【発明の詳細な説明】
造血増進性細胞により発現された抗原に対するモノクローナル抗体
1.序論
本発明は造血増進性細胞(FC)に対するモノクローナル抗体(MAb)に関する。特
に、本発明はマウスFCにより発現された抗原に対するMAb、その抗体の産生方法
、およびその抗体の使用方法に関する。殆どのその他の骨髄細胞によるよりもFC
により特異的に、または高レベルで発現されるマーカーに対するMAbは広範囲の
用途を有し、これらの用途として、FCの迅速な単離、ドナー細胞調製物中のFCの
同定、および対応する標的抗原をコードする遺伝子の分子クローニングが挙げら
れるが、これらに限定されない。
2.発明の背景
充実性臓器移植における主要な目的は、他の外来抗原に対するレシピエントの
免疫能力を保存するとともに、レシピエントにより生じる移植拒絶免疫応答を生
じないドナー臓器の移植である。典型的には、シクロスポリン、メトトレキセー
ト、ステロイドおよびFK506の如き非特異的免疫抑制剤が宿主拒絶応答を防止す
るのに使用される。それらは基本的には毎日投与する必要があり、停止すると、
移植拒絶が通常生じる。しかしながら、非特異的免疫抑制剤は免疫応答の全ての
局面を抑制し、それにより感染および癌を含む疾患に対するレシピエントの感受
性を大きく増大することにより機能する。
更に、免疫抑制剤の使用にかかわらず、移植拒絶は依然としてヒト臓器移植に
おいて罹患率および死亡率の主要な原因である。心臓移植片のわずかに50%が5
年間生存し、また腎臓移植片の20%が10年間生存する(Powles,1980,Lancet,
327頁; Ramsay,1982,New Engl.J.Med.,392頁を参照のこと)。殆どのヒト移
植片は永久的な受容性がないと10年以内に破損する。それ故、寛容性がレシピエ
ント中で誘発し得ることが主要な進歩となるであろう。
完全な全身性ドナー特異性移植寛容性が信頼でき、かつ再現できる程度に生じ
るわずかに知られている臨床条件は、キメリズムが骨髄移植により生じる時であ
る(Qinら,1989,J.Exp.Med.169:779; Sykesら,1988,Immunol.Today9:23;S
harabiら,1989,J.Exp.Med.169:493を参照のこと)。これはレシピエントの全
リンパ球照射、続いてドナー細胞を用いた骨髄移植により新生児および成体の動
物モデル並びにヒトで達成された。悪性領域外側への骨髄移植の広範囲の適用は
移植片対宿主病(GVHD)により制限されていた。骨髄移植の成功は、一部は、ドナ
ーの主要組織適合遺伝子複合体(MHC)をレシピエント細胞のMHCと密接に適合させ
る能力に依る。MHCは移植拒絶免疫応答の主要標的であるドナー細胞および宿主
細胞の両方の表面に発現した個々に特異な糖タンパク質の大きなアレイをコード
する遺伝子複合体である。ヒトでは、MHCはHLAと称される。HLA同一性が患者を
兄弟姉妹のようなファミリーメンバーと適合させることにより得られる場合、結
果が成功する可能性が比較的高いが、GVHDは依然として完全には排除されない。
GVHDの発生率および重度は、遺伝子不一致の程度と直接に相関関係がある。実際
、GVHDは大きな不一致の場合において非常に重篤である一つまたは二つの抗原不
適合のみであれば許容できる。同種骨髄移植が同種の二つのMHC不適合個体間で
行われる場合、移植の不全、不十分な免疫能力およびGVHDの高い発生率という共
通の合併症を伴う。
GVHDは骨髄移植において潜在的に致死的な合併症であり、これは未治療のHLA
同一骨髄移植片のレシピエントの約35〜50%で生じ(Martinら,1985,Blood 66:
664)、そしてHLA不適合骨髄のレシピエントの80%まで生じる。不運なことに、
患者のわずかに30%しか一般的には適当に適合したHLA同一ファミリーメンバー
ドナーを有せず、よって殆どの患者が骨髄移植について考えられることから除外
され、またはそれらが移植される場合には、高リスクのGVHDを許容する必要があ
る。GVHDは、ドナー移植片中の免疫担当成熟免疫細胞(主としてT細胞であるが
、或る種のB細胞およびナチュラルキラー細胞)が宿主組織抗原を外来として認
識し、そして逆免疫反応を誘発する能力により生じる。ドナー骨髄とレシピエン
ト骨髄の混合物が移植される混合同種再構成は改善された免疫能力およびGVHDに
対する増大された抵抗性をもたらすが、成功した移植が依然として一貫して得ら
れず、そしてGVHDが依然としてしばしば生じる。
骨髄移植の最近の研究は、ドナー細胞調製物からのT細胞の除去がGVHDの発生
率の低下と関連していたので、GVHDの主たる原因がT細胞であることを示唆して
いる(Valleraら,1989,Transplant,47:751;Rayfield,1984,Eur.J.Immunol.
,308頁; Vallera,1982,J.Immunol.,128:871;MartinおよびKorngold,1978,
J.Exp.Med.,1687頁;Prentice,1984,Lancet472頁)。T細胞が動物モデルにお
いてGVHDの主たる媒介物質であることが示唆された後、ヒトドナー骨髄のT細胞
枯渇(TCD)のための攻撃的プロトコルが設定された。GVHDの発生率が著しく低下
したが、TCDは移植不全の顕著な増加が伴い、これはT細胞がまた骨髄移植に積
極的な役割を果たすことを示した(Solderling,J.Immunol.,1985,135:941;Va
llera,1982,Transplant.33:243; Pierce,1989,Transpl-ant.,289頁)。ヒ
トレシピエントにおける移植不全の増加は全患者の約5〜70%の範囲であり、ド
ナーとレシピエントの間のMHC不一致の程度に関係していた(Blazer,1987,UCL
A Symp.,382頁;Filipovich,1987,Transplant.,62頁;Martinら,1985,Blood
66:664; Martinら,1988,Adv.Immunol.40:379)。不全移植の患者は、二回め
の骨髄移植が行われたとしても通常死亡する。結果として、米国の殆どの移植団
体はドナー骨髄のTCDを放棄し、こうして、かなりの罹患率および死亡率をもた
らす高レベルのGVHDを許容する必要がある。よって、治療の形態としての骨髄移
植の適用は、GVHDの潜在性が潜在的な利益により明らかに補われて余りあるよう
な状況にのみ制限される。それ故、精製された骨髄幹細胞の投与が移植を最適化
し、GVDHを避けることが予測された。しかしながら、最近の研究は、精製された
骨髄幹細胞のみを遺伝子不一致のレシピエントではなく遺伝子同一のレシピエン
トのみに移植することを示した。
T細胞が有害なGVHD反応および有益な移植促進の両方に関与し得るという示唆
は科学学会において長年にわたって存在する謎であった。研究者らは、骨髄移植
を促進するが、TCD中に除去される骨髄成分の可能な存在について研究し始めた
。この促進性成分の同定および精製は、移植を増進し得る細胞を保存するととも
に、GVHDを選択的に防止する移植プロトコルの設計を潜在的に可能にするであろ
う。
殆どの研究者らは、促進性成分が造血幹細胞とは異なる造血細胞であると考察
したが、このような成分は最近まで同定または特性決定されなかった。実際に、
全ての証拠はT細胞の或る形態の関与に関して指摘した。FCと称される細胞集団
がGVHDを生じないでレシピエント中の造血幹細胞の移植を促進し、そしてこの細
胞がその他の白血球により共有される幾つかのマーカーを発現することが最近発
見された。FCにより発現された特定のマーカーの同定はこの細胞型の迅速な単離
を大いに助けるであろう。
3.発明の要約
本発明はマウスFCにより発現された抗原に対するMAb、これらの抗体の産生方
法およびこれを使用してFCを単離する方法に関する。
本発明は、FCが致死照射された同種レシピエントまたは異種レシピエント中に
移植するドナーの造血幹細胞の能力を促進するのに重要な役割を果たすという本
件出願人の発見に一部基づいている。マウスFCは全てのその他の既知の細胞型と
は形態上異なり、そしてそれらがThy-1、CD2、CD3、CD5、CD8、CD45、CD45Rおよ
びMHCクラスIIを発現する(B細胞および樹枝状細胞と較べて低〜中間の範囲で
)ことが示されたが、これらのマーカーはFCをその他の骨髄細胞から個々に容易
に区別しない。それ故、FCの単離および濃縮は正の選択および負の選択を伴う面
倒かつ時間浪費の多工程操作を現在使用している。細胞混合物中のFCの迅速な同
定し、そしてそれに続く該混合物から該FCを単離するための方法を開発するため
に、このような抗原が存在することを仮定して、MAbがその他の細胞によるより
もFCにより特異的または更に選択的に発現された抗原に対して産生され得る。
MAbの産生は免疫原としてのFCの使用を必要とするが、FCは少量(約0.05%)
で天然組織源中に存在するので、免疫感作における使用のためにFCの濃縮集団の
高収量で得ることは実際に困難である。FCに関して殆どまたは全く濃縮しない全
骨髄調製物が免疫原として使用し得るが、おそらくMAbは、その他の骨髄細胞が
極めて多数で存在し、そしてFC関連分子に対する抗体応答を支配し得るその他の
高度に免疫原性の抗原を発現するので、FCマーカーに対しては産生されそうもな
い。
FCに対するMAbを産生しようという試みにおいて、FCはおそらくFCの枯渇のた
めにドナー骨髄細胞移植のレベルを低下するウサギ抗マウス脳(RAMB)抗血清の能
力により示されるように或る細胞表面抗原を脳組織と共有し得ることが認められ
る。こうして、脳組織が調製され、そして動物を免疫するのに使用される。免疫
された動物からの脾臓細胞を使用して、細胞融合が行われ、そして得られたハイ
ブリドーマがそれらの上澄み中の抗体の分泌について最初にスクリーニングされ
る。その後、MAbは、抗体で処理されたドナー骨髄細胞による再構成後のレシピ
エント中の混合同種キメリズムにより顕在化されるような、in vivoのFC活性を
枯渇するそれらの能力について更にスクリーニングされる。このスクリーニング
操作においてこのような活性を示すMAbが更なる特性決定のために選択される。
本発明は、マウス脳組織が調製され、ラットを免疫するのに使用される実施例
により説明される。幾つかの免疫感作後に、ラットが犠牲にされ、そしてそれら
の脾臓細胞がマウスミエローマ細胞と融合される。得られたハイブリドーマがIg
Gイソ型またはIgMイソ型のラット抗体のそれらの分泌について最初にスクリーニ
ングされる。陽性ハイブリドーマが、それらの上澄みをH-2bレシピエントへのTC
D H-2bドナー骨髄によるそれらの同時投与の前にマウスドナー(H-2k)骨髄細胞と
反応させることにより更に試験される。このマウスモデルにおいて、未処理の同
種ドナー骨髄細胞は完全に(100%)同種のキメラを生じ、一方、RAMBまたは抗T
hy-1抗体処理ドナー細胞はおそらくドナー細胞製剤中のFCの減少のためにレシピ
エント中で存在するとしても低レベルの混合同種キメリズムを生じる。R7.6.2、
R340.3.1およびR373.6.3と称される3種のMAbがFCを枯渇し、混合同種キメラを
生じることができる。FCにより発現された抗原のMAbに関する種々の使用が本明
細書に記載された本発明により含まれ、これらとして、ドナー細胞製剤中のFCの
同定、細胞混合物からのFCの単離および濃縮、および相当する標的抗原の分子ク
ローニングが挙げられるが、これらに限定されない。
4.図面の簡単な説明
図1Aおよび1B 未処理のドナー骨髄細胞が完全に同種のキメラを生じる。同種細
胞(H-2K)のみが検出される。
図2Aおよび2B RAMB処理ドナー骨髄細胞が混合同種キメラを生じる。同系細胞お
よび同種細胞の両方が検出される。
図3Aおよび3B 抗Thy1.2処理ドナー骨髄細胞が混合同種キメラを生じる。同系細
胞および同種細胞の両方が検出される。
5.発明の詳細な説明
本発明はマウスFCにより発現された抗原に対するMAb、このような抗体の産生
方法およびこのようなMAbの使用に関する。本明細書に記載された特定の操作お
よび方法はマウスFCに対するラットMAbを誘導するためにマウス脳組織を使用し
て例示されるが、それらは本発明の実施の単なる例示にすぎない。類似の操作お
よび技術がヒトFCにより発現されたものを含め、FCマーカーに対するMAbを産生
するために脳組織、部分精製FC抗原またはFC抗原に対して免疫された種々の動物
宿主に同等に適用できる。
5.1.免疫原の調製
FCにより選択的に発現された抗原に対するMAbを産生するために、最初に解決
されなければならない二つの重大な障害がある。第一の障害は、天然組織中のFC
が少量であることに関するものであり、よってそれらは免疫原として使用するた
めには比較的純粋な形態で充分な量まで濃縮する必要がある。FCを95%以上の純
度まで精製する場合、或る動物の免疫感作に使用するために骨髄から充分な数の
精製FCを得るのには4000時間の細胞選別を要することが推定される。
FCの活性は濃縮された時に比較的少数であってもこれらの細胞の使用を可能に
するが、それらは免疫原として使用のためには50%以上まで濃縮することが好ま
しい。FCは種々の分離方法を使用してそれらが存在するあらゆる組織から単離し
得る。本発明のこの局面によれば、ヒトFCは骨髄から単離され得る。反復密度勾
配遠心分離、正の選択、負の選択、またはこれらの組み合わせを伴う操作が使用
し得る。例えば、ヒトFCは骨髄吸引液を“フィコール ハイペーク”遠心分離に
かけることにより調製し得る。正の選択はFC特異性決定基を認識する抗体の使用
を必ずしも必要としない。例えば、B細胞および単球が密度勾配遠心分離、プラ
スチック接着、そしてFc受容体パンニング後にFCを含むフラクションから最初に
枯渇されてもよく、次にMHCクラスII抗原に対する抗体がFCについて正に選択す
るのに使用され得る。負の選択は本明細書に開示されたプロトコルの改良を含む
。例えば、FCを含む細胞調製物は非FCの除去のためにFCにより発現されない細胞
表面抗原で誘導された一種以上の抗体と反応させられてもよい。多数のT細胞、
B細胞、単球、および顆粒細胞マーカーの抗体が使用し得る。このような抗体の
例として、T細胞に特異的な抗CD4および抗TCR;B細胞に特異的な抗CD12、抗CD
19および抗CD20;単球に特異的な抗CD14;並びにナチュラルキラー細胞に特異的
な抗CD16および抗CD56が挙げられる。これらの抗体は反復してあらゆる組み合わ
せで、またはFCの濃縮のために連続様式で適用し得る。抗体への結合後に、細胞
は抗マウス抗体で被覆された個体表面への吸着により除去し得る。何となれば、
ヒト細胞表面マーカーで誘導されたモノクローナル抗体の大半がマウス起源であ
るからであり、または抗体がビオチンと接合される場合には、抗体結合細胞はア
ビジンまたはストレプトアビジン被覆表面により除去でき、または抗体が磁性ビ
ーズに接合される場合には、抗体により認識される抗原を発現する細胞は磁界中
で除去し得る(H-arlowおよびLane,1988,抗体:実験マニュアル,コールドス
プリング ハーバー)。
FC濃縮に関する現行の方法は一連の正および負の選択工程を必要とし、それ故
、FC関連抗原のその他の源が使用し得る。例えば、脳組織はFCにより発現された
抗原と同じ抗原または交差反応性抗原を含むことが明らかであり、抗ヒトFC MAb
の産生のための免疫原としての使用のために調製し得る。あらゆる種からの脳組
織が得られ、そして大きな組織が均一化の前に小さい切片に切断されるべきであ
る以外は、下記の第6.1.2節に記載されたのと同じ方法で免疫感作における使用
のために調製し得る。
第二の障害は所望の特定の抗体の示差スクリーニングのための、即ち、FCに対
して誘導されるが、その他の血液細胞に対してそれ程誘導されない抗体について
選択するための有効な方法に関する。本件出願の目的のために、FCは幹細胞移植
を増進でき、かつThy-1、CD3、CD8、CD45、CD45R、MHCクラスII(低レベル〜中
間レベル)を発現するが、その他のマーカー、例えば、CD4、CD5、CD14、CD16、
CD19、CD20、CD56、γδ-TCRおよびαβ-TCRを欠いている、直径約8〜10ミクロ
ンの骨髄由来細胞と定義される。MAbは、抗体がFCに結合するが、幹細胞、
T細胞、B細胞、マクロファージ、単球、顆粒細胞、赤血球および血小板を含む
その他の骨髄細胞に結合しないか、または少ない程度に結合する結合アッセイに
よりスクリーニングし得る。抗体染色がフローサイトメトリーまたは当業界で知
られているその他の検出方法により測定し得る。また、抗体は下記の第6節に記
載されたin vivo移植アッセイにおけるようにFC機能を低下するそれらの能力に
っいてスクリーニングし得る。
5.2.抗体産生
種々の方法がFCにより発現された新規な抗原性マーカーを認識するポリクロー
ナル抗体およびモノクローナル抗体を産生するのに使用し得る。当業界で知られ
ているあらゆる操作がこれらの細胞に対する抗体の産生に使用し得る。抗体の産
生のために、種々の宿主動物が可変の、精製もしくは部分精製されたFCまたは脳
組織、固定細胞または膜調製物(これらはウサギ、ハムスター、マウス、ラット
、等のものを含むが、これらに限定されない)による注射により免疫し得る。種
々のアジュバントが宿主種に応じて免疫応答を増大するのに使用されてもよく、
これらはフロイント(完全および不完全)、水酸化アルミニウムのような無機ゲ
ル、リゾレシチン、プルロニックポリオール、ポリアニオン、ペプチド、油エマ
ルション、キーホールリンペットヘモシアニン、ジニトロフェノールのような表
面活性物質、およびBCG(カルメット・ゲランウシ型結核菌)およびコリネバクテ リウム パルブム
のような潜在的に有益なヒトアジュバントを含むが、これらに
限定されない。
FC上の単一抗原性エピトープに対する実質的に均一の抗体であるMAbは、培養
中の連続細胞系によって抗体分子の産生を与えるあらゆる技術を使用することに
より調製し得る。これらとして、KohlerおよびMilstein(1975,Nature 256,495
-497)により最初に記載されたハイブリドーマ技術、更に最近のヒトB細胞ハイ
ブリドーマ技術(Kosborら,1983,Immunology Today 4:72; Coteら,1983,Pro
c.Natl.Acad.Sci.USA 80:2026-2030)およびEBVハイブリドーマ技術(Coleら,1
985,モノクローナル抗体および癌療法,Alan R.Liss,Inc.,77-96頁)が挙げ
られるが、これらに限定されない。MAbは、成熟マクロファージ、顆粒細
胞、単球、T細胞、B細胞、幹細胞および樹枝状細胞ではなく、FCへの選択的結
合により、及び/またはFC活性の抑制により示差スクリーニングし得る。
分子の結合部位を含む抗体断片が既知の技術により産生し得る。例えば、この
ような断片として、抗体分子のペプシン消化により産生し得るF(ab')2断片およ
びF(ab')2断片のジスルフィド架橋を還元することにより産生し得るFab断片が挙
げられるが、これらに限定されない。
キメラ抗体は、異なる部分が異なる動物種に由来する分子、例えば、マウスま
たはラットMAbに由来する可変領域およびヒト免疫グロブリン定常領域を有する
分子である。適当な生物活性のヒト抗体分子からの遺伝子と一緒に適当な抗原特
異性のマウス抗体分子からの遺伝子をスプライシングすることによる、“キメラ
抗体”の産生のために開発された技術(Morrisonら,1984,Proc.Natl.Acad.Sci.
USA 81:6851;Neubergerら,1984,Nature,312:604-608; Takedaら,1985,Natu
re,314:452-454)が使用し得る。このアプローチは、抗体がヒトに投与される場
合に特に有益である。キメラ抗体はヒトに注射された時に抗げっ歯類Ig応答を誘
発する際にそれ程異種ではないエピトープを与える。
また、一本鎖抗体の産生に関して記載された技術(米国特許第4,946,778号;Bi
rd,1988,Science 242:423-425; Hustonら,1988,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85
:5879-5883;およびWardら,1989,Nature 334:544-546)がFC反応性一本鎖抗体
を産生するのに採用し得る。一本鎖抗体はFv領域のH鎖およびL鎖断片をアミノ
酸ブリッジを介して連結して、一本鎖ポリペプチドを得ることにより生成される
。
更に、全抗体分子またはそのFab、F(ab')2もしくはFv断片が、シグナル発生化
合物、例えば、蛍光色素、放射性同位元素、発色団、酵素、ケミルミネセント分
子またはバイオミネセント分子、等を含むが、これらに限定されない、種々の化
合物のいずれかに接合し得る。また、全抗体またはそのFab、F(ab')2もしくはFv
断片はFCの生物活性を増進または抑制し得るサイトカイン;または相当する抗原
を発現するFCが選択的に死滅されるような毒素に接合し得る(vitettaおよびUhr
,1985,AnnuRev.Immunol.3:197)。標識、タンパク質、毒素等を抗体および抗
体断片に接合するのに使用し得る方法は当業界で公知である(例えば、米国
特許第4,220,450号、同第2,235,869号、同第3,935,074号および同第3,996,345号
を参照のこと)。
5.3.造血増進性細胞に対するモノクローナル抗体の使用
MAbの種々の使用が本発明に含まれる。T細胞、B細胞、NK細胞、顆粒細胞、
マクロファージ、単球、赤血球、血小板および幹細胞に結合しない点でFCに対し
充分な特異性を示す抗体が一工程のアフィニティー細胞分離操作においてFCを単
離するのに使用し得る。FCにより選択的に発現されるマーカー(即ち、全てでは
ないが或る赤血球がまたそれを発現する)に対する抗体が密度勾配遠心分離の如
きその他の方法と組み合わせて依然として有効に使用されて、FCの単離に現在使
用されている時間のかかるかつ面倒な操作を実質的に軽減し得る。
本発明のこの局面の実施のために、MAbは蛍光色素に接合され、そして蛍光活
性化細胞ソーターを使用するフローサイトメトリーにより細胞混合物からFCにつ
いて選択するのに使用されてもよく、またはビオチン−アビジン分離またはビオ
チン−ストレプトアビジン分離における使用のためにビオチンに接合されてもよ
い。後者の方法では、アビジンまたはストレプトアビジンが固体担体、例えば、
アフィニティーカラムマトリックスまたはプラスチック表面に結合される。加え
て、抗体は磁性ビーズで被覆され、細胞混合物と反応させられ、そして抗体結合
FCが磁界により除去し得る。更に、このようなMAbは免疫組織化学における使用
のために酵素に接合されてもよい。例えば、或る障害がFCの異常な機能により誘
発または持続され、そして組織切片中のFCのレベルの検出が診断上有益であり得
る。
更に、FCマーカーに対するMAbはこのような分子をコードする遺伝子を単離し
、同定するのに使用し得る。抗体はコード配列の分子クローニングのためにFCか
ら作られた発現ライブラリーをスクリーニングするのに使用し得る(Seedおよび
Aruffo,1987,Proc.Natl.Acad.Sci.USA84:3365-3369)。
6.実施例:マウス造血増進性細胞に対するモノクローナル抗体の産生
6.1.物質および方法
6.1.1.動物
生後6〜8週令の雄のC57BL/10SnJ(B10)、およびB10.BR/SgSn(B10.BR)マウ
スをジャクソン研究所(バー ハーバー、マイン)から購入した。生後4〜8週
の雄のフィッシャー344(F344)雄ラットをハーラン スプラギュー ダウレイ社
(インジアナポリス、インジアナ)から購入した。動物をピッツバーグ大学にあ
るバイオメディカル サイエンス タワーにある特定の無病原体設備に収容した
。
6.1.2.免疫感作および細胞融合
マウス脳組織を頭蓋冠から一塊として得た。脳組織を脳組織それぞれ1cm3に
ついてPBS 1mlに入れ、これをガラスホモジナイザー中で均一にした。次に脳エ
マルションを動物注射の前に1:1の比で完全フロイントアジュバントと混合した
。均一にしたマウス脳0.4 mlをアジュバント中で乳化した。ラット注射を合計4
回2週毎に皮下に行った。4回目の注射の3日後に、末梢血を抗体産生について
試験した。最も強い活性を示す動物を選択してハイブリドーマ融合に使用した。
選択された動物に完全フロイントアジュバントの不在下で脳/PBS混合物の追加
の注射を皮下に施した。この注射は一般に4回目の注射の約5〜6日後であった
。この5回目の注射の2日後に、動物の脾臓を回収し、そしてポリエチレングリ
コールを使用してHGPRTミエローマ細胞(P3.653)と融合した(KohlerおよびMilste
in,1975,Nature 256:495)。次に細胞をミクロウェルプレート中に分配し、HAT
培地(10%のウシ胎児血清、1%のPen/Strep、1%のL-グルタミン、1%の非必
須アミノ酸、1%のピルビン酸ナトリウムおよびHATを補給したRPMI-1640)中で
増殖させた。未融合のミエローマ細胞は再利用経路を使用するためのHGPRTのそ
れらの欠如のために死亡した。また、未融合の脾臓細胞は、それらがin vitro増
殖できないので死亡した。融合細胞(ハイブリドーマ)はミクロウェル中で増殖
し、そしてそれらの培養上澄みをラット抗体の産生について最初に試験した。
非特異的ラット抗体染色をブロックするためのラット血清を含む小さいフロー
管中で106のマウス骨髄細胞をインキュベートすることにより培養上澄みをラッ
ト抗マウス抗体の存在についてスクリーニングした。次にハイブリドーマ培養上
澄み20〜30μlを骨髄のそれぞれの管に添加し、二つの別個の管をそれぞれの上
澄みについて試験した。一つの管はIgG産生についてスクリーニングするためで
あり、その他の管はIgM産生についてスクリーニングするためであった。45分間
の4℃におけるインキュベーション後に、細胞を1000 rpm x10分間で2回洗浄し
、そして培地をデカントした。予備滴定したヤギ抗ラットIgG-FITCをそれぞれの
培養上澄みについて第二管に添加し、そして抗ラットIgM-PEを第二管に添加した
。4℃で45分間のインキュベーション後に、細胞を2回洗浄し、そしてその後の
フローサイトメトリー分析のために1%のパラホルムアルデヒド0.4 ml中で固定
した。対照はバックグラウンド染色および陰性対照の評価として細胞単独、IgG
単独、IgM単独を含むサンプル、そして陽性対照としてRAMB、Lyt2-FITC、並びに
既知のマウス抗原の未標識のラットIgGおよびIgM MAbを含むサンプルを含んでい
た。ハイブリドーマをマウス骨髄の異なる集団と交差反応するラット抗マウス抗
体の産生について選択した。陽性ウェルをin vivoアッセイにおいてFCに対する
抗体について更にスクリーニングした。選択されたハイブリドーマを限界希釈に
よりクローン化した。クローン化されたハイブリドーマを腹水の生産のためにプ
リスタン初回感作されたヌードマウスに注射した。
6.1.3.混合同種キメラの調製
FCに対するMAbについてスクリーニングし、選択するために、ドナー骨髄細胞
の調製物を同種マウスレシピエントへのそれらの注射の前にハイブリドーマ上澄
みと反応させた。レシピエント中の混合同種キメリズムを、FC機能を低下できる
MAbの存在を指標として使用した。混合キメラを調製するために、同系(B10)マウ
スおよび同種(B10.BR)マウスの長い骨からの骨髄を回収した。マウスをCO2麻酔
で安楽死させ、70%のアルコールで調製し、そして長い後部の骨(大腿骨および
脛骨)を除去した。ゲンタマイシン50μl/mlを補給した培地199(ギブコラボラ
トリーズ ライフ テクノロジー社、グランド アイランド、ーヨーク)を使用
し、22ゲージの針を使用して、骨髄を骨からフラッシュした。培地混合物(MEM)
を使用して18ゲージの針による穏やかな吸引により骨髄を機械的に再度懸濁させ
、そして懸濁液を無菌ナイロンメッシュゲージにより濾過した。次に細胞
を1000 rpmで10分間にわたってペレットにし、MEM中に再度懸濁させ、そしてカ
ウントした。通常の同種再構成では、RAMBを同系B10骨髄のT細胞枯渇に使用し
た(4℃で30分間の108の細胞/mlにおける1:40または適当な希釈)。マウス脳
を使用してウサギを免疫した以外は、上記の第6.1.2節にマウス脳によるラット
の免疫感作について記載された方法と同じ方法でRAMBを調製した。同種B10.BR骨
髄細胞を処理せず、RAMB枯渇し、抗Thy1.2枯渇し、またはハイブリドーマ上澄み
で処理した。10x106のドナー骨髄細胞をペレットにし、抗体を1ml中に1:10で添
加した。抗体インキュベーションを37℃で30分間行うように、培地を37℃に前も
って温めた。次に細胞をMEM中で洗浄し、1000 rpmで10分間にわたって回転させ
、37℃で30分間にわたってモルモット補体中で再懸濁させた(ギブコ ラボラト
リーズ ライフ テクノロジー社、グランド アイランド、ニューヨーク)。細
胞を2回洗浄し、カウントし、そして適当な濃度でMEM中で再懸濁させて動物当
たり合計容積1mlの注射を可能にした。RAMB処理した同系細胞を5x106/動物で注
射し、一方、同種細胞に9.5 Gyにおけるレシピエント動物の照射の4〜6時間以
内に15x106/動物で投与した。27ゲージの針を使用して、細胞注射は外側尾部静
脈を経由するものであった。
6.1.4.フローサイトメトリーによるキメラの特性決定
フローサイトメトリーを使用して、レシピエントを同系および同種のドナーリ
ンパ系要素による移植について特性決定してMHCクラスI(H-2bまたはH-2k)表
面マーカーを有する末梢血白血球(PBL)の%を測定した。簡単に言えば、末梢血
をヘパリン処理プラスチック血清バイアル中に回収した。充分な混合後に、懸濁
液を室温のリンパ球分離培地(LSM)(オルガノン テクニカル、ケンシントン、
メリーランド)1.5 mlの上に層形成し、そして20℃で1700 rpmで30分間にわたっ
て遠心分離した。リンパ球層を食塩水-LSM界面から吸引し、培地で洗浄した。赤
血球をACK溶解し(塩化アンモニウム/炭酸カルシウム溶解緩衝液)、そして残
っている細胞を4℃で30分間にわたって適当なMAbで染色し、そして必要とされ
る時にサンドイッチで対比染色した。蛍光活性化細胞ソーター(FACS)(FACS IIベ
クトン ディキンソン アンド カンパニー、マウンテン ビュー、カリフォル
ニア)を使用して脾臓リンパ系細胞および胸腺リンパ系細胞の分析を行った。
6.2.結果
下記の節に記載された実験は、レシピエント動物を致死照射し、一定用量の同
種ドナー細胞および同系ドナー細胞を移植する混合キメラモデルを使用した。同
種キメリズムの%、即ち、混合キメリズムのレベルを、ドナー細胞移植を促進す
る際のFC活性の読み取りとして使用した。
骨髄調製物のRAMBおよび補体処理はレシピエント中で移植するその能力に負に
影響することが既に報告されていた。最近、FCと称される骨髄細胞集団が同定さ
れ、これが造血幹細胞移植を大幅に増進した。同種骨髄移植では、Sca-1+精製
造血幹細胞単独は、FCが同時投与されない限り、移植できなかった。更に、FCは
幹細胞活性を有しなかった。RAMBはFCを枯渇することが明らかであり、そしてRA
MBはマウス脳に対し産生された抗血清であったので、マウスFCはマウス脳組織と
或る共通の抗原または交差反応性抗原を共有することが可能であった。こうして
、マウス脳組織を得、均一にし、そしてマウスFCにより発現されたマーカーに対
するMAbの産生のためにラット中で免疫原として使用した。
マウス脳組織による数回の免疫感作後に、ラットを犠牲にし、そしてそれらの
脾臓細胞をポリエチレングリコールによりHGPRTミエローマ細胞と融合した。得
られたハイブリドーマ細胞をHAT培地中で選択し、そしてそれらの培養上澄みをF
Cを排除できる抗体の存在の指示として同種レシピエント中でドナー骨髄移植の
レベルを減少するそれらの能力について試験した。
抗体スクリーニング操作は、マウスレシピエントがTCD同系骨髄細胞+種々の
抗体で処理された同種骨髄細胞を受ける確立された混合同種キメリズムモデルを
使用した。レシピエント中の同種キメリズムのレベルを抗MHCクラスI抗体の使
用により測定し、そしてそれをFC機能に関する抗体の効果の指示として使用した
。例えば、未処理の同種ドナー骨髄調製物は完全に同種のレシピエントをもたら
し、即ち、少ない同系(H-2b)細胞と一緒に、主としてH-2k同種細胞をレシピエン
ト中で検出した(図1Aおよび1B)。一方、RAMB(図2Aおよび2B)または抗Thy1.2
(図3Aおよび3B)抗体で処理した同種ドナー細胞は混合同種キメリズムをもたら
し、これはこれらの試薬が同種幹細胞移植を促進するのに必要とされるFCを枯渇
することを示した。
これらの対照と比較して、ドナー骨髄細胞をハイブリドーマ上澄みで処理し、
続いて同種レシピエントに移植して、RAMBまたは抗Thy1.2処理で得られた結果と
同様の混合同種キメリズムを生じる抗体について選択した。完全に同種のキメリ
ズムのレベルを減少しなかった抗体を捨てた。何となれば、それらはFCを除去で
きなかったからである。
産生された多数のハイブリドーマおよび上記のアッセイで試験されたものの中
で、R7.6.2(IgG2a)、R340.3.1(IgM)およびR373.6.3(IgM)と称される3種のハイ
ブリドーマ細胞系を更なる研究のために選択した。これらの細胞系は、それらで
処理されたドナー細胞で移植されたレシピエント中で混合同種キメリズムを生じ
るそれらの能力により証明されるようにFCマーカーに対して誘導される抗体を産
生し、一方、未処理のドナー細胞は完全に同種のキメラを生じた(表I)。これ
らの結果は、ドナー細胞製剤中でFCを枯渇でき、そして順に、移植する幹細胞の
能力の低下を生じることができる3種のMAbがFCに対して誘導されることを示し
た。スクリーニングされた合計150種より多いハイブリドーマのうち、わずかに
3種のクローンがFCに優先的に結合する抗体を産生した。
7.細胞系の寄託
下記のハイブリドーマ細胞系を、メリーランド、ロックビルにあるアメリカン
タイプ カルチャー コレクションに寄託し、下記の受託番号が指定された。
ハイブリドーマ ATCC受託番号
R7.6.2 HB11517
R340.3.1 HB11518
R373.6.3 HB11507
本発明は本発明のほんの一局面を例示することを意図して例示した実施態様に
より範囲を限定されない。実際、本明細書に示され、記載された事項に加えて本
発明に種々の変更をほどこすことが、以上の説明および添付図面から当業者に明
らかになるであろう。このような変更は請求の範囲内に入ることが意図される。
本明細書に引用された全ての刊行物を参考としてそのまま含めておく。
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(81)指定国 EP(AT,BE,CH,DE,
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,CI,CM,GA,GN,ML,MR,NE,SN,
TD,TG),AP(KE,MW,SD,SZ),AM,
AU,BB,BG,BR,BY,CA,CN,CZ,E
E,FI,GE,HU,JP,KE,KG,KR,KZ
,LK,LR,LT,LV,MD,MG,MN,MW,
MX,NO,NZ,PL,RO,RU,SD,SI,S
K,TJ,TT,UA,UZ,VN
(72)発明者 コルソン,ヨランダ
アメリカ合衆国 15217 ペンシルバニア
州 ピッツバーグ,マルヴァーン アベニ
ュー 1332番地