JPWO2002025526A1 - 開発医薬品の採算性評価システム - Google Patents
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Abstract
Description
本発明は、医薬品の研究開発の投資採算性を、リアルオプション法を利用して評価するシステムに関する。
背景技術
一般に、事業の正味現在価値(Net Present Value;以下、単にNPVという場合がある)がプラスになる投資を実施すれば、金銭的価値を創造することができる。しかし、企業における現実の投資決定の際には、様々なリスク要因を含む各種要素が考慮され、様々な投資決定基準が利用されている。以下に、実際に企業で用いられている投資決定基準について紹介する(ビジネスゼミナール「経営財務入門」井出正介、高橋文朗著、日本経済新聞社参照)。
まずキャッシュフローをベースにした考え方には、正味現在価値(NPV)法と内部収益率(Internal Rate of Return;以下、単にIRRという場合がある)法がある。
(1) 正味現在価値(NPV)法
NPV法とは、ある投資案件から、結果としてどれだけのリターンが生み出されるのかを表したものである。具体的には、正味現在価値は将来のリターンの現在価値から初期投資額を差し引いた金額を指す。正味現在価値がプラスであるということは、リスクを反映した機会費用(ディスカウント・レート)を使って割り引かれたキャッシュフローの現在価値が、当初の投資額を上回っていることである。また、ある投資案件(例えば、研究開発投資案件)からのリターンが、市場に存在するリスクを有する投資案件からのリターンよりも高いということは、ディスカウント・レートで運用するよりも、この投資(研究開発投資)を行う方が有利であるということを意味する。
しかしNPV法では、このディスカウント・レートを何%に設定するのかによって結論が変わってしまうこと、また将来のキャッシュフローの予測が難しく、楽観的予測と悲観的予測で大きな差が出てくる可能性がある点に注意する必要がある。
(2) 内部収益率(IRR)法
内部収益率とはNPVがゼロとなる割引率のことであり、この方法による投資決定では、いかなる投資案件でも、資本の機会費用、つまり会社の資本コストを超えるIRRが得られるならば採用することになる。IRRはパーセンテージ表示で簡単に比較することができるため、投資金額が一定限度に抑えられた中で最も有利なプロジェクトを見つける場合には良い方法といえる。但し、収益の規模に関係なく収益率で判断する方法であるため、投資金額にあまり制限がない場合には、必ずしも正しい結論を導くとはいえない。また、キャッシュフローを評価するタイミングによっては、NPV法と異なる結論が導かれることもある。
つぎに、簡易的に利益をベースとして長期的意志決定を行う、収益還元法とペイバック法について述べる。
(3) 収益還元法
収益還元法は、各事業年度の将来の予測利益、あるいは過去の同じような投資の平均実績利益をもとに、その投資によって獲得できる利益を予測し、これを一定の割引率で割り引くことによって現在価値を算出し、投資を実行するか否かの意志決定を行う方法である。しかし、長期にわたる将来的な利益を推定することは難しく、楽観的予測と悲観的予測で大きな差が出てくる可能性がある点に注意する必要がある。
(4) ペイバック(回収期間)法
ペイバック法は、投資案件の初期投資額が会社で定めた一定の期間内(カットオフ期間)に回収されるものだけに対して投資するという投資決定方法である。投資から将来得られると予測される利益の合計が初期投資額に等しくなるまでに要する期間のことを回収期間といい、この期間が会社で決められたカットオフ期間より短い投資案件だけに投資することになる。しかし、ペイバック法ではペイバック期間内の利益だけが考慮され、ペイバック期間後の利益については全く無視されている。また、利益を現在価値に割り引くことに関して考慮されていないといった問題点がある。ペイバック法は、わかりやすいというメリットがある反面、効果のある実質的な投資評価の視点からは、あまり望ましい方法とはいえない。
以上のような投資決定基準の中で、正味現在価値(NPV)法が、利益ではなくキャッシュフローを用いる点、及び投資の全期間のキャッシュフローを考慮する点において、他の方法と異なる長所を備えており、よって投資案件の評価は本方法に基づいて行われるべきであると考えられている。
しかし、このように他の方法に比較して優っていると考えられるNPV法であるが、例えば医薬品のように長期にわたる研究開発期間が必要な製品に関わる投資判断では、キャッシュフローや市場環境を遠い将来まで予測することは著しく困難である。そのため、NPV法では研究の戦略的価値を正確に捉えることができない可能性がある。長期間の枠の中で分析されるために、将来のプラスのキャッシュフローが大きく割り引かれてしまうからである。その結果、各種変動要因やリスクといった変数が正当に評価されない危険性がある。
これらの問題点を解決するために、最近、以下に述べるオプション分析の考え方が利用されるようになってきた(L.Trigeorgis,1996,“Real Options”,MIT Press参照)。
(5) リアルオプション法
一般に、投資機会を有している企業は、ある価値を持つ投資案件購入の対価としての資金を今の時点で支出するか、あるいは将来支出するかの選択肢(オプション)を持っている。すなわち、投資機会というのは経営上の複数のオプションである。
リアルオプションは、不確実な状況下で不可逆な意志決定を行う経済主体がその決定を先延ばしにできる自由度を示す数値である。つまり、不確実性の高い事業環境下で経営の持つ選択権(オプション)のことである。そして金融証券のオプションと同じように、リアルオプションは、ある特定の価格で資産を取得したり交換したりするための義務を伴わない、自由裁量の決定や権利を含んでいる。それら決定や権利とは、例えば、投資の延期、事業の拡張、契約の締結、施設の廃棄、あるいは利用方法を転換する決定や権利である。このような特徴を有するリアルオプション法は、さまざまな分野の投資案件の評価に応用することができる。それら分野として、例えば、新製品のR&Dプロジェクト、ベンチャー投資、自然資源事業投資、不動産開発投資、リース事業投資、M&Aなどの評価や政府の助成金と規制のマネジメントなどの多様な分野が挙げられる。
さて、リアルオプション法は金融オプションと異なり厳密には定義されておらず、また定式化されているものでもない。そのため、リアルオプション法を応用する場合には、評価対象となる投資案件にどのようなオプションが存在するかを確認することから始まる。
視点を換えると、適用する投資案件の分野でどのようなオプションが存在するか確認することにより、様々なリアルオプションの応用方法が生まれてくることになる。本発明においては、狭義のリアルオプションと広義のリアルオプションの2つに分けて考えていくこととする。ここで、狭義のリアルオプション法とは、金融オプションの評価に使用するオプション・プライシング理論を応用する方法である。例えばバイノミアルモデルや、ブラック・ショールズの式を利用してオプションの価値を算出する方法を示す。一方広義のリアルオプション法とは、従来のNPV法やディシジョンツリー分析などを用いて行う方法であり、必ずしもオプション・プライシング理論を使うことなくリアルオプションを評価しようとする方法である。こうした中、医薬品の研究開発の経済性評価に関連してリアルオプション法を採用している事例、参考文献は以下の通りである。
(1)Merck社(Diamond Harvard Business,April−May,1994.)、(2)Amgen社(Diamond Harvard Business,August−September,2000.)、(3)”Real Options Evaluation Pharmaceutical R&D:A new approach to financial project evaluation”,by Kerstin Bode−Greuel,MD,SCRIP Reports 17thFebruary,2000,PJB Publications Ltd、(4)Real Options Conference,“Real Options valuation in the information economy:Internet/High−Tech,R&D/Pharmaceuticals,Energy”,Cambridge UK,July 5−6,2000.
発明の開示
このように、最近NPV法に代わり利用されるようになってきたリアルオプション法ではあるが、その概念の歴史はまだ浅い。そのため、現時点では、依然として以下に示すいくつかの問題点が残っており、企業における研究開発等のプロジェクトの経済性評価等に適用するには限界がある。
1) モデルリスク
リアルオプション法においては、リアルオプションを設定した後評価モデルを構築する。このとき、評価対象の市場状況、競合状況、周辺環境などの情報が不十分な場合には、モデルの数学的基礎を固めることができないことがある。そうすると、不十分な情報に基づくモデルが示す解と理論上の解との乖離が生じ、よってモデルリスクが生じてしまう。医薬品開発のように長期にわたる複雑なケースでは、こうした誤差が生じることを認識しておく必要がある。
2) プライベートリスク
多くのリアルオプションの価値は、企業や組織に特有のリスク、すなわちプライベートリスクに大きく影響される。このプライベートリスクは企業独自の種々の活動、あるいは組織を構成している人員の能力の有無といった多様な要素を含む。リアルオプション法により意志決定を行う際に、プライベートリスクに過度にウエイトを置くと、数理モデル部分即ち客観的情報で構築されたモデル部分が過少に評価されることになる。そうすると、主観的要素により解が誘導されてしまい結局リアルオプションを算定する意味が失われてしまう。したがって最重要のプライベートリスクの原因に限って考慮に入れ、市場から得られる情報で評価できる主なリスクとのバランスをとることが必要になってくる。
3) ボラティリティ
ボラティリティ(変動率あるいは価格変動性)とは、金融オプションの取り引きで使われている言葉で、株価などが将来どの程度変動するかの予測幅を表している。ボラティリティが大きくなるとオプション価格も上昇する。一方、リアルオプション法においては、ボラティリティを評価プロジェクトごとにどのように設定していくのかということは、常に問題となる。過去に類似の自社プロジェクトが存在すればその設定も容易ではあるが、自社で未経験、さらには市場においても新規なプロジェクトである場合、どのようにボラティリティを設定すればよいのか、一般的なルールはない。そのため、得てしてプライベートリスクを含む恣意的な設定になってしまいがちであるが、そうすると代替性の不完全さの発生を避けることができず、予測に客観性が欠ける可能性が高くなる。
発明の概要
本発明者らは、従来のリアルオプション法を用いる場合の以上述べた1)および2)の問題点を解決することを目的として検討を重ねた結果、医薬品の研究開発から販売開始までの期間に複数の評価ポイントを設け、各ポイント毎に次の開発ステージへ進む場合の採算性を以下の二つのサブシステム:
1 データセット作成サブシステム
(1)販売額予測部
(2)経費予測部
(3)NPV算出部
(4)IRR算出部
(5)データセット記録部
2 経営指標算出サブシステム
(1)オプションの価値算出部
(2)プロジェクトの価値算出部
を統合したシステム(A)で予測することによって、市場環境、製品ポテンシャルの変動幅が大きな開発医薬品の経済性評価について、専門的知識を有しない者でも簡便に評価することができることを見出した。
更に本発明者等は、上述した3)に示した問題点を解決するために検討を進めたところ、上記システム(A)の1(1)〜(4)で求めた値の各変動幅を適宜選択しながら複数回シミュレーションする反復計算部を加え、この反復計算の結果得られるデータセットからボラティリティを求め、これを用いてブラック・ショールズの式に従がって演算しオプションの価値を算出するシステム(B)によれば、オペレーターの恣意性を排除し一層客観性を増した結果を得ることが可能となることを見出し、本発明を完成したものである。
具体的に、本発明の開発医薬品の採算性評価システム(A)は、データセット作成サブシステムと経営指標算出サブシステムとを有する。データセット作成サブシステムは、製品販売額を予測する販売額予測部、製造パラメータと営業パラメータから経費を予測する経費予測部、予測販売額と予測経費からキャッシュフローと正味現在価値を算出するNPV算出部、キャッシュフロー、予測投資額、及び成功確率から内部収益率を算出するIRR算出部、データセットを記録するデータセット記録部を有する。また、経営指標算出サブシステムは、データセット記録部のデータセットからオプションの価値を算出するオプションの価値算出部、及びオプションの価値から医薬品開発プロジェクトの価値を算出するプロジェクトの価値算出部とを有する。
更に本発明の開発医薬品の採算性評価システム(B)は、上記システム(A)のデータセット作成サブシステムの予測部及び算出部で求めた各値を所定の分布幅をもって変動させたデータを作成する反復計算部、及び反復計算部で作成されたデータセットを記録するデータセット記録部を有する。また、経営指標算出サブシステムにおいては、データセット記録部のデータセットからボラティリティを算出するボラティリティ算出部、算出されたボラティリティを用いてブラック・ショールズの式からオプションの価値を算出するオプションの価値算出部が、システム(A)に付加される。
本発明の開発医薬品の採算性評価システムは、長期にわたる医薬品の研究開発の投資採算性を各開発ステージ毎に予測することができるが、予測する際、客観的に算出される各開発ステージの正味現在価値(NPV)の変動幅から求めたボラティリティをリアルオプション法に適用するため、プライベートリスクが混入することがなく、客観性に優れた経営指標を提供できるものである。
発明を実施するための最良の形態
以下、添付図面を参照して本発明の好適な実施の形態を説明する。本発明の採算性評価システム10では、開発医薬品が販売開始されるまでの開発期間を複数の開発ステージに分け、次の開発ステージへ進むか否かを判断する時点を評価ポイントとして、次の開発ステージの採算性予測を行うことができる。開発期間には、さらに臨床開発以前の基礎研究段階も加えて、これを複数の開発ステージに分けることもできる。
図1は、本発明に係る「開発医薬品の採算性評価システム」10の全体を示す。この採算性評価システム10は、通常のコンピュータシステムと同様に、制御装置、演算装置、記憶装置、入力装置及び出力装置を備えたもので、データセット作成サブシステム100と、経営指標算出サブシステム200とで構成されている。
I.データセット作成サブシステム100
データセット作成サブシステム100は、販売額予測部110、経費予測部120、キャッシュフロー算出部130、IRR算出部140、及びデータセット記録部160を有する。以下、各部における処理の内容を説明する。
(1) 販売額予測部
販売額予測部110は、同一市場における競合が予想される当該品を含む開発医薬品が持つ製品力[i]と、カテゴリー市場、販売開始予定時期及び販売力を総合した市場パラメータ[ii]とを用いて製品シェア[iii]を導き出し、これに予測販売価格[iv]とを組み合わせて予測販売額[v]を算出する。販売額予測部110は、[i]から[v]の算出処理に対応して、製品力予測部111、市場パラメータ予測部112、製品シェア予測部113、販売価格予測部114及び販売額予測部115を有する。
[i] 製品力
本発明において製品力とは、開発医薬品に期待される薬効、副作用、利便性などのプロファイルをもとに、医療ニーズをどの程度満足させることができるかを推定して定める指標であり、本発明においては医療ニーズに対する未充足度を意味するUNS(Unmet Need Score:例えばDecision Resources Inc.DecisionBase IIIを参照)を用いて表す。したがって、UNSはこの値が低いほど良い(製品力の高い)製品を表す。
前臨床実験、臨床試験は、製品力を明らかにしてその製品が要求される基準より優れたものであるかを判断する材料を提供するものである。しかし、それらの材料を含む真の製品力は一義的には決まらない。ここでは、そのUNS分布が正規分布に従うものと仮定し、以下説明する。
更に本発明においては、製品力たるUNSに関して、悲観的予測を、最強の競合品(Gold Standard)と同等のUNSp(UNSgs)とする。そして、この水準を承認されるボーダーラインの品質と仮定し、臨床試験を含めた開発評価がGS以上の品質となる確率を、評価時点から販売開始予定時期までの各開発ステージの成功確率を積算した確率(販売開始まで通しの成功確率)とする。一方、楽観的予測を、正規分布の例えば右側5%のUNS(UNSo)を表すものとする。そうすると、例えば、前臨床等の開発早期段階にある開発医薬品において、販売開始までの成功確率が0.14と想定された場合では、悲観値と楽観値を正規分布の尺度で表すと、右側1.08 SD(SD:標準偏差)のところにUNSpがあり、1.96 SDのところにUNSoがある図2の確率分布となる。
また、開発後期段階にて成功確率が例えば0.76と想定される場合では、図3に示すように、成功確率分布のピークは悲観的UNSであるUNSpの右側に来る。このケースでは、悲観と楽観の予測以外に、最も可能性の高いと考えられる場合のUNS(最尤値)を加え、三点で開発医薬品の可能性を推定する方法を採用することができる。また、最尤値が正規分布の確率分布と大きく異なるケースでは、図4のような分布を仮定することが好ましい。
ここで求めた製品力は、下記の[ii]市場パラメータ、[iii]製品シェア、[iv]予測販売価格に影響する。
[ii] 市場パラメータ
本発明の市場パラメータとは、開発医薬品が参入する市場に関する基礎情報であり、患者数等のカテゴリー市場に関わる情報と、販売開始予定時期等の製品に関わる情報、販売力等の営業に関わる情報が挙げられる。
1) カテゴリー市場
投薬患者数は、潜在患者数に診断率と処方率とを掛けて求める。
カテゴリー市場予測に先立ち、まず疾患市場を細分化して当該カテゴリー市場を厳密に定義する。カテゴリーとは、例えば作用機序、改善する臨床症状の種類または有効率、副作用の種類または発現率、投薬経路、あるいは投与回数などで表される製品特性が類似する医薬品の集合である。その中でGold Standard(GS)を、当該カテゴリーだけでなく他のカテゴリーについても明確にする。
市場規模は、年間の延べ処方日分で表される。まず、疾患市場を分析し、各カテゴリー毎に患者一人当たりの処方日分を推定する。そして、これらすべてを総合した処方日分を、疾患の総市場とする。
その中で当該カテゴリー市場規模は、投薬患者数と患者一人当たりの処方日分と当該カテゴリーのカテゴリーシェア(後述)の積として計算される。市場規模の変動パターンは、正規分布等となる。
以上の方法でカテゴリー市場規模(処方日分)が求められるが、これから更にカテゴリー市場を金額ベースで求める場合は、これに当該カテゴリー市場の平均価格を掛け合わせる。
なお、カテゴリー市場の金額ベースのデータがデータベースにあれば、これから販売開始予定時期以降の市場を予測することも可能であり、この場合にも、金額市場を投薬患者数、処方日分、平均価格に分解し、それぞれのパラメータの販売開始予定時期以降の予測を行って、カテゴリー市場を推定する。
(i)予測式(数式1)
(ii)投薬患者数(α)
販売開始年からj年目の当該疾患の潜在患者数をPj、診断率をAj、処方率をBjとすると、投薬患者数(Nj)は、以下の数式2で与えられる。
(iii)年平均処方日分(β)
年平均処方日分は、平均的な患者が1年間に処方される当該疾患治療薬の延べ日分であるが、これは当然年度により異なる。しかし、カテゴリーの盛衰はあるとしても経時的に変化が少ないものとして、一番新しい市場統計書等のデータを用いて推定する。
当該疾患治療薬の、カテゴリーiの処方患者一人当たりの直近の年平均処方日分をUiとすると、当該疾患を患う患者に使われる総カテゴリーの年平均処方日分の平均値(V)は、次の数式3で与えられる。
ここで、nは対象市場における総カテゴリー数。
(iv)カテゴリーシェア(γ)
あるカテゴリーiのj年度の競争力(Cij)は、当該疾患市場で最も競争力の低いカテゴリーの代表製品のUNSをUNSA、カテゴリーiのゴールドスタンダードのUNSをUNSiとして、次の数式4によって計算する。
ただし、aijは、自社品を含めた新しいカテゴリーの普及率を表し、例えば、そのカテゴリーの最初の薬が販売開始されてから直線的に増加し、例えば10年で飽和レベルに達するものとする。また、この係数aijは、自社品の販売開始時期に飽和点に達しているカテゴリーでは1とする。したがって、当該カテゴリーの最初の製品が販売開始されてからm年目の係数aimは10年目までは0.1*m、10年目以降は1.0とすることができる。
当該カテゴリーtのj年目のカテゴリーシェア(Stj)は、次の数式5から計算する。
(v)処方日分ベースのカテゴリー市場規模
自社品の販売開始j年目のカテゴリー市場規模(CMtj)は、次の数式6から計算する。
(vi)金額ベースのカテゴリー市場規模
金額ベースのカテゴリー市場規模は、処方日分ベースのカテゴリー市場規模に、そのカテゴリー市場のj年度の平均価格をかけて求める。
2) 販売開始予定時期
製品シェア算出のための基礎情報として、開発医薬品が製品として販売開始される予定時期を、経験から推定する。楽観値、悲観値の二つの販売開始時期を、箱型分布として想定することもできる。
3) 販売力
製品シェア算出のための基礎情報として、販売力を、販売開始予定時期の営業力、例えば医薬情報担当者(MR)の推定人数とすることができる。推定が困難な場合には、評価ポイントにおける現在人数を採用してもよい。
[iii] 製品シェア
当該カテゴリー市場への参入が予想される競合会社の開発医薬品を明確にし、それらのUNS、販売開始予定時期を予測する。販売開始時期の予測には、世界的な標準開発時間を適用する。
開発医薬品が前臨床段階にある場合、同一カテゴリーにおける競合化合物が分からないかプロファイルが不明の場合が多い。このような場合には、「不測の競合品」としていくつかの開発医薬品を抽象的に仮定することができる。この場合には、他社の戦略等を勘案して決める。
自社並びに競合会社の開発医薬品がトップシェアに達するとき(標準では販売開始後4年目)の市場競争力(総合競争力)を、開発医薬品のUNS、販売開始予定時期(一番手からの年月数の後れ)、販売力(販売開始時の自社並びに競合会社のMR数等)の3つから計算する。マーケットシェアは市場競争力(総合競争力)の比として計算される。
市場における当該開発医薬品のマーケットシェアの経年変化は、一定のパターンを描いて上昇し、トップシェアに達した後特許切れまでは一定とし、その後急速に低下するものとする。
1)製品競争力
製品競争力は、開発医薬品の製品力の相対値として次のように算出される。
例えば、以下の説明では、当該カテゴリー市場を構成するk番目の製品のUNSをUNSkとし、そのカテゴリーにおける最も評価の低い開発医薬品のUNSをUNSmとする。ピークシェアに達する年(p)のそのk番目製品の製品競争力(Dkp)を、次の数式7のように計算する。
2)総合競争力
総合競争力は、製品競争力、製品の販売開始予定時期、販売力、およびピークシェアに立ち上げる年数から、次のように算出される。
例えば、以下の説明では、k番目の製品の販売開始予定年をTk、カテゴリーの最初の製品が販売開始される年度をTo、k番目製品に係る販売力をMRk(販社のMR数等)とすると、
発売後j年度のkの総合競争力(Wkj)は次の数式8のようになる。
x=Tk−Toとして、f(x)は、x=0のとき最大で1、x=6で0.2となる関数である。
f(x)=0.00021x5−0.00116x4−0.00176x3−0.00794x2−0.04277x+1.00049
(ただし、0≦x≦6)
f(x)=0.2(ただし、6<x)
また、MRkを示すg(x)は例えば、MR数から計算される販売力の指数で、2000人以上の場合1.0に収束する関数である。
g(x)=−2.034E(−07)x2+8.705E(−04)x+6.868E(−02) (ただし、0<x≦2,000)
g(x)=1.0(ただし、2,000<x)
h(j,p)は製品立ち上げパターンを示し、発売からピークシェアに立ち上げる年数をp年とし発売後j年度では、次のようになる関数である。
h(j,p)=(−0.476*p2+6.791*p−26.29)*(p−j)2+100(ただし、j≦p)
h(j,p)=100 (ただし、j>p)
3)各年度のマーケットシェア
製品kのj年度におけるマーケットシェア(MSkj)は、次の数式(9)により算出される。
4)処方日分による予測販売量
当該開発医薬品yのj年度の予測販売量(SALyj)は、[ii]1)で求めたその年のカテゴリー市場規模と上記2)および3)で求めたその年のマーケットシェアから、次の数式10に従がって求められる。
[iv] 予測販売価格
参照薬や、近接または類似市場のGSを参照品として、販売開始予定時期での開発医薬品の一日価格(PR)を、経験的に予測する。ここで当該品のj年度の一日価格を「PRyj」と表す。
当該品のUNSの悲観値と楽観値に応じて価格の悲観値、楽観値を別々に予測する場合もある。また、価格の年変動率を設定することもできる。
[v] 予測販売額
販売額は処方日分として、販売開始以降の各年度で予測をすることができる。これはカテゴリー市場規模(処方日分)にマーケットシェアをかけて求める。
必要に応じて、特許期間による補正を加えることもできる。例えば、販売額が、特許満了後3年間で特許満了時の10%ないし50%まで直線的に低下する等である。
金額ベースの予測販売額は、各年度の予測販売額(処方日分)に各年度の販売価格をかけて算出する。
処方日分ベースでの予測販売量(SALyj)と一日価格(PRyj)から、発売j年度の金額ベースの予測販売額(Salyj)を次の数式11のようにする。
(2) 経費予測部
販売開始以降の経費を予測する経費予測部120は、一日あたりの投与量を考慮した製造コスト等からなる製造パラメータ[i]と、直接経費、プロモーションコスト、市販後調査の費用等を総合した販売コスト等からなる営業パラメータ[ii]との総和によって、予測経費[iii]を算出する。経費額予測部120は、[i]から[iii]の算出処理に対応して、製造パラメータ予測部121、営業パラメータ予測部122及び経費演算部123を有する。
[i] 製造パラメータ
製造パラメータのうち製造コストは、対象となる開発医薬品の予測販売量に、1日あたりの投与量を乗じて製造量を求め、これに経験的に求めた製造単価を乗じて算出する。
1日あたりの投与量は、経験的な範囲内で変動幅を設定するが、楽観値、中間値および悲観値の三つの用量からなる箱型分布を想定することもできる。例えば、10mg、20mg、40mgとし、それぞれに0.25、0.5、0.25の確率を設定する等とする。
また、製造単価も、経験的な範囲内で変動幅を設定し、楽観値、中間値および悲観値の三つの値からなる箱型分布を想定することもできる。例えば10mg錠あたり¥50、¥75、¥100とし、それぞれに0.3、0.4、0.3の確率を設定する等とする。
[ii] 営業パラメータ
1)直接経費
販売費および一般管理費から下記のプロモーションコスト、市販後調査費用を除いた経費である。
2)プロモーションコスト
宣伝費(学術宣伝費、一般宣伝費)、研究会費、試用医薬品費用等である。
3)市販後調査費用
市販後調査とは発売後に長期連続投与および他薬剤との併用による副作用等を観察することであるが、これに要する費用である。
4)その他の諸経費
上記の他、関連する経費を必要に応じて営業パラメータに算入することができる。例えば、アウトカムスタディー費用、他社権利の実施許諾を受けることに伴うロイヤリティ等である。ロイヤリティの変動は、例えば正規分布のパターンを想定することができる。
[iii] 予測経費
製造パラメータ[i]と営業パラメータ[ii]の和を予測経費とする。
(3) キャッシュフロー算出部
キャッシュフロー算出部130は、NPV算出部131を有する。NPV算出部131では、先ず上記(1)[v]で算出した予測販売額と(2)[iii]で算出した予測経費とからキャッシュフロー[i]を算出し、これに割引率を掛け合わせて販売開始予定時期のNPV[ii]を求める。
[i] キャッシュフロー
各年の予測販売額、予測経費、税金等を用い、一般的な方法に従って単年キャッシュフローを評価期間について求める。評価期間とは、開発医薬品の現在価値を認めうる期間であり、例えば販売開始予定時期から特許満了後三年までの期間とする。
必要に応じて、為替レートの変動を考慮に入れることが好ましい。この為替レートは、経験則に基づき標準偏差が例えば5〜20%の正規分布である長期為替レートを想定することができる。
[ii] NPV
上記で得られたキャッシュフローを一定の割引率で販売開始予定時期まで割り引き、販売開始予定時期のNPVを算出することができる。本発明における割引率は、任意に設定することができ、例えば10%などである。
(4) IRR算出部
IRR算出部140は、上記(3)[i]で算出したキャッシュフローと予測投資額[i]に、開発ステージの成功確率[ii]を加味し、IRR[iii]を算出する。
[i] 予測投資額
予測投資額は、販売開始までの開発期間に複数設けた評価ポイント間の、各開発ステージにおける予測開発費と予測設備投資額からなり、さらに必要に応じて予測開発一時金が加算される。
予測開発費は経験値から推定されるが、例えば開発過程の症例数、工数、期間を元に、臨床試験に要する患者一人当りの単価コストを乗じて算出する。
予測設備投資額は、予測販売量に応じて必要な設備規模を予測して算出される。
予測開発一時金とは、例えば、他社権利の実施許諾を受けることに伴い発生するマイルストン支払金などをいう。
予測開発費と予測開発一時金については、投資に伴う税金額の減少も考慮に入れることができる。
[ii] 成功確率
各開発ステージにおいて開発医薬品が満たすべきパフォーマンスが科学的に実証され、次開発ステージへ移行可能となる確率をその開発ステージの成功確率とする。
各開発ステージの成功確率は、開発医薬品の特性、直近までの科学的データなどを考慮して経験的な値を設定する。たとえば、臨床開発段階の成功確率に関する解説は、FDA Consumer,Special Issue,From Test Tube To Patient:New Drug Development in United States,Second edition Jan.1995(http://www.fda.gov/fdac/special/newdrug/ndd_toc.html,http://www.fda.gov/fdac/special/newdrug/testing.html)などに紹介されている。
開発ステージが1からn−1まで想定される場合、販売開始まで通しの成功確率Pは次の数式12から求められる。
[iii] IRR
以下の数式13を満たす割引率rをIRRとする。
ここで、
T:評価時点から販売開始予定時期までの期間(年)
Pi:評価時点からi年後に投資が発生する確率、すなわち評価時点からi年後の開発ステージがkのとき、
Pi=P1*P2*・・・*Pk−1
Ii:評価時点からi年後の予測投資額
Te:キャッシュフローを評価する発売開始予定時期からの期間(年)
P:評価時点から販売開始まで通しの成功確率
CFi:評価時点からi年後のキャッシュフロー
以上述べたように、各予測部および算出部で求めたパラメータには、それぞれの値が所定の連続する確率分布で与えられるもの、楽観値・悲観値の二点で与えられるもの、あるいは特定値で与えられるものがある。後に説明する本発明の採算性評価システム(B)では、これらのパラメータの値をそれぞれ想定した分布に従いランダムに変動させて想定しうる条件、事態を加味したシミュレーションを行い、次の経営指標の算出に用いることが出来るため、この過程に評価者の恣意が介入する余地はない。しかし、ここで説明しているシステム(A)においては、これらのパラメータの値を評価者が任意に選択してデータセットを決め、経営指標の算出に用いることができる。そのためシステム(A)では、評価者は各パラメータが採算性に与える影響を確認しながら、開発ステージを評価することが出来る。
(5) データセット記録部
データセット記録部160は、上述した販売額予測部110、経費予測部120、キャッシュフロー算出部130、IRR算出部140、およびそれらの計算に利用されたすべてのデータを保存する。このデータセット記録部160には、情報を磁気的、光学的、その他の手法によって媒体(例えば、磁気ディスク、光学ディスク)に記録し又媒体に記録されている情報を読み出すことができるすべての記録装置が利用可能である。
II. 経営指標算出サブシステム
まず、広義のリアルオプション法を利用する、本発明に係る採算性評価システム(A)について述べる。
経営指標算出サブシステム200は、オプションの価値算出部202及びプロジェクトの価値算出部203を備えており、データセット作成サブシステム100で作成されたデータセットを用い、評価時点における開発医薬品の経営指標を、リアルオプション法を応用して算出する。具体的に、サブシステム200は、例えばデータセットから経営指標とする開発医薬品のオプションの価値、プロジェクトの価値を得る。
(1)オプションの価値算出部
オプションの価値算出部202は、投機手段としてのオプションの考え方を研究開発に適用し、開発ステージiにおけるオプションの価値(Ci)を下式から算出する。
ここで、
:販売開始予定時期のNPVの評価時点における期待価値
:次次開発ステージ以降販売開始予定時期までの投資額の評価時点における期待価値
ただし、販売開始を開発ステージnと考え、
NPV:販売開始予定時期のNPV
Pi:開発ステージiの成功確率
Ti:開発ステージiの期間
Ii:開発ステージiの予測投資額
rf:無リスク利子率
(2) プロジェクトの価値算出部
このときのプロジェクトの現在価値(Pr)は、次の数式15で表される。
ここで、Il:次開発ステージの予測投資額である。
次開発ステージへの投資判断は、プロジェクトの価値が正の数値の場合にはGOであり、負の数値の場合はNO GOとなる。IRR、販売開始予定時期のNPVは複数のプロジェクトの経済性を比較検討するための参考情報となる。
以上の手順を辿れば、広義のリアルオプション法を利用する、本発明に係る採算性評価システム(A)を実施することができる。
実施に当っては、市販の表計算ソフトなどに前述の各演算式を予め組み入れておくことにより、幾つかのパラメータを入力すれば評価結果を直ちに得ることができる。例えば、Microsoft Excel(Microsoft社)を利用して本発明の採算性評価システム(A)を実施することができる。
本発明のシステムは、例えば個々のパーソナルコンピュータに搭載してもよく、またネットワークサーバに搭載してもよい。パーソナルコンピュータに搭載すれば、例えば本システムを利用した評価会議において、会議参加メンバーがそれぞれに持ち寄ったデータをその場で入力し、計算を行うことができる。同時に計算結果の吟味も行え、前提条件、インプットデータの妥当性を検証していくことが可能となるため、評価会議を迅速に、かつ効率的に運用していくことができる。また、社内の評価会議に限らず、ライセンス交渉の場でも本発明のシステムは極めて有用である。すなわち、交渉会議の場で迅速にお互いのライセンス条件の妥当性を評価することが可能となり、交渉時間の短縮化を図ることができる。
一方、ネットワークサーバに搭載した場合には、例えば本システムを利用した電子会議システムにおいて、会議参加メンバーに自由に複数のインプットデータを入力させて計算することも可能となる。後で入力されたインプットデータを解析することで、個別のプロジェクトの特徴を分析することができ、類似課題の評価計算にも反映させていくことができる。
III. 採算性評価システム(B)
以上の手順により本発明の採算性評価システム(A)を行うことができるが、評価をより厳密、かつボラティリティの設定において恣意性を排して狭義のリアルオプション法を行う場合には、以下に説明する採算性評価システム(B)を用いることができる。
(1) モンテカルロシミュレーション
図5は、本発明のシステム(B)の全体を示す。このシステム(B)もまた、基本的にはデータセット作成サブシステム100と、経営指標算出サブシステム200とで構成されている。
しかし、システム(B)では、システム(A)の1(1)〜(4)で求めた各値(UNS、販売開始予定時期、予測販売価格、1日当たりの投与量、製造単価、ロイヤリティ、為替レート等)をその分布幅にしたがってモンテカルロ法を用いてシミュレーションする。
これにより、すべてのパラメータをそのパラメータが持つ固有の分布幅で値を変動させて求めるデータセット(a)を得ることができるが、例えば製品力(UNS)を固定して他のパラメータの値をランダムに変動させて求めるデータセット(b)、または、あるパラメータのみを変動させて求めるデータセット(c)を得ることも、多岐にわたる解析を行う際に便宜である。
シミュレーションの反復回数に特に制限は無いが、許容できる処理時間のなかで満足のいく結果の収束度を得られる回数を行うことが好ましく、例えば100回以上、500回以上行うことが好ましい。
このようにして得られるデータセット(a)の一例を表1に示す。
なお、反復計算は、上記のとおり各値をすべて算出した後に行うことも可能であるが、任意に選択した値、例えばUNS値をその分布幅で単独に反復計算し、次いでその各解から他のパラメータを算出してデータセットとすることもできる。
(2) ボラティリティ算出部
システム(B)においては、経営指標算出サブシステム200は、NPVボラティリティ算出部201、オプションの価値算出部202及びプロジェクトの価値算出部203を備えており、データセット作成サブシステム100で作成された各データセット(a)ないし(c)のいずれかを用い、評価時点における開発医薬品の経営指標を、リアルオプション法を応用して算出する。具体的に、サブシステム200は、例えばデータセット(a)から販売開始予定時期のNPVの変動幅、ならびに販売開始予定時期までの期間などからボラティリティを設定し、株式のコールオプションに使われるブラック・ショールズの式より、経営指標とする開発医薬品のオプションの価値、プロジェクトの価値を得る。
株式のコールオプションや投資評価におけるパラメータと本発明のシステムにおけるパラメータとの対応関係を以下の表2に示す。
これらの変数を後述するブラック・ショールズの式に代入することによって、各経営指標を算出することができる。
ボラティリティ算出部201はボラティリティ(σ)を算出する。ところで、本発明のシステム(B)では、後述するオプションの価値を算出するブラック・ショールズの式に、ボラティリティ(σ)としてNPVの変動幅を用いている。前記した反復計算1000回のシミュレーションから求められたNPVの分布は、例えは図6のようになる。
この時、NPVの年平均標準偏差(SD)は次の数式16で表される。
ここで、
SDNPV:販売開始予定時期のNPVの標準偏差
T:評価時点から販売開始予定時期までの期間(年)
また、このNPVの年平均標準偏差(SD)の、NPVの期待現在価値平均値(NPVn)に対する割合をボラティリティ(σ)とする。このボラティリティ(σ)は次の数式17で与えられる。
ここで、NPVnは次の数式18より求める。
ここで、
NPVl:販売開始予定時期の期待平均NPV
rf:無リスク利子率
T:評価時点から販売開始予定時期までの期間(年)
従来のリアルオプション法においては、上記ボラティリティの値として、ヒストリカル・ボラティリティ、フォーキャスト・ボラティリティ、シーズナル・ボラティリティ等を用いることとされ(前出の”Real Options Evaluation Pharmaceutical R&D:A new approach to financial project evaluation”)、そのためにプライベートリスクが混入し客観性に乏しい結果を招く問題点があった。本発明のシステムでは、NPVの変動幅からボラティリティを求めることによって、上記の問題点を解決している。
(3) オプションの価値算出部
オプションの価値算出部202は、上記ボラティリティ算出部201で求めたボラティリティ(σ)を用いてオプションの価値を算出する。
具体的に説明すると、本発明におけるオプションの価値は、前記した定義に従って一義的に決定されるボラティリティを用いて、後述の方法で計算されるが、その大きさは、(i)投資とリターンの比(S/X)が大きいほど大きく、また(ii)ボラティリティが大きいほど大きい。(ii)の意味は、従来よく言われていた、開発医薬品が大化けする可能性を正当に評価するものである。市場規模や開発医薬品競争力の評価の幅を平均値として処理せず、積極的な面を評価し、消極的な面が出たときには投資をしないという考え方が根底にある。通常の予測ではS/Xが十分大きく、ボラティリティの影響はさほど大きくない。ボラティリティがオプションの価値に大きく影響を与えるのは、S/Xが1に近づく場合で、投資に比べてリターンがあまり大きくないケースである。そのような場合にはリアルオプション法で計算するとプラスになるがNPV法ではマイナスになるケースもあり、結論が逆転することがある。プロジェクトの将来の不確実性に対応した潜在価値を正当に評価するという意味では、リアルオプション法がより適切な方法といえる。
開発プロジェクトの優先順位付けに使われるのはプロジェクトの現在価値であるが、当該開発ステージが進行している状態ではその開発ステージ開始時のプロジェクトの現在価値でよい。あるプロジェクトのある開発ステージにおける開発の付加価値は、その開発ステージ開始時と次開発ステージ開始時のプロジェクトの現在価値の差として表現される。
次開発ステージ開始時に、GOのオプションを選択した時のオプションの価値(C)は、先に求めたボラティリティ(σ)を使って、次に示すブラック・ショールズの式(数式19)より求めることができる。
ここで、
S:販売開始予定時期のNPVの次開発ステージ開始時における期待現在価値
X:次々開発ステージ以降の期待投資額の現在価値
rf:無リスク利子率
t:次開発ステージの期間
σ:販売開始予定時期のNPVの年標準偏差/販売開始予定時期の期待平均NPVの現在価値
N(d):標準正規分布の累積密度関数
なお、Xは次の数式20より求める。
ここで、
P1〜Pn:次開発ステージ以降の各開発ステージの成功確率
I2〜In:次々開発ステージ以降の各開発ステージにおける予測投資額
rf:無リスク利子率
t2〜tn:次々開発ステージ以降の各開発ステージにおける期間(年)
以上で求めたオプションの価値を用いてプロジェクトの価値を算出する方法は、前述したとおりである。
また、プロジェクトの現在価値(Pr)が正の数値のケースをカウントし、そのシミュレーションのデータセット全体における割合(経済性成功確率)を求めることで、当該医薬品開発全体の経済的なリスクを知る指標とすることができる。
一つのパラメータのみを変動させ他のパラメータを平均値で固定することによって得られたデータセット(c)より、例えばNPVの変動等の結果に及ぼす各パラメータの感度分析を行うことが好ましい。感度分析で得られた結果は、目的とする開発医薬品の評価に重要なリスク要因の特定に用いることもできる。
例えば、市場規模や開発医薬品のUNS等を独立に変化させ、NPVの分布の様子、各要因のNPV変動への寄与率を1000回のシミュレーションより求めた一例を図7に示す。ここで、各変動要因が独立の場合、全ての要因を同時に変化させた場合のNPVの変動(SD2 T)と、各要因を単独で変化(他の要因は平均値に固定)させた場合のNPVの変動(SD2 市場規模,SD2 UNS、...)との間には次の数式21が成り立つ。
従って、各要因の、NPVの変動への寄与率は次の数式22で求めることができる(図7参照)。
【図面の簡単な説明】
図1は、本発明の採算性評価システム(A)の概要の一例を示す。
図2は、本発明の採算性評価システムに係るデータセット作成システムにおける製品力の確率分布の一例を示す。
図3は、本発明の採算性評価システムに係るデータセット作成システムにおける製品力の確率分布の一例を示す。
図4は、本発明の採算性評価システムに係るデータセット作成システムにおける製品力の確率分布の一例を示す。
図5は、本発明の採算性評価システム(B)の概要の一例を示す。
図6は、本発明の採算性評価システムに係るデータセット作成システムで求められるNPVの分布の一例を示す。
図7は、本発明の採算性評価システムにおける、NPVの変動に及ぼす各パラメータの寄与率の一例を示す。
Claims (8)
- データセット作成サブシステムと経営指標算出サブシステムとを備え、
データセット作成サブシステムは、
製品販売額を予測する販売額予測部、
経費を予測する経費予測部、
予測販売額と予測経費からキャッシュフローと正味現在価値を算出するNPV算出部、
キャッシュフロー、予測投資額、及び成功確率から内部収益率を算出するIRR算出部、
これらの予測部及び算出部で求めた各値を記録するデータセット記録部を有し、
経営指標算出サブシステムは、
データセット記録部のデータセットからオプションの価値を算出するオプションの価値算出部及び
オプションの価値から医薬品開発プロジェクトの価値を算出するプロジェクトの価値算出部とを有することを特徴とする開発医薬品の採算性評価システム。 - データセット作成サブシステムと経営指標算出サブシステムとを備え、
データセット作成サブシステムは、
製品販売額を予測する販売額予測部、
経費を予測する経費予測部、
予測販売額と予測経費からキャッシュフローと正味現在価値を算出するNPV算出部、
キャッシュフロー、予測投資額、及び成功確率から内部収益率を算出するIRR算出部、
これらの予測部及び算出部で求めた各値を所定の分布幅をもって変動させたデータセットを作成する反復計算部及び
反復計算部で作成されたデータセットを記録するデータセット記録部を有し、
経営指標算出サブシステムは、
データセット記録部のデータセットからボラティリティを算出するボラティリティ算出部、
算出されたボラティリティを用いてオプションの価値を算出するオプションの価値算出部、及び
オプションの価値から医薬品開発プロジェクトの価値を算出するプロジェクトの価値算出部とを有することを特徴とする開発医薬品の採算性評価システム。 - オプションの価値算出部において、先行して算出されたボラティリティを用いてブラック・ショールズ(Black−Sholes)の式からオプションの価値を算出することを特徴とする、
請求項2に記載の開発医薬品の採算性評価システム。 - 正味現在価値の変動幅からボラティリティを算出することを特徴とする、
請求項2乃至請求項3に記載の開発医薬品の採算性評価システム。 - 反復計算部において、すべての値をその値が持つ固有の分布幅で変動させてデータセットを作成することを特徴とする、請求項2乃至請求項4に記載の開発医薬品の採算性評価システム。
- 反復計算部において、少なくとも一つ以上の値を固定し、その他の値をその値が持つ固有の分布幅で変動させてデータセットを作成することを特徴とする、
請求項2乃至請求項4に記載の開発医薬品の採算性評価システム。 - 経費予測部において、経費が製造パラメータ及び営業パラメータから予測されることを特徴とする、
請求項1乃至請求項6に記載の開発医薬品の採算性評価システム。 - 販売額予測部において、販売額が少なくとも製品力から予測されることを特徴とする、
請求項1乃至請求項6に記載の開発医薬品の採算性評価システム。
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