JPH09257677A - 脆性材料製構造部材の破損予知方法 - Google Patents

脆性材料製構造部材の破損予知方法

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JPH09257677A
JPH09257677A JP9754196A JP9754196A JPH09257677A JP H09257677 A JPH09257677 A JP H09257677A JP 9754196 A JP9754196 A JP 9754196A JP 9754196 A JP9754196 A JP 9754196A JP H09257677 A JPH09257677 A JP H09257677A
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守 中村
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Abstract

(57)【要約】 【課題】 高温や腐食性雰囲気等の過酷な環境下で用い
ることが出来、且つ構造部材自体の強度特性を殆ど悪化
させることのない脆性材料製構造部材の破損予知方法を
提供すること。 【解決手段】 セラミックス、ガラス等の脆性材料から
なる構造部材10の表面に対して、構造部材10と同じ
脆性材料からなる薄板部材12を、構造部材10の強度
よりも弱い接合強度にて拡散接合せしめると共に、かか
る薄板部材12の表面に表面傷14を付与せしめ、構造
部材10に荷重が負荷したときに、構造部材10が破損
するよりも小さな荷重にて薄板部材12だけを破損せし
めるようにすることによって、構造部材10の破損を予
知する。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、荷重が負荷されて
いる構造部材の破損予知方法に係り、特に、荷重が負荷
されている、セラミックスやガラス等の脆性材料からな
る構造部材の破損予知方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】従来より、セラミックスやガラス等の材
料は、優れた耐熱性や耐食性等を有するところから、高
温環境下や腐食性雰囲気下に曝される構造物や装置等の
システムの構造部材に用いられてきているが、これら材
料の構造部材への適用においては、いくつかの問題が存
在している。
【0003】すなわち、セラミックスやガラス等の材料
は脆性材料であることから、これらの材料からなる構造
部材は、過大な荷重が負荷された場合、破壊開始まで弾
性変形し、瞬時に破壊する、所謂カタストロフィックな
破壊を起こす。このような破壊は、その予知が困難であ
り、また、一旦、破壊が起こると、破壊した部材が複数
の破片に分解して飛散するため、周囲の他の部材にまで
大きな被害を与え、その結果、破損した部材が組み込ま
れていた構造物や装置等のシステム全体に致命的な損傷
を引き起こし易い。従って、セラミックスやガラス等の
材料からなる構造部材を使用した構造物や装置等のシス
テムにあっては、その信頼性が著しく低いものであっ
た。
【0004】このため、過大な荷重の負荷時における、
セラミックスやガラス等の材料からなる構造部材の破損
を予知する方法が、そのような構造部材を有する構造物
や装置等のシステムの低い信頼性を補うべく、考案さ
れ、実施されてきている。例えば、歪みゲージを、それ
ら構造部材に有機系接着剤で接着し、構造部材に発生し
ている応力を測定することにより、その破壊を予知する
方法が、一部で行なわれている。しかし、この方法の適
用は、有機系接着剤の使用可能な約200℃以下の温度
域、且つ、そのような接着剤の特性が影響を受けない雰
囲気中に限られ、それより高い温度環境や腐食性雰囲気
の環境等、有機系接着剤が耐えられない環境下では、こ
の方法を適用することは出来ないのである。
【0005】また、構造部材の表面に、直接、導電性や
圧電特性を有するコーティング層を形成し、その出力情
報に基づいて、構造部材に発生している応力の測定や亀
裂の探査を行なうことによって、かかる部材の破損予知
を行なう技術も開発されている。しかし、このような破
損予知方法にあっても、次のような問題点を有している
のである。即ち、構造部材を形成する材料と異なる材料
を、直接、構造部材の表面に固着させているところか
ら、一般的に、構造部材の熱膨張係数とコーティング層
のそれとが異なり、その結果、構造部材が温度変化を受
けた際に、熱応力が発生し、それによって、コーティン
グ層に割れが発生し得る。更に、コーティング層が、高
温や腐食性雰囲気等の環境下に耐えられない場合には、
コーティング層の表面に傷が生じ得る。そして、脆性材
料からなる構造部材においては、微小な表面傷の存在に
よって、その強度が大きく低下するところから、コーテ
ィング層に割れや表面傷が発生すると、それによって、
そのような構造部材自体の強度特性が大きく劣化するこ
ととなるのである。
【0006】以上のように、高温や腐食性雰囲気等の過
酷な環境下において、構造部材自体の強度特性を悪化さ
せない脆性材料製構造部材の破損予知方法は、その必要
性が高いにも拘わらず、現状では存在せず、脆性材料製
構造部材の新たな破損予知方法の開発が望まれているの
である。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】ここにおいて、本発明
は、かかる事情を背景にして為されたものであって、そ
の解決課題とするところは、高温や腐食性雰囲気等の過
酷な環境下で用いることが出来、且つ構造部材自体の強
度特性を殆ど悪化させることのない脆性材料製構造部材
の破損予知方法を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】そして、本発明者らは、
かかる課題を解決するために鋭意検討した結果、脆性材
料製構造部材において、部材をカタストロフィックな破
壊に至らしめる亀裂(以下においては、主亀裂と記す)
の進展は、その進展方向に略直角な面内の剥離亀裂の発
生によって、停止させることが可能であること、及び、
拡散接合による、弱い接合界面強度(以下においては、
接合強度と記す)を有する接合界面の形成によって、主
亀裂の進展時に、そのような剥離亀裂が発生し易くし得
ることを見出した。
【0009】一方、近年における同質の脆性材料からな
る物体間の拡散接合方法に関する研究において、拡散接
合の際の種々の条件と接合強度との関係が、接合強度を
支配する、接合界面に分布する空孔の寸法、及び、その
分布密度の解析等から、かなり判明し、これらの条件を
調節することによって、拡散接合における接合強度の制
御が可能になった。
【0010】また、近年におけるセラミックスの特性評
価に関わる研究から、ビッカース圧子の押し込み等の手
段にて、人為的に表面傷をセラミックスに形成すること
によって、セラミックスやガラスのような緻密な脆性材
料製部材の強度を、かなり正確に所定の値まで、低下せ
しめ得ることが、明らかになった。
【0011】これらの知見から、脆性材料製構造部材の
表面に、構造部材と同じ材質の薄板部材を、構造部材の
強度に比べて、弱い接合強度で拡散接合すると共に、薄
板部材に表面傷を形成して、薄板部材の強度を構造部材
のそれに比べて所定の低い値にすることによって、前述
の課題が解決され得ることを見出し、本発明を完成する
に至ったのである。
【0012】すなわち、本発明は、セラミックス、ガラ
ス等の脆性材料からなる構造部材の表面に対して、該構
造部材と同じ脆性材料からなる薄板部材を、該構造部材
の強度よりも弱い接合強度にて拡散接合せしめると共
に、かかる薄板部材の表面に表面傷を付与せしめ、前記
構造部材に荷重が負荷したときに、該構造部材が破損す
るよりも小さな荷重にて前記薄板部材だけを破損せしめ
るようにすることによって、該構造部材の破損を予知す
ることを特徴とする脆性材料製構造部材の破損予知方法
を、その要旨とするものである。
【0013】この本発明に従う脆性材料製構造部材の破
損予知方法によれば、脆性材料からなる構造部材の表面
に、構造部材と同じ脆性材料からなる、表面傷を付与せ
しめられた薄板部材が、構造部材の強度よりも弱い接合
強度にて拡散接合せしめられているところから、構造部
材に負荷されている荷重が、そのような表面傷によって
定まる所定の値に達すると、薄板部材が表面傷を起点と
した主亀裂の面内方向及び板厚方向への進展によって破
損すると共に、薄板部材に発生した主亀裂の板厚方向へ
の進展は接合面で生じる剥離亀裂によって止まることと
なるのであり、従って、そのような薄板部材の破損を公
知の検知手法にて検知することによって、脆性材料製構
造部材自体が損傷を受けることなく、構造部材に負荷さ
れている荷重が、その耐え得る限界値に近いことが分か
り、以て脆性材料製構造部材の破損の予知が可能となる
のである。
【0014】そして、このようにして、過大な荷重の負
荷による部材の破損の可能性を予知することが出来る結
果、負荷荷重を軽減すること等により、そのような構造
部材のカタストロフィックな破損、ひいては、それが組
み込まれている構造物や装置等のシステム全体の致命的
な損傷を、効果的に防止し得るのである。
【0015】また、このような本発明の脆性材料製構造
部材の破損予知方法によれば、薄板部材は構造部材と同
質であり、且つ、拡散接合によって、何等、異種材料を
使用することなく構造部材に接合されていることから、
構造部材を形成する脆性材料が耐え得る環境下であれ
ば、どのように過酷な環境下であっても、安定的に構造
部材の破損を予知し得ると共に、温度変化による熱応力
が発生することがなく、構造部材が大きな温度変化を受
ける場合においても、その破損の予知が可能となる。
【0016】さらに、かかる本発明においては、前記薄
板部材の表面に、更に、応力計測機能若しくは亀裂の探
知機能を有する検知手段を設けることが出来る。これに
よって、高温や腐食性雰囲気等の過酷な環境下に検知手
段が耐えられない場合においても、検知手段に発生し得
る微小な表面傷による脆性材料製構造部材の強度特性の
低下が、上記の如き主亀裂の剥離亀裂による停止と同様
な機構によって、効果的に防止され得るのである。
【0017】なお、上記において、亀裂の探知機能を有
する検知手段を設ける場合にあっては、かかる検知手段
によって、薄板部材における主亀裂の進展や剥離亀裂の
発生、ひいては薄板部材の破断を、構造部材の外部に複
雑な検知手段を設けることなく、確実に検知することが
出来、脆性材料製構造部材の破損の予知を一層確実に行
なうことが出来る利点を生じる。また、応力計測機能を
有する検知手段を設ける場合にあっては、構造部材に接
合される薄板部材は、構造部材に比べて、その板厚が充
分に薄いところから、薄板部材の応力は、接合面直下の
構造部材のそれと略同じになり、それによって負荷され
ている荷重が薄板部材の破壊する荷重に達するまで、そ
のような検知手段によって、構造部材に発生している応
力の正確な計測が可能になる利点がある。
【0018】
【発明の実施の形態】以下、本発明を更に具体的に明ら
かにするために、図面を参照しつつ、本発明の具体的構
成について詳細に説明することとする。
【0019】先ず、図1には、本発明に従う脆性材料製
構造部材の破損予知方法を、主に、曲げと剪断を受ける
構造部材に適用する場合の一例が、示されている。具体
的には、矩形の断面形状を呈する構造部材10の、荷重
負荷時において引張り応力の発生する側の表面に、薄板
部材12が拡散接合されていると共に、この薄板部材1
2には、その強度を所定の値に低下させるために、表面
傷14が形成されている。
【0020】このような本発明に従う破損予知方法が適
用し得る構造部材10は、窒化珪素等のセラミックスや
ガラス等、高温でクリープ変形し得る、換言すれば、拡
散接合し得る脆性材料から、公知の方法にて形成された
ものであればよく、その断面形状は特に矩形に限定され
るものではなく、多角形でもよいことは勿論、円や楕円
等のように曲線状の外周を有する形状であっても、何等
差支えない。
【0021】一方、そのような構造部材10に接合され
る薄板部材12は、かかる構造部材10と同じ材料か
ら、所定の板厚を有し、構造部材10の薄板部材12が
接合される範囲に対応した形状となるように、公知の方
法によって成形される。なお、そのような薄板部材12
の板厚は、その材料の種類、拡散接合の作業性や、表面
傷の形成性等に依存して適宜決定されるものであるが、
これらの点において可能な限り、接合される構造部材1
0の、薄板部材12が接合される範囲の厚さ等と比べ
て、充分に薄くされることが望ましく、少なくとも、次
の条件を満たす厚さとされる。
【0022】即ち、そのような板厚は、薄板部材12の
接合によって構造部材10の応力分布が余り変化しない
程度の厚さとされるのである。具体的には、薄板部材1
2の構造部材10への接合によって薄板部材12の端部
及びその近傍の構造部材10の部分に発生し得る応力集
中が、構造部材10の強度に影響を与えない程度とされ
ると共に、薄板部材12の破損、剥離の後に、薄板部材
12が接合されていた範囲直下の応力が薄板部材12の
受け持っていた荷重の負担にて増大することによる構造
部材10の強度への影響が生じない程度とされる。そし
て、このような薄板部材12の幅や長さ等の寸法は、板
厚や構造部材10の寸法、形成する表面傷の個数等に従
って適宜に決定されるのである。このような薄板部材1
2を使用することによって、その接合後における構造部
材10の強度の低下が可及的に防止される他、後述する
圧電材料からなるコーティング層等の応力計測機能を有
する検知手段を、かかる薄板部材12の表面に形成し
て、薄板部材12に発生している応力を計測する場合に
おいても、薄板部材12に発生する応力が、その接合さ
れている範囲直下の、構造部材10の応力と略同じにな
って、構造部材10の応力の正確な推定が可能となるの
である。
【0023】なお、このような所定の形状を呈する薄板
部材12の接合面、及び構造部材10の接合面は、後述
する如き構造部材10と薄板部材12との間の接合強度
の制御のために、その表面粗さを、研削加工等の公知の
方法によって、所定の値に調節される。
【0024】そして、そのようにして得られた薄板部材
12は、構造部材10に負荷される荷重によって該構造
部材10の破損の起点となることが予測される表面部
分、換言すれば、一般に最大引張り応力の発生する表面
部分に、拡散接合せしめられるのである。即ち、薄板部
材12を構造部材10の所定の位置に重ね合わせ、それ
ら薄板部材12と構造部材10とを、窒素等の不活性ガ
ス雰囲気下において、電気炉等の公知の加熱装置によっ
て所定の温度に加熱した後、重ねた方向の両側から公知
の加圧装置によって所定の加圧力にて加圧せしめること
によって、薄板部材12と構造部材10とが拡散接合さ
れることとなるのである。より詳細には、薄板部材12
と構造部材10は、加熱下の加圧によってクリープ変形
を起こし、薄板部材12が重ね合わされている面の近傍
において、拡散による物質移動が起こる。そして、その
ような面を横切る、薄板部材12から構造部材10への
物質移動、及び、その逆方向の物質移動によって、その
ような面が閉じて、所定の接合強度を有する接合が完成
するのである。
【0025】ここで、本発明に従う脆性材料製構造部材
の破損予知方法における、薄板部材12と構造部材10
間の接合強度は、後述する下限の条件を言及する場合を
除いて、構造部材10及び薄板部材12と同じ材料から
なり、且つ、薄板部材12と構造部材10それぞれの接
合面の表面粗さと等しい、表面粗さの接合面を有する二
つの物体を、薄板部材12と構造部材10との拡散接合
と同一の条件の下で、拡散接合により突き合わせ接合し
て得られた接合物の、曲げ試験により得られる強度、所
謂、曲げ強度を指すものである。このような接合強度
は、構造部材10の曲げ強度と比べて充分小さくされ、
望ましくは、本発明者らの行なった実験から経験的に求
められた、構造部材10の曲げ強度の20%以下とされ
る。なぜなら、接合強度が構造部材10の曲げ強度の2
0%を超えると、薄板部材12の破損時において、接合
面の剥離亀裂が生じ難くなり、それによって、薄板部材
12に発生した主亀裂の板厚方向への進展が、接合面で
止まることなく、構造部材10の内部に進み、構造部材
10の破壊に至るおそれがあるからである。
【0026】なお、この接合強度は、具体的には、例え
ば次のようにして得られるものである。そこでは、先
ず、構造部材10及び薄板部材12と同じ材料からな
り、且つ、薄板部材12と構造部材10それぞれの接合
面の表面粗さと等しい、表面粗さの接合面を有する二つ
の立方体状の物体を、薄板部材12と構造部材10との
拡散接合と同一の条件の下で、拡散接合により突き合わ
せ接合して、直方体形状の接合物を形成する。次いで、
そのようにして得られた直方体形状の接合物から、矩形
断面形状を呈する棒状の試験片を、接合部が長手方向の
略中心に位置するように切り出した後、このような試験
片に対して、JISR1601等に準拠した、4点曲げ
試験等を行ない、曲げ強度を求めることとなる。
【0027】一方、薄板部材12と構造部材10の間の
接合強度は、その下限の近くにおいては、それらの間の
接合面の剪断強度を指し、そのような接合面が、少なく
とも、薄板部材12の破損の前に薄板部材12の剥離が
生じることのない程度の、剪断強度を有することが必要
である。けだし、接合強度が、そのような剪断強度より
小さい場合には、構造部材10に負荷される荷重が、後
述の表面傷によって定まる薄板部材12の破壊する荷重
に達する前に、薄板部材12が、接合面において、構造
部材10より剥離することとなるからである。
【0028】また、かかる接合強度は、薄板部材12と
構造部材10の間の真の接合面積を増減させることによ
って、接合面の欠陥寸法及び欠陥数を増減させ、それに
よって制御され得る。即ち、真の接合面積を増大させる
ことによって、欠陥寸法が縮小すると共に欠陥数が減少
し、接合強度を大きくし得る一方、それを減少させるこ
とによって、欠陥寸法が拡大すると共に欠陥数が増加
し、接合強度を小さくすることが出来る。具体的には、
そのような真の接合面積、ひいては、接合強度は、一般
には、拡散接合時における、温度の上昇、接合面圧の増
大、高温での加圧時間の増大等によって、増大させるこ
とが出来ると共に、薄板部材12及び/又は構造部材1
0の接合面の加工条件を調節して、そのような接合面の
表面粗さを小さくすることによっても増大させることが
出来る一方、それら接合条件を逆の方向に変更すること
によって、減少させることが出来るのである。
【0029】そして、薄板部材12の強度を低下させる
ための表面傷が、そのようにして所定の接合強度を有す
るように構造部材10に拡散接合された薄板部材12の
表面の所定の位置に、表面傷の形成時の条件とその形成
による薄板部材12の強度の低下とが、所定の関係を有
する公知の方法によって、薄板部材12の強度が所定の
値になるように形成される。例えば、ビッカース圧子を
所定の荷重にて薄板部材12に押し込み、それによっ
て、薄板部材12の表面に、略正四角錐状の圧痕、及
び、そのような圧痕から、押し込み荷重に対応する寸法
だけ外側に延びる亀裂(表面傷)を形成することが出来
る。図2は、ビッカース圧子の押し込み荷重と、それが
押し込まれた脆性材料製部材の曲げ強度の一般的な関係
を示したものであるが、この図2から、ビッカース圧子
を所定の押し込み荷重にて薄板部材12に押し込むこと
によって、薄板部材12の強度をその押し込み荷重に対
応した値とすることが出来、それによって、薄板部材1
2の強度を制御し得ることが分かる。
【0030】なお、そのように表面傷を形成された薄板
部材12の強度の、脆性材料に普遍的に現れる強度のば
らつきを考慮して部材設計に用いられた材料の破壊強度
に対する比は、60%〜80%程度の範囲にあることが
望ましい。なぜなら、そのような比が80%より大きい
と、構造部材10自体が、構造部材10に存在し得る微
小亀裂などの欠陥によって、薄板部材12が破損する前
に破壊する可能性が、非常に大きくなるからであり、逆
に、それが60%より小さいと、構造部材10が本来耐
え得る荷重よりも遙かに低い荷重しか、構造部材10
に、負荷することが出来ず、構造部材10の能力を充分
に生かしきれないからである。
【0031】また、このように薄板部材12の表面に形
成される表面傷は、薄板部材12の端部から充分に離れ
た部分に形成されることが望ましい。けだし、荷重は、
構造部材10から薄板部材12に、主に剪断によって伝
達されることから、薄板部材12の端部付近において
は、構造部材10からの荷重が充分に伝達されず、薄板
部材12の応力が構造部材10のそれと大きく異なって
いるからである。
【0032】さらに、そのような表面傷の個数は、特に
限定されるものではないが、複数個設けることが望まし
い。けだし、表面傷の形成による脆性材料製部材の強度
低下効果には誤差があり、表面傷の形成された薄板部材
の強度には、多少のばらつきがあるのであるが、このよ
うに、複数個の表面傷を形成することによって、薄板部
材12の強度は、表面傷それぞれによって決まる強度の
内の、最も小さい値となるからである。即ち、薄板部材
12の強度は、複数個の表面傷を形成することによっ
て、構造部材10、ひいては、それが組み込まれている
構造物や装置等のシステムに対して、安全側になる。但
し、そのように複数個の表面傷を設ける場合において
は、各表面傷の薄板部材の強度に与える影響が相互に干
渉しないように充分に間隔を空ける必要がある。
【0033】なお、本発明に従う脆性材料製構造部材の
破損予知方法において、薄板部材12に生じている応力
の計測若しくは亀裂の探知を行なう場合には、薄板部材
12の表面に、応力計測機能若しくは亀裂の探知機能を
有する検知手段を設けることが出来る。そして、そのよ
うな検知手段は、表面傷の形成の後に形成された方が、
形成される検知手段が表面傷による歪みの影響を受け難
いので、好ましいのであるが、表面傷の形成の前に検知
手段を形成する場合においても、検知手段及び表面傷を
順次形成した後に、かかる検知手段の機能を再確認すれ
ば、何等問題はない。
【0034】また、そのような応力を計測するための検
知手段としては、スパッタリング等の公知の方法で形成
された、PZTやAlN等の圧電性若しくは焦電性材料
からなるコーティング層や、スパッタリングで形成され
た歪ゲージ等があり、構造部材の使用環境、即ち温度、
雰囲気等に応じて、適宜に選択される。そして、圧電性
若しくは焦電性材料からなるコーティング層の歪によっ
て発生する電圧の変化や、歪ゲージの電気抵抗値の変化
等から、薄板部材12に生じている応力を計測すること
が出来、それから、構造部材10に生じている応力を推
定することが出来るのである。一方、薄板部材12に生
じている亀裂の探知を行なう検知手段としては、クラッ
クゲージがあり、例えば、導電性セラミックスのスパッ
タリングとエキシマレーザー等による配線パターンの加
工を組み合わせることによって形成することが出来、亀
裂の伝播によって導電性セラミックスからなる配線の一
部が切断され、系の電気抵抗が変化することを利用し
て、薄板部材12における主亀裂の進展等を探知し、ひ
いては薄板部材12の破断を探知することが可能となる
のである。
【0035】而して、このようにして、所定の表面傷が
形成され、場合によっては、応力計測機能若しくは亀裂
の探知機能を有する検知手段が設けられた薄板部材12
が、所定の接合強度で拡散接合された構造部材10を、
構造物や装置等のシステムの所定の部分に、公知の方法
で組み込むことによって、それら構造物や装置等のシス
テムを完成させた後、それら構造物や装置等のシステム
は、所定の環境下において、それらの機能に応じて使用
され、それに伴って、そのような構造部材10には、所
定の荷重が負荷される。
【0036】そして、そのような構造部材10に接合さ
れた薄板部材12を、その使用環境下に耐え得るカメラ
や集音装置等を含む監視システム等によって外部からモ
ニターすることによって、又は、亀裂の探知機能を有す
る検知手段が薄板部材12に設けられている場合にあっ
ては、かかる検知手段によって、そのような構造部材1
0の破損予知が可能となるのである。即ち、薄板部材1
2に形成された表面傷14によって定まる所定の荷重を
超えた荷重が、構造部材10に負荷された際には、薄板
部材12が表面傷14を起点として破損することとな
り、そのような薄板部材12の破損を監視システムや亀
裂の探知機能を有する検知手段等にて検知することによ
って、その結果、構造部材10に負荷されている荷重
が、その耐え得る限界値に近いことが分かり、脆性材料
製構造部材の破損の予知が可能になる。また、応力計測
機能を有する検知手段が、薄板部材12に設けられてい
る場合にあっては、薄板部材12が破損するまで、検知
手段の種類に応じた所定の方法によって、薄板部材12
の応力の計測を行なうことが出来るのである。
【0037】
【実施例】以下、本発明を更に具体的に明らかにするた
めに、本発明の代表的な実施例について、図面を参照し
つつ、詳細に説明することとするが、本発明が、そのよ
うな実施例の記載によって何等の制約をも受けるもので
ないことは、言うまでもないところである。また、本発
明には、以下の実施例の他にも、更には上記の具体的記
述以外にも、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、
当業者の知識に基づいて種々なる変更、修正、改良等を
加え得るものであることが、理解されるべきである。
【0038】先ず、構造部材に相当する、窒化ケイ素の
焼結体からなる直方体形状の基体(長さ:40mm、
幅:4mm、厚さ:3mm)、及び、薄板部材に相当す
る、同じ材料からなる直方体形状の薄板(長さ:40m
m、幅:4mm、厚さ:0.8mm)を、公知の方法に
従って作製した後、得られた薄板及び基体の、それぞれ
一方の側の主面を、#400のダイヤモンド砥石で、そ
の表面粗さ(Rmax)が、約1μmになるように研削
した。次いで、かかる薄板と基体のそれぞれの研削面が
互いに対向するように、薄板を基体に重ね合わせ、窒素
ガス雰囲気下、温度:1500℃、接合面圧:10MP
aにおいて、60分間保持することにより、薄板を基体
に拡散接合して、接合体(16)を形成した。なお、得
られた接合体(16)の寸法は、長さ:40mm、幅:
4mm、厚さ:3.8mmであり、接合強度は、窒化ケ
イ素の焼結体の曲げ強度の20%程度であった。
【0039】そして、このようにして得られた接合体
(16)の、薄板を接合した側の主面を、公知の手法に
よって鏡面研磨した後、ビッカース圧子を、圧子の頂点
から延びる四本の辺を主面上へ投影した像が、それぞれ
接合体(16)の長手方向若しくは幅方向と平行になる
ような状態において、98Nの力で、かかる主面に押し
込むことによって、図4に示される如き形状の表面傷1
8を、図3に示されるように、接合体16の薄板を接合
した側の主面上の中央部付近に、約1.5mm間隔で、
三箇所に形成せしめ、試験片aを形成した。
【0040】なお、上記の如くして形成された表面傷1
8は、その開口部が略正方形を呈していると共に、その
ような開口部の各対角線の方向が、試験片aの長手方向
若しくは幅方向とされた、ビッカース圧子の先端形状に
略対応した正四角錐形状の圧痕20と、その最深部分の
頂点から表面に向かって延びる四つの辺のそれぞれか
ら、該開口部の対角線方向に沿って圧痕20の外側に延
びる、即ち、試験片の長手方向若しくは幅方向に延びる
四つの亀裂22からなっている。なお、圧痕20を挟ん
で対向する二つの亀裂22,22の端から端までの距離
は、約0.21mmである。
【0041】また、このようにして形成された試験片a
の比較対象として、上記の如き基体自体を試験片bと
し、更に、かかる試験片aと同じ寸法を有する直方体
を、上記の基体と同じ材料から、同じ公知の製法によっ
て作製し、該直方体の一方の主面(40mm×4mm)
に、試験片aと同様な表面傷を設けたものを、試験片c
とした。
【0042】而して、そのようにして形成された三種類
の試験片に対して、試験片a及びcの板厚以外は、JI
SR1601に準拠(内側スパン:10mm、外側スパ
ン:30mm、クロスへッド速度:0.5mm/分)し
て、試験片aに関しては薄板を接合した側の主面を引張
り側として、一定変位速度の4点曲げ試験を実施し、そ
の結果を図5に示した。図5は、かかる曲げ試験によっ
て得られた、材料試験機によって試験片に負荷された荷
重と材料試験機のクロスヘッドの変位量との関係を示し
ている。なお、この図においては、各試験片の結果が重
ならないように、試験片b及び試験片cの結果を横軸方
向にずらして示している。
【0043】この図5に示される結果から、試験片aに
あっては、ビッカース圧子の押し込みによって形成され
た表面傷によって比較的小さな荷重で薄板が破断し、そ
の時点で荷重が一旦低下することとなるが、基体自体は
損傷を殆ど受けておらず、再び、基体のみで荷重を受
け、表面傷を形成しない基体のみからなる試験片bと略
同じ荷重で、最終的に破壊に至る一方、薄板が接合され
ておらず、表面に直接、表面傷が形成された試験片cに
あっては、その表面傷の形成によって低下せしめられた
強度にて、破壊したことが分かる。また、同じ条件に
て、試験片aの薄板と試験片cにそれぞれ形成された表
面傷によって、試験片aの薄板の破損と試験片cの破損
とが、略同じ荷重(420N)で起こることが認識され
得る。
【0044】このように、基体の表面に、基体と同じ材
料からなる薄板を、基体の強度に比べて弱い所定の接合
強度で拡散接合すると共に、薄板に表面傷を形成するこ
とによって、薄板は基体に比べて所定の低い荷重で破損
すると共に、基体自体は、基体の本来の強度まで荷重に
耐え得ることとなり、以て本発明に従う脆性材料製構造
部材の破損予知方法の有効性が、実証されたのである。
【0045】
【発明の効果】以上の説明から明らかなように、本発明
に従う脆性材料製構造部材の破損予知方法によれば、構
造部材を形成する脆性材料が耐え得る環境下であれば、
どのような過酷な環境下であっても、また、構造部材が
大きな温度変化を受ける場合においても、脆性材料製構
造部材自体が損傷を受けることなく、そのような構造部
材の破損の予知が安定して可能になるのである。
【0046】そして、過大な荷重の負荷による脆性材料
製構造部材の破損の可能性を予知することが出来る結
果、負荷荷重を軽減すること等により、そのような構造
部材のカタストロフィックな破損、ひいては、それが組
み込まれている構造物や装置等のシステムの致命的な損
傷を、効果的に防止し得ることとなり、特性の優れた脆
性材料を、より多様な領域で、構造材料として使用する
ことが可能となり、その優れた特性によって、構造物や
装置等のシステムの性能の改善が可能になるのである。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る脆性材料製構造部材の破損予知方
法が適用される、薄板部材が接合された脆性材料製構造
部材の一例を示す断面図である。
【図2】本発明に係る脆性材料製構造部材の破損予知方
法において、ビッカース圧子の押し込み荷重と、それが
押し込まれた脆性材料製部材の曲げ強度の関係を示す図
である。
【図3】本発明に係る脆性材料製構造部材の破損予知方
法に従う実施例において、表面傷の形成位置を示す平面
図である。
【図4】本発明に係る脆性材料製構造部材の破損予知方
法に従う実施例において、表面傷の形状を示す平面図で
ある。
【図5】本発明に係る脆性材料製構造部材の破損予知方
法に従う実施例において、試験片の4点曲げ試験の結果
である負荷荷重と変位量の関係を示す図である。
【符号の説明】
10 構造部材 12 薄板部材 14,18 表面傷 16 接合体 20 圧痕 22 亀裂

Claims (2)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 セラミックス、ガラス等の脆性材料から
    なる構造部材の表面に対して、該構造部材と同じ脆性材
    料からなる薄板部材を、該構造部材の強度よりも弱い接
    合強度にて拡散接合せしめると共に、かかる薄板部材の
    表面に表面傷を付与せしめ、前記構造部材に荷重が負荷
    したときに、該構造部材が破損するよりも小さな荷重に
    て前記薄板部材だけを破損せしめるようにすることによ
    って、該構造部材の破損を予知することを特徴とする脆
    性材料製構造部材の破損予知方法。
  2. 【請求項2】 前記薄板部材の表面に、更に、応力計測
    機能若しくは亀裂の探知機能を有する検知手段を設けた
    ことを特徴とする請求項1に記載の脆性材料製構造部材
    の破損予知方法。
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Cited By (2)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JP2001215195A (ja) * 2000-02-02 2001-08-10 Chuken Consultant:Kk コンクリート構造物の劣化検知方法及びコンクリート構造物
JP2018194388A (ja) * 2017-05-16 2018-12-06 東洋製罐グループホールディングス株式会社 内面加傷方法及び内面加傷装置

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