JPH09125225A - 耐食性窒化膜 - Google Patents

耐食性窒化膜

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JPH09125225A
JPH09125225A JP23971996A JP23971996A JPH09125225A JP H09125225 A JPH09125225 A JP H09125225A JP 23971996 A JP23971996 A JP 23971996A JP 23971996 A JP23971996 A JP 23971996A JP H09125225 A JPH09125225 A JP H09125225A
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彰浩 伊藤
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満 馬明
Nagakatsu Ito
永勝 伊藤
Yoshiyuki Ukai
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彰彦 柳谷
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揚大 高田
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紀男 佐藤
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Abstract

(57)【要約】 【課題】 鉄系材料に優れた耐摩耗性および耐食性を付
与するための耐食性窒化膜を提供すること。 【解決手段】 鉄系材料に4Torr程度の窒素−水素
混合ガス中で窒化処理を4時間施し、5μm以上500
μm以下の膜厚で鉄窒化物を含有し、硬度が400HV
以上1200HV以下である耐食性窒化膜を形成する。
この耐食性窒化膜は、3%NaNO3 水溶液(35℃)
浸漬時の自然電位が−100mV(vsSCE)より貴
である。また、1%NaCl水溶液(35℃)浸漬時の
自然電位が−200mV(vsSCE)より貴である。
また、3.5%NaCl水溶液(30℃)浸漬時の孔食
電位V'c100が−200mV(vsSCE)より貴であ
る。また、X線回折測定における γ−Fe4N(11
1)ピークの積分強度のα−Fe(110)ピークの積
分強度に対する比が0.1以上である。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、鉄系材料に耐摩耗
性および耐食性を付与する耐食性窒化膜に関する。
【0002】
【従来の技術】従来から、耐摩耗性や耐衝撃性を必要と
する機械部品や構造材等のため、ステンレス鋼その他の
鉄系材料に窒化処理により表面改質を施し、必要な特性
を付与することが行われている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、鉄系材
料に単に窒化処理を施したのでは、耐食性が不足するの
で、防錆油を塗布する必要を生じる。この場合には使用
中に防錆油が切れるとその切れた部分から錆が生じるこ
ととなる。また、真空機器や半導体製造工程、食品製造
工程等、油分を嫌う用途への使用は困難である。
【0004】また、プラズマ窒化により処理温度を低温
にして窒化処理を行うと耐食性のよい窒化膜が形成され
ることが知られているが、そのような窒化膜は靭性が低
く脆いため、例えば電磁石装置の鉄心のような衝撃の加
わるものには使用できない。また、窒化後にクロム等の
メッキをして耐食性を付与することも考えられるが、メ
ッキ部分の厚さや耐摩耗性の点で難点があり、窒化膜の
利点を活かすことができない。
【0005】本発明は前記従来技術の問題点を解決する
ためになされたものであり、鉄系材料に優れた耐摩耗性
および耐食性を付与するための耐食性窒化膜を提供する
ことを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】この問題点を解決しよう
としてなされた本発明は、鉄系材料に窒化処理を施して
なる耐食性窒化膜であって、5μm以上500μm以下
の膜厚を有し、鉄窒化物を含有し、硬度が400HV
(ビッカース硬度)以上1200HV以下であり、さら
に、請求項1の発明にあっては3%NaNO3 水溶液
(35℃)浸漬時の自然電位が−100mV(vsSC
E(標準甘汞電極))より貴であることを、請求項2の
発明にあっては1%NaCl水溶液(35℃)浸漬時の
自然電位が−200mV(vsSCE)より貴であるこ
とを、請求項3の発明にあっては3.5%NaCl水溶
液(30℃)浸漬時の孔食電位V'c100(JIS G 0
577)が−200mV(vsSCE)より貴であるこ
とを、請求項4の発明にあっては2軸X線回折測定(C
u−Kα線)における γ−Fe4N(面指数111)ピ
ーク(2θ=約41.0°)の積分強度のα−Fe(面
指数110)ピーク(2θ=約44.6°)の積分強度
に対する比が0.1以上であることを、特徴として特定
される。
【0007】かかる耐食性窒化膜は、普通鋼あるいはス
テンレス鋼その他の鉄系材料を被処理材とし、これを
1.5〜5.0Torrの範囲内(より好ましくは4.0
〜4.75Torrの範囲内)の圧力の窒素−水素混合
ガス中で窒化処理することにより得られる。すなわち被
処理材を負として350〜450V程度の電圧を印加
し、500〜750℃の範囲内(より好ましくは500
〜650の範囲内)の処理温度で4時間程度の処理を行
う。これにより、5〜500μm程度の膜厚の窒化膜が
形成される。
【0008】この窒化膜の形成メカニズムは、次のよう
に考えられている。すなわち、雰囲気ガス中で電離した
窒素イオンが被処理材の電圧降下により加速されて被処
理材に衝突し鉄原子をスパッタする。このスパッタされ
た鉄原子が雰囲気ガス中で窒素と結合した後被処理材の
表面に吸着し、その一部がイオンの衝撃により解離して
窒素が被処理材の内部に進入拡散することによる。
【0009】この窒化膜中には、進入・拡散した窒素が
被処理材の鉄と結合して生成した窒化鉄(γ−Fe4
)が存在している。被処理材が例えばステンレス鋼の
ようにクロムを含む場合には窒化クロム(CrN)も存
在する。またこれらの他、α−Feの結晶格子中に侵入
型で固溶している窒素原子も存在すると考えられる。好
ましくは、後述する発明の実施の形態および実施例に示
すように、窒化鉄を比較的多く含む表面の上層部分と、
窒化鉄はあまり含まないが固溶窒素は含むと考えられる
下層部分との2層膜構造をなすのがよい。これらによ
り、400〜1200HV程度の硬度が得られ、優れた
耐摩耗性、耐衝撃性が得られる。また、優れた耐食性も
得られる。
【0010】窒化膜の厚さについては、耐食性の観点か
ら5μm以上あることが望ましい。さらに膜の靭性の観
点を考慮すれば、20μm以上あることがより好まし
い。また厚さの上限については、500μmあれば十分
でそれを超えるものを形成してもコストに見合う特性向
上は期待できない。現実的な使用状況を考えれば300
μmあればほぼ十分である。
【0011】
【発明の実施の形態】以下、本発明を具体化した実施の
形態について説明する。
【0012】まず、被処理材に施す窒化処理について説
明する。窒化処理は、図14に示す窒化装置10を用い
て行う。窒化装置10は、真空槽11と、その内部に設
けられ被処理材1を載置するステージ13とを有してい
る。真空槽11とステージ13とは、絶縁体23により
互いに絶縁されている。真空槽11には、排気管15と
バルブ17とが設けられ、排気管15は真空ポンプに接
続されている。したがって、バルブ17を開けば真空ポ
ンプにより真空槽11の内部を真空に引くことが可能で
ある。また真空槽11には、ガス導入管19とバルブ2
1とが設けられ、ガス導入管19は窒素と水素との混合
ガスのガス源に接続されている。したがって、真空槽1
1の内部を真空に引いた状態でバルブ21を開けば、窒
素と水素との混合ガスを真空槽11に導入することがで
きる。また、ステージ13には熱電対27が備えられ、
被処理材1の温度を測定できるようになっている。この
熱電対27には絶縁チューブ29が被覆されており、真
空槽11とステージ13との絶縁が図られている。そし
て、真空槽11とステージ13との間には、電源25に
より直流電圧を印加できるようになっている。
【0013】窒化処理を行うときにはステージ13に被
処理材1を載置し、バルブ17を開いて真空ポンプによ
り真空槽11の内部を真空に引く。そしてバルブ21を
開いて真空槽11に窒素と水素との混合ガスを導入す
る。このとき真空槽11内のガス圧は絶対圧で4Tor
r(全圧)前後に維持する。そして、電源25を用いて
ステージ13と真空槽11との間に350〜450V程
度の直流電圧を印加する。このとき、ステージ13が
負、真空槽11が正となるようにする。すると、混合ガ
ス中の窒素分子の一部が電離して陽イオン(N2 +)とな
り、これがステージ13と真空槽11との間の電圧降下
により被処理材1に向けて加速され、鉄原子をスパッタ
する。スパッタされた鉄原子は雰囲気ガス中で窒素と結
合した後被処理材1の表面に吸着する。そしてその一部
はイオン衝撃を受けつつ解離して窒素が内部に進入拡散
する。進入拡散した窒素は、被処理材の材種や処理時
間、処理温度にもよるが表面から5〜500μm程度の
範囲内に分布し、鉄等の金属元素と化合して窒化物を形
成する。この窒化処理中の被処理材1は、イオンの衝撃
のエネルギーにより加熱され500〜750℃程度の温
度となる。この温度は、熱電対27によりモニタされ
る。
【0014】被処理材1としては、普通鋼あるいはステ
ンレス鋼その他の鉄系材料を、ステージ13に載置しや
すい形状にして用いる。
【0015】このような窒化処理を行うと、被処理材1
の表面に耐食性窒化膜が形成される。4時間程度窒化処
理を行って耐食性窒化膜を形成した被処理材の断面組織
の例を図1の顕微鏡写真に示す。この例では約120μ
mの窒化膜が形成されている。
【0016】この被処理材の結晶構造をX線回折(θ−
2θ2軸回折法)により解析すると、図5に示すパター
ンが得られる。このパターンにおいて、2θ=約41.
0°および約48.0°のピークは窒化鉄(γ−Fe
4N)のピーク(面指数はそれぞれ111と200)で
あり、2θ=約44.6°のピークはα−Fe(鉄の基
本相)のピークである。そして、 γ−Fe4N(11
1)ピークの積分強度のα−Fe(110)ピークの積
分強度に対する比は0.1以上となる(図5のものでは
200)。なお、この被処理材はクロムを含有する材種
なので、窒化鉄(γ−Fe4N )のピークの他に窒化ク
ロム(CrN)のピークも出ている。また、α−Feの
ピークが出ているのは、窒化膜内といえどもすべての金
属原子が窒素と化合しているわけではないからである。
【0017】かかる耐食性窒化膜は、ビッカース硬度で
400〜1200HV程度の高い硬度を示す。これは窒
化処理により生成したγ−Fe4N 等の金属窒化物自体
が硬いためであると考えられる。またこの窒化膜は、硬
いだけでなく靭性にも優れ、耐摩耗性や耐衝撃性が高
い。また、耐食性も優れており、空気中に長期間放置し
ても錆を生じない。
【0018】また、電解溶液中での自然電位や分極電位
変化も貴な値を示す。例えば3%NaNO3 水溶液中で
の自然電位はSCEに対し−100mVより貴な値を示
し、1%NaCl水溶液中での自然電位はSCEに対し
−200mVより貴な値を示す。また、孔食電位も貴な
値を示す。すなわち、JIS G 0577規格に従い、
3.5%NaCl水溶液(30℃)に浸漬した状態で自
然分極電位からアノード分極を行ったときの、アノード
分極曲線において電流密度100μA/cm2に対応す
る最も貴な電位(V'c100)が−200mV(vsSC
E)より貴である。
【0019】
【実施例】以下、いくつかの実施例について窒化膜形成
を実施し、その特性試験を行ったのでその結果を説明す
る。第1実施例は、電解溶液中での自然電位や分極電位
により耐食性の評価を行った例である。
【0020】
【表1】
【0021】表1に、第1実施例に用いた被処理材の化
学成分を示す。材種A、B、C、Dが本実施例の被処理
材であり、このうち材種A、B、Cはクロムを含有する
ステンレス鋼である。材種Dは低炭素鋼である。材種
E、Fは後述する耐食性試験において比較材として用い
るものであり、材種Eはクロムを含有するステンレス
鋼、材種Fはクロムおよびニッケルを含有するステンレ
ス鋼である。
【0022】この材種A、B、C、Dの被処理材につい
て、図14の窒化装置10を用いて窒化処理を行った。
窒化処理に際して各被処理材の形状は、直径10mm、
高さ10mmの円柱形状とした。そして処理条件は材種
ごとに表2に示す条件とし、処理時間はいずれも4時間
とした。
【0023】
【表2】
【0024】窒化処理後の各被処理材の断面組織の光学
顕微鏡写真を図1〜図4に示す。撮影時の倍率はいずれ
も160倍である。材種A(図1)で約120μm、材
種B(図2)で約160μm、材種C(図3)で約24
0μm、材種D(図4)で約50μmの窒化膜が形成さ
れていることが理解できる。
【0025】各被処理材のX線回折測定結果を図5〜図
8に示す。測定はCuターゲットのX線を用いて行っ
た。クロムを含有する材種A(図5)、B(図6)、C
(図7)については窒化鉄(γ−Fe4N )および窒化
クロム(CrN)のピークがみられ、クロムを含有しな
い材種D(図8)については窒化鉄(γ−Fe4N )の
ピークがみられる。またどの被処理材でもα−Fe(鉄
の基本相)のピークが出ているが、すべての金属原子が
窒素と化合しているわけではなく、窒化膜内にもとのα
相が残存しているためである。
【0026】各被処理材のビッカース硬度測定結果を図
9のグラフに示す。各材種とも、窒化膜内では基材の硬
度(約200HV程度)に比べて大幅に硬度が上昇して
いることが理解できる。すなわち材種Aで800〜90
0HV程度、材種Bで800〜1100HV程度、材種
Cで400〜900HV程度、材種Dで300〜500
HV程度の硬度を示している。またここで硬度の上昇が
見られる表面からの深さは、図1〜図4の断面写真から
読み取られる窒化膜の厚さとほぼ一致している。
【0027】次に各試料の耐食性試験の結果を説明す
る。耐食性試験は、図15に示す試験装置30を用いて
自然電位と分極電位変化とを測定することにより行っ
た。試験装置30は、水槽31内に測定槽34、補助槽
33、参照槽32とを配置してなる。水槽31には温度
35℃の水Wが満たされており、測定槽34、補助槽3
3、参照槽32を一定温度に保つようになっている。測
定槽34と補助槽33とは共に後述する試験溶液Tで満
たされ、測定槽34には試料1と白金対極39とが配置
されている。なお試料1の測定対象面の面積は、Oリン
グシールにより0.332cm2 とされている。測定槽
34と補助槽33との試験溶液Tはルギン管38で連絡
され、ルギン管38の測定槽34側の端部は試料1の測
定対象面の上方1mmの位置にセットされている。参照
槽32は飽和KCl水溶液Sで満たされ、標準甘汞電極
(SCE)36が配置されている。また、補助槽33と
参照槽32との間には塩橋37が設けられ、両溶液が混
合しないで導通がとられるようになっている。そして、
試料1と白金対極39との間にはガルバノスタット41
が、試料1とSCE36との間には高入力抵抗電圧計4
2が、それぞれ設けられている。
【0028】まず、試験溶液Tを3%NaNO3 水溶液
として、各材種A〜Dの処理済材の他、各材種A〜Dの
未処理材および比較材種E、Fについて測定した。
【0029】自然電位は、試料1を測定槽34に浸漬
し、15分経過して安定した後の高入力抵抗電圧計42
の読み値である。このときガルバノスタット41は作動
させない。この結果を図10のグラフに示す。図10か
ら、材種A〜Dの各被処理材とも、−100〜0mVの
範囲内の良好な値を示していることが理解できる。特
に、材種A、Bの被処理材は0mVに近い優れた値を示
している。また、クロムを含有しない材種Dでは、未処
理材の−650mVに対して処理済材は−80mV程度
と、窒化処理により著しく貴に変位している。
【0030】分極電位変化は、自然電位測定後直ちにガ
ルバノスタット41を用いて試料1と白金対極39との
間に1.5μAの直流電流を試料1がアノードとなる向
きに流し、1分後の高入力抵抗電圧計42の読み値の自
然電位からの変化分である。この結果を図11のグラフ
に示す。図11から、材種A〜Dの各被処理材とも、1
00〜250mVの範囲内の良好な値を示していること
が理解できる。特に、普通鋼である材種Dでは、未処理
材の約10mVに対して処理済材は約130mV程度
と、窒化処理により著しく大きな分極を見せている。
【0031】そして、図10の自然電位測定で特に優れ
た値を示した材種A、Bと比較材について、試験溶液T
を1%NaCl水溶液に変更して同様の測定を行った。
この試験溶液中での自然電位を図12のグラフに示す。
材種A、Bとも、処理済材は未処理材より200mV以
上貴な電位を示している。また、この試験溶液中での分
極電位変化を図13のグラフに示す。材種A、Bとも、
処理済材は未処理材より100mV程度分極が大きくな
っている。
【0032】図10〜図13の測定結果により、A〜D
の各材種とも処理済材の耐食性が良好であることが理解
できる。
【0033】次に第2実施例として、前記の材種A、
B、Dについて、窒化処理時の処理温度を少しずつ変化
させて処理品を作製し、X線回折のピーク積分強度比と
孔食電位とにより特性評価を行った例を説明する。この
実施例では、表3に示す各条件で処理品を作製した。
【0034】
【表3】
【0035】窒化処理後の各処理品の、断面組織の光学
顕微鏡写真を図16〜図19に、X線回折測定結果を図
20〜図23に、それぞれ示す。これらの各処理品の、
断面組織から読みとった膜厚と、X線回折パターンから
読みとったピーク強度比(γ−Fe4N(111)/α
−Fe(110) 、積分強度の比)と、孔食電位(そ
の測定方法は後述する)とを表4に示す。なおこれらの
各処理品はいずれも、ビッカース硬度を測定すると40
0HV以上の良好な値を示す。
【0036】
【表4】
【0037】表4のX線回折強度比の欄によれば、材種
Aのものでは処理温度600℃および620℃の処理品
で強度比0.1以上の良好な値が得られている。材種B
のものでは処理温度600℃ないし640℃の処理品で
強度比0.1以上の良好な値が得られている。材種Dの
ものでは処理温度500℃から600℃にわたるすべて
の処理品で強度比0.1以上の良好な値が得られてい
る。なお図20、図21のX線回折パターンによれば、
クロムを含有する材種A、材種Bのものでは窒化クロム
(CrN)のピークも出ている。また、表4のX線回折
強度比と窒化処理の処理温度との関係は、図24のグラ
フに示すように強い相関性があり、処理温度が高いとγ
−Fe4N のピークが相対的に弱くなる傾向が読みとら
れる。
【0038】また、図16〜図19の断面組織によれ
ば、多くの処理品において、窒化層が上層と下層との2
層をなしている。中でも顕著なのは材種Dの処理温度5
40℃および560℃のものである。540℃のもので
は、写真中に白く現れている上層が約9μm、その下に
黒く現れている下層が約14μm存在している。560
℃のものでは、上層が約13μm、下層が約37μm存
在している。表4の膜厚の欄に示した数値は、上層と下
層との合計の膜厚である。この上層は、窒化鉄(材種
A、材種Bの場合には窒化鉄および窒化クロム)が比較
的多く含まれる層であると考えられる。一方下層は、窒
化鉄や窒化クロムはあまり含まれないが金属結晶の格子
中に窒素原子が侵入型固溶している層であると考えられ
る。なお、これらの処理品で上層のみを研磨して除去し
てからX線回折測定を行ったところ窒化鉄や窒化クロム
のピークはほとんど見られなかった。
【0039】上層は、その中に含まれる窒化鉄や窒化ク
ロムにより、窒化膜のすぐれた硬度、耐食性等の特性を
主として担っている層であると考えられる。そして下層
は、特に硬度の点において上層と下地との中間の特性を
有することにより、硬い上層が衝撃等により剥離するの
を防止しているものと考えられる。
【0040】次に孔食電位について説明する。ここでの
孔食電位の測定はJIS G 0577規格により行っ
た。すなわち図15の試験装置30において、ガルバノ
スタット41および高入力抵抗電圧計42をポテンショ
スタットおよび電位掃引装置で置き換え、試験溶液Tを
3.5%NaCl水溶液とし、そして水槽31の水Wの
温度を30℃とする。この状態で測定槽34の試験溶液
Tを窒素ガスN2 またはアルゴンガスArで脱気しつ
つ、電位掃引装置により試料1を自然浸漬電位から掃引
速度20mV/分の動電位法で、アノード電流密度が5
00μA/cm2 に達するまでアノード分極する。この
ときのアノード分極曲線においてアノード電流密度10
0μA/cm2 に対応する最も貴な電位が孔食電位V'
100である。
【0041】表4の孔食電位V'c100の欄には、各処理
品ごとに3個ずつ試料を用意してそれぞれ測定した値と
それらの平均値とが記載されている。この平均値とX線
回折パターンのピーク強度比との関係は、図25のグラ
フに示すように強い相関性があり、γ−Fe4N のピー
ク強度が相対的に強い(グラフ中強度比の数値が大き
い)ほど孔食電位V'c100が高い(耐食性が優れる)傾
向が読みとられる。これより、γ−Fe4N の存在が窒
化膜の高い耐食性に貢献しているものと理解される。
【0042】以上実施の形態および実施例を用いて説明
したように、鉄系の材料である被処理材に窒化処理を施
すことにより、窒化鉄や窒化クロムのような窒化物を含
有する窒化膜が5〜500μm程度形成される。この窒
化膜は優れた硬度を示し耐摩耗性や耐衝撃性が高く、ま
た耐食性にも優れている。したがって、例えば電磁ソレ
ノイドの鉄心のような衝撃を繰り返し受けるような部材
に好適に用いることができ、あるいは、例えば真空機器
や半導体製造工程、食品製造工程等、油分を嫌う装置の
摩擦部分にも無潤滑で使用することができるものであ
る。
【0043】なお、前記実施の形態および実施例は本発
明を何ら限定するものではなく、発明の要旨を逸脱しな
い範囲内において種々の変形、改良が可能であることは
もちろんである。
【0044】
【発明の効果】以上の説明から明かなように本発明によ
れば、鉄系材料に優れた耐摩耗性および耐食性を付与す
る耐食性窒化膜を提供することができ、その耐食性窒化
膜を有する鉄系材料は、衝撃を受ける部材や無潤滑で使
用しなければならない摩擦部分にも好適に用いることが
できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る耐食性窒化膜を形成した被処理材
の断面顕微鏡写真である。
【図2】本発明に係る耐食性窒化膜を形成した被処理材
の断面顕微鏡写真である。
【図3】本発明に係る耐食性窒化膜を形成した被処理材
の断面顕微鏡写真である。
【図4】本発明に係る耐食性窒化膜を形成した被処理材
の断面顕微鏡写真である。
【図5】図1の被処理材のX線回折測定結果を示すグラ
フである。
【図6】図2の被処理材のX線回折測定結果を示すグラ
フである。
【図7】図3の被処理材のX線回折測定結果を示すグラ
フである。
【図8】図4の被処理材のX線回折測定結果を示すグラ
フである。
【図9】図1〜4の各被処理材のビッカース硬度測定結
果を示すグラフである。
【図10】3%NaNO3水溶液中での自然電位を示す
グラフである。
【図11】3%NaNO3水溶液中での分極電位を示す
グラフである。
【図12】1%NaCl水溶液中での自然電位を示すグ
ラフである。
【図13】1%NaCl水溶液中での分極電位を示すグ
ラフである。
【図14】本発明に係る耐食性窒化膜の形成に用いた窒
化装置の概略図である。
【図15】耐食性窒化膜の耐食性試験に用いた試験装置
の概略図である。
【図16】本発明に係る耐食性窒化膜を形成した被処理
材の断面顕微鏡写真である。
【図17】本発明に係る耐食性窒化膜を形成した被処理
材の断面顕微鏡写真である。
【図18】本発明に係る耐食性窒化膜を形成した被処理
材の断面顕微鏡写真である。
【図19】本発明に係る耐食性窒化膜を形成した被処理
材の断面顕微鏡写真である。
【図20】図16の被処理材のX線回折測定結果を示す
グラフである。
【図21】図17の被処理材のX線回折測定結果を示す
グラフである。
【図22】図18の被処理材のX線回折測定結果を示す
グラフである。
【図23】図19の被処理材のX線回折測定結果を示す
グラフである。
【図24】図16〜図19の各被処理材における処理温
度とピーク強度比との関係を示すグラフである。
【図25】図16〜図19の各被処理材におけるピーク
強度比と孔食電位との関係を示すグラフである。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 鵜飼 良行 愛知県小牧市大字北外山字早崎3005 シー ケーディ株式会社内 (72)発明者 柳谷 彰彦 兵庫県姫路市飾磨区中島3007 山陽特殊製 鋼株式会社内 (72)発明者 高田 揚大 兵庫県姫路市飾磨区中島3007 山陽特殊製 鋼株式会社内 (72)発明者 佐藤 紀男 兵庫県姫路市飾磨区中島3007 山陽特殊製 鋼株式会社内 (72)発明者 田中 義和 兵庫県姫路市飾磨区中島3007 山陽特殊製 鋼株式会社内

Claims (4)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 鉄系材料に窒化処理を施してなる耐食性
    窒化膜において、 5μm以上500μm以下の膜厚を有し、 鉄窒化物を含有し、 硬度が400HV以上1200HV以下であり、 3%NaNO3 水溶液(35℃)浸漬時の自然電位が−
    100mV(vsSCE)より貴であることを特徴とす
    る耐食性窒化膜。
  2. 【請求項2】 鉄系材料に窒化処理を施してなる耐食性
    窒化膜において、 5μm以上500μm以下の膜厚を有し、 鉄窒化物を含有し、 硬度が400HV以上1200HV以下であり、 1%NaCl水溶液(35℃)浸漬時の自然電位が−2
    00mV(vsSCE)より貴であることを特徴とする
    耐食性窒化膜。
  3. 【請求項3】 鉄系材料に窒化処理を施してなる耐食性
    窒化膜において、 5μm以上500μm以下の膜厚を有し、 鉄窒化物を含有し、 硬度が400HV以上1200HV以下であり、 3.5%NaCl水溶液(30℃)浸漬時の孔食電位
    V'c100が−200mV(vsSCE)より貴であるこ
    とを特徴とする耐食性窒化膜。
  4. 【請求項4】 鉄系材料に窒化処理を施してなる耐食性
    窒化膜において、 5μm以上500μm以下の膜厚を有し、 鉄窒化物を含有し、 硬度が400HV以上1200HV以下であり、 2軸X線回折測定(Cu−Kα線)における γ−Fe4
    N(面指数111)ピーク(2θ=約41.0°)の積
    分強度のα−Fe(面指数110)ピーク(2θ=約4
    4.6°)の積分強度に対する比が0.1以上であること
    を特徴とする耐食性窒化膜。
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