JPWO2004039969A1 - 界面活性剤に耐性な新規セルラーゼ - Google Patents
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Abstract
Description
従来、セルラーゼは複数の酵素の共同作用によりセルロースを分解する作用があるとされてきた。近年、タンパク質分離技術や遺伝子技術の進展により、複合酵素であるセルラーゼから、前記の繊維加工に適した酵素成分を分離し製造する試みがなされている。とりわけ、糸状菌のトリコデルマ(Trichoderma)属又はフミコーラ(Humicola)属由来のセルラーゼについては研究が進み、フミコーラ属では、CBH I、EG V、NCE4、及びNCE2などが、トリコデルマ属では、CBH I、CBH II、EG II、及びEG IIIなどの成分が単離され、遺伝子操作によって過剰発現酵素やモノコンポーネント酵素などを調製することにより、各用途に適した特定セルラーゼ成分を多量に含むセルラーゼ調製物が製造されるようになってきた。
また、エンドグルカナーゼ酵素NCE5は、デニム染めセルロース含有繊維へのストーンウォッシュ外観の付与、又は肌触りの改善において、その処理工程中で衣料にインジゴ染料の一部が再付着又は逆染色、すなわち白場汚染(back staining)の度合いが低いセルラーゼとして有用であることが知られている(特許文献1参照)。
一方、セルラーゼを衣料用洗浄剤用途に用いる場合には、必要なセルラーゼ成分を量的に改善するだけでなく質的に改善することが望まれている。すなわち、衣料用洗浄剤には各種界面活性剤が配合されているとともに、これを水に溶解した場合アルカリ性(pH10〜11)を示すことから、衣料用洗浄剤に配合されるセルラーゼの性質として各種界面活性剤に対して耐性であること及びアルカリ性条件下でより強い活性を示すことが求められている。
(特許文献1) 国際公開第WO 01/90375号パンフレット(第2−3頁及び配列表の配列番号1で表される配列)
本発明者らは、前記課題を解決するため鋭意検討を行った結果、配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるセルラーゼ(NCE5)において、そのアミノ酸配列における162番目及び/又は166番目のアミノ酸残基を他のアミノ酸に置換することによって、界面活性剤に耐性及び/又はアルカリ性条件下で高い活性を有する新規なセルラーゼを取得することに成功した。すなわち本発明は、以下の通りである。
[1](1)配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるセルラーゼの162番目及び/又は166番目のアミノ酸残基が、前記セルラーゼのアミノ酸とは異なるアミノ酸に置換されたアミノ酸配列、あるいは、(2)前記アミノ酸配列(1)のN末端に1又は複数個のアミノ酸が付加又は欠失したアミノ酸配列を有する、セルラーゼ。
[2]配列番号3で表されるアミノ酸配列を有する、前記[1]のセルラーゼ。
[3]166番目のアミノ酸がグルタミン酸又はアスパラギン酸に置換されている、前記[1]のセルラーゼ。
[4]配列番号4で表されるアミノ酸配列を有する、前記[3]のセルラーゼ。
[5]配列番号5で表されるアミノ酸配列を有するセルラーゼ。
[6]前記[1]〜[5]のセルラーゼをコードするポリヌクレオチド。
[7]前記[6]のポリヌクレオチドを含む、発現ベクター。
[8]前記[7]の発現ベクターで形質転換された、宿主細胞。
[9]前記[8]の宿主細胞を培養し、その宿主及び/又はその培養物からセルラーゼを採取する工程を含む、前記[1]〜[5]のセルラーゼの製造法。
[10]前記[1]〜[5]のセルラーゼを含む、セルラーゼ調製物。
[11]前記[1]〜[5]のセルラーゼ、又は前記[10]のセルラーゼ調製物を含む、洗剤組成物。
[12]セルロース含有繊維の処理方法であって、セルロース含有繊維を、前記[1]〜[5]のセルラーゼ、前記[10]のセルラーゼ調製物、又は前記[11]の洗剤組成物と接触させる工程を含む、前記方法。
[13]セルロース含有繊維が毛羽立ち始める速度を低減させるか又はセルロース含有繊維の毛羽立ちを低減する方法であって、セルロース含有繊維を、前記[1]〜[5]のセルラーゼ、前記[10]のセルラーゼ調製物、又は前記[11]の洗剤組成物と接触させる工程を含む、前記方法。
[14]セルロース含有繊維の肌触り及び外観の改善を目的として減量加工する方法であって、セルロース含有繊維を、前記[1]〜[5]のセルラーゼ、前記[10]のセルラーゼ調製物、又は前記[11]の洗剤組成物と接触させる工程を含む、前記方法。
[15]着色されたセルロース含有繊維の色を澄明化する方法であって、着色されたセルロース含有繊維を、前記[1]〜[5]のセルラーゼ、前記[10]のセルラーゼ調製物、又は前記[11]の洗剤組成物と接触させる工程を含む、前記方法。
[16]着色されたセルロース含有繊維の色の局所的な変化を提供する方法であって、着色されたセルロース含有繊維を、前記[1]〜[5]のセルラーゼ、前記[10]のセルラーゼ調製物、又は前記[11]の洗剤組成物と接触させる工程を含む、前記方法。
[17]セルロース含有繊維がごわつき始める速度を低減させるか又はセルロース含有繊維のごわつきを低減する方法であって、セルロース含有繊維を、前記[1]〜[5]のセルラーゼ、前記[10]のセルラーゼ調製物、又は前記[11]の洗剤組成物と接触させる工程を含む、前記方法。
[18]繊維の処理がその繊維の浸漬、洗濯、又はすすぎを通じて行われる、前記[12]〜[17]の方法。
[19]古紙を脱インキ薬品により処理して脱インキを行う工程において、前記[1]〜[5]のセルラーゼ、前記[10]のセルラーゼ調製物を用いることを特徴とする、古紙の脱インキ方法。
[20]紙パルプのろ水性の改善方法であって、紙パルプを、前記[1]〜[5]のセルラーゼ、前記[10]のセルラーゼ調製物で処理する工程を含む、前記方法。
[21]動物飼料の消化能を改善する方法であって、セルロース含有繊維を、前記[1]〜[5]のセルラーゼ、前記[10]のセルラーゼ調製物で処理する工程を含む、前記方法。
本明細書における用語「ポリヌクレオチド」には、DNA及びRNAが含まれる。
親セルラーゼ
本発明において、親セルラーゼとは、配列番号1で表されるアミノ酸配列よりなるセルラーゼである。また、本親セルラーゼを生産する宿主の種類によっては分泌シグナル配列のプロセッシングが異なることがあることから、その結果としてN末端に1〜複数個のアミノ酸が付加又は欠失されたような相同体も親セルラーゼに含まれる。
本発明における新規なセルラーゼ
本発明における新規なセルラーゼは、親セルラーゼが配列番号1で表されるアミノ酸配列よりなるものである場合、そのアミノ酸配列中の162及び166番目のアミノ酸から選択される1個又は2個のアミノ酸残基が他のアミノ酸残基によって置換されたセルラーゼがその具体例として挙げられるが、天然に分離された菌株等から結果として得られたセルラーゼも、配列番号1で表されるアミノ酸配列における162及び/又は166番目のアミノ酸、又はそれに相当するアミノ酸が置換されたセルラーゼである限り、本発明のセルラーゼに含まれる。
本発明の好ましい態様によれば、配列番号1に記載されたアミノ酸配列の162番目のアミノ酸がプロリンに、166番目のアミノ酸がグルタミン酸又はアスパラギン酸に置換されたものが好ましいものとして挙げられる。本発明の更に好ましい態様によれば、配列番号3〜配列番号5で表されるアミノ酸配列を有するセルラーゼが更に好ましいものとして挙げられる。これらのセルラーゼは、界面活性剤に耐性及び/又はアルカリ性条件下で高い活性が保持されるという有利な性質を有している。
また、親セルラーゼが配列番号1で表されるアミノ酸配列の相同体である場合には、配列番号1で表されるアミノ酸配列の162及び166番目のアミノ酸に相当する位置のアミノ酸から選択される1個又は2個のアミノ酸残基が他のアミノ酸残基により置換されてなるものがその具体例として挙げられる。ここで、配列番号1で表されるアミノ酸配列よりなる親セルラーゼの相同体において置換されるべきアミノ酸残基の位置は、公知のアルゴリズムによるアミノ酸配列の比較によって容易に選択することができる。
本発明における新規なセルラーゼの作製
本発明の新規なセルラーゼは、組換えDNA技術、ポリペプチド合成技術などによって作製することができるほか、天然から分離された菌株から取得することもできる。
組換えDNA技術を用いる場合には、親セルラーゼをコードするDNAを取得し、このDNA内で特異的部位に突然変異を発生させてコードするアミノ酸を置換させた後、変異処理を施したDNAを含む発現ベクターで宿主細胞を形質転換し、形質転換細胞を培養することによって新規なセルラーゼを調製することができる。親セルラーゼをコードするDNAとしては、使用する宿主細胞を勘案し、配列番号1で表されるアミノ酸配列から適宜全合成可能であるが、好ましくは配列番号2で表される塩基配列からなるものであり、これはフミコーラ・インソレンスのcDNAライブラリーから遺伝子工学の分野で慣用されている方法で取得可能である。
遺伝子の特定部位に突然変異を導入するための幾つかの方法は、Gapped duplex法[Methods in Enzymology,154,350(1987)]、Kunkel法[Methods in Enzymology,154,367(1987)]など当業者に公知である。これらの方法は、親セルラーゼをコードするDNA内で特異的部位に突然変異を発生させることに利用することができる。変異処理後のDNAの塩基配列は、マキサム−ギルバードの化学修飾法[Methods in Enzymology,65,499(1980)]やジデオキシヌクレオチド鎖終結法[Gene,19,269(1982)]等により確認することができ、本発明におけるセルラーゼのアミノ酸配列は、確認された塩基配列より解読することができる。
本発明における新規なセルラーゼの生産
本発明におけるセルラーゼは、それをコードするDNA断片を、宿主細胞内で複製可能且つ同遺伝子が発現可能な状態で含むDNA分子、特に発現ベクター、の形態として宿主細胞の形質転換を行い、その宿主細胞において産生させることができる。
よって、本発明においては、前記の本発明によるセルラーゼをコードするDNA断片を、宿主微生物内で複製可能で、且つ、そのDNA断片がコードするタンパク質を発現可能な状態で含んでなる発現ベクターが提供される。本発現ベクターは、自己複製ベクター、すなわち、染色体外の独立体として存在し、その複製が染色体の複製に依存しない、例えば、プラスミドを基本に構築することができる。また、本発現ベクターは、宿主微生物に導入されたとき、その宿主微生物のゲノム中に組み込まれ、それが組み込まれた染色体と一緒に複製されるものであってもよい。本発明によるベクター構築の手順及び方法は、遺伝子工学の分野で慣用されているものを用いることができる。
本発明による発現ベクターは、これを実際に宿主微生物に導入して所望の活性を有するタンパク質を発現させるために、前記の本発明によるDNA断片の他に、その発現を制御するDNA配列や形質転換体を選択するための遺伝子マーカー等を含んでいるのが望ましい。発現を制御するDNA配列としては、プロモーター、ターミネーター及びシグナルペプチドをコードするDNA配列等がこれに含まれる。プロモーターは宿主微生物において転写活性を示すものであれば特に限定されず、宿主微生物と同種又は異種のいずれかのタンパク質をコードする遺伝子の発現を制御するDNA配列として得ることができる。また、シグナルペプチドは、宿主微生物において、タンパク質の分泌に寄与するものであれば特に限定されず、宿主徴生物と同種又は異種のいずれかのタンパク質をコードする遺伝子から誘導されるDNA配列より得ることができる。また、本発明における遺伝子マーカーは、形質転換体の選択の方法に応じて適宜選択されてよいが、例えば薬剤耐性をコードする遺伝子、栄養要求性を相補する遺伝子を利用することができる。
更に、本発明によれば、この発現ベクターによって形質転換された微生物が提供される。この宿主−ベクター系は特に限定されず、例えば、大腸菌、放線菌、酵母、又は糸状菌などを用いた系、及び、それらを用いた他のタンパク質との融合タンパク質発現系などを用いることができる。また、この発現ベクターによる微生物の形質転換も、この分野で慣用されている方法に従い実施することができる。
更に、この形質転換体を適当な培地で培養し、その培養物から前記の本発明によるタンパク質を単離して得ることができる。従って、本発明の別の態様によれば、前記の本発明による新規タンパク質の製造方法が提供される。形質転換体の培養及びその条件は、使用する微生物についてのそれと本質的に同等であってよい。また、形質転換体を培養した後、目的のタンパク質を回収する方法は、この分野で慣用されているものを用いることができる。
本発明における新規なセルラーゼの用途/セルラーゼ調製物
本発明は、本発明のセルラーゼを含むセルラーゼ調製物に関する。
一般に、セルラーゼ調製物とは、セルラーゼ酵素の他に、例えば、賦形剤(例えば、乳糖、塩化ナトリウム、又はソルビトール等)、防腐剤、及び/又は非イオン系界面活性剤等を含有させることができる。また、セルラーゼ調製物の形態は、固形状であっても液体状であってもよく、具体的には、粉剤、粒剤、顆粒剤、非粉塵化顆粒、又は液体製剤が挙げられる。本発明のセルラーゼ調製物には、本発明のセルラーゼに加えて、他のセルラーゼ酵素、例えば、セロビオヒドロラーゼ、β−グルコシダーゼ及び本発明以外のエンドグルカナーゼを含めてもよい。
セルラーゼ調製物の1種である非粉塵化顆粒(好ましくは、飛散性のない顆粒状)は、通常の乾式造粒法を用いて製造することが可能である。すなわち、粉末状態の本発明のセルラーゼを、中性でエンドグルカナーゼ活性に影響を及ぼさない無機塩(例えば、硫酸ナトリウム又は塩化ナトリウム)、エンドグルカナーゼ活性に影響を及ぼさない鉱物(例えば、ベントナイト又はモンモリナイト)、及び中性の有機物(例えば、澱粉又は粒状セルロース等)等から選ばれる1種又は複数種に混合した後、非イオン界面活性剤の1種又は複数種の粉末、あるいは微細に懸濁された懸濁液を加え、充分に混合又は混練する。状況に応じ、固形物を結着させる合成高分子(例えば、ポリエチレングリコール等)又は天然高分子(例えば、スターチ等)を適宜添加し、更に混練した後、ディスクペレッターなどの押し出し成形造粒を行い、成形物をマルメライザーにより球状に成形後、乾燥させることで非粉塵化顆粒を製造することが可能である。非イオン界面活性剤の1種又は複数の添加量は特に限定されないが、本発明のセルラーゼ調製物の全体に対して、好ましくは0.1〜50重量%、より好ましくは0.1〜30重量%、更に好ましくは1〜10重量%とする。また、顆粒表面をポリマー等でコーティングすることにより、酸素透過や水分透過をコントロールすることも可能である。
一方、セルラーゼ調製物の1種である液状製剤(好ましくは、安定化された液体状)は、本発明のセルラーゼを含む溶液に、エンドグルカナーゼの安定化剤(例えば、合成高分子又は天然高分子等)を配合し、必要に応じて無機塩類及び/又は合成防腐剤を添加して調製することが可能である。このとき、非イオン界面活性剤の1種又は複数種を配合することも可能である。非イオン界面活性剤の1種又は複数種の添加量は特に限定されないが、本発明のセルラーゼ調製物の全体に対して、好ましくは0.1〜50重量%、より好ましくは0.1〜30重量%、更に好ましくは1〜10重量%とする。
更に、本発明は、本発明のセルラーゼ又は本発明のセルラーゼ調製物を含む洗剤組成物を提供する。前記洗剤組成物は、界面活性剤(アニオン性、ノニオン性、カチオン性、両性又は双性イオン性あるいはそれらの混合物であり得る)をも含有し得る。また、前記洗剤組成物は、当分野で既知の他の洗剤成分、例えば、ビルダー、漂白剤、漂白活性剤、腐食防止剤、金属イオン封鎖剤、汚れ解離ポリマー、香料、他の酵素(プロテアーゼ、リパーゼ、アミラーゼなど)、酵素安定剤、製剤化補助剤、蛍光増白剤、及び/又は発泡促進剤等をも含有し得る。代表的なアニオン性界面活性剤は、直鎖状アルキルベンゼンスルホン酸塩(LAS)、アルキル硫酸塩(AS)、アルファーオレフィンスルホン酸塩(AOS)、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩(AES)、α−スルホ脂肪酸エステル塩(α−SFMe)及び天然脂肪酸のアルカリ金属塩等がある。ノニオン性界面活性剤の例としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル(AE)、アルキルポリエチレングリコールエーテル、ノニルフェノールポリエチレングリコールエーテル、脂肪酸メチルエステルエトキシレート、スクロース、及びグルコースの脂肪酸エステル、並びにアルキルグルコシド、ポリエトキシル化アルキルグルコシドのエステル等がある。
本発明のセルロース含有繊維の処理方法は、本発明のセルラーゼ、本発明のセルラーゼ調製物、又は本発明の洗剤組成物を、セルロース含有繊維と接触させることにより行う。
本発明の繊維処理方法により改善されうる、セルロース含有繊維の性質としては、以下のものが含まれる。
(1)毛羽の除去(毛羽立ち始める速度の低減、又は毛羽立ちの低減)
(2)減量による繊維の肌触り及び外観の改善
(3)着色セルロース含有繊維の色の澄明化
(4)着色セルロース含有繊維の色の局所的な変化の付与、すなわち、着色セルロース含有繊維、代表的にはジーンズへのストーンウォッシュ様の外観及び風合いの付与
(5)柔軟化(ごわつき始める速度の低減、又はごわつきの低減)
本発明の繊維処理方法は、具体的には、繊維が浸漬されているか又は浸漬されうる水に、本発明のセルラーゼ、本発明のセルラーゼ調製物、又は本発明の洗剤組成物を添加することにより行うことができ、例えば、繊維の浸漬工程、洗濯工程、又はすすぎ工程で行うことができる。
接触温度、又は前記セルラーゼ、前記セルラーゼ調製物、若しくは前記洗剤組成物の添加量などの条件は、他の種々の条件を勘案して適宜決定されてよいが、例えば、セルロース含有繊維の毛羽立ち始める速度を低減するか又はセルロース含有繊維の毛羽立ちを低減する場合、10〜60℃程度の温度で、0.01〜20mg/Lのタンパク質濃度の前記セルラーゼ、前記セルラーゼ調製物、又は前記洗剤組成物を使用することが好ましい。
更に、セルロース含有繊維の肌触り及び外観の改善を目的とした減量加工の場合、10〜60℃程度の温度で、0.1〜50mg/Lのタンパク質濃度の前記セルラーゼ、前記セルラーゼ調製物、又は前記洗剤組成物を使用することが好ましい。
また、着色されたセルロース含有繊維の色を澄明化することを目的とした場合、10〜60℃程度の温度で、0.01〜20mg/Lのタンパク質濃度の前記セルラーゼ、前記セルラーゼ調製物、又は前記洗剤組成物を使用することが好ましい。
また、着色されたセルロース含有繊維の色の局所的な変化を提供するために用いる場合、20〜60℃程度の温度で、0.1〜100mg/Lのタンパク質濃度の前記セルラーゼ、前記セルラーゼ調製物、又は前記洗剤組成物を使用することが好ましい。
また、前記の方法は、セルロース含有繊維がごわつき始める速度を低減するか又はセルロース含有繊維のごわつきを低減させる場合、10〜60℃程度の温度で、0.01〜20mg/Lのタンパク質濃度の前記セルラーゼ、前記セルラーゼ調製物、又は前記洗剤組成物を使用することが好ましい。
更に、本発明は、古紙を脱インキ薬品により処理して脱インキを行う工程において、本発明のセルラーゼ又は本発明のセルラーゼ調製物を用いることを特徴とする古紙の脱インキ方法に関する。
本発明のセルラーゼ又はセルラーゼ調製物は、古紙に作用させると脱インキの効率を向上させるため、古紙から再生紙を製造する過程において有用である。前記脱インキ方法によれば、残インキ繊維が大幅に減少するため、古紙の白色度を向上させることができる。
前記脱インキ薬品は、一般に古紙の脱インキに用いられる薬品であればよく、特に限定されないが、例えば、アルカリ(例えば、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム等)、硅酸ソーダ、過酸化水素、燐酸塩、アニオン系の界面活性剤、ノニオン系の界面活性剤、又は補集材(例えば、オレイン酸等)などが挙げられ、助剤として、pH安定剤、キレート剤、又は分散剤等が挙げられる。
前記脱インキ方法を適用し得る古紙は、一般に古紙と呼ばれるものであればよく、特に限定されないが、例えば、機械パルプ及び化学パルプを配合した新聞古紙、雑誌古紙、下級〜中級印刷古紙、化学パルプよりなる上質古紙、又はこれらの塗工紙等の印刷古紙が挙げられる。更に、一般に古紙と呼ばれるもの以外であっても、インクの付着している紙であれば、前記脱インキ方法を適用することができる。
更に、本発明は、紙パルプのろ水性の改善方法に関し、前記方法は、紙パルプを、本発明のセルラーゼ又は本発明のセルラーゼ調製物で処理する工程を含む。
前記方法によれば、紙パルプのろ水性が、強度の著しい低下を伴うことなく、有意に改善されるものと考えられる。前記方法を適用し得るパルプは特に限定されないが、例えば、古紙パルプ、再循環板紙パルプ、クラフトパルプ、亜硫酸パルプ、又は加工熱処理その他の高収率パルプ等が挙げられる。
更に、本発明は、動物飼料の消化能を改善する方法に関し、動物飼料を、本発明のセルラーゼ又は本発明のセルラーゼ調製物で処理する工程を含む。
前記方法によれば、動物飼料中のグルカンが適度に低分子化されるため、動物飼料の消化能を改善することができる。
更に、本発明によるセルラーゼを動物飼料中で用いることにより、飼料中のグルカンの消化能を改善することができる。従って、本発明によれば、動物飼料の消化能を改善する方法であって、本発明のセルラーゼ又はセルラーゼ調製物で動物飼料を処理する工程を含む方法が提供される。
以上、本発明のセルラーゼ及び洗剤組成物並びにそれらを用いる本発明方法について説明したが、本発明セルラーゼの親セルラーゼであるセルラーゼNCE5が、セルラーゼ調製物又は洗剤組成物の有効成分として用いることができ、これらのセルラーゼNCE5又はセルラーゼNCE5含有セルラーゼ調製物若しくは洗剤組成物を用いることにより、例えば、セルロース含有線維の各種性質を改善[例えば、毛羽の除去(毛羽立ち始める速度の低減、又は毛羽立ちの低減)、減量による繊維の肌触り及び外観の改善、着色セルロース含有繊維の色の澄明化、着色セルロース含有繊維の色の局所的な変化の付与、又は柔軟化(ごわつき始める速度の低減、又はごわつきの低減)など]することができること、古紙の脱インキを行うことができること、紙パルプのろ水性を改善することができること、あるいは、動物飼料の症可能を改善することができることは、国際公開第WO 01/90375号パンフレットに開示されている。本発明のセルラーゼは、親セルラーゼであるNCE5と比較して、優れた界面活性剤耐性及びアルカリ耐性を示しており、従って、セルラーゼ調製物又は洗剤組成物の有効成分として、あるいは、セルラーゼNCE5を用いて実施する前記各種方法において、セルラーゼNCE5に代えて、本発明のセルラーゼを使用することにより、より優れた効果を期待することができる。
微生物の寄託
本発明の親セルラーゼをコードするDNAを含むプラスミドpNCE5Bamで形質転換された大腸菌JM109株は、平成12年(2000年)4月18日よりFERM BP−7138の受託番号のもと独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター[(旧)工業技術院生命工学工業技術研究所(あて名:〒305−8566 日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6)]に寄託されている。
また、実施例2(2)で使用するフミコーラ・インソレンスFERM BP−5977株は、平成8年(1996年)7月15日に独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに国内寄託(FERM P−15736)されたものであり、平成9年(1997年)6月13日から国際寄託(FERM BP−5977)に移管されている。
実施例1:セルラーゼをコードする遺伝子の作成
配列番号1に記載のアミノ酸配列からなる親セルラーゼの162番目のアミノ酸がプロリンに置換されたセルラーゼ(以下A162Pとする。配列番号3)、166番目のアミノ酸がグルタミン酸に置換されたセルラーゼ(以下K166Eとする。配列番号4)、162番目及び166番目のアミノ酸がそれぞれプロリン及びグルタミン酸に置換されたセルラーゼ(以下APKEとする。配列番号5)をコードするDNAは以下に示すようにして作成した。
国際公開第WO 01/90375号パンフレットに記載のプラスミドpNCE5Bamを鋳型DNAとし、LA PCR in vitro Mutagenesis Kit(宝酒造株式会社製)を使用して親セルラーゼをコードするDNAに部位特異的変異を導入した。方法はキットに添付のプロトコールに従った。変異導入用のプライマーとして以下に示す3種のプライマーを使用した。
プライマーNCE5−A162PはセルラーゼA162PをコードするDNAを作成するためのプライマーであり、プライマーNCE5−K166EはセルラーゼK166EをコードするDNAを作成するためのプライマーであり、プライマーNCE5−APKEはセルラーゼAPKEをコードするDNAを作成するためのプライマーである。
前記3種のプライマーを使用して得られた変異導入PCR産物を制限酵素EcoR I及びPst Iで消化後、フェノール:クロロホルム:イソアミルアルコール(25:24:1)で抽出しエタノール沈殿を行った。これらを予め制限酵素EcoR I及びPst Iで消化しておいたプラスミドpUC118と連結し、プラスミドpNCE5AP−118(A162P)、pNCE5KE−118(K166E)及びpNCE5APKE−118(APKE)を得た。これら3種のプラスミドの挿入断片について全塩基配列を蛍光DNAシークエンサーABI PRISM 310 Genetic Analyzer(パーキン・エルマー社製)を用いて決定した結果、各DNA断片には目的の変異のみが導入されていることが確認された。
実施例2:各セルラーゼ遺伝子のフミコーラ・インソレンスでの発現
(1)セルラーゼ遺伝子発現用プラスミドの構築
実施例1で得られた各セルラーゼ遺伝子を含むプラスミドpNCE5AP−118、pNCE5KE−118及びpNCE5APKE−118を制限酵素BamH Iで消化した後、アガロースゲル電気泳動に供し、約0.7kbpのDNA断片を回収した。これらを、予め制限酵素BamH Iで消化し、大腸菌由来のアルカリフォスファターゼ(宝酒造社製)を用いてDNA末端を脱リン酸化しておいたフミコーラ・インソレンスFERM BP−5977用発現ベクターpJD−c5(国際公開第WO 01/90375号パンフレットに記載)と連結し、各セルラーゼ遺伝子を発現させるためのプラスミドpNCE5AP(A162P)、pNCE5KE(K166E)、及びpNCE5APKE(APKE)を得た。
(2)フミコーラ・インソレンスFERM BP−5977の形質転換
フミコーラ・インソレンスFERM BP−5977を(S)培地中37℃で培養し、24時間後、3000rpm、10分間遠心分離により集菌した。(S)培地の組成は、(N)培地(5.0%アビセル、2.0%酵母エキス、0.1%ペプトン、0.03%塩化カルシウム、0.03%塩化マグネシウム、pH6.8)にグルコース(3.0%)を加え、アビセルを除いたものである。得られた菌体を0.5mol/Lシュークロースで洗浄し、0.45μmのフィルターで濾過したプロトプラスト化酵素溶液(3mg/mL−glucuronidase、1mg/mL Chitinase、1mg/mL Zymolyase、0.5mol/Lシュークロース)10mLに懸濁した。30℃で60〜90分間振盪し、菌糸をプロトプラスト化させた。この懸濁液を濾過した後、2500rpm、10分間遠心分離してプロトプラストを回収し、SUTC緩衝液[0.5mol/Lシュークロース、10mmol/L塩化カルシウム、10mmol/Lトリス塩酸(pH7.5)]で洗浄した。
以上のように調製したプロトプラストを1mLのSUTC緩衝液に懸濁し、この100μLに対し10μgのDNA(TE)溶液(10μL)を加え氷中に5分間静置した。次に、400μLのPEG溶液[60% PEG4000、10mmol/L塩化カルシウム、10mmol/Lトリス塩酸(pH7.5)]を加え、氷中に20分間静置した後、10mLのSUTC緩衝液を加え、2500rpm、10分間遠心分離した。集めたプロトプラストを1mLのSUTC緩衝液に懸濁した後、4000rpmで5分間遠心分離して、最終的に100μLのSUTC緩衝液に懸濁した。
以上の処理を加えたプロトプラストを、ハイグロマイシン(200μg/mL)添加YMG培地[1%グルコース、0.4%酵母エキス、0.2%モルトエキス、1%寒天(pH6.8)]上に、YMG軟寒天とともに重層し、37℃、5日間培養後、形成したコロニーを形質転換体とした。
(3)SDS−PAGEによる形質転換体の評価
前述のようにしてプラスミドpNCE5AP、pNCE5KE、及びpNCE5APKEを用いて得られたフミコーラ・インソレンス形質転換体を(N)培地(5.0%アビセル、2.0%酵母エキス、0.1%ペプトン、0.03%塩化カルシウム、0.03%塩化マグネシウム、pH6.8)で37℃、5日間培養し、得られた培養上清をSDS−PAGEにより分析した。
SDS−PAGEはテフコ社のシステムを用いて実施した。すなわち、電気泳動槽(No.03−101)、電源(Model:3540)、ゲル12%(01−005)、及びSDS−PAGE用バッファーキット(06−0301)を用いた。泳動条件は、18mA/90分とした。泳動後のゲルの染色は、クマシーブリリアントブルーR250染色液(0.1%クマシーブリリアントブルーR250、40%メタノール、10%酢酸)を用いて行い、その後脱色液(10%メタノール、7.5%酢酸)で脱色して蛋白質を検出した。分子量マーカーには、アマシャムバイオサイエンス社のLMW Marker Kit(17−0446−01)を用いた。
SDS−PAGE分析の結果、25kDa蛋白質が増強されている形質転換体が見出され、これら形質転換体では目的とするセルラーゼが生産されていることが確認された。これら形質転換体のうち、セルラーゼA162P、K166E、及びAPKEを生産する形質転換体としてK215−40株、K215−42株、及びK229−72株をそれぞれ選択し以降の解析に使用した。また、国際公開第WO 01/90375号パンフレットに記載されたNCE5(親セルラーゼ)を解析のコントロールとして使用した。
実施例3:各形質転換体から得られたセルラーゼの評価
フミコーラ・インソレンス形質転換体K215−40株、K215−42株、及びK229−72株を(N)培地で、37℃、5日間培養して得られた培養上清を用いて、(1)pH6.0、(2)pH6.0且つリニアアルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム(LAS)200ppm添加、(3)pH10.0の3試験区でEGU活性を測定した。
EGU活性は以下のようにして測定した。基質溶液として、カルボキシメチルセルロース(Hercules社製)を終濃度3.5%となるように適切な緩衝液に溶解した。すなわち、pH6.0で測定する場合は0.1mol/Lリン酸緩衝液(pH6.0)に、またpH10.0で測定する場合は0.1mol/Lトリス塩酸緩衝液(pH10.0)に溶解した。基質溶液5mLを試験管に取り、40℃の恒温槽にいれ10分間予熱した。これに試料溶液0.15mLを加え、良く攪拌し、40℃で酵素反応を開始した。30分間反応させた後、40℃に設定しておいたR型粘度計(東機産業RE100)で粘度を測定した。各酵素反応条件下において、初期粘度を1/2に低下させる酵素量を1単位とした。試験区(1)における酵素活性を100%として試験区(2)及び(3)の酵素活性を相対値で示すと以下の表のようになった。
以上の結果から、各セルラーゼ(A162P、K166E、及びAPKE)は、親セルラーゼと比較してLASに対して耐性で且つアルカリ性条件下で高い活性が保持されることが明らかとなった。
以上、本発明を特定の態様に沿って説明したが、当業者に自明の変形や改良は本発明の範囲に含まれる。
Claims (21)
- (1)配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるセルラーゼの162番目及び/又は166番目のアミノ酸残基が、前記セルラーゼのアミノ酸とは異なるアミノ酸に置換されたアミノ酸配列、あるいは、(2)前記アミノ酸配列(1)のN末端に1又は複数個のアミノ酸が付加又は欠失したアミノ酸配列
を有する、セルラーゼ。 - 配列番号3で表されるアミノ酸配列を有する、請求項1に記載のセルラーゼ。
- 166番目のアミノ酸がグルタミン酸又はアスパラギン酸に置換されている、請求項1に記載のセルラーゼ。
- 配列番号4で表されるアミノ酸配列を有する、請求項3に記載のセルラーゼ。
- 配列番号5で表されるアミノ酸配列を有するセルラーゼ。
- 請求項1〜5のいずれか一項に記載のセルラーゼをコードするポリヌクレオチド。
- 請求項6に記載のポリヌクレオチドを含む、発現ベクター。
- 請求項7に記載の発現ベクターで形質転換された、宿主細胞。
- 請求項8に記載の宿主細胞を培養し、その宿主及び/又はその培養物からセルラーゼを採取する工程を含む、請求項1〜5のいずれか一項に記載のセルラーゼの製造法。
- 請求項1〜5のいずれか一項に記載のセルラーゼを含む、セルラーゼ調製物。
- 請求項1〜5のいずれか一項に記載のセルラーゼ、又は請求項10に記載のセルラーゼ調製物を含む、洗剤組成物。
- セルロース含有繊維の処理方法であって、セルロース含有繊維を、請求項1〜5のいずれか一項に記載のセルラーゼ、請求項10に記載のセルラーゼ調製物、又は請求項11に記載の洗剤組成物と接触させる工程を含む、前記方法。
- セルロース含有繊維が毛羽立ち始める速度を低減させるか又はセルロース含有繊維の毛羽立ちを低減する方法であって、セルロース含有繊維を、請求項1〜5のいずれか一項に記載のセルラーゼ、請求項10に記載のセルラーゼ調製物、又は請求項11に記載の洗剤組成物と接触させる工程を含む、前記方法。
- セルロース含有繊維の肌触り及び外観の改善を目的として減量加工する方法であって、セルロース含有繊維を、請求項1〜5のいずれか一項に記載のセルラーゼ、請求項10に記載のセルラーゼ調製物、又は請求項11に記載の洗剤組成物と接触させる工程を含む、前記方法。
- 着色されたセルロース含有繊維の色を澄明化する方法であって、着色されたセルロース含有繊維を、請求項1〜5のいずれか一項に記載のセルラーゼ、請求項10に記載のセルラーゼ調製物、又は請求項11に記載の洗剤組成物と接触させる工程を含む、前記方法。
- 着色されたセルロース含有繊維の色の局所的な変化を提供する方法であって、着色されたセルロース含有繊維を、請求項1〜5のいずれか一項に記載のセルラーゼ、請求項10に記載のセルラーゼ調製物、又は請求項11に記載の洗剤組成物と接触させる工程を含む、前記方法。
- セルロース含有繊維がごわつき始める速度を低減させるか又はセルロース含有繊維のごわつきを低減する方法であって、セルロース含有繊維を、請求項1〜5のいずれか一項に記載のセルラーゼ、請求項10に記載のセルラーゼ調製物、又は請求項11に記載の洗剤組成物と接触させる工程を含む、前記方法。
- 繊維の処理がその繊維の浸漬、洗濯、又はすすぎを通じて行われる、請求項12〜17のいずれか一項に記載の方法。
- 古紙を脱インキ薬品により処理して脱インキを行う工程において、請求項1〜5のいずれか一項に記載のセルラーゼ、請求項10に記載のセルラーゼ調製物を用いることを特徴とする、古紙の脱インキ方法。
- 紙パルプのろ水性の改善方法であって、紙パルプを、請求項1〜5のいずれか一項に記載のセルラーゼ、請求項10に記載のセルラーゼ調製物で処理する工程を含む、前記方法。
- 動物飼料の消化能を改善する方法であって、セルロース含有繊維を、請求項1〜5のいずれか一項に記載のセルラーゼ、請求項10に記載のセルラーゼ調製物で処理する工程を含む、前記方法。
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