JPH07316728A - 熱処理生産性ならびに繰り返し応力負荷によるミクロ組織変化の遅延特性に優れた軸受部材 - Google Patents

熱処理生産性ならびに繰り返し応力負荷によるミクロ組織変化の遅延特性に優れた軸受部材

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JPH07316728A
JPH07316728A JP11485794A JP11485794A JPH07316728A JP H07316728 A JPH07316728 A JP H07316728A JP 11485794 A JP11485794 A JP 11485794A JP 11485794 A JP11485794 A JP 11485794A JP H07316728 A JPH07316728 A JP H07316728A
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Abstract

(57)【要約】 【目的】 クリーンな環境のみならずゴミ入りの過酷な
使用条件下においても、繰り返し応力負荷によるミクロ
組織変化が少なく軸受寿命の永い軸受鋼材を高い熱処理
生産性の下に提供すること。 【構成】 熱処理生産性を改善するためにSbを0.001 〜
0.015 wt%含有すると共に、繰り返し応力負荷によるミ
クロ組織変化遅延を促進するためにB50高負荷転動疲労
寿命改善成分として、とくにCr:2.5 超 〜8.0 wt%含
有させ、その他、Si:0.5 超〜2.5 wt%, Ni:1.0 超
〜3.0 wt%,N:0.012 超〜0.050 wt%, Zr:0.02〜0.5
wt%,Ta:0.02〜0.5 wt%, Hf:0.02〜0.5 wt%,C
o:0.05〜1.5 wt%のうちから選ばれるいずれか1種ま
たは2種以上を含む成分組成とし、かつその組織は残留
オーステナイト量が10〜35%を占めるものとする。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、ころ軸受あるいは玉軸
受といった転がり軸受の要素部材として用いられる軸受
部材に関し、とくに苛酷な使用環境における繰り返し応
力負荷によって転動接触面下に発生するミクロ組織変化
(劣化)に対する遅延特性が、潤滑油の清浄性に関係な
く、それが劣悪な状態であってもなお優れた特性を示す
と共に、熱処理時に起こる脱炭層の生成を抑制する効果
に優れた軸受部材について提案する。
【0002】
【従来の技術】自動車ならびに産業機械等で用いられる
転がり軸受としては、従来、高炭素クロム軸受鋼(JIS:
SUJ 2)が最も多く使用されてきた。一般に軸受鋼という
のは、転動疲労寿命の長いことが重要であるが、この転
動疲労寿命に与える要因としては、鋼中の硬質な非金属
介在物の影響が大きいと考えられていた。そのため、最
近の研究の主流は、鋼中酸素量の低減を通じて非金属介
在物の量, その大きさを制御することによって軸受寿命
を向上させる方策がとられてきた。
【0003】例えば、軸受の転動疲労寿命の一層の向上
を目指して開発されたものとしては、特開平1−306542
号公報や特開平3−126839号公報などの提案があり、こ
れらは、鋼中の酸化物系非金属介在物の組成, 形状ある
いは分布状態をコントロールする技術である。しかしな
がら、非金属介在物の少ない軸受鋼を製造するには、高
価な溶製設備の設置あるいは従来設備の大幅な改良が必
要であり、経済的な負担が大きいという問題があった。
【0004】一方、軸受の寿命は、潤滑油の特性にも大
きく影響される。一般に、潤滑油中には、研磨時の研磨
粉やバリ、あるいは回転時に発生した摩耗粉等(以下、
これらを「ゴミ」という)が混入しており、このゴミの
混入は軸受部材の転がり寿命の低下を招くことが指摘さ
れていた。従来、ゴミ入り環境下での軸受寿命の改善に
対しては、主に潤滑油の清浄性を向上させる手法が採ら
れているが、特開平5−78782 号公報や同5−78814 号
公報などの開示によると、軸受部材の表面層を浸炭窒化
処理することにより、その表面層の炭化物面積率, 表面
炭素濃度, 表面残留オーステナイト量をコントロールし
て、該表層部における特性を改善することにより、ゴミ
による圧痕形状をコントロールし、もって、応力集中の
軽減を導いて長寿命化を図ることを提案している。しか
しながら、この従来技術は、鋼組織を本質的に改善する
訳ではなく、いわゆる浸炭窒化・硬化熱処理によって、
軸受部材の表面層のみを外的に改質する方法であるか
ら、後述するような、表層部の下辺で観察されるミクロ
組織変化部の改善につながらないばかりでなく、さらに
処理コストが高いといった問題が残っていた。
【0005】また、上記高炭素軸受鋼(JIS-SUJ 2) の特
性改善を図るためのもう1つの動きは、加工性、特に熱
処理時の脱炭層の生成を抑制する技術に関する研究であ
る。一般に、上記 JIS-SUJ2に規定された軸受鋼は、0.
95〜1.10wt%のCを含むことから、非常に硬質であり、
それ故に、球状化焼なましを行って加工性を向上させた
後に成形加工し、その後焼入れ, 焼もどし処理を施すこ
とによって、転がり軸受に必要な強度と靱性を得てい
た。ところが、このような特性改善のための熱処理が何
回も重なると、素材表面には、Cと雰囲気ガスとの反応
によって、脱炭層と呼ばれる“低C濃度領域”が発生す
ることが知られている。この脱炭層は、転がり軸受の硬
さ低下のみならず転動疲労寿命劣化の原因となることか
ら、切削または研削加工により除去するのが普通であっ
た。そのために材料歩留り、さらには生産性の低下を余
儀なくされていたのである。これに対して従来、上記脱
炭層の生成を防止する手段として、熱処理時における炉
内の雰囲気ガス中のカーボンポテンシャルをコントロー
ルする方法や、特開平2−54717 号公報に開示されてい
る, 球状化焼なましの初期段階に浸炭処理を施す方法な
どが提案されている。しかし、上記の各方法はいずれ
も、熱処理あるいはその前処理時の雰囲気清浄によるも
のであることから、熱処理コストが嵩むのみならず、材
料の組成や熱処理時間等に応じた適切なガス組成の設定
といった煩雑な操作を必要とするところに問題を残して
いた。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】ところで、発明者らが
行った最近の研究成果によれば、転動寿命を決めている
要因としては、従来から一般に論じられてきた現象;す
なわち、特開平5−78782 号, 同5−78814 号各公報な
どで問題にしている熱処理時に生じる軸受部材表面にお
ける“脱炭層”(低C濃度領域)や、特開平1−306542
号, 同3−126839号各公報で問題にしている“非金属介
在物”の存在以外の要因もあるということが判った。と
いうのは、従来技術の下で主として軸受部材表面層を熱
処理することによって、単に脱炭層や非金属介在物を減
少させても、軸受の転動疲労寿命、特に、高負荷あるい
は高温といった過酷な条件下での軸受寿命の向上には大
きな効果が得られないことを多く経験したからである。
このことから、発明者らは軸受寿命を律する他の要因の
存在を確信したのである。
【0007】そこで、発明者らは、最近の軸受使用環境
を考慮した上での軸受寿命, とくに転がり軸受の剥離の
発生原因について鋭意研究を続けた。その結果、軸受使
用環境の激化に伴って、軸受の内・外輪と転動体との回
転接触時に発生する繰り返し剪断応力により、図1(a)
に示すような、転動接触面(表層部)の下部に、帯状の
白色生成物と棒状の析出物からなるミクロ組織変化層が
発生し、これが転動回数を増すにつれて次第に成長し、
終にはこのミクロ組織変化部から、図(b) に示すような
疲労剥離が生じて軸受部材表層部を欠損して軸受寿命が
つきることがわかった。さらに、軸受使用環境の苛酷化
すなわち, 高面圧化(小型化), 使用温度の上昇は、こ
れらミクロ組織変化が発生するまでの転動回数を短縮
し、著しい軸受寿命の低下につながるということも突き
止めた。
【0008】以上説明したように、軸受寿命というの
は、従来技術のような、軸受部材の表面層の部分におけ
る脱炭層や非金属介在物の制御だけでは不十分であり、
例えば、浸炭・窒化や球状化焼鈍などの各種の熱処理に
よって、表面層の脱炭層や非金属介在物量を単に低減さ
せるだけでは、上述した転動接触面(表層部)下で発生
するミクロ組織変化が発生するまでの時間を遅延させる
ことはできない。その結果として、軸受寿命の今まで以
上の向上は図り得ないということを知見したのである。
【0009】本発明の主たる目的は、過酷な使用条件下
での転動疲労寿命特性を向上させるのに有効な手段を提
案することにある。本発明の他の目的は、軸受鋼の成分
組成そのものおよび鋼中の残留オーステナイト量を工夫
することによって、表層部だけでなく鋼全体としての特
性, とくに高負荷・高温環境下での軸受使用中に生成が
予想される表層部下に見られるミクロ組織変化を遅延さ
せることができ、ひいては軸受寿命の著しい向上をもた
らす軸受部材を提供することにある。本発明の他の目的
は、鋼の成分組成、とくにCr含有量の調整と鋼中残留オ
ーステナイト量を制御することにより、ゴミ入り環境下
においても、そのゴミによる圧痕の周辺にその応力集中
によって上記ミクロ組織変化が発生するのを抑制するこ
とに加え、更に表面層の転動疲労寿命、素材自体の特性
の改善を図り、もって軸受寿命の一層の向上を目指すこ
とにある。本発明のさらに他の目的は、熱処理時の脱炭
層厚みの成長を抑えることにより、熱処理生産性(脱炭
層の加工除去の手間を省くこと)の向上を図ることにあ
る。
【0010】
【課題を解決するための手段】さて、発明者らは、上述
した知見に基づき軸受寿命として新たに“ミクロ組織変
化遅延特性”というものに着目した。そして、この特性
の向上を通じてこの面における軸受寿命の向上を図るこ
とにした。そのためには、当然新たな合金設計(成分組
成)ならびに鋼組織の特定が必要であり、このことの実
現なくして軸受のより一層の寿命向上は図れないという
認識に立って、さらに種々の実験と検討とを行った。そ
の結果、意外にも適正量のCrおよびSbを複合添加するこ
と及び、鋼中の残留オーステナイト量(以下、単に「残
留γ量」と略記する)を制御すれば、繰り返し応力負荷
による転動接触面下に生成する上述したミクロ組織変化
を著しく遅延できることを見い出し、本発明軸受部材と
その製造方法を開発した。
【0011】すなわち、本発明にかかる軸受部材は、以
下に列挙するような要旨構成を有するものである。 (1) C: 0.5〜1.5 wt%, Cr:2.5 超〜8.0 wt%,Sb:
0.001 〜0.015 wt%, O:0.0020wt%以下を含有し、残
部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有し、
かつ鋼中の残留オーステナイト量が体積比にして10〜35
%である鋼組織を有することを特徴とする、熱処理生産
性ならびに繰り返し応力負荷によるミクロ組織変化の遅
延特性に優れた軸受部材。
【0012】(2) C: 0.5〜1.5 wt%, Cr:2.5 超〜8.
0 wt%,Sb:0.001 〜0.015 wt%, O:0.0020wt%以下
を含有し、さらに、Si:0.05〜0.5 wt%, Mn:0.05
〜2.0 wt%,Mo:0.05〜0.5 wt%, Ni:0.05〜1.0 w
t%,Cu:0.05〜1.0 wt%, B:0.0005〜0.01wt%,A
l:0.005 〜0.07wt%及びN:0.0005〜0.012 wt%、の
うちから選ばれるいずれか1種または2種以上を含み、
残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有
し、かつ鋼中の残留オーステナイト量が体積比にして10
〜35%である鋼組織を有することを特徴とする、熱処理
生産性ならびに繰り返し応力負荷によるミクロ組織変化
の遅延特性に優れた軸受部材。
【0013】(3) ただし、上記基本成分(C, Cr, Sb,
O)に対しさらに、選択的に添加される任意添加成分
(Si, Mn, Mo, Ni, Cu, B, Al, N)については、上記
(2) の組成の範囲内において、次のような組合わせで添
加することが推奨される。 0.05〜0.5 wt%Si−(Mn, Mo, Ni, Cu,B, Alおよび
Nのいずれか1種以上) 0.05〜2.0 wt%Mn−(Mo, Ni, Cu,B, AlおよびNの
いずれか1種以上) 0.05〜0.5 wt%Mo−(Ni, Cu,B, AlおよびNのいず
れか1種以上) 0.05〜1.0 wt%Ni−(Cu,B, AlおよびNのいずれか
1種以上) 0.05〜1.0 wt%Cu−( B, AlおよびNのいずれか1
種以上) 0.0005〜0.01wt%B−(Al,Nの1種または2種) 0.005 〜0.07wt%Al−N
【0014】(4) C: 0.5〜1.5 wt%, Cr:2.5 超〜8.
0 wt%,Sb:0.001 〜0.015 wt%, O:0.0020wt%以下
を含有し、さらに、Si:0.5 超〜2.5 wt%, Ni:1.0
超〜3.0 wt%,N:0.012 超〜0.050 wt%, Zr:0.02〜
0.5 wt%,Ta:0.02〜0.5 wt%, Hf:0.02〜0.5 wt
%及びCo:0.05〜1.5 wt%のうちから選ばれるいずれか
1種または2種以上を含み、残部がFeおよび不可避的不
純物からなる成分組成を有し、かつ鋼中の残留オーステ
ナイト量が体積比にして10〜35%である鋼組織を有する
ことを特徴とする、熱処理生産性ならびに繰り返し応力
負荷によるミクロ組織変化の遅延特性に優れた軸受部
材。
【0015】(5) ただし、上記基本成分(C, Cr, Sb,
O)に対しさらに、選択的に多量添加される任意添加成
分(Si, Ni, N)とその他の少量添加される任意添加成
分( Zr, Ta, HfおよびCo)については、上記(4) に記載
の組成範囲内において、次のような組合わせで添加する
ことが推奨される。 0.5 超〜2.5 wt%Si−( NiおよびNのうちのいずれ
か1種以上)−( Zr,Ta, HfおよびCoのうちのいずれか
1種以上) 1.0 超〜3.0 wt%Ni− (N)−( Zr, Ta, Hfおよび
Coのうちのいずれか1種以上) 0.012 超〜0.050 wt%N−( Zr, Ta, HfおよびCoの
うちのいずれか1種以上)
【0016】(6) C: 0.5〜1.5 wt%, Cr:2.5 超〜8.
0 wt%,Sb:0.001 〜0.015 wt%, O:0.0020wt%以下
を含有し、さらに、Si:0.05〜0.5 wt%, Mn:0.05
〜2.0 wt%,Mo:0.05〜0.5 wt%, Ni:0.05〜1.0 w
t%,Cu:0.05〜1.0 wt%, B:0.0005〜0.01wt%,A
l:0.005 〜0.07wt%及びN:0.0005〜0.012 wt%、の
うちから選ばれるいずれか1種または2種以上を、通常
環境下での転動疲労を改善する成分として含み、さらに
また、上記改善成分のいずれか1種以上のものが選択さ
れた場合はその元素を除く下記の成分、すなわち、Si:
0.5 超〜2.5 wt%, Ni:1.0 超〜3.0 wt%,N:0.012
超〜0.050 wt%, Zr:0.02〜0.5 wt%,Ta:0.02〜0.5
wt%, Hf:0.02〜0.5 wt%及びCo:0.05〜1.5 wt%
のうちから選ばれるいずれか1種または2種以上を、苛
酷な環境下での転動疲労寿命を改善する成分として含
み、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を
有し、かつ鋼中の残留オーステナイト量が体積比にして
10〜35%である鋼組織を有することを特徴とする、熱処
理生産性ならびに繰り返し応力負荷によるミクロ組織変
化の遅延特性に優れた軸受部材。
【0017】(7) ただし、上記(6) において、通常環境
における転動疲労寿命改善成分については、次のような
組合わせが推奨される。 0.05〜0.5 wt%Si−(Mn, Mo, Ni, Cu,B, Alおよび
Nのいずれか1種以上) 0.05〜2.0 wt%Mn−(Mo, Ni, Cu,B, AlおよびNの
いずれか1種以上) 0.05〜0.5 wt%Mo−(Ni, Cu,B, AlおよびNのいず
れか1種以上) 0.05〜1.0 wt%Ni−(Cu,B, AlおよびNのいずれか
1種以上) 0.05〜1.0 wt%Cu−( B, AlおよびNのいずれか1
種以上) 0.0005〜0.01wt%B−(Al,Nの1種または2種) 0.005 〜0.07wt%Al−N また、上記の苛酷な使用環境における転動疲労寿命改善
成分についての組合わせは下記のものが推奨される。 ′0.5 超〜2.5 wt%Si−( NiおよびNのうちのいずれ
か1種以上)−( Zr,Ta, HfおよびCoのうちのいずれか
1種以上) ′1.0 超〜3.0 wt%Ni− (N)−( Zr, Ta, Hfおよび
Coのうちのいずれか1種以上) ′0.012 超〜0.050 wt%N−( Zr, Ta, HfおよびCoの
うちのいずれか1種以上)
【0018】なお、上記各軸受部材は、所定の成分組成
を有する鋼を、溶製後常法に従う処理によって棒鋼に圧
延し、次いで焼ならしと焼なましを施した後、 880〜10
00℃(望ましくは 900〜950 ℃) からの焼入れを施すこ
とによって製造することができる。
【0019】
【作用】まず、上記合金設計ならびに組織制御にかかる
本発明の軸受部材を開発した経緯につき、発明者らが行
った実験結果に基づいて説明する。まず、この実験に当
たっては、 SUJ 2 ( C:1.02wt%, Si:0.25wt%, Mn:0.45wt
%, Cr:1.35wt%, N:0.0040wt%, O:0.0012wt%)
と、CrとSbを添加した2種の材料 (C:1.03wt%, Si:0.28wt%, Mn:0.47wt%, C
r:3.08wt%, Sb:0.0038wt%, N:0.0051wt%, O:
0.0008wt%) (C:1.03wt%, Si:0.29wt%, Mn:0.48wt%, C
r:7.05wt%, Sb:0.0079wt%, N:0.0048wt%, O:
0.0009wt% ) の化学組成を有する鋼を溶製してから鋳造し、1240℃で
30h の拡散焼鈍を施した後に65mmφの棒鋼に圧延して供
試材とした。ついで、この供試材を焼ならし、球状化焼
なまし、さらには焼入れ−焼もどしの順で熱処理を行
い、その後、ラッピング仕上げにより12mmφ×22mmの円
筒状の試験片とした。
【0020】次に、上記試験片をラジアルタイプ型の転
動疲労寿命試験機を用い、ヘルツ最大接触応力:600kgf
/mm2, 繰返し応力数:46500 cpm , 潤滑:#68タービン
飛沫油使用環境下の負荷条件で、焼入れ温度を調整し
て、鋼中の残留γ量を変化させることにより転動疲労寿
命試験を行った。その試験結果は、ワイブル分布に従う
ものとして確率紙上にプロットし、主として表面層にお
ける非金属介在物の抑制と材料強度の上昇による, 従来
から検討されていた通常の転動疲労寿命を示す数値であ
るB10値(10%累積破損確率) と、高温・高負荷転動時
の繰り返し応力負荷による, 苛酷な使用環境下で見られ
る、いわゆる表層部下におけるミクロ組織変化の発生を
遅延させることによる転動疲労寿命を示す数値と見られ
るB50値(50%累積破損確率)とを求めた。また、脱炭
層の試験については、上記の円筒状試験片を10mmの位置
で高さ方向に垂直に切断後、ナイタールにて腐食し、ミ
クロ組織変化による円周上の全脱炭層深さ(厚み)最大
値(以後、「最大脱炭層」という)で評価した。
【0021】その結果、表1に示すように、高Cr添加材
については、残留γ量が7%の場合、前記B10値につい
ての改善はそれほど大きいものではないが、B50値につ
いては著しく高い数値を示し、軸受平均寿命はSUJ 2 材
に比べ、Cr:3.08wt%では約10倍もの改善を示してい
た。とくに、このCrを7.05wt%と、もっと多量に添加し
た場合には、B50値は約20倍にも達し、高負荷転動中に
生成するミクロ組織変化の遅延特性に対して顕著な効果
を示し、破損(寿命)を大きく遅延させることができる
ことが判った。ところが、同じ成分組成でも、残留γ量
が17〜18%と多くなると、B50値の改善程度が一層顕著
なものになることに加え、更にB10値もSUJ 2 材に比べ
ると、Cr:3.08wt%の場合で約 5倍、Cr:7.05wt%の場
合で約 9倍も改善されることが判った。さらに、熱処理
後の最大脱炭層については、SUJ 2の0.10mmに対してS
b:0.0038wt%含有するものでは0.02mm、Sb:0.0079wt
%含有するものでは、実に0.01mmの厚さとなり、適量の
Sbの添加は、熱処理脱炭層の抑制に極めて著効を示すこ
とが窺える。
【0022】
【表1】
【0023】図2は、上記実験結果をまとめたものであ
って、表層部における非金属介在物に起因する軸受寿命
と、表層部下における繰返し応力負荷でのミクロ組織変
化の様子、ならびに残留γ量が軸受の転動疲労寿命に及
ぼす影響を示す模式図である。この図に明らかなよう
に、従来からごく一般的に議論されてきた、軸受部材表
面層の非金属介在物の量とその形態, C濃度, 炭化物面
積率などの指標としての, 累積破損確率10%のB10値で
示される軸受寿命(以下、これを「B10寿命」という)
によれば、単にCrを多量に添加するだけではその効果は
期待した程には得られないが、残留γ量を多くした場合
には、かなり改善されることがわかる。一方、部材表層
部下の帯域に見られるミクロ組織変化特性を示す指標と
しての, 累積破損確率50%のB50値で示される軸受寿命
( 以下、これを「B50寿命」という)についてみると、
Cr添加の効果は極めて顕著であり、この傾向は残留γ量
の影響よりも大きく、少なくとも苛酷な環境下で発生す
るミクロ組織変化の生成度合いを示す軸受寿命を意識す
る限り、高Crと高残留γ量へのコントロールは極めて有
効であることがわかる。これは、上記表1の結果ともよ
く符合している。
【0024】以上説明したように、B10寿命, B50寿命
の両方を改善するには、適正量のCrを含有する鋼につい
て、焼ならしおよび球状化焼なましの処理を経てからさ
らに適正な焼入れ処理および必要に応じて焼もどし処理
をも施すことにより、鋼中の残留γ量を所定の範囲に制
御することが有効である。このような処理によって特性
が改善される理由については必ずしも明確に解明した訳
ではないが、発明者らは、この残留γが繰返し応力負荷
によるミクロ組織変化の遅延と応力作用領域に存在する
硬質な非金属介在物の切り欠き作用を緩和し、このこと
によってB10寿命およびB50寿命の両方を向上させるも
のと考えている。
【0025】なお、上記の残留γ量は、体積比にして10
〜35%が適正量と考えている。それは、この残留γの量
が少ないと転動疲労寿命、とりわけB10寿命向上の効果
が得られないからであり、それ故に10%以上は必要であ
る。一方、35%を超える残留γ量では軸受強度の不足な
らびに寸法の安定性に欠けるから、残留γ量は、10〜35
%の範囲に、好ましくは15〜30%の範囲に、そしてより
好ましくは15〜25%の範囲内に制御する。
【0026】本発明においては、主として繰り返し応力
負荷によるミクロ組織変化遅延特性の改善を図るという
観点から、以下に説明するような成分組成の範囲を決定
した。
【0027】C: 0.5〜1.5 wt% Cは、基地に固溶してマルテンサイトの強化に有効に作
用する元素であり、焼入れ焼もどし後の強度確保とそれ
による転動疲労寿命を向上させるために含有させる。そ
の含有量が0.5 wt%未満ではこうした効果が得られな
い。一方、 1.5wt%超では被削性, 鍛造性が低下するの
で、 0.5〜1.5 wt%の範囲に限定した。好ましくは、0.
65〜1.10wt%の範囲がよい。
【0028】Cr:2.5 超〜8.0 wt% Crは、本発明において最も重要な元素であり、とりわけ
繰返し応力負荷によるミクロ組織変化を遅延せしめて、
この面での転動疲労寿命(B50寿命)を向上させるため
には、 2.5wt%を超える多量添加を行う必要がある。そ
して、このB50寿命を向上するために添加するCr添加の
量は、 8.0wt%を超えると飽和するのみならず、却って
焼入れ時の固溶C量の低下を招いて強度が低下する。従
って、この目的のために添加するときは、 2.5超〜8.0
wt%としなければならない。好ましくは 2.5超〜5.0 wt
%の範囲がよい。
【0029】Sb:0.001 〜0.015 wt% このSbは、この発明においてCrとともに重要な役割を担
っている元素である。とくに、このSbは、熱処理時にお
いて、鋼材表層部のCと雰囲気ガスとの反応を抑制して
脱炭層の発生を阻止することによって、熱処理生産性向
上に寄与する。しかも、該脱炭層の抑制にあわせてミク
ロ組織変化の遅延に対しても効果を示すことから、積極
的に添加する。このような2つの作用は、このSb含有量
が0.001wt%以上で顕著なものとなるが、0.015 wt%を
超えて添加してもその効果は飽和することに加え、却っ
て熱間加工性および靱性の劣化を招くようになる。従っ
て、Sbは0.001 〜0.015 wt%の範囲で含有させることと
した。好ましくは、0.0020〜0.0100wt%, より好ましく
は0.0025〜0.0080wt%の範囲で含有させる。
【0030】O:0.0020wt%以下 Oは、硬質な非金属介在物を形成するので、たとえ他の
成分の制御によって繰り返し応力負荷によるミクロ組織
変化の遅延が得られたとしても、B10寿命, B 50寿命の
低下を招くことがあるから、可能な限り低いことが望ま
しい。しかし、0.0020wt%以下の含有量であれば許容で
きる。好ましくは0.0012wt%以下である。
【0031】Si:0.05〜0.5 wt%, 0.5 超〜2.5 wt% Siは、鋼の溶製時の脱酸剤として用いられる他、基地に
固溶して焼もどし軟化抵抗の増大により焼入れ, 焼もど
し後の強度を高めてB10値にあらわれる転動疲労寿命
(B10寿命)を向上させる元素として有効である。こう
した目的の下に添加されるSiの含有量は、0.05〜0.5 wt
%、好ましくは0.15〜0.50wt%がよい。さらに、このSi
は、0.5 wt%超を添加すると、高温, 高負荷, 繰り返し
応力負荷の下でのミクロ組織変化の遅延をもたらして、
50値としてあらわれる転動疲労寿命(B50寿命)を向
上させる効果がある。しかし、その含有量が 2.5wt%を
超えると、効果が飽和する一方で加工性や靱性を低下さ
せるので、ミクロ組織変化遅延特性のより一層の向上の
ためには、 0.5超〜2.5 wt%を添加することが有効であ
る。より好ましくは0.5 超〜2.0 wt%がよい。
【0032】Mn:0.05〜2.0 wt% Mnは、鋼の溶製時に脱酸剤として作用し、鋼の低酸素化
に有効な元素である。また、鋼の焼入れ性を向上させる
ことにより基地マルテンサイトの靱性, 硬度を向上さ
せ、部材表層部における一般的な転動疲労寿命(B10寿
命)の向上に有効に寄与する。こうした目的のために
は、0.05〜2.0 wt%の添加があれば十分であり、好まし
くは0.25〜2.0 wt%である。
【0033】Mo:0.05〜0.5 wt% Moは、残留炭化物の安定化により耐摩耗性を向上させる
元素である。とくに0.05〜0.5 wt%を添加すると、焼入
れ性を増大して焼入れ焼もどし後の強度向上に寄与する
と共に、安定炭化物の析出により、耐摩耗性とB10寿命
を向上させる。
【0034】Ni:0.05〜1.0 wt%, 1.0 超〜3.0 wt% Niは、焼入れ性の増大により焼入れ焼もどし後の強度を
高め靱性を向上させるとともに、B10寿命を向上させる
ので、この目的のためには0.05〜1.0 wt%の範囲内で添
加することとし、好ましくは0.15〜1.0 wt%添加する。
さらに、このNiは、上述したように、 1.0wt%を超えて
添加した場合には、転動時のミクロ組織変化を遅らせ、
これによりB50寿命を向上させる。しかし、この場合で
も3wt%を超えて添加すると、多量(>35%) の残留γ
を析出して強度の低下ならびに寸法安性を害することに
なる他、コストアップになるため、この作用効果を期待
する場合には、1.0 超〜3.0 wt%の範囲内で添加するこ
とが必要であり、好ましくは 1.0超〜2.5 wt%がよい。
【0035】Cu:0.05〜1.0 wt% Cuは、焼入れの増大により焼入れ焼もどし後の強度を高
め、B10寿命を向上させるために添加する。この目的の
ために添加するときは、0.05〜1.0 wt%の範囲で十分で
あり、好ましくは0.15〜1.0 wt%がよい。
【0036】B:0.0005〜0.01wt% Bは、焼入れ性の増大により焼入れ焼もどし後の強度を
高め、B10寿命を向上させるので、0.0005wt%以上を添
加する。しかしながら、0.01wt%を超えて添加すると加
工性を劣化させるので、0.0005〜0.01wt%の範囲に限定
する。好ましくは0.0015〜0.0050wt%がよい。
【0037】Al:0.005 〜0.07wt% Alは、鋼の溶製時の脱酸剤として用いられると同時に、
鋼中Nと結合して結晶粒を微細化して鋼の靱性向上に寄
与する。また、焼入れ焼もどし後の強度を高めることに
よる転動疲労寿命の向上にも有効に作用する。このよう
な作用のためにAlは、0.005 〜0.07wt%添加することが
有効である。好ましくは 0.010〜0.07wt%がよい。
【0038】N:0.0005〜0.012 wt%, 0.012 超〜0.05
0 wt% Nは、炭窒化物形成元素と結合して結晶粒を微細化し、
基地に固溶して焼入れ焼もどし後の強度を高め、そして
10寿命を向上させる。この目的のためには0.0005〜0.
012 wt%の範囲内で添加するが、好ましくは0.0020〜0.
012 wt%がよい。また、このNは、一方において0.012
wt%を超えて添加した場合には、上述したように、繰り
返し応力によるミクロ組織変化を遅らせることによりB
50寿命を向上させることができる。ただし、この量が0.
050 wt%を超えると、加工性, 靱性が低下するため、こ
の目的のためには0.012 超〜0.050 wt%を添加するが、
好ましくは 0.012超〜0.035 wt%がよい。
【0039】以上、部材表層部における繰り返し応力負
荷によるミクロ組織変化を遅延させることによる転動疲
労寿命(B50寿命)を改善すると共に、強度の上昇を通
じて部材表層部における転動疲労寿命(B10寿命)を改
善するための主要成分(C,Cr, Sb, OおよびSi, Mn, M
o, Ni, Cu, B, Al, N)の限定理由についてそれぞれ
説明したが、本発明ではさらに、Zr, Ta, HfおよびCoの
うちから選ばれるいずれか1種または2種以上を添加す
ることにより、苛酷な使用環境(ゴミ入り, 高負荷, 高
温)での転動疲労寿命, 即ちB50寿命を改善させるよう
にしてもよい。
【0040】上記各元素の好適添加範囲と添加の目的、
上限値、下限値限定の理由につき、表2にまとめて示
す。
【表2】
【0041】本発明においては、被削性を改善するため
に、S,Se, Te, REM, Pb,Bi, Ca,Ti, Mg, P,Sn, As
等を添加しても、上述した本発明の目的である繰り返し
応力負荷によるミクロ組織変化による遅延特性を阻害す
ることはなく、容易に被削性を改善することができるの
で、必要に応じて添加してもよい。
【0042】なお、Pは、鋼の靱性ならびに転動疲労寿
命を低下させることから可能なかぎり低いことが望まし
く、0.025 wt%以下、好ましくは 0.015wt%以下に抑え
る。また、Sは、Mnと結合してMnSを形成し、被削性を
向上させる元素である。しかし、多量に含有させると転
動疲労寿命を低下させることから、0.025 wt%以下、好
ましくは 0.015wt%以下に抑えるのがよい。
【0043】
【実施例】表3、表4、表5に示す成分組成の鋼を溶製
して鋳造し、得られた鋼材につき1200℃で30h の拡散焼
鈍を施した後に65mmφの棒鋼に圧延した。次いで、焼な
らし−球状化焼なましの後、鋼材No.1, No.2は 820℃
で、他は 900℃〜950 ℃で焼入れ、 180℃で焼もどし行
った。さらに、ラッピング仕上げにより12mmφ×22mmな
らびに60mmφ×5mmの円筒状試験片を作製した。このと
きの該試験片の面粗度はいずれもRa:0.1 mmとした。そ
して、上記各試験片について、クリーン環境下における
10寿命, B50寿命についての測定試験を行った。この
クリーン環境下のB10寿命, B50寿命の試験は、図3に
示すようなラジアルタイプの転動疲労寿命試験機を用い
て、ヘルツ最大接触応力:600 kgf/mm2 , 繰り返し応力
数約46500 cpm および潤滑油:#68タービン飛沫油を使
うという条件で行ったものである。なお、試験の結果
は、ワイブル分布に従うものとして確率紙上にまとめ、
鋼材No.1 (従来鋼である SUJ2) の平均寿命 (累積破損
確率:10%および50%における、剥離発生までの総負荷
回数) を1として、その他の鋼種のものを対比して評価
した。
【0044】一方、上記各試験片についてのゴミ入り環
境の苛酷な条件下での転動寿命 (B 10寿命, B50寿命)
は、円盤状試験片を作製してスラスト型転動疲労試験機
を用い、ヘルツ最大接触応力:536 kgf/mm2 , 繰り返し
応力数:1800cpm の条件で、#68タービン油中に硬さ:
Hv850 程度、平均粒子径:約100 μmの鉄粉を約150ppm
混入して行った。試験機には、図3に示すような改良
を行い、鋼球と試験片の接触部に常時鉄粉が供給される
ようにした。
【0045】試験結果は、ワイブル分布に従うものとし
て確率紙上にプロットし、B10寿命(累積破損確率:10
%での剥離発生までの総負荷回数) ならびにB50寿命(
同50%) を求め、鋼材No.1をそれぞれ1として比較評価
したものである。また、残留オーステナイト量は、ラッ
ピング仕上げ後の試験片をX線解析装置を使って測定し
たものである。上記の評価結果を、表3、表4、表5に
まとめて示した。
【0046】
【表3】
【0047】
【表4】
【0048】
【表5】
【0049】鋼No.2〜6 は比較例として示すものであ
り、鋼中C量が本発明範囲外である鋼No.5、鋼中Cr量が
本発明範囲外である鋼No.6、鋼中O量が本発明範囲外で
ある鋼No.3および、鋼中残留オーステナイト量が本発明
範囲外である鋼No.2の場合、Crを含まない従来鋼 (鋼N
o.1) と同程度か、B10寿命, B50寿命のいずれか少な
くとも一方が低く、軸受寿命の改善には効果がないこと
が判る。また、No.4は、Sbが本発明外範囲のものである
が、B10寿命, B50寿命は、従来鋼 (No.1) に比べると
良好であるが、最大脱炭層の深さが0.11mmと大きく、従
来鋼 (No.1) に比べても全く改善されていないために、
この脱炭層除去のための処理が必要となった。これに対
し、本発明軸受部材である鋼材No.7〜41は、クリーン環
境下での通常試験では、B10寿命が従来鋼(鋼材No.1)
に比較すると平均約3 〜21倍も改善され、また、B50寿
命も5 〜50倍も優れた結果を出している。さらに、この
傾向は、ゴミ入り環境下の試験でも、B10寿命にして従
来の約2〜 9倍、B50寿命にして約4〜16倍も優れた結
果を示しており、クリーン環境下と同様に改善されてい
ることが判る。さらに、最大脱炭層の深さも大きくて約
0.04mm程度と小さく、熱処理生産性にも優れていること
が判る。すなわち、軸受部材としては、多量のCrおよび
Sbを複合添加したものがゴミ入り環境下における転がり
寿命, とりわけB50寿命で示されるミクロ組織変化を著
しく遅延し、一方残留γ量を10〜35%にコントロールす
ることによりB10寿命の著しい向上をもたらし、そして
脱炭層の深さをも減じることから、軸受の全体的な転動
疲労寿命の向上に極めて有効で生産性の向上にも寄与す
るものであることが窺える。
【0050】
【発明の効果】以上説明したとおり、本発明によれば、
鋼中残留γ量を10〜35%の組織とし、かつCr:2.5 超〜
8.0 wt%およびSb:0.001 〜0.015 wt%複合添加軸受鋼
材とすることにより、クリーン環境のみならずゴミ入り
環境下において高負荷, 高温使用という苛酷な条件であ
っても、軸受部材の表層部下における繰り返し応力負荷
に伴うミクロ組織変化の遅延をもたらし、このことによ
ってB10, B50転動疲労寿命の向上(高Cr含有効果)を
達成すると共に、さらには熱処理時の加工負荷を軽減
(Sb添加効果)して生産性を高めることができる。従っ
て、従来技術の下では不可欠とされていた、部材表層部
のより一層の鋼中酸素量の低減あるいは鋼中に存在する
酸化物系非金属介在物の組成, 形状, ならびにその分布
状態をコントロールするために必要となる製鋼設備の改
良あるいは建設が、本発明では不必要である。また、本
発明にかかる軸受部材の開発によって、転がり軸受の小
型化ならびに軸受使用温度のより以上の上昇が期待でき
る。
【図面の簡単な説明】
【図1】(a),(b)は、繰り返し応力負荷の下に、
部材表層部下の帯域において発生するミクロ組織変化の
ようすを示す金属組織の顕微鏡写真。
【図2】非金属介在物に起因する軸受寿命とミクロ組織
変化に起因する軸受寿命とに及ぼすCr, Sb含有量と残留
γ量との影響を示す説明図。
【図3】スラスト型転動疲労試験機の概略構成を示す略
線図。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 松崎 明博 千葉県千葉市中央区川崎町1番地 川崎製 鉄株式会社技術研究本部内 (72)発明者 天野 虔一 千葉県千葉市中央区川崎町1番地 川崎製 鉄株式会社技術研究本部内

Claims (4)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】C: 0.5〜1.5 wt%, Cr:2.5 超〜8.
    0 wt%,Sb:0.001 〜0.015 wt%, O:0.0020wt%以下
    を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分
    組成を有し、かつ鋼中の残留オーステナイト量が体積比
    にして10〜35%である鋼組織を有することを特徴とす
    る、熱処理生産性ならびに繰り返し応力負荷によるミク
    ロ組織変化の遅延特性に優れた軸受部材。
  2. 【請求項2】C: 0.5〜1.5 wt%, Cr:2.5 超〜8.
    0 wt%,Sb:0.001 〜0.015 wt%, O:0.0020wt%以下
    を含有し、さらに、Si:0.05〜0.5 wt%, Mn:0.05
    〜2.0 wt%,Mo:0.05〜0.5 wt%, Ni:0.05〜1.0 w
    t%,Cu:0.05〜1.0 wt%, B:0.0005〜0.01wt%,A
    l:0.005 〜0.07wt%及びN:0.0005〜0.012 wt%、の
    うちから選ばれるいずれか1種または2種以上を含み、
    残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有
    し、かつ鋼中の残留オーステナイト量が体積比にして10
    〜35%である鋼組織を有することを特徴とする、熱処理
    生産性ならびに繰り返し応力負荷によるミクロ組織変化
    の遅延特性に優れた軸受部材。
  3. 【請求項3】C: 0.5〜1.5 wt%, Cr:2.5 超〜8.
    0 wt%,Sb:0.001 〜0.015 wt%, O:0.0020wt%以下
    を含有し、さらに、Si:0.5 超〜2.5 wt%, Ni:1.0
    超〜3.0 wt%,N:0.012 超〜0.050 wt%, Zr:0.02〜
    0.5 wt%,Ta:0.02〜0.5 wt%, Hf:0.02〜0.5 wt
    %及びCo:0.05〜1.5 wt%のうちから選ばれるいずれか
    1種または2種以上を含み、残部がFeおよび不可避的不
    純物からなる成分組成を有し、かつ鋼中の残留オーステ
    ナイト量が体積比にして10〜35%である鋼組織を有する
    ことを特徴とする、熱処理生産性ならびに繰り返し応力
    負荷によるミクロ組織変化の遅延特性に優れた軸受部
    材。
  4. 【請求項4】C: 0.5〜1.5 wt%, Cr:2.5 超〜8.
    0 wt%,Sb:0.001 〜0.015 wt%, O:0.0020wt%以下
    を含有し、さらに、Si:0.05〜0.5 wt%, Mn:0.05
    〜2.0 wt%,Mo:0.05〜0.5 wt%, Ni:0.05〜1.0 w
    t%,Cu:0.05〜1.0 wt%, B:0.0005〜0.01wt%,A
    l:0.005 〜0.07wt%及びN:0.0005〜0.012 wt%、の
    うちから選ばれるいずれか1種または2種以上を、通常
    環境下での転動疲労を改善する成分として含み、 さらにまた、上記改善成分のいずれか1種以上のものが
    選択された場合はその元素を除く下記の成分、すなわ
    ち、Si:0.5 超〜2.5 wt%, Ni:1.0 超〜3.0 wt%,
    N:0.012 超〜0.050 wt%, Zr:0.02〜0.5 wt%,Ta:
    0.02〜0.5 wt%, Hf:0.02〜0.5 wt%及びCo:0.05
    〜1.5 wt%のうちから選ばれるいずれか1種または2種
    以上を、苛酷な環境下での転動疲労寿命を改善する成分
    として含み、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成
    分組成を有し、かつ鋼中の残留オーステナイト量が体積
    比にして10〜35%である鋼組織を有することを特徴とす
    る、熱処理生産性ならびに繰り返し応力負荷によるミク
    ロ組織変化の遅延特性に優れた軸受部材。
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