水が少ないのでリン酸吸着力は高く保たれる。
更に、乾燥前、乾燥時又はその後にグリセリンを混合するとリン酸吸着力の低下を少なく抑えることができる。ここで、グリセリンの添加量は、乾燥重量(炉乾、105℃、2h)に対し、20%以下(好適には3〜7%)である。尚、グリセリンを混合するタイミングは、特に限定されないが、好適にはpH調製後乾燥前である。
次に、本リン吸着剤の用途及び使用方法について説明する。本リン吸着剤は、過剰なリン及び生体安全性が問題となる各種分野、例えば、慢性腎不全及び人工透析患者用として有用である。以下、具体的に説明する。
まず、慢性腎不全患者及び人工透析患者の「リン障害予防改善治療剤」(リン吸収阻害剤)として本リン吸着剤を用いるときは、本剤を腸溶カプセルに充填し経口投与するのが最適であると考えられる。投与量は、患者の状態、とくに腎不全の程度及び血中リン濃度によるが、一日あたり1〜5gである。このように、慢性腎不全患者及び人工透析患者用として使用した場合、本水酸化第二鉄はリン酸イオンと結合し、水不溶性のリン酸鉄となり便中に排泄されることになる。尚、水酸化第二鉄と水溶性リン酸イオンとの反応は一分以内で終了する。したがって、食物が小腸内を2〜3時間かけて通過する間に生成されたリン酸イオンは、ほぼ100パーセント水酸化鉄に吸着排泄される。加えて、本剤が実用量で経口投与されたとき、消化管内で本発明物質由来の鉄イオンの吸収はほとんど考えられない。
また、リンの過剰摂取に起因する各種疾病を予防する観点から、本リン吸着剤を「経口剤」として使用してもよい。即ち、リンを含有する飲食品や薬剤と共に本剤を経口的に摂取したとき、腸内で発生するリン酸を本物質が吸着する。このように、本剤は、リン酸塩の多量摂取によるリン障害の予防に、極めて有効である。尚、投与量は、摂取するヒトの年齢や体重、摂取する飲食物の種類や量等にも依存するが、例えば、一日あたり1〜5gである。また、飲食品や薬剤等の経口的に体内に取り込まれるものに添加する形(例えば添加剤)でも、これらとは物理的に別個の形(例えばサプリメント)でもよい。
リン吸着剤(リン障害予防改善治療剤、経口剤)の製造
0.1M硫酸第一鉄水溶液800mlに6%次亜塩素酸ナトリウム(活性塩素5%)を酸化還元電位が270mVになるように攪拌しながら滴下(滴下量=29.8g;当量比=0.588)し、攪拌しながら3分間放置した。その液に1N苛性ソーダをpHが2.7で安定するまで加え、本実施例に係るリン吸着剤を得た。反応終了時のpHは2.7、酸化還元電位は+204mVであった。
成分分析
(1)Fe形態別定量分析
上記リン吸着剤について、T−Fe、M−Fe、Fe2+及びFe3+に関して定量分析を行なった(ここで、「T」はtotalを意味し、「M」は金属を意味する)。尚、T−Feに関しては、塩化第一スズ還元−二クロム酸カリウム滴定法、M−Feに関しては、塩化第二水銀溶解−二クロム酸カリウム滴定法、Fe2+に関しては、不活性ガス充填酸溶解−二クロム酸カリウム滴定法で測定し、Fe3+に関しては、算出法〔Fe3+=T−Fe−(M−Fe+Fe2+)〕で算出した。表1に結果を示す。尚、No.1はペースト状のリン吸着剤であり、No.2は凍結乾燥したリン吸着剤である。
(2)X線回折(XRD)による構成相の同定
装置: リガク社製 RINT−2200型
管球: Cu
電圧―電流: 40kV−40mA
走査速度: 4°/min
走査範囲: 5°〜80°(2θ)
上の測定条件でX線回折試験を行なった。X線回折測定チャートを図1〜図4に、解析結果を表2に示す。
解析結果より、試料No.1及びNo.2共にレピドクロサイト(γ−FeOOH)が非常に弱く検出された。また、両試料ともX線回折チャートにおいて得られた回折ピーク以外には全体的にブロード化しており、非晶質度が極めて高いことが判明した。
リン吸着能試験
リン吸収能力の測定方法は、本実施例に係るリン吸着剤を乾燥重量0.5gとり、それにリン酸アンモニウム溶液(5.9gP/l)20ml加え、時々振り混ぜながら24時間放置した。そして、これをろ過しろ液のリン濃度を測定し算出した。尚、比較のため、1MFeCl水溶液に1NのNaOHをpH7.5〜8.0になるように急速に攪拌して生成した水酸化第二鉄や、水酸化第二鉄が脱水して生成した含水酸化鉄(市販品)についても同様の手法で吸着能を試験した。その結果を表3に示す。
グリセリン等の添加例
上記の方法に従い製造した含水率70%のリン吸着剤に、グリセリン、エタノール及びスキムミルクを、それぞれリン吸着剤の5重量%加え凍結乾燥した。当該乾燥物のリン吸着能を表4に示す。
試験例1(ラットを用いての血中リン濃度低下作用の確認試験)
一群3匹のSD系雄性ラット(8週齢)に本リン吸着剤(リン障害予防改善治療剤)を飼料に加えた混餌投与で1週間飼育した。投与前の血中リン濃度(Day1)、混餌投与2日後(Day3)、同4日後(Day5)、同7日後(Day8)に血液を採取し、血中リン濃度を測定した。本リン吸着剤を含まない群をControlとし、本リン吸着剤を1%、3%、5%含む餌を摂取した群をそれぞれ本リン吸着剤1%、本リン吸着剤3%、本リン吸着剤5%として図中(図5)に示した。また、Controlの各時点でのリン濃度との有意差を**で示した(P<0.01)。
試験例2(小腸液と同系下でのリン吸着試験)
試験液の組成を腸内溶液の組成に近似させるため、経腸栄養剤―エレンタール(味の素ファルマ株式会社製)水溶液187g/700mlと、小腸液モデルであるpH7.2に調整したリンゲル液1lとを混合し試験液とした。そして、当該試験液100mlに対して本実施例に係るリン吸着剤(経口剤)0.178g(乾重換算)を添加した後、系内の水溶性P濃度を測定した。また、比較のため、リン吸着剤を添加しない場合についても同様の測定を行った(試験1及び2)。更に、前記試験液に水溶性リン酸(当該経腸栄養剤中の有機態Pの全量が腸内で消化されたと仮定した場合の量)を添加した場合についても同様の測定を行った(試験3及び4)。その結果を表に示す。表から分かるように、水溶性Pは本リン吸着剤(経口剤)により除去され、大量の水溶性リンを更に追加すると本リン吸着剤(経口剤)によるリン除去量は多くなった。即ち、水溶性リン濃度が低いと吸着量は少なく、高いと吸着量が多くなった。尚、表中の「全P」は、水溶性及び非水溶性リンの合計値である。また、「非水溶性リン」は、タンパク質中のリン等水溶性でないリンを指す。
図1は、試料No.1のX線回折測定チャートである。 図2は、試料No.1のX線回折測定チャートである。 図3は、試料No.2のX線回折測定チャートである。 図4は、試料No.2のX線回折測定チャートである。 図5は、試験例1(ラットを用いたリン吸着剤の血中リン濃度低下作用)の結果を示したものである。
本発明は、過剰摂取が問題となるリン酸イオンを高効率で吸着可能である薬剤及び経口剤に関する。より具体的には、腎不全患者のリン血中濃度の改善及びリンの体内蓄積量のコントロールを可能にする、リンによる臓器障害の予防、改善又は治療剤に関する。
リンは、生体に必須な物質である。ここで、ヒトは、食物を消化管(特に小腸)でリン酸イオンにまで分解し吸収する。ところで、日本人の成人の一日平均リンの摂取量は、約1000mgである。正常人に関しては、このうち約80パーセントが吸収され、そして、吸収された約80パーセントのリンが腎臓より排泄される、といわれている。しかしながら、腎機能が損なわれると(腎不全)、リンの排泄量が減少する結果、血清のリンの濃度が上昇する(高リン血症)。ここで、健常人の血清リン濃度は、0.25〜4.5mg/dlに維持されており、4.5mg/dl以上が高リン血症と定義されている。
この高リン血症は、カルシウム代謝の異常、副甲状腺機能の亢進を惹起し、全身の骨の変化(腎性骨異栄養症状症)や、様々な臓器へのカルシウムの沈着、特に、心臓弁膜・大動脈・肺等への沈着をもたらす(異所性石灰沈着)。これらは、腎不全患者のQOL(生活の質)を損ねるだけでなく、心筋梗塞等の致命的な合併症を引き起こし、生命予後を悪くしている。更に、高リン血症そのものが、腎障害の促進因子ともいわれている。このように、腎不全患者ではいかにリンの血中濃度を正常に保つかが重要な課題である。
ここで、前記のように、腎不全では腎臓が排泄できるリンの絶対量が減少する。したがって、腎不全では、消化管より吸収されたリンの量が、この腎臓のキャパシティーを超えているときは体内にリンが蓄積されることになる。そこで、これまでは、消化管より吸収されるリンの総量が腎臓のキャパシティーを超えないようにするといった、腎不全の治療がなされてきた。具体的には、リン制限食による食事療法に加え、リン吸着剤(消化管、特に小腸内で、食物より生成されたリン酸イオンを吸着し、そのまま便に排泄させ、リンの吸収量を減らすことができる薬剤)との併用で、治療が行われてきた(例えば、特許文献1〜4)。
しかしながら、これまで実際に使用されまた臨床応用が検討されているリン吸着剤は、以下のような問題を抱えている。
まず、アルミニウム製剤(水酸化アルミゲル)は、消化管内でのリン酸イオンの吸着力が強く血清リン濃度を下げるが、いったん消化管より吸収されたアルミニウムは体外へ排泄されないため、アルミニウムの体内蓄積によるアルミニウム中毒が問題となった(アルミニウム脳症、アルミニウム骨症、貧血)。このため、我が国では、1992年6月より透析患者へのアルミニウム製剤の投与は禁忌となっている。
次に、カルシウム製剤(炭酸カルシウム、酢酸カルシウム等)は、アルミ製剤にかわり現在でも我が国で広く使われているが、高リン血症を改善するには多量の服用が必要であること及び味覚が悪く飲みにくいこと、逆にカルシウムが消化管より吸収され高カルシウム血症を引き起こし異所性石灰化等の更なる悪化をもたらすという問題がある。
更に、近年新しい物質がリン吸着剤として登場し、現在その使用が検討されている。その一つは、米国で開発されたリン結合性ポリマーであるプロプ−2−エン−1−アミンと1−クロロ−2,3−エポキシプロパンとの重合体の塩酸塩{塩酸セベラマー(商標)}であり、既に我が国では2003年1月に認可され使用されている。しかしながら、当該剤は、高リン血症を改善するには多量服用をしなければならない場合が多いことに加え、便秘等の消化管合併症の頻度が高くまだ解決しなければならない問題が沢山ある。また、もう一つの炭酸ランタンは、米国及び欧州でその使用が検討されているが、ランタンの生体への影響が充分解明されておらず、アルミニウム製剤と同じ問題を抱えている可能性があることから、実用化されるかどうか疑問がある。
特開平2−77266号公報 特開平3−182259号公報 特開平7−2903号公報 WO01/66607号公報
更に、1999年以降、各種鉄化合物(stabilized polynuclear iron hydroxide, iron(3)-saccharide complex,
iron(3)-sucrose complex, ferric polymaltose complex, ferric citrate)をリン吸着剤として使用することが検討されている。しかしながら、前記鉄化合物は、リン酸吸着力が低く高リン血症を改善するには炭酸カルシウムや塩酸セベラマー(商標)と同様多量に服用しなければならないという問題がある。但し、当該物質は、臨床応用された際、アルミゲルのような体内蓄積(鉄中毒)や塩酸セベラマーのような重篤な消化器の合併症はない。そこで、本発明は、このような長所を持つ鉄化合物に着目した上で、当該鉄化合物のリン酸吸着性を従来の吸着剤と同程度乃至はこれを凌駕する程に吸着性を高めることにより、生体安全性が高く性能的にも見劣りしないリン障害予防改善治療剤を提供することを目的とする。
本発明(1)は、第一鉄種が存在する条件下で生成された水酸化第二鉄を含有することを特徴とするリン障害予防改善治療剤(飲食品又は薬品中のリン酸イオンを吸着するための経口剤を除く)である。
本発明(2)は、前記水酸化第二鉄が、第一鉄水溶液に酸化剤を第一鉄の当量未満の量で加えた後、アルカリを加え反応終了時のpHが1.5〜5.5(好適には1.5〜4.0、より好適には2.0〜3.5)になるよう調整して生成された、前記発明(1)のリン障害予防改善治療剤である。
本発明(3)は、前記水酸化第二鉄が、第一鉄水溶液に酸化剤を酸化還元電位が+100〜400mV(好適には+100〜350mV、より好適には+200〜300mV)になるように加えた後、アルカリを加え反応終了時のpHが1.5〜5.5(好適には1.5〜4.0、より好適には2.0〜3.5)になるよう調整して生成された、前記発明(1)のリン障害予防改善治療剤である。
本発明(4)は、前記水酸化第二鉄が、第一鉄水溶液に酸化剤を第一鉄の当量未満の量で加えて酸化還元電位を+100〜400mVとした後、アルカリを加え反応終了時のpHが1.5〜5.5になるよう調整して生成された、前記発明(1)のリン障害予防改善治療剤である。
本発明(5)は、前記酸化剤が次亜塩素酸塩である、前記発明(2)〜(4)のいずれか一つのリン障害予防改善治療剤である。
本発明(6)は、前記水酸化第二鉄が非晶質である、前記発明(1)〜(5)のいずれか一つのリン障害予防改善治療剤である。
本発明(7)は、グリセリンを更に含む、前記発明(1)〜(6)のいずれか一つのリン障害予防改善治療剤である。
本発明(8)は、前記障害が高リン血症である、前記発明(1)〜(7)のいずれか一つのリン障害予防改善治療剤である。
本発明(9)は、第一鉄水溶液に酸化剤を第一鉄の当量未満の量で加えた後、アルカリを加えpH1.5〜5.5(好適には1.5〜4.0、より好適には2.0〜3.5)になるよう調整する工程を含むことを特徴とする、水酸化第二鉄を含有するリン障害予防改善治療剤(飲食品又は薬品中のリン酸イオンを吸着するための経口剤を除く)の製造方法である。
本発明(10)は、第一鉄水溶液に酸化剤を酸化還元電位が+100〜400mV(好適には+100〜350mV、より好適には+200〜300mV)になるように加えた後、アルカリを加えpH1.5〜5.5(好適には1.5〜4.0、より好適には2.0〜3.5)になるよう調整する工程を含むことを特徴とする、水酸化第二鉄を含有するリン障害予防改善治療剤(飲食品又は薬品中のリン酸イオンを吸着するための経口剤を除く)の製造方法である。
本発明(11)は、第一鉄水溶液に酸化剤を第一鉄の当量未満の量で加えて酸化還元電位を+100〜400mV(好適には+100〜350mV、より好適には+200〜300mV)とした後、アルカリを加えpH1.5〜5.5(好適には1.5〜4.0、より好適には2.0〜3.5)になるよう調整する工程を含むことを特徴とする、水酸化第二鉄を含有するリン障害予防改善治療剤(飲食品又は薬品中のリン酸イオンを吸着するための経口剤を除く)の製造方法である。
本発明(12)は、前記酸化剤が次亜塩素酸塩である、前記発明(9)〜(11)のいずれか一つの製造方法である。
本発明(13)は、前記水酸化第二鉄が非晶質である、前記発明(9)〜(12)のいずれか一つの製造方法である。
本発明(14)は、グリセリンを添加する工程を更に含む、前記発明(9)〜(13)のいずれか一つの製造方法である。
本発明(15)は、脱水、凍結乾燥又は噴霧乾燥する工程を更に含む、前記発明(9)〜(14)のいずれか一つの製造方法である。
本発明(16)は、前記pH調整工程の後、脱水、凍結乾燥又は噴霧乾燥する工程の前、当該工程時又はその後に、グリセリンの添加工程を実施する、前記発明(15)の製造方法である。
本発明(17)は、前記障害が高リン血症である、前記発明(9)〜(16)のいずれか一つの製造方法である。
ここで、本明細書における各用語について説明する。「第一鉄種」とは、第一鉄イオンや第一鉄化合物(例えば水酸化第一鉄)等の、鉄が二価で存在する物質を指す。「第一鉄水溶液」とは、第一鉄イオンが存在する水溶液であれば特に限定されず、他の物質を含んでいてもよい。「酸化剤」とは、特に限定されず、次亜塩素酸塩、過酸化水素、カルシウムハイドロパーオキサイドを挙げることができ、好適には、次亜塩素酸塩である。「リン障害」とは、多くの場合は慢性腎不全に起因した、体内にリンが過剰に溜まったために各種臓器に障害が引き起こされることを指し、主たる疾病乃至は症状としては、例えば、骨の障害や心臓・動脈・肺等の臓器へのカルシウムの沈着、貧血、二次性副甲状腺機能亢進症を挙げることができる。「予防改善治療剤」とは、予防、改善、治療の内、少なくとも一つの目的で使用される薬剤を指す。「経口剤」とは、経口的に投与されるものであれば特に限定されず、例えば、飲食品に添加する場合(飲食品付加剤)、飲食品とは別に摂取する場合(サプリメントのような飲食品補助剤)、薬剤に添加する場合(薬品付加剤)、薬剤とは別に摂取する場合(薬品補助剤)のいずれをも包含する。
以下、本発明の最良形態について説明する。まず、当該リン吸着剤を説明し、次に、各用途について詳述する。
本リン吸着剤は、第一鉄種(例えば水酸化第一鉄)が存在する条件下で生成された非晶質の水酸化第二鉄を含む。ここで、高リン吸着能を示す有効成分は、非晶質の水酸化第二鉄であるが、水酸化第二鉄であれば当該効果を奏する訳ではない。例えば、第二鉄溶液に苛性ソーダを加え生成した水酸化第二鉄や市販の水酸化第二鉄はそれ程高いリン吸着能を示さない(実施例参照)。本水酸化第二鉄は、Fe2+−Fe(OH)系でのEh(酸化還元電位)−pH図に基づけば、鉄イオンが安定な化学種として存在する場合には第一鉄に止まっているEh−pH条件下でありながら、第二鉄として存在しているような極めて不安定な条件下で生成したものであるので、生成した沈殿物中の水酸化第二鉄に第一鉄を含むと共に、不安定で非晶質程度が極めて高い状態にある。したがって、−Fe−O−Fe−O−Fe−結合が不安定で切れやすい特性を具えており、本水酸化第二鉄は結合を切りながら、新たに生成するFe-OH基とリン酸イオンなどとが反応して、著しく高い吸着力を示すと推測される。
ここで、水酸化第二鉄の化学構造は定かでないが、実験結果等に基づけば以下の構造ではないかと推定される(但し、本発明の水酸化第二鉄は、当該推定された形態に何ら限定されるものではない)。即ち、本水酸化第二鉄は、第二鉄を必須的に含有すると共に、鉄原子に酸素原子又は水酸基が六配位しており、酸素原子を介して六配位の鉄が連結している形態であると推定される。そして、当該鉄原子の周囲に存在するある種の水分子が、鉄原子と酸素原子との結合に影響を与える結果、当該結合を不安定化しているものと推定される。そして、鉄原子に配位している水酸基又は不安定化した酸素原子とアニオン(例えばリン酸イオン)が交換する結果、鉄原子がアニオン(リン酸イオン)と結合すると考えられる。当該仮定の下、好適な形態は、適度な水酸基の存在によって−Fe−O−Fe−O−Fe−(クラスター)が適度の大きさであるものである。
ここで、本リン吸着剤の一製造工程においては、以下で説明するように、第一鉄と酸化剤(例えば次亜塩素酸ナトリウム)とを反応させることにより、水酸化第二鉄に変化させている。ここで、当該酸化還元反応式を以下に示す。尚、以下の式では、理解の容易上、水酸化第二鉄を簡略化して「Fe(OH)」と記載した。
式1
このように、第一鉄2モルに対して次亜塩素酸1モルが反応する(即ち、第一鉄2モルに対して次亜塩素酸1モルが当量となる)。そして、以下で説明するように、当該製造工程においては、使用する酸化剤の量を第一鉄の当量未満(例えば、第一鉄2モルの場合には、次亜塩素酸1モル未満)とすることにより、第一鉄が完全には第二鉄に酸化されない状態を構築するようにしている。
ここで、「非晶質の」や「非晶質程度が極めて高い」とは、CuのKα線をX線源とする粉末X線回折において2θ値で5°〜80°の範囲に少なくとも1つの非晶質ハロー(halo)図形を有し、明らかな結晶性ピークが存在しないことを意味する。尚、製造時の出発原料等によって非晶質ハロー図形中に僅かながら結晶性ピークが観測される場合があるが、そのような場合、CuのKα線をX線源とする粉末X線回折において2θ値で5°〜80°の範囲に観測される結晶性ピーク強度が、対応する結晶性参照物質の結晶性ピークに対する割合(%X線回折強度/参照物質)で5%以下であればよい。具体的な%X線回折強度/参照物質としてはASTM(American Society for Testing and Materials)D3906に準拠して次式で与えられるものを使用することができる。尚、積分反射強度の算出に用いる結晶性ピーク数は特に限定されることはないが、1〜8本の範囲が好ましい。
式2
このように、有効成分は水酸化第二鉄であるが、前記のように第一鉄種(例えば水酸化第一鉄)が存在する条件下で生成されるので、不可避的に第一鉄種を含有する。第一鉄種(例えば水酸化第一鉄)の含有量は、特に限定されないが、乾燥重量(炉乾、105℃、2h)に対し、通常は5重量%以下であり、好適には0.01〜4重量%であり、より好適には0.1〜2重量%である。尚、製造時にはこのように不可避的に第一鉄種を含有するが、当該成分を洗浄により除去してもよい。
更に、本リン吸着剤は、有効成分である非晶質の水酸化第二鉄が存在する限り、結晶質の水酸化第二鉄を含有していてもよい。この場合、好適には、非晶質成分が30%以上であり、より好適には50%以上、更に好適には75%以上である。
本リン吸着剤は、更にグリセリンを含有することが好適である。水酸化第二鉄は、乾燥やaging(長期保存)の方法如何では、−Fe−O−Fe−O−Fe−の鉄に結合しているOH基が脱水し、クラスターが大きくなる等して安定な状態に変化し、吸着力が低下する可能性がある。したがって、例えば、湿状態の水酸化第二鉄にグリセリンを混合することにより、乾燥してもOH基の脱水が起こり難くなるため、吸着力の低下を顕著に抑制できる。ここで、グリセリンの含有量は、好適には乾燥重量(炉乾、105℃、2h)に対し、20重量%以下である。
次に、本最良形態に係るリン吸着剤の製造方法について説明する。本リン吸着剤は、(工程1A)第一鉄水溶液に酸化剤(例えば次亜塩素酸塩水溶液)を第一鉄の当量未満(好適には0.3〜0.95、より好適には0.4〜0.8)の量で加えた後、又は、(工程1B)第一鉄水溶液に酸化剤(例えば次亜塩素酸塩水溶液)を酸化還元電位が+100〜400mV(好適には+100〜350mV、より好適には+200〜300mV)になるように加えた後、(工程2)アルカリ(好適には苛性アルカリ)を加えpH1.5〜5.5(好適には1.5〜4.0、より好適には2.0〜3.5)になるよう調整する、ことにより得られる。ここで、(工程1A)又は(工程1B)と(工程2)の順番が重要であり、逆にすると吸着能の高いリン吸着剤を得ることができない。以下、各条件について説明する。
まず、第一鉄水溶液において使用可能な第一鉄塩は、水溶性塩である限り特に限定されず、例えば、硫酸第一鉄、塩化第一鉄、硝酸第一鉄を挙げることができるが、沈殿物の濾過が簡単であるために硫酸第一鉄が好適である。更に、第一鉄水溶液における第一鉄イオンの濃度は、0.05〜2Mが好適である。
次に、使用可能な酸化剤は、特に限定されないが、好適には次亜塩素酸塩である。ここで、次亜塩素酸塩としては、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カルシウムを挙げることができるが、特に次亜塩素酸ナトリウムが好適である。尚、次亜塩素酸塩水溶液における次亜塩素酸塩濃度は、特に限定されないが、市販されている5〜10%のものが使用可能である。
ここで、工程1Aを採用する場合においては、使用する酸化剤の量を、第一鉄水溶液における第一鉄の当量未満となる量とする。ここで、当該酸化剤の量は、第一鉄の量に対して、当量比で0.3〜0.95が好適であり、0.4〜0.8がより好適である。
また、工程1Bを採用する場合においては、第一鉄水溶液に酸化剤(例えば次亜塩素酸塩水溶液)を、酸化還元電位が+100〜400mV(好適には+100〜350mV、より好適には+200〜300mV)になるように添加する。この際、攪拌しながら酸化剤液(例えば次亜塩素酸塩水溶液)を滴下することが好適である。
尚、工程1Aと工程1Bとは、必ずしも相互独立の工程とは限らず、工程1Aを実施すると、結果的に工程1Bを実施することになる場合や、その逆の場合をも包含する。
次に、工程1Aで所定量の酸化剤を添加した後、又は、工程1Bで酸化還元電位が前記範囲内に収まったことを確認した後、アルカリを添加するという工程2を行う。ここで、アルカリは、特には限定されないが、好適には苛性アルカリである。苛性アルカリとしては、例えば、苛性ソーダ、苛性カリウムを挙げることができ、苛性ソーダが好適である。加えて、アルカリ濃度(好適には苛性アルカリ濃度)は、例えば、0.5〜5Nである。そして、所定量の酸化剤が添加された溶液(工程1A)又は前記酸化還元電位が前記範囲内に収まった溶液(工程1B)に、アルカリ水溶液(好適には苛性アルカリ水溶液)を添加し、pH1.5〜5.5(好適には1.5〜4.0、より好適には2.0〜3.5)になるよう調整する。この操作を行なうことにより、非晶質の水酸化第二鉄が沈殿し、本リン吸着剤を得ることができる。
尚、本リン吸着剤は、取扱上乾燥形態が好適である。ここで、乾燥方法は、脱水、凍結乾燥又は噴霧乾燥が好適であり、これらの方法によると乾燥時のFe−OH結合からの脱水が少ないのでリン酸吸着力は高く保たれる。
更に、乾燥前、乾燥時又はその後にグリセリンを混合するとリン酸吸着力の低下を少なく抑えることができる。ここで、グリセリンの添加量は、乾燥重量(炉乾、105℃、2h)に対し、20%以下(好適には3〜7%)である。尚、グリセリンを混合するタイミングは、特に限定されないが、好適にはpH調製後乾燥前である。
次に、本リン吸着剤の用途及び使用方法について説明する。本リン吸着剤は、過剰なリン及び生体安全性が問題となる各種分野、例えば、慢性腎不全及び人工透析患者用として有用である。以下、具体的に説明する。
まず、慢性腎不全患者及び人工透析患者の「リン障害予防改善治療剤」(リン吸収阻害剤)として本リン吸着剤を用いるときは、本剤を腸溶カプセルに充填し経口投与するのが最適であると考えられる。投与量は、患者の状態、とくに腎不全の程度及び血中リン濃度によるが、一日あたり1〜5gである。このように、慢性腎不全患者及び人工透析患者用として使用した場合、本水酸化第二鉄はリン酸イオンと結合し、水不溶性のリン酸鉄となり便中に排泄されることになる。尚、水酸化第二鉄と水溶性リン酸イオンとの反応は一分以内で終了する。したがって、食物が小腸内を2〜3時間かけて通過する間に生成されたリン酸イオンは、ほぼ100パーセント水酸化鉄に吸着排泄される。加えて、本剤が実用量で経口投与されたとき、消化管内で本発明物質由来の鉄イオンの吸収はほとんど考えられない。
リン吸着剤(リン障害予防改善治療剤)の製造
0.1M硫酸第一鉄水溶液800mlに6%次亜塩素酸ナトリウム(活性塩素5%)を酸化還元電位が270mVになるように攪拌しながら滴下(滴下量=29.8g;当量比=0.588)し、攪拌しながら3分間放置した。その液に1N苛性ソーダをpHが2.7で安定するまで加え、本実施例に係るリン吸着剤を得た。反応終了時のpHは2.7、酸化還元電位は+204mVであった。
成分分析
(1)Fe形態別定量分析
上記リン吸着剤について、T−Fe、M−Fe、Fe2+及びFe3+に関して定量分析を行なった(ここで、「T」はtotalを意味し、「M」は金属を意味する)。尚、T−Feに関しては、塩化第一スズ還元−二クロム酸カリウム滴定法、M−Feに関しては、塩化第二水銀溶解−二クロム酸カリウム滴定法、Fe2+に関しては、不活性ガス充填酸溶解−二クロム酸カリウム滴定法で測定し、Fe3+に関しては、算出法〔Fe3+=T−Fe−(M−Fe+Fe2+)〕で算出した。表1に結果を示す。尚、No.1はペースト状のリン吸着剤であり、No.2は凍結乾燥したリン吸着剤である。
(2)X線回折(XRD)による構成相の同定
装置: リガク社製 RINT−2200型
管球: Cu
電圧―電流: 40kV−40mA
走査速度: 4°/min
走査範囲: 5°〜80°(2θ)
上の測定条件でX線回折試験を行なった。X線回折測定チャートを図1〜図4に、解析結果を表2に示す。
解析結果より、試料No.1及びNo.2共にレピドクロサイト(γ−FeOOH)が非常に弱く検出された。また、両試料ともX線回折チャートにおいて得られた回折ピーク以外には全体的にブロード化しており、非晶質度が極めて高いことが判明した。
リン吸着能試験
リン吸収能力の測定方法は、本実施例に係るリン吸着剤を乾燥重量0.5gとり、それにリン酸アンモニウム溶液(5.9gP/l)20ml加え、時々振り混ぜながら24時間放置した。そして、これをろ過しろ液のリン濃度を測定し算出した。尚、比較のため、1MFeCl水溶液に1NのNaOHをpH7.5〜8.0になるように急速に攪拌して生成した水酸化第二鉄や、水酸化第二鉄が脱水して生成した含水酸化鉄(市販品)についても同様の手法で吸着能を試験した。その結果を表3に示す。
グリセリン等の添加例
上記の方法に従い製造した含水率70%のリン吸着剤に、グリセリン、エタノール及びスキムミルクを、それぞれリン吸着剤の5重量%加え凍結乾燥した。当該乾燥物のリン吸着能を表4に示す。
試験例1(ラットを用いての血中リン濃度低下作用の確認試験)
一群3匹のSD系雄性ラット(8週齢)に本リン吸着剤(リン障害予防改善治療剤)を飼料に加えた混餌投与で1週間飼育した。投与前の血中リン濃度(Day1)、混餌投与2日後(Day3)、同4日後(Day5)、同7日後(Day8)に血液を採取し、血中リン濃度を測定した。本リン吸着剤を含まない群をControlとし、本リン吸着剤を1%、3%、5%含む餌を摂取した群をそれぞれ本リン吸着剤1%、本リン吸着剤3%、本リン吸着剤5%として図中(図5)に示した。また、Controlの各時点でのリン濃度との有意差を**で示した(P<0.01)。
試験例2(小腸液と同系下でのリン吸着試験)
試験液の組成を腸内溶液の組成に近似させるため、経腸栄養剤―エレンタール(味の素ファルマ株式会社製)水溶液187g/700mlと、小腸液モデルであるpH7.2に調整したリンゲル液1lとを混合し試験液とした。そして、当該試験液100mlに対して本実施例に係るリン吸着剤(リン障害予防改善剤)0.178g(乾重換算)を添加した後、系内の水溶性P濃度を測定した。また、比較のため、リン吸着剤を添加しない場合についても同様の測定を行った(試験1及び2)。更に、前記試験液に水溶性リン酸(当該経腸栄養剤中の有機態Pの全量が腸内で消化されたと仮定した場合の量)を添加した場合についても同様の測定を行った(試験3及び4)。その結果を表に示す。表から分かるように、水溶性Pは本リン吸着剤により除去され、大量の水溶性リンを更に追加すると本リン吸着剤によるリン除去量は多くなった。即ち、水溶性リン濃度が低いと吸着量は少なく、高いと吸着量が多くなった。尚、表中の「全P」は、水溶性及び非水溶性リンの合計値である。また、「非水溶性リン」は、タンパク質中のリン等水溶性でないリンを指す。
図1は、試料No.1のX線回折測定チャートである。 図2は、試料No.1のX線回折測定チャートである。 図3は、試料No.2のX線回折測定チャートである。 図4は、試料No.2のX線回折測定チャートである。 図5は、試験例1(ラットを用いたリン吸着剤の血中リン濃度低下作用)の結果を示したものである。

Claims (34)

  1. 第一鉄種が存在する条件下で生成された水酸化第二鉄を含有することを特徴とするリン障害予防改善治療剤。
  2. 前記水酸化第二鉄が、第一鉄水溶液に酸化剤を第一鉄の当量未満の量で加えた後、アルカリを加え反応終了時のpHが1.5〜5.5になるよう調整して生成された、請求項1記載のリン障害予防改善治療剤。
  3. 前記水酸化第二鉄が、第一鉄水溶液に酸化剤を酸化還元電位が+100〜400mVになるように加えた後、アルカリを加え反応終了時のpHが1.5〜5.5になるよう調整して生成された、請求項1記載のリン障害予防改善治療剤。
  4. 前記水酸化第二鉄が、第一鉄水溶液に酸化剤を第一鉄の当量未満の量で加えて酸化還元電位を+100〜400mVとした後、アルカリを加え反応終了時のpHが1.5〜5.5になるよう調整して生成された、請求項1記載のリン障害予防改善治療剤。
  5. 前記酸化剤が次亜塩素酸塩である、請求項2〜4のいずれか一項記載のリン障害予防改善治療剤。
  6. 前記水酸化第二鉄が非晶質である、請求項1〜5のいずれか一項記載のリン障害予防改善治療剤。
  7. グリセリンを更に含む、請求項1〜6のいずれか一項記載のリン障害予防改善治療剤。
  8. 前記障害が高リン血症である、請求項1〜7のいずれか一項記載のリン障害予防改善治療剤。
  9. 第一鉄水溶液に酸化剤を第一鉄の当量未満の量で加えた後、アルカリを加えpH1.5〜5.5になるよう調整する工程を含むことを特徴とする、水酸化第二鉄を含有するリン障害予防改善治療剤の製造方法。
  10. 第一鉄水溶液に酸化剤を酸化還元電位が+100〜400mVになるように加えた後、アルカリを加えpH1.5〜5.5になるよう調整する工程を含むことを特徴とする、水酸化第二鉄を含有するリン障害予防改善治療剤の製造方法。
  11. 第一鉄水溶液に酸化剤を第一鉄の当量未満の量で加えて酸化還元電位を+100〜400mVとした後、アルカリを加えpH1.5〜5.5になるよう調整する工程を含むことを特徴とする、水酸化第二鉄を含有するリン障害予防改善治療剤の製造方法。
  12. 前記酸化剤が次亜塩素酸塩である、請求項9〜11のいずれか一項記載の製造方法。
  13. 前記水酸化第二鉄が非晶質である、請求項9〜12のいずれか一項記載の製造方法。
  14. グリセリンを添加する工程を更に含む、請求項9〜13のいずれか一項記載の製造方法。
  15. 脱水、凍結乾燥又は噴霧乾燥する工程を更に含む、請求項9〜14のいずれか一項記載の製造方法。
  16. 前記pH調整工程の後、脱水、凍結乾燥又は噴霧乾燥する工程の前、当該工程時又はその後に、グリセリンの添加工程を実施する、請求項15記載の製造方法。
  17. 前記障害が高リン血症である、請求項9〜16のいずれか一項記載の製造方法。
  18. 第一鉄種が存在する条件下で生成された水酸化第二鉄を含有することを特徴とする、飲食品又は薬品中のリン酸イオンを吸着するための経口剤。
  19. 前記水酸化第二鉄が、第一鉄水溶液に酸化剤を第一鉄の当量未満の量で加えた後、アルカリを加え反応終了時のpHが1.5〜5.5になるよう調整して生成された、請求項18記載の経口剤。
  20. 前記水酸化第二鉄が、第一鉄水溶液に酸化剤を酸化還元電位が+100〜400mVになるように加えた後、アルカリを加え反応終了時のpHが1.5〜5.5になるよう調整して生成された、請求項18記載の経口剤。
  21. 前記水酸化第二鉄が、第一鉄水溶液に酸化剤を第一鉄の当量未満の量で加えて酸化還元電位を+100〜400mVとした後、アルカリを加え反応終了時のpHが1.5〜5.5になるよう調整して生成された、請求項18記載の経口剤。
  22. 前記酸化剤が次亜塩素酸塩である、請求項19〜21のいずれか一項記載の経口剤。
  23. 前記水酸化第二鉄が非晶質である、請求項18〜22のいずれか一項記載の経口剤。
  24. グリセリンを更に含む、請求項18〜23のいずれか一項記載の経口剤。
  25. 飲食品付加剤、飲食品補助剤、薬品付加剤又は薬品補助剤である、請求項18〜24のいずれか一項記載の経口剤。
  26. 第一鉄水溶液に酸化剤を第一鉄の当量未満の量で加えた後、アルカリを加えpH1.5〜5.5になるよう調整する工程を含むことを特徴とする、水酸化第二鉄を含有する、飲食品又は薬品中のリン酸イオンを吸着するための経口剤の製造方法。
  27. 第一鉄水溶液に酸化剤を酸化還元電位が+100〜400mVになるように加えた後、アルカリを加えpH1.5〜5.5になるよう調整する工程を含むことを特徴とする、水酸化第二鉄を含有する、飲食品又は薬品中のリン酸イオンを吸着するための経口剤の製造方法。
  28. 第一鉄水溶液に酸化剤を第一鉄の当量未満の量で加えて酸化還元電位を+100〜400mVとした後、アルカリを加えpH1.5〜5.5になるよう調整する工程を含むことを特徴とする、飲食品又は薬品中のリン酸イオンを吸着するための経口剤の製造方法。
  29. 前記酸化剤が次亜塩素酸塩である、請求項26〜28のいずれか一項記載の製造方法。
  30. 前記水酸化第二鉄が非晶質である、請求項26〜29のいずれか一項記載の製造方法。
  31. グリセリンを添加する工程を更に含む、請求項26〜30のいずれか一項記載の製造方法。
  32. 脱水、凍結乾燥又は噴霧乾燥する工程を更に含む、請求項26〜31のいずれか一項記載の製造方法。
  33. 前記pH調整工程の後、脱水、凍結乾燥又は噴霧乾燥する工程の前、当該工程時又はその後に、グリセリンの添加工程を実施する、請求項32記載の製造方法。
  34. 飲食品付加剤、飲食品補助剤、薬品付加剤又は薬品補助剤である、請求項26〜33のいずれか一項記載の製造方法。
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