【発明の詳細な説明】
グアーの形質転換
発明の技術分野
本発明は、シアモプシス(Cyamopsis)属のマメ科植物の形質転換法、再生法
および選択法、詳しくはグアー〔シアモプシス・テトラゴノロバ(Cyamopsis te
tragonoloba)〕のアグロバクテリウム(Agrobacterium)仲介形質転換;上記方
法で作製される遺伝的に修飾された植物、ならびにグアーおよび他の植物の形質
転換を促進するβ−ラクタマーゼ阻害剤のスルバクタム(sulbactam)のような
物質の使用に関する。
発明の背景
マメ科植物の形質転換
ファバセエ(Fabaceae)〔レグミノセ(Leguminosae)〕科は、世界で最も重
要な双子葉植物の科である。その経済的な重要性のため、遣伝子工学によって栽
培特性を改良するのに多大の努力がなされている。
アグロバクテリウム仲介形質転換は、植物中に遺伝子を転移させるのに通常用
いられる方法である。現在までアグロバクテリウムによって形質転換を行って成
功している植物種は専ら双子葉植物であるが(単子葉植物とは対照的に)、すべ
ての双子葉植物が容易に形質転換されるわけではない。
いくつかの植物の科例えばソラナセエ(Solanaceae)科は、アグロバクテリウ
ム仲介遺伝子転移を行うのに特に好適であることが示されているが、他の科の例
えばファバセエ科は扱いにくいことはよく知られている。
形質転換大豆植物〔グリシネ・マックス(Glycine max)〕の作製は各種の方
法で試みられている。葉とプロトプラストが外植片源として使用されているが、
この方法で形質転換植物への再生は全く達成されていない。アグロバクテリウム
・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)を接種した大豆の子葉は形
質転換植物になったが、この方法では、試験を行った多数の遺伝子型のうち1種
しか形質転換に成功しなかった(Hincheeら、Bio/Technology,6巻、915頁、198
8年)。国際特許願公開第WO94/02620号には、胚軸または子葉節を用いて形質転
換大豆植物を作製する方法、ならびに特定の温度、pH値およびアグロバクテリウ
ムの濃度を含めて、大豆の形質転換を行うため特別にデザインした一連のステッ
プが記載されている。
しかし、外植片として子葉を使用することは、一般にマメ科植物の形質転換に
は利用できず、ほとんどの場合、他の外植片源が使用されている。例えばエンド
ウ豆〔ピスム・サティブム(Pisum sativum)〕を形質転換するのに、苗条(Sho
ot)培養物および苗(Seedling)の上胚軸由来の外植片を外植片として利用して
用い、形質転換カルスは6ヶ月後に植物に再生した(Puonti-Kaerlasら、Plant C
ell Rep.,8巻、321頁、1989年)。
シロツメクサ〔トリフォリウム・レペンス(Trifolium repens)〕を形質転換
するため、苗条の先端にアグロバクテリウムを接種して形質転換植物が得られた
(Voiseyら、Plant Cell Rep.,13巻、309頁、1994年)。
その他いくつものマメ科植物を形質転換する試みがなされてきた。例えはファ
セオルス・ブルガリス(Phaseolus vulgaris)の子葉節および胚軸をアグロバク
テリウム・ツメファシエンスとともにインキュベートした結果、形質転換カルス
が得られたが形質転換植物は得られなかった(McCleanら、Plant Cell,Tissue
& Org.Cult.,24巻、131頁、1991年)。ビグナ(Vigna)属の場合も同様であっ
た(Garciaら、Plant Science,48巻、49頁、1986年)。落花生〔アラキス・ハ
イポガエア(Arachis hypogaea)の形質転換植物は、かなりの努力がなされてい
るにもかかわらず報告されていない。
本発明の発明者らは、Hincheeらが報告している大豆子葉法を用いてグアーの
形質転換を試みてきたが成功しなかった。他の研究者らが報告している結果とと
もに、上記のことは、マメ科植物の形質転換法の選択は全く経験的なものであり
、広く科学に基づいたガイドラインを導き出すことができないことを示している
。したかって、マメ科植物の形質転換法と形質転換に用いる外植片源は、対象の
属、種または遺伝子型の特別の必要条件にしたがって開発されなければならない
。
各種のマメ科植物の形質転換植物を得るため行われた多くの試みは、マメ科植
物の形質転換は当該技術分野の熟達した科学
者らにさえ非常に難しいことを明確に示している。このことは、商業上重要な約
100種のマメ科植物の種のうち5より少ない種しか形質転換されていないという
事実によってさらに立証されている。したがって、今まで形質転換されていない
マメ科植物の属または種の形質転換の成功は、常套手段以外の方法による。
グアー
グアー(シアモプシス・テトラゴノロバ)は、種子のガラクトマンナン含量が
高いため商業上非常に重要なマメ科植物である。またグアーのガラクトマンナン
は、グアーガムとして知られ、食品と非食品の両者の増粘剤として用いられてい
る。
ガラクトマンナンは胚乳中に見られ、種子の乾燥重量の約35%を占めており、
80〜90%が純品のガラクトマンナンである。ファバセアエ科植物の場合、大きな
胚乳は異常な形態であり、種子の胚乳部分はほとんどないかまたは未発達のまま
である;かわりに、豆果の発芽のための栄養貯蔵物は大きくなった子葉中に堆積
されることが最も多い。
多量のガラクトマンナンを含有する胚乳を有するマメ科植物の種が、遺伝子的
に形質転換されたという報告は全くない。
スルバクタム
アグロバクテリウム仲介遺伝子転移の固有の欠点は、細菌が形質転換を行った
後も生長し続ける事実である。植物構成要素の過剰生長を防ぐため、細菌は、通
常ペニシリン様抗生物質(β−ラクタム)例えばカルベニシリン、セホタキシム
などを添加することによって有効に除去しなければならない。
ペニシリン様物質は、原則的に植物組織に対して無毒性なために選ばれている
。しかし、実際には、これらの化合物は、外植片に対してかなりの毒作用をしば
しば発揮する。おこりうる直接の毒性作用は別として、植物に有害な可能性があ
る1つの理由は、抗生物質が、細菌と植物組織の両者の存在下での長いインキュ
ベーション期間中に徐々に分解することであろう。望ましくない分解生成物の例
は、ごく普通に用いられる抗生物質のカルベニシリン由来のものであり、それは
フェニル酢酸に分解される。フェニル酢酸はオーキシン様特性を有しているので
結果として外植片上にカルスの生長を増大させ、次に再生を損なうかもしれない
。
したがって、一層少量の抗生物質および/またはかような望ましくない副作用
がない抗生物質を使用できることが非常に望ましい。本発明の発明者らは、グア
ーの形質転換に関する研究の過程で、β−ラクタマーゼ阻害剤のスルバクタムが
ペニシリン様物質の必要濃度を劇的に低下させ、それにより形質転換の効率が改
善され、かつコストが著しく減少することを発見したのである。
アグロバクテリウムの生長を制御するこの新規な方法は、形質転換中には常に
除去しなければならない細菌に関連があるから一般に植物の形質転換に利用する
ことができ、したがっていずれの特定の植物の種に限定されない。
発明の簡単な説明
1つの態様で、本発明は、シアモプシス属の遺伝的に修飾された植物またはそ
の部分に関し、前記植物または植物の部分は、そのゲノムに少なくとも1つの組
換えDNA配列を含有している。
本発明の別の態様は、シアモプシス属の遺伝的に修飾された植物またはその部
分を作製する方法であって、組換えDNA配列を少なくとも1つの細胞またはプロ
トプラスト中に導入し、次いでオーキシン阻害剤、β−ラクタマーゼ阻害剤およ
びエチレン阻害剤から選択される少なくとも1種の化合物を含有する少なくとも
1つの選択培地または苗条生長培地を用いて遺伝的に修飾された外植片を生成さ
せて、少なくとも1つの組換えDNA配列をそのゲノム中に含有する遺伝的に修
飾された植物またはその部分を得るステップからなる方法に関する。
本発明の別の態様は、細胞、プロトプラスト、カルスまたは植物の部分の選択
または生長に用いる少なくとも1つの培地が、実質的に植物の生長を調節する作
用または植物に対する毒性作用なしで、細菌の生長を阻害するかまたは細菌の生
長阻害剤の作用を増大する少なくとも1種の物質を含有している、遺伝的に修飾
された植物の作製方法に関する。
さらに別の態様で、本発明は、形質転換種子を産生することが可能で、かつ試
験管内で培養された遺伝的に修飾された苗条を非試験管内で栽培された植物に接
木することによって得られるキメラ植物に関する。
発明の詳細な開示
本願の明細書中の用語“遺伝的に修飾された植物”および“形質転換植物”は
、当該技術分野でこれらの用語が一般に理解されている意味を有し、すなわちそ
のゲノムが少なくとも1つの組換えDNA配列を含有しているような方法で変化さ
れた植物を意味する。“組換えDNA配列”は一般に、植物中で、発現させること
ができるかまたは遺伝子の発現に影響する配列であるが、例えは必ずしも発現さ
れないかまたは遺伝子の発現に影響せずにマーカーとして役立つ配列であっても
よい。発現されるかまたは遺伝子の発現に影響する配列は、しばしばその天然型
の対象の植物に対して外来性の遺伝子であるが、例えばわずかに変化した形態の
天然遺伝子または例えば天然遺伝子の発現を変化させるプロモーター配列もしく
はレギュレーター配列でもよい。ここで開示される、遺伝的に修飾された植物を
作製する方法は、一般に遺伝的形質転換を目的とし、かついずれかの特定の範疇
のDNA配列の組込みに限定されない。
用語“植物の部分”は、一般に任意の植物の部分例えば組織または器官を意味
し、すなわち完全な植物ではなく、未分化のカルスならびに分化した植物の部分
、例えば苗条、葉、根、果実、種子などを含む。
上記のように、本発明は詳しくはシアモプシス属の遺伝的に修飾された植物に
関し、さらに詳しくは、シアモプシス・テトラゴノロバ種の植物(グアー)に関
する。遺伝的に修飾されたシアモプシスの植物は上記の方法、すなわち第1ステ
ップが組換えDNA配列を少なくとも1つの細胞またはプロトプラストに
導入する方法によって作製し得る。組換えDNAの導入は、例えばエイ・ツメファ
シエンスのTi−プラスミドまたはエイ・リゾゲネス(A.rhizogenes)のRi−プ
ラスミドをベクターとして用いるアグロバクテリウム仲介転移を含む遺伝子工学
で処理された植物の作製に普通に用いられる方法、ならびに例えばマイクロイン
ジェクション、エレクトロポレーションまたは粒子衝撃によって達成することが
できる。好ましい方法(後記諸実施例で記載)はアグロバクテリウム仲介遺伝子
転移法である。以下に説明するように、使った子葉が比較的長期間たとえば11〜
12日間発芽させた種子由来の子葉でも、アグロバクテリウム・ツメファシエンス
を用いて子葉を形質転換することによって良好な結果を得た。
選択された植物構成要素(例えば組織、細胞またはプロトプラスト)に所望の
組換えDNAを導入した後、遺伝的に修飾された外植片を、オーキシン阻害剤、β
−ラクタマーゼ阻害剤およびエチレン阻害剤から選択される少なくとも1種の化
合物を含有する少なくとも1つの選択または苗条生長培地を用いて生成させる。
というのは、選択および/または苗条生長培地中におけるこれらの化合物の1以
上の存在により、カルスが少なくなり、再生される形質転換苗条の頻度が増大す
ることが見出されたからである。選択培地は少なくともオーキシン阻害剤とβ−
ラクタマーゼ阻害剤を含有し、そして苗条生長培地は少なくともβ−ラクタマー
ゼ阻害剤を含有していることが好ましい。選択培地はオーキシン阻害剤、β−ラ
クタマーゼ阻害剤およびエ
チレン阻害剤を含有し、そして苗条生長培地はオーキシン阻害剤とエチレン阻害
剤を含有していることがさらに好ましい。
阻害剤(オーキシン阻害剤、β−ラクタマーゼ阻害剤、エチレン阻害剤)は、
それぞれの化合物を除くかもしくはその量を減少させることによって(すなわち
化合物の生合成を阻害するかもしくは化合物を分解することによって)または化
合物の作用を阻害することによって機能する。特定の理論に拘束されたくないが
、阻害剤の作用は、少なくとも一部分は、抗オーキシン作用または“オーキシン
様”作用の阻害に関連していると考えられる。なぜならば、オーキシンの存在に
よりカルスの生長が増大し、それにより苗条の再生と形質転換苗条の単離の頻度
が少なくなるからである。これは明らかにオーキシン阻害剤として直接機能する
これら化合物の実情を示している。β−ラクタマーゼ阻害剤については、スルバ
クタムの1つの推定される作用が分解生成物のフェニル酢酸(抗生物質のカルベ
ニシリン由来)の除去であるという例で先に説明したが、望ましくないオーキシ
ン様特性をもつフェニル酢酸はカルスの生長を増大させる。同様に、おそらく生
長中の苗条の早期老化を防止する働きをするエチレンに対するその直接作用に加
えて、エチレン阻害剤はエチレンがオーキシン応答と関連があることが知られて
いる事実のために、有益な作用を有していると考えられる。オーキシン阻害剤お
よびエチレン阻害剤の使用は利用される遺伝子転移の型にかかわらず、例えば、
アグロバクテリウム仲介転移のような細菌仲介転移ならびにマイクロインジェク
ション、
エレクトロポレーションおよび粒子衝撃のような他の方法に有利であるが、β−
ラクタマーゼ阻害剤の使用は、アグロバクテリウムまたは他のβ−ラクタマーゼ
産生細菌株による遺伝子転移を利用する方法に特に適している。
好ましいオーキシン阻害剤は2−(p−クロロフェノキシ)−2−メチルプロ
ピオン酸(PCIB)であり、これは濃度が約0.01〜10mg/l、一般に約0.05〜5mg
/l例えば約0.1〜2mg/lで選択培地および任意に苗条生長培地にも用いること
ができる。使用可能な他のオーキシン阻害剤は、例えば2,3,5−トリヨード安息
香酸(TIBA)、N−ナフチルフタルアミド酸(NPA)、モルファクチン類、2,4,6
−トリクロロフェノキシ酢酸および7−クロロインドール酢酸である。
好ましいβ−ラクタマーゼ阻害剤はスルバクタムである(Pfizer社から商品名
Betamazeで入手できる)。スルバクタムは濃度が約10〜1000mg/l、一般に約20
〜500mg/l、例えば約50〜200mg/lで選択培地または苗条生長培地に用いるこ
とができる。
好ましいエチレン阻害剤はチオ硫酸銀であり、濃度が約50μMまで、一般に約
0.1〜10μM、例えば約0.5〜5μMで選択培地または苗条生長培地に一般に用い
られる。使用できる他のエチレン阻害剤は、例えばアミノエトキシビニルグリシ
ン(AVG)、コバルトおよびノルボルネオールである。
上記の諸化合物に加えて、特定の他の化合物も、選択および/または苗条生長
培地に使用すると有益な作用があることが見
出された。例えば、ニッケル塩を選択培地に加えると形質転換の頻度が改善され
ることが見出されている。したがって、選択培地はニッケル塩例えばNiCl2、6H2
Oを、例えば濃度が約0.1〜10mg/l、例えば0.5〜5mg/lで含有していることが
好ましい。ベンジルアデニンプリン(BAP)も改善された結果を導くことが見出
されている。したがって、選択培地はBAPを濃度約0.1〜10mg/l、例えば1〜5mg
/lで含有していることが好ましい。またBAPは、苗条生長培地中、類似の濃度
で存在していてもよい。
カナマイシンが、例えば硫酸カナマイシンの形態で濃度約50〜300mg/l、一
般に約100〜200mg/l、例えば約130〜160mg/lで選択培地中に存在していると
、挿入されたDNA配列がカナマイシン耐性遺伝子を含有している場合有益な作用
を有していることも示されている。外植片、一般に収穫した苗条由来の外植片を
、第1選択培地よりカナマイシン濃度が低い、好ましくは125mg/l以下、一般
に20〜100mg/l、例えば30〜70mg/lの第二選択培地に移すと良好な結果が得
られることも見出されている。同様に、他のアミノグリコシド抗生物質、例えば
ハイグロマイシン、ネオマイシン、ストレプトマイシンおよびゲンタマイシンも
、関連する抗生物質耐性遺伝子を含有する挿入DNA配列とともに選択培地中に利
用することができる。他の選択剤、例えば除草剤または正の選択剤、例えばマン
ノースもしくはキシロースも使用できる。
再生した苗条の選択および収穫後に、遺伝的に形質転換され
た苗条が存在していることは、各種の方法で確認できる。これらの1つは(上記
のように抗生物質を、挿入された抗生物質耐性遺伝子とともにする使用に加えて
)、リポーター遺伝子β−グルクロニダーゼによって行われ、その使用について
は国際特許出願公開第WO93/05163号ならびに以下に記載している。
得られた形質転換シアモプシスの苗条は、次に公知の方法、すなわち苗条に直
接根を形成させるかまたは形質転換苗条を安定した定着植物に接木することによ
って全植物に再生され得る。後者の方法、すなわち安定した植物(それ自体は形
質転換されていてもいなくてもよい)の茎への形質転換苗条の接木は適切であり
、形質転換種子を産生できるキメラ植物を生じることが見出されている。さらに
形質転換苗条を、例えば7〜28日齢、一般に12〜21日齢の苗に接木すると特に良
好な結果を得られることが見出されている。
上記のように、本発明の他の態様は遺伝的に修飾された植物の作製方法に関し
ており、細胞、プロトプラスト、カルスまたは植物の部分の選択もしくは生長の
ために用いる少なくとも1つの培地は、実質的な植物生長調節作用もしくは植物
毒性作用なしで、細菌の生長を阻害するかまたは細菌生長阻害剤の作用を増大す
る少なくとも1種の物質、例えばβ−ラクタマーゼ阻害剤を含有している、この
態様は、例えばスルバクタムのようなβ−ラクタマーゼ阻害剤を用いることによ
る有利な作用が、グアー植物の形質転換と選択に限定されず、むしろ形質転換後
の望ましくない細菌の生長をなくすため、任意の植物のアグロ
バクテリウム仲介遺伝子転移(または他のβ−ラクタマーゼ産生細菌株の存在下
)に一般に適用可能であるという事実に関連している。この方法の実施上および
経済上の重要な利益は、選択および苗条生長培地に用いられるペニシリン様抗生
物質の量を、例えばβ−ラクタマーゼ阻害剤のない場合に、必要な量の約10%の
レベルまで大きく減らすことができるということである。β−ラクタマーゼ阻害
剤がスルバクタムの場合、上記の量で用いられる。
本発明を以下の実施例でさらに説明するが、これら実施例は本発明を限定する
ものではない。
実施例
グアーの形質転換の一般的な方法苗
グアーの種子を2.5%の遊離塩素、pH7.0と溶液100ml当り2滴のTween 80を含む
亜塩素酸ナトリウム溶液で滅菌した。その種子(100ml当り約10g)を25分間攪拌
し、滅菌水で5回洗浄し、濾紙上で一夜乾燥した。
次いで、種子を発芽培地にまき暗所に25℃で4日間置いた。次に12時間/12時
間、昼/夜の方式で7日間発芽を続けさせた。リッチな発芽培地を使用して高品
質のグアーの苗を得た。発芽培地:
4.43g/l MSMO(Sigma M6899)
20g/l スクロース
8.0g/l 寒天
pH5.8(KOHで調節)アグロバクテリウム・ツメファシエンスの懸濁液
アグロバクテリウム懸濁液は、LB培地で一夜培養(17〜18時間インキュベーシ
ョン)して調製した。上記細菌培養液にアセトシリンゴン(acetosyringone)は
添加しなかった。
LB培地:
10g/l バクトトリプトン
10g/l NaCl
5.0g/l 酵母エキス
pH7.4(NaOHで調節)形質転換および共生培養
細菌懸濁液はほとんどの場合、LB培地で0D0.1(660nm)まで希釈したが、0Dが
約1でも良好な結果が得られた。
約2mmの胚軸を有する子葉を12日齢の苗から切取った。次いで、子葉をピンセ
ットを用いて引き裂き傷ついた表面を作り、アグロバクテリウム懸濁液中に30分
間置いた。
共生培養の好ましい方法はいわゆるサンドイッチ法であり、外植片を濾紙の上
に置いて、共生培養培地上に置いた。液状共生培養培地を含ませた濾紙を上記外
植片の上に置いて外植片が乾燥するのを防止した。
共生培養培地:
0.43g/l MS基礎塩混合物(Sigma M5524)
20g/l スクロース
100mg/l ミオーイノシトール
0.1mg/l チアミン、HCl
0.5mg/l ピリドキシン、HCl
0.5mg/l ニコチン酸
1.0μM チオ硫酸銀
8.0g/l 寒天
pH5.1
共生培養を、12時間/12時間、昼/夜の方式で25℃にて3日間行った。共生培
養の後、外植片を、100mg/lのカルベニシリン、100mg/lのセホタキシムおよ
び1000mg/lのリゾチームを予め添加した1/10MS培地で、100rpmで攪拌しなが
ら、45分間、2〜3回洗浄した。選択
外植片を選択培地に移し、上記と同様にしてインキュベートした(25℃、12時
間昼/12時間夜)。
選択培地:
3.2g/l ガンボルグ(Gamborg)B5(Sigma G5893)
20g/l スクロース
1.0gm/l ベンジルアミノプリン
0.05mg/l ジベレリン酸(GA3)
1.0μM チオ硫酸銀
1.0mg/l NiCl2、6H2O
0.5mg/l 2−(p−クロロフェノキシ)−2−
メチルプロピオン酸(PCIB)
50mg/l セホタキシム
50mg/l カルベニシリン
100mg/l スルバクタム(Batamaze)
145mg/l 硫酸カナマイシン pH5.7形質転換苗条の収穫
第一の収穫:
4週間後、3mmより大きくなった苗条を収穫し、苗条培地に移した。10〜14日後
に、これら苗条のリポーター遺伝子β−グルクロニダーゼ(GUS)の活性につい
て試験した。以下参照のこと。GUS陰性の苗条を除いて、GUS陽性の苗条を新しい
苗条培地に移した。
苗条培地:
3.2g/l ガンボルグ(Gamborg)B5(Sigms G5893)
20g/l スクロース
0.1mg/l ベンジルアミノプリン
1.0μM チオ硫酸銀
0.1mg/l ジベレリン酸(GA3)
100mg/l セホタキシム
100mg/l スルバクタム(Betamaze)
8.0g/l 寒天 pH5.7
第二の収穫
第一の収穫の後、外植片(収穫された苗条由来のもの)を、低カナマイシン濃
度(50mg/l)の第二選択培地に移した。さらに4週間後、苗条を収穫しGUSにつ
いて試験した。陰性の苗
条を除いて、陽性のものを新しい培地に移した。形質転換苗条の分析
若い葉の先端を切り取り、200μlX-gluc溶液を含むマルチディッシュウェル
(multi-dish well)に移した。35℃で16時間インキュベートした後、葉の先端
を96%エタノールで脱色し、青変度を顕微鏡下で測定した。
X-gluc溶液(50ml):
0.2M Na2HPO4 15.57ml
0.2M NaH2PO4 9.5ml
H2O 19.5ml
0.1M K3(Fe(CN)6) 0.25ml
0.1M K4(Fe(CN)6)、3H2O 0.25ml
0.1M Na2-EDTA 5.0ml
X-gluc(シクロヘキシルアンモニウム5−
ブロモ−4−クロロ−3−インドリル−β−D−
グルクロネート) 50mg接木
形質転換苗条の定着は接木によって行った。外観が自然な緑色で長さが0.5〜1
.0cmの苗条を、32℃/25℃、14時間/10時間昼/夜方式で生長させた1.5〜2ヶ月
齢のグアー植物に接木するために選択した。接木を行う前に、最上部の2枚の葉
以外の葉をすべて除き、形質転換苗条を、茎の節のほぼ垂直の切れ目に接木した
。接木した植物を湿潤室に5〜6日間移した。形質転換植物
接木した植物を、次に生長室に移して形質転換苗条をさらに生長させた。その
生長条件は先に記載したのと同じであった。約2ヶ月後、多数の形質転換種子が
入った成熟したさやを収穫した。実施例1 グアーの各種変種の形質転換
この実施例は、上記の方法を用いたいくつかのグアーの変種の形質転換を示す
。
ノパリン(nopaline)アグロバクテリウム菌株C58を用いて形質転換させた100
0個の外植片当りのGUS+(GUS陽性すなわち形質転換された)の苗条の数を算出し
た。アメリカの変種のルイスは、形質転換成功のマーカーとしてGUS遺伝子を保
有する形質転換苗条の数が最大であり、この変種を以下の実施例に使用した。実施例2 アグロバクテリア
安全化された(disarmed)各種のアグロバクテリウム・ツメファシエンス菌株
のいくつかをグアーの形質転換に用いて試験してすべてが適していることが見出
された。例えば1細菌株当
り500個のグアー外植片を4種の各菌株で処理した〔オクトピン(octopine)菌
株LBA 4404、Dittaら、Proc.Nat.Acad.Sci.,77巻、7347頁、1980年およびC5
8由来の3種の菌株〕。各菌株について11〜26個の再生苗条が産生されたが、その
うち1〜3個がGUS陽性苗条であった。同様に他のアグロバクテリウム菌株〔L,L−
サクシンアモピン(succinamopine)菌株EHA101〕を用いて2500個の外植片を処
理したところ、25個の苗条が再生しそのうち8個がGUS陽性であった。またLBA 44
04を用いて2000個の外植片を処理したところ、67個の苗条が再生し、そのうち17
個がGUS陽性であった。
使用したエイ・ツメファシエンス菌株は、T-DNA領域に、β−グルクロニダー
ゼ(GUSアッセイに用いる)およびネオマイシンホスホトランスフェラーゼ(カ
ナマイシン含有培地上での選択に用いる)をエンコードする遺伝子を含有してい
た。実施例3 カナマイシン選択
この実施例で、選択培地における硫酸カナマイシンの最適濃度は145mg/lで
あったが、125〜145mg/lの範囲の他の濃度を用いても有効な形質転換が達成さ
れた。100mg/l又はそれ以下のカナマイシンを使用したところ、再生頻度は100
%に近かったが、形質転換苗条はごく少数しか得られなかった。
各処理で、合計1600個の外植片をアグロバクテリウム菌株EHA101で形質転換し
た。カナマイシン濃度を低下させた第二収穫で形質転換苗条の約50%が見出され
た。カナマイシン濃度を125〜145mg/lに維持したところ、第二収穫ではごく少
数の形質転換苗条しか見つからなかった。実施例4 BAP とNiCl2
この実施例では、選択培地にベンジルアデニンプリン(BAP)とNiCl2を添加し
た場合の有益な作用を示す。
各処理で、合計1200個の外植片をアグロバクテリウム菌株EHA101を用いて形質
転換した。5mg/lのBAPを添加すると、形質転換体の数のみならず再生された苗
条の合計数も増大したが、それはBAPが5mg/lの場合、1mg/lの場合の約2倍で
あった。
1mg/lのNiCl2、6H2Oを添加すると、形質転換の頻度は2〜4倍になったが、こ
れは恐らく、使用されたMS培地とガンボルグB5培地中にNiが存在しないからであ
ろう。実施例5 チオ硫酸銀
この実施例は、チオ硫酸銀(STS)が形質転換頻度を有意に増大することを示
す。
EHA101を用いて形質転換した1000個の外植片当りのGUS+の苗条の数を算出した
。チオ硫酸銀の濃度が2.5μMの場合、チオ硫酸銀濃度が0、0.5または10.0μM
の場合より形質転換体の数は非常に多かった。
STSによって形質転換の頻度が増大したのは、苗条の品質が有意に改善された
ためである。STSなしの場合、形質転換苗条は萎縮し黄色を帯びていたが、STSが
存在していると生長が維持された。銀イオンがエチレンの作用を阻害することは
公知であるから、STSの有益な作用は、容器中のエチレンの作用が減少して早期
老化が防止されるためであろう。実施例6 PCIB
PCIB〔2−(p−クロロフェノキシ)−2−メチルプロピオン酸〕は抗オーキ
シン作用を有しておりカルスの形成を阻害できる。PCIBが存在していないと、選
択を行っている間にカルスの形成が増大し、再生が阻害される。
0.1〜2mg/lのPCIBを添加すると、カルスの量が有意に減少し、再生および形
質転換苗条の数が増大した。実施例7 スルバクタム
この実施例は、β−ラクタマーゼ阻害剤のスルバクタムが、選択時に必要なカ
ルベニシリンとセホタキシムの量を有意に減らし、かつ形質転換頻度を増大する
ことを示す。
各処理で、合計800個の外植片をEHA101を用いて形質転換を行った。3種のすべ
ての処理によってアグロバクテリアは消失した。
800mg/lのカルベニシリンを用いた形質転換苗条は生長が貧弱でかつ黄色を
帯びた外観を示した。これらの苗条は苗条培地に移した後に回復せず、多数の形
質転換苗条が最終的に枯れた。
100mg/lのスルバクタムの存在下50もしくは100mg/lのカルベニシリンで選
択された形質転換苗条は良好に生長し、正常な緑色の外観を示しかつ長期間にわ
たって試験管内で維持することができた。実施例8 チジアズロン(thidiazuron)
サイトカイニンのチジアズロン(TDZ)を添加すると形質転換の頻度が有意に
増大した。下表に示すように、選択培地におけるTDZの最適濃度は0.3〜3.0mg/
lの範囲内であり、形質転換の頻度を1.5〜1.8倍に増大させた。
チジアズロンは、形質転換頻度の増大に加えて、形質転換苗条をその後クロー
ン化するのにも有益であった。実施例9 接木
形質転換苗条の定着は接木で行った。先に述べたように生長した植物(1.5〜2
ヶ月齢)への接木が可能であるが、12〜21日齢の苗に接木することによって一層
優れた成功率が得られた。
滅菌したグアーの種子を発芽培地(上記を参照)上に置いて苗を作製し、次に
それらを13時間/11時間、昼/夜方式で25℃で12〜21日間栽培した。子葉を切り
取り、胚軸に垂直に下方へ0.5〜1cm切り込みを作った。形質転換苗条をその切り
込み部分に入れ、短い滅菌ひもで結び付けた。5〜10日後ひもを除き、接木され
た苗木を耕作地へ移した。
かような苗に接木した49個の形質転換苗条のうち42個が生存し(89%)、正常
な表現型を有する稔性植物になった。実施例10 サザーンブロット分析
形質転換グアー系中の、導入遺伝子の存在および遺伝子コピー数を確認するた
め、ゲノムDNAを葉の試料から抽出し、HindIIIで消化し次に0.8%アガロースゲ
ル上で電気泳動に付した。サザーンブロットをHybond N+(Amersham社)を用い
て実施し、次にプレハイブリダイゼーションとハイブリダイゼーションをメーカ
ー推奨の緩衝液中68℃にて行った。DNAプローブは、“Ready to go”キット(Ph
armacia社)でランダムプライミング(random priming)によって標識したPMI遺
伝子またはGUS遺伝子であった。1×106CPM/mlの標識化プローブをハイブリダイ
ゼーション緩衝液に添加した。
プローブとしてPMI遺伝子を用いたサザーンブロット分析を図1に示す。各レ
ーンから分かるように、レーン1を除いて、HindIIIによる消化によって得られ
るDNAフラグメントの予想される大きさである2.1kbに強いバンドを示している。
レーン1
は類似の大きさのフェイントバンド(faint band)を示す。レーン8は非形質転
換グアー系である。
GUS遺伝子をプローブとして用いたサザーンブロット分析を図2に示す。大部
分のレーンが一つの強いバンドを示していることが見られるように、これらの系
はGUS遺伝子の1コピーを含有していることを示している。レーン7のDNAを消化し
たところ4個のバンドになったが、これはこの系がGUS遺伝子の4コピーを含有し
ていることを示唆している。レーン8は非形質転換グアー系である。
図1は形質転換グアー系のゲノムサザーン分析を示す。HindIIIで消化した各種
形質転換グアー系のゲノムDNA10μgを0.8%アガロースゲル上で電気泳動に付し
、そのDNAをHybond N+上にブロットさせ、次に〔32P〕dCTPで標識したPMI遺伝子
からなるプローブとハイブリッドさせた。〔35S〕DNAマーカー(Amersham社)を
分子量マーカー(MW)として使用した。
図2は形質転換グアー系のゲノムサザーン分析を示す。HindIIIで消化した各種
形質転換グアー系のゲノムDNA10μgを0.8%アガロースゲル上で電気泳動に付し
、そのDNAをHybond N+上にブロットさせ、次に〔32P〕dCTPで標識したGUS遺伝子
からなるプローブとハイブリッドさせた。〔35S〕DNAマーカー(Amersham社)を
分子量マーカー(MW)として使用した。実施例11 形質転換子孫の分析
グアーの独立形質転換体のいくつかにおける導入遺伝子の遺
伝と分離について試験を行った。一次形質転換体は、自家受粉性でありいくつか
の種子(10〜20)を播種した。第二世代植物中のGUS遺伝子の存在はGUSアッセイ
(上記参照)で示した。
この表はGUS遣伝子が安定した状態で受け継がれていること、および単一優性
遺伝子に予想されているのとほぼ同様に分離することを示している。さらに、GU
S遺伝子はその活性を保持していた。
【手続補正書】特許法第184条の8第1項
【提出日】1996年8月8日
【補正内容】
接木する請求の範囲4〜21項のいずれか一つに記載の方法。23.形質転換種子を産生でき、試験管内で培養した遺伝的に修飾した苗条を非 試験管内で栽培した植物に接木することに よって得ることかできるシアモプシ ス属に属するキメラ植物。 24.シー・テトラゴノロバ種に属する請求の範囲23項記載のキメラ形質転換 植物。
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