【発明の詳細な説明】
BRACON HEBETORからの殺虫性トキシン発明の分野
本発明は、スズメバチ毒液から単離された、殺虫特性を示すトキシンに関する
。より詳細には、本発明は、スズメバチBracon hebetor、および
Bracon属の他の種から単離され、特定の害虫に及ぼす神経毒効果を特徴と
する、殺虫効果を有するトキシンに関する。発明の背景
昆虫は、食料および繊維源についての人類の最も重大な競合者のひとつである
。毎年、世界中の農業生産の約3分の1が昆虫損害により失われている。シロア
リおよびオオアリ等の昆虫は、毎年数百万ドルの構造物損害を生ずる。多くの深
刻なヒトおよび動物の疾患、例えば、マラリア、黄熱病、眠り病、ウイルス性脳
炎および疫病は、昆虫により伝播される。害虫を防除(control)する努
力は、年商約60億ドルの世界的殺虫剤産業の発展をもたらしてきた。これらの
製品のほとんどは、合成化学神経毒、例えば塩素化炭化水素(例えばDDT)、
カルバメート類(例えばカルバリール)、有機リン酸(例えばマラチオン)、お
よび合成ピレスロイド類(例えばシペルメスリン)である。顕著であるが比較的
重要性の低い化学殺虫剤には、昆虫成長制御剤(例えばジフルベンズロンおよび
メトプレン)および代謝分裂剤(例えばヒドロキシメチルノン)が含まれる。
合成化学殺虫剤は、広範な農業、都会および公衆衛生の状況において害虫を防
除するのに有効である。残念ながら、これらの製品の使用には、顕著な、しばし
ば深刻な副作用が伴う。多くの害虫集団は、事実上すべての化学殺虫剤に対する
有意な耐性を発達させてきており、防除の継続のためにはますます高い使用率が
必要である。多くの深刻な場合には、高度に耐性の害虫集団が発達し、これは入
手可能な製品のいずれによっても防除することができない。化学殺虫剤はまた、
非標的生物に対して有害な影響を有することがある。有益な節足動物、例えば補
食動物および寄生動物の集団は、化学殺虫剤の適用により時には害虫それ自体よ
りもより深刻な影響を受ける。通常はそれらの有益な生物により抑制されている
主要ではない害虫は、化学殺虫剤の使用によりそれらの天然の束縛が除かれたと
き、深刻な害虫になりうる。すなわち、確立された問題を解決する試みにより、
新たな害虫問題が発生しうる。
化学殺虫剤はまた、脊椎動物に有害な影響を有するかもしれない。DDTの使
用は、主として殺虫剤の高い環境持続性、およびその結果として食肉鳥の組織中
に蓄積する傾向があり、このことにより生存可能な卵を産む能力を破壊するため
、米国では禁止されてきた。カルボフランの使用は、その鳥類毒性のため厳しく
制限されてきており、魚類の多くの種が種々の殺虫剤に対してきわめて感受性で
あることが知られている。多くの殺虫剤、例えばメチルパラチオンはまた、ヒト
および他の哺乳動物に非常に毒性であり、事故または誤用により、多くのヒトの
中毒の発生をもたらしてきた。明らかに、昆虫防除の分野は、改良された昆虫の
選択性および非標的生物への低下した影響を有する殺虫剤の発見により大きな利
益を得るであろう。
上述の問題、ならびにいくつかの殺虫剤がヒトの発癌物質として作用しうると
いう可能性を含む他の問題は、より安全な昆虫防除の方法の開発に対する強い要
求を生み出してきた。培養および生物学的方法に頼ることにより化学殺虫剤の環
境に対する有害な影響を最小限にすることを求める集積害虫防除(integr
ated pest management;IPM)の実施は、この要求に対
する1つの答えである。しかし、IPMの成功は、化学殺虫剤の有効な生物学的
代替物がないため、希望されたものより小さかった。これらの代替物は害虫勃発
の頻度および重大性を低下させ、殺虫剤耐性害虫集団の発達を遅延させることが
できるため、IPMプログラムの成功にはそれらが入手可能であることが決定的
である。
昆虫病原体は、潜在的害虫防除薬剤として多くの研究の目的であった。一般に
、これらの病原体は昆虫にきわめて選択的であり、多くの場合に、密接に関連し
たわずかな種の昆虫のみに影響する。多くの昆虫病原体が製品として開発されて
おり、これには、細菌(例えばBacillus thuringiensis
およびBacillus popiliae)、ウイルス(例えば核多角体病ウ
イルス群)およびプロトゾア(例えば微胞子虫Nosema locustae
)
が含まれる。しかし、これらの製品は、主としてその比較的遅い作用のため、殺
虫剤市場の小さい部分を占めるにすぎない。病原体は究極的には害虫集団におい
て高レベルの死亡率を引き起こすが、昆虫が死亡するのには数週間を要し、昆虫
はその間のほとんど摂食を続ける。すなわち、防除が達成される前に、許容しえ
ないほど高レベルの作物または産物に損害が与えられるであろう。現在、研究者
は昆虫病原体の有効性を改良する方法および他の生物学的防除の道具を活発に探
求している。
節足動物からの殺虫性トキシンは、過去10年間、興味が増加してきた対象で
ある。これらの物質は、昆虫における神経および神経筋生理学の詳細な研究に有
用であることが証明されている。また、これらは、ある種の昆虫病原体の有効性
を増強させるためにも用いられている。サソリであるAndroctonus
australisからの殺虫性トキシンAaITは、両方の目的に用いられて
きた。このトキシンは、ヒトに危険であることが知られている種に由来するもの
であるにもかかわらず、多くの昆虫に致死的であるが哺乳動物に対しては検出し
うる影響を有さないペプチドの群に属する。A.australis毒液中の他
のトキシンは、哺乳動物に対して致死的であるが、昆虫には影響を有しない。こ
の選択性は、いずれの群のトキシンも電圧感受性ナトリウムチャネルに作用する
という観点から特に興味深い。この選択性の分子上の根拠を理解することは、哺
乳動物および他の非標的生物に対して低下した影響を有する化学殺虫剤の開発に
つながるであろう。
昆虫病原体の有効性はまた、AaITおよび他の昆虫選択性トキシンをコード
する遺伝子の使用により増強されてきた。多くの報告は、殺虫性トキシンをコー
ドする遺伝子を含有するようウイルスゲノムを改変することにより、バキュロウ
イルスファミリーの一員であるAutographa californica
核多角体病ウイルス(AcMNPV)の殺虫特性を増強しうることを示した。こ
の目的のために用いられるトキシンには、AaIT、寄生性ダニであるPyem
otes triticiからのTxP−1、クモであるDiguetia c
anitiesからのDTX9.2、およびクモであるTegenaria a
grestisからのNPS−326(現在ではTaITX−1として知られる
)
が含まれる。これらのトキシンをp10プロモーターもしくはポリヘドリンプロ
モーターの制御下のAcMNPVゲノム中に挿入した。いずれのプロモーターも
、ウイルス閉塞体(occlusion body)の成分蛋白質をコードする
極後期ウイルス遺伝子の高レベル発現を制御する。各場合において、トキシン遺
伝子を含む組換えウイルスは、感染した昆虫が死滅するかまたは死滅寸前となる
のに必要な時間により測定して、野生型ウイルスより有効であった。
バキュロウイルス系は、多くの異なる起源からの生物学的に活性な蛋白質を発
現させる高度に有効かつフレキシブルな方法であることがよく知られているため
、新たに発見されたトキシンもまたこれらのウイルスの殺虫活性を増強させるの
に有用であると予測することは合理的である。
しかし、これらのトキシンの使用がバキュロウイルスに限定されるとは予測さ
れない。細菌および真菌を含む多くの他の微生物が、そのような遺伝的操作に感
受性であることが知られている。ある種の細菌および真菌は、実際、ヒトおよび
他の哺乳動物起源の外因性蛋白質の大量生産に広く用いられている。他の昆虫ウ
イルスもまた潜在的発現ベクターとして研究されてきた。そのような病原体の例
としては、エントモポックスウイルス類、細菌Escherischia co
li、および真菌Pichia pastorisが挙げられる。このような病
原体は、トキシン遺伝子を含むように改変することにより、バキュロウイルスの
効力がそのような改変により増強されてきたように、害虫防除剤として増強させ
ることができる。
すなわち、節足動物からの殺虫性トキシンを用いて、多くの有意な方法におい
て昆虫防除の分野を前進させうることが明らかである。したがって、殺虫性効力
および昆虫選択性の所望の特性を有する本発明の新規組成物は、それが殺虫性化
合物として直接用いることができるか否かにかかわらず、当該技術分野において
有用であることが予測される。本発明のそのような組成物を有用にすることがで
きる手段は当業者によく知られており、上述の段落において提供される例により
特徴づけられる(しかしこれに限定されない)。
スズメバチBracon hebetor(文献にはMicrobracon
hebetorおよびHabrobracon hebetorとしても同定
さ
れる)の毒液は、その顕著な殺虫性効力のため広範囲に研究されてきた。すなわ
ち、本発明は、昆虫の研究および防除に有用な、Bracon hebetor
およびBracon属の他の種の毒液の画分の単離、生成および同定に関する。発明の概要
本発明は、スズメバチであるBracon hebetorおよびBraco
n属の他の種、例えばBracon mellitorから単離される、害虫に
及ぼすその神経毒効果を特徴とする、殺虫効果を有するトキシンに関する。これ
らのトキシンは、配列番号1のペプチド(本明細書においては場合により「16
kDaトキシン」とも表される)、配列番号2のペプチド(本明細書においては
場合により「30kDaトキシン」とも表される)、場合により18−1トキシ
ンおよび18−2トキシンとも表される2つのトキシン、および「20kDaト
キシン」と表される第5の蛋白質、ならびにそれぞれ配列番号3(「16kDa
トキシンcDNA」)および配列番号4(「30kDaトキシンcDNA」)と
表される、16kDaおよび30kDa蛋白質のcDNA配列として本明細書中
に例示される。
これらの各トキシンの特徴は以下により完全に記載される。しかし、これらの
トキシンを含む高度に精製された毒液分画の少量を、タバコバドウォーム(to
bacco budworm)の幼虫の腹部への注入により投与すると、幼虫は
弛緩麻痺により能力を喪失する。この高度に精製された分画、およびこれを得る
方法もまた本発明の範囲内である。上述のトキシンの2つまたはそれ以上の組み
合わせは、最適な殺虫性効力を得るのに有用であろう。
別の観点においては、本発明は、記載されるトキシンを殺虫剤として使用する
ために改変および改良する方法を教示する。例えば、シグナル配列およびプロペ
プチド配列は、スズメバチトキシンを有効に分泌させるのに、またはこれらを特
定の細胞または細胞中の位置に標的化させるのに有用であろう。したがって、シ
グナル配列は、長い精製過程を不要とするとともに、スズメバチトキシンの分泌
および殺虫性効力を増強させる。
最後に、本発明は、害虫と戦うための薬剤としてのこれらのトキシンの使用に
関する。既知の組換え技術方法を用いてこれらのトキシンを大量に得ることがで
きる。トキシンを工学処理により発現ベクター中に挿入し、次にこれをE.co
li等の原核生物宿主または昆虫細胞株SF−9等の真核生物宿主のいずれかに
挿入することができる。次に、単離された蛋白質を、害虫からの防御が求められ
ている植物または動物に直接適用することができる。
あるいは、トキシンを工学処理により天然の昆虫の病原体、例えばBacil
lusまたはバキュロウイルス中に挿入することができる。組換え病原体を用い
てペプチドまたはそのペプチドをコードする核酸を、害虫の中に直接移送するこ
とができる。これらの組換えにより工学処理された病原体は、親野生型病原体と
比較して著しく増加した殺虫性効力を有するであろう。
本発明のこれらのおよび他の目的および利点は、以下の詳細な記載および添付
の特許請求の範囲を読むことにより、および添付の図面を参照することにより、
明らかとなるであろう。図面の詳細な記載
図1は、マトレックスレッド(Matrex Red)Aアフィニティーカラ
ムによる染料−リガンドクロマトグラフィーに供したBracon hebet
orスズメバチの抽出物のクロマトグラムであり、約115−129分の間に溶
出された生物学的に活性なピークを示す。
図2は、図1からのプールした活性画分をTSKキレート(Chelate)
−5PWカラムによるクロマトグラフィーに供したクロマトグラムであり、約3
1−45分の間に溶出された生物学的に活性なピークを示す。
図3は、図2からのプールした活性画分をフラクトゲル(Fractogel
)EMD TMAE−650カラムによる陰イオン交換クロマトグラフィーに供
したクロマトグラムであり、約14.5−18分の間に溶出された生物学的に活
性なピークを示す。
図4は、図3からのプールした活性画分をTSK G2000SWカラムによ
るサイズ排除クロマトグラフィーに供したクロマトグラムであり、約24−29
分の間に溶出された生物学的に活性なピークを示す。
図5は、図4からのプールした活性画分をフラクトゲル(Fractogel
)EMD TMAE−650カラムによる陰イオン交換クロマトグラフィーに供
し
たクロマトグラムであり、約15−19.5分の間に溶出された生物学的に活性
なプールされた画分を示す。
図6は、図5からのプールされた活性画分をバイダック(Vydac)C4カ
ラムによる逆相クロマトグラフィーに供したクロマトグラムである。画分4、6
、7および9に対応する4つの主要なピークは、それぞれ配列番号1、18−1
トキシン、18−2トキシン、および配列番号2のトキシンを含む。画分9はさ
らに、本明細書において20kDaトキシンとして同定される第二の成分を含む
。発明の詳細な記載
上で議論したように、本発明は、スズメバチ毒液から単離される、殺虫特性を
示すトキシンに関する。より詳細には、本発明は、スズメバチBracon属か
ら単離される、選択された害虫に対する神経毒効果を特徴とする、殺虫効果を有
する一群のトキシンに関する。本出願の目的のためには、用語「殺虫効果を有す
る(insecticidally effective)」とは、本明細書に
記載される条件下でタバコバドウォームの幼虫の弛緩麻痺による能力喪失に有効
であることと定義される。
これらのトキシンは、本明細書において、配列番号1(16kDaトキシン)
、配列番号2(30kDaトキシン)、18−1および18−2トキシン、およ
び20kDaトキシン、ならびにそれぞれ配列番号3(16kDaトキシンcD
NA)、配列番号4(30kDaトキシンcDNA)と表される16kDaおよ
び30kDaトキシンのcDNA配列により例示される。本明細書はまた、これ
らの成分を含む高度に精製された画分、およびこの画分を得る方法を記載する。
本明細書はまた、組換えDNA法によるこれらのトキシンの発現の方法を記載す
る。さらに、既知の技術により、トキシンcDNA配列を含む発現ベクターを宿
主細胞または生物中にトランスフォームまたはトランスフェクトすることが可能
である。
したがって、本発明は、殺虫剤として用いるための天然に生ずるトキシンを提
供する。天然に生ずるトキシンを種々の方法で用いて、昆虫を防除するか、また
はそのようなトキシンの昆虫に及ぼす影響を研究することができる。実験方法および特性決定
本明細書において用いられる主要な実施可能技術および用語は、当該技術分野
においてよく知られている。それにもかかわらず、本願発明の全体的範囲の明確
な理解を与えるために、発明を実施するために用いることができる以下の実験方
法および特性決定技術に言及する。生物学的アッセイ
Bracon hebetor成体は、実験室で飼育したかまたは商業的供給
源より入手した。Bracon mellitor成体はUSDΛ/ARSラボ
ラトリ(Weslaco,Texas)から入手した。
殺虫活性のアッセイは、実験室で飼育した、タバコバドウォームであるHel
iothis virescens(TBW)またはマメアワヨトウ(beet
armyworm)であるSpodoptera exigua(BAW)の最
終虫齢の幼虫で実施した。スズメバチ全体または切開した組織からの抽出物(簡
潔のために、これらの抽出物は、以下に場合によって「毒液」と表す)は、膜マ
イクロ濾過(平均孔径0.2ミクロン)により滅菌したリン酸緩衝化生理食塩水
(PBS)(pH6.5)、第2のリン酸緩衝化食塩水(pH8.0)、または
ホウ酸緩衝液(pH9.0)中で特徴的に調製した。
クロマトグラフィーを開始する前の組織ホモジナイズ、遠心分離、および濾過
の全行程は、氷上または4℃の定温下で実施した。毒液分画は特徴的にクロマト
グラフィー分離に用いた緩衝液中に適用した。ほとんどの場合において、組織抽
出物は、PBSではなくこれらのクロマトグラフィー緩衝液中で調製した。すべ
ての場合において、対照幼虫を等量の適当な緩衝液で処置した。すべての試料は
、幼虫の血液嚢中に注入することにより投与した。注入部位は、第3腹節と第7
腹節の間の側面正中線に沿っていた。注入後、幼虫を別々のペトリ皿中に食料と
ともに保持し、解剖顕微鏡下で定期的に観察した。背または側面を下にして置か
れてから30秒以内に自分で起きることができなかった幼虫を麻痺であると評価
した。有意に弱い(compromised)起立応答(10秒と30秒との間
)を示した幼虫を部分麻痺であると評価した。
Bracon毒液および毒液画分は、鱗翅類幼虫において特徴的な弛緩麻痺を
生ずる。精製画分の効果は、粗毒液の効果と同一である。TBWおよびBAW幼
虫においては、B.hebetor毒液もしくは毒液画分の効果とB.mell
itor毒液もしくは毒液画分との間に見かけ上の相違はない。影響を受けた幼
虫はまず運動失調となり摂食を停止し、次にそれらの付属器官の制御を失い、体
壁筋系において正常状態(tone)の欠失を示す。この麻痺はすべての自発運
動機能の見かけ上の喪失により特徴づけられる。腸蠕動、鼓動および呼吸収斂を
含む非自発運動機能は、幾分正常に継続し、長期間持続しうる。半麻痺(sub
paralytic)用量は、運動活性の著しい減少および摂食の休止または深
刻な阻害をもたらした。すなわち、他の研究者により以前に指摘されたように、
Bracon毒液は致死的ではないが、「宿主(host)」幼虫をスズメバチ
による消費に適した状態に固定化する。雄スズメバチから調製した抽出物は、識
別しうる生物学的効果を有さなかった。蛋白質精製
Bracon hebetorスズメバチ毒液からのトキシンは、当該技術分
野において知られる方法を用いて単離した。簡単には、スズメバチ全体または切
開した毒液腺およびそれに伴う構造をホモジナイズし、生物学的に活性なトキシ
ンを溶解させるために超音波処理した。次に、ホモジネートを遠心分離し、上清
をポリエチレングリコールで処理して、活性成分を析出させた。析出物を出発緩
衝液に再懸濁し、染料−リガンドクロマトグラフィーに供した。生物学的に活性
な画分を、固定化金属アフィニティークロマトグラフィー、陰イオン交換クロマ
トグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィー、および逆相クロマトグラフィー
に供することにより、トキシンをさらに精製した。逆相クロマトグラフィーによ
り4つの画分(番号4、6、7および9)が得られ、これはそれぞれ配列番号1
(16kDaトキシン)、18−1トキシン、18−2トキシン、および配列番
号2(30kDaトキシン)に相当した。約20kDaの分子量を有する第5の
成分が、画分9において30kDa成分とともに溶出されるが、これはSDS−
PAGEにより分離可能である。Bracon mellitor抽出物に関し
て用いられた別の蛋白質精製技術は実施例18に記載される。抗体
本発明の範囲内には、配列番号1(16kDaトキシン)、配列番号2(30
kDaトキシン)、18−1トキシンおよび18−2トキシン、20kDaトキ
シン、および拡張により類似のトキシンの各トキシンに対する抗体が含まれる。
抗体とは、動物中で生成され、特定の蛋白質を認識またはそれに結合するといわ
れる蛋白質である。本発明の昆虫トキシンを研究するとき、トキシンの量、局在
および他の蛋白質との会合をモニターできることは有用であろう。ウエスタンブ
ロット、免疫沈降アッセイ、および免疫組織化学アッセイ等の技術は、問題とす
るペプチドを特異的に認識する抗体を用いずに実施することはできない。
さらに、当該技術分野においてよく知られる方法により、これらのトキシンが
結合する蛋白質を抗体を用いて精製し、続いてクローニングすることができる。
これは、例えば発現ライブラリをスクリーニングすることにより行うことができ
る。あるいは、これらのトキシンは、抗体を固体支持体に固定化して、免疫アフ
ィニティークロマトグラフィーを用いることにより精製することができる。
抗体は、当該技術分野において知られる種々の方法により生産することができ
る。一般的には、抗体は外来動物(典型的にはウサギまたはマウス)を精製蛋白
質で免疫感作することにより生成される。スズメバチ毒液全体または組織抽出物
から精製した、組換えにより発現させた、または合成した昆虫トキシンは、抗体
生産に適しているであろう。蛋白質は動物において免疫応答を誘導し、その蛋白
質を認識する多くの抗体が産生される。これらの動物の血清は、蛋白質またはそ
のフラグメントもしくは誘導体を認識する多くの抗体の混合物であるポリクロー
ナル抗体を含む。
あるいは、当該技術分野においてよく知られるハイブリドーマクローニング技
術により、モノクローナル抗体と称される単一抗体を生産することができる。K
ennett,R.H.et al.,Monoclonal Antibod
ies,Hybridomas:A New Dimension in Bi
ological Analyses,Plenum Press,New Y
ork,1982を参照されたい。簡単には、動物を免疫感作し、その動物の脾
臓細胞を単離し、それらを適当なメラノーマ細胞株と融合させることにより不死
化する。限定希釈により細胞をクローニングする。適当なモノクローナル抗体を
産生する細胞株を保存し、残りの細胞株を破棄する。
すなわち、問題とする殺虫性トキシンの使用に関連するさらなる特性決定、研
究および開発を容易にするために、本発明のトキシンに対する抗体を生産するこ
とが可能である。cDNAの単離および特性決定
配列番号3(16kDaトキシンcDNA)および配列番号4(30kDaト
キシンcDNA)のcDNA配列は、当業者によく知られる方法により単離した
。一般的には、16kDaトキシン(配列番号5)および30kDaトキシン(
配列番号6)のN−末端配列を化学的配列決定により決定した。遺伝コードおよ
び入手可能な昆虫のコドン使用のデータに基づいて、この蛋白質のアミノ酸をコ
ードする核酸配列に相補的な縮重オリゴヌクレオチドを合成した。配列番号3(
16kDaトキシンcDNA)および配列番号4(30kDaトキシンcDNA
)のcDNA配列に示されるように、オリゴヌクレオチドを用いてポリメラーゼ
連鎖反応技術により配列アミノ酸残基1から始まる成熟トキシンペプチドの選択
的増幅を行い、続いてcDNAライブラリスクリーニングを行った。得られた生
成物はDNA配列決定により確認した。タンパク質修飾
タンパク質修飾は、4つの一般的カテゴリーに細分化することができる。即ち
、化学的プロセシング、付加、置換及び欠失である。これら一般なグループは、
核酸配列及びタンパク質のアミノ酸配列の両方に適用される。タンパク質修飾は
自然に起こり得るが、最も頻繁なタンパク質修飾は、そのタンパク質をコードす
る核酸配列内を故意に操作することにより行われる。部位特異的突然変異誘発法
の如きタンパク質修飾技術が当該技術分野で周知であり、多くの場合、使用説明
書を全部備えたキットとして、例えば、Amersham and Bethesda Research Labor
atories から市販されている。
化学的プロセシングは、一般にタンパク質翻訳の後に起こり、アミド化、グリ
コシル化、パルミトイル化、及び異性化の如き修飾が含まれる。かかるプロセシ
ングは、毒素の安定性及び最適な活性のために必要であり得る(Heckら,Scienc
e,266: 1065-1068,1994)。しかしながら、これら事象の必要性及び性質は、
化学的配列決定又はcDNA配列の翻訳からいつでも予測できる訳ではない。
タンパク質修飾は、付加を通して起こることができる。ここで定義される付加
とは、その毒素の機能を有意に変えることなく、そのタンパク質の一次アミノ酸
配列よりも少なくとも1つ多いアミノ酸を含有するタンパク質を生成するところ
の核酸又はアミノ酸配列に対してなされる修飾である。タンパク質のコーディン
グ領域における天然に存在する核酸付加は、しばしば、読み取り枠のシフトを起
こすことによってそのタンパク質の機能を大きく害する。ヌクレオチド付加の点
から、そのアミノ酸配列は、そのタンパク質の一次アミノ酸配列とは全く異なっ
てしまう。しかしながら、そのタンパク質のコーディング領域内でタンパク質の
読み取り枠を変化させない付加を持たせることは可能である。遺伝子の5'又は
3'非翻訳領域におけるヌクレオチド付加は、通常は、タンパク質の機能に影響
しない。
上記のように、付加は、通常、タンパク質内で故意に行われる。本発明におい
ては、例えば、成熟タンパク質は、そのタンパク質の効率的翻訳にとって好まし
い開始メチオニンを欠いている。かくして、成熟タンパク質のアミノ末端
へのメチオニンの付加、並びに他のアミノ酸及び停止コドンやリボソーム結合部
位の如きタンパク質の発現を容易にするヌクレオチドの付加は、この発明の範囲
内に含まれる。
シグナル配列又はシグナルペプチドの付加がこの発明の範囲内に含まれるとい
うことも理解される。シグナル配列は、細胞又は生物内の特定の位置へのタンパ
ク質の輸送を指揮する。また、シグナル配列は、タンパク質が分泌されるように
することができる。
全ての公知のシグナルペプチドを比較すると、それらは約15〜30残基の長
さであることが分かる。シグナルペプチド内には、疎水性領域(h領域)を構成
する一続きの7〜13残基がある。このh領域は Ala、Met、Val、Ile、Phe及び
Thr が豊富で、場合によっては、Pro、Gly、Ser 又はThe 残基を含有する。von
Heijne,G.,J.Mol.Biol.,184,99-105(1983)。この配列相同性は、細菌か
ら高等真核生物にまで共通して所有されており、このことは、定位機構が高度に
保存されていることを示唆する。一生物からのタンパク質は、幾つかの他の生物
の定位機構によって置き換えられることができそして正確にプロセスされること
ができる。Muellerら,J.Biol.Chem.,257,11860-11863(1982)。逆に言えば
、一生物からのシグナルペプチド及び異なる生物からのタンパク質を含む組換え
タンパク質も正しく位置しているのである。Yostら(1983);Jabbar & Nayak,Mo
l.Cell.Biol.,7,1476-1485(1987)。シグナル配列は、その残りのタンパク質
配列から独立の機能的配置を形成しているということが研究によって示唆されて
おり、それは、何故にシグナル配列が異なるタンパク質や異なる種の間で容易に
交換できるのかを説明するものである。事実、サソリのペプチド、つまりAaI
Tを用いてバキュウイルス内で行われた研究は、1つの種からのシグナル配列の
他の種からの昆虫毒素への付加がうまくいくと期待されることを証明している。
このAaITペプチドは、蚕毒素(bombyxin)、つまり蚕 Bombyx mori からの
分泌ペプチドからのシグナル配列と融合し、昆虫に毒性がある機能性AaITペ
プチドを分泌することが示された。McCutchen,B.F.ら,Bio/Technology 9,84
8-852(1991)。
最後に、分泌シグナルペプチドも、タンパク質産物を宿主細胞により保持さ
せるというよりむしろ培地中に分泌させることにより、発現系内のペプチドの精
製を大きく促進することができる。多くの場合、それらタンパク質は培地内で十
分に純粋なので更なる精製は不要である。このことは、広範囲の条件下で安定で
ある小さなタンパク質について特に言えることである。
多くの原核細胞、並びに真核細胞及びウイルスについてのシグナルペプチドは
、十分に特性決定され、かつ文献に記載されている。かくして、PCR又は合成
オリゴヌクレオチドの如き基本的組換えDNAテクノロジーを用いて、そのアミ
ノ末端にシグナルペプチドを含有する組換えタンパク質を容易に作ることができ
る。
抗原性エピトープの付加がこの発明の範囲内に含まれるということも理解され
る。エピトープは小さな通常6〜20アミノ酸残基の抗原性ペプチドであって、
それについて独特かつ特異的な抗体が存在する。かくして、抗原性エピトープを
組換え技術で作ることにより、科学者は、その特異的ペプチドを認識する特異的
かつ効果的な抗体を保証される。そのような抗原性エピトープの一つは、機能へ
の如何なる有害な作用もなしに、多くのタンパク質内に組換え技術で組み込まれ
たc−mycエピトープである。他の幾つかのエピトープが、十分に文献に記載
されており、それらを認識する抗体と一緒に市販されている。シグナルペプチド
のように、エピトープを含有する組換えタンパク質を、普通の組換えDNA技術
を用いて作ることができる。しかしながら、シグナルペプチドのように、抗原性
エピトープは、タンパク質のアミノ末端又はカルボキシ末端において工学的に作
ることができる。
置換を通して生ずるタンパク質修飾も、本発明の範囲内に含まれる。ここで定
義される置換とは、タンパク質の核酸又はアミノ酸配列に成される修飾であって
、その毒素の機能を有意に変えることなく、一次タンパク質とは異なるアミノ酸
配列を含有するタンパク質を生成する修飾である。付加のように、置換は自然で
あっても人工的であってもよい。アミノ酸置換がそのタンパク質の機能を有意に
変えることなく成され得ることは、当該技術分野で周知である。このことは、そ
の修飾が“保存された”アミノ酸についてのアミノ酸の置換であるときに特に言
える。保存されたアミノ酸とは、大きさ、電荷、極性及び配置の
故に、そのタンパク質の構造及び機能を有意に影響することなく置換されること
ができる天然又は合成アミノ酸のことである。頻繁に、多くのアミノ酸が、その
タンパク質の機能を害することなく保存的アミノ酸により置換され得る。
どのようなアミノ酸ででも置換できるか、又は保存されたアミノ酸によっての
み置換できるかは、興味の対象である具体的ペプチドを他のハチの毒素と比較す
ることにより決定するのが最もよい。タンパク質ファミリーの全てのメンバーに
おいて同一であるアミノ酸を置換することは通常はできない。これは、しばしば
、そのタンパク質の第二構造の形成にとって重要であるシステイン残基での場合
である。保存されるアミノ酸は、通常、タンパク質の機能に有意に影響すること
なしに、他の保存されたアミノ酸により置換されることができる。最後に、ファ
ミリー内で保存されていないアミノ酸は、通常、自由に置換することができる。
一般に、非極性アミノ酸 Gly、Ala、Val、Ile 及び Leu;非極性芳香族アミノ
酸 Phe、Trp 及び Tyr;中性極性アミノ酸 Ser、Thr、Cys、Gln、Asn 及びMet;
陰性に荷電したアミノ酸 Lys、Arg 及び His;陽性に荷電したアミノ酸Asp 及び
Glu は保存アミノ酸のグループに相当する。この列挙は網羅したものではない
。例えば、Ala、Gly、Ser 及びある場合には Cys は、たとえそれらが異なるグ
ループに属していても、互いに置換することができることは周知である。
保存的アミノ酸置換は、天然に存在するアミノ酸に限定されず、合成アミノ酸
を包含する。普通に用いられる合成アミノ酸は、種々の鎖長のωアミノ酸で、中
性非極性類似体であるシクロヘキシルアラニン;中性非極性類似体であるシツリ
ン及びメチオニンスルホキシド;芳香族中性類似体であるフェニルグリシン;陽
性に荷電した類似体であるシステイン酸;及び陰性に荷電したアミノ酸類似体で
あるオルニチンである。天然に存在するアミノ酸のように、この列挙は網羅した
ものではなく、当該技術分野で周知である置換を単に例示したに過ぎない。
最後に、タンパク質修飾は、欠失を通して生じることができる。ここで定義さ
れる欠失は、その毒素の機能を有意に変えることなく、そのタンパク質の一次ア
ミノ酸配列よりも少なくとも1つのアミノ酸を少なく含有するタンパク質を生成
するところの核酸又はタンパク質のアミノ酸配列に対してなされる修飾である。
付加のように、タンパク質のコーディング領域内で自然に生じる欠失は、通常は
、タンパク質の機能を大きく害するが、5'及び3'非翻訳領域における欠失はタ
ンパク質の機能に影響しない。
しかしながら、故意の欠失は、外来生物内でのタンパク質の発現にとって必要
であるか又は有用であり得る。例えば、配列番号:5(16kDa毒素NT)及
び配列番号:6(30kDa毒素NT)のcDNA配列は、リーダー配列及び成
熟タンパク質の両方をコードする。ハチにおいては、前駆体ペプチドが分泌され
るときにこのリーダー配列がタンパク質分解により最も除去され易いようである
。従って、前駆体タンパク質からリーダー配列を除去する欠失は、そのハチによ
り分泌されるものと類似の機能性成熟タンパク質を産するであろう。従って、リ
ーダー配列の欠失、並びにその毒素の発現を促進する他の欠失は、本発明の範囲
内に含まれる。組換え発現
特定の要請に適したタンパク質を発現するようにcDNAを組換え技術で修飾
したら、全ての修飾を包含するそのcDNAを発現ベクター内にサブクローン化
する。一般に、発現ベクターは、プロモーター、終止シグナル及びある場合には
選択マーカーを更に含有するプラスミドのようなものである。原核性、真核性又
はウイルス性のプロモーター及び終止シグナルを含有するあらゆる発現ベクター
が、本発明の範囲内に含まれる。
プロモーターは、概してcDNAに対して5'に工学的に作られた核酸配列で
あって、cDNAを鋳型として用いるRNAの転写を補充しそして指揮する配列
である。この転写されたRNAメッセージから、細胞は、翻訳として知られる過
程を通して、そのcDNAによりコードされるタンパク質を組み立てることがで
きる。
プロモーターは、一般に、構成的、誘発的、又は組織特異的プロモーターと
して分類することができる。構成的プロモーターは、如何なる細胞因子によって
も有意な程度にまで調節されることのないプロモーターであって、RNAの転写
を継続的に指揮する。これらプロモーターは、大量のタンパク質が望まれるとき
に用いられる。サイトメガロウイルスプロモーター及びラウス肉腫ウイルスプロ
モーターは、構成的真核性プロモーターの例である。バクテリオファージ1のi
ntプロモーター及びβ−ラクタマーゼのblaプロモーターは、構成的原核性
プロモーターの例である。
このグループに含まれるものは、前期(early)又は後期(late)プロモータ
ーとして特徴付けられるプロモーターである。これらプロモーターは、通常は、
ウイルスの複製における前期又は後期のいずれかで高いレベルに活性化されるウ
イルスプロモーターである。バキュロウイルスp10及びポリヘドリンプロモー
ターは後期プロモーターの例である。
誘発的プロモーターは、一定の因子により誘発されるか又は抑制されるプロモ
ーターである。これらプロモーターは、産生されるタンパク質の量及びかかる産
生のタイミングの調節を可能にする。誘発的プロモーターの例は、高まったレベ
ルの重金属により誘発される真核性メタロチオニンプロモーター及びイソプロピ
ルβ−D−チオガラクトピラノシド(IPTG)に応答して誘発される原核性l
acZプロモーターである。
最後に、組織特異的プロモーターは、特定の細胞型においてのみ機能するプロ
モーターである。これらプロモーターは、通常、全ての細胞型におけるタンパク
質の発現がその生物にとって有害であるときに用いられる。哺乳動物組織特異的
プロモーターの例は、骨格筋クレアチンキナーゼプロモーターである。
発現ベクターは終止シグナルも必要とする。終止シグナルは、通常は、興味の
対象であるタンパク質に対して3'に工学的に作られる。高等真核細胞では、例
えば、発現ベクターは、タンパク質に翻訳されるべき転写産物のために、ポリア
デニル化シグナルを含有しなければならない。アデノウイルスのポリアデニル化
シグナル及びバキュロウイルスのポリヘドリンポリアデニル化シグナルのような
終止シグナルを用いることができる。また、ペプチド自体のポリアデ
ニル化シグナルも、効率的終止シグナルとして役立つことができる。
殆どの場合において、発現ベクターは、その発現ベクターを積極的に取り込ん
だ細胞の同定を可能にする選択マーカーも必要とする。これら選択マーカーは、
そのタンパク質産物が抗生物質又は他の化学物質に対する耐性を与える遺伝子で
ある。かくして、一定の化学物質の存在下又は不存在下で増殖できる細胞は、そ
の発現ベクターを含有しているということが分かる。選択マーカーの例は、原核
細胞にアンピシリンに対する耐性を与えるβ−ラクタマーゼ遺伝子及び真核細胞
においてG−418に対する耐性を与えるネオマイシン遺伝子である。発現ベク
ターは1つの選択マーカーに限定されないので、事実、殆どの発現ベクターは複
数の選択マーカーを含有している。
要するに、原核性及び真核性プロモーター、終止シグナル及び選択マーカーの
入手可能性及び認識は、当該技術分野において周知である。事実、細菌性、酵母
性、哺乳動物性及びウイルス性発現系のために多くのタイプの発現ベクターが市
販されている。組換え宿主
次いで、cDNAを内包する目的の発現ベクターを宿主細胞又は生物の中に形
質転換又は形質移入する。形質転換及び形質移入のいずれも、当該技術分野で周
知のエレクトロポレーション又はリン酸カルシウム処理の如き方法により、発現
ベクターを宿主内に取り込むことをいう。プラスミドのように、発現ベクターは
エピゾームのままであることも、宿主ゲノムの一部として取り込まれることもで
きる。宿主ゲノム内への取り込みは、ランダム組込み又は相同組換えのいずれか
により達成することができる。ランダム組込みは宿主ゲノムの不明な位置内への
複数遺伝子の挿入をもたらすが、相同組換えは宿主ゲノムの既知の位置内への1
コピーの遺伝子の挿入をもたらす。上記の技術は、この発明の毒素の発現にとっ
て有用であると考えられるので、本発明の範囲内に含まれる。
組換え宿主は、達成されるべき目標に基づいて選ばれる。殺虫剤として有効な
タンパク質を発現するという目的のために、特に有用な2種の一般的なタイプの
宿主がある。即ち、大量の組換えタンパク質を単離するのに有用である宿
主、及び害虫に感染する宿主である。
細菌、特に大腸菌は、依然として、大量の組換えタンパク質の単離に最も広く
用いられる宿主である。従って、昆虫毒素を発現する組換え細菌宿主は、殺虫剤
として用いるための本発明の昆虫毒素を単離するのに有用な技術と考えられる。
毒素は、上で説明したようにシグナルペプチドと融合されることも、成熟タンパ
ク質として分泌されることもできる。細菌性過剰発現系は、当該技術分野で周知
であり市販されている。
しかしながら、細菌性過剰発現系内で発現した毒素は、翻訳後修飾を含有しな
いであろう。従って、バキュロウイルス感染昆虫又は昆虫細胞系が、大量の翻訳
後修飾タンパク質を単離するために頻繁に用いられる。多種多様な原核性及び真
核性タンパク質が、バキュロウイルス内でうまく発現されてきた。Luckow,V.と
Summers,M.,Bio/Technology,6,47-55(1988);Summers,M.D.と Smith,G
.E.,Texas Agricultural Experimental Station Bulletin,1555,1-56(1987)
。
細菌宿主におけるように、組換えバキュロウイルスは、タンパク質を融合体と
してでも成熟タンパク質としてでも発現することができる。この系における外来
遺伝子の発現は、500mg/リッターものタンパク質を産することが知られて
いる。昆虫細胞は真核細胞なので、バキュロウイルス感染昆虫細胞を用いて産生
される組換えタンパク質は、その天然のタンパク質に非常に類似している。研究
により、バキュロウイルスベクターによって発現される組換えタンパク質は、分
泌されることも、核に局在することも、細胞表面に局在することも、ジスルフィ
ド結合することも、タンパク質分解で開裂することも、リン酸化されることも、
N−グリコシル化されることも、O−グリコシル化されることも、ミリスチル化
されることも、パルチミル化されることもできることが示されている。Luckow,V
.と Summers,M.,Bio/Technology,6,47-55(1988)。
これら宿主から単離された組換えペプチドは、害虫から保護されることが求め
られる植物又は動物に直接適用することができる。後で説明するように、組換え
ウイルス自体を害虫抑制剤として用いることができる。
また、この組換えペプチドは、害虫の麻痺をもたらす生理的メカニズムを研究
するのに用いられるであろう。他の節足動物毒素の作用のメカニズムが分かって
いるので、ここで興味の対象である毒素はニューロンの機能を変えることによっ
て作用するようである。部分精製した Bracon venom 成分での研究で、これら物
質が神経筋接合部における神経伝達物質放出を阻害することが示唆された。更に
、先行技術及びこの明細書中のデータは、これら毒素が害虫について高度に選択
的で、無視できる程度の哺乳動物毒性しか示さないことを強く示唆している。こ
のことは、哺乳動物のニューロンは神経伝達物質放出を阻害又は増強する毒素に
感受性であることが周知であるという事実にも拘らず真実である。従って、この
発明の毒素のような毒素を、昆虫と脊椎動物の間のそれらそれぞれの標的部位の
相違を説明しかつ特徴付けるのに役立てるために用いることができる。次いで、
この情報を、害虫に高度に選択的である化学殺虫剤を開発することを目的とした
化学デザイン研究に用いることができる。
昆虫に感染する病原体が、本主題のペプチドを発現するのに有用な組換え宿主
の第二の部類に相当する。農業的観点から、病原性真菌もこの目的に使えるかも
知れないが、細菌及びバキュロウイルスが最も見込みのある病原体候補である。
昆虫にとって病原性である一定の細菌、特にBacillus thuringiensis(B.t.)は、
種々の害虫を抑制するのに用いられてきた。不運にも、天然に存在する病原体は
、しばしば、送達、毒性及び作用の速度における限界のために、生物学的殺虫剤
として限定された利用性しか有さなかった。しかしながら、本研究は、B.t.を操
作して野生型B.t.の幾つかの限界を克服する組換え細菌を作り得ることを証明
した。最も注目すべきことは、このB.t.δ−菌体内毒素遺伝子を細菌性病原体
の中に組み込んで、優れた殺虫特性を発揮するハイブリッド宿主を作れたことで
ある。同様に、この発明の毒素を発現する組換え技術で作られる細菌性又は真菌
性病原体の生成は有用であると考えられるので、本発明の範囲内に含まれる。
野生型バキュロウイルスも、Heliothis virescens(タバコガ)、Orgyia pseu
dotsugata(Douglas fir マイマイガ)及び Laspeyresia pomonella(コドリン
ガ)を含む多くの異なるタイプの害虫の天然の調節物質である。Groner,
A.1986.Specificity and Safety of Baculovirus.Vol I,Biological Proper
ties and Molecular Biology;Granados,R.R.と Federici,B.A.編 CRC Pr
ess,Inc.Boca Raton,Florida を参照のこと。Autographa californica核多角
体病ウイルスの如きバキュロウイルスは、感染後ウイルス子孫、即ち、細胞外ウ
イルス粒子及び閉塞性ウイルス粒子を生成する。閉塞性ウイルス粒子は、水平及
び垂直伝染の手段を提供するので重要である。感染した害虫が死んだ後、数百万
のウイルス粒子がウイルス性閉塞によって保護される。かくして、害虫が汚染さ
れた植物を食べると、それらはその閉塞物質を消化する。閉塞物質は、昆虫の消
化管のアルカリ性環境下で溶解してウイルス粒子を放出し、それが感染してその
昆虫の中腸組織の中で複製する。別の宿主内への二次感染は、細胞外の未閉塞ウ
イルス粒子によって拡がる。
不運にも、バキュロウイルスにより感染された昆虫は死ぬのに一週間又はそれ
以上かかり、その期間も食べ続けるので、野生型のバキュロウイルスの商業的用
途を商業的に実行不可能なものにしてしまう。しかしながら、Autographa calif
ornica 核多角体病ウイルスの如きバキュロウイルスを、殺虫性毒素を発現する
ように組換え技術で操作することができ、かくして、それらの病原作用を加速す
ることができるということが分かった。McCutchen,B.F.ら,Bio/Technology 9
,848-852(1991);Tomalskiら,Nature,352,82-85(1991);Stewartら,Nature
,352,85-88(1991)。ポリヘドリンプロモーターにより駆動するポリヘドリン遺
伝子及びp10プロモーターにより駆動するAaIT昆虫毒素を含有する組換え
ベクターpAcUW2(B).AaITを構築した。得られたこの組換えバキュ
ロウイルスは、普通の条件下で経口感染性であった。更に、AaIT毒素は感染
の途中で分泌され、そしてそのウイルスについての本来の宿主ではない Manduca
sexta larvae 及び本来の宿主である Heliothis virescens larvae の両方の麻
痺を起こした。
当該技術分野で周知の基本的な組換え技術を用いて、広い宿主範囲及び高い毒
性を発揮する組換えバキュロウイルスを作るために、本発明の毒素を同じように
組換え操作することができる。次いで、この発明の毒素を発現する組換えバキュ
ロウイルスを、現行の殺虫剤のように、害虫から保護されることが求め
られる作物に投与することができる。環境への組換えバキュロウイルスの放出は
、害虫を抑制する安全で効果的な手段であると考えられる。第一に、天然に存在
する殺虫性毒素は高度に選択的である。加えて、バキュロウイルスは哺乳動物に
感染しないので昆虫群の範囲内で高度に選択的である。従って、バキュロウイル
ス宿主及び殺虫性ペプチドを注意して選択することによって、標的の害虫に高度
に選択的であると同時に、益虫を含む標的ではない生物への衝撃を少なくした組
換えバキュロウイルスを工学的に作ることは可能である。第二に、組換えバキュ
ロウイルスは、強い選択的圧力の不存在下では、環境的圧力に曝した短期間後に
野生型に戻るようである。かくして、この組換えバキュロウイルスの比較的短い
寿命が、標的ではない種へのリスクを更に軽減する。
組換えバキュロウイルスを施す量及び頻度は、もちろん、保護される特定の作
物、害虫及び気候の如き事柄に依存するであろう。従って、組換えバキュロウイ
ルスを施す量及び頻度は、経験的に決定されるのが最も良い。
実施例
以下の実施例は、本発明に従って実施されるかまたは実施することができる様
々な態様を例示するために示される。これらの実施例は例示のためのみに示され
るものであり、以下の実施例は包含的または網羅的なものではないものと理解す
るべきである。
実施例1
バイオアッセイ:全スズメバチ、Bracon hebetorからの、または精製の間に得
られた生物学的活性画分からの抽出物を、毒分画の間に使用した所望の量のリン
酸緩衝食塩水または他の緩衝液に溶解した。試料を、前記のようにして、タバコ
ブドワーム(budworm)、Heliothis virescensの5齢幼虫の腹部に注入により投
与した。対照幼虫には、等量の適当な緩衝液を注入した。
抽出物または活性画分をH.virescens 幼虫に注入すると、影響を受けた幼虫
は最初に運動失調になり、食物摂取を停止し、次いで自身の付属器官の調節を失
い、肉体壁筋肉系中の緊張の喪失を示した。この麻痺は、全ての随意運動機能の
明白な喪失により特徴付けられた。消化管蠕動、心拍、および呼吸収縮を含む不
随意機能は多少なりとも通常通り継続し、多くは何日間も持続した。麻痺性以下
の投与量は、運動活性の顕著な減少と、食物摂取の停止または強い阻害を引き起
こした。対照幼虫は影響を受けなかった。
以下の表は、全スズメバチ抽出物と、精製操作の間に得られた生物学的活性画
分との毒性の要約である。
毒素の麻痺活性は、酸性条件下で破壊される。従って、最終クロマトグラフィ
ー工程からの画分はバイオアッセイされなかった。
実施例2
配列番号1(16kDa毒素)の精製:
スズメバチ抽出物を、Beckman System Gold 126 溶媒デリバリーおよび168
フォトダイオード配列検出器モジュールを備えた高速液体クロマトグラフィーに
よって分画した。Bracon 毒素はpH8から9の間で最も安定であり、pH<7
に露出すると活性の急速な喪失を招く。毒素は、一旦溶液中に存在すると、0℃
よりも4℃の方がより安定である。従って、画分は精製の間冷蔵庫の中で保存し
た。
Bracon hebetorの全スズメバチを使用するまで−70℃で凍結保存した。凍結
したスズメバチ(12.88g;雄と雌のスズメバチの混合物)を、60mlの
冷却(4℃)した50mMの一リン酸ナトリウム(sodium monophosphate)と混
同し、水酸化ナトリウムでpH8.1に調整し、Tissue-Tearor ホモジナイザー
(Biospec Products,Inc.)でホモジナイズした。ホモジネートを次いで4℃で
20秒間超音波処理し(VirSonic 475; Virtis)、19,000rpmで20分
間遠心した(Sorvall SS-34 ローター)。生物活性上清を回収した。ペレットを
、上記したように、各回35mlの冷却緩衝液で、さらに2回抽出した。全部で
3回の抽出からの上清を合わせて、最後に20分間19,000rpmで遠心し
て透明化した。冷却した透明化上清を(135ml)に、等量の60%ポリエチ
レングリコール(w/v水中、3350平均分子量;Sigma Chemical Co.)を添
加した。混合物に渦を巻かせ、40分間氷上に放置し、生物活性タンパク質を沈
殿させた。次いで、混合物を19,000rpmで20分間遠心した。不活性上
清を廃棄し、過剰のポリエチレングリコールを、ペレットを溶解することなく、
2mlの水で遠心管からリンスした。次いで、生物活性ペレットを24mlの出
発緩衝液に再懸濁し、懸濁物を19,000rpmで20分間回転した。生物活
性を含有する、曇った上清を複数のAcrodisc PF フィルター(0.8/0.2μ
mフィルター;Gelman Sciences)で濾過し、濾液を全量2mlの緩衝液でリン
スした。ペレットを10mlの緩衝液に再懸濁した後、上記したように19,0
00rpmで15分間遠心し濾過した。
合わせた濾液(40ml)を、水酸化ナトリウムでpH8.1に調整した50
mMの一リン酸ナトリウム(sodium monophosphate)で平衡化したMatrex Red Aア
フィニティーカラム(2.6×18cm;Amicon)上での色素−リガンドクロマ
トグラフィーに付した。試料を1.5ml/分の流速でカラムに載せ、流出物を
280nmで監視した。ローディングの後、カラムを〜100mlの同一緩衝液
で3ml/分の流速でリンスした。次いで、カラムを、165mlのリン酸緩衝
液中300mMのNaCl、次いで160mlのリン酸緩衝液中2MのNaC
lで、4ml/分の流速で(図1に示すように)、順次溶出させた。生物活性は
、クロマトグラム上に示されるように、2MのNaCl洗浄において幅広いピー
クとして溶出した。これらの画分を、生物活性成分(単数または複数)の安定性
を改善するために1.5mlの0.5Mのホウ酸ナトリウム(pH9.0)を含
有する、15mlのチューブ中に回収した。固定化金属アフィニティークロマト
グラフィー(IMAC)のための準備として、活性画分をプールして、イミダゾ
ールで1mMに調整した。
赤いカラムプール(80ml)を連続した2つのTSK Chelate−5
PWカラム(各々7.5×75mm;TOSOHAAS)上でクロマトグラフィーにかけ
た。カラムはEDTAでストリップしておき、新たにCu+2を載せた(Belew,M
.,他(1987)Anal.Biochem.164,457-465)。緩衝液Aは、1mMのイミダゾ
ール、50mMのホウ酸ナトリウム、0.5Mの塩化ナトリウム、pH9.0で
あった。緩衝液Bは50mMのイミダゾール、50mMのホウ酸ナトリウム、0
.5Mの塩化ナトリウム、pH9.0であった。試料を流速1ml/分でカラム
に載せ、吸光度(280nm)を基底ラインまで戻しておいた後、カラムを12
mlの5%B、次いで、5から30%のBの直線勾配で10分間、そして30か
ら100%のBの直線勾配で10分間展開した(図2に示す通り)。流出物を2
80nmで監視し、画分を回収し、麻痺活性について分析した。32から45分
の間に溶出する活性画分をプールした。イオン交換クロマトグラフィーのための
準備として、プールを濃縮し、2つのCentricon-30 フィルター(30,000 MWCO
フィルター;Amicon)中での限外濾過によって、50mMのホウ酸塩、pH9.
0に変換した。
陰イオン交換(AX)クロマトグラフィーは、Fractogel EMD TMAE-650 カラ
ム(1×7cm、25〜40μm粒径;EM Separation Technology)上で行
った。濃縮したIMACプール(4ml)を50mMのホウ酸ナトリウム(pH
9.0)で16mlに希釈し、陰イオン交換カラムに載せた。カラムを15ml
の出発緩衝液でリンスした。280nmの吸光度が基底ラインまで戻った後、カ
ラムを50mMのホウ酸ナトリウム(pH9.0)中の0から1MのNaClの
37.5分の直線勾配で展開した。流速は1.5ml/分であり、流出物は28
0nm
で監視し(図3に示される通り)、画分を回収し、生物活性について分析した。
14.5から17.5分の間に溶出する画分が最も活性であったが、最終ピーク
も少量の活性を示した。最高の活性の画分(14.5〜17.5分)を、Centri
con-3 フィルター(3000 MWCOフィルター;Amicon)中に〜0.9ml
まで濃縮した。次いで試料を、サイズ除去(SE)クロマトグラフィーのための
準備として、90μlの0.2Mの一リン酸ナトリウム(sodium monophosphate)
の添加によってpH7.2に調整した。
濃縮した陰イオン交換プール(990μl)をTSK G2000SWカラム
(21.5×60cm、13μm粒径;TOSOHAAS)上でクロマトグラフィーにか
けた。カラムは、水酸化ナトリウムでpH7.0に調整した、50mMの一リン
酸ナトリウム(sodium monophosphate)、150mMの塩化ナトリウムで展開し
た。流速は5m1/分で、流出物は220nmで監視し、画分はクロマトグラム
上に示される通りに回収した(図4)。各々〜10mlの画分に、1.0mlの
0.5Mのホウ酸ナトリウム(pH9.0)を添加して、毒素の安定性を改良し
た。最初のピークの物質は〜80kDa(SDS−PAGEから)のタンパク質
を含有する。このタンパク質自体は活性を示さないが、その活性はこの工程以後
はより不安定になるため(4℃での貯蔵と、その後のクロマトグラフィー工程と
の両方に対して)、Bracon 毒素を安定化しているようである。24から29分
の間に溶出する画分は、明白な活性を示し、活性のピークはピークの後半であっ
た(26〜29分)。陰イオン交換クロマトグラフィーによる濃縮のための準備
として、活性画分を合わせて(27ml)、50mMのホウ酸ナトリウム(pH
9.0)で100mlに希釈した。
サイズ除去クロマトグラフィーからの希釈したプールを、流速1.0ml/分
でFractogel EMD TMAE-650 カラム(0.5×5cm、25〜40μm粒径)上
に載せ、カラムを10mlの50mMホウ酸ナトリウム(pH9.0)でリンス
した。次いで、カラムを、さらに別の2.5mlの出発緩衝液、次いで50mM
のホウ酸ナトリウム(pH9.0)中0〜1MのNaClの37.5分の直線勾
配でリンスした。流速は0.5ml/分で、流出物は280nmで監視した。画
分を回収し(図5に示す通り)、麻痺活性について分析した。活性画分を合わせ
て、逆相クロマトグラフィーに付した。この活性プールは、「Bracon 毒素活性
物」と同定される。
上記からの活性プール(2ml)を、TFA中0.1%に調整してpHを低下
させ、水中および一定0.1%TFA中の5%アセトニトリルで平衡化した、Vy
dac C4カラム(300Å、4.6×50mm;The Separations Group)上に載
せた。ローディングの後、カラムを、水中、一定0.1%TFA中の20%アセ
トニトリルに付し、次いで、水中、一定0.1%TFA中の20〜80%のアセ
トニトリルの15分の直線勾配で展開した。流速は1ml/分で、流出物は22
0nmで監視し、画分はクロマトグラム上に示される通り回収した。画分4は、
配列番号1(16kDa毒素)を含むことが、SDS−PAGE(12.5%ア
クリルアミド)およびN−末端配列分析により決定された。画分4の質量スペク
トル分析は16,371±0.85の分子量を示した。約16μgの配列番号1
が12.88gの全スズメバチから回収された。
実施例3
配列番号2(30kDa毒素)の精製
配列番号2は、実施例2で記載した配列番号1を精製するために使用したのと
同一の操作により単離したが、但し配列番号2は最終クロマトグラフィー工程の
画分9に溶出した。配列番号2は30kDaの分子量を有することが、SDS−
PAGE(12.5%アクリルアミド)により決定された。約54μgの配列番
号2が12.88gの全スズメバチから回収された。SDS−PAGEはまた、
約20kDaのタンパク質が30kDaのタンパク質と同時に溶出することを示
した。一つのみの配列が、画分9のN−末端配列分析により判明し、その配列は
30kDaタンパク質のSDS−PAGE精製試料を分析することによって得ら
れた配列と一致した。
しかしながら、画分9について判明した質量(質量スペクトル分析により測定
した場合で、44,626.13±2.95)は予測されるものより高く、ゲル
上に見られた〜20kDaと〜30kDaのバンドはより大きなタンパク質のサ
ブユニットであるかもしれないことを示唆した。この理論は、試料を還元および
非還元の両方の条件下で(即ち、ゲル試料緩衝液中にβ−メルカプトエタノール
を含む場合と含まない場合で)泳動することによって確認された。還元条件下で
泳動した画分9の試料は、〜20および〜30kDaにおけるバンドを有する通
常のパターンを示した。還元剤なしで泳動した試料は〜40kDaの単一のバン
ドを示した。この結果を質量スペクトルデータと組み合わせると、画分9中のタ
ンパク質は、1:1の比率で存在する、2個のサブユニット、「20kDa」お
よび「30kDa」のタンパク質から構成されていることが示唆される。クロー
ニングされた30kDaのタンパク質は計算分子量28,203を有し、全体タ
ンパク質は44,626の分子量を有する。従って、「20kDa」タンパク質
は約16,423の分子量を有するはずである。
画分9と相同の試料を、4−ビニルピリジンで還元しアルキル化し(Methods
in Enzymology,182,p.599)、得られた2個のアルキル化タンパク質を、一定
0.1%TFA中の0〜80%アセトニトリル/水の直線勾配(4%/分)で溶
出する、Vydac C4カラム(4.6×50mm)上での逆相クロマトグラフィー
によって分離した。還元かつアルキル化されたタンパク質は、27分(30kD
aタンパク質)および30分(20kDaタンパク質)で溶出した。還元かつア
ルキル化された20kDaタンパク質の部分アミノ酸配列を得る試みは不成功で
あった。PVDF(イムモビロン−P)トランスファー膜への電気トランスファ
ーの後にSDS−PAGEゲルからのこのタンパク質の配列を決定する試みもま
た不成功であった。配列決定の失敗は、このタンパク質はN−末端でブロックさ
れていることを示唆している。
実施例4
18−1毒素の精製
18−1毒素は、実施例2に記載した配列番号1(16kDa毒素)を精製す
るために使用したものと同一の方法により単離したが、但し、18−1毒素は最
終クロマトグラフィー工程の画分6に溶出した。18−1毒素は18kDaの分
子量を有することが、SDS−PAGE(12.5%アクリルアミド)により決
定された。画分6の質量スペクトル分析は、18,687.63±1.61の分
子量を示した。約28μgの毒素が12.88gの全スズメバチから回収された
。
実施例5
18−2毒素の精製
18−2毒素は、実施例2に記載した配列番号1(16kDa毒素)を精製す
るために使用したものと同一の方法により単離したが、但し、18−2毒素は最
終クロマトグラフィー工程の画分7に溶出した。この毒素は18kDaの分子量
を有することが、SDS−PAGE(12.5%アクリルアミド)により決定さ
れた。画分7の質量スペクトル分析は、18,845.68±0.50の分子量
を示した。約18μgの18−2毒素が12.88gの全スズメバチから回収さ
れた。
実施例6
配列番号1(16kDa毒素)のN−末端アミノ酸配列決定
配列番号1(16kDa毒素)のN−末端アミノ酸配列分析は、Utah州立
大学のバイオテクノロジーセンターで行った。N−末端配列(配列番号5)を以
下に示す:
式中、Xaaは化学的配列決定によって決定されなかった残基を意味する。
実施例7
配列番号2(30kDa毒素)のN−末端アミノ酸配列決定
配列番号2(30kDa毒素)のN−末端アミノ酸配列分析は、Utah州立
大学のバイオテクノロジーセンターで行った。N−末端配列(配列番号6)を以
下に示す:
実施例8
18−1毒素のN−末端アミノ酸配列決定
還元かつ誘導体化された18−1毒素のN−末端アミノ酸配列分析は、Uta
h州立大学のバイオテクノロジーセンターで行った。N−末端配列(配列番号7
)を以下に示す:
各括弧中の2番目のアミノ酸は、配列決定操作中で少量成分として観察された
。これはこのタンパク質試料中に若干の異成分が存在することを示しているかも
しれない。
実施例9
18−2毒素のN−末端アミノ酸配列決定
18−2毒素ペプチドのN−末端アミノ酸配列分析は、Utah州立大学のバ
イオテクノロジーセンターで行った。配列(配列番号8)を以下に示す:
式中、Xaaは化学的配列決定によって決定されなかった残基を意味する。
実施例10
配列番号5(16kDa毒素NT)に相補的な縮重オリゴヌクレオチド
遺伝コードおよび入手可能なコドン利用データに基づいて、配列番号5(16
kDa毒素NT)をコードする核酸配列に相補的な縮重オリゴヌクレオチドを合
成した。オリゴヌクレオチド配列(配列番号9)を以下に示す。
式中、A=アデニン、T=チミジン、C=シトシン、G=グアニン、
Y=C又はT、R=G又はA、M=A又はC、そして
N=A又はG又はT又はC
実施例11
配列番号6(30kDa毒素NT)を目的とした縮重オリゴヌクレオチド
遺伝コードおよび入手可能なコドン利用データに基づいて、配列番号6(30
kDa毒素NT)をコードする核酸配列に相補的な2個の縮重オリゴヌクレオチ
ドを合成した。第1の縮重オリゴヌクレオチド配列(配列番号10)は残基1〜
7に相補的になるようにし、第2の縮重オリゴヌクレオチド(配列番号11)は
残基7〜16に相補的になるようにした。
式中、A=アデニン、T=チミジン、C=シトシン、G=グアニン、
I=イノシン、Y=C又はT、M=A又はC、そして
N=A又はG又はT又はC
実施例12
配列番号3(16kDa毒素cDNA)の単離
全RNAを、Chomczynski及びSacchi,Analytical Biochemistry 162,156(19
87)の方法によって単離した。簡単に言うと、毒管および付随する組織をグアニ
ジンチオシアネート中でホモジナイズした。ホモジナイズした組織を次いで水平
衡化フェノールおよびクロロホルムで、水相と有機相の界面がきれいになるまで
抽出した。水相をエタノールで沈殿させ、全RNAを遠心により回収した。ポリ
アデニル化RNA(mRNA)を、Pharmacia から購入したオリゴd(T)セル
ロースクロマトグラフィーキットを使用して単離した。
その後、50ナノグラムのmRNAをcDNAの合成のための鋳型として使用
した。15個のチミジン残基の列を含有し、さらにNotIエンドヌクレアーゼ
認識シグナルを含有するオリゴヌクレオチド(以下、d(T)15)をmRNAと
ハイブリダイズさせた。cDNAを、製造業者Bethesda Research Laboratories
(BRL)により規定された条件下でモロニーマウス白血病ウイルス逆転写酵素
によって合成した。
配列番号3(16kDa毒素cDNA)の選択的増幅は、オリゴヌクレオチド
d(T)15および実施例10に記載した配列番号9を使用して、Frohmanにより
記載されたPCR−PACE技術によって行った。Frohman,M.A.,PCR protoco ls
,ed.Innis et al.,Academic Press,San Diego,CA,(1990); PCR−R
ACEは、先の工程で得られたcDNAの1/4;最終2μMの配列番号5およ
びd(T)15;最終100μMの各デオキシヌクレオチド三リン酸;および4ユ
ニットのPerkin Elmerから購入したAmpliTaq DNAポリメラーゼを使用して行
った。最初に、2サイクルのポリメラーゼ連鎖反応を実施したが、各サイクルは
9
4℃で2分間の変性工程と、その後の40℃で2分間のプライマーアニーリング
工程と、72℃で1分間のプライマー伸長工程とを含む。この後に、95℃で1
分間の変性工程と、その後の56℃で1分間のプライマーアニーリング工程と、
72℃で1分間のプライマー伸長工程によるサイクルを28回実施した。
固定したPCR産物を1%NuSieve/0.5%Seakem 複合アガロースゲル(FM
C、Rockland、ME)上で視覚化した。得られた増幅されたcDNAをゲルから切
り出し、Geneclean(登録商標)キット(Bio101、Vista,Ca)中に供給されるガ
ラスミルク樹脂を使用して精製した。インサートを制限酵素NotIで切断し、
pSKベクター(Stratagene,La Jolla,Ca)をNotIおよびEcoRVで切
断した。次いで、cDNAをpSKベクター中に連結し、細菌株DH5αF’(
Life Technologies,Inc.,Gaithersburg,MD)に形質転換した。
確認されたcDNAサブクローンを使用して、当技術分野で周知の方法を使用
してcDNAライブラリーをスクリーニングした。完全なcDNA配列は配列番
号3(16kDa毒素cDNA)である。
実施例13
配列番号:4(30kDa毒素cDNA)の単離:配列番号:4(30kDa
毒素cDNA)を、実施例12に配列番号:3(16kDa毒素cDNA)につ
き記載したものと同じプロトコールで単離した。ただしPCR−RACEに用い
た縮重オリゴヌクレオチドは実施例10に記載したオリゴヌクレオチドではなく
、実施例11に記載した配列番号:10と配列番号:11であった。
実施例14
配列番号:3(16kDa毒素cDNA)を含む組換えバキュロウイルス:
配列番号:3(16kDa毒素cDNA)またはその修飾配列を含むプラスミド
を、このプラスミドからそのcDNAを放出させるエンドヌクレアーゼで消化す
る。次いで当技術分野で周知のいくつかの方法のいずれかを用いて、cDNAを
アガロースゲルに走行させ、それから単離できる。たとえばAaITトキシンの
発現に用いたバキュロウイルス発現ベクターを用いる場合、上記で用いたエンド
ヌクレアーゼにより残されるオーバーハングに応じて、cDNAをDNAポリメ
ラーゼIの大型フラグメントまたはT4 DNAポリメラーゼで粘着末端にする
。次いでBam HIリンカーをcDNAの両端に連結反応させる。次いで発現
ベクターpAcUW2(B)をBgl IIエンドヌクレアーゼで消化し、ウシ
腸アルカリホスファターゼまたは他のホスファターゼで脱リン酸化する。McC
utchen,B.F.ら,Bio/Technology 9,848−852(
1991)。次いで精製したこのBam HI結合した配列番号:3(16kD
a毒素cDNA)とpAcUW2(B)を連結反応させて、完成した配列番号:
3(16kDa毒素cDNA)発現ベクターを形成する。上記で用いた方法すべ
ての詳細な説明は、Maniatisら,Molecular Cloning ,a Laboratory Manual
,コールド・スプリング・ハーバー
.ラボラトリー,コールド・スプリング・ハーバー(1982)、または同様な
説明書にみられる。
次いでSf−9細胞(ATCC#CRL1711)をカルシウム沈殿法により
、配列番号:3(16kDa毒素cDNA)発現ベクターとポリヘドリン陰性の
オートグラファ・カリフォルニカ(Autographa californic
a)
核多面化(polyhedrosis)ウイルス(AcNPV)DNA、たとえ
ばRP8伝達ベクターとで、同時トランスフェクションする。Matsuura
ら,J.Gen.Virol 68:1233−1250(1987)。トラン
スフェクションの5日後に上清を分離し、プラーク精製する。相同組換えされた
組換えバキュロウイルスがポリヘドリン陰性プラークを形成する。これをSum
mersおよびSmithの方法に従って単離し、精製する。Summers,
M.D.およびSmith,G.E.,Texas Agricultural
Experimental Station Bulletin,1555,1
−56(1987)。
精製した組換え体プラークを、次いで生物学的活性につき調べる。増殖中のS
f−9細胞に組換えバキュロウイルスを、実験により決定した1:1〜1:10
0の感染多重度で感染させる。感染後7日目に上清を採集する。ペレット化した
細胞を1%SDSに再懸濁し、5分間、渦撹拌して、多面体を分離する。3回洗
浄したのち、ウイルス力価を測定する。約1×106プラーク形成単位の組換え
体を幼虫に注射し、配列番号:3(16kDa毒素cDNA)をコードするウイ
ルスの毒性を、同様に処理した野生型バキュロウイルスと対比して測定する。経
口感染は、同様な量の組換えおよび野生型バキュロウイルスを幼虫の餌に接種し
てそれらの相対的作用を観察することによりアッセイする。
実施例15
配列番号:4(30kDa毒素cDNA)を含む組換えバキュロウイルス:
配列番号:4(30kDa毒素cDNA)またはその修飾配列を含む組換えバキ
ュロウイルスを、配列番号:3(16kDa毒素cDNA)に用いた実施例14
に記載した方法で構築する。
実施例16
複数のコマユバチ属(Bracon)毒成分を含む組換えバキュロウイルス:
配列番号:3(16kDa毒素cDNA)および配列番号:4(30kDa毒素
cDNA)を含む組換えバキュロウイルスを、実施例14に記載した方法で構築
する。ただし、インビトローゲンから入手した市販のベクターp2Bacを用い
る。
実施例17
セリンプロテアーゼ阻害薬で処理することによるコマユバチ毒液画分の麻痺活 性の阻害
: ペファブロック(Pefabloc(登録商標)SC)(フッ化p
−アミノエチルベンゼンスルホニル)は、トリプシン様およびキモトリプシン様
の酵素を選択的に阻害する水溶性の不可逆的セリンプロテアーゼ阻害薬である。
30kDaタンパク質の一次配列(配列番号:2)のいくつかの領域が既知のセ
リンプロテアーゼの一次配列に類似していたので、プロテアーゼ活性がこの毒素
の麻痺作用にとって重要であるか否かを判定するための阻害実験を行った。
“コマユバチ毒素活性物質”(表1)の試料を緩衝液(50mMホウ酸ナトリ
ウム、0.1M塩化ナトリウム、pH9.0)または同一緩衝液中のペファブロ
ックSC 2mg/mlと共に、0℃で4時間インキュベートした。次いでこれ
らの溶液をヘリオディス・バイレッセンス(Heliothis viresc
ens)に注射し(5μl)、48時間後に結果を記録した。対照“コマユバチ
毒素活性物質”を注射した幼虫6匹中5匹は麻痺したが、ペファブロックSCで
処理した“コマユバチ毒素活性物質”を注射した幼虫は影響を受けなかった(8
匹中8匹)。緩衝液中のペファブロックSC(試料中に“コマユバチ毒素活性物
質”が含まれない)を注射した幼虫も影響を受けなかった(6匹中6匹)。これ
は、30kDa毒素の酵素活性がコマユバチ毒の麻痺作用にとって重要であるこ
とを強く示唆する。
実施例18
哺乳動物系に対するコマユバチ毒液画分の毒性: 70℃で冷凍することによ
り殺した雌のコマユバチ属のハチ(ブラコン・ヘベター、Bracon heb
etor)から毒腺/溜めおよび付随する構造体を切除した。この切除組織試料
24mgをリン酸緩衝−生理的食塩水、pH6.5(PBS)500μlに懸濁
し、音波処理により破壊した。得られたホモジェネートをミクロ遠心機により1
3,000rpmで10分間遠心し、上清を0.2μの精密濾過により滅菌した
。クロマトグラフィー開始前の組織ホモジナイゼーション、遠心分離および濾過
の各工程は、氷上で、または4℃の恒温で実施された。
幼虫1匹当たり5μlの投与量で、この抽出物はタバコバッドワーム(tob
acco budworm,TBW、芽を食害する鱗翅目昆虫の幼虫)およびビ
ートアワヨトウガの幼虫を注射後30分以内に不可逆的に麻痺させた(n=3;
被験幼虫はすべて麻痺したが、5μlのPBSを注射した対照幼虫は影響を受け
なかった)。次いで抽出物を1:50に希釈し、ラット海馬切片において電気生
理学的アッセイ法により試験した。この方法は哺乳動物ニューロンに対する多様
な作用の検出が可能である。抽出物希釈液100μlはこのアッセイ法では影響
を示さない。活性を確認するために、残りの抽出物希釈液をTBWにおいて試験
した。幼虫に15μlまたは3μlの抽出物を注射し、対照には15μlのPB
Sを注射した。15μlの投与量は24時間以内に4匹中2匹の幼虫を麻痺させ
、一方、3μlの投与量は24時間以内に4匹中2匹の幼虫に摂餌阻害を起こし
た。対照は影響を受けなかった。したがって、約12匹のTBW幼虫を麻痺させ
るのに十分な量の物質がラット海馬脳切片アッセイ法において作用を示さなかっ
た。
第2の実験では、切除した毒腺/溜めおよび付随する組織の試料130mgを
1mlのPBS(pH6.5)に懸濁し、前記にしたがって処理した。この抽出
物の1:10希釈液を幼虫1匹当たり10μlの投与量で注射したところ、24
時間以内に4匹中2匹のTBW幼虫を不可逆的に麻痺させた。雄スイス−ウェブ
スターマウス2匹(それぞれ約25g)に、希釈していない抽出物をマウス1匹
当たり5μlの量で脳室内注射により投与した。マウスは注射後約15分間はわ
ずかに不活発に見えたが、聴覚刺激に対して正常に反応した。注射後1時間以内
に、マウスは正常な活動水準に戻り、それ以上の影響は認められなかった。した
がって、10匹以上のTBW幼虫を麻痺させるのに十分な量でコマユバチ毒腺抽
出物を脳室内投与しても、マウスには有意の影響がなかった。
哺乳動物毒性に関する他の一連の試験で、コマユバチ属のハチ(ブラコン・メ
リター、Bracon mellitor)からの高度に精製した毒液画分をT
BWで試験し、次いで哺乳動物毒性の可能性につき試験した。これらの画分を以
下の順序で調製した。摘出した雌腹部の抽出物を、本明細書の他の箇所にブラコ
ン・ヘベター抽出物の分画につき記載したものと同様な方法で、固定化金属(銅
)アフィニティクロマトグラフィーにより分画した。この分離で得た画分4(C
4)(大部分の生物学的活性を含む)を、本明細書の他の箇所にブラコン・ヘベ
ター
抽出物の分画につき記載したものと同様な方法で、アニオン交換クロマトグラフ
ィーによりさらに分画した。アニオン交換分離で得た画分4(A4)(大部分の
生物学的活性を含む)を、下記に従って疎水性相互作用クロマトグラフィーによ
りさらに分離した。試料を、1M NaClを含有する50mM一塩基性リン酸
ナトリウム(pH8.1)中でベーカーHIプロピルカラム(4.6×250m
m)に装填した。溶離緩衝液“A”はNaClを追加しない装填緩衝液であり、
溶離緩衝液“B”は2M NaClを含有する緩衝液“A”であった。したがっ
て装填緩衝液は“A”と“B”の1:1混合物であった。上記の画分を装填した
のち、溶離緩衝液中の“A”の割合を50%から100%まで20分かけて高め
た。280nmでの吸収に基づいて画分を採集した。この分離で得た画分1と3
(それぞれC4/A4/H1とC4/A4/H3)は、PBS中に1:4希釈し
たのち幼虫1匹当たり5μlの投与量で注射した場合、TBW幼虫において麻痺
性であった。注射後24時間目にC4/A4/H1は5匹中4匹の幼虫を麻痺さ
せ、一方、C4/A4/H3は5匹中3匹の幼虫を麻痺させ、対照は影響を受け
なかった。
この殺虫活性を確認したのち、これらの画分を哺乳動物毒性につき試験した。
各画分の試料(全濃度、1:4希釈液ではない)100μlをラット海馬切片に
おいて電気生理学的アッセイ法により試験した。影響は認められなかった。TB
Wにおける1:4希釈アッセイの結果から判断して、100μlの原液は50〜
60匹の幼虫を麻痺させるのに十分なはずである。これは、ブラコン・メリター
画分の有効成分が昆虫に高度の選択性をもつことを示唆する。C4/A4/H1
については、全細胞電圧固定−心筋細胞においても試験した。未希釈原液(海馬
アッセイ法で試験したもの)50μlを筋細胞アッセイ(全容量5ml)に用い
た。この量は約30匹のTBW幼虫を麻痺させるのに十分なものであったが、筋
細胞に影響がなかった。同様にこれはコマユバチ属の殺虫毒素が昆虫に高度の選
択性をもつことを示唆する。
実施例19
コマユバチ毒液成分をコードするcDNA配列を含む組換えバキュロウイルス の構築
: 実施例17に、ブラコン・ヘベターから得た高度に精製した毒素画分
の麻痺活性が、この画分をセリンプロテアーゼの選択的阻害薬に暴露することに
より阻害されることを述べた。この結果は、既知のセリンプロテアーゼと一定の
類似性をもつ30kDaタンパク質がこの画分の麻痺活性に必要であることを示
唆する。しかしその麻痺活性を保存した状態で単一成分を精製することはできな
かったので、麻痺活性には複数の成分が要求されるという可能性を調べる必要が
あった。したがってオートグラファ・カリフォルニカ核多面化ウイルス(AcM
NPV)を用いて2種類の組換えバキュロウイルス構築体を製造した。以下にお
いて“vAc30k”と呼ぶ第1のものは、30kDa cDNA(配列番号:
4)のみをポリヘドリンプロモーターの制御下に含んでいた。以下において“v
Ac30k/16k”と呼ぶ第2のものは、30kDa cDNAを同様にポリ
ヘドリンプロモーターの制御下に含み、かつ16kDa cDNA(配列番号:
3)をp10プロモーターの制御下に含んでいた。p10プロモーターはポリヘ
ドリンプロモーターと同様にきわめて遅い、きわめて強力なプロモーターであり
、殺虫毒素および他の外因性タンパク質を発現するために用いられている。
毒素cDNAを二重プロモーターベクターp2Bac(インビトローゲン)内
へクローン化した。30kDa cDNAはポリヘドリンプロモーターの後にE
coRI(MBR)制限部位を用いてクローン化され、16kDa cDNAは
p10プロモーターの後にSrf I(ストラタジーン)およびXba I(M
BR)制限部位を用いてクローン化された。目的とするこれらの挿入配列の存在
および適切な配置を、制限酵素による消化および得られた二本鎖DNAフラグメ
ントの配列決定により確認した。
伝達ベクタープラスミドをSF9細胞内へ、1μgのAcMNPVウイルス性
DNAおよび2μgのプラスミドDNAの混合物と共に、Summersおよび
Smith,“バキュロウイルスベクターに用いる方法および昆虫細胞培養法の
手引き”,Texas Ag.Exp.Bull.,1555:1(1988)
のプロトコールを用いて同時トランスフェクションした。トランスフェクション
の4日後に細胞上清の希釈液を、5×106個の細胞を接種して指示薬としての
ブルオガル(Bluo−gal、BRL)(β−ガラクトシダーゼ基質)を含有
するアガロースで覆った100mmの平板上にプラーク形成させた。5〜6日以
内に組換え体はそれらの淡青色によって検出可能となった。プラークをパスツー
ルピペットで採取し、1mlの培地中へ溶離させた。これらの溶離物を、T−2
5フラスコ中へ接種したSf9細胞の感染に用いた。感染後3日目に16種類の
異なる培養物(vAc30kを感染させたもの8種類、およびAc30k/16
kを感染させたもの8種類)から少量の上清を採取して、ウイルスDNAの調製
に用いた。ポリヘドリン遺伝子およびp10遺伝子の両方を囲む領域に由来する
ウイルス特異的プライマーを用いるPCR増幅により、すべての単離体が適切な
大きさの挿入配列を含み、野生型の混入はないことが確認された。挿入したcD
NA配列に特異的な内部オリゴヌクレオチドとのサザーンハイブリダイゼーショ
ンにより、適切な毒素遺伝子の存在が確認された。
実施例20
コマユバチ毒液成分をコードするcDNA配列を含む組換えウイルスの生物学 的活性
: 最良の組換えウイルスを確実に選択するために、生物学的アッセイ法
を用いた。それぞれの組換え試料から得た力価未定のウイルス上清20μlを第
5齢TBW(n=4)に注射した。対照には等容量の組織培養培地を注射した。
個々のペトリ皿に餌(飼育に用いた実験用飼料)と共に幼虫を入れ、定期的に調
べた。注射後96時間目までに、vAc30k/16kで処理した幼虫の97%
およびvAc30kで処理した幼虫の19%が麻痺した。これらの幼虫が示す麻
痺の徴候はコマユバチ毒液中毒に伴うものときわめて似ていた。麻痺は弛緩型の
ものであって、随意運動機能(たとえば立ち直り/回避反応)が阻害されたのに
対し、不随意機能、たとえば呼吸器収縮および背管(心臓)収縮は影響を受けな
いように思われた。この時点で進行性ウイルス感染、たとえば全体的変色、吐き
戻し、体壁統合性喪失などの有意の徴候はなかった。注射後120時間目までに
は、vAc30k/16kで処理した幼虫のすべて、およびvAc30kで処理
した幼虫の1試料群以外のすべてが麻痺した。vAc30k/16kで処理した
幼虫の多くがもはや生命の可視徴候を示さなかったが、進行性ウイルス感染の有
意の徴候は依然として示さなかった。対照幼虫は影響を受けなかった。このアッ
セイおよび同様なアッセイの結果に基づいて、高力価原液の調製用としてそれぞ
れの構築体の1クローンを選択した。
まずvAc30k/16kのみが高力価原液として得られた。これをwt−A
cMNPVおよび等容量の組織培養培地と比較して試験した。第5齢TBW幼虫
(n=10)に、vAc30k/16kまたはwt−AcMNPVを幼虫1匹当
たり105PFUの投与量で注射した。対照幼虫には等容量の組織培養培地を注
射した。注射後96時間目までに、vAc30k/16kで処理した幼虫の半数
が麻痺した。120時間目までに、vAc30k/16kで処理した幼虫のすべ
てが麻痺したのに対し、wt−AcMNPVで処理した幼虫のうち1匹が死んだ
にすぎない。組織培養培地で処理した幼虫は影響を受けなかった。上記のように
、vAc30k/16kで処理した幼虫に見られた麻痺はコマユバチ毒液および
毒液画分により起こるものときわめて似ており、進行性ウイルス感染の有意の徴
候が認められる前に見られた。wt−AcMNPVによる死亡率は、注射後16
8時間目まで100%に達せず、一方、組織培養培地で処理した幼虫はいかなる
時点でも影響を受けなかった。これは、vAc30k/16kが匹敵する野生型
ウイルスより速やかにTBW幼虫を不能にすることを明瞭に示す。
他のアッセイでは、vAc30kおよびvAc30k/16kを第5齢TBW
幼虫において、wt−AcMNPVおよびポリヘドリン陰性組換え体(pol−
AcMNPV)と、幼虫1匹当たり105PFUの投与量で比較した。対照には
等容量の組織培養培地を注射した。注射後120時間目までに、vAc30kお
よびvAc30k/16kはそれぞれ91.7%および75%を麻痺させた。こ
れに対し、wt−AcMNPVは25%の死亡率を生じたにすぎず、pol−A
cMNPVはまだ可視作用を生じなかった。注射後144時間目までに、vAc
30kおよびvAc30k/16kで処理した幼虫のすべてが麻痺し、一方、w
t−AcMNPVおよびpol−AcMNPVはそれぞれ91.7%および16
.7%の死亡率を生じた。注射後168時間目までに、wt−AcMNPVおよ
びpol−AcMNPVで処理した幼虫のすべてが死亡または麻痺した。対照昆
虫はいかなる時点でも可視的影響を受けず、すべてが注射後144時間目まで正
常に蛹化した。前記のように、vAc30kおよびvAc30k/16kで処理
した幼虫は麻痺し、進行性ウイルス感染の影響(変色、体液滲出など)を示し始
める24〜48時間前に典型的な一組の症状(弛緩麻痺など)を示した。
これらの実験は、ヘリオディス・バイレッセンスではvAc30kまたはvA
c30k/16kへの感染により、コマユバチ毒液または毒液画分の注射に伴う
症状といちじるしく似た症状を生じることを明瞭に証明する。wt−AcMNP
Vまたはpol−AcMNPVはいずれもこのような症状を生じることなく、ま
たこれらのウイルスは感染昆虫を上記の組換え体のように速やかに不能にするこ
とはなかった。したがって組換え体で処理した幼虫のこれらの麻痺症状およびよ
り速やかな不能作用の発現は、組換え体において外因性遺伝子が発現したことに
起因するにちがいない。これは、少なくとも30kDaのタンパク質がコマユバ
チ毒液および毒液画分の注射により起こる麻痺に直接に関係することを強く示す
。発現効率、分泌効率、翻訳後プロセシングなどを改良すると組換え体の生物学
的活性がさらに高まると期待できる。種々の毒液成分を組み合わせることによっ
ても、改良された生物学的活性をもつ組換え体が得られるであろう。
概要
本発明は、コマユバチ属のブラコン・ヘベターその他の種のハチから単離した
、有害昆虫に対する神経毒性を特色とする殺虫性毒素に関する。殺虫効力を示す
少量の、これらの毒素を含有する毒液画分を特定の昆虫に投与すると、昆虫は麻
痺するか、または死ぬ。
前記のように本発明はまた、常用される組換えDNA技術を利用してこれらの
毒素をクローニングすることに関する。これらの毒素のひとつのアミノ酸配列で
ある配列番号:2(30kDa毒素)は、既知のセリンプロテアーゼと相同性を
もつ。
また本発明は、前記毒素を殺虫剤として用いるために修飾または改良する方法
を提供する。さらに本発明は、これらの毒素を有害昆虫駆除のための薬剤として
使用する用途に関する。既知の組換え技術による方法を利用して、これらの毒素
を大量に得ることができる。これらの毒素を工学的に発現ベクターに挿入し、次
いでこれを原核宿主、たとえば大腸菌(E.coli)、または真核宿主、たと
えば昆虫細胞に挿入することができる。次いで単離したタンパク質を、有害昆虫
から保護したい植物や動物に直接に適用できる。
別法として前記のように毒素を昆虫の天然病原体、たとえばバチルス属(Ba
cillus)菌またはバキュロウイルスに工学的に挿入してもよい。この組換
え病原体を利用して上記ペプチドを直接に有害昆虫に伝達できる。これらの工学
的に処理した病原体はいちじるしく増大した毒性を示す。
本発明はその本質的な特徴から逸脱することなく他の具体的態様で実施できる
。前記の態様はすべての点で例示であり、限定ではないとみなすべきである。し
たがって本発明の範囲は以上の記載ではなく請求の範囲の記載により示される。
請求の範囲の記載が意味するものおよび範囲に含まれる変更はすべて本発明の範
囲に包含される。
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(72)発明者 クラル,ロバート・エム
アメリカ合衆国ユタ州84111,ソルト・レ
イク・シティ,サウス・デンヴァー・スト
リート 1001
(72)発明者 クラプチョ,カレン
アメリカ合衆国ユタ州84109,ソルト・レ
イク・シティ,サン・ラファエル・アベニ
ュー 3840