【発明の詳細な説明】
組織修復におけるアンギオテンシンII類似体の使用 発明の背景
本発明は、一般に生化学および医学の分野に関する。特に、本発明は、組織の
成長または治癒を促進する方法および物質に関する。
ほ乳類組織の創傷(破傷または裂口)は、創傷面で組織破壊および微小血管系
の凝固を引き起こす。こうした組織の修復は、損傷に対して秩序正しく制御され
た細胞の応答の現れである。すべての軟組織創傷は、サイズとは無関係に、同じ
ように治癒する。組織の成長および修復は生物学的システムであり、細胞増殖と
血管形成は酸素勾配(oxygen gradient)の存在下で起こる。連続的な形態学的
変化および構造的変化は組織修復中に起こるものであるが、こうした変化は非常
に詳細に特徴付けられており、定量されている例もある[Hunt, T.K. et al.
,“Coagulahon and macrophage stimulation of angiogenesis and wound heali
ng,”Thesurgiacal wound,pp.1-18,ed.F.Dineen & G.Hildrick-Smith (
Lea & Febiger,Philadelphia:1981)]。
細胞形態形成は、3つの異なる区域から構成される。中心の無血管創傷空間は
、酸素が欠乏しており、酸血症性であり、炭酸過剰症であり、乳酸塩濃度が高い
。創傷空間には局部貧血(虚血)の勾配帯(gradient zone)が隣接しおり、こ
こでは繊維芽細胞が分裂して増殖する。この先導帯に続くのが活性コラーゲン合
成領域であり、成熟繊維芽細胞と多数の新たに形成された毛細管(血管新生)を
特徴とする。この新たな血管の成長(血管形成)は創傷組織の治癒に必要である
一方、一般に血管形成剤では、予てからの要望である組織修復に対する生合成効
果を補うことは不可能である。創傷(重度の熱傷、外科的切開、裂傷やその他の
外傷)をさらに迅速に治癒させる必要があるのにも関わらず、今日までに薬理学
的物質を用いて創傷治癒を促進すること以外は成功しなかった。
DiZeregaによる米国特許第5,015,629号明細書(この開示内容すべてを引用に
より本明細書に含める)には、創傷組織にアンギオテンシンII(ATII)を治癒速
度の増加に有効な量適用し治癒速度を増加させる方法が記載されている。アンギ
オテンシンIIを創傷組織に適用することで、創傷治癒速度は十分速くなるので、
上皮再形成と組織修復はさらに速くなる。アンギオテンシンIIという用語は、ヒ
トやその他の種に見られ、Asp-Arg-Val-Tyr-Ile-His-Pro-Phe[配列番号:1]の
配列を有するオクタペプチドを意味する。アンギオテンシンIIは、周知の昇圧剤
であり、市販されている。
アンギオテンシンIIは創傷治癒の促進に有益ではあるが、創傷治癒を促進する
ために有用な他の剤の需要がなお存在する。発明の概要
本発明は、アンギオテンシンIIの類似体(analog)を創傷治癒に使用することに
関する。本発明に係る重要な類似体は下記の一般式を有する。
R1-R2-R3-R4-R5-R6-R7 I
(式中、R1は次式によって示される基であり、
X-RA-RB
(式中XはHまたは1乃至3のペプチド基であり、RAとRBは共にアミノペプチダー
ゼA切断に対して不安定なペプチド結合を形成する。)
R2は、Val、Ala、Leu、Ile、Gly、Pro、Aib、Acpc、Tyrから成るグループか
ら選択され、
R3は、Tyr、Thr、Ser、azaTyrから成るグループから選択され、
R4は、Ile、Ala、Leu、Val、Glyから成るグループから選択され、
R5は、HisまたはArgであり、
R6は、ProまたはAlaであり、
R7は、Phe、Phe(Br)、Tyrから成るグループから選択される。
但し、配列Asp-Arg-Val-Tyr-Ile-His-Pro-Phe[配列番号:1]を除く。)
こうした類似体は、創傷治癒を促進するために有用な組成物の基礎を成し、こ
れらの組成物は一般式Iで示される少なくとも1つの化合物を創傷治癒促進に有
効な量含む。好ましくは、組成物は、基質溶液またはミセル溶液の形態である。発明の詳細な説明
本発明によれば、ほ乳類組織の創傷治癒は、有効な量の一般式Iで示される少
なくとも1つの化合物を含む組成物を使用することによって促進される。一般に
、一般式Iで示される活性成分は、基質溶液(matrical solution)またはミセル
溶
液の形態で投与され、その濃度が非常に低い場合でさえも、上皮再度成および組
織修復を促進するのに効果的である。
本発明に係る組成物に使用される化合物は、アンギオテンシンIIの類似体の離
散サブセット(discrete subset)である。アンギオテンシンIIは、知られてい
る最も有効な血管収縮薬の1つであり、分岐して毛細管すなわち小動脈を形成す
る細い動脈を収縮させる。アンギオテンシンの生物学的形成は、レニンが血漿基
質アンギオテンシノーゲンに作用することによって始まる。このように形成され
た物質は、アンギオテンシンIと呼ばれるデカペプチドであり、C-末端のHis-Le
u残基をアンギオテンシンIから除去する変換酵素アンギオテンシナーゼにより
、アンギオテンシンIIに変換される。
最近の研究では、レニン-アンギオテンシン系の血管作用性生成物であるアン
ギンテンシンII(AII)は、創傷修復に関与する、成長因子の放出、有糸分裂生
起、化学走性および培養細胞の細胞外基質の放出を高める[Dzau V.E. et al
.(1989)"Molecular mechanism of angiotensin in the regulation of vascular
and cardiacgrowth,"J Mol Cell Cardiol 21 (Supple III):s7;Berk,BC et al,
(1989)"Angiotensin II stimulated protein synthesis in cultured vascular
smooth muscle cells," Hypertension13:305-14;Kawahara,Y,et al(1988)"Angio
tensin II induces expression of the c-fosgene through protein kinase C a
ctivation and calcium ion mobilization in cultured vascularsmooth muscle
cells," BBRC 150:52-9; Naftilan,AJ et al.(1989) "Induction of plate
let-derived growth factor A-chain and c-myc gene expressions by angioten
sin II in cultured rat vascular smooth muscle cells,"J Clin Invest 83: 1
419-24; Taubman,MB et al.(1989)"Angiotensin II induces c-fos mRNA in aor
tic smooth muscle,Role of Ca2+mobilization and protein kinase C activati
on,"J Biol Chem 264:526-530;Nakahara,K et al.(1992)"Identification of th
ree types of PDGF-A chain gene transcipts in rabbit vascular smooth musc
le and their regulated expression during development and by angiotensin
II,"BBRC 184:811-8; Stouffer GA and GK Owens (1992) "Angiotensin
II induced mitogenesis of spontaneously hypertensive rat derivered cultu
red smooth muscle cell is dependent on autocrine puoduction of transform
ing growth factor-β,"Circ Res 70:820:Wolf et al.(1992)"Angiotensin II s
timulates the proliferation and biosynthesis of type I
collagen in cultured murine mesangial cells,"Am J Pathol 140:95-107; Bel
l,L and JA Madri(1990)"Influence of the angiotensin syestem on endotheli
al and smooth muscle cellmigration,"Am J Pathol 137:7-12]。さらに、AII
は、ウサギの角膜(rabbit cornealeye)モデルとニワトリの漿尿膜モデルでは
脈管形成性であることがわかった(Fernandez,La et al.,(1985)"Neovasculariz
ation produced by angiotensin II,"J Lab Clin Med 105:141;LeNoble,FAC et
al.(1991)Angiotensin II stimulates angiogenesis in the chorio-allantoic
membrane of the chick embryo,"Eur J Phalmacol(1991)195:305-6)。したがっ
て、AIIは、血管新生、成長因子の放出、再上皮化および細胞外基質の産生の増
進によって創傷修復を促進することができる。血液と栄養が損傷組織に流れる量
が増えることで、AIIは創傷修復速度を速くすることができる。AIIは、損傷部
位で成長因子が生成されることによっても創傷修復を速めることができる。成長
因子の外因的添加は、種々の機序によって創傷修復を促進することがわかってい
る[Grotendorst,GR et al.(1985)"Stimulation of granulation tissue format
ion by platelet-derived growth factor in normal and diabetic rats," J Cl
in Invest 76:2323-9;Mustoe,TA et al.(1987)"Accelerated healing of incisi
onal wounds in rats induced by transforming growth factor-β," Science 2
37: 1333-5; Pierce,GF et al.(1988)"In vivo incisional wound healing augu
mented by platelet-derived growth factor and recombinantc-sis gene homod
imeric proteins," J Exp Med 167: 947-87; Lynch,SE et al.(1989)"Growth fa
ctors in wound healing,"J Clin Invest 84:640-6;Greenhalgh,DG et al.(1990
)"PDGF and FGF stimulate wound healing in the genetically diabetic mouse
,"Am J Pathol 136:1235-46]。最近の研究から、AIIは新血管内膜形成を損傷
後の頚動脈および大動脈で増進することがわかった[Powell, JS et al.(19
89) "Inhibitors of angiotensin-converting enzyme prevent myointimal pr
oliferation after vascular injury."Science 245:186-8;Powell,JS et al.(19
91)"The prolferative response tovascular injury is suppressed by convert
ing enzyme inhibition,"J Cardiovasc Pharmacol 16(suppl 4):S42-9,Capron,L
et al.(1991)"Effect of ramipril,an inhibitor of angiotensin converting
enzyme,on the response of rat thoracic aorta to injury with a balloon ca
theter," J Cardiovasc Pharmacol18:207-11;Osterricdes,W et al.(1991)"Role
of angiotensin II injury-induced neointima formation in rats," Hyperten
sion 18: Suppl II 60-64; Daemen,MJAP et al.(1991)
"Angiotensin II induces smooth muscle cell proliferation in the normal a
nd injured ratarterial wall,"Circ Res 68:450-6]。こうした観察の結果、複
数の研究が行われ、内因性のAIIが血管内膜過形成を誘発することができる機序
が決定された。AIIは有糸分裂誘発因子として平滑筋細胞、繊維芽細胞、内皮細
胞に作用することが示された[Schellin,P et al.(1979)"Effects of angiotens
in II and antagonist saralysin on cell growth and renin in 3T3 and
SV3T3 cells," J C4ll Physiol 98: 503-13;Campbell-Boswell,M and
AL Robertoson(1981) "Effects of angiotensin II and vasopressin on h
uman smooth muscle cells in vitro,"Exp Mol Pathol 35:265-76;Emmett,N et
al.(1986)"Effect of saralasin(angiotensin II antagonist)on 3T3 cell grow
th and proliferation,"J Cell Biol 103:171(Abst);Paquet,JL et al.(1990)"A
ngiotensin II-induced proliferation of aortic myocytes in spontaneously
hypertensive rats,"J Hypertens 8:565-72;Dzau et al,上述]。AIIは、血管
平滑筋細胞のタンパク質含有率とサイズも増大させた[Berk et al.(1989),上述
;Geisteiler,AAT et al.(l988)"Angiotensin II induces hypertrophy,not hype
rplasia,of cultured rat aortic smooth muscle cells,"Circ Res 62:749-56]
。複数の研究では、AIIは、PDGF、ヘパリン結合EGF、トランスフォーミング成
長因子-β(TGFβ)などの種々のタイプの成長因子の放出や、平滑筋細胞、内皮
細胞および心臓の繊維芽細胞由来の成長に関連したプロトオンコジーンを増進す
ることがわかった[Kawahara et al (1988),上述;Naftilan,AJ(1992)"The rol
e of angiotensin II in vascular smooth muscle cell growth," J Cardiovas
Pharmacol 20:S37-40;Naftilan et al.(1989),上述;Tubman et al.(1989),上述
;Nakahara et al.(1992),上述;Temizer et al.(1992),上述;Gibbons,GH et al.
(1992)"Vascular smooth muscle cell hypertrophy vs hyperplasia,Autocrine
transforming growth factor-betal expression determines growth response t
o angiotensin II"J Clin Invest 90:456-61;Bell,L et al.(1992),"Autocrine
angiotensin system regulation of bovine aortic endothelial cell migratio
n and plaminogen activator involves modulation of proto-oncogene pp6Oc-s
rc expression,"J Clin Invest 89:315-20;Stouffer and Owens(1992)、上述:]
。AIIによる血管平滑筋細胞の肥大はPDGFが媒介する[Berk, BC and GN R
ao.(1993)"Angiotensin II-induced vascular smooth mucsle cell hypertrophy
:PDGF A-chain mediates the increase in size,"J Cell Physiol 154:368-80]
。
従って、AIIには創傷組織中のこれらの成長因子の濃度を増加させるにことに
より創傷修復を促進する作用がある。さらに、AIIはコラーゲン合成を刺激する
ことによって、成長因子の細胞外基質形成における役割が示唆されている[Wolf
,G et al.(1991)"Intracellular signalling of transcription and secretion
of type IV collagen after angiotensin II-induced cellular hypertrophy in
cultured proximal tubular cells,"Cell Reg 2:219-27;Wolf et al.(1992),上
述;Zhou,G et al.(1992)"Angiotensin II mediated simulation of collagen sy
nthesis in cultured cardiac fibroblasts," FASER I 6:A1914]。創傷修復は
、創傷床中にに必要な細胞タイプの走化性にも関係する。AIIが、内皮細胞およ
び平滑筋細胞の遊走をin vitroにおいて誘発することも示された[Bell and Mad
ri(1990),上述]。
最近の研究では、AII受容体の発現が創傷修復の過程で増加することも示され
ている[Viswanathan,M,and JM Saavedra(1992)"Expressions of Angiotensin I
I AT2Receptors in the Rat Skin During Experimental Wound Healing,"Peptid
es 13: 783-6;Kimura,B et al.(1992)"Changes in skin angiotensin II recept
ors in rats during healing,"BBRC 187:1083-1090]。こうした増加により、修
復部位で局所的にAIIが増産されるという証拠とあわせて、AIIが創傷修復の過
程で鍵となる役割を果たし得ることが示唆される。
驚くべきことに、これまでに知られたアンギオテンシンII類似体の中で、天然
ヒトアンギオテンシンIIに比較して、アンギオテンシン受容体との結合力が強い
類似体および/または活性が持続する類似体の多くが、本発明に係る使用には適
さないことがここに発見された。特に、一部または完全にアミノペプチドに対し
て耐性があり、昇圧剤として薬理学的に有用である種々の類似体[Printz,M.P.
et al.,Proc NaL Acad.Sci.USA 69:378(1972);Regoli,D et al., Can.J.Ph
ysiol.Pharmacol.5239(1974)]が、単純に本発明に係る使用に適するわけではな
い。
本発明に係る特に重要な類似体は、下記の一般式Iで示されるものである。
R1-R2-R3-R4-R5-R6-R7
(式中、R1は次式によって示される基であり、
X-RA-RB
(式中XはHまたは1乃至3のペプチド基であり、RAとRBは共にアミノペプチダ
ーゼA切断に対して不安定なペプチド結合を形成する。)
R2は、Val、Ala、Leu、Ile、Gly、Pro、Aib、Acpc、Tyrから成るグループか
ら選択され、
R3は、Tyr、Thr、Ser、azaTyrから成るグループから選択され、
R4は、Ile、Ala、Leu、Val、Glyから成るグループから選択され、
R5は、HisまたはArgであり、
R6は、ProまたはAlaであり、
R7は、Phe、Phe(Br)、Tyrから成るグループから選択される。
但し、配列Asp-Arg-Val-Tyr-Ile-His-Pro-Phe[配列番号:1]を除く。)
RAは、Asp、Glu、Asn、Acpc(1-アミノシクロペンタンカルボン酸)、Ala、Me2G
ly、Pro、Bet、Glu(NH2)、Gly、Asp(NH2)、Sucから適切には選択される。RBは、
Lys、Arg、Ala、Omから適切には選択される。RAおよびRBの好ましい組合わせは
、Asp−Lys、Glu-Arg、Glu-Lysである。
好ましいクラスのアンギオテンシンII類似体は下記の式を有する。
H-RA-RB-R2-Tyr-R4-His-Pro-Phe[配列番号:2]
(式中、RA、RB、R2およびR4は、既に定義した通りである。)
特に好ましい類似体は、RAおよびRBが、Asp-Lys、Glu-Argか、Glu-Lysである
類似体である。
上述の式では、アミノ酸残基に対する標準の3文字の略語を使用している。特
に指示がない場合には、L-型のアミノ酸を意味する。その他の残基は、以下のよ
うに略した。
Me2Gly N,N-ジメチルグリシル
Bet 1-カルボキシ-N,N,N-トリメチルメタナミウムヒドロキシド分子内塩
(ベタイン)
Suc スクシニル
Phe(Br) p-ブロモ-L-フェニルアラニル
azaTyr アザ-α’-ホモ-L-チロシル
Acpc 1-アミノシクロペンタンカルボン酸
Aib 2-アミノイソ酪酸
AIIとその類似体はγターンかβターンのいずれかをとることが示唆されてい
る[Regoli,D.et al.(1974)"Pharmacology of Angiotensin,"Pharmacological R
eviews 26:29]。一般に、位置R2、R4およびR6の中性側鎖は、受容体の結合およ
び/または固有活性に主に寄与する位置R3、R5およびR7の活性基間の適切な距離
を保つことに関与し得ると思われる。位置R2、R4およびR7における疎水性側鎖は
、ペプチド全体のコンホメーションに重要な役割を果たし、および/または、仮
説的疎水性ポケットの形成に寄与することもある。
本発明の目的のため、R2はR4(γターンモデルの場合)かR5(βターンモデル
の場合)との線状または非線状の水素結合の形成に関与し得ると思われる。R2は
、逆平行β構造の第1のターンにも関与するとも思われる(この構造は可能性の
ある構造として提案されている)。一般式Iの他の位置とは対照的に、β分枝と
γ分枝はこの位置で同様に有効であると思われる。さらに、単一の水素結合で、
比較的安定したコンホメーションを十分に維持することができると考えられる。
従って、R2をVal、Ala、Leu、Ile、Gly、Pro、Aib、Acpc、Tyrから適切に選択す
ることができる。
R3に関しては、コンホメーションの分析から、この位置の側鎖が(R2およびR4
の位置と同様に)受容体の占有および刺激に不可欠と思われる疎水性クラスター
の一因となることが示されている。このため、R3はTyr、Thr、Ser、azaTyrから
選択することが好ましい。この位置では、Tyrが特に好ましく、その理由は、水
素をフェノール性水酸基から受け取ることができる受容体の部位と水素結合をし
得るからである[Regoli et al.,上述]。
R4の位置では、脂肪族または脂環式のβ鎖を有するアミノ酸が特に望ましい。
従って、Glyが位置R4に適切ではあるが、この位置のアミノ酸はIle、Ala、Leu、
Valから選択することが好ましい。
本発明に係る特に重要な類似体では、R5はHisまたはArgである。ヒスチジンの
イミダーゾール環のユニークな性質(生理的pHでのイオン化、プロトン供与体ま
たはプロトン受容体として作用できること、芳香族的性質)は、R5として特有の
効用に寄与すると思われる。例えば、コンホメーションモデルは、Hisが水素結
合形成に関与し得る(βモデルの場合)か、R6の配向に影響することによ
って逆平行構造の第2ターンに関与し得ることを示す。同様に、現在ではR7を最
も望ましく配向させるためにはR6がProであると考えられている。R7の位置では
、疎水環と陰イオンカルボキシル末端の両方が、目的の類似体を受容体に結合す
る際に特に有用であると思われるため、Tyrと特にPheが本発明の目的に好ましい
。
特に重要な具体的類似体には、以下のものがある。
類似体1 Asp-Arg-Val-Tyr-Val-His-Pro-Phe 配列番号:3
類似体2 Asn-Arg-Val-Tyr-Val-His-Pro-Phe 配列番号:4
類似体3 Ala-Pro-Gly-Asp-Arg-Ile-Tyr-Val-His-Pro-Phe 配列番号:5
本発明に係る方法によれば、本発明に係るアンギオテンシンII類似体を創傷組
織に対して組織治癒速度を増加させるために十分な量適用する。こうした化合物
は、治癒速度をナノグラムレベルでin vitroとin vivoの両方で十分に加速する
ことができる。具体的には、本発明に係る化合物の少なくとも1つを1mlあたりng
単位の量を含む溶液を適用した場合には、創傷組織の血管新生速度を増加させる
ことができ、1mlあたりμg単位の量を含む溶液を用いた場合には毛細管増殖を有
意に増進させることができる。
本発明に係る化合物は、種々の溶液に含めて適用することができる。本発明に
係る用途に適切な溶液は、無菌であり、十分な量のペプチドを溶解し、創傷組織
に対して無害である。これに関し、本発明の化合物は非常に安定であるが、強酸
と強塩基によって加水分解される。本発明に係る化合物は、有機溶媒とpH5-8の
水溶液に溶ける。
活性剤を組織に一定期間かけて流入(influx)させる種々の適用手段を用いるこ
とができる。例えば、水溶液をガーゼ包帯か絆創膏に染み込ませて創傷組織に適
用することができるだろうし、こうした溶液を時限灌流(timed perfusion)がで
きるように調製することもできよう(このときは、リポソーム、軟膏、ミセルな
どを使用する)。こうした調製物を本発明に係る化合物を用いて生産するための
方法は、当業者らには明らかである。使用される活性剤の具体的な濃度は臨界的
ではなく、この理由は、化合物が数ナノグラムしかない場合でさえも組織修復効
果が認められるからである。
好ましくは、基質溶液かミセル溶液を少なくとも30μg/mlの濃度で存在する活
性剤と一緒に使用する。記載した実施例で有利に用いた具体的な基質溶液は、Hy
dronという商標を付けてニュージャージー州ニューブランズウィックのHydro Me
d Sciencesが販売している半固体ポリエチレングリコールポリマーである。別の
好ましい溶液は、Plutonics F108という商標名でドイツのLudwigshafenのBASFに
よって販売されているミセル溶液である。室温条件下では、この溶液は液体であ
るが、温かい組織に適用すると、この溶液はゲル状になり、活性成分を創傷組織
に数日間かけて浸透させることができる。対象となる別の調製物には、カルボキ
シメチルセルロース製剤、クリスタロイド製剤(塩類液、乳酸加リンガー溶液、
燐酸緩衝生理食塩水など)や創傷ドレッシング(包帯など)を含む。
本発明に係る化合物の治癒効果を種々の場合に提供することができる。上述の
溶液を重度の熱傷、外傷、うっ滞性潰瘍、歯周病、破傷やその他の症状において
、表面創傷組織に局所的に適用することができる。また、観血的手術の結果生じ
たものなどの腹膜創傷組織を本発明に係る組成物で処置し治癒速度を上げること
ができる。例えば、内部の毛細管灌流と治癒を促進するため、結腸部やその他の
組織の外科的除去後、その外科的部位を閉じる前に、手術面に活性成分を含む溶
液を塗布することができる。さらに、限局性治癒速度は、注射その他の方法で活
性剤を皮下投与することによって、速めることができる。
本発明は、以下の実施例を参照することでより深く理解できよう。しかし、こ
の実施例はあくまでも説明を行うためのものであり、本文に続く請求の範囲に定
義された発明の範囲をいかなる意味においても制限するものと解釈してはならな
い。実施例
生後12週目の雄のSD(Sprague Dawley)ラットをSimonsen Laboratories,Gilroy
,CAから得た。手術当日、それらのラットに筋内ケタミン/ロンパム(rompum)麻
酔をかけてから手術の準備をした。ラットを剃毛しベタジンで洗浄した。4箇所
の2×2cmの全層皮膚創傷を、ラットの背面につくった。皮膚切除後、創傷のサイ
ズの輪郭をスライドガラスに記し、薬剤を10%のヒドロン(Hydron)、1%ポリエ
チレングリコール(MW 400)および60%のエタノールを含む100μlヒドロン
溶液
に含めて投与した。
試験物質をランダム式に投与し、この際、すべての物質を3μg/創傷でテスト
し、類似体2および3は10μg/創傷でも評価した。対照は賦形剤(vehicle)のみを
用いて処理した。
物質の投与後、ラットに包帯をし、麻酔から回復させた。2、5、6、8、10日目
に皮膚創傷面積をメトキシフルラン麻酔下で測定した(メトキシフルランは、Pi
ttman-Moore,Mundelein,IIからMetofaneとして市販されている)。創傷面積は
、(1)創傷の形をグラフ紙(1×1mmマス)上にトレースし、(2)その形を切り取り
、(3)紙の重さを計り、その重さを2×2cmの大きさに切り取った紙と比較し、(4)
マスが何個分あるかを計算することによって求められた。
図に示したように、試験動物を一般式Iによる類似体1(図1)、2および3(図
2)で治療した場合には、創傷の閉鎖は対照動物と比較してかなり速められた。
これらの図は、賦形剤で治療した対照と比較した創傷の閉鎖をパーセントの増加
で示したものである。驚くべきことに、類似体4(Sar-Arg-Val-Tyr-Ile-His-Pro
-Phe[配列番号:6])はRAがSarであるために一般式Iの範囲外であるが、この
類似体の投与によって、創傷修復が促進されることはなかった(図1)。この類
似体は、アンギオテンシンII受容体に対して十分な親和力と活性を持ち合わせて
いるが、アミノペプチダーゼによる切除には耐性である[Mendelsohn,FAO et
al.(1984)"Autoradiographic localization of angiotensin II receptors in
rat braln,"Proc.Nat.Acad.Sci.USA81:1575;Israel,A et al.(1984)"Quantativ
e determination of angiotensin II binding sites in rat brain and pituita
ry gland by autoradiography,"Brain Res.322:341-5;Harding,JW and D Felix
(1987)"Effects of aminopeptidase inhibitors amastatin and bestatin on
angiotensin-evoked neuronal activity in rat brain,"Brain Res.424:299-304
]。図3は、投与量を10μgにしたときのほうが3μgのときよりも有効であること
を示す。
上述の説明から、当業者は本発明に係る必須の特徴を容易に、しかも本発明の
精神および範囲から逸脱せずに確認し、本発明をさまざまな用途や条件に適用す
ることができる。形態の変更と均等物への置換えは、諸状況から判断したり便宜
的に為されたりすることであるので、予測されることであり、本文では特定の用
語を用いてはいるが、説明的意味で使うことを意図したものであり、限定を目的
とするものではない。
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フロントページの続き
(51)Int.Cl.6 識別記号 庁内整理番号 FI
// C12N 15/09 ZNA 9162−4B C12N 15/00 ZNAA
(81)指定国 EP(AT,BE,CH,DE,
DK,ES,FR,GB,GR,IE,IT,LU,M
C,NL,PT,SE),OA(BF,BJ,CF,CG
,CI,CM,GA,GN,ML,MR,NE,SN,
TD,TG),AP(KE,MW,SD),AM,AT,
AU,BB,BG,BR,BY,CA,CH,CN,C
Z,DE,DK,EE,ES,FI,GB,GE,HU
,JP,KE,KG,KP,KR,KZ,LK,LR,
LT,LU,LV,MD,MG,MN,MW,NL,N
O,NZ,PL,PT,RO,RU,SD,SE,SI
,SK,TJ,TT,UA,UZ,VN
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アメリカ合衆国,91106 カリフォルニア,
パサデナ,ヒルクレスト アベニュー
1270番地