JPWO2004104208A1 - ヘパラン鎖のinvitro合成法とその利用 - Google Patents
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Abstract
本発明は、GAG−タンパク質結合領域の五糖のうちの少なくともGlcNAcα1−4GlcUAβ1−3Galβという三糖やGlcUAβ1−3Galβという二糖を含み、それらが疎水性アグリコンに結合した構造の重合開始剤を使用してヘパラン鎖をinvitroでポリマー合成する方法である。重合反応には、分泌型のEXT1及びEXT2を共発現させたものを酵素に使用することが好ましいが、一定の重合開始剤を使用する場合には、分泌型EXT1単独を使用してもヘパラン鎖を合成することが可能である。
Description
本発明は、糖鎖合成技術に関し、より詳細には、ヘパラン鎖のin vitro合成法と、同合成法を用いて生産されたヘパラン鎖、ヘパラン硫酸およびヘパリン等の糖鎖に関するものである。
ヘパリンおよびヘパラン硫酸(以下、「Hep/HS」と略す場合がある。)鎖は、細胞表面や細胞外マトリックスに存在する直鎖状の硫酸化糖鎖で、コアタンパク質に結合し、プロテオグリカン(PG)として、哺乳動物をはじめとしてショウジョウバエや線虫などの下等生物にまで広く分布している。以前まで、PGは、細胞表面や細胞外マトリックスに存在する分子を安定に維持する因子であると考えられてきたが、最近の研究により、細胞の移動、増殖,分化さらには形態形成など多くの生理現象に積極的に関与していることが明らかになってきた。
Hep/HS鎖は、コンドロイチン硫酸/デルマタン硫酸(CS/DS)鎖とともに硫酸化グリコサミノグリカン(GAG)と呼ばれ、ウロン酸とアミノ糖からなる二糖単位が数十回も繰り返し重合した構造からなっている。硫酸化GAGは、構成糖の特定の位置が硫酸化されることや、グルクロン酸(「GlcUA」又は「GlcA」と表記する場合がある。)からイズロン酸(IdoA)へ異性化されることなどによって、非常に多様な構造を示す。このような修飾は、GAG鎖に均一にほどこされるわけではなく、ある特定の部分にのみ行われ、それによって、様々な分子との相互作用が可能となる。なかでもHep/HS鎖は、発生過程において様々な増殖因子や形態形成因子と相互作用することによりシグナル伝達に関わることが、モデル生物を用いた多くの実験から明らかにされてきた。
PGとして存在しているHep/HS鎖とCS/DS鎖は、どちらもコアタンパク質のセリン残基に、特徴的な四糖からなるいわゆるGAG−タンパク質結合領域(GlcUAβ1−3Galβ1−3Galβ1−4Xylβ1−O−Ser)を介して共有結合している。Hep/HS鎖やCS/DS鎖の生合成は、これらが共有する四糖結合領域のそれぞれの構成糖が、キシロース転移酵素(XylT)、ガラクトース転移酵素−I(GalT−I)、ガラクトース転移酵素−II(GalT−II)、グルクロン酸転移酵素−I(GlcAT−I)によって転移されることで開始される。その後、四糖結合領域に、N−アセチルグルコサミン転移酵素−I(GlcNAcT−I)が作用することによって、GlcNAcがα1−4で転移されるとHep/HS鎖が合成される。
その後、Hep/HS鎖の二糖繰り返し領域の重合化は、異なる二つの糖転移酵素(グルクロン酸転移酵素−II(GlcAT−II)とN−アセチルグルコサミン転移酵素−II(GlcNAcT−II)によってグルクロン酸(GlcUA)とN−アセチルグルコサミン(GlcNAc)が交互に転移されることにより行われるが、どの様な分子によって行われているかは不明であった。
カナダのTufaroらは、1型単純ヘルペスウイルス(HSV−1)が細胞に感染する際に、細胞方面のヘパラン硫酸(HS)と結合することを利用して、HSV−1非感受性で、HS欠損細胞株であるsog9細胞にHeLa細胞由来のcDNAライブラリーを導入して、HSV−1感受性の回復した遺伝子を調べることにより、HS生合成遺伝子としてexostosin1(EXT1)を同定した。また、スウェーデンのLindahlらは、ウシ血清からグルクロン酸転移酵素−II(GlcAT−II)とN−アセチルグルコサミン転移酵素−II(GlcNAcT−II)の両活性を合わせ持つタンパク質を、様々なカラムを用いて精製し、その部分アミノ酸配列が、EXT1と高い相同性を持つEXT2の遺伝子産物の一部と一致することを明らかにした。これにより、EXT1およびEXT2はHS生合成に関与することが示された。
EXT1およびEXT2はともにガン抑制遺伝子に分類されており、その機能が明らかになる以前に、遺伝性多発性外骨腫(hereditary multiple exostoses:HME)の原因遺伝子としてポジショナルクローニング法により同定されていた。HMEは、EXT1またはEXT2のどちらかにおいて、対立遺伝子のうち片方が欠損することにより発症する常染色体優性遺伝病の一つであり、成長期に四肢長管骨の骨端に良性の軟骨腫瘍が多発し、骨格の奇形や低身長を伴う疾患である。発症頻度は約5〜10万人に1人で、その中の約2%の患者でEXT遺伝子のヘテロ接合性の消失が見られ、軟骨肉腫への悪性転化が起こる。上述したように、EXT1およびEXT2の機能が明らかになったことで、HSの合成異常により、HMEが引き起こされることが分かった。
最近、EXT1およびEXT2のノックアウトマウスが作製され、EXT1(−/−)とEXT2(−/−)の変異体マウスにおいては、原腸陥入の異常により、胎仔期に死亡することが確認された。また、EXT1(+/−)とEXT2(+/−)の変異体マウスにおいては、野生型マウスの約半分のHSしか合成できず、そのうち数%はHMEに似た症状を示した。したがって、HSの生合成機構を解明することは、HMEや、形態形成におけるHSの重要性を明らかにする上で重要である。
最近のヒトゲノム解析の進歩に伴い、EST(expressed sequence tag)データベース解析から、EXT1やEXT2にアミノ酸配列上で相同性を持つ遺伝子が単離され、EXT−like gene 1(EXTL1)、EXTL2およびEXTL3と名付けられた。これらはあわせてEXTファミリーと呼ばれている。EXTL1、EXTL2およびEXTL3については、未だHMEに関与するという報告はされていないが、HS生合成に関与することが示唆されている。
このようにHS生合成に関与する分子は明らかにされつつあるが、HS生合成機構の解明は未だ十分なものとはいえない。とりわけ、Hep/HS鎖のもととなる−(4GlcUAβ1−4GlcNAcα1)n−の二糖繰り返し領域からなるヘパラン鎖については、上記EXT1やEXT2、さらにEXTファミリー遺伝子産物に属するいずれの酵素を使用しても、in vitroで重合化することができなかった(Sugahara,K.,and Kitagawa,H.(2002)IUBMB Life 54,163−175頁参照)。
Hep/HS鎖は、コンドロイチン硫酸/デルマタン硫酸(CS/DS)鎖とともに硫酸化グリコサミノグリカン(GAG)と呼ばれ、ウロン酸とアミノ糖からなる二糖単位が数十回も繰り返し重合した構造からなっている。硫酸化GAGは、構成糖の特定の位置が硫酸化されることや、グルクロン酸(「GlcUA」又は「GlcA」と表記する場合がある。)からイズロン酸(IdoA)へ異性化されることなどによって、非常に多様な構造を示す。このような修飾は、GAG鎖に均一にほどこされるわけではなく、ある特定の部分にのみ行われ、それによって、様々な分子との相互作用が可能となる。なかでもHep/HS鎖は、発生過程において様々な増殖因子や形態形成因子と相互作用することによりシグナル伝達に関わることが、モデル生物を用いた多くの実験から明らかにされてきた。
PGとして存在しているHep/HS鎖とCS/DS鎖は、どちらもコアタンパク質のセリン残基に、特徴的な四糖からなるいわゆるGAG−タンパク質結合領域(GlcUAβ1−3Galβ1−3Galβ1−4Xylβ1−O−Ser)を介して共有結合している。Hep/HS鎖やCS/DS鎖の生合成は、これらが共有する四糖結合領域のそれぞれの構成糖が、キシロース転移酵素(XylT)、ガラクトース転移酵素−I(GalT−I)、ガラクトース転移酵素−II(GalT−II)、グルクロン酸転移酵素−I(GlcAT−I)によって転移されることで開始される。その後、四糖結合領域に、N−アセチルグルコサミン転移酵素−I(GlcNAcT−I)が作用することによって、GlcNAcがα1−4で転移されるとHep/HS鎖が合成される。
その後、Hep/HS鎖の二糖繰り返し領域の重合化は、異なる二つの糖転移酵素(グルクロン酸転移酵素−II(GlcAT−II)とN−アセチルグルコサミン転移酵素−II(GlcNAcT−II)によってグルクロン酸(GlcUA)とN−アセチルグルコサミン(GlcNAc)が交互に転移されることにより行われるが、どの様な分子によって行われているかは不明であった。
カナダのTufaroらは、1型単純ヘルペスウイルス(HSV−1)が細胞に感染する際に、細胞方面のヘパラン硫酸(HS)と結合することを利用して、HSV−1非感受性で、HS欠損細胞株であるsog9細胞にHeLa細胞由来のcDNAライブラリーを導入して、HSV−1感受性の回復した遺伝子を調べることにより、HS生合成遺伝子としてexostosin1(EXT1)を同定した。また、スウェーデンのLindahlらは、ウシ血清からグルクロン酸転移酵素−II(GlcAT−II)とN−アセチルグルコサミン転移酵素−II(GlcNAcT−II)の両活性を合わせ持つタンパク質を、様々なカラムを用いて精製し、その部分アミノ酸配列が、EXT1と高い相同性を持つEXT2の遺伝子産物の一部と一致することを明らかにした。これにより、EXT1およびEXT2はHS生合成に関与することが示された。
EXT1およびEXT2はともにガン抑制遺伝子に分類されており、その機能が明らかになる以前に、遺伝性多発性外骨腫(hereditary multiple exostoses:HME)の原因遺伝子としてポジショナルクローニング法により同定されていた。HMEは、EXT1またはEXT2のどちらかにおいて、対立遺伝子のうち片方が欠損することにより発症する常染色体優性遺伝病の一つであり、成長期に四肢長管骨の骨端に良性の軟骨腫瘍が多発し、骨格の奇形や低身長を伴う疾患である。発症頻度は約5〜10万人に1人で、その中の約2%の患者でEXT遺伝子のヘテロ接合性の消失が見られ、軟骨肉腫への悪性転化が起こる。上述したように、EXT1およびEXT2の機能が明らかになったことで、HSの合成異常により、HMEが引き起こされることが分かった。
最近、EXT1およびEXT2のノックアウトマウスが作製され、EXT1(−/−)とEXT2(−/−)の変異体マウスにおいては、原腸陥入の異常により、胎仔期に死亡することが確認された。また、EXT1(+/−)とEXT2(+/−)の変異体マウスにおいては、野生型マウスの約半分のHSしか合成できず、そのうち数%はHMEに似た症状を示した。したがって、HSの生合成機構を解明することは、HMEや、形態形成におけるHSの重要性を明らかにする上で重要である。
最近のヒトゲノム解析の進歩に伴い、EST(expressed sequence tag)データベース解析から、EXT1やEXT2にアミノ酸配列上で相同性を持つ遺伝子が単離され、EXT−like gene 1(EXTL1)、EXTL2およびEXTL3と名付けられた。これらはあわせてEXTファミリーと呼ばれている。EXTL1、EXTL2およびEXTL3については、未だHMEに関与するという報告はされていないが、HS生合成に関与することが示唆されている。
このようにHS生合成に関与する分子は明らかにされつつあるが、HS生合成機構の解明は未だ十分なものとはいえない。とりわけ、Hep/HS鎖のもととなる−(4GlcUAβ1−4GlcNAcα1)n−の二糖繰り返し領域からなるヘパラン鎖については、上記EXT1やEXT2、さらにEXTファミリー遺伝子産物に属するいずれの酵素を使用しても、in vitroで重合化することができなかった(Sugahara,K.,and Kitagawa,H.(2002)IUBMB Life 54,163−175頁参照)。
本発明の目的は、(1)Hep/HS鎖のもととなるヘパラン鎖のin vitro合成法を提供すること、および、(2)同合成法を用いて生産されたヘパラン鎖、ヘパラン硫酸およびヘパリン等の糖鎖を提供すること、にある。
本発明者は、上記課題に鑑み鋭意研究を進めた結果、(1)特定の重合開始剤(換言すれば、「受容体基質(acceptor substrate)」又は「プライマー基質(primer substrate)」)を使用し、かつ、分泌型のEXT1及びEXT2を共発現させたものを酵素に使用することで、従来達成できなかったin vitroでのヘパラン鎖の重合化(ポリマー合成)に成功したこと、(2)検討の結果、重合開始剤は、GAG−タンパク質結合領域の五糖のうちの少なくともGlcNAcα1−4GlcUAβ1−3Galβという三糖やGlcUAβ1−3Galβという二糖を含み、それらが疎水性アグリコンに結合した構造が重合化に重要と考えられること、(3)一定の重合開始剤を使用する場合には、分泌型EXT1のみを酵素に使用したときにもヘパラン鎖をin vitroで重合化できること、等を見出し、本発明を完成させるに至った。
即ち、本発明は、産業上有用な方法・物として、下記A)〜I)の発明を含むものである。
A) 下記(a)〜(e)からなる群から選ばれる重合開始剤を用いて合成されたヘパラン鎖。
(a) GlcUAβ1−3Galβ1−3Galβ1−4Xylβ1−O−Ser(GlyTrpProAspGly)のように、プロテオグリカンのGAG−蛋白質結合領域の四糖又は五糖の配列にコア蛋白質のオリゴペプチドが結合したもの、
(b) GAG−蛋白質結合領域類似体、即ち、GlcUAβ1−3Galβ1−O−C2H4NHCbzのように、GAG−蛋白質結合領域の二糖配列に疎水性アグリコンが結合したもの、
(c) GlcNAcα1−4GlcUAβ1−3Galβ1−O−C2H4NHCbzのように、GAG−蛋白質結合領域の三糖配列に疎水性アグリコンが結合したもの、
(d) グリピカン等のヘパラン硫酸プロテオグリカンのコア蛋白質配列に、GAG−蛋白質結合領域の四糖又は五糖の配列が結合したもの、
(e) α−トロンボモデュリン等のコンドロイチン硫酸プロテオグリカンのコア蛋白質配列に、GAG−蛋白質結合領域の四糖又は五糖の配列が結合したもの。
B) EXT1及びEXT2の2つの酵素を野生型より短く可溶性にして共発現させたものを使用して合成された、上記A)記載のヘパラン鎖。
C) 結合領域五糖配列(GlcNAcα1−4GlcUAβ1−3Galβ1−3Galβ1−4Xylβ1−)がペプチドに結合したもの、又は(GlcNAcα1−4GlcUAβ1−3Galβ1−)といった結合領域三糖配列に疎水性アグリコンが結合したものを重合開始剤に使用し、かつ、野生型より短く可溶性にして発現させたEXT1のみを酵素に使用して合成された、上記A)記載のヘパラン鎖。
D) 上記A)記載のヘパラン鎖を材料に使用して製造されたヘパラン硫酸。
E) 上記A)記載のヘパラン鎖を材料に使用して製造されたヘパリン。
F) 下記(a)〜(e)からなる群から選ばれる重合開始剤を用いたヘパラン鎖合成方法。
(a) GlcUAβ1−3Galβ1−3Galβ1−4Xylβ1−O−Ser(GlyTrpProAspGly)のように、プロテオグリカンのGAG−蛋白質結合領域の四糖又は五糖の配列にコア蛋白質のオリゴペプチドが結合したもの、
(b) GAG−蛋白質結合領域類似体、即ち、GlcUAβ1−3Galβ1−O−C2H4NHCbzのように、GAG−蛋白質結合領域の二糖配列に疎水性アグリコンが結合したもの、
(c) GlcNAcα1−4GlcUAβ1−3Galβ1−O−C2H4NHCbzのように、GAG−蛋白質結合領域の三糖配列に疎水性アグリコンが結合したもの、
(d) グリピカン等のヘパラン硫酸プロテオグリカンのコア蛋白質配列に、GAG−蛋白質結合領域の四糖又は五糖の配列が結合したもの、
(e) α−トロンボモデュリン等のコンドロイチン硫酸プロテオグリカンのコア蛋白質配列に、GAG−蛋白質結合領域の四糖又は五糖の配列が結合したもの。
G) EXT1及びEXT2の2つの酵素を野生型より短く可溶性にして共発現させたものを使用することを特徴とする、上記F)記載のヘパラン鎖合成方法。
H) 結合領域五糖配列(GlcNAcα1−4GlcUAβ1−3Galβ1−3Galβ1−4Xylβ1−)がペプチドに結合したもの、又は(GlcNAcα1−4GlcUAβ1−3Galβ1−)といった結合領域三糖配列に疎水性アグリコンが結合したものを重合開始剤に使用し、かつ、野生型より短く可溶性にして発現させたEXT1のみを酵素に使用することを特徴とする、上記F)記載のヘパラン鎖合成方法。
I) 上記F)記載の方法により合成されたヘパラン鎖を材料に使用して、(1)遺伝子組み換え技術で調製した硫酸基転移酵素を使用する方法、(2)化学合成法、あるいは、(1)・(2)の方法を組み合わせた半化学合成法によってヘパラン硫酸又はヘパリンを製造する方法。
本発明のさらに他の目的、特徴、および優れた点は、以下に示す記載によって十分わかるであろう。また、本発明の利益は、添付図面を参照した次の説明で明白になるであろう。
本発明者は、上記課題に鑑み鋭意研究を進めた結果、(1)特定の重合開始剤(換言すれば、「受容体基質(acceptor substrate)」又は「プライマー基質(primer substrate)」)を使用し、かつ、分泌型のEXT1及びEXT2を共発現させたものを酵素に使用することで、従来達成できなかったin vitroでのヘパラン鎖の重合化(ポリマー合成)に成功したこと、(2)検討の結果、重合開始剤は、GAG−タンパク質結合領域の五糖のうちの少なくともGlcNAcα1−4GlcUAβ1−3Galβという三糖やGlcUAβ1−3Galβという二糖を含み、それらが疎水性アグリコンに結合した構造が重合化に重要と考えられること、(3)一定の重合開始剤を使用する場合には、分泌型EXT1のみを酵素に使用したときにもヘパラン鎖をin vitroで重合化できること、等を見出し、本発明を完成させるに至った。
即ち、本発明は、産業上有用な方法・物として、下記A)〜I)の発明を含むものである。
A) 下記(a)〜(e)からなる群から選ばれる重合開始剤を用いて合成されたヘパラン鎖。
(a) GlcUAβ1−3Galβ1−3Galβ1−4Xylβ1−O−Ser(GlyTrpProAspGly)のように、プロテオグリカンのGAG−蛋白質結合領域の四糖又は五糖の配列にコア蛋白質のオリゴペプチドが結合したもの、
(b) GAG−蛋白質結合領域類似体、即ち、GlcUAβ1−3Galβ1−O−C2H4NHCbzのように、GAG−蛋白質結合領域の二糖配列に疎水性アグリコンが結合したもの、
(c) GlcNAcα1−4GlcUAβ1−3Galβ1−O−C2H4NHCbzのように、GAG−蛋白質結合領域の三糖配列に疎水性アグリコンが結合したもの、
(d) グリピカン等のヘパラン硫酸プロテオグリカンのコア蛋白質配列に、GAG−蛋白質結合領域の四糖又は五糖の配列が結合したもの、
(e) α−トロンボモデュリン等のコンドロイチン硫酸プロテオグリカンのコア蛋白質配列に、GAG−蛋白質結合領域の四糖又は五糖の配列が結合したもの。
B) EXT1及びEXT2の2つの酵素を野生型より短く可溶性にして共発現させたものを使用して合成された、上記A)記載のヘパラン鎖。
C) 結合領域五糖配列(GlcNAcα1−4GlcUAβ1−3Galβ1−3Galβ1−4Xylβ1−)がペプチドに結合したもの、又は(GlcNAcα1−4GlcUAβ1−3Galβ1−)といった結合領域三糖配列に疎水性アグリコンが結合したものを重合開始剤に使用し、かつ、野生型より短く可溶性にして発現させたEXT1のみを酵素に使用して合成された、上記A)記載のヘパラン鎖。
D) 上記A)記載のヘパラン鎖を材料に使用して製造されたヘパラン硫酸。
E) 上記A)記載のヘパラン鎖を材料に使用して製造されたヘパリン。
F) 下記(a)〜(e)からなる群から選ばれる重合開始剤を用いたヘパラン鎖合成方法。
(a) GlcUAβ1−3Galβ1−3Galβ1−4Xylβ1−O−Ser(GlyTrpProAspGly)のように、プロテオグリカンのGAG−蛋白質結合領域の四糖又は五糖の配列にコア蛋白質のオリゴペプチドが結合したもの、
(b) GAG−蛋白質結合領域類似体、即ち、GlcUAβ1−3Galβ1−O−C2H4NHCbzのように、GAG−蛋白質結合領域の二糖配列に疎水性アグリコンが結合したもの、
(c) GlcNAcα1−4GlcUAβ1−3Galβ1−O−C2H4NHCbzのように、GAG−蛋白質結合領域の三糖配列に疎水性アグリコンが結合したもの、
(d) グリピカン等のヘパラン硫酸プロテオグリカンのコア蛋白質配列に、GAG−蛋白質結合領域の四糖又は五糖の配列が結合したもの、
(e) α−トロンボモデュリン等のコンドロイチン硫酸プロテオグリカンのコア蛋白質配列に、GAG−蛋白質結合領域の四糖又は五糖の配列が結合したもの。
G) EXT1及びEXT2の2つの酵素を野生型より短く可溶性にして共発現させたものを使用することを特徴とする、上記F)記載のヘパラン鎖合成方法。
H) 結合領域五糖配列(GlcNAcα1−4GlcUAβ1−3Galβ1−3Galβ1−4Xylβ1−)がペプチドに結合したもの、又は(GlcNAcα1−4GlcUAβ1−3Galβ1−)といった結合領域三糖配列に疎水性アグリコンが結合したものを重合開始剤に使用し、かつ、野生型より短く可溶性にして発現させたEXT1のみを酵素に使用することを特徴とする、上記F)記載のヘパラン鎖合成方法。
I) 上記F)記載の方法により合成されたヘパラン鎖を材料に使用して、(1)遺伝子組み換え技術で調製した硫酸基転移酵素を使用する方法、(2)化学合成法、あるいは、(1)・(2)の方法を組み合わせた半化学合成法によってヘパラン硫酸又はヘパリンを製造する方法。
本発明のさらに他の目的、特徴、および優れた点は、以下に示す記載によって十分わかるであろう。また、本発明の利益は、添付図面を参照した次の説明で明白になるであろう。
図1は、種々の重合開始剤(受容体基質)を使用してヘパラン鎖の重合化の有無を検討した実験結果を示すグラフである。図中、□印はN−acetylheparosan K5オリゴ糖を重合開始剤に使用した結果、■印は部分的にN−硫酸化されたN−acetylheparosan K5オリゴ糖、●印はGlcUAβ1−3Galβ1−O−C2H4NHCbz、▲印はグリピカン−1、○印はα−トロンボモデュリン、◇印はGlcUA−Gal−Gal−Xyl−(Gly)Ser−Gly−Glu、△印はGlcUA−Gal−Gal−Xyl−Ser−Gly−Trp−Pro−Asp−Gly、をそれぞれ重合開始剤に使用した結果である。
図2は、GlcUAβ1−3Galβ1−O−C2H4NHCbzを重合開始剤に使用して重合反応を行った結果得られた反応生成物について、ヘパリチナーゼIによる消化を行い、伸長鎖の解析を行った実験結果を示すグラフである。図中、■印は消化前の試料、○印は消化後の試料の結果を示す。矢印は消化により遊離した二糖の溶出位置を示す。
図3は、重合化反応生成物の大きさ(分子サイズ)を解析した結果を示すグラフである。▲印はグリピカン−1、○印はα−トロンボモデュリン、●印はGlcUAβ1−3Galβ1−O−C2H4NHCbz、をそれぞれ重合開始剤に使用した結果である。
図4は、GlcNAcα1−4GlcUAβ1−3Galβ1−O−C2H4NHCbzを重合開始剤に使用してヘパラン鎖の重合化の有無を検討した実験結果を示すグラフである。
図2は、GlcUAβ1−3Galβ1−O−C2H4NHCbzを重合開始剤に使用して重合反応を行った結果得られた反応生成物について、ヘパリチナーゼIによる消化を行い、伸長鎖の解析を行った実験結果を示すグラフである。図中、■印は消化前の試料、○印は消化後の試料の結果を示す。矢印は消化により遊離した二糖の溶出位置を示す。
図3は、重合化反応生成物の大きさ(分子サイズ)を解析した結果を示すグラフである。▲印はグリピカン−1、○印はα−トロンボモデュリン、●印はGlcUAβ1−3Galβ1−O−C2H4NHCbz、をそれぞれ重合開始剤に使用した結果である。
図4は、GlcNAcα1−4GlcUAβ1−3Galβ1−O−C2H4NHCbzを重合開始剤に使用してヘパラン鎖の重合化の有無を検討した実験結果を示すグラフである。
本発明は、GAG−タンパク質結合領域の五糖のうちの少なくともGlcNAcα1−4GlcUAβ1−3Galβという三糖やGlcUAβ1−3Galβという二糖を含み、それらが疎水性アグリコン(糖以外の疎水性物質)に結合した構造の重合開始剤を使用してヘパラン鎖をin vitroでポリマー合成する方法である。具体的には前述のように、下記(a)〜(e)の何れかに記載の重合開始剤を使用してヘパラン鎖を合成する。
(a) GlcUAβ1−3Galβ1−3Galβ1−4Xylβ1−O−Ser(GlyTrpProAspGly)のように、プロテオグリカンのGAG−蛋白質結合領域の四糖又は五糖の配列にコア蛋白質のオリゴペプチドが結合したもの、
(b) GAG−蛋白質結合領域類似体、即ち、GlcUAβ1−3Galβ1−O−C2H4NHCbz(ここでCbzは「ベンジルオキシカルボニル基(benzyloxycarbonylgroup)」を表す。以下同じ。)のように、GAG−蛋白質結合領域の二糖配列に疎水性アグリコンが結合したもの、
(c) GlcNAcα1−4GlcUAβ1−3Galβ1−O−C2H4NHCbzのように、GAG−蛋白質結合領域の三糖配列に疎水性アグリコンが結合したもの、
(d) グリピカン(Glypican)等のヘパラン硫酸プロテオグリカンのコア蛋白質配列に、GAG−蛋白質結合領域の四糖又は五糖の配列が結合したもの、
(e) α−トロンボモデュリン(α−TM)等のコンドロイチン硫酸プロテオグリカンのコア蛋白質配列に、GAG−蛋白質結合領域の四糖又は五糖の配列が結合したもの。
上記(a)については、GlcNAcα1−4GlcUAβ1−3Galβ1−3Galβ1−4Xylβ1という五糖配列にオリゴペプチドが結合したものを使用してもよい。オリゴペプチドは、疎水性アグリコンとして、疎水性アミノ酸を1以上含むものが好ましく、具体的には、ベンゼン環を有するトリプトファン(Trp)、フェニルアラニン(Phe)、チロシン(Tyr)、あるいは環式α−イミノ酸であるプロリン(Pro)といった疎水性アミノ酸を含むペプチド配列であることが好ましい。配列の長さは特に限定されるものではない。例えば、上記ペプチド配列のほか、GAG attachment site近傍の報告されているペプチド配列(Lijuan Zhang and Jeffrey D.Esko,J.Biol.Chem.,269,19295−19299,1994参照)をもとに配列を決定するとよい。
上記(b)(c)は、重合開始剤として、ベンゼン環を有するC2H4NHCbzのような疎水性アグリコンを使用する。疎水性アグリコンの他の例としては、既にヘパラン硫酸合成のキシロシドのアグリコンとして報告されたestradiolやそれを含む構造(Fulgentius N.Lugemwa and Jeffrey D.Esko,Carbohydr.Res.,239,285−290,1993参照)、あるいは、naphtolのようなベンゼン環を2つ以上含む構造(Timothy A.Fritz,Fulgentius N.Lugemwa,Arun K.Sarkar and Jeffrey D.Esko,J.Biol.Chem.,269,300−307,1994、および、Arun K.Sarkar and Jeffrey D.Esko,Carbohydr.Res.,279,161−171,1995参照)の利用が挙げられる。
上記(d)(e)は、重合開始剤として、グリピカン−1(Glypican−1)等のヘパラン硫酸プロテオグリカン、あるいは、α−トロンボモデュリン(α−TM)等のコンドロイチン硫酸プロテオグリカンのコア蛋白質配列に、GAG−蛋白質結合領域の四糖又は五糖の配列が結合したものを使用する。
ヘパラン硫酸プロテオグリカンの他の例としては、グリピカン−2〜−6、シンデカン−1〜−4、パールカン、ベーターグリカンなどを挙げることができる。また、コンドロイチン硫酸プロテオグリカンの他の例としては、アグリカン、バーシカン、ニューロカン、ブレビカン、フォスファカン、デコリン、ビグリカン、セルグリシン、アピカン、NG2などを挙げることができ、これらのコアタンパク質を使用するものであってもよい。
後述の実施例に示すように、上記いずれの重合開始剤を使用する場合にも、ヘパラン鎖の合成反応には、分泌型のEXT1及びEXT2を共発現させたものを酵素に使用することが好ましい。ただし、一定の重合開始剤を使用する場合には、分泌型EXT1単独を使用してもヘパラン鎖を合成することが可能である。例えば、上記(c)に掲げるGlcNAcα1−4GlcUAβ1−3Galβ1−O−C2H4NHCbzを重合開始剤に使用する場合には、EXT1のみであってもヘパラン鎖を合成することができた(後述の実施例5参照)。対照的に、上記(b)に掲げるGlcUAβ1−3Galβ1−O−C2H4NHCbzを重合開始剤に使用する場合には、EXT1単独ではヘパラン鎖を合成することができなかった(後述の表1参照)。
上記実験結果から、四糖結合領域のグルクロン酸(GlcUA)にN−アセチルグルコサミン(GlcNAc)を転移する反応については、EXT1及びEXT2のコンプレックスが重要であるが、その後の二糖繰り返し領域の伸長反応については、EXT1単独でも糖鎖を伸長させることが可能と考えられた。したがって、結合領域五糖配列(GlcNAcα1−4GlcUAβ1−3Galβ1−3Galβ1−4Xylβ1−)がペプチド(又はプロテオグリカンのコア蛋白質配列)に結合したもの、あるいは(GlcNAcα1−4GlcUAβ1−3Galβ1−)といった結合領域三糖配列に疎水性アグリコンが結合したものを重合開始剤に使用するときには、EXT1のみを酵素に使用してヘパラン鎖を合成してもよい。
ヘパラン鎖合成反応のその他の条件、使用する試薬などは後述の実施例記載のものに限定されるものではなく、公知の糖鎖合成反応に用いられている各種条件、試薬などから最適なものを選択すればよい。
また、上記方法により合成されたヘパラン鎖を材料に使用してヘパラン硫酸(又はヘパリン)を製造する方法としては、(1)遺伝子組み換え技術で調製した硫酸基転移酵素を使用する方法、(2)化学合成法、あるいは、(1)・(2)の方法を組み合わせた半化学合成法、の3つの方法を挙げることができる。
上記(1)の方法としては、遺伝子組み換え技術で調製した各種硫酸基転移酵素(例えば、Wu ZL,Zhang L,Beeler DL,Kuberan B,and Rosenberg RD.FASEB J.,16,539−545,2002、および、Kuberan B,Lech MZ,Beeler DL,Wu ZL,and Rosenberg RD.,Nat Biotechnol.21,1343−1346,2003参照)を使用して所望の位置に硫酸基を転移する方法が挙げられる。
上記(2)の化学合成法としては、例えば、B.Casu,A.Naggi,and G.Torri,Synhtesis of sulfated glycosaminoglycans,in Glycoscience:Chemistry and Chemical Biology III,pp.1895−1903,2001,Ed.by Bertram Fraser−Reid,Kuniaki Tatsuta and Joachim Thiem,Springerに記載される、化学的にヘパランからヘパラン硫酸を生産する方法が挙げられる。
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。尚、各実施例における詳しい実験方法については、最後の項においてまとめて説明する。
〔実施例1:N−acetylheparosanオリゴ糖は、EXT1とEXT2を共発現させた複合体によって数糖のみ伸長する〕
in vitroでのHS重合化について検討するため、様々なEXTタンパク質を組み合わせたり、組換え型EXTタンパク質の発現方法を検討したり、重合化反応に適した開始基質を探すため、様々な重合化反応条件を予備的に実験してきた。
EXT1とEXT2がヘテロオリゴマー複合体を形成し触媒活性を強めることや、小胞体からゴルジ装置へ細胞内局在をシフトすることが知られている。また、全長の一部が切断された分泌型のEXT1とEXT2とを共発現させると、EXT1とEXT2とをそれぞれ単独で発現させた場合と比較して、N−acetylheparosanオリゴ糖アクセプター基質へのGlcNAcまたはGlcUA単独の糖転移活性を強めることも報告されている。この結果から、糖鎖重合化活性は検出されていなかったが、膜貫通領域や細胞質領域を欠くEXT1およびEXT2の切断型は、複合体を形成するのに十分であると考えられた。
したがって、本実施例および後述の各実施例では、内因性酵素や他のタンパク質からの酵素タンパク質の精製を容易にするため、全長型ではなく切断型のEXT1とEXT2をProtein Aタグの付いた融合タンパク質として発現させた。この分泌型タンパク質は、EXT1とEXT2を単独もしくは共にCOS−1細胞に導入することによって発現分泌させ、精製後様々なプライマー基質とともに酵素反応に用いた。
N−acetylheparosan K5オリゴ糖(GlcNAcα1−(4GlcUAβ1−4GlcNAcα1)n−4GlcUAβ1−O−2,5−anhydroMan)は、ヘパリン/ヘパラン硫酸の二糖繰り返し領域と同じ構造を持ち、それゆえグルクロン酸転移酵素−IIやGlcNAcT−II活性を測定するための有用なアクセプター基質として用いられているので、まず初めに、UDP−[3H]GlcNAcとUDP−GlcUA共存下でEXT1とEXT2を共発現(EXT1−EXT2)させ重合化を行ったが、重合化の開始基質とならないことが分かった。Superdex Peptideカラムでのゲルろ過クロマトグラフィーによる反応生成物の溶出位置から、高い[3H]GlcNAcの組込みがなく、使用したオリゴ糖の非還元末端に数糖だけ付加したものと判断された(図1の□印参照)。
マウスの肥満細胞腫由来の酵素源を用いると、続いて起こるN−deacetylase/N−sulfotransferase(NDST)反応がヘパリン鎖の重合化を数倍促進することが報告されているため、部分的にN−硫酸化されたK5オリゴ糖誘導体を開始剤として調べたが良い開始剤にはならなかった(図1の■印参照)。これらの結果から、さらに糖以外の何か別の成分がHSポリメラーゼ反応に必要であること、例えば、コアタンパク質またはその一部オリゴペプチドといったタンパク質成分などが重合化に有用な開始剤であると考えられた。
〔実施例2:in vitroでのヘパラン重合化にはEXT1−EXT2の共発現に加えて結合領域類似体が必要である〕
GlcUAβ1−3Galβ1−O−C2H4NHCbzやGlcUAβ1−3Galβ1−O−ナフタレンメタノールのような結合領域類似体合成物が、EXTL2やEXTL3のGlcNAcT−I活性のアクセプター基質となることから、グリコサミノグリカン(GAG)−タンパク質の結合領域四糖部分に最初のGlcNAcを転移する反応さらに重合化反応においても、上記類似体、あるいはコアタンパク質(とりわけその疎水的な領域)が必要であると考えられた。それゆえ、本実施例では、まず、分泌型EXT1とEXT2を共発現させた重合化反応の開始剤としてGlcUAβ1−3Galβ1−O−C2H4NHCbzを用いた。Superdex Peptideカラムでゲルろ過クロマトグラフィーを行ったところ、顕著な糖鎖の重合化が起こり(図1の●印参照)、上記類似体が、反応の開始だけでなく糖鎖の重合化にも重要であることが示された。また、GlcNAcT−I活性を持つEXTL2とEXTL3は、本重合化反応では不必要であった。
GlcUAβ1−3Galβ1−O−C2H4NHCbzは人工的な基質であるため、次に、天然のHSプロテオグリカンのコアタンパク質を用いて実験を行った。しかし、結合領域四糖または六糖を有するHSプロテオグリカンは手に入らないため、代表的なHSプロテオグリカンの一種であるグリピカン−1を、HSが欠損したsog9細胞にタグの付いた分泌型タンパク質として発現させ、短いHSオリゴ糖の結合したコアタンパク質として調製した。sog9細胞はEXT1遺伝子の変異不活性化のためにHS合成が不完全であり、それゆえ、HS重合体による修飾を受けていないグリピカン−1が細胞培養上清中に分泌される。グリピカン−1の発現は抗Myc抗体を用いたウェスタンブロット法によって確認した。このようにHS欠損sog9細胞によって合成された組換え型グリピカン−1を、Ni−NTAを用いて精製し、in vitro重合化に用いたところ、良好なヘパラン重合化の開始剤となった(図1の▲印参照)。本重合化反応に用いたグリピカン−1の濃度が低いことを考慮すると、in vivoでは、グリピカン−1には人工基質に比べてはるかに高いヘパラン受容体としての活性があると考えられた。
次に、巨大なコアタンパク質に結合領域四糖を持つパートタイムプロテオグリカンであるα−トロンボモデュリン(α−TM)を開始剤に用いて、ヘパラン鎖の重合化(伸長反応)の有無を検討した。その結果、トロンボモデュリン(TM)はin vivoではコンドロイチン硫酸(CS)のみを有し、HS鎖は持たないことが知られているにもかかわらず、顕著な重合化が観察された(図1の○印参照)。対照的に、TM由来の結合領域四糖ペプチドGlcUA−Gal−Gal−Xyl−(Gly)Ser−Gly−Glu(図1の◇印参照)や結合領域四糖−Ser(下記の表1参照)のどちらも、糖鎖重合化の開始剤にならなかった。他方、HSまたはCSが結合するβグリカンに相当する結合領域五糖ペプチドGlcUA−Gal−Gal−Xyl−Ser−Gly−Trp−Pro−Asp−Glyについては、弱い開始剤としての活性を示した(図1の△印参照)。
以上の実験結果を下記の表1にまとめた。
表1に示された結果から、in vitroでのヘパラン鎖の合成開始あるいは重合化(伸長反応)の促進には、疎水性ペプチドなどの疎水性アグリコンが重要であると考えられた。また、表1に示すように、分泌型EXT1またはEXT2を単独で用いたり、分泌型EXT1、EXT2をそれぞれ別に発現させたものの混合物を用いた実験では、いずれの基質を用いても重合化は起こらなかった。このように、ヘパラン鎖の重合化反応にはEXT1−EXT2の相互作用と疎水性アグリコンが重要であることが示された。
〔実施例3:重合化生成物の同定〕
重合化反応生成物は、典型的なヘパラン鎖とHS鎖のα1,4−GlcNAcでGlcUAに結合した部分を切断するヘパリチナーゼI消化を行い、Superdex Peptideカラムでゲルろ過クロマトグラフィーを行った。プライマー基質としてのグリピカン−1やα−TM、GlcUAβ1−3Galβ1−O−C2H4NHCbzから得られた未消化の重合化反応生成物はそれぞれ高分子領域に溶出され、ヘパリチナーゼI消化後の生成物は二糖の溶出位置に溶出し、完全に消化されたことから、重合化反応生成物は−(4GlcUAβ1−4GlcNAcα1)n−から構成されていることが分かった(図2参照)。グリピカン−1とα−TMから得られた重合化反応生成物もヘパリチナーゼIによって完全に分解された。
〔実施例4:重合化反応生成物の大きさの解析〕
次に、グリピカン−1、α−TM、GlcUAβ1−3Galβ1−O−C2H4NHCbz上に合成された重合化反応生成物をSuperdex 200カラムでゲルろ過クロマトグラフィーを行うことにより鎖長を測定した。グリピカン−1やα−TMから得られた反応生成物の場合、アルカリ還元によって糖鎖を切り離し、ゲルろ過分析にかけた。両方のアクセプター上に合成されたヘパラン鎖は、予備実験おいてSuperdex 75カラムの高分子領域に溶出されたため、Superdex 200カラムにかけたところ、3つの基質上すべてに非常に長い糖鎖が合成されたことが明らかになった(図3参照)。GlcUAβ1−3Galβ1−O−C2H4NHCbz上に合成されたヘパラン鎖は平均分子量170kDa付近に溶出され、グリピカン−1やα−TM上に合成された糖鎖はSuperdex 200カラムの分画範囲を超えた高分子領域(〜200kDa)に現れ(図3)、様々な組織で見られるHS鎖(10−70kDa)よりも長く分子量が大きいことが示唆された。これらの結果から、分泌型EXT1、EXT2を共発現させて調製した酵素は、in vitroでα−TMやGlcUAβ1−3Galβ1−O−C2H4NHCbz上に生体内と同様に長いヘパラン重合体を合成することができることが示された。
〔実施例5:GlcNAcα1−4GlcUAβ1−3Galβ1−O−C2H4NHCbzを重合開始剤に用いたヘパラン鎖の重合化反応〕
GlcNAcα1−4GlcUAβ1−3Galβ1−O−C2H4NHCbzを後述の方法によって調製し、これを重合開始剤に使用してヘパラン鎖の重合化反応を行った。方法は概略以下のとおりである。まず、10%ウシ胎仔血清を含むDMEM培地で培養したCOS−1細胞に、FuGENE6(Roche Applied Science)を用いてProtein Aが融合した分泌型EXT1あるいはEXT2、もしくは分泌型EXT1とEXT2を共発現させた。48時間後、培養上清に分泌したタンパク質をIgG−Sepharose beadsを用いて精製した。タンパク質が結合したIgG−Sepharose beadsを、100mM MES−NaOH,pH6.5の緩衝液に懸濁し、酵素源として使用した。
重合化反応は、精製した酵素が結合したIgG−Sepharose beads 10μl、100mM MES−NaOH,pH6.5、10mM MgCl2、1mM ATP、31μM UDP−[3H]GlcNAc(約0.7X105dpm)、31μM UDP−GlcUAそしてGlcNAcα1−4GlcUAβ1−3Galβ1−O−C2H4NHCbz(0.65nmol)を加え、総量20μlで行った。37℃で18時間反応後、反応生成物をSuperdex peptide HR 10/30カラム(Amersham Pharmacia)にかけ、0.2M NH4HCO3を溶出液に用いて分画後(0.4mL/Fr.)、放射活性を測定した。その結果を図4に示す。図中の括弧内の数字は、使用した培養上清の容量を示す。
同図に示すように、分泌型EXT1とEXT2を共発現させると(EXT1/2)、非常に強い重合化反応が観察された。また、GlcAβ1−3Galβ1−O−C2H4HCbzを基質に用いた場合と異なり、GlcNAcα1−4GlcAβ1−3Galβ1−O−C2H4NHCbzを基質に用いると、EXT1単独でも、弱いながらも重合化反応が観察された。しかしながら、EXT2単独ではどちらの基質を用いても重合反応は観察できなかった。
〔実験方法〕
(1)材料
UDP−[3H]GlcNAcはPerkinElmer Life Sciencesから購入した。ラベルされていないUDP−GlcUAとUDP−GlcNAcはSigmaから、Heparitinase Iは生化学工業(東京)から購入した。Escherichia coli K5菌株の莢膜の多糖から調製したN−Acetylheparosanオリゴ糖(GlcNAcα1−(4GlcUAβ1−4GlcNAcα1)n−4GlcUAβ1−O−2,5−anhydroMan)と、その一部がN−硫酸化された誘導体は、スウェーデンのウプサラ大学のMarion Kusche−Gullberg氏とUlf Lindahl氏から譲り受けた。GlcUAβ1−3Galβ1−3Galβ1−4Xylβ1−O−Ser、GlcUAβ1−3Galβ1−3Galβ1−4Xylβ1−O−(Gly)Ser−Gly−Glu、GlcUAβ1−3Galβ1−3Galβ1−4Xylβ1−O−Ser−Gly−Trp−Pro−Asp−Glyの3種の重合開始剤は化学的に合成した。GlcUAβ1−3Galβ1−O−C2H4NHCbzも化学合成した。精製されたα−thrombomodulinは第一製薬(東京)から恵与された。マウスsog9細胞はFrank Tufaro氏から譲り受けた。Superdex PeptideとSuperdex 200 HR10/30カラムはAmersham Biosciences社製のものを使用した。
(2)重合化反応の基質としての組換え型グリピカン−1の精製
C末端側の19アミノ酸をコードした配列を除いたヒトグリピカン−1のcDNAをpcDNA3.1(−)MycHis A(Invitrogen)のEcoRIサイトとBamHIサイトの間に組み込み、マウスsog9細胞をレシピエント細胞として安定発現細胞を作製した。得られた安定発現細胞は、C末端側でMyc−Hisタグと融合した組み換え型タンパク質としてグリピカン−1を細胞培養上清中に分泌した。分泌されたタンパク質はNi−NTA−agarose beads(Qiagen)で精製し、重合化反応の基質として用いた。
(3)分泌型EXT1及びEXT2の発現と重合化反応
COS−1細胞を、ウシ胎仔血清を10%加えたDMEMで培養し、FuGENE6(Roche Applied Science)を用いて分泌型のEXT1とEXT2をそれぞれ単独、または共発現させ、48時間後、分泌されたProtein Aタグの付いたタンパク質をIgG−Sepharoseを用いて精製した。そして、酵素が結合したIgG−SepharoseをpH6.5の100mM MES−NaOHで懸濁し、酵素源として用いた。
重合化反応には、精製した酵素が結合したIgG−Sepharose 10μL、100mM MES−NaOH(pH6.5)、10mM MnCl2、1mM ATP、250μM UDP−[3H]GlcNAc(約5.5×105dpm)、250μM UDP−GlcUAとアクセプター基質で総量が20μLになるように混合した。アクセプター基質は以下のうち1つを用いた。GlcUAβ1−3Galβ1−O−C2H4NHCbz(100nmol)、非還元末端にGlcNAcを持つN−acetylheparosanオリゴ糖(20μg)、部分的にN−硫酸化されたN−acetylheparosanオリゴ糖誘導体(20μg)、α−thrombomodulin(α−TM)(1nmol)、GlcUAβ1−3Galβ1−3Galβ1−4Xylβ1−O−Ser(1nmol)、GlcUAβ1−3Galβ1−3Galβ1−4Xylβ1−O−Ser−Gly−Trp−Pro−Asp−Gly(1nmol)、GlcUAβ1−3Galβ1−3Galβ1−4Xylβ1−O−(Gly)Ser−Gly−Glu(1nmol)、さらに、グリピカン−1、GlcNAcα1−4GlcUAβ1−3Galβ1−O−C2H4NHCbzのいずれかである。
反応産物は、Superdex Peptide HR 10/30カラムでゲルろ過し、これを0.4mLずつ分取し、1.2%(w/v)2,5−diphenyloxazoleと33%(w/v)TritonX−100を含むカクテルを用いて液体シンチレーションカウンター(TRI−CARB 2900TR,Packerd Instrument Co.)で放射能を定量することで解析を行った。高分子領域に溶出されたラベルされた反応生成物は更に解析を行うため乾燥した。
(4)重合化反応生成物のキャラクタリゼーション
重合化した糖鎖の同定を行うため、乾燥させた放射活性産物(二糖として70pmol)を、37℃ overnightでヘパリチナーゼ消化を行った。消化条件は6mIU heparitinase I、20μM酢酸ナトリウムバッファー(pH7.0)、2mM酢酸カルシウムを含む、総量100μLとした。消化産物はSuperdex Peptideカラムで解析をし、重合化した産物の鎖長を決定するため、グリピカン−1とα−TM上に生成した転移反応産物を、室温で20時間、0.5M LiOHを用いてコアタンパク質から切り離した。グリピカン−1、α−TM、GlcUAβ1−3Galβ1−O−C2H4NHCbzから得られた試料は、分子量マーカーとして市販のデキストラン製品(平均分子量170,000〜200,000のものはNacalai Tesque Inc.から、65,000、37,500、18,100のものはSigmaから)を用いてSuperdex200カラムで解析した。
(5)分泌型EXTL3を用いた3糖合成基質(GlcNAcα1−4GlcUAβ1−3Galβ1−O− C 2 H 4 NHCbz)の調製
GlcAβ1−3Galβ1−O−C2H4NHCbzは、化学合成したものを用いた。Nova−PakC18 column(3.9X150mm)は、Waters社より購入した。Protein Aが融合した分泌型EXTL3は、以前報告した様に調製した(Kim et al.PNAS 2001 98:7176−7181)。概略、以下のとおりである。10%ウシ胎仔血清を含むDMEM培地で培養したCOS−1細胞に、FuGENE6(Roche Applied Science)を用いてProtein Aが融合した分泌型EXTL3を発現させた。48時間後、培養上精に分泌したタンパク質をIgG−Sepharose beadsを用いて精製した。タンパク質が結合したIgG−Sepharose beadsを、100mM MES−NaOH,pH6.5の緩衝液に懸濁し、酵素源として使用した。
酵素反応は、精製したEXTL3が結合したIgG−Sepharose beads 10μl、100mM MES−NaOH,pH6.5、10mM MgCl2、1mM ATP、6pmolのUDP−[3H]GlcNAc(about 7.9X105dpm)、90nmolのUDP−GlcNAcそしてGlcAβ1−3Galβ1−O−C2H4NHCbz(90nmol)を加え、総量20μlで行った。37℃で18時間反応後、反応生成物はNova−Pak C18カラムを用いたHPLCにより精製した。精製画分は凍結乾燥した。
(6)β−グルクロニダーゼを用いた、反応生成物画分に含まれる未反応基質の除 去
りんご貝由来のβ−glucuronidase(EC 3.2.1.31)は、東京臓器製薬(Tokyo,Japan)より恵与された。上記で精製した反応生成物には、約30nmolの未反応基質が含まれていた。そこで、未反応基質(GlcAβ1−3Galβ1−O−C2H4NHCbz)を除くために、反応生成物画分を50μlの0.05M sodium citrate buffer,pH4.5に溶解し、りんご貝由来のβ−glucuronidase(7.37mIU)を加え、37℃で12時間処理した(Sugahara,K.et al.1992 Biochem.J.283,99−104)。処理した溶液をSuperdex peptide HR 10/30カラム(Amersham Pharmacia)にかけ、0.2M NH4HCO3を溶出液に用いて放射活性のある画分を単離した。
尚、発明を実施するための最良の形態の項においてなした具体的な実施態様または実施例は、あくまでも、本発明の技術内容を明らかにするものであって、そのような具体例にのみ限定して狭義に解釈されるべきものではなく、次に記載する特許請求の範囲内で、様々に変更して実施することができる。
産業上の利用の可能性
以上のように、本発明は、ヘパラン鎖のin vitro合成法、並びに、同合成法を用いて生産されたヘパラン鎖、ヘパラン硫酸およびヘパリン等の糖鎖を提供するものであり、ヘパラン硫酸やヘパリンといった有用生理活性を有する硫酸化グリコサミノグリカンの糖鎖骨格の人工合成などに利用することができ、その他研究開発用などに種々の有用性を有するものである。
(a) GlcUAβ1−3Galβ1−3Galβ1−4Xylβ1−O−Ser(GlyTrpProAspGly)のように、プロテオグリカンのGAG−蛋白質結合領域の四糖又は五糖の配列にコア蛋白質のオリゴペプチドが結合したもの、
(b) GAG−蛋白質結合領域類似体、即ち、GlcUAβ1−3Galβ1−O−C2H4NHCbz(ここでCbzは「ベンジルオキシカルボニル基(benzyloxycarbonylgroup)」を表す。以下同じ。)のように、GAG−蛋白質結合領域の二糖配列に疎水性アグリコンが結合したもの、
(c) GlcNAcα1−4GlcUAβ1−3Galβ1−O−C2H4NHCbzのように、GAG−蛋白質結合領域の三糖配列に疎水性アグリコンが結合したもの、
(d) グリピカン(Glypican)等のヘパラン硫酸プロテオグリカンのコア蛋白質配列に、GAG−蛋白質結合領域の四糖又は五糖の配列が結合したもの、
(e) α−トロンボモデュリン(α−TM)等のコンドロイチン硫酸プロテオグリカンのコア蛋白質配列に、GAG−蛋白質結合領域の四糖又は五糖の配列が結合したもの。
上記(a)については、GlcNAcα1−4GlcUAβ1−3Galβ1−3Galβ1−4Xylβ1という五糖配列にオリゴペプチドが結合したものを使用してもよい。オリゴペプチドは、疎水性アグリコンとして、疎水性アミノ酸を1以上含むものが好ましく、具体的には、ベンゼン環を有するトリプトファン(Trp)、フェニルアラニン(Phe)、チロシン(Tyr)、あるいは環式α−イミノ酸であるプロリン(Pro)といった疎水性アミノ酸を含むペプチド配列であることが好ましい。配列の長さは特に限定されるものではない。例えば、上記ペプチド配列のほか、GAG attachment site近傍の報告されているペプチド配列(Lijuan Zhang and Jeffrey D.Esko,J.Biol.Chem.,269,19295−19299,1994参照)をもとに配列を決定するとよい。
上記(b)(c)は、重合開始剤として、ベンゼン環を有するC2H4NHCbzのような疎水性アグリコンを使用する。疎水性アグリコンの他の例としては、既にヘパラン硫酸合成のキシロシドのアグリコンとして報告されたestradiolやそれを含む構造(Fulgentius N.Lugemwa and Jeffrey D.Esko,Carbohydr.Res.,239,285−290,1993参照)、あるいは、naphtolのようなベンゼン環を2つ以上含む構造(Timothy A.Fritz,Fulgentius N.Lugemwa,Arun K.Sarkar and Jeffrey D.Esko,J.Biol.Chem.,269,300−307,1994、および、Arun K.Sarkar and Jeffrey D.Esko,Carbohydr.Res.,279,161−171,1995参照)の利用が挙げられる。
上記(d)(e)は、重合開始剤として、グリピカン−1(Glypican−1)等のヘパラン硫酸プロテオグリカン、あるいは、α−トロンボモデュリン(α−TM)等のコンドロイチン硫酸プロテオグリカンのコア蛋白質配列に、GAG−蛋白質結合領域の四糖又は五糖の配列が結合したものを使用する。
ヘパラン硫酸プロテオグリカンの他の例としては、グリピカン−2〜−6、シンデカン−1〜−4、パールカン、ベーターグリカンなどを挙げることができる。また、コンドロイチン硫酸プロテオグリカンの他の例としては、アグリカン、バーシカン、ニューロカン、ブレビカン、フォスファカン、デコリン、ビグリカン、セルグリシン、アピカン、NG2などを挙げることができ、これらのコアタンパク質を使用するものであってもよい。
後述の実施例に示すように、上記いずれの重合開始剤を使用する場合にも、ヘパラン鎖の合成反応には、分泌型のEXT1及びEXT2を共発現させたものを酵素に使用することが好ましい。ただし、一定の重合開始剤を使用する場合には、分泌型EXT1単独を使用してもヘパラン鎖を合成することが可能である。例えば、上記(c)に掲げるGlcNAcα1−4GlcUAβ1−3Galβ1−O−C2H4NHCbzを重合開始剤に使用する場合には、EXT1のみであってもヘパラン鎖を合成することができた(後述の実施例5参照)。対照的に、上記(b)に掲げるGlcUAβ1−3Galβ1−O−C2H4NHCbzを重合開始剤に使用する場合には、EXT1単独ではヘパラン鎖を合成することができなかった(後述の表1参照)。
上記実験結果から、四糖結合領域のグルクロン酸(GlcUA)にN−アセチルグルコサミン(GlcNAc)を転移する反応については、EXT1及びEXT2のコンプレックスが重要であるが、その後の二糖繰り返し領域の伸長反応については、EXT1単独でも糖鎖を伸長させることが可能と考えられた。したがって、結合領域五糖配列(GlcNAcα1−4GlcUAβ1−3Galβ1−3Galβ1−4Xylβ1−)がペプチド(又はプロテオグリカンのコア蛋白質配列)に結合したもの、あるいは(GlcNAcα1−4GlcUAβ1−3Galβ1−)といった結合領域三糖配列に疎水性アグリコンが結合したものを重合開始剤に使用するときには、EXT1のみを酵素に使用してヘパラン鎖を合成してもよい。
ヘパラン鎖合成反応のその他の条件、使用する試薬などは後述の実施例記載のものに限定されるものではなく、公知の糖鎖合成反応に用いられている各種条件、試薬などから最適なものを選択すればよい。
また、上記方法により合成されたヘパラン鎖を材料に使用してヘパラン硫酸(又はヘパリン)を製造する方法としては、(1)遺伝子組み換え技術で調製した硫酸基転移酵素を使用する方法、(2)化学合成法、あるいは、(1)・(2)の方法を組み合わせた半化学合成法、の3つの方法を挙げることができる。
上記(1)の方法としては、遺伝子組み換え技術で調製した各種硫酸基転移酵素(例えば、Wu ZL,Zhang L,Beeler DL,Kuberan B,and Rosenberg RD.FASEB J.,16,539−545,2002、および、Kuberan B,Lech MZ,Beeler DL,Wu ZL,and Rosenberg RD.,Nat Biotechnol.21,1343−1346,2003参照)を使用して所望の位置に硫酸基を転移する方法が挙げられる。
上記(2)の化学合成法としては、例えば、B.Casu,A.Naggi,and G.Torri,Synhtesis of sulfated glycosaminoglycans,in Glycoscience:Chemistry and Chemical Biology III,pp.1895−1903,2001,Ed.by Bertram Fraser−Reid,Kuniaki Tatsuta and Joachim Thiem,Springerに記載される、化学的にヘパランからヘパラン硫酸を生産する方法が挙げられる。
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。尚、各実施例における詳しい実験方法については、最後の項においてまとめて説明する。
〔実施例1:N−acetylheparosanオリゴ糖は、EXT1とEXT2を共発現させた複合体によって数糖のみ伸長する〕
in vitroでのHS重合化について検討するため、様々なEXTタンパク質を組み合わせたり、組換え型EXTタンパク質の発現方法を検討したり、重合化反応に適した開始基質を探すため、様々な重合化反応条件を予備的に実験してきた。
EXT1とEXT2がヘテロオリゴマー複合体を形成し触媒活性を強めることや、小胞体からゴルジ装置へ細胞内局在をシフトすることが知られている。また、全長の一部が切断された分泌型のEXT1とEXT2とを共発現させると、EXT1とEXT2とをそれぞれ単独で発現させた場合と比較して、N−acetylheparosanオリゴ糖アクセプター基質へのGlcNAcまたはGlcUA単独の糖転移活性を強めることも報告されている。この結果から、糖鎖重合化活性は検出されていなかったが、膜貫通領域や細胞質領域を欠くEXT1およびEXT2の切断型は、複合体を形成するのに十分であると考えられた。
したがって、本実施例および後述の各実施例では、内因性酵素や他のタンパク質からの酵素タンパク質の精製を容易にするため、全長型ではなく切断型のEXT1とEXT2をProtein Aタグの付いた融合タンパク質として発現させた。この分泌型タンパク質は、EXT1とEXT2を単独もしくは共にCOS−1細胞に導入することによって発現分泌させ、精製後様々なプライマー基質とともに酵素反応に用いた。
N−acetylheparosan K5オリゴ糖(GlcNAcα1−(4GlcUAβ1−4GlcNAcα1)n−4GlcUAβ1−O−2,5−anhydroMan)は、ヘパリン/ヘパラン硫酸の二糖繰り返し領域と同じ構造を持ち、それゆえグルクロン酸転移酵素−IIやGlcNAcT−II活性を測定するための有用なアクセプター基質として用いられているので、まず初めに、UDP−[3H]GlcNAcとUDP−GlcUA共存下でEXT1とEXT2を共発現(EXT1−EXT2)させ重合化を行ったが、重合化の開始基質とならないことが分かった。Superdex Peptideカラムでのゲルろ過クロマトグラフィーによる反応生成物の溶出位置から、高い[3H]GlcNAcの組込みがなく、使用したオリゴ糖の非還元末端に数糖だけ付加したものと判断された(図1の□印参照)。
マウスの肥満細胞腫由来の酵素源を用いると、続いて起こるN−deacetylase/N−sulfotransferase(NDST)反応がヘパリン鎖の重合化を数倍促進することが報告されているため、部分的にN−硫酸化されたK5オリゴ糖誘導体を開始剤として調べたが良い開始剤にはならなかった(図1の■印参照)。これらの結果から、さらに糖以外の何か別の成分がHSポリメラーゼ反応に必要であること、例えば、コアタンパク質またはその一部オリゴペプチドといったタンパク質成分などが重合化に有用な開始剤であると考えられた。
〔実施例2:in vitroでのヘパラン重合化にはEXT1−EXT2の共発現に加えて結合領域類似体が必要である〕
GlcUAβ1−3Galβ1−O−C2H4NHCbzやGlcUAβ1−3Galβ1−O−ナフタレンメタノールのような結合領域類似体合成物が、EXTL2やEXTL3のGlcNAcT−I活性のアクセプター基質となることから、グリコサミノグリカン(GAG)−タンパク質の結合領域四糖部分に最初のGlcNAcを転移する反応さらに重合化反応においても、上記類似体、あるいはコアタンパク質(とりわけその疎水的な領域)が必要であると考えられた。それゆえ、本実施例では、まず、分泌型EXT1とEXT2を共発現させた重合化反応の開始剤としてGlcUAβ1−3Galβ1−O−C2H4NHCbzを用いた。Superdex Peptideカラムでゲルろ過クロマトグラフィーを行ったところ、顕著な糖鎖の重合化が起こり(図1の●印参照)、上記類似体が、反応の開始だけでなく糖鎖の重合化にも重要であることが示された。また、GlcNAcT−I活性を持つEXTL2とEXTL3は、本重合化反応では不必要であった。
GlcUAβ1−3Galβ1−O−C2H4NHCbzは人工的な基質であるため、次に、天然のHSプロテオグリカンのコアタンパク質を用いて実験を行った。しかし、結合領域四糖または六糖を有するHSプロテオグリカンは手に入らないため、代表的なHSプロテオグリカンの一種であるグリピカン−1を、HSが欠損したsog9細胞にタグの付いた分泌型タンパク質として発現させ、短いHSオリゴ糖の結合したコアタンパク質として調製した。sog9細胞はEXT1遺伝子の変異不活性化のためにHS合成が不完全であり、それゆえ、HS重合体による修飾を受けていないグリピカン−1が細胞培養上清中に分泌される。グリピカン−1の発現は抗Myc抗体を用いたウェスタンブロット法によって確認した。このようにHS欠損sog9細胞によって合成された組換え型グリピカン−1を、Ni−NTAを用いて精製し、in vitro重合化に用いたところ、良好なヘパラン重合化の開始剤となった(図1の▲印参照)。本重合化反応に用いたグリピカン−1の濃度が低いことを考慮すると、in vivoでは、グリピカン−1には人工基質に比べてはるかに高いヘパラン受容体としての活性があると考えられた。
次に、巨大なコアタンパク質に結合領域四糖を持つパートタイムプロテオグリカンであるα−トロンボモデュリン(α−TM)を開始剤に用いて、ヘパラン鎖の重合化(伸長反応)の有無を検討した。その結果、トロンボモデュリン(TM)はin vivoではコンドロイチン硫酸(CS)のみを有し、HS鎖は持たないことが知られているにもかかわらず、顕著な重合化が観察された(図1の○印参照)。対照的に、TM由来の結合領域四糖ペプチドGlcUA−Gal−Gal−Xyl−(Gly)Ser−Gly−Glu(図1の◇印参照)や結合領域四糖−Ser(下記の表1参照)のどちらも、糖鎖重合化の開始剤にならなかった。他方、HSまたはCSが結合するβグリカンに相当する結合領域五糖ペプチドGlcUA−Gal−Gal−Xyl−Ser−Gly−Trp−Pro−Asp−Glyについては、弱い開始剤としての活性を示した(図1の△印参照)。
以上の実験結果を下記の表1にまとめた。
表1に示された結果から、in vitroでのヘパラン鎖の合成開始あるいは重合化(伸長反応)の促進には、疎水性ペプチドなどの疎水性アグリコンが重要であると考えられた。また、表1に示すように、分泌型EXT1またはEXT2を単独で用いたり、分泌型EXT1、EXT2をそれぞれ別に発現させたものの混合物を用いた実験では、いずれの基質を用いても重合化は起こらなかった。このように、ヘパラン鎖の重合化反応にはEXT1−EXT2の相互作用と疎水性アグリコンが重要であることが示された。
〔実施例3:重合化生成物の同定〕
重合化反応生成物は、典型的なヘパラン鎖とHS鎖のα1,4−GlcNAcでGlcUAに結合した部分を切断するヘパリチナーゼI消化を行い、Superdex Peptideカラムでゲルろ過クロマトグラフィーを行った。プライマー基質としてのグリピカン−1やα−TM、GlcUAβ1−3Galβ1−O−C2H4NHCbzから得られた未消化の重合化反応生成物はそれぞれ高分子領域に溶出され、ヘパリチナーゼI消化後の生成物は二糖の溶出位置に溶出し、完全に消化されたことから、重合化反応生成物は−(4GlcUAβ1−4GlcNAcα1)n−から構成されていることが分かった(図2参照)。グリピカン−1とα−TMから得られた重合化反応生成物もヘパリチナーゼIによって完全に分解された。
〔実施例4:重合化反応生成物の大きさの解析〕
次に、グリピカン−1、α−TM、GlcUAβ1−3Galβ1−O−C2H4NHCbz上に合成された重合化反応生成物をSuperdex 200カラムでゲルろ過クロマトグラフィーを行うことにより鎖長を測定した。グリピカン−1やα−TMから得られた反応生成物の場合、アルカリ還元によって糖鎖を切り離し、ゲルろ過分析にかけた。両方のアクセプター上に合成されたヘパラン鎖は、予備実験おいてSuperdex 75カラムの高分子領域に溶出されたため、Superdex 200カラムにかけたところ、3つの基質上すべてに非常に長い糖鎖が合成されたことが明らかになった(図3参照)。GlcUAβ1−3Galβ1−O−C2H4NHCbz上に合成されたヘパラン鎖は平均分子量170kDa付近に溶出され、グリピカン−1やα−TM上に合成された糖鎖はSuperdex 200カラムの分画範囲を超えた高分子領域(〜200kDa)に現れ(図3)、様々な組織で見られるHS鎖(10−70kDa)よりも長く分子量が大きいことが示唆された。これらの結果から、分泌型EXT1、EXT2を共発現させて調製した酵素は、in vitroでα−TMやGlcUAβ1−3Galβ1−O−C2H4NHCbz上に生体内と同様に長いヘパラン重合体を合成することができることが示された。
〔実施例5:GlcNAcα1−4GlcUAβ1−3Galβ1−O−C2H4NHCbzを重合開始剤に用いたヘパラン鎖の重合化反応〕
GlcNAcα1−4GlcUAβ1−3Galβ1−O−C2H4NHCbzを後述の方法によって調製し、これを重合開始剤に使用してヘパラン鎖の重合化反応を行った。方法は概略以下のとおりである。まず、10%ウシ胎仔血清を含むDMEM培地で培養したCOS−1細胞に、FuGENE6(Roche Applied Science)を用いてProtein Aが融合した分泌型EXT1あるいはEXT2、もしくは分泌型EXT1とEXT2を共発現させた。48時間後、培養上清に分泌したタンパク質をIgG−Sepharose beadsを用いて精製した。タンパク質が結合したIgG−Sepharose beadsを、100mM MES−NaOH,pH6.5の緩衝液に懸濁し、酵素源として使用した。
重合化反応は、精製した酵素が結合したIgG−Sepharose beads 10μl、100mM MES−NaOH,pH6.5、10mM MgCl2、1mM ATP、31μM UDP−[3H]GlcNAc(約0.7X105dpm)、31μM UDP−GlcUAそしてGlcNAcα1−4GlcUAβ1−3Galβ1−O−C2H4NHCbz(0.65nmol)を加え、総量20μlで行った。37℃で18時間反応後、反応生成物をSuperdex peptide HR 10/30カラム(Amersham Pharmacia)にかけ、0.2M NH4HCO3を溶出液に用いて分画後(0.4mL/Fr.)、放射活性を測定した。その結果を図4に示す。図中の括弧内の数字は、使用した培養上清の容量を示す。
同図に示すように、分泌型EXT1とEXT2を共発現させると(EXT1/2)、非常に強い重合化反応が観察された。また、GlcAβ1−3Galβ1−O−C2H4HCbzを基質に用いた場合と異なり、GlcNAcα1−4GlcAβ1−3Galβ1−O−C2H4NHCbzを基質に用いると、EXT1単独でも、弱いながらも重合化反応が観察された。しかしながら、EXT2単独ではどちらの基質を用いても重合反応は観察できなかった。
〔実験方法〕
(1)材料
UDP−[3H]GlcNAcはPerkinElmer Life Sciencesから購入した。ラベルされていないUDP−GlcUAとUDP−GlcNAcはSigmaから、Heparitinase Iは生化学工業(東京)から購入した。Escherichia coli K5菌株の莢膜の多糖から調製したN−Acetylheparosanオリゴ糖(GlcNAcα1−(4GlcUAβ1−4GlcNAcα1)n−4GlcUAβ1−O−2,5−anhydroMan)と、その一部がN−硫酸化された誘導体は、スウェーデンのウプサラ大学のMarion Kusche−Gullberg氏とUlf Lindahl氏から譲り受けた。GlcUAβ1−3Galβ1−3Galβ1−4Xylβ1−O−Ser、GlcUAβ1−3Galβ1−3Galβ1−4Xylβ1−O−(Gly)Ser−Gly−Glu、GlcUAβ1−3Galβ1−3Galβ1−4Xylβ1−O−Ser−Gly−Trp−Pro−Asp−Glyの3種の重合開始剤は化学的に合成した。GlcUAβ1−3Galβ1−O−C2H4NHCbzも化学合成した。精製されたα−thrombomodulinは第一製薬(東京)から恵与された。マウスsog9細胞はFrank Tufaro氏から譲り受けた。Superdex PeptideとSuperdex 200 HR10/30カラムはAmersham Biosciences社製のものを使用した。
(2)重合化反応の基質としての組換え型グリピカン−1の精製
C末端側の19アミノ酸をコードした配列を除いたヒトグリピカン−1のcDNAをpcDNA3.1(−)MycHis A(Invitrogen)のEcoRIサイトとBamHIサイトの間に組み込み、マウスsog9細胞をレシピエント細胞として安定発現細胞を作製した。得られた安定発現細胞は、C末端側でMyc−Hisタグと融合した組み換え型タンパク質としてグリピカン−1を細胞培養上清中に分泌した。分泌されたタンパク質はNi−NTA−agarose beads(Qiagen)で精製し、重合化反応の基質として用いた。
(3)分泌型EXT1及びEXT2の発現と重合化反応
COS−1細胞を、ウシ胎仔血清を10%加えたDMEMで培養し、FuGENE6(Roche Applied Science)を用いて分泌型のEXT1とEXT2をそれぞれ単独、または共発現させ、48時間後、分泌されたProtein Aタグの付いたタンパク質をIgG−Sepharoseを用いて精製した。そして、酵素が結合したIgG−SepharoseをpH6.5の100mM MES−NaOHで懸濁し、酵素源として用いた。
重合化反応には、精製した酵素が結合したIgG−Sepharose 10μL、100mM MES−NaOH(pH6.5)、10mM MnCl2、1mM ATP、250μM UDP−[3H]GlcNAc(約5.5×105dpm)、250μM UDP−GlcUAとアクセプター基質で総量が20μLになるように混合した。アクセプター基質は以下のうち1つを用いた。GlcUAβ1−3Galβ1−O−C2H4NHCbz(100nmol)、非還元末端にGlcNAcを持つN−acetylheparosanオリゴ糖(20μg)、部分的にN−硫酸化されたN−acetylheparosanオリゴ糖誘導体(20μg)、α−thrombomodulin(α−TM)(1nmol)、GlcUAβ1−3Galβ1−3Galβ1−4Xylβ1−O−Ser(1nmol)、GlcUAβ1−3Galβ1−3Galβ1−4Xylβ1−O−Ser−Gly−Trp−Pro−Asp−Gly(1nmol)、GlcUAβ1−3Galβ1−3Galβ1−4Xylβ1−O−(Gly)Ser−Gly−Glu(1nmol)、さらに、グリピカン−1、GlcNAcα1−4GlcUAβ1−3Galβ1−O−C2H4NHCbzのいずれかである。
反応産物は、Superdex Peptide HR 10/30カラムでゲルろ過し、これを0.4mLずつ分取し、1.2%(w/v)2,5−diphenyloxazoleと33%(w/v)TritonX−100を含むカクテルを用いて液体シンチレーションカウンター(TRI−CARB 2900TR,Packerd Instrument Co.)で放射能を定量することで解析を行った。高分子領域に溶出されたラベルされた反応生成物は更に解析を行うため乾燥した。
(4)重合化反応生成物のキャラクタリゼーション
重合化した糖鎖の同定を行うため、乾燥させた放射活性産物(二糖として70pmol)を、37℃ overnightでヘパリチナーゼ消化を行った。消化条件は6mIU heparitinase I、20μM酢酸ナトリウムバッファー(pH7.0)、2mM酢酸カルシウムを含む、総量100μLとした。消化産物はSuperdex Peptideカラムで解析をし、重合化した産物の鎖長を決定するため、グリピカン−1とα−TM上に生成した転移反応産物を、室温で20時間、0.5M LiOHを用いてコアタンパク質から切り離した。グリピカン−1、α−TM、GlcUAβ1−3Galβ1−O−C2H4NHCbzから得られた試料は、分子量マーカーとして市販のデキストラン製品(平均分子量170,000〜200,000のものはNacalai Tesque Inc.から、65,000、37,500、18,100のものはSigmaから)を用いてSuperdex200カラムで解析した。
(5)分泌型EXTL3を用いた3糖合成基質(GlcNAcα1−4GlcUAβ1−3Galβ1−O− C 2 H 4 NHCbz)の調製
GlcAβ1−3Galβ1−O−C2H4NHCbzは、化学合成したものを用いた。Nova−PakC18 column(3.9X150mm)は、Waters社より購入した。Protein Aが融合した分泌型EXTL3は、以前報告した様に調製した(Kim et al.PNAS 2001 98:7176−7181)。概略、以下のとおりである。10%ウシ胎仔血清を含むDMEM培地で培養したCOS−1細胞に、FuGENE6(Roche Applied Science)を用いてProtein Aが融合した分泌型EXTL3を発現させた。48時間後、培養上精に分泌したタンパク質をIgG−Sepharose beadsを用いて精製した。タンパク質が結合したIgG−Sepharose beadsを、100mM MES−NaOH,pH6.5の緩衝液に懸濁し、酵素源として使用した。
酵素反応は、精製したEXTL3が結合したIgG−Sepharose beads 10μl、100mM MES−NaOH,pH6.5、10mM MgCl2、1mM ATP、6pmolのUDP−[3H]GlcNAc(about 7.9X105dpm)、90nmolのUDP−GlcNAcそしてGlcAβ1−3Galβ1−O−C2H4NHCbz(90nmol)を加え、総量20μlで行った。37℃で18時間反応後、反応生成物はNova−Pak C18カラムを用いたHPLCにより精製した。精製画分は凍結乾燥した。
(6)β−グルクロニダーゼを用いた、反応生成物画分に含まれる未反応基質の除 去
りんご貝由来のβ−glucuronidase(EC 3.2.1.31)は、東京臓器製薬(Tokyo,Japan)より恵与された。上記で精製した反応生成物には、約30nmolの未反応基質が含まれていた。そこで、未反応基質(GlcAβ1−3Galβ1−O−C2H4NHCbz)を除くために、反応生成物画分を50μlの0.05M sodium citrate buffer,pH4.5に溶解し、りんご貝由来のβ−glucuronidase(7.37mIU)を加え、37℃で12時間処理した(Sugahara,K.et al.1992 Biochem.J.283,99−104)。処理した溶液をSuperdex peptide HR 10/30カラム(Amersham Pharmacia)にかけ、0.2M NH4HCO3を溶出液に用いて放射活性のある画分を単離した。
尚、発明を実施するための最良の形態の項においてなした具体的な実施態様または実施例は、あくまでも、本発明の技術内容を明らかにするものであって、そのような具体例にのみ限定して狭義に解釈されるべきものではなく、次に記載する特許請求の範囲内で、様々に変更して実施することができる。
産業上の利用の可能性
以上のように、本発明は、ヘパラン鎖のin vitro合成法、並びに、同合成法を用いて生産されたヘパラン鎖、ヘパラン硫酸およびヘパリン等の糖鎖を提供するものであり、ヘパラン硫酸やヘパリンといった有用生理活性を有する硫酸化グリコサミノグリカンの糖鎖骨格の人工合成などに利用することができ、その他研究開発用などに種々の有用性を有するものである。
Claims (9)
- 下記(a)〜(e)からなる群から選ばれる重合開始剤を用いて合成されたヘパラン鎖。
(a) GlcUAβ1−3Galβ1−3Galβ1−4Xylβ1−O−Ser(GlyTrpProAspGly)のように、プロテオグリカンのGAG−蛋白質結合領域の四糖又は五糖の配列にコア蛋白質のオリゴペプチドが結合したもの、
(b) GAG−蛋白質結合領域類似体、即ち、GlcUAβ1−3Galβ1−O−C2H4NHCbzのように、GAG−蛋白質結合領域の二糖配列に疎水性アグリコンが結合したもの、
(c) GlcNAcα1−4GlcUAβ1−3Galβ1−O−C2H4NHCbzのように、GAG−蛋白質結合領域の三糖配列に疎水性アグリコンが結合したもの、
(d) グリピカン等のヘパラン硫酸プロテオグリカンのコア蛋白質配列に、GAG−蛋白質結合領域の四糖又は五糖の配列が結合したもの、
(e) α−トロンボモデュリン等のコンドロイチン硫酸プロテオグリカンのコア蛋白質配列に、GAG−蛋白質結合領域の四糖又は五糖の配列が結合したもの。 - EXT1びEXT2の2つの酵素を野生型より短く可溶性にして共発現させたものを使用して合成された、請求項1記載のヘパラン鎖。
- 結合領域五糖配列(GlcNAcα1−4GlcUAβ1−3Galβ1−3Galβ1−4Xylβ1−)がペプチドに結合したもの、又は(GlcNAcα1−4GlcUAβ1−3Galβ1−)といった結合領域三糖配列に疎水性アグリコンが結合したものを重合開始剤に使用し、かつ、野生型より短く可溶性にして発現させたEXT1のみを酵素に使用して合成された、請求項1記載のヘパラン鎖。
- 請求項1記載のヘパラン鎖を材料に使用して製造されたヘパラン硫酸。
- 請求項1記載のヘパラン鎖を材料に使用して製造されたヘパリン。
- 下記(a)〜(e)からなる群から選ばれる重合開始剤を用いたヘパラン鎖合成方法。
(a) GlcUAβ1−3Galβ1−3Galβ1−4Xylβ1−O−Ser(GlyTrpProAspGly)のように、プロテオグリカンのGAG−蛋白質結合領域の四糖又は五糖の配列にコア蛋白質のオリゴペプチドが結合したもの、
(b) GAG−蛋白質結合領域類似体、即ち、GlcUAβ1−3Galβ1−O−C2H4NHCbzのように、GAG−蛋白質結合領域の二糖配列に疎水性アグリコンが結合したもの、
(c) GlcNAcα1−4GlcUAβ1−3Galβ1−O−C2H4NHCbzのように、GAG−蛋白質結合領域の三糖配列に疎水性アグリコンが結合したもの、
(d) グリピカン等のヘパラン硫酸プロテオグリカンのコア蛋白質配列に、GAG−蛋白質結合領域の四糖又は五糖の配列が結合したもの、
(e) α−トロンボモデュリン等のコンドロイチン硫酸プロテオグリカンのコア蛋白質配列に、GAG−蛋白質結合領域の四糖又は五糖の配列が結合したもの。 - EXT1及びEXT2の2つの酵素を野生型より短く可溶性にして共発現させたものを使用することを特徴とする、請求項6記載のヘパラン鎖合成方法。
- 結合領域五糖配列(GlcNAcα1−4GlcUAβ1−3Galβ1−3Galβ1−4Xylβ1−)がペプチドに結合したもの、又は(GlcNAcα1−4GlcUAβ1−3Galβ1−)といった結合領域三糖配列に疎水性アグリコンが結合したものを重合開始剤に使用し、かつ、野生型より短く可溶性にして発現させたEXT1のみを酵素に使用することを特徴とする、請求項6記載のヘパラン鎖合成方法。
- 請求項6記載の方法により合成されたヘパラン鎖を材料に使用して、(1)遺伝子組み換え技術で調製した硫酸基転移酵素を使用する方法、(2)化学合成法、あるいは、(1)・(2)の方法を組み合わせた半化学合成法によってヘパラン硫酸又はヘパリンを製造する方法。
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PCT/JP2004/007243 WO2004104208A1 (ja) | 2003-05-23 | 2004-05-20 | ヘパラン鎖のin vitro合成法とその利用 |
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