【発明の詳細な説明】
溶媒抽出方法技術分野
本発明は、溶媒抽出方法に関し、特に金属を有機溶媒中に抽出するために金属
と錯体を形成するリガンドを用いて、別の貴金属、特にプラチナと一緒に存在す
るパラジウムを水溶液から抽出する方法に関する。背景技術
複素環中に少なくとも1つの窒素原子を含む複素環カルボキシアミドまたはエ
ステル、特にEP57,797に開示のタイプのピリジンカルボキシエステルを
抽出リガンド(以後において「抽出剤:Extractant」という)として
用いて、ハロゲン化物またはプソイドハロゲン化物イオンを含む水溶液から銅を
抽出しうることが種々の文献、例えばEP57,797、EPI12,617、
GB2,150,133およびUS4,675,172から公知である。
この抽出方法の動力学およびメカニズムの基礎を研究することにより、この反
応が抽出剤−金属錯体:Ex2−Cu−Hd2(ここで、Exは抽出剤を、Cuは
金属(銅)を、そしてHdはハロゲン化物またはプソイドハロゲン化物イオンで
ある)を経由して進み、水相と有機相の間の平衡は以下の式(1)で示されるこ
とが明らかとなった:
Cu++ + 2Ex + 2Hd- ⇔ Ex2-Cu−Hd2 (1)
同じリガンドを用いてパラジウムが水溶性ハロゲン化物またはプソイドハロゲ
ン化物溶液から強力に抽出されることがEP332,314により公知であり、
また水溶性硝酸塩溶液からパラジウムを抽出するのに同じリガンドを用いうるこ
とがWO92/01819により公知である。硝酸塩溶液からのパラジウムの抽
出に関するそれ以後の研究により、これが高い硝酸塩濃度の場合に好適であり、
従ってハロゲン化物溶液中の銅と同様に挙動することが明らかとなった。
EP332,314はハロゲン化物アニオンの濃度は典型的には少なくとも1
モル(1M)であるべきであり、10Mまで多くしてもよいことを教示する。3
Mから6Mの領域のハロゲン化物アニオン濃度で溶液から銅と一緒にパラジウム
が強力に抽出されることがEP332,314に示されており、硝酸塩溶液から
のパラジウムの抽出における抽出効率と硝酸塩濃度との関係は、銅と同様に、パ
ラジウムが抽出効率とアニオン濃度との正の相関に従うこと、従ってアニオン濃
度が高くなると上記抽出剤を用いる抽出に好ましいことを示唆する。
しかしながら予期せぬことに、水溶性ハロゲン化物またはプソイドハロゲン化
物溶液からのパラジウム(Pd)の抽出メカニズムは上記した銅の場合とは異な
ることが見いだされた。なぜなら、パラジウムは抽出剤と錯体を形成するときに
4つのアニオンと会合し、ハロゲン化物またはプソイドハロゲン化物溶液からの
パラジウムの抽出における水と有機相との間の平衡は実際には以下の式(2)に
よって表されるからである。
Pd-Hd4 -- + 2Ex ⇔ Ex2-Pd-Hd2 + 2Hd- (2)
従って,銅の場合とは逆に、もしもEx2-Pd-Hd2錯体を形成するための十
分な遊離のハロゲン化物、すなわち金属1モル当たり少なくとも2モルのハロゲ
ン化物が溶媒中に存在するならば、ハロゲン化物水溶性からのパラジウムの抽出
には高濃度のハロゲン化物は好ましくない。しかしながら、非常に低濃度の、す
なわち1モル以下でしばしば0.1モル以下でも、パラジウムを含む溶液からパ
ラジウムを回収することが望まれており、従って低濃度のハロゲン化物を含む溶
液から金属が容易に抽出できるという発見は商業的に重要である。抽出剤−金属
錯体の形成にはハロゲン化物イオンの存在を必要とするので、水性溶媒がパラジ
ウム1モル当たり少なくとも2モルの遊離のハロゲン化物を含むことが効率よい
パラジウムの抽出には重要である。発明の開示
本発明は、少なくとも1つの脂肪族炭化水素鎖を含む複素環カルボキシアミド
またはエステルを抽出剤として用いて、パラジウムおよびハロゲン化物またはプ
ソイドハロゲン化物イオンを含む水性溶媒からパラジウムを抽出する方法を提供
し、この方法は水性溶媒中の遊離のハロゲン化物およびプソイドハロゲン化物の
合計濃度が1モルより少ないことを特徴とする。
脂肪族炭化水素鎖は、各アミドまたはエステル基の窒素または酸素原子に結合
した1または2の鎖中に、好ましくは合計で5〜50の炭素原子を、より好まし
くは10〜35の炭素原子を含む。
「ハロゲン化物」および「プソイドハロゲン化物」の用語は、EP332,3
14(その内容を参照としてここに包含する)に記載するものと同じ意味を有し
、これ以後は包括的に「ハロゲン化物」と呼ぶ。水性溶媒中の遊離のハロゲン化
物の濃度は好ましくは0.5モルまたはそれ以下であり、より好ましくは0.3
モルまたはそれ以下である。パラジウム錯体の加水分解と金属酸化物の沈殿を避
けるためには、第1の水性溶媒は酸性、すなわちpHが7以下であることができ
、あるいはそれが好ましい。しかしながら、pHは2またはそれ以下であること
がより好ましく、酸、特にHClやH2SO4などの鉱酸を添加してこれを達成す
る。発明を実施するための最良の形態
本発明の抽出法は好ましくは以下の工程からなる:
(1)パラジウムイオンとハロゲン化物イオン(ここでハロゲン化物イオンの濃
度は1モルより少ない)とを含む第1の水性溶媒を、抽出剤を含む水不混和性溶
媒と接触させて、パラジウムと抽出剤との間に錯体を形成させ;
(2)第1の水性溶媒を、錯体を含む水不混和性溶媒から分離し;そして
(3)錯体を含む水不混和性溶媒を、錯体を解離させてパラジウムイオンを第2
の水性溶媒に転移させる条件下に、第2の水性溶媒と接触させる。
抽出剤は好ましくは以下の式(1)で表される化合物のクラスから選択される
:
K−[(A)a(COX)y]n (1)
式中、
Kは、複素環式単環、複素環式縮合環系または直接結合した1対の複素環式環
を含む複素芳香族基であり、各複素環式環は1〜3の環窒素原子を含み、各−[(
A)a(COX)y]基は複素環式環の環原子に結合しており;
Aは、それぞれ独立に置換または非置換のメチレン、ビニレンおよびフェニレ
ンから選択される結合基であり;
Xは、それぞれ独立に0R1またはNR2R3であり;
R1は、C5-36−ヒドロカルビルまたは置換C5-36−ヒドロカルビルであり;
そして
R2およびR3は、それぞれ独立にH、ヒドロカルビルまたは置換ヒドロカルビ
ルであり、ただしR2とR3は一緒になって5〜36の炭素原子を含み;
aは0または1であり;
yは1から3であり;
nは1からmであり;そして
mは、Kまたはこのような化合物の組成物、特にその成分が複素芳香族基Kに
結合したヒドロカルビル基の構造において異なるような組成物における複素環式
環上の遊離の原子価数である。
基Kは5または6員の複素環式単環または縮合環系であり、ここで複素環式環
は別の環、特にベンゼン環と縮合するか、またはビイミダゾールやビベンズイミ
ダゾールのような炭素原子を介して直接結合したこのような1対の環または縮合
環でありうる。このような単環、結合環および縮合環系の例としては、ピリジン
、ピリミジン、ピラジン、ピリダジン、1,2,4−トリアゾール、トリアゾロ
ピリミジン、キノリン、ベンズイミダゾールおよびビベンズイミダゾールがある
。ビベンズイミダゾールを除くこの型の抽出剤はEP332,414に詳しく記
載されており、この内容を本明細書に参照として包含する、ビベンズイミダゾー
ル抽出剤はむしろEPI96,153およびEP513,966に詳しく記載さ
れており、この内容を本明細書に参照として包含する。
−[(A)a(COX)y]基で占められていないK中の全ての置換しうる環原子はい
ずれも非複素縮合環中の環原子も含めて、非置換すなわちHで占められていても
よく、あるいは、好ましくはハロゲン、アルキル、アリール、アルコキシ、アリ
−ルオキシ、アラルキル、アルカリール、シアノ、ニトロおよびカルボン酸から
選択されるY基で置換されていてもよい。好ましい置換基は塩素、臭素、フッ素
、C1-4−アルキル、C1-4−アルコキシ、フェニル、フェノキシ、ベンジルオキ
シ、クレシル、シアノ、ニトロおよびカルボン酸である。
もしもKが2またはそれ以上のCOX基を有する場合には、それらは同じでも
異なっていてもよく、−OR1又は−NR2R3としてのX基の定義に関して異な
っていてもよく、あるいはR1、R2および/またはR3基の定義に関して異なっ
て
いてもよい。従って、もしもKが2つの−COX基を有する場合には、それらは
異なる−COOR1基であってもよく、あるいは一方が−COOR1で他方が−C
ONR2R3であってよい。
aが0でないとき、Aは1または2の−COX基は別として非置換であるビニ
レンであることが好ましく、2つの−COX基を有するときにはそれらは異なる
炭素原子上にあることが好ましい。
特定の抽出剤の例としては、3,5−ジ−(イソデシルオキシカルボニル)ピ
リジン、2−(オクタデシルオキシカルボニル)ピリジン、1−(オクタデシル
オキシカルボニル)ベンズイミダゾール、3−(2−[ヘキシル]デシルオキシ
カルボニル)ピリジン、3−(N,N−ジオクチルアミノカルボニル)ピリジン
、2,2’−ビス−[1−(トリデシルオキシカルボニル)−ベンズイミダゾー
ル]、2,2’−ビス−[1−(イソオクチルデシルオキシカルボニル)−ベン
ズイミダゾール]、6−(2−[ヘキシル]デシルオキシカルボニル)−7−メ
チル−1,2,4−トリアゾロ[2,3−a]ピリミジン、1−(2−[ヘキシ
ル]デシルオキシカルボニル)−1,2,4−トリアゾール、5−(イソオクチ
ルデシルオキシカルボニル)−2,4−ジメチルピリミジン、4−(イソデシル
オキシカルボニル)ピリダジン、4,5−ジ(イソデシルオキシカルボニル)ピ
リダジンおよび2,2’−ビス−[1−(トリデシルオキシカルボニル)−5(
6)−メチルベンズイミダゾール]である。
水不混和性溶媒は好ましくは液体炭化水素などの非極性有機液体である。ある
いは、抽出剤を支持するための固体の水不溶性で不混和性材料、例えば有機(高
分子など)または無機(シリカなど)の支持体であり、その上に第1の水性溶媒
を通してパラジウムを抽出剤と接触させて錯体を形成し固体支持体上に保持させ
るようにする。
抽出剤は、Yおよび−COX化合物で表される置換基の数、位置、種類が異な
るエステルおよび/またはアミドからなる組成物を含む。特に−COX基中のX
基の性質が異なる成分、特に分枝の程度が異なるヒドロカルビル基の異性体であ
る成分を含む組成物を用いるのが好ましい。特に水不混性溶媒が抽出剤を溶解す
る有機液体であるか、あるいは抽出剤を支持する固体有機材料であるときには、
−COX基中のアルキル基(1または複数)の主な目的は水不混和性溶媒との好
適な適合性またはそれへの溶解度を与えることである。
有機溶媒との適合性、特に有機液体(例えばケロセン)中の溶解度は、式(1
)の類似化合物または異性体化合物および/または−COX基中のアルキル基が
分枝、特に複数分枝した化合物の混合物を使用することによって一般に改良され
ることを見いだした。
R1、R2およびR3で表されるヒドロカルビル基は好ましくは実質的に脂肪族
、より好ましくはアルキルまたはアルケニル、特にイソ−アルキル、例えばオク
チル、ノニル、デシル、イソデシル、ドデシル、トリデシル、ヘキサデシルおよ
びオクタデシルであるが、例えばベンジル、シクロヘキシル、4−ノニルフェニ
ルおよび4−ドデシルフェニル中のシクロアルキルおよび/またはアリール基を
含んでいてもよい。R1およびR2(R3がHのとき)は好ましくは9〜24個の
炭素原子を含み、好ましくは分枝アルキル、特にβ−分枝アルキル、例えばゲル
ベ・アルドール(Guerbet and Aldol)縮合によって製造されるアルコール上の
アルキル基である。このタイプのアルキル基は式(2)で表される。
−CH2−CH(R5)−R4 (2)
(式中、R4およびR5は同じでも異なっていてもよく、一方は一般に他方よりも
2少ない炭素原子を含み、それぞれが1以上の位置で分枝していることができ、
またそれが好ましい)このようなβ−分枝アルキル基の例としては、β−ヘキシ
ル−デシル、β−オクチル−ドデシル、およびβ−ヘプチル−ウンデシルがある
。ゲルベアルコールは抽出剤製造のための様々に分枝したアルキル基混合物の良
好な原料であり、そのいくつかはエステル形の異性体であり、複素環基に結合し
たアルキル基の種類が異なる化合物からなる組成物である。このタイプの分枝ア
ルキル基を含む特に好ましいβ−分枝アルコール(好ましくは3,5,5−トリ
メチルヘキサノールの二量化で製造できる)は式(3)で表される。
CH3-C(CH3)2-CH2-CH(CH3)-CH(CH2OH)-CH2-CH2-
CH(CH3)-CH2-CH(CH3)2-CH3 (3)
このタイプのその他の有用なアルキル基は混合オクテンのヒドロホルミル化で得
られる異性体ノニル基、市販のイソデカノールから得られる異性化デシル基、お
よび市販のトリデカノールから得られる異性化トリデシル異性体である。
抽出剤がジエステルまたはジ−sec−アミド(n=2)であるときには、2つ
の置換基上のアルキル基は好ましくは合計で16〜36個の炭素原子を含む。
Xがtert−アミド基であるときには、R2およびR3は同じでも異なっていても
よく、好ましくは一緒になって5〜36個、より好ましくは16〜36個の炭素
原子を含む。もし2つのアルキル基がいずれも4または5個より多くの炭素原子
を含むときは、抽出剤は直鎖アルキルでも非極性溶媒中でかなりの溶解度を示す
が、一方のアルキル基が短い場合(すなわち4個以下の炭素原子)には他方の鎖
は分枝していることが好ましい。抽出剤がジ−tert−アミド(n=2)であると
きには、4個のアルキル基に20〜70個の炭素原子の存在することが好ましい
。
好ましい抽出剤は式(4)のピリジン誘導体またはピリジン誘導体の組成物で
ある。
式中、
Xは−OR1または−NR2R3であり;
nは1から3であり;
R1はそれぞれ独立にアルキル基であり、ただしR1で表される基(1または複
数)は合計で16〜36個の炭素原子を含み:
R2およびR3はそれぞれ独立にアルキル基であり、ただしR2およびR3で表さ
れる基は合計で20〜70個の炭素原子を含み;
zは0から(5−n)であり;そして
Yはそれぞれ独立にハロゲン、アルキル、アリール、アルコキシ、アリールオ
キシ、アラルキル、シアノ、ニトロおよびカルボン酸から選択される。
zが0以外の値をもつとき、ピリジン環はn個のCOX基に加えてzの値に対
応する1以上の置換基をもつ。置換基がカルボン酸基であるときは、式(4)の
抽出剤はピリジンポリカルボン酸の部分エステルまたはアミドである。しかしな
がら、zが0であって、化合物が1〜3個、より特定すると2または3個の−C
OX基をもつ非置換ピリジンであることが好ましい。
式(4)の抽出剤の例としては、ニコチン酸、イソニコチン酸、ピコリン酸、
ピリジン−2,4−ジカルボン酸、ピリジン−2,5−ジカルボン酸、ピリジン
−3,5−ジカルボン酸およびピリジン−2,4,6−トリカルボン酸などの種
々のピリジンカルボン酸に由来するピリジンモノ−、ジ−およびトリ−カルボン
酸およびその混合物のエステルおよびアミド、ならびに上述の1以上の異なるア
ルコールおよび/またはアミンである。式(4)の特に好ましい抽出剤は、市販
のイソデカノール由来の異性化3,5(ジ−イソ−デシルオキシカルボニル)−
ピリジンの組成物である。
適当なピリジンエステルおよびアミドに関するさらなる情報はEP57,79
7に記載されており、その内容を本明細書に参照として包含する。ピリミジン、
ピラジンおよびピリダジンなどの他の複素環系に基づく抽出剤の詳細はEP11
2,617に、トリアゾールについてはGB2,150,133に、イミダゾー
ルおよびベンズイミダゾールについてはEP193,307に記載されており、
その内容を本明細書に参照として包含する。
本発明の抽出剤は、通常パラジウムと関連する他の金属(銅を除く)、特に他
の貴金属や鉄に比べて、パラジウムに対して良好な選択性を示す。またこれらの
抽出剤はプロトン化の傾向を減少させるが、これはプロトン化が無機イオンの第
2の水性溶媒への移動を促し選択性を減少させるので有利である。
本発明の方法は、第1の水性溶媒を水不混和性有機液体中で抽出剤の溶液と接
触させて、水性溶媒中に存在するあらゆるパラジウムおよび/また銅と抽出剤と
の間に有機液体にのみ可溶な錯体を形成させることによって実施できる。接触は
2つの相を丁寧かつ激しく混合し、その後2つの層に遊離させてこれを公知の方
法で分離することにより実施できる。次いで後述する水性溶媒中への選択性スト
リッピングによって有機液体から金属を回収する。
適当な水不混和性有機溶媒の例としては脂肪族、芳香族および脂環式炭化水素
、パークロロエチレン、トリクロロエタンおよびトリクロロエチレンなどの塩素
化炭化水素がある。溶媒混合物も使用できる。特に好ましいのは、各種芳香族化
合
物含量をもつ高沸点、高引火点の石油分画(例えばケロセン)などの炭化水素溶
媒の混合物である。抽出剤およびその金属錯体は一般に高い芳香族化合物含量を
もつ炭化水素溶媒中により可溶性であり、このような炭化水素溶媒としてはAR
OMASOL H(本質的にはICIから市販されているトリメチルベンゼンの
混合物;AROMASOLは登録商標である)。一方、比較的低い芳香族化合物
舎量をもつケロセン(例えばEXXONから市販されている20%芳香族を含む
石油留出物であるESCAID 100;ESCAIDは登録商標である)は抽
出剤の湿式製錬効率を増強する。
水不混和性有機溶媒中の抽出剤の濃度は処理すべき特定の水性溶液に適したも
のを選択する。有機相中の抽出剤濃度の典型的な値は約0.1〜2モルであり、
特に有利な範囲は有機溶媒中0.2〜0.8モルである。
あるいは本発明の方法は、第1の水性溶媒を、水不混和性支持体上に支持され
た抽出剤と接触させること、便宜的には水性溶媒を支持された抽出剤を含むカラ
ムに通すことによって実施できる。次いで後述するような適当な水性ストリップ
溶媒をカラムに流すことによってカラムから金属をストリッピングする。
本発明の方法は第1の水性溶媒からパラジウムを抽出剤−金属錨体として水不
混和性溶媒中に抽出するのに有利である。次いで、水不混和性溶媒を水性アルカ
リ溶媒、好ましくは希アンモニア水溶液と接触させてパラジウムを第2の水性溶
媒中にストリッピングする。アンモニア水溶液は好ましくは2%〜20%、より
好ましくは5%〜15%(w/v)のアンモニアを含む。本発明の方法を用いる
ことにより、第1の水性溶媒中のパラジウム量を約1ppmのレベルまで減少し
、ストリッピング後は水不混和性溶媒中に約1ppmのパラジウムのみを残す。
本発明の方法は、パラジウム1モル当たり少なくとも2モルのハロゲン化物イ
オンを加えて先に定義した抽出剤で抽出することによって、比較的希釈された金
属の水溶液から適当な塩、例えば硫酸塩の形でパラジウムを除去する非常に効率
のよい手段を提供する。
本発明の方法は、その他の金属、特にその他の貴金属や金属含有鉱石中のパラ
ジウムと関連して見られるその他の金属が存在するときに、パラジウムを含む水
性溶媒からパラジウムを分離するのに有用である。なぜならパラジウムと通常関
連するほとんどの金属(銅を除く)に対してパラジウムを水不混和性溶媒中に選
択的に抽出するからである。もしも第1の水性溶媒が銅を含んでいる場合には、
これを抽出剤によってパラジウムと一緒にある程度抽出するが、銅とパラジウム
はその後選択的ストリッピングによって第2の水性溶媒中に分離できる(銅は水
または希酸水溶液中に容易にストリッピングされる)。銅とパラジウム両方の効
率のよい抽出を必要とする場合には、EP332,314に記載するように、第
1の水性溶媒中のハロゲン化物濃度を好ましくは1M以上にするべきである。
本発明の別の特徴によると、1モル以下の濃度のハロゲン化物の存在下に、場
合によってはその他の金属の存在下に、水性溶媒中に含まれるパラジウムと銅を
分離する方法を提供し、ここで先に定義した工程(3)において、錯体を含む水
不混和性溶媒をまず水または希酸水溶液と接触させて水不混和性溶媒から銅をス
トリップさせ、次いでアンモニア水溶液と接触させて水不混和性溶媒からパラジ
ウムをストリップさせる。
パラジウムのみを含むストリップ水溶液はいかなる適当な方法で処理してパラ
ジウムを除去して金属パラジウムにしてもよい。
溶媒抽出法の抽出工程およびストリップ工程は便宜的には環境温度、例えば1
0℃〜30℃の範囲で起こる。
本発明を以下の実施例によって説明するが、ここで特記しない限り、全ての部
およびパーセントは重量基準である。実施例1
1000mg/lパラジウム(塩化パラジウム、PdC12として添加)、0
.08モル/l塩酸、および種々の量のNaClを含む一連の水溶液を調製し、
全体のCl-濃度を0.1〜5.0モルとした。
ESCAID 100(ESCAID 100は溶媒抽出法で有磯担体として
用いられるExxonから市販されているケロセンである)1リットル当たり3
,5−ジ(イソデシルオキシカルボニル)ピリジン(抽出剤A)0.1モル(4
4.7g)を含む有機抽出溶液(溶液A)を調製した。溶液Aの一部(15ml
)を種々の塩化物濃度をもつパラジウム水溶液15mlと25℃で2時間激しく
撹拌しながら接触させた。次いでどの場合でも有機相と水相を分離、濾過して水
相を
原子吸光分光法で分析してパラジウム量を測定した。得られた結果を表1に示す
。
この結果は、抽出剤によって水溶液中のパラジウム濃度が極めて低レベルまで
(<0.1mg/l)減少され、非常に高いパラジウム回収率を与えることを明
瞭に示す。またこの結果は、パラジウム回収率と塩化物濃度との間に逆相関のあ
ることも示す。実施例2
塩化物イオンが全く存在しないときのパラジウム抽出に及ぼす影響を示すため
に、1リットル当たり約1000mgのパラジウムを含む水溶液を調製し、希硫
酸中の硫酸パラジウムとして添加した。この溶液と実施例1に記載の溶液Aを等
量とって25℃で2時間激しく混合した。次いで相を分離し、濾過して原子吸光
分光法でパラジウムを分析した。
分析の結果、有機相には568mg/lのパラジウムが抽出され、水相には3
50mg/lのパラジウムが残っており、これは抽出後の水相に非常にわずかな
パラジウムしか残らない実施例1(塩化物の存在下に抽出)とは顕著な相違を示
した。実施例3
この実施例では、実際の市販の浸出水溶液の組成に基づく模擬的な鉱石の浸出
(硫酸)水溶液からのパラジウムの回収によって本発明の有用性を示した。浸出
水溶液は以下の組成であった。
銅 40g/l
ニッケル 60g/l
鉄(III) 25g/l
パラジウム 200mg/l
これにNaClを2g/l加えて全CI-濃度が1.2g/lの試験溶液(溶
液B)を調製した。この溶液と実施例1に記載の溶液Aの等量を25℃で2時間
激しく撹拌し、相を分離して分析した。水相には0.1mg/l以下のパラジウ
ムを含んでおり、有機相には191mg/lのパラジウムを含んでおり、これは
水相から99.9%以上のパラジウムが除去されたことを表す。実施例4
溶液Aの一部(10ml)を10倍量の溶液B(100ml)と接触させる以
外は実施例3の方法を繰り返した。2時間激しく撹拌し、分離した後、水相には
0.1mg/l以下のパラジウムを含み、有機相には1995mg/lのパラジ
ウムを含むことが見いだされた。これは浸出水溶液からの99.9%以上のパラ
ジウム除去を示し、有機相中のパラジウム濃度が(実施例3と比較して)10倍
増加したことを示す。実施例5
低濃度の塩化物イオンが存在するときのパラジウム回収に関して実施例1に記
載の型の抽出剤の商業的有用性をさらに示すために、本方法のパラジウム抽出速
度と、極めて薄いパラジウム溶液からでも高いパラジウム回収率が得られるため
の時間について研究した。等量(100ml)の溶液Aと溶液Bをそらせ板を付
けた1リットルの円筒容器中、25℃で激しく撹拌し、1000rpmの速度で
回転する直径50mmの羽根車で混合した。
一定時間経過後に反応器から少量の分散サンプルを取り出し、水相と有機相に
分離させた。各水相と有機相のパラジウム舎量を分析して表2に示す結果を得た
このパラジウム抽出速度(5分以内にパラジウム濃度が1mg/1以下に減少
した)は、公知のパラジウム抽出剤を用いる抽出速度に比べて非常に速い。実施例6
この実施例では、低い濃度の塩化物イオンを含む溶液からパラジウムを回収す
るときの、ポリマー基質に物理的に支持された本発明の抽出剤の有用性を示す。
多孔性で大きな表面積のスチレン−ジビニルベンゼンコポリマーのビーズ(R
ohm and HaasからXAD1180の名前で市販されている)を実施
例1に記載する抽出剤AのESCAID 100中に50%溶液で含浸して支持
された抽出剤(抽出剤B)を調製した。
抽出剤B(1.52g)をパラジウム100mg/lとCl-イオン(0.0
3M)1g/lを含む水溶液100ml中に添加した。16時間後に水相サンプ
ルを除去して分析した。パラジウムを0.1mg/l以下含むことが確認され、
これは抽出効率が99.9%以上であることを示す。実施例7
多孔性で大きな表面積のポリアクリル酸エステルのビーズ(Rohm and
HaasからXAD7の名前で市販されている)をESCAID 100中の
抽出剤Bに代えて抽出剤Aの50%溶液で含浸して調製した支持された抽出剤(
抽出剤C)を用いて実施例6の手順を繰り返した。16時間後に水相中のパラジ
ウムは0.1mg/l以下に減少したことが見いだされた。実施例8〜13
抽出剤Aに代えて以下に示す各抽出剤を用いて、0.1Mの塩化物濃度で実施
例1の手順を繰り返した。
実施例 抽出剤
8 C:2−(オクタデシルオキシカルボニル)ピラジン
9 D:1−(オクタデシルオキシカルボニル)ベンズイミダゾール
1O E:3−(2−[ヘキシル]デシルオキシカルボニル)ピリジン
11 F:3−(N,N−ジオクチルアミノカルボニル)ピリジン
12 G:2,2’−ビス[1−(トリデシルオキシカルボニル)ベンズ
イミダゾール]
13 H:2,2’−ビス[1−(トリデシルオキシカルボニル)−5(6)
−メチルベンズイミダゾール
得られた結果は以下の通りである:
実施例 抽出剤 抽出後に残ったPd(mg/l)
8 C 1.1
9 D <0.5
10 E <0.5
11 F <0.5
12 G 0.5
13 H <2.0
これらの結果は本発明の種々の代表的抽出剤を用いて低い塩化物濃度で水溶液
から効率よくパラジウムが除去されることを示す。
【手続補正書】特許法第184条の8
【提出日】1996年3月12日
【補正内容】
英文明細書第14頁、請求の範囲第5項〜第11項の記載(翻訳文第16頁、8
〜20行の記載)を以下のものに差し替える。
『
5.その成分が、複素芳香族基Kに結合したヒドロカルビル基の構造において異
なる請求の範囲4に記載の方法。
6.抽出剤が3,5−(ジ−イソ−デシルオキシカルボニル)−ピリジンの異性
体混合物からなる請求の範囲1〜4のいずれかに記載の方法。
7.抽出剤が不活性な水不混和性基質上に支持されている請求の範囲1〜6のい
ずれかに記載の方法。
8.水不混和性基質が高分子材料である請求の範囲7に記載の方法。
9.第2の水性溶媒が水性アルカリ溶媒である請求の範囲3〜8のいずれかに記
載の方法。
10.水性アルカリ溶媒がアルカリ水溶液である請求の範囲9に記載の方法。
11.工程(3)において、水不混和性溶媒を水性アルカリ溶媒と接触させる前
に、水または希酸水溶液と接触させて抽出剤と錯体形成した銅を除去する請求の
範囲9または10に記載の方法。』