JPWO2006118167A1 - 圧縮二酸化炭素を用いて抽出されたキノン化合物を利用したキノンプロファイル法等 - Google Patents
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Abstract
Description
従来、環境中(例えば、土壌中)に存在する微生物の99%以上は、実験室で培養することができない難培養性の微生物であることが知られている。このため、微生物群集を単離・培養するという古典的な方法では、全微生物群集の1%以下しか解析することができない。この困難を解決するために、環境中の微生物から直接に核酸を抽出するという方法が開発されている(特許文献1)。しかし、この方法は高価かつ煩雑であることに加え、現地において迅速な分析を行うことが難しい。
本発明は、上記した問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、環境サンプルからキノン化合物を簡便かつ迅速に抽出し、このキノン化合物を用いて微生物群集を調査するためのキノンプロファイル法を実施できる方法等を提供することにある。また、別の目的は、ユビキノン10を簡便かつ迅速に抽出、精製する方法を提供することにある。
すなわち、第1の発明に係るキノン化合物の抽出方法は、環境由来試料に圧縮二酸化炭素を接触させる抽出工程を備えることを特徴とする。
キノン化合物は、各骨格およびイソプレン側鎖の長さによって、構造が異なる。n個のイソプレン側鎖を持つユビキノンおよびメナキノンは、それぞれUQ−n、MK−nと称される。更に、水素飽和度xの相違によって、UQ−n(Hx)、MK−n(Hx)と称される(図1を参照)。各キノン化合物は、骨格型、イソプレン側鎖数、および側鎖の飽和度などの違いによって、特有の酸化還元電位を示すので、微生物におけるエネルギー代謝の違いによって、キノン分子種が異なってくる。このため、各キノンを分離、定量することにより、環境由来試料中の微生物群集の特徴(すなわち、微生物の量および種類)を解析することができる。この解析方法をキノンプロファイル法という。また、キノン化合物の中には、単独で産業上の利用性が認められるものがある。例えば、ユビキノン10は、コエンザイムQ10として、大量に製造・販売が行われている。本発明では、そのようなキノン化合物を迅速かつ簡便に抽出することもできる。このため、本発明においては、キノン化合物がユビキノン10であることが好ましい。
より具体的には、土壌としては、例えば河川・海・湖・池の沿岸部、河川底部、湖沼底部、干潟、農耕地、森林、湿地帯、草地、堆肥、生物排水処理の汚泥などが例示される。本発明を土壌に対して適用するには、土壌そのものを環境由来試料として用いることができる。また、土壌から適当な抽出物(水、有機溶媒、分離用カラムなど)を用いて抽出した試料(液体、あるいは固体)を環境由来試料として用いることもできる。
大気としては、一般の大気の他に、閉鎖された空間(例えば、呼気、建物、地下道、洞窟など)内の大気などが例示される。本発明を大気に対して適用するには、大気そのものを環境由来試料として用いるほかに、大気をコンプレッサーで圧縮しつつ、微生物を捕獲するフィルタ、カラムに通すことにより、微生物を濃縮したものを環境由来試料として用いることができる。
「接触させる」とは、圧縮二酸化炭素を用いることにより、環境由来試料中からキノン化合物を抽出可能な状態で触れさせることを意味している。具体的な態様としては、圧縮二酸化炭素中に環境由来試料を添加して撹拌抽出する方法、環境由来試料中に圧縮二酸化炭素を通過させて抽出する方法などが挙げられる。また、抽出の際に、超音波やマイクロ波を利用することもできる。
また、キノン化合物として、ユビキノン10を対象として抽出する場合には、ヒトに対する投与が考慮されることから、安全性への配慮から考えると、エタノールを用いることが好ましい。但し、安全性への配慮が十分になされる場合には、抽出効率の点からは、メタノールを使うことが好ましい。
吸着工程とは、キノン化合物を圧縮二酸化炭素、およびその他の化合物から分離するために、適当な吸着物質に吸着させることを意味している。ここで、吸着物質とは、キノン化合物を適当な条件下で吸着する能力を有する物質を意味しており、例えばシリカ、アルミナなどの吸着能を有する無機吸着剤を用いることができる。
第2の発明において、複数の抽出容器と複数の吸着用部材を前記送液ラインに対して並列に設け、一つの抽出容器に対して一つの吸着用部材を対応させるように移動制御させつつ環境由来試料からの抽出及び吸着を行わせる構成とすることが好ましい。そのような構成とすれば、複数の環境由来試料からのキノン化合物の抽出及び吸着を自動化させることができるので、簡易かつ迅速なキノン化合物の抽出装置を提供できる。
また、本発明によれば、自動化および小型化を図りつつ、円滑に実施可能な装置を開発することができる。
<活性汚泥サンプル>
活性汚泥サンプルは、豊橋技術科学大学における排水処理場のエアレーションタンクから採取した。汚泥サンプルは、24時間の凍結乾燥処理を行い、500μm以下の細粒を篩い集めた。
図2には、本実施形態に用いたキノン化合物抽出装置の概要を示した。図中左方向(上流)には、二酸化炭素ボンベ1が設けられている。ボンベ1の下流側には、二酸化炭素を冷却することで、液体状態を維持させるクーラ2がポンプ3(SCF−201ポンプ(日本分光株式会社製))を介して連結されている。更に下流側には、有機溶媒タンク4がポンプ5(SCF−201ポンプ(日本分光株式会社製))を介して連結されている。送液ライン6の途中には、液体状二酸化炭素と有機溶媒とを混合するジョイント部7が設けられている。混合された溶媒は、混合カラム8を通過して、抽出容器9に送られる。混合カラム8及び抽出容器9の外方には、ヒータ10(353B GCオーブン(GLサイエンシーズ社製))が設けられており、混合カラム8と抽出容器9を所定の温度に保持しておくことができる。抽出容器9の下流には、高圧セルを有する多波調型UV検出器13(MD−1510(日本分光株式会社製))が設けられており、サンプルから抽出された物質の有無を検出できる。UV検出器13の下流には、背圧レギュレータ11(880−81背圧レギュレータ(日本分光株式会社製))が設けられており、抽出容器9の内部圧力を制御するようになっている。また、図示右方向のライン最下流には、吸着用カートリッジ12が装着されており、ここにキノン化合物が吸着される。
抽出工程の条件は、次の通りであった。抽出容器温度は25℃〜65℃、圧力は10MPa〜35MPa、二酸化炭素流量及び有機溶媒の合計流量を3.0mL/minとした。また、汚泥サンプルからのキノン化合物の抽出には、特にことわらない限り、15分間の抽出時間とした。装置の最下流には、吸着工程を実施するためのカートリッジ12として、シリカゲルカラム(二個のセップパックカートリッジ(Sep-Pak Plus Silica cartridge、ウォーターズ社製)を取り付けておき、抽出されたキノン化合物を捕捉した。
比較対象として、従来の有機溶媒法による抽出工程を行った(J. Biosci. Bioeng., 87, 378 - 382)。抽出工程は次の通りであった。すなわち、約0.1gの汚泥サンプルに有機溶媒(クロロホルム:メタノール=2:1(v/v))を添加し、シェーカーにより30分間振盪し、9000rpm、10分間遠心分離した後、キノン化合物を含むクロロホルム層を分取した。この抽出操作を3回繰り返した。
分離精製したキノン化合物は、HPLC(島津製作所製)により分析した。カラムには、ODSカラム(Zorbax-ODS, 4.6mmI.D.x250mm, Agilent Technologies, USA)を用い、検出器には、UV−Vis検出器(Model SPD-10A, 島津製作所製)およびフォトダイオード検出器(SPD-M10A, 島津製作所製)を用いた。カラムオーブンは、35℃に保持した。移動相として、メタノール:イソプロパノール=9:2(v/v)を使用し、流量を1.0mL/minとした。各キノン化合物は、保持時間と、各ピークのUVスペクトルパターンにより同定した。各ユビキノンとメナキノンの定量のために、ユビキノン10(UQ-10)とビタミンK1を用いた。ユビキノン化合物の定量には275nmによる吸光度データを、メナキノン化合物の定量には270nmによる吸光度データを用いた。
1.抽出溶媒を変化させたときの結果
図3には、抽出溶媒を変化させたときに抽出されたキノン化合物の濃度を示した。なお、抽出時の温度は35℃、圧力は25MPaであった。始めに、抽出溶媒を二酸化炭素のみ(流速3.0mL/min)としたところ、グラフ図の左端に示すように、活性汚泥サンプルからキノン化合物を抽出することができた。しかしながら、抽出されたキノン化合物の濃度は低かった。このとき、マイナーなキノン化合物(例えば、MK−10、MK−5(H4),MK−10(H4)、及びMK−10(H8)など)は、抽出されなかった。この結果より、二酸化炭素のみでは、極性物質を溶解するために十分ではないものと考えた。そこで、極性有機溶媒(すなわち、メタノール、エタノール、アセトン、及びクロロホルム)を二酸化炭素に混合することにより、キノン化合物の抽出効率を向上させることを試みた。
抽出時の圧力を変化させたときのキノン化合物の抽出量の変化を確認した。図5には、圧力を10MPa、15MPa、20MPa、25MPa、および30MPaとしたときのキノン化合物の抽出量の変化を示した。なお、その他の条件としては、温度35℃、二酸化炭素流量2.7mL/min、メタノール流量0.3mL/min、処理時間15分間であった。
抽出時の温度を変化させたときのキノン化合物の抽出量の変化を確認した。図6には、温度を25℃、35℃、45℃、55℃、65℃、および75℃としたときのキノン化合物の抽出量の変化を示した。なお、その他の条件としては、圧力25MPa、二酸化炭素流量2.7mL/min、メタノール流量0.3mL/min、処理時間15分間であった。
抽出時間を変化させたときのキノン化合物の抽出量の変化を確認した。図7には、抽出時間を5分間、10分間、15分間、20分間、25分間、および30分間としたときのキノン化合物の抽出量の変化を示した。なお、その他の条件としては、圧力25MPa、温度55℃、二酸化炭素流量2.7mL/min、メタノール流量0.3mL/minであった。
いずれの抽出時間においても、十分良好にキノン化合物の抽出が可能であった。但し、抽出時間が5分間〜15分間の間では、時間の延長につれて、抽出されるキノン量も徐々に増加した。また、抽出時間が15分間、20分間、25分間、および30分間では、抽出されるキノン化合物には差違が認められなかった。
次に、本実施形態の方法(以下には、「SFE法」と言うことがある)と従来法とにおいて、活性汚泥サンプルからキノン化合物を抽出したときのキノンプロファイルの相違を確認した。本実施形態の方法における抽出条件は、圧力25MPa、温度55℃、二酸化炭素流量2.7mL/min、メタノール流量0.3mL/min、抽出時間15分間とした。
図10には、本実施形態の方法(SFE Method)と従来法(Conventional Method)とで、活性汚泥サンプルから抽出された全キノン化合物量、全メナキノン化合物量、および全ユビキノン化合物量を比較したグラフを示した。両方法のデータを比較すると、いずれも良好にキノン化合物が抽出されていることが示された。また、全キノン量および全メナキノン量/全ユビキノン量についても、両方法において良好な類似性を備えているように思われた。
次に、大学排水処理後の活性汚泥と機械工場排水処理(好気槽)後の活性汚泥とについて、従来法と本実施形態の方法によるキノン化合物抽出操作を行い、その抽出サンプルについてキノンプロファイル法を行った。本実施形態の方法の抽出条件は、前述と同じとした。それぞれの抽出方法により、各活性汚泥から3回ずつキノン化合物を抽出し、キノン化合物を測定した。
両方法で抽出されたキノン化合物を用いて行ったキノンプロファイル法の結果の非類似度は、それぞれ0.057(大学排水処理後の活性汚泥)、0.068(機械工場排水処理後の活性汚泥)であった。すなわち、従来法と本実施形態の方法で得られたキノン化合物で実施したキノンプロファイル法の結果が、同程度であったことから、本実施形態の方法が、従来の抽出方法を代替できることが分かった。
次に、大学排水処理後の汚泥(好気槽)、一般下水排水処理後の汚泥(好気槽、及び嫌気槽)、機械工場排水処理後の汚泥(好気槽、及び嫌気槽)、及び食品加工場排水処理後の汚泥(好気槽、及び嫌気槽)の7種類の汚泥について、本実施形態の方法によりキノン化合物を抽出し、その抽出サンプルについてキノンプロファイル法を実施した。
次に、上記1〜7の結果を総合しつつ、キノン化合物の抽出方法について、従来法と本実施形態の方法との比較を行った。図19には、両方法(SFE法は、本実施形態の抽出方法である)の特徴を比較したものを示した。
SFE法では、高圧装置が必要であり、炭酸ガスを利用するものの、装置の自動化が容易であり、有機溶媒の使用量が低減される。特に、労働安全衛生法において特定化学物質と指定されているクロロホルムを使用しない。また、抽出時間においては、従来法の1/6にまで短縮できる。これにより、試料数が多数にある場合においても、SFE法により対応することが可能となる。なお、従来法では多数の試料を迅速に処理することが困難であったため、キノンプロファイル法を様々な分野で活用することが困難であった。
次に、堆肥試料を用いて、抽出前の乾燥工程方法および抽出時間が本実施形態の方法による菌体中のキノン化合物の抽出に与える影響を調べた。キノン化合物の抽出前に、試料の乾燥を行っていないもの、オーブンを用いて37℃で24時間乾燥をしたもの、及び凍結乾燥を24時間行ったものについて比較した。それぞれの試料において、30分と60分の二つの抽出時間で得られたキノン化合物の抽出結果を図20に示した。これにより、試料中に含まれる水の量(含水率)が抽出に与える影響を検討することができる。図より、乾燥工程が異なると、本実施形態の方法によるキノン化合物の抽出効率に影響を与えることが分かった。抽出時間を30分から30分に延長すると、キノン化合物の抽出量が増加することが分かった。
次に、従来法と本実施形態の方法(SFE法)を用いて、(A)堆肥と、(B)土壌中の微生物からキノン化合物を抽出し、それぞれの結果を比較した。この際、抽出前には、各試料を37℃で24時間乾燥した。また、本実施形態の方法の抽出条件は、55℃、25MPa、60分とした。
次に、UPLC(ウルトラパフォーマンス液体クロマトグラフィー、ウォーターズ社製)を用いて、活性汚泥からSFE法で抽出されたキノン化合物を分離測定した。図22には、クロマトグラムチャートを示した。この図より、UPLCを用いることにより、従来使用しているHPLCよりも短時間で、ユビキノンおよびメナキノンを一斉に分離できることが分かった。
また、本実施形態の方法によれば、特定のキノン化合物(例えば、ユビキノン10)を多く含有する微生物から、そのキノン化合物を簡便かつ迅速に抽出、精製することができる。
3、5…ポンプ
6…送液ライン
9…抽出容器
10…ヒータ
11…背圧レギュレータ(圧力調節器)
12…吸着用カートリッジ(吸着用部材)
Claims (7)
- 環境由来試料に圧縮二酸化炭素を接触させる抽出工程を備えることを特徴とするキノン化合物の抽出方法。
- 前記圧縮二酸化炭素が超臨界二酸化炭素であることを特徴とする請求項1に記載のキノン化合物の抽出方法。
- 前記圧縮二酸化炭素には、有機溶媒が添加されていることを特徴とする請求項1または2に記載のキノン化合物の抽出方法。
- 前記抽出工程の後に、キノン化合物を吸着させる吸着工程を設けたことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のキノン化合物の抽出方法。
- 前記キノン化合物がユビキノン10であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のキノン化合物の抽出方法。
- 環境由来試料を投入可能な抽出容器と、この抽出容器に圧縮二酸化炭素を挿通させる送液ラインと、この送液ラインに圧縮二酸化炭素を送るポンプと、前記抽出容器内を所定の圧力に保持する圧力調節器と、抽出されたキノン化合物を吸着させる吸着用部材とを備えていることを特徴とするキノン化合物の抽出装置。
- 請求項1〜4のいずれかに記載の方法によって抽出されたキノン化合物を用いて、環境中の微生物群集をモニタリングすることを特徴とするキノンプロファイル法。
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