JPWO2004029079A1 - タンパク質複合体の精製方法、アッセイ方法、精製装置およびアッセイ装置 - Google Patents
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Abstract
二段階のトラップを有するマイクロフルイディクスを用いて、標的タンパク質と相互作用するタンパク質複合体を精製する方法が開示される。この方法は、(a)標的タンパク質と第一のタグと第二のタグとを含む融合タンパク質と、タンパク質複合体とを結合させ、(b)第一のタグと結合しうる第一のアフィニティ担体を含有する第一のトラップにより標的タンパク質とタンパク質複合体を捕捉し、(c)標的タンパク質とタンパク質複合体を第一のアフィニティ担体から分離し、(d)第二のタグと結合しうる第二のアフィニティ担体を含有する第二のトラップにより標的タンパク質とタンパク質複合体を捕捉し、そして(e)タンパク質複合体を第二のアフィニティ担体から分離する、の各工程を含む。
Description
本発明は、マイクロフルイディクスもしくはナノフルイディクスを用いたタンパク質複合体の精製方法またはアッセイ方法に関する。本発明はまた、マイクロフルイディクスまたはナノフルイディクスを用いたタンパク質複合体の精製装置またはアッセイ装置に関する。
プロテオミクスの手法を用いてタンパク質が生体内でどのような相互作用をしているかを知るためには、既知の標的タンパク質を用い、細胞抽出液等の試料中から、前記既知の標的タンパク質と相互作用する未知のタンパク質複合体を精製し、これを質量分析等によって同定する方法が有効である。この目的のためにタンパク質複合体を精製する方法としては、カラムを利用したアフィニティクロマトグラフィが知られているが、比較的多量の試料が必要なため、微量の試料しか入手できない場合には不適当である。
また、タンパク質複合体の精製の効率を高める方法としては、タンデムアフィニティ精製(TAP)法が知られている(Rigaut,et al.,Nature Biotechnology,17,1030−1032)。この方法は、標的タンパク質を2種類のアフィニティタグを付けた融合タンパク質として発現させ、この標的タンパク質に結合したタンパク質複合体を2段階のアフィニティ精製により回収する方法である。しかし、融合タンパク質の発現量を制御する必要があることや、2段目のアフィニティ精製においてカルシウムイオンを用いなければならないことから、その応用範囲には制限がある。また、多ステップの工程を経るために使用する容器や器具壁面への吸着による試料の損失が大きく回収率が低いことも問題である。加えて、粒子状のアフィニティ担体の遠心と手操作による担体と溶液の分離工程を繰り返すために、アフィニティ担体自体の損失もあり、実験結果の再現性においても問題がある。
さらに、カラムを利用したアフィニティクロマトグラフィでは、分子間の相互作用をモニタしながら精製を行うことができないという欠点がある。
一方、表面プラズモン共鳴により分子間の相互作用をモニタすることができるセンサチップを利用して、相互作用表面層によって標的とする分析物を捕捉し、次にこの分析物の質量スペクトルを測定する方法が報告されている(Natsume,et al.,Anal.Chem.2000,72,4193−4198)。この方法では、微量な試料を扱うことはできるが、細胞抽出液を扱う場合には、対象である分析物とともに細胞抽出液中の夾雑物が非特異的に捕捉されてしまう。その結果、タンパク質複合体のように、解析前に純度の高い精製がなされていなければならない対象については、良好な結果を得ることができないという欠点があった。容量が比較的大きいカラムアフィニティクロマトグラフィと異なり、マイクロフルイディクスにおいて微量の試料をアフィニティ精製する場合には、流路や担体に非特異的に吸着した夾雑物、あるいは系内の間隙へ滞留した夾雑物を十分に洗い流すことが困難であるという特有の問題点がある。この点に関して、この文献の著者らは、この夾雑物は質量スペクトル測定を行う前に逆相HPLCにおいて分離すると述べているが、タンパク質性の夾雑物除去の解決策とはならない。
したがって、本発明は、マイクロフルイディクスもしくはナノフルイディクスを用いて微量なタンパク質複合体を精製し、アッセイするための方法、ならびにこれらの方法において用いるための精製装置またはアッセイ装置を提供することを目的とする。
また、タンパク質複合体の精製の効率を高める方法としては、タンデムアフィニティ精製(TAP)法が知られている(Rigaut,et al.,Nature Biotechnology,17,1030−1032)。この方法は、標的タンパク質を2種類のアフィニティタグを付けた融合タンパク質として発現させ、この標的タンパク質に結合したタンパク質複合体を2段階のアフィニティ精製により回収する方法である。しかし、融合タンパク質の発現量を制御する必要があることや、2段目のアフィニティ精製においてカルシウムイオンを用いなければならないことから、その応用範囲には制限がある。また、多ステップの工程を経るために使用する容器や器具壁面への吸着による試料の損失が大きく回収率が低いことも問題である。加えて、粒子状のアフィニティ担体の遠心と手操作による担体と溶液の分離工程を繰り返すために、アフィニティ担体自体の損失もあり、実験結果の再現性においても問題がある。
さらに、カラムを利用したアフィニティクロマトグラフィでは、分子間の相互作用をモニタしながら精製を行うことができないという欠点がある。
一方、表面プラズモン共鳴により分子間の相互作用をモニタすることができるセンサチップを利用して、相互作用表面層によって標的とする分析物を捕捉し、次にこの分析物の質量スペクトルを測定する方法が報告されている(Natsume,et al.,Anal.Chem.2000,72,4193−4198)。この方法では、微量な試料を扱うことはできるが、細胞抽出液を扱う場合には、対象である分析物とともに細胞抽出液中の夾雑物が非特異的に捕捉されてしまう。その結果、タンパク質複合体のように、解析前に純度の高い精製がなされていなければならない対象については、良好な結果を得ることができないという欠点があった。容量が比較的大きいカラムアフィニティクロマトグラフィと異なり、マイクロフルイディクスにおいて微量の試料をアフィニティ精製する場合には、流路や担体に非特異的に吸着した夾雑物、あるいは系内の間隙へ滞留した夾雑物を十分に洗い流すことが困難であるという特有の問題点がある。この点に関して、この文献の著者らは、この夾雑物は質量スペクトル測定を行う前に逆相HPLCにおいて分離すると述べているが、タンパク質性の夾雑物除去の解決策とはならない。
したがって、本発明は、マイクロフルイディクスもしくはナノフルイディクスを用いて微量なタンパク質複合体を精製し、アッセイするための方法、ならびにこれらの方法において用いるための精製装置またはアッセイ装置を提供することを目的とする。
本発明者らは、マイクロフルイディクスまたはナノフルイディクス上に設けられた二段階のトラップを用いて、標的タンパク質と相互作用するタンパク質複合体をアフィニティ精製することにより、目的とする微量なタンパク質複合体を容易に精製できることを見いだし、本発明を完成させた。
本発明は、タンパク質の生体内における相互作用を解明するプロテオミクスの分野において特に有用である。生体内で複数のタンパク質がどのような相互作用をしているかを知るためには、既知の標的タンパク質を用い、細胞抽出液等の試料中から、前記既知の標的タンパク質と相互作用する未知のタンパク質複合体を精製し、これを質量分析等によって同定する方法が有効である。そのためには、前記タンパク質複合体を精製する必要があるが、本発明は、その精製方法を提供するものである。本発明の方法は、リアルタイムBIAcore(登録商標)用のセンサチップに容易に適用可能である。
すなわち、本発明は、第一のトラップ、第二のトラップおよびこれらのトラップに液体を搬送し排出させるための流路を有するマイクロフルイディクスまたはナノフルイディクスを用いて、標的タンパク質と相互作用するタンパク質複合体を精製する方法を提供し、該方法は、
(a)標的タンパク質と第一のタグと第二のタグとを含む融合タンパク質と、タンパク質複合体とを結合させ、
(b)第一のタグと結合しうる第一のアフィニティ担体を含有する第一のトラップにより標的タンパク質とタンパク質複合体を捕捉し、
(c)標的タンパク質とタンパク質複合体を第一のアフィニティ担体から分離し、
(d)第二のタグと結合しうる第二のアフィニティ担体を含有する第二のトラップにより標的タンパク質とタンパク質複合体を捕捉し、そして
(e)タンパク質複合体を第二のアフィニティ担体から分離する、
の各工程を含む。
上述の方法は、工程(a)にかえて、第一の標的タンパク質と第一のタグとを含む融合タンパク質と、第二の標的タンパク質と第二のタグとを含む融合タンパク質と、前記タンパク質複合体とを結合させる工程を有していてもよい。
上述の方法において、標的タンパク質とタンパク質複合体を第一のアフィニティ担体から分離する工程(c)は、好ましくは、第一のタグと第一のアフィニティ担体との結合を解離させるか、または第一のタグと標的タンパク質との結合を切断することにより行われる。また、タンパク質複合体を第二のアフィニティ担体から分離する工程(e)は、好ましくは、第二のタグと第二のアフィニティ担体との結合を解離させるか、または第二のタグと標的タンパク質との結合を切断するか、またはタンパク質複合体を分解することにより行われる。
好ましい態様においては、融合タンパク質はさらに第三のタグを含有し、標的タンパク質とタンパク質複合体は、第一のアフィニティ担体と結合させる前に、この第三のタグを利用したアフィニティクロマトグラフィにより濃縮されている。
さらに好ましくは、本発明の方法は、第二のタグと結合しうる第二のアフィニティ担体を含有する第二のトラップにより標的タンパク質とタンパク質複合体を捕捉する工程(d)と、タンパク質複合体を第二のアフィニティ担体から分離する工程(e)との間に、第一のトラップおよび流路に結合した夾雑物を除去する工程をさらに含む。このことにより、目的とするタンパク質複合体の純度を高めることができ、さらにこのタンパク質複合体のアッセイの精度を高めることができる。
さらに好ましくは、本発明の方法は、第一のトラップおよび/または第二のトラップにおける捕捉および分離をモニタしながら実施する。表面プラズモン共鳴により分子間の相互作用をモニタすることができるセンサチップが当該技術分野において知られており、このような目的のために適合させることができる。
別の観点においては、本発明は、第一のトラップ、第二のトラップおよびこれらのトラップに液体を搬送し排出させるための流路を有するマイクロフルイディクスまたはナノフルイディクスを用いて、標的タンパク質と相互作用するタンパク質複合体をアッセイする方法を提供し、該方法は、
(a)標的タンパク質と第一のタグと第二のタグとを含む融合タンパク質と、タンパク質複合体とを結合させ、
(b)第一のタグと結合しうる第一のアフィニティ担体を含有する第一のトラップにより標的タンパク質とタンパク質複合体を捕捉し、
(c)標的タンパク質とタンパク質複合体を第一のアフィニティ担体から分離し、
(d)第二のタグと結合しうる第二のアフィニティ担体を含有する第二のトラップにより標的タンパク質とタンパク質複合体を捕捉し、
(e)タンパク質複合体を第二のアフィニティ担体から分離し、そして
(f)タンパク質複合体をアッセイする、
の各工程を含む。
上述の方法は、工程(a)にかえて、第一の標的タンパク質と第一のタグとを含む融合タンパク質と、第二の標的タンパク質と第二のタグとを含む融合タンパク質と、前記タンパク質複合体とを結合させる工程を有していてもよい。
好ましくは、タンパク質複合体を第二のアフィニティ担体から分離する工程(e)は、タンパク質複合体をタンパク質分解酵素でペプチドに分解することにより行われ、タンパク質複合体をアッセイする工程(f)は、分解によって生じたペプチドを分析することにより行われる。
さらに別の観点においては、本発明は、標的タンパク質と相互作用するタンパク質複合体を精製するための装置を提供する。該装置は、
標的タンパク質中の第一のタグと結合しうる第一のアフィニティ担体を含有する第一のトラップと、
標的タンパク質中の第二のタグと結合しうる第二のアフィニティ担体を含有する第二のトラップと、
これらのトラップに液体を搬送し排出させるための流路と、
流路における液体の流れを制御する手段とを有しており、
ここで、トラップおよび流路はマイクロフルイディクスまたはナノフルイディクス上に配置されている。制御手段は、第一のトラップにより標的タンパク質とタンパク質複合体を捕捉させ、標的タンパク質とタンパク質複合体を第一のアフィニティ担体から分離し、第二のトラップにより標的タンパク質とタンパク質複合体を捕捉させ、そしてタンパク質複合体を第二のアフィニティ担体から分離するように、流路における液体の流れを制御する。
好ましくは、本発明の装置においては、制御手段は第一および第二のトラップにおけるタンパク質およびタンパク質複合体の捕捉および分離をモニタする手段をさらに含む。
本発明はまた、上述の本発明の精製装置と、第二のアフィニティ担体から分離されたタンパク質複合体をアッセイする手段とを含む、タンパク質複合体アッセイ装置を提供する。
本発明は、タンパク質の生体内における相互作用を解明するプロテオミクスの分野において特に有用である。生体内で複数のタンパク質がどのような相互作用をしているかを知るためには、既知の標的タンパク質を用い、細胞抽出液等の試料中から、前記既知の標的タンパク質と相互作用する未知のタンパク質複合体を精製し、これを質量分析等によって同定する方法が有効である。そのためには、前記タンパク質複合体を精製する必要があるが、本発明は、その精製方法を提供するものである。本発明の方法は、リアルタイムBIAcore(登録商標)用のセンサチップに容易に適用可能である。
すなわち、本発明は、第一のトラップ、第二のトラップおよびこれらのトラップに液体を搬送し排出させるための流路を有するマイクロフルイディクスまたはナノフルイディクスを用いて、標的タンパク質と相互作用するタンパク質複合体を精製する方法を提供し、該方法は、
(a)標的タンパク質と第一のタグと第二のタグとを含む融合タンパク質と、タンパク質複合体とを結合させ、
(b)第一のタグと結合しうる第一のアフィニティ担体を含有する第一のトラップにより標的タンパク質とタンパク質複合体を捕捉し、
(c)標的タンパク質とタンパク質複合体を第一のアフィニティ担体から分離し、
(d)第二のタグと結合しうる第二のアフィニティ担体を含有する第二のトラップにより標的タンパク質とタンパク質複合体を捕捉し、そして
(e)タンパク質複合体を第二のアフィニティ担体から分離する、
の各工程を含む。
上述の方法は、工程(a)にかえて、第一の標的タンパク質と第一のタグとを含む融合タンパク質と、第二の標的タンパク質と第二のタグとを含む融合タンパク質と、前記タンパク質複合体とを結合させる工程を有していてもよい。
上述の方法において、標的タンパク質とタンパク質複合体を第一のアフィニティ担体から分離する工程(c)は、好ましくは、第一のタグと第一のアフィニティ担体との結合を解離させるか、または第一のタグと標的タンパク質との結合を切断することにより行われる。また、タンパク質複合体を第二のアフィニティ担体から分離する工程(e)は、好ましくは、第二のタグと第二のアフィニティ担体との結合を解離させるか、または第二のタグと標的タンパク質との結合を切断するか、またはタンパク質複合体を分解することにより行われる。
好ましい態様においては、融合タンパク質はさらに第三のタグを含有し、標的タンパク質とタンパク質複合体は、第一のアフィニティ担体と結合させる前に、この第三のタグを利用したアフィニティクロマトグラフィにより濃縮されている。
さらに好ましくは、本発明の方法は、第二のタグと結合しうる第二のアフィニティ担体を含有する第二のトラップにより標的タンパク質とタンパク質複合体を捕捉する工程(d)と、タンパク質複合体を第二のアフィニティ担体から分離する工程(e)との間に、第一のトラップおよび流路に結合した夾雑物を除去する工程をさらに含む。このことにより、目的とするタンパク質複合体の純度を高めることができ、さらにこのタンパク質複合体のアッセイの精度を高めることができる。
さらに好ましくは、本発明の方法は、第一のトラップおよび/または第二のトラップにおける捕捉および分離をモニタしながら実施する。表面プラズモン共鳴により分子間の相互作用をモニタすることができるセンサチップが当該技術分野において知られており、このような目的のために適合させることができる。
別の観点においては、本発明は、第一のトラップ、第二のトラップおよびこれらのトラップに液体を搬送し排出させるための流路を有するマイクロフルイディクスまたはナノフルイディクスを用いて、標的タンパク質と相互作用するタンパク質複合体をアッセイする方法を提供し、該方法は、
(a)標的タンパク質と第一のタグと第二のタグとを含む融合タンパク質と、タンパク質複合体とを結合させ、
(b)第一のタグと結合しうる第一のアフィニティ担体を含有する第一のトラップにより標的タンパク質とタンパク質複合体を捕捉し、
(c)標的タンパク質とタンパク質複合体を第一のアフィニティ担体から分離し、
(d)第二のタグと結合しうる第二のアフィニティ担体を含有する第二のトラップにより標的タンパク質とタンパク質複合体を捕捉し、
(e)タンパク質複合体を第二のアフィニティ担体から分離し、そして
(f)タンパク質複合体をアッセイする、
の各工程を含む。
上述の方法は、工程(a)にかえて、第一の標的タンパク質と第一のタグとを含む融合タンパク質と、第二の標的タンパク質と第二のタグとを含む融合タンパク質と、前記タンパク質複合体とを結合させる工程を有していてもよい。
好ましくは、タンパク質複合体を第二のアフィニティ担体から分離する工程(e)は、タンパク質複合体をタンパク質分解酵素でペプチドに分解することにより行われ、タンパク質複合体をアッセイする工程(f)は、分解によって生じたペプチドを分析することにより行われる。
さらに別の観点においては、本発明は、標的タンパク質と相互作用するタンパク質複合体を精製するための装置を提供する。該装置は、
標的タンパク質中の第一のタグと結合しうる第一のアフィニティ担体を含有する第一のトラップと、
標的タンパク質中の第二のタグと結合しうる第二のアフィニティ担体を含有する第二のトラップと、
これらのトラップに液体を搬送し排出させるための流路と、
流路における液体の流れを制御する手段とを有しており、
ここで、トラップおよび流路はマイクロフルイディクスまたはナノフルイディクス上に配置されている。制御手段は、第一のトラップにより標的タンパク質とタンパク質複合体を捕捉させ、標的タンパク質とタンパク質複合体を第一のアフィニティ担体から分離し、第二のトラップにより標的タンパク質とタンパク質複合体を捕捉させ、そしてタンパク質複合体を第二のアフィニティ担体から分離するように、流路における液体の流れを制御する。
好ましくは、本発明の装置においては、制御手段は第一および第二のトラップにおけるタンパク質およびタンパク質複合体の捕捉および分離をモニタする手段をさらに含む。
本発明はまた、上述の本発明の精製装置と、第二のアフィニティ担体から分離されたタンパク質複合体をアッセイする手段とを含む、タンパク質複合体アッセイ装置を提供する。
図1は、マイクロフルイディクスの構成の1つの例を示す。
図2は、本発明の方法において用いられるマイクロフルイディクスの概略図を示す。
図3は、標的タンパク質と第一のタグと第二のタグとを含む融合タンパク質と、標的タンパク質と相互作用するタンパク質複合体との結合の一態様を示す。
図4は、デキストランを介して第一のトラップに捕捉された標的タンパク質とタンパク質複合体の一態様を示す。
図5は、第一のトラップにおいて、TEVプロテアーゼを用いて標的タンパク質とタンパク質複合体をアフィニティ担体から分離する工程の一態様を示す。
図6は、第一のトラップから分離された後に第二のトラップに捕捉された標的タンパク質とタンパク質複合体の一態様を示す。
図7は、タンパク質分解酵素を用いて標的タンパク質とタンパク質複合体を第二のトラップから分離する工程の一態様を示す。
図8は、トラップにおけるタンパク質の捕捉および分離をモニタした結果の例である。
図9は、トラップにおけるタンパク質の捕捉をモニタした結果の例である。
図10は、本発明の方法を実現させるための装置を表す模式図である。
図11は、標的タンパク質と相互作用するタンパク質複合体の二段階精製および分析に用いるシステムの模式図である。
図12は、第一トラップ(カラムFc1とカラムFc2)および第二トラップ(カラムFc3とカラムFc4)を有するセンサチップの概略図である。
図13は、BIAcore(登録商標)装置のセンサチップにより、融合標的タンパク質Pin1およびこれと相互作用するタンパク質複合体が第一トラップのアミロースに結合する過程をモニタした結果を示す。
図14は、BIAcore(登録商標)装置のセンサチップにより、第一トラップ(Fc1とFc2)からのTEVプロテアーゼによるタンパク質複合体の分離と第二トラップ(Fc3とFc4)へのその結合をモニタした結果を示す。
図15は、BIAcore(登録商標)装置のセンサチップにより、第二トラップ(Fc3とFc4)におけるプロテアーゼ分解をモニタした結果を示す。
発明の詳細な説明
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態を説明する。
本発明の方法は、マイクロフルイディクスまたはナノフルイディクス上において行われる。マイクロフルイディクスとは、シリコンやガラス製のチップ上に、μmオーダーの寸法の微小な流路、ポンプ、バルブ、溶液貯蔵部、反応部等が形成されたものであり、微小分析システム、微小反応システム用のチップとして開発が進められている。ナノフルイディクスとは一般にはマイクロフルイディクスよりさらに微小なサイズのものをいうが、これらの間の明確な区分けはなく、本明細書においてはこれらの用語を特に区別せずに用いる。マイクロフルイディクスの一例として、表面プラズモン共鳴により分子間の相互作用をモニタすることができるバイオセンサ用のセンサチップが実用化されており、BIAcore(登録商標)の商品名で、BiacoreAB(Uppsala、Sweden)から市販されている。このようなチップ技術は、USP5,641,640、USP5,955,729、特許第3294605号、特表平07−507865に開示されている。
図1は、このようなマイクロフルイディクスの構成の1つの例を示す。マイクロフルイディクス1上には、流路2、バルブ3、溶液ポート4、反応部5,反応モニタ部6、および排出ポート7が形成されている。制御装置(図示せず)によってポンプ(図示せず)とバルブの動作を制御することにより、流路を通して種々の物質を反応部に搬送し、反応させ、排出させる。反応は反応モニタ部6によりモニタすることができる。本発明の方法は、このようなマイクロフルイディクスを用いてタンパク質複合体の精製またはアッセイを行うのに有用である。本発明の方法は、特にリアルタイムBIAcore(登録商標)用のセンサチップに容易に適用可能である。
本発明は、マイクロフルイディクスまたはナノフルイディクスを用いて、標的タンパク質と相互作用するタンパク質複合体を精製およびアッセイする方法を提供する。図2は、本発明の方法において用いられるマイクロフルイディクスの概略図を示す。マイクロフルイディクス上に、第一のトラップ11、第二のトラップ12およびこれらのトラップに液体を搬送し排出させるための流路13が設けられている。流路13は、第一および第二のトラップに加えて、トラップに供給する液体を導入するための液体導入部15およびトラップから排出される液体を受け取るための排出部16と連絡しており、流路13中の液体の流れは、バルブ14、ポンプ、これらの動作を制御する外部コンピュータ等により制御することができる。
本発明の方法においては、まず、標的タンパク質と第一のタグと第二のタグとを含む融合タンパク質と、標的タンパク質と相互作用するタンパク質複合体とを結合させる。遺伝子組換え手法により、標的タンパク質と第一のタグと第二のタグとを含む融合タンパク質をコードするベクターを作製し、大腸菌、培養動物細胞などの宿主において融合タンパク質を発現させることができる。
標的タンパク質としては、例えば、各種の輸送タンパク質、貯蔵タンパク質、触媒タンパク質、代謝制御タンパク質、各種のレセプター、各種サイトカイン・細胞増殖因子、各種転写因子、各種シグナル伝達因子、細胞骨格因子、各種イオンチャネル、各種Gタンパク質、細胞周期制御因子、形態形成制御因子、タンパク質合成関連タンパク質、など、ほぼ全てのカテゴリーに含まれるタンパク質、あるいは、機能未知で分類ができていないが、cDNAあるいはゲノムの塩基配列からのみ存在が予測されているタンパク質等を用いることができる。
標的タンパク質と融合させる第一または第二のタグとしては、適当なアフィニティ担体に結合することができる種々のタグを用いることができ、例えば、限定されないが、キチン結合タンパク質、マルトース結合タンパク質、各種レクチンタンパク質、グルタチオンS−トランスフェラーゼ、FK506−結合タンパク質、mTORラパマイシン結合ドメイン、ビオチン化タンパク質、lacリプレッサ、各種エピトープタグ(FLAGタグ、c−mycタグ、ヒスチジンタグ、HAタグ、VSV−Gタグ等)、あるいはTAPタグ等を用いることができる。また、電気化学的に化学結合の形成及び切断を行うことができる物質(例えば、特願2002−241072に記載の物質)も融合タンパク質に結合させたタグとして利用することも可能である。遺伝子組換え手法によりこのような融合タンパク質を生成する方法は当該技術分野においてよく知られている。一例としては、マルトース結合タンパク質を第一のタグとして、ビオチン化タンパク質を第二のタグとして、標的タンパク質との融合タンパク質として宿主細胞内で発現させることができる。
標的タンパク質と相互作用するタンパク質複合体は、標的タンパク質と水素結合、静電的結合、疎水的結合などにより強くまたは弱く相互作用する1またはそれ以上のタンパク質が含まれ、さらに、核酸(DNA、RNA)、酵素、糖、糖鎖や、ペプチド、脂質、ビタミン、金属錯体、ステロイド、テルペノイド(テルペン)、オータコイド、アルカロイド等の生体高分子、生体低分子、生理活性物質等が含まれていてもよい。
標的タンパク質と、これと相互作用するタンパク質複合体との結合は、融合タンパク質を発現する宿主内において自発的に生じさせてもよく、タンパク質複合体を含む試料、例えば細胞抽出物と、別途生成させた融合タンパク質とを混合することにより形成させてもよい。あるいは、タンパク質複合体を含む試料と融合タンパク質の両方を第一のトラップに適用してもよい。
図3は、標的タンパク質と第一のタグと第二のタグとを含む融合タンパク質と、標的タンパク質と相互作用するタンパク質複合体との結合の実施例を示す模式図である。この例においては、融合タンパク質は、標的タンパク質21としてP5タンパク質、第一のタグとしてマルトース結合タンパク質22、第二のタグとしてビオチン化タンパク質23を含む。この融合タンパク質をコードする遺伝子を遺伝子組換え手法により作製し、大腸菌に導入して融合タンパク質を発現させ、それを精製した後、例えば、ヒト293EBNA培養細胞の破砕物と混合することにより、標的タンパク質21と相互作用するタンパク質複合体31を含む細胞抽出物を調製する。
別の態様においては、本発明の方法は、上述の工程にかえて、第一の標的タンパク質と第一のタグとを含む融合タンパク質と、第二の標的タンパク質と第二のタグとを含む融合タンパク質と、これらの標的タンパク質の両方と相互作用するタンパク質複合体とを結合させる工程を有していてもよい。かかる態様においては、2種類の標的タンパク質と相互作用するタンパク質複合体を精製する目的で、2種類の標的タンパク質にそれぞれ異なるタグが結合している2種類の融合タンパク質を用意し、これらとタンパク質複合体とを結合させる。
本発明の好ましい態様においては、本発明の方法において用いられる融合タンパク質はさらに第三のタグを含有する。標的タンパク質とこれと結合したタンパク質複合体を、第一のアフィニティ担体と結合させる前に、この第三のタグを利用したアフィニティクロマトグラフィで濃縮することにより、タンパク質複合体の精製効率をより高めることができる。標的タンパク質に結合させる第三のタグとしては、例えば、各種のエピトープタグ(FLAGタグ、c−mycタグ、ヒスチジンタグ、HAタグ、VSV−Gタグ等)を利用することができる。ヒスチジンタグを用いる場合には、細胞抽出物を調製した後、Ni−NTAアフィニティクロマトグラフィを用いて、標的タンパク質とこれと相互作用するタンパク質複合体とを含む画分を濃縮することができる。
次に、標的タンパク質とタンパク質複合体を、第一のタグと結合しうる第一のアフィニティ担体を含有する第一のトラップにより捕捉させる。アフィニティ担体としては、例えば、タグとしてマルトース結合タンパク質を用いた場合にはアミロース等の糖を、タグとしてビオチン化タンパク質を用いた場合にはストレプトアビジンまたはアビジンを用いることができる。第一のタグと結合しうるアフィニティ担体および結合条件を選択する方法は当該技術分野においてよく知られている。アフィニティ担体は、例えば、トラップの壁面に設けられたデキストラン層を介してトラップに結合させることができる。
図4は、デキストランを介して第一のトラップに捕捉された標的タンパク質とタンパク質複合体の実施例を表す模式図である。この例においては、標的タンパク質と結合したタンパク質複合体31を捕捉するために、第一のトラップの壁面52にデキストラン53を介してアフィニティ担体であるアミロース54を結合させてある。第一のタグであるマルトース結合タンパク質22がアミロース54と結合することにより、標的タンパク質21とタンパク質複合体31とが第一のトラップにおいて捕捉される。なお、このとき、第一のトラップおよび流路には試料中の夾雑物55が非特異的に吸着すること、あるいは系内の間隙へ滞留することが多い。
好ましくは、捕捉の効率を高めるために、捕捉工程においてはオシレーションあるいは試料の流れを停止する方法を用いる。オシレーションとは、試料を含む液体をトラップに流入させるときに、流れの方向を短時間で正方向と逆方向とに切り替えながら行うことをいう。オシレーションにより、微小管中の担体に微量の試料を捕捉させる場合に、担体への捕捉効率が高くなることが知られている(Abrantes,et al.,Anal.Chem.,2001,73,2828−2835)。また、試料の流れを停止することで捕捉効率が高くなることは当該技術分野においてよく知られている。流れの方向の切り替えは、1分間に数回から1秒間に数回行うことができる。
次に、標的タンパク質とタンパク質複合体を第一のアフィニティ担体から分離する。分離は、第一のタグと第一のアフィニティ担体との結合を解離させるか、または第一のタグと標的タンパク質との結合を切断することにより行われる。解離および切断の様式は、用いられるタグとアフィニティ担体との組み合わせによって異なり、適切な様式を選択する方法は当該技術分野においてよく知られている。タグとアフィニティ担体との結合を解離させるためには、例えば、溶液の組成、イオン濃度、pHなどを変化させる。タグと標的タンパク質との結合を切断するためには、予めタグと標的タンパク質との間に特定のタンパク質分解酵素認識部位を含むように融合タンパク質を構築しておき、分離する際にトラップにタンパク質分解酵素を導入する。このようなタンパク質分解酵素の例としては、TEVプロテアーゼ、トロンビン、エンテロキナーゼ、Xa因子などが挙げられる。あるいは、電解切断性アフィニティ担体を利用してタグを結合させている場合には、電解切断により標的タンパク質とタンパク質複合体とをアフィニティ担体から分離することも可能である。
図5は、第一のトラップにおいて、TEVプロテアーゼを用いて標的タンパク質とタンパク質複合体をアフィニティ担体から分離する工程の実施例を示す模式図である。この例においては、標的タンパク質21とタンパク質複合体31とがアミロース54を介して第一のトラップに捕捉された後、第一のトラップにTEVプロテアーゼ61を導入する。融合タンパク質は、標的タンパク質21とマルトース結合タンパク質22の間にTEV切断部位を有しており、TEVプロテアーゼ61の作用により標的タンパク質21とマルトース結合タンパク質22との間のペプチド結合が切断される。
次に、第一のトラップから分離された標的タンパク質とタンパク質複合体を、第二のタグと結合しうる第二のアフィニティ担体を含有する第二のトラップにより捕捉する。標的タンパク質とタンパク質複合体とを第二のトラップに捕捉する工程の詳細は、第一のトラップについて説明したとおりである。
図6は、第一のトラップから分離された後に第二のトラップに捕捉された標的タンパク質とタンパク質複合体の実施例を表す模式図である。前工程においてTEVプロテアーゼによって切断された試料を第二のトラップに導入する。この例においては、標的タンパク質と相互作用するタンパク質複合体31を捕捉するために、第二のトラップの壁面72にデキストラン73を介してアフィニティ担体であるストレプトアビジン74を結合させてある。第二のタグであるビオチン化タンパク質23がストレプトアビジン73と結合することにより、標的タンパク質21とタンパク質複合体31とが第二のトラップにおいて捕捉される。この例においては、第二のトラップに捕捉されたタンパク質の量は、第一のトラップに捕捉されたタンパク質の量を基準(100%)として7.3%であった。
それぞれ異なるタグを有する2種類の融合タンパク質を用いて2種類の標的タンパク質と相互作用するタンパク質複合体を精製する態様においては、第一のトラップにより第一の標的タンパク質と前記タンパク質複合体を捕捉し、分離し、次に、第二のトラップにより第二の標的タンパク質と前記タンパク質複合体を捕捉する。
本発明の方法の特に好ましい態様においては、第二のトラップにより標的タンパク質とタンパク質複合体を捕捉した後に、第一のトラップおよび流路を洗浄することにより、これらに結合あるいは滞留した夾雑物を除去する。この除去工程においては、洗浄試薬が第二のトラップ中に流入しないため、酸、アルカリ、界面活性剤、尿素、タンパク質分解酵素などのタンパク質分解性の試薬あるいはタンパク質変性剤を用いることができる。好ましくは洗浄試薬として蟻酸を用いる。この工程を加えることにより、送液に使われる流路系に吸着あるいは滞留している夾雑物を除去することができるために、回収されるタンパク質複合体中に含まれる夾雑物の含有量を著しく低下させることができる。したがって、タンパク質複合体の精製の効率を高めることができ、さらにこのタンパク質複合体のアッセイの精度を高めることができる。このことは、二段階のトラップを用いることを特徴とする本発明の方法の利点である。
次に、タンパク質複合体を第二のアフィニティ担体から分離する。タンパク質複合体を第二のアフィニティ担体から分離する工程は、第一のトラップについて説明したとおりである。
あるいは、この分離工程は、タンパク質分解酵素によりタンパク質複合体を分解することにより行ってもよい。タンパク質分解酵素としては、トリプシン、リシルエンドペプチダーゼ等を用いることができる。このようにして得られるペプチドは、続いてHPLCによる分離、タンデム質量スペクトルによる分析等に供することができる。すなわち、別の観点においては、上述の方法により精製したタンパク質複合体をアッセイすることにより、標的タンパク質と相互作用するタンパク質をアッセイする方法が提供される。
図7は、タンパク質分解酵素を用いて標的タンパク質とタンパク質複合体を第二のトラップから分離する工程の実施例を示す模式図である。リシルエンドペプチダーゼ81の作用により、捕捉されていたタンパク質複合体31は分解されペプチド分子82となる。上述のように分解されたペプチド分子82を回収し、HPLCおよび/または質量分析により分析し、これによってタンパク質複合体31の解析を行う。なお、この例では、第二のトラップで捕捉されたタンパク質複合体を分解して分析する方法を述べたが、第二のトラップで捕捉された状態でレーザー等を使って分析することも可能である。また、第一のトラップと同様に、第二のトラップで捕捉されたタンパク質複合体を分離した後、精製されたタンパク質複合体を回収することも可能である。
さらに好ましくは、本発明の方法は、第一のトラップおよび/または第二のトラップにおける捕捉および分離をモニタしながら実施する。表面プラズモン共鳴により分子間の相互作用をモニタすることができるセンサチップが当該技術分野において知られており、例えば、BIAcore(登録商標)を利用することができる。かかるモニタによって得られた結合反応のグラフを図8および図9に示す。図8は、第一のトラップにおいてマルトース結合タンパク質を介してアミロースに結合する標的タンパク質とタンパク質複合体の捕捉過程および分離過程をBIAcore(登録商標)システムを用いてモニタした結果を示す。アフィニティ担体としてはアミロースを用い、捕捉時には200μg/mlのマルトース結合タンパク質含有融合タンパク質を、分離時には10mMのマルトースを注入した。図9は、第二のトラップにおいてビオチン化タンパク質を介してストレプトアビジンに結合する標的タンパク質とタンパク質複合体の捕捉過程をモニタした結果を示す。図示されていないが、タンパク質複合体がプロテアーゼ分解によって分離して行く様子も図8の分離モニタ部分と同様にモニタできる。アフィニティ担体としてはストレプトアビジンを用い、200μg/mlのビオチン化タンパク質含有融合タンパク質を注入した。
図10は、本発明の方法を実現させるための装置を表す模式図である。マイクロフルイディクス上に、第一のトラップ11、第二のトラップ12およびこれらのトラップに液体を搬送し排出させるための流路13が設けられている。第一のトラップ11は、標的タンパク質中の第一のタグと結合しうる第一のアフィニティ担体を含有し、第二のトラップ12は、標的タンパク質中の第二のタグと結合しうる第二のアフィニティ担体を含有する。流路13は、第一および第二のトラップに加えて、トラップに供給する液体を保持する液体導入部15、トラップから排出される液体を受け取るための排出部16、およびトラップから分離された試料を分析装置に送るための搬送部17と連絡している。本発明の方法の実施に必要な試料、試薬、バッファー等は液体導入部15から流路13に供給され、排出部16において排出される。本発明の方法により精製された試料は、トラップから搬送部17を通って、タンパク質複合体のアッセイ装置に送られる。
流路13中の液体の流れは制御手段により制御される。制御手段は、バルブ14、ポンプ(図示せず)、これらの動作を制御するコンピュータ18により構成される。制御手段は、コンピュータの制御下でバルブおよびポンプを操作して、第一のトラップにより標的タンパク質とタンパク質複合体を捕捉させ、標的タンパク質とタンパク質複合体を第一のアフィニティ担体から分離し、第二のトラップにより標的タンパク質とタンパク質複合体を捕捉させ、そしてタンパク質複合体を第二のアフィニティ担体から分離するように、流路における液体の流れを制御する。電解切断性アフィニティ担体を適用する場合には、制御手段は11、12のトラップ部への通電を制御する通電制御部をさらに含む。
好ましくは、本発明の装置においては、制御手段は第一および第二のトラップにおける標識タンパク質およびタンパク質複合体の捕捉および分離をモニタするためのモニタ部19をさらに含む。捕捉および分離に関する情報をモニタ部19からコンピュータに送ることにより、流路における液体の流れをさらに正確かつ精密に制御することが可能である。すなわち、モニタ部19を含む本発明の装置の構成は、タンパク質複合体の精製および分析の自動化に特に適している。
なお、図10は本発明の装置の構成の一例を示すものであり、種々の変形が可能であることが理解されるべきである。例えば、トラップ、液体導入部、排出部、モニタ部の数および配置、ならびに流路およびバルブの組み合わせおよび配置は、当業者が目的に応じて適宜変更することができる。同様に、上述した本発明の方法ならびに装置の実施の形態にも種々の変更が可能であり、これらの変形物もまた本発明の範囲内である。
本明細書において明示的に引用される全ての特許および参考文献の内容は全て本明細書の一部としてここに引用する。また,本出願が有する優先権主張の基礎となる出願である日本特許出願2002−278744号の明細書および図面に記載の内容は全て本明細書の一部としてここに引用する。
図2は、本発明の方法において用いられるマイクロフルイディクスの概略図を示す。
図3は、標的タンパク質と第一のタグと第二のタグとを含む融合タンパク質と、標的タンパク質と相互作用するタンパク質複合体との結合の一態様を示す。
図4は、デキストランを介して第一のトラップに捕捉された標的タンパク質とタンパク質複合体の一態様を示す。
図5は、第一のトラップにおいて、TEVプロテアーゼを用いて標的タンパク質とタンパク質複合体をアフィニティ担体から分離する工程の一態様を示す。
図6は、第一のトラップから分離された後に第二のトラップに捕捉された標的タンパク質とタンパク質複合体の一態様を示す。
図7は、タンパク質分解酵素を用いて標的タンパク質とタンパク質複合体を第二のトラップから分離する工程の一態様を示す。
図8は、トラップにおけるタンパク質の捕捉および分離をモニタした結果の例である。
図9は、トラップにおけるタンパク質の捕捉をモニタした結果の例である。
図10は、本発明の方法を実現させるための装置を表す模式図である。
図11は、標的タンパク質と相互作用するタンパク質複合体の二段階精製および分析に用いるシステムの模式図である。
図12は、第一トラップ(カラムFc1とカラムFc2)および第二トラップ(カラムFc3とカラムFc4)を有するセンサチップの概略図である。
図13は、BIAcore(登録商標)装置のセンサチップにより、融合標的タンパク質Pin1およびこれと相互作用するタンパク質複合体が第一トラップのアミロースに結合する過程をモニタした結果を示す。
図14は、BIAcore(登録商標)装置のセンサチップにより、第一トラップ(Fc1とFc2)からのTEVプロテアーゼによるタンパク質複合体の分離と第二トラップ(Fc3とFc4)へのその結合をモニタした結果を示す。
図15は、BIAcore(登録商標)装置のセンサチップにより、第二トラップ(Fc3とFc4)におけるプロテアーゼ分解をモニタした結果を示す。
発明の詳細な説明
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態を説明する。
本発明の方法は、マイクロフルイディクスまたはナノフルイディクス上において行われる。マイクロフルイディクスとは、シリコンやガラス製のチップ上に、μmオーダーの寸法の微小な流路、ポンプ、バルブ、溶液貯蔵部、反応部等が形成されたものであり、微小分析システム、微小反応システム用のチップとして開発が進められている。ナノフルイディクスとは一般にはマイクロフルイディクスよりさらに微小なサイズのものをいうが、これらの間の明確な区分けはなく、本明細書においてはこれらの用語を特に区別せずに用いる。マイクロフルイディクスの一例として、表面プラズモン共鳴により分子間の相互作用をモニタすることができるバイオセンサ用のセンサチップが実用化されており、BIAcore(登録商標)の商品名で、BiacoreAB(Uppsala、Sweden)から市販されている。このようなチップ技術は、USP5,641,640、USP5,955,729、特許第3294605号、特表平07−507865に開示されている。
図1は、このようなマイクロフルイディクスの構成の1つの例を示す。マイクロフルイディクス1上には、流路2、バルブ3、溶液ポート4、反応部5,反応モニタ部6、および排出ポート7が形成されている。制御装置(図示せず)によってポンプ(図示せず)とバルブの動作を制御することにより、流路を通して種々の物質を反応部に搬送し、反応させ、排出させる。反応は反応モニタ部6によりモニタすることができる。本発明の方法は、このようなマイクロフルイディクスを用いてタンパク質複合体の精製またはアッセイを行うのに有用である。本発明の方法は、特にリアルタイムBIAcore(登録商標)用のセンサチップに容易に適用可能である。
本発明は、マイクロフルイディクスまたはナノフルイディクスを用いて、標的タンパク質と相互作用するタンパク質複合体を精製およびアッセイする方法を提供する。図2は、本発明の方法において用いられるマイクロフルイディクスの概略図を示す。マイクロフルイディクス上に、第一のトラップ11、第二のトラップ12およびこれらのトラップに液体を搬送し排出させるための流路13が設けられている。流路13は、第一および第二のトラップに加えて、トラップに供給する液体を導入するための液体導入部15およびトラップから排出される液体を受け取るための排出部16と連絡しており、流路13中の液体の流れは、バルブ14、ポンプ、これらの動作を制御する外部コンピュータ等により制御することができる。
本発明の方法においては、まず、標的タンパク質と第一のタグと第二のタグとを含む融合タンパク質と、標的タンパク質と相互作用するタンパク質複合体とを結合させる。遺伝子組換え手法により、標的タンパク質と第一のタグと第二のタグとを含む融合タンパク質をコードするベクターを作製し、大腸菌、培養動物細胞などの宿主において融合タンパク質を発現させることができる。
標的タンパク質としては、例えば、各種の輸送タンパク質、貯蔵タンパク質、触媒タンパク質、代謝制御タンパク質、各種のレセプター、各種サイトカイン・細胞増殖因子、各種転写因子、各種シグナル伝達因子、細胞骨格因子、各種イオンチャネル、各種Gタンパク質、細胞周期制御因子、形態形成制御因子、タンパク質合成関連タンパク質、など、ほぼ全てのカテゴリーに含まれるタンパク質、あるいは、機能未知で分類ができていないが、cDNAあるいはゲノムの塩基配列からのみ存在が予測されているタンパク質等を用いることができる。
標的タンパク質と融合させる第一または第二のタグとしては、適当なアフィニティ担体に結合することができる種々のタグを用いることができ、例えば、限定されないが、キチン結合タンパク質、マルトース結合タンパク質、各種レクチンタンパク質、グルタチオンS−トランスフェラーゼ、FK506−結合タンパク質、mTORラパマイシン結合ドメイン、ビオチン化タンパク質、lacリプレッサ、各種エピトープタグ(FLAGタグ、c−mycタグ、ヒスチジンタグ、HAタグ、VSV−Gタグ等)、あるいはTAPタグ等を用いることができる。また、電気化学的に化学結合の形成及び切断を行うことができる物質(例えば、特願2002−241072に記載の物質)も融合タンパク質に結合させたタグとして利用することも可能である。遺伝子組換え手法によりこのような融合タンパク質を生成する方法は当該技術分野においてよく知られている。一例としては、マルトース結合タンパク質を第一のタグとして、ビオチン化タンパク質を第二のタグとして、標的タンパク質との融合タンパク質として宿主細胞内で発現させることができる。
標的タンパク質と相互作用するタンパク質複合体は、標的タンパク質と水素結合、静電的結合、疎水的結合などにより強くまたは弱く相互作用する1またはそれ以上のタンパク質が含まれ、さらに、核酸(DNA、RNA)、酵素、糖、糖鎖や、ペプチド、脂質、ビタミン、金属錯体、ステロイド、テルペノイド(テルペン)、オータコイド、アルカロイド等の生体高分子、生体低分子、生理活性物質等が含まれていてもよい。
標的タンパク質と、これと相互作用するタンパク質複合体との結合は、融合タンパク質を発現する宿主内において自発的に生じさせてもよく、タンパク質複合体を含む試料、例えば細胞抽出物と、別途生成させた融合タンパク質とを混合することにより形成させてもよい。あるいは、タンパク質複合体を含む試料と融合タンパク質の両方を第一のトラップに適用してもよい。
図3は、標的タンパク質と第一のタグと第二のタグとを含む融合タンパク質と、標的タンパク質と相互作用するタンパク質複合体との結合の実施例を示す模式図である。この例においては、融合タンパク質は、標的タンパク質21としてP5タンパク質、第一のタグとしてマルトース結合タンパク質22、第二のタグとしてビオチン化タンパク質23を含む。この融合タンパク質をコードする遺伝子を遺伝子組換え手法により作製し、大腸菌に導入して融合タンパク質を発現させ、それを精製した後、例えば、ヒト293EBNA培養細胞の破砕物と混合することにより、標的タンパク質21と相互作用するタンパク質複合体31を含む細胞抽出物を調製する。
別の態様においては、本発明の方法は、上述の工程にかえて、第一の標的タンパク質と第一のタグとを含む融合タンパク質と、第二の標的タンパク質と第二のタグとを含む融合タンパク質と、これらの標的タンパク質の両方と相互作用するタンパク質複合体とを結合させる工程を有していてもよい。かかる態様においては、2種類の標的タンパク質と相互作用するタンパク質複合体を精製する目的で、2種類の標的タンパク質にそれぞれ異なるタグが結合している2種類の融合タンパク質を用意し、これらとタンパク質複合体とを結合させる。
本発明の好ましい態様においては、本発明の方法において用いられる融合タンパク質はさらに第三のタグを含有する。標的タンパク質とこれと結合したタンパク質複合体を、第一のアフィニティ担体と結合させる前に、この第三のタグを利用したアフィニティクロマトグラフィで濃縮することにより、タンパク質複合体の精製効率をより高めることができる。標的タンパク質に結合させる第三のタグとしては、例えば、各種のエピトープタグ(FLAGタグ、c−mycタグ、ヒスチジンタグ、HAタグ、VSV−Gタグ等)を利用することができる。ヒスチジンタグを用いる場合には、細胞抽出物を調製した後、Ni−NTAアフィニティクロマトグラフィを用いて、標的タンパク質とこれと相互作用するタンパク質複合体とを含む画分を濃縮することができる。
次に、標的タンパク質とタンパク質複合体を、第一のタグと結合しうる第一のアフィニティ担体を含有する第一のトラップにより捕捉させる。アフィニティ担体としては、例えば、タグとしてマルトース結合タンパク質を用いた場合にはアミロース等の糖を、タグとしてビオチン化タンパク質を用いた場合にはストレプトアビジンまたはアビジンを用いることができる。第一のタグと結合しうるアフィニティ担体および結合条件を選択する方法は当該技術分野においてよく知られている。アフィニティ担体は、例えば、トラップの壁面に設けられたデキストラン層を介してトラップに結合させることができる。
図4は、デキストランを介して第一のトラップに捕捉された標的タンパク質とタンパク質複合体の実施例を表す模式図である。この例においては、標的タンパク質と結合したタンパク質複合体31を捕捉するために、第一のトラップの壁面52にデキストラン53を介してアフィニティ担体であるアミロース54を結合させてある。第一のタグであるマルトース結合タンパク質22がアミロース54と結合することにより、標的タンパク質21とタンパク質複合体31とが第一のトラップにおいて捕捉される。なお、このとき、第一のトラップおよび流路には試料中の夾雑物55が非特異的に吸着すること、あるいは系内の間隙へ滞留することが多い。
好ましくは、捕捉の効率を高めるために、捕捉工程においてはオシレーションあるいは試料の流れを停止する方法を用いる。オシレーションとは、試料を含む液体をトラップに流入させるときに、流れの方向を短時間で正方向と逆方向とに切り替えながら行うことをいう。オシレーションにより、微小管中の担体に微量の試料を捕捉させる場合に、担体への捕捉効率が高くなることが知られている(Abrantes,et al.,Anal.Chem.,2001,73,2828−2835)。また、試料の流れを停止することで捕捉効率が高くなることは当該技術分野においてよく知られている。流れの方向の切り替えは、1分間に数回から1秒間に数回行うことができる。
次に、標的タンパク質とタンパク質複合体を第一のアフィニティ担体から分離する。分離は、第一のタグと第一のアフィニティ担体との結合を解離させるか、または第一のタグと標的タンパク質との結合を切断することにより行われる。解離および切断の様式は、用いられるタグとアフィニティ担体との組み合わせによって異なり、適切な様式を選択する方法は当該技術分野においてよく知られている。タグとアフィニティ担体との結合を解離させるためには、例えば、溶液の組成、イオン濃度、pHなどを変化させる。タグと標的タンパク質との結合を切断するためには、予めタグと標的タンパク質との間に特定のタンパク質分解酵素認識部位を含むように融合タンパク質を構築しておき、分離する際にトラップにタンパク質分解酵素を導入する。このようなタンパク質分解酵素の例としては、TEVプロテアーゼ、トロンビン、エンテロキナーゼ、Xa因子などが挙げられる。あるいは、電解切断性アフィニティ担体を利用してタグを結合させている場合には、電解切断により標的タンパク質とタンパク質複合体とをアフィニティ担体から分離することも可能である。
図5は、第一のトラップにおいて、TEVプロテアーゼを用いて標的タンパク質とタンパク質複合体をアフィニティ担体から分離する工程の実施例を示す模式図である。この例においては、標的タンパク質21とタンパク質複合体31とがアミロース54を介して第一のトラップに捕捉された後、第一のトラップにTEVプロテアーゼ61を導入する。融合タンパク質は、標的タンパク質21とマルトース結合タンパク質22の間にTEV切断部位を有しており、TEVプロテアーゼ61の作用により標的タンパク質21とマルトース結合タンパク質22との間のペプチド結合が切断される。
次に、第一のトラップから分離された標的タンパク質とタンパク質複合体を、第二のタグと結合しうる第二のアフィニティ担体を含有する第二のトラップにより捕捉する。標的タンパク質とタンパク質複合体とを第二のトラップに捕捉する工程の詳細は、第一のトラップについて説明したとおりである。
図6は、第一のトラップから分離された後に第二のトラップに捕捉された標的タンパク質とタンパク質複合体の実施例を表す模式図である。前工程においてTEVプロテアーゼによって切断された試料を第二のトラップに導入する。この例においては、標的タンパク質と相互作用するタンパク質複合体31を捕捉するために、第二のトラップの壁面72にデキストラン73を介してアフィニティ担体であるストレプトアビジン74を結合させてある。第二のタグであるビオチン化タンパク質23がストレプトアビジン73と結合することにより、標的タンパク質21とタンパク質複合体31とが第二のトラップにおいて捕捉される。この例においては、第二のトラップに捕捉されたタンパク質の量は、第一のトラップに捕捉されたタンパク質の量を基準(100%)として7.3%であった。
それぞれ異なるタグを有する2種類の融合タンパク質を用いて2種類の標的タンパク質と相互作用するタンパク質複合体を精製する態様においては、第一のトラップにより第一の標的タンパク質と前記タンパク質複合体を捕捉し、分離し、次に、第二のトラップにより第二の標的タンパク質と前記タンパク質複合体を捕捉する。
本発明の方法の特に好ましい態様においては、第二のトラップにより標的タンパク質とタンパク質複合体を捕捉した後に、第一のトラップおよび流路を洗浄することにより、これらに結合あるいは滞留した夾雑物を除去する。この除去工程においては、洗浄試薬が第二のトラップ中に流入しないため、酸、アルカリ、界面活性剤、尿素、タンパク質分解酵素などのタンパク質分解性の試薬あるいはタンパク質変性剤を用いることができる。好ましくは洗浄試薬として蟻酸を用いる。この工程を加えることにより、送液に使われる流路系に吸着あるいは滞留している夾雑物を除去することができるために、回収されるタンパク質複合体中に含まれる夾雑物の含有量を著しく低下させることができる。したがって、タンパク質複合体の精製の効率を高めることができ、さらにこのタンパク質複合体のアッセイの精度を高めることができる。このことは、二段階のトラップを用いることを特徴とする本発明の方法の利点である。
次に、タンパク質複合体を第二のアフィニティ担体から分離する。タンパク質複合体を第二のアフィニティ担体から分離する工程は、第一のトラップについて説明したとおりである。
あるいは、この分離工程は、タンパク質分解酵素によりタンパク質複合体を分解することにより行ってもよい。タンパク質分解酵素としては、トリプシン、リシルエンドペプチダーゼ等を用いることができる。このようにして得られるペプチドは、続いてHPLCによる分離、タンデム質量スペクトルによる分析等に供することができる。すなわち、別の観点においては、上述の方法により精製したタンパク質複合体をアッセイすることにより、標的タンパク質と相互作用するタンパク質をアッセイする方法が提供される。
図7は、タンパク質分解酵素を用いて標的タンパク質とタンパク質複合体を第二のトラップから分離する工程の実施例を示す模式図である。リシルエンドペプチダーゼ81の作用により、捕捉されていたタンパク質複合体31は分解されペプチド分子82となる。上述のように分解されたペプチド分子82を回収し、HPLCおよび/または質量分析により分析し、これによってタンパク質複合体31の解析を行う。なお、この例では、第二のトラップで捕捉されたタンパク質複合体を分解して分析する方法を述べたが、第二のトラップで捕捉された状態でレーザー等を使って分析することも可能である。また、第一のトラップと同様に、第二のトラップで捕捉されたタンパク質複合体を分離した後、精製されたタンパク質複合体を回収することも可能である。
さらに好ましくは、本発明の方法は、第一のトラップおよび/または第二のトラップにおける捕捉および分離をモニタしながら実施する。表面プラズモン共鳴により分子間の相互作用をモニタすることができるセンサチップが当該技術分野において知られており、例えば、BIAcore(登録商標)を利用することができる。かかるモニタによって得られた結合反応のグラフを図8および図9に示す。図8は、第一のトラップにおいてマルトース結合タンパク質を介してアミロースに結合する標的タンパク質とタンパク質複合体の捕捉過程および分離過程をBIAcore(登録商標)システムを用いてモニタした結果を示す。アフィニティ担体としてはアミロースを用い、捕捉時には200μg/mlのマルトース結合タンパク質含有融合タンパク質を、分離時には10mMのマルトースを注入した。図9は、第二のトラップにおいてビオチン化タンパク質を介してストレプトアビジンに結合する標的タンパク質とタンパク質複合体の捕捉過程をモニタした結果を示す。図示されていないが、タンパク質複合体がプロテアーゼ分解によって分離して行く様子も図8の分離モニタ部分と同様にモニタできる。アフィニティ担体としてはストレプトアビジンを用い、200μg/mlのビオチン化タンパク質含有融合タンパク質を注入した。
図10は、本発明の方法を実現させるための装置を表す模式図である。マイクロフルイディクス上に、第一のトラップ11、第二のトラップ12およびこれらのトラップに液体を搬送し排出させるための流路13が設けられている。第一のトラップ11は、標的タンパク質中の第一のタグと結合しうる第一のアフィニティ担体を含有し、第二のトラップ12は、標的タンパク質中の第二のタグと結合しうる第二のアフィニティ担体を含有する。流路13は、第一および第二のトラップに加えて、トラップに供給する液体を保持する液体導入部15、トラップから排出される液体を受け取るための排出部16、およびトラップから分離された試料を分析装置に送るための搬送部17と連絡している。本発明の方法の実施に必要な試料、試薬、バッファー等は液体導入部15から流路13に供給され、排出部16において排出される。本発明の方法により精製された試料は、トラップから搬送部17を通って、タンパク質複合体のアッセイ装置に送られる。
流路13中の液体の流れは制御手段により制御される。制御手段は、バルブ14、ポンプ(図示せず)、これらの動作を制御するコンピュータ18により構成される。制御手段は、コンピュータの制御下でバルブおよびポンプを操作して、第一のトラップにより標的タンパク質とタンパク質複合体を捕捉させ、標的タンパク質とタンパク質複合体を第一のアフィニティ担体から分離し、第二のトラップにより標的タンパク質とタンパク質複合体を捕捉させ、そしてタンパク質複合体を第二のアフィニティ担体から分離するように、流路における液体の流れを制御する。電解切断性アフィニティ担体を適用する場合には、制御手段は11、12のトラップ部への通電を制御する通電制御部をさらに含む。
好ましくは、本発明の装置においては、制御手段は第一および第二のトラップにおける標識タンパク質およびタンパク質複合体の捕捉および分離をモニタするためのモニタ部19をさらに含む。捕捉および分離に関する情報をモニタ部19からコンピュータに送ることにより、流路における液体の流れをさらに正確かつ精密に制御することが可能である。すなわち、モニタ部19を含む本発明の装置の構成は、タンパク質複合体の精製および分析の自動化に特に適している。
なお、図10は本発明の装置の構成の一例を示すものであり、種々の変形が可能であることが理解されるべきである。例えば、トラップ、液体導入部、排出部、モニタ部の数および配置、ならびに流路およびバルブの組み合わせおよび配置は、当業者が目的に応じて適宜変更することができる。同様に、上述した本発明の方法ならびに装置の実施の形態にも種々の変更が可能であり、これらの変形物もまた本発明の範囲内である。
本明細書において明示的に引用される全ての特許および参考文献の内容は全て本明細書の一部としてここに引用する。また,本出願が有する優先権主張の基礎となる出願である日本特許出願2002−278744号の明細書および図面に記載の内容は全て本明細書の一部としてここに引用する。
以下に実施例により本発明をより詳細に説明するが,これらの実施例は本発明の範囲を制限するものではない。
BIAcore(登録商標)装置を用いて標的タンパク質と相互作用するタンパク質複合体の二段階精製と酵素消化をBIAcore(登録商標)センサチップ上で行い、その消化物をオンラインでnano−LC−MS/MS(極微流量液体クロマトグラフィータンデム質量分析)装置(Natsume et al.,Anal.Chem.74:4725−4733,2002)で分析することにより、タンパク質複合体の構成成分を同定した。図11は、この実験に用いたシステムの模式図である。BIAcore(登録商標)装置とnano−LC−MS/MS装置をオンラインで連結させ、BIAcore(登録商標)センサチップ上でのタンパク質複合体の二段階アフィニティ精製とオンチッププロテアーゼ消化、そして、LC−MS/MS分析をオンラインで行った。この実施例では、標的タンパク質として細胞周期制御因子Pin1タンパク質を用い、これに第一タグとしてマルトース結合タンパク質、第二タグとしてビオチン化タンパク質、そして、粗回収のためのヒスチジンタグを付加させたものを標的融合タンパク質として生成させた。この標的融合タンパク質Pin1にはTEVプロテアーゼ切断部位を標的タンパク質とマルトース結合タンパク質の間に導入してある。この標的融合タンパク質をコードする遺伝子を遺伝子組み換え手法により作製し、大腸菌に導入して融合タンパク質を発現させ、これを精製して、以下の実験に用いた。
このようにして得られた融合標的タンパク質Pin1をヒト293EBNA細胞抽出液と混合し、Ni2+キレートカラムで粗回収したものを、上記のセンサチップをセットしたBIAcore(登録商標)装置に導入した。BIAcore(登録商標)装置には、市販のBIAcore(登録商標)センサチップ(research grade CM)の2つの流路(カラムFc1とカラムFc2)にアミロースを結合させ第一トラップとし、残りの2つの流路(カラムFc3とカラムFc4)にストレプトアビジンを結合させ第二トラップとしたセンサチップを装着した(図12)。図13には、融合標的タンパク質Pin1およびこれと相互作用するタンパク質複合体が第一トラップ(Fc1とFc2)のアミロースに結合する過程をモニタした結果が示されている。Fc1およびFc2を溶離液で洗浄後、TEVプロテアーゼを含む溶液を導入して、第一トラップに結合したタンパク質複合体をマルトース結合タンパク質から切断すると同時に、これによって遊離したタンパク質複合体を第二トラップ(Fc3とFc4)に結合させた。TEVプロテアーゼによる切断と第二トラップへの結合の収率を上げるために、TEVプロテアーゼを含む2マイクロリットルの溶液を第一トラップと第二トラップ間に自動的にオシレーション(前後に反復させた)操作を行わせた。このオシレーション操作を30秒に1回行い、これを2時間繰り返した。図14はTEVプロテアーゼによる第一トラップ(Fc1とFc2)からのタンパク質複合体の解離と第二トラップ(Fc3とFc4)へのその結合をモニタした結果を示す。目的とするタンパク質複合体を第二トラップに結合させた後、第一トラップ及び試料導入部から排出部までの流路系を蟻酸で洗浄することにより、細胞抽出液由来の非特異的結合タンパク質を流路系から取り除いた。流路系から蟻酸を十分除去した後に、リジルエンドプロテアーゼ(LysC)を第二トラップに導入し、Pin1と相互作用するタンパク質複合体の構成タンパク質をペプチドに分解した。図15はプロテアーゼ分解をモニタした結果を示す。分解ペプチドを図11の電磁バルブ(E−バルブ)に送り、nano−LC−MS/MSシステムで自動的に分析することにより、タンパク質の同定を行った。その結果、58種類のタンパク質が同定された。Pin1なしのタグタンパク質だけの融合タンパク質で行った同様の実験結果と比較したところ、Pin1と相互作用するタンパク質複合体に特異的に含まれると考えられる24種類のタンパク質が存在した。
BIAcore(登録商標)装置を用いて標的タンパク質と相互作用するタンパク質複合体の二段階精製と酵素消化をBIAcore(登録商標)センサチップ上で行い、その消化物をオンラインでnano−LC−MS/MS(極微流量液体クロマトグラフィータンデム質量分析)装置(Natsume et al.,Anal.Chem.74:4725−4733,2002)で分析することにより、タンパク質複合体の構成成分を同定した。図11は、この実験に用いたシステムの模式図である。BIAcore(登録商標)装置とnano−LC−MS/MS装置をオンラインで連結させ、BIAcore(登録商標)センサチップ上でのタンパク質複合体の二段階アフィニティ精製とオンチッププロテアーゼ消化、そして、LC−MS/MS分析をオンラインで行った。この実施例では、標的タンパク質として細胞周期制御因子Pin1タンパク質を用い、これに第一タグとしてマルトース結合タンパク質、第二タグとしてビオチン化タンパク質、そして、粗回収のためのヒスチジンタグを付加させたものを標的融合タンパク質として生成させた。この標的融合タンパク質Pin1にはTEVプロテアーゼ切断部位を標的タンパク質とマルトース結合タンパク質の間に導入してある。この標的融合タンパク質をコードする遺伝子を遺伝子組み換え手法により作製し、大腸菌に導入して融合タンパク質を発現させ、これを精製して、以下の実験に用いた。
このようにして得られた融合標的タンパク質Pin1をヒト293EBNA細胞抽出液と混合し、Ni2+キレートカラムで粗回収したものを、上記のセンサチップをセットしたBIAcore(登録商標)装置に導入した。BIAcore(登録商標)装置には、市販のBIAcore(登録商標)センサチップ(research grade CM)の2つの流路(カラムFc1とカラムFc2)にアミロースを結合させ第一トラップとし、残りの2つの流路(カラムFc3とカラムFc4)にストレプトアビジンを結合させ第二トラップとしたセンサチップを装着した(図12)。図13には、融合標的タンパク質Pin1およびこれと相互作用するタンパク質複合体が第一トラップ(Fc1とFc2)のアミロースに結合する過程をモニタした結果が示されている。Fc1およびFc2を溶離液で洗浄後、TEVプロテアーゼを含む溶液を導入して、第一トラップに結合したタンパク質複合体をマルトース結合タンパク質から切断すると同時に、これによって遊離したタンパク質複合体を第二トラップ(Fc3とFc4)に結合させた。TEVプロテアーゼによる切断と第二トラップへの結合の収率を上げるために、TEVプロテアーゼを含む2マイクロリットルの溶液を第一トラップと第二トラップ間に自動的にオシレーション(前後に反復させた)操作を行わせた。このオシレーション操作を30秒に1回行い、これを2時間繰り返した。図14はTEVプロテアーゼによる第一トラップ(Fc1とFc2)からのタンパク質複合体の解離と第二トラップ(Fc3とFc4)へのその結合をモニタした結果を示す。目的とするタンパク質複合体を第二トラップに結合させた後、第一トラップ及び試料導入部から排出部までの流路系を蟻酸で洗浄することにより、細胞抽出液由来の非特異的結合タンパク質を流路系から取り除いた。流路系から蟻酸を十分除去した後に、リジルエンドプロテアーゼ(LysC)を第二トラップに導入し、Pin1と相互作用するタンパク質複合体の構成タンパク質をペプチドに分解した。図15はプロテアーゼ分解をモニタした結果を示す。分解ペプチドを図11の電磁バルブ(E−バルブ)に送り、nano−LC−MS/MSシステムで自動的に分析することにより、タンパク質の同定を行った。その結果、58種類のタンパク質が同定された。Pin1なしのタグタンパク質だけの融合タンパク質で行った同様の実験結果と比較したところ、Pin1と相互作用するタンパク質複合体に特異的に含まれると考えられる24種類のタンパク質が存在した。
Claims (13)
- 第一のトラップ、第二のトラップおよびこれらのトラップに液体を搬送し排出させるための流路を有するマイクロフルイディクスまたはナノフルイディクスを用いて、標的タンパク質と相互作用するタンパク質複合体を精製する方法であって、
(a)標的タンパク質と第一のタグと第二のタグとを含む融合タンパク質と、前記タンパク質複合体とを結合させ、
(b)前記第一のタグと結合しうる第一のアフィニティ担体を含有する第一のトラップにより前記標的タンパク質と前記タンパク質複合体を捕捉し、
(c)前記標的タンパク質と前記タンパク質複合体を第一のアフィニティ担体から分離し、
(d)前記第二のタグと結合しうる第二のアフィニティ担体を含有する第二のトラップにより前記標的タンパク質と前記タンパク質複合体を捕捉し、そして
(e)前記タンパク質複合体を第二のアフィニティ担体から分離する、
の各工程を含む方法。 - 第一のトラップ、第二のトラップおよびこれらのトラップに液体を搬送し排出させるための流路を有するマイクロフルイディクスまたはナノフルイディクスを用いて、標的タンパク質と相互作用するタンパク質複合体を精製する方法であって、
(a)第一の標的タンパク質と第一のタグとを含む融合タンパク質と、第二の標的タンパク質と第二のタグとを含む融合タンパク質と、前記タンパク質複合体とを結合させ、
(b)前記第一のタグと結合しうる第一のアフィニティ担体を含有する第一のトラップにより前記第一の標的タンパク質と前記タンパク質複合体を捕捉し、
(c)前記第一の標的タンパク質と前記タンパク質複合体を第一のアフィニティ担体から分離し、
(d)前記第二のタグと結合しうる第二のアフィニティ担体を含有する第二のトラップにより前記第二の標的タンパク質と前記タンパク質複合体を捕捉し、そして
(e)前記タンパク質複合体を第二のアフィニティ担体から分離する、
の各工程を含む方法。 - 工程(c)が、前記第一のタグと前記第一のアフィニティ担体との結合を解離させるか、または前記第一のタグと前記標的タンパク質との結合を切断することにより行われる、請求項1または2に記載の方法。
- 工程(e)が、前記第二のタグと前記第二のアフィニティ担体との結合を解離させるか、または前記第二のタグと前記標的タンパク質との結合を切断するか、または前記タンパク質複合体を分解することにより行われる、請求項1−3のいずれかに記載の方法。
- 前記融合タンパク質がさらに第三のタグを含有し、前記標的タンパク質と前記タンパク質複合体が第三のタグを利用したアフィニティクロマトグラフィにより濃縮されている、請求項1−4のいずれかに記載の方法。
- 工程(d)と(e)との間に、前記第一のトラップおよび流路に結合した夾雑物を除去する工程をさらに含む、請求項1−5のいずれかに記載の方法。
- 前記第一のトラップおよび/または前記第二のトラップにおける捕捉および分離がモニタされる、請求項1−6のいずれかに記載の方法。
- 第一のトラップ、第二のトラップおよびこれらのトラップに液体を搬送し排出させるための流路を有するマイクロフルイディクスまたはナノフルイディクスを用いて、標的タンパク質と相互作用するタンパク質複合体をアッセイする方法であって、
(a)標的タンパク質と第一のタグと第二のタグとを含む融合タンパク質と、前記タンパク質複合体とを結合させ、
(b)前記第一のタグと結合しうる第一のアフィニティ担体を含有する第一のトラップにより前記標的タンパク質と前記タンパク質複合体を捕捉し、
(c)前記標的タンパク質と前記タンパク質複合体を第一のアフィニティ担体から分離し、
(d)前記第二のタグと結合しうる第二のアフィニティ担体を含有する第二のトラップにより前記標的タンパク質と前記タンパク質複合体を捕捉し、
(e)前記タンパク質複合体を第二のアフィニティ担体から分離し、そして
(f)前記タンパク質複合体をアッセイする、
の各工程を含む方法。 - 第一のトラップ、第二のトラップおよびこれらのトラップに液体を搬送し排出させるための流路を有するマイクロフルイディクスまたはナノフルイディクスを用いて、標的タンパク質と相互作用するタンパク質複合体をアッセイする方法であって、
(a)第一の標的タンパク質と第一のタグとを含む融合タンパク質と、第二の標的タンパク質と第二のタグとを含む融合タンパク質と、前記タンパク質複合体とを結合させ、
(b)前記第一のタグと結合しうる第一のアフィニティ担体を含有する第一のトラップにより前記第一の標的タンパク質と前記タンパク質複合体を捕捉し、
(c)前記第一の標的タンパク質と前記タンパク質複合体を第一のアフィニティ担体から分離し、
(d)前記第二のタグと結合しうる第二のアフィニティ担体を含有する第二のトラップにより前記第二の標的タンパク質と前記タンパク質複合体を捕捉し、
(e)前記タンパク質複合体を第二のアフィニティ担体から分離し、そして
(f)前記タンパク質複合体をアッセイする、
の各工程を含む方法。 - 工程(e)が、前記タンパク質複合体をタンパク質分解酵素でペプチドに分解することにより行われ、工程(f)が分解によって生じたペプチドを分析することにより行われる、請求項8または9に記載の方法。
- 標的タンパク質と相互作用するタンパク質複合体を精製するための装置であって、
前記標的タンパク質中の第一のタグと結合しうる第一のアフィニティ担体を含有する第一のトラップと、
前記標的タンパク質中の第二のタグと結合しうる第二のアフィニティ担体を含有する第二のトラップと、
これらのトラップに液体を搬送し排出させるための流路と、
流路における液体の流れを制御する手段とを有し、
ここで、前記トラップおよび流路はマイクロフルイディクスまたはナノフルイディクス上に配置されており、
前記制御手段は、第一のトラップにより前記標的タンパク質と前記タンパク質複合体を捕捉させ、前記標的タンパク質と前記タンパク質複合体を第一のアフィニティ担体から分離し、第二のトラップにより前記標的タンパク質と前記タンパク質複合体を捕捉させ、そして前記タンパク質複合体を第二のアフィニティ担体から分離するように、流路における液体の流れを制御することを特徴とするタンパク質複合体精製装置。 - 前記制御手段が、第一および第二のトラップにおけるタンパク質およびタンパク質複合体の捕捉および分離をモニタする手段をさらに含む、請求項11記載のタンパク質複合体精製装置。
- 請求項11または12に記載の精製装置と、第二のアフィニティ担体から分離されたタンパク質複合体をアッセイする手段とを含む、タンパク質複合体アッセイ装置。
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